補選は大接戦続く「岸田政治」が焦点

統一地方選挙後半戦の23日の投票日に合わせて行われる衆参5つの補欠選挙は、いずれも与野党激突の構図になっており、このうち4つの選挙区では、最終盤に入っても大接戦が続いている。

それぞれ個別の選挙区事情を抱えているが、最終的には有権者が、岸田政権の防衛力抜本強化や異次元の少子化対策などの主要政策をどのように評価するかが、勝敗のカギを握っている。

衆参5つの補選の最終盤の情勢と勝敗のポイント、選挙の争点を探ってみる。

 補選4選挙区 大接戦のまま投票日へ

衆参5つの補欠選挙について、与野党の選挙関係者などについて、選挙情勢を取材した。

結論を先に言えば、衆議院山口4区については、自民党の新人がリードしているが、残りの千葉5区、和歌山1区、山口4区、参議院大分選挙区の4つは、与野党が激しくぶつかり、大接戦のまま投開票日を迎えようとしている。

▲まず、千葉5区は、自民党の衆議院議員が「政治とカネ」の問題で辞職したのに伴う選挙だ。立憲民主党の新人で、元千葉県議会議員の矢崎堅太郎氏と、自民党新人で公明党が推薦する元国連職員の英利アルフィヤ氏が激しく競り合っている。

千葉5区は東京に通勤する住民が多い都市型選挙区で、無党派層の動向が勝敗を左右する。「政治とカネの問題」をはじめ、岸田政権が掲げる防衛力増強、異次元の少子化対策などの主要政策にどのような判断を示すかが焦点だ。

一方、野党陣営をみると立憲民主党、日本維新の会、国民民主党、共産党がそれぞれ公認候補を擁立しており、こうした野党乱立が選挙の勝敗にどのように影響するかもポイントになりそうだ。

▲和歌山1区は、自民党の元衆議院議員で、公明党が推薦する元国土交通政務官の門博文氏と、日本維新の会の新人で、元和歌山市議会議員の林佑美氏が激しく戦っている。

今回の補選は、この選挙区で5期連続当選を重ねてきた国民民主党の岸本周平元衆議院議員が知事に転出したのに伴う選挙だ。この選挙区で苦杯を重ねてきた門氏が、保守中道票をどこまでまとめきれるかがポイントだ。

林氏を擁立した維新は、前半戦の奈良県知事選で勝利するなど議席を大幅に増やした勢いを国政につなげていく戦略だ。大阪府の吉村知事や、奈良県の山下知事らを応援に投入、和歌山県で初の衆議院議席の獲得をめざしている。

▲岸信夫元防衛相の辞職に伴う山口2区は、岸氏の長男で、自民党新人の岸信千世氏と、元衆議院議員で民主党政権で法相を務めた無所属の平岡秀夫氏が争っている。

信千世氏は、岸信介元首相のひ孫で、祖父は安倍晋太郎元外相、伯父は安倍晋三元首相の政治一家で育ったことで知られる。分厚い保守地盤に加えて、看板、豊富な資金力を誇るが、「世襲批判」の声も強い。

当初は大差がつくのではないかとの見方もあったが、各種世論調査で平岡氏が激しく追い上げており、「世襲批判」の風がどこまで強まるか注目点だ。

▲安倍元首相の死去に伴う山口4区については、後継として擁立された自民党新人で公明党が推薦する元下関市議会議員の吉田真次氏が、立憲民主党の新人で元参議院議員の有田芳生氏をリードしていると与野党双方ともみている。

▲参議院大分選挙区は、前議員が知事選立候補のため辞職したのに伴う選挙だ。立憲民主党の前議員の吉田忠智氏を、自民党新人で公明党が推薦する飲食店経営の白坂亜紀氏が激しく追い上げている。

吉田氏は、共産党や社民党の推薦を受けており、野党共闘の形を整えて選挙戦に臨んでいる。村山富市元首相の出身県で、野党共闘の歴史を基盤に無党派層でどこまで支持を広げることができるかが課題だ。

白坂氏は東京の銀座などで飲食店を経営しており、公募に応じて立候補した。知名度を上げる一方で、自民党がどこまで組織的なテコ入れをして出遅れを挽回できるかが焦点だ。

このように山口4区を除く4つの選挙区は、いずれも与野党の候補が僅差で激しく競り合っている。選挙前は、自民が3議席、野党が2議席を占めていた。

5つの補選のゆくえは◆自民が競り勝って5戦全勝のケース、◆逆に野党が3勝2敗と勝ち越すケース、◆自民4勝1敗、◆自民3勝2敗の4つのケースが想定される。どのケースで決着がつくのか、今の時点で正確に見通すのは困難だ。

 選挙の争点「岸田政治」をどう評価

それでは、次に補選の争点は何かを考えてみたい。その前に補選の選挙戦に入った15日、岸田首相が選挙応援のため訪れた和歌山市の演説会場に爆発物が投げ入れられて、24歳の男の容疑者が逮捕される事件が起きた。

この事件が補選に影響を及ぼすのかどうかをみておきたい。読売新聞は14日から16日に実施した世論調査で、岸田内閣の支持率が47%へ5ポイント上昇したと報じるとともに、支持率上昇は今回の事件が影響した可能性があるとの見方を示している。

政界でも選挙戦で与党に有利に働くのではないかとの見方がある。但し、読売の調査では、自民党の支持率は上昇せず1ポイント下がっている。

自民党の複数の選挙関係者に聞いてみたが、いずれも「個別の選挙に直接、影響を及ぼすようなことはないのではないか」との見方だった。

その理由としては「有権者は、容疑者の人柄や犯行の動機に関心はあるが、選挙の選択とは分けて考えているのではないか」との見方だった。私も基本的に同じ見方だが、選挙結果が判明した段階で改めて点検してみたい。

さて、選挙の争点は何か。選挙区によって、個別の問題などの違いはあるが、与野党とも今回の補選は、発足からまもなく2年を迎える岸田政権の「中間評価」になると位置づけている。

有権者としても、岸田政権が進めてきた政策の是非を評価、判断する機会になる。具体的には、原油高騰などに伴う物価高対策、賃金の引き上げ、新しい資本主義といった経済政策のかじ取りは適切か。

また、岸田政権が年末に、戦後の安全保障政策の大転換として打ち出した防衛力の抜本強化と防衛増税の是非をどう考えるか。今年に入って重要課題と位置づける異次元の少子化対策の内容と財源確保などへの取り組み姿勢を支持するか。

さらに、岸田首相の政権運営をめぐっては、防衛増税の決定にみられるように与野党や国民の意見を聞いたり、中身を説明したりする姿勢に欠けるのではないかといった声も出されてきた。

有権者は、こうした論点のどれを重視して投票したか、選挙の出口調査などを分析すれば明らかになる。今度の補選は勝敗面だけでなく、有権者が何を重視して選択をするかといった点も注目してみていきたい。岸田政権の政権運営の進め方や評価の物差しになる。(了)

”支持率回復は本物か?”岸田政権

統一地方選挙の前半戦が終わり、各党とも4月23日投開票の後半戦と衆参5つの補欠選挙に向けて、激しい選挙戦に突入している。

永田町では先月下旬以降、春の解散風が吹き始め、一部に岸田首相は通常国会の会期末に早期解散に打って出るのではないかとの観測も聞かれる。

その根拠の1つとして、岸田首相のウクライナ電撃訪問をきっかけに岸田内閣の支持率回復を上げる関係者が多い。

果たして、本当に岸田内閣の支持率は回復しているのかどうか、今週NHKと朝日新聞の世論調査がまとまったので、そのデータを基に分析してみたい。

 上昇から横ばい、電撃訪問効果は限定的

さっそく、岸田内閣の支持率からみていこう。NHK世論調査(7日から9日実施)によると◆支持率は42%で先月の調査から1ポイント増、◆不支持率は35%で、5ポイント減少した。

