近づく自民総裁選”焦点は岸田首相の進退”

この夏、日本の政治は7月7日投票の東京都知事選挙で小池知事が大勝した後は、通常国会が既に閉会していることもあって、平穏な日々が続いている。アメリカは、11月の大統領選に向けて劇的な動きが相次いでいるのと対照的だ。

こうした中で自民党は26日に開いた総務会で、秋の自民党総裁選挙の選挙管理委員会の委員を報告し、決定した。逢沢元国会対策委員長や中谷元防衛相ら11人で、8月上旬に初会合を開き、月内に告示や投開票などの選挙日程を決める見通しだ。

今回の総裁選は、岸田首相の自民党総裁としての任期3年が、9月30日に満了になるのに伴って行われる。但し、これまで総裁選に名乗りを上げた候補者は、岸田首相を含めて誰もおらず「様子見状態」が続いている。

今回の総裁選はどのような構図になり、どんな展開になるのか、総裁選の焦点を探ってみる。

総裁選・岸田首相の進退、分かれる見方

さっそく、総裁選はどのような顔ぶれで戦うことになるのか、この点からみていきたい。

冒頭に触れたようにこれまでに名乗りを上げた候補者はいないが、岸田首相は6月の記者会見で、秋に新たな経済対策を打ち出す考えを示すなど続投に強い意欲をにじませた。

一方、自民党内では「裏金問題で内閣支持率の低迷が続く岸田首相は、自ら責任を取って辞任すべきだ」といった声がくすぶっている。

これに対して、岸田首相の最側近として知られる木原誠二・幹事長代理は24日都内の講演の中で、岸田首相は総裁選への立候補を断念する考えはないのかと質問され「私の立場では、ないと思っている」とのべ、断念する考えはないとの認識を示した。

また、木原氏は「岸田政権は国内経済を活性化する点で成果を上げつつあり、憲法改正や政治改革といった残された課題もある。岸田総理が引き続き政権運営にあたるべきだ」との考えを示した。

この点について、自民党の長老に聞いてみると「現職の総理・総裁としては当然だろう。しかし、党内の『岸田首相ではダメ』という空気は変わっていない。首相続投の公算はあるが、辞退する可能性の方が大きいのではないか」として、岸田首相の立候補断念もありうるとの見方を示す。

このように自民党内では、総理・総裁の進退をめぐって見方が分かれており、選挙戦の構図が固まらない状況が続いている。

裏金問題の政治責任、選挙の顔の要素も

それでは、党内から首相の立候補辞退の見方が消えないのは、どういった背景があるのだろうか。

自民党の閣僚経験者は「政治とカネの問題で、岸田内閣の支持率が大幅に下落しているのは、政治家が責任を取っていないためだ。最後は党のトップが政治責任を取って局面を打開するしかない」と首相の決断に期待をかける。

別の自民党関係者は「今度の総裁選は党の中堅・若手議員にとっては、次の衆院選挙を戦う『党の顔』を選ぶ選挙でもある。総裁選と衆院選挙は事実上、一体と位置づけている。このため、国民に不人気な首相は交代してもらいたいというのが若手議員らの本音だ」として、岸田首相の再選は困難との見方を示す。

こうした考えをすべて肯定するわけではないが、岸田内閣の支持率などが大幅に改善しない場合、自民党内では「首相交代圧力」が一段と強まることが予想される。

岸田首相としては、早期に政権の浮揚を図り、求心力を高めることが迫られていると言える。

 有力候補不在、波乱の短期決戦か

さて、今回の総裁選をめぐって自民党内からは「岸田首相に戦いを挑む有力候補がいないのではないか」との見方を聞く。

候補者として名前が上がるのは、石破元幹事長、小泉元環境相、河野デジタル担当相、高市早苗経済安保担当相、茂木幹事長、それに若手の小林鷹之・元経済安保相らが取り沙汰されている。

各氏ともそれなりの意欲をにじませるのだが、「夏の間に考える」「熟慮を続け、お盆明け頃には結論を出す」などの曖昧な答えが返ってくる。総理・総裁をめざして何をやりたいのかなどには踏み込まないのが、最近の候補者の特徴だ。

自民党内からは「岸田首相が続投に意欲を燃やすのは、こうした顔ぶれなら勝てると思っているのではないか」といった声も聞く。岸田首相が最終的に総裁選に立候補するのか、あるいは、断念することになるのか。そして、対立候補として誰が立候補することになるのか、まだ時間がかかりそうだ。

総裁選の日程が決まるのは、お盆明けの8月下旬になるとみられる、それ以降、9月に入っての告示日までの短期間に一気に事態が動く可能性が大きい。一言で言えば、短期で波乱含みの展開になるのことが予想される。

今回、自民党は裏金問題で派閥の解散を決めた後、初めての総裁選になる。党の関係者からは「派閥としての動きは批判を浴びるので、小さなグループごとの動きになるのでないか」との声を聞くが、党員投票や議員票獲得がどのような形で行われるのか、はっきりしない。

一方、国民の多くは総裁選の投票権を持っていないが、政権与党としての対応を見極めようとしている。裏金問題に本当にケジメをつけたのか、総裁選の候補者の世代交代は進んだか、政策面では何を優先課題として打ち出すのかといった点に関心が集まるものとみられる。

総裁選の勝敗のゆくえだけでなく、自民党自体のあり方、政権与党としての役割、信頼性などが問われることになるのではないか。

9月は、野党第1党・立憲民主党の代表選挙もほぼ同じ時期に行われる見通しだ。そして、速ければ年内にも衆院解散・総選挙が行われる可能性が高いとみられている。私たち有権者も自民、立民のリーダー選びを注視しながら、次の衆院選本番の選択に備える必要がある。(了)

”無党派主流現象”と政治のゆくえ

先の東京都知事選挙で、政党からの支援を受けなかった無所属・新人の石丸伸二氏が165万票余りを獲得し、蓮舫・前参議院議員の128万票余りを抑えて2番手に食い込んだことが与野党に衝撃を与えた。

一方、全国規模の世論調査でも、支持する特定の政党がない「無党派」がこの10年余りで最も多い割合を占めるようになった。無党派層は90年代後半に大幅に増えたが、なぜ今、再び無党派が増えて国民の主流を占めるようになったのか、さまざまな面から分析してみたい。

 首都決戦、投票者の半数が無党派層

今月7日に投開票が行われた東京都知事選と、9つの都議補選の結果の分析については前号で取り上げたので詳しくは繰り返さないが、首都決戦の大きな特徴の1つが、実際に投票した有権者の半数近くを無党派層が占めたことだ。

NHKが投票者を対象に行った出口調査によると投票者のふだんの支持政党は、◇自民支持層が25%、◇立憲民主支持層が10%、◇共産支持層が4%、◇公明支持層が2%などと続いた。最も多かったのは、◇支持政党がない無党派層で、48%だった。

無党派の規模は、自民支持層の倍、立憲民主支持層の5倍に達し、多くの無党派層が投票所に足を運んだことが浮き彫りになった。

また、NHK出口調査のうち、「期日前投票を済ませた有権者」を対象にした調査結果が興味深い。選挙期間中の9日間を選んで、2万人余りを対象に行った調査だ。

調査初日の6月22日の時点で、トップは小池知事で大きくリードしており、2番手を石丸氏と蓮舫氏が横並びで争っていた。その後も、小池知事は得票率は下降傾向を示したものの、一貫してトップの座を維持した。2位争いは接戦が続いたが、最終盤で石丸氏が支持を伸ばして、蓮舫氏を上回った。

当初、メデイアの多くは「小池知事と蓮舫氏の与野党対決、これを石丸氏が追う構図」とみていた。私も同じような見方をしていた。ところが、出口調査によると当初から「小池知事が大きくリードし、次いで蓮舫氏と石丸氏が横並びで追う展開」が実態に近かったということになる。

小池知事については、選挙前に子ども1人あたり月5000円の支給を始めるなど現職の立場を活かした取り組みを進めていたことから、選挙戦で優位に立つだろうと予想していた。他方で、学歴詐称問題が再び問題視され、3期目で勢いに陰りも指摘されたことから、小池知事の選挙情勢を慎重に見極めるのは、取材者として当然の対応だと考えていた。

選挙結果は、小池知事が291万票を獲得して大勝、次点が石丸氏で165万票、蓮舫氏が128万票で3位に沈んだ。小池知事は、自民・公明支持層をはじめ、都民ファースト、無党派、維新、国民民主など幅広い層の支持を集めた。

最も多い無党派層の投票状況は、石丸氏が30%余りで最も多く、次いで小池知事の30%余り、蓮舫氏は20%に止まった。石丸氏と、蓮舫氏の勢いは、この「無党派層の獲得率」の差が大きく影響した。

