菅氏圧勝 派閥主導の総裁選び

安倍首相の後任を選ぶ自民党総裁選挙は14日投開票が行われ、本命の菅官房長官が圧勝、新しい総裁に選出された。

菅新総裁は、就任後最初の記者会見に臨み「国民のために働く内閣を作っていきたい」と述べ、新型コロナ対策と経済再生に全力を挙げる考えを強調した。焦点の衆院解散・総選挙については、コロナの収束が見通せない限り難しいと慎重な姿勢を示した。

今回の総裁選の結果をどのように見るか。菅新政権は何をめざしているのか、どんなハードルが待ち受けているのか探ってみる。

 菅氏圧勝の背景 派閥全面支援

総裁選の投票結果は、議員票と各都道府県連に3票ずつ割り振った地方票の合計で、◇菅官房長官が377票で、得票率71%。◇岸田政調会長が89票、17%。◇石破元幹事長が68票、13%となり、菅氏が圧勝した。

菅氏圧勝は予想通りだが、背景としては、党内7派閥のうち5つの派閥が相次いで支持に回ったことが大きい。その結果、国会議員票の73%、圧倒的多数を獲得した。小選挙区制の導入で党執行部の権限が強まり、各派閥とも主流派入りしたい思惑が働いたものとみられる。

地方票は、菅氏が63%を獲得、全国各地で幅広い支持を得た。支持する国会議員が自らの支持党員に働きかけた他、安倍首相の病気による辞任表明で”弔い選挙”に似た様相になり、安倍路線の継承を掲げた菅氏へ追い風になった。

さらに、これまで政治家の2世・3世、世襲議員の総理・総裁が続いてきたことから、地方出身で”たたき上げ”の菅氏に党員の期待が集まった面もある。

閣僚経験のある議員に感想を聞くと「これほど緊張感のない総裁選は初めてだ。2000年小渕首相が緊急入院、5人組が後継総裁候補を決めた時に比べても緊張感は乏しかった」。

別のベテラン議員は「今回の派閥の動きを見ていると、金丸信さん登場かと錯覚、昭和の古い総裁選びを思い出した」と話すなど今回の党員投票の省略や、派閥主導の総裁選びの在り方は問題が多いとの受け止め方は根強い。

 石破、岸田両氏の今後は?

次に、敗れた岸田氏、石破氏の今後はどうなるか。

岸田氏は、石破氏に21票差をつけて2位の座を確保。岸田氏は地方票は10票しか獲得できなかったが、議員票で79票を獲得。岸田派は47人と無派閥の5人が基礎票とみられるので、20数票が積み上がった勘定になる。この票はどこから、どんなねらいがあったのか、さまざなな憶測を呼びそうだ。

石破氏は、地方票では42票を獲得したが、議員票は26票に止まった。派閥19人と無派閥など5人の合計24人が基礎票。4回目の挑戦は、今回も主流派に完全に封じ込められた形だ。

新総裁の任期は、安倍前総裁の残り任期の1年。来年9月の総裁選は、2位の岸田氏が残ったとの受け止め方が政界では強い。但し、石破氏も地方票で30%を獲得、なお挑戦の足がかりは残っているとの見方もある。

 菅新総裁「国民のために働く内閣」

菅新総裁は14日夕方の記者会見で、◇新政権の政治姿勢について「国民のために働く内閣、信頼される内閣をめざす」と強調した。

◇内閣改造・自民党役員人事については「総理大臣が代わるので、私の政策の方向性に沿った、改革意欲のある人を思いきって起用する」とのべ、閣僚の大幅な入れ替えを行いたい考えを示した。一方、二階幹事長、麻生副総理については、続投させたいとの考えを示唆した。

◇衆院の解散・総選挙については、「せっかく新総裁になったので、仕事をしたい。新型コロナウイルス問題を収束して欲しいということと、経済を再生させて欲しいというのが、国民の大きな声だ。専門家が完全に下火になってきたということでなければ、なかなか難しいのではないか」とのべ、早期の解散・総選挙には慎重な姿勢を示したのが印象に残った。

菅新総裁は、安倍前首相のように派手な看板政策を次々に打ち上げるよりも、当面は、コロナ対策や経済・暮らしの立て直しなどに一定の成果や道筋をつける。その上で、国民の信を問う堅実な政権運営をめざす戦略のように見える。

 新政権のハードル 人事と解散時期

その菅新政権の戦略が成功するかどうか。

まずは、自民党役員人事と組閣人事問題が待ち受けている。既に選挙後の人事をめぐって派閥の主導権争いが激しさを増している。派閥の思惑・圧力をはねのけて、菅新総裁の方針が貫徹できるかどうか。

また、秋から冬にかけてコロナウイルスの感染拡大と、インフルエンザの同時流行をいかに防いでいくか。そして、国民生活の安定と経済活動の本格的な再開との両立を図っていけるか、極めて難しい対応が試される。

さらに衆議院議員の任期満了まで残り1年。衆議院の解散・総選挙の時期をどう設定するか。自民党内には、内閣支持率や自民党支持率が上昇傾向にあるので、早期の年内解散を求める動きが強まりつつある。

これに対して、菅新総裁は慎重な姿勢を崩していない。この解散・総選挙をめぐる綱引きをどのように調整するか。無派閥の総理・総裁の新政権が、こうした多くのハードルを乗り越えることができるかどうか。まずは、今週行われる党役員と組閣人事で、一定の判断材料が示されることになる。

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新「立憲民主党」が問われるもの 

立憲民主党や国民民主党などが合流してつくる新党の代表選挙が10日に行われ、新しい代表に枝野幸男氏が選ばれた。新党の名称は、枝野氏が提案した「立憲民主党」に決まった。新「立憲民主党」は15日に結党大会を開く。

一方、政権与党の自民党では、ポスト安倍の総裁選挙が進行中で、菅官房長官が優位な情勢だ。14日の投開票で菅氏が新総裁に選出される見通しで、7年8か月ぶりに総理・総裁が交代する。

コロナウイルスの感染状況と国民生活・経済への影響がどうなるか。私たち国民の側も、政治の舵取りや与野党の動きをしっかり見ていく必要がある。

そこで、新たに結成された「立憲民主党」は、どんな意味や役割を持っているのか。何が問われているのか考えてみたい。

 野党第1党、100人台の規模達成

さっそく、新「立憲民主党」の意味から見ていくと、弱小野党のバラバラ状態が続いてきた中で、衆参100人規模の野党第1党にまとまった点が大きい。

新党の内訳は、従来の立憲民主党88人、国民民主党から40人、無所属21人、衆参合計で149人。100人を超える野党第1党が結成されるのは、3年前・2017年10月の民進党以来になる。

今の衆議院の選挙制度は、政権交代をめざす複数の政党が競い合う、政党本位の選挙が基本だ。

与党は、自民・公明の巨大与党。対する野党第1党が政権交代をめざすためには、衆議院で3ケタの野党勢力が必要とされてきた。今回、旧民進党の復活と揶揄されながらも合流で106人、ようやく政権交代に挑戦できる条件を満たしたことになる。緊張感のある選挙に近づくという点で、評価している。

 支持率4%台からの出発 乏しい存在感

さて、大きな野党が結成された言っても、その前途は極めて厳しい。まず、世論の支持が低く、存在感が乏しいからだ。

8月のNHK世論調査で政党支持率をみると◇立憲民主党4.2%、◇国民民主党0.7%、合計4.9%。共産、社民を加えた野党4党の合計でも7.8%に過ぎない。

これに対し、◇自民党36.8%、◇公明党3.2%。与党合計で40%。野党4党合計とは、5倍もの開きがある。

立憲民主党幹部に支持率の低さの理由を聞くと、民主党政権時代の失敗の影響を挙げる。しかし、それだけではない。立憲民主党は一時は10%台の支持を得た時もあったが、半分以下まで下落。国民民主党の支持率は最高でも1.5%と低迷が続いてきた。

