最長政権と健康不安説のゆくえ

安倍首相の連続在職期間が8月24日で2799日を迎え、佐藤栄作元首相を抜いて、歴代最長を記録した。

同じ24日、安倍首相は17日に続いて、都内の慶応大学病院を訪れ、追加の健康検診を受けた。政界では、持病が悪化しているのではないかとの健康不安説が一気に広がり、一部には退陣説も取り沙汰される状況だ。

7年8か月に及ぶ長期政権と首相の健康不安説、それに難問のコロナ感染拡大という危機を抱えて、これからの政権・政治はどう動くのか。どこがポイントになるのか探ってみたい。

 “早期の劇的政変なし”の公算

安倍首相は24日午前、慶応大学病院を訪れた後、総理大臣官邸に入る前、記者団のぶら下がり取材に応じた。「きょうは先週の検査結果を詳しく伺い、追加的な検査を行った。健康管理に万全を期して、これから仕事を頑張りたい」。

検査結果の詳細は明らかにしなかったが、これによって、一部で取り沙汰されていたような早期の辞職・退陣などは全く考えていないことを表明。このため、早期の劇的な政変の可能性は低いとみられる。

 今後の政局展開、3つのケース

それでは、安倍政権のゆくえ、どんな展開になるのか。3つのケースを頭に入れておくとわかりやすい。

◆1つは、先に触れた「早期退陣」のケース。但し、この可能性は低いとみる。

◆2つ目は、「来年9月の自民党総裁任期満了まで」のケース。安倍首相はこれまで総裁任期一杯、全力投球する考えを強調してきた。

◆3つ目が、この中間で「今年秋以降、来年前半頃までの退陣」。健康問題の他、内外の政治課題の対応によっては、政権が行き詰まり途中退陣もありうる。

具体的には、◇健康問題で気力・体力が持つかどうか。あるいは◇東京五輪・パラリンピックの来年開催ができないような場合は、その政治責任を取る形で退陣もありうるとの見方も出ている。

 支持率低下 後継選び”カオス状態”

今の安倍政権を見ていると歴代最長政権だが、コロナ感染拡大の直撃を受けて、内閣支持率は34%と第2次政権発足以来、最低水準まで下落。不支持は47%で、不支持が支持を上回る「逆転状態」が4か月連続と危機的な状況に陥っている。(データはNHK世論調査)

自民党の閣僚経験者に聞くと懸念しているのは、安倍首相の自民党総裁任期と、衆議院議員の任期満了が1年余りに迫っているのに、根本問題である「ポスト安倍の後継総裁選び」や「衆院解散・総選挙の時期」が固まらないことだという。

そのポスト安倍の後継選びについては、自民党内では有力候補として、石破元幹事長、岸田政調会長に加えて、菅官房長官の名前も急浮上。さらに安倍首相の出身派閥やその他の派閥からも意欲的な候補者が取り沙汰され、カオス・混沌状態になっている。

これに加えて「安倍首相の健康問題」が重なる。以前は、政権が危機的な場合、派閥の領袖や党役員の実力者が水面下で、事態打開に動いて収拾を図る局面が見られた。今の安倍政権ではそのような調整役は見当たらないのが、逆に大きな問題点だと指摘する声も聞かれる。

 安倍首相 国民に所信表明を

さて、私たち国民はどう考えるか。国民の多くは、政権・政治に期待する最大の問題は、コロナウイルス感染拡大に歯止めをかけるとともに、年末に向けて雇用や事業倒産などへの備えを急いでもらいたいということではないか。また、アメリカ大統領選挙や米中対立の激化など外交面の課題も待ったなしだ。

そうした点を考えると、まずは、政権を担当している安倍首相が当面の諸問題について、早急に所信を表明してはどうか。国民も心配をしている健康問題をはじめ、コロナ対策、今後の政権運営などについての考えを明らかにするところから始めてもらいたいと考える。

「合流新党」をどう見るか?野党第1党の役割

国民民主党が19日、党を解党した上で立憲民主党との合流新党を結成する方針を決めた。これによって、衆参両院で150人前後の「合流新党」が来月結成される見通しだ。

新党の評価は、立ち場によって大きく異なるが、ここでは選ぶ側・有権者側からどう見たらいいのか考えてみたい。

最初に私の基本的な立ち場を説明させてもらうと政治が機能するためには、政権与党とともに「しっかりした野党」が必要だと考える。

また、特にコロナ激変時代は「政権与党と野党側との緊張感のある議論と競い合い」の中から、日本の進路を見いだしていく粘り強い作業が必要だと考える。

 合流新党の意味「100人の壁」突破

その上で、新党合流をどうみるか。新党の規模から見ておくと、国民新党からの合流組と残留組との調整が続いているため、最終的に固まっていないが、合流組が勢いがあり、多数を占める見通しだ。

また、野田元首相や岡田元副総理ら衆議院の無所属議員およそ20人も参加するので、新党の規模は無所属議員を含めて衆参両院で150人前後になると見られている。これは4年前に結成された「民進党」、民主党の流れを汲む政党の規模に匹敵する。

つまり、政権から下野した後、バラバラになった旧民主党勢力を再結集する形になる。また、政権への再挑戦という観点では、衆院選挙に向けて100人台の勢力を結集、「100人の壁」を突破するという意味を持っている。民主党が政権を獲得した2009年衆院選での公示前勢力は115議席。自民党が政権復帰を果たした2018年の勢力も118議席だった。

このため、合流新党の評価としては、巨大与党の自民・公明両党に対して、100人台の野党第1党が誕生、基盤整備にこぎつけたという意味が大きいと言える。

 国民の期待感は乏しいのでは?

一方、合流新党の課題・問題としては、有権者・選ぶ側の期待感が乏しいという点にあるのではないかと見ている。

今回の立憲民主党と国民民主党との合流は、さかのぼると去年秋の臨時国会で両党を中心にした国会内の統一会派結成から進められてきた。ところが、去年暮れ、両党代表のトップ会談を繰り返したが合意に至らず、破談。この夏、再び復縁協議に入り、ようやく分党の形にすることで、なんとか合流にこぎつけた。

国民の側からすれば、新党の理念や政策などに触れる機会はほとんどなく、端的に言えば、「政党レベルの業界内再編」と受け止められているのではないか。

4年前・2016年3月、当時の民主党と維新の党が合流して結成された「民進党」の評価が参考になる。NHK世論調査では、◆「期待する」25%、◆「期待しない」70%。保守層も含むので、高い水準は予想されないが、それでも本来は、支持を得る必要がある無党派層でも「評価しない」は72%、ほぼ同じ比率だった。今回もおそらく、同様の傾向になるのではないかと見ている。

 何を目指す政党か? 新党の旗は

さて、今回の合流新党に関連して、知人から、野党の復活は可能か。国民の支持を得られる新党の必要条件は何かといった質問を受けた。

新党と世論の関係は、古くから共通の流れがあり、最大勢力の無党派層の反応は「魅力ある新党ができれば、支持する」との答えが多い。今も無党派層が多いということは、魅力ある新党ができていないとも言える。

立憲民主党、国民民主党の政党支持率を8月の世論調査で見ると次のようになっている。◆立憲民主党4.2%。◆国民民主党0.7%。最も支持が高かった時の支持率は立憲民主党が10.2%。国民民主党が1.5%。両党とも半分以上、支持率を減らしている。また、◆自民党の35.5%、◆無党派層の43.3%に比べると大幅に低い。(データは、NHK世論調査)

両党とも結党時に比べて、明らかに魅力度は低下している。合流をめぐって、両党は角突き合わせるよりも、魅力度を高めるにはどうするかという発想が必要。また、小異にこだわらず、合意を拡大する対応ができれば道は開けたと思うが、当事者に聞くと、どうしても過去の経緯や怨念などは拭いがたいものがあるという。

結論を急げば、合流新党に必要な条件は「何をめざす新党か」、政党の旗印を打ち出すことではないか。その中には、政党の理念や、政治路線、主要政策、リーダーの魅力なども含む。ところが、今回の合流では、こうした点の議論やアピールは決定的に不足しており、今後の大きな課題・問題として残されている。

 難しい新党の評価、最後は選挙!

