”支持率改善も 看板政策は低評価” 岸田政権

通常国会は、焦点の新年度予算案の審議が大詰めの段階を迎えており、今月末に参議院で採決が行われ、与党の賛成多数で成立する見通しだ。

一方、統一地方選挙も今月23日、全国9道府県知事選挙が告示され、来月9日の投開票に向けて選挙戦がスタートする。こうした中で、NHKと共同通信がそれぞれ実施した3月の世論調査の結果がまとまった。(NHK10~12日、共同通信11~13日実施)

統一地方選挙突入前の政治情勢と、岸田政権や与野党の国会審議などを世論はどのように評価しているのか、分析する。

 内閣支持率、7か月ぶり不支持を上回る

まず、岸田内閣の支持率からみていくとNHKの世論調査では◆支持率が先月より5ポイント上がって41%に対し、◆不支持率は1ポイント下がって40%となった。

岸田内閣の支持率がわずかながらも不支持率を上回ったのは、去年8月以来7か月ぶりだ。(去年8月は支持率46%、不支持率28%」)但し、今月の支持と不支持の差はわずか1ポイントなので、五分と五分、拮抗とみた方がよさそうだ。

共同通信の世論調査では◆支持率は、4.5ポイント上がって38.1%、◆不支持率は、4.2ポイント下がって43.5%だった。支持率は改善しているが、不支持率が支持率を上回る状態が続いている。

NHKと共同通信の調査ともに岸田内閣の支持率が改善しているのは、なぜか。NHKの調査でみてみると、一つは、政府の賃金引き上げの取り組みをどのようにみるか。「評価する」が50%で、「評価しない」の43%を上回った。

もう一つは外交問題で、太平洋戦争中の「徴用」をめぐる問題をめぐり、韓国政府が解決策を発表した。日本政府も評価し、16日にユン大統領が来日して、日韓首脳会談が行われる。

この問題について「評価する」は53%に上り、「評価しない」の34%を大きく上回った。北朝鮮に対して、日韓両国の安全保障面の連携強化を評価する人が多いことが読み取れる。

また、自民支持層では、岸田内閣を支持していた割合は6割程度に止まっていたが、今月は69%まで上昇し支持率回復につながった。

このほか、国会論戦では、同性婚をめぐる発言で首相秘書官が更迭される問題が起きたものの、野党側が攻め手を欠き、与党ペースの国会運営が続いていることも影響しているとみられる。

 岸田政権の看板政策、評価しないが多数

このように岸田内閣の支持率は、改善している。但し、内容面をみていくと、岸田政権が重視している政策、看板政策については「評価しない」「不十分」などと厳しい見方が多い。

▲岸田首相が戦後の安全保障政策の大転換と位置づける防衛費の増額について、政府の説明をどのように評価しているか。「十分だ」は16%に止まり、「不十分だ」が66%、3人に2人の割合にも達している。

▲岸田首相が子ども予算の倍増を掲げる政府の少子化対策については、「期待している」は39%に対し、「期待していない」が56%と多数を占める。年代別では、18歳から30代までの若い年代では「期待しない」が66%にも達している。

▲さらに原子力発電を最大限活用するため、政府が最長60年とされている原発の運転期間を延長する法案を閣議決定した問題。「賛成」は37%に対し、「反対」は42%で上回っている。

このように岸田政権が打ち出した看板政策は、いずれも世論の支持を得られていない。

こうした背景には、岸田政権の国会対応に大きな問題があるのではないか。防衛費増額にみられるように従来の政府方針の繰り返しがほとんどで、防衛力整備の必要性や中身に踏み込んで国民に説明、説得しようとする姿勢や熱意が欠けている点に問題がある。

 放送法の問題、事実の解明と政府見解を

このほか、参議院の審議では、安倍政権当時、特定の民放番組の内容を問題視した首相補佐官が、放送法が定める政治的公平性をめぐり解釈の再検討を総務省に求めたとする文書が明らかになった。

共同通信の世論調査で、この行為は政権による「報道の自由」への介入と思うかどうかを尋ねている。◆「介入だと思う」が65%、◆「思わない」が25%だった。

また、当時の総務相だった高市早苗氏(現在、経済安全保障担当相)が、総務省が自らに説明を行ったとする文書を「捏造」(ねつぞう)と主張していることについて「納得できる」は17%で、「納得できない」が73%だった。

放送法3条では「放送番組は、法律に定める権限に基づく場合でなければ、何人からも干渉され、規律されることがない」と規定されている。首相補佐官や、首相といえども介入はありえないわけで、国民の多くは法律の本質を理解していることがうかがえる。

この問題は、安倍政権時代の首相補佐官と総務省、安倍元首相の意見調整ルート。また、もう一つのルート、総務省と当時の高市総務相への説明があったのかどうか。さらにこの2つのルートに関係があったのかどうか、事実関係を明らかにする必要がある。

その上で、岸田政権が、事実関係を整理したうえで、放送法の解釈について政府の見解を示すことが必要だと考える。

 統一地方選と5補選、無党派がカギ

以上みてきたように岸田内閣の支持率の改善はみられるものの、主要政策について、世論の支持を得ているとは言えない。今月末の子ども政策のとりまとめ方によっては、支持率が再び落ち込むことも予想され、不安定な状態にある。

一方、野党側も国会で思うような攻めの論戦を展開できていない。政党支持率では、自民党に大きな差をつけられたままで、党勢拡大の展望は開けていない。

このように政権与党と、野党側ともに弱点を抱えたまま、来月の統一地方選挙と衆参5つの補欠選挙に臨むことなる。

統一地方選挙はそれぞれの地域の選挙が中心だが、全国規模の選挙になるので、有権者の立場からすると政党の主張や主要政策は、選挙に当たって有力な判断材料になる。

それだけに各党とも地域の課題と、当面の政治課題についての考え方や構想を明確に打ち出してもらいたい。

NHK世論調査の政党支持率で、”第1党”は「支持する政党がない」無党派で、38.5%を占める。この無党派層のどの程度が投票所に足を運ぶか、どの政党が最も多く獲得できるかが、選挙のゆくえを左右することになる。(了)

 

 

 

統一地方選、衆参5補選の注目点

4年に一度の統一地方選挙前半戦の投開票まで今月10日で、1か月を切った。選挙日程は、今月23日に9つの道府県知事の選挙が告示されてスタートする。

続いて、41都道府県議会議員の選挙、6つの政令指定都市の市長と17の政令市の議員選挙が相次いで告示され、来月9日に前半戦の投開票が行われる。

後半戦の投開票日は来月23日で、東京の特別区と、全国の市町村の長と議員、合わせて907の選挙の投開票が実施される。また、後半戦の投開票日と合わせて、衆参5つの補欠選挙の投開票も行われる予定だ。

統一地方選挙は最も身近な自治体の長と議員を選ぶ選挙で、それぞれの地域が抱える課題が争点になる。

一方、統一地方選挙は全国規模の選挙なので、選挙結果は国政にも影響を及ぼす。また、今の衆議院議員の任期は再来年の10月なので、衆議院の解散が行われなければ、再来年夏の参議院選挙まで、まとまった国政選挙がないことになる。

そこで、今回の統一地方選挙は国政との関係で、どんな影響や意味合いを持つのか考えてみたい。

 知事選、与野党全面対決、保守分裂型

まず、統一地方選挙で最も注目されるのは、知事選挙だ。今回は、北海道、神奈川、福井、奈良、大阪、鳥取、島根、徳島、大分の9道府県の知事選挙が予定されている。前回4年前から、三重と福岡が知事交代にともなって減っている。

◆与野党の全面対決型となるのは北海道で、自民・公明両党が推薦する現職と、立憲民主党が推薦する元衆議院議員の対決となる。

◆大阪は、府知事選挙と市長選挙とのダブル選挙になる。維新は、府知事は現職、市長選は新人を擁立し、非維新の候補との戦いになる。

◆保守分裂となるのが奈良県と徳島県だ。このうち、奈良県は、保守が分裂し、自民党県連が推薦する新人と現職、それに関西に影響力を持つ維新が擁立する元市長の3つ巴の戦いになる見通しだ。

◆徳島県については、自民党の前参議院議員と、前衆議院議員、それに現職がそれぞれ立候補する意向を表明して、異例の保守3分裂の様相だ。

◆大分県は、現職の知事が引退し、自民・公明両党が推薦する前の大分市長と、野党系無所属の参議院議員が議員を辞職して立候補する見通しだ。(この参院議員は9日辞職願を提出、10日の参院本会議で認められた)

このように知事選挙については、与野党の全面対決型の選挙は少なくなってきている。

 自民議席占有率 5割確保できるか?

