“攻守逆転” 与野党の国会攻防

臨時国会は、前半戦の山場となる予算委員会の基本的質疑が、岸田首相とすべての閣僚が出席して、17日から20日まで4日連続で衆参両院で行われた。

焦点の旧統一教会問題をめぐっては、野党側の攻勢が目立ち、岸田首相は答弁内容を一晩で修正に追い込まれるなど守りの場面が目立った。

旧統一教会をめぐる論点や与野党の構図がわかりにくいといった声も聞くので、岸田政権の対応や思惑などを含めて、臨時国会の攻防の背景を探ってみたい。

 首相答弁異例の修正、与野党協議会も

この臨時国会は、異例の出来事や対応が相次ぎ、驚くことが多い。まず、衆議院予算委員会初日の17日、岸田首相は冒頭、旧統一教会問題について、宗教法人法に基づく「質問権」を行使し、調査を実施するよう永岡文科相に指示したことを明らかにした。

質問権の行使は初めてのケースになり、政権内でも「信教の自由」の関係で慎重論が強かったが、岸田首相は野党の機先を制する形で、新たな動きをみせた。内閣支持率の下落が続く中で、首相の指導力をアピールする狙いがあったものとみられる。

続く18日、岸田首相は旧統一教会の被害者救済に向けて、消費者契約法の改正案などを今の国会に提出できるよう準備を進めると踏み込んだ。

一方、野党側から、宗教法人に対する解散命令の要件を緩めるよう強く迫られたが、この点は、従来の方針を譲らなかった。

ところが、翌19日午前の委員会冒頭で、岸田首相は、宗教法人に対する解散命令を請求する要件について「民法の不法行為も入りうる」との考えを打ち出した。

前日は「民法の不法行為は、要件には含まれない」と譲らなかったが、一晩で一転、従来の答弁を修正した。これには、野党の質問者も「解釈を良い方向に変えるのはいいことだが、朝令暮改にもほどがある」と唖然としていた。

この問題に詳しい専門家は「従来の政府の見解は、要件を狭く解釈しすぎていたので、これを修正することはありうる。但し、政府の対応ぶりは前夜、関係省庁の担当者や首相側近が集まって決定するなど場当たり過ぎではないか」と指摘する。

一方、旧統一教会の被害者を救済するため、自民党、立憲民主党、日本維新の会は19日、公明党も含めた4党で、与野党協議会を設置することで合意した。

被害者救済の法整備は、野党第1党の立憲民主党と第2党の維新が連携して水面下で、自民党に働きかけてきた。こうした野党共闘が、実質的に国会運営をリードし、久しぶりに一定の成果を生み出す形になった。

第2次安倍政権以降、国会運営面で自民党が圧倒的な強みを発揮し続けてきたが、この国会では攻守ところを変えて、野党が攻勢に転じているのが大きな特徴だ。

 乏しい即応力、政権与党の機能低下も

それでは、こうした与野党の攻守逆転は、なぜ起きたのか。1つは、岸田内閣の支持率が急落し、政権発足以来最低の水準にまで落ち込んでいることがある。

岸田首相としては、旧統一教会問題で野党側の追及に対して、後ろ向きの姿勢を示すと、さらに世論の支持離れに拍車がかかる恐れがあり、局面打開のために従来の方針を転換した事情がある。

自民党の長老に聞くと「岸田政権の問題は、対応が遅すぎることと、即応力が乏しい点ではないか」と指摘する。コロナ感染第7波が急拡大した際にもメッセージが出されない。旧統一教会の実態調査、物価高騰対策の打ち出しの遅さなどを挙げる。

さらに、この国会では、山場の予算委員会の設定自体が大幅に遅れた。岸田首相の所信表明演説と各党代表質問が終われば、通常は直ちに予算委員会が始まる。

ところが、国会は1週間以上、異例の”開店休業状態”が続いた。鈴木財務相の国際会議出席の日程が自民党側と共有できていなかったためだ。

こうした問題の背景には、首相官邸と自民党幹事長室、それに国会対策の政府・与党の連携が十分できていないことが浮き彫りになったと言える。

さらには、自民党の石井・参議院議運委員長らが17日夜、岸田首相との会食の後、記者団に対し「衆議院予算委員会が午後5時1分に終わるなど野党側に緊張感がない。それで『瀬戸際大臣』の首を取れるのか」などと発言したことが明らかになり、野党理事が予算委員会の席で抗議する一幕もあった。

政権の命運にも影響する予算委員会の初日の夜、首相と与党幹部が食事をともにしながら懇談すること自体、ありえないことで、一昔前なら”切腹モノ”だ。政権中枢と与党に危機感が乏しく、統治機能の低下が進行しているのではないか。

 国会後半 経済対策と旧統一教会問題

最後に国会後半はどう展開するだろうか。岸田首相は、物価高騰対策などを盛り込んだ総合経済対策を月内にとりまとめ、11月に補正予算案を提出、政権運営の主導権を取り戻す方針とみられる。

問題は、大幅な値上がりが続いている電気料金やガス料金の価格引き下げ幅と仕組みがどうなるのか、対策の中身で評価が大きく分かれる。

もう1つは、この国会の焦点である旧統一教会問題にケジメをつけられるかどうかだ。

この点に関連して、旧統一教会の関連団体が、国政選挙の際に自民党の国会議員と、憲法改正や家庭教育支援法の制定に取り組むよう記した「推薦確認書」を取り交わしていたことが明らかになった。朝日新聞のスクープだ。

この確認書の問題は、自民党が先に所属国会議員に対して行った点検調査には、含まれていなかったとされる。世論の信頼を回復するためには、事実関係の実態調査が引き続き求められることになるのではないか。

また、被害者救済の法案がこの国会で成立するかどうか。政府は、消費者契約法の改正案の提出を検討しているほか、自民、立民、維新の3党は今国会で必要な法案の成立をめざすとしている。

政府・与党と野党側が、法案の扱いで最終的に合意できるのか、まだはっきりしない。岸田首相がこうした一連の問題で、リーダーシップを発揮できるかどうか。

野党側も、立民と維新の足並みが最後までそろうのか。政権与党、野党がともにどのように対応するのか、会期末まで目が離せない状態が続くことになる。(了)

 

袋小路の岸田政権 出口はあるか?