不支持率が5ポイント減少したが、「わからない」との回答が5ポイント増えているので、支持率が好転したわけではない。

一方、朝日新聞の調査(8日、9日実施)によると◆支持率は38%で先月から2ポイント減、◆不支持率は45%で5ポイント減少した。

2つの調査とも3月と比べて、支持率は1~2ポイントわずかに増えたが、誤差の範囲で、横ばいという点で共通している。

次に、世論は岸田首相のウクライナ電撃訪問をどのように評価しているか。NHKの調査では「評価する」が58%で、「評価しない」の34%を上回った。

朝日の調査は「ロシアによるウクライナ侵攻について、岸田首相の対応を評価するか」と設問の表現は異なるが、「評価する」が47%で、「評価しない」の39%より多かった。

つまり、2つの調査とも「評価する」が上回ったが、岸田内閣の支持率は横ばいのままだ。

岸田首相の電撃訪問は先月21日。2週間後の世論調査では、内閣支持率の押し上げ効果は限定的といえる。外交面で内閣支持率を上げるのは、昔から中々、難しい。

 過去最低の投票率と政治離れの重さ

それでは、国民は衆議院の解散・総選挙をどのようにみているのか。朝日の調査では、「できるだけ早く衆議院を解散して総選挙を実施すべきだと思いますか」と尋ねている。

◆「できるだけ早く実施すべきだ」22%に対し、◆「急ぐ必要はない」67%だった。3人に2人が「急ぐ必要はない」と答えている。

この調査が行われた同じ9日には、9つの道府県知事選挙と41道府県議会の議員選挙などが行われた。平均投票率は、知事選挙が46.78%、道府県議選が41.85%で、いずれも50%にも達せず、戦後最低を更新という惨憺たる状況だ。

つまり、最も身近な選挙ですら、有権者の関心を引きつけることができず、衆参の国政選挙もこの10年、ワースト記録が相次いでいる。

与野党双方とも水面下で、早期解散をめぐる神経戦を繰り広げているが、国民の半数は政治への関心や期待感を失い、投票所にも足を運ばなくなっている状況を深刻に重く受け止め、何らかの対応策を早急に打ち出す必要がある。

 5補選と少子化対策の財源がカギ

そのうえで、衆議院の解散・総選挙の条件や実現可能性を考えると、どういうことになるか。岸田首相が仮に解散に踏み切ろうとする場合、まず、今月23日に投票が行われる衆参5つの補欠選挙を乗り切る必要がある。

自民党閣僚経験者に聞くと「山口の2つは勝てる感触を得ているが、野党乱立で勝てる公算が大きい千葉5区は、地域に浸透できていない。和歌山1区も勢いに乗る維新の勢いを前に苦戦が続いている。参院大分選挙区は、野党共闘の実績のある土地柄で、最も厳しい選挙になっている」と歯切れが悪い。

与野党の関係者の話を総合すると自民候補の5戦全勝もありうるが、3勝2敗、場合によっては、野党が3勝2敗と勝ち越すこともありうる大混戦の状況が続いている。これが、最初のハードルだ。

2つ目のハードルは、岸田政権が最重要課題と位置づける「異次元の少子化対策の財源問題」だ。児童手当の所得制限の撤廃などを実現するためには、数兆円単位の財源が必要だが、そのメドが立っていない。

NHK世論調査で、財源確保の方法を聞いている。◆「(少子化対策以外の)ほかの予算を削る」が最も多く56%、◆「社会保険料負担の見直し」17%、◆「増税」8%、◆「国債の発行」8%となっている。

政府・与党内では、増税は理解が得られないとして、医療費などの社会保険料の上乗せ案が検討されている。これに対して、世論の大半は、予算の組み替えで財源を生み出すべきだとの考え方が主流で、社会保険料の負担増は少数派だ。

仮に政府・与党が社会保険料の負担上乗せ案を打ち出せば、世論の強い反発を受け、内閣支持率を直撃することが予想される。

岸田政権は、防衛増税の実施時期も先送りにしており、6月の骨太方針で、防衛と少子化対策の財源確保について、明確な方針を打ち出し、国民を説得できるかどうかが最大の課題といえる。

3つ目のハードルとして、与党の選挙関係者は「自民支持層のうち、岸田内閣を支持する人の割合が上昇することが必須の条件だ」と指摘する。

自民支持層の岸田内閣の支持率は、4月は60%台後半で、3月とほぼ同じ水準で、こちらも横ばいのまま止まっている。岸田政権の発足当初は、8割から7割台を維持してきた。ところが、去年の秋以降、自民支持層の支持もつるべ落とし、3割台の危機的状況が続いてきた。

ようやく今年に入り、6割に戻し最悪期は脱しつつあるものの、まだ6割台に止まっている。与党の選挙関係者は、せめて7割から8割台に回復しないと安定した選挙戦を展開するのは難しいと判断しているわけだ。

以上、みてきたように衆議院の解散・総選挙の時期やこれからの政局は、岸田政権が当面、3つのハードルを乗り越えられるかどうかが焦点になる。

そして、まずは、今月23日に迫った衆参5つの補欠選挙に向けて、与野党がどんな論戦を戦わせるのか。そして世論が「岸田政権の中間評価」として、どのような判断を示すのか、それによって今年後半の政治が動き出すことになる。(了)

“維新 勢力拡大”政権,政局への影響は?

統一地方選挙の前半戦は9日、全国9つの道府県知事選挙と6つの政令指定都市の市長選挙、それに41道府県議選と17政令指定都市議員選の投開票が行われた。

知事選挙では、大阪維新の会が大阪の府知事と市長のダブル選挙をいずれも制した。保守分裂となった奈良県知事選挙でも、日本維新の会の新人が当選するなど維新が勢力を拡大したのが大きな特徴だ。

自民党は、与野党対決の北海道と大分県の知事選挙で推薦候補が勝利したが、大阪のダブル選挙と奈良県知事選挙で維新の攻勢に敗れた。

政党の基礎体力を示す道府県議選の結果と合わせて、前半戦の選挙結果をどのようにみるか。政権や政局にどんな影響を及ぼすのか、後半戦の投票日に合わせて行われる衆参5つの補欠選挙のゆくえを含めて、分析してみる。

 維新は拡大戦略奏功、自民は奈良で敗北

まず、統一地方選挙前半戦の最も大きな特徴は、▲全国政党の日本維新の会が、地域政党の大阪維新の会を含めて、勢力を拡大したことだ。

大阪府知事と大阪市長のダブル選挙のうち、知事選では現職の吉村洋文氏が2回目の当選、市長選では元府議の横山英幸氏が初めての当選を果たした。統一地方選では2回連続、それ以前を含めると4回連続で維新が勝利した。

保守分裂選挙になった奈良県知事選挙でも、日本維新の会の新人で元生駒市長の山下真氏が初めての当選を果たした。大阪府以外で、初めて維新公認の知事が誕生したことになる。

41道府県議選でも維新は、18の道府県で合わせて124議席を獲得、選挙前の59議席から倍以上に増やした。大阪府議会では9議席増の55議席を獲得して過半数を維持したのをはじめ、兵庫県では選挙前の4議席から21議席へ議席を増やしたほか、神奈川では6議席、北海道や福岡県などでも初の議席を獲得した。

維新関係者に聞くと「今度の統一地方選挙では、現有の地方議員400人を1.5倍の600人に増やす目標を立て、徹底した候補者の発掘と擁立の準備を重ねてきた」と話しており、こうした党勢拡大の戦略が功を奏した形になっている。

▲これに対して、政権与党の自民党はどうか。与野党対決型の北海道では、再選をめざす鈴木直道氏を公明党とともに推薦して、立憲民主党の元衆議院議員の候補に圧勝した。大分県知事選挙でも元大分市長の佐藤樹一郎氏を推薦して、共産・社民両党の県組織が支援する前参議院議員の候補者に勝利した。

一方、奈良県知事選挙は、県連会長を務める高市経済安全保障担当相が主導して、総務大臣当時の秘書官を擁立したが、現職が反発して分裂選挙に突入した。

結果は、維新候補が漁夫の利を得る形で当選した。保守王国とされてきた奈良県で維新公認の知事が誕生したことは、今後の国政選挙などで影響が出るのは避けられない。

高市担当相の責任が極めて大きいと批判する声が出ている。一方、自民党は各地の選挙で分裂選挙となるケースが目立っており、党執行部の調整不足に問題があるとの指摘も強い。いずれにしても、この問題は尾を引くことになりそうだ。

一方、41道府県議選について、自民党は合わせて1153人が当選し、総定数2260に占める割合は51%に達した。安倍政権時代の2015年と2019年に続いて、3回連続で過半数を維持したことになる。

