”少数与党政局”内閣不信任案のゆくえ

通常国会の会期末まで、2週間余りを残すだけになった。年金制度改革法案や選択的夫婦別姓制度、さらには「政治とカネの問題」の扱いなどをめぐって、与野党が最後の攻防を繰り広げる見通しだ。

外交面では、トランプ政権の関税措置をめぐる日米閣僚交渉が続いており、赤澤経済再生相が5日ワシントンに向けて出発し、5回目の閣僚交渉が行われる。今月15日からカナダで開催されるG7サミットに合わせて、日米首脳間で一定の合意にこぎ着けられるのか、ヤマ場を迎えている。

こうした中で、最終盤の国会で石破内閣に対する内閣不信任決議案が提出されるのかどうかが最大の焦点になっている。

自民・公明両党が少数与党に転じた中で、内閣不信任決議案が提出されれば、初めてのケースになる。そして、野党が結束すれば可決される可能性がある。可決された場合、石破首相は10日以内に衆院解散・総選挙に踏み切るのか、総辞職するかの選択を迫られる。

先例を見ると不信任案が可決されたのは4回だけで、ハードルは高いと言える。最終盤の国会はどのような展開になるのか、石破内閣に対する不信任決議案をゆくえを展望してみたい。

 ”竹光から真剣へ”悩む野田代表

内閣不信任決議案を提出できる要件は、衆議院で51人以上の議員の賛成が必要なため、野党の中では、第1党の立憲民主党しか提出を決めることができない。

このため、立憲民主党の野田代表は最近の記者会見では、内閣不信任案を出すのか、出さないのか質問攻めにあっているが、「適時、適切に判断する」と”曖昧戦略”を続けている。

野田代表は去年の衆院選挙で、自公両党が過半数割れして以降「少数与党の下での内閣不信任決議案は、これまでとは重みが決定的に違う。会期末だから竹刀を振り回すのではなく、伝家の宝刀・真剣だと思って相手を確実に倒す時に提出する」として、慎重に検討する考えを繰り返してきた。

その足元の党内は、小沢一郎氏が「可決される可能性が出てきた時に出さないというバカな話はない」と政権交代をめざして、提出を強く訴えている。

一方で、立憲民主党内では「国民が物価高騰に苦しみ、トランプ関税という国難にも直面している時に、安易に政治空白をつくっていいのか考えた方がいい」として、不信任案の見送り論も聞かれる。

また、立民内では、日本維新の会や国民民主党が不信任案に賛成するのかどうか見極めないと野党の結束の乱れが露呈して、逆効果になるとして、提出に慎重論も出ている。

このように党内の意見もまとまっていないこともあって、野田代表は「出すべきか、出さざるべきか」悩みを深めているようだ。

他の野党の幹部からは「立憲民主党の本音は、”弱い石破政権”の下で、参院選挙で勝負したいのではないか。不信任案提出をきっかけに石破首相が解散を打って出る可能性もあり、不信任案の提出は避けたいのではないか」との見方をしている。

立憲民主党の幹部は「自民党内には、年金制度改革関連法案をめぐって自公両党と立憲民主党が法案修正で合意したことから、不信任案は提出しないという見方があるが、全く別の話だ。最終的には野田代表が決断する」として、最終判断までには、なお時間がかかるとの見方を示している。

石破首相”解散刀を抜けるか”不透明

石破政権は3月に首相自身の「商品券配付問題」で、支持率低下が続いてきたが、5月に入って備蓄米をめぐる失言で江藤農水相を更迭、小泉進次郎氏を後任に抜擢したのを契機に攻めの姿勢に転じようとしている。

政権の内部からは「立憲民主党が内閣不信任案を提出した場合、採決に至らない段階で、衆院解散・総選挙に踏み切る」との強気の発言も聞かれる。その場合、衆参ダブル選挙の可能性もある。石破首相は、森山幹事長との間で、こうした認識で一致しているとされる。

自民党長老に聞くと「不信任案が出された場合、石破首相は衆院解散に打って出る可能性があるのではないか」との見方をする。その理由としては「参院選挙に向けて野党の対応はバラバラで、与党が過半数を維持できる可能性があること。また、衆院選挙でも前回の『2000万円問題』のようなことを起こさなければ、前回ほどの負けにならない」との判断があるからだという。

こうした一方で、報道各社の世論調査によると石破内閣の支持率は、政権発足以降、最低の水準が続いている。また、自民党の支持率も30%ラインを割り込んで低迷していることから、衆院選挙に打って出るのは困難との見方がある。

また、自民党関係者は「党幹部の多くは、既に参院選後のポスト石破をにらんでさまざまな動きを始めている。石破首相が解散権を行使することを認めるかどうかわからない」との見方をしている。

したがって、仮に内閣不信任案が提出された場合、あるいは可決された場合でも、石破首相が解散・総選挙を断行できるのか、内閣総辞職になるのか不透明な情勢だ。

内閣不信任案可決に高いハードル

ここまで見てきたように内閣不信任案をめぐっては、与野党ともに複雑な事情を抱えており、先行きを見通すのは容易でないことがわかる。そこで、過去はどのような事例があったのか、先例をみておきたい。

これまで内閣不信任決議案が可決されたのは4回で、戦後まもない昭和23年・1948年の第2次吉田内閣と、昭和28年・1953年の第4次吉田内閣にさかのぼる。それに昭和55年・1980年の大平正芳内閣と、平成5年・1993年の宮沢喜一内閣の時だ。過去4回とも、すべて衆院解散・総選挙につながった。

このうち、今の政治体制に近い自民党政権下の2回のケースについてみておくと昭和55年は「大平・福田の40日抗争」を経て党内が分裂状態で、非主流派が議場に入らず、可決された。そして、史上初めて衆参ダブル選挙が行われた。

93年は政治改革をめぐって自民党内が割れ、執行部を批判するグループなどが野党提出の不信任案に賛成して、可決された。選挙後は、非自民の細川連立政権が誕生し、自民党が初めて下野し55年体制に終止符が打たれた。

こうした一方で、不信任案が提出される直前に首相が退陣を決断し、決着がついたケースもある。94年に非自民の細川連立内閣を引き継いだ羽田孜内閣だ。

連立与党内の対立から少数与党政権として発足した羽田内閣に対し、当時野党の自民党は不信任案を提出する方針を固め、可決は必至とみられていた。羽田首相は解散・総選挙で打開を図る道もあったが、小選挙区制の施行を前に中選挙区での衆院選の断行は政治改革の精神に反するとして、総辞職を選んだ。

内閣不信任決議案は毎年のように野党が提出してきたが、可決にまで至ったのは、ここまで見てきたように極めて少ないことがわかる。それだけ、可決に至るまでのハードルは高いと言えそうだ。

また、可決されたケースでは、いずれも自民党内が意見の対立で、亀裂が入った点が共通している。今回の石破政権の場合、党内抗争で分裂状態に陥っているわけではないが、比較第1党で最も勢力が大きいだけに、党内の結束力が問われることは間違いない。少数与党という政治状況は、羽田内閣の時と共通点がある。

今回は少数与党だけに、逆に野党の側が不信任案の提出と可決に向けて、足並みをそろえて結束できるのかどうかが試される。この通常国会では、日本維新の会や国民民主党は、与党側と政策協議を続ける一方、立憲民主党とは一線を画すことが多かっただけに最後まで足並みがそろうかどうかが焦点になる。

政権構想を示し、進路がわかる政治を

それでは国民として、今回のケースをどのように見たらいいのだろうか。野党が政権交代をめざして内閣不信任案を提出することは、政治に緊張感をもたらし、新たな選択肢を示すという点で評価できる。

但し、その場合、単に不信任案の取り扱いで共同行動を取るだけでなく、野党第1党が中心になってどのような政権をめざしていくのか、与党との違い・対立軸を示してもらいたい。

一方、石破政権と与党側については、先送りや停滞が目立つこれまでの政権運営をどのように総括し、今後の政権の枠組みをどうするのかといった基本方針を明らかにする必要がある。

内外ともに激動期を迎えているだけに、どのような日本社会をめざすのか、政権与党と野党側がそれぞれの構想を提示し、徹底して議論を深めていく取り組みを強く求めておきたい。与野党の駆け引きに終わらせず、日本社会の進路と道筋がわかる政治に変えていく必要がある。(了)

★追記(7日21時)◆石破首相は6日夜、首相公邸で自民党の森山幹事長と会談した。野党側が検討している内閣不信任決議案や参議院選挙情勢などについて、意見をかわしたものとみられる。                                 ◆立憲民主党の野田代表は6日の記者会見で、内閣不信任決議案について「事前に他の野党と話をしたうえで、提出するかどうか総合的に判断したい」とのべた。他の野党に共同提案の意思があるかどうかを確認したいとの考えを示した。                                ◆日本維新の会の前原共同代表は7日、「提出理由も含めて精査して総合的に判断していく」とのべた。国民民主党の玉木代表も「まずは立憲民主党の考えを伺いたい」とのべた。維新と国民民主党は、それぞれ第3極として独自の路線をとっており、共同提案に応じるかは不透明だ。