このように”存在感”は極めて乏しい。この「現状」を十分、認識して再出発しないと新党の前途は開けない。

世論との関係で言えば、自民党を上回る”第1党”は、無党派層の43.3%。野党は、以前は選挙でこの層を大幅に取り込むことができていたが、最近は支持が広がらない。この無党派層のへ支持を広げることが、新党の大きな課題だ。

 コロナ激変時代、具体策で浮上も

今後の政治や政党のゆくえに大きな影響を及ぼすのが、コロナ問題だ。安倍首相が退陣に追い込まれたのも持病の悪化もあるが、コロナ対策が後手に回ったことが大きく影響している。

逆に言えば、政権や政党の側が新たな対策を打ち出し、効果が上げることができれば、世論の支持を大きく拡大する可能性がある。

今回の合流新党の代表選の論戦と、ほぼ同時に進んでいる自民党の総裁選の論戦を比較すると、どうか。私個人は、感染拡大防止については、合流新党の論戦で示された対応策の方が、具体的で説得力があるとの印象を受けた。例えば、PCR検査の拡充、保健所などの検査と医療体制の整備、地域を限定した休業要請と補償のセット論などだ。

これから年末に向けて、国民生活や経済の立て直しに向けて、政権与党とは異なる政策、対応策を打ち出せるかどうか。具体的には、代表選の議論で示された子育て・医療・教育などの公共サービスの拡充や、消費税や所得税減税などをどこまで説得力のある形で示せるか。具体的で有効な対応策を打ち出すことができれば、野党の存在が大きく浮上する可能性もある。

 衆院選挙 候補者1本化できるか

今回の合流は、近づく衆院解散・総選挙を乗り切るためのねらいが大きい。安倍長期政権の下で、野党は国政選挙6連敗中だ。

衆院選挙で反転攻勢ができるかどうか。そのためには、衆院の小選挙区で野党候補の1本化調整がどこまで進むかがカギを握っている。

野党は、前回、前々回の衆院選挙も安倍首相に不意打ちの形の解散を仕掛けられて大敗したが、根本は候補者擁立・選挙準備が遅れていたことが大きい。今回も289の小選挙区のうち、野党第1党が候補者を擁立できていない「空白区」は90近くにのぼる。

一方で、合流新党に参加しなかったメンバーが新「国民民主党」を結成する。れいわ新選組も独自候補の擁立を進めている。さらに共産党は多くの小選挙区で独自候補を擁立する。野党候補の乱立を防いで、与党と1対1の対決の構図に持ち込めるか。野党第1党の役割として、候補者の1本化調整ができるのかどうかが問われている。

このほか、新党は足下の党内融和が進むのかどうか、15日の結党大会に向けて、新たな執行部体制の人事を控えている。このように枝野「立憲民主党」は内外に多くの課題・難問を抱えており、新代表としての手腕・力量が試されることになる。

最後になるが、政権与党の自民党内では、新政権発足の勢いに乗って早期の年内解散を求める空気が強まっている。今後、自民・公明の与党間の綱引き、与野党の駆け引きが一段と激しくなりそうだ。

私たち有権者の側からみると次の解散・総選挙は、7年8か月に及ぶ安倍長期政権の終焉、新型コロナ危機の中で、国民生活や経済をどのように立て直していくのかを選択する選挙にする必要がある。

そのためには、政党の側が、設計図や構想を示して議論した上で、国民に信を問うプロセスが極めて重要だ。”党利党略”の動きには鉄槌を下し、与野党の徹底した論戦に耳を傾ける。その上で、私たちが自ら判断・選択できる政治を粘り強く求めていきたいと考える。

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“たたき上げ”優勢 ” 世襲エリート”苦戦 自民総裁選

安倍首相の後任を選ぶ自民党総裁選挙は、8日午前10時から立候補の届け出が行われた後、14日の投開票日に向けて選挙戦に入る。

選挙結果の見通しをベテラン議員に聞くと「幕が開く前に芝居は終わった」と冷めた口調で語る。岸田政調会長、石破元幹事長、菅官房長官の三つ巴だが、派閥の応援で菅官房長官優勢は変わらないとの見方が強い。

なぜ、菅官房長官が優勢なのか。総理・総裁の座をめぐる権力闘争、しかも安倍最長政権の後継争いでは、さまざまな要因が考えられるが、突き詰めていくと候補者の特性、政治家の資質や能力の問題に突き当たる。

そこで、今回は「政治家の特性」に焦点をあてながら、総裁選のゆくえを分析してみたい。

 ”世襲エリート” 対 ”たたき上げ”

安倍首相の後継総裁選びをめぐっては、石破元幹事長と岸田政調会長の2人が有力候補として先行する形が続いてきた。

石破元幹事長は、報道各社の世論調査で「次の総理候補」のトップを走ってきた。父親は官僚出身の参議院議員、自治大臣や鳥取県知事を務め、田中角栄元総理とは昵懇の間柄。石破氏は慶応高校、慶応大学法学部から旧三井銀行に入った後、父親の死去を契機に政界入り。28歳で衆議院議員に初当選、防衛相や自民党幹事長などの要職を歴任、総裁選に既に3度挑戦した63歳のベテラン政治家だ。

岸田政調会長は、父親が元通産官僚の衆院議員で、自民党の経理局長などを務めた。祖父も衆院議員の3代目。東京で著名な開成高校から、早稲田大学法学部を卒業、長期信用銀行入り。1993年の衆院選で初当選、安倍首相と同期。池田勇人元総理を筆頭に4人の宰相を生んだ名門派閥、宏池会の会長も務める。安倍首相が後継を託す候補とみられてきた63歳のエリート候補。

これに対して、安倍首相の突然の辞任表明後、電光石火登場したのが菅官房長官。政界ではいずれ手を挙げるとの見方が続いてきたが、本人は「考えていません」と否定してきた。

菅氏は「平成」からの改元で「令和おじさん」として有名だが、それまでは地味で、安倍政権を裏で支える番頭、「権力の管理人」的存在だった。立候補表明で自ら語ったように秋田県の農家の長男。団塊の世代で、地元の湯沢高校を卒業した後、上京。小さな会社で働きながら法政大学を卒業。代議士秘書から横浜市議を経て、1996年衆院選で初当選した苦労人。旧竹下派、宏池会を経て無派閥で活動中に安倍首相と意気投合、第1次安倍政権の総務相から政権を支えている。

このように今回の総裁選は、2人の”世襲エリート”vs”たたき上げ”の構図だ。

 ”情報・人・カネ”集中ポストの強み

それでは、この”たたき上げ”候補が、なぜ、”世襲エリート”候補に対して圧倒する勢いを持ち込めているのかという点だ。

旧知の政界関係者に話を聞くと「今回の総裁選びとその後の政局を考えると、菅氏が官房長官という主要ポストを7年8か月独占してきた意味と重み。この点を考えることが最大のポイントだ」と指摘する。

確かに、官房長官といえば、各省庁の政策などの調整に始まって、政権に関係するありとあらゆる出来事を処理する。安倍1強と言われ、しかも憲政史上最長を記録した政権の要役を務めてきた。

平たく言えば、”情報、人、カネ”を集中して扱ってきた「政権の管理人」。カネといえば、領収書なしで扱える内閣機密費の威力を指摘する関係者も多い。

安倍首相の辞任表明の翌日、菅氏は二階幹事長らと密かに会談。二階幹事長はいち早く菅支持を打ち出し、岸田・石破両氏の派閥を除く5つの派閥が雪崩を打って菅支持へと続いた。二階幹事長とのふだんの付き合いの深さもうかがえた。

