“岸田政権浮上せず”10月世論調査

岸田政権が発足してから10月4日で、丸2年が経過した。岸田首相は先月13日に内閣改造・自民党役員人事を行って体制整備を図るとともに、新たな経済対策のとりまとめを指示し、3年目の政権運営を進めている。

来年秋の自民党総裁選まで1年を切り、前回衆院選挙から10月末には折り返し点を迎える。与野党双方からは「新たな経済対策で国民の支持が広がれば、岸田首相は年内の衆院解散・総選挙に踏み切るのではないか」との見方が聞かれる。

内閣改造後の岸田内閣の支持率に与野党の注目が集まっているが、NHKの10月の世論調査の結果がまとまった。岸田内閣の支持率は先月と同じ36%のままでピクリとも動かず、政権の浮揚効果は見られなかった。

岸田政権の新たな経済対策についても「期待していない」が半数を超え、政権を取り巻く情勢は好転の兆しがみられない。20日からは臨時国会が幕を開けるが、年内の衆院解散・総選挙への道は狭まりつつあるようにみえる。

不支持逆転続く、政策に不満過去最高

さっそく、NHKの世論調査(10月7~9日実施)のデータから見ていきたい。岸田内閣の10月の支持率は、先月と同じ36%。不支持率は、先月より1ポイント多い44%だった。支持率を不支持率が上回るのは7月以降4か月連続で、低迷状態が続いている。

支持する理由は◆「他の内閣より良さそうだから」が45%、◆「支持する政党の内閣だから」が27%で消極的な理由が多い。

不支持の理由としては◆「政策に期待が持てないから」が56%で、岸田内閣発足以降、最も高くなった。歴代政権と比べても高い水準だ。◆「実行力がないから」が20%で、合わせて8割近くを占める。

支持率の内容をみると、自民党支持層のうち「岸田内閣を支持する」と答えた割合は、60%半ばに止まっている。最も多い無党派層の支持率は18%と低く、逆に不支持率は56%と高いので、選挙の際にはマイナスに働く。

岸田首相は先月13日の内閣改造で、主要ポストの骨格は維持する一方、過去最多と並ぶ女性閣僚5人を起用して政権の刷新をアピールした。しかし、内閣支持率を上昇させる効果はみられなかった。改造人事のねらいは不発に終わったと言えそうだ。

 経済対策、期待せずは6割近くも

それでは、岸田首相が表明した新たな経済対策の評価については、どうだろうか。岸田首相は、物価高騰対策や賃金の引き上げから、少子化対策、安心・安全確保対策など5つの柱を挙げて、10月末までに具体策をとりまとめるよう閣僚に指示した。

世論調査では、こうした新たな経済対策の効果について、評価を尋ねた。答えは「期待している」が38%に対して、「期待していない」が57%となった。

また、世論調査では、新たな経済対策とともに、防衛費の増額や少子化対策のための財源確保も課題になっている中で「国の財政状況に不安を感じているかどうか」についても尋ねている。

答えは「感じている」が75%に対し、「感じていない」が19%となった。

さらに岸田内閣が最優先に取り組むべき課題を1つ選んでもらうと◆「物価対策を含む経済対策」が50%で最も多く、◆次いで「少子化対策」13%、◆「社会保障」11%などと続いた。

以上のことから、国民の多くは、大型の経済対策や補正予算案の規模よりも内容に関心があり、特に「物価高騰対策を中心にした経済対策」を望んでることが読み取れる。

また、対策の評価に当たっては、財源確保の取り組みに不安を感じており、「財源確保の具体策」を明らかにするよう求めていることがうかがえる。

政権与党の動きを取材すると、衆院解散・総選挙をにらんで予算の規模の拡大、端的に言えばバラマキ姿勢が感じられるのに対し、国民世論の方が、コロナ感染が収まり、平時の経済・財政運営に立ち返るべきだという真っ当な考え方が読み取れる。

 年内解散よりも政策論争の徹底を

これから年内の政治は、どう動くのか。今月20日から秋の臨時国会が始まり、会期は12月上旬までとなる見通しだ。

その国会では、新たな経済対策の裏付けとなる補正予算案の扱いと、内閣改造を受けての岸田政権の政権運営などをめぐって激しい論戦が戦わされる見通しだ。

また、補正予算案を成立させた後、岸田首相が衆院解散に踏み切るかどうかが大きな焦点になる。その解散・総選挙の前提条件として、政権与党側が期待していた内閣改造による政権の浮揚効果はみられなかった。

また、政府の経済対策についても世論の期待感は乏しいことを考えると、年内解散の道はかなり難しくなりつつあるようにみえる。

さらに、今月22日に投開票が行われる衆議院長崎4区の補欠選挙と、参議院徳島・高知の補欠選挙の結果がどうなるか。2つの補欠選挙ともに与野党一騎打ちの構図になっており、この結果も年内解散のゆくえに影響を及ぼしそうだ。

国民の多くは「年内の衆院解散・総選挙は時期尚早。それよりも政策の中身、物価高などへの経済対策を充実させること。それに先送りになっている財源の具体策を明らかにすべきだ」と注文を付けているように思える。

こうした国民の注文に対して、岸田首相と与野党はどのように応えるか、臨時国会の論戦をしっかり見ていきたい。(了)

 

 

 

 

“未完の政権”主要政策の核心先送り

岸田政権は発足から10月4日で、丸2年が経過した。秋の臨時国会を控え、政界では年内解散説もささやかれているが、国民はこの政権をどのように見たらいいのだろうか。

長年、政治取材を続けているが、岸田政治とは何か?”主要政策が完結しないまま、次々に政策課題が提起される政治”という点に大きな特徴があると感じる。端的に言えば”未完の政策が積み残されたままの政権”ということになる。

岸田首相は自民党内に強いライバルが不在で、政権は安定した状況を維持している。反面、報道各社の世論調査でみると国民の評価は低迷した状態にある。

岸田政権のこれまでの政策や政権運営をどのように評価するか、3年目に入った岸田政治は何が問われているのか、探ってみたい。

(★タイトル部分は、原案ではわかりにくいとのご意見をいただきましたので、表現を手直ししました。本文の内容は変わっていません。10月5日追記)

 岸田内閣 政策と実行力に低い評価

まずは、政権発足から2年が経過した岸田政権をどのように見るか。人によって評価はさまざまだが、ここではメデイア、具体的にはNHKの世論調査のデータを基に考えてみたい。

岸田政権が発足した2021年10月の調査では、◇岸田内閣の支持率は49%、不支持率24%でスタートした。それから2年、最新の9月調査によると◇支持率は36%に下がり、不支持率は43%に増えた。支持率と不支持率が逆転し、国民の支持は低迷している。

この間の推移を整理すると、政権発足直後に衆院解散・総選挙に踏み切り、勝利した。続く翌22年7月の参院選挙にも勝利を収め、8月の内閣支持率は59%まで上昇した。

ところが、参院選の最中に安倍元首相が銃撃されて亡くなり、その後、安倍元首相や自民党と旧統一協会との関係が明らかになった。安倍元首相の葬儀を国葬にした問題や、内閣改造後に新閣僚の政治とカネの問題が表面化し、4閣僚が辞任に追い込まれた。今年1月の支持率は政権発足以降、最低の33%まで落ち込んだ。

その後、内閣支持率は徐々に上昇を続け、G7広島サミットが開催された5月には、支持率が46%まで回復したが、長男の首相秘書官が公邸内で忘年会を開いた問題やマイナンバーカードの混乱で再び支持率は急落した。