議員数は前回・選挙時の1158人とほぼ同じだが、選挙前と比べると86人減らしている。但し、総定数の過半数は維持しているので、岸田政権に代わっても地方組織の力量に大きな変化は現れていないとみられている。

問題は、奈良県知事選挙にみられるように候補者擁立をめぐって地方組織の意見が対立した場合、地方任せで党の執行部が組織全体をまとめ上げる力が弱体化していることを懸念する声は強い。

このほかの各党をみておくと▲立憲民主党は、北海道知事選挙で大敗したほか、各地の知事選では与野党相乗り型が目立ち、野党第1党として与党と対決していく構図を作り上げることができなかった。

一方、道府県議選では185議席を獲得し、選挙前から7議席増やした。今後、野党内で、維新との間で主導権をめぐる確執が強まることが予想される。

▲公明党は道府県議選では169人が当選したが、愛知県で1人が落選し、170人の全員当選は果たせなかった。今後、関西地域で、維新との関係が焦点になる。

▲共産党は75議席で、選挙前から24議席減らした。▲国民民主党は、選挙前と同じ31議席を維持した。

 衆参補選は混戦、政権・政局へ影響も

それでは、今回の選挙結果が岸田政権へ及ぼす影響はどうだろうか。自民党の長老に聞いてみると「道府県議選では、過半数を維持できたので、岸田政権や当面の政局に大きな影響はない。問題は、衆参の補欠選挙のゆくえだ」と語る。

次に、維新がめざしている「大阪の政党から、全国政党をめざす目標」をどのようにみるか。大阪のダブル選挙と奈良県知事選挙で勝利したのをはじめ、大阪府議会に続いて大阪市議会でも初めて過半数を確保、兵庫県議会でも大幅に増やしていることなどから「近畿の政党」へ拡大しているようにみえる。

一方、地盤の近畿以外の関東や愛知など地域では、議員の獲得数はまだ少ない。「全国政党化」の展望が開けたという段階までには至っておらず、足場を築きつつあるというのが、現状ではないか。

政界関係者の中には、今後の維新の存在感が高まれば、政界入りを目指す人材の中には、維新入りをめざす人が増えるなど求心力が増すことも予想されるとの見方もある。

今後の焦点は、統一地方選挙の後半と同じ投票日になる衆参5つの補欠選挙のゆくえだ。衆議院の千葉5区と和歌山1区、山口2区と4区の補欠選挙が11日告示される。既に6日に告示された参議院大分選挙区と合わせて、投票日は統一地方選の後半戦と同じ23日になる。

与野党の関係者の見方を総合すると、山口4区と2区は安倍元首相と岸元防衛相の選挙区で、勝敗面では自民が獲得する可能性が大きいとの見方が多い。

そのほかの3つの選挙区は、混戦、激戦になるのではないか。衆議院千葉5区は、政治とカネの問題で自民党の衆議院議員が辞職したのに伴う選挙だ。自民と、立民、維新、共産、国民などの各党がそれぞれ候補者を擁立するが、いずれも新人で、混戦になる見通しだ。

和歌山1区は、国民民主党議員が県知事戦に転出したのに伴う選挙だ。自民党はこれまで挑戦を続けてきた元衆議院議員を擁立したのに対し、維新は前和歌山市議の女性を擁立し、奈良県知事選の勝利をはずみに総力を上げる構えだ。共産党も候補者を擁立する。

さらに参議院大分選挙区は、野党系無所属議員が県知事選に立候補したのに伴う選挙だ。自民党は公募で飲食店の経営の女性候補を擁立したのに対し、立憲民主党は、前参議院議員を擁立し野党の共闘体制で戦う構えだ。

こうした選挙区の勝敗がどうなるかによって、与党側の5選全勝説から、4勝1敗説、3勝2敗説、逆に野党の3勝2敗説などさまざまなケースが予想される。

この勝敗によって、岸田政権の今後の政権運営や、衆議院の解散・総選挙の時期にも影響を及ぼすことになる。どのケースで決着がつくか、選挙情勢をみていく必要がある。(了)

 

 

 

 

“自民 過半数が焦点”41道府県議選

統一地方選挙の前半戦は、41道府県議選と17の政令指定都市の市議選が31日に告示され、4月9日の投開票日に向けて、選挙戦が一段と熱を帯びてきた。

このうち、41道府県議選は、過去2番目に少ない3139人が立候補し、激しい選挙戦を繰り広げている。

地方議員は、国政選挙では選挙運動の中核になるだけに、各党とも党勢の拡大に力を入れている。自民党が総定数の過半数を獲得できるのか、それとも野党側が阻止できるかどうか、統一地方選前半の大きな焦点になっている。

自民党内では岸田政権の支持率が回復し始めたとして、早期解散論が出始めており、選挙結果は、5月のG7広島サミット後の解散の行方にも影響を与える。道府県議選を中心に各党の取り組みや選挙の焦点をみておきたい。

 自民3回連続過半数なるか、道府県議選

41道府県議選は総定数2260に対し、立候補者は過去最低だった前回から77人増えて3062人、過去2番目に少ない人数になった。

▲自民党は、今回、全体の4割にあたる1306人と最も多い候補者を擁立した。これまでの選挙を振り返ると自民党は、安倍政権時代の2015年の道府県議選で総定数の50.5%の議席を確保し、24年ぶりに過半数を獲得した。

続いて、前回2019年も50.9%の議席を確保した。今回、過半数を獲得すれば、3回連続で過半数を獲得することになる。

自民党をめぐっては、安倍元首相の銃撃事件をきっかけに旧統一教会と国会議員や地方議員の関係が明らかになり、党本部は地方組織に対して、教団や関連団体との「関係を絶つ」ことを求めている。こうした対応が、今回の選挙戦にどのような影響を及ぼすか、注目点の1つだ。

また、今回は岸田政権に代わって最初の統一地方選挙で、岸田政権が打ち出した防衛力の抜本強化と財源確保のための増税の方針、異次元の少子化対策などがどのような評価を受けるかも注目される。

▲次に、与党の公明党は、道府県議選に前回並みの170人を擁立したのをはじめ、統一地方選で合わせて1555人の候補者を立て、全員当選をめざしている。

前回は、道府県議では全員当選を果たしたが、政令市議選で2議席を失った。今回は、多数の候補者を擁立した維新と激しく競り合う関西での戦いがカギになりそうだ。

 立民は上積み、維新は大幅増をめざす

野党の陣営をみてみると▲立憲民主党は、道府県議選では前回より69人多い246人を擁立し、上積みをめざしている。前回2019年は初めての統一地方選への挑戦で、118人が当選し勢力を伸ばした。

しかし、21年衆院選、22年参院選でいずれも敗北が続いており、今回は党勢の低迷から脱却できるかどうか試されている。

▲日本維新の会は、これまでの関西地域を拠点にした政党から脱却し「全国政党」をめざしている。このため、今回の道府県議選では、前回の立候補者83人から、2.5倍にあたる211人を立候補させている。

また、統一地方選全体を通じて、現在400人の地方議員を1.5倍の600人以上に増やすことを目標に掲げている。馬場代表は達成できない場合、代表を退くと明言しており、こうした積極的な戦略が功を奏するかどうか、関心を集めている。

▲共産党は、道府県議選では立候補者数を前回の243人から、188人へ絞り込んだ。共産党をめぐっては、すべての党員による「党首選挙」を求める本を出版した党員が除名される問題が起きており、こうした動きが選挙結果にどのように影響するかも注目される。

▲国民民主党は、道府県議選では46人の候補者を擁立しており、国民民主党系の無所属を含めて改選議席数の倍増、およそ300人の当選をめざしている。

▲このほか、れいわ新選組、社民、政治家女子48、参政の各党も支持拡大をめざしている。

 統一地方選と5補選、解散への影響も

9日に投票が迫った統一地方選挙の前半戦では、9つの道府県知事選挙の戦いが行われる。このうち、与野党の全面対決型は北海道だけで、与党と野党系無所属の戦いとなっているのが大分で、いずれも激しい戦いが続いている。

