政治とカネ”与党案に厳しい評価”

自民党派閥の裏金事件を受けて、自民・公明両党が先にまとめた政治資金規正法改正の「与党案」について、国民の8割近くが「評価しない」と厳しい評価をしていることが、NHK世論調査で明らかになった。

一方、岸田内閣の支持率は24%と低迷しているほか、自民党の支持率も30%を割り込んで、2012年の政権復帰以降、最低の水準まで落ち込んでいる。

いずれも、自民党の裏金問題への反省のなさや、改革に後ろ向きな姿勢が影響しているものとみられ、岸田政権は終盤国会で苦しい対応を迫られることになりそうだ。

 与党案と 首相の指導力に厳しい評価

終盤国会の焦点になっている政治資金規正法の改正をめぐり、自民・公明両党は9日、両党の幹事長が会談し「与党案」の概要をまとめた。

与党案では、政党が幹部議員に渡す「政策活動費」は、「議員からの報告に基づき、党が金額などを収支報告書に盛り込む」としたが、具体的な使途の公開の方法などは明らかになっていない。また、パーテイー券の購入者などを公開する基準についても結論を先送りにしている。

NHKの世論調査では、この与党案の評価ついて「評価する」は15%に止まり、「評価しない」が77%、8割近くに達した。

また、政治とカネの問題への対応で、岸田首相が指導力を発揮しているか尋ねたところ「発揮している」は19%で、「発揮していない」が74%に上った。

これを支持政党別にみると、自民党支持層でも「発揮していない」と答えた人が58%に達した。また、野党支持層では「発揮していない」がおよそ90%、無党派層ではおよそ80%を占めるなど首相の指導力に厳しい評価が示された。

内閣支持率低迷、自民支持率も落ち込み

岸田内閣の支持率は、4月調査より1ポイント上がって24%だったのに対し、不支持率は3ポイント下がって55%だった。

先月に比べるとほぼ横ばいだが、政権運営の危険ラインとされる30%を割り込んで、20%台が続くのは7か月連続。支持率を不支持率が逆転するのは、去年7月以降、11か月連続となった。

一方、自民党の支持率は、4月より1ポイント下がって27.5%だった。20%台に下がるのは今年3月以降、3か月連続だ。今月の27.5%は、2012年に自民党が政権復帰して以降、最も低い水準にまで落ち込んだことになる。

岸田内閣の支持率が低迷する理由としては、今月の調査で「景気がよくなっている実感がない」という人が80%に上ったほか、岸田首相が今年中に「物価上昇を上回る所得を必ず実現する」と表明していることについて、「期待しない」が62%を占めるなど政府の物価高騰対策や経済政策に対する不満もあるものとみられる。

こうした一方で、このところ内閣支持率だけでなく、自民党支持率も平行して下落しているのが特徴だ。

こうした背景には、去年11月に裏金事件が表面化して以降、実態解明が一向に進まないこと。また、岸田首相や自民党が再発防止と称して、政治資金の部分的な手直し案しか示さないことに対する国民のいらだちや、厳しい評価も影響しているとみられる。

 野党攻勢、自・公調整のゆくえは

それでは、政治とカネの問題は、これからどのように展開するだろうか。長丁場の通常国会も来月の会期末まで1か月余りを残すだけとなった。

野党各党は、裏金問題の実態解明に加えて、政治資金規正法の抜本的な改正に向けてそれぞれの党の独自案をとりまとめている。

このうち、野党第1党の立憲民主党と国民民主党は、法案の共同提出に向けて協議を続けており、衆院政治改革特別委員会を舞台に野党案の実現を迫る構えだ。

これに対して与党側は、岸田首相が13日の政府与党連絡会議で「与党間でしっかり協力し、今国会中の法改正の実現に全力を尽くしてもらいたい」とのべ、公明党との間で条文化の作業を進め、実現を図りたい考えを示した。

公明党の山口代表は「与党案をまとめたが、隔たりのあるところがあり、法案にするには困難な部分がある。与党として法案に必要な作業を行うべきだが、野党の意見も聞きながら、国会として合意を形成することが信頼回復につながる」とのべ、野党も含めた与野党協議を重視する姿勢をにじませた。

こうした背景には、与党案をめぐっては自公両党の間に考え方の隔たりがあることに加えて、公明党としては、裏金問題を抱える自民党と距離を置きたいねらいがあるものとみられる。

このように焦点の政治資金規正法をめぐっては、自民、公明両党の足並みがそろっていないことに加えて、自民党と野党各党都の間では、法改正の内容や範囲をめぐって大きな違いを抱えている。

岸田首相は今国会での法改正の実現を明言しており、14日に山口代表と会談し、自民党として法案の作成を進め、公明党側に示したいという考えを伝えた。

仮に法改正ができない場合は、岸田首相は大きな政治責任を負うことになる。このため、どのような道筋で実現を図るのか。野党の協力を得て与野党合意をめざすのか、与党だけで成立を図るのか、あるいは今国会での成立を見送るのか決断を迫られることになる。

一方、野党側は、法改正で要求が認められない場合、内閣不信任決議案を提出する公算が大きい。その場合、岸田首相は、粛々と否決するのか、それとも政界の一部にあるような衆院解散・総選挙に打って出るのか、緊迫した会期末を迎える可能性もある。

このため、まずは、与党の自民党と公明党との間で調整が進むのか、そしてどのような道筋で法改正の実現をめざすことになるのか、与党内の調整のゆくえが当面、最大の焦点になる。(了)

 

終盤国会2つの焦点、政治資金法改正と首相の求心力

大型連休が終わり、国会は6月23日の会期末まで50日を切って終盤戦に入った。終盤国会は、自民党の派閥の裏金問題を受けて、政治資金規正法の改正をめぐり、与野党の攻防が一段と激しくなる見通しだ。

また、岸田首相は会期末に向けてどのような姿勢で、終盤国会に臨むのか。野党側が内閣不信任決議案を提出した場合、衆議院の解散に打って出る可能性はないのかどうか、与野党や自民党内で腹の探り合いが続いている。

先の衆議院3補欠選挙で自民党が全敗したのを受けて、自民党内では岸田首相の政権運営を危ぶむ声も聞かれる中で、終盤国会の焦点を探ってみる。

政治資金の法改正、与野党協議は難航か

大型連休を利用してフランスと、南米のブラジル、パラグアイを歴訪した岸田首相は、連休最終日の6日午後帰国したあと、夕方、党の政治刷新本部のメンバーと会談し、自民党の政治資金規正法の改正案づくりをめぐって意見を交わした。

この中で、岸田首相は、政治資金規正法の改正に向けて、公明党と早期に合意できるよう協議を加速するよう指示した。

自民、公明両党の間では、議員本人に収支報告書の「確認書」の作成を義務づけることなどで合意しており、それ以外の論点についても協議を急ぐ方針を確認したものだ。自民、公明両党は、連休明けの7日から協議を再開する見通しだ。

政治資金のあり方をめぐっては、衆議院の政治改革特別委員会が設置され、その委員会が先月26日初めて開催され、各党がそれぞれの党の見解を表明した。

与党の公明党、それに野党各党は既に改革案の内容を決定しているが、自民党の改革案は、議員の政治責任を強化するため、収支報告書の「確認書」の作成を義務づけるなど部分的な内容に止まっている。

このため、自民党が再発防止の具体策とともに、それ以外の論点を含め、どこまで踏み込んだ内容を打ち出し、公明党との間で具体案をとりまとめることができるかが焦点になっている。

具体的には、パーテイー券購入者の公表基準の引き下げや、政党から議員に渡しきりになっている「政策活動費」の扱い、政治資金パーテイーの開催や企業団体献金の是非、さらには懸案の旧文通費の使途公開など数多くの項目がある。

岸田首相は、今の国会で政治資金規正法の改正を実現させると明言しているが、自民党内には、派閥の政治資金パーテイー収入の不記載問題に絞った対応に止めた方がよいという慎重論も根強い。このため、岸田首相がどこまで指導力を発揮して、具体案を打ち出せるかが問われている。

先の衆院島根1区補欠選挙の出口調査をみても投票に当たって「裏金問題を考慮した」と答えた人は8割近くに達し、そのうち7割の人が野党候補に投票した。自民党としても相当、踏み込んだ改革案を打ち出さないと国民の納得は得られないのではないか。

