菅首相 ”3つの難問・難関”  

新型コロナ対策として、3度目の緊急事態宣言が、東京、大阪、兵庫、京都の4都府県に出されてから2日で1週間が経ったが、新規感染者の増加に歯止めがかからない。

菅首相にとって、大型連休明けから数か月の間に”3つの難問・難関”が待ち受けている。1つは、連休明けまでに感染拡大に歯止めをかけ、緊急事態宣言を解除できるかどうか。2つ目は、東京オリンピック・パラリンピック開催問題。3つ目が、高齢者向けのワクチン接種。菅首相がめざす7月末までに終えることができるかどうかだ。

こうした3つの難問は、私たちの暮らしや社会、政治の行方に大きな影響を及ぼす。難問・難関を乗り越えられるかどうか、以下、点検してみる。

 緊急事態宣言 解除は困難か

まず、新型コロナウイルスの感染状況からみていきたい。3度目の緊急事態宣言が4都府県に出されたのが4月25日、今月2日で1週間が経過したが、新規感染者は増加傾向が続いている。

深刻さを増しているのが大阪で、2日の新規感染者数は1057人で、6日連続で1000人を超えた。医療は危機的状況に陥っている。東京の新規感染者数は879人で、日曜日に800人を上回るのは3か月ぶりの高い水準だ。このほか、北海道は過去最多、福岡県でも過去2番目の多さになっている。

一方、重症者数は2日、1050人に達し過去最多となった。専門家は「変異ウイルスが広がっていることが一番の原因ではないか」「新たなフェーズに入ったと受け止めるべきだ」と危機感を強めている。

緊急事態宣言の期限は11日までだが、解除できるかどうか。今の時点で判断するのは難しいが、専門家の見方や重症者数の多さなどを考えると、宣言解除は悲観的にならざるをえない。特に大阪などの関西圏の解除は難しいのではないか。

緊急事態宣言の扱いに関連して、政府のコロナ対応については、これまでも繰り返し指摘していることだが、節目節目に「対策の検証・総括」を明らかにすべきだ。どこに問題があり、今後どう改善するのか説明がない。

このため、変異株を含めた検査の拡充をはじめ、隔離・入院、病床の確保調整、休業補償の在り方など同じ問題について、1年以上も堂々巡りの議論が続いている。何とかならないのか。

今回は、酒類提供の飲食店や大型商業施設の休業が打ち出されたが、人の移動・人流の減少の目標はどこまで達成されたのか。菅首相や閣僚の対応は、ワクチン接種には熱心だが、感染の抑え込みの呼びかけなどは型通りで、国民に懸命に繰り返し説明・説得する熱意が感じられない。

これでは、人流抑制効果を期待する方が無理ではないか。11日の期限の節目では、今度こそ、きちんとした説明を行ってもらいたい。

 五輪・パラ 感染対策 徹底議論を

2つ目の難問は、東京五輪・パラリンピックの開催問題だ。先月28日に行われた大会組織委員会やIOC国際オリンピック委員会のバッハ会長など5者によるオンライン会議で、観客数の上限については、6月に判断することで合意した。

政府・自民党関係者に聞くと「菅首相の考えは、大会開催は前提で、安全・安心な大会にするため、感染防止対策をどうするかを考えている」と説明する。

これに対して、報道各社の世論調査では、国内外の感染状況や変異株の広がりを考えると「大会の中止や延期すべき」と考える人が7割を占めている。首相と世論の見方・考え方に大きな開きがある。

大会開催の是非は、アスリートの夢や努力をはじめ、スポーツ関係者の尽力、1兆6000億円にものぼる大会費用の投入など様々な要素を考慮に入れて判断する必要がある。

一方、国内、世界のコロナ感染は深刻な状態にあり、大会を開催できる状況にあるのかどうか。開く場合は、感染防止対策はどのようになっているのか。政府、東京都、組織委員会が、それぞれの考え方を科学的なデータも含めて明らかにして、議論を徹底的に行う必要がある。大会開催予定まで3か月を切っている。

五輪を巡っては、菅首相と小池都知事との確執や思惑などが取りざたされている。国民にとっては直接関係ないことであり、国家的行事について、それぞれの立場で明確な考え方を明らかにしてもらいたい。

私たち国民の側も開催、中止のいずれの結論になっても”五輪の政治的利用や、思惑に加担しない賢明な判断・対応”が必要ではないかと考える。

 ワクチン高齢者7月末完了は可能か

3つ目の難問は、高齢者のワクチン接種の問題だ。菅首相は先月23日、緊急事態宣言の方針を決定した際の記者会見で「希望する高齢者に7月末を念頭に2回の接種を終えることができるように取り組んでいく」と高齢者接種の7月末完了の考えを打ち上げた。

現状はどうか、まずは高齢者より前に行う医療従事者の先行接種。4月29日の時点で、対象となる480万人のうち、2回の接種を完了した人は21%に止まる。1回目の接種も49%だった。

医療従事者への接種が進まない背景としては、ワクチンの供給が遅いことがある。2月17日から医療従事者の接種が始まったが、すべての対象者に2回分が供給されるのは5月中旬になる見通しだ。

高齢者の優先接種は4月12日から始まったが、最初の供給量は1%にも満たなかった。高齢者の接種が全国で本格化するのは5月に入ってからだとみられるが、その前に、高齢者にワクチンを打つ医療従事者の接種を優先する必要がある。

全国の自治体関係者が、3600万人の高齢者を対象にした接種で頭を痛めているのは、ワクチン供給の情報が極めて乏しいことだ。「いつ、どれくらいの量が届くのかがわからないので、準備のしようがない」などの声を聞く。

政府は先月30日にようやく、5月下旬から6月末までの全市区町村への配分量を各都道府県に通知した。6月末までに高齢者全員が1人2回接種できる分を配り終える計画だ。

自治体側はこれから打ち手の医師、看護師の確保などに当たらなければならない。自治体の中には、7月末まではとても無理で、接種が終わるのは8月以降を想定しているところもあるという。

専門家によると、7月末までにワクチン接種を終えるには、1日に80万回の接種が必要だ。そのためには、ワクチンの打ち手を歯科医師や、薬剤師などにも広げる必要がある。さらにクリニックや、企業での接種も含め、多様な形で取り組まないと困難だという。

政府のこれまでの対応、司令塔機能の弱さをみると、高齢者接種は難問中の難問と言えるのではないか。どんな設計図を描いているのか、地方自治体へのバックアップ体制や、指導力・実行力を注視していきたい。

 都議選、菅政権の行方を左右

以上、見てきた3つの難問は、大型連休明けから直ちに動きが始まる。7月末にかけて、政治の面では様々な動きやハレーションが起きることも予想される。

菅首相が政権の最優先課題としてワクチン接種を挙げ、高齢者接種を7月末までに完了させることを表明したことは、東京五輪前の早期解散は選択しないとみていいのではないか。このことは、前号のブログでも取り上げたように秋の衆院選挙の公算が一段と明確になったとみることができる。

これからの政治の焦点は、秋の衆議院解散・総選挙は誰の手で断行することになるのかに移りつつある。具体的には、菅首相か、それともその前に自民党総裁選を行い別のリーダーを選ぶのか。

一方、3つの難問は、今年夏の大型選挙である7月4日投票の東京都議会議員選挙にも大きな影響を及ぼす。都議選は、直前の国政レベルの主要テーマが争点になるからだ。このため、国政選挙の先行指標ともいわれる。

3つの難問は、私たちの暮らしに影響を与えるのをはじめ、夏の都議選、秋の衆院解散・総選挙など政治の先行きも大きく左右することになる。

 

衆参3選挙 自民全敗”早期解散遠のく”