このように政権前半の1年近くは、コロナ禍の対応に追われながらも国民の評価は高かったが、去年夏の参院選を境に、後半は支持率の低迷状態が続いている。

その後半は、ロシアによるウクライナ侵攻を受けて、岸田首相が日本の防衛力の抜本的強化とその財源確保のために増税策をとりまとめた。続いて、年明けには異次元の少子化対策を打ち出し、政権の立て直しをめざした時期に重なる。

こうした主要政策をめぐる国民の評価は、いずれも賛成より、反対の方が上回って厳しい評価を受けている。

その原因だが、世論調査では「政府の説明が不十分だ」という評価が圧倒的に多い。岸田内閣を支持しない理由としては、◇「政策に期待が持てない」が半数近くを占め、「実行力がないから」が4分の1、両方合わせて7割に達している。

このように岸田政権は、主要政策・看板政策について、国民の多数の評価を得るまでに至っていない。これが支持率低迷の大きな要因であり、政権の弱点だ。

 岸田政治とは?政策の核心部分先送り

それでは、岸田政権の主要政策の決定や政治手法には、どんな特徴や問題点があるのだろうか。

岸田首相に近い政権幹部に聞くと「岸田首相は自らの成果を語らないタイプなので、わかりにくいかもしれない。だが、難題は水面下で首相自らが調整を進めたうえで、幹事長や政調会長などに割り振っている」と首相の指導力を強調する。

例えば、防衛力の抜本強化ではNATO並みのGDP比2%目標や、5年間で防衛費の総額を43兆円とするなどの大枠を示したことで、党内の騒ぎは収まったことなどを挙げる。

別の側近は「安倍元首相や小泉元首相は対立軸をつくり、上手に政権運営を進めた。一方、岸田首相の政治は、政策を複数、同時並行に進め、仕事や権限を移譲する別の政治手法なので、わかりにくいのかもしれない」と釈明する。

これに対し、別の自民党の閣僚経験者は「岸田政権の政策決定は、切羽詰まった段階になって首相が独りで登場、党の主要幹部に掛け合い、何とかまとめ上げているのが実態だ。もっと目標やビジョンを早い段階で打ち出し、党内議論を活発にして政策を決めるべきだ」と注文をつける。

私自身の見方は、後者に近い。例えば、防衛力強化の計画と財源確保に増税する方針は決まったが、増税の実施時期は年末の税制改正まで先送りになった。党内には増税に異論があり、さらに1年先送りになる可能性もある。

今年の年明けには唐突に、異次元の少子化対策が打ち上げられ、その後、児童手当を所得制限なしに拡充するなどの方針が決まった。但し、財源の具体策については、これも年末の予算編成まで先送りになった。

このように政策転換が次々に打ち出されるのだが、肝心の財源の扱いは先送りとなり、政策が完結しないまま、次の政策が積み重なっていく形になっている。

別の表現をすれば「政策の核心部分」があいまいで、全体像がはっきりしない。政権が変われば、政策が白紙に戻ったり、場合によっては国民に負担増となって跳ね返ってきたりすることも起こりうる。

したがって、特に政権の看板政策については、全体像を明確にし、政策を完結させたうえで、国民に説明し理解を求めるべきだ。この点が、岸田政権には欠けている。

 解散より”中期の展望・構想を語れ”

さて、秋の臨時国会が10月20日に召集されることが、ようやく固まった。岸田首相は、10月末までに新たな経済対策をまとめたうえで、裏付けとなる補正予算案を国会に提出する考えを明らかにした。

問題は、その後の展開で、与野党の間では「岸田首相は年内の解散を考えているのではないか」との憶測が消えない。来年秋の自民党総裁選での再選を確実にするため、野党の選挙態勢が整わないうちに選挙を仕掛けるのではないかとの見方だ。

安倍政権時代にも2014年や2017年の「不意打ち解散」「けたぐり解散」といわれた想定外の解散・総選挙はあった。今回もないとは言えないが、可能性としてはかなり低いのではないか。

その理由は、冒頭に触れたように岸田内閣の支持率が低すぎ、国民の信頼を得ていないので、選挙のリスクが大きい。また、仮に解散に踏み切った場合、2014年のように年末選挙となり、新年度の予算編成は越年、予算の成立は4月以降にずれ込む可能性が高い。

国民の関心は、1年以上も続く物価高騰や、実質賃金の目減りが16か月も続く中で、家計をいかに守っていくかにある。そうした時期に解散に踏みきり、国民の多数の支持を得るのは難しい。手痛いしっぺ返しや鉄槌を下されるのではないか。

岸田首相は、解散より他にやるべきことは多い。まずは、補正予算案の編成のねらい・目的をはっきりさせて欲しい。コロナも落ち着き、選挙目当ての大盤振る舞いをするようなときではない。

それよりも1ドル150円寸前の円安が続く中で、いつまで金融緩和政策を続けるのか。実質賃金をプラスに転換するために今後の経済・財政運営の大方針を明確に示すことが求められている。

さらに岸田首相には「中期の政策の展望や目標」を語って欲しい。政権発足時に掲げた「新しい資本主義」はどうなったのか。首相として、何をやりたいのか、目標を明確にしてもらいたい。

まずは、今月20日に召集される臨時国会の冒頭で、岸田首相が3年目に入った政権の目標と道筋を明確に打ち出せるのかどうかを注視していきたい。(了)

 

補正予算案と年内解散説のゆくえは

岸田首相は26日の閣議で、新たな経済対策を10月末をめどにとりまとめるよう各閣僚に指示した。

とりまとめにあたっては、緊急課題の物価高対策や賃上げ促進だけでなく、半導体などの国内投資や人口減少対策、それに防災対策など国民の安心・安全確保の5つの柱を挙げており、内容は多岐にわたる。

これを受けて、政府、与党はそれぞれ具体策の検討に入っているが、どこまで効果のある対応策を打ち出せるかが問われる。

また、対策実現の裏付けとなる補正予算案の規模が大きな焦点になる。コロナ禍では補正予算案の規模が膨張したが、感染も収まっているだけに「平時の予算編成」に戻るのか、それとも大盤振る舞いが続くかも注目点だ。

さらに、今回は岸田首相が、補正予算案の国会提出時期に言及しないことから、与野党の間では「岸田首相は、年内解散を考えているのではないか」との憶測が消えず、疑心暗鬼を生んでいる。解散・総選挙をめぐる思惑が経済対策づくりにも影響を及ぼしそうだ。

そこで、補正予算案の扱いと年内解散説との関係をはじめ、今後、どのような展開になり、何がポイントになるのか探ってみたい。

 秋の臨時国会、想定される2つの道

さっそく、政治日程から見ていきたい。秋の臨時国会は10月中旬に召集される見通しで、冒頭に岸田首相の所信表明演説と各党の代表質問、それに内閣改造を受けて、岸田政権の政権運営をめぐって与野党の論戦が続く見通しだ。

10月末に経済対策がまとまれば、補正予算案の編成作業が進められ、11月中旬以降には終わる見通しだ。通常であれば、補正予算案の国会提出を受けて、衆参両院で予算審議を行い、11月下旬から12月上旬までに成立するのが通常のパターンだ。

ところが、もう一つ別のパターンも想定される。政府・与党は、新たな経済対策をとりまとめて国民にアピールした後、補正予算案の提出を見送り、衆議院の解散・総選挙に打って出るケースだ。

わかりにくい方もいると思うので、似たような過去の例をあげると、2014年11月の安倍政権当時の「不意打ち解散」がある。当時、安倍元首相は11月18日に急遽記者会見し、翌年10月から予定されていた消費税率10%への引き上げを先送りして、21日に衆議院を解散して信を問う意向を表明した。

