コロナ”桜”戦線拡大 正念場の菅政権

政権発足から2か月半、順調な滑り出しをみせていた菅政権だが、ここに来てコロナ感染が急拡大し、看板政策であるGoToトラベルなどの一部見直しに追い込まれた。また、政府のコロナ対策分科会の専門家からは、より踏み込んだ対応策をとるよう厳しい注文がつけられた。

一方、安倍前首相の後援会が開催した「桜を見る会」の前夜祭について、安倍氏の事務所側が費用の一部を補填していたことが明らかになった。これまで全面的に否定してきた安倍首相の国会答弁を覆す内容だけに、安倍首相を支えてきた菅首相も大きな打撃を受ける形になっている。

現在、開会中の臨時国会乗り切りに加えて、急拡大のコロナ感染への対応、”桜”疑惑の火の粉、さらには第3次補正予算案と新年度予算案の編成作業など菅政権の戦線は、多方面に拡大しつつある。正念場を迎えている菅政権への影響や今後を分析してみたい。

 コロナ感染危機、専門家の厳しい指摘

GoToトラベルをめぐる議論が続いていた11月25日夜、政府のコロナ対策分科会の尾身会長は記者会見で、「GoToトラベルの見直しばかりに注目が集まっているが、最も重要な取り組みが十分、共有されていない」といらだちを見せた。

「一部の地域では、感染拡大が急激に進んでおり、このままでは医療提供体制が厳しい状況に陥る」として、感染が急速に拡大している地域では、◇酒を提供する飲食店の営業時間の短縮。◇人の往来をできるだけ控えること。◇ステージ3の感染急増の地域では、GoToトラベルは停止など強い対策を取るよう政府と自治体に厳しい注文をつけた。

一方、菅首相は同じ25日に開かれた衆参両院の予算委員会で「GoToトラベルの利用者は延べ4000万人が利用し、コロナの陽性率は180人に止まっている。地域のホテルや旅館、食材提供など900万人の雇用を維持している」とのべ、自ら旗振り役を務めているGoToトラベルなど経済活動との両立をめざす基本方針は変えない考えを強調した。

このように政権のトップと、コロナ対策の専門家との間には、感染の現状認識や経済活動との兼ね合いなどの考え方に大きな隔たりがあることが、浮き彫りになった。

 「桜」前夜祭、安倍氏側 補填の衝撃

11月の3連休最後の23日、読売新聞は、安倍首相側主催の「桜を見る会」の前夜祭をめぐり、東京地検特捜部が安倍氏の公設第1秘書らから事情聴取をしていたことを朝刊でスクープした。同じ日の午後、今度はNHKが、安倍前首相側が前夜祭の費用のうち800万円以上を負担していたことを示す、ホテル側作成の領収書があることを特ダネで報じて切り返した。その後、報道各社が、安倍事務所側が領収書を廃棄したことなどの続報を続けている。

公職選挙法や政治資金規正法違反にあたるような事件だが、法律に詳しい専門家によると、後援会員という特定の人を対象にした場合、公職選挙法の適用は難しい。政治資金規正法も秘書の責任を立証できるか、難しいのではないかとの見方が示されている。検察当局がどこまで切り込めるか注視していきたい。

一方、この問題は、国会で野党側が1年にわたって追及を続けてきた。これに対し、安倍首相は「懇親会の全ての費用は、参加者の自己負担で支払われており、安倍事務所や後援会の収支は一切ない。領収書や明細書についてもホテル側からの発行はなかった」と全面的に否定してきた。今回の報道内容は、こうした答弁を覆す内容だけに衝撃は大きい。

野党側はさっそく25日の衆参両院の予算委員会で「安倍氏は国会に出てきて説明をすべきだ。菅首相も安倍氏に説明を求めるべきだ」と迫った。これに対し、菅首相は「安倍前首相自身が国会でいろいろ答弁してきたのは事実だ。国会の件は、国会で決めていただきたい」と防戦に追われた。

    菅政権 戦線拡大、カギはコロナ対応

秋の臨時国会も終盤に差し掛かっているが、政府は急拡大しているコロナ感染対策をはじめ、「桜を見る会」前夜祭の経費補填問題が再燃、さらに第3次補正予算案や新年度の税制や予算編成の準備に追われ、政権運営の戦線が多方面に広がっている。

中でも直ちに問われているのが、コロナ対策への対応だ。先に触れた政府の分科会が、3週間の集中期間にさらに強い対策を求める提言を出したことで、政府としても具体策のとりまとめに追われている。

ところが、コロナ感染対策をめぐって、先に見たように菅首相と、分科会の尾身会長ら専門家との現状認識、GoToトラベルをはじめとする政策の評価をめぐっても大きな隔たりがある。

また、感染状況のレベルの判定や、営業時間の短縮、協力金の支給水準などについて、政府と都道府県との意見調整の仕組みづくりは進んでいなかった。

こうした背景には、菅政権はGoToトラベルへ東京を追加するなど経済活動再開への取り組みは積極的だったが、感染抑止については、対策の具体化が進まなかった事情がある。

菅首相は26日夜、記者団に対し、分科会の答申を受けて「東京、名古屋市などでも飲食店の時間短縮を行うことになった。協力した店舗に対し、しっかり支援していきたい」とのべたが、新たな対応策への言及はなかった。

急増している重症者用の病床を確保し、感染拡大に歯止めをかけることができるかどうか政府の対応が問われている。

  菅政権に打撃、解散・政局にも影響

コロナ対策と、”桜”前夜祭の問題は、菅政権の国会・政権運営に打撃を与えることになりそうだ。

今の臨時国会は12月5日が会期末、会期延長なしで閉会、時間切れで野党の追及をかわすことになりそうだ。問題は、新年の通常国会。召集時期は上旬になるのか、中旬になるのかどうか決まっていないが、第3次補正予算案を冒頭で処理する必要がある。

その補正予算案は、20兆円程度の大規模な補正が取り沙汰されており、審議もかなりの時間がかかるとみられている。加えて、”桜”問題も重なり、荒れ模様の展開になることも予想される。

また、コロナ感染が収まっているのかどうか、不確定要素が極めて大きい。さらに菅首相は、デジタル庁の新設など改革の実績を上げたうえで、解散に踏み切る慎重な考えとみられている。このため、自民党内で期待の強い「年明け通常国会冒頭の解散」の確率は極めて低いとみられる。

一方、”桜”問題をめぐっては、野党側は衆院選も意識して、安倍前首相の参考人招致や証人喚問を強く要求することが予想される。通常国会では予算案の審議日程と絡めて、実現を強く迫る見通しだ。政治とカネの問題をめぐっては、中曽根元首相、竹下元首相、細川元首相の証人喚問も行われた。安倍前首相はどうなるか、大きな焦点になりそうだ。

安倍前首相については、自民党内で3度目の首相登板に期待する意見が出されていた。それだけに来年秋の総裁選にどのような影響が出てくるか。岸田前政務調査会長は、安倍前首相の支援を期待しているが、安倍首相の影響力が低下するような場合は、戦略の見直しに迫られる。