菅政権発足後最初の国政選挙となった衆参3つの選挙は、いずれも野党候補が勝利し、自民党は候補者擁立を見送った選挙を含めて、全敗した。

この選挙結果は菅政権の政権運営を直撃し、自民党内の一部から出ていた早期解散論は遠のき、秋の解散・総選挙の可能性がさらに高まったとみている。

今回の選挙結果をどのようにみるか、菅政権や政局に及ぼす影響などを分析してみたい。

 金権政治批判、怒り噴出、広島選挙

今回の3つの選挙、早い段階から「自民党が1勝できるか、3戦全敗になるか」が大きな関心事項だった。衆院北海道2区は、吉川元農相の収賄事件に伴う補欠選挙で、自民党は候補者擁立を見送り、不戦敗。参院長野選挙区は、羽田元総理の厚い選挙地盤に加えて「弔い選挙」、野党が強いとみられていた。

残るは参院広島選挙区がどうなるか。河井克行元法相夫妻の前代未聞の大規模買収事件に伴う再選挙で、「政治とカネ」の問題が最大の争点になった。

広島は「保守王国」といわれ、一昨年参院選挙の政党を選ぶ比例代表選挙では、自民党は41万票、立憲民主党15万票の3倍近い得票をしていた。選挙前には「ギリギリで自民が勝つか」との見方も強かった。

フタを開けてみると野党候補の宮口治子氏が37万票860票、自民党候補の西田英範氏が33万6924票、3万票余りの差をつけて宮口氏が初めての当選を果たした。広島の知人に聞いてみると「政治とカネ、金権政治に対する有権者の怒りが底流にあったのではないか」と語る。

NHKの出口調査では、宮口氏に投票した人が最も重視したのは「政治とカネをめぐる問題」が35%で最も多く、次いで「コロナ対応」19%、「経済・雇用政策」13%などとなっていた。

投票率は33.61%で、一昨年の参院選挙に比べて11ポイントも下がり、過去2番目に低かった。自民党の支持層では、2割以上が野党の宮口氏に投票したほか、「政治とカネ」の問題に嫌気がさして、棄権した人も多かったのではないか。

今回の3つの選挙、自民党の敗因としては、コロナ感染拡大に歯止めをかけられない政権に対する不満が共通しているほか、選挙区によって「政治とカネ」の問題が重なったことが挙げられる。

 菅政権を直撃 反転攻勢吹き飛ぶ

今回の選挙結果は、菅政権を直撃する形になっている。支持率が急落した菅首相は4月は反転攻勢と位置づけ、12日にワクチンの高齢者優先接種を開始したのをはじめ、世界の指導者に先駆けて訪米、16日にはバイデン大統領と日米首脳会談を実現し、対中けん制の共同声明を打ち出した。

ところが、コロナ感染の急拡大が収まらず、23日には東京、大阪など4都府県に3度目の緊急事態宣言発出に追い込まれた。これに衆参3つの選挙全敗が、追い打ちをかけた。反転攻勢が吹き飛ぶ形になっているのが実状だ。

今回の選挙は菅政権が去年9月に発足後、最初の国政選挙だ。政権発足当初は”たたき上げ首相”が好感され、高い内閣支持率を記録した。ところが、コロナ対応が後手に回り、放送関連会社に勤める長男が総務官僚に多額の接待を繰り返していたことも明らかになるなど政権や与党の不祥事が相次いでいる。

今回の選挙について、自民党内には「補欠選挙や再選挙であり、政権運営には影響しない」との受け止めもあるようだが、額面どおり受け取る人は永田町では少ない。政治とカネ、国民への説明が乏しい政治の現状。3つの選挙区の有権者だけでなく、国民の多くが菅政権に対して厳しい見方や不信感を抱いていることを真正面から受け止める必要がある。

 ”五輪前解散”遠のく 都議選注視

今後の政局への影響は、どうだろうか。衆議院議員の任期満了まで半年を切った。最大の焦点は、次の衆議院解散総選挙がいつ断行されるのかだ。

自民党内の一部からは、春の解散・5月下旬投票説のほか、東京五輪前、7月の東京都議選とのダブル選挙説などが流されてきた。

今回の選挙結果で、政治とカネをめぐる自民党の体質や政治姿勢、コロナ感染を抑え込めない政権に対する有権者の厳しい評価を考えると、東京五輪前の解散・総選挙は遠のいたのではないか。

菅首相は26日記者団の質問に対して「コロナ対策を最優先に考えている」と早期解散に慎重な姿勢を重ねて示した。ワクチン接種を軌道に乗せることも考えると、秋の解散・総選挙の可能性がさらに強まっていると個人的にはみている。

今後の政治の動きをみていくうえで、ポイントは3つある。1つは、来月11日に期限を迎える緊急事態宣言の効果がどのようになるか。また、医療従事者と高齢者のワクチン接種が順調に進むのかどうか。

2つ目は、東京五輪・パラリンピック開催問題。菅首相は、開催を前提に感染対策を進める方針だ。一方で、コロナの感染状況が、世界や日本国内でどのようになるのか、決断の時期が近づいている。

3つ目は、7月の東京都議選の結果だ。都議選は、国政選挙の先行指標になってきた。自民党は前回は歴史的な大敗を喫したが、今回は公明党との選挙協力が復活するので、議席を回復するとみられているがどうなるか。

こうした3つのポイントを経ながら、政権与党内で菅首相続投を求める声が強まるのか。それとも交代を求める動きが出てくるのか、菅政権は秋に向けて、綱渡りの政権運営が続くことになりそうだ。

 

 

日米首脳会談と政治・外交のゆくえ

菅首相とアメリカのバイデン大統領は、16日の日米首脳会談で、日米同盟を深化させるとともに、覇権主義的な動きを強める中国に対して、共同で対抗していく姿勢を打ち出した。

これに対し、中国側は「強烈な不満と断固たる反対」を表明する談話を発表した。米中対立が激化する中で、日本は難しいかじ取りを迫られることになりそうだ。

今回の日米首脳会談は、日本の政治や外交、安全保障にどのような影響を及ぼすのか探ってみたい。

 日本外交・安全保障に重い責任

今回の日米首脳会談は対中戦略が大きな焦点になり、会談を受けての共同声明は、中国を強くけん制する内容を打ち出した。その象徴が、中国が「核心的利益」と位置づける台湾問題で、「台湾海峡の平和と安定の重要性を強調するとともに、両岸問題の平和的解決を促す」と明記した。

共同声明で台湾に言及したのは、日中国交正常化前の1969年の佐藤首相とニクソン大統領の会談以来52年ぶりだ。

また、菅首相は会談後の共同記者会見で、「防衛力の強化を図る決意」を表明した。尖閣諸島の防衛をはじめ、日本の防衛力の整備、台湾有事を想定したアメリカ艦船への補給など後方支援などの検討も課題になるとみられる。

これに対して、中国側は今後さまざまな形で、対日圧力をかけてくるものとみられる。米中対立の激化が予想される中で、中国とどのように向き合うか、日本は外交・安全保障などの分野で重い責任を担うことになる。

中国は、日本の最大の貿易相手国だ。経済面でどのような影響が出てくるのか、検討も迫られる。中国に対する外交、安全保障、経済、先端技術など総合的な対策・戦略が必要になる。コロナ対策では後手の批判を浴びたが、総理官邸が中心になって対中戦略づくりが進むのかどうか、菅首相の指導力が問われる。

 ”政権運営の支え役” 日米首脳会談

次に国内政治への影響はどうか。日米合意内容は重い課題だが、菅政権にとっては、短期的には”政権運営の支え役”になる。政権に対する批判を浴びても、日米合意の実現を図る責任があるとして、批判を封じることもできる。

