”初回は成功、難問はこれから”日米首脳会談

石破首相とトランプ大統領との初めての日米首脳会談が日本時間の8日未明、ワシントンで行われた。

会談では、日米同盟の強化を再確認したのをはじめ、経済分野では石破首相が、アメリカへの投資額を1兆ドル(151兆円)規模まで引き上げたいとの考えを伝えた。

また、日本製鉄によるUSスチールの買収計画については、単なる買収ではなく、投資としての意味合いがあるとの認識を共有したことを明らかにした。

こうした今回の首脳会談をどのようにみたらいいのだろうか。結論を先に言えば、最初の会談としては、日米関係の方向性などで一致することができたので、成功と言えるのではないか。但し、具体的な対応はすべてこれからだ。難問はこれからと覚悟しておいた方がよさそうだ。

なぜ、こうした結論になるのか、具体的に会談の中身をみていきたい。

 経済政策、アメリカへの貢献を強調

トランプ大統領の再登板以降、カナダやメキシコ、中国に対する関税の引き上げが大きな問題になっているので、経済分野から見ていきたい。

日米首脳会談で石破首相は、日本は5年連続でアメリカへの投資額が世界一であることを説明したうえで、今後も二国間の投資と雇用を大幅に増やすことや、アメリカのLNG=液化天然ガスの日本への輸入を増やすことなどを表明した。

そして、アメリカへの投資額を1兆ドル(151兆円)の規模まで引き上げたいという考えを示したほか、日本製鉄によるUSスチールの買収計画は「単なる買収ではなく、投資としての意味合いがある」との認識で一致したことを明らかにした。

USスチールの買収計画について、石破首相は帰国後に出演したNHKの番組で「単なる買収ではなく、投資を行い、アメリカの企業であり続ける」とのべ、投資を重視する仕組みに修正して計画が進められるという見通しを示した。

このように石破首相は、日本はアメリカへの投資や雇用の拡大に貢献していることをアピールするとともに、対米投資額をバイデン政権時代の8000億ドルから、1兆ドルまでひき上げる考えを伝え、トランプ大統領から歓迎された。

こうした対米貢献策が評価されたためか、日本側が警戒していた関税の引き上げなどの要求は議論されなかったとされる。

 安全保障分野、従来の方針継続を確認

外交・安全保障分野については、日米同盟を強化するとともに、アメリカが防衛義務を果たす日米安保条約第5条を尖閣諸島に適用することを確認した。

また、厳しく複雑な安全保障環境の中で、自由で開かれたインド太平洋の実現に向け、協力していくことを確認し、日米豪印のクアッドや日米韓、日米豪、日米比など多層的な協力を推進するとしている。

トランプ大統領は最初に当選した際、当時の安倍首相と最初の首脳会談を2017年2月10日に行い、その結果を日米共同声明として発表した。当時の共同声明が手元にあるが、日本語でA4用紙2枚の分量だった。今回は3枚に増え、安全保障分野では、主な方針はそのまま盛り込まれている。

石破首相は「今回の首脳会談で日本の防衛費について、トランプ大統領から言及はなかった」と説明している。

一方、今回の日米共同声明によると、2023年度から2027年度までの防衛力の抜本強化に続いて「米国は、2027年度よりあとも抜本的に防衛力を強化いくことに対する日本のコミットメントを歓迎した」とある。日本の防衛力のさらなる強化を期待していることが盛り込まれている。

 石破首相「相性は合うと思う」

今回の首脳会談が行われるまで、国内では「石破首相は、トランプ大統領と相性がよくないのではないか」「アメリカ側から、さまざまな要求を突きつけられて対応できるのか」など首脳会談の先行きを不安視する声が聞かれた。

首脳会談で石破首相は「日米の緊密な関係は、大統領と安倍首相によって礎が築かれた」などトランプ大統領を盛んに持ち上げ、トランプ大統領も「シンゾーもあなたのことを尊敬していた」「あなたは偉大な首相になるだろう」などと上機嫌で応じた。

石破首相は帰国後、出演したテレビ番組で「『こいつとだったら、また話したい』という関係を作らないといけない。大勢の人に努力をしてもらい、いい結果になった」「テレビで見ると怖そうなおじさんだが、実際に話をしてみると人の話をよく聴く人だ。相性は合うと思う」と自信をのぞかせた。

石破首相は、トランプ氏側から誘いのあった大統領就任式前の会談を延ばしたうえで、就任後に会談することになった。日程が決まった後は、会談の準備を練りに練ったという。外務省をはじめとする関係各省、通訳など総力で準備に当たったとされる。そうした支えがあって、最初の会談を何とか乗り切れたのだろう。

 防衛・安保の議論のあり方も再考を

今回の首脳会談をめぐっては直前まで「吉と出るか、凶と出るか」心配されたが、「吉」と出たと言っていいのではないか。但し、最初の会談は順調に行われたが、今後はどうなるかわからない。

トランプ大統領は今回、石破首相に厳しい要求をぶつけなかった。この背景には、日本との貿易赤字がトランプ政権第1期時代は世界で3番目だったが、今は7番目までに減っているためとの見方もある。

また、トランプ政権にとって、最も手強い中国との対決に備えて、同盟国である日本を自らに引きつけておくねらいもあると思う。

トランプ大統領は今後、関税の引き上げや、LNG液化天然ガスなどの開発、日本の防衛力などをめぐって、日本に要求を突きつけてくることも予想される。日本としてもその備えというよりも、主体的にどのように考え対応していくのか、政府が方針を固め、国民を巻き込んで議論していくことが必要になる。

前回、岸田政権当時の防衛力の抜本強化をめぐっては、国民レベルの議論があまりにも少なすぎた。その結果、政権は防衛増税を打ち出したが、所得税増税は未だに実施時期が決まっていない。

国会は、与党の過半数割れへと大きく変わった。防衛力・安全保障をめぐる議論のあり方、進め方についても考え直す必要があると考える。(了)

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”吉と出るか、凶と出るか”日米首脳会談

石破首相とトランプ大統領との初めての日米首脳会談が2月7日(現地時間)にワシントンで行われる見通しになった。石破首相としては、会談を通じて個人的な信頼関係を構築し、日米同盟のさらなる強化につなげたい考えだ。

一方のトランプ大統領は1日、カナダとメキシコからの輸入品に25%の関税、中国には10%の追加関税をそれぞれ課す大統領令に署名した。課税はいずれも2月4日からとしている。これに対しカナダなど各国は強く反発し、対抗措置を取る方針だ。

トランプ大統領は、就任式当日の先月20日に気候変動対策の国際的枠組み「パリ協定」からの離脱や、感染症対策などに当たっている世界保健機関WHOから脱退など40を超える大統領令に署名したのに続いて、今度は関税引き上げといった”トランプ砲”を発射し始めたといえそうだ。

こうした中で、石破首相は6日から8日の日程で訪米し、トランプ大統領との会談に臨む予定だが、果たして成果を上げることができるかどうか日本側関係者の見方を聞いてみた。

 楽観論と警戒論が交錯、予測不能?