ここで話が少し脱線するが、新党の評価、実は「難しい」と感じることが多い。というのは、新党が結成されても長続きしないケースが多かったからだ。新党が政治の表舞台に盛んに登場するようになったのは、1993年に自民党が分裂、自民1党優位時代が崩れ、細川連立政権が誕生した頃からだ。

その後、巨大野党・新進党の結成と解党、民主党への合流から政権交代実現まで新党の結成、離合集散が相次いだ。およそ30の新党が誕生しては消滅した。現役の解説委員時代、”きょうは〇〇党、あすは△△党の解党大会。来週は新党の結成大会”といった日々が続いたことを思い出す。

さらに数年前には、結成時に人気急上昇、直後の選挙は大敗となった新党もあった。解説、講演などでも取り上げたが、振り返ってみると、的確な評価ができていなかったと反省するケースも多かった。

新党の評価は、最終的には、選挙で有権者からどのような評価を受けるか。「選挙で最終的に決まる」。逆に言えば、選挙結果が出るまで、じっくり見極める必要があるというのが結論だ。

 合流新党、選挙の備えと結集力

本論に戻って、野党第1党の合流新党は、どんな役割が問われているのか。これまで見てきたように「何をする新党かの旗印」を明確にすることがある。

それに加えて、野党第1党として「野党全体をとりまとめる力」が問われる。安倍政権は国政選挙で連戦連勝、6連勝中だ。不意打ちのような衆院解散があったのも事実だが、政治の世界、野党側に選挙準備ができていないのも問題とも言える。特に衆議院の小選挙区では、事前に選挙の勝敗予測、選挙結果が予測できるところが多く、野党の選挙準備不足、その責任は大きいと考える。

任期満了まで1年2か月に迫った次の衆議院選挙に、与野党はどのように臨むのか。巨大与党の自民、公明両党の対応は現職議員が多数を占めているので、わかりやすい。

これに対して、野党陣営は見通せないところも多い。例えば、合流新党と、玉木氏らが結成する新党との関係はどうなるのか。

両党の関係が順調なケース。逆に対立が深まり、玉木氏らの新党と維新の会の連携、あるいは、れいわ新選組と組むことも予想される。新勢力の登場で野党陣営が分裂、共倒れ。政治用語で「スポイラー・エフェクト」、いわゆる”票割れ効果”といった事態も起こりうる。

このため、野党第1党は、自らの党の勢力だけでなく、今の選挙制度の下では、野党全体の連携・結集、候補者擁立の調整を行える力があるかどうか。具体的には、立憲民主党の枝野代表の力量、柔軟性、他党を包み込む度量が問われるのではないか。合流新党と他の野党との関係を見極めていく必要がある。

次の衆議院選挙は、コロナ激変時代の最初の国政選挙になる。政権与党と野党側の双方とも、これからの国民生活のあり方や日本社会の将来目標を打ち出して、有権者が選択する選挙にしていくことができるかどうか、大きな責任を負っている。

手詰まり 安倍政権のコロナ対策

お盆休みの期間に入ったが、新型コロナウイルスの感染拡大が収まらない。7日の全国の感染者数は1600人を超え、過去最多を更新している。感染急増の地方では危機感を強め、愛知、岐阜、三重、沖縄の各県などでは独自の緊急事態や警戒宣言を出すなどの対応に追われている。

政府の分科会は7日、感染状況を判断するため、新たに6つの指標を示した。医療のひっ迫状況などの具体的な指標を示すことで、国や都道府県に感染の深刻度を判断する目安にしてもらうのがねらいだ。

そこで、この指標を活用してどのような対策が打ち出されるのかだが、政府は指標に縛られて、再び緊急事態宣言を出すような事態は避けたいのが本音だ。それでは、政府の感染防止対策は順調に進んでいるかといえば、そのようには見えない。

今の安倍政権の対応を見ていると感染拡大を前に”打つ手なし、思考停止、手詰まり状態”に陥っているようにみえる。安倍政権のコロナ対策はどこに問題があり、どんな対策が必要なのか探ってみる。

 安倍政権 実態把握に弱点

安倍政権のコロナ対策をみていると問題点の1つは「実態把握に弱点」があることだ。

具体的な例を挙げると「感染者情報の収集・分析」。全国の感染者数をはじめ、PCR検査の実施件数、陽性者の割合、入退院者、死亡者などの情報を正確に収集・把握できなければ、効果的な対策は打てない。

東京をはじめ全国各地の感染者数が毎日発表されるが、日によって大きな違いがある。これは、なぜか。PCR検査で陽性とされた人の情報は、保健所に集められ、都道府県、厚生労働省へ報告・集計される。このうち、PCR検査の結果判明には数日かかる。加えて、報告はFAXや電話などを使ったアナログ対応だ。報告漏れや重複計上などミスも多い。東京都の場合、これまで123人分を訂正しているという。はっきり言えば、これまでのデータは必ずしも正確ではないということだ。

このため、厚生労働省は感染者の情報を一元的に管理するシステムづくりを始め、ようやく8月に入って運用を開始した。「ハーシス・HER-SYS」という新しいシステムで、厚生労働省と、保健所が設置されている全国155の自治体や医療機関などをインターネットで結び、感染者情報を共有する仕組みだ。

多忙な保健所のデータの入力体制や個人情報の取り扱いなどの問題を抱えているが、ともかく、ようやく基本情報の収集体制は整ったことになる。

国内で最初の感染者が確認されたのが1月16日。政府の対策本部の設置が1月30日、基本情報の収集体制づくりに半年もかかったことになる。政府は骨太方針に「デジタル社会の加速」を打ち出したが、足下では情報の収集態勢すらできていないのが実状だ。コロナ情報の収集・管理システムの整備を急ぐ必要がある。

 PCR検査 目標設定し加速を

次に、各地の知事や市長などの話を聞くと、困っているのが、PCR検査の問題だ。当初、日本は医療従事者や試薬などの準備が十分でなかったこともあり、PCR検査の対象を絞ってきた。しかし、その後、感染者数が急増しているのに、検査の拡充が遅れ、検査能力に比べて実際の検査件数が増えないと批判は強い。

これに対して、厚生労働省は7日、PCR検査能力は1日あたり5万200件まで可能になったと説明。4月時点では1万件、5月2万200件、7月3万1000件だったので、かなり改善されている。9月末までには、最大7万2000件余りを確保できるという見通しだという。

知事や有識者の側は、こうした取り組みは評価しながらも、自粛や休業要請の繰り返しや国民の不安が強く残ったままでは、経済の本格的な回復は見込めないとして、政府は「積極的な感染防止戦略」を明確に打ち出すように求めている。

具体的には、PCR検査は「9月末までに1日10万件」、インフルエンザの流行にも備えるため「11月末までに20万件」の検査能力を確保することなどを求めている。政府は検査能力の整備も進んでいるので、こうした数値目標を採用してはどうか。その際、簡便な抗原検査などを含めて検査体制の拡充計画を示してもらいたい。

 対策の全体像と工程表、説明が必要

政府のコロナ対応をみていると、7月末から感染者が全国で1000人を突破するようになり、地方の側は危機感を募らせ、独自の緊急事態宣言や警戒宣言などを出しているのに対して、政府側の取り組みは極めて鈍い。

菅官房長官や西村担当相も連日、記者会見を行っているが、「感染防止と経済活動の両立をめざす」「Go Toトラベルは予定通り」「緊急事態宣言を再び出す状況にはない」などと規定方針の繰り返しが続く。

国民の側が知りたいのは、感染防止と経済活動の両立を目指す方針は理解するが、それなら、感染防止と経済活動再開に向けて具体的に何をするのか、それぞれ「対策の中身と全体像」を明らかにして欲しいということだ。