岸田政権は10月4日に発足から1年を迎えたが、報道各社の世論調査によると支持率が続落、いずれの調査でも支持と不支持が逆転している。

国会運営でも政府・自民党の連携不足から不手際が目立ち、政権運営は”袋小路”に迷い込んでいるようにみえる。

17日からは衆議院予算委員会に舞台を移し、一問一答方式の本格的な質疑が始まる見通しだ。与党関係者からは「旧統一教会問題で、野党の攻勢に防戦一方になるのではないか」と懸念の声も聞かれる。果たして、出口を見いだせるのか探ってみる。

 旧統一教会問題、実行力に厳しい目

まず、11日に報道されたNHK世論調査の結果が、今の岸田政権を取り巻く状況を的確に表していると思うので、そのデータから見ておきたい(NHK世論調査10月8~10日実施)。

◆岸田内閣の支持率は38%で、3か月連続で下落が続いており、4割を割り込んで政権発足以来、最も低くなった。不支持率は43%で、支持と不支持が初めて逆転した。

◆9月27日に実施された安倍元首相の国葬について、政府が実施したことを「評価する」は33%に止まり、「評価しない」が54%で上回った。国葬が終わったあとも評価は上がらなかった。

◆旧統一教会問題の岸田首相の対応については、「評価する」が18%に対し、「評価しない」が73%に達した。山際経済再生相の説明には「納得していない」が77%と圧倒的多数を占めた。

◆政府の物価高騰対策については、「評価する」が45%、「評価しない」が47%で、評価が分かれた。

◆発足から1年がたった岸田内閣の実績については、「評価する」が38%に対し、「評価しない」が56%で上回った。

岸田内閣は発足以来、高い支持率を維持してきたが、7月の支持率59%をピークに急落した。その主な要因は、岸田首相が決断した安倍元首相の国葬と、旧統一教会問題への対応にあることが、先のデータからも読み取れる。

また、岸田内閣を支持しない理由をみてみると、これまで「政策に期待が持てないから」が3割台でトップだったが、10月からは「実行力がないから」が39%に達し最多になった。9月に比べて、10ポイントも増えた。

7月は20%、1年前は12%だったので、「岸田首相の実行力」に疑問や不満を抱いている人たちが急増していることも読み取ることができる。

 与党の国会運営、目立つ混乱と防戦

次に国会運営面で、政府と自民党との連携が不足し、信じられないような不手際が相次いでいるのも最近の特徴だ。

臨時国会は3日に召集され、岸田首相の所信表明演説と、これに対する各党の代表質問が3日間行われた。

続いて、衆参の予算委員会に舞台を移して、一問一答方式の本格的な論戦が始まるところだが、鈴木財務相の国際会議出席が政府・自民党間で共有されていなかったため、予算委員会の日程が設定できなくなった。

衆議院の予算委員会は17日からになる見通しで、この間は一部の委員会を除いて、国会は”開店休業状態”が続く異例の事態になっている。

国会日程を巡っては、これより先、野党側に召集日を伝達した際にも、会期幅が決まっておらず、野党側の反発を受けて、あわてて政府・与党の幹部が協議して決定するといった事態も起きた。政権与党の統率力に疑問符がつく事態だ。

 旧統一教会、政権与党の体制もカギ

さて、これからの注目点だが、まずは、17日から始まる予定の予算委員会の質疑のゆくえだ。

野党側は、旧統一教会の問題を巡って、新たな事実が次々に明らかになっている山際経済再生担当相と、説明文書を出すだけで記者会見などに応じない細田衆議院議長について、岸田首相の対応や政治姿勢を厳しく追及する構えだ。

これに対して、岸田首相は、旧統一教会の問題は、政治家個人が自ら点検、説明することが基本だとかわす一方、物価高騰対策が当面の最重要課題だとして、電気料金の抑制に巨額な支援金を出すなど大型の経済対策を打ち出して、反転攻勢をめざすものとみられる。

こうした与野党の論戦と政府の経済対策を、世論がどのように評価するか、国会後半の展開にも影響する。

もう一つは、岸田首相の政権運営だ。夏の参院選挙に大勝したあと、いち早く自ら決断した安倍元首相の国葬方針が、世論の批判を浴びた。また、時期を早めた内閣改造も新たに任命した閣僚などに旧統一教会との接点が明らかになるといった誤算が続いている。

政界の関係者の間では、岸田政権の中枢に問題があるのではないかといった見方や、官邸と自民党幹事長室、国会対策委員長との連携不足や足並みの乱れを正す必要があるとの指摘も聞く。

さらには、安倍1強体制が崩れ、今の政権与党にはそれに代わる新たな柱・体制が整っていない点に問題の核心があるといった意見も聞かれる。

このようにみてくると、まずは、世論が大きな関心を寄せ、政権の基本姿勢にかかわる旧統一教会問題について、岸田政権がけじめをつけることができるかどうか。その上で、政策課題、難題の解決に向けた具体策と道筋を打ち出すことがカギを握っているのではないか。

また、政権運営をめぐる問題は、政権与党内の権力構造に関わる根の深い問題なので、岸田政権が、袋小路から脱出する出口を見いだすのは容易ではないのではないかとの見方をしている。臨時国会は、前半の山場を迎える。(了)

★追記(15日14時45分)国会日程については、岸田首相と全ての閣僚が出席する予算委員会が、衆議院で17日と18日、参議院で19日と20日にそれぞれ開かれることが14日までに決まった。

 

 

“三権の長”の説明責任、旧統一教会問題

旧統一教会との関係をめぐり、細田衆議院議長は再調査の結果、新たに4つの会合に出席し、挨拶していたことを明らかにした。

細田議長と旧統一教会との関係をめぐっては、事実関係の問題とは別に、議長が自ら記者会見や国会での説明に応じていないことが問題になっている。

衆議院議長は、参議院議長などとともに”三権の長”に位置づけられているが、どのような対応が求められているのか、考えてみたい。

 説明は文書配布、記者会見はなし

これまでの経緯を手短に整理しておくと、かねてから旧統一教会との関係が指摘されてきた細田衆議院議長は9月29日に、ようやく「世界平和統一家庭連合」(旧統一教会)との接点を認めるコメントを発表した。

内容は、2018年と19年の関連団体の会合に4回出席したことを認めたもので、A4版の文書1枚が配布されただけだった。野党側は、内容が具体性を欠いており、不十分と強く反発したため、議院運営委員会の山口委員長が、さらに詳しい説明を行うよう要請していた。

これを受けて、細田議長は7日、衆議院議長公邸で山口委員長と自民、立憲民主両党の筆頭理事2人と10分程度面会し、過去10年間さかのぼって調査した結果をまとめたA4版2枚の文書を示し、説明したという。

それによると前回調査の4回とは別に、新たに4つの会合に出席し、挨拶していたことがわかったとしている。また、教会側の関連する会合に祝電を送っていたケースが3件あったことが、新たに判明したとしている。

このほか、教会側に選挙支援を依頼したり、組織的な動員を受けたりしたことはないことなどを記している。

旧統一教会との関係については、後ほど触れるとして、異様に感じられるのが細田議長の対応だ。

最初の説明は、文書の配布だけだ。2回目は、山口議院運営委員長ら3人に文書を示して説明し、その結果を山口委員長が記者団に説明するという回りくどい方法をとっている。

昭和を通り越して、明治時代を連想させるような方法だが、なぜ、こうした方法になるのだろうか。また、こうした対応をどう評価したらいいのだろうか。

 議長の権限は絶大、説明責任も重い

議長の仕事といえば、国会の本会議が開かれた際、中央の議長席で議事運営を指揮することが多い。このほか、天皇陛下がご臨席になる開会式への出席や、さまざまな公式行事に参加することも多い。