奈良と徳島は保守分裂選挙となっている。このうち、奈良では、保守系の現職と新人、それに維新の候補との間で、三つ巴の激戦が続いている。

大阪は府知事と市長とのダブル選挙で、維新と非維新の勢力がぶつかる構図だ。

今後の政局へ及ぼす影響という面では、41道府県議選の結果を最も注目してみている。次の衆院解散・総選挙を考えると、道府県議は地域の選挙運動の中心的役割を果たし、各党の党勢のバロメーターになるからだ。

その道府県議選は、冒頭みたように自民党が総定数の過半数を3回連続して維持できるのか。それとも野党側がこれを阻止できるのかどうかが、最大の焦点だ。

もう1つの焦点は、23日の後半戦の投票日に合わせて行われる衆参5つの補選がどうなるかだ。自民党が議席を獲得していたのが、千葉5区と、山口2区と4区の3つに対し、和歌山1区は国民民主党、参院大分選挙区は、野党各党が統一候補として擁立した無所属議員が議席を獲得していた選挙区だ。

自民党内では勝敗ラインとして、自民党が獲得してきた議席を念頭に「3勝2敗」とする考え方のほか、岸田首相が衆院解散・総選挙に向けて主導権を発揮するためには「5戦全勝」が必要だとする見方が出ている。

岸田政権は、日韓首脳会談や岸田首相のウクライナへの電撃訪問をきっかけに、報道各社の世論調査で内閣支持率の回復傾向が出ている。

統一地方選挙と5つの補欠選挙で、岸田政権が支持率回復の流れを加速することになるのか、それとも世論の厳しい評価を受けて再び低迷することになるのか、分かれ道にさしかかっている。

 選挙離れ社会が進行中、歯止めかかるか

さらに統一地方選挙で気になるのは、投票率がどうなるかだ。41道府県議の平均投票率は、前回2019年は44.02%で、過去最低を記録した。

1995年以降は50%台で推移していたが、2011年に48.15%を記録し、初めて5割を下回った。それ以降、最低水準を更新し続けている。

統一地方選挙の投票率は、これまでも長期低落傾向を続けてきたが、前回は道府県の知事選挙、道府県議の選挙、市区町村長の選挙、市区町村議の選挙の投票率は平均するといずれも、初めて5割を割り込んだ。

最も身近な統一地方選挙で、2人に1人しか投票所に足を運んでいない「選挙離れ社会」が進行中だ。これに歯止めをかけられるのかどうか、この点も今度の統一地方選挙で問われる。(了)

反転攻勢なるか? 岸田政権

今年の春は、新型コロナ感染がようやく4年ぶりに収まり、マスク着用は個人の判断となったほか、WBCで日本代表が世界一を奪還、岸田首相はウクライナを電撃訪問するなど激しい動きが続いている。

4年に一度の統一地方選挙も知事や政令指定都市の市長選挙が始まり、前半戦の投票が来月9日、後半戦の投票が来月23日に行われる。

報道各社の世論調査によると岸田内閣の支持率は、ようやく下げ止まり傾向が出てきたが、果たして反転攻勢へとなるのかどうか?岸田首相の政権運営や、これからの政局では何がカギになるのか、探ってみたい。

 ウクライナ電撃訪問の意味と効果は

3月の政治・外交の動きの中で、政界に最も大きな驚きを与えたのは、岸田首相のウクライナへの電撃訪問だ。

昨年からの懸案で、今月19日からのインド訪問直後にそのままウクライナを訪問するのではないかとの見方も一部にあったが、月末の予算案成立後になるのではないかとの見方が政界では強かった。

インドで首脳会談を終えた岸田首相は20日夜、チャーターした民間ジェット機で極秘裏に出発、同行記者団は何も知らされないまま置き去りになった。政界関係者の一人は「同行記者の恨みを買い、しこりを残すだろう」と語る。

さて、今回の訪問をどのようにみるか。与野党の中からは、岸田首相はG7のメンバー国で唯一、ウクライナを訪問していない首脳という点を気にして、無理に訪問する必要はないといった意見も聞かれた。

しかし、ロシアによるウクライナ侵攻は、国連の常任理事国の大国が隣国に軍事侵略する、いわば百年に一度あるかどうかの蛮行だ。

「G7議長国として、何としても5月のG7広島サミットまでに訪問したい」という岸田首相の強い思いは理解できる。

また、ロシアの軍事侵略が成功すれば、今度はアジアでも同じような侵攻が起きる恐れがある。日本自体の国益の観点からも、ウクライナ情勢に真正面から向き合う必要がある。

さらに、今回は中国の習近平国家主席がロシアを訪問し、プーチン大統領との首脳会談の日と重なった。軍事大国同士の両首脳が力を誇示したのに対して、岸田首相はゼレンスキー大統領と会談して支援と連帯を伝え、世界平和の回復をめざす別の選択肢を国際社会に示すことができた。

問題はこれからだ。欧米諸国の中には一部に「支援疲れ」も伝えられる中で、日本はG7議長国として、ウクライナ支援や対ロ制裁措置の継続などで全体をまとめていけるかどうか。

また、日本自身もウクライナ支援をどのような形で行っていくか。欧米は軍事支援に重点を置いているが、日本はG7との横並びを意識するよりも、人道的な支援やインフラ復興など日本にふさわしい支援を考えた方がいいのではないか。

このほか、3月は16日に韓国のユン大統領が来日し、日韓首脳会談が行われた。懸案の「徴用」をめぐる韓国政府の解決案を日本側が評価し、両国首脳が「シャトル外交」を再開することなどで一致した。

そこで、気になるのは、こうした外交活動が岸田政権の評価につながるのかどうかだ。岸田首相のウクライナ訪問は、WBCの日本代表が準決勝でメキシコに逆転勝利、決勝でアメリカを破って世界一を奪還した戦いと重なった。

大谷、ダルビッシュ、村上各選手の活躍に沸き、テレビは高い視聴率を記録、新聞も一面で大きく扱い、電撃訪問の方は霞んでしまった印象だ。政権の評価にマイナスの影響はないとみるが、直ちに内閣支持率上昇といった効果が表れるようには思えない。

 予算審議は順調、支持率は下げ止まり

内政面では、新年度予算案の審議が参議院予算委員会で続いている。審議の中で野党側は、安倍政権時代、放送法の政治的中立の解釈をめぐって、当時の礒崎首相補佐官が新たな解釈を行うよう総務省に働きかけていたことを示す行政文書を明らかにした。

この行政文書について、当時の総務相だった高市経済安保担当相は「捏造」と否定し、辞職を求める野党側と応酬が続いている。一方、予算審議は与党ペースで進んでおり、新年度予算案は28日にも成立する見通しだ。

報道各社の3月の世論調査によると岸田内閣の支持率は、横ばいか、わずかながら上昇する結果になっている。内閣支持率と不支持率は、NHKが41%-40%、読売が42%-43%、朝日が40%-50%となっている。

支持率は前月に比べて、NHKで5ポイント、読売で1ポイント、朝日で5ポイントそれぞれ上昇し、下げ止まりの傾向が表れている。但し、不支持率は40%から50%と高い水準にあり、支持率低迷状態から脱するまでには至っていない。

支持率の下げ止まりの原因は、去年秋のような閣僚の相次ぐ辞任などが避けられ、予算審議が順調に進んでいることが挙げられる。一方、支持する理由としては「他の内閣より良さそうだから」が最も多く、消極的な支持に止まっている。

 反転攻勢、少子化対策と選挙がカギ

それでは、岸田政権は今後、攻勢へ転じることができるのかどうか?

