“首相の求心力が カギ”秋の解散・総選挙

長丁場の通常国会が21日に閉会する。最終盤の国会は一時、解散・総選挙へ突入かと緊迫したが、岸田首相は解散見送りを表明して決着した。

今回の解散、岸田首相は本気だったのかどうか?岸田首相はかなり早い段階で、解散先送りを決めていたのではないとみているが、真相はどうだろうか。

もう一つは、次の解散・総選挙の時期が焦点になるが、「岸田首相の求心力がカギ」を握っている。私もかつて政治報道に携わってきたので、1取材者の立場から、今回の岸田首相の対応について、思うところを率直にお伝えしたい。

 6月解散、岸田首相は本気だったか?

衆院解散・総選挙をめぐる動きは、13日夜、岸田首相が記者団に対し「情勢をよく見極めたい」と発言したのをきっかけに、解散風は一気に勢いを増した。

民放のある報道番組では「首相は解散に踏み込んだ」との解説が流れ、翌日には別の民放局が「野党側が16日に不信任決議案を提出すれば、即日解散になる」などと報じ、政党の幹部の中には選挙対策会議を開くなど対応に追われた。

ところが結果はご存じの通り、15日夜、岸田首相が記者団に対し「今の国会での解散は考えていない」と表明し、6月解散は見送りになった。

岸田首相は、本当にこの時まで解散・総選挙を行う考えを持っていたのだろうか。この点は、見方が分かれるところで、整理しておく必要がある。

そこで、岸田首相の本気度は、どこをみておくとわかるか。首相官邸の首脳、自民党執行部、派閥の領袖、与党・公明党首脳などを取材し、情報を総合して判断するのが基本である。

それに加えて、解散・総選挙では、取材のポイントというものがある。ベテランの自民党関係者に聞くと「保守政党・自民党は、解散当日、総理・総裁が出席して『選対本部開き』を行い、『公認詔書』と『為書き』を手渡す重要な行事がある。ところが、この準備を行っていない」と指摘していた。

つまり、「公認証書」や「為書き」は、総裁をはじめ限られた党役員が手分けして、選挙区と氏名を手書きする。この準備は、数週間はかかるといわれる。そこで、官邸関係者と、自民党の複数の幹部を取材したが、こうした準備が行われているとの情報は得られなかった。

したがって、一部で岸田首相が解散に向け踏み込んだとされる13日時点では、実は、解散を考えてはいなかったのではないか。解散に含みを持たせることで、野党をけん制し、防衛財源確保法など最重要法案の乗り切りが本当のねらいではなかったかとの見方をしている。

以上を整理すると、岸田首相が解散戦略として、当初からサミット後の早期解散をねらっていたのは事実だと思う。そして、サミットが閉幕、内閣支持率の上昇はみられた。ところが、5月下旬以降、政権にとって想定外の事態が続いた。

一つは、長男の前首相秘書官の「公邸内忘年会」が週刊文春にすっぱ抜かれ、更迭に追い込まれた。また、公明党が東京での選挙協力の解消を打ち出した。さらに、看板政策であるナンバーカードのトラブルが相次ぎ、6月7日には「公金受取口座」の登録の誤りが13万件も確認された。

これでは、6月解散は無理で、6月第2週には、既に解散見送りを覚悟していたとみるのが自然ではないか。但し、この間の詳しい経緯の情報は確認できていないので、現役記者諸氏の取材・検証に期待したい。

  ”利用されるな、傍観者になるな”

解散をめぐるメデイア報道について一言、触れておきたい。1つは、解散・総選挙は政治記者にとっても最大の取材対象だが、政権側が流す情報に飛びついて、裏を取らずに間違った情報を流すなと先輩記者から戒められたのを思い出す。「利用されるな」と。

他方、「傍観者になるな」も重要な点だ。つまり、ミスを恐れて挑戦せず、思考停止、傍観者のような対応も論外だ。

解散・総選挙報道は、いかなる事態にも即応することが求められる。難しい取材の連続だが、いかに「正確な情報に基づく予測報道」を行うことができるか、この点でも現役記者の皆さんの活動に期待したい。

 秋の解散は難問、政権の求心力が左右

それでは、岸田政権はこれからどのような政権運営を行うだろうか。岸田首相は来年9月の自民党総裁選での再選をにらみながら、夏から秋にかけて内閣改造・自民党役員人事に踏み切るとともに、秋の解散・総選挙を探るものとみられる。

秋の解散・総選挙ができるかどうか、大きなハードルが控えて折り、難問だ。1つは、内閣改造・自民党役員人事で、政権の体制を強化できるかどうか。今の時点では、ポスト岸田の有力候補が見当たらないので、相対的に優位にあるのは事実だ。

一方、岸田派は党内では4番目の規模の勢力で、人事につまづくと党内の不満が強まり、政権が不安定化するリスクを抱えている。今回の解散をめぐっても「解散権をもてあそぶような姿勢が感じられ、好ましくない」などの批判もくすぶっている。

2つめは、次の衆議院選挙に向けて公明党との関係修復ができるかどうかだ。公明党側は「東京での協力解消は見直さない」と硬い態度を崩していない。

3つめは、今回も問題になったが、「解散の大義名分」があるかどうか。国民との関係で言えば、防衛費に続いて、少子化対策についても裏付けとなる財源確保の具体策は年末に先送りになった。

財源問題を曖昧にしたまま、秋に解散・総選挙を行うことになれば、国民から、将来の負担を隠すねらいがあるのではないかと厳しい批判が出てくることも予想される。

解散の大義名分と、懸案についての明確な方針を打ち出さないと世論の支持は得られず、政権の求心力が低下するのではないか。その場合、秋の衆院解散は難しく、来年以降に先送りされることもありうることも予想される。

通常国会が21日に閉会する。まずは、岸田首相がいつ内閣改造・自民党役員人事に踏み切るか。また、国民が今回の解散問題を含め、岸田政権の対応をどのように評価し、政権の求心力に変化が出てくるかどうかを注目している。(了)

 

国会大詰め”6月解散説”の読み方

通常国会の会期末を21日に控えて、岸田首相は6月解散・7月総選挙に踏み切るのかどうか、与野党ともに緊張感が増してきている。

前回の衆院選挙から1年8か月も経っていない中で、本当に解散に踏み切るのかどうか。今回の解散をめぐる構図と可能性、それに解散の是非をどのようにみたらいいのか多角的に分析し、考えてみたい。

 早期解散、首相サイドと自民幹部との溝

今回の衆院解散・総選挙をめぐる動きは、既に詳しく報道されているので省略して、ここでは、解散をめぐる「与党内の構図」を中心に整理しておきたい。

まず、岸田首相の今年の政権運営は、G7サミットを地元・広島で開催して成功させた後、その勢いに乗って通常国会の会期末に衆院解散・総選挙に踏み切るというのが、首相のベスト・シナリオだと自民党内では受け止められてきた。

そのG7サミットは、ウクライナのゼレンスキー大統領の参加効果が大きく、政治的には成功裏に終わり、直後のメデイアの世論調査で支持率は上昇した。

ところが、首相の政務秘書官を務めていた長男の行動などが週刊誌で取り上げられ、更迭したことが批判を浴び、支持率が下落するなどの動きが続いている。

こうした中で、岸田首相に近い遠藤総務会長は「野党が内閣不信任決議案を提出すれば、解散の大義名分になる」などと盛んに解散風を吹かしてきた。

また、10増10減に伴う候補者調整などに当たっている森山選対委員長は、調整が最終段階にあるとして、選挙態勢が整ってきたことを明らかにした。

自民党執行部の動きとしては5日、役員会の前に岸田首相と麻生副総裁、茂木幹事長3者会談が行われた後、麻生、茂木の両氏は夜、長時間にわたって会食した。党関係者によると「早期解散には大義名分が必要」などとして、早期解散に慎重な意見が出されたという。

翌6日、二階元幹事長は記者団のインタビューに応じ「解散はいつあっても結構だが、何もせずに解散風をふかせるのはけしからん」と最近の動きをけん制した。

このように自民党内では、岸田首相と近い立場の幹部は、早期解散を有力な選択肢として模索しているのに対し、ほかの幹部は異論は唱えないものの「半身の構え」で、慎重な立場をとっているのが特徴だ。

こうした背景としては、早期解散論の幹部は「サミットは成功、支持率も上昇、株価は3万円台の高値で、これ以上のタイミングはない」と強調する。そのうえで「野党はバラバラ、特に維新の選挙態勢ができていない今、選挙をやるべきで、必ず勝てる」と力説する。

