揺らぐ政権の看板政策 Go Toトラベル

政府は観光需要を喚起するための「Go Toトラベル」の事業について、全国一律実施から、東京発着を除く方針に転換し、7月22日から実施する見通しだ。

こうした方針をどう見るか。東京は過去最多の感染者数、「東京除外は、仕方がない」との受け止め方。あるいは「感染拡大が収まった後にすべき」との受け止め方に分かれるのではないか。刻々と状況が変わるコロナ感染症の下で、重要な政策を決定しなければならない難しさがある。

私個人の見方は、東京を除外した結果、この事業の「制度設計の複雑さ」が一段と増し、感染拡大防止と需要喚起の両面で、効果が減少するのではないかと心配している。

もう1つは、政策論とは別に、菅官房長官と小池東京都知事との対立が大きく影響したのではないか、舞台裏事情と双方の問題意識に関心がある。

安倍政権の看板政策である「Go Toトラベル」事業、大きく揺らいでいるように見えるが、この事業の問題点と背景、今後のあり方を考えてみたい。

 「東京除外」制度設計が複雑化

今回のGo Toトラベル事業で、東京発着の旅行と東京都民1400万人を除いた意味からみておくと、除外理由は、東京での感染拡大を全国に広げないためということになる。それなりの理由ではある。

その上で、次の問題は、東京に続いて、神奈川県や埼玉県でも感染者が拡大しており、神奈川県では独自のアラート警戒宣言を発する段階にまで至っている。東京に限定せず、隣接県を含めた「首都圏」として対象にした方が適切という考え方も成り立つのではないか。

また、大阪など関西圏も拡大した場合、どうするのかといった問題もある。要は「除外の線引きとその基準」をスタートまでにはっきりさせる必要がある。

次に、東京除外の場合、一番の問題は「制度設計が複雑化」することがある。地方から、東京の羽田空港を利用して、千葉県のデイズニーランドに行くのは対象になるが、途中で東京観光の日程が入っていてはダメなどクイズのようなやりとりが話題になると、制度の先行きは危うい。

また、旅行現場では、事業を見越して予約をしていた利用客のキャンセルが相次いでいるという。こうしたキャンセルについては、政府はキャンセル料の補償はしない方針だ。また、宿泊先では、東京以外の宿泊客であることを確認するため、運転免許証や健康保険証による本人確認も必要になる。

さらに感染拡大を防止するため、高齢者や若者の団体は旅行を控えてもらうよう呼びかける方針だ。制度が複雑になり、制約が多くなる。

 感染防止と経済活動のバランス

この問題、突き詰めると感染防止と、経済活動再開とのバランスをどうとるかの問題になる。感染防止を重視すれば、実施時期を遅らせ、クーポン券が利用できる9月実施にした方がいいという案も聞いた。一方、それでは、観光事業関係者は経営や生活が成り立たないとの反論も出てくる。

こうした難しさを抱えているが、個人的には、今回のコロナ感染症の特性を考えると「感染防止により比重」を置いて考えざるをえないのではないか。1兆3500億円の巨額な税金を使う事業は、タイミングを慎重に考える必要がある。観光事業者などの救済策は別の方法で対策を実施するのが妥当ではないかと考える。

そこで、今回の政府案、国民の理解と支持が得られるかどうか。コロナ感染が収まらない中での政策の決定は、想定外のことが起こりうる。方針変更、軌道修正はやむを得ない。その場合、問題点などを率直で、正直に説明することが重要だ。今回の政府案は、どうも小手先の対応、説明も十分とは言えないのではないか。

コロナ対策では、世帯向け現金30万円給付案が制度が複雑でわかりにくく、1人10万円給付案に転換した例もある。制度設計の中身をもう一度、総点検し、改善すべき点は思い切って大幅に改善した方が、混乱が小さく抑えられると考える。

 菅 小池両氏の対立と論点

最後に、もう1つの関心事項。菅官房長官と、東京都の小池知事との関係。菅官房長官は今月13日、訪問先の北海道で、東京でコロナ感染者が急増している問題をとらえて「この問題は、圧倒的に『東京問題』」と鋭く指摘。

小池知事は直ちに反応、「政府はGo Toキャンペーンとの整合性をどうとっていくのか『むしろ国の問題だ』」と反撃、消費喚起策と感染防止策との整合性をどのようにとるのか国が示すべきだとの認識を示した。

この両氏の関係は、4年前の東京都知事選の候補者選びや、東京の税収問題などで対立が続いてきた。今回の問題でも、両氏の対立が影響したとみるのが自然だろう。

問題は、政府と東京都とが対立しているばかりでは、問題の解決・前進につながらない。両者の対立点を覆い隠して繕うより、問題点・論点をはっきりさせて調整した方が生産的だ。

具体的には、東京の感染症対策で、兼ねてから感染者数、PCR検査数、ベッドの確保数など検査・医療情報が正確・迅速に把握されていないのではないかとの指摘が出されていた。また、夜の街の対策については、地域を限定して具体策に踏み込むべきではないかなどの考え方も出されている。

おそらく菅官房長官は、こうした点を踏まえて、東京都は有効な対策を打ち出していないと言いたかったのではないかと推察する。対する小池知事は、それなら知事が休業要請した場合の休業補償など財政的な支援を検討してもらいたいと言いたいのではないか。

これからのコロナ対策、法律の不備な点など論点は多数あるが、まずは、現実の問題、国と地方自治体がお互いの主張をぶつけ合い、調整していくことが最も必要だ。今回のGo Toキャンペーンの制度設計、コロナ対策をめぐる国と地方自治体の権限と財源のあり方について、両氏が激しくやり合った上で、一定の合意点を明らかにしてもらいたい。

 感染防止、経済の体系的な説明を

安倍政権のこのところの対応をみると、緊急事態宣言解除後、感染拡大と、Go Toトラベルを含む経済活動再開の基本方針をどうするのか、問題点の整理と方針が明らかになっていないと感じる。

安倍首相の記者会見も、通常国会閉会時以降、1か月になるが、行われていない。ここは、安倍首相が記者会見を開いて、感染拡大防止と経済活動再開について、総合的体系的な政権の考え方を明らかにすることを要望したい。

警告
警告
警告
警告

警告。

 

 

安倍首相の任命・説明責任! 河井前法相夫妻 買収事件 

去年夏の参議院選挙をめぐり、河井克行前法相と妻の案里参議院議員が選挙違反の買収の罪で、8日起訴された。河井夫妻は、地元議員などおよそ100人に票の取りまとめを依頼し、現金およそ2900万円余りを配ったと検察当局はみている。

法務大臣経験者が、大規模な買収事件で逮捕・起訴されるのは前代未聞。国会議員の夫婦がそろって逮捕・起訴されるのも初めてだ。さらには、これほど大量の現金が、100人もの地元有力者などにばらまかれていたことにも驚かされる。

河井夫妻が関係する政党支部には、自民党本部から破格の1億5000万円もの資金が提供されていた。この資金提供の方針を誰が決定したのか、買収の資金はどこから調達されたのかなどは、はっきりしていない。

一方、この事件は、新型コロナ対策で迷走が続いている安倍政権を直撃、国民の政治不信を招き、内閣支持率急落の要因の1つにもなっている。

今回の事件の意味や背景、それに政治のあり方を考えてみたい。次の衆議院選挙は1年3か月以内には行われる。

 買収 ”最も悪質な選挙犯罪”

選挙の買収は、選挙違反の中でも最も悪質な選挙犯罪だ。物品の提供で、本来、自由で公正であるべき選挙、民主主義の基本ルールを歪め、侵害するからだ。

また、自民党には党則に基づいて「自民党規律規約」が規定されている。「党員が汚職、選挙違反事犯により起訴されたときは、党員資格の停止の処分」を行う。そして、禁固以上の有罪判決が確定したときは、除名処分を行うと規定されている。

