“低い期待度”第2次石破政権の危うさ

先の衆議院選挙を受けて、第2次石破政権が11日に発足した。衆議院選挙で自民、公明両党は過半数を下回り、石破政権は15年ぶりに少数与党政権として再スタートを切った。

国民は、先の衆院選挙の結果や石破政権をどのようにみているのか。NHKの世論調査がまとまったので、そのデータを分析しながら石破政権の課題や問題点、それに衆院選後の与野党の対応などを考えてみたい。

 与党過半数割れ「よかった」61%

まず、先の衆院選挙で自民、公明両党の議席が15年ぶりに過半数を割り込んだが、この結果について国民の受け止め方から、みていきたい。

NHKの11月世論調査(15日~17日)によると「よかった」が32%、「どちらかといえばよかった」が29%で、合わせて肯定的な評価が61%に上った。これに対して「どちらかといえばよくなかった」は18%、「よくなかった」は12%で、否定的な評価の30%を大幅に上回った。

これを党派別にみると与党支持層では「よかった」が40%に対し、「よくなかった」が58%だった。野党支持層では「よかったが」が86%、無党派層でも「よかった」が70%に達した。

年代別にみると「よかった」は、すべての年代で半数を超えた。80歳以上が53%、70代が60%、60代が66%など年代が若くなるほど多くなる傾向がみられ、40代は75%で最も多く、30代から18歳までは69%だった。

 政策・実行力への低い期待度

石破内閣の支持率は41%で、10月の衆院選1週間前調査(10月18日~20日)と変わらなかったのに対し、不支持率は37%で2ポイント増えた。

支持する理由では「他の内閣より良さそうだから」が37%、「人柄が信頼できるから」が21%など消極的な理由が多数を占めた。一方、「政策に期待が持てるから」は6%、「実行力があるから」は5%で、いずれも1けた台に止まった。

支持しない理由では、逆に「政策に期待が持てないから」が34%で最も多く、次いで「実行力がないから」も18%に上った。

石破首相が第1次政権を発足させたのが10月1日で、発足時の支持率は44%と比較的低い水準からスタートとなった。それでも支持する理由として「政策に期待が持てるから」は10%、「実行力があるから」は9%あったが、わずか1か月半でほぼ半減したことになる。

衆院選挙で大敗を喫したとはいえ、国民の「政策」と「実行力」への期待度は政権維持には不可欠で、石破政権として早急な対応を迫られているのは明らかだ。

 物価・経済対策と政治改革がカギ

その「石破政権が、いま最も優先して取り組むべき課題は何か」を世論調査で尋ねている(1つだけ選択)。◆最も多いのが、景気・物価高対策で41%、◆次いで「政治とカネ」などの政治改革16%、◆社会保障制度の見直し13%、◆外交・安全保障11%などと続いている。

こうした課題や優先順位については、同じ考えの方は多いのではないかと思う。今月28日から石破政権発足後、初めて本格的な論戦の舞台となる臨時国会が始まる。野党側は、物価・経済対策として「年収の103万円の壁」の解消をはじめ、裏金問題のケジメと政治改革の具体策の実現を迫るものとみられる。

石破首相としては自民党内の調整を抱えているものの、こうした野党の要求のうち、国民生活や政治の信頼回復のために必要な対応策については、積極的に受け入れ実現をめざさなければ政権運営は困難になるだろう。

特に衆院選で争点になった政治改革の具体策の多くと「103万円の壁」については、年内の決着に向けて踏み込んだ対応を迫られものとみられる。

また、石破首相は就任以来、自らの考えをはっきりさせず、党内の流れに合わせる対応が目立ったが、うまく運ばなかった。まずは自らの考えを整理し、野党の主張なども踏まえたうえで、政策を打ち出し国民に説明・説得していく姿勢が求められているのではないかと考える。

 政党支持率に変化、政治の動きは

今回の世論調査では「政党の支持率」に変化がみられたのも特徴だ。前回の衆院選投票日1週間前調査と比較しながらみていきたい。

◆自民党の政党支持率は30.1%で、前回調査から1.2ポイント減少した。岸田政権や安倍政権当時は30%台後半が多かったことを考えると低い水準に止まっている。石破内閣の支持率と同じく、対応を間違うとさらなる下落の可能性もある。

◆立憲民主党は11.4%で、前回より2.2ポイント伸ばした。立憲民主党が支持率10%を超えるのは、2020年9月に今の党の体制になって初めてだ。こうした動きが続くのか、それとも一時的な現象で終わるのかが試されている。

◆衆院選挙で選挙前の4倍に議席を増やした国民民主党は7.4%を記録した。前回より5.1ポイントも増やし、維新を抜いて野党第2党に躍進した。国民民主党もこうした勢いが維持できるのかどうかが問われる。

◆このほかの政党は、公明党3.8%、維新3.6%、共産2.4%、れいわ1.4%、参政党1.2%、社民党0.5%、日本保守党0.3%となっている。無党派は31.6%にまで減っている。

こうしたデータから今回の衆院選で、国民は今の政治に何を求めているのだろうか。石破政権に対しては大敗させたものの、支持率41%を維持させたほか、野党第1党の立憲民主党に対しては、支持率を2ケタに乗せ、自民党との競い合いの政治を期待しているのではないか。

さらに国民民主党に対しては、与党との連立などよりも、政策を前進させる取り組みを求めているようにみえる。世論調査でも「与党との連携を深めるべきだ」14%、「野党との連携を深めるべきだ」17%よりも「政策ごとに態度を決めるべきだ」が58%で最も多かった。

つまり、国民の多くは与野党の勢力を伯仲させたうえで、山積する懸案や難題について、与野党が議論し一定の結論を出していく新しい政治の実現を求めていることが読み取れるようにみえる。

そして今は”様子見の段階”、年末に向けての臨時国会、年明けの通常国会で与野党の競い合いをみたうえで、夏の参院選で各党の評価をしたいと考えているのではないか。まもなく始まる臨時国会の与野党の対応をみていきたい。(了)

”綱渡りの政権運営”第2次石破政権

先の衆院選挙を受けて11日に召集された特別国会は首相指名選挙が行われ、衆議院では自民・公明両党が過半数を割り込んだことから30年ぶりの決選投票に持ち込まれた。その結果、石破首相が、立憲民主党の野田代表を破って新しい首相に選出された。

参議院では与党が多数を占めることから1回目の投票で石破首相が選出され、第103代の首相に就任した。石破首相は直ちに新しい内閣の組閣人事を行い、衆院選で落選した2人の閣僚と公明党の代表就任に伴う後任の閣僚を決定し、第2次石破内閣を発足させた。

この後、石破首相は記者会見し、先の衆院選に関連して「厳しい結果を受け、あるべき国民政党として生まれ変わらなければならない」とのべ、政策活動費の廃止や旧文通費の使途の公開などについて早期に結論を出す考えを表明した。

第2次石破内閣は衆院選挙での過半数割れで、1994年の羽田内閣以来30年ぶりの少数与党政権となる。石破政権のこれからの政権運営はどのようになるのか、今後の政治のあり方を含めて考えてみたい。

 首相指名選挙 ひとまず乗り切り

先の衆院選で大敗を喫した石破首相にとって政権を維持していくためには、特別国会での首相指名選挙を勝ち抜くことが最優先の案件になっていた。

また、選挙の敗因となった裏金問題と政治改革、それに国民の関心が高い「年収103万円の壁」などの経済対策についても早急に対応策を打ち出す必要に迫られていた。

このうち、首相指名選挙については決選投票になった場合でも、国民民主党や日本維新の会が自らの党首に投票することから、野党側が候補者の一本化ができないことがはっきりしてきた。

また、自民党内でも石破首相や執行部の対応に強い不満を持つ議員やグループはいるものの、直ちに辞任を求める意見はほとんどみられず、首相指名選挙でも自民党内から無効票が投じられるなどの造反はなかった。

