参院選、メディアの予測は当たるか?

参議院選挙の終盤の情勢について、メディア各社の分析が6日までに出そろい、各党の獲得議席を予測している。

去年秋の衆議院選挙では、メディアの予測が大きく外れた。政権与党・自民党の獲得議席をめぐって、過半数をめぐる接戦と予測したが、結果は安定多数の議席を確保した。予測の範囲内に収まらなかったメディアもあった。

今回の参院選では、メディアの予測は当たるだろうか。正確な予測のためには、何が必要なのか。一方、国民の側も予測の意味や活用の仕方などを考えておく必要があるのではないかと感じる。メディアの予測報道のあり方を取り上げる。

 予測 ”与党改選議席の過半数超え”

メディア各社の予測報道の内容を確認しておきたい。ここでは、長年選挙報道を続けている読売、毎日、朝日3社の「終盤情勢」を基に分析してみたい。(毎日は「中盤情勢」としており、「終盤情勢」は今後、出される見通し)

▲参院選挙は改選と非改選とに分かれるのをはじめ、少数の党派も多くて複雑なので、政権与党の自民党を中心にみていきたい。3社の各党の獲得議席の予測は次のようになっている。

◆読売、自民55~65「与党改選過半数の勢い」。◆毎日、自民53~66「与党堅調、改選過半数に届く見通し」、◆朝日、自民56~65「自公、改選過半数の勢い維持」となっている。

▲野党側については、◆読売と朝日は、立憲民主党は改選議席23を割る可能性があること。維新は改選議席6から大幅に伸ばし、比例代表では立民を上回る可能性があるとしている。

▲一方、選挙結果によっては、選挙後、憲法改正の動きが加速する可能性がある。憲法改正に前向きな勢力、自民、公明、維新、国民の4党が改正発議に必要な「3分の2」を確保するかどうかも大きな焦点だ。

◆朝日と毎日は、4党が「3分の2」を超える可能性があるとしている。

このように自民、公明の与党は、改選議席125の過半数を上回る勢いにあること。野党側は、立民が伸び悩む一方、維新が議席を増やす見通しで、比例代表選挙で接戦を繰り広げているという見方では、ほぼ一致している。

   予測当たる公算大、情勢調査に課題

さて、こうした予測は当たるかどうか。結論を先に言えば、私も前号のブログで明らかにしたように「与党で改選議席の過半数を上回る」との見方をしており、予測は当たる可能性が大きいとみている。(前号7月1日「与党優勢、波乱は物価高騰、参院選」)

その理由は、今回の選挙は野党共闘が崩れたことで、与野党の力の差が広がり、選挙情勢が読みやすくなったことがある。

また、「情勢調査」、選挙の勝敗に重点を置いた世論調査のことだが、衆議院の小選挙区に比べて、参院選の選挙区は、都道府県単位で対象が広いので、有権者の状況を把握しやすい。比例代表は、全国が選挙区なので、さらに全体の傾向をつかみやすい。

端的に言えば、世論調査のサンプル数が衆院選に比べて、集めやすいし、精度も高くなる。したがって、予測も当たる可能性が大きいという事情がある。

それでも「情勢調査」ですべてがわかるわけではない。具体的には、選挙区選挙で、焦点の全国で32ある「1人区」の結果は、全体の勝敗を左右するが、メディア各社で勝敗の予想でかなりの違いがある。

例えば、読売は、野党系がリードしている選挙区は1つで、接戦選挙区が12、残りは自民リードとみている。毎日は、接戦区は5から、8に増えたとの判定。朝日は、野党系候補が有利な情勢にあるのは2つ、接戦区は6から、2に減少したとの判断だ。

私は、1人区は、接戦区のうち5つ程度は開票してみないとわからないほどの激戦になるのではないかという見方をしている。物価高騰、コロナ感染再拡大などの不確定要素もある。加えて、もう一つ「情勢調査方法の違い」が影響しているのではないかとみている。

