参議院選挙の終盤の情勢について、メディア各社の分析が6日までに出そろい、各党の獲得議席を予測している。
去年秋の衆議院選挙では、メディアの予測が大きく外れた。政権与党・自民党の獲得議席をめぐって、過半数をめぐる接戦と予測したが、結果は安定多数の議席を確保した。予測の範囲内に収まらなかったメディアもあった。
今回の参院選では、メディアの予測は当たるだろうか。正確な予測のためには、何が必要なのか。一方、国民の側も予測の意味や活用の仕方などを考えておく必要があるのではないかと感じる。メディアの予測報道のあり方を取り上げる。
予測 ”与党改選議席の過半数超え”
メディア各社の予測報道の内容を確認しておきたい。ここでは、長年選挙報道を続けている読売、毎日、朝日3社の「終盤情勢」を基に分析してみたい。(毎日は「中盤情勢」としており、「終盤情勢」は今後、出される見通し)
▲参院選挙は改選と非改選とに分かれるのをはじめ、少数の党派も多くて複雑なので、政権与党の自民党を中心にみていきたい。3社の各党の獲得議席の予測は次のようになっている。
◆読売、自民55~65「与党改選過半数の勢い」。◆毎日、自民53~66「与党堅調、改選過半数に届く見通し」、◆朝日、自民56~65「自公、改選過半数の勢い維持」となっている。
▲野党側については、◆読売と朝日は、立憲民主党は改選議席23を割る可能性があること。維新は改選議席6から大幅に伸ばし、比例代表では立民を上回る可能性があるとしている。
▲一方、選挙結果によっては、選挙後、憲法改正の動きが加速する可能性がある。憲法改正に前向きな勢力、自民、公明、維新、国民の4党が改正発議に必要な「3分の2」を確保するかどうかも大きな焦点だ。
◆朝日と毎日は、4党が「3分の2」を超える可能性があるとしている。
このように自民、公明の与党は、改選議席125の過半数を上回る勢いにあること。野党側は、立民が伸び悩む一方、維新が議席を増やす見通しで、比例代表選挙で接戦を繰り広げているという見方では、ほぼ一致している。
予測当たる公算大、情勢調査に課題
さて、こうした予測は当たるかどうか。結論を先に言えば、私も前号のブログで明らかにしたように「与党で改選議席の過半数を上回る」との見方をしており、予測は当たる可能性が大きいとみている。(前号7月1日「与党優勢、波乱は物価高騰、参院選」)
その理由は、今回の選挙は野党共闘が崩れたことで、与野党の力の差が広がり、選挙情勢が読みやすくなったことがある。
また、「情勢調査」、選挙の勝敗に重点を置いた世論調査のことだが、衆議院の小選挙区に比べて、参院選の選挙区は、都道府県単位で対象が広いので、有権者の状況を把握しやすい。比例代表は、全国が選挙区なので、さらに全体の傾向をつかみやすい。
端的に言えば、世論調査のサンプル数が衆院選に比べて、集めやすいし、精度も高くなる。したがって、予測も当たる可能性が大きいという事情がある。
それでも「情勢調査」ですべてがわかるわけではない。具体的には、選挙区選挙で、焦点の全国で32ある「1人区」の結果は、全体の勝敗を左右するが、メディア各社で勝敗の予想でかなりの違いがある。
例えば、読売は、野党系がリードしている選挙区は1つで、接戦選挙区が12、残りは自民リードとみている。毎日は、接戦区は5から、8に増えたとの判定。朝日は、野党系候補が有利な情勢にあるのは2つ、接戦区は6から、2に減少したとの判断だ。
私は、1人区は、接戦区のうち5つ程度は開票してみないとわからないほどの激戦になるのではないかという見方をしている。物価高騰、コロナ感染再拡大などの不確定要素もある。加えて、もう一つ「情勢調査方法の違い」が影響しているのではないかとみている。
というのは、この「情勢調査」は去年の衆院選挙から大きく変わり、社によって調査方法が異なる移行期・試行錯誤の段階にあると思う。
具体的には以前は、各家庭にある固定電話をかける方式だったが、固定電話を持っている家庭自体が少なくなり、先の衆院選挙から、固定電話だけの情勢調査方式は姿を消した。
今はメディアによって、◆固定電話と携帯電話の両方を組み合わせた方式(読売など)。◆民間大手の携帯会社のインターネット会員を対象にした調査方式(毎日など)。◆固定電話と携帯電話、それにインターネット調査会社4社に委託して実施する調査の組み合わせ(朝日)など様々だ。
したがって、どの社の方式が選挙結果に近いデータを得られたかなどを見極める必要がある。
一方、メディア各社は、企業秘密もあるだろうが、データをできるだけ公開して説明してもらいたい。「情勢調査のあり方」が選挙後、新たな課題になりそうだ。
予測の意味と活用の仕方がカギ
選挙予測については、国民の側も予測報道の意味や、活用方法などを考える必要があると思う。
どういうことかと言えば、報道機関は正確な報道を行うことが第1の役割だ。そのうえで、有権者の側に「投票に当たって判断材料の1つとして、選挙結果の見通しを知っておきたい」という要望に応えたいという考えがある。
政治にできるだけ民意を反映させるためにメディアの予測報道は意味があり、必要だと個人的には考えている。
このため、どのメディアの予測が当たったか、外れたかをことさら強調するのは、あまり意味がないと考える。
それよりも、メディアが選挙の争点をはじめ、政策の評価、選挙後の与野党の勢力の見通しなど国民に可能な限り多くの判断材料を提供するよう叱咤激励する方が生産的で望ましいことではないかと考える。
出口調査と選挙報道の充実を
最後に「出口調査」についても触れておきたい。選挙の正確な報道という観点からすると、出口調査が最も正確なデータを得ることができると考える。
現役時代、NHKで政治記者と解説委員として選挙報道に携わった。出口調査は、実際に投票を済ませた有権者を対象にしているので、世論調査・情勢調査に比べて、予測の精度が各段に高くなるというのが実感だ。
但し、問題点もある。1つは、おカネがかかり、億単位の予算が必要になる。もう1つは、最近は期日前投票が増えてきたので、期日前投票も含めた出口調査を十分に行えるのか、調査員の確保などの面で難しい問題がある。
こうした問題はあるが、出口調査は、当落を判定するだけでなく、国民は何を重視し、何を選択したか有権者の投票行動の意味も正確に把握できる。それを選挙後、政治の側にぶつけたりすれば、さらに大きな意味を持つ。
選挙報道は、選挙の勝敗だけでなく、有権者の投票行動などを多角的に分析した中身の充実が問われている。
率直に言わせてもらうと以前に比べると、こうした点は各社とも弱体化しているのではないか。選挙のプロと言われる記者、世論調査や出口調査の分析などに当たる専門家も少なくなった。
こうした背景には、メディア各社の経営陣の資質や責任が大きいと個人的にはみている。
一方、現役の記者、編集委員、解説・論説委員などの諸氏も今回の選挙の意味、政治の側の役割、能力などの課題、問題を深く分析、論評してもらいたい。10日の投開票日の報道や論評に期待したい。(了)