また、冬場のインフルエンザの流行期まで残された時間はあまりない。PCR検査の拡充をどのようなペースで進めるのか。医療提供機関の準備や経営悪化にどう対応するのか。中小事業者の事業継続や、休業中の労働者の雇用対策をどのように進めるのか。時期のメドと合わせた「工程表」の形で打ち出すべきではないか。

さらに、安倍政権の対応、国民への説明が極めて不十分だ。安倍首相がまとまった記者会見を行ったのは6月18日、それ以降は行っていない。8月6日、広島原爆の日に現地で記者会見を行ったが、15分という限られた会見だった。

国会は既に6月から夏休み状態、霞が関もお盆休みに入る。野党は臨時国会を早期に召集するよう求めているが、与党側は10月まで応じない構えだ。

国民の側は、お盆の帰省や旅行を取り止めたり、子どもの短い夏休みが終わった後の新学期の準備などにも思いをめぐらせている。

新型コロナウイルスの感染状況や医療・検査現場の態勢も日々変化している。安倍政権はこの夏以降、コロナ危機をどのように乗り切る考えなのか。できるだけ早く国民に向けた記者会見を行い、対策を明らかにする責任があると考える。

“コロナ危機音痴” 秋の解散・総選挙説

若い現役記者時代、「あの政治家は政策通だが、”政局音痴”だ」とか、「博学、無能な人」など失礼な政治談義を同僚と交わしていた時期があった。

当時は”切った張ったの権力抗争”に関心が集中し、内外の情勢や国民生活の動向に思いが至らず、ついつい”鈍感な思考”に陥っていたことに後に気づかされた。

政界では秋の解散説、具体的には9月解散・10月下旬選挙説が盛んに流されている。

新型コロナ感染拡大が続く中で、秋の解散をどう見るか。端的に言えば、感染危機への”音痴”、鈍感な政局観というのが、私個人の率直な見方だ。その理由、背景を以下、ご説明したい。

 秋の早期解散説、消去法の発想

秋の衆院解散・総選挙説は、安倍首相が9月に内閣改造・自民党役員人事を行った後、衆院を解散、10月総選挙を断行するのではないかとの見方だ。

幾つかのねらいがあるが、一番の根拠は、今後の政治日程を考えるとこの時期しかないという「消去法」に基づく。つまり、今の衆議院議員は来年10月に任期満了だが、与党は追い込まれ解散を避けたい。来年に持ち越すと7月に東京都議会議員の任期が満了になり、公明党が嫌がる。だから、今年の秋解散しかない。

別の思惑を指摘する声もある。「自民党総裁選びを有利に運びたい思惑」。関係者によると今の情勢のままだと次の総裁は、安倍首相と麻生総理が最も嫌がる候補者が勝利する可能性がある。それを阻止するためには、早期解散を断行、後継選びの主導権を確保したいとの説も聞こえてくる。

さらに今の野党が相手なら、議席をかなり減らしても与党過半数は維持できるとの判断。政権交代の恐れはまったく眼中にない。

 コロナ戦略、五輪対応が欠落

では、こうした早期の解散説をどう見るか。今は、コロナ感染症の拡大が続く危機の時代、世界も日本もどのように感染拡大を防ぐか。また、コロナ対応に伴う大変革を迫られる時代だ。

秋の解散・総選挙説の一番の問題は、こうした「コロナ危機への対応・戦略」の視点が欠落している点だ。むしろ、冬場のコロナ感染が深刻化する前に解散した方が有利といった「党利党略」、現職議員の「個利個略」が透けて見えるから嘆かわしい。

また、延期された「東京五輪・パラリンピックの開催」への視点もみられない。世界の感染状況が最終的なカギを握るが、それ以前に日本国内の感染を収束させておく必要がある。

そして来年の開催は本当に可能か。IOCなどの調整が、秋以降に本格化する。その時期に1か月程度の政治空白が生じるが、その点の考慮はみられない。

さらに、安倍首相は解散断行の意思を固めたのか、その前提として来年秋の総裁4選、続投の意思を固めたのか、確認したのとの情報は聞かれない。

政界では、早期解散論は根強いが、根本問題である「コロナ危機」と「東京五輪」への対応、ハードルを乗り越えていく戦略・発想がない。

こうした中で、7月29日には全国の1日あたりの新たな感染者数が、初めて1000人を超えた。唯一感染者ゼロが続いていた岩手県でも感染者が確認された。

仮に衆議院が解散された後、感染の第2波、第3波が広がれば選挙を直撃、劇的な結果を招く可能性もある。このため、現実論者の安倍首相は、早期解散に踏み切る確率は低いのではないかと個人的にはみている。

 コロナ大変革時代、構想と政策を

それでは、国民の側は、衆議院の解散・総選挙をいつ行うべきだと考えているのだろうか。今の衆議院議員の任期は来年10月までなので、向こう1年3か月以内には確実に衆議院選挙が行われる。

NHKの7月の世論調査では、◆年内が19%、◆来年前半が18%、◆来年10月の任期満了かそれに近い時期が50%となっている。

このデータから読み取れることは、早期解散・年内選挙を望む意見は2割にも達していないこと。多くの国民は、来年の任期満了かそれに近い時期に行うべきだと考えていることがわかる。

こうした背景としては、政権与党、野党双方に対して、最大の関心事である新型コロナ感染対策と、国民生活・日本経済をどのように立て直していくのか、政権構想と具体的な政策をとりまとめ、その上で、解散・総選挙を行うべきだと考えていることがうかがえる。

例えば、全国の感染者の情報、具体的には、PCR検査、陽性者の比率、入院状況などの正確な情報を一元的に管理できる仕組みは未だにできあがっていない。厚生労働省が自治体、保健所、病院などを結んでネットで集計するシステムの整備を進めているが、本格的な運用に至っていない。

特別措置法に基づく国と地方自治体の役割と権限の分担、さらに保健所や地域医療の体制整備も遅れている。

また、年末に向けて中小企業や個人事業主などの経営悪化や倒産、失業者の増加、生活保護世帯の大幅増加などが懸念されている。

さらに感染防止と経済活動再開のバランス、今後の日本社会・経済の立て直しに向けた中長期的な構想も示されていない。先に政府がまとめた骨太方針でも新味のある政策はほとんど盛り込まれていない。

こうした現状を考えると、国民にとっては、秋の早期解散は何の意義もない。政権与党、野党とも、ここは腰を落ち着けて、コロナ大激変時代をどのように乗り切っていくのか、それぞれの政権構想、政策の中身を磨き、国民に信を問うことを考えるのが政治の王道だと思う。

万一、早期解散、党利党略の解散・総選挙になった場合は、有権者が主役、「鉄槌」を下せるチャンスととらえ、判断すればいいと考える。

 

 

迷走再び 安倍政権のコロナ対応

来年に延期された東京五輪の開幕まで1年を切った。一方、安倍首相の自民党総裁としての任期や、今の衆院議員の任期満了も来年秋までと近づきつつある。

しかし、東京五輪は本当に開催できるのか。衆院解散・総選挙の時期はどうなるのか。主要な政治日程がまったく見通せない。新型コロナ感染がいつ収束できるのか見通しがつかないからだ。

そのコロナ問題、安倍政権の対応が再び迷走を始めたようにみえる。

◆1つは、感染の再拡大防止に有効な具体策を打ち出せていないのではないか。

◆もう1つは、感染防止と経済活動再開の両立をめざしているが、両者のバランスがとれず、主要な政策や対応にブレが目立つこと。

◆さらに、政権の危機管理の前提となる感染状況の実態把握。そのための情報収集の仕組みづくりにも遅れが目立っている。

こうした状況で、果たして第2波、第3波へ対応できるのだろうか。最近の世論調査では「感染拡大に不安を感じている」と答えた人の割合が9割に達している。そこで、国民生活だけでなく、今後の政局にも大きな影響を及ぼすコロナ感染問題と政権の対応のあり方について考えてみる。

 感染再拡大の兆し 対応策は?