国会での議長の職務権限については、国会法19条で「各議院の議長は、その議院の秩序を保持し、議事を整理し、議院の事務を監督し、議院を代表する」と規定されている。

これを整理すると議長の権限は、①秩序維持権、②議事整理権、③事務監督権、④代表権ということになり、幅広く絶大といえる。

例えば、国会で与野党が激突した場合、国会職員の衛視だけでなく、警察官の派遣を要請して院内秩序を維持したこともあった。

本会議中の規律保持も議長が行うので、議員が議場の秩序を乱したり、議院の品位を汚す行為をしたりした場合は、制止や発言取りができる。議長の許可がなければ、議員は演壇に登ってはならないという衆議院規則もある。

話がわき道にそれるが、先に立憲民主党の泉代表が本会議で、細田議長に向かって発言した行為をめぐって、自民党は礼を失するとして抗議した。

泉代表の行為はパフォーマンスに見えたが、細田議長も無礼千万と発言を制止したり、降壇を命じることもできたはずだが、躊躇せざるを得ない心理状況にあったのかもしれない。

話を元に戻すと、衆院議長はこのように絶大な権限を持っている。このことは、逆に個人的な問題などが起きた場合は、国権の最高機関の長として、説明責任を果たす重い責務を負っている。

このようにみてくると細田議長としては、記者会見を行うこと。あるいは、議院運営委員会に出席して自ら説明し、与野党の質疑に応じることも考えられる。議長の発言には制約があるとの説も聞くが、国会法20条には「議長は、委員会に出席し発言できる」と規定されている。

一昔前の話になるが、自民党には「政界の三賢人」と呼ばれた人たちがいた。椎名悦三郎、前尾繁三郎、灘尾弘吉の各氏で、前尾、灘尾の両氏は衆院議長を務めた。公正、公平、清廉潔白などの評価が伝えられている。

細田議長もこうした先人たちにならって、国会の権威や信頼感を維持していくためにも具体的な行動を取ってはどうか。

 事実の解明、議長・国会の重い責任

最後に細田議長の文書を読んでもわからないことが幾つもある。まず、2019年名古屋市で開かれた関連団体の大規模イベントに出席して挨拶し「今日の会の内容を安倍総理にさっそく報告したい」などとのべていたとされる。当時、細田氏や安倍首相は教会側とどのような関係にあったのか。

また、細田氏は、2014年から21年まで自民党最大派閥の会長を務めていたが、この派閥は、旧統一教会とのつながりが深く、参議院比例代表選挙で支援を受けていたとの証言もある。実態はどうだったのか、明らかにするよう求める意見は多い。

安倍元首相の銃撃事件は、戦後初めて首相経験者が殺害された大きな事件だ。捜査当局が容疑者の刑事責任を問うこととは別に、政府や国会もそれぞれの立場から事件の真相や背景を徹底して究明するのは当然のことと思われる。

ところが、日本の政治は国葬の決定は早いが、真相究明への動きは極めて鈍い。欧米では、司法の捜査とは別に、政府の調査委員会を設置したりするのとは大きな違いがある。

細田議長は、自らの問題の説明責任を果たす必要がある。加えて、国会としても事実関係や背景を粘り強く調べていく取り組みはできないものか。

岸田首相も、旧統一教会との関係が次々に明らかになっている山際経済再生担当相の扱いを含め、国民の政治不信にどう応えるかが問われている。

臨時国会は、17日から衆参両院の予算委員会に舞台を移して、一問一答方式の詰めた質疑が始まる。旧統一教会の問題をどのような形で決着をつけるのか、細田衆院議長と山際担当相の問題が焦点になりそうだ。(了)

 

 

”逆風の岸田政権”臨時国会開会

夏の参議院選挙の後、初めての本格的な論戦の舞台となる臨時国会が3日召集され、岸田首相の所信表明演説が行われた。

臨時国会前半の最大の焦点は、旧統一教会と閣僚や自民党議員の関係をめぐる問題だ。野党側は、この問題を集中的に取り上げる構えなのに対し、岸田首相は踏み込んだ対応策を打ち出して、乗り切ることができるのかどうか大きな注目点だ。

続いて、10月中に物価高騰対策を盛り込んだ総合経済対策が取りまとめられ、11月には補正予算案が提出される。臨時国会の後半では、暮らしや今後の経済政策が論戦の中心になりそうだ。

岸田政権は4日に政権発足から1年になるが、安倍元首相の国葬と旧統一教会への対応をめぐって内閣支持率が急落している。果たして、この臨時国会を乗り切ることができるのかどうか、逆風が強まる岸田政権と臨時国会の見どころを探ってみる。

 旧統一教会問題、実態解明は進むか

まず、臨時国会の日程を確認しておくと、3日の岸田首相の所信表明演説を受けて、各党の代表質問が、5日から7日まで衆参両院の本会議で行われる。

通常はこの後、直ちに衆参両院の予算委員会の審議に入るが、今回は、G20財務相・中央銀行総裁会議に鈴木財務相が出席する関係で、予算委員会は17日からの週にずれ込む見通しだ。

こうした国会冒頭の論戦で、野党側は、国葬問題に加え、旧統一教会と閣僚や自民党議員の関係を集中的に取り上げ、岸田政権を追及する構えだ。

具体的には、安倍元首相は旧統一教会との関係で中心的な役割を果たしていたとして、実態を調べるよう求める方針だ。また、最大派閥・安倍派の前会長を務めていた細田衆院議長についても詳しい事実関係の説明を求めることにしている。

さらに山際経済再生担当相については、旧統一教会が主催して開いていた会合に出席し、教団トップの総裁と会っていたことが明らかになるなど関係が深いとして、更迭を求める方針だ。

これに対し、岸田首相は所信表明演説で「国民の声を正面から受け止め、説明責任を果たしながら、信頼回復のための取り組みを進める」とのべ、いわゆる霊感商法はどの被害者救済へ法令などを見直す考えを明らかにした。

一方、安倍元首相の問題については「ご本人が亡くなっており、調べるのは限界がある」として、調査には応じない考えを示している。

但し、この問題をめぐっては、世論も政府・自民党の説明は不十分で、事実関係の調査などを求める意見が多数を占めている。これまでの対応では、内閣支持率の下落に歯止めがかからなくなる可能性もある。

このため、岸田首相としては、従来の方針を繰り返すのか、それとも世論の疑念を晴らすため、踏み込んだ考え方や対応策を明らかにするのか、大きなポイントになりそうだ。

 経済再生を最優先、国会日程はタイト

それでは、岸田首相は、この臨時国会をどのように乗り切ろうとしているのか。

岸田首相は、所信表明演説で「日本経済の再生が、最優先の課題だ」と位置づけ、大型の補正予算案を成立させ、物価高騰対策と経済再生で主導権を確保し、反転攻勢を図る考えだ。