その二階幹事長は、総裁選の日程調整の一任を受けて、コロナ対応が続く中で、政治空白は許されないとして、党員投票を省略することで党内をとりまとめた。この結果、国会議員票の比重が高まり、この点も菅氏有利に働く形になった。

菅氏はこの10年近く無派閥で活動し、一見すると有力派閥が仕切る総裁選は不利に見える。しかし、異例の長期にわたって官房長官を続けており、この強みを最大限生かして、総裁選を乗り切ろうとしていることが読み取れる。

”排除の包囲網” ”選挙の顔に弱さ”

これに対して、石破氏率いる派閥は、所属議員19人という小世帯。地方票に強い石破氏にとっては、本格的な党員投票がなくなったことは、大きな痛手だ。安倍首相や麻生副首相は、後継総裁ポストに石破氏が就くことに反対の意向とされ、石破氏は、主要派閥による”排除の包囲網”を突破できていない。

岸田氏は安倍長期政権のうち、4年7か月を外相、続いて党の政調会長として支えてきた。岸田氏は、安倍・麻生両氏の支援に基づく3派体制で、政権を獲得する戦略とみられてきた。しかし、党内では、岸田氏は発信力が弱く、次の衆院選を戦う選挙の顔として弱いとの評価を打ち消すことができなかった。結局、安倍首相や麻生副総理は、後継の本命を次善の菅氏に乗り換える形になった。

菅氏のしたたかな戦略と行動力に比べて、岸田氏、石破氏ともに政権獲得への準備や体制づくりへの詰めが甘いとの指摘が聞かれる。2人は1年後の総裁選もにらんで、激しい2位争いを繰り広げているが、どうなるか。

   負の遺産、コロナ対策など難問

総裁選は14日の投開票日に向けて、国会議員票と、各都道府県連に3票ずつ割り振られた党員票をめぐる戦いが本格化するが、菅氏優勢は動きそうにない。

また、報道各社の世論調査で、安倍内閣や自民党の支持率が上昇。3人の総裁候補の中では、安倍路線の継承を掲げる菅氏の支持が最も高い。このため、菅氏が後継の総理・総裁に選ばれた場合、ご祝儀相場も重なり、短期的には高い支持率が予想される。

一方、菅氏にとって問題は、安倍政権の継承は、政権の負の遺産も引き継ぐことにもなる。森友、加計、桜を見る会、公文書の改ざんなど一連の不祥事をどのように払拭し、政治・行政の信頼回復にどうつなげるか、大きな課題を抱え込む。

また、国民の最大の関心は、コロナ対策だ。安倍政権の対応は後手に回ってきた。年末に向けて国民生活や中小事業者の経営、日本経済全体をどのように立て直していくのか、政権の継承だけでは、乗り切りは難しいとの見方も根強い。

このほか、来年秋の任期満了まで1年に迫った衆院選挙。自民党内からは、早期解散論も聞かれるが、コロナ感染が収束できていない段階では、世論の猛反発も予想される。

このように菅官房長官は総裁選では勝利に大きく近づいているが、新政権スタートと同時に、待ったなしの難問が数多く待ち構えている。最初のハードルが、組閣と自民党役員人事、政権の体制づくりが順調に運ぶかどうか、新しい総理・総裁の手腕がさっそく試される。

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”政権 番頭役” 浮上の背景 自民総裁選

安倍首相の後任を選ぶ自民党総裁選挙は、岸田政務調査会長と石破元幹事長が9月1日、正式に立候補を表明したのに続いて、2日夕方には菅官房長官が立候補を表明する運びになっている。総裁選は、この3人で争う構図になった。

一方、今回の総裁選挙では、党員投票を行わないことが決まり、国会議員票・派閥の影響力が強まることになった。

立候補する3人のうち、菅官房長官を推すのは、二階派に続いて、第2派閥の麻生派、最大派閥の細田派が相次いで支持を表明し、無派閥の議員グループなども支持することから、菅官房長官が優位に立っている。岸田政調会長や石破元幹事長は厳しい状況に追い込まれている。

”政権の番頭役”である菅官房長官が浮上した背景には何があるのか。各派閥の支持・不支持の現状は現役記者諸氏に任せて、ここでは少し長いスパンで、さまざまな観点から分析してみたい。二階幹事長との連携をはじめ政権獲得への布石、緻密な計算に裏打ちされた戦術・戦略が読み取れる。

 菅氏支持が急拡大、圧倒的優位

今回の自民党総裁選の立候補の動きは、岸田政調会長と石破元幹事長が先行、菅官房長官が立候補に踏み切るのかどうかが焦点になっていた。

その菅官房長官は自らの態度を明らかにしない中で、8月29日夜、二階幹事長らと密かに会談、立候補の意向を伝えていたことが明らかになった。

この会談を受けて、二階幹事長は翌日には、自らの派閥の幹部に”菅支持”で派内をとりまとめるよう指示し、流れを作った。続いて、第2派閥の麻生派、安倍首相の出身派閥で最大派閥の細田派も支持を表明。さらに無派閥の議員グループの支持も合わせ、菅氏が圧倒的な優位に立っている。

 菅氏浮上の背景 派閥の調整力低下

そこで、菅官房長官が浮上した背景には、どういった事情があるのか、見ていきたい。

第1に「安倍首相の出身派閥や側近の調整機能」が働かなかったことが、逆に菅氏に有利に働いた。具体的にはどういうことか。

現職首相の病気退陣としては、池田勇人元総理の例が知られている。出身派閥・宏池会の幹部の前尾繁三郎、大平正芳両氏が中心になって、医師に頼んで病名の発表の仕方から、副総裁・幹事長などへの根回し、後継指名の段取りまで進めたと言われる。

今回とは時代も違うが、安倍首相の場合、周辺には一切相談せず1人で決断したとされる。仮に相談しようとしても、今の派閥にはかつてのような力はなく、調整役を任せられる信頼できる人材はいなかったのではないか。調整役が存在していれば、逆に派閥優先、菅氏への後継は回ってこなかったかもしれない。

また、菅氏自身も官房長官を7年8か月も務めてきたが、安倍首相の出身派閥には属しておらず、無派閥だ。派閥継承も含めた調整役を依頼されるような立ち場になく、フリーな立ち場にいたことが、立候補する場合は制約が少なく判断しやすい状況にあった。

 「令和」発表、政権担当にも意欲か

第2に菅官房長官が、将来の政権担当を意識したのは、いつ頃だろうか。

菅氏自身は「ポスト安倍は全く考えていません」と繰り返してきた。これは私個人の見方だが、菅官房長官は「平成」から「令和」への改元を発表し、知名度を急激に上げた。これが、その後の政治行動に大きな影響を及ぼしたのではないかとみている。

また、改元を発表した直後、去年5月の連休には、総理官邸の留守番役である官房長官が異例のアメリカ訪問、沖縄基地問題や北朝鮮の拉致問題について米側と協議した。政界関係者の一部には「安倍首相の専門領域の外交にも踏み込み、将来の政権担当に意欲をのぞかせた」と驚きの受け止め方があった。

 安倍・麻生連合vs二階・菅連合

第3に菅官房長官が政権内で力を増したのはいつか。去年秋の内閣改造・自民党役員人事がきっかけになったのではないか。幹事長人事をめぐって、安倍首相が岸田氏を起用しようとしたのに対し、菅氏が二階幹事長の再任を進言。結局、二階氏が続投、「二階・菅連合」ともいえる深い関係が結ばれた。

安倍政権は、安倍首相を麻生副総理が支える構造になっているのに対して、二階・菅連合は、政権中枢とは一線を画して、硬軟両様でポスト安倍に備える構えを着々と進めることになったとみることができる。