菅首相にとっては、官房長官時代の責任を追及され、内閣支持率の低下などにつながるかどうか。一方、安倍氏や岸田氏の影響力が低下すれば、菅氏が総裁選に向けて相対的に優位になるとの見方もある。

このようにコロナと”桜”の問題は、自民党の総裁選や解散・総選挙に様々な影響を及ぼすことになりそうだ。

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”評価分かれる”菅政権 コロナ対応がカギ

菅内閣が発足して、まもなく2か月を迎えるが、世論の反応は、臨時国会で与野党の意見が対立している日本学術会議の任命拒否問題については「菅首相の説明は十分でない」と批判的な受け止め方が多い。

一方、新型コロナ・ウイルスをめぐる政府の対応は「評価する」との見方が増えて、菅内閣の高い支持率を支える形になっている。

また、菅首相の人柄をめぐって「信頼できると受け止める層」と「信頼できないとする層」とに二分される現象も起きている。

内閣支持率はこれまでのところ高い水準を維持しているが、今後、コロナ感染が急拡大すれば、政権の評価が一変することも予想される。

国民の側は、菅政権をどのように見ているか、11月のNHK世論調査を基に分析してみる。(調査は11月6日から8日、データは「NHK WEB NEWS」から)

 菅内閣支持率56% 横ばい

まず、11月の菅内閣の支持率は、◆「支持する」が56%、◆「支持しない」が19%で、前の月に比べると支持が1ポイント増え、不支持が1ポイント減少し、「横ばい状態」だ。

9月16日に発足した菅内閣の支持率は、直後の9月調査では62%と高い水準を記録したが、10月調査では、日本学術会議の問題が影響して55%、7ポイントも下落した。その後、召集された臨時国会で与野党の本格的な論戦が続いており、今回の調査結果が注目されていた。

 学術会議「首相の説明不十分」6割

そこで、具体的な問題を見ていく。まず、臨時国会の焦点になっている日本学術会議の問題について、「菅首相のこれまでの説明は十分だと思うか」。◆「十分だ」は17%に止まり、◆「十分ではない」が62%と多数を占めている。

一方、政府と自民党が、学術会議のあり方に問題があり、検証するとしていることについては、◆「適切だ」が45%、◆「適切ではない」が28%、◆「わからない」が27%と分かれた。

このように世論は、「菅首相の説明は十分ではない」として、批判的に受け止めていることがわかる。

但し、10月は、この問題が内閣支持率全体を大幅に引き下げたが、今回11月は、引き下げるような影響は出ていない。菅首相の姿勢は問題があるが、学術会議にも問題があれば、検証すればよいと冷めた受け止め方がうかがえる。

 コロナ対応、温室ガスゼロの評価

次に新型コロナウイルスをめぐる政府のこれまでの対応については、◆「評価する」が60%、◆「評価しない」が35%となった。

「評価する」は、9月調査では52%だったが、10月調査54%、11月調査60%と次第に増えている。これは、11月上旬までは、感染者が比較的落ち着いていたことが影響しているものとみられる。

また、菅首相が臨時国会の所信表明演説で「2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする」と表明したことについて、◆「評価する」が62%、◆「評価しない」が29%となった。

菅政権は、学術会議問題での批判を、コロナ対応や温室効果ガス対策のアピール効果で打ち消し、内閣支持率を下支えする形に持ち込んでいるとみることができる。

 菅政権と世論、”様子見の期間”か

以上のデータを基に菅内閣に対する世論の反応を整理するとどうなるか。

菅政権発足から2か月、11月は3回目の世論調査になったが、内閣支持率は56%で過半数を保っており、高い水準にある。

一般的に新政権と世論は、”ご祝儀相場”と”ハネムーン”が数か月続く。世論も一定期間は、政権を激しく批判したり、厳しい評価を避けたりする傾向がある。このため、今は”様子見の期間”と言えるかもしれない。

但し、「支持の中身」を詳しく分析してみると幾つかの特徴がある。◆「与党支持層の支持」の割合は83%と高いが、◆最も多い「無党派層の支持」は41%に止まり、低い水準にある。

◆「男性の支持」は59%と高いが、「女性の支持」は52%とかなり下回る。

◆「支持する理由」としては、「菅首相の人柄が信頼できる」が25%で第2位を占める。これに対して「支持しない理由」としては、「菅首相の人柄が信頼できない」が32%、こちらも2番目に多い。

つまり、「菅首相の人柄」の評価をめぐって、「信頼する層」と「信頼しない層」とが、それぞれ一定割合を占める、珍しい構造になっている。

また、学術会議問題をはじめ、コロナ対策、温室効果ガスなどの問題によって、内閣の評価が大きく分かれている。

さらに、内閣支持率そのものについても「支持する」と「支持しない」の他、「どちらともいえない」などと答えた人が「25%」にも達している。第2次安倍内閣では発足後、半年間は14%から18%だったが、菅内閣はこれを11~7ポイントも上回り、全体の4分の1も占めるのも大きな特徴だ。

菅首相については、”たたき上げで親近感”が持てるという声がある一方、”学術会議人事に見られるような強権的な政権”との受け止め方も聞かれる。国民の側から見ると「菅内閣は、評価しにくい政権」と言えるかもしれない。

 コロナ感染拡大は?菅政権正念場

11月に入って、コロナ・ウイルスの感染拡大の傾向が続いている。冬の到来が早い北海道をはじめ、東京などの首都圏、愛知、大阪など全国各地で増加している。12日には、全国の感染者数がついに1635人、1日あたり過去最多を更新した。

菅内閣の支持率の高さは、コロナ感染抑制が前提条件になっている。携帯電話料金の値下げやデジタル庁新設などの内閣の評価は高いといわれるが、土台のコロナ対策がうまくいかなければ、直ちに政権の評価にも影響が出てくる。

政権発足後、GoToトラベルなどの経済対策は積極的に推進してきたが、肝心の検査体制の拡充をはじめ、病床の確保など医療提供体制の整備のスピードは遅い印象を受ける。

臨時国会は序盤戦が終わった段階だが、国民が不安に感じているコロナ対策の議論は不十分だ。政府の備えは十分なのか、コロナ対策の特別措置法の改正を早急に行う部分はないのか、議論を尽くしてもらいたい。

菅政権については、コロナ感染抑制と経済再生の両立を進めることができるのか正念場を迎えている。

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菅首相”迷走答弁”続く 学術会議問題

菅新政権発足後、最初の臨時国会は、衆参両院の予算委員会での総括質疑が6日、終わった。焦点の1つである日本学術会議の問題は、菅首相の答弁がクルクル変わり、論点がほとんど噛み合わなかった。

これまで長年、国会論戦を取材してきたが、今回ほど首相の答弁内容そのものがわかりにくく、迷走が続く質疑はほとんど記憶にない。

やはり、学術会議の新しい会員候補6人の任命を拒否した判断に問題があるのではないか。また、本来、コロナ感染対策に全力投球する時期に、新政権がこの問題にこだわりエネルギーを費やす意味があるのかどうかも疑問に感じる。