例えば、4月下旬の衆議院北海道2区、参議院の長野、広島のトリプル選挙で、仮に与党系候補が敗れた場合。あるいは、7月の東京都議会議員選挙が不振に終わり、”菅降ろし”などの動きが出た場合、外交の責任を持ち出して批判をかわすことも可能になるとみられる。

東京五輪・パラリンピックについても首脳会談で、菅首相は開催に強い決意を表明し、バイデン大統領は支持したとされる。今後の感染状況にもよるが、菅首相は、開催を推進する方針は変えないとみられる。

菅政権の今後の政権運営は、4月下旬の気候変動サミット、6月中旬のG7サミットなどの外交案件をこなしながら、7月から9月はじめにかけての東京五輪・パラリンピックへとつなぎ、秋の政治決戦に打って出る戦略だとみられる。

 秋の解散・総選挙の公算大か

菅首相は、訪米中に同行記者団から衆院解散・総選挙について質されたのに対し、「まずは新型コロナ対策をしっかりやりたい。同時に10月に衆議院議員の任期が来るので、秋までの間で時間の制約はあるが、よく考えていきたい」とのべた。

この発言と先の政治日程とを合わせて考えると、◆7月の東京都議選に合わせた解散・総選挙の可能性は小さい。◆基本はコロナ対策を進めたうえで、秋の解散・総選挙の公算が大きい。◆その際、9月解散・総選挙を断行し、その後、自民党総裁選を行う方針を模索しているのではないかとみている。

但し、以上は菅内閣の支持率が高く、政権が求心力を保っていることが前提だ。求心力低下となれば、首相の交代論が出てくることも予想される。

 カギは、感染状況とワクチン接種

それでは、これからの政治を動かすカギは何か。結論を先に言えば、コロナ感染状況と、ワクチン接種が順調に進むかどうかにかかっている。

ワクチン接種については、河野担当相が、訪米中の菅首相とアメリカ製薬大手ファイザー社との間で、ワクチンの追加供給を受けることで実質合意したと明らかにした。そのうえで、国内のすべての対象者に必要な数量を9月中に供給できるとの見通しを示した。

今月12日から始まった高齢者の優先接種に必要な数量は、既に6月末までに確保できるとの見通しが示されている。問題は、ワクチン接種が高齢者に続いて、基礎疾患のある人、さらに一般の人に打ち終わるまでに、感染拡大を抑えられるかどうかだ。

全国の感染状況は18日の時点で、大阪府では新規感染者が1220人で過去最多を更新。まん延防止等重点措置を適用して2週間が経つが、効果が現れていない。東京都も543人で、500人を超えるのは6日連続。全国の新規感染者数は4000人に増加。感染力の強い変異株に置き換わりつつあることも影響しているものとみられる。

菅政権の先行きは、こうしたコロナ感染を抑え込めるのか。今のような飲食店の時間短縮重点では限界があり、より強い新たな対策に踏み込む必要があるのではないか。

一方、外交面では、中国とどのように向き合うのか。外交、安全保障、経済を含めた対応策を国民に説明、理解を得ながら取り組む必要がある。内政、外交の大きなハードルを乗り越えられるのか、菅政権の実行力が問われている。

”総括も道筋もなき”コロナ対策 菅政権

新型コロナウイルスの感染再拡大に伴って、東京、京都、沖縄の3都府県に12日から「まん延防止等重点措置」が適用される。大阪など既に適用されている地域と合わせると6都府県に拡大した。

注目のワクチン接種も先行している医療従事者に続いて、12日からは高齢者を対象にした優先接種が始まる。

感染再拡大とワクチン接種の同時進行という新たなフェーズに入ったが、菅政権の対応をみると、対策の総括がなされないので、効果はあまり期待できない。

また、コロナ感染危機脱出への道筋も示されていないという問題を抱えたままだ。第4波が現実味を帯びてきた中で、何が問われているのか探ってみた。

「まん延防止」で抑え込めるか?

菅政権が新たに採用したのが、コロナ対策の特別措置法に基づく「まん延防止等重点措置」だ。緊急事態宣言が各都道府県内全体を対象にするのに対して、「まん延防止」は、知事が地域を決めて飲食店の営業時間短縮などを要請できる。

機動的に対処できるが、感染力が強い変異ウイルスが拡大している局面で、効果が期待できるのかどうか、自民党の厚生労働経験者に聞いてみた。

「一定の効果はあると思うが、はっきり言って限界もある。政府の今の対策は、”川下”での対策だ。サラリーマンなどが勤務を終えて一杯やる居酒屋での感染拡大を防ぐ。しかし、感染の急拡大を抑え込むには、人の移動を減少させる”川上”対策、蛇口を閉める対策まで踏み込むことが必要だ」と指摘する。

具体的には、去年春の感染拡大期にとられた「テレワークの徹底」。首相をはじめ、西村経済再生相、田村厚労相などが必死で企業、経済団体などを回り、出勤者の7割、8割削減を要請することだ。中小企業については支援策も用意して、協力を要請すべきだ。

そして「2週間程度、短期集中型で感染を極めて低レベルに抑え込んだうえで、新たな対策を実行しないとリバウンドの防止は無理だろう」と指摘する。

 ”総括も道筋もなき”コロナ対策

次に、菅政権のこれまでのコロナ対策はどこに問題があるか。端的に言えば、”総括も道筋もない対策”といえるのではないか。

例えば、先に東京など3都府県に「まん延防止等重点措置」の適用を決めたが、その2週間余り前には緊急事態宣言解除に合わせて「5つの柱からなる総合対策」を打ち出した。変異ウイルス対策の強化やPCR検査の拡充、医療提供体制の強化などで、ようやく政府の対策に盛り込まれた。

ところが、今回、新たな「まん延防止措置」を打ち出すのにあたって、総合対策はどこまで進み、新たな措置とどのように関連づけて実行していくのかといった総括や説明はまったくない。その時々の対応、”対症療法”の繰り返しに終始している。

菅政権のコロナ対策は、年明けの緊急事態宣言以降、飲食店の時間短縮中心の”1本足打法”で一貫している。第1波、第2波の総括も先送りにしたままなので、いったん打ち出した対策以外は、新たな対策はなかなか採用されない。

また、決め手と位置付けるワクチン接種をどのように進めていくのか、供給量や接種スケジュールもはっきりしない。さらに、感染抑止とワクチン接種を組み合わせた実施計画や、経済・社会活動の本格化につなげる出口への道筋も未だに示されていない。

最初の緊急事態宣言発出から既に1年、菅政権発足から半年余りが経った。菅政権は暮らしと経済活動を軌道に乗せていく道筋を早急に示す時期に来ている。

  ワクチン接種と政権の実行力

感染抑制と経済活動再開への切り札になるのがワクチン接種だが、日本は先進国の中で後れをとっている。2月17日から医療従事者の先行接種始まったが、4月9日までのデータで159万回に止まる。

4月12日からは、いよいよ高齢者の優先接種が始まる。但し、ワクチン確保量が極めて少ないため、本格的な接種は5月以降になる見通しだ。

河野ワクチン担当相は、6月末までに高齢者3600万人が2回接種を受けられるワクチンは確保できると強調する。これに対して、接種主体の自治体担当者からは「いつ、どれくらいのワクチンが届くのか具体的な情報がない」と不満は強い。

ワクチン接種の道のりは長い。高齢者の優先接種が終わった後、基礎疾患ある人・約820万人、次は高齢者施設の従事者・約200万人、さらに60歳から64歳までの高齢者・750万人と続く。その後、ようやく一般の人たちとなる。かなりの時間がかる。

それまでの間、第4波を防ぎながら、ワクチン接種を順調に進めることができるか。やるべき対策は、これまでの経験からはっきりしている。PCR検査の拡充をはじめ、変異株を把握する検査強化、病床の確保と転院調整など医療提供体制の整備だ。