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”コメの価格は下がるか”参院選の焦点へ

コメの価格高騰が続く中で、江藤前農水相が「コメは買ったことがない」などの失言で、今月21日に更迭された。後任に抜擢された小泉進次郎農水相は23日、「売り渡しを随意契約に変え、備蓄米の店頭価格を5キロ2000円に抑える」と明言したことから、メデイアや国会で大きく取り上げられ、コメ問題が社会の大きな関心を集めている。

その随意契約による備蓄米は29日午前、大手の小売業者へ運び込みが始まった。このうち、仙台市に本社のある大手生活用品メーカー、アイリスオーヤマでは関連会社で精米や袋詰めを行った後、6月2日から5キロ入り税込み2160円で店舗で販売する。

また、この会社では午後1時から自社のネット通販サイトで、予約の受付を始めたが、開始から45分で予定していた数量が完売した。

楽天グループも29日正午からネット通販サイトで販売を始めたが、開始後まもなく売り切れたほか、予約の受け付けも午後2時過ぎに上限に達したため、終了したという。

一方、農水省は2021年産米の10万トンについては、大手の小売り販売業者ではなく、中小のスーパーやコメ販売業者を対象に売り渡す方針で、30日から購入申し込みの受け付けを始める予定だ。

このように石破政権は、備蓄米の売り渡しをこれまでの競争入札から随意契約に切り替え、市場価格に政府が積極的に介入する方法に転換した。今回の方法はうまく機能するのか、どのような課題や問題点を抱えているのか点検してみたい。

 備蓄米、低価格で広く行き渡るか

まず、備蓄米の放出方法を随意契約に切り替えたことについて、小泉農水相は26日、「これまでと同じやり方では、国民の期待に応えられないと考えた。国が定めた定価で毎日、売り渡し、早ければ6月上旬に店頭に並べることができる」とのべ、政治決断だったことを強調した。

江藤農水相は競争入札で3回放出したが、備蓄米が消費者の元にほとんど届かなかったこともあって、与野党の間では今のところ随意契約への異論は少ない。問題は、税抜きで2000円程度の価格で、希望する国民に幅広く行き届くかどうかではないか。

小泉農水相は、今回の30万トンで効果が出ない場合は、さらに30万トンを追加して放出する考えだ。日本のコメの消費量は670万トンとされ、30万トンの放出量はその4.5%程度に過ぎない。

このため、国民の多くが購入を希望した場合、低価格は維持されても国民の幅広い需要に応えることができるのか、分量の不足を危ぶむ声も聞かれる。

また、これまでの国会の質疑では備蓄米のほとんどを放出した場合、大地震や災害など本来の緊急事態に必要なコメの確保をどうするのか。アメリカなど海外からのコメ輸入に踏み切るのかといったさまざまな問題点の指摘も出されている。

コメ全体の価格引き下げにつながるか

国民の多くの希望は、低価格の備蓄米は歓迎するが、これまで食べていた銘柄米の価格をもう少し引き下げてもらいたいということではないか。

農水省の調査でも現在、コメの平均価格は5キロあたり4200円台だ。去年の春と比べると2倍以上も値上がりしているのは異常だと言わざるを得ない。

また、コメの大幅な価格高騰がなぜ起きているのかについて、石破首相や農水省の説明を聞いてもよくわからない。農水省はコメの生産量は去年より増えており、流通に目詰まりが起きているのではないかなどと指摘するが、原因を特定するまでには至っていない。

一方、コメの適正価格については、農家がコメの生産を続けるのに必要な価格を設定する必要がある。そうした要素を考慮するにしても、主食のコメの価格が1年で2倍以上も上昇するのは異常と言わざるをえない。

コメの専門家によると、コメの価格は入札や流通コストをかけているので、備蓄米が出回ってもコメ全体の価格が低下するのは難しいと指摘する。

そのうえで、今後のコメの価格の見通しとしては(5キロあたり)、「◆2000円から1800円程度の備蓄米、◆売り渡し済みの備蓄米と銘柄米の3000円程度のブレンド米、◆4000円台の銘柄米といった三極化する可能性が大きい。備蓄米の流通によって、4000円台のコメの価格が下がっていくかは未知数だ」との見方をする。

低価格の備蓄米の放出で、コメの価格高騰に歯止めをかけながら、コメ全体の価格の引き下げにつながる対応策を打ち出せるのかが問われているのではないか。

コメ問題と農政改革、参院選の焦点へ

今回のコメ問題は、日本の農業政策をどのように改革していくかという問題と深くつながっている。28日に開かれた衆議院農林水産委員会では、立憲民主党の野田代表、国民民主党の玉木代表、日本維新の会の前原代表がそろって質問に立つという異例の展開になり、小泉農水相と議論を交わした。

この中で、備蓄米をめぐってさまざまな問題が取り上げられたが、問題の中心はコメをはじめとする農政改革だった。

野党3党の代表に共通しているのは、戦後長期にわたって続けてきた減反政策はコメの縮小再生産をもたらしているとして、コメの増産転換し、価格が下がった場合は、農家の所得保障を行うべきだという点だった。

自民党の農政族と農水省は、事実上の減反政策が現実的な対対応策だとして、この政策を維持すべきだとしている。一方、石破首相は増産政策にカジを切るべきだとの立場を取っており、小泉農水相も一定の理解を示している。

このため、石破政権の下で、政府・自民党がどのような農業政策をめざしていくのか。また、今回の米問題を受けて与野党がどのような対応策を打ち出すのか、大きな論点になる可能性がある。

また、夏の参議院選挙では、勝敗のカギを握っているのが全国で32ある1人区の攻防だ。この1人区の多くが農業県だけに、農政改革は選挙の大きな争点になる。参議院選挙に先だって行われる東京都議選でも、コメの価格高騰対策と関連して、農業政策が焦点になる見通しだ。

以上、みてきたように私たち国民もコメの価格の問題だけでなく、コメの生産と価格を安定させるために農業政策をどのように変えていくか、投票にあたっての判断材料に加えていく必要がある。夏の参院選に向けて、コメと農業をめぐる論争にも耳を傾けていきたい。(了)

★追記(5月31日15時)◆政府が随意契約で売り渡す備蓄米について、大手小売業者への引き渡しが29日午前から始まった。◆随意契約で大手小売り業者に引き渡された政府備蓄米は、一部の小売店の店舗で31日から、店頭での販売が始まった。大手スーパー「イトーヨーカ堂」の東京・大田区の店舗では、5キロ税込み2160円で、ひと家族1点の購入制限が設けられたが、500袋は開店から30分で売り切れた。

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終盤国会”懸案集中、与野党攻防激化へ”

長丁場の通常国会は来月22日が会期末で、残り会期は1か月余りを残すだけとなった。会期延長がない場合は、7月3日公示・20日投開票の参議院選挙に突入することになる。

この終盤国会は、年金制度改革や選択的夫婦別姓制度などの重要法案の審議が残っているのをはじめ、トランプ政権の関税措置をめぐる3回目の日米交渉が今月下旬に行われる見通しで、交渉の行方や評価も大きな論点になりそうだ。

また、物価高騰対策としての消費税減税をめぐって、与野党の議論が続いているほか、会期末に石破内閣に対する不信任決議案をめぐって与野党の駆け引きが激しさを増す見通しだ。

このように終盤国会は、内外の懸案や課題が短い期間に集中することになりそうだ。国民にとって、国会での論戦や攻防は参院選での投票に当たって有力な判断材料になる。そこで、終盤国会が抱えている問題を整理するとともに、石破政権や与野党がどのように対応しようとしているのか点検しておきたい。

重要法案・懸案山積、結論を出せるか

さっそく、今の通常国会の重要法案からみていきたい。まず、サイバー攻撃を未然に防ぐための「能動的サイバー防御」導入法案は、16日の参院本会議で自民、公明両党と立憲民主党、日本維新の会、国民民主党などの賛成多数で可決、成立した。

また、公立学校教員の残業代の代わりに基本給を上乗せして支給することなどを盛り込んだ「改正教員給与特別措置法」も15日の衆院本会議で賛成多数で可決された。参院での審議を経て、今国会で成立する見通しだ。

一方、政府・自民党内で調整が難航していた年金制度改革関連法案は16日にようやく国会に提出され、20日から衆院で審議入りする見通しだ。法案にはパートなどで働く人が厚生年金に加入しやすくなるように要件が緩和されている。

一方で、厚生年金の積立金を活用して基礎年金の底上げする措置は、自民党内に参院選挙への影響を懸念し慎重論が根強かったことなどから、法案に盛り込まれなかった。

これに対し、野党側は「法案の最も肝の部分が抜け落ちている」と批判している。そして、基礎年金を底上げする措置を見送れば「就職氷河期世代」の将来の年金が十分確保できなくなるとして、法案の修正を求めていく方針だ。

選択的夫婦別姓制度をめぐっては、立憲民主党が先月末に制度を導入するため、民法の改正案を国会に提出した。夫婦が同姓か別姓かを選べるようにしたうえで、別姓を選んだ場合、子どもの姓をどちらにするかは結婚する時に決めるとした内容だ。