底流には、安倍・麻生の有力政治家の家系に対して、二階・菅両氏は地方出身、秘書出身の”たたき上げ”という共通項で結ばれた強固な関係とも言える。

 ”行司と力士役” あうんの呼吸

第4に、今回の総裁選びでは、この強い連携が有効に機能した。二階幹事長は総裁選の日程づくりなどの一任を受けた”行司役”。党員・党友投票を行うかどうかも判断し、日程案をとりまとめる。

一方、菅氏は官房長官を務めながら、候補者として土俵に上がり力士になる可能性もある。その両者が、安倍首相の辞任表明翌日の夜に会談、菅氏は立候補の意向を伝えたといわれる。

党と政府の責任者の日程調整とみることもできるが、”行司役が特定の力士”と会うこと自体、異例だ。この評価はいったん横に置いて、両者があうんの呼吸で会談したことが党内に広がり、菅支持を他の派閥に急速に広げた。

 ”石破封じ込め、本命乗り換え”説

外観すると、政界で取り沙汰されてきた”政局シナリオ”の再現との印象を持つ。安倍首相の総裁任期切れが近づく中で、どのような政局が予想できるか。

①任期満了まで続投、②衆院解散の断行、③任期途中のサプライズ辞任と後継指名で影響力の確保。今回は、3番目のケースの変形とみることもできる。

今回は◆安倍首相の突然の辞任表明のサプライズ。◆政治空白を生まないとの大義名分に党員投票なし。その心は、国会議員中心の選挙に持ち込み。”石破封じ込め”の思惑。◆さらに安倍後継の本命は、当初は岸田政調会長。世論の支持が高まらない中、衆院解散時期も近づく。不本意ながら、別の選択肢・菅官房長官への乗り換えとみることもできる。

 党員投票なしは、政権短命リスクも

さて、総裁選挙のゆくえを左右する選挙方式については、9月1日の総務会で、党員投票は行わず、両院議員総会で選出することを決めた。国会議員票394票と、47都道府県連に3票ずつ割り振られた141票の合計535票で争われることになった。

党内の若手議員や地方の県連からは、党員の意見を聞く開かれた総裁選にすべきだとの要請が相次いだが、執行部は早急に新体制を確立する必要があるとして、両院議員総会方式で押し切った。

今回と同じように現職首相が任期途中で辞任したケースは、第1次安倍政権の後継の福田首相が選ばれたとき。その後の麻生首相を選んだ際も、両院議員総会方式だった。しかし、どちらも1年で退陣・交代に追い込まれた。

国民に近い党員・党友の意見を聞いたり、国民に向けて本格的な政策論争を展開したりしないと、新政権の求心力は高まらない。選出を急いだ結果、後で大きな代償を払う結果になった。「危機の際のリーダー選び」が問われているのに、そうした発想で対応できないのが、今の自民党の大きな問題だ。

 コロナ激変時代、政策論争は?

以上、総裁選の勝敗面に焦点を当てて、選挙情勢を分析してきた。但し、立候補の表明は始まったばかりで、本命の菅氏の立候補表明は2日夕方になる。さらに告示は8日、投開票は14日とまだ先が長い。

国民の多くは、政権与党・自民党の総裁選挙、各候補者はどんな政治をめざしているのか、政策論争をきちんとやってもらいたいと期待している。

コロナ激変時代、感染拡大防止と、戦後最悪の落ち込みになっている日本経済の立て直し、家計の収入や雇用の不安定な中で、国民生活を守り抜くための具体的な対策や構想をどのように考えているのか。特に、安倍政権の継承を掲げる本命の菅氏は、継承と同時に、問題点の見直しや方針転換まで踏み込めるのか。

一方、米中対立が激化する中で、外交・安全保障の整備をどう進めていくのか。党員・国民が知りたい点に応える論戦は掘り下げて行ってもらいたい。

(9月1日までの動き・情報に基づいて執筆。新たな展開などありましたら、随時、このブログでご報告します)

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突然の辞任表明の衝撃 安倍首相

安倍首相が28日、首相を辞任する意向を表明した。持病の潰瘍性大腸炎が再発し、職務の遂行に自信を持って対応できないと判断したためだ。

政界の一部には、安倍首相の連続在職期間が歴代最長になる24日以降、辞任を表明するのではないかとの見方が出されていたのも事実だ。私は、安倍首相が進退を判断するのは、もう少し先になるのではないかと見ていたので、今回の突然の辞任表明には正直、驚いた。

安倍政権は第1次と第2次合わせて8年8か月の長期政権であり、今、コロナウイルスとの戦いの真っ最中だけに、今回の突然の辞任表明の影響は極めて大きい。

一方、政治の世界はいったん動き出すと、変化のスピードは速い。後継の総理・総裁選びに早くも焦点が移っている。そこで、後継選びでは、どんな問題を抱えているのかみておきたい。

 突然の幕引きをどう評価するか

本論に入る前に、今回の安倍首相の突然の幕引きをどう見るか。1つは、第1次安倍政権に続いて、今回も持病の悪化で退陣することになり、政権投げ出しの繰り返しだと厳しい批判が出ている。

これに対して、別の見方は、第1次政権の辞任は秋の臨時国会が召集された直後、しかも首相の所信表明演説に対する代表質問当日の辞意表明だった。今回は、秋以降の政治日程が幕を開ける前の辞意表明で、第1次政権の時とは明らかに異なるとの見方もある。

安倍首相は記者会見で◇今年6月の定期検診で持病の潰瘍性大腸炎の再発の兆候が見られるとの指摘を受けた。◇先月中頃から体調に異変が生じ、今月上旬に再発が確認された。◇体力が万全でない中では、政治判断を誤る。国民の負託に、自信を持って応えられる状況でなくなった以上、総理大臣の地位にあり続けるべきでないと判断したと説明した。

総理大臣として悩みに悩んだ末の判断であり、重い決断として、国民も受け入れていいのではないかと私は考える。安倍政権は、政権運営の期間では憲政史上最長を記録したが、コロナパンデミックの直撃を受け、有効な対応策を打ち出せなかったことが退陣に大きく影響したとみている。

 危機のリーダー選びの考え方

本論に入って、今回の後継の総理・総裁選びは、コロナ危機の中でのリーダー選びになる。自民党は28日の臨時役員会で、安倍首相の後任を選ぶ総裁選挙のあり方や日程について、二階幹事長に一任することを確認した。そして、来月1日に開く総務会で正式に決定する方向で調整を進めることになった。

危機の時のリーダー選びは難しい。1980年に現職の大平正芳首相が急死した時は衆参同時選挙の最中だったため、官房長官の伊東正義氏が首相臨時代理を務め乗り切った。

2000年、現職の小渕恵三首相が突然の入院後、死去した際には、自民党5役が中心になって後継選びが進められ、後継に森喜朗幹事長の流れが固まった。そして総裁選挙は実施されず、両院議員総会で自民党総裁に選出されたが、森首相は、後に密室で「5人組」に選ばれたとの批判を浴びた。

危機の際には、政治日程は確保しにくいが、党則などのルールに基づいて公正に選ばないと、後に党員や国民の不信を招き、大きな代償を支払うことになる。

 開かれた論争ができる総裁選びを

今回はどうなるか。自民党の総裁選びは「国会議員による投票」と全国の党員などによる「党員投票」の合計で選ぶのが基本だ。国会議員だけでなく、本格的な党員投票を行う仕組みだ。

もう1つが、任期途中で総理大臣が辞任するなど緊急の場合は、両院議員総会で、国会議員と、都道府県連の代表各3人ずつが投票を行って選出する方法がある。

この2つの方法をめぐっては「党員投票」が行われる場合には、ある候補が有利になるといった見方や、逆に「国会議員投票」中心の場合は、多くの派閥の支援が見込まれる別の候補が有利になるといったことが、既に取り沙汰されている。

