新しい年、2023年の政治はどのように動くか。今年は、例年のような衆議院解散・総選挙をめぐる駆け引きや政変といった「政局」よりも、「政策」に焦点を当ててみていく必要があるのではないか。
その理由は、端的にいえば、岸田政権が防衛力の抜本強化や原発の新規建設など政策の大きな転換を打ち出し、年明けの通常国会で最大の焦点になるからだ。
そして、国会での与野党の論戦のゆくえと、国民がどのように受け止め、評価するか、”新年の政治の核心”は「世論の動向」がカギを握っているとみる。
こうした世論の動向は、政治の側に跳ね返り、岸田政権や与野党の新たな動きを生み出していく。2023年の政治のゆくえを分析、展望する。
春に統一地方選、大きな選挙がない年
初めに今年の主な動きをみておきたい。◆日本は1月から、国連の非常任理事国の任期が始まり、G7=主要7か国の議長国を務める。
このため、岸田首相は1月上旬にフランス、イタリア、イギリスを歴訪し、G7各国に協力を要請する。続いて、カナダを経由してアメリカに入り、13日にバイデン大統領と日米首脳会談を行う日程で調整が進められている。
◆1月下旬には通常国会が召集され、与野党の論戦が始まる。新年度予算案などの審議が行われ、会期は150日間で、6月下旬まで続く。
◆3月下旬からは、4年に1度の統一地方選挙が始まる。◇前半戦は、4月9日に9つの道府県と6つの政令指定都市の長、41道府県と17政令市の議員を選ぶ投票が行われる。
◇後半戦は、23日に市区町村の長と議員の投票が行われる。当日は、衆参両院の統一補欠選挙、衆院千葉5区、和歌山1区、山口4区などの投票が行われる。
◆5月19日から21日の日程でG7サミットが、岸田首相の出身地である広島市で開かれ、各国首脳が集まる。
◆9月末になると岸田首相の自民党総裁としての任期切れまで1年になる。自民党役員人事や内閣改造が行われ、総裁選をにらんだ動きが始まる見通しだ。
このように今年は春に統一地方選挙や衆参の補欠選挙が行われるものの、衆議院が解散されない限り、全国規模の国政選挙、大きな国政選挙がないのが特徴だ。
衆院解散、首相退陣の確率は低いか
さて、その解散・総選挙だが、衆議院議員の任期満了は再来年・2025年の10月、参議院議員の任期満了は同じ年の7月だ。
政界の一部には、5月のG7サミットを終えた後、内閣支持率が上がった場合、岸田首相は衆議院の解散・総選挙に踏み切るのではないかとの観測がある。
岸田首相は年末、民放のBS番組で、防衛増税の実施前に衆院選が行われるとの認識を示したが、こうした早期解散を念頭に置いているのかもしれない。
但し、岸田内閣の支持率は政権発足以来、最も低い水準に低迷したままだ。好転する材料は乏しいとして、与党内では解散には踏み切れないだろうとの見方が多い。
一方、4月の統一地方選挙で自民党が不振の場合、「岸田降ろし」の動きが出てくるとの見方もある。しかし、与党幹部は、地方の選挙結果が首相の進退につながることはほとんど考えられないとして、否定的だ。
自民党内は、安倍元首相が亡くなった後、最大派閥の安倍派の会長は未だに決まっていない。また、岸田首相に対する批判が強まっても0、批判勢力をまとめあげていくリーダーが見当たらないとして、年内の政変を予想する見方は少ない。
このようにみてくると新年は、衆院解散・総選挙や、首相退陣といった政変が起きる確率はかなり低いとみている。
国会論戦、防衛政策の大転換が焦点
それでは、新年の”政治の変数”は何か。大きな要素は、岸田政権が長丁場の通常国会をどのような形で終えるかではないか。
岸田政権は年末、向こう5年間の防衛費を1.5倍の43兆円に増やすとともに不足財源1兆円を増税で賄う方針を決めた。また、原発政策では、既存原発の60年を超える運転を認めることや次世代型の原子炉の開発・建設に取り組む方針をまとめた。いずれも歴代政権の政策を大きく転換する内容だ。