石丸氏は、無党派層が多い若い世代に焦点を絞り、強い政治メッセージを発しながらSNSやYouTubeを駆使して、支持を拡大していく戦略が功を奏した。

蓮舫氏は60代、70代以上では一定の支持を得たが、、若い世代や、特に女性有権者で支持が広がらなかったことが響いた。

蓮舫氏をめぐっては、選挙後も議論が続いているので、少し触れておきたい。敗因について「立憲民主党と共産党の支援が前面に出すぎて無党派層の支持が離れた」との見方が、今回も提起されている。

一方、「若い世代の知名度、親近度が弱いのが影響した」との見方があるほか、「現職の知事に対して、説得力のある争点設定ができなかった」との指摘を聞く。選挙の敗因については、複数の要因が重なるケースも多く、掘り下げた分析が必要だ。

いずれにしても、今回の首都決戦では、無党派層の存在感と影響力が目立った。一方で、政権与党の自民党は裏金問題の逆風が大きく響き、候補者すら擁立できなかった。

野党第1党の立憲民主党も、自民党に代わる政権の受け皿としては、有権者の評価を得るまでに至らなかった。こうした既成政党に対する有権者の根深い不信が強く現れた選挙だったと言えそうだ。

無党派急増・第1党、秋の政局を左右

7月の政治の動きの中で、もう1つの大きな特徴として、全国規模の世論調査で、支持政党なしの無党派層が急増していることが挙げられる。具体的には、NHKの7月世論調査(5~7日)のデータで、無党派層は47.2%まで上昇した。

無党派層の割合は、岸田内閣が発足した2021年10月の時点で36.1%、その後も30%台前半で推移していた。今回の水準は、内閣発足から2年10か月で11ポイントも急増した。自民党が2012年に政権復帰して以降を調べても、最も大きな規模に膨れあがった。

自民党支持率を無党派が上回り、”第1党”に代わるようになったのは、去年5月だ。当時、自民党支持率は36.5%、無党派は38.9%でわずかに上回った。この時を境に1年3か月連続で第1党は無党派、特に去年12月以降は、その差が大きく拡大している。

こうした原因、背景は何があるのか。政権が混乱したり、短命政権が続いたりした時期に、無党派層が増加した。古くは1990年、海部内閣当時「支持なし層」は14%に過ぎなかった。その後、自民党の1党優位体制が崩れ、連立政権が次々に入れ替わるのに伴って90年代半ばに30%台、90年末には52%まで増加した。

世論調査の方法も異なっているので、単純には比較できないが、政権与党の支持率低下に伴って、無党派層が急増し第1党を占めて有権者全体の主流を占めるようになった。

岸田政権に話を戻すと、7月の内閣支持率は25%で、9か月連続で20%台で低迷している。自民党の政党支持率も28.4%、5か月連続で30%割れの状態が続いている。裏金問題の影響が大きく、政権離れ、自民離れがともに進んでいる。

問題はこれからどのように推移し、政権や政局にどう影響するかだ。岸田首相は、秋の自民党総裁選挙での再選をめざして立候補をめざしているが、内閣支持率、自民党支持率ともに低迷が続くようだと、前途は厳しいのではないか。

ポスト岸田をめぐっては多くの候補の名前が取り沙汰されているが、まだ正式に名乗りを上げる候補は出ていない。来月には総裁選の日程も決まり、最終的な候補の顔ぶれが一気に決まる見通しだ。

一方、野党第1党・立憲民主党も9月代表選に向けて、党内の動きが始まりつつある。今月のNHKの世論調査では党の支持率が6月の9.5%から、5.2%へ4.3ポイントも急落した。都知事選の対応が影響したのではないかとみられるが、次の衆院選に向けた党の体制づくりが、代表選の大きな争点になりそうだ。

自民党内では、9月の総裁選で新たな総裁が決まれば、年内に衆院解散・総選挙が行われる可能性が大きいとの見方が広がっている。来年夏には、東京都議選、参院選挙も行われる。

自民、立民のトップ選びを経て、次の衆院選挙の争点はどんな課題が浮かび上がることになるのか。あるいは、新たな政権が求心力を回復することになるのかどうかも焦点になる。

こうした政権、与野党の対応によって、無党派層が次第に縮小に向かうのか、逆に高止まりするのかが決まってくる。いずれにしても、有権者の主流を占める無党派層がどのような判断・対応を取ることになるのか、秋以降の政治の流れを左右することになる。(了)

”無党派・政治不信旋風”首都決戦

過去最多の56人が立候補した東京都知事選挙は7日投開票が行われ、小池知事が大勝し3選を果たした。次点は、広島県安芸高田市・前市長の石丸伸二氏、3位は前参院議員の蓮舫氏という事前の予想とは異なる結果となった。

一方、同じ7日に投開票となった東京都議補欠選挙で自民党は、9選挙区中8人の候補者を擁立したが、当選は2人に止まり、裏金問題の逆風が収まっていないことがはっきりした。

今度の都知事選と都議補選の首都決戦から、何が読み取れるのか?結論を先に言えば”無党派層の投票者が増え、既成政党に対する不信と批判が現れた選挙”ではないか。なぜ、こうした見方をするのか、以下、説明したい。

多数の無党派層投票 選挙結果を左右

まず、東京都知事選挙の構図については当初、小池知事が先行し、蓮舫氏と、石丸氏が追う展開と予想していた。終盤、石丸氏が急速に追い上げているとの見方もあったが、立憲民主党や共産党などの支援を受ける蓮舫氏が逃げ切るのではないかと個人的にはみていた。

結果は、冒頭に触れたように小池氏、石丸氏、蓮舫氏という順番で、決着がついた。小池氏先行というのは現職の立場に加えて、自主支援を打ち出した自民、公明両党支持層からの分厚い支持が想定され、小池氏優勢は妥当な判断だろう。

一方、蓮舫氏と石丸氏の順位が入れ替わったのはなぜかという点だが、これは、投票者を対象にしたNHKの出口調査のデータをみると、理由がわかる。それが今回の選挙の大きな特徴でもある。

今回の都知事選で、投票した有権者の「ふだんの政党支持」をみると、自民支持は25%、立憲民主党支持は10%などと続いている。これに対して、特に支持している政党はない、いわゆる無党派層は48%だった。

大都市・東京は無党派層が多いといわれてきたが、今回は自民支持層の倍近い規模だ。立憲民主党支持層との比較では、5倍にも達する。投票者に占める無党派の比率がここまで伸びたことはなかったのではないか。

つまり、投票所に足を運んだ有権者のおよそ半数が、無党派層。この無党派層から最も多く獲得したのが石丸氏で30%余り、次いで小池氏30%余りだった。これに対し、蓮舫氏は20%に止まった。「無党派層の獲得率」の違いが、勝敗と順位を大きく左右する。これが今回選挙の第1の特徴だ。

 既成政党への不信、批判が鮮明に

次に、都議補選をみると今回は、品川区、中野区、八王子市など9つの選挙区で行われた。自民党は8つの選挙区で候補者を擁立したが、獲得議席は2つに止まった。2勝6敗、選挙前の5議席からは3議席を失ったことになる。

議席を獲得したのは、小池知事が率いる地域政党「都民ファースト」が3議席、無所属が3議席、立憲民主党1議席となった。立憲民主党以外いずれも小規模な政治団体、または個人だ。

自民党は都民ファーストや無所属候補らと競り合ったが、最終的に競り負けた。自民党の選挙関係者に聞くと「自民党に対する不信や批判は厳しかった。但し、それは自民党だけでなく、立憲民主党にも向かった。無党派層を中心に、既成政党に対する姿勢が強烈に現れた選挙だった」と語る。

「そうした批判票が、石丸氏に最も多く流れた。小池知事でもなく、蓮舫氏でもない、批判票の受け皿に石丸候補がなった」との見方を示す。石丸氏は、無党派層を主要ターゲットにSNSを徹底して活用したことが功を奏した。

さて、自民党の評価だが、都知事選では独自候補を擁立できなかったものの、小池知事を自主的に支援することで敗北は免れる形になった。しかし、重視していた都議補選で思うような結果は出せなかった。裏金問題に対する有権者の厳しい評価は、変わっていないことが明らかになったと言える。

一方、立憲民主党については、蓮舫氏が3位に沈んで党内に衝撃が走った。立憲民主党は、4月の衆院3補選で連勝、5月の静岡県知事選でも勝利を重ねた。今度の都知事選で勝利すれば、次の衆院選に向けて弾みになると期待していただけに打撃は大きい。

蓮舫氏の対応をみていると、準備不足やちぐはぐな対応が次々に露わになった。立候補表明時には「反自民、非小池都政」との立場を鮮明に打ち出したが、「都政に、国政の対立を持ち込むな」といった批判を浴び、トーンダウンした。

一方で、幅広い都民の支持を得るとして、立憲民主党を離党したが、選挙運動では共産党が前面に出て活動したことから、無党派層や保守層が警戒して引いてしまったとの指摘も聞く。

さらに根本的な問題としては「小池知事との争点の設定」が明確ではなかったのではないか。小池知事側が候補者同士の討論を避けたとの情報も耳にしたが、都政のどこを変えていくのか、都民に強く訴えることができなかった。