というのは、この「情勢調査」は去年の衆院選挙から大きく変わり、社によって調査方法が異なる移行期・試行錯誤の段階にあると思う。

具体的には以前は、各家庭にある固定電話をかける方式だったが、固定電話を持っている家庭自体が少なくなり、先の衆院選挙から、固定電話だけの情勢調査方式は姿を消した。

今はメディアによって、◆固定電話と携帯電話の両方を組み合わせた方式(読売など)。◆民間大手の携帯会社のインターネット会員を対象にした調査方式(毎日など)。◆固定電話と携帯電話、それにインターネット調査会社4社に委託して実施する調査の組み合わせ(朝日)など様々だ。

したがって、どの社の方式が選挙結果に近いデータを得られたかなどを見極める必要がある。

一方、メディア各社は、企業秘密もあるだろうが、データをできるだけ公開して説明してもらいたい。「情勢調査のあり方」が選挙後、新たな課題になりそうだ。

 予測の意味と活用の仕方がカギ

選挙予測については、国民の側も予測報道の意味や、活用方法などを考える必要があると思う。

どういうことかと言えば、報道機関は正確な報道を行うことが第1の役割だ。そのうえで、有権者の側に「投票に当たって判断材料の1つとして、選挙結果の見通しを知っておきたい」という要望に応えたいという考えがある。

政治にできるだけ民意を反映させるためにメディアの予測報道は意味があり、必要だと個人的には考えている。

このため、どのメディアの予測が当たったか、外れたかをことさら強調するのは、あまり意味がないと考える。

それよりも、メディアが選挙の争点をはじめ、政策の評価、選挙後の与野党の勢力の見通しなど国民に可能な限り多くの判断材料を提供するよう叱咤激励する方が生産的で望ましいことではないかと考える。

 出口調査と選挙報道の充実を

最後に「出口調査」についても触れておきたい。選挙の正確な報道という観点からすると、出口調査が最も正確なデータを得ることができると考える。

現役時代、NHKで政治記者と解説委員として選挙報道に携わった。出口調査は、実際に投票を済ませた有権者を対象にしているので、世論調査・情勢調査に比べて、予測の精度が各段に高くなるというのが実感だ。

但し、問題点もある。1つは、おカネがかかり、億単位の予算が必要になる。もう1つは、最近は期日前投票が増えてきたので、期日前投票も含めた出口調査を十分に行えるのか、調査員の確保などの面で難しい問題がある。

こうした問題はあるが、出口調査は、当落を判定するだけでなく、国民は何を重視し、何を選択したか有権者の投票行動の意味も正確に把握できる。それを選挙後、政治の側にぶつけたりすれば、さらに大きな意味を持つ。

選挙報道は、選挙の勝敗だけでなく、有権者の投票行動などを多角的に分析した中身の充実が問われている。

率直に言わせてもらうと以前に比べると、こうした点は各社とも弱体化しているのではないか。選挙のプロと言われる記者、世論調査や出口調査の分析などに当たる専門家も少なくなった。

こうした背景には、メディア各社の経営陣の資質や責任が大きいと個人的にはみている。

一方、現役の記者、編集委員、解説・論説委員などの諸氏も今回の選挙の意味、政治の側の役割、能力などの課題、問題を深く分析、論評してもらいたい。10日の投開票日の報道や論評に期待したい。(了)

 

 

 

”与党優勢、波乱は物価高騰” 参院選

参議院選挙は折り返し点を過ぎて、いよいよ後半戦に入った。G7サミットなどへの出席のため、選挙期間中に異例の海外訪問をしていた岸田首相は帰国し、各党とも最後の追い込みに入っている。

さて、選挙情勢をどうみるか。与野党の関係者の話を総合して予測すると、自民、公明の与党は、改選議席の過半数を固めて優勢といえる。対する野党側は共闘体制が崩れ、焦点の定員1人の「1人区」でも苦戦が続いているのが特徴だ。

