”巨額裏金疑惑”急浮上、早急に事実の解明を

自民党最大派閥の安倍派「清和政策研究会」が、巨額の裏金づくりを続けていた疑いが明らかになり、衝撃が広がっている。

安倍派幹部は詳しい説明を避けており、報道が先行する形になっているが、政治とカネの問題は「国民の政治不信を招く最大の元凶」だ。

岸田首相は自民党総裁として、安倍派幹部に事実関係の解明を急ぐよう指示すべきだ。また、自民党も今後の具体的な対応策を早急に明らかにする責任がある。

岸田政権と自民党の対応が不十分だと国民が受け止めた場合、”岸田政権離れ”がさらに進み、政権運営に深刻な影響が出てくることが予想される。

 キックバック総額、5年間で数億円か

今回の自民党の派閥による裏金づくりの問題は、短期間に急展開したので、わかりにくいという方も多いと思われる。最初にここまでの動きについて、NHKの報道を基にポイントを整理しておく。

▲今回の問題は、自民党の5つの派閥が行った政治資金パーティーの収入が、政治資金収支報告書に合わせて4000万円も過少に記載されているという告発を受けて、検察当局の新たな動きから始まった。東京地検特捜部が、派閥関係者から任意の事情聴取を行っていたことが、先月18日に明らかになったのだ。

▲自民党の派閥の政治資金をめぐっては、複数の派閥が、所属する議員の役職や当選回数などに応じて、パーティー券の販売ノルマを設定し、ノルマを超えて集めた分の収入を議員側にキックバックしていたことを示すリストを作成していたことも明らかになった。

▲このうち、最大派閥の安倍派は、議員側にキックバックした分の収入を、派閥の政治資金収支報告書に記載していなかったとされる。その総額は、去年までの5年間で数億円に上るという。

▲また、安倍派の複数の議員は、1000万円を超えるキックバックを受けていた疑いがあることも明らかになった。

以上のような事実関係から、安倍派は、政治資金パーティーで集めた資金の中から一定額を、裏金として所属議員にキックバックする運用を組織的に続けてきたものとみられている。

こうしたキックバックは、二階派「志師会」でも行われていたという。自民党関係者に聞くと「派閥の政治資金パーティーは、実際には個別の議員が売りさばいており、派閥は全体状況を正確に把握できていないのが実状だ」と語る。

また、「不明朗な資金処理は、安倍派だけでなく、他の派閥でも同じようなことが行われている」として、自民党にとって根の深い問題であることを認める。

 公開が基本、政治改革否定の悪質行為

さて、こうした自民党派閥の「政治とカネ」の問題をどのようにみるか?政治資金規正法は「政治資金の流れ、収支を広く国民に公開し、国民の不断の監視と批判に委ねること」を基本にしている。

この法律は「ザル法」などと揶揄されてきたが、今回の問題はその”ザル法”すらも守らず、抜け道をつくって裏金を運用しているのだから、極めて悪質だ。

また、政治改革の問題とも関係する。ロッキード事件をはじめ、リクルート事件、東京佐川急便事件などの政治スキャンダルが相次いだのを受けて、90年代前半に新たな選挙制度とともに、政党助成制度の導入など政治改革関連法を成立させた。

政治腐敗を防ぐことをねらいに、国民1人当り250円、総額およそ300億円の税金を初めて政党に投入・助成することになり、政治の浄化が進むはずだった。

ところが、今回の裏金づくり疑惑によって、一連の政治改革とこれまで30年余りに及ぶ取り組みを台無しにするような行為が明らかになったことになる。

こうした背景としては、2000年の森政権以降、小泉政権、安倍政権など清話会を中心にした政権が続いたこと。特に「自民1強・野党多弱」体制のもとで政治のよどみと驕りが、不明朗な政治資金の運用へとつながったのではないか。特に自民党の歴代総裁をはじめ、派閥の幹部や党役員などの責任は重い。

 岸田首相、事実解明へ指導力発揮は?

こうした事態に対して、岸田首相や安倍派幹部の対応はどうか。岸田首相は、訪問先のUAE=アラブ首長国連邦で記者団に対し、「国民に疑念を持たれていることは、たいへん遺憾だ。党としても対応を考えていく」とのべた。但し、具体的な対応への言及はなかった。

安倍派の座長を務める塩谷・元文科相は30日、所属議員にパーティー券の販売ノルマを設けていたことを明らかにしたが、その日のうちに発言を撤回した。

安倍派で過去5年の間に派閥の事務総長を務めた幹部のうち、松野官房長官は1日の記者会見で「政府の立場で答えることは差し控える」とかわした。西村経産相、高木自民党国対委員長も、事実関係について口をつぐんだままだ。

政治とカネの問題は、国民の政治不信を招く最大の元凶だ。岸田首相は自民党総裁として、安倍派をはじめとする各派閥に対して、事実関係を早急に調査するよう指示するとともに、自民党としての具体的な対応策を明らかにすべきだ。

一方、岸田首相自身も派閥や政治資金をめぐって、問題を抱えている。去年の政治資金の収支報告が先日明らかになったが、岸田首相は収入が1000万円以上の「特定パーティー」を年に7回も開催し、1億4800万円もの資金を集めていた。

2001年に閣議決定された「国務大臣、副大臣及び政務官規範」によると「国民の疑惑を招きかねない大規模なパーティーの開催は自粛する」と定めている。歴代首相の中で、首相自ら「特定パーティー」を頻繁に開催するのは異例で、本来は自粛すべきではないかと考える。

また、自民党出身の歴代首相は、就任時には派閥の会長を退いてきた。ところが、岸田首相は今も出身派閥・宏池会の会長を続けており、党内からも「派閥とは一定の距離を置くべきだ」と指摘する声は多い。

いずれにしても自民党総裁である岸田首相が、派閥の不透明な資金集めの解明に指導力を発揮できるかどうかが、問われている。

 検察の捜査のゆくえと政権の対応が焦点

これからの焦点は、検察当局が立件に向けて捜査に着手するかどうかが1つ。東京地検特捜部は、全国から応援検事を集めて態勢を拡充しているとの情報もあり、臨時国会が閉会する13日以降、本格的な捜査に踏み切る可能性が高いのではないかとみている。

もう1つは、岸田政権の対応だ。安倍派の幹部は、政権の主要ポストを務めており、今後、政権運営にさまざまな影響が出てくるものとみられる。

その際、岸田政権は「政治とカネの問題」に真正面から向き合い、事実の解明などに積極的な姿勢で取り組まないと政権運営が困難になるのではないか。年内が最初のヤマ場で、岸田首相の決断と対応力が試される。(了)

★追記・参考情報(4日21時)安倍派では、キックバックを受けていた所属議員が、数十人に上るとみられることが新たに明らかになった。このうち、複数の議員は、去年までの5年間に1000万円を超えるキックバックを受けていた疑いがある。