さらに、今後の本格化する与野党協議では、政治資金制度の改正内容をめぐって、双方の主張に相当の開きがある。また、野党側は、裏金問題の実態解明が不十分だとして、関係議員の証人喚問や参考人招致を強く求めることが予想され、与野党の協議が難航するのは必至の情勢だ。

首相の求心力、会期末攻防や政局を左右

終盤国会のもう1つの焦点が、会期末の重要法案や政権運営の評価をめぐる与野党の攻防だ。野党第1党の立憲民主党は、自民党の派閥の裏金問題の政治責任を追及するとともに、衆議院の解散・総選挙に追い込む構えを強めている。

これに対して、岸田首相がどのような方針で、国会の乗り切りを図るのか、与野党の神経戦が続くことになる。

岸田首相は4日、訪問先のブラジルでの記者会見で「内外の諸課題に全力で取り組むことに専念する。それ以外のことは現在考えていない」とのべ、解散・総選挙は考えず、さまざまな政治課題に取り組んでいく考えを強調した。

岸田首相としては、今の国会で政治資金規正法の改正を実現するとともに「子ども子育て支援法」などの重要法案の成立を図りたい考えだ。また、定額減税の実施や物価高騰対策などを積み重ねながら、秋の自民党総裁選での再選と衆院の解散時期を模索しているものとみられる。

首相に近い自民党幹部は「岸田首相は苦境でも打たれ強く、予測不能な行動をする。野党が内閣不信任決議案を提出すれば、衆院解散・総選挙に踏み切る理由ができたことになる。一方、内閣や党の人事を行う選択肢もある」として、6月の会期末解散や国会終了後の人事の可能性も示しながら、政権運営の主導権を維持していく考えを示している。

自民党の長老に聞くと「6月解散などあるわけがない。今の内閣支持率や補選の結果を考えると、自民党にとって壊滅的な結果になる。岸田降ろしは起きないが、解散もなく、秋の総裁選挙を粛々とやろうという方向で収束するのではないか」と予測する。「但し、総裁選に誰が立候補するのか、岸田首相を含め顔ぶれは、今の時点では予想できない」という。

このようにみてくると、会期末に向けた政治の展開は、岸田首相の求心力がどの程度、維持されているのかが大きく左右するのではないか。岸田首相と茂木幹事長の確執が取り沙汰される中で、政治資金規正法改正の自民党案や、公明党との与党案をどのようにとりまとめるのかが、岸田首相の手腕がポイントになる。

一方、野党第1党の立憲民主党は先の衆院補選で3勝したことから、政治資金規正法の改正や裏金問題の実態解明をめぐって強い姿勢で臨むことが予想される。これに対して、岸田首相が最終的にどのような形で決着させるか、力量が問われることになる。

このほか、川勝平太前知事の辞職に伴い5月26日に投開票が行われる静岡県知事選挙のゆくえも注目される。選挙は、元副知事を自民党県連が推薦、元浜松市長を立憲民主党と国民民主党が推薦、それに共産党の県委員長が立候補する構図になっている。

静岡県では、自民党安倍派の座長を務めた塩谷・元文科相が派閥の裏金問題で、離党勧告処分を受けて離党したほか、先に宮沢博行・元防衛副大臣が女性問題で議員辞職に追い込まれた。

こうした裏金問題などが与野党対決の知事選挙にどこまで影響するか。また、自民党が先の3補選で全敗したのに続いて、地方の主要選挙で敗北となると「菅政権の末期と同じように、岸田政権も打撃を受けるのではないか」と与野党の関心が集まっている。

今年1月の通常国会召集から大きな焦点になっていた裏金問題は、終盤国会でどのような形で決着がつくのか、岸田政権と与野党双方に大きな影響を及ぼすことになりそうだ。(了)

 

 

 

衆院補選 自民3戦全敗”政局流動化へ”

衆議院の3つの補欠選挙は28日に投開票が行われ、いずれも立憲民主党の候補者が勝利し、自民党は不戦敗を含めて3戦全敗となった。

唯一、与野党対決となった島根1区は自民党が長年、議席を維持してきた牙城だったが、立憲民主党の元議員の亀井亜紀子氏が自民党新人を破って議席を獲得した。自民党の裏金問題に対する有権者の批判や怒りが、自民党の選挙地盤を覆した形だ。

岸田政権の下で、衆参の補欠選挙は5回目になるが、これまで自民党が負け越すことはなく、全敗したのも今回が初めてだ。

今回、岸田政権へのダメージは大きく、首相の求心力は低下するとの見方が広がっている。今は国会開会中で「岸田降ろし」が直ちに表面化する可能性は低いとみられるが、秋の総裁選挙をにらんだ動きが活発になり、政局は流動化してくる見通しだ。

3つの補欠選挙で有権者はどのような判断を示したのか、NHK出口調査のデータを基に分析してみたい。また、今後の政治はどのような展開になるか、ポイントを考えてみたい。

 ”保守王国”島根で野党勝利の異変

▲今回の3つの補欠選挙のうち、今の政治状況を最も鮮明に映し出したのが島根1区だ。衆議院に小選挙区が導入された1996年以降、島根県は全国で唯一、自民党が議席を独占してきた”保守王国”だが、今回初めて野党が勝利して議席を獲得した。

NHKが投票当日、投票所に足を運んだ有権者を対象に行った出口調査によると投票する際に「政治とカネの問題を考慮した」という人は76%、8割近くに達した。そのうち、70%の人が立憲民主党の亀井亜紀子氏に投票したと答えた。裏金問題が、選挙結果に大きな影響を及ぼしたことがわかる。

投票者を支持政党別にみると、当選した亀井氏は◇立憲民主党支持層の90%台半ばの支持を集めたほか、◇日本維新の会支持層の60%台半ば、◇無党派層の70%台後半から支持を得ていた。

さらに、亀井氏は◇自民党支持層のおよそ30%、◇公明党支持層の40%余りの支持も獲得していた。

これに対して、自民党新人の錦織功政氏は、◇自民支持層の70%、◇公明支持層の40%余りの支持に止まり、◇無党派層の支持は20%余りだった。

このように亀井氏は、野党支持層や無党派層の多数を固めたことに加えて、与党支持層にも支持を広げたことが勝因だ。これまで自民党に投票してきた支持層の一定割合が、裏金問題を契機に野党支持へ投票行動を変えたことが読み取れる。

▲野党や無所属など過去最多の9人が争った東京15区は、立憲民主党新人の酒井菜摘氏が抜け出し、初めて議席を獲得した。自民、公明両党は候補者擁立を見送った。

NHK出口調査では、◇投票者の24%を占める自民支持層は、主な候補者5人に票が分散した。酒井氏は、◇立憲民主党と◇共産支持層の大半を固めたうえで、◇全体の4割を占める無党派層の30%余り、候補者の中で最も多くの支持を獲得したことが勝利につながった。

東京15区では、東京都の小池知事が、無所属新人の乙武洋匡氏を支援したことから、小池知事の影響力に関心が集まった。その乙武氏の得票数は、1万9655票で5位に止まった。

小池知事の都政運営の評価は「評価する」が75%、「評価しない」が30%余りだった。「評価する」と答えた人のうち、20%台後半が酒井氏に投票したと答え、次いで無所属の前参議院議員の須藤氏と維新の金澤氏にそれぞれ10%台後半、乙武氏は10%半ばに止まった。

小池知事をめぐっては、今年1月の東京・八王子市長選挙で自公の推薦候補を応援して当選につなげるなど選挙の強さを発揮したが、今月21日の目黒区長選挙では、支援した候補者が現職に敗れており、今回も選挙関係者からは「学歴詐称疑惑が取り沙汰されて以降、小池氏の選挙への影響力は低下している」との見方が聞かれる。都知事選の告示を6月20日に控え、小池知事の対応に注目が集まっている。

▲長崎3区については、自民、公明両党が候補者擁立を見送ったことから、野党の候補者2人の戦いとなった。立憲民主党の前議員で、社民党が推薦した山田勝彦氏が、維新新人の井上翔一朗氏に大差をつけて、当選を果たした。立民と維新の争いでは、2つの選挙とも立民が制した。

 政権の求心力低下、6月解散は困難か

さて、3つの補選の結果を受けて、これからの政治はどのように展開するか、どこがポイントになるかみていきたい。

まず、岸田政権にとって、3つの補欠選挙で全敗したことは大きな打撃だ。特に島根1区は、2度も現地入りし選挙運動最終日も懸命なテコ入れを行ったが、挽回できず、岸田首相の求心力低下を印象づけた。