これに関連して、同じく導入をめざす国民民主党は、立憲民主党とは別の法案を提出する方針だ。日本維新の会は、別姓ではなく、戸籍に旧姓を記載するなど結婚後も旧姓を通称使用できる内容の法案を提出することにしている。

自民党は、制度の導入に賛成の議員と慎重な議員とで隔たりがあり、今も議論が続いている。このように与野党の意見が分かれていることから、今の国会でどこまで審議が進むか、不透明な情勢だ。

懸案の企業・団体献金の問題をめぐっては、期限としていた3月末も与野党の意見がまとまらず、再び先送りしたが、その後も議論は進んでいない。また、石破首相が自民党の1回生議員に10万円相当の商品券を配付していた問題で、政治倫理審査会で弁明する扱いも先送りになったままだ。

自民党派閥の裏金問題で、安倍派幹部の下村元政務調査会長が参考人招致に応じる意向を示したことから、野党側は15日の衆院予算委員会の理事会で、自民党も賛成するよう求めたが、自民党は反対する姿勢を示し、引き続き協議することになった。

このように終盤国会は多くの重要法案や懸案が山積している状態で、このままではかなりの法案などが先送りになりかねない。まずは、政権与党がリーダーシップを発揮して事態の打開策を提案し、野党側も柔軟に応じるなどして、一定の結論を出してもらいたい。

 次回関税交渉、協議の対象範囲が焦点

次に当面の重要な政治課題であると同時に、参院選挙でも大きな焦点になりそうなのが、トランプ政権の関税の引き上げと、物価高対策としての消費税の税率引き下げの問題だ。

トランプ政権の関税措置をめぐっては、18日からの週に日米の事務レベルの協議に続いて、週の後半に赤澤経済再生相が訪米し3回目の閣僚交渉が行われる見通しだ。

トランプ政権はイギリスとの合意に続いて、中国との間でも双方が追加関税を110%引き下げ、米側は30%、中国側は10%とすることで合意した。そして、一部の関税に90日間の停止期間を設け、協議を続けることになった。

次回の閣僚協議はどのような展開になるだろうか。日本側は自動車を含む全ての関税措置を撤廃するよう強く求めているのに対し、米側は協議の対象は追加関税の上乗せ部分で、自動車などの品目別関税は協議の対象外として、双方が対立している。

このため、次回協議では、自動車の扱いを含め協議の対象範囲で一致できるかどうかが焦点になる。また、交渉妥結の時期がどうなるか、6月のG7サミットに合わせて決着をめざすのか、長期戦もやむなしとなるのかも注目される。

さらに、日本としては関税措置の見直しを図るために、アメリカ製自動車や農産物の輸入拡大などにどこまで踏み込むのか判断を迫られる。こうした一連の対応は、終盤国会や参院選でも大きな論点になる見通しだ。

消費税減税の是非、論点深掘りできるか

終盤国会ではもう一つ、物価高対策として消費税減税の是非をめぐって、与野党の議論が活発に行われる見通しだ。

立憲民主党の野田代表はこれまで消費税減税に慎重な立場をとってきたが、この方針を転換し、食料品の消費税率を原則1年間に限ってゼロ%に引き下げるとともに当面の物価高対策として、国民1人あたり2万円程度の現金給付を行う案を16日に発表した。

これに対し、石破首相や自民党執行部は、消費税の税収が社会保障や地方財政を支える財源になっているとして、消費税は引き下げない方針だ。そして、夏の参院選では、財政や社会保障の安定に責任を持つ「責任政党」としての役割をアピールしていく構えだ。

但し、自民党内は選挙を控えた参議院議員の8割は消費税減税を行うべきとの考えだとされ、当面、党内の議論を続けることにしている。

連立与党の公明党も消費税減税を求める声が強く、参議院選挙に向けた与党の経済対策のとりまとめは難航することも予想される。

自民、公明両党は当初、現金給付を打ち出す方針を示したが、世論調査で”バラマキ政策”だとして批判が強く、見送った経緯がある。与党側にとっては、消費税減税に代わる有効な経済対策を見いだせていないのが悩みだ。

一方、野党側は、既に維新、国民民主、共産、れいわの各党などが、いずれも税率引き下げや廃止を主張しており、立憲民主党と合わせて野党側は消費税減税で足並みがそろったことになる。

但し、野党側の消費税減税の内容や税率、実施期間などはさまざまだ。また、財源についても国債発行に頼らず、新たな財源を明らかにする政党がある一方で、赤字国債発行を容認する政党とに分かれている。

こうした各党の主張を国民はどのようにみているか。NHKが今月9日から3日間行った世論調査では、◇「今の税率を維持すべきだ」は36%、◇「税率を引き下げるべき」は38%、◇「消費税は廃止すべき」は18%となっている。

つまり、「消費税の廃止論」は2割近くに止まり、「消費税率は下げない維持派」が4割、「税率引き下げ派」も4割で、真っ二つに分かれている。消費税減税をめぐる議論は政党、国民の間でもまだ十分に尽くされておらず、景気対策、社会保障との関係、財源などさまざまな角度から掘り下げた議論が必要だということを示しているのではないか。

懸案の処理と将来社会の構想の提示を

終盤国会は、19日に参議院予算委員会で内外の重要課題について集中審議が行われるのをはじめ、20日に年金制度改革法案が衆院で審議入りする。21日には今国会で2回目の党首討論が行われるなど与野党の論戦が本格化する見通しだ。

そして、これまでみてきたように終盤国会では、懸案の「政治とカネ」の問題、選択的夫婦別姓制度、年金制度改革法案などについて議論を深め、可能な限り結論を出すことが必要だ。一方、結論がまとまらない場合、その理由や今後の取り組みの道筋を示すことも重要だ。

加えて、この国会は、トランプ政権による関税措置への対応や、物価高対策としての消費税減税が大きな論点になっている。こうした課題は、日本が国際社会でどのような役割を果たしていくのか、将来の日本社会や経済のあり方とも直結する。

それだけに政権与党と野党は、それぞれ外交・内政の中期的な構想も示して論争を深めてもらいたい。そのうえで、私たち有権者はそうした構想や対応などを踏まえて、夏の参院選挙で1票を投じたい。激動期に対応できる政治の選択の仕方も模索していく必要がある。(了)

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終盤国会から参院決戦へ”与野党攻防のカギは”

長丁場の通常国会も来月22日の会期末まで、残り1か月半を切った。終盤国会では12日と19日に衆参両院の予算委員会で集中審議が行われ、石破首相と野党側が議論を交わすのをはじめ、重要法案や懸案の「政治とカネの問題」などをめぐって与野党の攻防が本格化する。

一方、トランプ政権の関税措置をめぐる日米の閣僚協議は今月中旬以降、集中的な協議が行われる見通しだ。トランプ政権は8日、関税交渉でイギリスとの間で初めての合意に達したが、日米間の交渉は前進がみられるのかどうかが焦点だ。

来月13日には東京都議選が告示され、22日の投開票日に向けて各党は国政選挙並みの態勢で選挙戦に入る。さらに通常国会が予定通りの日程で閉会すれば、7月の参院決戦へと突入する。

このようにこの夏は、少数与党の中で終盤国会の与野党攻防と日米関税交渉が同時並行で進行し、さらに都議選、参院選の政治決戦へと続くことになる。これからの政治はどのような点がポイントになるのか、探ってみたい。

 関税交渉、米側方針に変化はあるか

まず、これからの政治に大きな影響を与えるのは、トランプ政権の関税措置をめぐる動きだろう。アメリカとイギリス両政府は8日、◇イギリスで生産された自動車については、年間10万台までは関税を10%に引き下げるとともに◇鉄鋼製品とアルミニウムは、関税を0%に引き下げることで合意した。

これとは別に、アメリカが多くの品目に一律10%の関税を課している措置については、イギリスに対しても維持する。トランプ政権は、日本を含む各国と関税交渉を行っているが、合意に達したのは今回のイギリスが初めてだ。

日本は先のアメリカ側との交渉で、5月中旬以降に閣僚交渉を集中的に実施するため、日程調整を進めることで合意している。これまでの交渉で日本側は、一連の関税措置の見直しを強く求めたが、アメリカ側は「日本だけ特別扱いはできない」と相互関税の上乗せ措置以外の協議には応じない考えを示した。

今回の米英両国の合意で、イギリスについては自動車、鉄鋼、アルミニウムについて関税引き下げに応じた一方で、一律10%の関税措置は譲歩しなかった。

イギリスと日本では置かれた状況や条件が異なるが、次の日米交渉ではアメリカ側は、日本の関税の見直し要求にイギリスと同様に引き下げに応じるのかどうか、応じる場合はその範囲や幅についてどのような考えを示すのか注目される。

一方、日本側は、アメリカ製自動車などの輸入認証制度を緩和する措置をはじめ、大豆やトウモロコシの輸入拡大、LNG・液化天然ガスの開発や輸入拡大策などについて突っ込んだ説明をするものとみられる。