河井夫婦は、逮捕直前に離党したので、対象から外れたが、党員のままであれば、最も重い「除名」の重い処分の可能性があったことになる。

 政治改革に逆行、政治劣化現象

次に今回の事件の意味はどうか。昭和、平成を通じて、政治とカネの問題、政治改革を積み重ねてきたが、今回の事件は、こうした政治改革に逆行、台無しにしたと言える。

私ごとで恐縮だが、昭和のロッキード事件、リクルート事件、平成の金丸副総裁事件などを政治の側から40年余り取材を続けてきた。不十分との批判もあるが、政治腐敗の根絶をめざして、選挙制度の改革、政党助成金の導入などの改革を積み重ねてきたのも事実だ。これらの改革では、主に政治家や政党へのカネの入り口の改善をめざしてきた。

というのは、選挙の買収などは、明るい選挙などの国民運動で改善が浸透してきたこともあったからだ。

ところが、今回の事件は一昔前にタイムスリップした観がある。参議院選挙の選挙違反事件の推移をみてみると◆昭和25年・1950年と、昭和37年・1962年は、1万2000件台もあったが、◆昭和49年・74年は5200件、その後は急減し、最近は100件台までに減っている。

つまり、選挙買収は、”一昔前の古典的違反”とみられていたのが、今回、醜悪な姿をよみがえらせたとの印象を受ける。このところの”政治劣化現象”とも言えるのではないか。

 政権与党との関係・責任問題

さて、今回の事件をみていると政権与党の責任は、極めて大きいと考える。まず、政治資金の提供の問題。自民党本部から、河井前法相と案里議員の支部宛てに、参議院選挙前に1億5000万円が振り込まれている。別の候補者の10倍にあたる破格の資金提供が行われていた。

買収資金の原資の詳しい内訳は明らかではないが、党本部からの資金の一部が買収資金に回った可能性もある。また、この資金提供は、誰の判断で決定したのか執行部の1人に聞いてみてもわからないと話している。

現職と新人の保守分裂になった選挙で、案里氏の陣営は、自民党本部とのパイプの太さを強調し、選挙期間中、安倍首相や菅官房長官、二階幹事長らが応援にかけつけた。また、安倍首相の事務所の秘書も応援にたびたびかけつけ、地元議員や有力企業回りをしていた。このように、政権与党の関係と責任は大きい。

 安倍首相、政権与党の説明責任

河井克行前法相自身については、2012年に安倍首相が総裁選挙に再挑戦した際に推薦人になったのをはじめ、当選同期の菅官房長官を支える無派閥議員のグループを立ち上げたことでも知られる。自民党内では、こうした安倍首相や菅官房長官との深い関係が、去年秋の内閣改造での初入閣につながったとの見方が強い。

このようにみてくると、政権与党として、河井前法相夫妻への破格の資金提供を誰がどのような目的で決定したのか。また、この資金が選挙買収に回されたことはないのかどうかなど事実関係を明確にする必要がある。

また、河井氏を法相に起用したことの任命責任をどう考えるかなどについても国民に説明することが求められている。

安倍首相は8日夜、「かつて法相に任命した者として責任を痛感する。国民におわび申し上げる」と記者団にのべた。また、党が提供した1億5000万円について「裁判が予定される個別事件についてコメントは差し控えたい」とのべた。

国民の側が、こうした説明に納得するかどうか。報道各社の世論調査では、河井前法相夫妻は「議員辞職すべき」という意見が8割に達している。選挙買収、政治とカネの問題について、最低限、事実関係について明確な説明ができないと政権与党に対する信頼感は取り戻すのは難しいのではないか。

新型コロナ対策や今後の政権運営、さらには来年秋までには確実に行われる衆院解散・総選挙に向けても、大規模買収事件は政権にとって、大きな重荷になりそうだ。

警告
警告
警告
警告

警告。

 

小池知事”圧勝と重責” 東京都知事選

東京都知事選挙は、小池百合子知事が366万票を獲得して圧勝した。今回の知事選挙の勝敗のゆくえは、当初から小池氏優勢との見方が強かったが、新型コロナ感染を抱える中での大型選挙であることや、衆院解散・総選挙など今後の政局にどんな影響を及ぼすのかといった点なども注目された。

そこで、今回の選挙結果について、多角的に分析してみたい。最初に結論を明らかにしておくと、次のような点が指摘できる。

◆第1は、小池知事の勝因は「圧倒的な知名度」と「危機対応にあたる現職の強み」の発揮、それに主要政党が有力候補者を擁立できなかったことが大きい。

◆第2は、東京都民は選挙結果をどうみるか。小池知事に対しては、派手なパフォーマンスではなく、「問題解決能力」を強く求めることになるのではないか。具体的には、コロナ感染防止に効果のある対策を打ち出せるのかどうか、厳しくチェックしていく姿勢が強まるのではないか。

◆第3は、政局への影響。政権与党内では、危機の際には現職に有利に働くとして、早期解散を断行すべきとの「我田引水」の力学が強まることが予想される。一方、都政と国政とは異なるとの「スジ論」もあり、双方の綱引きが激しくなるのではないか。

◆第4は、「コロナ時代の選挙のあり方と改善策」の検討を進める必要がある。具体的には、”リモート選挙”は不可避だが、「選挙前の日常の政治情報の充実」を図る必要がある。

以上が私の個人的な見解だが、その理由・背景などを明らかにしていきたい。

 メデイア露出、危機の現職の強み

今回の首都決戦では、当初から現職の小池知事優勢との見方が出され、問題は「勝ち方」に注目が集まった。結果は、366万票余りで、得票率は59.7%。

前回・2016年の得票数は291万票、得票率は44.5%、いずれも上回った。歴代知事の最多得票数は、猪瀬直樹知事の433万票(2012年12月、投票率62.60%)。次いで、美濃部亮吉知事361万票(1971年4月、投票率72.36%)。石原慎太郎知事308万票(2003年4月、投票率44.94%)。小池氏は歴代2位、圧勝といっていい。

この勝因だが、元々、現職の2期目は知名度もあり強いと言われる。今回は特に3月は東京オリンピック・パラリンピックの開催延期問題で、安倍首相と連携しながら調整に参画し注目を集めた。

また、コロナ感染の拡大では、国に先駆けて休業要請や独自の協力金支給を打ち上げ、「危機対応にあたる知事の存在感」を強くアピールした。

さらに選挙期間中も公務の記者会見に臨むなどメデイアの露出度は、他の候補者を圧倒した。

このほか、都議会で対立している自民党東京都連は対立候補を擁立できず、自主投票になった。野党第1党の立憲民主党も独自の対立候補や、野党統一候補も擁立できず、有力候補不在も小池知事圧勝の要因になった。

 野党第1党、辛くも主導権維持

その野党陣営だが、2位争いは◆立憲、共産、社民各党が支援する宇都宮健児氏が84万票(得票率13.8%)。◆れいわ新選組代表の山本太郎氏65万(10.7%)。◆日本維新の会推薦の小野泰輔氏61万票(10.0%)の順番となった。

野党第1党の立憲民主党が、辛くも野党内の調整の主導権を維持する形になった。但し、立憲民主党の支持層の投票行動は、報道各社の出口調査でみると、宇都宮氏に4割、小池氏に3割、山本氏に1割と支持が分散した。

一方、次の衆院解散・総選挙に向けての取り組みについても、野党の候補者の1本化が進むかどうか、野党結集の見通しはついていないのが実状だ。

 小池知事 問われる問題解決能力

さて、圧勝した小池知事だが、都民からの期待と同時に大きな責任を担うことになった。小池知事に対しては、端的に言えば「問題解決能力」を求める声が強まることが予想される。

具体的には、新型コロナウイルスの感染拡大を本当に抑制できるかどうか。これまでは、国に先駆けての休業要請や、協力金の支払いなどで存在感を発揮できた。但し、東京都の財政調整基金という9000億円以上もあった貯金も残り800億円程度まで激減した。今後、都の税収の落ち込みも避けられない。

こうした中で、選挙戦の最終盤には、東京都の新たな感染者数が1日当たり100人を超える状態が続き、第2波への備えは大丈夫なのかという声もあがっている。PCR検査を積極的に実施する方針転換で、感染者が増えたとの説明も聞くが、詳しい実施件数や分析の説明がない。

また、「東京アラート」に代わって打ち出された「新たな指標」はどのように運用され、都民への注意喚起や、対策はどうなるのかはっきりしない。

こうしたコロナ対策をはじめ、東京オリンピックの追加負担の問題、さらには東京都の経済活動の再開への取り組み、失業や暮らしの支援策など「さまざまな問題の解決能力」が問われることになる。また、現状と解決までの道筋などについての「説明責任」を果たせるかも問われることになる。