総括質疑が一区切りついたのを機会に、今回の問題をどのように見たらいいのか、考えてみる。

 ”クルクル変わる論点、矛盾と迷走”

最初に菅首相のこれまでの発言のポイントを整理しておく。

◆「個別人事に関するコメントは控えたいが、”総合的俯瞰的活動”を確保する観点から判断した」と説明。(10月5日の内閣記者会とのインタビュー)

◆(抽象的でわかりにくいとの指摘を受け)「民間出身者や若手が少なく、出身や大学にも偏りがあり、”多様性が大事だ”ということも念頭に判断した」

◆(任命拒否の対象者に若手や少数大学関係者が含まれており、答弁が矛盾していると批判され)「個々人の任命の判断と、”多様性は直結しない”」

◆「以前は、学術会議が正式の推薦名簿を出す前に、内閣府の事務局などと学術会議会長との間で、”一定の調整”が行われていた」。(野党から、任命前の選考・推薦段階での人事介入だと追及され)「考え方のすり合わせだ」と釈明。

このように発言内容が一貫せず、矛盾、論点が次々に変わり、答弁の迷走が続いた。与党などに首相答弁は「ぶれない」「安全運転に徹した」などの評価があるとの声も聞くが、論点が噛み合う答弁になっていないのが実態ではないか。

 6人除外、杉田副長官が関与

一方、学術会議6人の任命拒否の経緯の一端は、明らかになった。菅首相は質疑の中で、官僚トップの杉田和博官房副長官と相談しながら6人の除外を決めた経緯を説明した。

それによると菅首相は、学術会議の人事について「懸念」を、安倍政権の官房長官時代から杉田氏に伝えていたこと。今回は、9月16日の首相就任後に改めて懸念を伝え、杉田副長官からその後、相談があり、99人の任命の判断をしたこと。杉田副長官から報告を受けた時期は、内閣府が決裁文書を起案した9月24日直前の「9月22日か23日」などの点を明らかにした。

以上の経緯、杉田官房副長官が任命に当たってのキーパーソンとみられる。このため、野党側は杉田氏の国会招致を要求しているが、自民党は応じない姿勢をとっている。

但し、菅首相や加藤官房長官が6人をなぜ任命しなかったのか説明ができない場合は、今後、杉田副長官を招致し、事実関係などの説明を求める必要があるのではないか。この問題を早期に決着させるためには、菅首相や自民党の判断が問われる。

 菅新政権の政治姿勢にも関係

以上のような国会の論戦、菅首相の答弁などを、どのように評価するか。学術会議の根本の問題は、「6人の任命をなぜ、拒否したのか」、「学術会議法では、学術会議の推薦に基づいて首相が任命する規定」に違反していないかどうかをはっきりさせることにある。ところが、この点の解明は未だに進んでいない。

また、これに関連して、菅首相や自民党が、学術会議の役割や構成などに問題があると考えるのであれば、任命問題を解明した上で、議論し是正するのが筋だ。

さらに、今回の問題は、政権と学者・学術団体との関係に止まらず、「菅新政権の基本姿勢」を判断する上で注目している。

というのは、安倍政権では、森友、加計問題、桜を見る会、黒川・元東京高検検事長の定年延長など不透明な疑惑・問題が相次いだ。後継の菅政権は、公正で透明な政治・行政を進めるのかどうか、国民の側は見定めようとしているのではないか。

報道機関の世論調査で菅内閣の支持率が大幅に低下しているが、その「支持しない」理由として「首相の人柄が信用できない」が急増し、1位になっていることからもわかる。

 学術会議早期決着、重要課題論戦を!

今の臨時国会は来月5日まで、会期末まで1か月を切った。コロナウイルスのワクチン接種や、日英貿易協定の承認案件の審議はこれから始まる。冬場に入って、コロナ対策と、暮らしや経済の備えは急務だ。さらにアメリカ大統領選の開票が続いているが、国際社会への対応も待ったなしの状況だ。

学術会議の問題は、問題の所在はこれまで見たように明らかだ。政府・与党側と野党側の双方が批判し合っているだけでは、何の解決につながらない。

ここは、任命権のある菅首相がこれまでの議論を踏まえて、論点を整理し、最終方針を明らかにして、早期決着を図る必要があるのではないか。その際、集中審議や、杉田官房長官の招致など柔軟な対応が求められる。野党側も歩み寄るべき点は、柔軟に対応すべきだ。

菅政権は、内閣支持率はなお、高い水準にあり、こうした貴重な政治的資源は、学術会議の人事問題ではなく、政権がめざすデジタル化や、コロナ対策、経済再生対策などに投入した方がはるかに意味がある。

”コロナ激変時代”、政府、与野党が学術会議問題に早期に決着をつけ、日本社会・経済の立て直しに向けた本格的な議論と競い合いを見せてもらいたい。

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「大阪都構想」否決 菅政権2つの不安材料

大阪市を廃止して4つの特別区に再編する「大阪都構想」が、1日に行われた住民投票で、反対多数で再び否決された。

大阪地域の問題だが、菅政権や衆院選、政局に及ぼす影響は大きいとみている。菅政権にとっては日本学術会議に続いて、大阪都構想否決問題が、国会・政権運営の面で不安定要因になる可能性がある。

今後の政治にどんな影響が出てくるのか、具体的にみていきたい。

 大阪都構想、”無党派層6割が反対”

大阪都構想がなぜ、再び否決されたのか。まず、構想を推進する「大阪維新の会と公明党の足並みの乱れ」がある。報道各社の出口調査では、住民投票で維新支持層の9割は賛成だったのに対し、公明支持層の賛成は半数に止まった。

投票率は前回より4ポイント余り下回ったものの、62.35%と高い水準となった。最も多い無党派層が投票所に足を運び「無党派層の6割が反対」に回ったことが大きく影響した。

大阪都構想をめぐっては、「府と市の二重行政の無駄を是正できる」との賛成意見は多かった。一方で、「大阪市廃止後の市はどうなるのか、住民の利益になるのかどうか」確信を持てない市民が多かったのではないか。

結局、大阪都構想の大義名分、住民自治や利益について、十分説得することができなかった。「住民投票の難しさ」も改めて浮き彫りになった。憲法改正問題での国民投票でも同様の問題を抱えている。

 維新に打撃、看板政策否定と代表引退

「大阪都構想」を推進してきた「大阪維新の会」と「日本維新の会」代表の松井市長は「政治家としてケジメをつけなければならない」として、2023年4月までの任期を務めた上で、政界を引退する意向を明らかにした。