こうしたこともあって石破首相は、最初の難関である首相指名選挙をひとまず乗り越えることができた。

もう1つの難問である政治改革や「年収103万円の壁」などの政策について、石破首相は召集日当日の11日午前、立憲民主党の野田代表、国民民主党の玉木代表とそれぞれ個別に首脳会談を行った。維新の馬場代表とは10日に会談を行った。

こうした会談で、石破首相は「野党の皆さんの意見を誠実、謙虚に承りながら、国民に見える形であらゆることを決定していきたい」とのべ、政治改革をはじめ、政策の実現に向けて野党の協力を要請した。

石破首相と自民党執行部は、既に政策面で考え方の近い国民民主党との間で政策協議を行うことで合意しており、政調会長レベルの協議も始まっている。

選挙の大敗で動揺が続いていた石破政権は、野党各党の党首会談にもこぎつけ、ひとまず落ち着きを取り戻すことができたとみていいのではないか。

 綱渡りの政権運営、3つの節目

さて、第2次石破政権は少数与党政権だけに「綱渡りの政権運営」が続くのは確実な情勢だ。野党側の協力がなければ、法案や予算案は成立しないし、野党側が内閣不信任案を提出し可決すれば、内閣総辞職に追い込まれる公算が大きい。

これからの石破政権を展望すると政権運営が難しい局面を迎える「3つの節目」が予想される。第1の節目は、年末の時点で、焦点の裏金問題と政治改革、それに経済政策で野党との協議が一定の成果を生み出せるかどうかだ。

このうち、政治改革については、野党側が政策活動費の廃止、旧文通費の公開、第三者機関の設置、企業団体献金の廃止などを要求しており、石破政権がどこまで受け入れるかが焦点だ。

一方、経済政策では、自民党と国民民主党との間で進められている「年収103万円の壁」をはじめ、ガソリン税の見直しなどで進展がみられるか。今年度の補正予算案や、新年度予算案の内容をめぐっても協議が行われる見通しだ。

こうした協議の結果、国民民主党は、石破政権との政策協議を継続するのかどうか。また、日本維新の会が馬場代表から新たな代表に変わった後、石破政権との関係や政策協議にどのような方針で臨むのかも注目される。

2つ目の節目は、来年1月に召集される通常国会で、新年度予算案の審議をめぐる与野党の攻防だ。今回、衆院の予算委員長ポストは野党が握り、立憲民主党の安住・前国対委員長が務める。特に来年2月下旬以降、予算案の衆院通過をめぐって、予算案の修正が大きな問題になる可能性もある。

3つ目の節目は、新年度予算案が成立する見込みの来年3月末以降、石破政権の求心力がどのようになっているかだ。夏には参議院選挙が控え、内閣支持率が低迷していると自民党内から「石破降ろし」の動きが出てくることも予想される。

このほか、アメリカ大統領選挙でトランプ前大統領が復帰することになったことで、国際情勢が激しく揺れ動くことも予想される。石破首相はトランプ次期大統領と早期の会談を希望しており、今後の日米関係をどのように築いていけるか、国内政治にも影響を及ぼすことになる。

 新しい政治へ与野党の合意形成を

ここまでみてきたように石破政権の今後は、波乱・混乱の道に陥るおそれがある一方、新しい政治を切り開いていける可能性もある。そのためには、先の選挙で示された民意を踏まえて、与野党双方が政策の決定や、国会運営面で合意の形成に向けて踏み出せるかどうかにかかっている。

具体的には、衆院選挙の最大の焦点になった裏金問題と政治改革について、与野党が歩み寄り、年内に政治資金規正法の再改正を実現することができるかどうか。また、年収の壁などの政策についても、与野党が一定の方向性を打ち出すことができるかどうかが試金石だ。

国民の中には「政治に期待しても何も変わらない」「国会議員は自分たちの利益のことしか考えていない」など不信の声が根強くあるのも事実だ。こうした政治不信や民主主義に対する冷笑主義を克服するためにも、次の臨時国会で具体的な成果を挙げることが重要になる。

それだけに石破首相は政権の延命ではなく、懸案の解決に向けて思い切って踏み出すことが必要だ。少数与党政権は国会では少数派なので、国民に訴え、支持を広げていくしか有効な対応策はないのではないか。

一方、野党第1党の立憲民主党や国民民主党は大幅に議席を増やしたが、それだけ大きな責任を負ったことになる。野党が政権交代をめざすのであれば、将来社会の姿や、重点政策の柱を明確に打ち出す必要がある。

私たち国民の側は、与野党双方が政策や構想を競い合うと同時に、国会を舞台に与野党が協議を尽くして結論を出す「新しい政治」を期待している。来月上旬にも予想される次の臨時国会で、その第1歩をみせてもらいたい。(了)

どうなる首相指名選挙と石破政権

衆議院選挙で15年ぶりの与党過半数割れを受けて、特別国会で行われる首相指名選挙や政権の枠組みをめぐって、与野党の動きが激しくなっている。

長い間続いてきた「自民1強・野党多弱体制」が崩れ、どの党派も過半数に達しない新たな政治状況が生まれている。

こうした中で、特別国会で行われる首相指名選挙や、これからの政権の枠組みをめぐる協議はどのようになっていくのか、自民党、立憲民主党、それにキャスティングボートを握っている国民民主党の対応やねらいを探ってみたい。

石破首相、政権維持へ部分連合に意欲

衆議院選挙で国民の審判が示されてから4日目の31日、自民党の森山幹事長は、国民民主党の榛葉幹事長と会談した。この中で森山氏は、衆議院の与党過半数割れを受けて、今年度の補正予算案や来年度予算案の編成や審議に向けた協力を要請した。

これに対し、榛葉幹事長は「政策案件ごとに対応していきたい」と応じ、新たな経済対策の内容を含め、政策の案件ごとに両党間で協議を進めていくことで一致した。

また、石破首相と玉木代表との党首会談を11日に召集される特別国会までに行うことを確認した。

さらに榛葉幹事長は、特別国会での首相指名選挙では、決選投票になった場合も含めて国民民主党としては、玉木代表に投票する方針であることを伝えた。

自民党は先の衆院選で56議席を失う大敗を喫したが、石破首相は開票翌日の記者会見で、自ら続投する考えを表明した。そして過半数の勢力を回復するため、政策が近い野党との間で、政策や法案などの個別案件ごとに協力する「部分連合」に踏み切る方針を固め、国民民主党などへの働きかけを続けてきた。

自民、公明両党の議席は215議席で、過半数の233議席まで18議席下回っている。石破首相としては、28議席を確保した国民民主党の協力を得られれば、少数与党政権ながらも今後の政権運営に一定の展望が開けることになる。

石破首相としては、自民・公明両党との連立政権を維持したうえで、国民民主党との部分連合を視野に、自民・公明・国民の枠組みで予算案や法案などの成立をめざしていく方針だ。

 立民、首相指名選挙へ野党の協力難航

立憲民主党の野田代表は30日、日本維新の会の馬場代表、共産党の田村委員長と相次いで会談し「政権交代を実現するため、首相指名選挙の決選投票が行われる場合、『野田』と書いて欲しい」と協力を要請した。

これに対して、馬場代表は「党に持ち帰って検討する」と返答したが、首相指名選挙で野田代表に協力することには消極的だ。田村代表は「前向きに検討する」との考えを伝えた。国民民主党は、決選投票でも「玉木代表」に投票する方針を決めている。このように首相指名選挙で野党が足並みをそろえて対応するのは困難な情勢だ。

こうした状況を踏まえて、立憲民主党としては今後、衆院選挙で大きな争点になった自民党の裏金問題と具体的な政治改革の実現に焦点をあてて、野党側の結束と自民党との対決姿勢を強めていく方針だ。

 首相指名選挙、石破首相選出の公算

こうしたなかで、自民党は衆院選後の特別国会を11日に召集する方針を野党側に伝えた。衆院選挙が終わって、政治が最優先に取り組む必要があるのが、特別国会で首相指名選挙を行い、新しい首相を選出することだ。組閣人事や党、国会の体制を整え、内外の課題に早急に対応していく必要がある。

