新型コロナ対策として、3度目の緊急事態宣言が、東京、大阪、兵庫、京都の4都府県に出されてから2日で1週間が経ったが、新規感染者の増加に歯止めがかからない。
菅首相にとって、大型連休明けから数か月の間に”3つの難問・難関”が待ち受けている。1つは、連休明けまでに感染拡大に歯止めをかけ、緊急事態宣言を解除できるかどうか。2つ目は、東京オリンピック・パラリンピック開催問題。3つ目が、高齢者向けのワクチン接種。菅首相がめざす7月末までに終えることができるかどうかだ。
こうした3つの難問は、私たちの暮らしや社会、政治の行方に大きな影響を及ぼす。難問・難関を乗り越えられるかどうか、以下、点検してみる。
緊急事態宣言 解除は困難か
まず、新型コロナウイルスの感染状況からみていきたい。3度目の緊急事態宣言が4都府県に出されたのが4月25日、今月2日で1週間が経過したが、新規感染者は増加傾向が続いている。
深刻さを増しているのが大阪で、2日の新規感染者数は1057人で、6日連続で1000人を超えた。医療は危機的状況に陥っている。東京の新規感染者数は879人で、日曜日に800人を上回るのは3か月ぶりの高い水準だ。このほか、北海道は過去最多、福岡県でも過去2番目の多さになっている。
一方、重症者数は2日、1050人に達し過去最多となった。専門家は「変異ウイルスが広がっていることが一番の原因ではないか」「新たなフェーズに入ったと受け止めるべきだ」と危機感を強めている。
緊急事態宣言の期限は11日までだが、解除できるかどうか。今の時点で判断するのは難しいが、専門家の見方や重症者数の多さなどを考えると、宣言解除は悲観的にならざるをえない。特に大阪などの関西圏の解除は難しいのではないか。
緊急事態宣言の扱いに関連して、政府のコロナ対応については、これまでも繰り返し指摘していることだが、節目節目に「対策の検証・総括」を明らかにすべきだ。どこに問題があり、今後どう改善するのか説明がない。
このため、変異株を含めた検査の拡充をはじめ、隔離・入院、病床の確保調整、休業補償の在り方など同じ問題について、1年以上も堂々巡りの議論が続いている。何とかならないのか。
今回は、酒類提供の飲食店や大型商業施設の休業が打ち出されたが、人の移動・人流の減少の目標はどこまで達成されたのか。菅首相や閣僚の対応は、ワクチン接種には熱心だが、感染の抑え込みの呼びかけなどは型通りで、国民に懸命に繰り返し説明・説得する熱意が感じられない。
これでは、人流抑制効果を期待する方が無理ではないか。11日の期限の節目では、今度こそ、きちんとした説明を行ってもらいたい。
五輪・パラ 感染対策 徹底議論を
2つ目の難問は、東京五輪・パラリンピックの開催問題だ。先月28日に行われた大会組織委員会やIOC国際オリンピック委員会のバッハ会長など5者によるオンライン会議で、観客数の上限については、6月に判断することで合意した。
政府・自民党関係者に聞くと「菅首相の考えは、大会開催は前提で、安全・安心な大会にするため、感染防止対策をどうするかを考えている」と説明する。
これに対して、報道各社の世論調査では、国内外の感染状況や変異株の広がりを考えると「大会の中止や延期すべき」と考える人が7割を占めている。首相と世論の見方・考え方に大きな開きがある。
大会開催の是非は、アスリートの夢や努力をはじめ、スポーツ関係者の尽力、1兆6000億円にものぼる大会費用の投入など様々な要素を考慮に入れて判断する必要がある。
一方、国内、世界のコロナ感染は深刻な状態にあり、大会を開催できる状況にあるのかどうか。開く場合は、感染防止対策はどのようになっているのか。政府、東京都、組織委員会が、それぞれの考え方を科学的なデータも含めて明らかにして、議論を徹底的に行う必要がある。大会開催予定まで3か月を切っている。
五輪を巡っては、菅首相と小池都知事との確執や思惑などが取りざたされている。国民にとっては直接関係ないことであり、国家的行事について、それぞれの立場で明確な考え方を明らかにしてもらいたい。
私たち国民の側も開催、中止のいずれの結論になっても”五輪の政治的利用や、思惑に加担しない賢明な判断・対応”が必要ではないかと考える。
ワクチン高齢者7月末完了は可能か
3つ目の難問は、高齢者のワクチン接種の問題だ。菅首相は先月23日、緊急事態宣言の方針を決定した際の記者会見で「希望する高齢者に7月末を念頭に2回の接種を終えることができるように取り組んでいく」と高齢者接種の7月末完了の考えを打ち上げた。
現状はどうか、まずは高齢者より前に行う医療従事者の先行接種。4月29日の時点で、対象となる480万人のうち、2回の接種を完了した人は21%に止まる。1回目の接種も49%だった。
医療従事者への接種が進まない背景としては、ワクチンの供給が遅いことがある。2月17日から医療従事者の接種が始まったが、すべての対象者に2回分が供給されるのは5月中旬になる見通しだ。
高齢者の優先接種は4月12日から始まったが、最初の供給量は1%にも満たなかった。高齢者の接種が全国で本格化するのは5月に入ってからだとみられるが、その前に、高齢者にワクチンを打つ医療従事者の接種を優先する必要がある。
全国の自治体関係者が、3600万人の高齢者を対象にした接種で頭を痛めているのは、ワクチン供給の情報が極めて乏しいことだ。「いつ、どれくらいの量が届くのかがわからないので、準備のしようがない」などの声を聞く。
政府は先月30日にようやく、5月下旬から6月末までの全市区町村への配分量を各都道府県に通知した。6月末までに高齢者全員が1人2回接種できる分を配り終える計画だ。
自治体側はこれから打ち手の医師、看護師の確保などに当たらなければならない。自治体の中には、7月末まではとても無理で、接種が終わるのは8月以降を想定しているところもあるという。
専門家によると、7月末までにワクチン接種を終えるには、1日に80万回の接種が必要だ。そのためには、ワクチンの打ち手を歯科医師や、薬剤師などにも広げる必要がある。さらにクリニックや、企業での接種も含め、多様な形で取り組まないと困難だという。
政府のこれまでの対応、司令塔機能の弱さをみると、高齢者接種は難問中の難問と言えるのではないか。どんな設計図を描いているのか、地方自治体へのバックアップ体制や、指導力・実行力を注視していきたい。
都議選、菅政権の行方を左右
以上、見てきた3つの難問は、大型連休明けから直ちに動きが始まる。7月末にかけて、政治の面では様々な動きやハレーションが起きることも予想される。
菅首相が政権の最優先課題としてワクチン接種を挙げ、高齢者接種を7月末までに完了させることを表明したことは、東京五輪前の早期解散は選択しないとみていいのではないか。このことは、前号のブログでも取り上げたように秋の衆院選挙の公算が一段と明確になったとみることができる。
これからの政治の焦点は、秋の衆議院解散・総選挙は誰の手で断行することになるのかに移りつつある。具体的には、菅首相か、それともその前に自民党総裁選を行い別のリーダーを選ぶのか。
一方、3つの難問は、今年夏の大型選挙である7月4日投票の東京都議会議員選挙にも大きな影響を及ぼす。都議選は、直前の国政レベルの主要テーマが争点になるからだ。このため、国政選挙の先行指標ともいわれる。
3つの難問は、私たちの暮らしに影響を与えるのをはじめ、夏の都議選、秋の衆院解散・総選挙など政治の先行きも大きく左右することになる。