その結果、無党派層へ浸透していく迫力がなく、既成政党批判の波に飲み込まれてしまったようにみえる。

 岸田政権、今後の政治への影響は

それでは、都知事選や都議補選が、岸田首相の今後の政権運営や、政治の動きにどんな影響を及ぼすだろうか。

都知事選の結果は、小池氏自身が現職の強みを発揮したことが大きい。自民党が自主的な支援に回ったからといって、党の評価が好転するといったことはないだろう。したがって、都知事選の国政への影響はほとんどないとみている。

一方、都議補選の敗北をめぐっては、さっそく東京選出の議員から「このままでは次の衆院選は勝てない」として、岸田首相の辞任を求める声が公然と出された。9月の自民党総裁選に向けて、今後、尾を引くことなりそうだ。

これに対して、岸田首相は、外交日程などをこなす一方、「先送りできない課題に1つずつ、結論を出していく」として、政権継続に強い意欲をにじませている。総裁選の選挙日程が固まる8月下旬頃には、首相の去就を含め総裁選の対応が大きなヤマ場を迎える見通しだ。

一方、立憲民主党は、都知事選の敗因などの分析を進めるとしている。党内から、共産党との連携のあり方を見直すべきだという意見も聞く。9月の代表選挙とも絡んで、党の路線問題も議論になりそうだ。

立憲民主党は前身の民主党時代から、党の足腰の弱さが課題になってきた。また、政権交代で何を重点的に取り組むのか、旗印を明確に打ち出すべきだといった意見も聞かれる。このため、路線問題だけでなく、政権構想を具体的に打ち出したりしなければ国民の支持は広がらないだろう。

自民党総裁選挙の後、年内に次の衆院選挙が行われる可能性が高いという見方が広がりつつある。衆院選は、都知事選挙のような首長1人を選ぶ選挙と違い、政党本位の選挙だ。自民・公明対、非自民・野党各党の戦いが基本になる。首都決戦で変化を巻き起こした「無党派・政党不信旋風」はどこに向かうかのか、注目していきたい。(了)

 

 

 

自民総裁選”地殻変動に対応できるか”

通常国会の閉会に伴って、9月に行われる自民党総裁選をにらんだ動きが始まった。先月23日には、菅前総理が事実上の岸田首相の退陣を求める発言が党内に波紋を広げている。

一方、岸田首相が続投に意欲をにじませていることもあって、ポスト岸田の候補とみられる幹部は、いずれも自らの立候補に言及することを避けている。しばらくは、各候補とも水面下で準備体制を整えていくものとみられる。

総裁選の注目点は、1つは岸田首相の進退で、続投をめざすのか、退陣もありうるのか。2つ目は、候補者として「石破、河野、高市、茂木の各氏にプラスα」(党関係者)との見方もあるが、最終的にどんな顔ぶれになるのかだ。

3つ目に派閥解散の下での総裁選びのプロセスがどうなるか。キングメーカーとして麻生、菅両氏が力を発揮するのか。それとも党員、議員の自主的な判断が強まったり、中堅議員グループから新たな候補者が出たりするのかが注目される。

候補者が態度を表明するまでには、時間がかかりそうだ。総裁選の選挙管理委員会が設置され、選挙日程の協議が始まる8月に入ってからになるとみられる。

そこで、今回は兼ねてから気になっていた点、具体的には、岸田政権の支持率や、自民党の政党支持率がそろって大幅に下落している現象をどのようにみたらいいのか、掘り下げて考えてみたい。

内閣・自民党も支持者激減の地殻変動

さっそく、国民が岸田政権や今の自民党をどのようにみているのか、6月のNHK世論調査(7~9日実施)のデータを基にみてみたい。

◆岸田内閣の支持率は21%まで下がり、不支持は60%にまで増えた。岸田内閣が発足した2021年10月以降で最も低く、自民党が政権復帰した2012年以降でも最低の水準だ。

◆自民党の支持率も25.5%まで下落した。内閣支持率が下落しても、これまでは自民党支持率は比較的高い水準を維持してきたが、岸田政権では、内閣支持率、自民党支持率がそろって下落が続く異例の状態が続いている。

自民党の支持率が30%ラインを割り込んだのは、自民党政権下では麻生政権以来だ。2009年8月に衆院解散・総選挙に踏み切る直前の支持率は26.6%だった。今回は、この時の水準も下回っている。

当時の野党第1党・民主党には勢いがあり、支持率も20%台後半まで伸ばしていたので、今とは大きな違いがある。直ちに政権交代が起きる状況にあるわけではないが、危機的状況にあることは間違いない。

この原因としては、岸田政権と自民党の裏金問題への対応について、国民の多くが強い不満や不信を抱いていることが影響しているものとみられる。裏金問題をきっかけに「世論の政権離れ、自民党離れ」が急速に進んでいるわけだ。

この「支持離れ」は、岸田内閣の発足時の2021年10月と、今年6月とを比較するとわかりやすい。◆内閣支持率は49%から21%へ実に半分以下に急落。自民支持層だけに限っても岸田内閣の支持割合は7割から5割に下がっている。

◆自民党支持率も41.2%から25.5%へ16ポイント、割合にして4割も減少している。このように内閣、自民党ともに支持者離れが劇的に起きているので、「地殻変動」と表現しても言い過ぎではないだろう。

総裁選による復活論は通用するか?

それでは、岸田首相や自民党執行部は、こうした支持者離れの地殻変動をどのように受け止め、対応しようとしているのか。

岸田首相は6月21日の記者会見で「政治資金パーテイー券購入者の公開基準の引き下げなど政治資金規正法改正が実現できた」と成果を強調するとともに「国民の最大の関心事項は、経済・物価・賃金にある」として、物価や経済対策に全力を上げる考えを表明した。

自民党の閣僚経験者に聞いてみると「党の基本戦略は、秋の総裁選を華々しく展開し、人材が豊富にいることと政策立案能力を示すこと。そのうえで新総裁の下、時間を置かずに衆院解散・総選挙に打って出て勝利することに尽きる」と語る。別の幹部からも同様の考えを聞く。

岸田首相や自民党幹部は「支持率減少は、政治資金問題による一時的な現象で、総裁選を盛り上げていけば、国民の支持と、以前のような強い自民党への復活は可能だ」という認識に立っているように見える。

確かに従来はそのような対応で状況を打開できたが、今回も同じようにいくとは限らない。というのは、岸田政権に対する世論の批判は「裏金問題への対応ができていない」として、未だに強い怒りや不信を抱いているからだ。

その後の新聞各社の世論調査の結果をみれば一目瞭然だ。成立した改正政治資金規正法について「効果がない」が77%(朝日、15・16日調査)、「評価しない」56%(読売21~23日調査)。

一連の政治資金問題については、岸田首相は「指導力を発揮していない」78%(読売調査)となっており、国民の厳しい評価は以前と変わっていない。

このように裏金問題の評価をめぐっては国民と、岸田首相や自民党執行部との間に「大きな認識のズレ」があることが読み取れる。こうした国民の認識、政権に対する不信感などに真正面から向き合い、対応策を打ち出していかない限り、支持率の回復は極めて困難だろう。

総裁選、衆院選ワンセットの政治決戦

ここまで岸田政権と自民党の支持者離れ現象をみてきたが、「総裁選で新しい総裁が選出されれば、事態は変わるのではないか」といった指摘が予想されるので、この点についても触れておきたい。

確かに、その可能性はないとはいえない。但し、今回の支持率減少は、一過性の現象とはみえないので、新総裁誕生で直ちに事態改善へとは進まないのではないかというのが私の見方だ。

というのは、支持者離れは一時的ではないからだ。NHK世論調査で見ると岸田内閣の支持率を不支持率が上回る「逆転現象」は去年7月以降、12か月続いている。自民党の支持率も30%ラインを割り込むのは今年3月以降、4か月連続になる。

また、安倍政権当時も内閣支持率が低下したこともあったが、2,3か月程度で早期に回復し、復元力の強い政権だった。その後の菅政権、岸田政権ともに支持率低迷が続き、回復力の弱い政権と言えそうだ。

さらに、先に触れたように支持率減少の原因に踏み込んだ対応策を打ち出していないので、状況は改善されないままだ。このため、総裁選で仮に「政権・政党の表紙」を変えたとしても、支持率回復に結びつかない公算が大きいという見方をしている。

さて、今度の自民党総裁選は、新総裁が選ばれると時間を置かずに衆院解散・総選挙が行われる可能性が大きい。総裁選と衆院選とが、事実上、ワンセットの政治決戦ということになる。

そうすると衆院選で勝てなかった場合は、その責任を問われ短命政権として終わる可能性もある。こうした事態を避けるためにも「支持基盤の地殻変動」に真正面から向き合い的確に対応できるかどうかが大きなカギを握っている。