自民党幹部の一人は「首脳会談の主な議題がどのようになるか聞いていないが、それほど心配していない。日米は『摩擦と協力』の連続だったが、いい智恵を出して乗り切ってきた」として、今回も難関を乗り切れるとの見通しを示した。

但し、こうした楽観論は少数派で、今回の首脳会談を危ぶむ見方が多い。石破首相は年末、麻生元首相と会談し助言を求めたのに対し、麻生氏は「トランプ氏には結論から言わなければダメだ」と語ると首相は「それが一番苦手だ」と漏らしたという。

また自民党内からは「安倍元首相とトランプ大統領との良好な関係は有名だが、”政敵の石破氏”のことがトランプ氏側にどのように伝わっているか。初対面の石破首相とトランプ大統領との相性が心配だ」との声も聞く。

さらに政府関係者は「トランプ大統領がどのような出方をするのか、正直わからない。予測困難だ」と話す。第1次トランプ政権発足前には、在日米軍の撤退にまで言及したことがある。「トランプ氏が関税の引き上げをちらつかせながら、防衛面の負担増を要求したりするのではないか」との警戒感も聞かれる。

ワシントン特派員経験者によると「石破首相や日本側が、トランプ氏に直接接触できたのは、これまで石破、トランプ両首脳のわずか5分間の電話会談だけだ。大統領の腹が読めないままトップ会談に臨むことになる」と懸念を隠さない。

このように日米首脳会談をめぐって、楽観論と警戒論などが交錯している。本当のところは「吉と出るか、凶と出るかわからない。予測不能な異例の首脳会談」というのが実態のようだ。

 首脳会談の結果、政局にも影響

国会は衆院予算委員会の基本的質疑が始まったばかりの重要な時期だが、石破首相は1日の土曜日も首相公邸に林官房長官や外務省幹部らを呼んで、日米首脳会談に向けての打ち合わせなどに懸命だ。

石破首相は、日米首脳会談では中国による海洋進出や、北朝鮮の弾道ミサイル発射など東アジア情勢が厳しさを増していることから、安全保障分野に重点を置く考えだ。

具体的には、日本としては防衛費の大幅増額など防衛力の抜本強化に取り組んでいることを説明する一方、沖縄県の尖閣諸島にアメリカの防衛義務を定めた日米安全保障条約第5条が適用されることなどアメリカの関与を確認したい考えだ。

また、トランプ大統領が1期目に北朝鮮による拉致被害者の家族と面会したことも踏まえて、拉致問題の解決への協力も求める考えだ。

さらに、「自由で開かれたインド太平洋という共通のビジョン」の推進に向けて日米の協力を確認したい考えだ。

一方、経済分野については、日本は過去5年連続でアメリカへの投資が世界一であることなどを説明するとともに、トランプ大統領が重視しているエネルギー分野について、天然ガスなどの資源の輸入拡大を図る考えを伝える方針だ。

問題は、こうした石破首相の提案に対して、トランプ大統領がどのような考えを示すのか。また、トランプ大統領はすべての国に一律に関税を課す方針は変えていないことから、関税の引き上げや、持論の防衛費増額などについて言及するのかどうかが注目される。

日米首脳会談がどのような結果になるのか、外交・安全保障や経済の分野だけでなく、今後の国内の政局にも大きな影響を及ぼす。石破首相にとって、政権運営の追い風になるのか、それとも新たな重荷となって逆風になるのか、重い意味を持つトップ会談になる。(了)

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”乱気流国会”開会へ、予算審議の攻防

今年前半の政治の主な舞台となる通常国会が、今週24日に召集される。石破政権にとっては初めての通常国会で、政府予算案の年度内成立を最優先と位置づけているが、少数与党のため成立のメドはついていない。

野党側は、夏の参議院選挙をにらんで「年収103万円の壁」の見直しや高校授業料の無償化、予算案の修正などそれぞれの党の要求の実現をめざしているが、自民党が最終的に受け入れるかどうか、見通しはついていない。

一方、東京都議会の会派「都議会自民党」の裏金問題が明らかになり、自民党の派閥の裏金問題と合わせて「政治とカネの問題」が再燃することになりそうだ。

このように今度の通常国会は、懸案・課題が多いことに加えて、政権と与党、それに野党各党がそれぞれの思惑を抱えながら対決する複雑な構図になっており、どのような展開になるのか見通せないのが実状だ。別の表現をすれば、波乱要素が多い”乱気流国会”と言えそうだ。当面、どこが与野党攻防のポイントになるのか探ってみたい。

「都議会自民党」の裏金問題

通常国会の召集が近づく中で、政界では2つの問題が注目を集めている。1つは「都議会自民党」の裏金問題であり、2つ目はトランプ次期大統領の就任を受けて、石破首相とトランプ大統領との日米首脳会談がいつ行われるかだ。

このうち、「都議会自民党」の問題は政治資金パーテイーで集めた資金の一部、3500万円を政治資金収支報告書に記載しなかったとして、東京地検特捜部が17日、会派の会計担当職員を政治資金規正法違反の罪で略式起訴した。

この裏金づくりに関与した都議は25人に及ぶとみられているが、立件を免れた。都議会自民党は「責任を重く受け止める」として、政治団体「都議会自民党」を解散するとともに近く政治資金収支報告書を訂正するとしている。

今回の問題は、裏金づくりが自民党の派閥だけでなく、党の地方組織でも行われてきたことを示すものだ。そして東京都議会だけでなく、他の地方組織でも行われているとみられている。自民党としても全国の地方組織について、実態の調査が必要だ。

裏金問題をめぐっては今度の通常国会で、野党側が旧安倍派の会計責任者の参考人招致を要求している。この会計責任者は去年有罪判決を受けたが、裁判の中で、安倍元首相が派閥の会長時代、資金還流の取り止めを指示した後、安倍氏の死去後「派閥の幹部議員が集まった会合で、還流やむなしという方針が決まった」と証言した。

この会計責任者の証言と、旧安倍派幹部が衆参の政治倫理審査会での弁明と食い違うことから、野党側には旧安倍派幹部の参考人招致や証人喚問を求める意見もあり、裏金問題の実態解明が改めて問題になる見通しだ。

また、「都議会自民党」の裏金問題は、夏の東京都議選だけでなく、その直後に行われる参議院選挙にも影響を及ぼすことになりそうだ。

石破・トランプ日米首脳会談のゆくえ

2つ目の石破首相とトランプ次期大統領との首脳会談をめぐっては、石破首相が19日のNHK日曜討論で「だいたいこの当たりでと言うことで、調整が進んでいる」とのべ、2月前半にも訪米し日米首脳会談を行う方向で調整が進んでいることを明らかにした。

この日米首脳会談が実現した場合、トランプ氏が強い意欲を示す関税の引き上げや、日本の防衛費の増額を求めてくるのかどうか、さらにはバイデン政権時代に強化された日米韓の連携や台湾問題への対応などについて、トランプ大統領がどのような考えを示すのか関心を集めている。

このほか、日本製鉄によるアメリカ鉄鋼大手USスチールの買収計画に対してバイデン大統領が禁止命令を出した問題についても、トランプ大統領との会談が注目される。

この石破・トランプ会談の評価はその内容次第だが、会談が実現して一定の信頼関係を築くことができれば、石破首相の国内での政治基盤の強化につながる可能性がある。衆院予算委員会の最中に日米首脳会談が行われることになるのかどうか、国内政治への影響という面でも注目される。

最初の難関、予算案の衆院通過

長丁場の通常国会の中で石破政権にとって最初の難関は、2月下旬から3月上旬にかけて予算案を衆議院で可決し、参議院へ送ることができるかどうかだ。自民、公明の与党だけでは過半数に達しないので、野党の一部の賛成が必要になる。

自民、公明両党は、国民民主党との間で「年収103万円の壁」の見直しをめぐって123万円まで引き上げることを決めたが、国民民主党は178万円まで引き上げるよう求め、話し合いは年明けに持ち越されている。

日本維新の会との間では、教育費の無償化、特に高校授業料の無償化をめぐって協議を続けているが、与党と維新との考え方には開きがある。

野党第1党の立憲民主党は、小中学校の給食費の無償化を維新、国民民主とともに求めているほか、新年度予算案にはムダな経費が含まれているとして、予算総額の修正を求める方針だ。

自民、公明両党は予算審議と平行して、野党側との個別の協議も続ける方針だ。そのうえで、最終的には予算案や税制改正法案の一部を修正してでも野党の協力をとりつけ、予算案の衆議院通過をめざすものとみられる。

こうした与党と野党側の調整の司令塔の役割を果たしているのが、自民党の森山幹事長だ。森山氏は国対委員長時代の人脈などを活かして、国民民主党と維新の両方か、いずれか一方の協力を取りつけるのではないかとの見方が与党だけでなく、野党側の関係者からも聞かれる。

問題は、思わぬところで与野党折衝のボタンの掛け違いなどで、合意のとりまとめが狂ってしまうことがある。今回は与党過半数割れを受けて、衆院予算委員長ポストが立憲民主党の安住氏に代わっていることもあり、予算委員会の採決の日程や段取りなども問題になる。