これまで外交面で成果を上げ、内閣支持率が上昇するケースは希で、やはり内政の取り組みが影響することが多かった。今回の場合は、政府が今月末にまとめる「少子化対策」の評価がカギを握るとみている。

岸田首相は「異次元の少子化対策」を政権の最重要課題に位置づけ、今月末にまとめるたたき台には、児童手当の所得制限の撤廃や、対象年齢の18歳までの引き上げなど大胆な対策を盛り込む方向で調整を続けている。

岸田政権の少子化対策について、NHK世論調査でみると「期待しない」が56%と多く、「期待している」39%を上回る。特に18歳から30代までの若い世代で「期待しない」が66%と多いほか、無党派層でも7割近くが「期待しない」と答えている。

こうした背景には、岸田政権は1月に子育て政策重視の方針を打ち出したが、具体策が中々、決まらない。加えて、財源をどうするかも先送りしていることから、対策の実現はかなり先になると、政府に対する不信感を読み取ることができる。

岸田首相は少子化対策のたたき台がまとまると、今度は首相官邸が財源の調整を行ったうえで、全体をとりまとめ、6月の骨太方針で正式に決定する見通しだ。

このような政府の手順を考えると対応が遅すぎて、今月末に少子化対策のたたき台がまとまったとしても、国民の支持が広がり、政権が力強さを増すといった事態は想定しにくい。

もう1つのカギは、統一地方選挙と衆参5つの補欠選挙のゆくえだ。政党の勝敗のメルクマールとしては、前半戦の41道府県議の選挙がある。自民党は、全体の議席占有率50%以上を確保できるかどうかが判断基準になる。

安倍政権時代の前回は50.9%、前々回は50.5%で2回連続で維持してきた。岸田政権に代わった今回はどうなるか、地方組織の足腰の強さの評価にもなる。

統一地方選挙後半の投票日と一緒に行われる衆参5つの補欠選挙のゆくえも大きな焦点だ。自民党が議席を確保していた選挙区は、千葉5区と山口2区と4区。

和歌山1区は、国民民主党に所属していた議員、参院大分選挙区は、無所属で野党共闘で当選した議員がそれぞれ知事選挙に転出することに伴って行われる選挙だ。

自民党の勝敗ラインとしては、保有していた議席を基準に考えると「3勝2敗」とする見方もあるが、今後、衆議院の解散・総選挙に向けて主導権を確保するためには「5戦全勝」が必要だとする見方もある。

以上、みてきたように内外ともに激しい動きが続く中で、岸田政権は政権浮揚へ反転攻勢となるのか。それとも低空飛行状態が続くことになるのか。その岐路は、月末の少子化対策に対する世論の評価と、来月の統一地方選挙と補欠選挙の結果がカギを握っている。(了)

 

 

 

”支持率改善も 看板政策は低評価” 岸田政権

通常国会は、焦点の新年度予算案の審議が大詰めの段階を迎えており、今月末に参議院で採決が行われ、与党の賛成多数で成立する見通しだ。

一方、統一地方選挙も今月23日、全国9道府県知事選挙が告示され、来月9日の投開票に向けて選挙戦がスタートする。こうした中で、NHKと共同通信がそれぞれ実施した3月の世論調査の結果がまとまった。(NHK10~12日、共同通信11~13日実施)

統一地方選挙突入前の政治情勢と、岸田政権や与野党の国会審議などを世論はどのように評価しているのか、分析する。

 内閣支持率、7か月ぶり不支持を上回る

まず、岸田内閣の支持率からみていくとNHKの世論調査では◆支持率が先月より5ポイント上がって41%に対し、◆不支持率は1ポイント下がって40%となった。

岸田内閣の支持率がわずかながらも不支持率を上回ったのは、去年8月以来7か月ぶりだ。(去年8月は支持率46%、不支持率28%」)但し、今月の支持と不支持の差はわずか1ポイントなので、五分と五分、拮抗とみた方がよさそうだ。

共同通信の世論調査では◆支持率は、4.5ポイント上がって38.1%、◆不支持率は、4.2ポイント下がって43.5%だった。支持率は改善しているが、不支持率が支持率を上回る状態が続いている。

NHKと共同通信の調査ともに岸田内閣の支持率が改善しているのは、なぜか。NHKの調査でみてみると、一つは、政府の賃金引き上げの取り組みをどのようにみるか。「評価する」が50%で、「評価しない」の43%を上回った。

もう一つは外交問題で、太平洋戦争中の「徴用」をめぐる問題をめぐり、韓国政府が解決策を発表した。日本政府も評価し、16日にユン大統領が来日して、日韓首脳会談が行われる。

この問題について「評価する」は53%に上り、「評価しない」の34%を大きく上回った。北朝鮮に対して、日韓両国の安全保障面の連携強化を評価する人が多いことが読み取れる。

また、自民支持層では、岸田内閣を支持していた割合は6割程度に止まっていたが、今月は69%まで上昇し支持率回復につながった。

このほか、国会論戦では、同性婚をめぐる発言で首相秘書官が更迭される問題が起きたものの、野党側が攻め手を欠き、与党ペースの国会運営が続いていることも影響しているとみられる。

 岸田政権の看板政策、評価しないが多数

このように岸田内閣の支持率は、改善している。但し、内容面をみていくと、岸田政権が重視している政策、看板政策については「評価しない」「不十分」などと厳しい見方が多い。

▲岸田首相が戦後の安全保障政策の大転換と位置づける防衛費の増額について、政府の説明をどのように評価しているか。「十分だ」は16%に止まり、「不十分だ」が66%、3人に2人の割合にも達している。

▲岸田首相が子ども予算の倍増を掲げる政府の少子化対策については、「期待している」は39%に対し、「期待していない」が56%と多数を占める。年代別では、18歳から30代までの若い年代では「期待しない」が66%にも達している。

▲さらに原子力発電を最大限活用するため、政府が最長60年とされている原発の運転期間を延長する法案を閣議決定した問題。「賛成」は37%に対し、「反対」は42%で上回っている。

このように岸田政権が打ち出した看板政策は、いずれも世論の支持を得られていない。

こうした背景には、岸田政権の国会対応に大きな問題があるのではないか。防衛費増額にみられるように従来の政府方針の繰り返しがほとんどで、防衛力整備の必要性や中身に踏み込んで国民に説明、説得しようとする姿勢や熱意が欠けている点に問題がある。

 放送法の問題、事実の解明と政府見解を

このほか、参議院の審議では、安倍政権当時、特定の民放番組の内容を問題視した首相補佐官が、放送法が定める政治的公平性をめぐり解釈の再検討を総務省に求めたとする文書が明らかになった。

共同通信の世論調査で、この行為は政権による「報道の自由」への介入と思うかどうかを尋ねている。◆「介入だと思う」が65%、◆「思わない」が25%だった。

また、当時の総務相だった高市早苗氏(現在、経済安全保障担当相)が、総務省が自らに説明を行ったとする文書を「捏造」(ねつぞう)と主張していることについて「納得できる」は17%で、「納得できない」が73%だった。

放送法3条では「放送番組は、法律に定める権限に基づく場合でなければ、何人からも干渉され、規律されることがない」と規定されている。首相補佐官や、首相といえども介入はありえないわけで、国民の多くは法律の本質を理解していることがうかがえる。

この問題は、安倍政権時代の首相補佐官と総務省、安倍元首相の意見調整ルート。また、もう一つのルート、総務省と当時の高市総務相への説明があったのかどうか。さらにこの2つのルートに関係があったのかどうか、事実関係を明らかにする必要がある。

その上で、岸田政権が、事実関係を整理したうえで、放送法の解釈について政府の見解を示すことが必要だと考える。

 統一地方選と5補選、無党派がカギ

以上みてきたように岸田内閣の支持率の改善はみられるものの、主要政策について、世論の支持を得ているとは言えない。今月末の子ども政策のとりまとめ方によっては、支持率が再び落ち込むことも予想され、不安定な状態にある。

一方、野党側も国会で思うような攻めの論戦を展開できていない。政党支持率では、自民党に大きな差をつけられたままで、党勢拡大の展望は開けていない。

このように政権与党と、野党側ともに弱点を抱えたまま、来月の統一地方選挙と衆参5つの補欠選挙に臨むことなる。

統一地方選挙はそれぞれの地域の選挙が中心だが、全国規模の選挙になるので、有権者の立場からすると政党の主張や主要政策は、選挙に当たって有力な判断材料になる。

それだけに各党とも地域の課題と、当面の政治課題についての考え方や構想を明確に打ち出してもらいたい。

NHK世論調査の政党支持率で、”第1党”は「支持する政党がない」無党派で、38.5%を占める。この無党派層のどの程度が投票所に足を運ぶか、どの政党が最も多く獲得できるかが、選挙のゆくえを左右することになる。(了)

 

 

 