こうした次回の日米交渉で、アメリカ側がこれまでの方針を変更し交渉の前進が図られるかどうかが焦点になる。

また、来月15日からカナダでG7サミットが開催されるのに合わせて日米首脳会談を行い、一定の合意発表へとつながるのかどうかも注目される。

少数与党で支持率が低迷している石破政権にとっては、参院選挙で与党が過半数を維持できるか、政権の命運がかかっている。このため、関税措置を回避する合意が達成できれば、政権の浮揚につながる可能性がある。

逆に交渉が妥結せず、関税措置の見直しができなかったり、日本側が譲歩を重ねたりした場合は、参院選に強い逆風になるだけに今後の交渉のゆくえから目が離せない。

終盤国会、消費減税と財源が論点に浮上

次に終盤国会では、物価高対策に関連して消費減税が大きな論点になる見通しだ。立憲民主党は、食料品の消費税率を1年間ゼロ%にすることを参院選の公約に盛り込む方針を決めた。消費減税は、既に日本維新の会や国民民主党が先行して方針を決めており、野党側の足並みがそろったことになる。

与党側でも参院自民党や公明党からも消費減税を求める声が上がっている。石破首相は消費減税に一定の理解を示す発言もあったが、石破首相と森山幹事長ら自民党執行部は、消費減税に踏み切る場合、必要な財源確保が困難で、社会保障にも影響が出るとして、消費減税を見送る方向で調整を進める方針だ。

こうした物価高対策と消費税減税の扱い、それに消費税に踏み切る場合の財源と社会保障への影響をどう考えるか、終盤国会と参議院選挙での論戦の大きなテーマになる見通しだ。

 多様な論点、参院選に向け方針提示を

終盤国会では、5年に一度の年金財政検証に合わせた年金制度改革関連法案の提出が自民党内の調整が難航し遅れているが、近くようやく提出される見通しだ。

また、懸案の選択的夫婦別姓制度については、立憲民主党が先月末に法案を提出したが、日本維新の会が通称使用を拡大する法案や、国民民主党も別の法案を提出する方針で、野党の足並みに乱れが出ている。

一方、懸案の「政治とカネの問題」をめぐっては、企業・団体献金の見直しについて、3月末に結論を先送りして以降、与野党の議論が全く進んでいない。

自民党派閥の裏金問題では、旧安倍派の下村元政務調査会長の参考人招致の扱いをめぐって与野党の意見が対立している。また、石破首相が10万円の商品券を配付していた問題について、政治倫理審査会で弁明する問題も先送りのままだ。

さらに会期末には、石破首相に対する内閣不信任決議案を提出する問題も浮上する見通しだ。少数与党政権なので、野党側がまとまって賛成すれば不信任案は可決され、内閣総辞職か衆院解散・総選挙という波乱につながる可能性もある。

このように今の国会は多くの法案や懸案、内外の課題・論点が次々に押し寄せているが、「熟慮の国会」どころか十分な議論が行われず、法案の扱いもはっきりしない状態が続いている。

このため、国会閉会後に行われる参院選挙では、先送りの案件が多数にのぼり、何を基準に判断をすればいいのか、有権者は戸惑うことになる。まずは、重要法案や主要な論点について与野党は議論を尽くして、一定の結論を出せるよう最大限努力すべきだ。

そのうえで、調整ができなかった問題はその理由と今後の対応策について、政権与党と野党側がそれぞれ見解を表明し、国民に判断材料を示してもらいたい。

ここまでみてきたように終盤国会での重要法案の扱いや与野党の論戦、それにトランプ関税をめぐる日米交渉など内外ともに激しい動きが続く見通しだ。去年の衆院選に続いて、参院選挙はどのようになっるだろうか。

最終的に大きなカギを握るのは、国民がどのようなテーマ・論点を重視するか、その選択によって夏の参議院決戦の結果は大きく左右される予感がする。(了)

 

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日米関税交渉”6月合意を模索か”石破政権

トランプ政権の関税措置をめぐり、訪米中の赤澤経済再生相とベッセント財務長官ら米側閣僚との2回目の交渉が2日行われ、次回の交渉を5月中旬以降に集中的に実施するため、日程調整を進めることで一致した。

交渉を終えた赤澤経済再生相は「非常に突っ込んだ話ができた。可能な限り早期に、日米双方の利益となるような合意をめざして前進することができた」と語った。政府関係者も「閣僚交渉が集中的に行われる見通しとなり、一定の進展があったということではないか」との見方を示している。

今回の2回目の交渉ではどこまで協議が進んだのか、また日米両首脳の合意の時期の見通しはどうなるのか、今後のゆくえを探ってみたい。

 貿易拡大策など協議、安保は切り離し

まず、今回2回目の閣僚交渉で明らかになった点と、はっきりしない点について、交渉終了後に行われた赤澤経済再生担当相の記者会見を基に整理しておきたい。

明らかになった点としては◆日本側は米側の関税措置は極めて遺憾であり、初回交渉に続いて、見直しを強く求めたこと。そのうえで、今回は貿易の拡大、非関税措置、それに経済安全保障面での協力の3つの柱で議論を行ったとしている。

◆為替と安全保障の問題については、今回は全く議論していない。「安全保障は貿易・関税とは違う」とのべて、為替や安全保障の問題は切り離すとの認識を示した。これは交渉分野を限定することになり、日本側にとって望ましい形と言える。

一方、はっきりしない点としては◆交渉の具体的な内容だ。赤澤経済再生相は「交渉の詳細については触れない」と何回も繰り返し、内容の説明は一切避けた。

ただ、◆交渉は「パッケージで成立するもの」とのべ、日本側は自動車などの関税措置の除外を主張したこと。アメリカ側との間で、自動車や農産物などの輸入拡大などについて意見を交わしたことなどを認めた。

今回の交渉では、交渉の具体的な分野や範囲を絞ることができるかどうかが焦点の一つになっていた。赤澤経済再生相は、為替や安保は切り離したうえで「突っ込んだ話ができた」などとのべていたことから、日米双方がそれぞれの関心分野を中心に時間をかけて協議を行ったものとみられる。

 6月合意”そうなればいい”と赤澤氏

今回の日米交渉ではもう一つ、「交渉のペースと合意の時期」について、日米がどのような見方をしているのかも注目された。

赤澤経済再生相は、同行記者団から「5月中旬以降に閣僚交渉を集中的に行う意味」を質問されたのに対し「首脳レベルに上げる前に、閣僚が協議の頻度をあげ、根を詰めることもある」との考え方を示した。

また、記者団から「6月に首脳間で合意することはあるのか」と質されたのに対し「わからないが、そういう段階に入れればいいと思っている」とのべ、5月の閣僚協議を集中的に行ったうえで、日米首脳の合意につながることへの期待を示した。

各国との関税交渉めぐって、トランプ大統領は直前に「彼ら(日本、韓国など)ほど交渉を急いでおらず、有利な立場にいる」とけん制していたが、日米双方から「トランプ関税で株価が下がり、世論の支持率も低下していることから、焦っているのはトランプ大統領ではないか」といった見方が示されている。

一方、自民党の閣僚経験者などから「6月のG7サミットの際か、その前に日米首脳会談を行い、決着を図ろうとするのではないか」との見方はかねてから出されてきた。5月中旬以降、集中的に協議を行うと合意したことは、こうした見方がさらに強まる可能性がある。

石破首相は、赤澤経済再生相から電話で報告を受けた後、記者団に対し「時期について言及すべきとは思わない。早いに越したことはないが、早いことを優先するあまり国益を損なってはならない」と踏み込むのを避けた。

今後の政治日程を考えると6月22日が通常国会の会期末で、会期延長がなければ、参議院選挙は7月3日公示、20日投票となる。アメリカの関税措置90日間の期限は7月9日で、選挙戦まっただ中にあたる。

こうした日程や赤澤経済再生相の発言、自民党幹部の見方などを合わせて判断すると、石破政権は参院選挙前の6月合意を視野に交渉を本格化させるのではないかとみている。

 交渉内容、国内外から厳しい評価も

それでは、これからの日米関税交渉の内容や進め方、留意すべき点としてはどのような点があるのだろうか。

日本としては、幅広い品目に課税される「相互関税」の上乗せ分の撤回だけでなく、品目別の課税対象になっている自動車、鉄鋼などへの25%追加関税、さらに一律10%の相互関税について、撤廃などの見直しを強く求めていくのが基本だと考える。

これに対してアメリカ側は、特にトランプ大統領が貿易赤字の解消を強く主張していることから、自動車や農産品の輸入拡大などを迫ってくるものとみられる。

日本側としても、自動車などの関税措置の撤回のためには一定の譲歩は避けられないとして、首相官邸に設置されている各省庁の専門家チームなどで検討を進めている。

これまでのところ◇アメリカが強く求めている非関税措置の改善策として、輸入自動車の認証制度を緩和する措置のほか、◇農産物のうち、大豆やトウモロコシの輸入拡大、◇LNG・液化天然ガスの開発や輸入拡大、◇造船分野の支援などを検討している。