その首相指名選挙はどうなるか。指名選挙は1回目の投票で、過半数を得た議員がいない場合、上位2人の決選投票が行われる。決選投票の当選者は過半数ではなく、有効投票の多数を獲得した議員が当選となる。

今回決選投票には、与党第1党の石破首相と、野党第1党の野田代表が進むものとみられる。国民民主党は決選投票でも「玉木代表」と書くため、無効票の扱いになり、石破首相が多数の支持を得る見通しだ。

このため、自民党内から大量の造反票が出ない限り、石破首相が新しい首相に選出される公算が大きくなっている。

 国民民主 政策・政治を変えられるか

ここまでみてきたように衆院選挙後の政局では、28議席を確保して第4党に躍進した国民民主党がキャスティングボートを握り、存在感を発揮している。

政界の一部には当初、国民民主党は閣僚ポストを獲得して連立入りをめざしているのではないかとの見方が出ていた。これに対し、玉木代表は「連立入りは考えていない。ポストよりも政策の実現をめざしている」と繰り返してきた。

国民民主党は、何をめざしているのか。玉木代表の記者会見を聞いていると、政府与党との政策協議をテコに、国民民主党が衆院選で打ち出した『103万円の壁』、所得税の課税最低限などの引き上げや、ガソリン課税の引き下げなどを実現し、党勢のさらなる拡大をめざしているものとみられる。

また、玉木代表は「与党の過半数割れを受けて日本政治は、新たな意思決定のルールづくりに取り組むべきだ」と主張している。政府や霞ヶ関は、与党の意見を聞くだけでなく、野党も含めた幅広い意見に耳を傾け、新たな合意形成のあり方を探るよう求めている。

国民民主党のこうした考え方については、国民としても賛成する点が多い。一方で、国民民主党はこれまでも政権との政策協議を進めてきたが、十分な成果を上げたかと言えば、疑問だ。自民党はしたたかで、連携した中小政党はいつの間にか取り込まれ埋没するケースも多かった。

それだけに国民としては、国民民主党の新たな取り組みは一定の評価をする一方、政策協議で具体的な成果を上げているのか、政治のあり方などを変えていくなどの姿勢を堅持しているのかといった点を厳しく見極めていく必要がある。

 内外に難題、政権運営は茨の道

ここまでみてきたように11日に召集される特別国会では、石破首相が新しい首相に選出され、第2次石破政権が発足する公算が大きい。但し、新たな政権は少数与党政権という大きな制約を担っての政権運営となる。

日本を取り巻く国際環境は、5日投開票のアメリカの大統領選挙の結果がどのようになるか、中旬からはAPECやG20サミットなども予定され、息の抜けない状況が続く。内政では、物価高騰対策や能登半島地震の復旧など早急に手を打つべき懸案が待ち受けている。

但し、補正予算案1つをとってみても野党の主張をかなり取り入れなければ、成立にこぎ着けることは難しい。石破政権の今後の運営は、茨の道が続くことになる。

一方、足元の自民党内では、大量の落選者を出したのは石破首相や森山幹事長の責任が大きいとして、政治責任を追及する声もくすぶっている。自民党は7日にも両院議員懇談会を開き、選挙結果を総括することにしているが、執行部への不満や批判が噴きだす事態も予想される。

石破政権は、年末の予算編成をはじめ、年明けの通常国会、さらには来年夏の参議院選挙を控え、綱渡りの政権運営が続くことになる。いつ、政権が危機に見舞われるか予断を許さない政局が続くことになるのではないかとみている。(了)

 

 

 

 

 

 

 

自公過半数割れ、裏金問題が政権与党を直撃

第50回衆議院選挙は27日投開票が行われ、自民党は議席を大幅に減らし、単独で過半数に届かないことが確実になった。また、自民、公明両党でも過半数を割り込むことが確実になり、石破政権は大きな打撃を受けるのは必至の情勢だ。

衆院選挙は27日午後8時で投票が締め切られ、開票作業が進められた。自民党は議席が伸び悩んでおり、単独で過半数の233議席に届かないことが確実になった。

自民党は、28日午前1時半時点で186議席に止まっているほか、公明党も22議席で伸び悩んでいる。このため、自民、公明両党でも過半数の233議席に達するのは難しく、過半数割れをすることが確実になった。

これに対して、野党第1党の立憲民主党は公示前の98議席から、大幅に議席を増やし、28日午前0時半の時点で134議席を確保し、さらに議席を伸ばす勢いだ。

日本維新の会は35議席を確保したほか、国民民主党は27議席、れいわ新選組も8議席と公示前から議席を増やし、共産党も8議席を確保している。

自民、公明両党が衆議院で過半数を割り込むのは、2009年の衆議院選挙で民主党政権が誕生した時以来、15年ぶりのことになる。これによって、発足したばかりの石破政権は大きな打撃を受けるのは必至の情勢だ。

今回、自民党が議席を大幅に減らしたのは、自民党派閥の裏金事件について、実態の解明や説明などが不十分で、国民の不信感が逆風となって大きく影響したことが挙げられる。

これに加えて、自民党は不記載議員の一部を選挙で公認しないなどの厳しい措置を打ち出す一方で、非公認の候補者が支部長を務める政党支部に2000万円の活動費を支給していたことが選挙戦の最終盤に明るみになった。

自民党の関係者は「この問題が報じられた後、国民の自民党に対する視線が一段と厳しくなり、最終盤の巻き返しができなくなった」とのべ、この問題の選挙戦への影響の大きさを認めた。

執行部の政治責任浮上、政局流動化へ

今回の選挙結果について、石破首相は開票速報でのインタビューに答えて「非常に厳しい審判をいただいた。謙虚に厳粛に受け止めなければならない」とのべた。

こうした一方で、石破首相が引き続き政権を担当する意欲をにじませた。しかし、石破首相は、衆議院を解散するのに当たって勝敗ラインを「自民、公明両党で過半数を確保すること」を挙げていた。

自公過半数割れがどの程度で収まるのか、まだはっきりしないが、勝敗ラインを割り込んだことで、自民党内からは石破首相や党執行部の政治責任を明確にするよう求める意見が出されることが予想される。

また、選挙後の特別国会で首相指名選挙をどのように乗り切るのか、衆院選挙を受けての組閣人事、政権の安定に向けて連立の枠組みを拡大するのかどうかが大きな問題になる。

さらに、公明党の石井代表は小選挙区の埼玉14区で敗れ、比例代表との重複立候補をしていないため、議席を失うことが確実になった。

このほか、来月5日にはアメリカの新大統領が決まるのをはじめ、11月中旬にはAPECやG20サミットが控えている。来月下旬以降には、臨時国会を召集し、能登半島地震対策や物価高騰対策などを柱とする補正予算案の審議を行う必要がある。

このように内外に大きな懸案を抱えている中で、石破首相は選挙敗北の政治責任をどのような形で取るのか、今後の政権運営をどのような方針で行うか、早急に明らかにする必要がある。選挙後の政局は、大きく揺れることになる見通しだ。(了)

★追伸(28日午前11時)以上の原稿は、28日午前1時半時点のデータで執筆。 各党の最終確定議席と、公示前勢力との増減は以下の通りです。       ◇自民191議席-56。◇公明24議席-8 → 与党215議席、-64      ◇立憲民主148議席+50 ◇維新38議席-6 ◇国民民主28+21 4倍    ◇れいわ9議席+6 3倍 ◇共産8議席-2 ◇参政 3議席+2       ◇日本保守3議席+3 ◇社民1議席 ±0 ◇無所属(小選挙区)12議席-2   以上です。

 