統一地方選、衆参5補選の注目点

4年に一度の統一地方選挙前半戦の投開票まで今月10日で、1か月を切った。選挙日程は、今月23日に9つの道府県知事の選挙が告示されてスタートする。

続いて、41都道府県議会議員の選挙、6つの政令指定都市の市長と17の政令市の議員選挙が相次いで告示され、来月9日に前半戦の投開票が行われる。

後半戦の投開票日は来月23日で、東京の特別区と、全国の市町村の長と議員、合わせて907の選挙の投開票が実施される。また、後半戦の投開票日と合わせて、衆参5つの補欠選挙の投開票も行われる予定だ。

統一地方選挙は最も身近な自治体の長と議員を選ぶ選挙で、それぞれの地域が抱える課題が争点になる。

一方、統一地方選挙は全国規模の選挙なので、選挙結果は国政にも影響を及ぼす。また、今の衆議院議員の任期は再来年の10月なので、衆議院の解散が行われなければ、再来年夏の参議院選挙まで、まとまった国政選挙がないことになる。

そこで、今回の統一地方選挙は国政との関係で、どんな影響や意味合いを持つのか考えてみたい。

 知事選、与野党全面対決、保守分裂型

まず、統一地方選挙で最も注目されるのは、知事選挙だ。今回は、北海道、神奈川、福井、奈良、大阪、鳥取、島根、徳島、大分の9道府県の知事選挙が予定されている。前回4年前から、三重と福岡が知事交代にともなって減っている。

◆与野党の全面対決型となるのは北海道で、自民・公明両党が推薦する現職と、立憲民主党が推薦する元衆議院議員の対決となる。

◆大阪は、府知事選挙と市長選挙とのダブル選挙になる。維新は、府知事は現職、市長選は新人を擁立し、非維新の候補との戦いになる。

◆保守分裂となるのが奈良県と徳島県だ。このうち、奈良県は、保守が分裂し、自民党県連が推薦する新人と現職、それに関西に影響力を持つ維新が擁立する元市長の3つ巴の戦いになる見通しだ。

◆徳島県については、自民党の前参議院議員と、前衆議院議員、それに現職がそれぞれ立候補する意向を表明して、異例の保守3分裂の様相だ。

◆大分県は、現職の知事が引退し、自民・公明両党が推薦する前の大分市長と、野党系無所属の参議院議員が議員を辞職して立候補する見通しだ。(この参院議員は9日辞職願を提出、10日の参院本会議で認められた)

このように知事選挙については、与野党の全面対決型の選挙は少なくなってきている。

 自民議席占有率 5割確保できるか?

私が最も注目しているのは、41道府県議会議員選挙の各党の獲得議席数だ。各党の党勢を現すメルクマールになる。

◆自民党は、前回1158議席を獲得、全体の議席に占める議席占有率は50.9%に達した。前々回は50.5%で、2回連続して過半数を獲得した。いずれも安倍政権時代だが、岸田政権に代わり、この流れを維持できるかどうかが大きな焦点だ。

◆公明党は、市区町村議員選挙を含め、統一地方選で擁立する1500人の候補者全員の当選をめざしている。前回、道府県議選の166人は全員当選したが、政令市議選で2議席を失った。

◆野党側のうち、立憲民主党は、具体的な数値目標を示していない。前回19年は初の統一地方選への挑戦で、118人が当選し勢力を伸ばした。21年衆院選、22年参院選では敗北したが、今回はどうなるか。

◆日本維新の会は、現在400人の地方議員の数を1.5倍の600人以上に増やす目標を掲げている。800人程度の候補者を擁立し、目標の達成は可能だとしている。

◆国民民主党は、倍増となるおよそ400人の当選をめざしている。

◆共産党は、前回獲得した1200人を確保した上で、上積みをめざしている。

岸田政権は、この統一地方選挙を勝ち抜き、5月のG7広島サミットにつなげて政権の浮揚につなげていきたい考えだ。

一方、旧統一教会との関係や防衛増税の影響が選挙に影響を及ぼすのではないかと危惧する声もある。さらには、地域によっては世代交代の影響が現れるのではないかとの見方もある。

自民党の閣僚経験者に聞くと「道府県議会議員が減ったりすると、国会議員にとっては次の選挙に影響が出てくる。岸田首相では戦えないといった声が出てくる可能性もあり、要警戒だ」と指摘する。

安倍政権当時「自民1強」を地方で支えた地方組織が、今後も安定して継続するのかどうか、自民党の議席占有率をみていく必要がある。

 衆参補選、千葉5、和歌山1、大分が焦点

後半戦の4月23日投開票に合わせて、衆参5つの補欠選挙が行われる見通しだ。衆議院の千葉5区、和歌山1区、山口2区と4区、それに参議院の大分選挙区でも補欠選挙が行われる見通しだ。

◆千葉5区は、政治とカネの問題で自民党議員が辞職したことに伴い行われる。東京通勤圏の都市部の選挙区で、一定の野党支持層のある選挙区だが、立民、維新、国民の各党が候補者を擁立する見通しだ。

これに対し、自民党は新人の候補者を決定しており、自民党関係者は「野党候補が乱立すれば、議席獲得はありうる」との見方を示す。

◆和歌山1区は、これまで国民民主党所属の議員が議席を維持してきたが、県知事に転出したのに伴う選挙だ。自民党の二階元幹事長と世耕参議院幹事長の両陣営の間で人選が難航した末、元衆議院議員の擁立で決着した。

これに対し、関西圏に影響力を持つ維新は、前和歌山市議の女性候補を擁立した。維新幹部によると自民党内の足並みに乱れが出てくれば、勝機はあるとして、後半戦の重点区として戦う構えだ。

◆山口4区は安倍元首相の死去、山口2区は実弟の岸信夫前防衛相の辞職に伴う「ダブル補選」だ。野党側は、山口4区に元参議院議員を擁立するほか、山口2区も候補者の擁立を検討している。

◆参議院大分選挙区は、野党系無所属の参議院議員が県知事選に立候補するのを受けて行われる。辞職は10日に決まる見通しで、与野党ともに候補者の選考作業を急いでいる。

このように5つの補選の候補者や野党間の選挙協力などの構図が最終的に決まっていないが、自民党としては、5戦全勝をめざす方針だ。

これに対して、野党側は、これまで野党や無所属議員が確保していた議席は維持したいとして、野党間の協力を進めたい考えだ。

ここまでみてきたように9つの知事選挙と、41道府県の県議選、それに5つの補欠決戦がどのような結果になるのか。通常国会後半の国会運営をはじめ、岸田首相の衆院解散・総選挙戦略などにも影響を及ぼすことになりそうだ。(了)

★追記11日。大分県知事選挙への立候補を表明した安達澄参議院議員の辞職が、10日の参議院本会議で認められた。これによって、参議院大分選挙区では補欠選挙が行われる。衆参の補欠選挙は、この大分選挙区を含めて5つの選挙となる。

“選ぶ側”から見た東京都議選の注目点

東京都議会議員選挙が25日告示され、7月4日の投票日に向けて9日間の選挙戦に入った。選挙権がない方も多いと思うが、この選挙は、コロナ禍、東京五輪・パラリンピック開会を控えた中で、東京の有権者がどのような判断を示すか、注目点の多い選挙になりそうだ。

そこで、候補者や政党など選ばれる側ではなく、有権者”選ぶ側”の立場から、この選挙をどうみるか、どんな対応が賢明な選択になるか、探ってみたい。

何を重視するか?少ない候補者情報

都議会議員選挙と言われても、私たち選ぶ側が困るのは、立候補者はどんな人でどのような考え方を持っているのか、候補者の情報が極めて少ないことだ。最も身近な市区町村の議員選挙や、国政レベルの選挙に比べて、この中間に位置する都道府県議会議員選挙は候補者情報が少なく、誰に投票するか困ることが多い。

さて、どうするか。私事になるが、選挙期間中に各候補者の陣営から、自宅に配られるビラを集めておくと意外に役立つ。ビラを比較すると、各候補の経歴なども含めてどんな人物か、輪郭がわかる。加えて、配布される選挙公報には、候補者の公約、政策などが記載されているので、候補者情報をかなり集めることができる。

そのうえで、何を重視して選ぶか。今回の選挙について、すぐに頭に浮かぶのは、やはり新型コロナ対策だ。感染抑止対策として何をするのか、病床など医療提供体制の整備や、ワクチン接種などではどんな取り組みを考えているのかがわかる。