具体的には、物価高騰対策として、今後さらなる価格上昇が予想される電力料金について、前例のない思い切った対策を講じる方針だ。また、構造的な賃上げに向け、人への投資策を5年間で1兆円に拡充するなどの考えを表明した。

問題は、電気、ガス料金の大幅な上昇に加えて、10月は食料品や飲料の値上げが最多となる中で、政府がどこまで有効な対策を打ち出せるかが、カギになる。

政府は10月中に総合経済対策を取りまとめ、第2次補正予算案の成立をめざしているが、予算案の提出は11月になる見通しだ。国民の側からは、もっと早く経済対策を実行に移せないのかといった声も出てきそうだ。

加えて、政府・与党にとって不安材料は、11月は外交日程が数多く入っており、岸田首相の海外出張で、審議日程がタイトなことだ。11月中旬以降、ASEAN関連首脳会議、G20首脳会議、APEC首脳会議が相次いで開かれる。

こうした外交日程が相次ぐ中で、衆議院の1票の格差是正のための10増10減法案や、コロナ感染危機に対応するための感染症改正案も提出される。

政府・与党は、臨時国会の召集時期と会期幅の調整が遅れるなどの連携不足が目立つ。それだけに重要法案の処理を順調に進められるかどうか、不安視する声が与党内から聞かれる。

以上の政治の動きを国民の側からみると、岸田政権は旧統一教会の問題では、実態を調べ、今後の対処方針を明確にして、ケジメをつけられるかどうか。

経済政策については、人気取りの予算のバラマキではなく、本当に必要とされる人たちへの支援になっているか。また、将来の経済社会の発展につながるのかを厳しく見極めていく必要がある。

臨時国会は、岸田政権のゆくえと同時に、安倍長期政権後の日本政治の方向を決める分岐点になるかもしれない。(了)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

国葬問題 ”検証と総括が必須”

安倍元首相の国葬が27日午後、東京都千代田区の日本武道館で行われた。式典には、海外からの700人を含め4100人余りが参列し、岸田首相や菅前首相らが追悼の辞をのべた。

このうち、岸田首相は「あなたは憲政史上最も長く政権にありましたが、歴史はその長さよりも、達成した事績によって記憶することでしょう」と安倍元首相の功績を称えた。

吉田茂元首相以来、55年ぶり2例目の国葬だが、国民の評価は分かれ、反対が賛成を上回る異例の事態となった。

加えて、この問題の背景には、旧統一教会と安倍元首相との関係、岸田政権の方針決定のあり方も絡んでおり、国葬と旧統一教会の問題は、”政権の喉に刺さったトゲ”のように見える。

それだけに国葬の式典は終わっても一件落着とはいきそうにない。秋の臨時国会では、岸田政権、与野党ともに「国葬問題の検証と総括」が問われる。

岸田政権は、この問題に真正面から対応しない限り、内閣支持率の回復は難しいのではないか。国葬が残した課題や政権への影響を考えてみたい。

 国葬 首相の説明・調整力に問題

さっそく、国葬が残した課題や政権への影響から、考えてみたい。まず、政府は国葬を閣議決定して実施したが、国民の評価は分かれ、報道各社の世論調査では、反対の方が多かった。

世論は、賛成が3割程度、反対が6割前後と多数を占めた。政府の説明が不十分との受け止め方が7割以上を占める点でも、各社の調査結果は共通していた。

次に岸田政権への影響では、内閣支持率が急落し、支持と不支持が逆転した。その理由は、国葬や旧統一教会の問題が影響しているものとみられる。

それでは、岸田政権の対応は、どこに問題があったのか。政界関係者の見方と世論調査のデータを総合して考えると、次のような点を指摘できる。

1つは、国葬の方針をいち早く決めた岸田首相の判断と対応だ。振り返ってみると、安倍元首相が銃弾に倒れた6日後、7月14日の記者会見で、いち早く表明した。

ところが、この方針は、政権の限られた関係者しか知らされておらず、法的な根拠をはじめ、国会の関与のあり方の検討も不十分などと批判を浴びた。

岸田首相としては、安倍元首相を強く支持した保守層を取り込みたいというねらいがあったのかもしれない。仮にそうだとしても、与野党の党首会談や国会への報告など理解を広げるための方法もあったはずで、浅慮と言わざるを得ない。

2つ目は、国葬の問題の背景には、旧統一教会と政治、特に自民党国会議員との関係がある。世論の側は、その中心に安倍元首相がいたのではないか、事実関係を知りたいという受け止め方が強かった。

これに対して、岸田首相は「本人が亡くなった今、実態を把握することには限界がある」として、調査は行わない考えを示し、世論の支持離れを招く要因になっている。

3つ目は、国葬や旧統一教会問題への対応の問題で、岸田首相は「真摯に受け止め、丁寧に説明する」との考えを繰り返した。ところが、国葬問題の国会での説明は、最初の方針表明から2か月後で、内容も従来の答弁の繰り返しに止まった。

このように岸田首相は、丁寧で低姿勢で対応するのはいいのだが、問題の核心に踏み込む説明がほとんどみられない。また、事態打開の調整や指導力がみられないことも大きな問題点として浮かび上がっているのが、今の状況だ。

 検証と総括、難題乗り切りの試金石

それでは、岸田政権のこれからの対応はどのようになるだろうか。政権の関係者は「政局より、政策だ。物価高騰、景気対策などを打ち出していく」と強調する。

これに対し、野党側は3日召集される臨時国会では、旧統一教会や国葬の問題を集中的に取り上げ、岸田政権を追及する構えだ。

世論の側は「疑惑も政策も両方をきちんとやって欲しい」との考えが多いと思われる。

このため、国葬や旧統一教会の問題について、逃げずに真正面から取り組まない限り、岸田政権が窮地を脱するのは難しい。検証と総括をやり抜くことが、カギになるとみている。

「喉元過ぎれば、熱さを忘れる」。日本人は、大きな出来事などで一時的に議論が盛り上がるが、問題点などを突き詰めないまま、別の問題に関心を移して忘れてしまう習性があるといわれる。

不得手な総括などをきちんと行えるのか。政権、与野党、メデイアが共通して問われる点でもある。

一連の問題の検証と総括は、物価高騰対策や補正予算案の編成、防衛力強化と予算の扱いなどこれから待ち受けている難問を乗り切っていけるのかの試金石ともいえる。

秋の臨時国会、それに安倍氏なき後の日本政治はどんな展開になるのか、注視していきたい。(了)

国葬問題 ”政権の調整力不足”

安倍元首相の国葬が27日に迫っているが、国民の理解が広がっていない。報道各社の世論調査によるとほとんどで「賛成」より「反対」が上回っている。

国葬を巡っては、さまざまな論点があるが、岸田政権の野党に対する働きかけや、国民に対する説得など政権の調整力不足が影響しているのではないかと感じる。

報道各社の最新の世論調査のデータを基に、国葬問題と岸田政権の対応について考えてみたい。

 国葬問題 国民の理解広がらず

さっそく報道各社の最新の世論調査の結果から、見ておきたい。◆毎日新聞が17,18両日行った世論調査では、国葬の賛否については「反対」が62%、「賛成」が27%となった。