”政府、東電に重い責任”処理水放出開始

福島第1原発にたまる処理水について、東京電力は24日午後1時、政府の方針に基づいて、海への放出を開始した。

原発事故から12年を経て、懸案の処理水の放出が動き出したが、完了には30年程度の長い期間がかかる見通しだ。政府と東電は、重い責任と役割を担う。

今回の処理水放出をめぐっては、安全性の確保と、風評被害への対策、それに東電、政府の責任と役割の3つが大きな課題になっている。

このうち、処理水の海洋放出に伴う安全性については、7月にIAEA=国際原子力機関が「国際基準に合致している」との報告書を公表し、国際社会では海洋放出を容認する受け止め方が広がっている。欧州、中国、韓国でもトリチウムを含む処理水を海洋に放出しているからだ。

中国は「汚染水」との表現を使って、厳しい日本批判を続けている。中国税関当局は、日本を原産地とする水産物の輸入を24日から全面的に停止すると発表した。

これに対して、岸田首相は記者団に対し、外交ルートで中国側に即時撤廃を求める申し入れを行ったことを明らかにした。中国に同調する動きは広がっていないが、中国はこの問題を外交カードとして使い続けることが予想され、日中間で激しい応酬が続く見通しだ。

一方、国内では、風評被害の防止と、政府と東電の対応や責任が国会でも議論になる見通しだ。今回のブログでは、政府の対応と役割、それに秋の政治に及ぼす影響について、考えてみたい。

 最終段階、首相の対応をどう評価するか

今回の処理水の方針決定では、岸田首相が訪米から帰国した直後の20日に福島第1原発を訪れたのに続いて、21日に放出反対の立場を表明している全漁連=全国漁業協同組合連合会の代表との面会が、大きな山場になった。

首相官邸で行われた全漁連の坂本雅信会長らとの面会で、岸田首相は「たとえ、今後、数十年の長期にわたろうとも、全責任を持って対応すること約束する」と風評被害などの対策に万全を期す考えを伝えた。

これに対し、坂本会長は「処理水の海洋放出に反対であることは変わりはない」とのべながらも「科学的な安全性への理解は、私ども漁業者も深まってきた」という認識を示した。

これを受けて、岸田首相は22日に関係閣僚会議を開き、「政府の姿勢と安全性を含めた対応に『理解は進んでいる』との声をいただいた」とのべ、24日に放出を始める方針を正式に決定した。

政府は、処理水の海洋放出は「春から夏」の時期に行う方針を表明してきた。そして、7月にIAEAの報告書が出された後、「8月下旬から9月前半にかけて放出」とさらに期間は絞られていた。

問題は、この期間に原発事故による避難や、風評被害などに苦しんできた漁業関係者や、福島県民に政府の方針を説明し、理解をどこまで深められるかにあった。西村経産相などの閣僚も現地を訪れ、意見交換などを続けてきた。

但し、政府全体、与党も一丸となって取り組みを全面的に展開するといったところまでは至らなかった。

そして、岸田首相が現地を訪れたのも最終のギリギリの段階で、しかも現地入りしながら、地元の漁業関係者や知事、市町村の代表などとの面会も行わなかった。

このとき、関係者と膝詰めで意見交換をしていれば、雰囲気などがかなり改善したのではなかったか。今回は「見切り発車」「日程ありき」の対応で、理解に苦しむ対応といわざるを得ない。

 国民に説明、説得が不得手な政権か

これまでの政府の対応をみると、安倍政権時代の2015年に政府と東電は「関係者の理解なしには(処理水の)いかなる処分も行わない」との文書を福島県漁連に示した。

菅政権時代の2021年には、海洋放出の方針を決定し、時期は「2023年春から夏頃」として準備を進めてきた。安倍、菅、岸田の3つの政権にわたって取り組んできた難題だ。

一方、政府は海洋放出の評価について、IAEAに評価を要請するとともに、風評被害対策として800億円の基金を創設するなどの準備を進めてきた。

しかし、福島県民や、国民全体に対する説明は不足したままだった。岸田首相も通常国会が閉会したあとの7月下旬から、国民の声を聞くとして、地方行脚を始めた。

ところが、福島県は対象に選ばれなかった。懸案中の懸案、処理水放出の時期が迫っているのになぜ、訪問先には選ばなかったのかだろうか。ここでも首相、政権の対応に疑問が残る。

こうした岸田政権の対応について、国民はどのような見方をしているのだろうか。報道各社の8月の世論調査をみるとNHKの調査(11日~13日)では、処理水の海への放出について「適切だ」が53%で、「適切でない」30%を上回った。

一方、共同通信の調査(19日・20日)では、処理水放出に関する政府の説明は「十分だ」が15%に対し、「不十分だ」が82%を占めた。

朝日新聞の調査(19日・20日)では、風評被害を防ぐ政府の取り組みは「十分だ」が14%に対し、「十分ではない」が75%と大きく上回った。

このように海洋放出そのものについては「適切」「賛成」が半数に達し、「反対」を上回っている。但し、政府の取り組み方の説明や、風評被害対策は不十分といった否定的な受け止め方が圧倒的多数に上る。

この問題に限らないが、岸田政権は、政府の方針を明らかにし、国民に説明したり、説得をしたりする「対話が不得手な政権」という特徴が読み取れる。国民の意見が分かれる原発のような問題は、特に共通の認識、理解を広げていく取り組みが必要だ。

 増える懸案、秋の解散困難との見方も

それでは、秋の政局に及ぼす影響はどうだろうか。NHKの8月の世論調査では、岸田内閣の支持率は33%で、政権発足以降最も低い水準に落ち込んでいる。

処理水の海洋放出問題は、放出自体は肯定的な評価が上回っているので、この問題だけで、支持率が大幅に下がる可能性は小さいのではないか。

但し、岸田政権は、防衛増税の開始時期や少子化対策の具体的な財源を先送りしたり、マイナンバーカードへの対応が迷走したりして、懸案が増え続けている。さらに今回、処理水の問題が加わり、悪循環が続いている。

このほか、ガソリン価格の一段の上昇や食品の値上がりなど物価高対策を求める声が強まっている。

自民党の閣僚経験者に聞いてみると「9月中旬とも言われている内閣改造・自民党役員人事で、どこまで政権を立て直せるかが大きなカギだ。しかし、風力発電をめぐる国会議員の収賄事件などのスキャンダルも表面化しており、秋の解散・総選挙は遠のきつつある」との見方を示す。

岸田政権は、原発処理水の海洋放出の開始で、安全性の確保や風評被害の防止に大きな責任を担うことになった。増え続ける懸案を着実に処理していけるのか、政権の浮揚へつなぐことができるのか、厳しい状況に直面している。(了)

 

 

 

 

 

迷走 “防衛増税”どうなるか?