これに対して、慎重な幹部は「支持率は高いといっても自民支持層で、岸田内閣を支持する割合が回復していない。また、公明党との選挙協力がギクシャクしたまま選挙になると公明票が見込めず、思わぬ結果を招く」とけん制する。

早期解散に慎重な意見は、閣僚経験者などベテラン議員に多い。今年4月の衆参5補選で自民党は4勝したが、野党の乱立に救われたと楽観論を戒める。

また、自民、公明両党間の候補者調整をめぐって、両党の関係に亀裂が生じたことの影響を懸念する声が根強いのも特徴だ。

前回の衆院選挙で、自民党の小選挙区での当選者189人のうち、次点との差が2万票以内は57人、1万票以内は30人にも達した。公明党・創価学会票は1選挙区2万票程度とされるので、この票のゆくえ次第で議席の大幅な減少も予想される。

公明党が解消の方針を決めた東京の選挙協力については、関係修復の糸口を見いだせておらず、時間がかかる見通しだ。その公明党は、早期解散には反対だ。

このように自民党内、公明党を含めた与党内も早期解散論でまとまっているわけではない。自民党の関係者によると、党内はかなり慎重論が強いという。

そうした中で、主導権発揮に自信を深めているとされる岸田首相が独自の判断で「6月解散」へ踏み込むのか。それとも「秋口以降」の解散を選択するのか、その最終決断を見守っているのが今の状況だ。

 大義名分、主要政策の具体策の提示は

もう1つの焦点は、衆議院の解散・総選挙の大義名分は何か、国民との関係の問題がある。「大義名分など後で考えればいい」と語る幹部もいる。しかし、そうした考えは昭和の時代は通用しても、今の時期は受け入れられないだろう。

自民党の伊吹元衆議院議長は1日、所属していた二階派の会合で、早期解散の観測について「支持率が上がって自民党に有利だとか、党の総裁選挙をうまく運ぶためといった私利私欲で解散したら、国民はみんな見ていて簡単に勝てない」と今の永田町の動きに苦言を呈した。

自民党内には「野党が内閣不信任決議案を提出すれば、解散の大義名分になる」といった意見がある。しかし、国民はそのような政争レベルの理由を聞いているのではない。内外で激動が続く中で、岸田首相は国民生活を安定させていく覚悟と、具体的な政策と道筋を準備しているのかを問うているのだ。

岸田政権は、昨年末に防衛力の抜本強化や、年明けに異次元の少子化対策を相次いで打ち出した。但し、肝心の裏付けとなる財源については、未だに具体策を打ち出せていない。

その防衛財源確保のための増税の実施時期について、政府は当初の「来年以降」の方針から、「再来年・2025年以降」へさらに先送りもできるよう骨太方針に盛り込むことを検討している。

少子化対策、防衛財源についても、具体策は年末の予算編成まで先送りする方針が固まりつつある。

こうした対応は、岸田首相の解散戦略と関係している。要は、国民に不人気な負担の問題は年末まで先送りしたうえで、「6月解散」か、「秋の解散」で乗り切ることをねらっていると政界では受け止められている。

岸田首相は今年1月の施政方針演説で「先送りできない課題に正面から愚直に向き合い、一つ一つ答えを出していく」「(新たな安定財源確保に)今を生きる我々が将来世代への責任として対応して参ります」と決意を表明した。

こうした決意や覚悟はどこへ行ったか。政権が懸案解決に向けた具体策を打ち出したうえで、国会で野党と論戦を戦わせ、論点を明確にして、選挙で国民に信を問うのが、政治の王道だ。

6月解散論は、大義名分が見当たらず、懸案解決の具体策も示さないまま、今が有利と選挙に勝つことを目標に突き進んでいるようにみえる。

仮に実現した場合も、伊吹元議長の指摘する総裁再選を目標にした「私利私欲解散」、あるいは「負担増・増税隠し解散」などの厳しい批判の声が予想される。

 6月解散は?論点・争点設定が重要

最後に直近の問題として、6月解散の可能性はどの程度あるのかという問題に触れておきたい。難しい質問だが、私個人は、6月解散の可能性は低いのではないかとの見方をしている。

但し、不確定要素として最後まで残るのは、岸田首相がどのように決断するかだ。これまで触れたように自民党内のかなりの幹部は早期解散には慎重だ。それでも岸田首相が解散を決断すれば従うとみられるので、解散の可能性が残る。

一方、仮に解散に踏み切るのであれば、その前にやるべきことをやったうえで、決断することを求めたい。それは、岸田政権が懸案から逃げずに将来の解決策と展望を示すことだ。

それに対して、野党も自らの主張や対案を示しながら、論戦を挑んでもらいたい。与野党が論点・争点を明確にして、選挙に臨むのが政治の責任だ。

そうした論戦を踏まえて、解散・総選挙となるのであれば、国民としても納得するのではないか。国民にとっては、解散に至るプロセスが重要だという点を強調しておきたい。

国会の会期末が21日に迫る中で、岸田首相は13日夜、少子化対策で記者会見を行った。この中で、今の国会で解散する考えがあるかと問われたのに対し、岸田首相は「情勢をよく見極めたい」とのべるに止めた。

NHKの今月の世論調査によると岸田内閣の支持率は、今年1月を底に4か月連続で上昇していたが、6月は43%で3ポイント下落した。不支持は37%で6ポイント増え、その差は縮まった。

G7サミットの評価は高かったが、長男の前首相秘書官を更迭した問題やマイナンバーの誤登録問題が直撃したものとみられる。自民党の支持率も34.7%と相対的には高い水準にあるが、下降傾向が続いており、今月は岸田政権発足以来、最も低い水準となっている。

最終盤の国会は、最重要法案の防衛財源確保法案の扱いと、野党側が内閣不信任決議案を提出するかどうか。その上で、岸田首相が6月解散について、どのような最終判断を示すかが最大の焦点だ。じっくり、見極めたい。(了)

★(追記16日、21時30分)岸田首相は15日夜、記者団の取材に応じ「今の国会での解散は考えていない」とのべ、野党側から内閣不信任決議案が出された場合は否決し、衆議院を解散しない考えを明らかにした。

★国会は16日の衆議院本会議で、立憲民主党が提出した岸田内閣に対する不信任決議案について、自民、公明両党と日本維新の会、国民民主党などの反対多数で否決した。

 

”2つの懸念”岸田政権 少子化対策案

岸田政権が最重要課題に位置づける「次元の異なる少子化対策の方針」案がまとまった。30ページの方針案を一読すると、児童手当の所得制限を撤廃するなど経済的給付の具体策が詳細に示されている。

一方、財源については、増税や実質的な負担増を生じさせないとして新たな枠組みを提示しているが、具体策は年末に結論を出すとして先送りになっている。

こうした少子化対策案をどうみるか。結論を先に言えば、2つの懸念がある。1つは、給付の裏付けとなる財源を確保するための「持続可能な制度設計」になっていないのではないかという疑問。

もう1つは、政治との関係だ。年内にも衆議院の解散・総選挙が取り沙汰されている中で、財源確保の具体策を示していないと「論点隠し、争点隠し」といった批判を受けるのではないか。

政治の王道は、時の政権と与野党が懸案への方針を示し、論争を重ねたうえで、選挙で国民が決着を付けるのが基本だ。岸田政権は、こうした2つの懸念に対して、早急に新たな考え方や対応策を打ち出してもらいたい。

 支援策、児童手当拡充など3年間集中実施

第1の懸念である財源確保の問題に入る前に、政府の少子化対策のうち、支援策の中身をみておきたい。

政府は少子化対策を強化するため、今後3年間を集中的な取り組み期間と位置づけ、年間3兆円台半ばの予算を組んで、対策を加速するとしている。

具体的には、児童手当の所得制限を撤廃したうえで、対象も高校生まで拡大するのが大きな柱だ。

また、高等教育にかかる費用の負担軽減策として、授業料の減免や給付型の奨学金について、年収600万円程度までの中間層にまで広げた上で、さらなる拡充を図るといった支援メニューを数多く並べている。

こうした「加速化プラン」で子ども家庭庁の予算は今の5兆円からおよそ1.5倍増えるとしたうえで、2030年代初頭には倍増をめざすとしている。

支援策に対しては「異次元」といえるほどの規模や内容かといった批判も予想されるが、これまでに比べると踏み込んだ対策として、一定の評価はできるのではないかと考える。

 財源確保、持続可能な設計設計か疑問

問題は、こうした対策を実行していくうえで裏付けとなる財源をどう確保するかだ。方針案では、必要となる財源は◇「社会保障費の歳出改革」に加え、◇社会保険の仕組みを活用することも念頭に、社会全体で負担する新たな「支援金制度」を創設する。◇制度が整うまでの不足分は、一時的に「子ども特例公債」を発行してまかなうとしている。