菅政権の対策は飲食店の時間短縮が中心だが、これからは多様な対策を組み合わせて、感染抑制の効果を上げられるか実行力が厳しく問われる。

大阪をはじめとする関西圏では、このところ新規感染者数が過去最多となっているほか、重症病床もひっ迫している。東京も先月22日に緊急事態宣言が解除された後、感染拡大傾向が続いている。

当面、まん延防止措置の効果が現れるのか、それとも3度目の緊急事態宣言に追い込まれるのか、この2週間の感染状況をしっかり見ていく必要がある。

 

 

 

 

 

”五輪前解散 困難” コロナ感染再拡大

新型コロナ感染が急増している大阪、兵庫、宮城の3府県に「まん延防止等重点措置」が5日から初めて適用される。

感染は全国的に拡大傾向にあり、政府は感染拡大を抑え込めるか。仮に歯止めをかけることができず、第4波となると菅政権の先行きは一段と厳しくなる。

今回の感染再拡大の兆候は、政権や政治にどんな影響を与えることになるのか、探ってみる。

 変異ウイルス拡大 第4波も警戒

東京など1都3県に出されていた緊急事態宣言が全面的に解除されたのが3月22日。それから2週間も経たないうちに、今度は、大阪、兵庫、宮城の3府県で感染者が急増し、政府は「まん延防止等重点措置」の初めての適用に踏み切った。

重点措置の期間は、4月5日から5月5日までの1か月。3府県の知事が、地域を決めて飲食店の営業時間の短縮要請などの措置を取ることになる。

また、大阪や兵庫など関西地域では、感染力の強い変異型のウイルスの拡大が目立つ。専門家は今後、全国的にウイルスは変異株に置き換わっていくだろうと神経をとがらせている。

さらに、東京をはじめ、山形、愛媛、沖縄など43都道府県で、新規感染者数の増加傾向が続いている。政府コロナ対策の尾身会長は「第4波に入りつつある」と感染再拡大に警戒を強めている。

 重点措置 東京など視野に追加も

こうした感染再拡大への対応について、西村担当相は4日のNHK日曜討論で、東京などの首都圏をはじめ、沖縄、山形、愛媛、奈良、京都、愛知などの都府県の名前を挙げたうえで、「まん延防止重点措置を中心に臨機応変に対応したい」とのべた。

政府は、東京などで感染の急拡大がみられる場合は、この「まん延防止等重点措置」の適用を追加して、感染拡大を抑え込む方針だ。

政府と、東京都など都府県の知事との調整がどのように進むか、今後の注目点の1つだ。

 五輪前の解散・総選挙は困難か

次に今年の政治の焦点である衆議院の解散・総選挙の時期に及ぼす影響はどうか。自民党の二階幹事長は、野党側が内閣不信任決議案を提出した場合は、衆院解散・総選挙に打って出るよう進言すると強気の姿勢を見せている。

また、自民党の一部には、東京オリンピック・パラリンピック前の解散・総選挙をめざすべきだとする見方が出されてきた。4月解散・5月23日投票説や、7月4日東京都議選とのダブル選挙説などだ。

自民党のベテランに見通しを聞くと「コロナ感染を抑え込めないと、解散・総選挙は無理だ。自民党の選挙運動は”蜜”そのもので、支持者は高齢者が多い。万一、感染者や亡くなる人が出たら、それでお仕舞いになる」。

3府県のまん延防止等重点措置の期間は5月5日までと設定されたことで、その前の解散は難しく、5月23日投票説は時間的に不可能だ。

次に7月4日都議選とのダブル選挙説は、5月、6月はワクチン接種が全国の自治体で本格化するとみられること。また、ワクチン接種会場と投票所とが重なっている地域もあることから、ワクチンと選挙の同時実施は困難だとする意見が強い。

さらに、選挙の勝敗への影響。公明党は東京都議選を国政選挙並みに重視している。都議選の時期と衆議院選挙が重なれば、公明党・創価学会票が自民党候補への上乗せ効果が下がり、接戦区で自民党が議席を減らすことになりかねない。このため、自民党はこの時期の解散は避けるとの見方が強い。

菅首相も「最優先はコロナ感染拡大を防ぐことだ」と早期解散には慎重な姿勢を変えていない。したがって「五輪前の解散・総選挙は困難」とみられる。最終的には「五輪後の秋の解散・総選挙」の可能性がさらに強まっているとみてよさそうだ。

 4月感染状況 政権・政局を左右

今後の政治の見方・読み方だが、「4月の感染状況がどうなるか」がポイントになるとみている。

4月は、12日から高齢者を対象にしたワクチンの優先接種が始まる。16日には、菅首相が訪米してバイデン大統領との日米首脳会談が行われる。世界のリーダーに先駆けての会談になるだけに、菅首相としては、政権浮揚のきっかけにしたい考えだ。

感染状況が収まっていれば問題はないが、逆に感染再拡大になっていれば、日米首脳会談効果も帳消しになりかねない。東京オリンピック・パラリンピックの開催環境にも影響してくる。

さらに4月25日には、衆参のトリプル選挙も行われる。衆議院の北海道2区、参議院長野選挙区の補欠選挙、それに参議院広島選挙区の再選挙の3つ。元農相の収賄事件や大規模買収事件が原因の選挙などだ。政府のコロナ対応、一連の相次ぐ不祥事なども有権者の判断材料になるだろう。

コロナ感染状況とトリプル選挙の審判。政権発足後、半年余りの菅政権に対する有権者の評価が示される。政権浮揚に向かうのか、それとも政権直撃・求心力低下となるのか、分かれ道になる。

 ワクチン接種と感染抑止の実績は

最後に国民の関心が強い、ワクチン接種と感染対策について触れておきたい。

ワクチン接種は、4月12日から高齢者の優先接種が始まるが、未だに「いつ、どれだけの分量が届くのかわからない」と自治体関係者の悩みは続いている。5月以降、本格化するのではないかとみられているが、明確な見通しはついていない。

また、仮に高齢者接種が順調に進んだとしても、次は基礎疾患のある人、高齢者施設の従事者のあと、ようやく一般の人たちになる。ワクチン接種の計画・見通しをできるだけ早く示す責任がある。

さらに、ワクチン効果が上がるまでにはかなりの時間がかかるので、当面の感染再拡大を抑え込めるかどうかが、大きな問題になっている。

菅政権の対応を見ていると対策は発表するが、対策がどこまで進んでいるのか説明がなされない。例えば、先月打ち出された変異ウイルス把握の検査拡充や、繁華街などでの無料大規模PCR検査などもどこまで実行できているのか、停滞しているのか、一向に明らかにされない。

今回の感染再拡大に対して、菅政権は「まん延防止重点措置」で飲食店の営業時間短縮で乗り越えようとしている。こうした対策は一定の効果はあるだろうが、限界がある場合は、より強い対策に切り替えていく柔軟性を示してもらいたい。

最初の緊急事態宣言が出されてから、今月7日で1年になる。この間、繰り返し指摘されてきたPCR検査体制の拡充をはじめ、国と自治体との病床確保の調整・整備体制づくり、さらに変異ウイルスの検査強化などの課題について、これまでの取り組みの結果・実績を明らかにすることを強く求めておきたい。

菅政権と”コロナ政局”のゆくえ

菅政権が初めて編成した新年度予算が26日、参議院本会議で可決、成立した。菅首相の長男が勤める放送関連会社が、許認可権を持つ総務省幹部を接待していた不祥事が表面化し、総務官僚2人が辞職する異例の展開となったが、何とか年度内の成立にこぎつけた。