維新の会にとって、結党以来の看板政策である「大阪都構想」が2度にわたって否決された。加えて、党を率いてきた松井市長が政界引退表明に追い込まれた打撃は大きい。

向こう1年以内には、衆議院の解散・総選挙が行われる。維新の会は、住民投票での勝利をテコに、次の衆院選では全国各地で候補者を積極的に擁立する戦略を描いていた。

それだけに党の態勢の立て直しが急務だが、結党以来の旗印である都構想に代わる看板政策を打ち出せるかどうか。選挙戦略の見直しも迫られるのではないか。

 菅政権 “政権補完勢力”の後退

菅政権への影響はどうか。菅首相は、安倍政権の官房長官時代から、松井代表とは太いパイプを築いてきた。今回の住民投票でも、自民党大阪府連が反対の立ち場を取る中で、静観を続けてきた。

政権関係者に聞くと「維新の会は是々非々路線、重要法案の審議では賛成に回る場面も多く、立憲民主党など野党勢力を分断できる貴重な存在だ。今回の維新の失速が、政権運営面で直ちに影響が出てくるとはみていないが、今後、国会運営や憲法改正問題などにも影響が出てくるだろう」と”政権補完勢力”の後退の影響の大きさを認める。

一方、連立与党の公明党は、前回の住民投票では反対だったが、今回は賛成に回った。次の衆院選大阪選挙区での公明党候補への影響を意識した対応とみられているが、反対の姿勢を貫いた自民党大阪府連との間にしこりを残した。

 2つの不安材料 大阪都構想と学術会議

菅政権発足後、最初の臨時国会が10月26日に召集され、11月2日からは衆議院予算委員会に舞台を移して、一問一答形式の質疑が始まった。

野党第1党の立憲民主党は、日本学術会議の会員候補の一部の任命を菅首相が拒否した問題に焦点を絞って攻め立て、初日の審議では、菅首相は同じ答弁メモを繰り返すなど防戦が目立った。

今回の維新の失速は、菅政権にとっては、学術会議の人事問題に続いて、2つ目の不安材料になる可能性がある。菅政権は、当面、臨時国会を乗り切るとともに第3次補正予算と新年度予算案の編成で、菅カラーを打ち出して行きたいところだが、2つの不安材料をどこまで押さえ込むことができるかどうかも注目点だ。

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”注目点多い臨時国会” 開会 コロナ 新政権

臨時国会が10月26日に開会した。6月の通常国会閉会から4か月ぶり、ようやく論戦再開になる。26日に菅首相の初めての所信表明演説が行われた後、各党の代表質問、続いて予算委員会で一問一答方式の詰めた質疑が行われる運びだ。

この臨時国会は「注目点の多い国会」だ。新型コロナは一進一退状態だが、感染拡大防止をどうするか、生活・経済支援で新たな対応策は打ち出されるのか。

また、安倍首相から菅首相へ8年ぶりの首相交代、”菅政治”とは何か。焦点の学術会議の任命拒否はどのような形で決着をつけるのか。国民にとっても、聞きたい点、知りたい点が多い。

菅新政権発足後初めての国会論戦の注目点は何か、何を議論すべきなのか、具体的にみていきたい。

 コロナ感染防止 ”備えはできたか”

臨時国会冒頭の所信表明演説で、菅首相は「新型コロナウイルス対策と経済活動再開の両立をめざす。コロナ対策では、爆発的な感染は絶対に防ぎ、国民の命と健康を守り抜く」と訴える方針だ。

菅首相は9月の総裁選に立候補した時以来、コロナ対策を最重点に取り組む決意を繰り返し表明してきた。但し、感染拡大防止のために何に取り組むかについて、具体的に言及していない。

政府の感染防止対策については、安倍首相が8月28日に辞任表明をした際に1日当たり20万件の検査体制をめざすことや、経営が厳しい医療機関や大学に万全の支援を行う方針を明らかにしたが、その後、具体的な説明がない。

◇1日20万件の抜本的検査体制拡充の進み具合はどうなっているのか。◇コロナと同時にインフルエンザの流行が重なった場合、検査体制の備えはどうか。東京都の場合、現在の7.5倍の検査能力・体制が必要だとする試算も公表されたが、現状ではとても対応できないのではないか。

◇10月から始まった入国制限の緩和に伴う空港での検査体制。検査のすり抜け防止や、14日間待機の担保は大丈夫か、知りたい点は多い。

要は「コロナ対策の備えはできているか」。検査、入院・重症者治療などを総点検して結果を公表し、全体状況を国民に理解してもらうことが必要だ。

また、特別措置法の見直し=感染抑止のための休業要請と、応じた場合の”補償”、知事の権限強化などが宿題として残されている。政府のコロナ対応の検証と特措法の早期見直しが必要だと考えるが、この点についても国会で詰めた議論を行ってもらいたい。

 生活・経済支援の追加策はどうするか

次に大きな問題は、コロナ感染拡大で大きな打撃を受けた人たちや事業者に対する生活・事業支援。年末に向けて、雇い止め・休業・失業、中小事業者の廃業・倒産が増えることが懸念されている。

これまで国民1人10万円給付をはじめ、事業継続のための持続化給付金、雇用継続のための雇用調整助成金の支給、さらには、GoToトラベルなど各種事業の支援を行ってきた。今後、こうした事業追加策はどうするのか。

政府は予備費10兆円のうち、7兆円が残っており、この活用で手当すると同時に、不足すれば第3次補正予算案を編成すると説明している。

また、政府はコロナ対策として総額234兆円にものぼる、世界でも有数な経済対策を実施してきた。予算に匹敵する効果を上げているのか、どの分野をテコ入れしていくのか、早期に方針を打ち出す必要がある。

 学術会議問題、菅政権の政治姿勢は

日本学術会議の新たな会員候補6人について、菅首相が任命を拒否した問題も大きな論点になる見通しだ。

野党側は「菅首相やその周辺が、勝手に法解釈をねじ曲げており、任命拒否を撤回すべきだ」と追及する方針だ。これに対し、政府・与党側は「10億円の予算が使われており、学術会議の在り方や組織の見直しは必要だ」として対立している。

この問題は「菅新政権の政治姿勢に関係する問題」でもある。日本学術会議法では「学術会議の推薦に基づき首相が任命する」と規定されている。任命しない場合は「なぜ任命しないのか、誰が実質的に決めたのか」を明確にする必要がある。その上で、学術会議の在り方に問題があれば議論すればいい。

菅氏が官房長官を務めた安倍政権では、内閣法制局長の交代や、東京高検の検事長の定年延長をめぐって”強引な人事”が批判を浴びた。菅新政権はどのような考え方で人事や政権運営を行うのか、国民に十分わかる説明と議論を強く求めておきたい。

 ”菅カラー” 独自政策と全体像は

菅政権は、安倍政権の路線を継続する一方で、”菅カラー”とも言える独自政策を次々に打ち出している。携帯電話料金の値下げ、デジタル庁の新設、不妊治療への保険適用が”菅首相の三大案件”とされている。

こうした国民目線、国民の利益に直結するような政権の取り組みを高く評価する意見がある一方で、社会保障や少子化対策などの政策全体の取り組み方も示さないと、政権の人気取りに終わってしまうと懸念する声も聞く。