“自民苦戦、与党過半数割れ攻防続く”衆院選情勢

短期決戦となった衆院選挙は、いよいよ27日に投開票が行われる。終盤の選挙情勢は、自民党が単独で過半数を維持するのは難しい情勢で、苦戦が続いている。

一方、自民、公明両党で過半数を維持できるかどうかは微妙な情勢で、このまま27日の投開票まで与野党の激しい攻防が続く見通しだ。

有権者にとっては投票に当たって、与野党の選挙情勢も念頭に置いて投票したいという方もいるので、最終盤の選挙情勢を分析、評価してみたい。

 自民、単独過半数維持は困難か

まず、自民党の選挙情勢について、党の関係者に聞いてみると「九州、四国、九州など西日本地域は堅実な戦いができているが、北海道、東北、東海などは厳しい戦いを迫られている。現状では、小選挙区で30議席程度減る情勢ではないか」と厳しい状況であることを認める。

衆院の総定数は465議席なので、その過半数は233議席、公示前の自民党の勢力は247議席だ。15議席以上減らすと自民党は単独過半数割れに追い込まれることになる。

先の自民党関係者が触れたように小選挙区で30程度も議席を減らせば、自民党は単独で過半数を維持することは困難だ。

自民党は過去4回、衆院選挙で単独過半数を維持してきた。仮に単独過半数を割り込む場合は、2009年麻生政権下で政権を失って以来、15年ぶりになる。それだけ今回の総選挙では、自民党は苦境に立たされていることを示すものだ。

 与党過半数割れは微妙、攻防続く

次に選挙情勢の大きな判断基準として、与党で過半数を維持できるかどうかの目安がある。石破首相と公明党の石井代表がそろって勝敗ラインとして掲げている「自公で、過半数を確保すること」と同じ内容だ。

自公で過半数が維持できるかどうかをめぐっては、選挙関係者の間でも見方が分かれている。立憲民主党の野田代表など野党関係者は「裏金問題を徹底的に追及していけば、自公両党を過半数割れに追い込むことは可能だ」と強気の見通しを示している。

これに対して、自民党の選挙関係者は「政治とカネの問題をめぐって自民党は、厳しい情勢にあるが、都市部の選挙区では野党候補が乱立したことで助かっているところもある」として、過半数割れを回避できるという見方を示している。

報道各社の情勢調査をみても、与党で単独過半数割れになるかどうかはっきりしない。仮に自民党が議席を大幅に減らしても210議席程度に止まると、公明党が20議席後半を維持できれば「ギリギリ、過半数を超えることも可能だ」と見られるためだ。

つまり与党の獲得議席の「下限」、最も厳しい場合は「与党過半数割れ」となる。逆に「上限」、「与党が過半数を確保」できる場合もあり、どちらに転ぶかわからないというのが今の状態だ。

立民は議席増か、自民追加公認も焦点

一方、野党側のうち、立憲民主党は公示前の98議席から大幅に議席を増やす勢いがある。国民民主党も公示前の7から議席を増やす見通しのほか、共産党も公示前の10議席を上回る勢いがある。れいわも公示前の3議席から増やす見通しだ。

一方、日本維新の会は、このところ党勢に広がりがみられず、公示前の44議席を減らす可能性が大きいとみられる。

衆院選挙の場合、過去の選挙でも与野党激戦の選挙区が60程度は残り、最後まで激しい戦いが続く。最終的な議席数は、こうした激戦区の結果で決まることになる。

与党の議席数に話を戻すと、自民党は与党で過半数の勢力を維持するためにも、無所属の当選者から「追加公認」を行うことを検討している。与党が過半数を維持できるかどうかは、こうした追加公認の扱いによっても変わることになる。

いずれにしても自公で過半数を維持できるのか、それとも野党が大幅に議席を伸ばし、与党過半数割れに追い込むことになるのかどうかが最大の焦点だ。

政権・与党の巻き返し、野党の動向は

このように石破政権と自民党は、政治とカネの問題などで厳しい状況に立たされているが、投開票日まで挽回の手段、方法はあるのだろうか?

NHKの世論調査(10月18~20日、投票日前1週前)を見てみると石破内閣の支持率は41%、不支持率は35%だった。その1週間前の調査に比べると、支持率は3ポイント下がり、不支持率は3ポイント上昇したことになる。

一方、各党の支持率は、自民党が31.3%、公明党4.4%、立憲民主党9.2%、日本維新の会3.4%、共産党2.9%、国民民主党2.3%、れいわ1.9%、社民党0.6%、参政党1.1%、みんなでつくる党0.1%、無党派34.8%だった。

このうち、自民党の支持率は先週の調査35.1%から、3.8ポイントも下落した。この数値は、小選挙区の勝敗に直接影響するものではないが、この1週間で自民党の下落幅が大きかったことがわかる。

こうした石破政権と自民党の支持率低下は、選挙の大きな争点となっている「政治とカネの問題」の逆風が今も続いていること示すものだとみられる。このため、石破政権が政策面で巻き返しにつながるような決定打を放つのは難しいものとみられる。

各党の取り組みに勢いがあるかどうかは、最終的な議席数にも影響を及ぼすので、最後まで見届ける必要がある。石破政権が発足直後に踏み切った衆院解散・総選挙は、27日の有権者の審判がどのような形になって現れるか、選挙後の政局は激しく揺れ動く予感がする。(了)

衆院短期決戦、選挙情勢をどう読むか?

第50回衆議院選挙が15日公示され、27日投開票に向けて12日間の選挙戦がスタートした。今回は、1日に石破茂・自民党総裁が新しい首相に選出されて新政権が発足、8日後に衆院解散、26日後に投開票という戦後最短の政治決戦となった。

衆院選挙の立候補届け出は15日午後5時に締め切られ、小選挙区(定数289)に1113人、比例代表(定数176)に単独で231人の合わせて1344人が立候補した。

立候補者数は、現行制度下で最少だった前回2021年の1051人から、293人増えた。野党の立憲民主党と共産党との候補者一本化が進まなかったことや、日本維新の会が積極的に候補者擁立を進めたことが影響したとみられる。

選挙戦では、自民党派閥の裏金事件を受けた政治改革のあり方、物価高騰対策をはじめとする経済政策、厳しい国際情勢に対応していくための外交・安全保障政策をめぐり、激しい論戦が行われる見通しだ。

一方、選挙の勝敗はどうなるのか。裏金事件の逆風が続く中で、自民・公明両党は過半数の議席を確保して政権を維持できるのか、それとも野党が勢力を伸ばして与党を過半数割れに追い込めるのかどうかが最大の焦点だ。選挙情勢の現状と勝敗のポイントを中心に探ってみたい。

カギとなる数字「233、47」の攻防

「衆院選挙の勝敗ライン」について、石破首相と公明党の石井新代表はそろって「自公で過半数を維持すること」を挙げている。「勝敗ライン」は選挙の勝敗の目安となると同時に、執行部の政治責任が生じる基準にもなる。

このため、与野党問わず、執行部はいずれも低目の目標を設定し、政治責任が自らに及ばないよう予防線を張るケースが多い。

「自公で過半数」は、衆院総定数465の過半数だから「233」、これが「勝敗ライン」ということになる。

今回は石破首相と自民党執行部は、不記載議員12人を非公認とした。このうち1人が立候補を取り止め、11人が無所属で立候補することになった。

自民党の公示前勢力は、非公認扱いとなった11人を差し引いた247人。公明党が32人なので、自公の勢力は合わせて279人となる。自公過半数割れは、279人-233人=46、これを1人下回る「47」となる。

以上を整理すると自公の過半数は「233」。この過半数割れは、与党勢力から「47」以上の議席が減るかどうかにかかる。したがって、今回の選挙でカギとなる数字は「233」と「47」。この数字をめぐる与野党の攻防ということになる。

自民単独過半数=「党内政局」分岐点

このカギになる数字「233」は、もう一つ「自民単独で過半数」を獲得できるかどうかという大きな意味も持っている。

自民党は、2012年から衆院選で4回連続、単独過半数を維持してる。ところが、今回は不記載議員を11人を非公認にしたため、党の公認候補は247人にまで減っている。

このため、「15人以上」が議席を失うと「自民単独過半数割れ」に陥ることになる。自民党政権下では、2009年麻生政権が政権から転落して以来の敗北を意味する。政権にとって大きな痛手となるのは間違いない。