野党の一部の協力を得て、予算案の衆院通過ができれば、参院での予算成立まで近づくことになる。また、会期末に野党第1党の立憲民主党が内閣不信任決議案を提出する場合でも、野党の一部が同調しない可能性も大きくなる。

逆に予算案の衆院通過ができなくなると、政権が行き詰まることになる。したがって、与党と国民民主、維新、立憲民主の各党の政策協議のゆくえが進展するかどうかがカギを握る。同時に予算案の賛否と衆院通過の時期が通常国会前半戦の焦点になる。

波乱要素が多く、先行きが見通せない”乱気流国会”が、最終的にどのような形で決着がつくか、最初の関門である予算案の衆院通過を見ることによって判断できることになりそうだ。(了)

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”衆参ダブル選挙説”の見方・読み方

新しい年が明けて石破首相をはじめ各党党首は、それぞれの党の仕事始めや記者会見、海外訪問に出発するなど本格的な活動を始めた。

各党首の年頭記者会見などを聞くと、衆議院の与党過半数割れという新しい政治状況を受けて、年明けの通常国会は新年度予算案などの修正を含め与野党の激しい攻防が予想される。

一方で、内外情勢が厳しさを増す中で、党派を超えて合意を図る政治をめざすべきだという方向では多くの党が一致しているので、対立だけでなく歩み寄り、一定の成果も期待できるのではないか。

こうした中で、今年は夏の参議院選挙に合わせて衆院の解散・総選挙を行う「衆参同日選挙」がありうるのではないかとの見方も聞かれる。この衆参ダブル選挙説は、参議院選挙が近づくにつれて今後も浮上することが予想されるので、どの程度の確率があるのか探ってみたい。

 ダブル選挙、少数与党から脱出へ

最初に今年前半の政治日程を確認しておくと年明けの通常国会は今月24日に召集される見通しで、会期末は6月22日になる。会期延長がない場合は、公職選挙法の規定などで、夏の参議院選挙は7月3日公示、20日投開票という日程になる。

一方、東京都議選は、6月下旬から7月初めにかけて投開票が行われる見通しだ。4年に一度の都議選と、3年ごとの参院選が12年ぶりに同じ年に重なる「巳年選挙」になる。

さて、その都議選に続いて行われる参議院選挙に合わせて、衆議院選挙を行う「衆参同日選挙説」が取り沙汰されている。

石破首相自らも年末の民放テレビ番組で、衆参同日選挙の可能性を問われたのに対し、「これはある。参議院と衆議院の時期が同時ではいけないという決まりはない」とのべた。その後、発言を軌道修正したが、政界に波紋を広げた。

自民党内では先の衆院選で大敗し、国会では野党の攻勢に譲歩を重ねていることに不満が鬱積している。このため、何とか早期解散に持ち込み、過半数割れからの脱出を図りたいという思いは強い。

また、先の衆院選では公認から外れた候補にも2000万円を支給した問題が敗北の決め手になったとの受け止め方が強く、これがなければ次の衆院選では一定の議席の回復は見込めるとの見方も出ている。

そして、野党側が例年と同じように会期末に内閣不信任決議案を提出することが予想されるため、それをきっかけに衆院解散に踏みきり、衆参ダブル選挙を断行してもいいのではないかとの意見が政権内にもあるのは事実だ。

こうした早期解散論の背景としては、石破首相と森山幹事長ら党執行部としては、少数与党で思うような政権運営が描けないため、解散説を流すことによって野党側をけん制するねらいがあるものとみられる。今後も国会での与野党の攻防が緊迫する際に、衆参ダブル選を模索する動きが出てくることが予想される。

 政権の求心力弱く、ダブル選は困難か

さて、自民党内の一部から衆参ダブル選期待論が聞かれるのは事実だが、実現へのハードルは極めて高い。過去2回の衆参同日選挙のうち、2回目は1986年の中曽根政権の時で、自民党が圧勝した。

当時、中曽根内閣の世論の支持は高かった。現場を取り仕切ったのは最大派閥・田中派幹部の金丸幹事長で、2人が組んで用意周到、定数是正法案も絡めて秘策を尽くし、ダブル選挙に持ち込んだ。強力な政権だったからこそ、実現が可能だった。

これに対して、今の石破政権は衆院で少数与党であり、自民党内の掌握、野党との折衝体制、衆院選に向けた選挙体制づくりなど整っていないようにみえる。

また、連立政権なので、公明党の理解と協力が不可欠だ。その公明党は、政界進出の原点である都議選と参院選に専念したいのが本音だとみられる。山口那津男元代表は8日、石破首相との会談後、記者団に「衆参同日選は望ましくない」との考えを示した。

さらに報道各社の世論調査をみると石破内閣の支持率は、朝日新聞の調査(12月14,15両日)で36%、不支持率は43%。読売新聞の調査(12月13~15日)では支持率39%、不支持率は48%と低迷している。自民党の支持率も20%台前半まで低下している。「政治とカネ」をめぐる取り組みを「評価しない」との受け止めが多く、世論の信頼回復には遠く及ばないのが実状だ。

選挙に詳しい自民党関係者に聞くと「衆参ダブル選は昭和の時代、党の支持率は高いのに保守層が投票所に足を運ばなかった。この状態を打開するために投票率を上げると同時に、議席の大幅拡大もねらった選挙戦略だった。今のような低支持率の政権にはまったく適合しないので、止めた方がいい」と指摘する。

先の衆院選挙の出口調査(朝日新聞、比例代表)をみると無党派層の投票先は、最も多かったのは立憲民主党の22%、2位が国民民主党の18%で、自民党は14%の3位に止まっている。仮に衆参ダブル選挙が実現したとしても今のような選挙情勢では野党側に競り負け、衆参ともに一気に政権から転落する可能性もある。

一方、立憲民主党の野田代表は、内閣不信任決議案は「会期末だから出すといった『竹光』を振るってチャンバラをやる時代ではない。『伝家の宝刀』だと思って刃をよく磨いておきたい」として、自民党内の動きを見ながら慎重に対応するする構えだ。

このようにみるとこの夏の参議院選挙に合わせた衆参ダブル選挙の可能性は、極めて低いというのが結論になる。この夏は、都議選に続いて、参議院選挙が最大の政治決戦になるとみている。

その参議院選挙について森山幹事長は、7日の自民党仕事始めの後の記者会見で勝敗ラインについて「与党で過半数を死守することだ。参議院全体でも改選議席でも過半数を果たすことが大事だ」とのべ、与党で改選議席の過半数である63議席以上をめざす考えを明らかにした。

これに対して、立憲民主党の野田代表は「少なくとも改選議席の与党の過半数割れを実現したい」として、特に32ある1人区で野党が候補者を1人に絞って対決していく戦いをめざしている。

夏の参議院選挙では与野党が真正面からぶつかり、与党が改選議席の過半数を獲得すれば石破政権が続投することになるが、過半数を割り込むと石破首相の政治責任論が浮上し、政局は一気に流動化することになりそうだ。(了)

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”波乱含み政局、ヤマ場は参院決戦”新年見通し

新しい年・2025年の日本政治は、どのように展開するだろうか。昨年秋の衆院選の結果「与党過半数割れ、各党競合時代」に入ったように見える。

自民党は比較第1党だが、石破政権は野党の攻勢で「103万円の壁」の見直しや企業団体献金などの問題は新年に持ち越した。これまでのように主導権を発揮できる状況にはない。

与党過半数割れで新年の政治は見通しにくいが、端的に言えば「政局は波乱含みで推移するものの、石破政権は予算成立にはこぎ着け、夏の参院選挙が政局のヤマ場になる」との見方をしている。

今年の政治を特徴づける点は何か、政治はどのように展開するか、そして私たち国民はどのような視点で政治を見ていく必要があるのか、年の初めに考えてみたい。

 少数与党政権、波乱含みの展開必至

今年の政治の特徴は、冒頭に触れたように「衆議院が与党過半数割れという新しい政治状況に変わったこと」にある。与党で過半数に達しないので、野党の協力がなければ、予算案や法案は1本も成立させることはできない。