一方、地球温暖化対策として、菅首相は「2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにする方針」を所信表明演説で表明する方向で調整している。これまでより踏み込んだ目標で、エネルギー基本計画や企業の生産活動にも影響する。

菅政権の政策をめぐっては、目先の個別政策が多いため「どんな社会をめざすのかわかりにくい」。あるいは「中長期の政策も含めて、政策の全体像を示してもらいたい」といった指摘が出されており、政権の主要政策の全体像や基本構想を明らかにして議論を深めてもらいたい。

外交・安全保障分野についても、米中間の覇権争いが激化する中で、日本外交の舵取りをどのように行っていくのか基本的な考え方を明らかにして欲しい。

 コロナ激変時代 制度設計・構想を

日本の政治は、7年8か月に及ぶ安倍長期政権が幕を閉じ、代わって菅新政権が登場し、向こう1年以内に衆議院の解散・総選挙が行われる。

国民の側も”コロナ激変時代、どんな将来社会をめざすのか”、これまで以上に政治の動向に関心を持つともに、次の選挙はどんな基準・物差しで1票を投じるかを考え始めているようにみえる。

それだけに政府・与党、野党各党の双方には、新しい日本社会の制度設計としてどんな構想と政策、実現への道筋を考えているのかしっかり打ち出してもらいたい。その上で、注目点の多い臨時国会、国民が知りたい点に真正面から応える国会論戦を是非、みせて欲しい。(※備考:10月26日に国会が召集されましたので、冒頭の文章の表現を一部を過去形に手直しにしました)

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菅内閣支持率 下落 学術会議問題が影響

菅新政権が発足して16日で1か月が経過した。政権発足直後は高い支持率を記録、順調な滑り出しだったが、NHKの10月の世論調査によると内閣支持率が大幅に下落している。

この理由は、日本学術会議の新しい会員候補の一部について、菅首相が任命を拒否、その理由を説明していないことが影響していると見られる。

菅内閣を支持しない理由として「首相の人柄が信頼できない」が急増。「女性の支持率」が大幅ダウン。最も多い「無党派層」の不支持も増加している。

菅新政権の支持率下落の理由、背景を以下、詳しく分析してみる。

 菅内閣支持率 7ポイント下落

NHKが10月9日から11日に実施した世論調査によると、菅内閣の支持率は◆「支持する」が55%、◆「支持しない」が20%だった。

政権発足直後の9月の世論調査では◆支持が62%、◆不支持が13%だったので、支持率が7ポイント減少、逆に不支持が7ポイント増加したことになる。

政権発足直後は、いわゆる”ご祝儀相場”もあって高い支持率となり、その後、減少していくことが多いが、2回目の調査で大幅に下がるケースは少ない。◇菅直人内閣の22ポイント、◇小渕内閣14ポイントに次ぐ水準で、野田内閣と同じく大幅な下げ幅だ。

(備考:9月調査=21・22日、10月調査=9~11日実施。データは「NHK NEWS WEB」から)

 支持率下落 与党、無党派、女性

支持率下落の中身をみると◆「与党支持層」が、9月の85%から10月の80%へ減少。◆最も多い「無党派層」が50%から43%へと下落している。

◆男女別では、特に「女性の支持」が、9月62%から10月51%に11ポイントと大幅な下落が目立つ。男性は9月63%から10月59%へとは対照的だ。

 「首相の人柄信頼できない」倍増

次に菅内閣を支持する理由としては◆「他の内閣より良さそう」26%、◆「人柄が信頼できる」24%、◆「実行力がある」18%と続く。

これに対して、菅内閣を支持しない理由としては◆「人柄が信頼できない」32%、◆「政策に期待が持てない」31%、◆「他の内閣の方が良さそう」13%となっている。

つまり、菅内閣を支持する人の中で「人柄が信頼できる」と答えた人は、菅首相は世襲ではなく、秋田の農家出身の”たたき上げ”といった点を評価しているものとみられる。

一方、支持しないと人たちの中で「人柄が信頼できない」と答えた人は、日本学術会議の問題が影響しているものとみられる。9月は15%だったのが、10月は32%へと倍増、支持しない理由のトップに跳ね上がっているからだ。

 学術会議任命拒否 ”納得できない”

その日本学術会議が推薦した新しい会員の一部を任命しなかったことについて、菅首相が「法に基づいて適切に対応した結果だ」などと説明していることをどのように受け止めているかを聞いている。

◆「納得できる」は38%、◆「納得できない」は48%となっている。支持政党別にみてみると◇与党支持層でも「納得できる」は55%に止まっている。◇野党支持層と◇無党派層では「納得できる」は2割台後半で、「納得できない」は野党支持層の7割、無党派層の6割と多数を占めている。

年代別では、どの年代でも「納得できる」は3割から4割程度で、「納得できない」は、50代以降、60代、70歳以上でいずれも半数を上回っている。

女性は「納得できる」は33%に対し、「納得できない」が46%と大幅に上回っている。男性は、43%と48%で拮抗している。

 新政権の信頼度、政権の行方に影響

学術会議の問題は、日本学術会議法で「会議側の推薦に基づいて首相が任命する」と規定されている。推薦制を導入した中曽根政権以降、歴代政権は学術会議の推薦を尊重してきた。菅政権では一部の任命を拒否したが、「誰が判断したのか、任命しなかった理由は何か」といった肝心な点を説明していない。

国民の側は、こうした政府の対応に疑念を抱いており、新政権の政治姿勢、政権の信頼度に関わる問題として受け止めていることがうかがえる。この問題は、10月26日から始まる秋の臨時国会でも与野党の攻防の焦点になる見通しだ。

菅政権は、デジタル庁の新設や携帯電話料金の引き下げなどを打ち出し、世論の高い支持を得たが、学術会議問題が思わぬ影響を与えている形だ。政府側が説得力のある説明を行えないと、さらなる支持率低下につながる可能性もある。

菅政権としては、学術会議問題にどのような方針で臨むのか、軌道修正を図る考えはないのかどうか。今後の政権運営や次の衆議院選挙の選挙情勢にも影響を及ぼすだけに注意して見ていく必要がある。

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任命拒否の事実関係 早急に解明を!学術会議問題

日本学術会議の会員人事をめぐる問題が、菅新政権にとって大きな政治問題になりつつある。野党側が、菅首相の任命拒否の撤回を要求すれば、政府・自民党側はこれを突っぱね、学術会議の在り方そのものを見直していく方針を打ち出し、与野党の対立が深まっている。

一方、この問題は、国際的な科学誌として知られる「ネイチャー」が社説で取り上げ「科学と政治の関係が危機にさらされている。黙ってみていることはできない」と懸念を表明、国際的にも注目を集めることになりそうだ。

この問題をどうするか。様々なレベルの問題が整理されないまま議論されているが、肝心な事実関係がはっきりしていない。「学術会議側が出した105人の推薦候補のうち、6人を任命しない判断は誰が行ったのか、その理由は何か」。

この点が「今回の問題の核心」であり、事実関係をはっきりさせること。その上で、任命拒否の是非、学術会議の在り方などについても議論すればいいのではないか。以下、今回の問題をさらに詳しくみていきたい。