私が最も注目しているのは、41道府県議会議員選挙の各党の獲得議席数だ。各党の党勢を現すメルクマールになる。

◆自民党は、前回1158議席を獲得、全体の議席に占める議席占有率は50.9%に達した。前々回は50.5%で、2回連続して過半数を獲得した。いずれも安倍政権時代だが、岸田政権に代わり、この流れを維持できるかどうかが大きな焦点だ。

◆公明党は、市区町村議員選挙を含め、統一地方選で擁立する1500人の候補者全員の当選をめざしている。前回、道府県議選の166人は全員当選したが、政令市議選で2議席を失った。

◆野党側のうち、立憲民主党は、具体的な数値目標を示していない。前回19年は初の統一地方選への挑戦で、118人が当選し勢力を伸ばした。21年衆院選、22年参院選では敗北したが、今回はどうなるか。

◆日本維新の会は、現在400人の地方議員の数を1.5倍の600人以上に増やす目標を掲げている。800人程度の候補者を擁立し、目標の達成は可能だとしている。

◆国民民主党は、倍増となるおよそ400人の当選をめざしている。

◆共産党は、前回獲得した1200人を確保した上で、上積みをめざしている。

岸田政権は、この統一地方選挙を勝ち抜き、5月のG7広島サミットにつなげて政権の浮揚につなげていきたい考えだ。

一方、旧統一教会との関係や防衛増税の影響が選挙に影響を及ぼすのではないかと危惧する声もある。さらには、地域によっては世代交代の影響が現れるのではないかとの見方もある。

自民党の閣僚経験者に聞くと「道府県議会議員が減ったりすると、国会議員にとっては次の選挙に影響が出てくる。岸田首相では戦えないといった声が出てくる可能性もあり、要警戒だ」と指摘する。

安倍政権当時「自民1強」を地方で支えた地方組織が、今後も安定して継続するのかどうか、自民党の議席占有率をみていく必要がある。

 衆参補選、千葉5、和歌山1、大分が焦点

後半戦の4月23日投開票に合わせて、衆参5つの補欠選挙が行われる見通しだ。衆議院の千葉5区、和歌山1区、山口2区と4区、それに参議院の大分選挙区でも補欠選挙が行われる見通しだ。

◆千葉5区は、政治とカネの問題で自民党議員が辞職したことに伴い行われる。東京通勤圏の都市部の選挙区で、一定の野党支持層のある選挙区だが、立民、維新、国民の各党が候補者を擁立する見通しだ。

これに対し、自民党は新人の候補者を決定しており、自民党関係者は「野党候補が乱立すれば、議席獲得はありうる」との見方を示す。

◆和歌山1区は、これまで国民民主党所属の議員が議席を維持してきたが、県知事に転出したのに伴う選挙だ。自民党の二階元幹事長と世耕参議院幹事長の両陣営の間で人選が難航した末、元衆議院議員の擁立で決着した。

これに対し、関西圏に影響力を持つ維新は、前和歌山市議の女性候補を擁立した。維新幹部によると自民党内の足並みに乱れが出てくれば、勝機はあるとして、後半戦の重点区として戦う構えだ。

◆山口4区は安倍元首相の死去、山口2区は実弟の岸信夫前防衛相の辞職に伴う「ダブル補選」だ。野党側は、山口4区に元参議院議員を擁立するほか、山口2区も候補者の擁立を検討している。

◆参議院大分選挙区は、野党系無所属の参議院議員が県知事選に立候補するのを受けて行われる。辞職は10日に決まる見通しで、与野党ともに候補者の選考作業を急いでいる。

このように5つの補選の候補者や野党間の選挙協力などの構図が最終的に決まっていないが、自民党としては、5戦全勝をめざす方針だ。

これに対して、野党側は、これまで野党や無所属議員が確保していた議席は維持したいとして、野党間の協力を進めたい考えだ。

ここまでみてきたように9つの知事選挙と、41道府県の県議選、それに5つの補欠決戦がどのような結果になるのか。通常国会後半の国会運営をはじめ、岸田首相の衆院解散・総選挙戦略などにも影響を及ぼすことになりそうだ。(了)

★追記11日。大分県知事選挙への立候補を表明した安達澄参議院議員の辞職が、10日の参議院本会議で認められた。これによって、参議院大分選挙区では補欠選挙が行われる。衆参の補欠選挙は、この大分選挙区を含めて5つの選挙となる。

“選ぶ側”から見た東京都議選の注目点

東京都議会議員選挙が25日告示され、7月4日の投票日に向けて9日間の選挙戦に入った。選挙権がない方も多いと思うが、この選挙は、コロナ禍、東京五輪・パラリンピック開会を控えた中で、東京の有権者がどのような判断を示すか、注目点の多い選挙になりそうだ。

そこで、候補者や政党など選ばれる側ではなく、有権者”選ぶ側”の立場から、この選挙をどうみるか、どんな対応が賢明な選択になるか、探ってみたい。

何を重視するか?少ない候補者情報

都議会議員選挙と言われても、私たち選ぶ側が困るのは、立候補者はどんな人でどのような考え方を持っているのか、候補者の情報が極めて少ないことだ。最も身近な市区町村の議員選挙や、国政レベルの選挙に比べて、この中間に位置する都道府県議会議員選挙は候補者情報が少なく、誰に投票するか困ることが多い。

さて、どうするか。私事になるが、選挙期間中に各候補者の陣営から、自宅に配られるビラを集めておくと意外に役立つ。ビラを比較すると、各候補の経歴なども含めてどんな人物か、輪郭がわかる。加えて、配布される選挙公報には、候補者の公約、政策などが記載されているので、候補者情報をかなり集めることができる。

そのうえで、何を重視して選ぶか。今回の選挙について、すぐに頭に浮かぶのは、やはり新型コロナ対策だ。感染抑止対策として何をするのか、病床など医療提供体制の整備や、ワクチン接種などではどんな取り組みを考えているのかがわかる。

また、東京オリンピック・パラリンピックの開催の是非も、判断材料になる。予定通りの開催か、中止か。あるいは開催する場合でも無観客にするのか、制限付きで観客を入れるのかどうか、候補者の違いがわかるはずだ。

さらに、向こう4年間の東京都政のかじ取り役を選ぶので、中長期の課題・政策で判断したいと考える人も多いと思われる。首都直下型大地震に備えての防災対策、少子高齢化時代の社会保障の姿、子育て・教育・格差是正の取り組みなども問われることになる。

以上のような内容から、何を重視して選ぶのか。ここをはっきりさせれば、どの候補者を選択するか、対象者が絞られてくるのではないか。

 東京都政、どの政党・勢力を選ぶか

巨大都市、東京の街づくりや都民の暮らしを安定させていくためには、知事と議会が車の両輪として、それぞれの役割を果たしていくことが必須の条件だ。そのためには有能な議員を選ぶとともに、どの政党・政治勢力に中心的な役割を委ねるかがカギを握る。

今回の都議選は、小池知事が特別顧問を務める都民ファーストの会が第1党の座を維持できるか。それとも自民党が公明党との選挙協力を復活させており、公明党と合わせて過半数の議席を獲得したうえで、第1党へ返り咲くかどうかが焦点だ。

一方、共産党と立憲民主党は候補者を競合させないため、一部の選挙区で候補者のすみわけを行っており、議席の積み上げができるかどうかも注目される。

このほか、小池知事が過度の疲労による静養のため入院しており、今後、いつ公務に復帰し、選挙にどのようにかかわるのかにも関心が集まっている。

 コロナ禍 有権者の選択政党は?