このうち、新たな「支援金制度」は今後検討し、年末に結論を出すとして、先送りしている。

「社会保障費の歳出改革」についても、内容や規模は示されていない。年末の新年度予算案の編成課程で検討を進めるものとみられ、年末に先送りされている。

岸田首相はこうした財源問題については、消費税などの増税は行わない考えを示している。「徹底した歳出改革を行うことなどで、実質的に追加負担を生じさせないことをめざす」と強調している。

増税も社会保険料の上乗せ負担も避けるとなると「歳出改革」が中心になるが、医療や介護などの社会保障分野で、歳出の見直し・削減で、兆円単位の財源を捻出できるとは思えない。

したがって、政府の方針案は「安定した財源確保と持続可能な制度設計」にはなっていないのではないか。こうした疑問・懸念に真正面から答えてもらいたい。

 政権が方針を明示、選挙で政策決定を

2つ目の懸念は、具体的には次の衆議院選挙との関係だ。現状のままでは、肝心な財源問題がはっきりしない中での選挙になる可能性がある。判断材料が示されないので、「論点隠し、争点隠しの選挙」という批判を招くのではないか。

政界では衆議院の解散・総選挙が、年内にも行われるのではないかとの憶測が飛び交っている。最も早いケースは今の国会の会期末といった説も出されるなど与野党の国会議員は浮き足立っている。

政界関係者の間では、今回の財源問題先送りは岸田政権の解散戦略とも連動しており、財源問題・負担増の結論を出す前に、秋口に解散・総選挙を行うねらいがあるのではないかといった見方も出されている。

こうした疑心暗鬼を生じさせないためにも、岸田政権は財源問題について早急に具体的な考え方を明らかにすべきだと考える。

そのうえで、国民に信を問うのが筋ではないか。そうしないと国民の政治参加、選挙で政策を選択・決定という権利を封じることにもなる。

政府の対応を振り返ってみると岸田首相は年明けの記者会見で「異次元の少子化対策」をぶち上げ、3月末には少子化担当相の下で支援策のたたき台をとりまとめた。

そのうえで、総理官邸に設けた会議で検討を重ね、6月の骨太方針に「内容、予算、財源の大枠を示す」と繰り返し表明してきた。ところが、財源確保の具体案は年末へ先送りになった。これでは、あまりにも対応が遅すぎるのではないか。

岸田政権は、少子化対策の核心部分である財源確保について、具体案を示すべきだ。それに対して野党側も対案などを示し、議論を深めて論点を明確にすることが政治の側の責任だ。

そのうえで、衆議院解散・総選挙で信を問うというのであれば、与野党が選挙を通じて主張を展開し、最終的には国民が選択、1票を投じて決定するのが、政治の基本だ。国民がこうした筋の通った政治、選挙になることを求めるのは、当然の注文だと考える。

国会は6月21日の会期末を控え、与野党の攻防が次第に激しさを増しているが、今月2日に厚生労働省から「2022年の人口動態統計」が発表された。

それによるとこの1年間に生まれた赤ちゃんの数は77万人余りで、初めて80万人を割り込んだ。出生率は1.26で過去最低。死亡者数から出生数を差し引いた自然減は79万人、山梨県や佐賀県のほぼ1県分の人口がなくなったことになる。

人口減少は猛烈なスピードで進んでいる。少子化問題が政治に大きな衝撃を与えたのは1.57ショック、平成元年だ。既に30年余りが経過しているが、思うような成果を上げていない。岸田首相は、安定した財源に基づく強力な少子化対策案を早急に明らかにすべきだ。(了)

 

 

 

 

 

揺らぐ自公、解散、政権への影響は?

次の衆議院選挙の候補者調整をめぐり、自民、公明両党の意見の対立が深まり、公明党が東京での選挙協力を解消する方針を決めた問題で、岸田首相と山口代表が30日会談し、連立政権の枠組みを維持していくことを確認した。

一方、自民党の茂木幹事長と公明党の石井幹事長も会談し、自民党は東京以外に影響が広がらないよう埼玉と愛知で、公明党の候補を推薦する方向で調整を急ぐ考えを伝えた。

このように自民、公明両党の関係が大きく揺らいでいるが、両党の関係はどうなるのか。焦点の衆議院の解散や岸田政権の政権運営にどのような影響を及ぼすのか、探ってみたい。

 埼玉・愛知で協力、亀裂への歯止め

まず、岸田首相と山口代表の党首会談は昼食を取りながらおよそ1時間行われた。この中で、両党の関係や今後の政権運営について意見を交わしたが、公明党が東京の選挙で自民党の候補を推薦しないなどの方針を決めたことについて、岸田首相から言及はなかったとされる。

一方、両党の幹事長同士の会談で、茂木幹事長は両党間の亀裂がこれ以上拡大しないようにするため、次の選挙から選挙区が1つずつ増える埼玉と愛知について「公明党の要望に沿って調整を進めていきたい」とのべ、公明党が擁立を発表している候補を推薦する方向で、地方組織との調整を急ぐ考えを伝えた。

これに対し、石井氏は「なるべく速やかに調整してほしい」とのべた。また、両氏は、全国レベルでの選挙協力に向けて協議を続けていくことでも一致した。

一方、公明党が東京での選挙協力を解消するとした方針の扱いについては、議題として取り上げられなかったという。

このようにきょうの会談は、両党の選挙協力をめぐる亀裂がこれ以上、拡大しないよう歯止めをかけるのが精一杯というのが実態のようだ。

 首相の長男秘書官更迭 波紋広がる

この自公の選挙協力の問題とほぼ同時進行の形で、岸田首相の長男、翔太郎首相秘書官をめぐる問題が表面化した。

翔太郎秘書官をめぐっては、年末に首相公邸で親戚と忘年会を開き、写真撮影をしていたことなどが週刊誌で報じられた。参議院の予算委員会でも取り上げられ、岸田首相は厳重注意をしたと答弁してかわそうとしたが、世論の批判を浴び、29日に更迭に踏み切った。

野党だけでなく、与党からも批判を浴びており、この不祥事で「早期解散は当面、難しくなった」との受け止め方が与野党に広がっている。ただ、一部には「早期解散の流れは変わっていない」と警戒する見方も残っている。

 解散時期、自公の選挙協力体制がカギ

そこで、衆議院の解散・総選挙への影響はどうか。自民党内では、G7広島サミットをきっかけに岸田内閣の支持率が上昇、株価も3万円を超え、これ以上の好条件はないとして、今の国会の会期末に解散に踏み切るべきだとの意見が強まっていた。

ところが、結論を先に言えば、自公の選挙協力が難航し両党の関係に亀裂が入ったことで、早期解散はかなり難しくなったのではないかとみられる。

解散をめぐっては、いろいろな要素が絡むが、端的に言えば、選挙で勝てる見通しがつかないと踏み切ることは難しい。

今問題になっている東京をみると、前回2021年の衆院選挙で自民党は小選挙区で23人の候補者を擁立、このうち21人が公明党の推薦を受け、14人が当選した。

このうち、次点との差がおよそ2万票未満の当選者は6人。公明票は1選挙区で2万票程度といわれているので、この公明票の上乗せがないと当選は厳しいということになる。

全国でみると自民党は小選挙区の277人を擁立し、このうちの95%、ほとんどが公明党の推薦を受けた。このうち、2万票差未満の当選者は57人、1万票差未満は30人。つまり、公明票がないと激戦区で、かなりの議席を失う可能性がある。

そこで、仮に今の国会での6月解散・7月総選挙となると、極めて短い期間に自公の選挙協力体制を整えられるか。また、解散の大義名分、選挙の政策面の争点として何を設定するのか、国民の理解を得るのは難しいとみられる。

他方で、自民党内には、先の統一地方選で躍進した維新などの野党側に対しては選挙体制が整っていない時に解散を打てば有利だとして、早期解散はありうるとの見方もある。

最終的には、岸田首相がどのように判断するかで決まる。個人的な見方を尋ねられれば、岸田政権の現状を冷静に観察すると早期に解散・総選挙を行えるような状況にはならないのではないかとみている。

 自公連立様変わり、選挙協力見通せず

もう1つの焦点である自民・公明両党の連立政権や、岸田政権の政権運営への影響はどうだろうか。

岸田首相と山口代表との会談で、両党による連立政権の枠組みを維持していくことを確認したので、当面、今の連立の枠組みが変わることはないとみられる。重要法案の扱いや主要政策の調整についても従来の方式で進められる見通しだ。