野党が一致して内閣不信任決議案を提出すれば可決できることになり、衆院を解散しない限り、政権は内閣総辞職に追い込まれる。

自民党は1983年のロッキード判決選挙のように過半数を割り込んだことはあったが、新自由クラブと連立を組んだりして危機を脱した。今回のように少数与党政権に追い込まれたのは、結党以来初めてだ。

石破政権は発足当初から、考え方の近い国民民主党に働きかけ、政策協議に持ち込んで政権を維持してきた。だが、少数与党政権で政権の基盤は弱く、今年の政治は波乱含みで推移する可能性が大きい。いつ政権に波乱、混乱が起きても不思議ではないことを確認して、新年の政治の動きを見ていく必要がある。

政権に3つのハードル、野党は個別攻勢

そこで、石破政権と今年の政治はどのように展開するだろうか。平たくいえば「石破政権はいつまで持つのか?」ということになり、そのゆくえを左右するのは「政府予算案の扱い」になる。

政府予算案の審議が難航し、成立困難となると政権は成り立たず、政変となる。石破政権は少数与党であり、1月24日に召集される通常国会は緊迫した展開が続く見通しだ。当面、「3つのハードル」が想定される。

第1のハードルは、新年度予算案と税制改正関連法案が衆議院で可決され、「衆議院通過」ができるかどうかだ。2月下旬から3月上旬頃になる。

第2のハードルが、参議院へ送られた「予算案と税制関連法案の成立」にこぎ着けられるか。3月末まで年度内成立ができるかが、焦点になる。

第3のハードルが「通常国会会期末の与野党攻防と夏の参院決戦のゆくえ」だ。通常国会が1月24日召集の場合、会期末は6月22日。会期延長がなければ、公職選挙法の規定などで「7月3日公示、20日投開票」の日程になる。

具体的にどのような展開になるかは、野党側の攻勢がカギを握る。特に今回は、少数与党の国会だけに、野党の対応が焦点になる。

まず、国民民主党は昨年の臨時国会から「103万円の壁」の見直しを強く迫っている。自民、公明両党は123万円まで引き上げることを決定したが、国民民主党は178万円への引き上げを譲らず、年明けに3党の協議が再開される見通しだ。

国民民主党の玉木代表(現在、代表の職務停止中)は「引き上げ幅が不十分な場合は、新年度予算案に賛成しないこともある」と強くけん制しており、激しい駆け引きが続く見通しだ。

日本維新の会は高校の授業料無償化を強く求め、自民、公明両党との間で来年2月中旬をめどに政策の方向性をまとめることで合意した。

野党第1党の立憲民主党は、年収130万円を超えると国民年金などの保険料の負担が生じる「130万円の壁」を重視し、年収200万円までの人などを対象に給付で補助する制度の導入を求めている。

また、立憲民主党は野党がまとまって対応していくことが重要だとして、「公立の小中学校などの給食費を無償化するための法案」を維新、国民民主と共同で年末に提出した。立憲民主党は衆院予算委員会の委員長ポストを獲得しており、予算審議は野党の意向が反映されることが予想される。

このように野党の攻勢は強まる見通しだが、野党各党は要求内容を調整したうえで、与党に実現を迫る構図にはなっていない。それぞれ個別に協議を行い成果を競い合う形で、党の存在感をアピールしようとしているのが実態だ。

このため、自民党は野党各党からの要求に厳しい対応が迫られる反面、野党を分断することも可能になる。先の補正予算と同じように国民民主党と維新の両方か、どちらか1党の賛成を得られれば、予算成立のメドがつくことになる。

今の時点では、与野党合意のメドは全くついていない。但し、野党側も一定の成果が欲しいし、自民党側も政権維持が最優先事項で、そのためには税制法案などの修正に向けてカジを切る可能性は十分ある。

自民党の長老に聞くと「石破政権と党執行部は、最終的には予算案や税制関連法案の修正に応じて成立までこぎ着けるのではないか」との見方を示す。その場合、石破政権は第1と第2のハードルは越えることになる。

ところで、年明けの動きとして石破首相は、トランプ次期大統領側からの打診を受けて1月中旬の訪米を検討してきたが、この時期は見送る方向で調整に入った。通常国会召集などを控えており、十分な準備をして臨む方が得策だと判断したようだ。この判断が、吉と出るか凶と出るか注目している。

もう1つ、東京都議会自民党が、政治資金パーテイー収入を政治資金収支報告書に記載せず、裏金として処理していた疑惑が浮上している。裏金の総額は5年間で3000万円にも達するとされる。

通常国会では、自民党派閥の裏金問題の実態解明が持ち越されているほか、企業・団体献金の禁止について3月末までに結論を出すことになっている。都議会自民党の裏金問題は、通常国会の与野党攻防や、都議選、参院選にも大きな影響を及ぼしそうだ。こうした波乱要因についても注意が必要だ。

夏の参院決戦、石破政権・政局を左右

ここまで予算案を中心に見てきたが、石破首相が何とか予算審議を乗り切った場合、政局のヤマ場は3つ目のハードルである「会期末の与野党攻防と参議院選挙」に移る可能性が大きい。

予算が成立した場合でも自民党内には「次の参院選は石破首相では戦えない」などとして”石破降ろし”が起きるのではないかとの見方があるが、どうか。

自民党の長老は「旧安倍派の勢力が先の衆院選挙で半減し、反主流派の態勢が整っていない」と指摘したうえで、「石破降ろしとなると党内が紛糾し政権から転落する恐れもある」として、石破降ろしの動きは広がらないとの見方をする。

そうすると波乱要因としては、野党が会期末に内閣不信任決議案を提出し、それをきっかけに衆院解散につながることも予想されるが、どうだろうか。

石破首相は年末のテレビ番組で「内閣不信任決議案が可決したりした場合、夏の参院選挙に合わせた『衆参同日選挙』を行うこともありうる」との考えを示し、波紋が広がった。

立憲民主党の野田代表は「与党少数の下での内閣不信任案は、これまでとは重みが決定的に違う。不信任案提出は、政権にトドメを刺すときに限られる」と極めて慎重な考え方を示している。

自民党の長老は「衆参ダブル選挙で自民党が勝てるというのは、昔の話だ。投票率が上がって、今の政権や自民党の支持が増える保証はない」と衆参同日選挙は困難との見方をする。

このようにみてくると衆参同日選挙の可能性は極めて低く、夏の参院選挙が最大の政治決戦となる見通しだ。会期延長がなければ、7月3日公示・20日投票となる。3連休の中日という異例の日程で、投票率の低下を懸念する声も聞かれる。

その参院選挙は、自民、公明の与党側は非改選議員(28年任期満了)が75人と”貯金”が多いため、50議席を確保すれば参議院で自公の過半数は維持できる。但し、石破政権の評価は「改選議席の過半数」を獲得できるかどうか、こちらが「勝敗ライン」になるとの見方が強い。(2025年参院改選議席は125=議員総定数の半分124+非改選の東京選挙区1→この過半数を獲得できるかが勝敗ライン)

その勝敗のカギは定数が1人の1人区の攻防で、32選挙区に上る。野党が候補者を1本化すれば、野党有利の選挙区が増えるとみられる。立民、維新、国民民主、共産の野党各党の足並みがそろうかどうかで選挙の様相は変わってくる。

石破首相にとって、仮に自公で改選議席の過半数を維持できない場合は、衆院選に続く敗北となり、自民党内から責任論が強まることが予想される。参院決戦の結果が、今年の政局を左右することになる見通しだ。

混迷・混乱か、新たな合意型政治か

2025年の新しい年は、アメリカではトランプ大統領が1月20日政権に返り咲き、世界の貿易、経済、国際秩序は激しく揺さぶられることになるだろう。米中関係をはじめ、ロシアによるウクライナ戦争、中東情勢も変化が予想される。