防衛費増額の財源をめぐって、岸田首相の対応と自民党内の議論が迷走している。岸田首相は13日朝、自民党本部で開かれた党の役員会で「責任ある財源を考え、今を生きる国民が自らの責任として対応すべきものだ」と増税の意義を力説した。

増税の具体案づくりが大詰めの段階で、しかも党役員の面々を前に「あるべき論」を持ち出さざるを得ないところに岸田首相の苦境がうかがえる。

自民党は13日から税制調査会で議論を始めたが、増税に反対意見が噴出し、今週中に与党の税制改正大綱の決定にまで持ち込めるかどうかメドがたっていない。防衛増税をめぐる迷走の事情と、どんな対応が必要なのか探ってみたい。

 強まる反発「復興特別所得税」転用

まず、頭の中を整理するために岸田首相の防衛財源をめぐる対応を手短にみておきたい。先の臨時国会最終盤の11月28日と12月5日、岸田首相は浜田防衛、鈴木財務の両閣僚を呼んで、27年度に防衛費をGDPの2%、5年間で総額43兆円の規模とするよう指示した。

続いて12月8日、今度は政府与党政策懇談会で、防衛財源確保のため、歳出削減などを行っても不足する財源、1兆円余りを増税で賄うよう与党に検討を指示した。

これに対して、閣内から西村経産相や、高市早苗・経済安保担当相が、多くの企業が賃上げや投資に意欲を示している時期に増税は避けるべきだとして、慎重な対応を求めた。

また、萩生田・政調会長も直ちに増税で対応するのではなく、国債の追加発行もありうるとの考えを打ち出した。首相と党の政策責任者の考え方の違いが表面化するのは、この10年なかったことだ。

こうした中で、11日に開かれた自民党税制調査会の幹部の会合で、不足する財源対策として、復興特別所得税を転用する案が示された。

この復興特別所得税は、東日本大震災の復興に協力するため、2013年から25年間、所得税の2.1%上乗せして7.5兆円の復興財源を確保する税制だ。

ところが、この「復興特別所得税」の転用が浮上したことで、自民党内の増税反対論が一気に広がった。国民負担は増やさないという岸田首相の表明に反することに加えて、復興財源に手をつける悪手の印象を与えたからだ。

 背景に選挙、先送り体質、後継問題も

それでは、自民党内でこうした反対論が強まるのはなぜか。1つは、来年4月の統一地方選挙を控えて、増税を打ち出されては選挙が逆風となると受け止める議員が多いことがある。

また、自らを支持する業界関係者などへの配慮に加えて、国民負担の増加は自らの政治活動にも悪影響を与えるので、先送りにしたいという根強い体質があると思う。

さらに、自民党最大派閥、安倍派の後継問題も絡んでいるから複雑だ。安倍元首相は防衛力を大幅に増強するとともに、経済再生優先の立場から増税ではなく、国債発行で対処すべきというのが持論だったとされる。

このため、萩生田政調会長をはじめ、西村経産相、世耕参院自民党幹事長ら安倍派の幹部は、安倍元首相の遺訓に従い、国債発行路線を簡単に変更できない事情があるとの見方が多い。

端的に言えば、派閥の跡目争い、政争の思惑も絡むので、政策論で議論を尽くせば、対応策が1つに集約されるほど簡単のものではないことは予想がつく。

しかし、国の重要な防衛政策がこうした派閥次元の事情で、方針決定が先送りされるようなことが許されるはずがない。

 財源先送りでなく、政治決定できるか

それでは、これから、どんな展開になるのだろうか。14日に開かれた自民党税制調査会で、宮沢洋一税調会長ら幹部は、法人税、たばこ税、復興特別所得税の3つの税目を組み合わせた増税案のたたき台を示した。

但し、具体的な税率や実施時期は示されておらず、今後、意見を集約し、今週中に与党の税制改正大綱をとりまとめることができるかどうかが焦点になる。

一方、防衛力整備と財源確保の進め方をどのように考えたらいいのだろうか。国民の評価が決め手になるので、今月12日にまとまったNHKの世論調査のデータでみておきたい。

◆まず、政府が来年度から5年間の防衛予算を総額43兆円に増額する方針については、賛成が51%に対し、反対は36%となっている。

◆次ぎに防衛費の財源として、法人税を軸に増税を進めるとしている方針については、賛成は61%で、反対の34%を上回っている。

つまり、防衛予算を増やして整備を進めるとともに、そのための財源として、法人税を軸に増税は必要だと考える人が多いことが読み取れる。

調査の時点では、復興特別所得税は検討対象になっていなかったので、この税目が入ると数値が変わる可能性があるが、傾向は大きくは変わらないのではないか。

こうした世論の動向を基に、岸田政権の対応を評価してみると、国民の関心が強い防衛力整備の中身や構想について、政府の説明がほとんどなく、増税が先行しているのは、本末転倒でおかしいと受け止めているのではないか。

岸田政権の対応は、重要課題の方針決定までの手順、段取りが不十分で、国民への説明ができていない点が大きな問題ではないかとみている。

一方、自民党内の議論や対応については、岸田首相の増税案に対する批判は強いが、代替財源をどうするのかの議論は深まってはいない。

仮に国債を発行する場合、返済の財源は何か、いつから返済を開始するのかを示さないのは無責任だ。そうした先送りを続けてきた結果が、今の国債発行残高1400兆円の借金の山で、国民は不信感を抱いている。

岸田首相は、これまで防衛力の内容、財源、予算の3つを一体として議論し決定すると再三再四、強調しながら実行できなかったツケが、顕在化している。

中曽根政権のような目標を明確に打ち出し決断・実行する力や、竹下政権のような段取りの用意周到さが、岸田政権には欠けているのではないか。

政権与党はもう一度、原点に戻って、防衛力整備の構想と内容を明確にしたうえで、必要な財源の再検討、その結果を予算案として提示する手順を踏む必要があるのではないか。

時間がないとの反論があるかもしれないが、90年代初めの細川政権下では、当時大きな焦点だった政治改革法案を優先し、予算編成が越年したこともあった。

今回の防衛力の抜本強化は、戦後の安全保障政策を大きく転換する重い内容だ。それにふさわしい十分な議論と国民への説明を尽くす覚悟と決意があるのか、国民は政権の対応を見極めようとしているのではないか。(了)

★追記(15日21時45分)◆ブログ原稿冒頭部分関連。岸田首相が13日自民党役員会で行った挨拶「今を生きる国民」→「今を生きるわれわれ」に修正。自民党が、発表に誤りがあったとして、修正した。                 ◆自民党税制調査会は15日、防衛増税策について、法人税、所得税、たばこ税の3つの税目を組み合わせる案を了承した。増税の施行時期については、いずれも「令和6年=2024年以降の適切な時期」としている。実施時期などは、事実上の先送りで、来年改めて議論を行うものとみられる。

順序が逆では! 岸田政権の防衛力整備

新年度予算の編成を控えて、最大の焦点である防衛力の強化と財源確保に向けた動きが、本格化してきた。岸田首相は8日、防衛予算の財源を確保するため、増税の検討に入るよう自民、公明両党に要請した。

岸田首相は、このところ防衛予算の規模や財源をめぐる指示が目立つが、防衛力整備の構想や中身の言及がほとんどみられない。

今回の防衛力整備は、戦後の安全保障政策の大転換となる。そうであれば、防衛力整備の考え方などを明確にしたうえで、予算の規模や財源の検討に入るのが基本ではないか。岸田政権の対応は、順序が逆に見える。防衛力整備の進め方や問題点を考えてみたい。