但し、自公の連立がスタートして20年あまりが経過したこともあって、かつての濃密な人間関係は薄れ、連立政権の姿は大きく様変わりした印象を受ける。

振り返ると公明党が連立政権に参加したのは、小渕政権当時の1999年10月だった。前年の参議院選挙で自民党が惨敗し、衆参ねじれ国会となり、自民党の強い要請を受けて、公明党が自自公連立政権の形で政権入りした。

当時の取材メモを読み直してみると小渕首相、野中幹事長が、公明党の神崎代表、冬柴幹事長と水面下でたびたび会談を重ね、連立政権入りを働きかけた。

公明党側は「最初は閣外協力でどうか」などと慎重な姿勢を繰り返したが、最後は小渕首相が「直ちに連立に入り、閣内協力でお願いしたい」と強く要請して実現にこぎつけた。

当時は、金融危機とバブル崩壊後の経済立て直しが最大の課題だった。公明党の連立政権参加で、与党が参議院で過半数を回復した。それ以降、重要な政策決定や選挙態勢づくり、時には政局にも関与しながら双方が一体となって運営に当たった。

第2次安倍政権では、安倍首相は維新との関係が強かったが、公明党に対しては二階幹事長らが調整役を果たしたほか、難問は安倍首相と山口代表のトップが直接、調整に当たった。

これに対して、岸田政権では、首相官邸をはじめ、自民、公明双方ともに真正面方調整に当たる幹部がみられない。今の自公の連立政権は人間関係が希薄で、かつての連立政権と比べると大きく様変わりしている。

今後、問題になるのは、東京の選挙協力をどのように決着をつけるのか、事態収拾の糸口がまったく見えない。東京だけ除いて、それ以外の地域について、選挙協力を進めることができるかどうか、無理がある。

また、公明党は、関西地域で維新と競合が激化する中で、どこで議席を増やすのか。東京で自民党との選挙協力を行わない場合、自民党以外のどの党と協力していくのか、自民党側に疑念を生じさせる可能性もある。

6月21日に迫った通常国会の会期末に向けて、自民、公明両党は重要法案などはこれまで通りの体制で乗り切るものとみられる。但し、夏から秋にかけて予想される内閣改造などの節目には、選挙協力体制を含め両党の関係を再構築することができるかどうか問われることになる。(了)

 

 

終盤国会と解散風で問われる点

G7広島サミットが21日閉幕し、政治の焦点は、終盤国会の与野党の攻防に焦点が移った。同時にサミット効果などで岸田内閣の支持率が上昇し、自民党内では衆議院の早期解散に踏み切るべきだという声が強まっている。

こうした解散風は本物になるのか。終盤国会では何が問われているのか、みていきたい。本論に入る前にG7広島サミットについて、手短に触れておきたい。

結論を先に言えば、これまで日本で開催されたサミット7回の中では、内外の関心を最も集めた首脳会議と言っていいのではないか。

被爆地・広島でのサミットという点もあるが、やはり、世界が一挙手一投足を注視しているウクライナのゼレンスキー大統領が電撃的に来日し、G7首脳や新興国首脳との会合に参加した効果が大きい。

G7はウクライナへの支援を強化するとともに、ロシアへの制裁継続を確認した。また、核保有国を含めて各国首脳が原爆資料館を視察し、展示資料を通じて被爆の実態に触れた点も評価していいのではないか。

但し、問題は、全てこれからだ。ウクライナの反転攻勢もこれからであり、欧米の軍事支援が強化されつつあるとはいえ、戦況が好転するか予断を許さない。

専門家によるとこれから数か月、場合によっては半年、大きな山場を迎えるとの見方もある。日本のG7議長国としての役割は、年末まで続く。国内の一部にある早期解散論で浮き足立つような状況には全くないと思うが、どうだろうか。

 終盤国会、防衛・少子化財源問題が焦点

それでは、本論に入って終盤国会はどうなるか。国会の会期は会期末の6月21日まで1か月を切ったが、与野党の論戦の焦点としては、2点ある。

1つは、防衛費の増額に伴う財源確保法案の扱い。2つ目は、岸田政権が最重要課題と位置づける異次元の少子化対策の財源をどのような仕組みで確保するかだ。

このうち、防衛費の財源確保法案は23日、衆院本会議で与党の賛成多数で可決され、参議院に送られた。参議院で審議が始まるが、野党の立憲民主党、日本維新の会、共産党、国民民主党がそろって反対しており、激しい議論がかわされる見通しだ。

少子化対策の財源については、政府は、来年度から3年間で集中的に取り組みを強化するとして、新たに3兆円程度の財源を確保する方向で調整を進めている。

この財源としては、消費増税などの増税ではなく、医療・介護など社会保障費の歳出改革と、社会保険料の上乗せなどで確保することを検討している。

具体的には、健康保険の仕組みを使うことを検討している。これに対して、野党側は「医療や介護など社会保障分野での歳出改革はありえず、社会保険料への上乗せではなく、税で確保するのが筋だ」として、厳しく批判している。

経済界や労働界からも「社会保険料を上乗せすれば、せっかくの賃上げの機運に水を差すことになる」などの異論も出ている。

今月24日と26日には、衆院と参院でそれぞれ予算委員会の集中審議が予定されており、防衛と少子化対策の財源をめぐっては、政府・与党と野党側で激しい議論が戦わされることになりそうだ。

こうした財源問題については、世論の関心も高く、報道各社の世論調査によると政府の防衛増税の方針については、反対の意見が多数を占めている。少子化対策の財源についても社会保険料の活用への賛成は少なく、今後、岸田内閣の支持率にも影響が出てくることも予想される。

今の国会は終始、与党ペースで進んできたこともあって、論戦は極めて低調だった。終盤国会では、防衛と少子化対策の財源問題などを軸に与野党が徹底した議論を尽くすよう強く求めておきたい。

 強まる解散風、勝てる条件・大義名分は

次に衆議院の解散・総選挙をめぐる動きについて、みておきたい。G7広島サミットを受けて、自民党内からは「サミットは大きな成功を納め、世論調査で内閣支持率も上昇している」として、衆議院の早期解散を求める意見が相次いでいる。

こうした背景としては、低迷が続いていた岸田内閣の支持率が回復傾向にあることに加えて、今後は、防衛増税や少子化対策の負担増が具体化してくるので、その前の解散が有利だとの判断が働いているものとみられる。

また、先の統一地方選と衆参補欠選挙で、維新が勢力を大幅に拡大したことから、維新の選挙態勢が整わないうちに解散に打って出るべきだという思惑もある。

一方、与党・公明党の山口代表は、内閣支持率の上昇を理由に解散を考えることは望ましくないとして、早期解散に否定的な考えを表明している。

自民党は小選挙区で議席を獲得するうえでは、公明・創価学会支持層の上乗せで当選した議員も多く、自公の足並みがそろわない中で、与党が勝てる条件を整えられるのか、疑問だ。

また、先の衆院選挙から1年8か月しか経っていない中で、早期解散に踏み切る大義名分は何かという点が問われる。政権与党にとって、今が有利だからというのでは党利党略そのもので、国民の支持はえられないだろう。

 問われる岸田首相の構想と実現力

衆議院の解散・総選挙について、岸田首相は記者団からの質問に対して「先送りできない課題で、結果を出すことに集中しなければならない。今は考えていない」と繰り返し強調している。

一方、自民党内からの早期解散を求める声は強まっており、岸田首相としては最終的にどのように判断するか、今後の焦点だ。

その解散時期について、国民の見方は「今の国会ですぐ」は8%と極めて少なく、「夏以降の年内」18%、「来年」19%、「再来年10月の任期満了まで」が41%で最も多い(NHK世論調査5月)。

要は「解散を急ぐ必要はない」と考えている国民が多い。別の表現をすれば「解散よりも前に、やるべきことがある」と考えている国民が多いということだろう。

岸田首相は、防衛政策の転換で日本の防衛力整備の姿をどのように考えているか。異次元の少子化対策では、何を最重点に実現したいのか。新しい資本主義で何をやりたいのか、いつまでに実行できるのか。

国民は、以上のような岸田政権がめざす政権の具体的な構想を求めているのではないか。その上で、構想を実現していく力を備えているのかどうかを見極めようとしているのではないかと考える。

終盤国会では、大きな論点として残されている防衛と少子化対策の財源問題について、政府・与党と野党側との間で徹底した論戦を尽くしてもらいたい。

そのうえで、国民の側は、岸田首相が解散・総選挙に踏み切るのかどうか。解散の大義名分をはじめ、焦点のウクライナ情勢、政策の争点設定など必要な条件が整っているかどうかで、解散の是非を判断して対応すればいいのではないか。