◇農産物については、コメのミニマムアクセス(最低輸入量)の枠内で、米国からの輸入を増やすことを検討する案も出ているが、与党内の反発もあり、結論は出ていない。

仮に日米両国が合意した場合、関税措置の撤回や引き下げと、日本側の譲歩案の両方について、日本の国益を守ることができたのかどうか、最終的には国民の理解と支持が得られるかどうかがカギになる。それだけに特に合意の内容が十分かどうか、国民の厳しい評価を受けることもありうる。

また、トランプ政権の関税措置をめぐっては「アメリカ第1主義」の下、余りにも一方的に高い関税をかけることに世界各国から強い反発が起きている。このため、交渉で先行する日本が公正で自由な貿易体制を推進していく立場を貫いているのかどうか、各国の評価に耐えうる内容かが問われることになる。

トランプ政権の関税政策をめぐっては、米国内でも物価高騰や経済の減速を招く恐れがあるとして、世論や経済界からも批判が広がっている。関税引き上げの応酬を続けてきた米中間でも近く話合いが始まるとの見方が出ている。

日本としても自国の産業や経済を守りながら、世界や米国内の動向も踏まえて、米国の一方的な関税措置を軌道修正させていく取り組みが求められている。

そのためには首相官邸が中心になって、各省庁の貿易・経済協議の経験を活用するとともに民間企業、与野党の意見も取り入れて総合的な戦略を練り上げ、したたかな外交交渉を展開できるかどうかが問われている。5月中旬からの日米交渉は、石破政権や夏の参議院選挙のゆくえを左右することになるだろう。(了)

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トランプ関税交渉と終盤国会のゆくえ

トランプ政権の関税措置をめぐり、赤澤経済再生担当相が月末に訪米し、2回目の日米閣僚交渉が行われる見通しだ。この協議で、日米交渉を軌道に乗せる糸口を見いだせるかどうか、重要な局面を迎えている。

一方、国内では通常国会の会期末まで残り2か月を切ったが、石破政権や与野党ともにトランプ関税の大波に飲み込まれ、トランプ関税以外の懸案に手がつかない状況に陥っている。

今月末からの大型連休が明けると、各党が国政選挙並みの態勢で臨む東京都議会議員選挙が6月に、参議院選挙が7月に相次いで行われる。石破政権と与野党は、トランプ政権の関税措置交渉や終盤国会にどのような対応が求められているのか考えてみたい。

 トランプ関税、交渉分野は固まるか

まず、トランプ大統領が打ち出した関税措置をめぐる日米交渉からみていきたい。日本時間の今月17日に行われた初めての日米交渉は、冒頭にトランプ大統領が赤澤経済再生相と会談するという異例の形で始まった。そして続いて行われた閣僚協議を含め、日米双方は可能な限り早期に合意をめざすことで一致した。

これを受けて日本政府は、赤澤経済再生相が今月30日から3日間の日程でワシントンを訪れ、ベッセント財務長官らと2回目の閣僚交渉を行いたい考えで調整を進めている。米側と調整がつけば閣僚交渉は、日本時間の5月1日に行われる見通しだ。

日本としては、対米輸出額で最も多い自動車や鉄鋼などの追加関税と、幅広い製品に課税される「相互関税」の見直しについて、引き続き強く求めていく方針だ。

これに対して、アメリカ側は初回の会合で「日本だけ特別扱いをすることはできない」として、否定的な認識を示しているという。

赤澤経済再生相は24日、記者団に「英語で言うと『スコーピング』、私は『交渉の土俵』と呼んでいるが、何を重点に話合うのか、優先順位を含めて話し合い、2回目の交渉でおおよそ決めたい」とのべた。

日本政府関係者によると、トランプ大統領の最大の関心事項は、貿易赤字の問題とされる。また、アメリカ製自動車や、コメなど農産物の輸入拡大、在日米軍の駐留経費の問題にも関心を持っていると受け止めている。

石破首相は国会答弁などで「安全保障は、貿易とは違う分野の話だ。為替は加藤財務大臣とベッセント財務長官の間で話合いが行われる」として、安全保障や為替の問題は、関税交渉とは切り分けて議論したいという考えを示している。

他方で、アメリカ車の輸入拡大に向けては「非関税障壁」や、コメを含む農産物の輸入拡大に向けては柔軟に対応することを検討しているとされる。

赤澤経済再生相としては、以上のような立場に立ってアメリカ側と突っ込んだ意見を交わし交渉範囲を固めたい考えだ。

もう1つ、次回の交渉で注目される点は、協議のスピードと交渉妥結の目安になる時期だ。

米側は早期の合意をめざしているとされ、トランプ大統領は17日、記者団に日本を含む主要国との合意の見通しについて「今後、3~4週間だろう」と語った。仮に4週間とすると5月中旬頃が目安になる。

これに対して、日本側は「日本が対米交渉の先頭にいる立場を活かすべきだ」と早期の妥結をめざすべきだという意見と、「アメリカ側の立場は揺れている」として焦らずに時間をかけた方がいいとの意見があり、対応は定まっていないとされる。

トランプ大統領は自信満々に相互関税を発動したが、米国債が急落すると一転して相互関税の上乗せ部分の停止に踏み切った。

また、アメリカの有力紙・ウオール・ストリートジャーナルが「トランプ政権が中国との貿易摩擦を緩和するため、関税率の大幅な引き下げを検討している」と報じるなど大統領の足元がぐらついているようにみえる。

こうした情勢を踏まえて、石破政権はどのような姿勢で交渉に臨むのか、次回の協議の結果が注目される。

米側は「相互関税」の停止期間を90日間として、各国との交渉期間に位置づけているが、90日後は7月9日。日本では今の政治日程では参議院決戦の真っ最中に当たるだけに、国内政治に大きな影響を及ぼす。

年金制度、夫婦別姓など懸案対応は

国内に目を転じると長丁場の通常国会も6月22日の会期末まで、2か月を切った。政府・与党は関税措置への対応に追われ、重要法案への対応が後手に回っている。

通常国会の重要法案の1つである年金制度改革関連法案をめぐっては、政府・自民党内で内容など調整が進まず、国会への提出が大幅に遅れている。

これに対し、立憲民主党は「遅くとも来月13日には提出し、審議入りしなければ今の国会での成立が難しくなる」として、提出のメドが明らかにならない場合は、福岡厚生労働大臣に対する不信任決議案の提出を検討するとけん制している。

また、懸案の企業・団体献金の扱いをめぐっては、3月末までに与野党で結論を出すことにしていたが、先送りになったままだ。政治資金を監視する第三者機関を設置する動きも進展していない。自民党旧安倍派の裏金問題の実態解明や、石破首相の商品券配付問題についての政倫審での説明も先送りになっている。

終盤国会では、懸案の選択的夫婦別姓の法案が立憲民主党から提出される見通しだ。自民党は党内の意見が分かれていることもあって、この問題への取り組みの動きは鈍い。

こうした懸案や重要法案は、夏の参議院選挙の論戦でも争点になる。それだけに国会で与野党が議論を深めておかないと有権者に判断材料を提供できないことになる。トランプ関税に関心を持ち力を入れるのは当然だが、国会と政党はそれぞれ本来の役割を果たしてもらう必要がある。

石破首相で参院選か、会期末の波乱は

冒頭でも触れたように今年は、東京都議選の投開票が6月22日、今の国会の会期延長がなければ、参議院選挙が7月3日公示・20日投開票の日程で行われる。4年に一度の都議選と、3年に一度の参議院選挙が同じ年に行われる”選挙イヤー”だ。

去年の衆議院選挙では自民・公明両党の与党が過半数を割り込んだが、今度は参議院でも与党過半数割れが起きるのか、その結果、連立の組み合わせの変更などが起きるかも焦点の1つになる。

そこで、政権・政局をめぐる動きを整理しておくと石破政権については、自民党内で予算成立後、一部に「石破首相では参院選を戦えない」として「石破降ろし」の動きがあったが、こうした動きが起きる公算は小さいとみられる。

というのは、トランプ関税措置をめぐる日米交渉が正念場を迎えようとしている時に、政争とみられる動きは支持が広がらないとみられるからだ。このため、自民党は、石破首相の下で参院選挙を戦う可能性が大きいとみられる。

一方、会期末に野党第1党の立憲民主党が、石破内閣の不信任決議案を提出し、野党各党がそろって賛成した場合は、可決される可能性がある。その場合、石破内閣が総辞職をするか、衆議院の解散・総選挙に踏み切る選択肢もあり、会期末に大きな波乱が起きる可能性は残っている。

但し、立憲民主党の野田代表は、不信任決議案の提出に慎重な姿勢を見せている。仮に提出した場合も、日本維新の会や国民民主党が同調しない可能性も大きく、政界では不信任案が可決される可能性は低いとの見方が強い。

このため、参院選挙は単独で行われる公算が大きいが、その場合、トランプ政権の関税措置への対応が大きな争点になるとみられる。石破政権は世界の先頭を切ってトランプ政権との関税交渉に入ったが、日本の利益だけでなく、世界の自由貿易を維持していく交渉ができたのかどうかが問われる。