今回の都議選は、緊急事態宣言は解除されたものの、コロナ感染が高止まりから、再び拡大の兆候が表れ始めた中での選挙になっている。”3蜜”を避けるため、各陣営の選挙運動も大規模な集会や街頭演説などの自粛が予想される。有権者の選挙への関心、投票率はどうなるか。

前回4年前は、小池知事が都民ファーストの会を立ち上げて”小池旋風”を巻き起こし、投票率は51%台まで上がった。その前の2013年選挙は、43%台まで落ち込んだ。今回、有権者の投票意欲は前回水準から強まるのか、あるいは下回るのかも注目点の1つだ。

また、東京都議選の結果は、次の国選選挙の先行指標になる。2009年の都議選では、当時の民主党が大勝して都議会第1党に躍進、夏の衆議院選挙で過去最多の議席を獲得して政権交代を実現した。

2013年の都議選で、自民党は候補者全員が当選して都議会第1党に返り咲き、続く参議院選挙でも過去最多の議席を獲得して圧勝した。都議選の結果は、全国の都市部の有権者の先行指標になるケースが多かった。

7月4日投開票となる東京都議選の結果は、菅政権の政権運営に大きな影響を及ぼすだけでなく、秋の衆院選挙のゆくえを占う判断材料になる。コロナ激変時代、有権者は何を重視し、どの政党・政治勢力を選択するのか目が離せない。

手詰まり 安倍政権のコロナ対策

お盆休みの期間に入ったが、新型コロナウイルスの感染拡大が収まらない。7日の全国の感染者数は1600人を超え、過去最多を更新している。感染急増の地方では危機感を強め、愛知、岐阜、三重、沖縄の各県などでは独自の緊急事態や警戒宣言を出すなどの対応に追われている。

政府の分科会は7日、感染状況を判断するため、新たに6つの指標を示した。医療のひっ迫状況などの具体的な指標を示すことで、国や都道府県に感染の深刻度を判断する目安にしてもらうのがねらいだ。

そこで、この指標を活用してどのような対策が打ち出されるのかだが、政府は指標に縛られて、再び緊急事態宣言を出すような事態は避けたいのが本音だ。それでは、政府の感染防止対策は順調に進んでいるかといえば、そのようには見えない。

今の安倍政権の対応を見ていると感染拡大を前に”打つ手なし、思考停止、手詰まり状態”に陥っているようにみえる。安倍政権のコロナ対策はどこに問題があり、どんな対策が必要なのか探ってみる。

 安倍政権 実態把握に弱点

安倍政権のコロナ対策をみていると問題点の1つは「実態把握に弱点」があることだ。

具体的な例を挙げると「感染者情報の収集・分析」。全国の感染者数をはじめ、PCR検査の実施件数、陽性者の割合、入退院者、死亡者などの情報を正確に収集・把握できなければ、効果的な対策は打てない。

東京をはじめ全国各地の感染者数が毎日発表されるが、日によって大きな違いがある。これは、なぜか。PCR検査で陽性とされた人の情報は、保健所に集められ、都道府県、厚生労働省へ報告・集計される。このうち、PCR検査の結果判明には数日かかる。加えて、報告はFAXや電話などを使ったアナログ対応だ。報告漏れや重複計上などミスも多い。東京都の場合、これまで123人分を訂正しているという。はっきり言えば、これまでのデータは必ずしも正確ではないということだ。

このため、厚生労働省は感染者の情報を一元的に管理するシステムづくりを始め、ようやく8月に入って運用を開始した。「ハーシス・HER-SYS」という新しいシステムで、厚生労働省と、保健所が設置されている全国155の自治体や医療機関などをインターネットで結び、感染者情報を共有する仕組みだ。

多忙な保健所のデータの入力体制や個人情報の取り扱いなどの問題を抱えているが、ともかく、ようやく基本情報の収集体制は整ったことになる。

国内で最初の感染者が確認されたのが1月16日。政府の対策本部の設置が1月30日、基本情報の収集体制づくりに半年もかかったことになる。政府は骨太方針に「デジタル社会の加速」を打ち出したが、足下では情報の収集態勢すらできていないのが実状だ。コロナ情報の収集・管理システムの整備を急ぐ必要がある。

 PCR検査 目標設定し加速を

次に、各地の知事や市長などの話を聞くと、困っているのが、PCR検査の問題だ。当初、日本は医療従事者や試薬などの準備が十分でなかったこともあり、PCR検査の対象を絞ってきた。しかし、その後、感染者数が急増しているのに、検査の拡充が遅れ、検査能力に比べて実際の検査件数が増えないと批判は強い。

これに対して、厚生労働省は7日、PCR検査能力は1日あたり5万200件まで可能になったと説明。4月時点では1万件、5月2万200件、7月3万1000件だったので、かなり改善されている。9月末までには、最大7万2000件余りを確保できるという見通しだという。

知事や有識者の側は、こうした取り組みは評価しながらも、自粛や休業要請の繰り返しや国民の不安が強く残ったままでは、経済の本格的な回復は見込めないとして、政府は「積極的な感染防止戦略」を明確に打ち出すように求めている。

具体的には、PCR検査は「9月末までに1日10万件」、インフルエンザの流行にも備えるため「11月末までに20万件」の検査能力を確保することなどを求めている。政府は検査能力の整備も進んでいるので、こうした数値目標を採用してはどうか。その際、簡便な抗原検査などを含めて検査体制の拡充計画を示してもらいたい。

 対策の全体像と工程表、説明が必要

政府のコロナ対応をみていると、7月末から感染者が全国で1000人を突破するようになり、地方の側は危機感を募らせ、独自の緊急事態宣言や警戒宣言などを出しているのに対して、政府側の取り組みは極めて鈍い。

菅官房長官や西村担当相も連日、記者会見を行っているが、「感染防止と経済活動の両立をめざす」「Go Toトラベルは予定通り」「緊急事態宣言を再び出す状況にはない」などと規定方針の繰り返しが続く。

国民の側が知りたいのは、感染防止と経済活動の両立を目指す方針は理解するが、それなら、感染防止と経済活動再開に向けて具体的に何をするのか、それぞれ「対策の中身と全体像」を明らかにして欲しいということだ。

また、冬場のインフルエンザの流行期まで残された時間はあまりない。PCR検査の拡充をどのようなペースで進めるのか。医療提供機関の準備や経営悪化にどう対応するのか。中小事業者の事業継続や、休業中の労働者の雇用対策をどのように進めるのか。時期のメドと合わせた「工程表」の形で打ち出すべきではないか。