具体的には、国民が選挙の争点の1つに想定するとみられる「政治とカネの問題」に対応策を打ち出せたか。そのうえで、何を最重点課題として打ち出していくのか、さらには新総裁の能力や力量などが問われることになる。

一方、国民としては、同じ9月に行われる野党第1党・立憲民主党の代表選挙も注目していく必要がある。世論調査では、次の選挙後の政権として、自公政権の継続と、野党中心の政権交代を望む意見とが接近しつつある。

政治に緊張感を持たせ、よりよい政策を打ち出していくためにも、しっかりした野党が必要だ。内外ともに激しい動きが予想される中で、与野党が競い合う政治の実現をめざしてもらいたい。私たち国民も、どちらの主張を支持するか、的確な評価と判断を次の選挙で示していきたい。(了)

 

 

自民総裁選”首相進退、戦いの構図が焦点”

長丁場の通常国会閉会に合わせたかのように、秋の自民党総裁選挙への動きがあわただしくなってきた。

岸田首相が、会期末の記者会見で再選への意欲をにじませれば、直後に菅前総理が、事実上の退陣論に言及するなど総裁選に向けた思惑が激しくぶつかり始めた。

今度の自民党総裁選は、裏金問題で派閥の解散が決まった後の最初の総裁選になり、どのような構図になるのか、まだはっきりしない。岸田首相の進退をはじめ、総裁選はどこが焦点になるのか探ってみる。

広がる首相交代論、政権浮揚がカギ

国会が事実上の閉会となった21日夜の記者会見で、岸田首相は「政治家の責任強化などを含む政治資金規正法改正を実現することができた」と胸を張った。

そして物価高対策として「8月から3か月電気・ガス料金の補助を行う」とともに秋に第2弾として「年金生活世帯などを対象に、追加の給付金の支援を検討する」ことを表明し、秋の自民党総裁選とその後の政権運営に強い意欲をにじませた。

この首相会見から2日後の23日夜、菅前総理がネット番組に出演し、裏金問題を受けた党の状況について「岸田首相自身が責任をとっておらず、不信感を持つ国民は多い」とのべ、この間の岸田首相の対応を批判した。

そのうえで、自民党総裁選について「自民党が変わったという雰囲気作りが大事だ。国民に刷新感を持ってもらえるかが大きな節目になる」とのべ、事実上、岸田首相の退陣論に言及した。

裏金問題の対応をめぐっては、自民党の若手議員などから「岸田首相は公明党に譲りすぎだ」といった不満や反発の声が出ていた、今回は、狙いすましたようなタイミングで、総理経験者が首相の責任に言及した影響は大きく、党内に波紋が広がっている。

それでは、これから総裁選はどのように展開するか、現在の立ち位置を確認しておきたい。報道各社の世論調査によると岸田内閣の支持率は20%台前半から10%台後半まで続落。自民党支持率も20%台半ばから10%台後半まで下落し、いずれも2012年の自民党政権復帰以降、最低の水準に落ち込んでいる。

こうした原因は裏金問題への対応が「不十分」で、岸田首相が「指導力を発揮できていない」と受け止められているためだ。

自民党長老に現状の評価を聞くと「国会終了とともに総裁選への号砲が鳴ったということだろう。但し『岸田降ろし』が直ちに起きる可能性は低い。ジワジワと包囲網が狭まるのではないか。岸田首相の再選への道は険しい」と指摘する。

自民党内では岸田首相交代論が、次第に広がりつつあるようにみえる。これに対して、岸田首相が政権浮揚策を打ち出し包囲網を突破できるか、それとも撤退・退陣を余儀なくされることになるのか。ここが、総裁選の第1のポイントだ。

8月上旬に自民党総裁選の選挙管理委員会が設置され、下旬までには選挙日程が固まる見通しだ。この時期に首相の進退問題が大きなヤマ場にさしかかるのではないかとみている。

麻生・菅両氏、ポスト岸田の選択肢は

次に今度の総裁選は、裏金問題を受けて派閥が解散し、派閥なき総裁選ということになる。具体的な選挙の構図はまだ、わからないが、それでも党内の実力者・キーパーソンの影響力は残ることになるだろう。

その1人が、岸田首相が頼りにしている麻生副総裁だ。ただ、岸田首相と麻生氏との関係は「政治資金パーテイーの扱いをめぐって麻生氏の説得を振り切る形で、岸田首相が公明党の要求を受け入れたことから、深い溝が生じている」とされる。

岸田首相は18日になってようやく麻生氏との会食にこぎつけ「有意義な会談だった」と関係修復を強調している。

ところが、麻生氏側は「この間の岸田首相の派閥解散、関係議員の処分の決め方、公明党への譲歩などに対する不満が消えておらず、別の選択肢に傾いている」(自民党関係者)とされる。この選択肢ははっきりしないが、兼ねてから上川陽子外相を想定しているのではないかとの見方は消えていない。

もう1人のキーパーソンが、先に触れた菅前総理だ。菅氏は総理・総裁の座を岸田首相に追われたこともあり、岸田首相とは距離を置いてきた。菅氏もポスト岸田の具体名を挙げていないが、小泉進次郎元環境相、河野太郎デジタル担当相、加藤勝信・元官房長官、それに石破茂元幹事長ら「幅広い選択肢」を持っているのが強みだ。

自民党関係者によると「麻生、菅両氏ともに『岸田首相で難局乗り切りは困難』」との見方では共通している」とされる。そして、それぞれ新たな選択肢を模索しているという。その際、菅氏が、ポスト岸田の世論調査で最も人気の高い石破元幹事長を推すことになるのかどうかが大きなポイントになる。

というのは、麻生氏はポスト岸田候補として、石破氏については拒否感が強い。菅氏が石破氏を推す場合は、麻生、菅両氏が事実上、対決する形になる。両氏が最終的に誰を擁立することになるのか、それによって総裁選の構図が固まる可能性が大きいとみられる。ここが2つ目の焦点だ。

新たな候補者、問われる政治とカネ

今度の総裁選では、新たな候補者や勢力がどこまで台頭し挑戦することになるのかも注目点だ。自民党の中堅や若手議員は、裏金事件の批判を浴びて、次の衆院選挙のゆくえに強い危機感を抱いている。

このため、「自民党が政権政党として生まれ変わった姿を見せる必要がある」として、中堅議員から新たな候補者を擁立しようという動きが続いている。

具体的には、斎藤健・経産相(当選5回)、小林鷹之・元経済安保担当相(当選4回)、古川禎久元法相(当選7回)らの名前が挙がっている。

このほか、上川陽子外相、高市早苗経済安保担当相、野田聖子元少子化担当相ら女性議員の名前も取り沙汰されている。派閥解散に伴い、これまでにない人数の候補者が名乗りを上げるのではないかとの見方もある。

また、自民党内では、岸田内閣、自民党の支持率ともに低迷する苦境に追い込まれていることから、総裁選で「新しい顔」を選んだ後、直ちに衆院を解散し、国民の支持を集めて危機を乗り切ろうという考え方が強い。

但し、国民は世論調査にみられるように「自民党は、裏金問題を本当に反省しているのか疑わしい」と疑念や不信の念は変わっていないのではないか。政治とカネの問題について、新たな踏み込んだ対応策を打ち出さないと、選挙の顔を変えた程度では状況は好転しないと思われる。

こうした新たな候補者や勢力の台頭、あるいは、政策や政治課題で国民の信頼を取り戻せるような取り組みができるのか。これが3つ目の大きなポイントになるのではないかとみている。

立民、政権構想と野党連携は進むか

一方、野党側の対応はどうなるか、秋以降の政局に影響を及ぼす。特に野党第1党の立憲民主党の態勢と戦略が問われる。

具体的には、自民・公明の与党に対して、どのような対立軸を設定して臨むのか、政権構想がカギを握る。焦点の裏金問題については、野党として共同の改革案をまとめ上げて、早期に実現を迫ることができるのかどうか。

また、暮らしや経済、社会保障などの分野で、現実的で説得力のある政策をとりまとめ、秋の臨時国会での論戦や次の衆院選での争点に持ち込めるかが試される。

さらに立憲民主党は、9月に泉代表の任期が満了になる。泉代表が続投するのか、野田佳彦元首相や、枝野幸男元官房長官らを推す声もあり、「党の顔」をどうするかという難題も抱えている。

立憲民主党としては、代表選びで足を引っ張り合うような余裕はなく、政権構想づくりや党の結束力を強めることができるか。そのうえで、次の衆院選に向けて、野党の連携を強めることできるかどうか課題は多い。

最近の世論調査で、次の衆院選挙後に望む政権については「自民党中心の政権の継続」と、「野党中心の政権に交代」が接近してきている。それだけに自民党総裁選と、立憲民主党の代表選がどのような展開になり、国民の支持を得るのはどちらになるのか、今後の動きを注視していきたい。(了)

 

裏金問題の法改正”やり直しが必要では”