一方、自民党は「非公認の候補者でも当選すれば追加公認はありうる」としているので、追加公認で議席減少の穴埋めの措置が取られることが予想される。

あるいは、自民党は不記載議員のうち、小選挙区での公認を認めたものの、比例代表選挙との重複立候補を認めなかった候補者が33人に上る。小選挙区で議席を失えば、比例代表で救済される道は閉ざされる。比例代表の単独名簿の候補者が当選になる。

旧安倍派議員を中心に議席を失う議員は、相当な数に上るとの見方があるほか、選挙後の自民党議員の顔ぶれなどを注意深く見ていく必要がある。

話を元に戻すと、自民党が単独過半数割れになった場合の影響はどうか。前回2021年の衆院選結果は261議席で、この水準が続いてきた。過半数を割り込むということは、この水準から30議席近くも下回るので、その影響は極めて大きいことがわかる。

仮に「自公過半数」の目標は維持できたとしても、党内の反主流派や旧安倍派からは「大幅な議席減をもたらした」として、石破首相の政治責任を追及することが予想される。

したがって「党内政局」を引き起こすボーダーラインという意味合いを持っている。「自民単独で過半数233」維持できるかどうか、そのためには「15議席以上の議席減」を避けられるかどうかは、石破政権にとって大きな意味を持つ。

 議席予測、正確な調査・取材の詰め必要

それでは、今回の選挙情勢はどうなっているのか、見ていきたい。自公で過半数を維持できるか、自民単独で過半数を維持できるか、この2つが大きなポイントになる。

石破首相は14日午後、衆院選の見通しについて「非常に厳しいことは認識している。何とか全力を尽くし、自民、公明で過半数をいただければありがたい」と記者団に語った。

これに対し、立憲民主党の野田代表は「自公過半数割れに追い込む」と強調し、自公で過半数を獲得できるかどうかが最大の焦点になっている。

衆院選の公示前の段階でメデイアの世論調査や、自民党関係者の見方を総合すると比例代表選挙の投票先では、自民党が野党各党を引き離しており、「自公で、過半数割れの可能性は小さい」とみられる。

一方、「自民単独で過半数を割り込むケースは、起こりうるのではないか」との見方は自民党関係者からも聞かれる。

つまり、自公過半数割れ、47以上の大幅な議席減は、今の時点では想定しにくい。但し、自民単独過半数割れは15議席程度の減少で起きるので、可能性はあるとの見方が多いのが現状だ。

但し、こうした見方は、突き詰めると、いずれも選挙前の予想で、選挙戦突入後の情勢に基づくものではない。

選挙情勢に影響を及ぼすと見られる石破政権の評価をはじめ、不記載議員に対して執行部がとった対応措置などについて、国民がどのような受け止め方をして、選挙結果にどこまで影響するのか、まだ詰め切れていないのが現状だ。

したがって、これまで見てきた見通しは、当たっているのかどうか、これから投票日に向けて、有権者の意識を中心にトレンド・傾向を追跡していく必要があるというのが結論だ。

”予測の外れ”を生かせるかが重要

ところで、選挙の予測は、従来はかなり高い精度で結果を予測することが可能だった。ところが、今回は政権が交代し、直後に超短期の選挙戦に踏み切ったので、賭けの要素が極めて高いとも言える。国民が新政権や、選挙の主要争点をどのように評価しているのかといったデータが乏しいので、選挙の予測はかなり難しい。

既にさまざまな選挙の予測が出されているが、その根拠ははっきりしない。メデイアの「情勢調査」(世論調査)や取材記者の「票読み」、「データ分析」などに基づいて、全体情勢が明らかにならないと、根拠のある予測とは言えないのではないかと個人的には考える。

これから2週間あまり、情勢調査などを実施しながら、選挙情勢のトレンドを把握し、読み解いていくのが基本だと思う。

前回・2021年の衆院選挙の予測報道を思い起こすと、取材者として参考になる点が多い。3年前の衆院選では、ほとんどのメデイアの予測が外れた。多くのメデイアは自民党は議席を減らすと予測していたが、実際は単独で過半数を上回り、安定多数を獲得した。

前回は衆院議員の任期切れを間近に控え、短期決戦に持ち込まれたことと、激戦区が多数に上った。当選者と次点の差が1万票以内の激戦区は全国で58にも上り、議席の読みを狂わせる要因になった。

今回も前回と同じく、激戦区が相当な数に上ることが予想される。激戦区を絞り込み、情勢調査、記者の票読み、投票者を対象にした出口調査などを総動員して正確な予測報道を行う必要がある。

また、選挙で有権者は何を重視して1票を投じたか?単に選挙結果の予測だけでなく、選挙や政治の質を高めていく選挙報道の取り組みに期待しながら、メデイアの対応を見守っていきたいと考えている。(了)

 

 

衆院解散、戦後最短決戦へ 裏金問題カギ

衆議院が9日解散され、政府は臨時閣議で、15日公示、27日投開票とする日程を決めた。各党とも15日の公示に向けて、選挙体制づくりを加速させている。

石破内閣が発足したのが今月1日。8日後に衆院を解散、26日後の投開票となるのは、戦後最短だ。解散から投開票までの期間は18日間で、前回・2021年の17日間に次いで、2番目の短さになる。

さて、今回の衆院選の大きな争点は「裏金問題と政治改革」になるだろう。というのは、前任の岸田内閣が退陣に追い込まれたのは、裏金問題への対応が後手に回り、内閣支持率が長期にわたって低迷、退陣に追い込まれたからだ。

日本政治が取り組むべき課題は、日本経済の再生をはじめ、急激な人口減少社会への対応、内外の外交安全保障情勢など多岐にわたるが、政治の信頼が失墜しているので、議論自体が進まない隘路に陥っている。

本来の政策論争などを取り戻すためにも、裏金問題と政治改革について国民の信頼を回復し一定の前進を図られるようにすることが、事態改善の第一歩だと考える。

一方、石破首相と自民党執行部は衆院解散が間近に迫った段階で、派閥の裏金事件で政治資金を不記載にした議員について、一部、公認しない方針を打ち出した。また、不記載議員については、政治倫理審査会で弁明を行っていない場合は、比例代表への名簿登載を認めない方針も決めた。

こうした方針に対しては、自民党安倍派から猛烈な反発が出る一方、世論の逆風を抑えるためには「厳しい措置は当然」との声も聞かれる。自民党の新たな方針を含めて、政治とカネの問題を改めて考えてみたい。

 裏金問題、党首討論でも集中砲火

自民党の裏金問題は9日、衆院が解散される直前に行われた党首討論でも野党各党の多くが取り上げた。

立憲民主党の野田代表は「先月、安倍派元事務局長の有罪判決の中で、幹部間の協議で裏金処理の再開が決まったので、従わざるを得なかったことが裁判所で認定された。国会で弁明した安倍派幹部の発言は、虚偽だったことが明らかになった」として、事実関係を解明せず解散を急ぐのは「裏金隠し解散だ」と批判した。

続いて質問にた立った日本維新の会の馬場代表、国民民主党の玉木代表らも「党が幹部議員に渡す政策活動費の廃止を考えているなら、直ちに今回の衆院選から政策活動費を取り止めるべきだ」などと攻め立てた。

石破首相は「政治の信頼回復を第一に対応するのは、当然のことだ。政治資金については、法律で許された範囲内で適法に行う」とのべ、政策活動費の扱いなどについて、具体的に言及することを避けた。

このように裏金問題と政治改革は、今も与野党間の最大の争点になっている。問題は、選挙の際、国民の多くがどのように判断するかだ。

報道各社の世論調査によると実態解明などは継続すべきだという意見は多い。一方で、選挙戦に入って政治が取り組むべき主要課題の中で「政治とカネの問題」がどの程度上位に位置づけられるかが、大きなポイントなりそうだ。