さらに、安倍政権の対応、国民への説明が極めて不十分だ。安倍首相がまとまった記者会見を行ったのは6月18日、それ以降は行っていない。8月6日、広島原爆の日に現地で記者会見を行ったが、15分という限られた会見だった。

国会は既に6月から夏休み状態、霞が関もお盆休みに入る。野党は臨時国会を早期に召集するよう求めているが、与党側は10月まで応じない構えだ。

国民の側は、お盆の帰省や旅行を取り止めたり、子どもの短い夏休みが終わった後の新学期の準備などにも思いをめぐらせている。

新型コロナウイルスの感染状況や医療・検査現場の態勢も日々変化している。安倍政権はこの夏以降、コロナ危機をどのように乗り切る考えなのか。できるだけ早く国民に向けた記者会見を行い、対策を明らかにする責任があると考える。

来年”五輪後 解散”か 新型コロナ政局

新型コロナウイルス感染が世界規模で拡大する中で、新年度予算が27日に成立した。例年だと通常国会前半の大きなヤマ場を越えたことになるが、今年はコロナウイルスのパンデミックの影響で、東京オリンピック・パラリンピックが来年夏まで1年程度延期されることになり、政治日程は一変した。

そこで、日本政治は今後、どう動くのか。国民の関心も高い衆院解散・総選挙は、どうなるのか探ってみた。結論から先に言えば、次のようになる。

◆メイン・シナリオは来年夏の東京五輪パラ後「五輪後解散」の公算が大きい。◆リスク・シナリオAとしては、今年秋以降「年内解散」もありうる。
◆リスク・シナリオBとして、「五輪再延期、中止の最悪ケース」も念頭に置いておく必要がある。なぜ、こういう結論になるのか、以下、説明したい。

 政治日程一変

本論に入る前に、前提となる今年の主な政治日程を確認しておきたい。
今年の政治日程は当初、夏のオリンピック・パラリンピック開催を前提に組み立ててきたが、1年程度の延期が決まったことで、政治日程は一変した。

新年度予算案は成立したが、新型コロナ対策が盛り込まれていないため、◇直ちに追加の経済対策をまとめ、新年度補正予算案を編成、大型連休前の4月下旬の成立をめざす。◇6月17日が通常国会の会期末。◇7月5日が首都・東京の都知事選の投開票と続く。

来年は、◇夏に東京五輪・パラ開催予定。◇7月22日東京都議会議員の任期満了。◇9月30日自民党総裁の任期満了。◇10月21日には、衆議院議員の任期が満了。

つまり、今年はパンデミック終息と世界経済回復という難しい舵取りが続くが、日本の政治日程は、今のところ夏以降は空白状態だ。逆に来年は夏から秋にかけて、主要な政治日程が集中していることがわかる。

 五輪最優先、来年秋解散説

そこで、本論に入って衆院解散・総選挙の時期はどうなるか。個人的に信頼している与党幹部に聞いてみた。

「オリンピックの延期で、今年の夏以降、政治日程に大きな空白ができるのは事実だ。政治がやらないといけない点は、コロナの終息、日本と世界の両方で押さえ込む。それに日本経済の立て直し。いずれも今年秋までにメドをつけるのは、たいへんなことだ。政権に年内解散をやる余裕があるか、ない。そうすると結論は決まってくる。オリンピックを安倍総理がやりとげ、その後、自民党の後継者選び、さらに任期満了前の解散・総選挙。腹を決めてやるしかないだろう」。

安倍首相4選の可能性、任期満了選挙は自民党内は嫌がるなど問題は多い。一方で、新型コロナ感染の流行は欧米で続いており、新たにアフリカや南米などに拡大していく勢いだ。世界経済への影響はリーマンショック以上とも言われている。日本としては、当面、延期した東京五輪開催にこぎ着けることが至上命題になっていると言える状態だ。

そうすると、まずは来年夏のオリンピック・パラリンピックを開催。その後、任期満了・ゴールが決まっている自民党総裁選挙、続いて衆院解散・総選挙を行っていくのが、オーソドックスな対応であり道筋。メイン・シナリオだとみる。

 景気V字回復、年内解散論

これに対して、安倍総理の総裁4選を推進する人たちは、別の見方をしている。元々、今年夏に東京五輪が開催されていた場合は、オリンピック・パラリンピックの成功させた後、新たな国づくりを訴え、年内に衆院解散・総選挙、勝利をめざすのを基本戦略にしていた。来年に持ち越すと自民党にとって不利とされる任期満了選挙に追い込まれるおそれがあるので、回避したいとの事情もあった。

そのオリンピック・パラリンピックが来年に延期されたが、基本戦略は変わらない。今年7月の東京都知事選は、小池百合子現知事を担いで野党に対して圧勝をめざす。その上で、超大型経済対策で日本経済のV字回復をはかり、年内に衆議院解散・総選挙を断行。来年夏の五輪開催・成功を経て、安倍総理の総裁4選、または自らに近い後継者へのバトンタッチを図る道筋を探るものとみられる。

麻生副総理や二階幹事長らを中心に自民党内では、安倍総裁4選論は根強い。問題は、安倍総理が4選論を受け入れるかどうかは横において、年内に新型コロナを封じ込めることができるのか。また、経済再生のメドを国民に示して、解散・総選挙で勝てる経済・社会環境を整えられるのかどうかが最大の問題だ。

つまり、永田町の勝敗、日本国内の事情を軸に解散・総選挙の流れが決まってきたこれまでとは、今回は、大きく異なるのではないか。V字型の急速な景気回復といった不確定要素を前提に解散・総選挙に踏み込んでいくことは不安定で、リスクは大きいのではないか。国民にとっては、リスク・シナリオであり、確率的にも実現可能性は低いのではないかという見方している。

 五輪中止の最悪ケースも

このほか、あまり考えたくはないが、延期したオリンピック・パラリンピックは、本当に来年夏までに開催できるのかどうか。新型コロナウイルスの終息、世界経済再生のいずれもメドがついているわけでない。最悪の場合、五輪の再延期、あるいは、中止の事態も頭の片隅に置いておく必要があるのではないか。

その場合、アスリートの挫折はもちろん、国民にとっても経済的な損失、さらには精神的なダメージは計り知れないほど大きいだろう。個人的な推測だが、その際には、安倍首相は政治責任をとって退陣表明、大きな混乱も予想される。

 安倍総理、レガシー意識も

振り返ってみると、安倍総理は政権復帰まもない2013年5月、ロシアでのG20サミットに出席した後、そのまま南米アルゼンチンのIOC総会に乗り込み、総理スピーチなどを行い、東京招致を射止めた。

この五輪招致が長期政権の原動力になった。そして今回、初のオリンピック延期となったが、来年開催にこぎつければ、安倍総理が強調するように”人類が新型感染症に打ち勝った証の五輪大会”になる。

安倍政権は憲政史上最長の政権になったが、レガシー・政治遺産と言われる功績は見当たらない。今回、五輪開催を実現すれば、オリンピック招致と開催の両方に関わった初めての総理大臣になる。同時に、新型感染症のパンデミックを克服したリーダーと位置づけることも可能になる。

このようにみてくると”リスクを取る、決断”を信条にしているように見える安倍総理は、年内の衆院解散よりも、世界が注目している五輪開催にができるかどうかのリスクへの挑戦を選択するのではないか。端的に言えば、五輪開催優先、感染症克服、世界経済回復をめざすのではないかというのが、私の読み方だ。