◆共同通信が同じ日に実施した調査では「反対」が60.8%、「賛成」が38.5%。◆産経新聞の同じ日の調査でも「反対」が62%、「賛成」が32%だった。

国葬の評価をめぐって、NHKの世論調査では7月の調査では「評価する」が49%で、「評価しない」の38%を上回っていた。ところが、8月に逆転、9月は「評価しない」が57%、「評価する」が32%とその差が広がった。

このように安倍元首相の国葬については、国民の理解が広がっていないことが改めて浮き彫りになっている。

 国民への説明、政権の調整機能の弱さ

それでは、なぜ、国葬について、国民の理解が広がらないのか。先の世論調査では「政府の説明が不十分だ」「岸田首相の説明に納得できない」といった点を挙げる人が全体の6割から7割以上に上っている。

岸田首相は8日の国会での閉会中審査で、安倍元首相が憲政史上最長の任期を務めたことなど4項目を挙げて理解を求めたが、世論調査の結果は、こうした説明に国民の多くは納得していないことを示している。

具体的には、岸田首相がいち早く国葬とする方針を決めた理由は何か、歴代首相経験者と同じ「内閣と自民党の合同葬」ではいけないのか。

法的な根拠として、政府は内閣府設置法を挙げているが、国会で与野党の議論を経て決定するのが適切ではないか。国葬の場合、全額国費で賄うが、全体の経費をなぜ早く示せないのかといった点だ。

いずれも7月の時点から問題になっていた点だが、国会の閉会中審査で議論されたのは9月8日、あまりにも対応が遅い。しかも、岸田首相の説明は当初の4項目の繰り返しで、これでは国民の心に響かない。

国民の理解が広がらなければ、さらに追加の議論を深めることが必要だと思うが、そのような対応は行われなかった。

国葬をめぐっては、与野党の意見が対立していることに加えて、国葬への出席をめぐっては、野党内の対応にも違いがある。さらに世論の評価も分かれているのが実情だ。

こうしたときこそ、政治の側、中でも政権の最高責任者が主導権を発揮して調整機能を果たすことが必要だと考えるが、岸田首相はこうした対応を取らなかった。

国葬をめぐる分断は、政権が野党側に働きかけたり、国会での議論を通じて国民を説得したりする調整機能の弱さ、調整力不足が大きな要因というのが、私の見方だ。

 国葬問題、臨時国会で議論・総括を

さて、国葬については、岸田首相は14日の政府与党連絡会議で「案内状を順次発送しており、各国からの敬意と弔意に対し、礼節をもってお応えする」とのべ、粛々と執り行う考えを強調した。

内外から6400人が参加して盛大に営まれる見通しだが、国民の多数が必ずしも賛意を示しているわけではない状況をどう考えればいいのか、複雑な思いだ。秋の臨時国会では、遅ればせながらも国葬の課題や今後の対応などをきちんと議論して総括してもらいたい。

一方、この国葬問題は、旧統一教会を巡る問題とともに、岸田政権の政権運営に影響を及ぼしている。9月の世論調査の特徴は、岸田内閣の支持率が続落しているだけでなく、初めて支持と不支持が逆転した点だ。

◆9月中旬の朝日新聞の調査では、支持率が41%に対し、不支持率は47%で逆転した。◆毎日新聞では、支持率29%、不支持率64%。◆共同通信は、支持率40%、不支持率47%、◆産経は支持率42%、不支持50%となった。

岸田内閣の支持と不支持の逆転は、7月の参院選挙で大勝した岸田政権の状況が一変したことを意味する。10月3日に召集される秋の臨時国会では、与野党の激しい論戦が交わされる見通しだ。

さらに年末に向けては、物価の高騰対策と補正予算案の編成、コロナ感染対策の法整備、さらにはウクライナ情勢を受けて防衛費の増強という難題が控えている。

国葬や旧統一教会の問題で、岸田政権が国民の疑念や不信感を取り除くことができるかどうかは、難題乗り切りと政権の先行きを左右する大きなポイントとして、注目している。(了)

 

岸田政権”9月危機のゆくえ”

岸田内閣の支持率下落に歯止めがかからない。報道機関の世論調査でみると9月の内閣支持率は下落が続き、内閣発足以来、最低の水準に陥っている。

岸田政権は夏の参院選挙で勝利したのを受けて、7月の内閣支持率は政権発足以降、最高を記録したが、わずか2か月で真っ逆さまに急落した。

理由は、はっきりしている。安倍元首相の国葬と、旧統一教会問題への政権の対応に、国民の厳しい評価と批判が集中しているためだ。

あと半月で、政権発足以来1年の節目を迎えるが、今の状態が続くと岸田政権は低空飛行へと転じる可能性がある。世論調査のデータを基に岸田政権の現状と今後を探ってみる。

 参院選後、政治資産3分の1失う

最初に、岸田内閣の支持率を見ておきたい。NHKの9月の世論調査によると岸田内閣の支持率は40%で、先月から6ポイント下がり、内閣発足以来最低となった。

不支持率も40%で、先月から12ポイントも増加し、内閣発足以来、最も高い水準になった。岸田内閣の不支持率は、2割台と低いのが特徴だったが、先月から一気に倍増した。

内閣支持率は毎月の数字の変動だけでなく、全体の流れと意味を読み取ることが重要だ。岸田政権は7月の参院選挙で勝利したのを受けて、直後の内閣支持率は59%と発足以来、最高を記録した。

ところが、8月は46%、9月は40%と下落を続け、最低の水準まで落ち込み、ついに支持と不支持が並んだ。

7月の参院選挙を起点にみると岸田内閣の支持率は59%から40%へ、2か月で19ポイントも急降下し、減少幅は32%にもなる。

別の表現をすれば、選挙の勝利などで得た”政治資産”の3分の1を2か月で失ったことになる。

ほぼ同時期に実施した朝日新聞の世論調査では、支持率は発足以来最低の41%、不支持は47%に増え、初めて不支持が支持を上回った。岸田政権をとりまく政治状況は、9月に一変した。

 国葬、旧統一教会問題が政権直撃

岸田政権の支持率急落の理由・原因は何か。世論調査の中身をみると安倍元首相の国葬と、旧統一教会の問題が大きく影響したことが読み取れる。

NHK世論調査のデータでは◆国葬を「評価する」は32%に対し、「評価しない」は57%で多数を占めた。7月時点では「評価する」が49%、「評価しない」が38%だったのが、逆転した。

◆政府の国葬の説明については「十分だ」が15%に対し、「不十分だ」が72%にも達する。

◆旧統一教会の問題については、自民党は党所属の国会議員との関係を点検し公表したが、この対応について「十分だ」が22%に対し、「不十分だ」が65%に上った。

 内閣改造、首相説明も効果なし

岸田政権の対応はどこに問題があったのか、今後の政権のゆくえを考えるうえでポイントになる。

途中経過は省略して結論を率直に言わせてもらうと、初動から状況の認識や判断に問題がある。同時に、問題があれば直ちに軌道修正すべきだが、機動的な対応ができていない。

国葬問題についていえば、岸田首相は、安倍元首相が凶弾に倒れた6日後の7月14日には、いち早く「国葬」とする方針を表明した。表明する前に、与野党の党首会談を呼び掛けたり、国会の議院運営委員会で状況報告をしたりすることは考えなかったのか。