日本は今年、戦後80年の節目を迎える。長期にわたって平和を維持し、驚異的な経済成長を成し遂げたが、この数十年は経済の停滞、急速な人口減少とさまざまな分野の制度疲労、防衛力整備の進め方など多くの課題・難問を抱えている。

激動が予想される内外情勢に対して、日本の政治は有効に対応できるのだろうか。また、与党過半数割れという新たな政治状況の中で与野党は「混迷・混乱の政治」に陥ることはないのか、「新たな合意形成型の政治」へ踏み出すことができるのかが問われている。

私たち国民も国際社会や日本政治の動きを注視しながら、どのような日本社会をめざしていくのか自ら考え、選挙などを通じて意思表示していく取り組みが求められているのではないか。(了)

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懸案は越年へ”五里霧中の石破政権”

先の衆院選挙で少数与党となった石破政権にとって、初めて本格的な論戦の舞台となった臨時国会は24日閉会した。焦点の「政治とカネの問題」のうち、政策活動費の廃止などを盛り込んだ政治改革関連3法はようやく成立にこぎつけた。

最大の焦点だった企業団体献金の廃止をめぐっては、自民党と野党側の主張が対立し結論を来年3月末に持ち越したほか、裏金問題の実態解明は進まなかった。

もう一つの焦点である「103万円の壁」の問題は、与党が123万円に引き上げる方針を示したのに対し、国民民主党は納得せず、来年に持ち越される見通しだ。

臨時国会閉会を受けて石破首相は24日夕方、記者会見し「少数与党の中、他党にも丁寧に意見を聞き、可能な限り幅広い合意形成を図り『熟議の国会』にふさわしいものになった」とのべ、政治改革関連法や補正予算成立の意義を強調した。

だが、少数与党に転じた石破政権は、懸案の多くが来年に先送りになったのをはじめ、主要政策の決定でも主導権を発揮できず、政権運営は五里霧中の状態にあるようにみえる。残りわずかとなった2024年、ここまでの石破政権をどのように見たらいいのか考えてみたい。

政治改革一部実現も、多くの課題が越年

臨時国会は会期末の24日、参議院政治改革特別委員会で、政策活動費の廃止などを盛り込んだ3つの関連法案について採決を行って可決したのに続いて、参議院本会議でも与野党の賛成多数で可決、成立した。

これによって、石破首相がめざした政治資金規正法の再改正については、ようやく実現にこぎ着けた。

一方、最大の焦点になっていた企業団体献金の廃止をめぐっては、与野党の意見が大きく隔たり歩み寄りができなかったため、来年3月末までに結論を出すことになった。

また、裏金問題の実態解明に向けて、不記載議員が衆参両院の政治倫理審査会で弁明を行った。だが、安倍派で安倍元首相が資金還流を取り止める方針を決めた後、安倍氏死去後に還流が復活した経緯などについては、新しい事実は明らかにならなかった。

これに関連して、安倍派の元会計責任者が裁判で「資金還流の復活は幹部議員の会合で再開が決まった」と証言し、安倍派幹部の弁明と食い違うことから、野党側が元会計責任者を参考人招致するよう求め、年明け以降、協議が行われることになった。

このように政治資金関連法の再改正は実現にこぎ着けたものの、新たに設置が決まった第三者機関の制度設計をはじめ、企業団体献金の扱いなど多くの課題は年明け以降に持ち越された。

「103万円の壁」異例の年明け協議へ

もう1つの焦点である「103万円の壁」をめぐって、自民、公明の与党側は、所得税の控除額を123万円に引き上げる方針を決めたのに対し、178万円への引き上げを求める国民民主党と意見が対立したままとなっている。

自民、公明両党と国民民主党の政務調査会長と税制調査会長は24日に会談する予定だったが、出席者の都合がつかず日程を再調整することになった。控除額の取り扱いをめぐる本格的な協議は、異例の年明け以降に持ち越される見通しだ。

3党の関係者によると「税制改正法案が国会に提出されるのは、来年2月上旬以降になることから、それまでに3党協議で結論を出せばよい」との見方がある。

自民党にとっては、来年度予算案と税制改正法案の衆議院通過や成立のためには、野党の一部の賛成を得ることは必要不可欠の条件だ。このため「土壇場で控除額をさらに引き上げることはありうるのではないか」との見方を聞く。

一方、自民党は、日本維新の会との間で教育無償化をめぐる協議を行うことになった。このため、自民党内には「予算案などを成立させるうえで、国民民主の賛成が得られなければ、維新の賛成を得ることを検討してはどうか」といった両天秤にかける見方も聞かれ、年明けの与野党協議は複雑な駆け引きが予想される。

 石破首相と自民、問われる覚悟と戦略

そこで、ここまでの石破政権の政権運営をどのようにみるか。少数与党政権に変わった石破政権は発足当初から、政策面で共通点の多い国民民主党を対象に政策協議を進め、補正予算案や主要政策を前進させる方針を固め、交渉を重ねた。

その結果、首相指名選挙で国民民主党は立憲民主党と距離を置き、石破首相は首相指名を受けることができた。難関の補正予算案についても国民民主党に加えて、日本維新の賛成を得て成立にこぎ着けた。

一方で、臨時国会の大きな焦点となった「政治とカネの問題」、政治資金規正法の改正をめぐっては、野党の攻勢にさらされた。自民党は、政策活動費に非公開枠を設けようとしたが、野党各党の強い反発と公明党の賛同も得られずに孤立し、最後は野党7党共同案の丸飲みに追い込まれた。

こうした対応は、国会の攻防だけに止まらず、国民世論にも大きなマイマスイメージを与えた。12月の報道各社の世論調査を見るといずれも石破内閣の支持率は下落し、支持率を不支持率が上回った調査もあった。

自民党の支持率も同時に下落したのが特徴で、内閣、自民党そろって支持率が下がる深刻な状態だ。その主な要因は「政治とカネの問題」に踏み込んだ対応をしようとしない姿勢に世論の多くが不満や失望を感じたためだとみられる。もちろん、物価高や経済政策に対する不満などもあるとみられる。

端的に言えば、石破首相は「政治とカネの問題」については守るべき点は守る一方で、改める点を大胆に打ち出していく対応が必要だった。そうした「覚悟と戦略」がなかった点が政権運営面での最大の弱点ではなかったか。

少数与党政権の石破首相は「謙虚に、真摯に野党の声に耳を傾ける」と強調する。そうした姿勢は重要だが、政権の最高責任者として自らの考えを明確に示し、そのうえで各党との議論を通じて国民を説得し、場合によっては修正する柔軟な姿勢が必要だ。五里霧中の政権運営から脱する方法の1つだと思う。

年明けの通常国会では、持ち越された「103万円の壁」の引き上げや、企業団体献金をはじめとする「政治とカネの問題」への対応が待ったなしの状態だ。

また、来年度予算案の審議が最大の焦点になるほか、国際社会ではアメリカのトランプ次期大統領が再登場し、外交・安全保障面の対応も大きな課題になる。

通常国会の直後には参議院選挙も予定されており、私たち国民にとっても日本の進路と政治のあり方をどのように考えていくのか判断が問われる年になる。(了)

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政治改革3法案成立へ”意味と影響は”

今の臨時国会の焦点になっている政治資金規正法の再改正をめぐって、政党が幹部議員に支給している政策活動費を全面廃止にするなど3つの政治改革関連法案が衆議院で可決され、参議院へ送られた。今の国会で成立する見通しだ。

一方、最大の焦点になっていた企業団体献金については、与野党の主張が隔たったままで合意点を見いだすことはできず、来年3月末をメドに結論を出すことになった。

いずれも先の衆院選で大きな争点になった問題だが、こうした結果をどう見るか。「不十分な点は多いが、ようやく具体的な改善策が動き出し、一歩前進」との評価を個人的にはしている。なぜ、こうした評価になるのか、今後は何が問われているのか、さまざまな角度で考えてみたい。