まず、新型コロナの感染状況について、東京を例にみておきたい。6月19日に全国都道府県の移動が解禁になった頃は、1日当たり30人台から60人台に収まっていた。ところが、7月に入ると100人台まで急増したのに続いて、7月9日には200人台、16日以降は200人台後半、23日に366人と初めて300人台へと急上昇した。

一方、全国でも7月下旬には、神奈川、埼玉、愛知、大阪、福岡などの各地で感染者が急増、23日には全国の感染者数が930人と過去最多、1000人に迫る勢いを示した。

これに対して、東京都は、感染者の増加は夜の街関係者を中心にPCR検査を積極的に増やしている影響が大きいと説明してきた。また、政府は、経済への打撃を考慮して、緊急事態宣言を再び出す考えはないと強調してきた。

これに対して、政府や東京都の専門家組織の関係者からは、積極的PCR検査の影響はあるが、若い世代や感染経路の不明者も増えており、市中感染のおそれもあると指摘している。

また、東京都の場合、PCR検査の内訳、夜の街関係者などの実施件数や陽性率など1日ごとの詳しいデータが明らかにされていない。このため、正確なデータに基づいて感染状況が把握されているのかどうか疑問という指摘もなされている。

さらに、東京都が強調するように、夜の街関係者の感染が増えているのであれば、そうした地域や職種などに重点を置いた検査や対策、例えば、休業要請や夜の営業時間短縮などの要請はできないのか。その際、政府と東京都が協議の上、一定の休業補償を行うなどの対策を打ち出す必要があるのではないか。

 安倍政権 主要政策・対応にブレ

2つ目は、安倍政権の主要政策や対応にブレが目立つ。例えば、7月22日から始まった観光支援キャンペーン、Go Toトラベルの対応だ。

当初は、8月初めから実施すると説明してきたが、7月10日になって連休前からの実施に前倒しする方針を打ち出した。ところが、東京などで感染者が急増したため、全国一斉から「東京除外」へ方針転換。さらにキャンセル料も国が負担する方針に変えるなど対応にブレが目立ち、波乱のスタートになった。

このGo Toトラベル、観光産業の大きな影響を考えると支援の必要性は十分、理解できる。但し、問題は税金を使った大型イベントであり、経済効果をあげるためにはタイミングが重要だ。また、感染拡大が収まった後に実施するのが、基本ではないか。

全国知事会などからは、県内観光や近隣地域の観光からスタートし、段階的に全国規模に拡大する案が提案されていた。あるいは、お土産や飲食を支援するクーポン券発行が始まる9月実施案。さらには、予定通り実施する場合は、東京だけでなく埼玉、神奈川、千葉も加えた1都3県を除外する案も出されていた。

1都3県案でなく、東京だけの除外案で決着したのはなぜか。関係者によると「因縁の菅官房長官と小池知事との対立が影響している」との見方を示すが、国の事業であり、”双方の怨念”は横に置いて公平・公正に対応してもらわないと困る。

この問題は「感染拡大防止と、経済活動再開の両立のバランス」をどうとるかがポイントなる。政府の対応は、感染防止の具体策が乏しいので、経済優先の形になる。このバランス・基本方針を修正しないと、政権と世論の距離はさらに広がっていくのではないか。

未知のウイルスとの戦いなので、政府が一旦決めた方針を変更するのは、やむを得ない。重要なのは、政策決定の過程をできるだけ明らかにすること。また、方針を変更する場合、国民に率直に説明し国民に理解を求める姿勢が、特に危機対応の場合に必要だ。安倍首相は、6月の国会閉会時に記者会見を行って以降は1か月余り経つが、記者会見を行っていない。

 危機管理 実態把握能力に弱さ

最後に安倍政権の感染症対策、危機管理の対応をみていると「実態把握に問題」があるのではないかと思う。

具体的な例をあげると、PCR検査を受けた人の名前や、検査結果、陽性になった割合など感染症の情報を把握するシステムが、未だに確立していない点だ。このシステムは厚生労働省が進めている「HER-SYS ハーシス」と呼ばれており、国と自治体、医療機関が感染者などの情報を共有する仕組みだ。

5月末から運用を開始したが、7月22日の時点で、保健所が設置されている全国155自治体のうち、東京と大阪のおよそ30の自治体で利用されていないという。この背景には、東京都と区との関係、個人情報の取り扱いについての考え方の違いが影響しているといわれる。

PCR検査の実施件数や、陽性者数などのとりまとめにあたっては、保健所などから、未だにFAXや電話で報告するケースもあるという。公表される数値が後で、修正されることも起きている。

国内で最初に感染者が確認されたのが1月16日、政府の対策本部が設置されたのが1月30日。既に半年も経っているのに、感染情報がリアルタイムで把握できる仕組みができあがっていない点に驚かされる。

政府が先に決定した今年の「骨太方針」の目玉の政策は、ウイズコロナ時代の「デジタル化への集中投資」。デジタル政府構想などを打ち出している。ところが、足下では喫緊の感染症データの収集・管理が十分できていないのが実態だ。

PCR検査の実際の件数が増えず、安倍首相が「目詰まり」が生じていると嘆いたのも、現場の体制や運用が十分、機能していないためだ。問題点が明らかになっているのに改善が中々、進まない状況が続いている。

 第2波への備え、記者会見で説明を

安倍首相は24日夜、記者団に対し、感染拡大への対応について、再び緊急事態宣言を出す状況にはないとした上で、検査能力を強化することで万全を期す考えを示した。

これに対して、世論調査でみると国民の側は、今後の感染拡大の不安を感じていると受け止めている人が9割にも達している。

国民の側が知りたいのは、感染防止と経済活動再開のバランスをどのようにとっていくのか。国民生活や経済の立て直しに向けて、何を重点に取り組んでいくのかといった点だと思われる。

政府の対応は、端的に言えば”思考停止状態”にもみえる。安倍首相は、早急に記者会見を開いて、政府の考え方を説明する必要があると考える。

揺らぐ政権の看板政策 Go Toトラベル

政府は観光需要を喚起するための「Go Toトラベル」の事業について、全国一律実施から、東京発着を除く方針に転換し、7月22日から実施する見通しだ。

こうした方針をどう見るか。東京は過去最多の感染者数、「東京除外は、仕方がない」との受け止め方。あるいは「感染拡大が収まった後にすべき」との受け止め方に分かれるのではないか。刻々と状況が変わるコロナ感染症の下で、重要な政策を決定しなければならない難しさがある。

私個人の見方は、東京を除外した結果、この事業の「制度設計の複雑さ」が一段と増し、感染拡大防止と需要喚起の両面で、効果が減少するのではないかと心配している。

もう1つは、政策論とは別に、菅官房長官と小池東京都知事との対立が大きく影響したのではないか、舞台裏事情と双方の問題意識に関心がある。

安倍政権の看板政策である「Go Toトラベル」事業、大きく揺らいでいるように見えるが、この事業の問題点と背景、今後のあり方を考えてみたい。

 「東京除外」制度設計が複雑化

今回のGo Toトラベル事業で、東京発着の旅行と東京都民1400万人を除いた意味からみておくと、除外理由は、東京での感染拡大を全国に広げないためということになる。それなりの理由ではある。

その上で、次の問題は、東京に続いて、神奈川県や埼玉県でも感染者が拡大しており、神奈川県では独自のアラート警戒宣言を発する段階にまで至っている。東京に限定せず、隣接県を含めた「首都圏」として対象にした方が適切という考え方も成り立つのではないか。

また、大阪など関西圏も拡大した場合、どうするのかといった問題もある。要は「除外の線引きとその基準」をスタートまでにはっきりさせる必要がある。

次に、東京除外の場合、一番の問題は「制度設計が複雑化」することがある。地方から、東京の羽田空港を利用して、千葉県のデイズニーランドに行くのは対象になるが、途中で東京観光の日程が入っていてはダメなどクイズのようなやりとりが話題になると、制度の先行きは危うい。