会期末まで目が離せない緊張した展開が続くことになりそうだ。(了)

★(追記25日22時)次の衆議院選挙に向けた自民・公明両党の候補者調整で、双方の意見の対立が深まり、公明党は25日、東京28区の擁立を断念した上で、東京では自民党の候補者に推薦を出さない方針を決定し、自民党に伝えた。与党の足並みの乱れは、衆院解散・総選挙の時期にも影響を与えることになりそうだ。

 

 

G7広島サミット”世論は冷静思考”

G7=主要7か国首脳会議が19日から3日間の日程で、広島市で開かれる。G7サミットが日本で開かれるのは7年ぶり、7回目になる。

アメリカのバイデン大統領をはじめとする主要国の要人が相次いで来日するので、開催地の広島だけでなく全国的に大規模な警備体制が敷かれる。

また、メデイアを通じて膨大なサミット情報が洪水のように出されることが予想されるが、国民は今回のサミットをどのようにみているか。

一方、政界の一部には、サミット終了後、岸田首相が衆議院の解散・総選挙に打って出るのではないかとして、サミットへの国民の反応を注視している動きもある。

そうした中で、NHKの世論調査が発表されたので、このデータをみながら広島サミットへの国民の見方や政治への影響を探ってみたい。

 ウクライナ情勢議論、世論の見方は

さっそく、今回のG7広島サミットを国民はどのように受け止めているのか、この点からみていきたい。

◆サミットでは、ウクライナ情勢が主要な議題になるものとみられている。NHKの世論調査(5月12日から14日実施)では「ロシアの侵攻を止めさせるための実効性がある議論が期待できると思うかどうか」について聞いている。

◇「大いに期待できる」は2%、◇「ある程度期待できる」が26%で、合わせて「期待できる」は28%。これに対して、◇「あまり期待できない」50%、◇「まったく期待できない」16%で、「期待できない」は合わせて66%となった。

◆今回のサミットは被爆地広島で開かれることから、「核兵器のない世界」の実現に向けた機運が高まることを期待できるかどうかについても尋ねている。

◇「大いに期待できる」は2%、◇「ある程度期待できる」27%で、「期待できる」は29%。◇「あまり期待できない」45%、◇「まったく期待できない」20%で、「期待できない」は65%となった。

ウクライナ情勢と、核廃絶の問題ともに目に見えるような成果を早期に求めるのは、難しいとの見方をしている。国民の多くは、サミットの主要課題について、冷静かつ客観的に見極めようとする姿勢・思考がうかがえる。

◆外交分野では、岸田首相と韓国のユン大統領が3月に続いて、今月も首脳会談を行い、対話を重ねていくことを確認したことについて、日韓関係が改善に向かうかどうかを聞いている。

◇「改善に向かうと思う」が53%で、「改善に向かうとは思わない」の32%を上回った。

このように日韓二国間の問題については、積極的に評価しようとする人が多いことも明らかになった。

広島サミットで議長を務める岸田首相はインタビューなどで「平和の象徴である広島にG7首脳が集う歴史的に大きな重みがある」「ロシアが行っているような核の威嚇を拒否していく強い意思を発信する」などの考えを強調している。

これに対して、国民世論はサミットの意義は評価しつつ、首脳会議の内容に実効性があるのかどうか、冷静に見極めて判断しようとしている。サミットを政治的なセレモニーではなく、外交・安全保障などの面で前進しているのかどうか、中身で評価しようとしており、大いに評価できる。

 サミットの年は解散のジンクス、今回は

さて、政界では「サミットの年には、衆議院の解散がある」とのジンクスがある。日本で開かれたサミット7回のうち、4回連続で同じ年内に衆議院が解散・総選挙が行われた歴史がある。

具体的には、1979年の大平元首相、86年の中曽根元首相の時には、衆参ダブル選挙だった。93年の宮沢元首相、2000年の森元首相の時もサミットが行われるとともに衆議院の解散・総選挙が行われた。

その後、2008年の福田元首相の時、および前回2016年安倍元首相の伊勢志摩サミットの時には、解散・総選挙は見送られた。

こうしたジンクスに加えて、政界の一部には、岸田首相は野党の選挙態勢が整っていないのを好機とらえ、広島サミットの勢いに乗って衆議院の解散に打って出るのではないかという見方が根強くある。

◆その岸田首相の5月の内閣支持率はどうか。支持率は46%で、前月より4ポイント上昇し、不支持率は31%で4ポイント減少した。

この結果、岸田内閣の支持率は1月の33%を底に4か月連続で上昇、支持が不支持を3か月連続で上回った。岸田内閣は最悪期を脱し、回復傾向にある。

こうした背景には、通常国会が与党ペースで進み、野党側が存在感を発揮できていないことがある。また、岸田首相が大型連休を利用してアフリカ5か国歴訪や韓国訪問などでメデイアの露出度を増したことも影響しているものとみられる。

但し、岸田内閣を支持する理由としては「他の内閣より良さそうだから」が45%で最も多く、相変わらず消極的支持が多い。支持しない理由としては「政策に期待が持てない」が50%、「実行力がない」が20%と多く、政権が力強さを発揮するような状況にまで至っていない。

 サミット後の早期解散説、世論は少数

◆それでは、国民は衆議院の解散・総選挙をいつ行うべきだと考えているか。◇「G7広島サミットの後すぐ」は8%、◇「夏以降の年内」18%、◇「来年」19%、◇「再来年10月の任期満了まで」41%となっている。

政界の一部にある「サミット終了後の早期解散説」については、世論の見方は1割にも達していない。任期4年のうち、まだ1年7か月しか経過していないので、国民が解散を急ぐ必要はないと考えるのは当然ともいえる。

このようにみてくると、広島サミットについては、ウクライナ侵攻の停戦に向けた糸口を見いだせるか。核廃絶や核軍縮が一歩でも前進するのか。ロシア、中国対日米欧の構図が続く中で、G7は中国との関係をどのように位置づけて対応していくのかなどが注目される。

一方、サミット後の終盤国会では、防衛費の大幅増に伴う財源確保の法案の審議と、異次元の少子化対策の財源をどのように確保していくのか、待ったなしの状態にある。

会期末に向けて、最終盤の国会では、野党側が内閣不信任決議案を提出するのかどうか。それを受けて、岸田首相が衆議院の解散・総選挙へ打って出るのかどうか、政局が緊迫する局面も予想される。

国民の側は、まずはG7広島サミットの協議の中身を冷静に評価するとともに、政治が今、為すべきことは何か、しっかり見ていく必要がありそうだ。(了)

解散風と終盤国会 ”やるべきことは”

大型連休が終わり、長丁場の通常国会も終盤に入った。永田町では、岸田首相はG7の広島サミットを終えて、会期末に衆議院の解散・総選挙に踏み切るのではないかとの声が聞かれるなど夏の解散風が吹き始めた。

一方、ここまでの国会論戦は極めて低調で、岸田政権や与野党双方とも日本の将来をどのように考えているのか、さっぱり伝わって来ない。加えて、終盤国会は解散をめぐる駆け引きばかりとなると国民は困惑してしまう。

個人的には今、衆議院の解散を行うような状況にはないと考えているので、会期末に向けて浮き足立つ議員の動きを想像すると「解散より前にやるべきことがある」と言わざるを得ない。

終盤国会は、議論を尽くしておくべき3つの論点を抱えている。戦後の安全保障政策の転換といわれる防衛力の抜本強化と防衛増税の扱いが1つ。

また、異次元の少子化対策と財源、それに経済運営の今後のかじ取り。以上の少なくとも3つの論点について、政権与党と野党はそれぞれの方針を明示して、徹底した議論を重ねる必要があると考える。

こうした論点を明確にしたうえで解散・総選挙に踏み切るのであれば、国民も一定の理解を示すのではないか。

逆に論点を曖昧にしたままの解散の場合、厳しい審判が下される可能性があるのではないか。解散風が吹き始めた中で、解散と国会のあり方を考えてみたい。

 防衛費の大幅増、防衛財源は持続可能か

国会は会期末の6月21日まで40日余りとなり、政府提出法案のうち、新年度予算や、かなりの法案が既に成立、または成立のメドがつきつつある。

終盤国会で与野党の対決法案として残るのは、防衛費の大幅な増額をまかなうための財源確保法案がある。衆議院段階で審議が続いている。

政府は2023年度から5年間に防衛費の総額を今の1.6倍にあたる43兆円に増やすとともに2027年度以降、毎年度、防衛費を今より4兆円増やす方針だ。

その財源確保の主な柱として「防衛力強化資金」を創設する方針だ。具体的には、国有地を売却したり、特別会計の剰余金を集めたりして9千億円を見込むのをはじめ、補正予算に活用してきた決算剰余金7千億円をかき集め、税金以外の歳入をためておくための法案だ。