 早期解散論めぐる綱引き激化へ

政局への影響については、直接的な影響は小さいのではないかと見ている。というのは、自民党も、野党第1党の立憲民主党も都知事選では、存在感が乏しかったからだ。

一方、政権与党内では「我田引水」、衆院の早期解散を求める勢力からは、「危機の際に現職都知事が優勢だったように、衆院でも現職が優位に立てる」として早期解散の流れを作ろうとする動きが強まることが予想される。

これに対して、与党内でも「慎重論・スジ論」も聞かれる。例えば、小池知事は今度の選挙で無党派層の5割の支持を得た。これに対して、世論調査だが、安倍内閣を支持する人は、無党派層では2割程度に止まり、6割は支持しないと正反対の傾向を示している。

当面、衆院の解散時期をめぐって、双方の綱引きが激化しそうだ。但し、知事と首相、都知事選と衆院選も異なる。衆院解散・総選挙は国の舵取り、国民に何の判断を求めるのか、党利党略ではなく「大義名分のある解散・総選挙」にしてもらいたい。

 リモート選挙のあり方に工夫を

今回の都知事選は、新型コロナ時代の初めての大型選挙だった。4月からの緊急事態宣言が出された期間、全国の市長や区長の選挙では、過去最低の投票率が相次いだ。このため、都知事選の投票率も心配されたが、結果は「55%」。前回4年前より4.7ポイント下回ったが、過去最低の43%といった事態は免れた。

一方、今回の選挙は、「3密」を避けるため、規模の大きな集会や街頭演説などは少なく、「リモート選挙」が目立った。当面、こうした選挙運動・選挙戦は避けられないが、一方で、候補者の生の姿や訴え、候補者同士の討論などは行ってもらいたいとの声も根強い。

このため、「リモート選挙のあり方」を具体的に検討していく必要がある。「リモートでの候補者・党首の討論会」なども工夫する必要がある。一方、リモート方式では、情報が届きにくい高齢者などへの情報提供の仕方も考える必要がある。

さらに選挙期間中だけでなく、その前、「日常の段階から、国会やメデイアなどでの議論の充実」が重要だ。与野党双方が党利党略を離れて、取り組む必要がある。次の衆院選などに間に合うよう取り組みを進めてもらいたい。

東京都知事選挙に続く大型の選挙は、来年10月に任期満了となる衆院選挙になる。コロナ激変時代の日本の進路を選択できる選挙にできるかどうか。党利党略ではなく、国民に正々堂々訴える選挙、そのためには、与野党の責任と対応が極めて大きいと考える。

警告
警告
警告
警告

警告。

年内解散説は本物か? 高いハードル

通常国会が閉会した後、政府・自民党内では、新型コロナウイルスの感染拡大で自粛していた夜の会合が再開され、内閣改造や自民党役員人事、衆議院の解散時期などをめぐる発言や動きが活発になっている。

気になるのは、このところ「年内解散がありうるのではないか」との発言や容認論が相次いでいること。「年内解散説は本物なのかどうか」、内閣支持率など世論調査のデータなども使いながら分析してみたい。また、これからの政治の動き、何がポイントになるのか探って見たい。

 早期解散説、麻生氏が震源地か

衆議院の解散・総選挙をめぐっては、6月20日、自民党の森山国対委員長が「今年はひょっとしたら衆院選挙があるかもしれない。しっかり備えていかなければならない」と発言し、波紋が広がった。

また、世耕参議院自民党幹事長も「解散は、総理大臣が適切なタイミングで判断することだ。ただ、衆議院議員の任期満了は1年数か月後に迫っており、いつあってもおかしくない」とのべている。

こうした早期解散説について、自民党の関係者に聞くと「麻生副総理が安倍首相に進言しているのではないか」と指摘する。麻生氏は自らの経験を踏まえて、総裁任期をある程度残す中で、解散を断行した方が政権の求心力を高める。

また、”ポスト安倍が混沌状態”になるのは好ましくないので、解散を早期に断行し、安倍首相が総裁を続けた方がいいとの考え方を進言しているのではないかとの見方をしている。

 安倍首相 最終判断決め手は?

安倍首相に近い議員によると、麻生氏の早期解散論に対して、安倍首相は「言質を与えていない」という。安倍首相は18日の記者会見では、「頭の片隅にもないが、さまざまな課題に真正面から取り組んでいく中で、国民に信を問うべき時がくれば、躊躇なく解散を断行する考えに変わりはない」とのべている。

前回、2017年安倍首相が解散・総選挙に踏み切った時は、「党の独自調査で現状維持が可能との報告を確認して決断した」と関係者は解説していた。最終的には、安倍首相が選挙情勢をどのように読むか。”理念の人”というよりも”リアリスト”で、選挙で勝てるかどうかが、解散に踏み切るか否かの決め手になるのではないかとみている。

 世論の風向きは、”最悪水準”

そこで、選挙のゆくえを大きく左右する「世論の風向き」はどうか。22日にまとまったNHK世論調査でみてみたい。(データはNHK NEWS WEB参照)

まず、安倍内閣の支持率6月は「支持する」が36%。「支持しない」が49%。不支持が支持を上回る「逆転状態」が2か月続いている。

安倍内閣の支持率が最低だったのは2017年7月の35%、その時の不支持は48%で最多。今回は、支持率で1ポイント上回るが、不支持も1ポイント高く過去最多。つまり、2017年とほぼ同じ水準、第2次安倍内閣発足以来、”最悪の水準”にあるとみていい。

2017年は、森友学園、加計学園問題が表面化した年で、国会閉会直後の東京都議選で自民党は大惨敗したことをご記憶の方も多いと思う。今回は、去年の秋以降、新入閣の2閣僚の辞任をはじめ、桜を見る会問題、さらに新型コロナウイルス感染拡大の直撃を受けたことが大きい。緊急事態宣言の発令や解除のタイミング、給付金や事業資金給付の遅れや政策変更などで、世論の厳しい批判を浴びたことが大きい。

また、内容面でも安倍政権にとって厳しい材料が多い。◆自民支持層のうち、安倍内閣を支持すると答えた割合は69%で、7割を割り込む。◆与党支持層でも66%、両方とも第2次政権以降の最低に落ち込んでいる。◆女性の支持は3割に対し、不支持が5割近い。◆最も多い無党派層では、支持が19%に対し不支持が62%に上っている。

つまり、従来の与党支持層に加えて、女性、18歳から30代までの若者層、無党派層でいずれも支持離れが進行中。短期間で、支持率回復は極めて難しい情勢だ。選挙では支持・不支持逆転状態が解消されないと議席を大幅に減らす可能性が大きい。

 2017年との違い

ところで、2017年は7月、8月に支持率が下落したが、9月に急上昇。10月に衆院解散・総選挙に踏み切り大勝した。今回も同じことが起きうるのではないかとの質問があるかもしれない。

2017年は、それまでの間、内閣支持率は50%台後半が長く続いたこと。また、北朝鮮のミサイル発射問題で、トランプ大統領と電話会談を頻繁に行うなど外交力を強くアピールできたことが支持率回復につながった。

これに対して、今回は去年8月以来、内閣支持率は一貫して下落傾向が続いており、復元力が弱くなっている。このため、野党側の足並みに大きな乱れなどがない限り、安倍首相は早期解散は選択しないのではないかと個人的にみている。

 年内解散、高いハードル

別の視点で、年内解散の可能性を考える場合、自民党にとっては、連立与党の公明党との選挙協力が重要な条件になる。安倍政権が国政選挙6連勝を飾ることができたのも、自民支持層に加え、公明支持層が上乗せできたことが、野党と競り勝つ上で大きい。

その公明党は、今回、早期解散には慎重な立ち場をとっている。公明党の山口代表は24日、安倍首相と会談し「今はコロナウイルスへの対応が大切だ」と伝え、早期解散に慎重な立ち場を伝えている。この点も2017年と異なる点だ。