自民党派閥の裏金事件を受けて、自民党が提出した改正政治資金規正法が19日の参議院本会議で、自民、公明両党の賛成多数で可決、成立した。衆議院では賛成した日本維新の会をはじめ野党側はそろって反対した。

1月の通常国会冒頭から延々、議論を続けて法改正にこぎ着けたことは評価したいところだが、成立した改正内容をみると「期待外れ」と言わざるを得ない。報道各社の世論調査でも国民の多数は、今回の法改正を評価していない。

したがって、結論を先に言えば「やり直しが必要ではないか」と考える。なぜ、こうした結論になるのか、以下、その理由を説明したい。そのうえで、国民として、これからどうすべきか考えてみたい。

 法改正も透明性低く 残る抜け穴

まず、成立した政治資金規正法の内容については既に何度も取り上げたので、詳細は繰り返さないが、改正の対象が極めて狭い範囲に限られているのが大きな特徴だ。裏金問題にメスを入れることを願ってきた国民の認識と大きなズレがある。

次に政治資金の問題は「政治資金の透明性」をどこまで徹底するかが問われていた。焦点になった政党から幹部議員に渡される「政策活動費」については、支出の項目や年月が新たに報告されることになったが、領収書の公開は10年後だ。これでは「透明性」の確保につながらないと疑念を持たれるのは当然だ。

また、今回の法改正では、自民党と公明党、日本維新の会との修正協議を経て、「検討」項目が増えた。一見、改善が進んだように見えるが、例えば政治資金をチェックする第三者機関はどんな権限を持つのかはっきりしない。具体的な制度設計ができていないので、評価しようがないのが実態だ。

このように改正内容は部分的なので、従来の抜け穴、ザル法と言われる状態が続くことになる。

さらに、30年余り前のリクルート事件当時から問題になっていた企業・団体献金の廃止をはじめ、「政党活動費」の廃止、政治資金収支報告書のデジタル化の取り組みなど根本問題についても掘り下げた議論にはならなかった。

 裏金復活に議員関与、裁判証言で浮上

この国会では、もう一つ「裏金事件の実態解明」が大きな課題になったが、全く進まなかった。その大きな原因は、自民党の実態調査が甘く着手が遅れたことと、安倍派幹部が「知らぬ、存ぜず」に終始したことにある。

この裏金事件で、政治資金規正法違反に問われた安倍派の会計責任者、松本淳一郎被告の公判が18日、東京地裁で開かれた。この中で、松本被告は、一度は中止の方針が示されたキックバックが再開された経緯について、生々しい証言を行った。

「2022年7月末、ある幹部から再開を求められ、その後の幹部の協議で再開が決定した」。その協議に出席したのは「下村さん、西村さん、世耕さん、塩谷さんが集まって話し合いが持たれた。方向性として、還付はしようということになった」と証言。ただ「ある幹部」の具体名は明らかにしなかった。

この派閥幹部4人は政治倫理審査会で弁明したが、塩谷座長を除く幹部3人は「派閥の幹部の協議では、結論は出なかった」「自ら関わっていない」という趣旨の説明をしており、松本証言とは大きく食い違う内容だった。

この国会では、こうした幹部議員の弁明に対して、事実関係を解明するための証人喚問を行わなかった。また、派閥の会長経験者で裏金事件の経緯に詳しいとみられる森元首相を参考人として招致することも見送られた。

松本証言が明らかになったことから、国会として実態解明に向けて、安倍派幹部の証人喚問などを改めて検討する必要があると考える。

自民党・岸田政権、乏しい改革姿勢

それでは、裏金事件の実態解明が進まず、法改正も評価が得られない原因はどこにあったのか。通常国会も閉会するので、整理しておきたい。

今回の事件は自民党の派閥の裏金づくりにあったので、第一義的には各派閥に責任がある。同時に総裁として党全体を統括する立場にある岸田首相と、党執行部も大きな責任を負っている。

その岸田首相と党執行部の対応は事件発覚以降、不記載の実態把握の調査をはじめ、関係議員の聴き取り、国会での弁明、党の処分などいずれも後手の連続で、国民の失望と不信を招いた。

また、再発防止に向けた政治資金制度のあり方についても、公明党や野党各党は1月から2月にかけて、それぞれの党の独自案をまとめて公表した。

これに対し、自民党だけが独自案のとりまとめが遅れ、最終的に自民案を国会に提出したのは5月中旬と大幅にずれ込んだ。こうした自民党の後ろ向きの姿勢が国会での与野党の議論が深まらず、国民の理解も得られなかった大きな原因だ。

自民党の対応が後手に回ったのは、岸田首相らが党内の意見をとりまとめ、対応策を打ち出していく取り組みが弱かったことが挙げられる。党の運営や国会対応で場当たりの対応が目立ち、指導力が発揮できなかった。

その背景としては「岸田首相と茂木幹事長との確執で、政権が一体となって取り組む体制になっていなかった」と指摘する党関係者は多い。

さらにリクルート事件の際には、自民党の多数の議員が参加して党改革の議論を深め、党全体がめざす進路を「政治改革大綱」という文書として打ち出し、国民の理解を得ることができた。

それに比較して「今回は上は首相・党役員から、下は中堅・若手議員まで危機感と熱意に乏しく、大胆な改革に踏み出せなかった」と党幹部の1人は今後の影響を懸念する。

こうした一方で、野党に対して国民の期待が高まっているわけではない。今回、抜本的な政治改革まで議論できなかったのは、野党の力不足も大きい。今後どのような目標を掲げ、実現をめざしていくのか、野党の戦略と力量も厳しく問われる。

政治の流れを変えるか、世論の風圧

さて、これからの政治はどのように展開するのだろうか。政治資金制度の改革は成果を上げているとは言えないが、一方で、政治に変化の兆しがみられる。具体的には、岸田政権や自民党に対する世論の評価だ。

NHKの6月の世論調査(7日~9日実施)では、岸田内閣の支持率は21%、不支持率は60%。自民党の政党支持率は25.5%まで下落した。内閣支持率、自民党支持率ともに2021年の岸田内閣発足以降、最低の水準だ。自民党政権下の内閣としては、2009年麻生政権末期に近い状況だ。裏金問題の逆風が影響しているものとみられる。

朝日新聞の6月世論調査(15、16日実施)によると、岸田内閣の支持率は22%、不支持率は64%。自民党の支持率は19%で、2009年麻生政権末期の20%を下回った。裏金問題への岸田首相の対応は「評価しない」が83%、自民党の改正案が成立した場合、再発防止は「効果がない」とする回答が77%に達した。

また、次の衆院選挙の投票先(比例代表)としては、自民党が24%に対し、立民19%と接近している。その他の各党は、維新10%、公明6%、共産5%、れいわ5%、国民4%などと続いている。

このように世論の評価が、風圧となって政権与党の支持基盤を変えつつあることが読み取れる。また、国民の多数が、今回の法改正をほとんど評価していないことからも「政治改革のやり直し」が必要だと考える。

その際、国民の側は「政治とカネの問題」を忘れずにしっかり記憶し、次の選挙の争点として位置づけ、候補者や政党に対応を迫っていくことが必要だ。こうした世論の力が、今後の政治を変えていくことになるのではないかとみている。

今の国会は、21日に内閣不信任決議案の採決が行われた後、23日に閉会する見通しだ。閉会後は、秋の自民党総裁選に向けて激しい動きが予想される。但し、新総裁が選ばれても「政治とカネ」の問題に本気で向き合わないと、次の選挙で国民から厳しいしっぺ返しを受けることが予想される。(了)

揺らぐ岸田政権”世論の強烈な逆風”

長丁場の通常国会は会期末が23日に迫る中で、自民党派閥の裏金事件を受けた政治資金規正法の改正をめぐる与野党の攻防が、大詰めの段階を迎えている。

こうした中でNHKが行った世論調査で、岸田内閣の支持率は21%と20%割れ寸前まで下落したほか、自民党の政党支持率も25.5%まで急落した。いずれも2012年に自民党が政権復帰して以降、最低の水準にまで落ち込んだことになる。

これまで内閣支持率が急落した場合でも、自民党の支持率は高い水準を維持してきた。今回のように内閣支持率と自民党支持率がそろって下落するのは異例で、2009年の麻生政権以来の現象だ。世論調査のデータを基に「揺らぐ岸田政権」の背景を探ってみたい。

岸田内閣の支持率下落 政権末期状態

さっそく、今月10日に公表されたNHKの世論調査(6月7日から9日)のデータからみていきたい。

岸田内閣の支持率は、5月の調査に比べて3ポイント下がって21%となった一方、不支持率は60%で、5月調査より5ポイント増えた。

今月の内閣支持率21%は、岸田内閣が発足した2021年10月以降、最も低くなった。また、2012年に自民党が政権に復帰した以降でも最低の水準になる。

一方、不支持率60%は岸田内閣発足以降、最も高い水準だ。安倍政権や菅政権の不支持率は、政権末期でも50%前後に止まっていた。

歴代の自民党政権を調べてみると麻生政権の2009年当時、70%台に上昇したことがあり、それ以来だ。その後の民主党政権下の3つの内閣でも政権末期の不支持率は60%台に達していた。