問題は、国有地の売却益や特別会計の剰余金の活用といっても1回限りなので、今後も財源を確実に手当できるかどうかわからない。一方、1兆円強とされる増税は、実施時期が決まっていない。

このように防衛費の大幅増額は決まったものの、財源は確実に確保できるのか、持続可能な安定財源なのか明確にしておく必要がある。

外交・安全保障分野では、今月19日から開催されるG7広島サミットを受けて、ウクライナ支援とロシア制裁、米中対立が激しさを増している中で対中外交をどのように進めていくのか、終盤国会で突っ込んだ議論を行う必要がある。

 少子化対策 優先順位と財源の明示を

岸田政権が最重要課題に位置づける異次元の少子化対策については、3月31日に子ども政策担当相からたたき台が示された。この案を政府が引き取って、岸田首相の下に新たな会議を設けて検討を進めており、6月の骨太方針に盛り込む運びになっている。

政府のたたき台では、子ども手当の所得制限の撤廃や、学校給食費の無料化など大胆な対策が打ち出されているが、防衛費と同じく財源をどう確保するかが最大の問題だ。

今の少子化対策関係予算は6兆1千億円で、これを倍増するには、相当な規模の財源が必要だ。政府・与党内では、消費税率の引き上げを除いて、社会保険料の上乗せや、歳出の見直し、国債発行などの案が出されているが、方向性すら定まっていない。

岸田政権としては、少子化対策の優先順位とどのような財源を組み合わせるのか決断の時期が迫っている。

 働き手大幅減、経済のかじ取りは

3つ目の経済運営の問題はどうか。政府とともに経済・金融政策のかじ取りに当たる日銀は、10年間続いた黒田総裁から、学者出身の植田総裁に交代したが、これまでの金融緩和策は、当面、継続する方針だ。

一方、物価の高騰は続き、東京23区の4月の消費者物価指数は3.5%上昇し、1976年以来46年ぶりの高い水準が続いている。

今年の春闘は大手企業では30年ぶりの高水準の回答が相次いだが、3月の実質賃金は物価上昇の影響で2.9%の減少、12か月連続のマイナスだ。

こうした中で、4月26日に発表された「将来推計人口」によると日本の総人口は50年後には3割減の8700万人に縮小することが明らかになった。特に15歳から64歳までの生産年齢人口、働き手は3000万人も減少するとの予測だ。

日本の過去の実質成長率は、2000年から2021年までの平均で0.65%。経済の専門家は「政府は実質2%の高い目標を掲げているが、高い目標を掲げることだけでは問題の深刻さを隠蔽することになる」と警告している。

岸田政権は「新しい資本主義」を打ち出したが、政権発足から1年半、何を最重点に取り組むのか、未だにはっきりしない。対する野党は、どのような対案で挑むのか、この国会でも経済論争は未だ深まらないまま、終盤国会を迎えている。

  解散より前にやるべきことがある!

政治の動きに話を戻すと、政府・与党内では岸田内閣の支持率が上昇傾向にあるとして、G7広島サミット終了後、来月の国会会期末に岸田首相は、衆議院の解散・総選挙に踏み切るのではないかとの説を聞く。

この早期解散説の本音は「岸田内閣の支持率はまもなくピークを迎え、下り坂に向かう。野党はバラバラ、体制は整っておらず、今がチャンス」との見方だと思われる。

これを国民の側からみると「国会でろくに議論もしないで、何を基準に選べというのか」と反発する人も多いのではないか。新たな議員を選んだとしても再び同じ議論の繰り返しになりかねない。

先にみてきた3つの論点を思い出してもらうと、答えは自ずと出てくる。「衆院解散・総選挙の前にやるべきことがある」。終盤国会では、主要な論点、選挙の争点にもつながる問題について、まずは、政権が基本方針や構想、実現するための具体策を提示すること。

対する野党側も対案を打ち出すなどして、徹底して議論を尽くすことが基本だとと考える。その上で、首相が総合的に判断して、解散・総選挙で信を問うという次の段階もありうるのではないか。

今の選挙制度に代わって、前の解散から次の解散まで最も短かったのは2003年、小泉首相時代の郵政解散で1年9か月だった。今回、6月解散に踏み切るとさらに短く1年8か月だ。衆院選挙は1回当たり600億円程度の経費がかかる。

経費のレベルの問題ではないが、世界が激しく揺れ動く時代、日本の地位も国際社会で下がり続けている時期に、争点がはっきしない解散・総選挙は御免被りたい。首相、議員の皆さんには「難題解決、将来を切り開いていくための選挙、政治」を行ってもらいたい。日本にはそれほど時間は残されていない。(了)

 

 

 

”早期解散風”の見方・読み方

衆参5つの補欠選挙が終わったのを受けて、政界は大型連休明けからG7広島サミットを経て、6月の通常国会会期末に向けて、与野党の激しい駆け引きが予想される。

最も注目されるのは、国会会期末に野党が岸田政権に対する内閣不信任決議案を提出するか。岸田首相が衆議院の解散・総選挙に踏み切るかどうかが、最大の焦点になる見通しだ。

岸田政権や自民党内では衆参補選が4勝1敗と勝ち越したことから、会期末に衆議院の解散・総選挙に打って出るべきだという早期解散論が聞かれるほか、野党側にも早期解散を警戒する受け止め方がある。

さて、こうした早期解散論はどんな思惑があるのか、実現可能性はどの程度なのか。大型連休の最中だが、平穏な時期に解散・総選挙のあり方をさまざまな角度から考えてみたい。

 早期解散 争点隠しとの見方も

衆議院の解散・総選挙をめぐっては、先の補欠選挙の結果をどのようにみるかで、考え方に違いがある。自民党は4勝1敗、選挙前より1議席増えたことで、内容はともかく、”勝ちは勝ち”だとして早期解散はありうるとの見方がある。

これに対して、勝ち方の中身をみると和歌山1区で、日本維新の会に議席を奪われたのをはじめ、そのほかの選挙区でも野党側に接戦に持ち込まれ、世論の支持が十分得られていないとして慎重論も聞かれる。

そうした中で、岸田首相はウクライナを電撃訪問したのに続いて、異次元の少子化対策の内容のとりまとめを急いでいる。G7広島サミットを終えて支持率がさらに上がれば、衆院解散・総選挙に踏み切る可能性は大きいとの見方が、政権与党内に根強くあるのも事実だ。

早期解散の理由としては、岸田内閣の支持率が低迷から抜けだし、回復傾向にあること。G7広島サミットの開催でさらに上昇することが期待できるとして、政権に勢いがあるチャンスを生かすべきだという声も聞く。

一方、岸田政権が最重要課題と位置づける「異次元の少子化対策」の財源確保については、社会保険料の引き上げなど国民負担が避けられない。また、防衛増税の実施時期についても年末までには決定する必要がある。

世界経済はアメリカの金利引き上げなどの影響で下り坂に向かう可能性がある。つまり、早期解散論の背景には、岸田政権はこの先、好材料が見当たらないので、支持率が高いうちに解散に打って出るべきだという判断がある。

このほか、野党側は、日本維新の会は躍進したものの、野党第1党の立憲民主党には勢いがなく、野党低迷の時が有利だとの思惑も働いている。

こうした早期解散論を国民は、どうみるか。少子化対策の財源や防衛増税の決定前の選挙が有利だとする姿勢に見えるので、端的に言えば”争点隠し”、党利党略の色彩が濃い解散と批判的に受け止めるのではないかとみている。

   解散の条件、時期をどう考えるか

さて、衆院解散・総選挙は、最終的には岸田首相が判断するので、与野党の攻防や駆け引きによって、今後、どのように展開するかわからない。そこで、解散の条件や時期について、さまざまな角度からさらに分析してみたい。

まず、解散・総選挙の決断に当たっては、勝てる見通しがあるのかどうかが最大のポイントになる。具体的には、自民、公明両党の選挙協力が機能することが不可欠の条件だ。

ところが、公明党は先の統一地方選挙では、目標の全員当選どころか、地方議員の12人が落選した。1998年の公明党再結成以来初めてという激震に見舞われている。地方組織の高齢化や運動量の低下、各候補への票割りの判断ミスなどが指摘されている。

また、「10増10減」に伴い定数が増える首都圏や愛知県で、公明党は候補者を擁立する小選挙区を増やすよう求めているが、自民党は難色を示し、調整が進んでいない。自公の選挙協力体制が機能しないと早期解散は難しいのではないか。