また、自民党内から岸田内閣の支持率低迷に加えて、補選の敗北で「次の総選挙の顔として、岸田首相はふさわしいのかどうか」疑問視する声が強まることも予想される。

但し、通常国会は連休明けには終盤戦に入り、重要法案を抱えていることなどから、自民党内で補選の敗北をめぐって「岸田降ろし」が表面化する可能性は低いとの見方が多い。

このため、閣僚経験者の1人は「6月末の会期末や秋の総裁選挙をにらんで、水面下でさまざまな動きが出てくるのではないか」との見方をしている。

一方、岸田首相に近い幹部は「岸田総理は打たれ強いので、自ら身をひいたりすることは考えられない。秋の総裁選に向けて政治課題を1つずつこなしながら、国会会期末に大きな政治決断をすることがあるかもしれない」と6月解散もありうるとの見方を示している。

これに対して、別の党幹部は「今のような支持率で、解散をすれば自民党は壊滅的な打撃を被るだろう」とのべ、6月末の解散・総選挙には反対する意向を漏らしている。

今回の補欠選挙の結果と、選挙の勝敗という面から考えると、自民党内では、6月末の解散論には慎重論が一段と強まることが予想される。

もう1つは、連休明けの通常国会では、野党側は、裏金問題を受けての実態解明と政治資金規正法の抜本的な改正を要求する構えだ。これに対して、自民党が先に公表した改革案は、確認書の義務化といった部分的な内容に止まっている。

このため、岸田首相が自民党内の慎重論を説得しながら、踏み込んだ改正案を打ち出し、野党側との協議を経て実現までこぎ着けられるかどうか、岸田首相の指導力が問われることになる。

以上、みてきたように補欠選挙後の政局は、1つは、政治資金規正法の改正をめぐって、岸田首相と野党側との綱引きがどのような展開になり、国民がどちらを支持するのかが焦点になる。

もう1つは、6月の会期末の時点で、岸田首相が秋の総裁選と衆院解散・総選挙の時期をどう判断するか、自民党内と与野党の駆け引きが激しくなる見通しだ。岸田首相にとっては、会期末までに政権の実績を上げ、国民の支持が広がらないと、秋の総裁選での再選も険しい道になるのでないかとみている。(了)

”島根1区 自民苦戦” 衆院補選情勢

岸田政権の政権運営に大きな影響を及ぼす衆議院の3つの補欠選挙は、後半戦に入った。このうち唯一、与野党対決の構図になっている島根1区は、立憲民主党の候補が先行、自民党の候補は苦戦している。

自民党の派閥の裏金問題などで、選挙戦は大きく様変わりしている。自民党は挽回をめざしているが、選挙情勢は厳しく、不戦敗を含めて3戦全敗となる可能性もある。28日に投開票が迫った選挙情勢を探ってみる。

 島根1区自民苦戦、全敗の危機も

衆議院島根1区の補欠選挙は、細田博之・前衆議院議長の死去に伴うものだ。21日の日曜日には、岸田首相と立憲民主党の泉代表がそれぞれ松江市に入るなど双方が激しい選挙戦を繰り広げている。

朝日、読売、共同の主要メデイアが19日から21日にかけて行った情勢調査によると島根1区は、立憲民主党元議員の亀井亜紀子氏がリードし、自民党新人で公明党が推薦する錦織功政氏が追う展開になっている点で共通している。

亀井氏は、立憲民主支持層の大半をまとめたうえで、無党派層の支持を幅広く獲得しており、自民支持層の一部にも食い込んでいる。

これに対し、錦織氏は自民支持層の7割から8割、公明支持層の7割程度の支持に止まっているほか、無党派層で大きな差をつけられている。

島根は竹下元首相、青木幹雄元官房長官を輩出するなど自民王国として知られる。今の選挙制度が導入された1996年以降、島根1区では自民党の細田博之氏が連続して当選を重ねてきた。

その細田氏は最大派閥・安倍派の会長を務めてきたこともあり、今回は裏金問題が選挙戦を直撃する形になり、自民党は守りの選挙に追い込まれている。

自民党の選挙関係者に聞くと「挽回をめざして最後までギリギリの戦いを続けるが、厳しい情勢にあるのは事実だ」と劣勢を認めている。自民党がここで1勝できるか、敗北すると不戦敗を含めて3戦全敗という危機的状況に立たされている。

報道各社の情勢調査では、有権者の3割から4割程度は、投票する候補者を決めていない。また、投票率が大幅に下がったりすると選挙情勢が変わる可能性があるので、特に投票率を注意してみていく必要がある。

 長崎3区は野党対決、立民優位

衆院長崎3区の補欠選挙は、自民党安倍派の議員の辞職に伴って行われる。自民党が候補者擁立を見送り、立憲民主党前議員の山田勝彦氏と、日本維新の会新人の井上翔一郎氏の野党対決の構図になっている。

メデイアの情勢調査では、立民の山田氏が、立憲民主支持層の大半を固めたうえで、無党派層や自民支持層にも支持を広げている。選挙関係者も、山田氏が優位に選挙戦を進めているとの見方をしている。

 東京15区 立民リードも5人混戦

柿沢未途・前法務副大臣の議員辞職に伴う東京15区の補欠選挙には、9人が立候補し大混戦となっている。この選挙区でも自民、公明両党が候補者擁立を見送ったため、野党と無所属、諸派の候補の争いとなっている。

メデイアの情勢調査によると、立憲民主党の酒井菜摘氏が一歩リードし、日本維新の会公認で「教育無償の会」推薦の金沢結衣氏、無所属で国民民主党と地域政党「都民ファーストの会」が推す乙武洋匡氏、無所属で前参議院議員の須藤元気氏、それに諸派の飯山陽氏の合わせて5人が争う構図になっている。

候補者を擁立していない自民、公明の支持層が、どのような投票行動をとるか。また、東京都の小池知事は、無所属の乙武氏擁立を主導したが、21日投票の目黒区長選では都民ファーストの会が推した候補が現職に競り負け、小池知事の影響力に関心が集まっている。

さらに、国政では野党第1党の立憲民主党と、野党第2党の維新の戦いがどのような形で決着がつくのかも注目点だ。投票率がどうなるのかという点も合わせて、不確定要素が幾つもあるので、最終的な勝敗のゆくえはまだ、はっきりしない。

 国会、政権運営、解散戦略に影響

以上見てきたように衆院3補選は、自民党が1勝できるか、それとも不戦敗を含めて3戦全敗となるかどうかが大きな焦点だ。

もう1つは、投票率がどうなるか。選挙結果を左右するだけでなく、今の政治に対する国民の認識や評価を判断できる指標にもなる。裏金問題と政治不信が、どのような形で現れるか注目している。

さらに、今回の選挙結果は、後半国会の焦点である政治資金規正法の改正や裏金問題の実態解明への取り組みに影響を及ぼす見通しだ。支持率低迷が続く岸田政権の政権運営や衆議院の解散戦略にも影響を与えることになりそうだ。

投票日直前の26日には、新たに設置された衆院政治改革特別委員会の初めての委員会が開かれる。各党が裏金問題について、どのような見解の表明を行うかも選挙の行方を左右する。今年前半の政治の大きな節目になる。(了)

 

”3つの壁”越えられるか?岸田首相

長丁場の通常国会も今月10日に折り返し点を過ぎて、後半戦に入った。岸田首相の先のアメリカ訪問と日米首脳会談を受けて、今週は18日と19日に衆参両院の本会議で、それぞれ帰国報告と質疑が行われる。

続いて22日と24日には、衆参両院の予算委員会で集中審議が行われ、裏金問題などをテーマに岸田首相と野党側との質疑が交わされる。

一方、16日には衆院島根1区など3つの補欠選挙が告示され、28日の投開票日に向けて各党が激しい選挙戦を繰り広げる見通しだ。

これからの政治はどのような展開になるのか。岸田首相の行く手には、当面3つの壁が立ちはだかっている。裏金問題の実態解明と処分のケジメのつけ方、衆院3補選の乗り切り、それに裏金問題の再発を防ぐ政治資金規正法改正の実現までこぎ着けられるかだ。

こうした3つの壁を乗り越えることができるかどうか?岸田政権の今後の政権運営や衆院解散・総選挙戦略に大きな影響を与えることになりそうだ。

 裏金の実態解明と処分のけじめは?