さらに、自民党の年内解散のねらいは、新型コロナ第2波の襲来前に選挙をした方が有利との計算なので、事実上10月、11月頃の秋口解散だ。日本経済は、4月-6月のGDP速報が8月中旬に公表されるが、記録的な落ち込みが予想される。その水準から、短期間に急激なV字回復は予想しにくい。このため、早期解散に有利な追い風が吹くとは考えにくく、年内解散のハードルは極めて高いとみている。

 これからの政局のポイント

それでは、これからの政局は何がポイントになるか。◆第1は、新型コロナの収束。◆第2が社会・経済活動の回復。◆第3が国家的事業の東京オリンピック・パラリンピックが開催できるかどうか。◆第4が9月にも予想される内閣改造・自民党役員人事で、ポスト安倍などの絞り込み行われるか。

一方、衆議院議員の任期満了は来年10月21日。それまでの1年4か月の間に、衆院解散・総選挙をどこにセットするか。◆今年秋の臨時国会での解散、◆来年1月通常国会冒頭解散、◆来年秋の任期満了かそれに近い時期の選挙に絞られる。

安倍首相は自民党総裁4選を目指さないと繰り返しているが、側近ほど本音だとみている。そうであれば、総裁選で新しいリーダーを選んだ後、衆院解散・総選挙の道へと進む公算が大きいのではないか。任期満了選挙は与党は避けたいが、物理的な時間が限られている。

但し、オリンピックが開催されない場合は、安倍首相は任期満了を待たずに退陣という別の選択肢も出てくる可能性はあるのではないか。

最後に国民の側から今後の政治の動きをみると、一番の関心は「コロナ時代の激変時代の政治」。具体的には、次のリーダーや政党はどんな社会をめざし、何を最重点に取り組もうとしているのか。自民党の総裁選びや、次の衆院選では、激変時代を乗り切るリーダーの資質を備えているか、政権構想の中身に説得力があるかどうか、これまで以上に問われることになるのではないか。

警告
警告
警告
警告

警告。

首都決戦の注目点、小池知事の勝ち方は?

東京都知事選挙が18日告示され、7月5日の投票日に向けて選挙戦に入った。今回の都知事選挙、有権者の関心・反応はどうだろうか。「勝敗がわかっているから、余り関心はない」という声が返ってきそうだが、その勝敗はともかく、注目すべき点はいくつもあるというのが私の見立てだ。そこで、首都決戦の注目点として、4点を取り上げてみたい。

① 小池知事の勝ち方は?

注目点の第1は、やはり「選挙の勝敗」だ。選挙戦は◆再選をめざす現職の小池百合子知事が政党の推薦を受けずに立候補。

これに対して、◆元日弁連会長の宇都宮健児氏、◆前熊本県副知事の小野泰輔氏、◆れいわ新選組の代表、山本太郎氏。◆NHKから国民を守る党の党首、立花孝志氏、◆無所属、諸派の候補者を合わせて、過去最多の22人が立候補、選挙戦がスタートした。

政党との関係を整理しておくと◆自民党は、都連が小池氏に対して、独自候補の擁立を目指したが、断念。事実上の自主投票になったが、二階幹事長は小池氏を支援したいという考えを表明。公明党は推薦・支持はしないが、小池氏を実質的に支援する方針だ。

一方、野党陣営は、野党第1党の立憲民主党が野党統一候補の擁立をめざしたが、不調に終わった。最終的には◆立憲、共産、社民の各党が宇都宮氏を支援、◆日本維新の会が小野氏を推薦、◆れいわ新選組は山本氏と3陣営に分かれ、競合する構図になっている。

このように与党第1党、野党第1党ともに独自候補の擁立ができなかったことと、圧倒的な高い知名度などから、選挙情勢は、現職の小池氏優勢とみている。

但し、問題は「勝ち方」。小池氏は前回291万票を獲得、次点の自民推薦候補に111万票の大差をつけて圧勝した。今回も独走・圧勝となるのか。それとも意外に他の候補が善戦、批判票が大量に出ることになるのかを注目している。

また、野党系候補の中では、誰がトップになるのかの順位争いもある。このうち、宇都宮氏と山本太郎氏は、共に”弱者”重視の政策を掲げており、共通する支持層の”票の食い合い”に終わるのか。それとも多数の無党派層の支持を掘り起こし、小池氏を脅かすことになるのかどうか。野党系候補の順位は、野党各党間の主導権や、次の衆院選で野党共闘が可能なのかどうかを占う材料になる。

さらに今回は、都議会議員の補欠選挙が4選挙区で行われる。小池知事が立ち上げた都民ファーストの会や与野党の勝敗がどうなるかも注目される。

 ②選挙の争点、コロナ、五輪か

第2の注目点は「選挙の争点」。現職知事が再選をめざす選挙なので、まず、「実績評価」が争点になる。

▲小池知事は築地市場の移転延期を主張、安全性が問題になったが、結局、豊洲移転で決着した。また、選挙公約「7つのゼロ」の評価。待機児童ゼロ、満員電車ゼロなどは、いずれも達成できていないと他の候補は批判しているが、どんな論戦になるか。

▲最も大きな関心は「新型コロナ対策の総括と今後の取り組み方」だ。小池都政が国に先んじる形で独自の協力金支給を打ち出したことなどを高く評価する声を聞く。

一方で、オリンピック開催に気をとられ、コロナ対応が遅れたのではないか。生活困窮者の支援をはじめ、PCR検査の拡充、医療現場の支援など東京都政は大きな力を持ちながら発揮できていないとの批判も強い。

さらに、新型コロナ収束後、首都東京の将来像や、重点政策として何を打ち出すのか。各候補の基本構想と具体的な政策を聞きたいところだ。

▲来年夏に延期された「東京五輪・パラリンピック」をどうするか。コロナ感染が世界的にどのような状況になっているか。また、開催する場合、3000億円ともみられる追加経費の負担問題もある。候補者の中には、大会は中止してコロナ対策に当てた方がよいとの考え方もある。大会開催の意義や賛否、負担問題についても議論を深めてもらいたい。

 ③有権者の関心度、投票率のゆくえ

第3の注目点は「有権者の関心の度合いと投票率のゆくえ」だ。新型コロナ感染拡大を受けて、これまで全国各地の選挙戦では”3密”を避けるため、街頭演説や大規模な集会、握手戦術などを取り止めるなど選挙運動は大きく様変わりしている。今回の都知事選はどうなるか。

小池知事はコロナ対応のため、街頭演説などは行わずに”オンライン選挙のモデル”づくりに挑戦したいと意欲を示している。一方、SNS選挙で先頭を走る山本太郎氏は”デイスタンスなどに気を配りながら、ライブな街頭演説などをやっていく”と強調している。コロナ時代の選挙運動はどのような形になるかも注目している。

一番の問題は、有権者の関心度と投票率がどうなるか。去年は、春の統一地方選の投票率が過去最低を更新、夏の参院選も50%を下回り過去2番目の低投票率。今年に入って緊急事態宣言の期間に行われた全国の市区長選挙では、過去最低の投票率となった選挙が相次いだ。

都知事選の過去7回の投票率をみると、最も高かったのは◆2012年、石原慎太郎知事後継の猪瀬直樹氏が当選した時、62.60%。最も低かったのは◆2003年、石原慎太郎知事の2期目の選挙、44.94%。◆小池知事当選の前回は59.73%、比較的高かった。

今回はどうか。盛り上がりに欠ける気もするが、他方でコロナ後初の大型選挙、危機感が投票アップにつながるかもしれない。過去の最低ラインより多少上がって50%前後とみるが、どうだろうか?