さらに岸田首相の政権戦略とも関係がある。岸田首相にとって、来年9月の自民党の総裁選で再選を果たすことが、大きな目標だ。そのためには、いつ解散に踏み切るのが有利かという問題でもある。

自民党内では、最大派閥の安倍派の後継会長選びの見通しがついておらず、岸田首相の有力な対立候補が見当たらないとの見方が強い。そうすると衆議院で安定多数を確保しているのに、解散を急ぐ必要はないのではないかといった見方も聞かれる。

一方、野党が低迷している状況で、解散に踏み切るのは、政権与党にとって有利であることは事実だ。しかし、選挙は将来展望を語って国民の支持を得るのが基本で、そうした本来の姿から大きく外れる。

国民の見方はどうか。朝日新聞の4月の世論調査をみると◇「できるだけ早く解散すべき」は22%に対し、◇「急ぐ必要はない」が67%と圧倒的多数を占める。

以上、さまざまな要素を総合して考えると、私は早期解散の確率は低いとみる。しかし、岸田首相自身は政権運営は極めて順調で、国民に信を問いたいと考えるかもしれない。岸田首相の意欲の問題と、解散に踏み切る条件は整っているか、2段階でみていく必要があると考える。

 停滞日本の立て直し、終盤国会で論戦を

衆議院の解散・総選挙の是非、あり方はどのように考えたらいいのだろうか。安倍政権当時「不意打ち解散」と呼ばれたように野党の備えがない時をねらって解散を断行、政権与党が勝利したケースも頭に浮かぶ。

解散・総選挙の基本は、政権が取り組むべき課題と対策を明らかにして、野党側と徹底して議論を交わし、国民の判断を仰ぐのが基本だ。国民自身もそのように願っていると思われる。

今の日本が抱える問題、例えば、この20年間の実質経済成長率は0.6%に止まり、賃金も上昇しない状態が続いてきた。科学技術力も論文引用数でみると22年前は世界4位だったのが、今や12位に後退している。生産年齢人口は今後、50年間で約3000万人も減少するとの予測が先日、公表された。

停滞日本をどのように立て直すのか、かねてから政治が問われている大きな課題だ。岸田政権も焦点の異次元の少子化対策の財源をどうするのか、具体策が中々、決まらない。去年決まった防衛増税の実施時期も年末までかかりそうだ。

衆議院議員の任期は、まだ1年半しか経過していない。この1点からして、早期解散にはかなり無理があると感じる。

国民の多くは、早期解散より、停滞が続く日本経済・社会の立て直しにどのように取り組むのか、そのために政治は何をやるのか、政権の明確な方針と与野党の論争を期待している。連休明けの国会では、政争・駆け引きではなく、日本再生に向けて熱のこもった真剣な論戦をみせてもらいたい。(了)

 

岸田自民”薄氷の勝利”衆院解散は?

岸田政権の「中間評価」と位置づけられる衆参5つの補欠選挙は、自民党が4議席を獲得する一方、日本維新の会が1議席を獲得した。野党第1党の立憲民主党は、1議席も獲得することができなかった。

この選挙結果をどのようにみるか。まず、勝敗面を客観的に読むと自民・勝利、維新・躍進、立民・敗北と言っていいだろう。

但し、今後の岸田政権の運営や政局の展開を考えると、勝ち方が問題だ。勝利の中身に踏み込んで評価をすれば、”薄氷の勝利”が実態に近いとみている。

焦点の衆議院の解散・総選挙についても、岸田首相は解散カードを手にしているが、高いリスクを伴っていることも顕在化した。候補者の選び方の問題や、無党派層の支持が得られていないことが浮き彫りになった。

一方、野党側では、維新の躍進によって立憲民主党との間で、野党第1党の座を意識した競い合いが激化する見通しだ。その際、次の衆院選では、野党の共倒れをいかに防いでいくのか、野党の選挙戦略も問われることになる。

なぜ、このような見方・読み方をしているか。また、焦点の衆議院解散・総選挙の時期や条件などについてもみていきたい。

 自民4勝議席獲得も、高揚感なし

今回の補欠選挙をめぐって自民党内では当初、保守地盤の選挙区が多いこともあって、5戦全勝説が聞かれるなど楽観視する空気が強かった。

ところが、選挙が近づくにつれて野党側の追い上げが激しくなり、最終盤には、最悪のケースとして2勝3敗説がささやかれるほどだった。選挙結果は4勝1敗、喜んでいいはずだが、高揚感は感じられない。そこで、各選挙区の勝敗のポイントを絞ってみておきたい。

▲衆議院山口4区については、安倍元首相の後継者として、自民党新人の吉田真次氏が、立憲民主党の元参議院議員、有田芳生氏らに大差をつけて、当選を果たした。安倍昭恵さんが全面的に支援し、事実上の「弔い選挙」が強みを発揮した。

▲山口2区は、父親の後を継いで立候補した自民党の岸信千世氏が初当選したが、無所属新人で、立憲民主党有志の支援を受けた元法相の平岡秀夫氏に5700票差まで追い上げられた。「世襲批判」が強く働いたものとみられている。

両選挙区とも投票率が2年前の衆議院選挙に比べて、山口2区が9.2ポイント下回って42.4%、山口4区が13.9ポイント低い34.7%で、いずれも過去最低を記録した。選挙から距離をとった有権者がかなりの数に上ったことがうかがえる。

▲和歌山1区は、日本維新の会の新人、林佑美氏が和歌山県内の小選挙区で初の議席を獲得した。前半戦の奈良県知事選で勝利した勢いに乗って、党の勢力を集中したことが功を奏した。維新は大阪、兵庫以外で衆院小選挙区の議席を獲得したのも初めてだ。

自民党関係者に聞くと「党の候補者に問題がありすぎた」とのべ、地元選出の二階元幹事長と世耕参院幹事長との確執で、強力な候補者を選べなかったことが敗因との見方を示した。

▲千葉5区については、自民党の新人、英里アルフィヤ氏が4900票余りの僅差で、立憲民主党の新人の矢崎堅太郎氏らを振り切って勝利した。野党の立民、国民、維新、共産の各党がそれぞれ候補者を擁立し、候補者乱立となったことが自民の議席獲得につながった。

▲与野党の一騎打ちとなった参議院大分選挙は、自民党新人の白坂亜紀氏が、立憲民主党の吉田忠智氏をわずか241票差で初当選を決めた。この背景には、大票田の大分市の投票率が33%へ大幅に下がったことがある。市長選が無投票になったためだが、無党派層を多く獲得していた吉田氏には誤算だった。

このように自民党は、選挙前より1議席多い4議席を獲得したが、選挙の中身は野党側との接戦が多く、何とか競り勝ったというのが実態だ。

また、前半戦の奈良県知事選では党の組織が分裂して敗北したのに続いて、和歌山でも候補者選びが難航したあげく議席を失った。岸田首相や茂木幹事長ら党の最高首脳部の統率力に問題があったのではないかと指摘する声もくすぶっている。

さらに、自民支持層と並んで大きな集団である無党派層の支持獲得についても、野党側に大きな差をつけられた選挙区が目立った。次の衆議院選挙では、都市部を中心に議席を失いかねないと危惧する見方も聞く。

このように自民党内は、保守地盤の和歌山で維新の進出を許したのをはじめ、選挙態勢づくりなどをめぐっても問題点が浮き彫りになったことから、議席を増やしたものの、勝利したとの高揚感は乏しい。

   維新躍進、立民と野党第1党争い激化

それでは、野党側の対応はどうか。躍進した維新の馬場代表は記者会見で「和歌山で1議席獲得したことは、関西や全国に党勢を広げていく大きな追い風になる」として、次の衆議院選挙ではすべての小選挙区に候補者を擁立したいという考えを示した。

維新は、今回の統一地方選挙で、地方議員の数を1.5倍の600人に増やす目標を立てたが、非改選を含めて774人となり、目標を達成したことを明らかにした。

また、次の衆議院選挙では野党第1党をめざすとともに今後、3回の衆院選挙で政権交代を実現する構想を打ち出している。

このため、今後、立憲民主党と野党第1党をめぐる競い合いが激化するものとみられる。但し、次の衆議院選挙をめぐって、立憲民主党と維新の両党が互いに候補者を出し合うと、共倒れになる事態も予想される。

維新にとっても、候補者調整などを行わないと小選挙区で多数の議席を獲得するのは難しいとみられる。それだけに競合しながら、野党間の選挙態勢づくりをどうするかの調整が大きな課題になるのではないか。

このほか、立憲民主党は、千葉5区など3つの選挙区に公認候補を擁立したが、議席を確保できなかった。今後、党の態勢の立て直しや、執行部の責任を問う動きが表面化することも予想される。

  衆院解散・総選挙をどうみるか?