予算成立後の政治はどう動くのか。菅首相の自民党総裁任期は9月末まで、衆議院議員の任期は10月21日まで、残された任期はおよそ半年。「政権発足からまだ半年とみるか、残り任期はあと半年しかないとみるか」で、政治の光景は違って見える。コロナ感染と菅政権のゆくえを分析・展望してみたい。

反転攻勢 訪米、五輪、衆院決戦

コロナ対応をめぐって、世論や野党から厳しい批判を浴びてきた菅首相は、4月を「反転攻勢のスタート」にしたい考えだ。アメリカを訪問し、9日にバイデン大統領と会談し、世界の首脳の中で最初に会談したリーダーであることをアピール、政権運営の追い風にしたいねらいもある。

続いて4月12日からは、これまでの医療従事者の先行接種から、いよいよ高齢者を対象にした優先接種が始まる予定だ。また、菅政権の看板政策であるデジタル改革関連法案は、今国会で成立するのは確実な情勢だ。

さらに延期されてきた東京五輪・パラリンピック大会の開催、感染対策を万全にしたうえで、成功させたい考えだ。

こうした内外課題の実績を積み重ねたうえで、菅首相は9月末の自民党総裁選での再選と、衆議院の解散・総選挙をめざす戦略は変わっていないように見える。菅首相にとって、今後の政権運営のメイン・シナリオだ。

但し、このメイン・シナリオ通りに運ぶかどうか、幾つもの難関・ハードルを越えなければならない。

ハードル① 感染抑え込みできるか

第1のハードルが「新型コロナの感染拡大」を抑え込むことができるかどうかだ。首都圏の1都3県に出されていた緊急事態宣言は、3月21日に全面的に解除されたが、感染状況は予断を許さない。

全国の新規感染者数は、27日は2073人、2日連続で2000人台。2月6日以来の高い水準だ。東京、大阪など関西2府1県の大都市圏だけでなく、宮城県、山形県、愛媛県、沖縄県などの地方でも増え始めた。

変異型ウイルスの広がりを含めて、専門家は第4波の始まりではないかと神経をとがらせている。仮に第4波となると”政府の早すぎた宣言解除”に対する世論の批判が強まり、菅内閣の支持率が再び下落することが予想される。

 ワクチン接種の成否と感染対策

こうした中で、菅首相がコロナ対策の決め手と位置づけているのが、ワクチン接種だ。2月17日に医療従事者の先行接種が始まった。

続いて、4月12日からは65歳以上の高齢者の優先接種が始まるが、ワクチン確保量が少ないため、テスト的な実施に止まる見通しだ。但し、河野担当相は「6月末までに高齢者3600万人が2回接種を受けられる分量は確保できる」との見通しを示している。

与党関係者に聞くと「高齢者接種が本格化するのは5月以降」との見方だ。全国1700余りの市区町村単位で接種を行う大作戦だが、地方自治体関係者の間では「いつ、どれだけのワクチンが届くのか肝心の情報があまりにも少なすぎる」と批判が強い。この大作戦が順調に進むのかどうか大きなポイントだ。

政府コロナ対策の尾身茂会長は、国会での質疑で「高齢者の接種が5月か6月に本格化し、7月に終わったと仮定。さらに一般国民の接種に移るが、今年暮れの時点でゼロにはならない」とのべ、収束は来年以降に持ち越す可能性が高いという見通しを示している。

つまり、ワクチン接種へ国民の期待は大きいが、抑制効果が表れるまでには、かなりの時間がかかる。ということは、短期的には今の対策がカギを握っている。5つの柱からなる総合対策を打ち出したが、実効性に大きな疑問が持たれているのが実状だ。

 ②五輪開催 世論の支持は

第2のハードルは、東京五輪・パラリンピック大会開催で、世論の支持が広がるか否かだ。自民党幹部に聞くと「菅首相の関心は、大会を開催するか否かではなく、開催を前提にしてどのように安全・安心の大会にできるかにある」と語る。

一方、報道各社の世論調査をみると、大会を開催するよりも、再延期や中止を求める意見の方が多い。このため、世界や日本の感染状況がどうなるかということに加えて、開催する場合も大会の意味や位置づけを明確にして、国民の合意を広げられるかどうかが大きな課題と言える。

現状のままでは、大会の成功を国民の多くが喜び、政権の評判が上がり、衆院選の盛り上げにつなげたいという与党関係者の思惑通りには運ばないのではないか。

 ③総裁選、衆院選2つの選挙

第3のハードルは、”今年は選挙の年”なので、大きな選挙を勝ち抜けるかどうか。まず、4月25日投票の”トリプル選挙”と、7月4日の東京の都議会議員選挙。それに秋に任期満了となる自民党総裁選と、衆議院選挙が控えている。

”トリプル選挙”は、衆院北海道2区と参院長野選挙区の補選、それに参院広島選挙区の再選挙の3つ。吉川元農水相の収賄事件、河合案里参院議員の選挙違反事件に伴う選挙などのため、自民党にとっては厳しい選挙になる。1勝2敗説、3連敗説なども取りざたされている。

東京都議選は、各党とも国政選挙並みの取り組みになる。前回は、小池百合子・知事率いる”都民ファースト旋風”で、自民党は歴史的な大敗を喫した。今回は、自民、公明の選挙協力が復活し、議席の回復が見込まれるが、国政の問題が選挙の争点になる。次の「衆院選挙の先行指標」、”菅自民党”の先行きが占える。一連の不祥事などの影響がどう出るか。

菅首相にとって政権維持のためには、自民党総裁選と、衆院選の2つの大きな選挙を勝ち抜く必要がある。感染抑止やワクチン接種が順調に進むケースは、現職の総理・総裁として、優位に選挙に臨むことができる。

逆に、コロナ対策やワクチン接種が滞ると強い逆風となる。特に衆院決戦を控えているので、自民党内から「自らの当選が危うくなる」として、リーダーの交代を求める動きが出てくることが予想される。

これから半年の政局の読み方は、◆菅政権はトリプル補選などが不振に終わっても、直ちに政権が揺らぐ可能性は低い。党内では”コロナ禍の難局、火中の栗を拾う動きは出ない。9月まで菅さんにやってもらおう”との見方が根強い。

◆秋が近づいた段階でも内閣支持率が低迷する場合は、”選挙の顔”を代える動きが一気に噴き出す可能性がある。◆政局が大きく動くのは、自民党総裁選が近づいた段階ではないかというのが、今の時点の結論だ。

なお、政界の一部には、5月解散・6月選挙説、あるいは7月都議選との同時選挙説がメディアで盛んに報道されている。この五輪前の解散・総選挙説があるのかどうかを最後に見ておきたい。

 五輪前の解散・総選挙説は?