あるいは、表明後も8月3日に召集された臨時国会の会期を短期間延長して、質疑を行うことはできなかったのか。その後、国葬をめぐる閉会中審査を行うことで与野党は合意したが、実際に行われたのは9月8日、首相の表明から2か月後だ。

旧統一教会をめぐる問題でも政府は8月15日、閣僚ら政務三役との関係について「個人の政治活動に関するもので、調査を行う必要はない」とする答弁書を閣議決定した。

ところが、閣僚ら三役をはじめ、党所属議員の旧統一教会との接点が次々と明るみになり、党所属国会議員の点検結果を取りまとめ、公表することに追い込まれた。

このように対応が後手に回り、対応策を小出しにする手法に問題があるのは事実だが、根本は、問題が発生した時にどの程度広がりを見せるのか、状況の判断ができていない。

また、機動的に対応策を打ち出していく姿勢に欠けている。その結果、国民への説明は、常に後回しになる。

9月の世論調査では、もう1つ大きな問題が浮き彫りになった。岸田政権は内閣支持率の低下を打開するため、お盆休み前の8月10日に内閣改造・自民党役員人事を前倒しして断行した。

続いて、9月に入って、岸田首相が自ら国葬に関する閉会中審査に出席するとともに、自民党が党所属の国会議員の自己点検結果の公表に踏み切った。

ところが、内閣改造後は一時的でも支持率が上昇するが、今回は下落するという異例の事態が起きた。旧統一教会をめぐる自民党の点検結果の公表後でもに「対応が不十分」とする受け止めが65%にも上った。

いずれのカードとも、事態の鎮静化はできず、政権の浮揚も不発に終わったことがはっきりした。

 世論の支持離れか、事態打開へ動くか

それでは、岸田政権は今後、どのように対応するのだろうか。このまま、手をこまねいていると、世論の岸田政権離れはさらに進むことが予想される。

もう1つは、遅きに失した感はあるが、国葬問題、旧統一教会問題について、世論の理解を得る取り組みを行うかどうかだ。

そのためには、国民の疑念を晴らす取り組みが必要だ。具体的には、旧統一教会とのつながりが深いとされる安倍元首相はどんな関係にあったのか。

また、細田衆院議長は最大派閥の会長時代に接点があったとされるのになぜ、点検対象にならないのか。議長職でも所属会派からの離脱であれば、離脱前の行動を確認するのに問題はないと考えられる。

さらに、岸田政権の中枢の存在である木原官房副長官は、旧統一教会との関係で報告漏れがあり、追加の報告をした。

このほか、旧統一教会との接点があるのに氏名が公表されていない国会議員の存在も指摘されている。要は、岸田首相が派閥の論理に縛られず、事実関係をきちんと調べ、説明責任を果たす覚悟はあるのか、国民は見極めようとしている。

国葬の問題についても岸田首相は丁寧な説明を強調するが、同じ内容の繰り返しに止まり、与野党の意見の対立を打開する内容を示せないのが大きな問題点だ。

今後、野党側から要求のあった国葬の判断基準を検討したり、首相経験者の葬儀の扱いをどのようにするかなど接点を探る動きが出てくるのか、注目される。

以上、見てきたように岸田政権を取り巻く情勢は厳しさを増しているが、自民党内から”岸田おろし”を求める動きは出ていない。

但し、現状のまま推移すれば、岸田政権は世論の支持離れが進み、低空飛行政権へと変わる公算が大きいのではないか。臨時国会の召集前に岸田政権は、新たな行動を起こすことはあるのかどうか、正念場を迎えている。

 

「国葬」国会議論深まらず

安倍元首相の「国葬」をめぐり、国会では8日、岸田首相が出席して衆参両院で閉会中審査が初めて行われた。

野党側は、なぜ、国葬の方針を決めたのかなどを追及したが、岸田首相は従来の説明を繰り返し、議論は深まらなかった。

また、安倍元首相と旧統一教会の関係について、岸田首相は「実態を十分に把握することは限界がある」とのべるに止まった。

岸田首相は国会への出席で、説明責任を果たしたことをアピールしたい考えだが、こうした答弁では国民の納得を得るのは難しいのではないか。

安倍元首相の国葬問題について、主な論点と今後の対応のあり方などを点検してみたい。

 なぜ国葬か?新たな説明見られず

国葬問題をめぐって、国民が知りたいのは、なぜ、国葬にする方針を決めたのかという点だ。国葬は52年前、吉田茂元首相の1件だけで、それ以外の大平、中曽根、小渕の歴代首相は、内閣と自民党の合同葬で行ってきたからだ。

岸田首相は、安倍氏の首相在任期間が8年8か月で、憲政史上最長だったことや、民主主義の根幹である選挙の最中に非業の死を遂げたことなど従来から説明してきた4点を挙げて、国葬とする方針は適切だったと強調した。

これに対し、野党側は、内閣と自民党合同葬はダメで、国葬でなければならない理由の説明になっていないと質したが、岸田首相の説明はなかった。

また、野党側が、国葬にした法的根拠を質したのに対し、岸田首相は、内閣府設置法で、国の儀式は閣議決定でできるとして、問題はないとの考えを示した。

さらに、野党側は、国葬の方針を決める前に、国民の代表で構成される国会で議論したり、与野党の党首会談に諮ったりすべきではないか。今後、首相経験者が死去した場合の扱いの基準や法整備を検討すべきではないかなどと質した。

こうした点について、岸田首相は「国葬は、行政権に属する」などとかわした。このように岸田首相の答弁は、従来の説明の繰り返しに止まり、国民の理解を得るための新たな視点や取り組みについて、踏み込んだ説明はみられなかった。

 国葬の費用 16.6億円改めて説明

第2の論点は、国葬にかかる費用の問題だ。コロナ感染の長期化や物価高騰などで国民生活が厳しくなっている中で、国葬の費用は妥当なのかという問題だ。

この点について、松野官房長官が会場の設営費に加えて、警備や海外要人の接遇費用などを合わせて、16億6000万円程度を見込んでいることを改めて説明した。

そのうえで、岸田首相は「過去のさまざまな行事などとの比較においても妥当な水準だと考えている」と理解を求めた。

野党側は「政府は当初、会場設営費など2兆5000万円しか公表していなかった。費用を小さく見せようとしているのではないか」と批判している。また、今後、費用が膨らむ可能性もあるとして、監視を強めていくことにしている。

 安倍氏と旧統一教会「把握、限界」

第3の論点は、安倍元首相と旧統一教会との関係だ。立憲民主党の泉代表は「自民党内を取り仕切ったキー・パーソンが、安倍元首相だ。党の調査対象から、なぜ、外しているのか」と追及した。