今の国会の大きな焦点になっている自民党の派閥の政治資金裏金問題について、自民党は4日に、安倍派と二階派の39人の処分を行ったが、報道各社の世論調査にみられるように国民の評判は極めて悪い。

国民の多くは、裏金の還流に関与した85人の議員らのうち、実際の処分が39人に止まったのをはじめ、実態解明が進まなかったこと、さらに立件された岸田派の会長を務めていた岸田首相や、二階派会長の二階元幹事長が処分の対象から外されたことについて厳しい評価をしている。

一方、今回最も重い「離党勧告」の処分を受けた安倍派の座長、塩谷元文科相は、処分を不服として自民党に再審査を請求した。自民党は16日、総務会や総務会幹部の会合で対応を協議した結果、再審査を認めない方針を決定した。この決定は塩谷氏に伝えられ、離党勧告処分が確定した。

自民党は、今回の処分で一定の政治責任を明らかにすることができたとして、今後は、再発防止の取り組みに重点を移したい考えだ。

これに対し、野党側は実態の解明は全く進んでいないとして、安倍派幹部の証人喚問を行うとともに、森元総理らの参考人招致を求める意見もある。

国民の政治不信を払拭するためにも、岸田首相は国会で事実関係の解明にどのように取り組んでいくのか、証人喚問や参考人招致の扱いを含めて方針を明らかにすることが必要だ。これが、第1の壁になっている。

 衆院3補選、島根1区は与野党一騎打ち

続いて、第2の壁が衆議院の3つの補欠選挙のゆくえだ。東京15区、島根1区、長崎3区の3補選は16日に告示され、28日の投開票に向けて激しい選挙戦に入った。

いずれも自民党が議席を持っていた選挙区だが、自民党は東京15区と長崎3区については公職選挙法違反事件や裏金事件をめぐる逆風が強く、公認候補の擁立を見送った。公認候補を擁立するのは島根1区だけとなった。

◆島根1区の補選は、自民党安倍派の会長も務めた細田博之・前衆院議長の死去に伴うものだ。自民党は元中国財務局長の新人候補を擁立し、公明党が推薦する。

これに対し、立憲民主党は、元衆議院議員の女性候補を擁立し、国民民主党の地方組織と社民党が支援、共産党の地方組織が自主的に支援する。与野党が対決する唯一の選挙になる。

島根は竹下元首相、青木元官房長官などの実力者を輩出してきた全国屈指の保守王国だが、今回は政治とカネの逆風に見舞われている。与野党の選挙関係者に聞くと「現状では、野党候補に勢いがある」との見方が多い。最後までギリギリの戦いが続く見通しだ。

◆東京15区は9人が立候補の名乗りを上げ、大混戦となっている。このうち、地域政党である「都民ファーストの会」の小池東京都知事が主導する形で、作家で無所属の新人が立候補を表明した。国民民主党と都民ファーストの会が推薦する。

立憲民主党は前の江東区議の女性候補を擁立し、共産党も支援する。日本維新の会は元会社員の女性候補、参政党、諸派の新人が立候補する。さらに無所属の参議院議員と、無所属の元衆議院議員も立候補を表明している。

◆長崎3区は、裏金問題で多額の還流を受けていた自民党議員が辞職したのに伴うものだ。自民党が候補者の擁立を見送ったたため、立憲民主党の現職(比例代表)と、日本維新の会の新人の野党同士の一騎打ちになる見通しだ。

3つの補欠選挙は、政治資金規正法違反事件後、初めての国政選挙になる。自民党は2つの選挙区で不戦敗となっており、島根1区を失うと3戦全敗となる可能性もある。島根1区の勝敗がどうなるか、岸田政権の行方にも大きな影響を与えることになる。

 政治資金規正法の改正、実現できるか

後半国会は、裏金事件を受けて政治資金規正法の改正が、最大の焦点になる見通しだ。岸田政権が法案の成立までこぎ着けられるかどうか、これが3つ目の壁になる。

公明党は、クリーンな党のイメージを守りたいとして自民党とは一線を画して、再発防止策の独自案をまとめている。立憲民主党や日本維新の会など野党各党もそれぞれ党の改革案をとりまとめており、自民党に攻勢をかける構えだ。

これに対して、自民党は「政治刷新本部」の作業部会で検討を続けているが、とりまとめには、なお時間がかかる見通しだ。公明党が求めている「連座制」導入などによる議員の罰則強化についても、自民党内には容認論がある一方で、慎重論も残っており、調整がついていない。

政治資金の扱いとなると、野党側が「政治家個人のパーテイー規制の強化」を求めているのに対して、自民党は反対の立場だ。また、政党が党役員に渡す「政策活動費」の廃止や、使途の公開の義務づけについても慎重論が根強い。

自民党としては、公明党との間で与党案をとりまとめたうえで、野党側との協議に入りたい考えだ。

これに対して、野党側は「自民党は時間切れで、政治資金規正法の改正を一部に止めたいねらいがあるのではないか」とみて、与党の改正案を早期に提出するよう求めていく方針だ。

このため、衆参両院に設置された「政治改革特別委員会」を舞台にいつから、政治改革の内容の協議に入るかも焦点になる。また、岸田首相が自民党の改革案のとリまとめに当たって指導力を発揮できるかも問われることになりそうだ。

岸田政権はここまでみてきた3つの壁を乗り越えることができれば、政権の浮揚につなげることができるが、逆に失敗すると政権の求心力を一気に失うことも予想される。特に衆院補欠選挙の結果が明らかになる4月末以降から、6月下旬の国会会期末にかけて岸田首相にとっては、息の抜けない局面が続くことになりそうだ。(了)                               ★追記(16日22時)衆院3補選が告示され、立候補者が確定したのを受けて16日22時の時点で、表現を一部、修正した。

 

 

裏金処分”世論は厳しい評価”

自民党は派閥の裏金事件をめぐって4日、関係議員ら39人の処分を決めたが、世論の評価は厳しく、岸田内閣と自民党の支持率はいずれも政権復帰以降、最も低い水準にまで下落していることが明らかになった。

裏金問題への対応は、岸田政権の政権運営や衆院解散戦略にも大きな影響を及ぼす。カギを握る世論はどのような受け止め方をしているのか、今後の政治はどのように展開するのか、NHKの4月世論調査のデータを基に分析してみたい。

 裏金処分、世論は妥当性に強い疑問

まず、8日にまとまったNHK世論調査(4月5日~7日実施)のデータからみていきたい。◆焦点の裏金問題について、自民党が関係議員85人のうち、不記載額が500万円以上の39人の処分を決めたことについて、評価を尋ねている。

◇「納得できる」は9%、「どちらかといえば納得できる」の20%を合わせて29%。これに対して◇「どちらかと言えば納得できない」22%、「納得できない」は41%で、合わせて63%と大幅に上回っている。

◆次に、今回の処分では、安倍派幹部2人について、8段階のうち最も重い「除名」に次ぐ「離党勧告」の処分にしたことの評価を尋ねている。

◇軽すぎる34%、◇妥当だ49%、◇重すぎる6%となった。処分の軽重の評価を聞きたかったのだろうが、安倍派の主要幹部6人は「離党勧告」「党員資格停止」「党の役職停止」の3段階に分かれたので、回答する側には複雑で難しい質問のように思われる。

◆検察から立件された二階派の二階・元幹事長は、次の衆議院選挙に立候補しない考えを表明し、自民党は処分の対象にしなかった。この扱いについて◇「妥当だ」は21%に対し、◇「妥当ではない」は68%と大きく上回った。

◆同じく派閥の事務局長が立件された岸田派について、会長を務めていた岸田首相を処分の対象から外したことについては◇「妥当だ」が25%に対し、「妥当ではない」が61%と、こちらも大きく上回った。

このように今回の処分は、対象となる関係議員らを39人に絞り込んだことや、党の総裁、元幹事長ら政権中枢を処分の対象から外したことについて、国民は正当な理由がないのではないかと強い疑念を持っていることが読み取れる。

また、今回の処分に当たっては、最大派閥の安倍派で長年、違法な還流行為が組織的に行われながら、いつから始まったのか、取り止めの方針がいったん決まったものの継続となった経緯すら明らかにならなかった。