また、石破首相がリーダーシップを発揮して関税交渉に当たり、成果を導き出すことができたのかどうか、与野党の論戦の焦点になるとみられる。私たち国民も、石破政権や与野党の対応をしっかり見極め、夏の参議院選挙での選択に備えたい。(了)

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”難航必至か”トランプ関税 日米交渉開始

トランプ政権が打ち出した関税措置をめぐる日米交渉は、異例の形で始まった。訪米した赤澤経済再生相は日本時間の17日早朝、ホワイトハウスでトランプ大統領と50分間にわたって会談した。この席には、ベッセント財務長官、ラトニック商務長官、USTR=アメリカ通商代表部のグリア代表が同席した。

この席で赤澤経済再生相は「日米双方の経済が強くなるよう包括的な合意を可能な限り早期に実現したい」という石破首相のメッセージを伝えた。

これに対し、トランプ大統領は国際社会の中で、アメリカが置かれている現状を説明するとともに「日本との協議が最優先だ」という考えを示したという。

続いて赤澤経済再生相は、ベッセント財務長官ら3人の閣僚とホワイトハウスで1時間20分、初めての閣僚交渉を行った。

その結果、日米双方は◇率直かつ建設的な姿勢で交渉に臨み、可能な限り早期に合意し、首脳間で発表できるようめざすこと。◇次回の交渉を今月中に実施するよう日程調整を進めること。◇閣僚レベルに加え、事務レベルでの交渉も継続することで一致した。

今回の日米交渉をどのように評価したらいいのか。また、今後の日米交渉はどのような点が焦点になるのか探ってみたい。

石破首相、次につながる協議と評価

石破首相は、トランプ大統領との会談や閣僚交渉を終えた赤澤経済再生相から電話で報告を受けたあと、記者団の取材に応じた。

石破首相は「日米間には、依然として立場に隔たりがある」としながらも「トランプ大統領は、日本との協議を最優先したと述べている。次につながる協議が行われたと認識している」と安堵の表情をみせた。

また、今後の対応については「交渉の推移をみながら私自身、最も適切な時期に訪米し、トランプ大統領と直接、会談することを当然、考えている」とのべ、日米首脳会談で決着させることに意欲を示した。

一方、赤澤経済再生相は「アメリカは90日間でデイールを成り立たせようとしている。われわれはできる限り早くやりたいという思いは持っているが、交渉の今後の進展はまったく分からない」とのべた。

また、記者団からの質問に答えて赤澤経済再生相は「為替については出なかった」とのべ、米側から他のテーマ、在日米軍の駐留経費分担など日本の防衛費や農産物などについて、アメリカ側から提起があったことを示唆した。

このように日米の会談や協議の詳しいやり取りは明らかになっていないが、日米双方は、早期に合意できるよう努力することで一致した点が今回の大きな特徴だ。

日本側としては、最初の交渉で米側の出方を前向きに受け止めており、今月中に行われる次の閣僚協議などを経て、早期合意をめざすものとみられる。

 日米交渉、楽観視できない見方も

今回の日米交渉について、経済の専門家の見方を聞くと「トランプ政権が、主要国の中で日本との協議を最初に行ったのは事実だが、これは日本を厚遇しようということではない。米国は貿易赤字削減を主要な目標ににしており、日本にだけ甘い対応をすることは考えにくい」として、楽観視できないとの見方を示す。

そのうえで「米側が期待する赤字削減を実現するためには、日本側が大幅な譲歩が必要になる。アメリカ国内ではトランプ政権の関税政策に批判的な意見が強くなる可能性があるので、日本は焦って交渉を早めるより、アメリカ国内の情勢を見極めながら慎重に対応した方がいい」と指摘している。

こうした考え方は自民党内にもあり、閣僚経験者の一人は「自動車などに対する関税については早期妥結が好ましいが、交渉ごとは焦ると負けという側面もある。アメリカ国内の企業や世論の反応によっては、関税政策も変更を迫られる」として、政府は短期、長期両にらみで交渉に臨むべきだという考えを示す。

こうした経済専門家や自民党内の指摘を受けて、石破首相がどのような判断を示すのか問われることになる。

このほか、日本側としては詰めておくべき点は多い。例えば、交渉の対象分野について、日本側が強く求めている自動車、鉄鋼、アルミニウムへの25%の追加関税の扱いのほか、米側の関心が強い農産物の市場開放や日本の防衛費、為替などについてどのような扱いにするか、整理が必要だ。

また、日本側が関税見直しの交渉カードとして、LNG=液化天然ガスの開発や輸入拡大などの項目をパッケージとして示し日米が大筋で合意した場合、アメリカ側は関税の見直しで譲歩するのか確認しておく必要がある。

このようにみていくと日米が早期の合意をめざすことで一致したといっても、調整が必要な分野は多岐にわたり、交渉は難航することが必至だとみられる。

 石破政権、参院選も控え難しい対応

それでは、これからの展開はどのようになるだろうか。アメリカ側は「日本は交渉の列の先頭にいる」と位置づけている。これは早期に日米合意を実現し、後に続く各国のモデルケースとして、アメリカが主導権を発揮していく戦略だとみられる。

これに対して石破政権は、相互関税停止の90日間以内の早期決着をめざすのか、それとも中長期も辞さない立場で臨むのか、選択を迫られる。

今後の日程をみると、自動車部品に対して5月3日から25%の追加関税が課せられるほか、6月にはG7サミットがカナダで開催、さらに7月には参議院選挙が予定されている。

石破政権にとっては、自動車や自動車部品の追加関税を早期に是正する必要があるが、早期決着をめざして譲歩しすぎると「国益に反する」との指摘が予想されるほか、国際社会からは「自由貿易を放棄する対応だ」などと非難されるおそれがある。

一方、長期戦で臨むとトランプ政権からの強い反発が予想されるほか、夏の参議院選挙では無為無策などと批判を浴び、大きなダメージを受ける可能性もある。

石破政権としては、日米交渉でどこまで日本の主張を反映させることができるかどうか、国民に対して交渉の状況や日本の役割を説明しながら理解を得ることができるかどうか難しい対応を迫られることになる。

私たち国民も日米交渉のゆくえと自由貿易に及ぼす影響、そして日本の役割をどう考えるか、内外の動きを注視していきたい。(了)

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米「相互関税」一時停止、日本の対応は

アメリカのトランプ大統領は、貿易赤字が大きい国などへの「相互関税」を90日間、停止する異例の対応をとる一方、中国に対しては125%からさらに引き上げ145%の関税を課すなど強い姿勢を打ち出した。

これに対して中国政府は10日午後、アメリカからの輸入品に予定よりも50%上乗せした84%の追加関税を課す措置を発動するなど一歩も引かない構えを示している。

こうした米中両国による関税引き上げの応酬を受けて、10日のニューヨーク株式市場ではダウ平均株価が一時、前日と比べて2100ドル余り値下がりした。終値は、前日に比べて1014ドルの下落となった。

一方、11日の東京株式市場も全面安の展開となり、日経平均株価は一時、1900円を超える大幅な下落となった。トランプ大統領が「相互関税」の停止措置をとったあとも世界の株式市場は不安定な状況が続いている。

こうしたトランプ大統領の一連の関税政策を日本政府はどのように受け止め、対応しようとしているのか、最近の動きを探ってみた。

安堵と戸惑い、関税見直しへつながるか

まず、今回トランプ大統領が「相互関税」の上乗せ措置を発動してから、わずか半日で急遽、停止したのはなぜか。米国メデイアの報道によると株式や通貨、それに米国債まで売られる「トリプル安」が起きたことから、トランプ大統領としても停止措置に踏み切らざるを得なかったとの見方をしている。

日本政府の見方はどうだろうか。林官房長官は10日、記者団から今回の受け止め方を質問されたのに対し「これまでも関税措置の見直しについて、さまざまなルートで申し入れてきたので、非常に前向きに受け止め止めている」とのべ、安堵の表情をみせた。

一方で、米国事情に詳しい外交専門家によると「トランプ関税は3か月から半年、あるいは1年程度続いた後、軌道修正されると予想していた。予想していなかった展開だ」と戸惑いをみせる。トランプ大統領の関税措置は、今後も突如として変更されることが十分ありうることを念頭に置いておく必要がある。

さて、今回のアメリカの決定で日本にとっては「相互関税」の24%の課税は一時停止になったものの、一律10%の「相互関税」は残されたままだ。また、鉄鋼製品やアルミニウム、それに自動車へ25%の追加関税は続いている。

特に、自動車の対米輸出額は年間6兆円を超え、関連部品も1兆円に上る基幹産業だけに追加関税の影響は深刻だ。加えて、米国向けの幅広い輸出品に25%の追加関税が重荷となってのしかかる。日本政府のこれからの対応はどうなるか。

政府は、引き続き関税措置の見直しを強く求めていく方針だ。米側との交渉の担当閣僚に指名された赤澤経済再生相は来週にもワシントンを訪れ、交渉相手のベッセント財務長官と会談する方向で調整に入った。

日米交渉に向けて政府は11日、赤澤経済再生相と林官房長官をトップに外務省や経済産業省などの関係省庁で構成するチームを発足させた。2月の日米首脳会談の際に戦略を練ったメンバーが中心になっている。