また、旅行現場では、事業を見越して予約をしていた利用客のキャンセルが相次いでいるという。こうしたキャンセルについては、政府はキャンセル料の補償はしない方針だ。また、宿泊先では、東京以外の宿泊客であることを確認するため、運転免許証や健康保険証による本人確認も必要になる。

さらに感染拡大を防止するため、高齢者や若者の団体は旅行を控えてもらうよう呼びかける方針だ。制度が複雑になり、制約が多くなる。

 感染防止と経済活動のバランス

この問題、突き詰めると感染防止と、経済活動再開とのバランスをどうとるかの問題になる。感染防止を重視すれば、実施時期を遅らせ、クーポン券が利用できる9月実施にした方がいいという案も聞いた。一方、それでは、観光事業関係者は経営や生活が成り立たないとの反論も出てくる。

こうした難しさを抱えているが、個人的には、今回のコロナ感染症の特性を考えると「感染防止により比重」を置いて考えざるをえないのではないか。1兆3500億円の巨額な税金を使う事業は、タイミングを慎重に考える必要がある。観光事業者などの救済策は別の方法で対策を実施するのが妥当ではないかと考える。

そこで、今回の政府案、国民の理解と支持が得られるかどうか。コロナ感染が収まらない中での政策の決定は、想定外のことが起こりうる。方針変更、軌道修正はやむを得ない。その場合、問題点などを率直で、正直に説明することが重要だ。今回の政府案は、どうも小手先の対応、説明も十分とは言えないのではないか。

コロナ対策では、世帯向け現金30万円給付案が制度が複雑でわかりにくく、1人10万円給付案に転換した例もある。制度設計の中身をもう一度、総点検し、改善すべき点は思い切って大幅に改善した方が、混乱が小さく抑えられると考える。

 菅 小池両氏の対立と論点

最後に、もう1つの関心事項。菅官房長官と、東京都の小池知事との関係。菅官房長官は今月13日、訪問先の北海道で、東京でコロナ感染者が急増している問題をとらえて「この問題は、圧倒的に『東京問題』」と鋭く指摘。

小池知事は直ちに反応、「政府はGo Toキャンペーンとの整合性をどうとっていくのか『むしろ国の問題だ』」と反撃、消費喚起策と感染防止策との整合性をどのようにとるのか国が示すべきだとの認識を示した。

この両氏の関係は、4年前の東京都知事選の候補者選びや、東京の税収問題などで対立が続いてきた。今回の問題でも、両氏の対立が影響したとみるのが自然だろう。

問題は、政府と東京都とが対立しているばかりでは、問題の解決・前進につながらない。両者の対立点を覆い隠して繕うより、問題点・論点をはっきりさせて調整した方が生産的だ。

具体的には、東京の感染症対策で、兼ねてから感染者数、PCR検査数、ベッドの確保数など検査・医療情報が正確・迅速に把握されていないのではないかとの指摘が出されていた。また、夜の街の対策については、地域を限定して具体策に踏み込むべきではないかなどの考え方も出されている。

おそらく菅官房長官は、こうした点を踏まえて、東京都は有効な対策を打ち出していないと言いたかったのではないかと推察する。対する小池知事は、それなら知事が休業要請した場合の休業補償など財政的な支援を検討してもらいたいと言いたいのではないか。

これからのコロナ対策、法律の不備な点など論点は多数あるが、まずは、現実の問題、国と地方自治体がお互いの主張をぶつけ合い、調整していくことが最も必要だ。今回のGo Toキャンペーンの制度設計、コロナ対策をめぐる国と地方自治体の権限と財源のあり方について、両氏が激しくやり合った上で、一定の合意点を明らかにしてもらいたい。

 感染防止、経済の体系的な説明を

安倍政権のこのところの対応をみると、緊急事態宣言解除後、感染拡大と、Go Toトラベルを含む経済活動再開の基本方針をどうするのか、問題点の整理と方針が明らかになっていないと感じる。

安倍首相の記者会見も、通常国会閉会時以降、1か月になるが、行われていない。ここは、安倍首相が記者会見を開いて、感染拡大防止と経済活動再開について、総合的体系的な政権の考え方を明らかにすることを要望したい。

 

 

安倍首相の任命・説明責任! 河井前法相夫妻 買収事件 

去年夏の参議院選挙をめぐり、河井克行前法相と妻の案里参議院議員が選挙違反の買収の罪で、8日起訴された。河井夫妻は、地元議員などおよそ100人に票の取りまとめを依頼し、現金およそ2900万円余りを配ったと検察当局はみている。

法務大臣経験者が、大規模な買収事件で逮捕・起訴されるのは前代未聞。国会議員の夫婦がそろって逮捕・起訴されるのも初めてだ。さらには、これほど大量の現金が、100人もの地元有力者などにばらまかれていたことにも驚かされる。

河井夫妻が関係する政党支部には、自民党本部から破格の1億5000万円もの資金が提供されていた。この資金提供の方針を誰が決定したのか、買収の資金はどこから調達されたのかなどは、はっきりしていない。

一方、この事件は、新型コロナ対策で迷走が続いている安倍政権を直撃、国民の政治不信を招き、内閣支持率急落の要因の1つにもなっている。

今回の事件の意味や背景、それに政治のあり方を考えてみたい。次の衆議院選挙は1年3か月以内には行われる。

 買収 ”最も悪質な選挙犯罪”

選挙の買収は、選挙違反の中でも最も悪質な選挙犯罪だ。物品の提供で、本来、自由で公正であるべき選挙、民主主義の基本ルールを歪め、侵害するからだ。

また、自民党には党則に基づいて「自民党規律規約」が規定されている。「党員が汚職、選挙違反事犯により起訴されたときは、党員資格の停止の処分」を行う。そして、禁固以上の有罪判決が確定したときは、除名処分を行うと規定されている。

河井夫婦は、逮捕直前に離党したので、対象から外れたが、党員のままであれば、最も重い「除名」の重い処分の可能性があったことになる。

 政治改革に逆行、政治劣化現象

次に今回の事件の意味はどうか。昭和、平成を通じて、政治とカネの問題、政治改革を積み重ねてきたが、今回の事件は、こうした政治改革に逆行、台無しにしたと言える。

私ごとで恐縮だが、昭和のロッキード事件、リクルート事件、平成の金丸副総裁事件などを政治の側から40年余り取材を続けてきた。不十分との批判もあるが、政治腐敗の根絶をめざして、選挙制度の改革、政党助成金の導入などの改革を積み重ねてきたのも事実だ。これらの改革では、主に政治家や政党へのカネの入り口の改善をめざしてきた。

というのは、選挙の買収などは、明るい選挙などの国民運動で改善が浸透してきたこともあったからだ。

ところが、今回の事件は一昔前にタイムスリップした観がある。参議院選挙の選挙違反事件の推移をみてみると◆昭和25年・1950年と、昭和37年・1962年は、1万2000件台もあったが、◆昭和49年・74年は5200件、その後は急減し、最近は100件台までに減っている。

つまり、選挙買収は、”一昔前の古典的違反”とみられていたのが、今回、醜悪な姿をよみがえらせたとの印象を受ける。このところの”政治劣化現象”とも言えるのではないか。

 政権与党との関係・責任問題

さて、今回の事件をみていると政権与党の責任は、極めて大きいと考える。まず、政治資金の提供の問題。自民党本部から、河井前法相と案里議員の支部宛てに、参議院選挙前に1億5000万円が振り込まれている。別の候補者の10倍にあたる破格の資金提供が行われていた。

買収資金の原資の詳しい内訳は明らかではないが、党本部からの資金の一部が買収資金に回った可能性もある。また、この資金提供は、誰の判断で決定したのか執行部の1人に聞いてみてもわからないと話している。