こうした実態解明や処分の基準がはっきりしないまま、処分を行った自民党執行部に対して、国民の強い不満や不信感があることもうかがえる。

岸田首相や党執行部はこの処分で区切りをつけ、再発防止に重点を移すことをねらっていたとみられるが、世論の反応からすると、政権の思惑は外れたと判断してよさそうだ。

 内閣・自民党支持率ともに最低水準

さて、裏金処分に対する世論の厳しい評価は、岸田内閣の支持率にも大きな影響を及ぼしている。4月の内閣支持率は23%で、先月の調査より2ポイント下がり、岸田政権発足以降、最も低かった去年12月と同じ水準になった。

不支持率は、先月より1ポイント上がって58%だった。こちらも岸田政権発足以降、去年12月、今年1月と同じ率で最も高くなった。

これで岸田内閣の支持率は、政権運営の危険ラインとされる30%を6か月連続で割り込んだ。支持率を不支持率が上回る逆転現象は10か月連続となる。支持率低迷が常態化しつつあり、政権を浮揚させるのは容易ではない。

一方、自民党の政党支持率も変化がみられる。自民党の支持率は、内閣支持率が下がっても30%台後半から40%台前半を維持することが多かった。ところが、裏金問題が表面化した去年12月以降、じりじりと下がり続けている。

4月の自民党支持率は28.4%となった。党の支持率が30%を下回ったのは、2012年の政権復帰以降、岸田政権だけで、去年12月の29.5%、今年3月の28.6%に次いで3回目になる。これで、内閣支持率、自民党支持率ともに2012年自民党の政権復帰以降、最低の水準となった。

野党側は第1党の立憲民主党が6.5%、第2党の日本維新の会が4.7%、共産党が2.4%、国民民主党1.5%などと続き、自民党とは大きな開きがある。自民党内には、野党の支持率が上がらないことから、これを安心材料とする見方もある。

但し、最近の特徴は、次の衆議院比例代表の投票予定政党では、野党側の伸びが大きいことだ。朝日新聞の3月の世論調査によると自民党23%に対し、立民16%、維新11%などと続く。政党支持率では自民党との差が大きいが、投票予定党では接近している。

自民党の選挙関係者に聞くと「野党はバラバラだと油断していると、無党派層の動向によって、選挙の風向きはあっという間に変わってしまう」と警戒する。

 首相、政権浮揚めざすも険しい道

岸田首相は8日、日米首脳会談に臨むため、アメリカに向け出発した。安倍元首相以来9年ぶりの国賓待遇で、10日に日米首脳会談、11日に議会で演説する。岸田首相としては、日米防衛協力や経済分野の連携強化をアピールし、政権浮揚のきっかけにしたい考えだ。

そのうえで、今月28日に投開票が行われる3つの衆院補欠選挙を何とか乗り越え、後半国会で政治資金規正法の改正を実現させたい考えだ。そして、6月に定額減税を実施し、春闘での大幅賃上げと合わせて実績を訴え、9月の自民党総裁選前に解散・総選挙に打って出る戦略だとみられている。

このうち、日米首脳会談について、NHKの世論調査では「日米関係の強化につながるか」を尋ねている。回答は「つながる」が45%、「つながらない」が40%と見方が、二分されている。

また、岸田首相は新年度予算を成立させたうえで、「今年中に、物価上昇を上回る所得を必ず実現させる」と表明している。世論調査では「期待する」が29%に対し、「期待しない」が64%と冷めた見方が多い。

さらに3つの衆院補欠選挙のうち、自民党は東京15区と長崎3区については、公認候補の擁立を見送る方針を決めた。島根1区だけの戦いとなるが、保守王国でも裏金問題などが響いて、苦戦が伝えられている。

このようにみると、岸田政権にとって今後の政権運営は、険しい道のりが予想される。後半国会では、野党側が裏金問題の実態解明と再発防止策をめぐって、攻勢を強める構えだ。

これに対して、岸田首相は、政治改革をめぐって意見の違いがみられる党内をまとめたうえで、野党側との間で、再発防止の法整備の実現までこぎ着けられるかどうかが問われる。

一方、衆議院の解散・総選挙について、政界の一部には、今の国会の会期末に岸田首相が決断するとの見方もある。しかし、そのためには、支持率が大幅に改善しないと岸田首相が解散に打って出るのは難しいとの見方も根強い。

国会は、岸田首相が訪米から帰国後、裏金問題や重要法案の扱いをめぐる与野党の攻防が再開する。同時に水面下では、衆院解散・総選挙と秋の自民党総裁選挙をにらみながら、自民党内と与野党の間の駆け引きが一段と激しくなる見通しだ。

その際、世論の風が、岸田政権と与野党のどちらに追い風となって吹くことになるのか大きなポイントになりそうだ。(了)

 

 

 

 

 

“波乱・混迷政局の幕開け”2024年予測

自民党の派閥の「裏金疑惑」が政権を直撃する中で、新しい年・2024年が幕を開けた。政界関係者の情報を総合して判断すると、新しい年は「波乱、混迷、模索の年」になるのではないか。

「波乱」とは、端的にいえば、内閣支持率の低迷が続く岸田首相は退陣、交代する確率が高いということ。

「混迷」とは、後継選びとなると有力候補がいないため、交代時期や候補者の絞り込みなどをめぐって、調整などが難航することが予想される。

焦点の衆院解散・総選挙の時期は、自民党の総裁選びと事実上、表裏一体の位置づけとなり、新総裁が決まると時間を置かずに解散・総選挙になる公算が大きいのではないか。2024年中に解散・総選挙となる可能性が高いとみている。

さらに「模索」とは、どういうことか。今の政治は、裏金疑惑に代表されるようにここ数十年の中でも残念ながら、最低水準といわざるをえない。ザル法と揶揄される政治資金規正法ですら守られないほど政治の劣化が進んでいる。

しかし、それでも難題を数多く抱える日本にとって残された時間は多くはない。政権、与野党双方とも懸案・課題を前進させていくため、さまざまな取り組みを試みてもらいたい。

なぜ、こうした結論になるのか、以下、説明したい。

 裏金疑惑、立件は政治家まで拡大か

新しい年の政治はどう展開するか?まず、大きな影響を及ぼすのは、自民党の派閥の裏金疑惑、政治資金規正法違反事件がどこまで拡大するかだ。

東京地検特捜部は12月中旬に安倍派と二階派の事務所の強制捜査を行ったのに続いて、多額のキックバックを受けたとされる安倍派の衆参議員2人の事務所などの家宅捜索も行った。

そして、年末までに松野・前官房長官、世耕・前参院幹事長、高木・前国対委員長、萩生田・前政調会長に続いて、西村・経産相の任意の事情聴取を行った。これで「5人衆」と呼ばれる派閥幹部と座長の塩谷・元文科相の6人すべてが、事情聴取を受けたことになる。

自民党関係者に今後の見通しを聞くと「検察当局は、金丸事件も念頭に捜査を進めるのではないか。安倍派と二階派の会計責任者だけではなく、議員や派閥幹部にまで広げるのではないか。但し、人数や範囲は全くわからない」と語る。

特捜部の捜査が最終的にどのような形で決着がつくのか、政界関係者は固唾を飲んで見守っている。いずれにしても、岸田政権と年明けの通常国会にさらに大きな打撃を与えることになるのではないか。

 自民総裁選び、岸田首相交代の波乱も

それでは、新年の政治はどのように展開するのか。今年前半の政治の舞台となる通常国会は今月26日に召集、会期末は6月23日となる見通しだ。野党は「政治とカネ」の問題で岸田政権を厳しく追及する構えだ。

これに対し、岸田首相は、自民党に新たな組織を立ち上げて再発防止と政治改革案をとりまとめ、国民の信頼回復への道を探りたい考えだ。

また、今年の春闘で物価高を上回る賃金の引き上げを実現し、6月に所得税など定額減税の実施ができれば、政権を取り巻く厳しい空気は和らいでくるのではないかと期待をかけている。

こうした一方、「政治日程は逆に読む」と言われる。以上のように時系列で政治の動きをみていくのではなく、政治を最も大きく左右する要素は何かを考えて、逆算して予測するとどうなるか。

最も大きな意味を持つのは、今年秋の自民党総裁選挙だ。岸田首相にとって、自民党総裁の任期が9月末に満了となり、再選できるかどうかが最大のハードルになる。その1年後の来年10月は、衆議院議員の任期も満了となる。