また、東京オリンピック・パラリンピックの開催の是非も、判断材料になる。予定通りの開催か、中止か。あるいは開催する場合でも無観客にするのか、制限付きで観客を入れるのかどうか、候補者の違いがわかるはずだ。

さらに、向こう4年間の東京都政のかじ取り役を選ぶので、中長期の課題・政策で判断したいと考える人も多いと思われる。首都直下型大地震に備えての防災対策、少子高齢化時代の社会保障の姿、子育て・教育・格差是正の取り組みなども問われることになる。

以上のような内容から、何を重視して選ぶのか。ここをはっきりさせれば、どの候補者を選択するか、対象者が絞られてくるのではないか。

 東京都政、どの政党・勢力を選ぶか

巨大都市、東京の街づくりや都民の暮らしを安定させていくためには、知事と議会が車の両輪として、それぞれの役割を果たしていくことが必須の条件だ。そのためには有能な議員を選ぶとともに、どの政党・政治勢力に中心的な役割を委ねるかがカギを握る。

今回の都議選は、小池知事が特別顧問を務める都民ファーストの会が第1党の座を維持できるか。それとも自民党が公明党との選挙協力を復活させており、公明党と合わせて過半数の議席を獲得したうえで、第1党へ返り咲くかどうかが焦点だ。

一方、共産党と立憲民主党は候補者を競合させないため、一部の選挙区で候補者のすみわけを行っており、議席の積み上げができるかどうかも注目される。

このほか、小池知事が過度の疲労による静養のため入院しており、今後、いつ公務に復帰し、選挙にどのようにかかわるのかにも関心が集まっている。

 コロナ禍 有権者の選択政党は?

今回の都議選は、緊急事態宣言は解除されたものの、コロナ感染が高止まりから、再び拡大の兆候が表れ始めた中での選挙になっている。”3蜜”を避けるため、各陣営の選挙運動も大規模な集会や街頭演説などの自粛が予想される。有権者の選挙への関心、投票率はどうなるか。

前回4年前は、小池知事が都民ファーストの会を立ち上げて”小池旋風”を巻き起こし、投票率は51%台まで上がった。その前の2013年選挙は、43%台まで落ち込んだ。今回、有権者の投票意欲は前回水準から強まるのか、あるいは下回るのかも注目点の1つだ。

また、東京都議選の結果は、次の国選選挙の先行指標になる。2009年の都議選では、当時の民主党が大勝して都議会第1党に躍進、夏の衆議院選挙で過去最多の議席を獲得して政権交代を実現した。

2013年の都議選で、自民党は候補者全員が当選して都議会第1党に返り咲き、続く参議院選挙でも過去最多の議席を獲得して圧勝した。都議選の結果は、全国の都市部の有権者の先行指標になるケースが多かった。

7月4日投開票となる東京都議選の結果は、菅政権の政権運営に大きな影響を及ぼすだけでなく、秋の衆院選挙のゆくえを占う判断材料になる。コロナ激変時代、有権者は何を重視し、どの政党・政治勢力を選択するのか目が離せない。

手詰まり 安倍政権のコロナ対策

お盆休みの期間に入ったが、新型コロナウイルスの感染拡大が収まらない。7日の全国の感染者数は1600人を超え、過去最多を更新している。感染急増の地方では危機感を強め、愛知、岐阜、三重、沖縄の各県などでは独自の緊急事態や警戒宣言を出すなどの対応に追われている。

政府の分科会は7日、感染状況を判断するため、新たに6つの指標を示した。医療のひっ迫状況などの具体的な指標を示すことで、国や都道府県に感染の深刻度を判断する目安にしてもらうのがねらいだ。

そこで、この指標を活用してどのような対策が打ち出されるのかだが、政府は指標に縛られて、再び緊急事態宣言を出すような事態は避けたいのが本音だ。それでは、政府の感染防止対策は順調に進んでいるかといえば、そのようには見えない。

今の安倍政権の対応を見ていると感染拡大を前に”打つ手なし、思考停止、手詰まり状態”に陥っているようにみえる。安倍政権のコロナ対策はどこに問題があり、どんな対策が必要なのか探ってみる。

 安倍政権 実態把握に弱点

安倍政権のコロナ対策をみていると問題点の1つは「実態把握に弱点」があることだ。

具体的な例を挙げると「感染者情報の収集・分析」。全国の感染者数をはじめ、PCR検査の実施件数、陽性者の割合、入退院者、死亡者などの情報を正確に収集・把握できなければ、効果的な対策は打てない。

東京をはじめ全国各地の感染者数が毎日発表されるが、日によって大きな違いがある。これは、なぜか。PCR検査で陽性とされた人の情報は、保健所に集められ、都道府県、厚生労働省へ報告・集計される。このうち、PCR検査の結果判明には数日かかる。加えて、報告はFAXや電話などを使ったアナログ対応だ。報告漏れや重複計上などミスも多い。東京都の場合、これまで123人分を訂正しているという。はっきり言えば、これまでのデータは必ずしも正確ではないということだ。

このため、厚生労働省は感染者の情報を一元的に管理するシステムづくりを始め、ようやく8月に入って運用を開始した。「ハーシス・HER-SYS」という新しいシステムで、厚生労働省と、保健所が設置されている全国155の自治体や医療機関などをインターネットで結び、感染者情報を共有する仕組みだ。

多忙な保健所のデータの入力体制や個人情報の取り扱いなどの問題を抱えているが、ともかく、ようやく基本情報の収集体制は整ったことになる。

国内で最初の感染者が確認されたのが1月16日。政府の対策本部の設置が1月30日、基本情報の収集体制づくりに半年もかかったことになる。政府は骨太方針に「デジタル社会の加速」を打ち出したが、足下では情報の収集態勢すらできていないのが実状だ。コロナ情報の収集・管理システムの整備を急ぐ必要がある。

 PCR検査 目標設定し加速を

次に、各地の知事や市長などの話を聞くと、困っているのが、PCR検査の問題だ。当初、日本は医療従事者や試薬などの準備が十分でなかったこともあり、PCR検査の対象を絞ってきた。しかし、その後、感染者数が急増しているのに、検査の拡充が遅れ、検査能力に比べて実際の検査件数が増えないと批判は強い。

これに対して、厚生労働省は7日、PCR検査能力は1日あたり5万200件まで可能になったと説明。4月時点では1万件、5月2万200件、7月3万1000件だったので、かなり改善されている。9月末までには、最大7万2000件余りを確保できるという見通しだという。

知事や有識者の側は、こうした取り組みは評価しながらも、自粛や休業要請の繰り返しや国民の不安が強く残ったままでは、経済の本格的な回復は見込めないとして、政府は「積極的な感染防止戦略」を明確に打ち出すように求めている。

具体的には、PCR検査は「9月末までに1日10万件」、インフルエンザの流行にも備えるため「11月末までに20万件」の検査能力を確保することなどを求めている。政府は検査能力の整備も進んでいるので、こうした数値目標を採用してはどうか。その際、簡便な抗原検査などを含めて検査体制の拡充計画を示してもらいたい。

 対策の全体像と工程表、説明が必要

政府のコロナ対応をみていると、7月末から感染者が全国で1000人を突破するようになり、地方の側は危機感を募らせ、独自の緊急事態宣言や警戒宣言などを出しているのに対して、政府側の取り組みは極めて鈍い。

菅官房長官や西村担当相も連日、記者会見を行っているが、「感染防止と経済活動の両立をめざす」「Go Toトラベルは予定通り」「緊急事態宣言を再び出す状況にはない」などと規定方針の繰り返しが続く。

国民の側が知りたいのは、感染防止と経済活動の両立を目指す方針は理解するが、それなら、感染防止と経済活動再開に向けて具体的に何をするのか、それぞれ「対策の中身と全体像」を明らかにして欲しいということだ。

また、冬場のインフルエンザの流行期まで残された時間はあまりない。PCR検査の拡充をどのようなペースで進めるのか。医療提供機関の準備や経営悪化にどう対応するのか。中小事業者の事業継続や、休業中の労働者の雇用対策をどのように進めるのか。時期のメドと合わせた「工程表」の形で打ち出すべきではないか。