予定通り衆議院は解散され、総選挙は12月2日公示、14日投開票の日程で行われた。「不意打ち解散」とも言われたように、野党側は選挙態勢が整わず、自公両党の与党側が大勝した。

但し、年末選挙になった関係で、予算編成は年を越え、年明けの通常国会に補正予算案と新年度予算案が提出された。新年度予算案は年度内には成立せず、暫定予算を成立させたあと、本予算の成立は4月にずれ込む影響が出た。

このように補正予算案を編成し、そのまま国会に提出して成立させる道と、もう1つ、補正予算案の提出を見送り、解散に打って出る道もある。後者は、王道と言えないと思うが、政治の世界は何が起きるか、わからない。

 経済対策の評価と内閣支持率がカギ

それでは、今回、岸田首相はどのような選択をするだろうか。安倍元首相が「不意打ち解散」に踏み切った時、安倍内閣の支持率と、自民党の政党支持率はともに高い水準を保っていた。安倍政権の経済政策「アベノミクス」が追い風となっていた。

これに対して、岸田政権の場合、9月の報道各社の世論調査をみると、内閣改造を行った後も岸田内閣の支持率は横ばい状態で、上昇効果は見られなかった。支持率より、不支持率の方が上回る逆転状態が続いている。

自民党の政党支持率も岸田政権発足以降、最も低い水準だ。衆議院の比例代表選挙の投票先としても、30%を下回る水準に止まっている。

以上のような状況でも自民党内の一部には「年を越えても岸田政権に好材料が見当たらないこと」。また「野党の選挙態勢が遅れている年内に解散に踏み切った方が有利だとして、年末解散をめざすべきだ」という意見がある。

一方で、自民党内には「世論の支持が得られていない状況では、年内解散は行うべきではない」という慎重論も聞かれる。

岸田首相としては、前回衆院選から10月末で折り返し点に達することから、年内も含めて、解散・総選挙に踏み切る時期を探っているものとみられる。

但し、年内解散のためには、10月22日に行われる衆議院長崎4区と、参議院の徳島・高知選挙区の補欠選挙はいずれも自民党の議席だっただけに、両方とも勝ち抜くことが早期解散の必須条件との見方が党内では根強い。

また、岸田内閣の支持率が大幅に改善しないと「年内解散は無理」との見方が広がりそうだ。このため、年内解散のハードルはかなり高いとみられる。

最終的には、10月末にまとまる政府・与党の新たな経済対策がどのような評価を受けるか。そして、岸田内閣の支持率も大きく改善するかどうか。この2つの評価で、補正予算案の扱いと年内解散のゆくえを占うことができそうだ。(了)

 

 

“政権浮揚効果見えず”岸田改造内閣

先の内閣改造と自民党役員人事を受けて、報道各社が行った世論調査の結果がまとまった。岸田内閣の支持率については、先月を上回った調査もあったが、前回と同じか、横ばいの水準に止まる結果の方が多かった。

また、人事全体の評価については、いずれの調査とも「評価しない」が「評価する」を大幅に上回った。

世論調査のデータからは、与党が期待していたような「政権浮揚効果」は見られず、岸田改造政権は厳しい出発になる。

また、秋の衆院解散・総選挙についてもハードルがさらに高くなったと言えそうだ。なぜ、こうした見方になるのか、以下、説明していきたい。

 人事の評価は低調、支持率も低迷続く

さっそく、報道各社の世論調査から見ていきたい。まず、岸田内閣の支持率については、◇共同通信は39.8%で、先月の調査より6.2ポイント増、◇朝日新聞は37%で、4ポイント伸びて微増となった。

一方、◇読売新聞は35%、日経新聞は42%で、それぞれ先月と同じ水準だった。◇毎日新聞は25%で1ポイント減、ほぼ横ばいとなった。

一方、今回の内閣改造と自民党役員人事全体の評価については、◇読売の調査では「評価する」が27%に対し、「評価しない」が50%だった。◇朝日の調査は、改造内閣の評価を聞いており、「評価する」が25%に対し、「評価しない」が57%だった。

このほかの調査結果も「評価する」より「評価しない」方が大幅に上回り、同じ傾向を示している。

この2つのデータを基に判断すると、今回の内閣改造と自民党役員人事については、国民の評価は低く、政権与党が期待したような内閣支持率を大幅に引き上げる「政権浮揚効果」は見られなかったと言える。

 内輪の人事、何をしたい人事か不明

それでは、なぜ、このように国民の評価が低いのか。岸田首相は、改造直後の記者会見で「変化を力に変える内閣」と位置づけ、「変化を力として、閉塞感を打破していく。強固な実行力を持った閣僚を起用した」と胸を張った。

国民からすると、内閣の要の官房長官や財務相、経産相などの主要閣僚と、党の副総裁、幹事長、政調会長は軒並み留任。変化と言えば、初入閣が11人、女性閣僚が過去最多と並ぶ5人となった点だが、刷新感はなく、強固な実行力も感じられないというのが率直な印象だろう。

また、2日後の副大臣と政務官合わせて54人の人事を見て驚いた国民も多かったのではないか。女性の起用はゼロ、全員男性だった。女性の閣僚を多数起用し、「女性活躍」を訴えた方針は、早くも看板倒れの形になった。

今回の人事をめぐっては与野党双方から、岸田首相が来年秋の総裁選での再選をねらった内向きの人事との声が聞かれる。自民党の長老に聞いても「初入閣が多いのはいいが、国民には何をやる内閣かさっぱり、伝わらないのではないか」と指摘する。

初入閣の中には、旧統一教会との接点があるとされる閣僚が4人含まれており、秋の臨時国会では、野党側から厳しい追及を受けることが予想される。

世論の評価や期待度が低いことは、政権の政策を後押しする力が弱いことにつながる。内外に数多くの懸案・課題を抱えている中で、政権が一丸となって、難局を乗り切っていく体制を整えられるのかどうか、早々に試される。

 秋の衆院解散、困難との見方強まる

秋の政局の焦点になっている衆院解散・総選挙の時期について、影響はどうだろうか。まず、自民党の一部にあった秋の早期解散シナリオは、困難とみられる。

早期解散シナリオとは、内閣改造で支持率を回復させたうえで、大型の経済対策と補正予算案を編成し、臨時国会に提出して早期の解散に打って出るというものだ。しかし、前提となる政権の浮揚効果がみられず、構想の実現は困難だ。

それでも自民党内には、年を越えると「追い込まれ解散」の恐れがあるとして、年末の解散・総選挙に踏み切るべきだという意見もある。岸田首相は、こうした年内解散を含めて、解散の時期を探るものとみられる。

このため、10月中旬に召集される見通しの臨時国会の攻防が、焦点になる。岸田政権は、物価高騰対策を含めた経済対策をまとめ、その裏付けとなる補正予算案を提出し、支持率を回復させ、政局の主導権を確保したい考えだ。

これに対し、野党側は、旧統一教会との接点がある閣僚の適格性をはじめ、マイナンバーカードの総点検の状況と保険証の今後の扱い、物価高騰対策の遅れや、経済運営の基本方針が定まっていないとして、政府の姿勢を追及する構えだ。

一方、朝日の世論調査では、政党の支持率が自民党は28%で、3か月連続で30%を切ったほか、衆院選挙の比例代表の投票先も31%に止まっている。野党側の投票先では、維新が14%、立憲民主党が11%などとなっており、こうした選挙情勢も岸田首相の解散戦略に影響を及ぼすので、注意が必要だ。