自民党長老は「自民党の議員、特に若手議員は、総裁選挙で誰に投票するか、次の衆院選挙とセットで考える。自民党は自分党、自らの当選を果たすうえで、『選挙の顔』は誰が有利かとなる。そうすると内閣支持率が改善しないと、岸田首相の再選の道は険しいものになるだろう」との見方を示す。

報道機関の世論調査で岸田内閣の先月の支持率は、20%台前半まで落ち込んだ。自民党の支持率もこれまで30%台後半を維持してきたが、年末には30%を切って、2012年に自民党が政権復帰して以降、最低の水準まで下がっている。

自民党内では「岸田降ろし」の動きは起きていないので、早期の退陣は考えにくい。しかし、総裁選が近づくにつれて岸田離れが一段と進むと見られ、再選は困難との見方が、じわりと広がっている。「波乱」の確率は高いとみられる。

そのうえで、想定される波乱の時期だが、与野党の議員に聞くと見方は分かれる。◇新年度予算成立の3月末が限界との説から、◇4月28日統一補欠選挙後、◇通常国会が閉会する6月、◇自民党総裁選が近づく夏といった具合だ。

岸田首相は3月上旬にはバイデン大統領の招請を受けて訪米、6月には首相肝いりの定額減税が実施されるので、それまでの退陣は何としても避けようとするのではないか。個人的には、6月の通常国会閉会後か、総裁選が近づく夏以降の公算が大きいのではないかとみている。

 総裁選び「選挙の顔」重視、混迷も

さて、ポスト岸田はどうなるのかといった質問もあるかと思う。支持率低迷でも岸田首相が持ちこたえているのは、後継の有力候補がいないことが大きい。

それでも総裁選が近づくと新たな候補者擁立の動きが出てくるのは、自然な流れだ。自民党関係者に聞くと、立候補の経験がある石破元幹事長、河野デジタル担当相、高市経済安保担当相らのほか、新たな顔ぶれとしては、茂木幹事長、小泉元環境相、上川陽子外相らの名前が挙がる。

但し、圧倒的な支持を集めそうな候補者は見当たらない。このため、総裁の交代時期、候補者の絞り込みなどが難航し、迷走することも予想される。

さらに、今回は99人が所属する党内最大派閥の安倍派はどうなるのかという問題もある。特捜部の今後の捜査なども考えると他の派閥幹部からは「安倍派の存続は困難、解体的出直しは避けられないだろう」との厳しい見方も聞かれる。

自民党関係者の一人は「次の総裁選びでは、党員や議員の多くは『総選挙の顔』となる候補を選ぼうとするだろう。裏金問題で自民党への視線が厳しくなるので、よりましな候補、経験や実績のある候補へ支持が集まる」との見方を示す。

別の関係者は「裏金問題に焦点が当たるので、従来の派閥主導の候補者擁立は絶対ダメ。女性候補が浮上するのではないか」と話す。候補者選びは紆余曲折、混迷も予想される。

 年内総選挙も、新しい政治へ展望は?

もう一つの焦点である衆議院の解散・総選挙の見通しはどうか。自民党長老は「新総裁が選ばれた場合、即、国民に信を問うことになるだろう。今回は、総裁選びと総選挙を一体として位置づけて、戦うからだ」との見方を示す。

これに対して、野党側も通常国会では「政治とカネ」の問題を徹底的に追及しながら、岸田政権を解散・総選挙へと追い込んでいく構えだ。

こうした与野党双方の姿勢から判断すると次の総選挙は、今年中に行われる可能性が高いとみられる。衆院議員の任期は折り返しを過ぎたことに加えて、来年夏は参院選挙が控えているので、その前に総選挙という見方が強いからだ。

その際、野党の責任は極めて重い。この10年余りの国政選挙では、自民・公明両党の連戦連勝が続いている。その原因は、野党がバラバラで、政権交代はもとより、与野党伯仲にも持ち込めていないからだ。

「自民1強、野党多弱体制」は安倍派の裏金疑惑で崩壊の兆しが見え始めたが、立憲民主党や維新は、自民1強体制を崩せるのか、そのために戦略的な連携へと踏み出すことができるかどうか、問われることになりそうだ。

一方、国民からは「与野党が『政権構想』を示して、もっと政策を競い合う新しい政治を展開してもらいたい」との声を聞く。円安政策もあって、GDPをはじめとする日本の国際社会における地位の低下が目立つからだ。

人口急減社会が進行する中で、賃金の引き上げや経済の再活性化をどのように実現していくのか。教育、社会保障の将来の姿、防衛力増強や少子化対策の具体的な財源確保について、政府が方針を明確に示し、与野党が国会で議論を尽くして前進させていく「新しい政治」を期待する声は根強いものがある。

以上、見てきたように今年の政治は、波乱と混迷、模索の1年になりそうだ。一方、与野党の陣取り合戦だけで終わらせては意味がない。まず、政府、与野党、政治の側の取り組みが問われる。同時に、私たち国民も政治への関心と、選挙でしっかり判断し、選択していくことが求められる。(了)

★追記(5日正午)◇1日に起きた能登半島地震で、石川県内で合わせて92人の死亡が確認された(5日8時・時点)。また、安否不明者は242(5日9時・時点)。 ◇岸田首相は4日夕方の記者会見で、自民党の派閥の政治資金問題で、来週、総裁直属の機関として「政治刷新本部」を立ち上げ、再発防止策や派閥のあり方などの検討を進める意向を表明した。派閥のあり方など党改革の議論でどこまで踏み込めるかが焦点。

 

 

 

 

 

 

“逆風強まる岸田政権”支持率30%割れ

岸田内閣の支持率が下落し、節目の30%ラインを割り込んだ。11月のNHK世論調査によると岸田内閣の支持率は、10月調査から7ポイント下がって29%になった。不支持率は8ポイント増えて52%、初めて5割を超えた。

内閣支持率が30%を下回るのは、菅政権が退陣する1か月前、2021年8月に同じ29%を記録したとき以来だ。2012年に自民党が政権復帰して以降をみても、菅政権と今回の岸田政権の支持率が最も低い水準になる。

今回の岸田政権の場合、政権浮揚の切り札として、減税と給付を盛り込んだ大型の経済対策を決定した直後だけに政権に及ぼすダメージは大きい。

端的に言えば、国民が喜ぶと思って5兆円の巨費を投じる減税と給付策が極めて不評で、逆に支持率が急落するという異例の結果を招いている。

なぜ、異例の支持率下落となったのか。政権への影響と今後の動きはどのようになるのか、世論調査のデータも分析しながら探ってみたい。

 政策の妥当性と政権への不信感も

まずは、岸田内閣の支持率が下落した理由・背景からみていきたい。そのためにNHK世論調査(11月10日~12日実施)の主なポイントを整理しておく。

▲世論調査では、政府の新たな経済対策のうち、物価高に対応するため、所得税などを1人当たり4万円減税し、住民税の非課税世帯に7万円を給付する方針について、どのように評価するかを質問している。

◆「評価する」は36%に止まり、◆「評価しない」が59%で大幅に上回った。

▲次に、評価しない理由は何か。◆「選挙対策に見えるから」が38%で最も多く、◆「物価高対策にならないから」30%、◆「国の財政状況が不安だから」24%、◆「実施時期が遅いから」4%となった。

逆に、評価する理由は◆「家計が助かるから」40%、◆「経済の再生につながるから」23%、◆「税収増加分は還元すべきだから」23%などと続いた。

▲岸田首相は一連の経済対策を通じて、来年夏には所得の伸びが物価上昇を上回る状態にしたいとしているが、これに期待するかを尋ねている。

◆「期待できる」は19%、◆「期待できない」は67%で、3人に2人の割合だ。

▲こうしたデータを基に岸田政権の経済政策と支持率下落の原因をどうみるか。個人的な取材を加味して考えると、次のような点を指摘できる。

▲国民の多くは、政府の経済対策を冷めた目で見ていることがうかがえる。政府の減税政策を「評価しない」とする人が6割近くと多いことに現れている。

また、「何を目的にしているのかはっきりしない」、「物価高対策としての妥当性に疑問」を抱いている人が多いことも読み取れる。

物価高対策であれば「給付」の方が「減税」よりも即効性があり、効果も大きいと考えるからだ。自民党の税調幹部の中にも同様の考え方がある。

これに対して、岸田首相の説明は、最初は物価高対策を強調し、次いで賃上げ・デフレ脱却に重点が移り、さらに子育て支援のためと政策のねらいが次々に変わり、「政策の目的、目標がはっきりしない」という問題点がある。