 ④政局への影響、全国の先行指標

第4は「政局への影響」だ。「東京は全国の先行指標」。特に東京の有権者の投票行動が、全国の都市部の先行指標になる。

また、都知事選挙と同時に行われる都議会議員の補欠選挙もある。報道各社は、世論調査や出口調査を行う。安倍政権の評価をはじめ、与野党の支持率、コロナ対策や東京五輪・パラリンピック開催の反応もわかる。次の衆議院選挙を予測する上で貴重なデータが得られる。

さらに、政界の一部には、小池知事の選挙後の政治行動について、東京五輪後、次の衆院選で国政復帰をめざすのではないかとの見方もある。前回、衆院選で立ち上げた「希望の党」敗北のリベンジ、そして初の女性総理の座をめざすのではないかとの見方だ。小池氏は否定しているが、どうなるか。

今回の首都決戦は、与党第1党の自民党、野党第1党の立憲民主党も独自の候補者を擁立できず、政党の存在感が薄らいでいる。代わって、小池知事や山本太郎氏など個性の強い候補者が前面に登場している。

また、コロナ激変時代の最初の大型選挙だ。有権者は、感染症を抑制しながら日本社会・経済の再生に向けて、どんな政策、リーダーを重視して選択するのか。一方、政党の側は、実質的には選挙にどこまで関わるのか、それとも最後まで存在感を発揮できない形で終わるのか。

衆議院議員の任期も来年10月の任期満了まで1年4か月。今回の首都決戦は、次の衆議院選挙のゆくえを探る上でも、大きな意味を持つ選挙になる。

警告
警告
警告
警告

警告。

 

 

失速 安倍政権 国会最終盤

通常国会は、会期末まで残りわずか。6月12日には、新型コロナウイルス対策を盛り込んだ第2次補正予算が、参議院本会議で成立した。一般会計の総額で31兆円、過去最大の巨額補正予算だ。収入が大幅に減った事業主に対する家賃支援や休業中の手当の上限引き上げなどの緊急対策がようやく実施されることになる。

一方、報道各社の世論調査では、安倍内閣の支持率が急落している。国会最終盤での支持率急落の理由・背景をどう見るか。安倍政権の対応、何が問われているのか、分析・展望してみたい。

 支持率急落、”森友・加計”水準

さっそく安倍内閣の支持率から見ていきたい。最近の報道各社の世論調査を整理すると次のようになっている。社名、調査実施日、()は前回調査との比較。

  • NHK 5/15~17 支持37%(- 2)<不支持45%( + 7)
  • 毎日 5/23   支持27%(-13)<不支持64%(+19)
  • 朝日 5/23・24   支持29%(- 4)<不支持52%(+  5)
  • 読売 6/5~7  支持40%(- 2)<不支持50% (+  2)
  • 日経 6/5~7  支持38%(-11)<不支持51%(+  9)

内閣支持率は、最も低いデータで27%、高いところで40%などの違いがあるが、支持を不支持が上回る”逆転状態”である点では、共通している。

また、多くの調査結果は、”2018年の3月から7月時並みの水準”という点でも共通している。森友・加計問題が国会の大きな焦点になった時期にあたる。2012年末に発足した第2次安倍政権は、比較的高い支持率を維持してきたが、およそ2年ぶりの低い水準にまで支持が落ち込んでいる。

 支持離れ、与党、男性、若年層

それでは、具体的にどんな人たちの支持が離れているのか。安倍内閣の支持構造を分析してみる。データは、NHKの世論調査。

安倍内閣の支持率を牽引してきたのは「与党の支持層」、「男性」、「若年層」の高さだったが、こうした層で「支持する」と答えている割合が、いずれも第2次政権発足以来の低い水準に陥っているのが大きな特徴だ。

◆「自民党の支持層」で「安倍内閣を支持する」と答えてきた人は、これまで85%から78%と高い水準にあったが、5月は71%まで減少。公明党なども含めた「与党支持層」でも69%と過去最低の水準だ。

◆「男性」の支持も40%で最低。◆「18歳~20代の若い層」の支持率も5割近い高い水準だったのが、41%まで低下している。

安倍内閣の支持率は、最も多い「無党派層」で不支持の割合が高く、今回も6割に達している。「女性」も不支持が44%と多く、この点も変わっていない。これに加えて、従来の支持基盤である「与党支持層」「男性」「若い層」の支持離れが重なっており、状況は深刻だ。

支持離れをどう見るか

こうした支持率低下の理由は何か。世論調査では、◆新型コロナ感染に対する政府の対応について、「評価しない」が53%、「評価する」44%を上回っている。◆黒川前検事長の定年延長に関連して、検察庁法改正については「反対」が62%に達し、「賛成」の17%を大幅に上回っている。

つまり、10万円の現金給付の遅れ、中小企業に最大200万円を配る持続化給付金が遅れていることの不満。それに安倍政権の検察人事問題が影響しているものと見られる。

それでは、現金給付などが行き渡れば、世論の支持が再び戻るのか。政権の関係者の中には、国会が閉会になれば、国民は政権の問題などは忘れて、支持率も回復するとの見方もあるが、今回はそのようにはならないのではないか。

というのは、国民はコロナ問題を一過性の問題と見ておらず、長期化すると見ていること。

また、経済情勢については、これまでの景気拡大から景気後退へと変わり、失業、倒産が増えるのではないかと警戒。国民の安倍政権に対する見方は、より厳しくなる。短期間で回復することは難しいとの見方をしている。

 実態把握、危機管理体制に問題

さて、政府のコロナ対策に対する国民の見方はどうだろうか。端的に言えば、安倍政権は、方針・対策を華々しく打ち出すが、とにかく実現に時間がかかる、遅すぎるという見方をしていると感じる。その原因としては、現場の「実態把握」に弱点があるのではないか。

例えば、◆感染者の日々の正確な発生状況、空き病床、軽症者の宿泊施設の確保などに遅れが目立った。◆PCRの検査を増やすと打ち上げるが、実施件数は増えない。◆緊急事態宣言を出すタイミング、解除の条件・基準の検討も後手に回ったのではないか。◆政府の対応に遅れがあると指摘された場合、実態の把握と原因の究明が遅く、どこまで改善されたかの説明もないとの指摘が多い。実態把握と説明面に弱点がある。

もう1つ、大きな問題は「政府の危機管理の体制」の問題。司令塔である「首相官邸が一枚岩の体制」になっているのかどうか。

例えば、安倍首相が2月末に打ち出した小中高校の一斉休校。政府の基本方針とは別の方針が突如、打ち出される。担当の萩生田文科相、加藤厚労相、菅官房長官らも事前に知らされていなかったという。

また、国民への現金給付も「1世帯30万円給付」が閣議決定されながら、与党の公明党や自民党の要求で「1人一律10万円給付」に転換される。結果として方針が混乱し、支給が遅れる事態を招いた。

こうした背景には、安倍首相最側近の今井総理補佐官と菅官房長官との確執が影響していると見ている。つまり、一枚岩の体制になっていない。また、現場の関係者や官僚を説得し、動かす力が弱いのではないか。「首相官邸の総合調整機能」を発揮できる体制になっていないという問題がある。

 求心力低下、1強体制の終焉

以上、見てきたように安倍政権は支持率が急落、政権の求心力は低下している。また、1人10万円給付への方針転換をはじめ、検察庁法改正案の先送り、さらに9月入学の見送りなどの政策・方針変更が相次いでいる。首相官邸と与党の関係では党側の力が増し、安倍1強体制は揺らぎの段階から、終焉へと変わりつつある。

安倍政権は、これまでの衆院の解散・総選挙などで、政権の危機的状況を打開してきたが、こうした中央突破路線は難しい。これからは、感染抑制と経済再生の両立、そのための具体的な社会・経済政策、それに実現への道筋を打ち出せるかどうか、険しい道が続くことになる。

警告
警告
警告
警告

警告。

新型コロナ激変時代 政治リーダーの論戦を!