 メイン・シナリオ、五輪後解散

以上を整理すると、◇メイン・シナリオは「来年夏の五輪後解散」。◇リスク・シナリオは「今年秋以降、景気急回復後の年内解散」。◇ワースト・シナリオは「五輪中止、政局混乱」ということになる。

衆議院の解散・総選挙については、さまざまな見方・読み方がある。個人的には、今回は、5つの要素があると考える。
①東京五輪パラの開催時期、②新型コロナウイルスの感染状況、③経済・生活再建状況、④政権、与野党の思惑・対応、⑤世論の反応。

今回は、以上5つの要素を分析した上で、3つのシナリオに整理した。まだまだ、流動的な部分も多いので、新たな動きや見方が出てくれば修正しながら取り上げていく。

また、今後は、安倍首相の4選論、政治課題・選挙の争点、野党の戦略、世論の反応などについて、順次、取り上げていきたい。

安倍総理、本当の出番ですよ!コロナ危機

新型コロナウイルス感染の問題は、先週3月19日の専門家会議の提言を受けて、大型イベントの自粛要請は続くものの、政府が要請した一斉休校は終了、地域によって学校が再開、追加の経済対策づくりも急ピッチで進められる見通しだ。

一方、今回のコロナウイルス感染が日本社会や経済へ与えた影響は極めて大きく、安倍政権は乗り切ることができるのかどうか。ここ数か月の政権の取り組みが大きなカギを握っている。端的に言えば、”安倍総理、これからが、本当の出番ですよ!”と言えるのではないかと思う。

新たな局面を迎えつつあるコロナ危機。安倍政権の対応、どんな取り組みが必要なのか探ってみたい。

 ”感染制御のメッセージ” が必要

新型コロナウイルスの感染が中国の武漢で確認されたのが去年12月上旬、日本国内で初めて感染者が出たのが今年1月16日、中国武漢市から帰国した中国国籍の男性だった。それから2か月余り経過したが、国内での感染者は1000人を上回っている状況だ(3月22日18時半時点、1078人。クルーズ船712人除く)。

これまでの政府の対応は、指定感染症の指定・公布、クルーズ船の集団感染、専門家会議の設置時期などを見ると”後手に回っている”と言わざるを得ない。

一方、安倍総理が2月27日に突然、発表した小中高など全国一斉休校の要請は、決め方などに批判を浴びたものの、国民全体に危機感を共有するなど一定の効果はあったと言えるのではないか。

さて、問題はこれからだ。文部科学省は一斉休校措置は終了、地域によって新学期から学校再開の方針を決める見通しになっている。
また、政府は経済対策の取りまとめに向けて、さまざまな業界・団体などからのヒアリングを行っており、経済対策の中身の大胆さや、規模の大きさに関心が集まりつつある。

ところが、経済対策でいくら巨額な予算を積み上げても、感染症を押さえ込む根本対策が十分でないと、国民は安心できない。経済対策も効果を上げるのは難しいのではないか。

そこで、3月27日には新年度予算案が国会で成立する見通しで、大きな節目を迎える。つまり、経済対策をまとめる前に安倍総理は、「コロナウイルスの制御・コントロール」について、どんな見通しを持っているのか、どんな対策に重点を置いて取り組もうとしているのか、国民に明らかにしてもらいたい。

東京オリンピック・パラリンピック開催に向けて、日本の受け入れ体制の整備に関係してくる問題でもある。

 検査と治療体制への疑問

政府の対応策について、安倍総理をはじめ、加藤厚生労働大臣、西村経済再生担当大臣らの記者会見などを聞いて、納得のいかない疑問点が2つある。

1つは、検査体制、具体的には、新型コロナウイルスの感染の有無を調べるPCR検査。日本はどうして検査件数が少ないのかという点だ。
1日に可能な検査は、2月18日には約3800件だったが、3月16日には7500件、およそ2倍に増えた。
一方、実際に行われた検査件数は、1日あたりの平均で、2月18日からの1週間で901件だったのが、3月9日からの1週間では1364件と増えている。

但し、検査が可能な件数は1か月で2倍に増えたのに、実際に行われた検査は、検査能力の2割程度に止まっている。

また、3月6日からは公的医療保険が適用されるので、検査件数は増えると強調されてきたが、公的保険が利用された件数は、全体のわずか2%に止まっている。

政策に詳しい国会議員に聞いても私と同じように、なぜ、日本では件数が増えないのか、役所の側から納得のいく説明はないと話している。

2つ目は、治療体制の拡充だ。専門家会議は、重症者を隔離して治療を行えるようにすることが重要だと指摘した上で、保健所などが対応できるように思い切った予算や人員の投入が必要だと要望している。

ところが、厚生労働省は、都道府県別の重症者の受け入れ見通しの数字は発表するが、体制は十分と言えるのか、十分な声明は聞かれない。
こうした根源部分の対策について、安倍総理などから納得のいく説明が欲しいところだ。

 政権内の対立・確執を危惧

新型コロナ感染に対する対応に関連して、危惧されているのが、政権内の対立、確執だ。

例えば、安倍首相が先に突如、要請した一斉休校。内容もさることながら、一斉休校案について、菅官房長官をはじめ、萩生田文部科学大臣、加藤厚生労働大臣ら側近と言われる閣僚も当日まで知らされていなかったことに驚かされた。

関係者によると端的に言えば、今井総理補佐官の進言を安倍総理が採用し、関係閣僚は外されていたという構図になる。背景として政権運営をめぐって、今井総理補佐官と、菅官房長官との対立、確執が影響しているとの見方がされている。第2次政権発足から8年目に入る異例の長期政権、政権内部が常に一枚岩とはいかないのはある程度、想像できる。

但し、政権発足まもなく東京オリンピック・パラリンピックの招致に成功したころを思い起こすと、大きな様変わりだ。
当時、政権関係者は「政権運営が順調なのは、安倍総理、麻生副総理、甘利大臣、菅官房長官の4人が話し合い、それを官房長官を通じて閣内に徹底してきたこと。総理と官房長官の関係がいいことが大きい。それに政務の総理秘書官・今井さんら各省秘書官グループらが支えていることだ」と話していた。長期政権で、政権中枢の人間関係も変質してきたと言えるのではないか。

しかし、今回は、国民の命と健康、暮らしに関わる問題だ。当面の危機を乗り切るメドがつくまでは、政権内の利害・打算などは横に置いて、危機管理に徹する必要がある。コロナ危機を乗り切ることができるかどうか、これから本当のヤマ場を迎える。”覆水盆に戻らず”とのことわざがある。政権中枢の一体感を取り戻すことができるのか、その点でも安倍総理の本当の力量が問われていると見ている。

首相官邸の意思決定は?一斉休校の舞台裏

安倍首相の一斉休校の要請を受けて、全国各地の小学校、中学、高校、特別支援学校では、3月2日から臨時休校が始まった。突然の要請で、学校現場をはじめ、子どもを抱える家庭、休暇申請の社員を抱える企業などは、てんやわんやの対応に追われた。”そこのけ、そこのけ、政権が通る”といった風情に見える。

気になるのは、こうした異例の要請、安倍政権内でどのような意思決定で決まったのか、よく分からない点だ。加えて、これからは、緊急事態宣言の実施もできる特別措置法制定をめざす動きも始まる。

そこで、これまでの安倍政権の対応、いい・悪いの評価は一旦、横に置いて、どんな経緯をたどって決まったのか、整理しておきたい。事実関係はどうなのか、3月2日、3日の両日、安倍首相も出席して行われた参議院予算委員会の与野党の質疑をベースに整理した。