 菅首相「推薦リストは見ていない」

菅首相が9日に行った内閣記者会とのインタビューが、波紋を広げている。この中で、菅首相は今回の任命は自ら判断したとした上で、9月28日の決裁の直前には、任命する99人のリストは見ていたこと。但し、任命されなかった会員候補6人を含む105人の学術会議側の推薦リストは「見ていない」と説明した。

この説明では「誰が、学術会議側の推薦名簿を見て、除外したのか」が問題になる。また、除外した理由は何か。さらに日本学術会議法の「学術会議の推薦に基づいて首相が任命する」という法律の規定にも違反する可能性がある。

一方、学術会議の元幹部によると、今回の任命拒否以外に少なくとも過去4回、首相官邸が人事に難色を示し、定員を上回る名簿の提出を求められたことなども明らかになった。

したがって、まずは、問題の「核心部分の事実関係」を確認した上で議論する必要がある。政府は、早急に事実関係を調査・確認し、説明する責任がある。

 歴代内閣の方針転換ではないか

もう1つの問題は、「歴代内閣の方針との関係」がある。今回の問題に関連して、政府は一昨年、政府内で学術会議の会員の任命を巡って、政府内でまとめていた文書を明らかにした。

それによると、学術会議は、国の行政機関であることから、首相は任命権者として、人事を通じて一定の監督権を行使することができると明記している。

一方、今の推薦制を導入した際、当時の中曽根首相は、国会の答弁で「政府が行うのは、形式的な任命にすぎない」として学術会議側の推薦を尊重する考えを表明し、歴代内閣も踏襲してきた。

ところが、安倍内閣と今の菅内閣は、中曽根内閣との方針とは異なるのではないか。また、政府の方針を変える場合は、公表し説明する必要があるのではないか。こうした点についても政府の説明が必要ではないか。

 過ちては改むるに、はばかることなかれ

今回の問題は、菅政権の政治姿勢を判断する面でも注目してみている。というのは、菅氏が官房長官として務めてきた安倍政権は、森友、加計問題、桜を見る会、さらには、東京高検の黒川検事長の定年延長など政治・行政の透明性、首相の信頼性に関わる問題が相次いだからだ。

菅新政権が発足し、これから新型コロナ対策をはじめ、デジタル庁の新設など独自の政策に取り組んでいく上でも、菅首相の政治姿勢や政権の透明性などが問われる。

今回、任命されなかった6人の学者については、いずれも政府の集団的自衛権の行使や安全保障法制などに批判的な立ち場であることから、任命から除外したのではないかとの疑念が持たれている。菅首相はそうした見方を否定しているが、任命しなかった理由については、説明をしていない。

こうしたことから、事実関係を調べる中で、仮に選考に問題があった場合は、官僚や政権のメンツなどにはこだわらず、是正した方がいい。”過ちては改むるに、はばかることなかれ”と言われる。政権発足で世論の高い支持を得ており、こうした政治資源は有効に使った方がいい。

いずれにしても、まずは事実関係を明確にし、その上で、任命しなかったことの是非を判断するのが、順序だと考える。

さらに学術会議の在り方、運営などに問題があれば、議論、検討すればいい。その前に事実関係を明確にし、人事問題をはっきりさせておく必要がある。問題を曖昧にせず、国民にわかりやすい議論と結論を出してもらいたい。(了)

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”負の路線”も継承か 菅政権の学術会議人事

アメリカのトランプ大統領夫妻が新型コロナウイルスに感染したという驚きのニュースが週末に飛び込んできた。一方、国内でも日本学術会議が推薦した新会員の候補について、菅首相が一部任命をしないことが明らかになり、波紋が広がった。

この問題は「学問の自由との関係」もあるが、菅政権発足直後の出来事なので、「新政権の政治姿勢」を占う点でも注目している。

そこで、今回の問題、政権のあり方も含めて、どのように考えたらいいのか見ていきたい。

 学者の代表機関 独立性を保障

最初に日本学術会議とは何か、手短に整理しておきたい。

「学者の国会」とも呼ばれ、人文・科学、生命科学、理学・工学のおよそ87万人の科学者を代表する機関で、210人の会員などで構成されている。

太平洋戦争に科学者が協力したことを反省し、1949年に設立された。内閣総理大臣が所管し、経費は国費で負担。年間10億円支出されているが、政府から独立して職務を行う機関と位置づけられている。

会員は昭和59年の法律改正で、学者間での選挙で選ぶ方法から、研究分野ごとに候補者を推薦し、その推薦に基づいて総理大臣が任命するという形式に変わった。

その際、所管していた総理府・総務長官は国会答弁で「学会からの推薦者を拒否はしない」と独立性を保障する考えを表明した。

 6人任命せず 政府側の説明なし

今回、日本学術会議は8月31日に、新たに会員となる105人の候補を推薦するリストを提出した。これに対し、加藤官房長官は10月1日の記者会見で、推薦候補のうち6人を任命しなかったことを明らかにした。

歴代政権は学術会議の推薦を尊重してきており、学術会議が推薦した候補が任命されなかったのは、初めての事態だ。

加藤官房長官は「会員の人事などを通じて、一定の監督権を行使することは、法律上可能だ」と強調した。

菅首相も「法に基づいて適切に対応にした結果だ」とのべたが、任命しなかった理由の説明は避けている。

これに対して、学術会議側は、任命しなかった理由の説明を求めるとともに、6人の任命を求める要望書を提出することを決めた。

 学問の自主・自立性が損なわれる

そこで、この問題をどう見るか。憲法の専門家の1人は「今回、人選のルールが解釈で変更され、任命権者の判断でどうにでもなると、学問の自主性・自立性が損なわれる」と批判している。

その上で「一定の方向でしか学問ができないことになれば、社会全体も政治的に多数派ではない意見が言えなくなるおそれがある」と指摘している。

野党側は「学問の自由に対する国家権力の介入だ」として、臨時国会で追及する方針だ。

この問題に関連して、国が補助金を出していることや、学術会議の運営のあり方に問題があるのではないかとの指摘も出されている。指摘の点は改善の必要があると思うが、問題の核心は、政治権力と学術団体との関係をどうするかにあると考える。

 新政権の政治姿勢 任命拒否の背景

今回の問題、私個人は「菅新政権の政治姿勢」を世論がどのように評価するかという点を注目している。

菅首相は、安倍政権の路線を継承する考えを表明するとともに、デジタル庁の創設や携帯電話の通話料の値下げなど独自色を打ち出そうとしている。これまでのところ、菅内閣の支持率も高い水準を示している。

こうした中で、任命されなかった6人の研究内容や経歴をみると次のような共通点がある。

まず、6人は憲法や政治学、行政法、日本近代史などいずれも法文系の研究者だ。また、安倍政権が打ち出した集団的自衛権の行使容認や安全保障法制、テロ等準備罪の新設などに批判的な立ち場を表明している点でも共通点がみられる。