通常国会ははやくも最終盤、6月17日の会期末まで2週間となった。新型コロナ対策の第2次補正予算案がまもなく国会に提出されることになっており、会期内に可決・成立する見通しだ。そして、政府・与党は、会期を延長せずに閉会する構えだ。

ところが、私たちのもう1つの関心事項、深刻な打撃を受けている日本社会や経済の立て直しをどうするのか。安倍首相の記者会見や、国会での野党の追及を聞いていてさっぱりわからない。この問題の論戦は事実上、放置されたままだ。

新型コロナ感染の襲来で、日本社会も激変の時代に突入する。その日本社会や経済の立て直しの目標や方向性、主要な政策をどう考えているのか。安倍首相や与野党のトップが登場して議論するところぐらいまでやらないと、国会、政権、与野党ともに、政治の最低限の役割を果たしたことにはならないのではないか。

本格的な議論なしで国会閉会とはならないと思うが、会期末が近づいてきているので、激変時代の政治の対応について、以下、一言申し上げたい。

 巨大補正、第2次補正予算案の意味

政府が5月27日に閣議決定し、近く国会に提出する第2次補正予算案は、売り上げが減った店舗の賃料の3分の2を半年分給付する制度をはじめ、休業手当の一部を助成する雇用調整助成金の1日あたりの上限額の引き上げ、さらには生活費にも困っている大学生などへの支援も盛り込まれている。

この結果、第2次補正予算案の歳出は、一般会計で31.9兆円余り過去最大。第1次補正予算と合わせると歳出は57兆円、事業規模では233兆円、GDPに占める割合は4割と過去に例のない規模になる。

これによって、ようやく遅ればせながら、緊急支援の枠組は整えられることになる。政府・与党は、提出後直ちに審議に入り、早期に成立させたい考えだ。

これに対して、野党側は東京高検の黒川前検事長の処分問題について集中審議を求め追及することにしているが、補正予算案は野党側の要求も盛り込まれているため協力する方針で、会期内には成立する見通しだ。

こうした第1次、第2次の巨額な補正予算の成立で、個人や事業主に対する緊急支援の枠組は整えられる段階まで進むことになる。

 社会経済立て直し、乏しい議論

そこで、次の問題は、第2波・第3波の感染拡大のパンデミックを防ぎながら、「日本社会、経済の立て直し」をどのように進めていくのかが焦点になる。この点は、国民が知りたい、もう1つの論点だが、安倍首相の記者会見、野党の国会での追及をを聞いてみても、さっぱりわからない。

もちろん、これまで緊急に取り組むべき課題は、生活に困っている人たちへの生活支援であり、さまざまな事業を持続していくための対策が最優先課題である。但し、緊急支援としては一定の対策を整える段階までは来たということだ。

国民の側には、これからの日本社会・経済をどのように立て直していくのか、政治は方向性を示してもらいたいという指摘や期待も強い。政権を担当する安倍首相の役割と責任が問われることになる。

安倍首相が前回・5月25日に行った記者会見では「経済再生こそが、安倍政権の1丁目1番地」「(コロナ感染を収束させた後)次なるステージに全力を尽くす」などと強調するが、何を最重点に取り組むのか。直撃を受けたアベノミクス・経済政策をどうするのかといった方向性についても、ほとんど触れられていない。

 激変時代こそ政治の出番

これからの日本社会・経済は、大きな構造変化は避けられない。IMFが指摘するように世界経済は「リーマン超え、1929年の大恐慌以来の景気後退」局面だ。

日本でも厚生労働省のデータで解雇や雇い止めが1万人を超えている。収入減で生活保護の申請が増加。企業は収益の大幅減、倒産などが増える見通しだ。

こうした危機的状況をどのように克服していくのか。日本社会、経済運営の方向性や目標、そのためたの主要政策、さらには道筋などを示すのが政治の役割であり、政治の出番だ。

今年は、9月末に安倍首相の自民党総裁としての任期が残り1年になる。10月には今の衆議院議員の任期も後1年。自民党の次総裁をめざすリーダーは、それぞれの立ち場で、これからの日本は何をめざすべきか、自らの考えを打ち出してはどうか。いつまでも安倍首相の顔色をうかがうばかりでは、党員や国民の支持も広がらない。

野党側も政権交代をめざすのであれば、安倍政治とは異なる政権構想を早く示して、国民に訴えるべきだ。

安倍首相、与野党ともに日本社会・経済の目標、重点政策を明らかにして、活発な論争する時期が今だと考える。

 本格論戦こそ国会・政治の責務

政府・自民党は、会期延長せずにこの国会を閉会する方針だという。表向きの理由は、当初東京オリンピック・パラリンピックが予定され、提出法案の数を絞り、その成立のメドもついたので、延長しないのだという。

本音は、報道各社の世論調査で安倍内閣の支持率が急落。このため、野党の追及を受ける国会は早く閉会したいという損得勘定が透けて見える。

小細工的対応は、憲政史上最長の政権や大自民党はとるべきではない。世論の総反発を食うのではないか。というのは、国会議員・閣僚は6月に夏のボーナスを受けた後、早くも17日から国会閉会、休みに入るとなると、日々の暮らしや事業に四苦八苦している国民はどう見るか。子どもたちも夏休みも削って勉強に励む時期だ。次の選挙を控えた人たちの取るべき対応ではないと思う。政権と国民との間に大きなズレが生じているのだろうか。

安倍首相は、先に感染症の克服と経済活性化の両立を図っていく必要があるとして、今年の骨太方針に「日本がめざすべき経済社会の基本的な方向性」を盛り込みたいというを示している。

野党第1党の枝野代表も「政府の対応は、司令塔が不明確で不信感も募っている」として「機能する政府への転換をめざす」政権構想を示す考えを示している。

そうであるならば、昔、中曽根首相と石橋・社会党委員長とが直接論戦を戦わせたように、安倍首相と枝野代表とが党首討論を行ってはどうか。あるいは、野党第1党に限らず、野党各党の党首も登壇して、国民を前に安倍首相との間で大論争をしたらどうか。実現可能性のある提案だと思う。

新型コロナ激変時代、日本の政治リーダーの見識、存在感を、是非、見せて欲しい。

警告
警告
警告
警告

警告。

 

 

緊急事態脱出”成功要因”と今後のハードル

”長い巣ごもり、自粛のトンネル”をなんとか抜け出すところまでこぎ着けた。政府は25日夜、東京、埼玉、千葉、神奈川の1都3県、それに北海道の緊急事態宣言を解除することを決定、宣言はようやく全面解除されることになった。

国内で最初の感染者が確認されたのが1月16日。初めての緊急事態宣言が出されたのが4月7日。全面解除まで49日、およそ1か月半、正直なところ長かった。

この間、亡くなられた方は800人を超え、感染者は1万6000人余り、未だに重症で治療中の方もいる。飲食店などでは営業ができず店をたたんだり、仕事を失った人たちも多く、日本社会に深い傷跡を残している。

新型コロナウイルス感染は今も続いており、気を緩められないが、緊急事態脱出までは到達できた。率直に喜ぶと同時に、この”成功要因”は何か。また、今後どのようなハードルが控えているのか考えてみたい。

なお、今回は日本社会の対応を取り上げ、政治や政権の対応、経済・社会の課題については、今後、随時とり上げていきたい。

 ”成功要因” 国民の自粛・規律が奏功

今回の緊急事態脱出をどうみるか、成功要因は何か。私個人の見方は、政府の危機管理は後手の対応、機能不全が目立ったという評価だ。水際作戦、国内感染対策の遅れ、さらに生活支援対策面でも迷走が相次いだからだ。

これに対して、”見えない感染”に対して、国民の側は、外出・休業の自粛、別の表現をすれば、自律の意識・行動が功を奏したと言っていいのではないか。

一時は医療崩壊に陥るのではないかと危惧した局面もあったが、医療従事者の方々の献身的な努力で回避できた。同時に”見えない感染源”に対して、国民が外出・休業などの自粛要請に応じて協力したことが大きかった。

中国のような情報隠し監視・強制型ではなく、欧米のロックダウン=都市封鎖型でもない。緩やかな法規制で国民が自主的に協力していく第3の道、日本型。幸運が重なった面もあるので、日本モデルと誇るつもりはないが、民主主義国で第3の道があることを示した意味は大きいと考える。

新型感染症に対する国民の対応。safety=自分で自らの安全を守る。smart =賢く情報にアクセス 。 kind=他人に思いやり。WHOのキャンペーンだが、このSSKモデルを日本国民が実践したことが成功の要因と考えている。

 高い公衆衛生意識、医療整備

成功要因について、さらに付け加えるとすれば、日本人の高い公衆衛生の意識がある。手洗い、うがいの励行。ハグなどの生活習慣がないことも幸いした。

また、医療保険制度の効果。健康保険証1枚あれば、貧富など関係なく医療機関の診療にアクセスできる。先人たちの取り組みに感謝したい。

一方、課題・問題も多い。新型感染症は世界的に大きな問題になりながらも、日本は備えができていなかった。病院での医療用マスク、防護服、消毒液不足などには正直、驚いた。