以上みてきたように改造人事では、政権の浮揚効果が見られなかったことで、秋の政局は、臨時国会での与野党の攻防が焦点になる。

世論調査のほとんどで、岸田内閣の支持率は、支持より不支持率が上回る逆転状態が続いている。臨時国会で、岸田政権が主導権を確保し、内閣支持率も回復するのか、それとも野党攻勢の国会になるのか、大きなポイントになる。(了)

“総裁再選ねらいの布陣”岸田政権 改造人事

岸田首相は13日、内閣改造と自民党役員人事を行い、新たな体制をスタートさせた。岸田政権の組閣と改造は、今度で3回目になるが、今回の人事をどのように見たらいいのだろうか。

結論を先に言えば、今回の人事は、2つの大きな特徴がある。1つは、岸田首相は来年秋の自民党総裁選をにらんで、その布石を打った人事であるという点。

2つ目は、初入閣が11人と多く、女性閣僚も過去最多の5人に上る。これは、低迷する内閣支持率を改善し、政権の浮揚へとつなげるねらいがある。

但し、こうしたねらいが功を奏するかどうか。自民党の長老は、短期間で支持率上昇などは期待しない方がいいし、秋の解散・総選挙もハードルが高いと指摘する。人事の背景や、岸田政権の政権運営に及ぼす影響などを探ってみた。

 総裁選へ体制固め、けん制と封じ込め

今回の内閣改造と自民党役員人事について、自民党関係者に聞くと「岸田首相は、茂木幹事長の処遇に迷っていた。最終的には、茂木氏に代わる適任者が見当たらずに留任を選択したのではないか」との見方を示す。

今回の人事では、自民党のNo2である幹事長の扱いをどうするかが、最大の焦点だった。「岸田首相は、幹事長を代えたいと考えている」として、茂木氏を幹事長から外し、内閣の重要閣僚として処遇する案が一時浮上した。

また、幹事長候補として、鈴木財務相や、小渕優子組織運動本部長、森山選対委員長や萩生田政調会長などの名前が浮かんでは消えた。

これに対し、茂木幹事長は入閣には難色を示したといわれる。また、茂木氏交代の場合、今の岸田・麻生・茂木の3派体制が崩れ、政権運営が不安定になるといった指摘も出され、岸田首相は最終的に茂木氏続投を決めたとされる。

但し、茂木氏留任とともに、総務会長に森山選対委員長を配置し、その後任に小渕優子氏を抜擢した。小渕氏は将来の首相候補の一人とも目されており、岸田首相は、茂木氏をけん制するねらいもあって起用したものとみられている。

一方、前回の総裁選に立候補した河野デジタル担当相と、高市経済安保担当相も退任説があったが、留任となった。閣内に止めた方が得策との判断があったものとみられる。

さらに、岸田首相は、安倍派の萩生田政調会長と人事の直前、2回も会談するなど安倍派重視の姿勢を示した。「5人衆」とも呼ばれる幹部は、いずれも同じポストにそのまま止まり、派閥としては最も多い4人が入閣した。

今回の人事は「総主流派体制」とも言われるが、実態は、岸田首相が来年の総裁選での再選をにらんで、ポスト岸田の候補をけん制したり、閣内に封じ込めたりする布陣とした点に大きな特徴がある。

 主要閣僚は留任、女性閣僚は過去最多

閣僚人事については、首相を除く19人の閣僚のうち、13のポストが入れ替わった。このうち、11人が初入閣で、女性の閣僚は5人にのぼり、2001年の小泉内閣や、2014年の安倍改造内閣と並んで過去最多となった。

女性閣僚では、上川陽子元法相が外相に就任したほか、子ども担当相に加藤紘一元幹事長の長女の鮎子氏が抜擢され、話題になっている。

一方、松野官房長官をはじめ、鈴木財務相、西村経産相、河野デジタル担当相、高市経済安保担当相、斉藤国交相の主要閣僚6人は留任し、内閣の骨格はそのまま維持される形になった。

派閥の内訳は、最大派閥の安倍派と第2派閥の麻生派が最も多い4人で、続いて岸田派と二階派が2人、谷垣グループが1人、無派閥が2人で、公明党はこれまでと同じ1人だった。各派閥に目配りをした「総主流派」で、党内の安定した運営を重視する姿勢が読み取れる。

改造内閣発足を受けて、岸田首相は13日夜、記者会見し、今回の人事について「『変化を力にする内閣』だ。経済、社会、外交安全保障の3つを柱に取り組んでいく」とのべるとともに、物価高などの経済対策を来月中をメドにとりまとめる考えを表明した。

また、衆議院の解散時期について問われたのに対し「今は、経済対策を作り、早急に実行していくことを最優先に日程を検討していく」とのべ、言及を避けた。

 改造人事、解散時期も世論の評価がカギ

これからの岸田政権の運営の取り組み方について、自民党の長老に聞いてみた。「女性の閣僚を多数起用したが、これで直ちに内閣の支持率が上がるとは思えない。初入閣の閣僚も多いので、まずは、内外の多くの課題にじっくり腰を落ち着けて、取り組みを進めるべきだ」と指摘する。

そのうえで、「内閣支持率がジワジワと上がっていくことをめざした方がいい。一定の成果が出ないうちに、解散・総選挙とはならないのではないか」とのべ、年内の衆院解散・総選挙は難しいとの見方を示している。

これに対して、自民党内には、野党の選挙態勢が整わないうちに早期解散に踏み切るべきだという意見もあり、岸田首相がどのような判断を示すかが焦点になる。

問題は、国民が今回の岸田政権の人事や政策をどのように評価するかだ。改造直前に行われたNHK世論調査(8~10日実施)によると、岸田内閣の支持率は36%に対し、不支持率は43%で、支持率を上回った。不支持の理由は「政策に期待が持てない」と「実行力がない」が7割を占める。

今回の改造で、内閣支持率がどうなるか。また、来月には、秋の臨時国会が召集される見通しだ。政権与党と、野党側が多くの懸案について、真正面から突っ込んだ議論を戦わせてもらいたい。

その結果で、衆議院の解散・総選挙の時期や是非などについても、一定の方向が見えてくるのではないかと予想している。(了)

秋の政局 見方・読み方”3つの焦点”

この夏は異常な猛暑が続いているが、暦は9月に入り、今年も残すところ4か月になった。5月のG7広島サミットでは存在感を発揮した岸田首相も今は、内閣支持率が政権発足以降、最低の水準まで落ち込み、厳しい局面が続いている。

さて、秋の政治はどう展開するのか?結論から先に言えば、3つの点がカギを握るとみる。1つは内閣改造・自民党役員人事。2つめは政権が抱える難題処理、3つめが衆院解散・総選挙のゆくえだ。この3つの焦点を軸に秋の政局を読み解きたい。

 内閣改造人事、政権浮揚か空振りか

最初に秋の主な政治日程を駆け足で見ておく。9月は外交日程がたて込んでおり、岸田首相は5日から11日までの日程で、インドネシアで開かれるASEAN関連首脳会議と、引き続いてインドで開催されるG20サミットに出席する。

この後、9月中旬に開幕する国連総会にも出席して演説を予定している。9月末には、自民党役員の任期を迎えるので、外交日程の合間をぬう形で9月中旬か、あるいは月末に内閣改造・自民党役員人事を行う見通しだ。

10月には秋の臨時国会が召集され、物価高と経済対策を盛り込んだ補正予算案が提出される見通しだ。10月22日には、衆議院長崎4区と参議院徳島・高知の統一補欠選挙が行われる。

11月末には、マイナンバーカードのトラブルをめぐって、総点検の完了の期限を迎える。12月は、来年度の税制改正や予算編成作業が本格化する。このように年末に向けて、内外の主要な日程がたて込んでいる。