政治改革3法案可決、企業献金は越年へ

まず、衆議院の特別委員会と本会議で17日に可決され、衆議院へ送られた法案を確認しておきたい。

1つは、政党から幹部議員などに渡される「政策活動費を全面廃止にする法案」だ。立憲民主党、維新、国民民主、共産など7党が共同で提出した。

2つ目は、「政治資金の支出を監視する第三者機関を国会に設置する法案」だ。公明党と国民民主党が共同で提出した。

3つ目は、「外国人によるパーテイー券の購入禁止や、収支報告書をデータベース化して検索しやすくする制度などを規定した法案」で、自民党が提出した。

このうち政策活動費の廃止をめぐっては、自民党は一部の支出先を非公開にできる「公開方法工夫支出」を設けることを主張したが、野党側の強い反発と与党・公明党からも賛同を得られず、撤回に追い込まれた。

結局、自民党は、野党7党が共同で提出した案を丸飲みする形で賛成に回った。こうした政治改革関連3法案は参議院へ送られ、今の国会で成立する見通しだ。

一方、立憲民主党などが提出した「企業団体献金の禁止を盛り込んだ法案」については、与野党の主張に大きな隔たりがあることから先送りし、来年3月末に結論を得ることを与野党で申し合わせた。リクルート事件以来「30年来の宿題」となっている企業団体献金は今回も年を越すことになった。

 政治改革前進、選挙の民意が後押し

政治とカネの問題をめぐっては、旧文通費=現在の「調査研究広報滞在費」の使い途の公開などを盛り込んだ法案も17日衆議院で可決され、参議院で成立する見通しになっている。3年以上も前からの懸案で、議員1人あたり月100万円・年間1200万円の使い途が来年8月から公開されることになる。

このように見ると企業団体献金は先送りになったものの、政治資金に関連する部分については、一定の範囲ながらも改善策を盛り込んだ法案が成立するメドがついた。

こうした背景には、先の衆院選挙で「裏金問題の実態解明と政治改革」が争点になり、政権与党が過半数を割り込むなど政治状況が大きく変わったことが影響している。選挙後の国会では、与野党双方ともに政治改革の実現を求めた民意を意識して法案成立へと動いた。

一方、国民にとっても選挙で大きな争点になった「103万円の壁」が引き上げられたり、「政治とカネの問題」も改善に向けて動き出したりするなど政治の変化を実感した方も多いのではないか。いずれにしても選挙結果が、政治を動かした数少ないケースだ。

 戦略なき対応、石破政権・自民党

それでは、政治とカネの問題をめぐって石破政権と自民党の対応は、どうだったのだろうか。衆院選挙の結果、30年ぶりの少数与党政権に転じ、石破首相にとっては全く別の世界に立たされた。

石破政権としては、政策面で主導権を発揮する立場にはなく、野党の主張を取り入れながら、譲るべきところは譲り、逆に守り抜く点は国民に訴えながら死守していくしかない難しい対応を迫られた。

その石破首相の対応だが、臨時国会冒頭の所信表明演説では、外交・安全保障政策や、経済対策と補正予算案などの説明に多くの時間を充てた。焦点の政治改革の問題は最後の方で「年内に必要な法整備も含めて、結論をお示しする必要があると考えています」と表明するのに止まった。これでは、政治改革は及び腰と受け取った国民が多かったのではないか。

一方、自民党は政治改革本部で、政治改革案をとりまとめたが、企業団体献金の扱いには踏み込まなかった。各党との協議でこだわったのは、政策活動費の廃止を認める代わりに、支出先を非公開にできる「公開方法工夫支出」の創設だった。

これに対して、野党各党はそろって強く反発し、与党の公明党からも賛同を得られずに孤立して、提案の撤回に追い込まれた。

この時期に行われた報道各社の世論調査ではいずれも、石破内閣の支持率と、自民党の政党支持率がそろって下落した。石破政権と自民党は、政治改革の取り組みが後ろ向きだと受け止められたことが影響したものとみられる。

石破政権は、丸飲みするところは最初から丸飲みする一方、主張すべき点は最後まで譲らないメリハリのとれた対応ができていれば、世論調査の評価も変わっていたかもしれない。

要は、この国会での石破政権と自民党の対応は、新たな政治状況の中でどのような姿勢で臨むのか、戦略が定まっていなかったことが国会で孤立することになった最大の要因ではなかったか。

今回、石破政権は企業団体献金を維持することはできたが、来年3月末に再び結論を出すことを迫られることになる。来年度予算案の成立と合わせて、企業団体献金などの政治改革が与野党の争点として浮上することが予想される。

 野党も責任、政治資金のあり方など

一方、野党側も今後の対応が問われる。特に野党第1党の立憲民主党は、企業団体献金禁止を強く主張し、そのための法案を4党派共同で提出したが、野党全体にまで賛同が広がらなかった。

国民民主党や維新からは「立憲民主党の案では『政治団体からの寄付』が除外されており、業界団体や労働組合からの献金が抜け穴として残されている」との批判が最後まで消えなかった。

この点について、立憲民主党から、明確な説明はなされていない。企業団体献金をめぐっては禁止論が根強くある一方で、政党によっては活動を支える政治資金の基盤に関わる問題でもある。また、政治資金集めのパーテイーの扱いも一定の範囲で認めるのかどうかを明確にしておく必要がある。

そこで、来年の春までに各党は「政治活動と、政治資金の関係の全体像」がわかる議論を行うべきだ。そして与野党が一定の考え方をとりまとめてはどうか。そのうえで、企業団体献金をはじめ、第三者機関の性格や権限など残された課題についても決着をつけてもらいたい。

与党過半数割れという新たな政治状況の中で、政治改革の取り組みでは、不十分な点も多いが、新しい与野党の対応として評価できる点もある。この国会では、「年収103万円の壁」の扱いが残されている。

いずれも先の衆院選挙で争点になったテーマであり、その後の国会で、具体的な対応策が動き出している。こうした前向きの動きが来年の通常国会でも続くのかどうか、そして来年夏の参議院選挙でさらに加速されるのかどうかみていきたいと考えている。(了)

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”どこまで進むか”政治改革の年内決着

先月28日に召集された臨時国会は、9日から物価高対策や能登半島地震の復旧対策などを盛り込んだ補正予算案について、衆参両院の本会議で財政演説と各党代表質問が行われ、審議入りする。

もう一つの焦点である政治資金規正法の再改正は、与野党がそれぞれ提出した法案の審議が10日から始まる見通しだ。

さらに先の衆院選挙で国民民主党が訴えた「103万円の壁」の見直しについては、自民、公明、国民民主の3党が来年度税制改正の中で、引き上げ幅や財源などを中心に協議を続けている。

このように今の国会は、補正予算案、政治改革、税制改正の3つの問題が事実上、同時平行の形で進むことになる。

このうち、補正予算案の扱いと「103万円の壁」の協議は難航しているものの、自民党は政権維持のためには国民民主党との間で妥協案をまとめる以外に選択肢はない。このため、税制改正と補正予算案は最終的に合意に達するものとみられる。

一方、政治改革について、石破首相は「年内に必要な法整備を含めて、結論を出す」と表明しているが、自民党と野党側との主張には大きな隔たりがあり、年内決着が図られるのか見通しはついていない。会期末まで2週間を切った中で、政治改革はどうなるのか、何が問われているのか考えてみたい。

 自民案、企業団体献金には触れず

政治とカネ・政治資金規正法の再改正をめぐっては、自民党の呼びかけで、与野党は「政治改革に関する協議会」で協議を続けてきたが、意見の隔たりが大きく、合意点を見いだすことはできなかった。

このため、各党はそれぞれ独自の改正案を提出し、国会の特別委員会で審議を行うことになり、10日にも最初の委員会が開かれる見通しだ。

このうち、自民党がまとめた政治改革案では、◆政党が議員に渡す「政策活動費」を廃止する一方、外交上の秘密に関わるなど公開に特に配慮が必要な「要配慮支出」を設け、収支報告書に相手の氏名や住所、支出の目的などを記載しないことができるとしている。

