衆議院が9日解散され、政府は臨時閣議で、15日公示、27日投開票とする日程を決めた。各党とも15日の公示に向けて、選挙体制づくりを加速させている。
石破内閣が発足したのが今月1日。8日後に衆院を解散、26日後の投開票となるのは、戦後最短だ。解散から投開票までの期間は18日間で、前回・2021年の17日間に次いで、2番目の短さになる。
さて、今回の衆院選の大きな争点は「裏金問題と政治改革」になるだろう。というのは、前任の岸田内閣が退陣に追い込まれたのは、裏金問題への対応が後手に回り、内閣支持率が長期にわたって低迷、退陣に追い込まれたからだ。
日本政治が取り組むべき課題は、日本経済の再生をはじめ、急激な人口減少社会への対応、内外の外交安全保障情勢など多岐にわたるが、政治の信頼が失墜しているので、議論自体が進まない隘路に陥っている。
本来の政策論争などを取り戻すためにも、裏金問題と政治改革について国民の信頼を回復し一定の前進を図られるようにすることが、事態改善の第一歩だと考える。
一方、石破首相と自民党執行部は衆院解散が間近に迫った段階で、派閥の裏金事件で政治資金を不記載にした議員について、一部、公認しない方針を打ち出した。また、不記載議員については、政治倫理審査会で弁明を行っていない場合は、比例代表への名簿登載を認めない方針も決めた。
こうした方針に対しては、自民党安倍派から猛烈な反発が出る一方、世論の逆風を抑えるためには「厳しい措置は当然」との声も聞かれる。自民党の新たな方針を含めて、政治とカネの問題を改めて考えてみたい。
裏金問題、党首討論でも集中砲火
自民党の裏金問題は9日、衆院が解散される直前に行われた党首討論でも野党各党の多くが取り上げた。
立憲民主党の野田代表は「先月、安倍派元事務局長の有罪判決の中で、幹部間の協議で裏金処理の再開が決まったので、従わざるを得なかったことが裁判所で認定された。国会で弁明した安倍派幹部の発言は、虚偽だったことが明らかになった」として、事実関係を解明せず解散を急ぐのは「裏金隠し解散だ」と批判した。
続いて質問にた立った日本維新の会の馬場代表、国民民主党の玉木代表らも「党が幹部議員に渡す政策活動費の廃止を考えているなら、直ちに今回の衆院選から政策活動費を取り止めるべきだ」などと攻め立てた。
石破首相は「政治の信頼回復を第一に対応するのは、当然のことだ。政治資金については、法律で許された範囲内で適法に行う」とのべ、政策活動費の扱いなどについて、具体的に言及することを避けた。
このように裏金問題と政治改革は、今も与野党間の最大の争点になっている。問題は、選挙の際、国民の多くがどのように判断するかだ。
報道各社の世論調査によると実態解明などは継続すべきだという意見は多い。一方で、選挙戦に入って政治が取り組むべき主要課題の中で「政治とカネの問題」がどの程度上位に位置づけられるかが、大きなポイントなりそうだ。
裏金議員12人非公認、世論の評価は?
石破首相と自民党執行部は9日、派閥からの政治資金を不記載にしていた議員など12人について、次の衆院選挙で非公認とする方針を決めた。
非公認になったのは「党員資格停止処分」を受けた下村元文科相、西村元経産相、高木元国対委員長。1年間の「党の役職停止」の処分が継続し、政治倫理審査会で説明をしていない萩生田元政調会長、平沢元復興相、三ツ林裕巳・元内閣府副大臣の6人。
それに半年間の「党の役職停止」処分を受け、その期間が終わった菅家一郎元復興副大臣ら3人、「戒告」処分を受けた細田健一・元復興副大臣ら3人の合わせて12人だ。
自民党内では、旧安倍派議員などから「一度、処分をしながら再び処分するようなやり方は認められない」「旧安倍派を狙い撃ちにした措置だ」など強い反発の意見が相次いだ。選挙後の挙党態勢を危ぶむ声もきかれる。
一方で「原則公認となれば、今度は自民党全体が国民から厳しい批判を浴び、選挙どころではなくなる」として、処分やむなしとの意見も聞かれた。
この問題は、党首討論でも取り上げられ、立憲民主党の野田代表は「相当程度が非公認だと言っていたが、大半は公認されている。また、非公認で立候補した人も当選したら、追加公認するのではないか」と質した。
これに対して、石破首相は「公認しない人が少ないというが、それぞれの人にとってどれほどつらいものか、よくよく判断した上でのことだ。最終的な判断は、主権者たる国民に任せたい。追加で公認することはありうる」との考えを示した。
一方、不記載議員については、小選挙区で公認しても、比例代表選挙の名簿登載を認めない方針を決めた。小選挙区で当選できない場合、比例代表で救済される道が閉ざされることになる。
重複立候補が認められなかった議員は30人余りとなった。自民党は、比例代表単独の候補者を増やすなど新たな対応を迫られることになるだろう。
今回の方針について、自民党の選挙対策関係者に聞いてみると「自民党という組織で考えると、従来の方針を大きく転換、最も厳しい措置と言える。それなりの結果を出せれば、石破総裁の評価は高まる」。
「但し、国民からすると大半は公認されているとして、厳しい視線は変わらないかもしれない」として、新たな方針の意味や姿勢をどこまで理解してもらえるかにかかっているとの見方だ。今後、議席を予測する際のポイントになる。
首相 勝敗ライン「自公で過半数」
衆議院解散を受けて石破首相は9日夜、記者会見し「国民の納得と共感がなければ政治を前に進めることはできない。新政権の掲げる政策に力強い後押しをお願いしたい」とのべた。
そのうえで、今回の解散を「日本創生解散」と位置づけた。「日本社会のあり方を根本から変えていきたいと考えている」と説明した。
また、衆院選挙の勝敗ラインと下回った場合の対応を問われたのに対し「自民党と公明党で過半数をめざしたい。勝敗ラインを割り込んだ場合の対応については、コメントを差し控えたい」とのべた。
報道各社の世論調査によると、発足した石破内閣の支持率は46%から51%程度に上昇した。自民党の支持率も、岸田政権当時に比べて上昇している。但し、3年前の選挙時の支持率に比べると、勢いが乏しいとのデータもある。
石破首相と自民党にとっては、次の選挙は楽観できる状況にはない。党の選対関係者も「前回より増やせる要素はなく、どこまで目減りを減らせるかだ」との見方をしている。
そのためには、最大の争点になるとみられる裏金問題と政治改革から逃げずに、具体策を打ち出せるかどうかが問われることになるだろう。
また、多くの国民にとっては、物価高騰と国民生活、日本経済の運営に大きな関心を寄せている。実質賃金の目減り、物価高を上回る賃上げ、円安政策など納得させるだけの対応策を打ち出せるかにかかっているのではないか。
これは、野党各党にとっても同様だ。政治とカネの問題、経済と暮らしの分野で国民の支持を広げられるような政策を打ち出せるかどうかが問われることになる。
今回も、前回に続いて、短期の政治決戦になる。内外の多くの難題の解決に向けて、かじ取りを任せられる政党・政治勢力や候補者は誰か、私たち有権者も重い選択を行うことになる。(了)