政府が任命拒否の理由に言及していないので断定的に言えないが、6人の共通点から判断すると「政権との距離」、政府の方針に批判的な研究者は任命できないとの判断が働いているのではないかと推測せざるをえない。

 負の路線継承 百害あって一利なし

安倍政権は、森友、加計問題をはじめ、桜を見る会などで、首相の政治姿勢や説明責任が大きな問題になった。

また、集団的自衛権の憲法解釈などに当たった内閣法制局長官の交代や、検察当局のNo2 黒川・前東京高検検事長の定年延長をめぐっても、強引な人事ではないかとの批判も浴びた。

今回の学術会議の問題は、安倍政権の末期から菅政権誕生の交代時期に重なっている。菅新政権の今回の対応は、安倍政権の人事や説明の仕方などをそのまま引き継いでいるように見える。世論の側は、”負の路線継承”と受け止める可能性が大きいのではないか。

このように見てくると、学者の世界に”対立”を持ち込むことは、新政権にとっても”百害あって一利なし”ではないか。

今、国民の多くが新政権に期待しているのは、コロナ危機乗り切りと経済再生を着実に進めることにある。学術会議の問題は、任命しなかった理由を明らかにすると同時に、問題ありと判断した場合、早急に是正した方が賢明だと考える。

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”年内解散先送り”の公算 コロナ対策優先 

安倍首相の辞任を受けて登場した菅政権は発足から30日で、2週間になる。安倍政権の継承を表明する一方、デジタル庁の創設など独自色を打ち出し、世論調査でも高い支持率を得て、順調な滑り出しを見せている。

一方、今後の大きな焦点になっている衆議院解散・総選挙はどうなるのか。さまざまな見方があるが、菅首相はコロナ対策と経済再生優先で、”年内解散先送り”の公算が大きいるとみる。以下、その理由・背景を説明したい。

 秋口解散なし 首相誕生日投票説も

衆議院の解散・総選挙について、政界の一部では「9月末解散・10月12日公示・25日投票説」が有力との見方が流されてきた。菅内閣と自民党の支持率が高いことから、早期解散必至との見方だった。しかし、この秋口解散はなしの情勢だ。

代わりに今、流れているのが「11月解散・12月投票」説。この中には「12月6日投票」説も。この日は、菅首相の誕生日という漫画のような話も聞く。さらに「年明け通常国会冒頭の解散」説もある。

このように政界の解散情報は、ゴールポストが次々に、後ろにずれていくのが特徴だ。予想が外れた場合の解説もほとんどなされたことがない。

 臨時国会や皇室日程 固まる

それでは、解散・総選挙の時期をどう見たらいいのか。衆議院の解散は、解散詔書が国会に伝達されて決まるので、国会が開かれていることが前提になる。

その臨時国会は、自民党幹部によると10月下旬、23日か26日召集の見通しだ。この国会に政府は、◇日本とイギリスのEPA=経済連携協定の承認を求める議案や、◇新型コロナウイルスのワクチン確保などの法案の提出を検討している。

政府が臨時国会冒頭の解散に踏み切らない限り、◇菅首相の所信表明演説と◇各党の代表質問が行われる。続いて◇内閣が交代したので、新首相の所信を質す予算委員会が衆参両院で開かれる。その上で、◇個別の法案審議に入っていくので、協定の承認や法案の成立までには、通常1か月程度はかかる。

さらに政府内では、秋篠宮さまが皇位継承順位1位の「皇嗣」になられたことを内外に伝える「立皇嗣の礼」について、新型コロナウイルスの感染状況次第では11月中旬以降に行う見方が出ており、具体的な日程の検討が進んでいる。

このように10月から11月一杯は、国会日程や皇室の重要日程で固まりつつあり、衆院解散・総選挙の日程を設定するのは困難とみられる。

 菅首相の判断基準 コロナ優先

衆議院の解散・総選挙を断行するか否かは、最終的には首相の判断になる。菅首相はどう考えているのか。

自民党総裁選への立候補の表明から、新総裁就任、さらには新首相の就任までの一連の発言を聞いてみても、菅首相の考え方はほぼ一貫している。

菅首相は、9月16日新内閣発足後最初の記者会見では、次のようにのべている。「新しい内閣に国民が期待していることは、新型コロナ感染を早く収束させ、経済を立て直すことだ。その上で、時間的制約も視野に入れて考える」。

要は「感染収束と経済再生」という判断基準を明確にしている。早期解散を期待する自民党議員にとっては、高いハードルだ。

解散問題については、自民党の野田聖子幹事長代行と、山口選挙対策委員長が「コロナ対策と菅内閣の政策実現が最優先だ。国民から評価された時点で、菅総理が判断されると思う」と早期解散説の火消しを始めた点も注目している。

野田氏は二階幹事長と相談していると思われるし、山口氏は菅首相と当選同期で抜擢された関係にあり、首相の意向を確認した上での発言だと思う。

 政権の実績重ね、信を問う戦略

菅首相の政権運営は、安倍政権の路線を継承しながら、携帯電話料金の値下げやデジタル庁の創設などの独自色を打ち出そうとしているのが特徴だ。

特に看板政策のデジタル庁は、全閣僚をメンバーとする会議を開き、年末には基本方針を決定、年明けの通常国会に必要な法案を提出する考えを打ち出した。

新内閣の顔ぶれも新入閣を少なく抑え、再任や閣僚経験者を各派から幅広く起用することで、仕事の実績を上げようとするねらいが読み取れる。

さらには、来年に延期された東京オリンピック・パラリンピックについては、IOC=国際オリンピック委員会のバッハ会長と電話会談し「歴史的な大会」になるよう緊密に協力していくことを確認した。バッハ会長は、大会開催に強い意欲を示しており、10月下旬に来日、菅首相と会談する見通しだ。

このように菅政権は、総裁任期1年を念頭に急ピッチで、政権の実績を積み重ねるとともに、東京五輪も成功させ、自民党総裁選と衆議院選挙を乗り切るのを基本戦略にしているとみられる。

このため、衆院解散・総選挙は、年末解散や年明け解散ではなく、来年秋の任期満了に近い時期までを視野に入れての対応を考えていると推察している。

 解散・世論慎重、自民に早期解散論

こうした菅首相の考え方は、世論の受け止め方と基本的に一致している。NHKの9月世論調査で、解散・総選挙の時期については◇年内は15%、◇来年前半が14%、◇来年10月の任期満了かそれに近い時期が58%で圧倒的多数だ。

これに対して、自民党内では、若手議員を中心に早期解散に期待する声が強い。今後、自民党内の主要派閥から、早期解散を求める圧力が強まるかどうかを見極める必要がある。自民党独自の選挙情勢調査で、自民優勢となれば、解散・総選挙に一気に動く可能性も残っているからだ。

自民党のベテランに解散風の見通しを聞いてみた。「次の解散・総選挙は、コロナ感染に十分すぎるほど気を配る必要がある。一部で早期解散と騒いでいるが、万一、自民党陣営の選挙事務所から感染者が出たら、世論の風向きは一変する。菅首相は、選挙大好き人間だが、世論の動向には敏感、解散には極めて慎重に対応するのではないか」と指摘。