結論を先に言えば、確率としては極めて低いとみる。理由は、6月選挙、7月初め選挙となると、先に見たようにワクチンの高齢者接種が本格化している時期だ。その時期の解散・総選挙は「政権の自己都合優先」と世論の猛烈な批判を巻き起こし、政権与党惨敗の可能性もあるのではないか。

また、選挙の実務面でも全国の市区町村の負担はたいへんだ。ワクチン接種会場と投票所が重なったり、選挙管理の要員のやりくりなどに忙殺されるだろう。

さらに選挙への影響としては、与党の公明党は都議選を重視しており、選挙の時期が接近すると自民党との選挙協力がうまく機能しないことになる。接戦選挙区の自民党候補は、落選が相次ぐといった事態も予想される。

”選挙大好き人間”と言われる菅首相は、こうした事情は百も承知で、五輪前の解散・総選挙は選択しないとみる。任期満了か、それに近い時期の解散・総選挙を選択するのではないか。

以上、みてきたように、これからの政治は、ワクチン接種を含めたコロナ状況で大きく変わる。従来の伝統的な政局の見方・読み方と大きく異なる点だ。

同時に、この半年余りの間に衆院選挙が確実に行われる。「コロナ激変時代の選挙」の備えが重要だ。自らと家族の生活、将来の経済・社会づくりをどのような勢力、リーダーにゆだねるのか。今から政治の動きをじっくり注視、選挙に備えていただきたい。

”後手と迷走”脱却できるか?菅政権

東京など1都3県に出されていた緊急事態宣言が、21日解除された。これによって、年明け1月7日に決定された緊急事態宣言は、2か月半ぶりに全面的に解除された。

政府は引き続き、国民に感染対策の徹底を求めるとともに、無症状の感染者を洗い出すため、繁華街などで無料のPCR検査を行うなどして、感染のリバウンド・再拡大防止に全力を挙げることにしている。

こうした対策で本当に感染を抑え込めるのかどうか、菅政権の対応に焦点を当てて、何が問われているのか考えてみたい。

  後手と迷走  政権のコロナ対応

去年4月に出された最初の緊急事態宣言に続いて2回目となった今回の緊急事態宣言を振り返って見ると、菅政権の対応は”後手と迷走”の連続だった。

菅首相は年末、緊急事態宣言を出す必要はないと明言していたが、年末から年始にかけて新規感染者が急増、1月7日に1都3県の宣言発出に追い込まれた。続いて、1週間後の13日に大阪、愛知など7府県に拡大、さらに2月入って1か月延長を決定。その後、大阪など6府県が解除されたが、1都3県は2週間の再延長、ようやく今回、解除となった。

この間、コロナ対策の特別措置法の改正が実現した。行政罰の導入などを盛り込んだ法改正だが、本来、去年の第1波、第2波が収まった後、直ちに改正すべきだったとの指摘は与野党双方から聞かれた。このように菅政権の対応は、後手と迷走が続いた。

 政権の司令塔機能の立て直し

菅首相は、緊急事態宣言の解除に合わせて、5つの柱からなる総合対策を打ち出した。飲食店の感染防止、変異ウイルス対策、ワクチン接種の推進、医療提供体制の充実などだ。

こうした対策はいずれも必要だが、菅政権の問題点は対策を打ち出しても、どこまで改善が進んでいるのか、停滞しているのか、実態がよくわからないことが多い。総理官邸が中心になって、対策を打ち出すだけでなく、進捗状況を点検し、目詰まりがあれば調整・是正していく「政権の司令塔機能」が弱い。

例えば、今回の対策でも打ち出された高齢者施設のPCR検査の拡充、無症状の感染者を洗い出すため繁華街などでの大規模なPCR検査、病症確保のための病院間の調整などはいずれも去年の段階から、必要性が指摘されてきた内容ばかりだ。

菅首相は官房長官時代、危機対応に手腕を発揮してきたと評価されてきたが、自らの政権では、対策の目詰まりが目立つ。各省庁を動かし、自治体や医療機関などとの連携・調整していく機能を強化、そのための政権の体制の立て直しが必要だ。

 感染収束へ道筋の提示を

今回の総合対策に関連して、もう1つの注文は、こうした対策が進んだ場合、コロナ感染の収束の見通しはどうなるのか、道筋を示してもらいたい。国民にとって、”コロナ対応生活”は既に1年2か月、これからの生活はどうなるのか。事業者にとっては、今後の事業継続のためにも判断材料が欲しい。

一方、今月25日には、東京オリンピック・パラリンピック大会の聖火リレーが始まる予定だ。政府は、コロナ感染に対する安全対策を徹底させて開催する方針だが、世論調査によると国民の間では、開催に慎重・反対論も多い。それだけに大会の意義や安全対策を議論していく上でも感染収束の見通しなどが必要だ。

コロナ感染の収束には、ワクチン接種が決め手になる。政府のコロナ対策分科会の尾身会長は、先の参議院予算委員会で、正確な見通しは誰もできないと断った上で、次のような見通しを示している。

今の医療従事者に続いて、高齢者の接種が5月以降本格化し7月に終わると仮定するとその後、一般国民の接種が進む。その結果、今年暮れまでには、今よりも感染レベルが下がることが期待される。但し、12月頃もゼロにはならないので、収束は来年以降になるという見通しを示している。

こうした専門家の見通しなどを踏まえて、政府はどのような道筋を描くのか。正確な予測は困難だが、オリパラ大会前後の感染状況はどの程度を想定して準備を進めるか。社会・経済活動再開の条件や時期をどのように設定するのかといった見通しが欲しい。

アメリカのバイデン大統領は、7月4日の独立記念日までに生活の正常化に道筋をつける考えを表明した。菅首相も政権発足から半年が過ぎた。ワクチン接種を含めて感染収束への道筋や目標を示してもらいたい。

その上で、政権与党と野党が今後の感染対策の重点をどこに置くのか。また、社会・経済の立て直しをどのように進めていくのか、突っ込んだ議論をみせてもらいたい。

 

菅首相のラストチャンス ”宣言”解除

首都圏の1都3県に出されていた緊急事態宣言が21日に解除されることが、18日に決まった。これによって、1月8日に発出された緊急事態宣言は、およそ2か月半ぶりに全面的に解除されることになった。

しかし、国民の側には宣言解除による安堵感は少なく、これから本当に大丈夫なのか、不安感の方が強いのではないか。

一方、政権を担当する菅首相にとっても一息つくような状況にはなく、万一、感染拡大になれば政権維持は難しい。自民党総裁任期は半年後に迫っている。

それだけに今回の宣言解除は、今後の政権浮揚につなげられるかどうかの”ラストチャンス”と言えるのではないか。宣言解除の意味や政治への影響を考えてみる。

 ”1本足打法”の限界 宣言解除

今回の緊急事態宣言の解除について、菅首相は18日夜の記者会見で「1都3県の感染者数は、1月7日の4277人から、18日には725人まで8割以上減少した。飲食店の時間短縮を中心にピンポイントで行った対策は大きな成果を上げている」と胸を張った。

これに対して、医療の専門家などは「東京について、ステージ3、感染者数500人程度を目安にするのではなく、さらに減少させ100人程度をめざすべきだ」との声が強かった。東京の18日の感染者数は323人、この1週間の平均は前の週を上回る状態だ。

こうした感染者数の下げ止まりは、これまでの政府の対策、飲食店の時間短縮に絞った”1本足打法”の限界ではないか。政府関係者からも「今の対策を続けても効果は小さい」といった声も聞く。

一方、国民の側にも”自粛疲れ”、”緊急宣言疲れ”が見られる。こうした点を考えると、緊急事態宣言は多くの国民の協力で感染拡大に歯止めをかける効果を上げたのは事実だが、今の対策では限界もある。したがって、やむを得ない解除といった側面があるかもしれない。今回の評価は中々、難しい。

 総合対策、時期と責任を明確に

問題は、解除後の対策をどうするかだ。政府は、5つの柱からなる総合対策を決めた。主な柱は、飲食の感染防止、変異ウイルス対応、戦略的な検査の実施、安全・迅速なワクチン接種、それに医療提供体制の強化だ。

こうした対策は、いずれも必要な対策で、中身の評価はそれぞれの専門分野の担当者に任せたいが、個人的な受け止め方をいくつか触れておきたい。

1つは、対策の打ち出しが遅い。変異ウイルスとワクチン接種を除くと去年の第2波の後、指摘されてきた延長線上の政策だ。

第2に規模が小さい。例えば、変異ウイルス対策。陽性者の抽出、再検査する割合について、今の10%程度から40%程度に引き上げるとしているが、大幅に増やすべきではないか。専門家の中からも同様な指摘が聞かれる。

第3にカギとなる医療提供体制についても、コロナ病床、軽症者用のホテル、自宅療養などの役割分担を進めるとしているが、中々、進まない。どこに目詰まりの原因があるのか調べ、早急に手を打つ必要がある。実効体制がカギだ。