現職と新人の保守分裂になった選挙で、案里氏の陣営は、自民党本部とのパイプの太さを強調し、選挙期間中、安倍首相や菅官房長官、二階幹事長らが応援にかけつけた。また、安倍首相の事務所の秘書も応援にたびたびかけつけ、地元議員や有力企業回りをしていた。このように、政権与党の関係と責任は大きい。

 安倍首相、政権与党の説明責任

河井克行前法相自身については、2012年に安倍首相が総裁選挙に再挑戦した際に推薦人になったのをはじめ、当選同期の菅官房長官を支える無派閥議員のグループを立ち上げたことでも知られる。自民党内では、こうした安倍首相や菅官房長官との深い関係が、去年秋の内閣改造での初入閣につながったとの見方が強い。

このようにみてくると、政権与党として、河井前法相夫妻への破格の資金提供を誰がどのような目的で決定したのか。また、この資金が選挙買収に回されたことはないのかどうかなど事実関係を明確にする必要がある。

また、河井氏を法相に起用したことの任命責任をどう考えるかなどについても国民に説明することが求められている。

安倍首相は8日夜、「かつて法相に任命した者として責任を痛感する。国民におわび申し上げる」と記者団にのべた。また、党が提供した1億5000万円について「裁判が予定される個別事件についてコメントは差し控えたい」とのべた。

国民の側が、こうした説明に納得するかどうか。報道各社の世論調査では、河井前法相夫妻は「議員辞職すべき」という意見が8割に達している。選挙買収、政治とカネの問題について、最低限、事実関係について明確な説明ができないと政権与党に対する信頼感は取り戻すのは難しいのではないか。

新型コロナ対策や今後の政権運営、さらには来年秋までには確実に行われる衆院解散・総選挙に向けても、大規模買収事件は政権にとって、大きな重荷になりそうだ。

 

小池知事”圧勝と重責” 東京都知事選

東京都知事選挙は、小池百合子知事が366万票を獲得して圧勝した。今回の知事選挙の勝敗のゆくえは、当初から小池氏優勢との見方が強かったが、新型コロナ感染を抱える中での大型選挙であることや、衆院解散・総選挙など今後の政局にどんな影響を及ぼすのかといった点なども注目された。

そこで、今回の選挙結果について、多角的に分析してみたい。最初に結論を明らかにしておくと、次のような点が指摘できる。

◆第1は、小池知事の勝因は「圧倒的な知名度」と「危機対応にあたる現職の強み」の発揮、それに主要政党が有力候補者を擁立できなかったことが大きい。

◆第2は、東京都民は選挙結果をどうみるか。小池知事に対しては、派手なパフォーマンスではなく、「問題解決能力」を強く求めることになるのではないか。具体的には、コロナ感染防止に効果のある対策を打ち出せるのかどうか、厳しくチェックしていく姿勢が強まるのではないか。

◆第3は、政局への影響。政権与党内では、危機の際には現職に有利に働くとして、早期解散を断行すべきとの「我田引水」の力学が強まることが予想される。一方、都政と国政とは異なるとの「スジ論」もあり、双方の綱引きが激しくなるのではないか。

◆第4は、「コロナ時代の選挙のあり方と改善策」の検討を進める必要がある。具体的には、”リモート選挙”は不可避だが、「選挙前の日常の政治情報の充実」を図る必要がある。

以上が私の個人的な見解だが、その理由・背景などを明らかにしていきたい。

 メデイア露出、危機の現職の強み

今回の首都決戦では、当初から現職の小池知事優勢との見方が出され、問題は「勝ち方」に注目が集まった。結果は、366万票余りで、得票率は59.7%。

前回・2016年の得票数は291万票、得票率は44.5%、いずれも上回った。歴代知事の最多得票数は、猪瀬直樹知事の433万票(2012年12月、投票率62.60%)。次いで、美濃部亮吉知事361万票(1971年4月、投票率72.36%)。石原慎太郎知事308万票(2003年4月、投票率44.94%)。小池氏は歴代2位、圧勝といっていい。

この勝因だが、元々、現職の2期目は知名度もあり強いと言われる。今回は特に3月は東京オリンピック・パラリンピックの開催延期問題で、安倍首相と連携しながら調整に参画し注目を集めた。

また、コロナ感染の拡大では、国に先駆けて休業要請や独自の協力金支給を打ち上げ、「危機対応にあたる知事の存在感」を強くアピールした。

さらに選挙期間中も公務の記者会見に臨むなどメデイアの露出度は、他の候補者を圧倒した。

このほか、都議会で対立している自民党東京都連は対立候補を擁立できず、自主投票になった。野党第1党の立憲民主党も独自の対立候補や、野党統一候補も擁立できず、有力候補不在も小池知事圧勝の要因になった。

 野党第1党、辛くも主導権維持

その野党陣営だが、2位争いは◆立憲、共産、社民各党が支援する宇都宮健児氏が84万票(得票率13.8%)。◆れいわ新選組代表の山本太郎氏65万(10.7%)。◆日本維新の会推薦の小野泰輔氏61万票(10.0%)の順番となった。

野党第1党の立憲民主党が、辛くも野党内の調整の主導権を維持する形になった。但し、立憲民主党の支持層の投票行動は、報道各社の出口調査でみると、宇都宮氏に4割、小池氏に3割、山本氏に1割と支持が分散した。

一方、次の衆院解散・総選挙に向けての取り組みについても、野党の候補者の1本化が進むかどうか、野党結集の見通しはついていないのが実状だ。

 小池知事 問われる問題解決能力

さて、圧勝した小池知事だが、都民からの期待と同時に大きな責任を担うことになった。小池知事に対しては、端的に言えば「問題解決能力」を求める声が強まることが予想される。

具体的には、新型コロナウイルスの感染拡大を本当に抑制できるかどうか。これまでは、国に先駆けての休業要請や、協力金の支払いなどで存在感を発揮できた。但し、東京都の財政調整基金という9000億円以上もあった貯金も残り800億円程度まで激減した。今後、都の税収の落ち込みも避けられない。

こうした中で、選挙戦の最終盤には、東京都の新たな感染者数が1日当たり100人を超える状態が続き、第2波への備えは大丈夫なのかという声もあがっている。PCR検査を積極的に実施する方針転換で、感染者が増えたとの説明も聞くが、詳しい実施件数や分析の説明がない。

また、「東京アラート」に代わって打ち出された「新たな指標」はどのように運用され、都民への注意喚起や、対策はどうなるのかはっきりしない。

こうしたコロナ対策をはじめ、東京オリンピックの追加負担の問題、さらには東京都の経済活動の再開への取り組み、失業や暮らしの支援策など「さまざまな問題の解決能力」が問われることになる。また、現状と解決までの道筋などについての「説明責任」を果たせるかも問われることになる。

 早期解散論めぐる綱引き激化へ

政局への影響については、直接的な影響は小さいのではないかと見ている。というのは、自民党も、野党第1党の立憲民主党も都知事選では、存在感が乏しかったからだ。

一方、政権与党内では「我田引水」、衆院の早期解散を求める勢力からは、「危機の際に現職都知事が優勢だったように、衆院でも現職が優位に立てる」として早期解散の流れを作ろうとする動きが強まることが予想される。

これに対して、与党内でも「慎重論・スジ論」も聞かれる。例えば、小池知事は今度の選挙で無党派層の5割の支持を得た。これに対して、世論調査だが、安倍内閣を支持する人は、無党派層では2割程度に止まり、6割は支持しないと正反対の傾向を示している。

当面、衆院の解散時期をめぐって、双方の綱引きが激化しそうだ。但し、知事と首相、都知事選と衆院選も異なる。衆院解散・総選挙は国の舵取り、国民に何の判断を求めるのか、党利党略ではなく「大義名分のある解散・総選挙」にしてもらいたい。