このようにみてくると岸田内閣の支持率は、政権末期とも言える水準にある。支持と不支持率の割合はおよそ1対3なので、仮に国民4人がいると3人が不支持という危機的状況にあることがわかる。

自民支持率 下野直前の水準まで下落

次に、自民党の政党支持率をみてみたい。今月の自民支持率は25.5%で、5月調査から2.0ポイントも下落した。2021年10月の岸田内閣発足当時、自民支持率は41.2%だったので、実に15.7ポイントも下落したことになる。岸田内閣発足以降、最も低くなった。

自民党が政権に復帰した2012年以降、自民支持率は安倍政権で30%台半ばから40%台前半、菅政権でも40%から30%台前半を維持してきた。この10年余りの期間で、今回が最も低い水準にまで落ち込んだ。

自民支持率が30%ラインを割り込んだのは、自民党政権下では麻生政権以来だ。下野する衆院選直前の2009年8月は26.6%だったので、今回はその水準も下回ったことになる。また、今回は内閣支持率だけでなく、自民支持率もそろって下落しているのが特徴だ。

ここで、野党の支持率もみておきたい。◆立憲民主党は9.5%で、先月から2ポイント上昇した。2020年8月に旧民主党勢力が合流して以降、最も高くなった。◆日本維新の会は3.6%で、0.9ポイント下落。◆共産党は3.0%、◆国民民主党は1.1%で、いずれも先月と同じだった。野党は3つの傾向に分かれた。

一方、◆公明党は2.4%で、5月より0.9ポイント下がった。自民党がまとめた政治資金規正法改正案に衆院段階で賛成した自民、公明、維新はいずれも先月に比べて支持率を下げたことになる。

政権に逆風、世論の強い不信と不満

さて、岸田内閣の支持率と自民支持率はなぜ、相次いで下落しているのか、その理由、背景には何があるのか分析を進めたい。

今月の世論調査では、裏金事件を受けた政治資金規正法改正案の評価を尋ねている。法案は、自民党と公明党、日本維新の会などの賛成多数可決されて衆議院を通過し、参議院で審議が続いている。

◆「大いに評価する」3%、「ある程度評価する」30%、合わせて「評価する」が33%。これに対して◆「あまり評価しない」32%、「まったく評価しない」28%で、合わせて「評価しない」が59%(四捨五入の関係)に上り、大幅に上回った。

また、法案の内容に関連して、現在は使いみちの公開が義務づけられていない政策活動費について「10年後に領収書を公開するとしている」点について、評価を尋ねた。

◆「妥当だ」は13%に止まり、「妥当ではない」が75%に達した。

このほか、政治資金パーテイー券の購入者を公開する基準額を、現在の「20万円を超える」から「5万円を超える」に引き下げた点や、今回の改正案には企業・団体献金の禁止が盛り込まれていないことの是非についても尋ねた。いずれも改正案を「評価する」意見は少数に止まっている。

このように、自民党が公明、維新両党の主張を取り入れてまとめた政治資金規正法の改正案について、国民の評価は低い。その理由としては、政治資金の抜け穴を塞ぐ対策が十分にとられていないのではないかという強い疑念や、不信感が拭えないことが影響してているとみられる。

また、これまでの世論調査では、自民党が行ってきた党の裏金問題の調査や関係議員の処分、さらには再発防止策のとりまとめについても、内容が不十分で、対応も後手に回っているなどとして、厳しい評価が続いてきた。

こうした国民の不信や不満が、強烈な逆風となって岸田政権と自民党に吹きつけている状況を読み取ることができる。

カギは、裏金の実態解明と制度設計

それでは、これからの終盤国会や今後の政治の展開はどこがポイントになるのか、みておきたい。

政界の一部には、会期末に野党が内閣不信任決議案を提出するのをとらえて、岸田首相が乾坤一擲の大勝負に出て、衆院解散に踏み切るのではないかとの説が繰り返し流されてきた。

しかし、今の岸田政権には、解散・総選挙に打って出てるような状況にはないようにみえる。今月の世論調査でも、自民支持層の中で岸田内閣を支持する割合は52%で、半数程度に止まっている。

最も大きな集団である無党派層では、岸田内閣の支持率は10%にすぎない。自民党の長老も「勝算のない戦を党内が許すはずがない。6月解散はあり得ない」と強調する。

そうすると今後のカギは、この半年余り続いてきた裏金事件の実態解明と、政治資金規正法改正に区切りをつけることに絞られてくるのではないか。その役割をどの政党が中心になって果たしていけるのかに集約されるのでないかと思う。

自民党内では「国会を早く店じまいして、秋の総裁選挙で新しい顔を選んで、総選挙で出直しだ」といった声も聞かれる。だが、裏金問題を中途半端なまま「選挙の顔」だけ代えても、再び裏金対応を質され、国民の信頼を失う事態が予想される。

一方、野党側も自民党を批判するだけで、新たな仕組みをどこまで本気で迫っていくのか、野党の力量も問われる。形だけの追及でお茶を濁していると国会終了とともに支持者が離れていくことになりかねない。

つまるところ、政権、与野党が「新たな政治資金の制度設計」と「実態解明の道筋」をつけられるのかどうか。そうした取り組みで「政治の信頼回復の手掛かり」が多少とも残せるのかどうかにかかっているのではないかと思う。

但し、こうしたこともできないと、例えば岸田首相は、秋の総裁選に臨んでも再選への道は極めて厳しいことが世論調査からも読み取ることができる。最終盤の国会で、岸田首相や与野党がどのような対応をとるのか、次の総選挙への備えとしてもしっかり、見届けたい。(了)

“迷走と 低い改革度 ”規正法案 衆院通過

自民党派閥の裏金事件を受けて、自民党が提出した政治資金規正法の改正案が6日、衆議院本会議で自民、公明、維新3党などの賛成多数で可決され、参議院へ送られた。これによって、この法案の今国会での成立が確実な情勢になった。

この法案の内容を見ると、政治資金の透明度や、抜け穴などと批判を浴びた現行制度がどこまで改善されるのか、はっきりしない。また、法案をめぐる自民党と岸田政権の対応には迷走が目立ち、政治改革をやり遂げる覚悟や意欲があるのか疑問に感じる場面も多かった。

今回の法案の衆議院通過という節目に、法案の中身の評価と、岸田政権それに与野党の対応や今後の注目点などを探ってみたい。

自民法案 透明性など低い改革度

さっそく、衆議院で可決された法案の内容からみていきたいが、その前にこの法案がどのような経緯を経て提出されたのか説明しておきたい。

この法案は自民党が単独で提出した法案について、公明党や日本維新の会との協議や党首会談を経て、法案の一部を修正し、3党の賛成で可決したものだ。

主な内容は◇議員の政治責任を強化する「連座制」導入のため、収支報告書の作成を議員に義務づけること。◇パーテイー券購入者を公開する基準について、現行の「20万円を超える」から「5万円を超える」に引き下げること。◇党から支給される「政策活動費」については、項目ごとの使い途や支出した年月を開示し、10年後に領収書などを公開するなどとなっている。

国民にとって関心があるのは、こうした対策で、政治資金の透明性が徹底され、裏金や政治資金スキャンダルが止められるかどうかにある。結論から先に言えば、改善点は多少あるが、再発防止に実効性があるかどうかは不透明だ。

というのは、特別委員会の質疑でも指摘されたように「政策活動費」の領収書などの開示は10年後になる。その間、領収書の保存をどうするのか。政治とカネに関する法律の時効は5年で、10年後となれば罪に問えない公算が大きい。監視する第三者機関もいつ設置されるのか、これから検討するとしている。

自民党の修正案要綱には、具体的な改善内容が幾つも列挙されているが、いずれも「検討」項目だ。政治資金の基本である透明性が徹底されていない。

また、30年余り前のリクルート事件の時から宿題になっている企業・団体献金の扱いや、「政策活動費」の廃止といった点も取り上げられておらず、「改革の志向や度合いも低い」のが大きな問題点だ。

自民党が平成元年にとりまとめた「政治改革大綱」には「日本の政治は大きな岐路に立たされている。国民の政治に対する不信感は頂点に達し、深刻な事態を迎えている」「今こそ、自らの出血と犠牲を覚悟して、国民に政治家の良心と責任感を示すときである」と記されている。この指摘は今も通用する。

今回の法案審議でも提案者からは、こうした現状認識や改革の決意は全くと言っていいほど伝わって来なかった。国民の間では「期待外れ」「失望と落胆」などの受け止めが広がったのではないか。

政権迷走、場当たり対応が根本原因

次に、今回の法案作りと国会での各党の対応などについて、みていきたい。自民党は、当初から連立政権を組む公明党との間で「与党案」をまとめ、成立させることをめざしていた。