その上で、昨夜の菅首相の記者会見で気になったのは、こうした対策を実行することで、いつ頃を目標に感染の収束をめざすのか。できない場合は、どう責任を取るのか、記者団から質問が出されたのに答えなかったことだ。総合対策と銘打ちながら、時期と責任をはっきりさせないと迫力にかける。

 ワクチン成否 菅政権の命運左右

菅政権と今後の政治の動きを見ておきたい。菅首相にとっても緊急宣言解除後の総合対策が実行に移せるのかどうか正念場が続く。

仮に感染対策の効果が思うように上がらず、変異株による感染が拡大。あるいは、東京オリンピック・パラリンピックの開催ができないような事態になった場合は、首相・政権は”即アウト”となる公算が大きい。

それだけにコロナ対策、中でも決め手となるワクチン接種が、大きなカギを握っている。医療関係者への優先接種は順調に進んでおり、現在1日8万人ペースで進んでいる。来月12日からは高齢者への優先接種、そして6月までに少なくとも1億回分が確保できる見通しだという。

問題は、全国1700余りの市区町村での接種が順調に進むかどうか。また、国民の大半の接種を終えるまでには、かなりの時間がかかる。その間、感染拡大を抑えられるか、難しい対応が続く。

ワクチン接種がうまく行けば、菅政権の政権浮揚の大きな推進力になる。逆に接種計画に支障が出たりすれば、逆風になって跳ね返ってくる。つまり、ワクチン接種の成否は、菅政権の命運や、これからの政局を大きく左右することになる。

 菅首相続投か否か、ラストチャンス

今年の政治は、9月末が自民党総裁の任期切れ、10月21日が衆議院議員の任期満了日。政界関係者の間では、再び感染拡大となれば、菅首相の総裁再選・続投は難しくなる。ワクチン接種が順調に進んだ場合も、総裁選立候補のハードルを越える意味を持つが、勝てるかどうかはわからないという見方もささやかれている。

一方、自民党内の一部には、菅首相はワクチン接種が本格的に始まれば、7月の東京都議選に合わせて衆院解散・総選挙に打って出るのでないかとの見方もある。しかし、感染危機が収まらない中で、解散・総選挙に踏み切った場合、有権者から猛烈な反発が出てくることは、容易に想像できる。ワクチン接種が本格化し、軌道に乗るまでは、地方自治体にとって選挙どころではない。

菅首相も記者会見では「優先すべきはコロナの収束が、私の責務」と明言した。この発言は、国民の側からみると評価できる。与野党ともに衆院選は秋が基本、それまでは、コロナ対策に総力を挙げようというのが基本ではないか。

私たち国民の側もコロナ対策の取り組みを中心に、政権与党、野党側の対策・対応を見極めて、選挙で選択をする。そのための判断材料集めを始める時期ではないかと考える。

 

 

 

不祥事でも内閣支持率が上がる訳は?

東京など1都3県に出されているコロナ対策の緊急事態宣言は2週間の延長戦に入ったが、報道機関の3月の世論調査で菅内閣の支持率が上昇に転じた。

複数の知人から「コロナ対策で目立った成果がないのに、どうして内閣支持率は上がるのか」。「菅首相の長男が接待事件を起こし、役人が処分される不祥事が続いているのに内閣支持率が上がる理由は何か」。「長期政権で世の中は、倫理に不感症になってしまったのか」といった質問やご意見をいただいた。

そこで、今回は”不祥事でも内閣支持率が上がる訳はどうしてか”を取り上げる。なお、私は世論調査や統計学の専門家ではない。40年余り政治取材を続けているジャーナリストの分析・見方であることを最初にお断りしておきたい。

 ”支持が不支持を上回る” 3か月ぶり

読売新聞とNHKが8日にそれぞれ3月の世論調査結果を報道した。菅内閣の支持率は、◆読売新聞が「支持」が前月より9ポイント上昇して48%、「不支持」が2ポイント下がって42%。◆NHKは「支持」が2ポイント上がって40%、「不支持」が7ポイント下がり37%。いずれも支持が不支持を上回っており、去年12月以来3か月ぶりのことになる。

NHKの支持率は40%に対し、読売新聞の支持率は48%と高い。これは、読売新聞の調査は「重ね聞き」。つまり、支持か不支持かわかりにくい場合、重ねて聞く方式を採用しているため、支持率が高くなるとみられている。なお、データは、3月8日読売新聞朝刊、NHKNEWSWEBから引用している。

 支持率は「政府対応の評価」に比例

最初に菅内閣の支持率が上昇したのはなぜかという問題。結論を先に言えば、菅内閣の支持率は、コロナ対策の「政府対応の評価」に比例しており、この評価が改善しているからだということになる。

具体的にどういうことか。以下、NHKのデータで説明していきたい。「内閣支持率」と「政府対応の評価」は次のようになっている。

◆支持率 =9月62%→11月56%→12月42%→1月40%→2月38%→3月40%

◆対応評価=9月52%→11月60%→12月41%→1月38%→2月44%→3月48%

このように政府対応の評価が12月以降、大幅に下がると支持率も急落。2月以降、政府対応の指標が改善すると支持率も次第に上昇していることがわかる。

政府の対応策で具体的な成果が上がったというよりも、感染者数が減少し感染状況が落ち着いてきたことが、国民の安心感につながったという面が大きい。

また、ワクチンの医療従事者への先行接種が始まり、国民の間でも「接種したい」という希望者が67%へと増えていることも政府対応の評価につながったものとみられる。要は、政府対応の評価が改善してきたことが、内閣支持率の上昇につながった主要な要因とみることができる。

首相長男らの不祥事に厳しい視線

一方、菅首相の長男が勤める放送関連会社が、総務省の幹部を接待していた問題が明るみになるなど菅政権では、不祥事が相次いでいる。

このうち、総務審議官時代に1回7万円の高額接待を受けていた山田真貴子・内閣広報官が辞職した問題について「菅首相の説明は十分か」を質問で取り上げている。「十分だ」という答えはわずか15%、「不十分」が65%と圧倒的多数だ。

また、総務省や農林水産省の幹部職員が接待を受けていた問題で「行政はゆがめられたと思うか」については「ゆがめられたと思う」が56%、「思わない」の24%を大幅に上回っている。

世論は、菅首相の長男らによる高額接待と官僚の倫理違反、菅首相の説明責任を厳しい視線でみていることが読み取れる。

 世論の関心事項と調査のタイミング

それでは、なぜ、不祥事が相次ぐ中で、内閣支持率が上昇するのか。この理由を説明できる決定的な判断材料があるわけではないが、幾つかの要因が考えられる。

1つは世論の関心事項だ。菅内閣発足の際に「政権に最も期待すること」については、最も多かったのがコロナ対応がだった。また、毎月の世論調査でも「感染の不安」を感じる人の割合は80%と高い水準が続いている。世論の最優先の関心事項は、不祥事よりもコロナ対応だとみられる。

次に調査のタイミングの問題がある。今回の調査を実施した3月第1週は、期限が来る1都3県の緊急事態宣言の扱いと、総務省の接待問題が同時平行的に進んでいた。

ところが、宣言解除に強い意欲を示してきた菅首相が週の半ばに、宣言延長へと方針転換を記者団に表明し、大騒ぎになった。小池都知事の機先を制するねらいもあったと思われるが、政治決断を印象づけた。

そして週末に緊急事態宣言の延長を正式決定、メデイアは大きく取り上げた。世論の多数も延長支持が多かったように思われるが、世論の関心事項と調査のタイミングが相まって支持率上昇につながったとみている。