「コロナ激変時代」をどのように乗り越えていくのか。菅首相をはじめとする政府・与党と野党の双方が、真正面から議論を戦わせてもらいたい。

特に衆参150人が結集した野党第1党の新「立憲民主党」、それに提案型政党をめざす新「国民民主党」も結成された。どんな対立軸を打ち出していくのか。

私たち国民の側も与野党の論戦にしっかり耳を傾け、1票の行使に備えたい。

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菅政治とは ”改革・実利提供型政治” 

安倍長期政権が幕を閉じたのを受けて登場した菅新政権は、23日に発足から1週間,本格的に動き出している。報道各社の世論調査では、菅内閣の支持率は60%台後半から70%台前半の高い支持を得て、滑り出しは順調に見える。

そこで、菅政治とは何か、どんな特徴があるのか。また、これからの政権の課題・問題は何か考えてみたい。

 ”改革・政治主導、実利提供型政治”

さっそく、菅政治の特徴から見ていきたい。自民党総裁選から、第99代首相に選ばれ、就任後最初の記者会見までの発言を聞くと、次のような点が挙げられる。

◆安倍首相の突然の病気退陣を受けて首相就任になったことから、「安倍政権の路線の継承と前進」を打ち出したこと。

◆また、自らの政治経歴について「秋田の農家の長男に生まれ、ゼロからの出発だった」として、世襲ではなく、政治家の秘書、市議会議員、国会議員へと歩んできた”たたき上げの政治家”をアピール。

◆その上で、今の政治・行政には「国民感覚から大きくかけ離れた、当たり前でないことが数多く残っている」として、「行政の縦割り、既得権益、悪しき前例主義を打ち破って、規制改革に全力を上げる」と政権担当の決意を表明した。

◆そして、具体的な課題として◇携帯電話料金の値下げをはじめ、◇出産を希望する世帯を幅広く支援し、不妊治療への保険適用、◇”縦割り110番の新設”、◇デジタル庁の新設などの新機軸を矢継ぎ早に打ち出している。

前任の安倍首相は、アベノミクスをはじめ、地方創生、1億総活躍、女性活躍、全世代型社会といった看板政策を次々に打ち出した。

これに対し、菅首相は派手な看板は避け「国民目線の改革と政治主導」をめざしている。官房長官時代も官僚と議論を徹底して行い、方向性を打ち出してきた。こうして採用された政策を見ると、携帯電話料金値下げに代表されるように暮らしの利益になる「実利提供型の政治」に菅政治の大きな特徴があるとみている。

 世論の反応、高支持率でスタート

さて、菅政権の対応について、世論の評価はどうか。報道各社が9月に実施した世論調査をみると次のようになっている。

◇毎日新聞 支持64%:不支持27%、◇共同通信 支持66%:不支持16%、◇朝日新聞 支持65%:不支持13%、◇日経新聞 支持74%:不支持17%、◇読売新聞 支持74%:不支持14%。

支持率に幅はあるが、概ね「60%台後半から70%台前半」で、歴代内閣の中でも高い水準にある。

その理由だが、菅新政権が「安倍政権の政策や路線を引き継ぐ方針」を評価する受け止め方が多い。また、コロナ感染が収まらない中で、政治の混乱は避けたいとの判断が読み取れる。さらに、国民生活に利益をもたらす改革路線を歓迎しているようにみえる。

 コロナ感染拡大を抑えられるか

こうした一方で、世論の高支持率がいつまでも続くとは限らない。当面、最大の問題は、コロナ感染を抑えることができるか。

実利提供型政治といっても、土台となる感染拡大を抑制できなければ、生活や事業そのものが台なしになるからだ。

その感染対策、安倍首相が8月末の最後の記者会見で、1日当たりの検査20万件への拡充、医療提供体制の整備など方針を打ち出した。

後継の菅政権としては、特に秋から冬場にかけてコロナ感染とインフルエンザの同時流行・ツインデミックへの備えを早急に整えること。スピード感のある体制づくりが問われている。

 社会経済活動との両立メドは

もう一つの懸案が、感染抑制と社会経済活動との両立が、本当にできるのかどうか。

このところ収入が減少し当面の生活費を国から借りる制度の貸付件数が急増している。年末に向けて、雇用・失業情勢の悪化、事業の廃止や倒産の増加などが心配されている。

雇用調整助成金の延長をはじめ、持続化給付金、家賃支援などこれまでの対策で乗り切れるのか。追加の経済対策を打ち出すのか。焦点の成長戦略の中身として、何を中心にすえるのか、肝心の経済政策の柱がはっきりしない。

つまり、菅政治の特徴である携帯料金の値下げなど個別の政策は出されているが、経済政策の軸が明確ではない。また、個別の改革を積み重ねてどんな経済・社会をめざすのか将来像も示されていない。

 負の遺産と政治の信頼回復

さらに、安倍政権の路線の継承は、政権運営面では安定感をもたらす効果がある一方で、森友、加計、桜を見る会、河井前法相夫妻の選挙違反事件など一連の政治不信を招いた”負の遺産”も引き継ぐマイナス要因も抱え込むことになる。

桜を見る会に関連しては、ジャパンライフの山口隆祥元会長が、菅政権発足直後の18日、巨額詐欺容疑で逮捕された。野党側は、安倍首相主催の桜を見る会に招待状が出されていた経緯を再調査するよう要求している。政府側は応じない方針だが、秋の臨時国会で再び与野党の攻防の焦点になる見通しだ。

このように見てくると、菅政権の内閣支持率は高いものの、コロナ対策、日本経済の立て直し、政治不信の払拭などの難問が数多く待ち受けている。

 年内早期解散、世論の強い反発も

こうした中で、菅新政権がこの秋、衆議院の解散・総選挙に踏み切るのかどうか政局の焦点になっている。

自民党内では、内閣支持率とともに自民党の支持率も上昇していることから、早期の解散・総選挙に踏み切るべきだという意見が一段と強まっている。

これに対して、菅首相は、国民の関心はコロナ対策にあるとして、早期の解散・総選挙には慎重な姿勢を示している。

早期解散は、野党の選挙準備が遅れているので有利だが、最大のポイントは、世論の反応がどうなるかだ。報道各社の世論調査でも年内解散の賛成は少数派で、来年秋の任期満了まで急ぐ必要はないというのが、国民多数の意見だ。

自民党総裁選の党員投票はコロナ感染を理由に省略しながら、衆院選挙は有利だから急ぐといった「ご都合主義」、「党利党略」に対する強意反発を招く可能性があるのではないか。加えて、選挙中に再び感染拡大となれば、与党の選挙戦は総崩れすることになるのではないか。

菅首相が最終的にどのような決断を下すのか。選挙戦に勝利して本格政権への道を切り開くのか。それとも党利党略批判を浴びて敗退・短命政権で終わるのか、年内解散は両刃の剣と言えそうだ。

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