総務省の幹部と放送関連会社に勤める菅首相の長男らとの会食をめぐり、総務省は、幹部職員ら13人が延べ39回にわたり接待を受けていたとする調査結果を発表した。
総務省は、このうちの11人が国家公務員倫理法に基づく倫理規程に違反するとして、24日にも処分する方針だ。
一方、こうした接待で放送行政が歪められることはなかったのか。総務省幹部はなぜ、繰り返し接待に応じたかなどの背景も明らかになっていない。
菅首相は長男が関係している問題であり、政治・行政に疑念を生じさせないためにも自らの政治責任を認め、事実関係などの再調査を行う必要がある。
驚く、課長から審議官まで接待づけ
菅首相の長男が勤める放送関連会社「東北新社」が行っていた接待は、当初、総務省幹部4人が対象とみられていたが、その後の調査で13人までに広がった。
新たに判明したのは課長級が中心で、衛星放送の担当や放送政策担当の課長など8人。他に山田真紀子内閣広報官も総務審議官当時、会食していた。課長クラスから局長、次官級審議官まで放送通信行政に関係する幅広い幹部が接待を受けていたことに驚かされる。接待づけと言っていいような実態が浮き彫りになった。
こうした幹部は、総務省の調査に対して「放送業界全体の実情の話はあったかもしれないが、行政を歪めるような話はなかった」と説明したという。
国会での質疑でも、こうした幹部は「一般的な会合で、衛星放送など個別具体的な問題は話題にならなかった」と否定していた。しかし、「文春オンライン」の音声データをつきつけられて、ようやく話題になったことは認めた。
但し、本当に放送行政を歪めたり、首相の長男が勤める会社を優遇したりすることはなかったのか、総務省の調査や国会の質疑でも肝心な点は明らかになっていない。
首相の政治責任 再調査の指示を
菅首相は22日の衆議院予算委員会で「私の長男が関係して、結果として、公務員が倫理法に違反する行為をすることになって心からおわびする」と陳謝した。
だが、今後どのように対処していくのか明らかにしていない。野党の追及に対しては「長男とは別人格。就職の面倒はみていないし、仕事の話もしていない」と突っぱね、総務省の調査に任せる姿勢に終始した。
首相の対応をどうみるか。”長男とは別人格”は形式的にはその通りだが、実態的に首相の関わりは大きい。長男は、25歳の時に菅氏の総務大臣秘書官に抜擢された。その後、菅氏と同郷の創業者の「東北新社」に入社、子会社の衛星放送会社の役員も務めている。今回、接待を受けた総務省幹部の中には、総務大臣秘書官当時、知り合った人もいる。
菅氏は、総務省に隠然たる力を持っていると政界や霞が関でみられている。加えて、長年官房長官を務め霞が関人事を掌握、首相にまで上り詰めた。総務省の官僚からすれば「その首相の長男から誘いの宴席は断りづらい」と受け止めるのは容易に想像がつく。
首相の子息や身内が、行政に影響を与え問題を複雑化するのは、安倍政権での昭恵夫人の例はあったが、それまでの歴代政権でほとんどなかった。それだけに菅首相の政治責任は重いのである。
菅首相は身内の長男が絡む問題であり、官僚に倫理違反行為を取らせた責任を率直に認めた上で、官僚が繰り返し接待に応じた背景や行政に影響がなかったのかどうか、再調査を指示することなどが必要ではないか。その再調査も役所の調査では限界があるので、第3者の調査が望ましいと考える。
政治の責任を明確に 具体策は?
国家公務員倫理法と倫理規程は、98年の旧大蔵省接待汚職事件がきっかけになって制定された。その後、倫理規程違反の事案は散発的に起きたが、今回のように課長から局長、次官級審議官まで幹部総ぐるみで違反対象になる事態は初めてだ。
総務省は24日に倫理規定違反の幹部職員を処分するが、官僚に責任を取らせるだけでは、トカゲの尻尾切りと批判を浴びるだろう。大蔵省接待汚職事件の際も官僚だけでなく、三塚蔵相は引責辞任した。
今回の問題の核心は菅首相の長男にあり、その背後にいる菅首相も影響を及ぼしている。総務省は、会食の相手先が利害関係者にあたるかどうかを確認する仕組みを導入するなどの再発防止策を検討しているようだが、技術的で小手先の対応と言わざるをえない。
菅首相としては、問題の核心である政治の責任をどう取るのか。総務相の監督責任、接待事件の調査のあり方などを含めて、信頼回復のための具体的な対応策を打ち出す必要がある。
また、菅政権の最優先課題はコロナ対策であり、感染の押さえ込みをはじめ、東京オリンピック・パラリンピックの開催問題、ワクチンの大規模接種など国民の理解と協力を求める場面が数多く予想される。国民から疑念を持たれるような対応を取れば、菅政権の政権運営にも影響が出てくるのではないか。