 ▲①安倍首相 政治判断の根拠

第1のポイントは、安倍首相が踏み切った一斉休校要請の考え、その判断の理由・根拠は何かという点。安倍首相は、次のように答弁している。

「専門家から、感染の拡大を防ぐことができるかどうかは、この1,2週間が瀬戸際だとの見解が出された。感染ルートが確定されていない感染者が出てくる中で、判断に時間をかける、いとまがない。私の責任で判断した。専門家に直接うかがったものではない」。つまり、判断にあたっては、専門家の意見は求めず、自らの政治判断で決断したことを明らかにした。

感染・医療の専門家に聞くと、特に今回のような未知のウイルス対策については、政権が方針決定をする前に、医療分野に詳しい専門家や官僚が技術的・専門的な分析・検討を行い、その意見を踏まえて、政治が判断することが望ましいと指摘している。

▲②関係閣僚との調整は

第2は、安倍首相と関係閣僚との調整。具体的には、2月27日に安倍首相が全国一斉に臨時休校をするよう要請する方針を表明した。感染拡大防止を担当する厚労大臣、文教行政を担当する文部科学大臣との調整はどうだったか。

加藤厚労相は、休校要請方針を聞いた時期については「27日午前の衆議院予算委員会の後だと思う」とのべた。

萩生田文部科学大臣は「一斉休校が必要かということは当初、私は問題意識が低かった。文部科学省としては、早い段階から幾つかのシミュレーションをしていた。全国一斉というより、感染状況が違うので、地域によって、休校措置などを検討していた」とのべている。全国一斉休校には慎重な姿勢だ。

2人の閣僚発言からもわかるように首相と担当大臣との間では、事前に十分な検討、意見調整が行われていたとは言えない。27日に急展開したと言えそうだ。

このような事前の調整不足は、子どもを抱える共稼ぎ世帯はどうするのか。学童保育施設の運営、休業に対する保障はどうなるのか、国民の側に、混乱と負担の形で跳ね返る。

2017年、衆院選で突然打ち出された幼児教育などの無償化方針。その後、無認可保育所の扱いなどが詰められておらず、混乱したことが思い出される。

▲③内閣の要、官房長官との関係

第3は、内閣の要、総合調整に当たる官房長官との関係。今回の休校問題では、菅官房長官の影は薄い。予算委員会の質疑でも質問が向けられることは少ない。

第2次安倍政権の発足以降、菅官房長官は政策の総合調整、東日本大震災の復興・復旧、数々の不祥事などの危機管理に当たってきた。

また、菅官房長官が中心になって、政務と事務の官房副長官、総理秘書官などと活発な意見交換、濃密なコミュニケーションが長期政権を支える原動力の1つと見られてきた。

ところが、このところ、桜を見る会への対応、今回の新型ウイルス感染対応などでは、菅官房長官の存在感があまり感じられない。首相との距離の広がり、官邸内の不協和音、”外されているのではないか”との見方まで伝わってくる。

(※菅官房長官は、5日の参院予算委員会で、安倍首相が小中高校などに一斉の臨時休校を要請することを知ったのは、2月27日午後だったことを明らかにした。「その日の午後だ。首相と4,5日間ずっと議論し、その日の午後、首相が判断したと聞いた」と答弁。加藤厚労相、萩生田文科相も27日、当日に知らされたことを明らかにしている)

 ▲④最側近の補佐官の存在

第4は、最側近の今井秘書官の存在・役割。これまで見てきたように今回の休校問題では、安倍首相と近いと言われる加藤厚労相、萩生田文科相、それに菅官房長官も、方針決定に深く関わっているようには見えない。

政界関係者に聞くと、今回の対応については、総理大臣の政務秘書で首相補佐官も兼ねる今井秘書官の存在感が増しているという。

確かに今井秘書官は、これまでの苦境の安倍首相を支える役割を果たしてきた。内政、外交、政局対応でも事態の打開に当たってきた。

今回の問題は、野党から「クルーズ船対策で、安倍政権は後手後手の対応」と追及され、内閣支持率も急落する中で、反転攻勢、政権運営の主導権を取り戻すねらいがあったのではないか。そのために安倍首相が、今井秘書官の進言を採用することを決断したのではないかと見ている。

 ▲⑤正念場の政権運営

それでは、これからは、どんな展開になるのだろうか。
ここまでの流れは、24日に専門家会議が「今後1、2週間が瀬戸際」との見解をとりまとめ、25日に政府が感染拡大防止をめざす基本方針を決定した。

ところが、26日に安倍首相は大規模イベントの自粛を要請、27日には小中高の一斉臨時休校の要請に踏み込む考えを表明、政権の対応にブレが目立ち始めた。

こうした背景には、強い政権イメージにこだわる姿勢と政権運営の焦り、首相官邸内の足並みの乱れがあるのではないか。

一方、新型コロナウイルス感染押さえ込みのメドはついていない。
感染拡大が続く中で、相変わらずマスクや消毒液の不足が続く。検査体制や重症者の受け入れ体制の整備も大きな課題。さらには、非常事態宣言などができる特別措置法の制定に向けての野党の協力の取り付けたい。

こうした中で、去年夏の参議院選挙で当選した河井案里参議院議員と、夫の河井克行前法務大臣の公設秘書ら3人が、公選法違反容疑で3日、検察当局に逮捕された。河井案里議員には、安倍首相、菅官房長官が積極的なてこ入れをしたほか、自民党が異例の1億5000万円もの資金を投入・支援をした。

今後、懸念されるのは、東京オリンピック・パラリンピック開催は大丈夫なのか。それに日本経済の先行きだ。

安倍政権は現在、憲政史上、最長の記録を更新中だが、緊急課題は、感染危機の乗り切りだ。合わせて、不祥事への対応と国民の信頼回復、経済運営のかじ取りも必要不可欠で、正念場を迎えている。

”危機感伝わらない”首相会見 新型肺炎

新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、安倍首相が29日午後6時から記者会見し、全国の小中高校を臨時休校するよう要請する考えを打ち出した経緯などについて、説明した。

この中で、安倍首相は、異例の休校を要請について「断腸の思いだ」と理解を求めるとともに、保護者が休業に伴って所得が減少した場合、新たな助成金制度を設ける考えを表明した。

この記者会見をどう見るか。休校措置を打ち出した理由や、今後の対応策などについて、具体的で新たな内容は乏しく、危機感が伝わってこない。”説得力は今一つ”と言わざるを得ない。

 新型肺炎後、初の記者会見

今回の安倍首相の記者会見は、新型コロナウイルス感染が広がって以降、初めてだ。
また、小中高校の極めて異例の臨時休校を要請した直後だけに、こうした決断に踏み切った理由や、今後の取り組み方などについて、学校関係者、保護者、国民に向けてどんなメッセージを発信するのか、大きな関心を持って、記者会見を聞いた。

 具体策、新味の乏しい記者会見

安倍首相の発言内容のポイントを整理すると、次のような点だ。
△政府の専門家会議を踏まえると、今後2週間程度、国内の感染拡大を防止するためにあらゆる手段を尽くすべきだと判断した。

△全国の小中高の臨時休校を要請したことについて「断腸の思いだ。何よりも、子どもたちの健康・安全を第1に感染リスクに備えなければならない」と判断した。

△保護者の負担軽減に向けて、学童保育は春休みと同様、午前中から開所するなど自治体の取り組みを支援するとともに、新しい助成金制度を創設することで、正規、非正規を問わず、休職に伴う所得の減少に対する手当の支援に取り組む。