これに対し、岸田首相は「ご本人が亡くなられており、今の時点で実態把握には限界がある。自民党としては点検結果をとりまとめ、社会的に問題のある団体と関係を持たないことを徹底し、国民の信頼回復に努めたい」と理解を求めた。

統一教会との関係をめぐって、自民党は夕方、所属する国会議員全体の半数近くにあたる179人が何らかの接点があったことを明らかにした。また、選挙で支援を受けるなど一定以上の関係を認めた121人の氏名も公表した。

この調査は、国会議員個人の自主点検の結果をとりまとめたものだ。選挙や日常の政治活動でどこまで密接な関係があったのかなどの実態は明らかにされていないが、旧統一教会側が幅広く浸透していたことが浮き彫りになった。

安倍元首相の国葬をめぐって、報道各社の世論調査では、賛否が分かれているが、ほとんどの調査で賛成より、反対の方が上回っている点で共通している。

政府の対応をみていると岸田首相が、国葬とする方針を記者会見で表明したのが、銃撃事件発生から6日目の7月14日で異例の早さだった。

ところが、その後は国会の閉会中審査は先送りし、世論調査で支持率急落を受けて、8月31日の記者会見で急遽、国会出席を表明するなど後手の対応が続いた。

今回、国会の閉会中審査がはじめて行われたが、岸田政権はこれで一件落着と再び、先送りするような対応はやめた方がいい。

国会の議論で明らかになった論点を整理し、与野党をはじめ、国民の多くの賛成を得て葬儀を円滑に実施できるよう環境整備に最後まで努力すべきだ。今一度、これまでの対応を再点検し、国会で議論を深める懐の深い対応が必要ではないかと考える。(了)

 

 

 

岸田政権と9月政局のゆくえ

岸田政権は来月4日に政権発足から1年を迎えるが、ここにきて内閣支持率が急落し、政権発足以来最低の水準が続いている。

凶弾に倒れた安倍元首相の葬儀を国葬とする政府方針の是非をはじめ、旧統一教会と新たに任命した閣僚など政務三役や自民党議員の関係が次々に明るみなり、世論の厳しい批判を浴びているためだ。

岸田首相は近く自ら国会の閉会中審査に出席し、国葬を決断した理由などについて説明する方針だが、野党側は国葬にかかる費用の全体を明らかにするよう求めるなど対決姿勢を強めている。

こうした岸田首相の説明で、事態を沈静化できないと秋の臨時国会だけでなく、今後の政権運営にも大きな影響が予想される。岸田政権のゆくえを左右する9月の政治の動きを探ってみる。

 9月の政治・外交日程 閉会中審査も

まず、9月の主要な政治・外交日程を見ておきたい。国会の動きでは、◆焦点の安倍元首相の国葬をめぐる閉会中審査を8日以降に行う方向で、与野党の調整が進められている。

◆旧統一教会の問題では、自民党が党所属国会議員に求めていた旧統一教会との関係について、10日までの週内に公表される見通しだ。

◆安倍元首相の国葬は9月27日に行われる予定で、この前後に海外から来日した各国首脳と岸田首相との弔問外交が行われる。

◆一方、秋の国連総会が開幕し9月下旬に岸田首相が演説する。◆29日は、日中国交正常化から50年の節目を迎える。

◆このほか、11日は沖縄県知事選の投開票日で、現職と新人3つ巴の選挙戦に決着がつく。◆25日には、公明党大会で新代表が決まる。◆今月末には、秋の臨時国会が召集される見通しだ。

このように秋の政治が本格的に動き始めるが、今年は、安倍元首相の銃撃事件がさまざまな分野に影響を及ぼしている。

特に安倍元首相の国葬と、銃撃事件をきっかけに急浮上した旧統一教会の問題が岸田政権を直撃しており、この問題が秋の政局を大きく左右する見通しだ。

 旧統一教会問題、自民の点検結果は

国葬と旧統一教会の問題で、岸田首相は厳しい状況が続いている。先月末の記者会見で岸田首相は、閣僚などを含む自民党議員と旧統一教会との関係が明らかになっていることを陳謝し、「旧統一教会との関係を断つよう徹底する」と表明した。

また、国葬については、国会の閉会中審査に自ら出席し、説明する考えを明らかにした。こうした方針は当然と思えるが、決定まで1か月半もかかった。

この問題、野党側は「自民党の対応は、議員個人の点検に委ねており、党の調査としては不十分だ」として、厳しく追及する構えだ。

国葬についても法的な根拠が明確でないことに加え、全体の費用がどの程度になるのかも明らかになっていないとして、批判を強めている。

今後の展開はどのようになるか。自民党の点検結果は、当初6日に公表する予定だったが、遅れている。10日までの週内には公表される見通しだ。

野党側は、最も深く関係していたとされる安倍元首相をはじめ、自民党の萩生田政調会長、山際経済再生担当相をターゲットに追及を強めることにしている。

このように一連の問題をめぐっては、自民党の点検結果で、どこまで事実関係が明らかにされるかが焦点だ。与野党の主張や論点などには隔たりが大きいことから、事態が沈静化する公算は極めて小さいとみられる。

 政権浮揚か、低空飛行政権かの岐路

それでは、岸田政権や政局にどんな影響が出てくるか。岸田内閣の支持率は、NHK世論調査で、参院選の大勝を受けて7月は59%と政権発足以来最高となった。ところが、8月上旬の調査では46%と13ポイントも下落、発足以来最低の水準になった。

続いて、8月10日の内閣改造直後に行われた読売新聞の調査では、前回調査から6ポイント下がって51%で過去最低。8月末の朝日新聞の調査でも前回から10ポイント下落の47%、不支持率は14ポイント増の39%で、発足以来最高となった。

報道各社の世論調査で共通しているのは、8月に入って内閣支持率の急落が続いていること。その理由としては、旧統一教会の問題について、政府や自民党の説明が不十分だと受け止められていることが挙げられる。

安倍元首相の国葬方針についても「賛成」より「反対」が多い点で共通している。岸田首相が政権の浮揚をねらって断行した内閣改造・自民党役員人事は、不発に終わったといえる。

自民党長老に岸田政権の評価を聞いてみると「去年秋の衆院選に続いて、夏の参院選でも大勝し、政権は安定するはずなのに足元が揺らいでいる。旧統一教会の問題もあるが、コロナ感染爆発が起きているのにメッセージすら出せていない。やるべきことができていない」と指摘する。岸田首相の発信力や指導力に問題があるとの厳しい評価だ。

旧統一教会の問題が沈静化できない場合は、秋の臨時国会の本番では、野党側がこの問題を集中的に取り上げ「旧統一教会国会」になるのではないかという見方も聞かれる。

臨時国会では、物価高騰やエネルギー対策、経済・暮らしの立て直しと補正予算案の編成、衆議院の1票の格差是正の「10増10減案」などの懸案が控えている。こうした懸案処理に影響が出てくることも予想される。