▲また、政府の減税政策などを評価しない理由として「選挙対策に見えるから」が最も多かった。これは「岸田首相の減税政策は、苦戦が続いていた衆参補欠選挙のテコ入れ」や「衆議院の解散ねらいの思惑があるのではないか」といった疑念や不信感が背景にあるためではないかと思われる。

▲さらに岸田首相の減税政策の打ち出し方をみると、与党に対して突如、減税検討の指示を出す一方、国会での自らの所信表明演説では、直接言及しないといった「チグハグな対応、迷走」が目立った。これでは、国民の理解や支持が広がらない。(詳しくはブログ10月27日号「迷走、所得税減税」)

▲一方、9月に行われた内閣改造人事で新たに起用された「政務三役の不祥事」が相次いで表面化した。山田太郎・文部科学政務官、柿沢未途・法務副大臣、神田憲次・財務副大臣の3人が3週間足らずの間に辞任・更迭に追い込まれた。

去年は「政治とカネの問題」などの問題で、閣僚4人が辞任する「辞任ドミノ」に追い込まれた。今年は政務官、副大臣レベルまで不祥事が広がったことも、政権の支持率低下に追い打ちをかけたとみられる。

このように物価高・経済対策そのものの内容に加えて、岸田政権の政策決定や政権運営のあり方についても、世論の側の疑問や不信感が重なって、支持率急落を引き起こしていると言えるのではないか。

 自民支持層離れ、政権の求心力も低下

そこで、政権への影響はどうか?結論を先に言えば「政権へのダメージは、大きい」とみる。既に政権の支持基盤へ影響が現れているからだ。

具体的には「自民支持層の支持離れ」が起きている。「自民支持層のうち、岸田内閣を支持する」と答えた人の割合は、岸田内閣の場合、5月は7割台半ばと高かったが、10月は6割台半ば、今月は5割台半ばまで大幅に減っている。

一方、最も大きな集団である「無党派層のうち、岸田内閣を支持する」と答えた人の割合は、10%をわずかに上回る程度だ。「支持しない」と答えた割合は7割近くにも達する。

岸田内閣は元々、無党派層の支持は少なかったが、2012年に自民党が政権に復帰して以降、今月は最も低い水準にまで落ち込んでいる。

無党派層からの支持を一定程度、得られないと普段の政権運営だけでなく、特に衆院解散・総選挙の際には勝敗を大きく左右することになる。

一方、年代別にみても20代から60代まで、さらに70歳以上のすべての年代で、「支持する」と答えた人より、「支持しない」と答えた人が上回っている。「政権の求心力の低下」が浮き彫りになっている。

 政権の力を取り戻せるか?年末がヤマ場

それでは、今後の政権運営や政局の見通しはどうなるだろうか。前回の衆院選挙から2年が経過し、与野党とも解散・総選挙のゆくえに神経をとがらせている。

今月9日から10日にかけてメデイア各社は「岸田首相は、年内解散を見送る意向を固めた」と大きく報道したが、既にみてきたように岸田政権は年内解散に打って出られるような状況にはなかった。

それよりも岸田政権は、国民の多くの支持を失い、内閣支持率は危険水域の20%台に落ち込んだという新たな段階を迎えているとみた方が実態に近いと思う。

但し、それでも野党は依然としてバラバラ状態で、政権交代が直ちに実現するような状況にはない。自民党内も岸田首相に代わる有力なリーダーは見当たらない。

このため、岸田政権が直ちに崩れるような状況にはないが、来年秋の自民党総裁任期満了まで1年を切ったことの意味は大きい。

これまで岸田首相の再選はかなり濃厚だったが、世論の支持率の低迷がこのまま続けば、総裁選の情勢は混沌としてくることが予想される。「次の衆院選挙を戦える顔」として通用するのかという声が出てくる可能性があるからだ。

当面は、新たな経済対策の裏付けとなる補正予算案がポイントになる。今月20日に国会に提出され、成立はほぼ間違いないが、問題は、与野党の論戦を通じて、減税対策などの内容について、国民の支持が広がるかどうかだ。

また、年末の予算編成と税制改正に向けて、先送りされてきた防衛増税の実施時期や、少子化対策の具体的な財源の扱いも改めて焦点になる。

さらに、大幅な円安が進む中で、日本経済や金融政策のかじ取りをどうするのか、国民は中期の構想と展望を求めている。

いずれも難題だが、岸田首相が強いリーダーシップを発揮して懸案を前進させることができるのか。そして、内閣支持率を回復して力強い政権となるのか、それとも低迷状態が続くことになるのか、年末が大きなヤマ場となる見通しだ。(了)

 

 

 

”減税、政権運営険しい道”岸田政権

政府は2日、所得税の減税や低所得世帯への給付などを盛り込んだ新たな経済対策を決定した。経済対策の規模は、17兆円台前半になる見通しだ。

経済対策の決定を受けて、岸田首相は記者会見で「最優先はデフレからの完全脱却だ。来年夏の段階で、賃上げと減税を合わせた国民所得の伸びが物価上昇を上回る状態を確実に作りたい」と強調した。

経済対策をめぐっては、野党側は「物価高への対応にスピード感が無く、対策の効果も期待できない」と厳しく批判しているほか、自民党内にも岸田首相が強い意欲を示す所得税減税に疑問や不満がくすぶる。

国民は、新たな経済対策の内容をどのようにみたらいいのか。また、岸田政権の政権運営はどのような展開になるのか、探ってみたい。

 所得税減税の評価は?与党内にも異論

さっそく、新たな経済対策からみていきたい。ポイントは、岸田首相が強い意欲を示し、政権の目玉政策と位置づける所得税減税をどのように評価するかだ。

政府方針では、所得税と住民税を合わせて1人当たり4万円を差し引く定額減税を実施するとともに、住民税が非課税となっている低所得世帯に7万円を給付するのが主な内容だ。両方でおよそ5兆円程度の規模になる見通しだ。

政府が所得税減税を打ち出したは98年の橋本政権の定額減税と、その後継の小渕政権の定率減税以来だが、減税措置は結局、2007年まで9年間続いた。

この減税政策の評価だが、野党側は「税制改正に時間がかかり、実際に減税されるのは来年6月、遅すぎる」と批判し、「それよりも即効性のある給付で行うべきだ」と主張している。

自民党内にも「減税は一度実施すると止めるのが難しい。景気対策としての効果も給付の方が大きい」と異論も多い。また、「橋下政権時代は山一証券などが破綻した不況の時期で、コロナから回復した今は状況が違う」などの不満もくすぶる。

また、今回は減税と給付が混在することに加えて、支給額が減税の場合は1人当たり4万円で、家族数に応じて増える一方、給付は1世帯当たり7万円と異なり、公平さが担保できないといった問題点が指摘されている。

さらに、岸田首相をはじめ政府側は、減税は一回だけに止める一方、幅広い減税にするため、所得制限は避けたい考えだ。

これに対して、自民党内からは、バラマキ批判を避けるため、年収2千万円以上の高額所得者は対象から外す案や、減税は一回限りとすべきではないといった意見もあり、党の税制調査会で制度設計を急ぐことにしている。

政権の政策決定に批判、世論も厳しい視線

こうした所得税などの減税をめぐっては、与党内には、政権の政策決定のあり方を問題視する声も出ている。

具体的には、岸田首相が「税収増の国民への還元」を図るとして、新たな経済対策のとりまとめを与党に指示したのは9月26日だ。

その後、岸田首相から、唐突に所得税減税検討の指示が出されたのが10月20日で、苦戦が伝えられていた衆参補欠選挙の投票日の直前だった。

このため、「減税策は補欠選挙へのテコ入れではないか」、あるいは「低迷する政権の浮揚や、年内解散・総選挙をねらったものではないか」といった憶測も飛び交い、政権の対応のまずさを指摘する声は党のベテラン議員からも聞かれる。

一方、国民の岸田政権の経済対策に対する視線も厳しい。報道各社の10月の世論調査では、政府の新たな経済対策について「期待する」は4割程度に止まり、「期待しない」が6割程度でほぼ共通している。