△感染拡大の防止に向け、第2弾となる緊急対策を今後10日程度のうちにとりまとめる。

以上のような点を中心に説明したが、例えば、休業に伴う助成はどういう制度にになるのかなど具体的で、新味のある説明は乏しかった。このため、安倍首相が「断腸の思い」と語っても、危機感が伝わってこない。”説得力は今一つの記者会見”と言わざるを得ない。

 問われる政権の危機管理

それでは、安倍政権の対応としては、今、何が最も問われているのか。
新型ウイルス感染を防いでいくためには、幅広い分野で、全国規模で対策を実施していく必要がある。

具体的には、総理官邸が、中央省庁や地方自治体と連携・協力を強めるとともに、医療機関や大学、企業、国民がそれぞれの役割を果たしながら、連携していく体制をつくることが重要だ。政権が「総合的な調整を行い、危機管理の中枢」としての役割を果たしていく考えを表明すべきではなかったか。

あるいは、今後、感染危機に対応するため、新たな法律を制定するため、野党に協力を求める。これまでの行き掛かりは一旦、横に置いて、党首会談を呼びかけるなど大胆な取り組みを提起すべきではなかったか。

 実行プロセスに専門家の意見を

今後、対策を実行していくのあたっては、専門家と官僚の意見、協力がカギを握ってくる。政治主導、安倍1強政権といっても、今回の感染症の分野では、所詮、素人だ。疫学・医療の専門家・プロ、官僚の意見を踏まえて、対策をまとめ、実行に移していく必要がある。
政府は専門家会議を設置しているが、この専門家会議のメンバーは、今回の全国一斉の休校措置について意見を求められたことはなく、「政治判断」だと受け止めている。

野党などから「政府の対応は、後手後手」などと批判されても、政策決定と対策実行に当たっては、まずは、専門家や官僚に技術的・専門的議論を行ってもらう。その上で、そうした意見・助言を踏まえて、政治が決断・実行していく。こうしたプロセスを取ることが、本来の危機管理ではないか。

これに対して、こうしたプロセスなき政権運営は危うい。安倍政権がどんな対応、政権運営をしていくのか、正念場を迎えている。

 

全国臨時休校と危機管理の本質

新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、全国すべての小中高校を、来月2日から臨時休校するよう要請するとの驚くニュースが、27日夕方飛び込んできた。

政府の対策本部で安倍首相が表明したもので、感染拡大を抑制し、国民生活や経済に及ぼす影響を最小にするために必要な法案も準備するよう指示したという。

今回の臨時休校は、踏み込んだ対応策で賛否両論あると思うが、結論から先に言えばありうる措置だと考える。

問題は、政権の危機管理のあり方。何を最優先に取り組むかという問題を考える必要があるということ。
今、最優先でなすべきことは、感染源の正確な把握。そのための検査体制を早急に整えること。もう1つは、感染拡大期に備えて診察・治療体制の整備だ。

問題の本質は、学校の休校措置ではなく、感染源の検査と対策。ここを最重点に対応していくことが重要だと考える。みなさんはどのようにお考えでしょうか。

全国臨時休校、どう評価?

この臨時休校、安倍総理大臣は、北海道などで小中学校などの臨時休校の措置が取られていることに触れた上で、次のように表明した。

「ここ1,2週間が極めて重要な時期だ。何よりも、子どもたちの健康第1に考え、日常的に長時間集まることによる大規模な感染リスクににあらかじめ備える必要がある」とのべ、来月2日から全国全ての小学校、中学校それに高校と特別支援学校について、春休みに入るまで臨時休校するよう要請する考えを示した。

こうした対応をどう評価するか? 2009年の新型インフルエンザの際の対応が思い出される。世界的な流行になったが、日本は他の国に比べて圧倒的に死亡者数を押さえ込むことに成功した。

この時は、関西、大阪や兵庫で大流行したが、学校の臨時休校・閉鎖措置を実施したことがウイルスの駆逐に成功した要因だったという。こうした例を考えると、臨時休校の措置も1つの選択肢だと考える。

 本質は、感染源対策にあり!

そこで、問題の本質はどこにあるか?それは、コロナウイルスの感染拡大をどう防ぐか、感染源対策にある。

今回は、政府が本格的な対策を打ち出す前に、既に中国などから大勢が入国しており、水際対策だけで完全に封じ込めることはできない。このため、水際対策は続けながらも「国内対策にシフト」する必要があるというのが専門家の意見だ。

つまり、コロナウイルスの感染感染源をどう防ぐことができるかにある。そのためには、感染源の検査、検査で重症者や接触者を突き止め、死亡者などを最小限にし、最終的に感染源を押さえ込むことにある。

学校への新型ウイルスの侵入を防ぐことは大事だが、感染源は学校以外にある。その感染源を検査で突き止め、防止していくことが基本だ。

 政権の危機管理、検査と治療体制

政府のこれからの新型感染対策では、政権の危機管理能力が問われる。幅広い分野での対策を、全国規模で行う必要がある。そのためには、政府、中でも対策・実行の司令塔として「総理官邸、政権の総合的な調整力」がカギを握っている。

その危機管理では「最悪の事態」に備えるのが鉄則だ。最悪の事態への対応として、感染拡大防止に学校の臨時休校もありうる。

但し、問題の本質は、休校ではなく、感染源の抑制だ。具体的にはウイルスの検査体制をどうするのか。政府は、1日に全国で3800件まで検査能力を拡大できたと強調してきた。ところが、実際は900件に止まっているという。医師が保健所に検査を依頼しても、人手不足などを理由に断られるケースもあるという。

また、重症者を入院させ、治療を行い、死亡者を最少化することが感染症の押さえ込みにつながる。感染拡大期に全国で、入院・治療の受け入れ体制を整備することが最も問われる点だ。

安倍政権としては、こうした検査、治療体制の整備に予算、人材をどのように投入するのか、大胆で説得力のある対策を提起することが最も問われる点だと考える

 問題の本質、見極めが大事!

最後に繰り返しになるが、危機の際には、問題の本質・核心は何か。ここを立ち止まって見極めることが大事だ。

学校の全国規模の臨時休校、前例のない取り組みで、子ども達の暮らし、家庭の受け入れ体制など多くの問題を抱えており、大きな議論を巻き起こすだろう。

但し、問題は繰り返しになって恐縮だが、感染源を突き止め、抑制することだ。
そのための検査、診察・治療体制をどうするのか。そのために政権はどんな対策を考え、実行しようとしているのか。この点についての政府の方針と説明を求めていくことが最も必要なことだ。問題の解決の順番を間違えないことが肝要だと考えます。

 

取り止め相次ぐ ” 政権の看板政策”

大学入学共通テストに導入される予定だった国語と数学の「記述式問題」について、萩生田文科相は17日、再来年1月からの導入を見送ることを発表した。
「英語の民間試験」についても先月、導入の延期が発表された。これによって、大学入試改革の2つの柱が実施されないことになった。

「英語の民間試験」と「記述式問題」の導入は、安倍政権の教育再生実行会議がきっかけになって打ち出された政権の看板政策だが、相次いで導入延期や取り止めが決まったことになる。

このほか、この秋以降では、内閣改造で主要閣僚の2人が更迭されたのをはじめ、首相主催の「桜を見る会」の来年春の開催が中止になっており、人事や政策面での更迭・取り止めが目立つ。

今回の入試制度改革の問題をどのように見たらいいのか、政権や政治の対応に焦点を当てながら探ってみたい。

 制度設計に大きな問題

大学教育や高校教育を改革していくために、大学入試制度を改善したいというねらいは理解できる。しかし、実際に実施していく上で、受験機会や経費負担の面で数多くの問題が指摘され、公正・公平な入学試験としては、実施面で問題がありすぎるというのが率直な印象だった。