このほかの要因、例えば、コロナ感染拡大という危機の中での国民の意識。例えば、危機を乗り切るまで、国民の側は首相の交代や政治の大きな変動は避けようとするのではないかといった見方。

あるいは、自民党内に次の有力なリーダー候補が見当たらないこと。野党の政権交代も難しく、国民にとって別の選択肢がないことが、政権の維持を助けているといったことも考えられるが、今回どこまで影響を与えたかは不明である。

要は、これまでみてきたように感染の落ち着きに伴う政府対応の評価の改善が、主な要因で、それに加えて、世論の関心と調査のタイミングが重なった結果という見方をしている。

 支持率低下も、政権先行き不透明

そこで、菅内閣の支持率は今後どうなるのかという問題が残る。NHKの調査では支持と不支持の差は、わずか3%だ。「支持と不支持が拮抗」というのが実態ではないか。

その支持の内容も「自民支持層の内閣支持の比率」は60%台半ば、前の月とほぼ同じ水準。政権発足当初は85%あったのに比べると大幅に落ち込んだままだ。

今回、改善したのは、最も多い無党派層で支持の割合が20%台から6ポイント増えたためだが、無党派層なので支持離れに転じる可能性は大きい。支持基盤は、引き続き不安定な状態にあることに変わりはない。

菅政権にとって安定した政権運営を行うためには、最大の課題であるコロナ感染を抑え込めるかどうか、そのためには、決め手となるワクチン接種が順調に進むかどうかにかかっている。但し、高齢者の本格的な接種は当初の4月から、本格的な接種は、5月以降にずれ込む見通しだ。

一方、総務省の接待問題では、総務官僚No2の谷脇総務審議官がNTTからも高額な接待を受けていたことが確認され、更迭された。菅政権の看板政策である携帯電話料金政策などの推進役を失うことになった。

また、週刊文春が、新たに総務大臣を務めた野田聖子幹事長代行や、高市早苗元政調会長らが在任当時、NTTの社長らと会食していたなどと報じた。さらに、菅首相の長男が勤める「東北新社」が放送法の外資規制に違反していたにもかかわらず、衛星放送の事業認定が取り消されなかった問題も明らかになった。

自民党の閣僚経験者に政権への影響を聞くと「政府のコロナ対応や、不祥事に対する国民の不信感は強い。他に選択肢がないから”仕方なく支持”といった雰囲気を感じる」と警戒を強めている。

当面の政治は、2つのファクターがカギを握る。1つはワクチン接種を軸にしたコロナ対応が軌道に乗るか。もう1つが一連の不祥事乗り切りができるかどうか。菅内閣の支持率、政権のさき行きも不透明だ。

 

”土俵際の菅首相” 緊急宣言再延長

東京など1都3県に出されている緊急事態宣言について、政府は今月7日の期限を2週間延長し、今月21日までとする方針を決めた。これを受けて、菅首相が5日夜、記者会見をして、感染対策の徹底を呼びかけた。

政府は「この2週間が瀬戸際だ」と強調するが、菅首相の記者会見を聞いても、2週間に設定した理由をはじめ、達成目標、具体的な対応策もよくわからない。

一方で、目立った成果が上がらないと首相の実行力が改めて問われる。菅首相は、”土俵際”に追い詰められつつあるように見える。そこで、菅首相の記者会見の中身を点検してみたい。

 再延長の目標、具体策も見えず

菅首相の記者会見で聞きたかった点は、なぜ2週間の延長にしたのか。この期間で達成する目標と、そのためにどんな対応策を打ち出すのか。コロナ対策の今後の出口をどう考えているのかの3点だ。

まず、今回の延長について、菅首相は「1都3県については、ほとんどの指標が当初、目指していた基準を満たしているが、病床の使用率が高い地域があるなど依然、厳しさがみられる」とのべた。

その上で、「2週間は感染拡大を押さえ込むと同時に、状況をさらに慎重に見極めるために必要な期間だ。こうした点を総合的に考慮し判断した」と説明したが、2週間に設定した根拠・理由には言及しなかった。

次にこの期間で達成する目標や宣言解除については「目標としては、ステージ3の段階で、病床使用率が50%未満。病床使用率引き下げの努力をしっかりと行い、体制をつくることが、この2週間でやるべきことだ」とのべ、従来の目標を重ねて強調した。

今後の対策については、「飲食店の時間短縮、不要不急の外出の自粛やテレワークを徹底していく。さらに高齢者施設などでの感染を早期に発見するため、3万の施設で検査を行う。また、市中感染を探知するため、無症状者のモニタリング検査を行う」という考えを示した。

このように政府の対策は、高齢者施設の検査体制強化も従来の対策の延長で、新たに踏み込んだ内容は打ち出していない。専門家や自治体関係者からは「新たな対応策がないまま、病床の使用率の低下を目標に掲げ、短期間に実現できるかどうかは疑問だ」という見方も聞かれる。

 菅首相と小池知事の駆け引き

今回の宣言再延長では、菅首相と小池・東京都知事の駆け引きが大きく影響したとの見方が政界関係者の間では強い。

菅首相は、今月3日、記者団の”ぶら下がり取材”に応じ「緊急事態宣言の2週間程度の延長が必要ではないか」とぶち上げた。それまで菅首相は、7日で宣言を解除し、経済活動の再開に道筋をつけたい考えを示していた。その方針を大きく転換した。

こうした背景には、小池都知事が、千葉、神奈川、埼玉の3県知事と「再延長を政府に要請しよう」という動きが伝えられていた。政府は1月に宣言を発令する直前に、小池知事をはじめとする4県知事から発令要請を突きつけられた形になり、後手に回ったと批判を浴びた。今回は、そうした小池知事の機先を制するねらいがあったとみられている。

今回、菅首相は”小池劇場”を回避することはできたが、小池知事に振り回されている状況には変わりがないようにもみえる。感染状況や病床確保などの改善ができなかった場合、菅首相と小池知事との間で確執が再燃する可能性もある。

今回の緊急事態宣言は、年明けの1月7日に方針決定。菅首相は「1か月で必ず改善させる」と宣言。2月に1か月の延長を決定し「1か月で全ての都道府県で解除できるよう対策の徹底を図っていく」と表明。今回の再延長は、去年4月の最初の宣言以来初めてだ。次第に「土俵際」に追い詰められているように見える。

 コロナ出口戦略 不祥事対応も

菅政権にとっては、コロナ対策の出口戦略を示すことができるかどうかも大きな課題だ。今後、コロナ感染をどのように抑制し、社会・経済活動を本格的に再開していくのか。東京オリンピック・パラリンピックの開催問題も含まれる。

この出口戦略について、菅首相は5日の記者会見では踏み込んだ発言は避けた。しかし、今月25日には、東京オリ・パラの聖火リレーがスタートする予定だ。菅首相は五輪開催の方針だが、そのためには今後の感染防止対策や、ワクチン接種の進め方を含めた出口戦略を打ち出す必要がある。

一方、記者会見では、菅首相の長男が勤める放送関連会社が総務省幹部を接待していた問題や、新たに情報通信大手のNTTも総務省幹部を接待していた問題について、複数の記者から質問が出され、この問題に対する関心の強さを印象づけた。

菅首相は「接待でいろんな問題が出ているが、国家公務員に倫理法をしっかりまもってもらうことは当然だ。その中で、もう一度、私自身が、関係大臣や倫理監督官を通じて、徹底するようにしていきたい」と防戦に追われた。

コロナ対策では、国民の協力がなければ感染収束は一歩も進まない。一方で、政権の側が、中央省庁の官僚が高額な接待を受けていた問題を曖昧なままにしていれば、国民の反発を買いコロナ対策に跳ね返る。一連の不祥事に早期にケジメをつけられるか。不祥事対応の面でも、菅首相は土俵際に立たされている。