 リモート選挙のあり方に工夫を

今回の都知事選は、新型コロナ時代の初めての大型選挙だった。4月からの緊急事態宣言が出された期間、全国の市長や区長の選挙では、過去最低の投票率が相次いだ。このため、都知事選の投票率も心配されたが、結果は「55%」。前回4年前より4.7ポイント下回ったが、過去最低の43%といった事態は免れた。

一方、今回の選挙は、「3密」を避けるため、規模の大きな集会や街頭演説などは少なく、「リモート選挙」が目立った。当面、こうした選挙運動・選挙戦は避けられないが、一方で、候補者の生の姿や訴え、候補者同士の討論などは行ってもらいたいとの声も根強い。

このため、「リモート選挙のあり方」を具体的に検討していく必要がある。「リモートでの候補者・党首の討論会」なども工夫する必要がある。一方、リモート方式では、情報が届きにくい高齢者などへの情報提供の仕方も考える必要がある。

さらに選挙期間中だけでなく、その前、「日常の段階から、国会やメデイアなどでの議論の充実」が重要だ。与野党双方が党利党略を離れて、取り組む必要がある。次の衆院選などに間に合うよう取り組みを進めてもらいたい。

東京都知事選挙に続く大型の選挙は、来年10月に任期満了となる衆院選挙になる。コロナ激変時代の日本の進路を選択できる選挙にできるかどうか。党利党略ではなく、国民に正々堂々訴える選挙、そのためには、与野党の責任と対応が極めて大きいと考える。

年内解散説は本物か? 高いハードル

通常国会が閉会した後、政府・自民党内では、新型コロナウイルスの感染拡大で自粛していた夜の会合が再開され、内閣改造や自民党役員人事、衆議院の解散時期などをめぐる発言や動きが活発になっている。

気になるのは、このところ「年内解散がありうるのではないか」との発言や容認論が相次いでいること。「年内解散説は本物なのかどうか」、内閣支持率など世論調査のデータなども使いながら分析してみたい。また、これからの政治の動き、何がポイントになるのか探って見たい。

 早期解散説、麻生氏が震源地か

衆議院の解散・総選挙をめぐっては、6月20日、自民党の森山国対委員長が「今年はひょっとしたら衆院選挙があるかもしれない。しっかり備えていかなければならない」と発言し、波紋が広がった。

また、世耕参議院自民党幹事長も「解散は、総理大臣が適切なタイミングで判断することだ。ただ、衆議院議員の任期満了は1年数か月後に迫っており、いつあってもおかしくない」とのべている。

こうした早期解散説について、自民党の関係者に聞くと「麻生副総理が安倍首相に進言しているのではないか」と指摘する。麻生氏は自らの経験を踏まえて、総裁任期をある程度残す中で、解散を断行した方が政権の求心力を高める。

また、”ポスト安倍が混沌状態”になるのは好ましくないので、解散を早期に断行し、安倍首相が総裁を続けた方がいいとの考え方を進言しているのではないかとの見方をしている。

 安倍首相 最終判断決め手は?

安倍首相に近い議員によると、麻生氏の早期解散論に対して、安倍首相は「言質を与えていない」という。安倍首相は18日の記者会見では、「頭の片隅にもないが、さまざまな課題に真正面から取り組んでいく中で、国民に信を問うべき時がくれば、躊躇なく解散を断行する考えに変わりはない」とのべている。

前回、2017年安倍首相が解散・総選挙に踏み切った時は、「党の独自調査で現状維持が可能との報告を確認して決断した」と関係者は解説していた。最終的には、安倍首相が選挙情勢をどのように読むか。”理念の人”というよりも”リアリスト”で、選挙で勝てるかどうかが、解散に踏み切るか否かの決め手になるのではないかとみている。

 世論の風向きは、”最悪水準”

そこで、選挙のゆくえを大きく左右する「世論の風向き」はどうか。22日にまとまったNHK世論調査でみてみたい。(データはNHK NEWS WEB参照)

まず、安倍内閣の支持率6月は「支持する」が36%。「支持しない」が49%。不支持が支持を上回る「逆転状態」が2か月続いている。

安倍内閣の支持率が最低だったのは2017年7月の35%、その時の不支持は48%で最多。今回は、支持率で1ポイント上回るが、不支持も1ポイント高く過去最多。つまり、2017年とほぼ同じ水準、第2次安倍内閣発足以来、”最悪の水準”にあるとみていい。

2017年は、森友学園、加計学園問題が表面化した年で、国会閉会直後の東京都議選で自民党は大惨敗したことをご記憶の方も多いと思う。今回は、去年の秋以降、新入閣の2閣僚の辞任をはじめ、桜を見る会問題、さらに新型コロナウイルス感染拡大の直撃を受けたことが大きい。緊急事態宣言の発令や解除のタイミング、給付金や事業資金給付の遅れや政策変更などで、世論の厳しい批判を浴びたことが大きい。

また、内容面でも安倍政権にとって厳しい材料が多い。◆自民支持層のうち、安倍内閣を支持すると答えた割合は69%で、7割を割り込む。◆与党支持層でも66%、両方とも第2次政権以降の最低に落ち込んでいる。◆女性の支持は3割に対し、不支持が5割近い。◆最も多い無党派層では、支持が19%に対し不支持が62%に上っている。

つまり、従来の与党支持層に加えて、女性、18歳から30代までの若者層、無党派層でいずれも支持離れが進行中。短期間で、支持率回復は極めて難しい情勢だ。選挙では支持・不支持逆転状態が解消されないと議席を大幅に減らす可能性が大きい。

 2017年との違い

ところで、2017年は7月、8月に支持率が下落したが、9月に急上昇。10月に衆院解散・総選挙に踏み切り大勝した。今回も同じことが起きうるのではないかとの質問があるかもしれない。

2017年は、それまでの間、内閣支持率は50%台後半が長く続いたこと。また、北朝鮮のミサイル発射問題で、トランプ大統領と電話会談を頻繁に行うなど外交力を強くアピールできたことが支持率回復につながった。

これに対して、今回は去年8月以来、内閣支持率は一貫して下落傾向が続いており、復元力が弱くなっている。このため、野党側の足並みに大きな乱れなどがない限り、安倍首相は早期解散は選択しないのではないかと個人的にみている。

 年内解散、高いハードル

別の視点で、年内解散の可能性を考える場合、自民党にとっては、連立与党の公明党との選挙協力が重要な条件になる。安倍政権が国政選挙6連勝を飾ることができたのも、自民支持層に加え、公明支持層が上乗せできたことが、野党と競り勝つ上で大きい。

その公明党は、今回、早期解散には慎重な立ち場をとっている。公明党の山口代表は24日、安倍首相と会談し「今はコロナウイルスへの対応が大切だ」と伝え、早期解散に慎重な立ち場を伝えている。この点も2017年と異なる点だ。

さらに、自民党の年内解散のねらいは、新型コロナ第2波の襲来前に選挙をした方が有利との計算なので、事実上10月、11月頃の秋口解散だ。日本経済は、4月-6月のGDP速報が8月中旬に公表されるが、記録的な落ち込みが予想される。その水準から、短期間に急激なV字回復は予想しにくい。このため、早期解散に有利な追い風が吹くとは考えにくく、年内解散のハードルは極めて高いとみている。

 これからの政局のポイント

それでは、これからの政局は何がポイントになるか。◆第1は、新型コロナの収束。◆第2が社会・経済活動の回復。◆第3が国家的事業の東京オリンピック・パラリンピックが開催できるかどうか。◆第4が9月にも予想される内閣改造・自民党役員人事で、ポスト安倍などの絞り込み行われるか。

一方、衆議院議員の任期満了は来年10月21日。それまでの1年4か月の間に、衆院解散・総選挙をどこにセットするか。◆今年秋の臨時国会での解散、◆来年1月通常国会冒頭解散、◆来年秋の任期満了かそれに近い時期の選挙に絞られる。

安倍首相は自民党総裁4選を目指さないと繰り返しているが、側近ほど本音だとみている。そうであれば、総裁選で新しいリーダーを選んだ後、衆院解散・総選挙の道へと進む公算が大きいのではないか。任期満了選挙は与党は避けたいが、物理的な時間が限られている。

但し、オリンピックが開催されない場合は、安倍首相は任期満了を待たずに退陣という別の選択肢も出てくる可能性はあるのではないか。

最後に国民の側から今後の政治の動きをみると、一番の関心は「コロナ時代の激変時代の政治」。具体的には、次のリーダーや政党はどんな社会をめざし、何を最重点に取り組もうとしているのか。自民党の総裁選びや、次の衆院選では、激変時代を乗り切るリーダーの資質を備えているか、政権構想の中身に説得力があるかどうか、これまで以上に問われることになるのではないか。

首都決戦の注目点、小池知事の勝ち方は?