それだけに、どちらの方式を採用するのか慎重な検討が必要だ。コロナ危機の中で短期間で終えるためには、国会議員中心の方がいいという意見が予想される。

これに対して、今回は安倍首相が後継総裁が決まるまで継続できるので、一定の選挙期間が確保できる。危機の時ほど党員の声を反映させることが重要だとして、期間を短縮するなど工夫をしながら、党員投票を行った方がいいとの意見も出されそうだ。

いずれにしても、開かれた総裁選にするためには、可能な限り党員の声を反映させること。また、各候補がどんな政策・政治をめざすのか活発な議論を行ってもらいたい。まずは、どちらの方式で総裁選びが行われるのか、大きな注目点だ。

このほか、誰が名乗りを挙げるのか。石破元幹事長や岸田政務調査会長が意欲をにじませているほか、菅官房長官を推す声もある。さらには、中堅・若手議員も立候補に意欲を持っており、総裁選びは活発になりそうだ。

今回のポスト安倍の後継総裁選びが、どこまで国民の関心や支持を集めるのか。次の衆院解散・総選挙の時期などにも大きな影響を及ぼすことになる。

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最長政権と健康不安説のゆくえ

安倍首相の連続在職期間が8月24日で2799日を迎え、佐藤栄作元首相を抜いて、歴代最長を記録した。

同じ24日、安倍首相は17日に続いて、都内の慶応大学病院を訪れ、追加の健康検診を受けた。政界では、持病が悪化しているのではないかとの健康不安説が一気に広がり、一部には退陣説も取り沙汰される状況だ。

7年8か月に及ぶ長期政権と首相の健康不安説、それに難問のコロナ感染拡大という危機を抱えて、これからの政権・政治はどう動くのか。どこがポイントになるのか探ってみたい。

 “早期の劇的政変なし”の公算

安倍首相は24日午前、慶応大学病院を訪れた後、総理大臣官邸に入る前、記者団のぶら下がり取材に応じた。「きょうは先週の検査結果を詳しく伺い、追加的な検査を行った。健康管理に万全を期して、これから仕事を頑張りたい」。

検査結果の詳細は明らかにしなかったが、これによって、一部で取り沙汰されていたような早期の辞職・退陣などは全く考えていないことを表明。このため、早期の劇的な政変の可能性は低いとみられる。

 今後の政局展開、3つのケース

それでは、安倍政権のゆくえ、どんな展開になるのか。3つのケースを頭に入れておくとわかりやすい。

◆1つは、先に触れた「早期退陣」のケース。但し、この可能性は低いとみる。

◆2つ目は、「来年9月の自民党総裁任期満了まで」のケース。安倍首相はこれまで総裁任期一杯、全力投球する考えを強調してきた。

◆3つ目が、この中間で「今年秋以降、来年前半頃までの退陣」。健康問題の他、内外の政治課題の対応によっては、政権が行き詰まり途中退陣もありうる。

具体的には、◇健康問題で気力・体力が持つかどうか。あるいは◇東京五輪・パラリンピックの来年開催ができないような場合は、その政治責任を取る形で退陣もありうるとの見方も出ている。

 支持率低下 後継選び”カオス状態”

今の安倍政権を見ていると歴代最長政権だが、コロナ感染拡大の直撃を受けて、内閣支持率は34%と第2次政権発足以来、最低水準まで下落。不支持は47%で、不支持が支持を上回る「逆転状態」が4か月連続と危機的な状況に陥っている。(データはNHK世論調査)

自民党の閣僚経験者に聞くと懸念しているのは、安倍首相の自民党総裁任期と、衆議院議員の任期満了が1年余りに迫っているのに、根本問題である「ポスト安倍の後継総裁選び」や「衆院解散・総選挙の時期」が固まらないことだという。

そのポスト安倍の後継選びについては、自民党内では有力候補として、石破元幹事長、岸田政調会長に加えて、菅官房長官の名前も急浮上。さらに安倍首相の出身派閥やその他の派閥からも意欲的な候補者が取り沙汰され、カオス・混沌状態になっている。

これに加えて「安倍首相の健康問題」が重なる。以前は、政権が危機的な場合、派閥の領袖や党役員の実力者が水面下で、事態打開に動いて収拾を図る局面が見られた。今の安倍政権ではそのような調整役は見当たらないのが、逆に大きな問題点だと指摘する声も聞かれる。

 安倍首相 国民に所信表明を

さて、私たち国民はどう考えるか。国民の多くは、政権・政治に期待する最大の問題は、コロナウイルス感染拡大に歯止めをかけるとともに、年末に向けて雇用や事業倒産などへの備えを急いでもらいたいということではないか。また、アメリカ大統領選挙や米中対立の激化など外交面の課題も待ったなしだ。

そうした点を考えると、まずは、政権を担当している安倍首相が当面の諸問題について、早急に所信を表明してはどうか。国民も心配をしている健康問題をはじめ、コロナ対策、今後の政権運営などについての考えを明らかにするところから始めてもらいたいと考える。

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「合流新党」をどう見るか?野党第1党の役割

国民民主党が19日、党を解党した上で立憲民主党との合流新党を結成する方針を決めた。これによって、衆参両院で150人前後の「合流新党」が来月結成される見通しだ。

新党の評価は、立ち場によって大きく異なるが、ここでは選ぶ側・有権者側からどう見たらいいのか考えてみたい。

最初に私の基本的な立ち場を説明させてもらうと政治が機能するためには、政権与党とともに「しっかりした野党」が必要だと考える。

また、特にコロナ激変時代は「政権与党と野党側との緊張感のある議論と競い合い」の中から、日本の進路を見いだしていく粘り強い作業が必要だと考える。

 合流新党の意味「100人の壁」突破

その上で、新党合流をどうみるか。新党の規模から見ておくと、国民新党からの合流組と残留組との調整が続いているため、最終的に固まっていないが、合流組が勢いがあり、多数を占める見通しだ。

また、野田元首相や岡田元副総理ら衆議院の無所属議員およそ20人も参加するので、新党の規模は無所属議員を含めて衆参両院で150人前後になると見られている。これは4年前に結成された「民進党」、民主党の流れを汲む政党の規模に匹敵する。

つまり、政権から下野した後、バラバラになった旧民主党勢力を再結集する形になる。また、政権への再挑戦という観点では、衆院選挙に向けて100人台の勢力を結集、「100人の壁」を突破するという意味を持っている。民主党が政権を獲得した2009年衆院選での公示前勢力は115議席。自民党が政権復帰を果たした2018年の勢力も118議席だった。

このため、合流新党の評価としては、巨大与党の自民・公明両党に対して、100人台の野党第1党が誕生、基盤整備にこぎつけたという意味が大きいと言える。

 国民の期待感は乏しいのでは?