岸田首相にとって、政治日程でもう1つ大きな意味を持つのは、10月初めで政権発足から丸2年が経過、自民党総裁任期満了まで1年を残すだけとなる。また、衆議院議員の任期の折り返しを迎え、衆議院の解散・総選挙の時期が視野に入ってくる。

以上の政治日程などから、岸田政権としては、9月に内閣改造・自民党役員人事に踏みきり、低迷している内閣支持率を反転させたい考えだ。そのうえで、年内に衆議院の解散・総選挙を断行するタイミングを探り、来年秋の自民党総裁選での再選につなげていくのが基本戦略だ。

そこで、内閣改造・自民党役員人事が政権浮揚につながるかどうか注目される。自民党の閣僚経験者は「岸田政権の運営は手詰まりの状況にあり、思い切った政策とそのための新たな布陣を打ち出せるかがカギだ」と語る。

与党内の関心は、岸田首相が党運営の要である茂木幹事長の交代に踏み切るかどうかだ。岸田首相と茂木幹事長とは、潜在的なライバル関係にあることや、自公関係を安定させるうえで「岸田首相は茂木氏を代えたがっている」との声も聞く。

これに対し、岸田首相は対応に迷っており、「今の岸田派、麻生派、茂木派の主流3派体制を維持してバランスを保つことが、政権の安定につながる」として、最終的には茂木氏の続投を選択するのではないかとの見方も根強い。

内閣の顔ぶれでは「松野官房長官や、林外相、西村経産相など主要閣僚は続投するのではないか」といった見方が強く、「人事の刷新は期待薄」といった声が早くも聞かれる。

自民党の長老に聞くと「岸田首相は、新たな人材も起用して力のある政権をめざしているが、具体的な人材となると適任者が見当たらない。改造で支持率が上がることもあるが、現実には上がらないのではないか」と厳しい見方を示す。

改造人事で、政権浮揚効果は現れるのか、それとも空振りに終わるのか、その結果が秋の政治のゆくえを左右する。

 難題処理の具体策と道筋、実行力は

2つめの焦点は、政治課題の問題だ。今年の5月以降、相次いだマイナンバーカードをめぐるトラブルについて、岸田政権は8月4日に新たな対応策を打ち出した。

焦点の健康保険証の廃止は、来年秋に廃止する方針を当面維持する一方、マイナ保険証を持たない人には、資格証明書の発行で、不安解消に努めるという内容だ。

そして、11月末まで総点検の作業を続け、その結果をみたうえで、健康保険証廃止の方針を改めて判断することにしている。

次に、東京電力福島第1原発の処理水を海に放出する問題については、岸田首相が放出に反対の全漁連の代表と面会するなどの調整を経て、8月24日に処理水の放出を開始した。

これに対して、中国政府は「汚染水」との表現で、こうした放出に強く反発し、日本産海産物の輸入を全面的に停止する措置を打ち出した。

これに対し、政府は、即時撤廃を申し入れたが、中国側は応じる気配がない。政府は、9月上旬に開かれる国際会議の機会を通じて、岸田首相が中国の李強首相や習近平国家主席に働きかけるシナリオを描いているが、めどはついていない。

さらに、ガソリン価格の高騰が続いているのをはじめ、電気やガス料金の負担軽減措置が9月末に切れることから、物価高や経済対策を求める意見が、与野党や国民の間から強まっている。

このほか、岸田政権が打ち出した防衛増税の実施時期や、少子化対策の具体的な財源も先送りになっており、年末の予算編成で結論を出すことが迫られる。

このように岸田政権にとっては、内外の懸案が次々に積み重なる形になっている。いずれも難題で、どのような具体策と道筋で解決していくのか、政権の実行力が問われている。こうした懸案処理に一定の実績を上げないと政権の浮揚は困難だ。

 秋の衆院解散に高いハードル

3つめの焦点は、衆議院の解散・総選挙がどうなるか。ある閣僚経験者は「今のような内閣支持率の低さでは、とても解散を打てる状況にはない」との見方だ。

一方、与党内には「来年になっても政権に有利な材料は見当たらない。それなら、野党の準備が整っていない年内に行った方がいい」との意見も聞かれる。

自民党の長老の見方はどうか。「政権ができて2年になるが、残念ながら目に見える実績がない。政策も完結せず、道半ばだ。さらに政権として何をやりたいのか、国民に伝わっていない」と語り、解散のハードルは高いという見方だ。

岸田首相にとって与党内では、強力なライバルは見当たらず、最大派閥の安倍派も後継会長が決まらないことで、党内の主導権は発揮しやすい状況にある。但し、総選挙となると、国民の判断・反応が大きく影響する。

その世論の反応だが、NHKの8月の世論調査で岸田内閣の支持率は33%で、政権発足以降最低の水準だ。不支持率は44%で、支持を不支持が上回った。自民党の支持率も34%台まで下がり、岸田政権で最も低い水準になっている。

加えて、洋上風力発電をめぐる汚職事件で、外務政務官を務めていた秋本真利衆議院議員が検察当局から事務所の捜索を受けるなどの不祥事が相次いでいる。

岸田首相はこのところ、報道各社のぶら下がり取材に頻繁に応じ、懸案の取り組み方をスライドを用いて説明するなど情報発信を強めている。内閣支持率が低迷し、指導力を発揮していないなどの批判をかわす狙いがあるものとみられる。

これに対して、野党側は、岸田政権は内外の課題に有効に対応できていないとして、臨時国会では、岸田政権との対決姿勢を強める方針だ。

このように秋の政局は、臨時国会を舞台に岸田政権と野党側の攻防が一段と強まる見通しだ。与野党のどちらが主導権を握るのか、それによって年内解散があるのか、それとも来年以降へ先送りになるのか、決まることになる。(了)

岸田内閣支持率最低”秋の解散困難か”

政界は夏休みがまもなく終わり、秋の政局に向けてのが動きが始まる。こうした中で、NHKの8月の世論調査の結果が14日にまとまった。

今回の調査では、2つの点を注目していた。1つは、マイナンバーカードをめぐる問題について、政府が先に打ち出した新たな対応策がどのように評価されたか。2つめは、岸田内閣の支持率で、政権の求心力や体力がどの程度あるかだ。

結論を先に言えば、マイナンバーカードの対応策への評価は低く、岸田内閣の支持率も政権発足以来、最も低い水準となった。

この世論調査のデータを基に予測すると、岸田首相が秋に衆院解散・総選挙に踏み切るのは、かなり難しい情勢にあると言えそうだ。なぜ、こうした結論になるのか、以下、説明したい。

 マイナ新対応策「評価しない」が6割

さっそく、マイナンバーカードをめぐる問題からみていきたい。マイナンバーカードに健康保険証をひもづける問題をめぐっては、他人の情報が誤って登録されるなどのトラブルが相次いだことから、政府は今月8日に総点検の中間報告と新たな対応策を発表した。

11月末までに保険証をはじめ、税や所得など29項目に及ぶすべての個別データについて、総点検を行い、その結果を公表するというのが主な柱だ。

今回の世論調査では、こうした政府の対応策の評価を尋ねている。その結果は、「評価する」は36%に対し、「評価しない」は57%で、大幅に上回った。

また、岸田首相は、来年秋に今の健康保険証を廃止する方針を当面、維持したうえで、マイナンバー保険証を持たない人すべてに「資格確認書」を発行して、国民の不安の払拭に努める。そして、総点検の状況次第では、廃止の延期を含め、必要な対応をとるという考えを明らかにした。

こうした保険証廃止の政府の方針について、世論調査の結果は「予定通り廃止すべき」が20%、「廃止を延期すべき」が34%、「廃止を撤回すべき」が36%となった。「廃止の延期」と「廃止の撤回」を合わせると、廃止反対が7割に達した。