統一地方選挙と衆参補選が終わったのを受けて、岸田首相は24日「与党・自民党が重要政策だと掲げたものについて、『しっかりやり抜け』と叱咤激励を受けた」として、来月のG7広島サミットや後半国会での重要法案に全力を挙げる考えを強調した。

政界では、岸田首相が通常国会の会期末に衆議院を解散、総選挙に踏み切るかどうかが最大の焦点になっている。

その時期をめぐっては、早期解散の見方がある。一方で、岸田首相自身は強い意欲を持っていても、実際には条件が整わず、秋以降に持ち越すとの見方がある。

例えば、今回の千葉5区のように野党がバラバラだったり、参院大分選挙区のように野党第1党の力量が弱体化したりして、岸田首相が勝てると判断すれば、早期解散を決断する可能性は大いにあるとみることもできる。

しかし、岸田首相が解散に踏み切る大義名分はあるか。また、政権が最重要課題と位置づける異次元の少子化対策について、財源の具体策を示し国民を説得できるのか。

さらには、統一地方選が終わったばかりで、早期解散に慎重な公明党の理解を得て、与党の選挙態勢を整えることはできるのか、乗り越えるハードルは多いのも事実だ。

私は後者の見方だが、政界は一寸先は闇といわれるのも事実だ。私たち国民の側も早期解散に備えて常在戦場、岸田政権が取り組むべき重要課題は何か考えておく必要がある。

そのうえで、岸田政権や与野党に対して、重要課題にどんな方針と具体策で臨むのか、早期に明らかにするよう求めていく必要があると考える。(了)

補選は大接戦続く「岸田政治」が焦点

統一地方選挙後半戦の23日の投票日に合わせて行われる衆参5つの補欠選挙は、いずれも与野党激突の構図になっており、このうち4つの選挙区では、最終盤に入っても大接戦が続いている。

それぞれ個別の選挙区事情を抱えているが、最終的には有権者が、岸田政権の防衛力抜本強化や異次元の少子化対策などの主要政策をどのように評価するかが、勝敗のカギを握っている。

衆参5つの補選の最終盤の情勢と勝敗のポイント、選挙の争点を探ってみる。

 補選4選挙区 大接戦のまま投票日へ

衆参5つの補欠選挙について、与野党の選挙関係者などについて、選挙情勢を取材した。

結論を先に言えば、衆議院山口4区については、自民党の新人がリードしているが、残りの千葉5区、和歌山1区、山口4区、参議院大分選挙区の4つは、与野党が激しくぶつかり、大接戦のまま投開票日を迎えようとしている。

▲まず、千葉5区は、自民党の衆議院議員が「政治とカネ」の問題で辞職したのに伴う選挙だ。立憲民主党の新人で、元千葉県議会議員の矢崎堅太郎氏と、自民党新人で公明党が推薦する元国連職員の英利アルフィヤ氏が激しく競り合っている。

千葉5区は東京に通勤する住民が多い都市型選挙区で、無党派層の動向が勝敗を左右する。「政治とカネの問題」をはじめ、岸田政権が掲げる防衛力増強、異次元の少子化対策などの主要政策にどのような判断を示すかが焦点だ。

一方、野党陣営をみると立憲民主党、日本維新の会、国民民主党、共産党がそれぞれ公認候補を擁立しており、こうした野党乱立が選挙の勝敗にどのように影響するかもポイントになりそうだ。

▲和歌山1区は、自民党の元衆議院議員で、公明党が推薦する元国土交通政務官の門博文氏と、日本維新の会の新人で、元和歌山市議会議員の林佑美氏が激しく戦っている。

今回の補選は、この選挙区で5期連続当選を重ねてきた国民民主党の岸本周平元衆議院議員が知事に転出したのに伴う選挙だ。この選挙区で苦杯を重ねてきた門氏が、保守中道票をどこまでまとめきれるかがポイントだ。

林氏を擁立した維新は、前半戦の奈良県知事選で勝利するなど議席を大幅に増やした勢いを国政につなげていく戦略だ。大阪府の吉村知事や、奈良県の山下知事らを応援に投入、和歌山県で初の衆議院議席の獲得をめざしている。

▲岸信夫元防衛相の辞職に伴う山口2区は、岸氏の長男で、自民党新人の岸信千世氏と、元衆議院議員で民主党政権で法相を務めた無所属の平岡秀夫氏が争っている。

信千世氏は、岸信介元首相のひ孫で、祖父は安倍晋太郎元外相、伯父は安倍晋三元首相の政治一家で育ったことで知られる。分厚い保守地盤に加えて、看板、豊富な資金力を誇るが、「世襲批判」の声も強い。

当初は大差がつくのではないかとの見方もあったが、各種世論調査で平岡氏が激しく追い上げており、「世襲批判」の風がどこまで強まるか注目点だ。

▲安倍元首相の死去に伴う山口4区については、後継として擁立された自民党新人で公明党が推薦する元下関市議会議員の吉田真次氏が、立憲民主党の新人で元参議院議員の有田芳生氏をリードしていると与野党双方ともみている。

▲参議院大分選挙区は、前議員が知事選立候補のため辞職したのに伴う選挙だ。立憲民主党の前議員の吉田忠智氏を、自民党新人で公明党が推薦する飲食店経営の白坂亜紀氏が激しく追い上げている。

吉田氏は、共産党や社民党の推薦を受けており、野党共闘の形を整えて選挙戦に臨んでいる。村山富市元首相の出身県で、野党共闘の歴史を基盤に無党派層でどこまで支持を広げることができるかが課題だ。

白坂氏は東京の銀座などで飲食店を経営しており、公募に応じて立候補した。知名度を上げる一方で、自民党がどこまで組織的なテコ入れをして出遅れを挽回できるかが焦点だ。

このように山口4区を除く4つの選挙区は、いずれも与野党の候補が僅差で激しく競り合っている。選挙前は、自民が3議席、野党が2議席を占めていた。

5つの補選のゆくえは◆自民が競り勝って5戦全勝のケース、◆逆に野党が3勝2敗と勝ち越すケース、◆自民4勝1敗、◆自民3勝2敗の4つのケースが想定される。どのケースで決着がつくのか、今の時点で正確に見通すのは困難だ。

 選挙の争点「岸田政治」をどう評価

それでは、次に補選の争点は何かを考えてみたい。その前に補選の選挙戦に入った15日、岸田首相が選挙応援のため訪れた和歌山市の演説会場に爆発物が投げ入れられて、24歳の男の容疑者が逮捕される事件が起きた。

この事件が補選に影響を及ぼすのかどうかをみておきたい。読売新聞は14日から16日に実施した世論調査で、岸田内閣の支持率が47%へ5ポイント上昇したと報じるとともに、支持率上昇は今回の事件が影響した可能性があるとの見方を示している。

政界でも選挙戦で与党に有利に働くのではないかとの見方がある。但し、読売の調査では、自民党の支持率は上昇せず1ポイント下がっている。

自民党の複数の選挙関係者に聞いてみたが、いずれも「個別の選挙に直接、影響を及ぼすようなことはないのではないか」との見方だった。

その理由としては「有権者は、容疑者の人柄や犯行の動機に関心はあるが、選挙の選択とは分けて考えているのではないか」との見方だった。私も基本的に同じ見方だが、選挙結果が判明した段階で改めて点検してみたい。

さて、選挙の争点は何か。選挙区によって、個別の問題などの違いはあるが、与野党とも今回の補選は、発足からまもなく2年を迎える岸田政権の「中間評価」になると位置づけている。

有権者としても、岸田政権が進めてきた政策の是非を評価、判断する機会になる。具体的には、原油高騰などに伴う物価高対策、賃金の引き上げ、新しい資本主義といった経済政策のかじ取りは適切か。

また、岸田政権が年末に、戦後の安全保障政策の大転換として打ち出した防衛力の抜本強化と防衛増税の是非をどう考えるか。今年に入って重要課題と位置づける異次元の少子化対策の内容と財源確保などへの取り組み姿勢を支持するか。

さらに、岸田首相の政権運営をめぐっては、防衛増税の決定にみられるように与野党や国民の意見を聞いたり、中身を説明したりする姿勢に欠けるのではないかといった声も出されてきた。

有権者は、こうした論点のどれを重視して投票したか、選挙の出口調査などを分析すれば明らかになる。今度の補選は勝敗面だけでなく、有権者が何を重視して選択をするかといった点も注目してみていきたい。岸田政権の政権運営の進め方や評価の物差しになる。(了)