 歳出改革などと1兆円規模の増税案

まず、岸田首相の最近の対応からみておきたい。岸田首相は先月28日に鈴木財務相と浜田防衛相と会い、2027年度に防衛費と安全保障関連経費を合わせてGDPの2%に達する予算措置を講じるよう指示した。岸田首相が、防衛費の水準について言及したのは、これが初めてだった。

続いて今月5日には、来年度から向こう5年間の防衛費について、総額43兆円を確保する方向で調整を進めるよう踏み込んだ。

さらに8日の政府与党政策懇談会で、岸田首相は「防衛力を安定的に維持するためには、毎年度4兆円の追加財源が必要になる。歳出改革や税外収入などで賄うが、残り1兆円強は、国民の税制でお願いしたい」として、与党に増税を検討するよう要請した。

政府・与党は、増税の開始時期については、来年度の増税を見送り、その後、段階的に税率を引き上げ、2027年度の時点で、年間1兆円の増税をめざす方針だ。その際、個人の所得税は対象から外し、法人税を中心に検討する方針とみられる。

 岸田政権は予算先行、防衛構想提示を

このように岸田政権の方針・対応は、防衛予算の規模や財源確保を先行させているのが特徴だが、これをどのようにみたらいいのだろうか。

岸田首相は今の国会で、与野党双方から防衛力の規模や財源について幾度となく質問されたのに対し、「防衛力の内容、予算の規模、財源を一体的かつ強力に進めていく」と繰り返し、具体的な内容に踏み込むのを避けてきた。

いわゆる3点セット、三位一体で議論し決定するという考え方だが、今の首相の対応は、これまでの国会答弁から外れている。

一方、国民の側からすると、今の中期防衛力整備計画の5年間で27.5兆円の規模を、新たな計画で43兆円へ1.6倍も大幅増額し、どのような分野を強化するのか最も知りたい点だ。

ところが、こうした防衛力の中身や考え方が、首相の口からは一向に語られない。順序が逆で、国民が知りたい、肝心な点がさっぱりわからない。

防衛力整備の基本構想、内容を早急に明確にしたうえで、財源を幅広く検討、最終的な予算の内容を固めていくことが必要だ。

 財源の先送りは止め、責任ある対応を

もう1つの論点は、防衛力整備の財源をどうするかという問題がある。岸田政権の方針に対し、自民党内には、来年の統一地方選挙への影響などを考慮して、増税の議論を急ぐべきではないといった慎重論も出されている。

結論から先に言えば、防衛費を増やす場合、安易に国債・借金に頼って負担の問題を先送りするような対応は取るべきではないと考える。既に借金財政は、1400兆円を上回る。

もちろん直ちに来年から増税とはいかない場合はあると思うが、その場合でも財源については、税目を含めた増税や実施時期を法案に明記すべきだと考える。

また、今回、政府・与党は、5年後の時点で増税規模1兆円という試算を示している。これが事実だとすれば、個人的な予想に比べると負担の規模が小さい印象を受けるが、こうした試算の根拠を詳しく説明してもらいたい。

こうした背景には、コロナ禍からの経済の回復や円安などで法人税が好調で、国の税収が3年連続で過去最高水準が見込まれていること、コロナ対策の剰余金の活用などが想定されているのではないかと思われるが、見通しは正確か。

一方、防衛装備品などは、契約時から実際の納入時期の間に価格が大幅上昇したりするケースが多い。防衛装備の歳入、歳出両面での改善も含めて、国民に十分な説明を願いたい。

これから年末に向けて、国家安全保障戦略など安保関連3文書も改訂される。日本の安全保障の構想・戦略と合わせて、防衛力整備の中身の議論を深めてもらいたい。

防衛費の増額そのものについても国民の賛否が分かれるが、防衛力整備は可能な限り幅広い国民の理解と合意が重要だ。私たち国民も激しい国際情勢の変化の中で、防衛力整備をどう進めるか、政府案の決定をじっくりみていきたい。(了)

”師走政局” 新法、防衛で攻防続く

今年も残り1か月、内閣支持率の下落が続く岸田政権は、最終盤に入った臨時国会を乗り切ることができるかどうか、ヤマ場にさしかかっている。

物価高騰対策を盛り込んだ第2次補正予算案は、ようやく今月2日に成立する運びだ。一方、旧統一教会の被害者救済法案をめぐっては、与野党が歩み寄ることができるかどうか、ギリギリの調整が続いている。

さらに最大の焦点になっているのが防衛費の問題だ。岸田首相は28日、防衛費と関連経費の合計をGDP比で2%にするための財源確保措置を決める方針を打ち上げたが、財源の扱いをめぐって自民党との意見の違いが表面化している。

”師走政局”は、救済新法をめぐる与野党の最終決着の仕方と、防衛費の政府・与党内の調整が大きな焦点になりそうだ。その結果によっては、岸田政権の求心力はさらに低下する事態も起こりうるのではないか。

 辞任ドミノ、秋葉復興相は続投か

今月10日に会期末が迫った臨時国会からみていくと、岸田政権が最優先に位置づけている総額28兆9000億円の補正予算案は、寺田前総務相の更迭の影響を受けて当初の予定より遅れ、2日の参議院本会議でようやく成立にこぎつける見通しだ。

補正予算案の審議の中で野党側は、秋葉復興相に照準を合わせて追及した。事務所家賃の不明朗な支払いをはじめ、旧統一教会との新たな関係、さらには昨年の衆院選挙で自らの秘書2人が車上運動員として報酬を受け取っていた問題などを取り上げ、集中砲火を浴びせた。

これに対し、岸田首相は「秋葉大臣は、国会でさまざまな指摘を受け、それにしっかり説明責任を果たせるよう努力している」として、野党側の更迭要求には応じない考えを示した。

岸田首相としては会期末を控えて、4人目となる閣僚の辞任は何としても避けながら、この国会を乗り切りたい考えだ。

 旧統一教会救済新法 ギリギリの攻防

臨時国会で最後に残っている案件が、旧統一教会の被害者救済の新法の扱いだ。岸田首相が途中、積極姿勢に転じたことで与野党の協議が続けられ、政府が新たな条文案を提示する段階まで進んだ。

政府・与党と野党側双方とも、この国会で新たな法案を成立させたいという方向では一致しているものの、被害者の救済に実効性があるかどうかという点で、与野党の間には、なお、意見の隔たりがある。

具体的には、野党側が、マインドコントロールによる悪質な献金を禁止する、より強い条文を求めている。これに対し、政府・与党側は、マインドコントロール状態を法律で明確に定義するのは困難だとして、対立している。

政府は、既に国会に提出している消費者契約法案改正案と新法を近く閣議決定して、10日までの会期内に成立させたい方針だ。

この新法については、自民、公明両党と国民民主党は賛成なのに対し、立憲民主党と日本維新の会は「修正が必要だ」という立場だ。

このため、与野党が法案の修正で歩み寄り、成立にこぎ着けるのか。それとも、話し合いが決裂して見送りになるのか。さらには、野党内の対応が分かれて、与党と野党の一部の合意で成立するのか見通しは立っていない。