石破首相は11日午前、赤澤経済再生相と会談し「国難とも言える事態に日米双方の利益になるようアメリカ側と協議してほしい」と指示した。

赤澤氏としては、対米投資を中心に日本が協力できる案件をはじめ、エネルギー分野の開発、非関税障壁の改善などを幅広く検討しながら意見を交わし、関税引き下げに向けた地ならしをどこまで進めることができるかが焦点だ。

ベッセント財務長官はウオール街の出身で、今回の「相互関税」停止決定に当たっては大きな影響を与えたとされる。赤澤経済再生相にとって手強い交渉相手になりそうだ。

 問われる石破政権の戦略・対応

トランプ政権の一連の関税政策にどのような姿勢で向き合うのか、日本に直接関係する関税の見直しだけでなく、国際社会全体の視点に立った戦略、対応も問われる。

米側の対日交渉責任者に決まったベッセント財務長官は、関税をめぐる各国との交渉について「日本が列の先頭にいる」とのべた。世界各国との交渉にあたって、日本をモデルケースにしたいというねらいがうかがえる。

それだけにアメリカ側が強い姿勢で交渉に臨むことが予想される。日本としては、まずは日本に直接関係する関税措置の撤回や、引き下げで具体的な成果を上げることができるか石破政権の力量が試される。

また、トランプ政権の一連の関税政策は、アメリカの利益最優先の保護主義的な政策で、自由貿易体制を推進していく立場から容認できない。同じ立場に立つEU・ヨーロッパ連合や、ASEAN・東南アジア諸国連合などとも連携をとりながらトランプ大統領を説得していく取り組みが問われることになる。

日本としては、関税問題が前進した段階で改めて日米首脳会談を開いて同盟関係を再確認するとともに、日米が協力してG7首脳会合や、G20サミットなどで国際社会が安定に向けた流れを強められるような役割を果たすことが求められるのではないかと考える。

一方、国内では自民・公明の与党側から、トランプ政権の関税政策の影響や物価高対策として、現金給付や減税を求める意見が強まっている。公明党の斎藤代表は10日、党の中央幹事会で、減税が実現するまでのつなぎの措置として、現金の給付を検討すべきだという考えを示した。

自民党内でも参議院側を中心に「現金給付で迅速に対応し、その後、減税を行うべきだ」という意見が出ている。現金給付にあたっては所得制限をつけずに国民1人当たり数万円を支給すべきだという意見もある。

野党側では、現金給付よりも減税を中心にした対策を求める意見が多い。具体的には「現金給付のようなバラマキ的なやり方ではなく、食料品にかかる消費税の税率引き下げやガソリン税の暫定税率の廃止などを検討すべきだ」といった意見が出ている。

このほか、政府や与野党の中から「トランプ政権の関税政策については、影響の大きい産業や分野の状況を把握したうえで、効果のある対策を打ち出すべきだ」という意見も聞かれる。

こうした関税に関連した与野党の対策については、夏の参議院選挙をにらんだ選挙対策ではないかという見方や批判も聞かれる。それだけに石破政権、与野党ともにトランプ関税が影響を及ぼす分野や程度の評価とセットで、対応策について議論を深めていく必要があるのではないかと考える。

トランプ関税と激動する国際社会の外交・安全保障、それに国内の新たな経済政策としてどのような対応策が必要なのか、これからの後半国会と夏の参議院選挙の大きな焦点になりそうだ。(了)                     ★追記(12日午前7時半)◆中国政府は、アメリカからの輸入品に125%の追加関税を課すと発表した。12日から実施する。トランプ政権が中国からの輸入品に145%の関税を課す方針に対抗した措置。                  ◆トランプ政権の関税措置をめぐって、赤澤経済再生相は16日から訪米し、17日にベッセント財務長官らと初めての会談を行う見通し。

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予算成立も”内憂外患の石破政権”

新年度予算が参議院で再修正されて可決された後、衆議院に戻されて年度末の31日ぎりぎりの日程で、成立にこぎ着けた。

一方、与野党が3月末までに結論を出すことを申し合わせていた企業・団体献金の見直しについては与野党案の隔たりが大きく、決着は先送りになった。

新年度予算が成立したことで、石破政権は通常国会最初の難関を越えたが、予算成立のこの日、東京株式市場はトランプ政権の関税政策に対する懸念が強まり、日経平均株価は1500円以上値下がりし、今年最大の下落幅となった。

石破政権は、これから内政では重要法案をめぐる与野党の攻防が激化するのをはじめ、外交ではトランプ関税への対応を迫られ、内憂外患状態にある。石破政権と4月以降の政治はどのような展開をたどるのか探ってみた。

トランプ関税、自動車産業などを直撃へ

政府の当初予算が衆議院で修正されたのに続いて参議院でも再修正され、衆議院に戻されて成立するのは今の憲法の下で初めてのケースだ。少数与党の下で、高校授業料の無償化や高額療養費制度の見直しなどをめぐって、政権の対応が迷走したことの現れだ。

さて、これからの政治の動きで、新たな難題として浮上しているのがトランプ大統領が次々と打ち出している関税引き上げへの対応だ。トランプ政権は4月3日には、日本を含む全ての国からの輸入自動車に25%の追加関税を発動する予定だ。また、相手国と同率の関税まで引き上げる「相互関税」にも近く踏み切るものとみられている。

日本にとって自動車産業は基幹産業で、対米輸出額は年間6兆円に上るだけに追加関税が適用されると部品産業も含め、深刻な影響を受ける。石破首相は、関税引き上げの対象から日本を除外するようアメリカ側に引き続き要請するとともに、産業や雇用の影響を調査し、資金繰り対策などに全力を上げる方針だ。

これに対し、立憲民主党など野党側は「2019年の第1次トランプ政権と安倍政権の間で行われた貿易交渉で、日本の自動車への追加関税を断念させる代わりに日本は米国産の牛肉や豚肉などにかける関税をTPP加盟国並みに引き下げた。トランプ政権はこの約束を破っている」として、日米貿易協定をやり直すなど毅然とした対応を取るべきだと批判を強めている。

与党からも「日本政府として関税対策にどのような体制で臨むのか、対米交渉の中心になって担当する閣僚を決めるべきだ。官邸と省庁、民間、与党などオールジャパンで早急に対応していくことが必要だ」といった意見が聞かれる。

 重要法案、政治資金の攻防も激化

内政面では、重要法案の審議が本格化する。衆議院で先月から審議が始まっているのがサイバー攻撃を未然に防ぐ「能動的サイバー制御」導入関連法案だ。憲法が保障する「通信の秘密」との関係をめぐって、野党側は国会の関与を強める修正案を提出する見通しで、激しい議論が予想される。

また、政府・与党で検討が進められているのが、年金制度改革関連法案だ。パートで働く人たちが厚生年金に加入できる企業要件を撤廃することなどが盛り込まれる見通しだ。

自民党内では厚生年金の適用拡大につながり、今の国会で成立をめざすべきだという意見がある一方、事業主の負担が増え参議院選挙に影響が懸念されるとして、法案提出に反対する意見があり、調整が続いている。与野党間では既に「重要広範議案」に指定されており、その扱いに注目が集まっている。

さらに、後半国会の大きな焦点になるのが選択的夫婦別姓制度の問題だ。野党第1党の立憲民主党は4月中に法案を提出する予定で、与党の公明党は賛成の立場だ。自民党は保守系議員が「旧姓の通称使用の拡大を実現すれば問題点を解決できる」として、選択的夫婦別姓制度に反対しており、党内の意見集約がどこまで進むか不透明な状況だ。

このほか、企業・団体献金の見直しをめぐっては、与野党が申し合わせた31日までに結論を出すことは困難になり、4月以降も協議が続く見通しだ。また、石破首相が10万円の商品券を自民党の衆議院議員に配付した問題については、野党側が政治倫理審査会で弁明するよう求めている。

さらに自民党派閥の裏金事件をめぐって、参議院予算委員会は旧安倍派幹部だった世耕弘成・元参院幹事長(現衆院議員)の参考人招致を議決したことから、衆議院でも旧安倍派幹部の参考人招致について、与野党の協議が行われる見通しだ。

このように内政でも重要法案や「政治とカネの問題」などの難題が山積しており、トランプ関税への対応と合わせて石破政権は、内憂外患状態にある。

 問われる首相の指導力と対応能力

そこで、石破政権の政権運営はどのようになるのだろうか。ここまでみてきたように石破首相は、まずは重要法案やトランプ関税などについて、指導力を発揮し成果を上げることができるかどうかが問われている。

また、与党側からは「コメの価格の値上がりやガソリンの暫定税率廃止など物価高対策について思い切った具体策を打ち出さないと参議院選挙は戦えない」といった声が聞かれる。こうした声に応えて、新たな対応策を打ち出せるかも注目される。

自民党のベテラン議員の一人は「党内には、”石破降ろし”を主張する議員はいるが、本気で首相を代えようという議員は多くはないのではないか。ただ、石破首相に対して、白けた雰囲気が感じられるのは要注意だ」と語る。