マイナ保険証の問題をめぐって、政府の方針と、国民の評価には大きな開きがあることがはっきりした。国民の側は、今の保険証を来年秋に期限を区切って廃止することに大きな疑問を感じている。

加えて、今の保険証と変わらない「資格確認書」を発行することにどのような意味があるのか、強い不信感を抱いていることも読み取れる。政府の新たな対応策については、国民の支持が得られていないことが改めて浮き彫りになった。

 内閣支持率33% 政権発足以来最低

次に、2つめの注目点である岸田内閣の支持率に話を移したい。8月の内閣支持率は、先月の調査から5ポイント下がって33%だった。これは、去年11月と今年1月の調査と同じで、岸田政権発足後、最も低い水準になった。

一方、不支持率は45%で、先月に比べて5ポイント増えた。支持率を不支持率が上回る逆転現象で、先月に続いて2か月連続となる。

支持率が政権発足以来、最低となった理由としては、冒頭に取り上げたマイナンバーカードをめぐる相次ぐトラブルが大きく影響したものとみられる。

また、洋上風力発電をめぐり賄賂を受け取った疑いで、秋本真利衆議院議員が検察の捜索を受け、外務政務官を辞任し、自民党を離党した。資金提供は6000万円にものぼり、競走馬の購入などの費用にあてた疑いが持たれている。

さらに、自民党の松川るい女性局長がフランスで行った党の研修で、エッフェル塔の前で研修の参加者とポーズを取って映っていた写真をSNSに投稿し、「観光旅行だ」などと批判を浴びて陳謝する出来事も起きた。

こうした相次ぐ不祥事も支持率低下に影響したものとみられる。岸田内閣の支持率は、G7広島サミットが行われた今年5月には46%まで上昇したが、その後3か月連続で減少し、合わせて13ポイントも支持率を落とした。

 自民支持率低下、看板政策も低い評価

岸田内閣の支持率下落に関連して、もう1つ注目すべき点は、自民党の政党支持率低下も並行して減少している点だ。8月の自民党支持率は34.1%で、岸田政権発足以降、最も低い水準になった。

自民党の政党支持率は、安倍政権や菅政権でも30%台後半から40%程度と高い水準を維持してきた。内閣支持率が低下した場合も、自民党支持率は安定した水準を保ってきた。

岸田政権でも同じような傾向が続いていたが、今年1月以降は、自民党の支持率が緩やかながら低下傾向が見られるようになり、今年6月に35%台を切って岸田政権発足以降、最低を記録した。その状態が3か月連続で続いているのである。

つまり、内閣支持率と自民党支持率がともに低下する新たな傾向が表れ始めた。この理由は、世論調査のデータからははっきりしたことはわからないが、政権の求心力が低下しているのは間違いない。

個人的には、最近の自民党は、政府に対して党の存在感を発揮できるような場面がほとんどみられないので、政権の支持率低下にひきづられる形で党の支持率も低下しているとの見方をしている。

そのうえで、岸田内閣の支持層をもう少し、詳しく分析すると最も多い自民支持層のうち、岸田内閣を支持すると答えた人の割合は59%で、6割を下回った。

安倍政権時代は、7割台後半から8割前後の高い水準だったのに比べると、岸田政権では、自民支持層の支持離れが起きている。内閣支持率の低下は、不祥事などの影響もあるが、こうした政権基盤の弱体化が根本的な問題だ。

一方、岸田政権は、最も大きな集団である無党派層の支持が、2割程度と極めて低いのが特徴だ。さらに、70歳以上の高齢世代の支持は比較的高いが、それ以外の60代以下ではいずれの年代も「不支持」が5割に達し、「支持」を上回っている。

こうした無党派層や働き盛りの世代が重視するのは、政策だ。その岸田政権の政策については、防衛増税の実施時期をはじめ、異次元の少子化対策の具体的な財源などが、いつまでたってもはっきりしないことに対する批判が強い。

マイナンバーカードの問題についても今の保険証を廃止するのか、廃止を延期するのか、新たな対応策の方向すらはっきりしないことに不満も聞かれる。

岸田政権の看板政策は「内容が曖昧で、先送りが目立つ」という批判が根強く、こうした政策面の評価の低さが支持率の低下をもたらしている可能性が大きい。それだけに支持率の回復は時間がかかり、政権運営にあたって深刻な問題だ。

 秋の解散・総選挙は大きなリスク

最後に、秋の政局の最大の焦点である衆議院の解散・総選挙に及ぼす影響はどうか。岸田首相や政権与党の執行部は、衆議院議員の任期も10月には折り返し点を迎えることから、秋の解散・総選挙を有力な選択肢として模索するものとみられる。

しかし、これまでみてきたように内閣支持率は発足以降最低の水準で、しかも政権の看板政策について、国民の支持が十分に得られていない。このため、選挙の勝敗面からも、秋の解散・総選挙に踏み切るには極めて大きなリスクを伴うことが、今回の世論調査から読み取ることができる。

岸田首相が今後、どのような解散戦略を描いていくのか。それに対して、与野党がどのように対応していくのか、秋の政局に向けての動きがまもなく始まる。(了)

”真夏の地方行脚も険しい道”岸田首相

ヨーロッパ訪問に続いて中東3か国歴訪から帰国した岸田首相は、21日から全国各地へ足を運んで国民との対話を行う地方行脚をスタートさせる。

岸田政権の主要政策に国民の理解を得るとともに、秋の解散総選挙をにらんだ布石との見方もある。

華やかな首脳外交とは対照的に国内では、内閣支持率の急落と自民党支持率の低下傾向が表れているが、夏の地方行脚で政権浮揚は可能なのか、探ってみたい。

 首相”原点に立ち返り、国民の声を伺う”

中東3か国歴訪から19日に帰国した岸田首相は、今度は21日から栃木県を訪問するのを手始めに鳥取、島根、福岡などの各地を訪れ、視察や対話集会などに出席する予定だ。

岸田首相は通常国会が閉会した先月21日の記者会見で「今年の夏は再度、政権発足の原点、政治家・岸田文雄の原点に立ち返って、全国津々浦々の現場にお邪魔して、皆さま方の声を伺うことに注力していく所存です」と語っていた。

岸田首相は一昨年10月の政権発足直後に始めた「車座対話」を重視しており、少子化対策など政権の重要課題をテーマに国民との対話を再開して、政権の態勢立て直しを図りたい考えだ。

 内閣支持率急落、自民支持率も低下へ

その岸田首相を取り巻く情勢は、自ら「原点に立ち返る」といわざるを得ないほど厳しさを増している。それは、7月の報道各社の世論調査に表れている。

今月7日から9日に行われたNHK世論調査では、岸田内閣の支持率は38%で5か月ぶりに30%台に下落し、不支持率は41%に達した。自民党の支持率も34%で、他党に比べて高いものの、岸田政権発足以来最も低い水準となった。

今月15、16の両日行われた朝日新聞の世論調査では、岸田内閣の支持率は5ポイント減の38%、不支持率は4ポイント増の50%で半数に達した。自民党の支持率は28%まで低下し、安倍内閣がコロナ対応で苦しんだ2020年6月以来の低い水準だ。

このように報道各社の世論調査で岸田内閣の支持率は、いずれも不支持率が支持を上回る逆転状態となっている。自民党の支持率もこれまで堅調に推移してきたが、ここに来て岸田内閣の支持率低下が、自民党の支持率を押し下げる形になっているのも特徴だ。