そして、◆第三者機関として国会に「政治資金委員会」を設置し、「要配慮支出」を監査するとしている。

一方、立憲民主党などの野党側が求めている◆企業・団体献金の禁止については、触れていない。

こうした案をどのように評価するかだが、まず「要配慮支出」については、政治資金の透明化を進めようとする中で、「新たなブラックボックスを設ける案」などと批判が多く、国民の理解が得られるか疑問だ。

また、企業団体献金について、自民党は一貫して見直しの対象外としており、政治改革に前向きの姿勢が感じられないのは残念だ。これでは、先の衆院選挙で厳しい審判を受けたことに対して、反省と出直しの意思が国民につたわらないのではないかと思う。

 野党は攻勢、足並みに乱れも

野党側は、裏金問題の実態解明と政治資金規正法の再改正、旧文通費の見直しについては、今の国会で決着をつけるべきだとして、実現を強く迫る構えだ。

このうち、政策経費について野党側は、自民党の「要配慮支出」は「抜け穴」になるとして反対している。立民、維新、国民民主、共産、参政党、日本保守党、社民党の野党7党は4日、政策活動費を「完全禁止」とする法案を衆議院に共同提案した。

一方、企業団体献金の扱いについて、立憲民主党は「政治改革の本丸であり、今国会で結論を出すべきだ」として、企業団体献金を禁止する法案を他の野党と共同で提出する方針だ。

維新や共産などの各党も禁止する方針だが、国民民主党は「企業団体献金を禁止する場合、業界などの政治団体の扱いを明確にしないと抜け道となる可能性がある」として、慎重な姿勢を示している。

このように野党側には温度差がみられ、足並みは必ずしもそろっているとは言えない。このため、各党ともそれぞれ独自案を提出したうえで、特別委員会で審議を続けながら、多数派形成に向けて働きかけを行うことにしている。

政治改革、信頼回復の成果を示せるか

今の国会の会期末は21日までで、政府・与党は補正予算案は12日に衆院を通過させ、翌週の成立をめざしている。だが、与党は少数に転じ、予算委員会の委員長も立憲民主党議員に代わり、審議日程がどうなるか見通せない状態だ。

また、自民党と国民民主党の間では「103万円の壁」に関連した与党税制改正大綱の決定時期と、補正予算案の賛否の時期をどのように設定するかといった調整も残っている。

このため、法案の審議日程が足りず、国会の会期延長が浮上する可能性もある。特に政治資金規正法の再改正をめぐっては、審議日程と法案の出口がどのようになるのか、全くメドがついていない。

したがって、◆規正法の改正案などがすべて越年するケースをはじめ、◆与野党が合意した法案だけ年内に成立、それ以外は先送りといったさまざまなケースが想定される。与野党ともに年内決着を掲げているが、どこまで合意できるかは、これからの協議次第というのが実状だ。

但し、年内決着の成果が限られたものになれば、世論の政治不信はさらに強まることが予想される。与野党とも党の独自性を発揮したいとの思いはわかるが、政治全体の信頼回復に向けて踏み込んだ対応が必要ではないか。

政権を担う石破首相も、いつまでも政治とカネの問題を引きずっていれば、内外の懸案に取り組むことができなくなることは明らかだ。ここは、党内を説得しながら、長年の懸案に決着をつけられるか判断が問われることになる。

この1年は政治とカネの不祥事に明け暮れたが、国民としては、年の瀬の最後に「政治が一歩踏み出した成果」を見せてもらいたいところだ。年内に政治改革がどこまで進むのか、しっかり見届けたい。(了)

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”少数与党国会”開会、3つの注目点

先の衆院選挙の後、初めての本格的な論戦の舞台となる臨時国会は29日、天皇陛下をお迎えして開会式と石破首相の所信表明演説が行われた。これを受けて、12月2日から各党の代表質問が始まり、政府・与党と野党側との間で活発な議論が戦わされる見通しだ。

この国会は、先の衆議院で自民、公明の両党が15年ぶりに過半数割れしたことで、国会の審議や与野党の攻防も大きく様変わりすることになりそうだ。そこで、この国会はどこをみておくとわかりやすいのか、注目点を3つに絞ってみていきたい。

①政治改革、年内決着つけられるか

最初に国会の日程を確認しておくと29日の石破首相の所信方針演説を受けて、12月2日から4日まで衆参両院で各党の代表質問が行われる。続いて、石破首相にとって就任以来初めての予算委員会が5日、6日の両日行われた後、9日から今年度の補正予算案が審議入りする。会期は21日までの24日間になる。

この臨時国会の注目点の第1は、先の衆院選挙でも大きな争点になった自民党派閥の裏金問題のけじめと政治改革について、国会の場で決着をつけることができるのかどうかだ。

石破首相は政府・与党連絡会議で、政治とカネの問題について「国民の多くが未だに納得していないという事実を重く受け止めている」とのべるとともに「責任政党として、各党との協議を率先して行っていく」とのべ、年内の政治資金規正法の再改正をめざして各党との協議を急ぐ考えを表明した。

自民党は21日の政治改革本部で、政策活動費の廃止などを盛り込んだ政治改革案をまとめ、これを基に各党協議に臨む方針だ。一方、焦点の企業団体献金の見直しについては触れていない。

これに対して、立憲民主党や日本維新の会、国民民主党、共産党など野党7党の国会対策委員長らは28日に会談し、政策活動費や企業団体献金の取り扱いを含む政治改革で成果を上げられるよう協力して取り組んでいく方針を確認した。

政治改革をめぐっては最大の焦点である企業団体献金について、野党側が廃止の方針を打ち出しているのに対し、自民党は存続の考えを変えておらず、双方の意見は対立したままだ。

また、野党間でも立民、維新、共産などの各党は廃止の方針を打ち出しているのに対し、国民民主党は慎重な姿勢をのぞかせるなど温度差があるのも事実だ。

このため、政治改革の具体的な内容や制度設計の問題のほか、企業団体献金の扱いが最後まで残る可能性がある。年内に政治資金規正法の再改正まで進むことができるかどうか見通しはついていないのが実状だ。

②「103万円の壁」引き上げ幅が焦点

注目点の2つ目は「年収103万円の壁」の問題だ。先の衆院選挙で国民民主党が訴え、国民の大きな関心を集めた。そして選挙後、与党側は野党の協力を得るねらいもあって、国民民主党との間で協議を続けてきた。

その結果、自民・公明の両党は20日、国民民主党との間で、政府の新たな経済対策に、所得税がかかる年収の最低額である「103万円の壁」の引き上げを盛り込むことで合意した。これを受けて3党は、税制会長などが引き上げ幅や、財源などについて協議を続けている。

この「年収103万円の壁」について、石破首相は29日に行った所信表明演説で「2025年度税制改正の中で議論し引き上げる」と表明した。政府・与党としては、こうした考えを示すことによって国民民主党が補正予算案に賛成することを期待している。

これに対して、国民民主党の幹部は「一番の問題は非課税枠の引き上げ幅で、178万円までの引き上げを強く求めている。引き上げ幅が不十分な場合は、税制協議などから離脱することもありうる」と強気の姿勢をみせている。

自民、公明両党と国民民主党との協議が最終的に整うのかどうかは、個別の政策面だけでなく、補正予算案の賛否、さらには石破政権の存続そのものにも影響を及ぼすことになる。

一方、立憲民主党は「130万円の壁」、社会保険料の負担の軽減策を求める法案を提出しており、こうした社会保障制度のあり方も含めて活発な議論が交わされる見通しだ。

③ 少数与党国会、新たな政治の模索を

注目点の3つ目は「少数与党政権に転じた石破政権と国会のあり方」の問題だ。まず、石破政権は衆議院では与党過半数の勢力を失ったので、野党の協力を取りつけながら国会や政権を運営せざるをえない。

所信表明演説でも石破首相は「他党にも丁寧に意見を聞き、可能な限り幅広い合意形成が図られるよう真摯に、謙虚に取り組んでいく」との考えを示した。

問題は、こうした姿勢で懸案の処理が進むかどうかだ。これまでの石破首相の政権運営をみていると、自民党内の反応を伺いながら対応していく局面が多かった。

自民党のベテランは「党内基盤が弱く、少数与党政権という厳しい状況はわかるが、政権のトップとして自らの考えを整理して打ち出し、国民に直接訴えていく姿勢が必要ではないか」と指摘する。

