長丁場の通常国会が21日に閉会する。最終盤の国会は一時、解散・総選挙へ突入かと緊迫したが、岸田首相は解散見送りを表明して決着した。
今回の解散、岸田首相は本気だったのかどうか?岸田首相はかなり早い段階で、解散先送りを決めていたのではないとみているが、真相はどうだろうか。
もう一つは、次の解散・総選挙の時期が焦点になるが、「岸田首相の求心力がカギ」を握っている。私もかつて政治報道に携わってきたので、1取材者の立場から、今回の岸田首相の対応について、思うところを率直にお伝えしたい。
6月解散、岸田首相は本気だったか?
衆院解散・総選挙をめぐる動きは、13日夜、岸田首相が記者団に対し「情勢をよく見極めたい」と発言したのをきっかけに、解散風は一気に勢いを増した。
民放のある報道番組では「首相は解散に踏み込んだ」との解説が流れ、翌日には別の民放局が「野党側が16日に不信任決議案を提出すれば、即日解散になる」などと報じ、政党の幹部の中には選挙対策会議を開くなど対応に追われた。
ところが結果はご存じの通り、15日夜、岸田首相が記者団に対し「今の国会での解散は考えていない」と表明し、6月解散は見送りになった。
岸田首相は、本当にこの時まで解散・総選挙を行う考えを持っていたのだろうか。この点は、見方が分かれるところで、整理しておく必要がある。
そこで、岸田首相の本気度は、どこをみておくとわかるか。首相官邸の首脳、自民党執行部、派閥の領袖、与党・公明党首脳などを取材し、情報を総合して判断するのが基本である。
それに加えて、解散・総選挙では、取材のポイントというものがある。ベテランの自民党関係者に聞くと「保守政党・自民党は、解散当日、総理・総裁が出席して『選対本部開き』を行い、『公認詔書』と『為書き』を手渡す重要な行事がある。ところが、この準備を行っていない」と指摘していた。
つまり、「公認証書」や「為書き」は、総裁をはじめ限られた党役員が手分けして、選挙区と氏名を手書きする。この準備は、数週間はかかるといわれる。そこで、官邸関係者と、自民党の複数の幹部を取材したが、こうした準備が行われているとの情報は得られなかった。
したがって、一部で岸田首相が解散に向け踏み込んだとされる13日時点では、実は、解散を考えてはいなかったのではないか。解散に含みを持たせることで、野党をけん制し、防衛財源確保法など最重要法案の乗り切りが本当のねらいではなかったかとの見方をしている。
以上を整理すると、岸田首相が解散戦略として、当初からサミット後の早期解散をねらっていたのは事実だと思う。そして、サミットが閉幕、内閣支持率の上昇はみられた。ところが、5月下旬以降、政権にとって想定外の事態が続いた。
一つは、長男の前首相秘書官の「公邸内忘年会」が週刊文春にすっぱ抜かれ、更迭に追い込まれた。また、公明党が東京での選挙協力の解消を打ち出した。さらに、看板政策であるナンバーカードのトラブルが相次ぎ、6月7日には「公金受取口座」の登録の誤りが13万件も確認された。
これでは、6月解散は無理で、6月第2週には、既に解散見送りを覚悟していたとみるのが自然ではないか。但し、この間の詳しい経緯の情報は確認できていないので、現役記者諸氏の取材・検証に期待したい。
”利用されるな、傍観者になるな”
解散をめぐるメデイア報道について一言、触れておきたい。1つは、解散・総選挙は政治記者にとっても最大の取材対象だが、政権側が流す情報に飛びついて、裏を取らずに間違った情報を流すなと先輩記者から戒められたのを思い出す。「利用されるな」と。
他方、「傍観者になるな」も重要な点だ。つまり、ミスを恐れて挑戦せず、思考停止、傍観者のような対応も論外だ。
解散・総選挙報道は、いかなる事態にも即応することが求められる。難しい取材の連続だが、いかに「正確な情報に基づく予測報道」を行うことができるか、この点でも現役記者の皆さんの活動に期待したい。
秋の解散は難問、政権の求心力が左右
それでは、岸田政権はこれからどのような政権運営を行うだろうか。岸田首相は来年9月の自民党総裁選での再選をにらみながら、夏から秋にかけて内閣改造・自民党役員人事に踏み切るとともに、秋の解散・総選挙を探るものとみられる。
秋の解散・総選挙ができるかどうか、大きなハードルが控えて折り、難問だ。1つは、内閣改造・自民党役員人事で、政権の体制を強化できるかどうか。今の時点では、ポスト岸田の有力候補が見当たらないので、相対的に優位にあるのは事実だ。
一方、岸田派は党内では4番目の規模の勢力で、人事につまづくと党内の不満が強まり、政権が不安定化するリスクを抱えている。今回の解散をめぐっても「解散権をもてあそぶような姿勢が感じられ、好ましくない」などの批判もくすぶっている。
2つめは、次の衆議院選挙に向けて公明党との関係修復ができるかどうかだ。公明党側は「東京での協力解消は見直さない」と硬い態度を崩していない。
3つめは、今回も問題になったが、「解散の大義名分」があるかどうか。国民との関係で言えば、防衛費に続いて、少子化対策についても裏付けとなる財源確保の具体策は年末に先送りになった。
財源問題を曖昧にしたまま、秋に解散・総選挙を行うことになれば、国民から、将来の負担を隠すねらいがあるのではないかと厳しい批判が出てくることも予想される。
解散の大義名分と、懸案についての明確な方針を打ち出さないと世論の支持は得られず、政権の求心力が低下するのではないか。その場合、秋の衆院解散は難しく、来年以降に先送りされることもありうることも予想される。
通常国会が21日に閉会する。まずは、岸田首相がいつ内閣改造・自民党役員人事に踏み切るか。また、国民が今回の解散問題を含め、岸田政権の対応をどのように評価し、政権の求心力に変化が出てくるかどうかを注目している。(了)