こうした原因としては、マイナンバーカードをめぐる混乱が大きく影響している。政府の対応の評価について、NHKの調査では「適切だと思わない」が49%で、「適切だと思う」の33%を上回った。朝日の調査でも「評価しない」が68%を占め、「評価する」の25%を大きく上回った。

来年秋に健康保険証を廃止し、マイナンバーカードと一体化する政府の方針について、朝日の調査では「反対」が58%で、「賛成」の36%を上回った。

NHKの調査では「(保険証を)予定通り廃止すべき」は22%だったのに対し、「廃止を延期すべき」が36%、「廃止の方針を撤回すべき」が35%だった。「延期」と「撤回」を合わせると7割にも達した。

ここまでトラブルが発生しながら、岸田首相は河野デジタル担当相などに対応を事実上、丸投げし、その河野担当相は総点検の最中に2度にわたって外国訪問に出かける予定だ。

国民からすると、政府は真剣に取り組む気はあるのか、緊張感がなさ過ぎるとの受け止め方が読み取れる。内閣支持率の急落は、直接的にはマイナンバーをめぐる問題が大きく影響していると言って間違いないだろう。

 看板政策の低い評価を打破できるか

岸田内閣の支持率急落や自民党支持率の低下の背景としては、マイナンバーの問題もあるが、もう少し踏み込んで考えると岸田政権の看板政策への評価の低さと対応の問題が影響しているとの見方をしている。むしろ、問題の本質は、後者にあるのではないかとみている。

例えば、岸田首相が今年1月に打ち出した「次元の異なる少子化対策」。この少子化対策の評価については、NHKの世論調査では「期待している」は33%しかなく、「期待していない」が62%と多数を占める。

これは、子ども予算を年間3兆円台半ばまで増やすことは評価するものの、肝心の財源確保の具体策が明らかにされていないことが影響しているものとみられる。将来、社会保険料などの負担増で自らの生活に跳ね返ることがあるからだ。

また、防衛費の増額についても、政府の説明は「十分だ」は16%に対し、「不十分だ」が66%を占めた。3月時点の調査結果だが、防衛増税の開始時期は未だに決まらず、年末の予算編成まで先送りになったままだ。

さらにマイナンバー制度の推進、これも岸田政権の看板政策だ。ところが、こうした政権の看板政策への対応については、いずれも国民の評価が低く、異例の状態といえる。

特に国民に不人気な増税や負担増の問題はとにかく避けたいという姿勢が目立つ。これに対して、今は、国民の賃金引き上げや投資の拡大を最優先にすべきだという擁護論もあるが、政権としてもそのように考えるのであれば、堂々と訴えるのが本来の姿だ。

岸田首相は「丁寧に説明する」「真摯に対応する」と繰り返すが、説明の中身はほとんど同じで、結論も変わらないことが多い。「糠に釘、暖簾に腕押し」などの受け止め方が広がり、国民の側に岸田政治に対する期待感の低下があるのではないか。

したがって、岸田首相が問われているのは、将来のあるべき姿を示して、国民に真正面から説明、不人気な政策でも国民を説得していく姿勢が求められているのではないか。今度の地方行脚では、そうした政治姿勢を打ち出せるかが問われていると考える。

政界では、岸田首相は秋の解散・総選挙に打って出るのではないかとの見方は根強くある。しかし、今のような内閣支持率の低迷が続いている状態では、とても衆院の解散は打てないのではないかとみている。

岸田首相のこの夏の地方行脚は、秋の解散風が本物になるかどうかの判断材料としても注視している。(了)

風向き変わる岸田政権、5か月ぶり不支持率が逆転

先の通常国会の最終盤では一時、岸田首相が衆議院の解散・総選挙に踏み切るのではないかとの情報が飛び交い緊迫した場面もみられたが、先送りとなった。政界は今、国会が閉会し一段落しているが、各党とも秋の解散に備えた準備に余念がない。

政治の焦点は、マイナンバーカードをめぐる混乱への対応と、秋の解散・総選挙のゆくえに移っている。こうした中で、NHKの7月の世論調査がまとまった。

それによると岸田内閣の支持率は2か月連続で下落し、5か月ぶりに支持率を不支持率が上回り、逆転したのが大きな特徴だ。

岸田内閣の支持率は、回復基調にあったが、世論の風向きが下降局面へと変わりつつある。こうした世論の変化の背景や、岸田政権が対応を迫られている課題などを分析してみたい。

 回復基調から、不支持が増え逆転

さっそく、NHK世論調査(7月7日~9日)の7月のデータからみておきたい。岸田内閣の支持率は38%で、先月から5ポイント下落した。不支持率は41%で、先月から4ポイント増えた。

支持率の下落は2か月連続で、支持率を不支持率が上回って逆転するのは、今年の2月以来、5か月ぶりになる。

岸田内閣の支持率は、今年1月の33%を底に上昇が続き、5月の46%まで回復基調にあった。ところが、6月、7月と2か月連続で下落し、世論の風向きが変わりつつある。

岸田内閣の支持層をみると、与党支持層のうち、岸田内閣を支持する割合は、7割を下回った。無党派層の支持は18%で、岸田内閣発足以来、最も少ない状況だ。

政権を支える与党支持層と、最も大きな集団である無党派層の支持がいずれも低下しており、政権に勢いがみられない。

一方、岸田内閣を支持しない理由としては「政策に期待が持てないから」が46%で最も多く、次いで「実行力がない」が22%を占める。

このうち、「実行力がない」は先月より5ポイント増えた。これは、マイナンバーカードをめぐるトラブルが相次いでいることが影響しているためとみられる。

 健康保険証の廃止方針、反対が7割も

そのマイナンバーカードをめぐる問題だが、相次ぐトラブルを受けて、政府は秋までに専用サイトで閲覧できるすべてのデータの総点検を行う方針を打ち出した。

こうした政府の対応について、世論調査の結果は「適切だと思う」が33%に対し、「適切だと思わない」が49%で上回った。

また、政府が、来年秋に今の健康保険証を廃止し、マイナンバーカードと一体化させるとしている方針については「予定通り廃止すべき」は22%。「廃止を延期すべき」が36%で、「廃止の方針を撤回すべき」が35%となった。

つまり、政府の廃止方針を支持している人は2割に止まり、健康保険証の廃止の延期や、撤回を求める人が合わせて7割を占める結果となった。

さらに、政府が今後3年をかけて年間3兆円台半ばの予算を確保して、児童手当の拡充などに集中的に取り組むとしている少子化対策についても「期待する」は33%に対し、「期待していない」が62%と倍近くに達している。

この理由についての質問項目はないが、少子化対策の具体的な財源確保について、政府は曖昧にしたまま、年末まで先送りしている。こうした政府の対応に対する国民の不信や不満が影響しているものとみられる。

このように岸田内閣の支持率低下は、第1にマイナンバーカードの問題に対する政府の対応策について、国民の多くが疑問や不安を抱いていることが大きく影響しているものとみられる。

もう1つは、少子化対策に代表されるように岸田政権は、大胆な歳出増を伴う政策を次々に打ち出すが、政策の裏付けとなる財源確保などの核心部分が曖昧で、説明も不十分だと受け止めていることが影響しているとみられる。

岸田政権は、こうした主要政策の内容を明確にするとともに、国民に対して説明を尽くす姿勢を打ち出さないと、国民の支持を回復することは難しいのではないかとみている。

 政権の浮揚策、秋の解散も高いハードル

それでは、秋の政局の焦点になっている衆院解散・総選挙のゆくえはどのようになるだろうか。

政府・与党内では、岸田首相は外交日程などをこなした上で、9月中旬を軸に内閣改造・自民党役員人事を行うとの見方が示されている。そして、内閣支持率や選挙情勢などを見極めた上で、秋の解散・総選挙選挙も選択肢として検討しているのではないかとの観測もある。