また、保健所などの人員・業務、医学の基礎研究・予算措置も十分ではなかった。経済政策に比べると、保健・医療分野の体制は劣化していた。

知人に聞くと韓国は感染者は1万1200人余り、死者267人。日本は感染者1万6600人余り、死者839人(5/25現在)。日本の死者の多さが目立つ。感染症に対する経験違い、PCRなどの検査の少なさ、マスク・防護服不足など医療体制の遅れがあるという。こうした指摘を重く受け止め、今後に生かす必要がある。

 医療現場の実態把握と、説明がカギ

さて、これから、どんな取り組みが必要か。1つは、新型感染症は第2波、第3波の発生のおそれがあるので、「監視・検査・医療体制」の整備は最優先課題だ。

最近になって、政府の対応もようやく整ってきた。◇入院患者を受け入れる病床は、全国で1万7200床を確保。現在、入院患者は3400人余り(5/15時点)。厚労省は「ひっ迫状況ではなく、余裕が出てきた」と説明している。

◇批判を受けていた検査体制ももPCR検査、抗原検査、抗体検査を組み合わせて実施する方向だ。

◇治療薬、ワクチン開発も支援すると強調している。遅ればせながら一歩前進、安心材料ではある。

但し、気になる点も多い。今回振り返って見ると感染者数の人数や陽性者が正確に把握できなかった。PCR検査の相談電話がつながらないとの苦情も多かった。

つまり、医療現場の実態が把握ができず、原因の究明や対策が進まなかった。国や自治体は、医療現場の実態の把握と必要な対策、その結果、改善が進んだのかどうかを住民に説明できる体制・仕組みづくりこそ重要だ。

保健・医療については、都道府県の知事が第一義的な責任者になって、国と連携・協議しながら、地域医療を整備、住民に説明していく仕組みを整えてもらいたい。病院経営の安定など地域医療の問題は多い。

メデイアの役割も問われる。地域の保健・医療の実態、国や都道府県の対応・問題点を含めて、多角的に掘り下げて報道してもらいたい。

 ”鎖”の論理、困窮者重視の対策を

もう1つ、大きな問題は、「社会・経済活動の再開」に向けた取り組みだ。IMF=国際通貨基金の経済見通しによると新型コロナパンデミックで、2020年の世界経済の成長率はマイナス3%。リーマンショックを超え、大恐慌1929年以来の景気後退と予測。日本経済もマイナス5.2%という大幅な景気後退だ。

トヨタの営業利益も来年3月期は、80%近い減収見通し。豊田章男社長も「リーマンショックよりインパクトは大きい」とのべている。

厚生労働省によると新型コロナの影響で、経営が悪化して解雇や雇い止めにあった人は見込も含め全国で1万人を超えた。5月15日時点の数字だが、5月に入って急増。今後、企業の倒産、失業、自殺者の増加が懸念されている。

どのような姿勢で臨むか。5月22日衆参両院で行われた参考人質疑で、慶応大学の竹森俊平教授の提言が印象に残った。竹森教授は、スコットランドの哲学者、トマス・リードの言葉を紹介しながら次のような趣旨の発言をした。

「鎖の強さは、1番もろい箇所の強さに等しい。なぜなら、鎖の1番もろい箇所が崩れたら、鎖全体がバラバラになって崩れ落ちるからだ」。

今回は「困っている労働者、家主、中小企業、フリーランスなど困っている人、脆弱な部分を救って、社会をバラバラにしないことが重要だ。景気刺激策は間違っている」。つまり、景気刺激策よりも、弱者・困窮者に重点を置いた対策を進めるべきだと提言している。

”鎖の論理”、困窮者対策を本当に用意できるのか、第2次補正予算案で問われる。また、中長期の出口戦略・構想も政治の大きな焦点になる。

 安倍政権 経済再開の原則と重点は?

安倍首相は25日夜、記者会見を行い、緊急事態宣言解除を正式に表明し、段階的に社会経済活動を再開する方針を示した。

また、第2次補正予算案を27日に閣議決定し、事業規模が第1次補正予算案と合わせて200兆円を超えることを明らかにした。そして、「GDPの4割にのぼる空前絶後の規模、世界最大の対策で、100年に1度の危機から日本経済を守り抜くと」と強調した。

国民にはどう響いたか。事業規模は大事だが、知りたいのは、社会経済活動の再開にあたっての原則、政権は何を重点に取り組むのかではないか。先に竹森教授が提言していた政策の目標・重点だ。その点が弱い、伝わる哲学がない。

最近実施された毎日、朝日の新聞社の世論調査で、安倍内閣の支持率が急落した。黒川検事長の定年延長と辞職問題が影響したものと見られ、支持率は20%台後半まで下落している。こうした中で、最大の政治課題である、コロナ危機乗り切りの対策と展望を打ち出せるかどうか、安倍政権は厳しい局面を迎えている。

(了)

 

警告
警告
警告
警告

警告。

 

 

 

黒川検事長辞職 安倍政権に深刻な打撃 

東京高検の黒川弘務検事長の定年延長に端を発した問題は、検察庁法改正案の見送りに続いて、今度は黒川氏自身が緊急事態宣言の最中に、賭け麻雀をしていたスキャンダルが明るみになり、辞職に追い込まれた。

今回の定年延長問題、個人的には”長期政権のおごりと惰性”を感じ、見過ごせない問題だと考えていた。

というのは、一つは歴代自民党政権が慎重に対応してきた政治と検察との関係。異例の検察官の定年延長という人事にまで、安倍政権が踏み込むようになり、そこに長期政権のおごりを感じたこと。

もう一つは、新型コロナ危機を受けて、定年延長法案はいち早く先送りし、緊急事態対応に専念すべきだった。できなかったのは、”対決法案強行の成功体験の惰性”が働き、柔軟対応ができなかったためではないか。

新型コロナの危機対応がしばらく続くので、直ちに”政局”につながる公算は低いと見ている。但し、安倍政権には深刻な打撃で、ボデイーブローのように効いてくる可能性もある。

検事長の定年延長問題はブログで何回も取り上げてきたが、節目の時期なので、以下、締め括りに幾つかの論点を整理しておきたい。

 事実関係・責任問題 乏しい説明

今回の問題、検察No2の東京高検検事長が、新聞記者と賭け麻雀に興じていたことが週刊誌にすっぱ抜かれた。個人的には、検事を”聖人君子”と見ているわけではないが、緊急事態宣言。しかも、自身が当事者の法案審議がヤマ場の時期だけに、とるべき行動ではなかった。

政府は、黒川検事長が賭け麻雀の責任をとって21日に辞表を提出したのを受けて、22日の閣議で辞任を了承した。

森雅子法相は、訓告処分にしたことを明らかにするとともに、黒川氏の定年延長については「閣議で決定するよう求めたのは私であり、責任を痛感している。ただし、適切なプロセスで行った」との認識を示した。

しかし、まず、処分について、事実関係をどのように認定したのか、よくわからない。◇賭け麻雀の賭博行為、◇麻雀相手の新聞記者が提供したハイヤー利用・便宜供与、◇緊急事態宣言の最中に麻雀を行っていた国家公務員としての倫理や職務上の行為が問題なのか、よくわからない。

また、訓告は国家公務員法の懲戒処分とは違って、法律上の処分とはならない、比較的軽い処分の一つだ。このため、退職金7000万円程度かと言われているが、満額払われることになる。

一方、政治責任の問題については、森雅子法相は「国民に憤りと不安を与えたことをお詫び申しあげる」と陳謝した。その上で、自らの進退伺いを提出したが、「安倍総理から強く慰留された」として、職責を果たしていく考えを示した。

安倍首相は、記者団のぶら下がり取材で「総理大臣として当然、責任はある。批判は真摯に受け止めたい」とのべたが、記者会見は行わなかった。

一方、検察トップの稲田伸夫検事総長は「検察の基盤である国民の信頼を揺るがしかねない深刻な事態であり、国民の皆さまにお詫び申し上げる」というコメントを発表したが、こちらは伝統的に記者会見には応じない。

このように政府も、検察当局もお詫びは口にするが、国民に対する事実関係の説明、それに責任問題をどのように考えているのか、肝心の説明が極めて乏しい。検察と政治の双方と、国民との距離は開いたままなのが実態だ。