一方、合流新党の課題・問題としては、有権者・選ぶ側の期待感が乏しいという点にあるのではないかと見ている。

今回の立憲民主党と国民民主党との合流は、さかのぼると去年秋の臨時国会で両党を中心にした国会内の統一会派結成から進められてきた。ところが、去年暮れ、両党代表のトップ会談を繰り返したが合意に至らず、破談。この夏、再び復縁協議に入り、ようやく分党の形にすることで、なんとか合流にこぎつけた。

国民の側からすれば、新党の理念や政策などに触れる機会はほとんどなく、端的に言えば、「政党レベルの業界内再編」と受け止められているのではないか。

4年前・2016年3月、当時の民主党と維新の党が合流して結成された「民進党」の評価が参考になる。NHK世論調査では、◆「期待する」25%、◆「期待しない」70%。保守層も含むので、高い水準は予想されないが、それでも本来は、支持を得る必要がある無党派層でも「評価しない」は72%、ほぼ同じ比率だった。今回もおそらく、同様の傾向になるのではないかと見ている。

 何を目指す政党か? 新党の旗は

さて、今回の合流新党に関連して、知人から、野党の復活は可能か。国民の支持を得られる新党の必要条件は何かといった質問を受けた。

新党と世論の関係は、古くから共通の流れがあり、最大勢力の無党派層の反応は「魅力ある新党ができれば、支持する」との答えが多い。今も無党派層が多いということは、魅力ある新党ができていないとも言える。

立憲民主党、国民民主党の政党支持率を8月の世論調査で見ると次のようになっている。◆立憲民主党4.2%。◆国民民主党0.7%。最も支持が高かった時の支持率は立憲民主党が10.2%。国民民主党が1.5%。両党とも半分以上、支持率を減らしている。また、◆自民党の35.5%、◆無党派層の43.3%に比べると大幅に低い。(データは、NHK世論調査)

両党とも結党時に比べて、明らかに魅力度は低下している。合流をめぐって、両党は角突き合わせるよりも、魅力度を高めるにはどうするかという発想が必要。また、小異にこだわらず、合意を拡大する対応ができれば道は開けたと思うが、当事者に聞くと、どうしても過去の経緯や怨念などは拭いがたいものがあるという。

結論を急げば、合流新党に必要な条件は「何をめざす新党か」、政党の旗印を打ち出すことではないか。その中には、政党の理念や、政治路線、主要政策、リーダーの魅力なども含む。ところが、今回の合流では、こうした点の議論やアピールは決定的に不足しており、今後の大きな課題・問題として残されている。

 難しい新党の評価、最後は選挙!

ここで話が少し脱線するが、新党の評価、実は「難しい」と感じることが多い。というのは、新党が結成されても長続きしないケースが多かったからだ。新党が政治の表舞台に盛んに登場するようになったのは、1993年に自民党が分裂、自民1党優位時代が崩れ、細川連立政権が誕生した頃からだ。

その後、巨大野党・新進党の結成と解党、民主党への合流から政権交代実現まで新党の結成、離合集散が相次いだ。およそ30の新党が誕生しては消滅した。現役の解説委員時代、”きょうは〇〇党、あすは△△党の解党大会。来週は新党の結成大会”といった日々が続いたことを思い出す。

さらに数年前には、結成時に人気急上昇、直後の選挙は大敗となった新党もあった。解説、講演などでも取り上げたが、振り返ってみると、的確な評価ができていなかったと反省するケースも多かった。

新党の評価は、最終的には、選挙で有権者からどのような評価を受けるか。「選挙で最終的に決まる」。逆に言えば、選挙結果が出るまで、じっくり見極める必要があるというのが結論だ。

 合流新党、選挙の備えと結集力

本論に戻って、野党第1党の合流新党は、どんな役割が問われているのか。これまで見てきたように「何をする新党かの旗印」を明確にすることがある。

それに加えて、野党第1党として「野党全体をとりまとめる力」が問われる。安倍政権は国政選挙で連戦連勝、6連勝中だ。不意打ちのような衆院解散があったのも事実だが、政治の世界、野党側に選挙準備ができていないのも問題とも言える。特に衆議院の小選挙区では、事前に選挙の勝敗予測、選挙結果が予測できるところが多く、野党の選挙準備不足、その責任は大きいと考える。

任期満了まで1年2か月に迫った次の衆議院選挙に、与野党はどのように臨むのか。巨大与党の自民、公明両党の対応は現職議員が多数を占めているので、わかりやすい。

これに対して、野党陣営は見通せないところも多い。例えば、合流新党と、玉木氏らが結成する新党との関係はどうなるのか。

両党の関係が順調なケース。逆に対立が深まり、玉木氏らの新党と維新の会の連携、あるいは、れいわ新選組と組むことも予想される。新勢力の登場で野党陣営が分裂、共倒れ。政治用語で「スポイラー・エフェクト」、いわゆる”票割れ効果”といった事態も起こりうる。

このため、野党第1党は、自らの党の勢力だけでなく、今の選挙制度の下では、野党全体の連携・結集、候補者擁立の調整を行える力があるかどうか。具体的には、立憲民主党の枝野代表の力量、柔軟性、他党を包み込む度量が問われるのではないか。合流新党と他の野党との関係を見極めていく必要がある。

次の衆議院選挙は、コロナ激変時代の最初の国政選挙になる。政権与党と野党側の双方とも、これからの国民生活のあり方や日本社会の将来目標を打ち出して、有権者が選択する選挙にしていくことができるかどうか、大きな責任を負っている。

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手詰まり 安倍政権のコロナ対策

お盆休みの期間に入ったが、新型コロナウイルスの感染拡大が収まらない。7日の全国の感染者数は1600人を超え、過去最多を更新している。感染急増の地方では危機感を強め、愛知、岐阜、三重、沖縄の各県などでは独自の緊急事態や警戒宣言を出すなどの対応に追われている。

政府の分科会は7日、感染状況を判断するため、新たに6つの指標を示した。医療のひっ迫状況などの具体的な指標を示すことで、国や都道府県に感染の深刻度を判断する目安にしてもらうのがねらいだ。

そこで、この指標を活用してどのような対策が打ち出されるのかだが、政府は指標に縛られて、再び緊急事態宣言を出すような事態は避けたいのが本音だ。それでは、政府の感染防止対策は順調に進んでいるかといえば、そのようには見えない。

今の安倍政権の対応を見ていると感染拡大を前に”打つ手なし、思考停止、手詰まり状態”に陥っているようにみえる。安倍政権のコロナ対策はどこに問題があり、どんな対策が必要なのか探ってみる。

 安倍政権 実態把握に弱点

安倍政権のコロナ対策をみていると問題点の1つは「実態把握に弱点」があることだ。

具体的な例を挙げると「感染者情報の収集・分析」。全国の感染者数をはじめ、PCR検査の実施件数、陽性者の割合、入退院者、死亡者などの情報を正確に収集・把握できなければ、効果的な対策は打てない。

東京をはじめ全国各地の感染者数が毎日発表されるが、日によって大きな違いがある。これは、なぜか。PCR検査で陽性とされた人の情報は、保健所に集められ、都道府県、厚生労働省へ報告・集計される。このうち、PCR検査の結果判明には数日かかる。加えて、報告はFAXや電話などを使ったアナログ対応だ。報告漏れや重複計上などミスも多い。東京都の場合、これまで123人分を訂正しているという。はっきり言えば、これまでのデータは必ずしも正確ではないということだ。

このため、厚生労働省は感染者の情報を一元的に管理するシステムづくりを始め、ようやく8月に入って運用を開始した。「ハーシス・HER-SYS」という新しいシステムで、厚生労働省と、保健所が設置されている全国155の自治体や医療機関などをインターネットで結び、感染者情報を共有する仕組みだ。

多忙な保健所のデータの入力体制や個人情報の取り扱いなどの問題を抱えているが、ともかく、ようやく基本情報の収集体制は整ったことになる。

国内で最初の感染者が確認されたのが1月16日。政府の対策本部の設置が1月30日、基本情報の収集体制づくりに半年もかかったことになる。政府は骨太方針に「デジタル社会の加速」を打ち出したが、足下では情報の収集態勢すらできていないのが実状だ。コロナ情報の収集・管理システムの整備を急ぐ必要がある。

 PCR検査 目標設定し加速を

次に、各地の知事や市長などの話を聞くと、困っているのが、PCR検査の問題だ。当初、日本は医療従事者や試薬などの準備が十分でなかったこともあり、PCR検査の対象を絞ってきた。しかし、その後、感染者数が急増しているのに、検査の拡充が遅れ、検査能力に比べて実際の検査件数が増えないと批判は強い。