懸案の政治改革や「103万円の壁」などで石破首相が自らの考えを示し、党内や国民を説得しながらやり抜く覚悟が必要だというわけだ。

自民党の支持率もNHK世論調査では、衆院選挙後も30%程度に止まり低迷が続いている。衆院選大敗の原因になった「政治とカネの問題」について、未だに自浄能力が発揮できていないと国民に見透かされているからではないか。政権、自民党ともにこうした点の自覚がないと、党の再生は難しいと思う。

一方、国民は野党に対しても今の政治を変えていく意欲や能力があるのか見極めようとしているように見える。先の衆院選で国民は「与党を過半数割れ。但し、比較第1党は自民党」との判断を示した。

与党、自民党に厳しい評価を示す一方で、野党に対しても比較第1党の座を与えなかった。野党の主要な役割は政権をチェックすることだが、それに止まらず、形骸化が目立つ国会審議のあり方などを変えていく意欲や力を持っているのか試そうとしているのではないか。

これまでのところ野党の中では、国民民主党のように与党に接近し、個別の問題で前進を図る動きが出ている。これに対し立憲民主党は、国会の開かれた場で与野党が議論し合意を形成していく道をめざしているようにみえる。

与党が過半数を割り込み、どの党も単独で過半数を獲得する政党がないという新たな政治状況の中で、予算案や重要な政策をどのような形で決定していくのか、その最初の取り組みが今度の臨時国会だ。

少数与党政権自体30年ぶりの事態なので、政権や国会が多少の停滞や混乱を来すのはやむをえないのでないか。試行錯誤を重ねながら、政権与党と野党が国会を舞台に議論を尽くし、できるだけ早期に「新しい政治の仕組みとルール」をつくり出すことが最も必要ではないかと考える。(了)              ★追記(12月1日午後1時半)石破首相の所信表明演説部分は既に終了したので、過去形に表現を手直しした。

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“低い期待度”第2次石破政権の危うさ

先の衆議院選挙を受けて、第2次石破政権が11日に発足した。衆議院選挙で自民、公明両党は過半数を下回り、石破政権は15年ぶりに少数与党政権として再スタートを切った。

国民は、先の衆院選挙の結果や石破政権をどのようにみているのか。NHKの世論調査がまとまったので、そのデータを分析しながら石破政権の課題や問題点、それに衆院選後の与野党の対応などを考えてみたい。

 与党過半数割れ「よかった」61%

まず、先の衆院選挙で自民、公明両党の議席が15年ぶりに過半数を割り込んだが、この結果について国民の受け止め方から、みていきたい。

NHKの11月世論調査(15日~17日)によると「よかった」が32%、「どちらかといえばよかった」が29%で、合わせて肯定的な評価が61%に上った。これに対して「どちらかといえばよくなかった」は18%、「よくなかった」は12%で、否定的な評価の30%を大幅に上回った。

これを党派別にみると与党支持層では「よかった」が40%に対し、「よくなかった」が58%だった。野党支持層では「よかったが」が86%、無党派層でも「よかった」が70%に達した。

年代別にみると「よかった」は、すべての年代で半数を超えた。80歳以上が53%、70代が60%、60代が66%など年代が若くなるほど多くなる傾向がみられ、40代は75%で最も多く、30代から18歳までは69%だった。

 政策・実行力への低い期待度

石破内閣の支持率は41%で、10月の衆院選1週間前調査(10月18日~20日)と変わらなかったのに対し、不支持率は37%で2ポイント増えた。

支持する理由では「他の内閣より良さそうだから」が37%、「人柄が信頼できるから」が21%など消極的な理由が多数を占めた。一方、「政策に期待が持てるから」は6%、「実行力があるから」は5%で、いずれも1けた台に止まった。

支持しない理由では、逆に「政策に期待が持てないから」が34%で最も多く、次いで「実行力がないから」も18%に上った。

石破首相が第1次政権を発足させたのが10月1日で、発足時の支持率は44%と比較的低い水準からスタートとなった。それでも支持する理由として「政策に期待が持てるから」は10%、「実行力があるから」は9%あったが、わずか1か月半でほぼ半減したことになる。

衆院選挙で大敗を喫したとはいえ、国民の「政策」と「実行力」への期待度は政権維持には不可欠で、石破政権として早急な対応を迫られているのは明らかだ。

 物価・経済対策と政治改革がカギ

その「石破政権が、いま最も優先して取り組むべき課題は何か」を世論調査で尋ねている(1つだけ選択)。◆最も多いのが、景気・物価高対策で41%、◆次いで「政治とカネ」などの政治改革16%、◆社会保障制度の見直し13%、◆外交・安全保障11%などと続いている。

こうした課題や優先順位については、同じ考えの方は多いのではないかと思う。今月28日から石破政権発足後、初めて本格的な論戦の舞台となる臨時国会が始まる。野党側は、物価・経済対策として「年収の103万円の壁」の解消をはじめ、裏金問題のケジメと政治改革の具体策の実現を迫るものとみられる。

石破首相としては自民党内の調整を抱えているものの、こうした野党の要求のうち、国民生活や政治の信頼回復のために必要な対応策については、積極的に受け入れ実現をめざさなければ政権運営は困難になるだろう。

特に衆院選で争点になった政治改革の具体策の多くと「103万円の壁」については、年内の決着に向けて踏み込んだ対応を迫られものとみられる。

また、石破首相は就任以来、自らの考えをはっきりさせず、党内の流れに合わせる対応が目立ったが、うまく運ばなかった。まずは自らの考えを整理し、野党の主張なども踏まえたうえで、政策を打ち出し国民に説明・説得していく姿勢が求められているのではないかと考える。

 政党支持率に変化、政治の動きは

今回の世論調査では「政党の支持率」に変化がみられたのも特徴だ。前回の衆院選投票日1週間前調査と比較しながらみていきたい。

◆自民党の政党支持率は30.1%で、前回調査から1.2ポイント減少した。岸田政権や安倍政権当時は30%台後半が多かったことを考えると低い水準に止まっている。石破内閣の支持率と同じく、対応を間違うとさらなる下落の可能性もある。

◆立憲民主党は11.4%で、前回より2.2ポイント伸ばした。立憲民主党が支持率10%を超えるのは、2020年9月に今の党の体制になって初めてだ。こうした動きが続くのか、それとも一時的な現象で終わるのかが試されている。

◆衆院選挙で選挙前の4倍に議席を増やした国民民主党は7.4%を記録した。前回より5.1ポイントも増やし、維新を抜いて野党第2党に躍進した。国民民主党もこうした勢いが維持できるのかどうかが問われる。

◆このほかの政党は、公明党3.8%、維新3.6%、共産2.4%、れいわ1.4%、参政党1.2%、社民党0.5%、日本保守党0.3%となっている。無党派は31.6%にまで減っている。

こうしたデータから今回の衆院選で、国民は今の政治に何を求めているのだろうか。石破政権に対しては大敗させたものの、支持率41%を維持させたほか、野党第1党の立憲民主党に対しては、支持率を2ケタに乗せ、自民党との競い合いの政治を期待しているのではないか。

さらに国民民主党に対しては、与党との連立などよりも、政策を前進させる取り組みを求めているようにみえる。世論調査でも「与党との連携を深めるべきだ」14%、「野党との連携を深めるべきだ」17%よりも「政策ごとに態度を決めるべきだ」が58%で最も多かった。

つまり、国民の多くは与野党の勢力を伯仲させたうえで、山積する懸案や難題について、与野党が議論し一定の結論を出していく新しい政治の実現を求めていることが読み取れるようにみえる。

そして今は”様子見の段階”、年末に向けての臨時国会、年明けの通常国会で与野党の競い合いをみたうえで、夏の参院選で各党の評価をしたいと考えているのではないか。まもなく始まる臨時国会の与野党の対応をみていきたい。(了)

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