直近の日経新聞の世論調査(10月27~29日実施)によると政府の経済対策について「期待する」は37%、「期待しない」は58%だった。物価対策としての所得税減税については「適切とは思わない」が65%で、「適切だと思う」の24%を大きく上回った。

岸田内閣の支持率は33%で、前回調査から9ポイント低下し政権発足以来、最低の水準だ。不支持率は8ポイント増えて59%だった。政権の対応を厳しい視線でみていることがうかがえる。

 補正予算審議と中期の将来展望がカギ

さて、岸田政権の今後の政権運営はどのようになるか。まず、新たな経済対策を受けて、政府は裏付けとなる補正予算案の編成を進めており、今月下旬に国会へ提出する見通しだ。一般会計の規模は13兆1000億円で、財源の多くは借金・国債に頼ることになる。

国会は与党が圧倒的に多数なので、原案通り可決・成立する見通しだが、予算審議を通じて、世論の反応が注目される。先の日経の調査と同じような結果になると減税が評価されず、内閣支持率を引き下げることになり、政権にとっては思わぬ展開となる可能性もある。

また、今の国会は、旧統一教会の財産保全のための法案や、11月末が期限のマイナンバーカードの総点検と健康保険証廃止の扱いをどうするかという問題も抱えている。

さらに、年末の予算編成や税制改正を控えて、先送りになっている防衛増税の実施時期や、少子化対策の具体的な財源が焦点になる。岸田首相は、減税や児童手当の拡充など国民受けする政策には積極的だが、増税や国民負担増の問題は避けようとする姿勢がうかがえる。

岸田政権の減税に対して、世論の評価が低い背景としては「減税の後には、増税と負担増が待ち受けているのではないか」といった将来への不安や、政治不信があるのではないか。

したがって、岸田政権は当面の対策だけでなく、向こう3年から5年程度の日本経済や金融政策のかじ取りをどうするのか、中期の将来展望を明らかにしないと政権への不信感はぬぐえないのではないかと思う。

自民党の長老も「岸田首相に必要なことは、政権の目標をわかりやすく、はっきり示すこと。将来の展望を国民に率直に語りかけることが必要ではないか」と指摘する。

岸田首相にとっては、今月下旬に予定される衆参の予算委員会の質疑などを通じて、政府の経済対策について世論の支持が広がるかどうか、今後の政権運営の分水嶺になる。そして、来年夏の減税の実施時点で、日本経済がデフレ脱却の軌道に乗せられるのかどうか、険しい道が続くことになりそうだ。

最後に衆院解散・総選挙について触れておきたい。これまでのブログで触れてきたように経済対策のとりまとめが迷走し、内閣支持率も低迷している今の状況では、年内解散の可能性はほぼなくなったと言えるのではないか。

岸田首相も12月の政治日程として◆今月末からドバイで開かれるCOP28=国連の気候変動枠組み条約会議への出席、◆8日から長崎で開かれる国際賢人会議、◆16日から3日間、東京で開催されるASEAN特別首脳会議などの日程調整を進めている。

岸田首相にとって、懸案の解決で「政権の実績」を上げることができるかどうか、衆院解散の前提条件になる。(了)

“岸田政権浮上せず”10月世論調査

岸田政権が発足してから10月4日で、丸2年が経過した。岸田首相は先月13日に内閣改造・自民党役員人事を行って体制整備を図るとともに、新たな経済対策のとりまとめを指示し、3年目の政権運営を進めている。

来年秋の自民党総裁選まで1年を切り、前回衆院選挙から10月末には折り返し点を迎える。与野党双方からは「新たな経済対策で国民の支持が広がれば、岸田首相は年内の衆院解散・総選挙に踏み切るのではないか」との見方が聞かれる。

内閣改造後の岸田内閣の支持率に与野党の注目が集まっているが、NHKの10月の世論調査の結果がまとまった。岸田内閣の支持率は先月と同じ36%のままでピクリとも動かず、政権の浮揚効果は見られなかった。

岸田政権の新たな経済対策についても「期待していない」が半数を超え、政権を取り巻く情勢は好転の兆しがみられない。20日からは臨時国会が幕を開けるが、年内の衆院解散・総選挙への道は狭まりつつあるようにみえる。

不支持逆転続く、政策に不満過去最高

さっそく、NHKの世論調査(10月7~9日実施)のデータから見ていきたい。岸田内閣の10月の支持率は、先月と同じ36%。不支持率は、先月より1ポイント多い44%だった。支持率を不支持率が上回るのは7月以降4か月連続で、低迷状態が続いている。

支持する理由は◆「他の内閣より良さそうだから」が45%、◆「支持する政党の内閣だから」が27%で消極的な理由が多い。

不支持の理由としては◆「政策に期待が持てないから」が56%で、岸田内閣発足以降、最も高くなった。歴代政権と比べても高い水準だ。◆「実行力がないから」が20%で、合わせて8割近くを占める。

支持率の内容をみると、自民党支持層のうち「岸田内閣を支持する」と答えた割合は、60%半ばに止まっている。最も多い無党派層の支持率は18%と低く、逆に不支持率は56%と高いので、選挙の際にはマイナスに働く。

岸田首相は先月13日の内閣改造で、主要ポストの骨格は維持する一方、過去最多と並ぶ女性閣僚5人を起用して政権の刷新をアピールした。しかし、内閣支持率を上昇させる効果はみられなかった。改造人事のねらいは不発に終わったと言えそうだ。

 経済対策、期待せずは6割近くも

それでは、岸田首相が表明した新たな経済対策の評価については、どうだろうか。岸田首相は、物価高騰対策や賃金の引き上げから、少子化対策、安心・安全確保対策など5つの柱を挙げて、10月末までに具体策をとりまとめるよう閣僚に指示した。

世論調査では、こうした新たな経済対策の効果について、評価を尋ねた。答えは「期待している」が38%に対して、「期待していない」が57%となった。

また、世論調査では、新たな経済対策とともに、防衛費の増額や少子化対策のための財源確保も課題になっている中で「国の財政状況に不安を感じているかどうか」についても尋ねている。

答えは「感じている」が75%に対し、「感じていない」が19%となった。

さらに岸田内閣が最優先に取り組むべき課題を1つ選んでもらうと◆「物価対策を含む経済対策」が50%で最も多く、◆次いで「少子化対策」13%、◆「社会保障」11%などと続いた。

以上のことから、国民の多くは、大型の経済対策や補正予算案の規模よりも内容に関心があり、特に「物価高騰対策を中心にした経済対策」を望んでることが読み取れる。

また、対策の評価に当たっては、財源確保の取り組みに不安を感じており、「財源確保の具体策」を明らかにするよう求めていることがうかがえる。

政権与党の動きを取材すると、衆院解散・総選挙をにらんで予算の規模の拡大、端的に言えばバラマキ姿勢が感じられるのに対し、国民世論の方が、コロナ感染が収まり、平時の経済・財政運営に立ち返るべきだという真っ当な考え方が読み取れる。

 年内解散よりも政策論争の徹底を

これから年内の政治は、どう動くのか。今月20日から秋の臨時国会が始まり、会期は12月上旬までとなる見通しだ。

その国会では、新たな経済対策の裏付けとなる補正予算案の扱いと、内閣改造を受けての岸田政権の政権運営などをめぐって激しい論戦が戦わされる見通しだ。

また、補正予算案を成立させた後、岸田首相が衆院解散に踏み切るかどうかが大きな焦点になる。その解散・総選挙の前提条件として、政権与党側が期待していた内閣改造による政権の浮揚効果はみられなかった。

また、政府の経済対策についても世論の期待感は乏しいことを考えると、年内解散の道はかなり難しくなりつつあるようにみえる。

さらに、今月22日に投開票が行われる衆議院長崎4区の補欠選挙と、参議院徳島・高知の補欠選挙の結果がどうなるか。2つの補欠選挙ともに与野党一騎打ちの構図になっており、この結果も年内解散のゆくえに影響を及ぼしそうだ。

国民の多くは「年内の衆院解散・総選挙は時期尚早。それよりも政策の中身、物価高などへの経済対策を充実させること。それに先送りになっている財源の具体策を明らかにすべきだ」と注文を付けているように思える。

こうした国民の注文に対して、岸田首相と与野党はどのように応えるか、臨時国会の論戦をしっかり見ていきたい。(了)