この法案の最終的な決まり方によって、岸田首相の対応の評価や、立民と維新の野党共闘が最後まで続くのか、崩れるのか、今後の政局に大きな影響を及ぼすことになる。

 防衛費GDP2%と財源 調整は難航か

年末の政治の動きの中で最大の焦点は、防衛費とその財源をめぐる政府・与党の調整になるのでないか。

岸田首相は28日、来年度から向こう5年間の防衛費と関連経費について、GDP・国内総生産の2%に達する予算措置を講じるよう浜田防衛相と鈴木財務相に指示した。

また、岸田首相は、防衛力強化に向けて、財源を確保する措置を年内に決める考えを示し、両閣僚に対し、与党との協議に入るよう求めた。

こうした政府の動きに対し、29日開かれた自民党の安全保障関連の合同会議で「増税を念頭に置いた議論は唐突だ」「税収の上振れ分を活用すべきだ」などといった批判的な意見が相次いだ。

また、萩生田政務調査会長は30日の講演で「将来的には、税で負担して安定財源を確保した方がいいが、当面は、国債や税収の上振れ分で対応すべきだ」として、現時点で増税の議論を行うことに慎重な姿勢を示した。

このように岸田首相は、先に政府の有識者会議の提言に沿って、増税を含めた国民負担が必要だという立場を取っているのに対し、萩生田政調会長は増税慎重論を唱え、双方の立場は大きな開きがある。

自民党の閣僚経験者に聞くと「自民党内の空気は、増税などとんでもない。つなぎ国債発行論が圧倒的に多いのが現状だ。歳入、歳出両面から安定財源をどのように確保していくかの正論がどこまで通用するかわからない」と調整の難航を予想する。

これから年末に向けて、国家安全保障戦略など防衛3文書の改訂をはじめ、防衛力整備の内容、そのための財源、必要な予算の確保などの調整をわずか1か月間で仕上げなければならない。

戦後防衛政策の大転換といわれる今回の防衛力整備をやり遂げることができるかどうか、岸田首相はまもなく胸突き八丁にさしかかる。(了)

※(追記12月1日21時45分:政府は1日、旧統一教会の被害者救済に向け、悪質な寄付を禁止する新たな法案を閣議決定し、国会に提出した。政府・与党は10日までの会期内の成立をめざしている。これに対し、野党側は、まだ不十分な点があるとして、与野党の調整が続く見通しだ。)

 

「辞任ドミノ」岸田政権の師走危機

岸田首相は20日、政治資金をめぐる問題が次々に明らかになった寺田総務相を更迭し、後任に松本剛明・元外相を起用する方針を決めた。

岸田政権は、山際前経済再生相、葉梨前法相に続き、わずか1か月の間に3人の閣僚が辞任に追い込まれる「辞任ドミノ」が現実になった。岸田内閣の支持率は既に33%まで下落しており(NHK11月世論調査)、岸田政権の求心力の低下は避けられない。

閣僚の相次ぐ辞任のケースとしては、竹下政権当時、3人の閣僚が1か月半余りの間に次々と辞任に追い込まれたことが思い出される。いずれもリクルート事件絡みだった。

また、第1次安倍政権では、事務所費問題などで5人の閣僚が、五月雨式に辞任や死亡の動きが続いたほか、麻生政権では、3人の閣僚が不祥事などで辞任に追い込まれた。こうしたいずれのケースとも政権はその後、短期間で幕を閉じた。

相次ぐ閣僚の辞任は、首相への信任や政権の体力を失わせることが多い。岸田政権の場合は、どうだろうか。

結論を先に言えば、懸案や重要政策の決定が年末にかけて集中する形になっており、こうした年末の対応が大きく影響するのではないか。

自民党内で”岸田降ろし”の動きが直ちに出てくる可能性は低いが、岸田政権にとっては、”師走の危機乗り切り”が今後のカギを握っているという見方をしている。以下、その理由・根拠を説明していきたい。

 臨時国会 補正予算、新法の攻防続く

まず、岸田政権の政権運営では、当面、3つの大きなハードルが待ち構えている。1つは、今の臨時国会の乗り切り。2つ目が、安全保障関係の3文書の改訂と防衛費の増額問題。それに3つ目が、新年度予算案の編成と税制改正だ。

このうち、国会からみていくと政府・与党は、21日に国会に提出した第2次補正予算案の早期成立を最優先に臨む方針だ。

これに対し、立憲民主党など野党側は、岸田首相の任命責任を質すとともに、秋葉復興相の「政治とカネ」の問題に照準を合わせて追及する構えだ。

このため、閣僚辞任は寺田氏で幕引きというわけではなく、25日から始まる予定の衆院予算委員会でも激しい攻防が続く見通しだ。補正予算案の成立は12月にずれ込む見通しだ。

もう1つの焦点が、旧統一教会の被害者救済に向けた新法の扱いだ。内閣支持率の急落を受けて、岸田首相は、新法の今の国会への提出と成立に積極的な姿勢を示している。

但し、政府・与党と野党側の間では、信者の寄付の取り扱いなど法案の中身について、かなりの開きがあり、双方が歩み寄って成立にこぎ着けられるかどうか、メドは立っていない。

このため、12月10日までとなっている国会の会期を1週間程度延長することが検討されており、ギリギリの調整が続くものとみられる。国会の最終的な決着の仕方で、岸田政権の評価や影響も違ってくる。

 防衛力整備と財源、国民的議論が必要

2つ目のハードルは、防衛力整備の問題だ。ロシアによるウクライナ侵攻や北朝鮮の相次ぐ弾道ミサイルの発射などで日本を取り巻く安全保障環境は厳しさを増している。

岸田政権は、防衛力を抜本的に強化する方針を打ち出し、年末の予算編成の中で、防衛力整備の中身と予算の規模、それに財源を三位一体で決定するとしている。

これを受けて、自民・公明の両党は防衛力整備の中身の検討を進めているほか、政府の有識者会議は、防衛費の増額には安定した財源が欠かせないとして「増税を含めた国民負担が必要だ」とする報告書を、22日に岸田首相に提出する見通しだ。

問題は、与党の幹部や政府の有識者レベルでの議論は進んでいるものの、国会の与野党や国民レベルで、防衛力整備のあり方をめぐる議論が深まっていないことだ。

このため、岸田政権が焦点の「反撃能力」保有の方針を決めたり、増税を含めた国民負担の必要性などを打ち出したりした場合、国民の理解や支持を十分に得られるのかどうか、防衛関係者の中には危惧する声も聞かれる。

岸田政権は、年末に向けて国民的議論をどのように進めていくのか、国民を説得できるのか。その成否は、岸田政権の評価と支持に直ちに跳ね返ってくる。

 新年度予算と政権のビジョンは

3つ目の問題が、新年度予算編成と税制改正だ。岸田首相は就任以来、「新しい資本主義」の旗印の下で「物価高・円安への対応」「構造的な賃上げ」「成長のための投資と改革」の3つを重点分野としてきたが、具体的に何をやり遂げたいのか、未だによくわからない。