これに対して、厚生労働省は7日、PCR検査能力は1日あたり5万200件まで可能になったと説明。4月時点では1万件、5月2万200件、7月3万1000件だったので、かなり改善されている。9月末までには、最大7万2000件余りを確保できるという見通しだという。

知事や有識者の側は、こうした取り組みは評価しながらも、自粛や休業要請の繰り返しや国民の不安が強く残ったままでは、経済の本格的な回復は見込めないとして、政府は「積極的な感染防止戦略」を明確に打ち出すように求めている。

具体的には、PCR検査は「9月末までに1日10万件」、インフルエンザの流行にも備えるため「11月末までに20万件」の検査能力を確保することなどを求めている。政府は検査能力の整備も進んでいるので、こうした数値目標を採用してはどうか。その際、簡便な抗原検査などを含めて検査体制の拡充計画を示してもらいたい。

 対策の全体像と工程表、説明が必要

政府のコロナ対応をみていると、7月末から感染者が全国で1000人を突破するようになり、地方の側は危機感を募らせ、独自の緊急事態宣言や警戒宣言などを出しているのに対して、政府側の取り組みは極めて鈍い。

菅官房長官や西村担当相も連日、記者会見を行っているが、「感染防止と経済活動の両立をめざす」「Go Toトラベルは予定通り」「緊急事態宣言を再び出す状況にはない」などと規定方針の繰り返しが続く。

国民の側が知りたいのは、感染防止と経済活動の両立を目指す方針は理解するが、それなら、感染防止と経済活動再開に向けて具体的に何をするのか、それぞれ「対策の中身と全体像」を明らかにして欲しいということだ。

また、冬場のインフルエンザの流行期まで残された時間はあまりない。PCR検査の拡充をどのようなペースで進めるのか。医療提供機関の準備や経営悪化にどう対応するのか。中小事業者の事業継続や、休業中の労働者の雇用対策をどのように進めるのか。時期のメドと合わせた「工程表」の形で打ち出すべきではないか。

さらに、安倍政権の対応、国民への説明が極めて不十分だ。安倍首相がまとまった記者会見を行ったのは6月18日、それ以降は行っていない。8月6日、広島原爆の日に現地で記者会見を行ったが、15分という限られた会見だった。

国会は既に6月から夏休み状態、霞が関もお盆休みに入る。野党は臨時国会を早期に召集するよう求めているが、与党側は10月まで応じない構えだ。

国民の側は、お盆の帰省や旅行を取り止めたり、子どもの短い夏休みが終わった後の新学期の準備などにも思いをめぐらせている。

新型コロナウイルスの感染状況や医療・検査現場の態勢も日々変化している。安倍政権はこの夏以降、コロナ危機をどのように乗り切る考えなのか。できるだけ早く国民に向けた記者会見を行い、対策を明らかにする責任があると考える。

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“コロナ危機音痴” 秋の解散・総選挙説

若い現役記者時代、「あの政治家は政策通だが、”政局音痴”だ」とか、「博学、無能な人」など失礼な政治談義を同僚と交わしていた時期があった。

当時は”切った張ったの権力抗争”に関心が集中し、内外の情勢や国民生活の動向に思いが至らず、ついつい”鈍感な思考”に陥っていたことに後に気づかされた。

政界では秋の解散説、具体的には9月解散・10月下旬選挙説が盛んに流されている。

新型コロナ感染拡大が続く中で、秋の解散をどう見るか。端的に言えば、感染危機への”音痴”、鈍感な政局観というのが、私個人の率直な見方だ。その理由、背景を以下、ご説明したい。

 秋の早期解散説、消去法の発想

秋の衆院解散・総選挙説は、安倍首相が9月に内閣改造・自民党役員人事を行った後、衆院を解散、10月総選挙を断行するのではないかとの見方だ。

幾つかのねらいがあるが、一番の根拠は、今後の政治日程を考えるとこの時期しかないという「消去法」に基づく。つまり、今の衆議院議員は来年10月に任期満了だが、与党は追い込まれ解散を避けたい。来年に持ち越すと7月に東京都議会議員の任期が満了になり、公明党が嫌がる。だから、今年の秋解散しかない。

別の思惑を指摘する声もある。「自民党総裁選びを有利に運びたい思惑」。関係者によると今の情勢のままだと次の総裁は、安倍首相と麻生総理が最も嫌がる候補者が勝利する可能性がある。それを阻止するためには、早期解散を断行、後継選びの主導権を確保したいとの説も聞こえてくる。

さらに今の野党が相手なら、議席をかなり減らしても与党過半数は維持できるとの判断。政権交代の恐れはまったく眼中にない。

 コロナ戦略、五輪対応が欠落

では、こうした早期の解散説をどう見るか。今は、コロナ感染症の拡大が続く危機の時代、世界も日本もどのように感染拡大を防ぐか。また、コロナ対応に伴う大変革を迫られる時代だ。

秋の解散・総選挙説の一番の問題は、こうした「コロナ危機への対応・戦略」の視点が欠落している点だ。むしろ、冬場のコロナ感染が深刻化する前に解散した方が有利といった「党利党略」、現職議員の「個利個略」が透けて見えるから嘆かわしい。

また、延期された「東京五輪・パラリンピックの開催」への視点もみられない。世界の感染状況が最終的なカギを握るが、それ以前に日本国内の感染を収束させておく必要がある。

そして来年の開催は本当に可能か。IOCなどの調整が、秋以降に本格化する。その時期に1か月程度の政治空白が生じるが、その点の考慮はみられない。

さらに、安倍首相は解散断行の意思を固めたのか、その前提として来年秋の総裁4選、続投の意思を固めたのか、確認したのとの情報は聞かれない。

政界では、早期解散論は根強いが、根本問題である「コロナ危機」と「東京五輪」への対応、ハードルを乗り越えていく戦略・発想がない。

こうした中で、7月29日には全国の1日あたりの新たな感染者数が、初めて1000人を超えた。唯一感染者ゼロが続いていた岩手県でも感染者が確認された。

仮に衆議院が解散された後、感染の第2波、第3波が広がれば選挙を直撃、劇的な結果を招く可能性もある。このため、現実論者の安倍首相は、早期解散に踏み切る確率は低いのではないかと個人的にはみている。

 コロナ大変革時代、構想と政策を

それでは、国民の側は、衆議院の解散・総選挙をいつ行うべきだと考えているのだろうか。今の衆議院議員の任期は来年10月までなので、向こう1年3か月以内には確実に衆議院選挙が行われる。

NHKの7月の世論調査では、◆年内が19%、◆来年前半が18%、◆来年10月の任期満了かそれに近い時期が50%となっている。

このデータから読み取れることは、早期解散・年内選挙を望む意見は2割にも達していないこと。多くの国民は、来年の任期満了かそれに近い時期に行うべきだと考えていることがわかる。

こうした背景としては、政権与党、野党双方に対して、最大の関心事である新型コロナ感染対策と、国民生活・日本経済をどのように立て直していくのか、政権構想と具体的な政策をとりまとめ、その上で、解散・総選挙を行うべきだと考えていることがうかがえる。

例えば、全国の感染者の情報、具体的には、PCR検査、陽性者の比率、入院状況などの正確な情報を一元的に管理できる仕組みは未だにできあがっていない。厚生労働省が自治体、保健所、病院などを結んでネットで集計するシステムの整備を進めているが、本格的な運用に至っていない。

特別措置法に基づく国と地方自治体の役割と権限の分担、さらに保健所や地域医療の体制整備も遅れている。

また、年末に向けて中小企業や個人事業主などの経営悪化や倒産、失業者の増加、生活保護世帯の大幅増加などが懸念されている。

さらに感染防止と経済活動再開のバランス、今後の日本社会・経済の立て直しに向けた中長期的な構想も示されていない。先に政府がまとめた骨太方針でも新味のある政策はほとんど盛り込まれていない。