このため、大型連休明けの5月7日から両党の実務者レベルの協議を本格化させ、調整を進めたが、双方の溝は埋まらなかった。自民党は与党案を断念し、5月17日に単独で法案を提出した。連立政権を組む与党が、後半国会の最重要法案で合意できなかったのは極めて異例の事態だ。

その後、特別委員会の採決を控えた5月下旬になって、自民党は公明党の賛同を得るため、再び修正案を提示して関係修復を図った。公明党もこの修正案に賛成するものとみられていた。

ところが、公明支持者などの反発は強く、岸田首相は山口代表との党首会談に持ち込み、パーテイー券購入者の公開基準は「公明案を丸飲み」する形でようやく決着をつけた。

一方、日本維新の会と間では、岸田首相と馬場代表との党首会談で、政策活動費は「10年後に領収書などを公開する」との維新案を修正案に盛り込むことで合意した。

ところが、公開の内容をめぐって双方の食い違いが表面化し、与野党が決定していた特別委員会の審議と法案の採決日程が、土壇場で取り止めとなる前代未聞の事態が起きた。その後、自民党側が維新の要求を認め、再修正の合意にこぎ着けた。

このように自民党と岸田政権の対応は、当初から二転三転、法案修正の提示が3度も繰り返されるなどの迷走が続いた。こうした事態を起こす原因はどこにあったのだろうか。

自民党は、再発防止策の検討に当たっては、不記載の問題に絞り込んだため、口座を通じた資金管理や、議員の政治団体に対する監査の強化といった細々とした対策作りに重点が置かれた。

その結果、政治資金制度や政治改革全体に及ぶ党内議論は乏しく、党の幹部も「改革の熱が乏しい」と認めざるを得なかった。党の基本方針も示されなかった。

他の党は、いずれも1月から2月の段階で、政治改革方針をとりまとめ公表したが、自民党だけが大幅に出遅れた。報道各社の世論調査でも、岸田政権の取り組みを「評価しない」という声が多数を占めた。

さらに、自民党は独自案を示さず公明党との協議を続けたため、法案化や修正案づくりの面でも対応が後手に回った。

こうした結果、自民党は十分な準備が整わないまま、岸田首相が党首会談などでその都度、あわただしく方針を決める「場当たり対応」を重ねた。これが、一連の迷走が続いている根本的な原因だとみている。

岸田首相と自民 問われる統治能力

こうした岸田首相の迷走は、今回の政治資金規正法改正案の対応だけに止まらない。去年11月中旬に裏金事件が表面化して以降、年末の安倍派4閣僚の更迭をはじめ、年明けの派閥解散宣言、政倫審への自らの出席など“サプライズの対応”が続いている。

もちろん、岸田首相の対応に中には、動かぬ自民党を動かすにはトップリーダー自らが動かざるを得ない事情もあった。

一方で、党全体で議論して問題意識を共有し、そのうえで、政権が問題解決に向けた方針を打ち出し、様々な意見を取り入れながら、実行していく組織的な政権運営が必要だ。

ところが、岸田政権にはこうした組織的政権運営がほとんどみられず、首相が党の限られた政権幹部の協議を経て、大きな方針が突如と決まる事態が続いている。

今回もパーテイー購入者の公開基準の引き下げをめぐって、麻生副総裁と茂木幹事長は引き下げに反対、岸田首相が押し切ったとされる。党内は「パーテイー券購入者の公開基準は譲歩しすぎ」との不満が渦巻いているとされる。

岸田首相、自民党執行部ともに問われているのは、裏金事件を起こした当事者として、明確な方針を打ち出し、国民に説明を尽くす対応ができているか「統治能力」が問われているのだと思う。そして、世論の支持を得られているのかどうかが問題だ。

自民党は、衆院3補選で全敗したのをはじめ、静岡県知事選でも推薦候補が敗退、都内の区長選や議員補選でも負けが続いている。その要因としては、裏金問題の逆風が依然として大きく影響しており、岸田政権が有効に対応できていないことの証明でもある。

政治資金規正法の改正問題は、7日から参議院で審議が始まり、野党側は法案の再修正を求め、与野党の攻防が続く見通しだ。野党側は、維新が自民党の修正案賛成に回り、野党が分断される形になった。立民、維新どちらが野党内の主導権を確保し、党勢を増していくのかをみていく必要がある。

一方、岸田政権と自民党については、まずは、世論が自民党の修正案をどのように評価をするかが、大きなカギになる。仮にこれまでの自民単独案と同じように評価が低い場合は、次の段階として、自民党の統治能力や政権担当能力の評価にも影響を及ぼすことになりそうだ。

以上、みてきたように世論が今回の法改正をどのように評価するのか、極めて興味深い。9月末に自民党総裁としての任期満了を迎える岸田首相の進退問題や、次の衆院選挙のゆくえを占ううえでも、大きな判断材料として世論の動向を注目している。(了)

自民修正案 ”改革に遠い内容”

自民党派閥の裏金事件を受けた政治資金規正法の改正問題で、自民党は29日、修正内容を各党に示した。修正案は、改正案が成立し法律の施行から3年後に見直す規定などを盛り込んでいる。

この修正案について、これまで厳しい姿勢をとってきた公明党は「主張が一定程度認められた」と評価して賛成に回る方向だ。これに対して、野党側は企業・団体献金禁止が盛り込まれておらず「ゼロ回答」だとして強く反発している。

修正案の内容をみると自民党案の骨格は維持したままで、国民の多くが期待する踏み込んだ改革にはほど遠い内容に止まっている。なぜ、こうした評価をしているのか、今後の展開はどうなるのか探ってみたい。

自民修正案、骨格維持し小ぶりの手直し

後半国会の最大の焦点になっている政治資金規正法の改正をめぐっては、28日から衆議院の政治改革特別委員会で与野党の修正協議が始まった。

この中で、立憲民主党、日本維新の会、共産党、国民民主党の野党各党は◇企業・団体献金の禁止、◇政党から幹部議員に渡される「政策活動費」の禁止や領収書の全面公開、◇それに「連座制」では、議員が会計責任者と同じ責任をとることを明確にするという3項目の共通要求をまとめ、自民党側に修正内容に盛り込むよう申し入れた。

これに対して自民党は29日、修正内容を各党に示した。それによると、今は使途の公開が必要ない「政策活動費」については、項目ごとの使い途に加えて、支出した年月を開示するとしている。

また、議員に政治資金規正法違反などがあった場合は、政党交付金の一部の交付を停止する制度を創設するほか、個人献金を促進するための税制優遇措置を検討するとしている。

そして、施行から3年をメドに法律を見直す規定を盛り込むとしている。

一方、野党側がそろって求めている企業・団体献金の禁止や、「政策活動費」の支給の禁止などは盛り込んでいない。

また、政治資金パーテイー券の購入者の公開基準については、現行の「20万円を超える」から「10万円を超える」まで引き下げるなどとした法案の骨格は維持するとしている。

このように自民党が示した修正内容は、自民党案の骨格は維持したうえで、各党の主張の一部をとり入れたり、情報の一部を追加したりしているが、極めて小ぶりの手直し案に止まっている。

 透明性、罰則強化の実効性も疑問

こうした自民党の修正案について、国民はどのように受け止めるだろうか?今回の裏金問題について、国民が強く望んでいるのは「政治資金の流れを徹底して透明化すべきだ」という点が1つ。

また、議員が多額の裏金を受け取りながら「知らぬ存ぜぬ」を繰り返し、会計責任者に責任を押しつける姿を目の当たりにしたことから「違法行為を行った議員に対する罰則の強化」も必要だとの思いが強い。

さらに、同じような不祥事を繰り返さないために「政治資金制度の仕組みやあり方について、改革を進めて欲しい」との期待も強い。

以上のような視点で、自民党の修正案をみると国民の期待するような改革には、ほど遠い。一例を挙げると党が幹部議員に渡す「政策活動費」は、領収書の添付は必要ないとしている。これでは、多額の活動費がどのような目的で、何に使われたのか、引き続き闇の中ということになりかねない。

パーテイー券の公開は「10万円超」に引き下げるとしているが、公明党も主張しているような寄付の公開基準である「5万円超」になぜ、できないのかという疑念も残されたままだ。

要は、透明性の徹底や、議員に対する罰則強化は本当に実現できるのか、実効性を担保するような仕組みになっていないのではないか。こうした疑念を残す内容になっている点が大きな問題であり、与野党の修正協議で改善してもらいたい。

 与野党の攻防、世論の評価がカギ

それでは、法案の扱いは今後、どのようになるのかみていきたい。自民党の修正案について、野党各党は、企業団体献金などに触れていないことから「ゼロ回答」「改革意欲が全く感じられない」などと強く反発している。

