岸田首相が夏休みを終えて公務に復帰する前日の20日夕方、新型コロナに感染したことが確認された。一夜明けた22日から、首相公邸に止まりオンラインで公務を始めたが、現職首相のコロナ感染は初めてで、波紋が広がっている。
一方、岸田内閣の支持率が、報道機関の世論調査で急落していることが明らかになった。内閣改造を行った直後に内閣支持率が下がるケースは少なく、岸田政権に逆風が強まっている。
岸田首相のコロナ感染と内閣支持率の急落で、岸田政権は何が問われているのか、探ってみる。
首相のコロナ感染 政権対応力に懸念
岸田首相のコロナ感染の経緯については、既に詳しく報道されているので繰り返さないが、感染判明から一夜明けた22日、松野官房長官は記者会見で次のように説明した。
岸田首相の症状は「22日朝の時点で平熱に下がり、テレワークなども活用し、ほぼ予定通りに執務にあたっている」と説明した。そのうえで「岸田首相は夏休み期間中も他人と接触する場合は、常にマスクを着用するなど適切な感染対策に務めてきた」と釈明した。
岸田首相の感染経路はわからないが、感染爆発が収束せず、医療のひっ迫が続く中で、コロナ対策の最高責任者が罹患し、公邸で事実上、隔離状態に追い込まれた責任は重い。
首相官邸では、この夏、松野官房長官に続いて、島田隆政務秘書官ら3人の首相秘書官が相次いでにコロナに感染した。個別の問題といってしまえばそれまでだが、安倍、菅両政権では見られなかった事態が起きている。
首相の健康管理は、危機管理の基本中の基本だ。首相官邸では、基本的な感染対策はどうなっているのか、疑問に感じる人は少なくないのではないか。
岸田政権は、安倍元首相の銃撃事件をめぐる警備の不手際をはじめ、追悼演説の先送りや国葬の扱い、さらにコロナ感染者の全数把握の問題などを抱えたまま、結論を出せない状態が続いている。
首相のコロナ感染は、感染対策に限らず、政権を取り巻くさまざまな懸案を連想させる。この政権に懸案を乗り越える対応力はあるのか、懸念を生じさせる点が意外に大きいのではないかと感じる。
支持率低下”為すべきことを為さず”
岸田内閣の支持率については、読売新聞と日経新聞が先の内閣改造後の今月10、11の両日に行った世論調査で、いずれも支持率が下落し、政権発足以降最低の水準になった。
続いて、今月20、21の両日に行われた毎日新聞の世論調査で、岸田内閣の支持率は36%、前回調査から16ポイントも下落した。不支持は54%で、17ポイント増加し、支持と不支持が逆転した。
こうした各社の調査で、支持率下落の要因としては「世界平和統一家庭連合」(以下、旧統一教会)と、閣僚など政務三役、それに自民党議員の関係が次々に表面化していることが影響している点で、共通している。
また、毎日新聞の調査では、旧統一教会との関係について「極めて問題がある」64%、「ある程度問題がある」が23%で、合わせて9割近い人が、問題ありと受け止めている。
政府・自民党は、反社会的な行動を続けている旧統一教会との関係が指摘されながら、実態の調査や説明もしようとしない姿勢に、世論の側は極めて強い不信感を抱いていることが読み取れる。
一方、コロナ対策についても、感染爆発が続き、医療現場がひっ迫、死者も第6波のピークに迫る高い水準が続いているのに、政府から新たな対策やメッセージが出されない点を厳しく批判する声が聞かれる。
さらに来月27日には、安倍元首相の国葬が予定されているが、政府・与党は、国会の閉会中審査にも応じていない。世論調査では、政府の国葬方針について、反対が賛成を上回る調査結果がほとんどだ。
このように政府・自民党の一連の対応は「為すべきことを為さず、説明すら行わない姿勢」に見える。この点に世論は憤りを感じており、支持率急落の原因は、はっきりしている。
そこで、岸田首相がどこまで世論を納得させる具体策を打ち出すのかが、焦点だ。野党側は、臨時国会を早期に召集するよう申し入れている。
政府・与党の執行部はこれまで臨時国会を早期に開けば、野党に追及の場を与えるだけだとして、引き延ばし戦術をとることが多かった、しかし、今の世論の動向から判断すると、そうした対応で切り抜けるのは難しい情勢だ。
焦点の統一教会の問題は、実態調査とそれに基づいて、どのような方針で臨むのか具体策をはっきりさせることが必要だ。
そのうえで、当面するさまざまな問題について、逃げずに正々堂々、国会論戦を通じて国民に説明し、事態を打開する道を探る必要があるのではないか。
岸田首相は、30日まで公邸からオンラインで公務を続け、31日から通常の職務に戻る予定だ。岸田首相が事態打開に向けて、主導権の発揮に踏み出すのかどうか、注視したい。(了)