その際、各党の支持率が問題になるが、7月の自民党の支持率は34.2%で、他の党に比べて優位にある。但し、今年に入って自民党の支持率は低下傾向が続いており、7月は岸田政権発足以来、最も低い水準だ。

また、自民、公明両党は東京の選挙区調整をめぐって対立が続いており、両党の選挙協力が完全に修復できるのかも不安材料として残されている。

一方、野党側では、次の衆議院選挙で野党第1党をめざしている日本維新の会の支持率が5.6%で、立憲民主党の5.1%を上回っている。維新の支持率が上回るのは3か月連続だが、その差は次第に縮小しており、野党間の戦いも激しさを増す見通しだ。

さらに、岸田首相が秋の解散・総選挙を断行する際には、内閣支持率の上昇が不可欠だが、政権浮揚の有力な材料を見いだせているわけではない。

むしろ、焦点のマイナンバー問題がどのような形で決着がつくのか。また、内閣改造と自民党の役員人事が国民からどのよう評価を受けるのか。さらには、与野党の選挙情勢がどのようになるのか不透明な要素が多く、秋の解散・総選挙のハードルはかなり高いとみている。(了)

 

 

“主軸なき政権”安倍氏死去1年

安倍元首相が選挙応援演説中に銃撃され、死去した事件から、7月8日で1年を迎える。

安倍元首相は憲政史上最長の通算8年8か月にわたって政権を担当、退陣後も様々な発信を続けていた。

安倍氏の死去は、岸田政権にどのような影響を及ぼしたか。また、これからの岸田政権や日本政治は何が問われることになるのか、探ってみたい。

 中心軸みえない政治、自民党の構造問題

さっそく、安倍元首相死去の影響から、みていきたい。あるベテラン国会議員は「政界の風景、空気が大きく変わった。安倍政治がいい、悪いは別にして、まったく別の世界になった感じがする」と語る。

安倍元首相は2020年に政権を退いた後、自らの派閥の会長に就任し、自民党の右派を代表する形で、さまざまな発信を続けた。これに対し、岸田首相はもう一方の柱として、安倍氏の協力を求めながら政権運営に当たった。2つの点が中心になって政権与党を運営するという岸田首相の「楕円の論理」だ。

ところが、安倍氏が死去したことで、自民党内の柱の1つが倒れたままで、新たな体制を作り直せなかったのが、岸田政権のこの1年ではなかったか。もう一方の柱である岸田首相の指導力も強いとは言えないので、政権の中心軸がみえない状態が続いたと言えるのではないか。

その結果、岸田政権は衆議院選挙に続いて、去年の参議院選挙にも勝利したものの、旧統一教会問題や閣僚の相次ぐ不祥事と更迭で、政権の安定が長続きしない。

今年3月になって、岸田首相のウクライナへの電撃訪問や、5月のG7広島サミットの成功で、支持率が回復した。

ところが、ここでも首相秘書官に抜擢した長男の軽率な行動や、マイナンバーカードをめぐるトラブルで足下をすくわれ、内閣支持率が急落し、政権の求心力が再び低下する事態に追い込まれている。

その自民党は、二階元幹事長や麻生副総裁ら党の重鎮も第一線でいつまでも活躍できる状況ではない。また、岸田首相の後継をめざす次の有力なリーダーも見当たらないのが実態だ。

「安倍長期政権時代に次のリーダーを育成しておくべきだった」と自民党関係者の声をよく耳にする。次の時代を担うリーダーをいかに確保していくのか、人材難が大きな構造問題として横たわっている。

 安倍派「5人衆」体制へ模索続く

次に安倍元首相の派閥、安倍派の新しい会長選びはどうなるか。これまでも去年の国葬が終わった時点、今年5月の派閥の資金集めパーティーなどの節目があったが、進展はみられなかった。

安倍氏の1周忌が近づいた6月30日、安倍派で「5人衆」と呼ばれる幹部が会談し、「5人衆」を中心とした体制への移行をめざす方針を確認した。顔ぶれは、松野官房長官、西村経産相、萩生田政調会長、高木国対委員長、それに世耕参議院幹事長だ。

これに対して、会長代理を務めている塩谷立氏や、下村博文氏らベテラン議員の間からは、反発する声も出ている。

一方、「5人衆」の体制移行が決まったとしてもそれぞれの役割分担をどうするかという難問を抱えている。◇萩生田氏を派閥の会長、総裁候補を西村氏にする分離案、◇萩生田氏と、世耕参議院自民党幹事長を共同代表にする案、◇総裁候補とは距離のある高木氏を会長にする案などが取り沙汰されているという。

7月6日に派閥の総会を開き、新体制について協議する予定だ。派閥に大きな影響力を持つ森元首相も「5人衆」の体制には理解を示しているといわれる。派内のベテラン組との調整が焦点だ。

安倍派は衆参100人の議員が参加する自民党の最大派閥だ。派閥の歴史と論理からすると、派閥の跡目争いは最後は次をめざす幹部の思惑が一致せず、分裂するケースが多い。

仮に、「5人衆」の集団指導体制がとられても自民党の総裁選や、衆院解散・総選挙といった大きな動きが近づくと、一枚岩の体制が崩れる局面が出てくるのではないかとみている。

 人事と実行力がカギ、解散は波乱要因に

最後に岸田政権とこれからの政治はどう動くか、みておきたい。まず、岸田首相は頼りなさそうに見えるが、政権を投げ出すような性格ではない。

また、自民党内には、ポスト岸田をねらう有力候補がいないことに加えて、反岸田の不満勢力をまとめ上げる幹部も見当たらないことから、来年の総裁選挙に向けては、岸田首相が相対的に優位な立場にある。

そこで、まず、注目されるのは、夏から9月にかけて行うとみられる内閣改造と自民党役員人事で、政権の体制強化につながるかどうかだ。

特に幹事長ポストは、政権与党の中心軸になるだけに、今の茂木幹事長の続投を認めるか、それとも別の幹部に差し替えるかがポイントだ。

また、衆議院の解散・総選挙をいつに設定するかも大きな問題になる。先の通常国会の最終盤で、岸田首相サイドは早期解散を模索したが、自民党側は冷静な反応が目立った。

秋の解散・総選挙といっても政権発足からまだ2年、タイミングを誤ると、与党側からも強い反発が予想され、政権が揺らぐ波乱要因にもなりかねない。

さらに、岸田政権については「何をやる政権か、未だにはっきりしない」などの声が与党からも聞かれる。防衛力の抜本強化や、異次元の少子化対策などを打ち出すが、肝心の財源は曖昧なままで、結論を先送りする手法にうんざり感も広がる。

政権が最優先で取り組む課題を設定して、実行していく力を示すことが必要だ。そうした取り組みを通じて、岸田首相が「安倍元首相なきあとの中軸」になれるかどうかが試されている。

つまり、人事と政策課題の実行力で、政権の求心力が高まるかが秋の政局のゆくえを左右する。

一方、報道各社の世論調査によると、自民・公明の連立政権を続けることに反対意見が半数を超えるようになった。野党についても、野党第1党の役割を立憲民主党より、維新に期待する人が多くなっている。

自民党の単独政権が終わったのが1993年。それ以降、連立政権の時代に入ってから今年でちょうど30年になる。国民は今の連立時代の政治に対して、限界を感じ、変化を求めているようにもみえる。

次の衆院解散・総選挙の時期は年内か、来年以降になるのかは不明だが、次の総選挙では、政権の姿や政治のあり方が、新たな論点の1つとして浮上してくるのではないかと予想している。(了)