このようにみてくると当面の焦点は、岸田首相が旧統一教会や国葬の問題で、国民の疑念を晴らし、信頼回復へこぎつけられるかどうかが、カギになる。

そのためには、国会論戦には逃げの姿勢ではなく、積極的な姿勢で臨み、焦点の旧統一教会の問題には、安倍元首相の関係を含め事実関係を明らかにしていくこと。国葬の問題も全額を国費でまかなう以上、費用全体のメドは明らかにすることは必要ではないか。

そのうえで、コロナ対策や防衛力の整備、経済再生などに向けて、岸田首相自らがやり遂げたい政治課題を明確に打ち出すことが必要ではないかと考える。

旧統一教会など問題は、政治や政権のあり方などに大きな影響を及ぼす。難題を数多く抱える中で、岸田政権は安定した政権運営を取り戻せるのか、それとも国民の失望を買い、内閣支持率が落ち込み、低空飛行を続けることになるのか、岐路に差し掛かっている。岸田首相の判断を注視したい。(了)

 

 

 

 

 

立民、維新 ”戦略的連携”はできるか

先の参議院選挙で敗北した立憲民主党は26日、岡田幹事長らベテランを重視した新たな執行部を発足させた。一方、選挙で躍進した日本維新の会は27日、初の代表選挙を行い、新たな代表に馬場・共同代表を選出した。

これで参院選挙後の野党陣営の体制がそろったことになるが、国民の強い関心や期待を得られるかどうか、個人的にはかなり難しいとみる。

というのは、国民の側からみると岸田政権も頼りないが、野党側はそもそも何をめざしているのかわからないといった厳しい受け止め方が強いからだ。

結論を先に言えば、立憲民主党と維新は”水と油”のような関係にあるが、国会対策を中心に”戦略的連携”で足並みをそろえ、巨大与党に対決できる状況をつくることができるかが、大きなカギを握っているのではないか。

この連携ができないと、仮に政権与党が失速したとしても、野党側に展望は開けないのではないか。連携は可能なのかどうか、世論の動向なども踏まえて考えてみたい。

 立民と維新、執行部刷新効果の現実

立憲民主党の新しい体制は、泉代表はそのままで、幹事長に岡田克也・元副総理、国会対策委員長に安住淳・元財務相、政調会長に長妻昭・元厚労相を起用した。民主党政権当時、要職を占めたベテランが多数起用されたのが特徴だ。

日本維新の会は、創設時から10年、中心的な存在だった松井一郎代表が退任することになり、初めて行われた代表選挙で、共同代表を務めてきた馬場伸幸氏が有効投票の8割近くを獲得して新代表に選出された。ただ、松井氏に比べると存在感や発信力が弱いのも事実だ。

それぞれの党の支持者は、新執行部が野党第1党としての役割を強めたり、新たな第3極として勢力を結集したりすることに期待を寄せていると思う。

国民はどのように見ているか、28日に朝日新聞の世論調査の結果が報道されているので、そのデータを材料に考えてみたい。

この世論調査は27,28の両日行われ、野党の新執行部の評価の質問はないが、政党支持率が参考になる。自民は34%、公明は4%に対し、立民は6%で、先月調査と同じ水準。維新は5%で、2ポイント減少。そのほかの野党各党も先月と同じか、1ポイント減で、大きな変動は見られない。

野党の新執行部は発足した直後で、十分浸透していないとの反論も予想されるが、このデータを見る限り、新執行部の刷新効果は現れていない。

一方、自民党の支持率34%は、先月との比較で2ポイント減少。無党派層は39%で、先月の28%から11ポイントも急増しているのが大きな特徴だ。旧統一教会と政治の関係が次々に明るみになっていることが影響しているものとみられる。

つまり、自民党からの支持離れを含めて無党派層が大幅に増えているが、野党支持の拡大にはつながっていない。今の野党のままでは、期待や魅力が乏しいという受け止め方の反映ではないか。この現実を踏まえて、どう対応するかが問われている。

 戦略的連携、政治の流れ変えられるか

それでは野党側は、具体的にどんな対応が必要なのか。各党ともそれぞれの党の理念、重視する政策に磨きをかけるのは当然だが、国民の関心や期待を得るための取り組み方もカギになる。

先の政党支持率に端的に現れているように自民党と野党第1党の支持率を比較すると34%対6%、5分の1以下の大差がついている。「自民1強、多弱野党」の構造を多少でも変えないと、国民の関心を高めるのも難しい。

今の野党の構造は、立憲民主党は共産党などとの協力はできても、国民民主との距離は離れたままで、野党全体をまとめきれていない。

日本維新の会は、松井前代表と安倍元首相や菅前首相との関係が強かったが、立憲民主党とは対立が目立ち、野党の分断状態が続いてきた。但し、維新にとっても岸田政権発足後は政権側と太いパイプはなく、状況が変わってきた。

そこで、立民、維新ともに、従来の関係をそのまま続けていくのか、それとも新たな関係構築の道を模索するのか、2つの選択肢がある。

もちろん、立民、維新両党は、それぞれの党の理念や、憲法、外交・安全保障、原発などの主要政策では大きな開きがある。そうした違いを認めた上で、野党の存在感と力を強めることを目標に「戦略的な連携」に踏み出す道がある。

具体的には、国会対策を中心に臨時国会の早期召集をはじめ、会期幅の設定、予算委員会などの審議日程の確保、さらには個別の政治課題や法案の扱いなどについて、野党全体の要求をまとめ、実現していくことが考えられる。

こうした取り組みで、国会審議に緊張感をもたらしたり、重要法案の修正を実現したりして、政治の変化につなげていくことも考えられる。

無党派層が28%から39%へ11ポイント増えたということは、日本の有権者数は1億人なので、ざっと1100万人が政治の立ち位置を変えたことを意味する。

野党陣営は、戦略的連携で政治の流れに変化を求める有権者を生み出し、そのうえで、自らの支持につなげていく2段階の新たな取り組みが問われているのではないかと考える。

 難題乗り切り 臨時国会の対応注視

報道各社の世論調査で、岸田内閣の支持率急落が続いている。最新の朝日新聞の世論調査では、岸田内閣の支持率は47%で、先月の前回調査から10ポイントも下落。不支持は39%で、14ポイント増加している。

旧統一教会と現職の閣僚など政務3役、それに自民党議員の関係が明らかになっていることが影響しているものとみられている。

来月27日には、安倍元首相の国葬が予定されており、近くこの問題の閉会中審査が予定されている。秋の臨時国会では、旧統一教会の問題やコロナ対策、経済の立て直しと補正予算案の扱い、防衛力整備の進め方など難題が目白押しだ。

国民の側が最も困るのは、与野党が対立して難題の解決が一歩も進まないことだ。秋の臨時国会では、与野党が真正面から議論を尽くし、場合によっては法案の修正などで歩み寄り、難題処理の具体的な成果を見せてもらいたい。(了)