東京都知事選挙が18日告示され、7月5日の投票日に向けて選挙戦に入った。今回の都知事選挙、有権者の関心・反応はどうだろうか。「勝敗がわかっているから、余り関心はない」という声が返ってきそうだが、その勝敗はともかく、注目すべき点はいくつもあるというのが私の見立てだ。そこで、首都決戦の注目点として、4点を取り上げてみたい。

① 小池知事の勝ち方は?

注目点の第1は、やはり「選挙の勝敗」だ。選挙戦は◆再選をめざす現職の小池百合子知事が政党の推薦を受けずに立候補。

これに対して、◆元日弁連会長の宇都宮健児氏、◆前熊本県副知事の小野泰輔氏、◆れいわ新選組の代表、山本太郎氏。◆NHKから国民を守る党の党首、立花孝志氏、◆無所属、諸派の候補者を合わせて、過去最多の22人が立候補、選挙戦がスタートした。

政党との関係を整理しておくと◆自民党は、都連が小池氏に対して、独自候補の擁立を目指したが、断念。事実上の自主投票になったが、二階幹事長は小池氏を支援したいという考えを表明。公明党は推薦・支持はしないが、小池氏を実質的に支援する方針だ。

一方、野党陣営は、野党第1党の立憲民主党が野党統一候補の擁立をめざしたが、不調に終わった。最終的には◆立憲、共産、社民の各党が宇都宮氏を支援、◆日本維新の会が小野氏を推薦、◆れいわ新選組は山本氏と3陣営に分かれ、競合する構図になっている。

このように与党第1党、野党第1党ともに独自候補の擁立ができなかったことと、圧倒的な高い知名度などから、選挙情勢は、現職の小池氏優勢とみている。

但し、問題は「勝ち方」。小池氏は前回291万票を獲得、次点の自民推薦候補に111万票の大差をつけて圧勝した。今回も独走・圧勝となるのか。それとも意外に他の候補が善戦、批判票が大量に出ることになるのかを注目している。

また、野党系候補の中では、誰がトップになるのかの順位争いもある。このうち、宇都宮氏と山本太郎氏は、共に”弱者”重視の政策を掲げており、共通する支持層の”票の食い合い”に終わるのか。それとも多数の無党派層の支持を掘り起こし、小池氏を脅かすことになるのかどうか。野党系候補の順位は、野党各党間の主導権や、次の衆院選で野党共闘が可能なのかどうかを占う材料になる。

さらに今回は、都議会議員の補欠選挙が4選挙区で行われる。小池知事が立ち上げた都民ファーストの会や与野党の勝敗がどうなるかも注目される。

 ②選挙の争点、コロナ、五輪か

第2の注目点は「選挙の争点」。現職知事が再選をめざす選挙なので、まず、「実績評価」が争点になる。

▲小池知事は築地市場の移転延期を主張、安全性が問題になったが、結局、豊洲移転で決着した。また、選挙公約「7つのゼロ」の評価。待機児童ゼロ、満員電車ゼロなどは、いずれも達成できていないと他の候補は批判しているが、どんな論戦になるか。

▲最も大きな関心は「新型コロナ対策の総括と今後の取り組み方」だ。小池都政が国に先んじる形で独自の協力金支給を打ち出したことなどを高く評価する声を聞く。

一方で、オリンピック開催に気をとられ、コロナ対応が遅れたのではないか。生活困窮者の支援をはじめ、PCR検査の拡充、医療現場の支援など東京都政は大きな力を持ちながら発揮できていないとの批判も強い。

さらに、新型コロナ収束後、首都東京の将来像や、重点政策として何を打ち出すのか。各候補の基本構想と具体的な政策を聞きたいところだ。

▲来年夏に延期された「東京五輪・パラリンピック」をどうするか。コロナ感染が世界的にどのような状況になっているか。また、開催する場合、3000億円ともみられる追加経費の負担問題もある。候補者の中には、大会は中止してコロナ対策に当てた方がよいとの考え方もある。大会開催の意義や賛否、負担問題についても議論を深めてもらいたい。

 ③有権者の関心度、投票率のゆくえ

第3の注目点は「有権者の関心の度合いと投票率のゆくえ」だ。新型コロナ感染拡大を受けて、これまで全国各地の選挙戦では”3密”を避けるため、街頭演説や大規模な集会、握手戦術などを取り止めるなど選挙運動は大きく様変わりしている。今回の都知事選はどうなるか。

小池知事はコロナ対応のため、街頭演説などは行わずに”オンライン選挙のモデル”づくりに挑戦したいと意欲を示している。一方、SNS選挙で先頭を走る山本太郎氏は”デイスタンスなどに気を配りながら、ライブな街頭演説などをやっていく”と強調している。コロナ時代の選挙運動はどのような形になるかも注目している。

一番の問題は、有権者の関心度と投票率がどうなるか。去年は、春の統一地方選の投票率が過去最低を更新、夏の参院選も50%を下回り過去2番目の低投票率。今年に入って緊急事態宣言の期間に行われた全国の市区長選挙では、過去最低の投票率となった選挙が相次いだ。

都知事選の過去7回の投票率をみると、最も高かったのは◆2012年、石原慎太郎知事後継の猪瀬直樹氏が当選した時、62.60%。最も低かったのは◆2003年、石原慎太郎知事の2期目の選挙、44.94%。◆小池知事当選の前回は59.73%、比較的高かった。

今回はどうか。盛り上がりに欠ける気もするが、他方でコロナ後初の大型選挙、危機感が投票アップにつながるかもしれない。過去の最低ラインより多少上がって50%前後とみるが、どうだろうか?

 ④政局への影響、全国の先行指標

第4は「政局への影響」だ。「東京は全国の先行指標」。特に東京の有権者の投票行動が、全国の都市部の先行指標になる。

また、都知事選挙と同時に行われる都議会議員の補欠選挙もある。報道各社は、世論調査や出口調査を行う。安倍政権の評価をはじめ、与野党の支持率、コロナ対策や東京五輪・パラリンピック開催の反応もわかる。次の衆議院選挙を予測する上で貴重なデータが得られる。

さらに、政界の一部には、小池知事の選挙後の政治行動について、東京五輪後、次の衆院選で国政復帰をめざすのではないかとの見方もある。前回、衆院選で立ち上げた「希望の党」敗北のリベンジ、そして初の女性総理の座をめざすのではないかとの見方だ。小池氏は否定しているが、どうなるか。

今回の首都決戦は、与党第1党の自民党、野党第1党の立憲民主党も独自の候補者を擁立できず、政党の存在感が薄らいでいる。代わって、小池知事や山本太郎氏など個性の強い候補者が前面に登場している。

また、コロナ激変時代の最初の大型選挙だ。有権者は、感染症を抑制しながら日本社会・経済の再生に向けて、どんな政策、リーダーを重視して選択するのか。一方、政党の側は、実質的には選挙にどこまで関わるのか、それとも最後まで存在感を発揮できない形で終わるのか。

衆議院議員の任期も来年10月の任期満了まで1年4か月。今回の首都決戦は、次の衆議院選挙のゆくえを探る上でも、大きな意味を持つ選挙になる。