自民党は「前進させたいと思っているが、党内調整ができていない」として党内で検討した上で、再び各党と協議する方針だ。

自民党関係者によると「岸田首相は、自民党案をベースに公明党の協力に加えて、野党の一部の賛同も得て法案の成立をめざしている」とされる。

自民党は、参議院で単独過半数を確保していないので、法案の成立には与党・公明党の支持は不可欠だ。

その公明党は、党内で協議が続いているが、連立政権を組んでいることや、党の主張が一定程度、認められているとして、自民党案に賛成する方向で調整が続いている。自民、公明両党の足並みがそろうかどうかが、大きなポイントだ。

一方、野党側は、政策活動費の廃止や使途の公開などを要求するとともに、岸田首相との質疑を行うことを求めている。野党側の足並みが最後までそろうのか、要求の実現に向けて国会戦術を強める考えがあるのかも注目される。

さらに今回は、世論が自民党案にどのような評価をするのかが、大きなカギを握っている。というのは、26日に投票が行われた静岡県知事選挙では、野党系の候補が自民党の推薦候補を破って当選した。地域の選挙だが、「裏金問題と世論の逆風がボデイーブローのように効いた」との見方が強い。自民党にとっては衆院3補選全敗に続く、手痛い敗北となった。

報道各社の今月の世論調査でも、政治資金規正法改正に向けた自民党の対応について「評価しない」が読売新聞で79%、朝日新聞で62%に達している。岸田内閣の支持率、自民党の支持率ともに低迷が続いている。

今回、仮に修正された自民党案が成立しても、世論の評価が低い場合、岸田首相の政権運営をはじめ、秋の自民党総裁選、さらには衆院解散・総選挙の時期や勝敗にも大きな影響が出てくることが予想される。

政治資金規正法改正をめぐる与野党の攻防が、どのような形で決着がつくのか。そして、世論の評価と風向きはどのようになるのか、政治のゆくえを大きく左右することになる。(了)

 

 

 

裏金問題 最終攻防の見方・読み方

派閥の裏金問題を受けて、自民党が政治資金規正法の改正案を単独で国会に提出したのに続いて、立憲民主党と国民民主党が共同の法案、さらに日本維新の会も独自の法案を提出し、各党の法案が出そろった。

これを受けて、衆議院の政治改革特別委員会は22日に各党提出の法案の趣旨説明を行って審議入りした後、23日から法案の質疑と与野党の協議が本格的に始まる。

長丁場の通常国会も会期末まで残り1か月となった。政治資金規正法の改正案は成立にこぎ着けることができるのか、それとも与野党協議が決裂して見送りになるのか、最終段階に入った与野党攻防のゆくえを探ってみたい。

自民は単独で法案提出、深まる孤立

終盤国会最大の焦点になっている政治資金規正法改正案は、政権与党の自民、公明両党が共同で「与党案」を提出するとみられていたが、土壇場で両党の調整が不調に終わり、自民党が17日に単独で法案を提出した。

連立政権を組む自民、公明両党が重要法案で意見が折り合わず、自民党が単独で法案を提出するのは極めて異例だ。この背景には、自民党の裏金問題に対する世論の逆風が収まらず、公明党が自民党と距離を置くねらいがあるものとみられる。

こうした結果、自民党は元々、大きな隔たりがある野党側だけでなく、連立を組む公明党からも距離を置かれて、孤立を深める立場に追い込まれている。

自民党は、参議院では単独で過半数を確保していないので、法案を成立させるためには、公明党か、野党の一部の協力が必要になる。

このため、自民党は自らの法案の修正に応じるなど一定の譲歩が必要で、会期末に向けた法案の扱いは、不透明で複雑の展開をたどる可能性が大きい。

野党攻勢も 実現へ共同歩調を保てるか

野党側の対応はどうだろうか。野党各党は、ここまで裏金問題を厳しく追及し、世論の自民批判の受け皿となることをねらってきた。これからの政治資金規正法改正をめぐる議論でも、自民党に対する攻勢を強める方針だ。

野党各党とも企業団体献金の禁止をはじめ、政治資金の透明化、政治資金パーテイー券の公開基準の引き下げなどの基本的な方向では一致するが、具体的な方法などになると、党によって考え方や重点の置き方に違いがあるのも事実だ。

例えば立憲民主党は、国民民主党との間で「共同案」をとりまとめたことをアピールするとともに、政治資金パーテイーを全面的に禁止するための法案を単独で提出することなどで独自性の発揮をねらっている。

日本維新の会は、今の「政策活動費」を見直し、党勢の拡大や政策立案などの支出に限定したうえで、10年後に使い途を公開する新たな制度を盛り込んだ法案を国会に提出した。また、旧文通費の見直しも強く求めていく方針だ。

これに対して、自民党は公明党との協力を取り戻すとともに、維新の協力も取りつけて野党の分断を計り、主導権を確保したい考えだ。

但し、協力を求められる維新の側も、自民党に対する世論の逆風が強いことから、自民との連携には慎重な姿勢をとっており、両党が協力までこぎ着けられるかどうか見通しがついているわけではない。

こうした状況から野党側は、今の国会で各党共通の目標を絞りこみ、最後まで共同歩調をとれるかどうかが試されることになる。

 法改正 公開の徹底と実効性がカギ

次に法案の内容については、どこを注目してみていく必要があるか。先にみたように法改正では、企業団体献金の見直しなど多くの論点があるが、自民案の特徴は、今回の派閥による裏金問題の再発防止に重点を置いているのが特徴だ。

具体的には、政策集団に対する監査の強化や、政治資金パーテイー収入は現金ではなく、金融機関の口座を使うなど細かい改善点が多い。

また、パーテイー券の公開基準についても現行の「20万円を超える」から「10万円を超える」に引き下げているが、公明党の「5万円を超える」とも開きがある。自民案はパーテイー1回当たりの金額なので、開催回数を倍に増やせば、これまでと変わらず、相変わらず抜け道が多いとの指摘を聞く。

また、政党が幹部議員に年間10億円もの資金を渡す「政策活動費」についても、自民案では具体的にどのような支出に使われたのか明確になっていないほか、領収書の添付が義務づけられていないので、確認のしようがないといった批判が強い。

政治資金制度の基本は、資金の流れを公開し、国民の監視と批判の下に置くことにある。今の制度は兼ねてから「抜け穴」が数多く指摘されてきたので、「公開」を徹底することが必要だ。

また、今回の裏金事件のように、違法行為を行った議員に対する罰則の強化が必要だ。このため、各党とも「連座制」を導入することでは、基本的に一致している。しかし、具体的な方法となると自民案と野党案では違いがあり、どちらが効果があるのか「実効性」を判断基準に議論をさらに深める必要がある。

 法案成立か見送りか 最終攻防へ

それでは、政治資金規正法の改正はどのような形で決着がつくのだろうか。自民党は、参議院で過半数を確保していないので、今の自民案がそのまま成立する可能性はほとんどない。与野党が歩み寄り、法案の修正の合意ができるかどうかがカギを握る。3つのパターンが想定される。

◆1つは、自民案をベースに公明党や、維新など野党の一部の意見を取り入れて修正案をまとめ、成立させるケース。

◆2つ目が、与野党が合意して修正案をまとめ、法案成立にこぎ着けるケース。この場合、今の国会で成立させる部分と、継続協議の部分との仕分けが問題になる。

◆3つ目が、与野党の協議が決裂し、法案の成立は見送りとなるケースが想定される。

こうした点に加えて、通常国会の会期末なので、◆野党側が内閣不信任決議案を提出することが予想される。その場合、与党が否決するケースが1つ。もう1つは、◆岸田首相が衆議院の解散・総選挙に踏み切る可能性もある。

国民の側もどのような展開が望ましいのか考えておく必要がある。個人的な考えを言わせてもらうと、裏金事件はこの半年間、日本の政治を大きく揺るがせ、国民の政治不信を増幅させてきた。

与野党の協議が決裂して何の結果も残さないよりも、これまでの議論を踏まえて、一定の対応策を法改正の形で示すことは必要で、与野党の責任ではないかと考える。

そのためには、政権を担当する岸田首相や自民党が、野党や国民の意見などを真正面から受け止め、法案の修正合意に大胆に応じることが必要ではないか。一方、野党側も自らの主張に固執するのではなく、大局的な判断を行うべきだと考える。

このほか、裏金事件の実態解明は全くと言っていいほど進んでいない。国民の政治不信を払拭するためにも、森元首相の参考人招致や、裏金の関係議員のほとんどが国会で弁明すら行っていないことについても、最低でも弁明書を出させるなどケジメをつける必要がある。

衆院解散・総選挙をいつ行うのが望ましいのか、世論調査でもかなり時期が分かれている。まずは、終盤国会で法案の成立や裏金事件のケジメをつけたうえで、判断すればいいのではないか。

裏金問題がどのような形で決着がつくのか。岸田政権の行方や、今後の政局の展開を大きく左右するのは間違いない。与野党の動きをしっかり注視していきたい。(了)                               ◆追記(22日21時):日本維新の会が22日、政治資金規正法の改正案を国会に提出した。これを受けて、各党の法案の提出状況の表現を一部、修正した。