岸田首相は、新年度の予算編成と税制改正の決定に合わせて、どのような経済・社会をめざしているのか、政権のビジョン、最重点政策をわかりやすく打ち出す必要があるのではないか。

特に内閣支持率が続落している中では、具体的な目標を明確にし、実行力を証明しないと政権の浮揚は難しい。

今回の閣僚の辞任ドミノに対しては、野党だけでなく、与党からも「岸田首相の決断が遅く、危機感も乏しい」と厳しい批判や不満の声を聞く。但し、今のところ、”岸田降ろし”の動きはみられない。菅政権の末期と違って、次の衆院選挙まで時間があるからだろう。

しかし、岸田政権がこれまでみてきた3つハードルを乗り越えることができない場合、世論の支持率はさらに下落し、”政権のレーム・ダック化”、低迷へと変わる可能性がある。”師走の政権危機”を回避できるか、岸田首相にとって正念場が続く。(了)

 

 

岸田内閣支持率 ”危険水域接近中”

臨時国会は間もなく終盤戦に入り、ヤマ場を迎えるが、岸田内閣の支持率が続落している。報道各社の世論調査の中には、内閣支持率が自民党の支持率を下回って”危険水域”といわれる30%に近づきつつある調査結果もみられる。

岸田首相は、東南アジアで開かれている一連の外交日程をこなしている。これに先立って、財政支出の総額で39兆円にのぼる総合経済対策をとりまとめたが、支持率回復の効果は見られない。

支持率続落の原因については、相次ぐ閣僚の辞任と岸田首相の決断の遅れを指摘する声が多いが、根本は岸田政権の中枢や自民党の体制、構造に問題があるとの指摘も聞く。年末に向けて岸田政権の運営はどうなるか、探ってみる。

自民支持層に”岸田離れ現象”も

報道各社の世論調査で岸田内閣の支持率を見てみると◇読売新聞は支持率36%、不支持率50%(4~6日調査)。◇朝日新聞は支持率37%、不支持率51%(12,13日調査)。◇NHKは支持率33%、不支持率46%(11~13日調査)。

いずれの調査とも岸田内閣の支持率は、去年10月の政権発足以降、最低の水準。支持率を不支持率が上回る”逆転状態”が続いている点でも共通している。

こうした支持率下落の背景としては「死刑のはんこを押す時だけニュースになる地味な役職」などと発言した葉梨法相をめぐって、岸田首相が続投させるとしてきた方針を一転、更迭したことが影響したとみられる。

NHK世論調査では、内閣支持率と政党支持率との関係に新たな特徴が読み取れる。自民党の支持率は37.1%で、7月の参議院選挙以降ほぼ横ばいだ。

これに対し、内閣支持率は33%で、11月の調査で初めて内閣支持率が、自民党の支持率を下回った。これは自民支持層のうち、一定の割合で岸田内閣を支持しない”支持離れ現象”が起きていることを示している。

今の支持率33%は、今後4ポイント以上さらに下落すれば、政権の”危険水域”とされる30%の危険水域ラインを下回ることになる。

岸田政権は物価高騰や円安に対応するため、財政支出の総額で39兆円にのぼる総合経済対策をまとめた。この対策を「評価する」は61%で、「評価しない」の32%を上回ったが、内閣支持率の下落に歯止めをかけるほどの効果はなかったことになる。

政権中枢、自民の体制・構造問題も

それでは、なぜ、岸田政権の支持率がここまで、大幅に下落しているのか。第1に考えられるのが、山際経済再生担当相と葉梨法相の相次ぐ更迭の影響だ。

それに加えて、いずれの閣僚の更迭も、任命権者である岸田首相の判断、決断が遅すぎるという批判が野党だけでなく、与党内からも聞かれた。岸田首相の資質、能力、対応のまずさを指摘する声が相次いだ。

自民党の長老に聞いてみると「第2次安倍政権との比較で言えば、政権中枢の機能、動きに力強さが感じられない。安倍政権当時の今井秘書官、菅官房長官らに相当する存在が見当たらず、真逆の政権だ」と指摘する。

「党の方も高木国会対策委員長と茂木幹事長との連携、全体を取りまとめていく力が感じられない。連立与党の公明党との関係もしっくりいっていないのではないか」と危ぶむ。

総理官邸内の結束力と自民党の統率力、それに双方が支え合う体制に問題ありというのが長老の真意だろう。これが2つ目の問題。

さらに、安倍元首相が銃撃され亡くなって以降、”政権与党の全体を取り仕切る主柱”がなくなったような印象を受ける。それまでは、安倍元首相と岸田首相の2人が一定の距離を置きながら、存在感を発揮し合いながら全体を統率してきた。

ところが、その一方の柱である安倍元首相がなくなり、党内の様相が一変した。その安倍氏が率いてきた最大派閥は、後継の新会長も決められず迷走状態に陥っている。

このように安倍1強体制が崩れ、新たな党内秩序が再構築できず、不安定な構造に陥っているのが根本要因ではないかと思われる。

このため、岸田首相の個人的な資質、求心力の弱さという問題もあるが、根本的には、政権与党の体制と構造に大きな問題を抱えており、政権の立て直しは相当なエネルギーと時間がかかるとみている。

 旧統一教会、防衛費まで政権綱渡り

さて、岸田政権の当面の政権運営と国会・政局の先行きをどうみるか。まず、臨時国会は会期の延長が避けられない情勢だ。

政府・与党は、補正予算案の早期成立を最優先で臨む方針だが、この国会は野党ペースで進んでおり、補正予算案の成立は当初の見通しからずれ込み、12月上旬までかかる公算だ。

また、野党側は、政治とカネの問題を抱える寺田総務相に照準を絞って追及を強める方針で、与党側は3人目の閣僚の辞任、辞任ドミノを警戒している。

さらに、大きな焦点は、旧統一教会の被害者救済の新法が成立までこぎ着けられるかどうかだ。世論調査では、今国会での成立を求める意見が7割と圧倒的多数を占めており、この成否は岸田内閣の支持率にも影響を及ぼす。

さらに臨時国会が閉会した後、年末最大の焦点は、防衛力の整備と防衛予算の扱い問題だ。ウクライナ情勢や北朝鮮の相次ぐミサイル発射、中国の習近平・長期1強体制の継続などで、防衛力整備に向けた世論の理解は進んでいるようにみえる。

但し、岸田政権の防衛論議の進め方には批判も多い。有識者会議を設置して議論を委ねる一方、国会答弁では「整備の中身、予算の規模、財源は三位一体で年末の予算編成時に決定する」と繰り返すばかりで、国民的な議論を深める取り組みはほとんど見られない。

これでは、国家防衛戦略3文書の改訂や、防衛力強化に向けて国民の理解が深まらないと危惧する声は根強い。

このほか、来年はアメリカの景気後退が予想される中で、日本経済の再生や円安などの経済運営にどのような方針で臨むのか、中長期の政策も問われる。

このように岸田政権は、臨時国会での旧統一教会の被害者救済新法から、新年度の税制と予算の編成、防衛力整備などの難題を処理できるのかどうか、綱渡りのような対応を迫られることになりそうだ。