このため、当ブログでも、今回の入試制度改革の問題点を指摘するとともに「制度設計から出直しを!」と提案してきた。したがって、今回の見送りは、やむを得ない措置だと受け止めている。

 文科省の会議で検討へ

問題は、これからどうするかだ。文科省は萩生田文科相の下に設置する会議で、英語の4技能を評価する仕組みや記述試験の充実策などを検討し、今後1年をメドに結論を出す方針だ。

また、萩生田文科相は17日の記者会見で、「誰か特定の人の責任でこうした事態が生じたわけではない。現時点で私が責任者なので、私の責任でしっかり立て直しをしたい」と発言している。

気になる点は、今回の問題は、文科省の所管であり、第一義的な責任があるが、今回の見送りになった経緯の検証にあたっては、文科省の担当部局の対応などに矮小化されることはないかという点だ。問題の背景、特に具体的な問題が指摘されながら、なぜ、早い段階で見直しや中止ができななかったのか、問題の核心部分を明らかにしてもらいたい。

そのためには、歴代の文科相の対応、総理官邸との関係、民間試験の採点などを請け負っていた受験産業と官僚の天下りといった事実関係などについて、正確な調査・検証が必要だ。

その上で、受験生の不安が払拭できる新しい入試制度を打ち出してもらいたい。
受験生や学校関係者、保護者の信頼に応える重い責任がある。

 政権全体の検証・検討が必要

以上のような文科省の検討も必要だが、私個人は、安倍政権全体として、これまでの経緯の検証と今後の取り組み方が必要だと考えている。

というのは、これまで入試制度改革推進派の教育研究者を取材すると「今回指摘されているような問題点は、文科省が設置した検討会議の中で指摘してきた。
但し、文科省側から具体的な対応は見られなかった」と証言している。

一方、慎重派の教育研修者も「文科省も、総理官邸の肝いりの教育政策には、問題点などを表明できなかったのではないか。大学側は、運営交付金を受ける文科省の顔色をうかがい、文科省は強い立場にある政権を忖度する雰囲気があったのではないか」と疑念を示していたからだ。

今回の大学入学共通テストへの英語民間試験の導入は2013年に安倍首相が設置した教育再生実行会議に遡る。その再生会議の提言を受けて導入への動きが始まった。その後、2014年12月に文科相の諮問機関である中央教育審議会の答申、2017年7月に文科省が民間試験の実施方針を決定した。

つまり、安倍政権が6年余りをかけて推進してきた問題なので、安倍政権として、今回の問題をどのように受け止め、どのような方針で対処するのか明確にする責任があるのではないか。そのためには、文科省任せにせずに、安倍首相自ら、歴代文科相や文科省幹部に指示して、事実関係を明らかにして、責任問題と今後の対応策を打ち出すことが必要ではないかと考える。

 相次ぐ更迭・取り止め、説明なし

今回の問題だけでなく、安倍政権の出来事をこの秋以降、振り返ってみると、内閣改造で初入閣した菅原前経産相と河井前法相の連続辞任・更迭にはじまって、萩生田文科相の「身の丈発言」と英語民間試験の導入延期、首相主催の「桜を見る会」の来年の開催取り止め、さらには、今回の記述式問題の導入見送り・白紙撤回など中止や取り止めが相次いでいる。

政権の迅速な対応は、世論の政権に対する批判・影響を最小限に食い止める危機管理の発想もあるのかもしれないが、今回の入試制度改革は6年間もかけて積み重ねきた問題だ。批判があると”直ぐ取り止め”といった対応も如何なものか。

一方、高校生や保護者にしてみれば人生を左右する問題だ。文科省の対応はあまりにも遅い。なぜ、ここまで時間がかかったのか。文科省の官僚は、有識者で構成する会議で問題点を指摘されながら、なぜ止められなかったのか、昨日の萩生田文科相の記者会見でも納得のいく説明は聞かれない。こうした説明のなさ、けじめのなさに対する不信感が、国民の側に膨らみつつあるのではないか。

プロと現場の声を聞く姿勢を

安倍政権は11月に戦前戦後を通じて歴代最長政権を記録した。外交・防衛などの分野では、国民の評価は高いと言える。一方で、国内の政治課題については、政治主導の名の下、看板政策が次々に打ち出されるが、中身や成果がよくわからないとして、世論の評価も分かれている。

例えば、政権の最大の挑戦と位置づける全世代型社会保障制度、「幼児教育の無償化」などを衆院選の目玉政策として打ち出したが、無償化の対象にする幼児の範囲・対象、財源など具体策が詰められないまま看板政策として打ち上げられ、選挙後に具体策の調整に追われ、与党内からも批判された。

今回の入試制度改革問題にしても、役所の側が、総理官邸に遠慮して、問題点などについての声をあげられなかった面はなかったのかどうか。

歴代の政権に比べて、安倍政権は「官僚や有識者などプロの意見、現場の高校の先生や保護者の声を聞く姿勢」が乏しいのではないか。問題に気づいた時に、軌道修正していく仕組みが必要ではないかと考える。

内閣支持率 支持と不支持逆転も

気になる点の最後は、安倍内閣の支持率がこのところ下がり続け、支持と不支持が逆転する調査結果が出ていることだ。

◇時事通信が12月6~9日に実施した調査では「支持」が7.9ポイント減40.6%、不支持が5.9ポイント増の35.3%。支持と不支持の差は6ポイント。「桜を見る会」は廃止すべきが6割に達し、この問題が影響しているものと見られる。

◇読売新聞の12月13~15日調査では「支持」が1ポイント減の48%、「不支持」が4ポイント増の40%。支持・不支持の差は8ポイント。「桜を見る会」の説明に「納得していない」が75%に上っている。

◇産経新聞の14、15日調査では「支持」が43.2%で1.9ポイント減、「不支持」が40.3%で2.6ポイント増。不支持が40%を超えたのは9か月ぶり。支持と不支持の差は、3ポイントに縮まっている。

◇共同通信の14、15日調査では「支持」が6ポイント減の42.7%、「不支持」が4.9ポイント増の43.0%。支持と不支持が1年ぶりに逆転した。
「桜を見る会」疑惑に関し「十分に説明していない」が83.5%にも上った。

各社に共通しているのは「桜を見る会」の「首相に説明」に納得しておらず、「不支持率が上昇」。支持と不支持が接近、調査によっては逆転していること。

 長期政権に、国民の厳しい視線

安倍政権は、臨時国会が閉会「桜を見る会」の批判が沈静化するのを待つ一方、新年度の政府予算案を編成、年末にはイラン大統領の来日、中国での日中韓首脳会談など得意の外交を展開すれば再び支持率は回復、政権の浮揚は可能という強気の意見も聞かれる。

これに対して、世論の側は、歴代最長になった安倍政権に対して「緩みがある」と思うが7割近くにも達している。首相の自民党総裁4選論に対しても、賛成は3割にも達しないなど国民の視線に厳しさが増している。(共同通信調査結果)

このため、今回の記述式問題をはじめとする政権の看板政策の取り止め・撤回については、説明を尽くさないと、人心は一気に離れる恐れがある。

これから年末にかけての安倍外交がどんな結果になるのか、それによって安倍政権の支持率・求心力はどうなっていくのか、さらには野党の合流問題のゆくえの3点を注目して見ていきたい。

備考:大学入試制度改革は、当ブログでは、次の日付で投稿しています。
◇11月  8日 「制度設計から出直しを! 英語民間試験」
◇11月24日 「民間任せ 現場の声 生かして再設計を! 英語民間試験」