裏金議員12人非公認、世論の評価は

石破首相と自民党執行部は9日、派閥からの政治資金を不記載にしていた議員など12人について、次の衆院選挙で非公認とする方針を決めた。

非公認になったのは「党員資格停止処分」を受けた下村元文科相、西村元経産相、高木元国対委員長。1年間の「党の役職停止」の処分が継続し、政治倫理審査会で説明をしていない萩生田元政調会長、平沢元復興相、三ツ林裕巳・元内閣府副大臣の6人。

それに半年間の「党の役職停止」処分を受け、その期間が終わった菅家一郎元復興副大臣ら3人、「戒告」処分を受けた細田健一・元復興副大臣ら3人の合わせて12人だ。

自民党内では、旧安倍派議員などから「一度、処分をしながら再び処分するようなやり方は認められない」「旧安倍派を狙い撃ちにした措置だ」など強い反発の意見が相次いだ。選挙後の挙党態勢を危ぶむ声もきかれる。

一方で「原則公認となれば、今度は自民党全体が国民から厳しい批判を浴び、選挙どころではなくなる」として、処分やむなしとの意見も聞かれた。

この問題は、党首討論でも取り上げられ、立憲民主党の野田代表は「相当程度が非公認だと言っていたが、大半は公認されている。また、非公認で立候補した人も当選したら、追加公認するのではないか」と質した。

これに対して、石破首相は「公認しない人が少ないというが、それぞれの人にとってどれほどつらいものか、よくよく判断した上でのことだ。最終的な判断は、主権者たる国民に任せたい。追加で公認することはありうる」との考えを示した。

一方、不記載議員については、小選挙区で公認しても、比例代表選挙の名簿登載を認めない方針を決めた。小選挙区で当選できない場合、比例代表で救済される道が閉ざされることになる。

重複立候補が認められなかった議員は30人余りとなった。自民党は、比例代表単独の候補者を増やすなど新たな対応を迫られることになるだろう。

今回の方針について、自民党の選挙対策関係者に聞いてみると「自民党という組織で考えると、従来の方針を大きく転換、最も厳しい措置と言える。それなりの結果を出せれば、石破総裁の評価は高まる」。

「但し、国民からすると大半は公認されているとして、厳しい視線は変わらないかもしれない」として、新たな方針の意味や姿勢をどこまで理解してもらえるかにかかっているとの見方だ。今後、議席を予測する際のポイントになる。

 首相 勝敗ライン「自公で過半数」

衆議院解散を受けて石破首相は9日夜、記者会見し「国民の納得と共感がなければ政治を前に進めることはできない。新政権の掲げる政策に力強い後押しをお願いしたい」とのべた。

そのうえで、今回の解散を「日本創生解散」と位置づけた。「日本社会のあり方を根本から変えていきたいと考えている」と説明した。

また、衆院選挙の勝敗ラインと下回った場合の対応を問われたのに対し「自民党と公明党で過半数をめざしたい。勝敗ラインを割り込んだ場合の対応については、コメントを差し控えたい」とのべた。

報道各社の世論調査によると、発足した石破内閣の支持率は46%から51%程度に上昇した。自民党の支持率も、岸田政権当時に比べて上昇している。但し、3年前の選挙時の支持率に比べると、勢いが乏しいとのデータもある。

石破首相と自民党にとっては、次の選挙は楽観できる状況にはない。党の選対関係者も「前回より増やせる要素はなく、どこまで目減りを減らせるかだ」との見方をしている。

そのためには、最大の争点になるとみられる裏金問題と政治改革から逃げずに、具体策を打ち出せるかどうかが問われることになるだろう。

また、多くの国民にとっては、物価高騰と国民生活、日本経済の運営に大きな関心を寄せている。実質賃金の目減り、物価高を上回る賃上げ、円安政策など納得させるだけの対応策を打ち出せるかにかかっているのではないか。

これは、野党各党にとっても同様だ。政治とカネの問題、経済と暮らしの分野で国民の支持を広げられるような政策を打ち出せるかどうかが問われることになる。

今回も、前回に続いて、短期の政治決戦になる。内外の多くの難題の解決に向けて、かじ取りを任せられる政党・政治勢力や候補者は誰か、私たち有権者も重い選択を行うことになる。(了)

“前途多難”石破新政権発足、27日衆院決戦へ

臨時国会が1日召集され、岸田首相の後継を選ぶ首相指名選挙が行われ、自民党の石破新総裁が、第102代の総理大臣に選出された。石破首相は直ちに組閣作業に入り、19人の閣僚のすべてを決定、石破新内閣が発足した。

岸田首相が事実上の退陣表明したのが8月14日、後継選びの総裁選には過去最多の9人が立候補し、大混戦が続いた。最後は決選投票にまでもつれ込み、逆転勝利を収めたのが石破氏だった。

決選投票で敗れた高市早苗氏は、石破氏から総務会長ポストの打診を受けたが、固辞し、政権と距離を置く姿勢を鮮明にした。石破氏と高市氏とのせめぎ合いは今後も続くことになりそうだ。

石破首相はできるだけ早く国民の信を問いたいとして、10月9日に衆議院を解散し、10月27日に投開票を行う考えだ。首相就任から衆院解散までわずか8日間の日程は、過去最短となる。

これに対して野党側は、国会論戦を避けて衆院解散に踏み切るのは認められないとして強く反発し、1日召集の国会は冒頭から対決色が強まった。

激しい総裁選を終えたばかりの自民党内は一枚岩になっておらず、政治とカネの問題で逆風が続く中で、衆院決戦は大きなリスクも抱えている。石破政権の前途は多難で、まずは衆院決戦を乗り切ることができるかどうかがカギを握る。発足した石破政権の特徴や、政権運営のポイントなどを展望してみたい。

 政権基盤弱く、森山氏、菅氏らに依存

さっそく1日に発足した閣僚の顔ぶれから、見ておきたい。◇外務大臣に岩屋毅・元防衛相、◇防衛相に中谷元・元防衛相、◇総務相に村上誠一郎・元行革担当相など石破首相と個人的に親しい顔ぶれが目につく。

また、総裁選で石破氏の推薦人なった関係者を多数、起用したのも特徴だ。先ほど触れた岩屋氏、村上氏のほか、経済再生担当相に赤沢亮正・財務副大臣、農水相に小里泰弘・首相補佐官、デジタル担当相に平将明・広報本部長代理、沖縄・北方担当相に伊東良孝・元農水副大臣だ。

さらに◇内閣の要の官房長官は林芳正官房長官が続投するほか、◇財務相は加藤勝信・元官房長官が就任。女性閣僚は◇文部科学相に阿部俊子氏、◇子ども政策担当相には、参議院議員の三原じゅん子氏を起用した。

自民党の派閥からの政治資金を不記載にしていた裏金議員と、安倍派からは閣僚に起用しなかった。

一方、自民党役員人事では、◇党の要の幹事長にベテランの森山裕・総務会長をすえた。◇総務会長に鈴木俊一・財務相、◇政調会長に小野寺五典・元防衛相、◇選対委員長に総裁選を戦った小泉進次郎氏を起用した。

このように今回の人事は、党の運営全般と選挙を仕切る幹事長に森山氏、副総裁に菅元首相がそれぞれ就任して柱の役割を果たし、さらに内閣と党の主要ポストを岸田前首相とそのグループと菅グループなどが支援する構図になっている。

岸田政権は麻生、茂木、岸田の3派が主流の政権だったが、今回は高市支持の麻生氏を党の最高顧問に棚上げ、代わって「森山、菅、それに岸田の3氏を軸にした体制」へと変化している。

特に森山氏は小派閥の出身ながら、国対委員長と選対委員長の両方を長い間、担当して調整能力の優れた老練な政治家だ。石破政権は実質的に、森山氏が切り盛りすることになるのではないかとみている。