こうした現状を考えると、国民にとっては、秋の早期解散は何の意義もない。政権与党、野党とも、ここは腰を落ち着けて、コロナ大激変時代をどのように乗り切っていくのか、それぞれの政権構想、政策の中身を磨き、国民に信を問うことを考えるのが政治の王道だと思う。

万一、早期解散、党利党略の解散・総選挙になった場合は、有権者が主役、「鉄槌」を下せるチャンスととらえ、判断すればいいと考える。

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迷走再び 安倍政権のコロナ対応

来年に延期された東京五輪の開幕まで1年を切った。一方、安倍首相の自民党総裁としての任期や、今の衆院議員の任期満了も来年秋までと近づきつつある。

しかし、東京五輪は本当に開催できるのか。衆院解散・総選挙の時期はどうなるのか。主要な政治日程がまったく見通せない。新型コロナ感染がいつ収束できるのか見通しがつかないからだ。

そのコロナ問題、安倍政権の対応が再び迷走を始めたようにみえる。

◆1つは、感染の再拡大防止に有効な具体策を打ち出せていないのではないか。

◆もう1つは、感染防止と経済活動再開の両立をめざしているが、両者のバランスがとれず、主要な政策や対応にブレが目立つこと。

◆さらに、政権の危機管理の前提となる感染状況の実態把握。そのための情報収集の仕組みづくりにも遅れが目立っている。

こうした状況で、果たして第2波、第3波へ対応できるのだろうか。最近の世論調査では「感染拡大に不安を感じている」と答えた人の割合が9割に達している。そこで、国民生活だけでなく、今後の政局にも大きな影響を及ぼすコロナ感染問題と政権の対応のあり方について考えてみる。

 感染再拡大の兆し 対応策は?

まず、新型コロナの感染状況について、東京を例にみておきたい。6月19日に全国都道府県の移動が解禁になった頃は、1日当たり30人台から60人台に収まっていた。ところが、7月に入ると100人台まで急増したのに続いて、7月9日には200人台、16日以降は200人台後半、23日に366人と初めて300人台へと急上昇した。

一方、全国でも7月下旬には、神奈川、埼玉、愛知、大阪、福岡などの各地で感染者が急増、23日には全国の感染者数が930人と過去最多、1000人に迫る勢いを示した。

これに対して、東京都は、感染者の増加は夜の街関係者を中心にPCR検査を積極的に増やしている影響が大きいと説明してきた。また、政府は、経済への打撃を考慮して、緊急事態宣言を再び出す考えはないと強調してきた。

これに対して、政府や東京都の専門家組織の関係者からは、積極的PCR検査の影響はあるが、若い世代や感染経路の不明者も増えており、市中感染のおそれもあると指摘している。

また、東京都の場合、PCR検査の内訳、夜の街関係者などの実施件数や陽性率など1日ごとの詳しいデータが明らかにされていない。このため、正確なデータに基づいて感染状況が把握されているのかどうか疑問という指摘もなされている。

さらに、東京都が強調するように、夜の街関係者の感染が増えているのであれば、そうした地域や職種などに重点を置いた検査や対策、例えば、休業要請や夜の営業時間短縮などの要請はできないのか。その際、政府と東京都が協議の上、一定の休業補償を行うなどの対策を打ち出す必要があるのではないか。

 安倍政権 主要政策・対応にブレ

2つ目は、安倍政権の主要政策や対応にブレが目立つ。例えば、7月22日から始まった観光支援キャンペーン、Go Toトラベルの対応だ。

当初は、8月初めから実施すると説明してきたが、7月10日になって連休前からの実施に前倒しする方針を打ち出した。ところが、東京などで感染者が急増したため、全国一斉から「東京除外」へ方針転換。さらにキャンセル料も国が負担する方針に変えるなど対応にブレが目立ち、波乱のスタートになった。

このGo Toトラベル、観光産業の大きな影響を考えると支援の必要性は十分、理解できる。但し、問題は税金を使った大型イベントであり、経済効果をあげるためにはタイミングが重要だ。また、感染拡大が収まった後に実施するのが、基本ではないか。

全国知事会などからは、県内観光や近隣地域の観光からスタートし、段階的に全国規模に拡大する案が提案されていた。あるいは、お土産や飲食を支援するクーポン券発行が始まる9月実施案。さらには、予定通り実施する場合は、東京だけでなく埼玉、神奈川、千葉も加えた1都3県を除外する案も出されていた。

1都3県案でなく、東京だけの除外案で決着したのはなぜか。関係者によると「因縁の菅官房長官と小池知事との対立が影響している」との見方を示すが、国の事業であり、”双方の怨念”は横に置いて公平・公正に対応してもらわないと困る。

この問題は「感染拡大防止と、経済活動再開の両立のバランス」をどうとるかがポイントなる。政府の対応は、感染防止の具体策が乏しいので、経済優先の形になる。このバランス・基本方針を修正しないと、政権と世論の距離はさらに広がっていくのではないか。

未知のウイルスとの戦いなので、政府が一旦決めた方針を変更するのは、やむを得ない。重要なのは、政策決定の過程をできるだけ明らかにすること。また、方針を変更する場合、国民に率直に説明し国民に理解を求める姿勢が、特に危機対応の場合に必要だ。安倍首相は、6月の国会閉会時に記者会見を行って以降は1か月余り経つが、記者会見を行っていない。

 危機管理 実態把握能力に弱さ

最後に安倍政権の感染症対策、危機管理の対応をみていると「実態把握に問題」があるのではないかと思う。

具体的な例をあげると、PCR検査を受けた人の名前や、検査結果、陽性になった割合など感染症の情報を把握するシステムが、未だに確立していない点だ。このシステムは厚生労働省が進めている「HER-SYS ハーシス」と呼ばれており、国と自治体、医療機関が感染者などの情報を共有する仕組みだ。

5月末から運用を開始したが、7月22日の時点で、保健所が設置されている全国155自治体のうち、東京と大阪のおよそ30の自治体で利用されていないという。この背景には、東京都と区との関係、個人情報の取り扱いについての考え方の違いが影響しているといわれる。

PCR検査の実施件数や、陽性者数などのとりまとめにあたっては、保健所などから、未だにFAXや電話で報告するケースもあるという。公表される数値が後で、修正されることも起きている。

国内で最初に感染者が確認されたのが1月16日、政府の対策本部が設置されたのが1月30日。既に半年も経っているのに、感染情報がリアルタイムで把握できる仕組みができあがっていない点に驚かされる。

政府が先に決定した今年の「骨太方針」の目玉の政策は、ウイズコロナ時代の「デジタル化への集中投資」。デジタル政府構想などを打ち出している。ところが、足下では喫緊の感染症データの収集・管理が十分できていないのが実態だ。

PCR検査の実際の件数が増えず、安倍首相が「目詰まり」が生じていると嘆いたのも、現場の体制や運用が十分、機能していないためだ。問題点が明らかになっているのに改善が中々、進まない状況が続いている。

 第2波への備え、記者会見で説明を

安倍首相は24日夜、記者団に対し、感染拡大への対応について、再び緊急事態宣言を出す状況にはないとした上で、検査能力を強化することで万全を期す考えを示した。

これに対して、世論調査でみると国民の側は、今後の感染拡大の不安を感じていると受け止めている人が9割にも達している。

国民の側が知りたいのは、感染防止と経済活動再開のバランスをどのようにとっていくのか。国民生活や経済の立て直しに向けて、何を重点に取り組んでいくのかといった点だと思われる。

政府の対応は、端的に言えば”思考停止状態”にもみえる。安倍首相は、早急に記者会見を開いて、政府の考え方を説明する必要があると考える。

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