石破首相が10万円の商品券を配ったことが表面化した3月中頃は、石破退陣の見方も強まったが、その後、トランプ政権への対応が問われている時に党内抗争とみられるような行動はとれないなどとして、こうした見方は後退しているようにみえる。

攻める側の立憲民主党の野田代表は商品券問題が表面化した際、石破首相の退陣を求めなかった。「夏の参院選は政権基盤が弱い石破首相との対決を望んでいる」ようにみえる。

報道各社の3月の世論調査をみると商品券問題などが影響して、石破内閣の支持率は大幅に下落し、政権発足半年で最も低い水準に下落している。一方、野党の多くの党の支持率も上昇しているわけではない。

有権者の多くは「石破政権と与党は内外の課題を解決できる能力を持っているのかどうか」、「野党側は、政権与党に代わる政策や人材を結集できるのかどうか」を見定めようとしているのではないか。

通常国会後半のこれから、6月の東京議選や夏の参議院選挙に向けて内外情勢は激しく揺れ動くことが予想される。私たち有権者は、内外の情勢と与野党の政策、対応などをじっくり見極め選挙に活かしたい。(了)

★(追記4月1日午後1時)新年度予算の成立を受けて、石破首相は1日午前11時から記者会見し、冒頭、商品券配付問題について陳謝した。◇新年度予算が衆参両院での修正を受けて成立したことについて「熟議の国会の成果だ」と評価した。◇物価高対策については、従来の方針の説明に止まった。◇トランプ関税については日本を対象から除外するよう強く求めるとともに、自動車などへの関税措置が発動された場合、全国におよそ1千か所の特別相談窓口を設け、中小企業などからの相談に対応していく考えを示した。全体として踏み込んだ発言はなかった。★(追記4月3日午後1時)トランプ大統領は日本時間の3日朝、「相互関税」の導入を発表し、日本には24%の関税を課すことを明らかにした。中国に34%、インドに26%、EUに20%などの関税を課すとしている。一方、アメリカに輸入される自動車に25%の追加関税を課す措置は、日本時間の3日午後1時過ぎに発動された。日本にとってアメリカは最大の貿易相手国で、日本の自動車産業や経済は大きな打撃を受けるのは避けられない。                   ★(追記4月5日23時)トランプ大統領が表明した関税措置のうち、◇全ての国や地域を対象に一律で10%の関税を課す措置は、日本時間の5日午後1時に発動された。◇アメリカの貿易赤字が大きいおよそ60の国や地域を対象した「相互関税」は、9日午後1時に発動する。◇一方、中国政府は、アメリカからの全ての輸入品に34%の追加関税を課すと発表した。10日に発動する見通し。◇ニューヨーク株式市場は、トランプ関税に伴う世界経済の減速を懸念して3日に1600ドル、4日に2200ドル超下落、日本円で合わせて970兆円の時価総額が失われた。

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”衆参ダブル選挙説”の見方・読み方

新しい年が明けて石破首相をはじめ各党党首は、それぞれの党の仕事始めや記者会見、海外訪問に出発するなど本格的な活動を始めた。

各党首の年頭記者会見などを聞くと、衆議院の与党過半数割れという新しい政治状況を受けて、年明けの通常国会は新年度予算案などの修正を含め与野党の激しい攻防が予想される。

一方で、内外情勢が厳しさを増す中で、党派を超えて合意を図る政治をめざすべきだという方向では多くの党が一致しているので、対立だけでなく歩み寄り、一定の成果も期待できるのではないか。

こうした中で、今年は夏の参議院選挙に合わせて衆院の解散・総選挙を行う「衆参同日選挙」がありうるのではないかとの見方も聞かれる。この衆参ダブル選挙説は、参議院選挙が近づくにつれて今後も浮上することが予想されるので、どの程度の確率があるのか探ってみたい。

 ダブル選挙、少数与党から脱出へ

最初に今年前半の政治日程を確認しておくと年明けの通常国会は今月24日に召集される見通しで、会期末は6月22日になる。会期延長がない場合は、公職選挙法の規定などで、夏の参議院選挙は7月3日公示、20日投開票という日程になる。

一方、東京都議選は、6月下旬から7月初めにかけて投開票が行われる見通しだ。4年に一度の都議選と、3年ごとの参院選が12年ぶりに同じ年に重なる「巳年選挙」になる。

さて、その都議選に続いて行われる参議院選挙に合わせて、衆議院選挙を行う「衆参同日選挙説」が取り沙汰されている。

石破首相自らも年末の民放テレビ番組で、衆参同日選挙の可能性を問われたのに対し、「これはある。参議院と衆議院の時期が同時ではいけないという決まりはない」とのべた。その後、発言を軌道修正したが、政界に波紋を広げた。

自民党内では先の衆院選で大敗し、国会では野党の攻勢に譲歩を重ねていることに不満が鬱積している。このため、何とか早期解散に持ち込み、過半数割れからの脱出を図りたいという思いは強い。

また、先の衆院選では公認から外れた候補にも2000万円を支給した問題が敗北の決め手になったとの受け止め方が強く、これがなければ次の衆院選では一定の議席の回復は見込めるとの見方も出ている。

そして、野党側が例年と同じように会期末に内閣不信任決議案を提出することが予想されるため、それをきっかけに衆院解散に踏みきり、衆参ダブル選挙を断行してもいいのではないかとの意見が政権内にもあるのは事実だ。

こうした早期解散論の背景としては、石破首相と森山幹事長ら党執行部としては、少数与党で思うような政権運営が描けないため、解散説を流すことによって野党側をけん制するねらいがあるものとみられる。今後も国会での与野党の攻防が緊迫する際に、衆参ダブル選を模索する動きが出てくることが予想される。

 政権の求心力弱く、ダブル選は困難か

さて、自民党内の一部から衆参ダブル選期待論が聞かれるのは事実だが、実現へのハードルは極めて高い。過去2回の衆参同日選挙のうち、2回目は1986年の中曽根政権の時で、自民党が圧勝した。

当時、中曽根内閣の世論の支持は高かった。現場を取り仕切ったのは最大派閥・田中派幹部の金丸幹事長で、2人が組んで用意周到、定数是正法案も絡めて秘策を尽くし、ダブル選挙に持ち込んだ。強力な政権だったからこそ、実現が可能だった。

これに対して、今の石破政権は衆院で少数与党であり、自民党内の掌握、野党との折衝体制、衆院選に向けた選挙体制づくりなど整っていないようにみえる。

また、連立政権なので、公明党の理解と協力が不可欠だ。その公明党は、政界進出の原点である都議選と参院選に専念したいのが本音だとみられる。山口那津男元代表は8日、石破首相との会談後、記者団に「衆参同日選は望ましくない」との考えを示した。

さらに報道各社の世論調査をみると石破内閣の支持率は、朝日新聞の調査(12月14,15両日)で36%、不支持率は43%。読売新聞の調査(12月13~15日)では支持率39%、不支持率は48%と低迷している。自民党の支持率も20%台前半まで低下している。「政治とカネ」をめぐる取り組みを「評価しない」との受け止めが多く、世論の信頼回復には遠く及ばないのが実状だ。

選挙に詳しい自民党関係者に聞くと「衆参ダブル選は昭和の時代、党の支持率は高いのに保守層が投票所に足を運ばなかった。この状態を打開するために投票率を上げると同時に、議席の大幅拡大もねらった選挙戦略だった。今のような低支持率の政権にはまったく適合しないので、止めた方がいい」と指摘する。

先の衆院選挙の出口調査(朝日新聞、比例代表)をみると無党派層の投票先は、最も多かったのは立憲民主党の22%、2位が国民民主党の18%で、自民党は14%の3位に止まっている。仮に衆参ダブル選挙が実現したとしても今のような選挙情勢では野党側に競り負け、衆参ともに一気に政権から転落する可能性もある。

一方、立憲民主党の野田代表は、内閣不信任決議案は「会期末だから出すといった『竹光』を振るってチャンバラをやる時代ではない。『伝家の宝刀』だと思って刃をよく磨いておきたい」として、自民党内の動きを見ながら慎重に対応するする構えだ。

このようにみるとこの夏の参議院選挙に合わせた衆参ダブル選挙の可能性は、極めて低いというのが結論になる。この夏は、都議選に続いて、参議院選挙が最大の政治決戦になるとみている。

その参議院選挙について森山幹事長は、7日の自民党仕事始めの後の記者会見で勝敗ラインについて「与党で過半数を死守することだ。参議院全体でも改選議席でも過半数を果たすことが大事だ」とのべ、与党で改選議席の過半数である63議席以上をめざす考えを明らかにした。

これに対して、立憲民主党の野田代表は「少なくとも改選議席の与党の過半数割れを実現したい」として、特に32ある1人区で野党が候補者を1人に絞って対決していく戦いをめざしている。

夏の参議院選挙では与野党が真正面からぶつかり、与党が改選議席の過半数を獲得すれば石破政権が続投することになるが、過半数を割り込むと石破首相の政治責任論が浮上し、政局は一気に流動化することになりそうだ。(了)

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