同時にこのことは、石破氏の政権基盤の弱さを補う効果が期待できる反面、石破氏が政権運営の主導権をどこまで発揮できるかどうかわからない両刃の剣ともいえそうだ。

 早期解散、首相の政治姿勢も問われる

さて、石破総裁は国会で新しい首相指名を受ける前日の30日、記者会見で「国会で新しい首相に選出されれば、できるだけ早期に国民の審判を受けることが重要だ。10月27日に解散・総選挙を行いたい」とのべ、10月9日に衆院解散、15日公示、27日投開票の日程で解散総選挙を行う方針を明らかにした。

この問題が与野党の新たな火種になっている。自民党の新総裁が、国会で首相の指名を受けてもいないのに、衆院の解散時期に言及することは異常な事態だ。指摘を受けた石破氏は「全国の選管が選挙の準備を行えるようにするためだ」と釈明した。

だが、憲法7条は「天皇は内閣の助言と証人により、国事行為を行う」と規定しており、その1つが「衆議院の解散」だ。新たな内閣が発足していないのに”衆院解散を事前予告”するような越権行為は認められない。なぜ、そこまで焦る必要があるのか理解に苦しむ。

もう1つ、この問題は、石破首相の政治姿勢にも関係してくる。というのは、総裁選での論戦で小泉氏が「できる限り早く解散総選挙を行いたい」と主張したのに対し、石破氏は「なってもいないものが言及すべきではない」と慎重な姿勢を打ち出した。

また、石破氏は「国民に判断していただける材料を提供するのが、新しい首相の責任だ。本当のやりとりは予算委員会だと思う」とまで予算委員会で与野党が議論を戦わせることの意義を強調していた。

ところが、新総裁に選ばれると、それまで発言を一転、早期解散にカジを切った。野党側は「自民党を変える前に、石破首相自身が変節してしまった。言ってきたこととやっていることが違う」などと強く反発している。

石破政権としては4日に初めての所信表明演説を行ったうえで、7日と8日に衆参の本会議で代表質問、9日に党首討論を行ったあと、その日のうちに衆院解散を行う方針で、野党側と折衝を続ける方針だ。

それでは、なぜ石破首相は解散時期の方針を転換せざるをえなくなったのか。自民党関係者は「石破首相の解散論は、あるべき論の筋論。党の重鎮や幹部はそろって選挙に勝つことが第1。新政権発足直後は、内閣支持率の上昇が期待できる。森山幹事長が短期決戦を強く進言し、石破氏も受け入れたのだろう」と解説する。

石破首相にとって、森山氏は誠実な人柄と調整能力に秀でており、幹事長候補として考えていたとされる。但し、森山氏に引きずられるようになると今度は、国民から首相の見識、能力を厳しく問うことになる。短期決戦方針が、吉と出るか、凶と出るか注目している。

 早期解散論、国民の支持得られるか?

組閣を終えた石破首相は1日夜、最初の記者会見を行い「『国民の納得と共感を得られる内閣』をめざしたい」とのべるとともに「政治資金の監視にあたる第三者機関の設置など令和の政治改革を断行する」と強調した。

これに対し、記者団からは「衆議院の早期解散について、総裁選の最中は慎重な発言を繰り返していたのに、総裁・総理になると早期解散を唱えるなど違っていることについて、国民は戸惑っている。なぜ、変わったのか」という質問が繰り返し出された。

これに対し、石破首相は「新しい内閣ができたので、国民の判断を早急に求めることになった。国民への判断材料の提供と両立できるよう誠心誠意務めていく」と釈明に追われた。

石破政権は内外に多くの難問を抱え、多難な政権運営予想される。そうした中で、政権運営の主導権を確保するために早期解散を打ち出したが、総選挙に打って出る大義や政治姿勢に国民の理解が得られるかどうか、当面の焦点の1つに浮上してきたようにみえる。(了)

“薄氷の勝利”石破氏 自民新総裁に選出

大混戦が続いていた自民党総裁選挙は27日、投開票が行われ、5回目の挑戦となる石破元幹事長が、決選投票で高市早苗経済安保相を逆転し、新しい総裁に選出された。決選投票の票差はわずか21票、薄氷の勝利だった。

今回の総裁選は、過去最多の9人が立候補して混戦となった。当初は、党員や国民の人気の高い小泉進次郎元環境相と、石破元幹事長の2人の戦いになるとみていたが、選挙戦に入ると高市氏が急速に勢いを増して3つ巴の構図となり、勝敗のゆくえは見通せなくなった。

最終的には、石破氏が勝利を収めることになったが、舞台裏で何が起きていたのか、今回の総裁選全体をどのようにみたらいいのか。さらに来週、発足する石破政権にとってのハードルは何かを見ておきたい。

 石破氏逆転勝利の事情、舞台裏は?

まず、第1回投票で高市氏がトップとなりながら、決選投票で石破氏が逆転することができたのは、どのような事情があったのかという点からみていきたい。

選挙なので、多少数字が多くなるが、お付き合い願いたい。第1回投票では、高市氏は議員票72票、党員票109票、計181票だった。党員票では、1票ながらも石破氏を上回った。同時に驚いたのは議員票の増加ぶりだ。40~50票程度と見ていたので、72票、相当な議員票の上積みが目を引いた。

これに対して、石破氏は議員票46票、党員票108票、計154票だった。石破氏は、党員票では強みを発揮するとみていたが、今回は高市氏の追い上げを許した。一方、議員票は限界があり、得票を大幅に増やすことはできなかった。

これを受けて、決選投票(368党員票から、47都道府県票に縮小)では、石破氏が議員票189票、都道府県票26票、合計215票を獲得。対する高市氏は議員票173票、都道府県票21票、計194票。石破氏が21票上回って、逆転勝利した。

この理由は何か?石破氏の議員票は、第1回投票が46票→決選投票189票へ143票も上積みした。高市氏は、第1回投票72票→決選投票173票、101票増に止まった。議員票で大差がついたのが大きな要因だ。

議員投票の詳細な流れはまだ不明だが、決選投票に進まなかった他陣営の議員票の多くが、石破氏へ流れたことが考えられる。麻生副総裁が高市氏支持に動いた一方で、岸田首相をはじめ、林官房長官、上川外相ら旧岸田派のグループ、小泉氏を支持した無派閥議員の多くは、逆に石破氏支持に回ったとみられる。

首相経験者でみると、岸田首相と菅元首相は石破氏を支持して勝利したのに対し、麻生副総裁は高市氏支持に回り敗北を喫し、明暗が分かれた。

また、自民党関係者によると「決選投票で高市氏が伸びなかったのは、高市氏の政治信条や政策などに対する警戒感が働いたのではないか」との見方をする。「保守の論客で、安倍元首相の後継者を自認する高市氏がトップに就任すると、外交・安全保障や経済・金融政策面で混乱を招く恐れがある」として、ブレーキが働いたのではないかというわけだ。

 小泉氏失速、高市旋風で構図が変化

もう1つ、今回の総裁選では、次の首相候補として人気の高かった小泉進次郎氏の評価が低下したことが、総裁選の構図を大きく変える要因になったのではないか。

小泉氏は、議員票では最多の75票を集めた。一方、党員投票は61票に止まり、100票台の高市氏や石破氏に大きな差をつけられた。

小泉氏は最初の立候補表明の記者会見は、準備や演出も周到で順調な滑り出しかに見えた。しかし、選挙戦が始まり、日本記者クラブの候補者討論会や記者会見などで、主張や政策の説明に説得力が感じられず、世論調査でも自民支持層や党員の支持に勢いが見られなくなった。

地方の党員に聞いてみたところ「はっきり言えば、総裁選に出るのは10年早い。政治家として能力は十分あるのだから、政策面などの力を磨いた上で再挑戦した方がいい」など手厳しい意見が多かった。

一方、高市氏については「政治信条や主張がはっきりしており、支持したい」といった声が多く聞かれた。総裁選挙の有権者は、自民党の党員・党友の105万人余りに限定されているが、こうした党員の受け止め方の差がそのまま得票数に現れる形になった。