さらに、安倍政権の対応、国民への説明が極めて不十分だ。安倍首相がまとまった記者会見を行ったのは6月18日、それ以降は行っていない。8月6日、広島原爆の日に現地で記者会見を行ったが、15分という限られた会見だった。

国会は既に6月から夏休み状態、霞が関もお盆休みに入る。野党は臨時国会を早期に召集するよう求めているが、与党側は10月まで応じない構えだ。

国民の側は、お盆の帰省や旅行を取り止めたり、子どもの短い夏休みが終わった後の新学期の準備などにも思いをめぐらせている。

新型コロナウイルスの感染状況や医療・検査現場の態勢も日々変化している。安倍政権はこの夏以降、コロナ危機をどのように乗り切る考えなのか。できるだけ早く国民に向けた記者会見を行い、対策を明らかにする責任があると考える。

来年”五輪後 解散”か 新型コロナ政局

新型コロナウイルス感染が世界規模で拡大する中で、新年度予算が27日に成立した。例年だと通常国会前半の大きなヤマ場を越えたことになるが、今年はコロナウイルスのパンデミックの影響で、東京オリンピック・パラリンピックが来年夏まで1年程度延期されることになり、政治日程は一変した。

そこで、日本政治は今後、どう動くのか。国民の関心も高い衆院解散・総選挙は、どうなるのか探ってみた。結論から先に言えば、次のようになる。

◆メイン・シナリオは来年夏の東京五輪パラ後「五輪後解散」の公算が大きい。◆リスク・シナリオAとしては、今年秋以降「年内解散」もありうる。
◆リスク・シナリオBとして、「五輪再延期、中止の最悪ケース」も念頭に置いておく必要がある。なぜ、こういう結論になるのか、以下、説明したい。

 政治日程一変

本論に入る前に、前提となる今年の主な政治日程を確認しておきたい。
今年の政治日程は当初、夏のオリンピック・パラリンピック開催を前提に組み立ててきたが、1年程度の延期が決まったことで、政治日程は一変した。

新年度予算案は成立したが、新型コロナ対策が盛り込まれていないため、◇直ちに追加の経済対策をまとめ、新年度補正予算案を編成、大型連休前の4月下旬の成立をめざす。◇6月17日が通常国会の会期末。◇7月5日が首都・東京の都知事選の投開票と続く。

来年は、◇夏に東京五輪・パラ開催予定。◇7月22日東京都議会議員の任期満了。◇9月30日自民党総裁の任期満了。◇10月21日には、衆議院議員の任期が満了。

つまり、今年はパンデミック終息と世界経済回復という難しい舵取りが続くが、日本の政治日程は、今のところ夏以降は空白状態だ。逆に来年は夏から秋にかけて、主要な政治日程が集中していることがわかる。

 五輪最優先、来年秋解散説

そこで、本論に入って衆院解散・総選挙の時期はどうなるか。個人的に信頼している与党幹部に聞いてみた。

「オリンピックの延期で、今年の夏以降、政治日程に大きな空白ができるのは事実だ。政治がやらないといけない点は、コロナの終息、日本と世界の両方で押さえ込む。それに日本経済の立て直し。いずれも今年秋までにメドをつけるのは、たいへんなことだ。政権に年内解散をやる余裕があるか、ない。そうすると結論は決まってくる。オリンピックを安倍総理がやりとげ、その後、自民党の後継者選び、さらに任期満了前の解散・総選挙。腹を決めてやるしかないだろう」。

安倍首相4選の可能性、任期満了選挙は自民党内は嫌がるなど問題は多い。一方で、新型コロナ感染の流行は欧米で続いており、新たにアフリカや南米などに拡大していく勢いだ。世界経済への影響はリーマンショック以上とも言われている。日本としては、当面、延期した東京五輪開催にこぎ着けることが至上命題になっていると言える状態だ。

そうすると、まずは来年夏のオリンピック・パラリンピックを開催。その後、任期満了・ゴールが決まっている自民党総裁選挙、続いて衆院解散・総選挙を行っていくのが、オーソドックスな対応であり道筋。メイン・シナリオだとみる。

 景気V字回復、年内解散論

これに対して、安倍総理の総裁4選を推進する人たちは、別の見方をしている。元々、今年夏に東京五輪が開催されていた場合は、オリンピック・パラリンピックの成功させた後、新たな国づくりを訴え、年内に衆院解散・総選挙、勝利をめざすのを基本戦略にしていた。来年に持ち越すと自民党にとって不利とされる任期満了選挙に追い込まれるおそれがあるので、回避したいとの事情もあった。

そのオリンピック・パラリンピックが来年に延期されたが、基本戦略は変わらない。今年7月の東京都知事選は、小池百合子現知事を担いで野党に対して圧勝をめざす。その上で、超大型経済対策で日本経済のV字回復をはかり、年内に衆議院解散・総選挙を断行。来年夏の五輪開催・成功を経て、安倍総理の総裁4選、または自らに近い後継者へのバトンタッチを図る道筋を探るものとみられる。

麻生副総理や二階幹事長らを中心に自民党内では、安倍総裁4選論は根強い。問題は、安倍総理が4選論を受け入れるかどうかは横において、年内に新型コロナを封じ込めることができるのか。また、経済再生のメドを国民に示して、解散・総選挙で勝てる経済・社会環境を整えられるのかどうかが最大の問題だ。

つまり、永田町の勝敗、日本国内の事情を軸に解散・総選挙の流れが決まってきたこれまでとは、今回は、大きく異なるのではないか。V字型の急速な景気回復といった不確定要素を前提に解散・総選挙に踏み込んでいくことは不安定で、リスクは大きいのではないか。国民にとっては、リスク・シナリオであり、確率的にも実現可能性は低いのではないかという見方している。

 五輪中止の最悪ケースも

このほか、あまり考えたくはないが、延期したオリンピック・パラリンピックは、本当に来年夏までに開催できるのかどうか。新型コロナウイルスの終息、世界経済再生のいずれもメドがついているわけでない。最悪の場合、五輪の再延期、あるいは、中止の事態も頭の片隅に置いておく必要があるのではないか。

その場合、アスリートの挫折はもちろん、国民にとっても経済的な損失、さらには精神的なダメージは計り知れないほど大きいだろう。個人的な推測だが、その際には、安倍首相は政治責任をとって退陣表明、大きな混乱も予想される。

 安倍総理、レガシー意識も

振り返ってみると、安倍総理は政権復帰まもない2013年5月、ロシアでのG20サミットに出席した後、そのまま南米アルゼンチンのIOC総会に乗り込み、総理スピーチなどを行い、東京招致を射止めた。

この五輪招致が長期政権の原動力になった。そして今回、初のオリンピック延期となったが、来年開催にこぎつければ、安倍総理が強調するように”人類が新型感染症に打ち勝った証の五輪大会”になる。

安倍政権は憲政史上最長の政権になったが、レガシー・政治遺産と言われる功績は見当たらない。今回、五輪開催を実現すれば、オリンピック招致と開催の両方に関わった初めての総理大臣になる。同時に、新型感染症のパンデミックを克服したリーダーと位置づけることも可能になる。

このようにみてくると”リスクを取る、決断”を信条にしているように見える安倍総理は、年内の衆院解散よりも、世界が注目している五輪開催にができるかどうかのリスクへの挑戦を選択するのではないか。端的に言えば、五輪開催優先、感染症克服、世界経済回復をめざすのではないかというのが、私の読み方だ。

 メイン・シナリオ、五輪後解散

以上を整理すると、◇メイン・シナリオは「来年夏の五輪後解散」。◇リスク・シナリオは「今年秋以降、景気急回復後の年内解散」。◇ワースト・シナリオは「五輪中止、政局混乱」ということになる。

衆議院の解散・総選挙については、さまざまな見方・読み方がある。個人的には、今回は、5つの要素があると考える。
①東京五輪パラの開催時期、②新型コロナウイルスの感染状況、③経済・生活再建状況、④政権、与野党の思惑・対応、⑤世論の反応。

今回は、以上5つの要素を分析した上で、3つのシナリオに整理した。まだまだ、流動的な部分も多いので、新たな動きや見方が出てくれば修正しながら取り上げていく。

また、今後は、安倍首相の4選論、政治課題・選挙の争点、野党の戦略、世論の反応などについて、順次、取り上げていきたい。