 検察と権力のあり方から再検討を

今回の問題、発端は1月31日の閣議で、黒川検事長の定年延長を決めたことから始まった。検察官の定年延長は初めてで、異例の人事だ。これをきっかけに検事の定年延長問題について、政府は検察庁法に基づかず、国家公務員法の規定を採用するように解釈を変更したことも明らかになった。

さらには、検察幹部が役職定年に達した場合、内閣の判断によっては、3年まで特例として延長が認められる制度設計も追加された。政府が無理に無理を重ねて、特定人物の定年延長をごり押ししているように見えた。

ところで、戦後間もない昭和29年、自由党の吉田茂・第5次政権当時、犬養法相が指揮権を発動し、検察から出された逮捕許諾請求を阻止する造船疑獄事件が起きた。その後、自民党政権は検察との激しい軋轢も続いたが、検察の人事に介入するようなことはなく、慎重な対応を取ってきた。ところが、安倍政権は、今回、歴代政権とは異なる対応をとるようになったのである。

多少、固い話になるが、検察官は行政の一部で内閣に属する。他方、起訴などの権限を持ち、時には総理大臣を逮捕することもできる特殊な組織だ。それだけに政治権力からの独立、公正な対応が求められる。同時に検察当局もが独善、いわゆる検察ファッショに陥らないように民主的な統制を図る仕組みも必要になる。端的に言えば、政権と検察は微妙なバランスの上に成り立っている。

このため、検察官の定年延長に踏み切る場合には、政治権力と検察との関係、民主主義の下でどのような仕組みにするのが適切なのか、根本から検討しておく必要があったと考える。この点の熟慮が足りなかったのではないか。もう一度、制度設計の根本から法案を再検討した方がいいと考える。

 相次ぐ失態、政権運営に打撃

最後に、今後の安倍政権の政権運営に及ぼす影響はどうだろうか。このところ、重要な政策課題や方針の変更が目立っている。

主な問題だけでも◇大学入学共通テストへの英語民間試験の導入延期。◇コロナ対策で、閣議決定していた1世帯30万円給付から一律10万円給付への方針転換。◇さらには、検察庁法改正案の今国会での成立見送りなど失態が相次いでいる。

NHKの5月の世論調査では、新型コロナ対策や、検察官の定年延長問題では、政府の対応を「評価しない意見」が多数を占めている。内閣支持率についても「支持する」が37%、「支持しない」が45%で、およそ2年ぶりに不支持が支持を上回った。森友・加計問題が焦点になった一昨年6月以来の水準にまで落ち込んでいる。

それだけに今回の検事長辞任は、窮地に陥っている政権に打撃を与える形になった。当面、コロナ対策が緊急の課題になっているので、直接、退陣につながるような可能性は低い。但し、政権と検察との関係、政権の信頼度に関係してくる問題なので、今後、ボデイーブローのように効いてくる可能性がある。

安倍政権としては、緊急事態宣言が続いている東京など首都圏と北海道の緊急事態宣言の解除にこぎつけ、何とか反転攻勢へ持ち込みたい考えだ。

新型コロナ感染の拡大を押さえ込むことができるかどうか。第2次補正予算案の編成などで、生活困窮者や経済活動の再開への動きを軌道に乗せることができるかどうか、安倍政権にとっては厳しい政権運営が続くことになる。

警告
警告
警告
警告

警告。

 

 

迷走続く安倍政権 検察庁法案見送りの事情

検察官の定年を延長する検察庁法改正案について、政府・与党は18日、今国会での成立を見送る方針を決めた。世論や野党の反発が強い中で、法案の採決に踏み切っても「世論の理解を得られない」と判断したためだ。

安倍政権は、このところ当初の方針を覆す事態が相次ぎ、迷走状態が続いている。今回の法案見送りの理由や背景、政権への影響などを探ってみた。

 世論の”ダブル・パンチ”

安倍首相は18日午後、自民党の二階幹事長を首相官邸に呼び、「国民の理解なしに国会審議を進めることは難しい」として、検察庁法改正案先送りの方針を伝えた。

安倍首相としては、採決に踏み切った場合、世論や野党の一層の反発を招き、新型コロナウイルスの追加対策を盛り込む第2次補正予算案の早期成立にも影響すると判断したものと見られる。

その世論の反応だが、法案の委員会採決が近づくとTwitterで俳優や歌手などの著名人が法案反対を呼びかけ、ネット上で大きな反響を巻き起こした。また、検察OBも法案に反対する意見を表明するなど異例の行動を起こした。

NHKが5月15日から3日間行った世論調査では、安倍内閣の支持率は「支持する」が前月調査より2ポイント下がって37%、「支持しない」が7ポイント上がって45%だった。支持と不支持が逆転したのは、およそ2年ぶり。森友・加計問題が焦点になった一昨年・2018年6月とほぼ同じ水準にまで落ち込んでいる。

その要因としては、◆1つは「新型コロナウイルス対策など政府の対応」。「評価する」が44%に対し、「評価しない」方が53%で多い。

◆もう1つは「検察庁法の改正案」。「賛成」は17%に止まり、「反対」が62%で多数を占めている。

つまり、「新型コロナ対応」と「検察庁法改正案」の両方で、「世論の強い反発」を受けていることが読み取れる。

迷走の発端は、官邸発の異例人事

今回の法案先送りに至るまでの紆余曲折、さまざまな要素が絡み合っているが、迷走の発端は、政府が1月に東京高検の黒川弘務検事長の定年を、半年間延長する閣議決定をしたことに遡る。

黒川氏は本来なら、2月7日に退官予定だったのが、その直前の1月31日に定年延長が決まった。検察官の定年延長は過去に例のない人事で、黒川氏を次の検察トップに就任させるためではないかとの憶測も広がった。

2月のブログでも触れたが、現行の検察庁法には検察官の定年延長の規定がないので、政府は従来の法解釈を変更して、国家公務員法の規定を適用していたことが国会審議で明らかになった。

さらに新たな改正案では、役職定年に達した検察幹部について、内閣が認めれば最長で3年まで定年を延長できる特例も設けていることが明らかになった。野党側は、政権に都合のよい幹部だけを定年延長するのではないかと批判している。

このように今回は個別の検事長人事の問題と、検察官の位置づけや定年延長のあり方、そのための制度設計の問題が混在したままで、政府側が十分説明できていない点に大きな問題がある。政府は、秋の臨時国会に再度、この法案の提出をめざす方針だが、問題点を整理し直さないと世論の理解は得られないと思う。

 安倍政権・政局への影響は?

次に、安倍政権への影響はどうだろうか。まず、これまで重要法案で採決直前まで進んだ法案を先送りしたケースは、ほとんどないのではないか。特定秘密保護法をはじめ、安全保障法制、カジノを含むIR法、外国人労働者受け入れ拡大など国論が割れる法案についても官邸主導・与党ペースで押し切ってきた。

ところが、今年にはいっては、大学入学共通テストで導入が予定されていた英語の民間試験が中止に追い込まれたり、新型コロナ対策で政府が閣議決定した現金給付の方針の転換を迫られたりするケースが相次いでいる。

さらに先に見たように内閣支持率が下落、支持と不支持が逆転していることから、既に政権の求心力は低下しており、政権への影響は現れている。

気になるのは、今回の法案見送りは誰が主導して決まったのかという点だ。ある与党関係者によると黒川氏と関係が強いのは菅官房長官なので、安倍首相と側近が菅官房長官を押し切る形で先送りの方針を決めたのではないかという。

つまり、去年の秋以降、安倍首相側と菅官房長官との足並みに乱れが出ているのではないかとの見方も示されている。

コロナ感染拡大後の政治については、感染拡大の収束がいつ、どのような形になるのかがはっきりしないと明確な見通しをつけられない。安倍政権についても、まずは緊急事態宣言が継続中の東京など8都道府県について、宣言解除を5月末までに終了できるかどうか。感染収束時点の政権の状況を見極める必要がある。

また、追加の経済対策を盛り込む第2次補正予算案の早期成立をはじめ、経済・社会活動の本格的な再開と、感染抑制とを軌道に乗せることができるかどうか、安倍政権にとって険しい道のりが続くことになる。

警告
警告
警告
警告

警告。