今回の総裁選挙には、現職の閣僚、党の幹事長、元閣僚など主要幹部が名乗りを上げたが、党員の得票率はいずれも1ケタ台に止まった。人数だけは賑やかだが、議論がほとんど掘り下げられず、肝心な点がわからなかったとの声も聞く。

最終盤では、各候補者が重鎮詣でを繰り返したほか、特定の候補への投票の働きかけがあったとの声も聞く。総裁選のあり方も再検討する必要があるのではないかと思う。

石破新総裁、難問は新体制づくり

石破新総裁の選出を受けて、国会は10月1日に召集され、新しい首相に石破新総裁が指名される運びだ。その日のうちに石破新内閣が発足する見通しだ。

石破首相にとって最初の難問は、新しい内閣、政権の体制づくりだ。石破氏は自らの派閥を解散して無派閥を続けてきたことから、石破氏を一体となって支える人材が周囲に少ないのではないかとの声を聞く。

一方、総裁選で高市氏は、議員票のおよそ半数の支持を得た。高市氏を含め総裁選を戦った8人の候補者の処遇も問題になる。まずは、30日までに党の幹事長などの役員人事をどのような顔ぶれにするのか。また、内閣の要の官房長官候補を内定する必要がある。

総裁選出後、石破氏は最初の記者会見で「新政権が発足するので、なるべく早く国民の審判を仰がなければならない」とのべた。そのうえで、「人事はまだ白紙だ。総裁選で争った8人の議員は、最もふさわしい役職にお願いする。高市氏や小泉氏も考え方は同様だ」とのべた。

石破政権の新しい人事がどのような布陣になるのか、そして政府と自民党一体となった体制をつくれるのかどうか最初の試金石になる。そして、この新しい体制を国民がどのように評価をするのか、大きなポイントになる。

私たち国民としては、臨時国会で与野党が論戦を戦わせ、政治とカネの問題や、経済政策などの論点を明確にしたうえで、国民に判断を求める取り組みを行うよう注文しておきたい。(了)

立民新代表に野田元首相“対立軸がカギ”

立憲民主党の代表選挙の投開票が23日に行われ、新しい代表に野田佳彦元首相が選ばれた。元首相が、野党第1党の党首に返り咲くのは、2012年9月に安倍元首相が自民党総裁選に勝利して就任して以来のことになる。

当選が決まった直後の挨拶で野田元首相は「私は、本気で政権を取りに行く覚悟だ。衆院解散・総選挙は間違いなく早い段階で実施されるだろうから、その戦いの準備は、今日から始まる。明日午前中に人事の骨格を決める」と党の体制作りを急ぐ考えを明らかにした。

野田新代表にとって最大の目標は、次の衆院選を勝利に導き、政権交代を実現することだが、その道は容易ではない。何が問われているのか、探ってみたい。

 野田元首相の経験と安定感に期待か

まず、代表選の結果を確認しておきたい。第1回投票で、野田氏は4人の候補者の中で最も多くのポイントを獲得したが、過半数に達しなかったため、上位2人の決選投票に持ち込まれた。

その結果、国会議員票(136人、1人2ポイント)、国政選挙の公認候補予定者(98人、1人1ポイント)、47都道府県連代表(各代表1ポイント)を合わせて、◇野田氏が232P、◇枝野氏が180ポイントで、野田氏が新代表に選出された。

野田氏への支持が広がったのは、次の衆院解散・総選挙に向けて、野田氏の豊富な政治経験や安定感への期待が強いためとみられる。党内からは「元総理が新代表に就任したことで、自民党の新総裁とがっぷり四つに戦える」と歓迎の声が聞かれる。

こうした一方で、党内には「野田政権当時、公約にはなかった消費税率引き上げを飲んで党を分裂させ、政権を失った責任は大きい」との厳しい評価は未だに残っているのも事実だ。

裏金問題、政治改革の抜本案を提出へ

さて、野田新代表が問われるのは、最大の政治決戦となる次の衆院選挙に勝ち抜けるかどうかだ。そのためには、自民党との政治姿勢や政策面の違い「対立軸」を鮮明に打ち出し、国民の支持を得られるかどうかがカギを握っている。

自民党の裏金事件をめぐって国民の側は「実態解明は進まず、不記載議員は説明責任からも逃げ、ケジメもついていない」との批判は強い。先の通常国会で成立した改正政治資金規正法についても「評価しない」という受け止め方が世論調査では多い。

野田代表は「徹底した政治改革でウミを出し切る必要がある」として、秋の臨時国会に政策活動費の廃止や、企業団体献金の禁止など政治資金規正法の抜本改革案を提出する考えを表明している。

このため、政治とカネの問題をめぐっては、自公政権との対立軸は明確に打ち出せるものとみられる。立憲民主党は、他の野党各党と共同で抜本改革案を国会に提出することも検討しており、実現するかどうか注目している。

 経済政策、分厚い中間層の具体化は?

もう1つ、国民の多くが関心が高いのが、物価高騰対策と経済・金融政策のかじ取りをどのように行っていくかという問題だ。

野田代表は「分厚い中間層の復活」という構想を示している。かつての日本は、分厚い中間所得層の存在が安定成長と活力の源泉だったことから、格差を是正し、消費を活性化させることで「強い経済」を取り込みたいとしている。

そうした考え方は理解できるが、具体的に何を実施していくのか、よくわからない。「給付付き税額控除」なども柱に掲げているが、具体的な制度設計や、必要な財源確保策などについても詳しい説明が必要だ。

自民党総裁選挙の候補者も「経済成長」を掲げているが、どのような政策の組み合わせで実現するのかがはっきりしない。次の衆院選挙に向けて「経済・金融政策の基本方針」を与野党がそれぞれ明確に示して、議論を深めてもらいたい。

 衆院選に向け野党の連携は進むか?

3つ目に、野党第1党の立憲民主党は、次の衆院選に向けて他の野党との連携をどのように進めていくかという問題を抱えている。野田氏は、政権交代は立憲民主党だけでは限界があり、無党派層や国民民主党、さらには日本維新の会との連携を広げていく必要があるとの考え方だ。

これに対して、維新の側は、連携には否定的な考えを示しているほか、国民民主党は、立憲民主党が原発などの基本政策をはっきりさせる必要があるとして慎重な姿勢だ。共産党は、連携の対象には入っていないことに反発を強めている。

立憲民主党は、次の衆院選で自公政権を過半数割れに追い込んだ場合、どのような勢力が協力して政権を担うのか、具体的な構想を明らかにする必要がある。

野田代表は就任後、最初の記者会見で「あす24日の午前中までに党役員の骨格となる人事を決める。私にない刷新感をどうやって作っていくかは1つの重要な観点だ」とのべた。

野田代表にとっては、刷新感とともに挙党体制もカギになる。決選投票の得票率をみてみると野田氏が56%に対し、2位の枝野氏は43%と余り差がついてないことがわかる。

枝野前代表は立憲民主党を立ち上げた有力幹部で、議員や党員の間で支持者が多いとされる。野田代表としても、枝野氏を含め党内各グループをとりまとめて挙党体制を構築できるかどうか、党役員人事が最初の試金石になる。

今月27日には、過去最多9人が立候補している自民党総裁選で、新しい代表が選出される。これによって自民、立民両党のトップが決まり、来月1日に召集される臨時国会でそれぞれ新たな体制で激突する。政治に緊張感が生まれることを期待したい。(了)

★追記(24日23時)立憲民主党の野田代表は24日、新たな執行部人事案を提案し、両院議員総会で承認された。幹事長に小川淳也氏、政務調査会長に重徳和彦氏、国対委員長に笠浩史。いずれも50代で、執行部の若返りを図り刷新感をアピールするねらいがあるものとみられる。一方、党内からは、いずれも代表選で野田氏を支持したばかりで、挙党態勢になっていないと批判する声も出ている。