そのうえで、世論の支持に思うような回復がみられない場合、岸田首相は政権や自民党の体制を現状のままで年明けの通常国会に臨むのか、それとも体制の見直しに踏み込むのか、決断を迫られることになるのではないか。(了)

 

法相更迭 ”揺らぐ岸田政権”

岸田首相は11日、「死刑のはんこを押した時だけニュースになる地味な役職」などと発言し批判を浴びた葉梨法相を事実上の更迭に踏み切った。後任には、斎藤健・元農相の起用を決めた。

岸田内閣は、先月24日に旧統一教会の問題をめぐって山際経済再生相を更迭したばかりで、わずか2週間余りで2人目の閣僚の交代に追い込まれた。

岸田首相は東南アジアで開かれる国際会議に出発するため、11日午後に出発予定だったが、出発を大幅に遅らせて12日未明に出発した。岸田政権への打撃は大きく、政権基盤は大きく揺らいでいる。今後の政権運営はどうなるだろうか。

  葉梨法相更迭 ”首相の決断遅すぎ”

まず、葉梨法相の発言をどうみるかだが、法相は死刑の執行命令を発する権限を持っているのをはじめ、国の法制度や、人権問題などを担当する国の最高責任者だ。

その責任者が、死刑を執行した時だけ注目される地味な役職などと言及するのは、余りにも軽率すぎる。

また、葉梨法相の発言は自らが所属する派閥の議員のパーティで、口が滑った発言かと思っていたが、過去に少なくとも4回以上、同じ様な発言をしていたことも明らかになった。これでは、法相としての見識、責任を問われるのはやむを得ないのではないか。

一方、任命権者である岸田首相の対応についても与野党双方から「決断が遅すぎる」と批判の声が強い。松野官房長官は、問題発言のあった翌日・10日の朝、葉梨法相を首相官邸に呼び出し、厳重注意をした。

その当日、参議院法務委員会で野党側の厳しい追及を受け、葉梨法相は発言を撤回し、陳謝したが、与野党からの批判は収まらなかった。それでも岸田首相は10日夜「説明責任を果たしてもらいたい」として続投させる判断をした。

ところが、11日の衆議院法務委員会や参議院本会議などで野党側の追及が続き、岸田首相は一転して、更迭に踏み切る判断に変わり、葉梨法相の辞表を受け取った。

岸田首相が判断を一転させたのは、当初、葉梨法相の発言の撤回と説明で乗り切れると判断していたようだが、足元の与党内からも強い反発を受け、見通しが間違ったことから、方針転換を図ったものとみられる。

岸田首相は10月下旬、旧統一教会の問題で山際経済再生相を更迭する際にも対応が後手に回ったと批判されたが、その教訓は今回も生かせなかった。

 岸田政権に打撃、求心力低下も

さて、岸田政権への影響はどうだろうか。国会の最中に総合経済対策のとりまとめに当たっていた経済再生担当相が辞任したのに続いて、旧統一教会の被害者救済の新法とりまとめにも関係する法相が辞任に追い込まれただけに、政権への打撃は大きい。

野党側は、今月下旬から始まる総額29兆円の大型補正予算案や重要法案の審議をめぐって、攻勢を強める構えだ。また、政治資金の記載漏れが問題になっている寺田総務相や秋葉復興相をターゲットに”閣僚の辞任ドミノ”に追い込むことをねらっており、これを跳ね返せるかが焦点になる。

さらに、岸田政権の支持率下落が続いているが、相次ぐ閣僚の辞任で、岸田首相の求心力が一段と低下するのではないかと懸念の声が与党からも出されている。報道各社の世論調査で、内閣支持率がどのように変化するか注目される。

それでは、岸田政権の政権運営はどのようになるだろうか。今回の問題で、岸田首相の決断力の遅さを指摘する声が多いが、問題はもっと根深いところにあるのではないかとみている。

安倍元首相が銃撃され亡くなって以降、首相官邸と自民党との連携不足が目立つ。臨時国会の会期幅の決定が遅れたり、予算委員会の日程が決まらずに審議が空転するなど異例の事態が相次いでいる。

最近では、山際経済再生相が辞任した直後に、自民党のコロナ対策本部長に就任する人事が行われ、国民への配慮に欠けると反発を招いた。

自民党の長老は「今の岸田政権は、首相官邸内では総理、官房長官、副長官の縦の結合力が弱い。一方、自民党は幹事長、国対委員長、政調会長、それに公明党との足並みがバラバラで統率がとれていない。政権の土台から立て直さないと、岸田政権が求心力を取り戻すのは難しいだろう」と指摘する。

岸田首相は、12日からカンボジア、インドネシア、タイの各国を歴訪し、G20サミットなどの国際会議に出席し、首脳外交を展開する。帰国後の21日からは、補正予算案の審議が始まる見通しで、臨時国会を乗り切ることができるかどうか、正念場を迎える。(了)

 

”政権浮揚も 険しい道” 大型経済対策

11月に入り、臨時国会は会期末まで残り1か月余りとなった。これまでの国会は、野党側が旧統一教会問題を中心に岸田政権を攻め立て、主導権を発揮する場面が目立った。

これに対し、政府・与党側は、先月末に決定した物価高騰対策を柱とする総合経済対策を受けて、裏付けとなる補正予算案を提出、会期内に成立させて、岸田政権の浮揚につなぎたい考えだ。

このため、後半国会では旧統一教会の問題とともに、新たに政府の大型経済対策も焦点になるが、世論の視線は厳しく、政権の浮揚につながるかどうか。岸田首相にとっては、険しい道が続くことになりそうだ。

 電気・ガス料金の負担軽減に6兆円

まず、政府が28日に閣議決定した総合経済対策の中身をみておきたい。財政支出の総額は39兆円に上り、対策の柱としては、家庭の電気やガス料金などの負担軽減策を盛り込んだのが一番の特徴だ。

今回の軽減策で標準的な世帯では、来年前半で4万5000円の支援になると試算されている。この総合経済対策を実施するため、政府は一般会計の総額で29兆1000億円の第2次補正予算案を編成、国会に提出する方針だ。

岸田首相は記者会見で「来年1月からの電気代の負担軽減策や、ガソリン価格の抑制策を来年以降も続けることなどに6兆円を充てる」と説明した。

そのうえで「今回の対策は『物価高克服・経済再生実現のための総合経済対策』だ。国民の暮らし、雇用、事業を守るとともに、来年に向けて経済を強くしていく」と強調した。

野党 ”対策が遅く、生活支援が弱い”

これに対して、野党側は「政府の経済対策は遅すぎる」と批判するとともに「政府案では、ガス料金の負担軽減を挙げながら、全国で利用の半分を占めるLPガスが対象になっていない」と指摘する。