自民党の閣僚経験者に聞くと「防衛のどの分野を強化するのかという中身と、そのための安定財源、予算規模はこうすると論理的に説明できていないので、国民の理解を得るのはたいへんではないか」と国会乗り切りを危惧している。
野党の幹部は「政府・与党の方針は初めに規模ありきで、43兆円もの巨額予算が必要なのか精査する必要がある。また、軍備優先で、外交視点が欠落している。特に財源は、安定財源と言えるのか疑問だ」として、徹底追及する構えだ。
原発政策をめぐっても東日本大震災の福島原発事故の後、政府が示してきた原子力政策を大きく変更する内容だけに激しい議論が交わされる見通しだ。
このほか、年末に秋葉復興相が辞任するなど4閣僚の辞任ドミノを引き起こした岸田首相の任命責任をはじめ、旧統一教会の解散請求や被害者救済への取り組み、40年ぶりの物価高騰や世界的な景気減速への対応など難問が目立つ。
野党側は、第1党の立憲民主党と第2党の日本維新の会が去年の臨時国会に続いて、通常国会でも連携を継続する見通しだ。焦点の防衛費をめぐっては、政府・与党の増税方針に対して、両党は行財政改革で財源を捻出する対案を検討していくことにしており、与野党が真正面からぶつかり合うことになりそうだ。
去年の臨時国会は、旧統一教会問題で久しぶりに野党の攻勢が目立った。通常国会では、政府・与党と野党のどちらが主導権を確保するのか、岸田政権の政権運営とともに大きな注目点だ。
世論がカギ、政権・政局のゆくえ左右
こうした与野党の論戦を通じて、国民は大きな政策転換を打ち出した岸田政権をどのように評価するのか。この点が、”新年の政治の核心”とみる。
報道各社の世論調査をみると、国民は防衛力整備については賛否が分かれる一方、財源確保のための増税については、6割以上が反対している。政府の方針に対する国民の評価は、まだ定まっていないようにみえる。
加えて自民党内は、最大派閥・安倍派を中心に国債発行論が根強い。また、岸田政権は増税方針を打ち出す前の党内調整が弱く、政策の打ち出し方が稚拙などと不満や批判が数多く聞かれる。
それだけに年明けの通常国会で、岸田首相が説得力のある説明をできるかどうか。そして、国民の支持を得ることができるかどうか、今後の政権運営に当たって極めて大きな意味を持つ。
岸田内閣の支持率は、12月中下旬に行われた世論調査ではいずれも3割台前半から半ば(朝日31%、共同33%、日経35%)に止まり、低迷が続いている。国会論戦を通じて支持が広がらないと、危険水域とされる支持率30%割れの事態も予想される。
自民党の長老に向こう1年の見通しを聞いてみた。「自民党は、衆参の選挙や総裁選といった大きな選挙がないと動かない。岸田首相は低空飛行が続くだろうが、政権を投げ出すタイプではない。また、取って代わる人物がいないので、ズルズル続くのではないか」との見方だ。
そのうえで「政局は大きな選挙を控えて動く。本格的な動きが出てくるのは、再来年の連休明けくらいか。今年は、再来年に向けた備えの年ではないか」と語る。
自民党内は安倍元首相が亡くなった後、最大派閥・安倍派のゆくえが、未だに定まらない。麻生、茂木、岸田の各派はいずれも出身閣僚が更迭となり、そのほかの派閥も問題を抱え、各派総崩れ状態、態勢の立て直しを迫られている。
このため、冷静にみると”自民党内政治”が大きく動く可能性は、小さい。2023年の政治は”政局よりも政策”、防衛問題を軸に国会の論戦がどのように展開するか。
また、国民の評価と支持が、岸田首相や、新たなリーダー候補、野党側のどこに向かうのか。そうした結果が政治の側に跳ね返り、与野党に新たな動きを引き起こす。今年の政治は「世論の動向、世論の風の吹き具合」がカギを握るとみている。(了)