また、「政府案では6兆円もの巨額な予算を計上しているが、電気、ガス、ガソリンの支援額は、1世帯当たり月額5000円程度にすぎない。企業を通しての支援の仕方にも問題がある」として、5万円の現金給付や消費税率の引き下げなどに対策を切り替えるべきだと主張する。

さらに、野党側は「政府の対策は、物価高騰対策を強調しながら、中身は、公共事業や、予備費の大幅上積みなどあれもこれも詰め込み、肝心の家庭や中小企業への支援が弱い」と今後、政府の姿勢を追及する構えだ。

 世論 ”政府の対策に厳しい評価”

こうした中で、共同通信が10月29、30両日、全国緊急世論調査を実施した。それによると政府の総合経済対策について「期待できる」が27%に対し、「期待できない」が71%に上った。

一方、岸田内閣の支持率は37.6%、前回8、9日両日の調査に比べて、2.6ポイント増えた。不支持率は3.5ポイント減の44.8%だった。支持率は微増に止まり、支持を不支持が上回る逆転状態が続いている。

政府・与党は、総合経済対策に7割の人が「期待できない」という厳しい評価をしていることを重く受け止める必要がある。

こうした理由・背景に何があるのか。1つは、電気、ガス料金の軽減対策は、必要だと一定の評価をしながらも、食料品などの値上げが続いており、政府の物価対策としては不十分と受け止めているのではないか。

また、政府・与党で対策を決める際、財務省の当初案は25兆円規模だったのが、自民党側の要求で一夜で4兆円も積み増しされた。「経済対策の中身より、規模ありき」の姿勢に対する批判もうかがえる。

一方、財政への影響はどうか。補正予算案の規模といえば、数兆円が相場だったが、コロナ対策を機に跳ね上がり、今回も29兆円にも上る。この財源の大半は、赤字国債、借金だ。国の借金は1255兆円、借金財政がいつでも続くはずがない。

さらに、問題の核心は、岸田政権の経済・財政運営にある。つまり、急激な円安に対して、黒田日銀総裁は、金融の大幅緩和策を継続する方針を表明した。

一方、岸田首相は、物価高騰の抑制に全力を挙げる構えで、双方の対策が逆方向に見える。岸田首相は、今後のかじ取りをどのように進めるのか、経済・財政運営の方針をはっきり打ち出してもらいたい。

また、この国会では、旧統一教会の問題、年末に控えている安全保障の3文書の改訂と防衛費の扱いについても、国民の疑問・関心に応えられるようしっかり議論を行うよう強く注文しておきたい。(了)

”幕引き遠い辞任劇”岸田政権

旧統一教会との関係が相次いで明らかになっていた山際経済再生担当相が24日夜、辞任した。岸田首相は後任に後藤茂之・前厚労相を起用する方針を決め、25日夜、認証式を経て正式に就任した。

岸田政権が去年10月に発足して以降、閣僚が不祥事で辞任するのは今回が初めてだ。しかも、総合経済対策の取りまとめやコロナ対策、政権の看板政策である「新しい資本主義」を担当する重要閣僚が辞任するのも初めてで、岸田政権への打撃は大きい。

岸田首相は今月中に総合経済対策をとりまとめ、政権の立て直しを図りたい考えだが、事態収束へのメドは立っていない。岸田政権や政治の対応のあり方を考えてみたい。

 閣僚の更迭、判断遅く、ねらいも不明

まず、今回の辞任劇をどうみるか。山際担当相と旧統一教会との問題は、8月の内閣改造の時から、繰り返し記者会見や国会で取り上げられてきた。これまで2か月半、曖昧な釈明が延々と続いた末の辞任で、遅きに失した辞任と言われてもやむを得ないだろう。

また、任命権者である岸田首相の判断や決断も遅すぎた。内閣改造時の続投の判断が正しかったのか、その後、新たな事実が明るみになったことを考えると、秋の臨時国会前に決断すべきだったのではないかと考える。

さらに、閣僚更迭のカードを切る場合は、事態を鎮静化させたり、区切りをつけるためのシナリオや戦略を描いたうえで決断することが多い。

ところが、今回は、政権内でそうした調整や、野党側との折衝などの動きもみられなかった。戦略的なねらいがはっきりしないまま、切羽詰まった対応で、岸田政権の運営は不安定化しているようにみえる。

 野党 首相の責任追及、辞任ドミノも

これに対して、野党の対応はどうか。25日の衆議院本会議で、岸田首相は辞任の経緯を報告し、「国会開会中に大臣が辞任する事態になり、深くおわびを申し上げる」と陳謝した。

これに対し、立憲民主党など野党側は、岸田首相の任命責任を追及するとともに、旧統一教会と自民党との関係を明らかにするよう迫った。

具体的には、旧統一教会の友好団体が国政選挙で、自民党の国会議員に「推薦確認書」に署名を求めていたとして、党として調査を行うよう求めていく方針だ。

また、細田衆議院議長が旧統一教会側と接点がありながら、説明用の短い文書を出すだけで記者会見などを行わない問題や、「政治とカネ」の問題で寺田総務相や秋葉復興相の責任を追及する構えだ。

この国会は野党側の攻勢が目立ち、与党側には今後”閣僚の辞任ドミノ”につながるのではないかと懸念する声も聞かれる。

このように今回の山際担当相の辞任で、旧統一教会の問題が幕引きとなる状況にはなく、国会後半も引き続き、この問題が焦点の1つになる見通しだ。

 岸田首相 厳しい評価に対応できるか

それでは、岸田首相や与党側はどんな対応が求められているのか。まず、旧統一教会の問題について、国民世論の多くが、岸田首相や自民党の説明は不十分だという受け止め方をしている。

岸田首相らは、国会議員個人が点検し、説明すると繰り返すが、報道各社の世論調査では、岸田首相の対応を「評価しない」という受け止め方が7割以上に達している点を重く受け止める必要がある。

岸田首相や自民党執行部は、第2次補正予算案の提出は11月下旬になる見通しなので、それまでの間は、可能な限り国会での論戦に応じて、旧統一教会問題への対応方針や取り組みを説明し、国民の不信感を取り除く必要があるのではないか。

そうした取り組みを重ねたうえで、物価高騰対策や総合経済対策の説明をしなければ、国民の理解と支持は広がらない。急落している岸田内閣の支持率にも歯止めがかからない事態も予想される。

この臨時国会には、国民の投票権に関係する「10増10減の区割り法案」や感染症法の改正案などの重要法案が提出されており、国民の側としては、議論を尽くして成立させてもらいたい。

一方、政府は年末に、外交安全保障の3文書の改訂や防衛費を増やす問題にも結論を出す。その前に、国会でも与野党が十分に議論を交わしてもらいたい。

このように多くの課題・難題を抱えているだけに、旧統一教会と政治の関係については、早期にメドをつけたうえで、重要な政治課題の議論に入ってもらいたい。

隣国の中国では、習近平国家主席を中心とする長期1強体制が発足するなど国際情勢は大きく変わりつつある。内外情勢の激しい動きに対応していくためにも、与野党が真正面から議論する態勢を早く整えてもらいたい。(了)