一方、岸田内閣の支持率や自民党の支持率に下降傾向が、現れている。政府の物価高騰対策に対する不満が背景にあるものとみられ、選挙に波乱があるとすれば、この物価高騰が要因になることも予想される。

また、猛烈な暑さが続く中で、投票率がどうなるか。前回は、戦後2番目に低い投票率だったが、改善なるか。参院選の情勢や背景を探ってみる。

 与党、改選議席の過半数確保の勢い

さっそく、選挙情勢からみていきたい。自民党関係者に聞くと「想定通りの戦いで、前回・2019年の選挙を下回るような要素はない。前回獲得の57議席以上、60台に乗せるのではないか」と自信をのぞかせる。

選挙全体を左右するといわれる「1人区」をみても32選挙区のうち、27程度で自民党が優勢だ。定員が2人以上の「複数区」でもすべての選挙区で1議席を確保したうえで、北海道、千葉、東京、神奈川では2議席目にメドが立ちつつある。

比例代表選挙は、前回は19議席だったが、今回は1~2議席の上積みが可能だとみている。自民党は58議席以上、60台を確保する勢いをみせている。

公明党は、接戦が続いている選挙区を残しているものの、比例代表と合わせて、前回と同じ14議席が視野に入りつつある。

このため、岸田首相が勝敗ラインとして設定する「非改選を含めて与党で過半数」という56議席はもちろん、「与党で改選議席の過半数」63議席も上回る勢いがある。(橋本聖子参議院議員が近く自民党に復党した場合、56議席→55議席)

 比例・野党第1党、立民と維新の争い

野党側は、カギを握る1人区で候補者を1本化できた選挙区は11で、前回・前々回の3分の1に止まり、苦戦を強いられている。

野党側が今の時点でやや優位にある選挙区は、立憲民主党、国民民主党、無所属候補を含めて、青森、岩手、山形、長野、沖縄の5か所程度に止まっている。

自民党と激しく競り合っている選挙区が5つ程度あり、この激戦区でいくつ上積みできるかが焦点だ。野党系候補が勝利した1人区は、2019年は10,2016年は11あったが、今回はこれを下回り、1ケタ台に落ち込む公算が大きい。

野党側は、野党内で激しく競い合っているのが特徴だ。野党第1党の立憲民主党は改選議席23を上回る目標を掲げているが、改選議席を割り込むことも予想される。

維新は、改選6議席の倍増と比例代表選挙で立憲民主党を上回る得票をめざしている。共同通信の世論調査で、比例代表の投票先として、維新が立民を上回っていたが、最新の調査では逆転しており、比例の野党第1党争いが続く見通しだ。

このほかの党の改選議席は、国民民主党が7、共産党が6、社民党1となっており、各党の勝敗を評価するうえで目安となる。

一方、今回の選挙では、憲法改正に前向きな勢力が改正を発議できる総定数の「3分の2」、166議席に達するかどうかも焦点だ。具体的には、自民、公明、維新、国民の4党で、非改選の84に加えて、今回82議席が必要になる。4党が今の勢いを維持した場合は、届く見通しだ。

 岸田内閣、自民支持率ともに下降傾向

このように選挙戦は与党優勢で推移しているが、ここにきて、岸田内閣の支持率と、自民党の支持率がともに下降傾向を見せ始めた。

読売新聞が6月22・23日に行った調査では、岸田内閣の支持率は57%で、6月上旬の前回調査から7ポイント下落した。自民党の支持率も6ポイント下がって37%、比例代表の投票先も9ポイント下がって36%となった。

NHKが6月中旬から1週間ごとに行っているトレンド調査でも、岸田内閣の最新の支持率は50%で、この2週間に9ポイント下落した。自民党支持率も35.6%で、2週間で4.5ポイント下落した。(最新・投票日2週前調査と、その2週前調査との比較)

NHKの調査では、政府の物価高騰対策について「評価する」が35%に対し「評価しない」が56%と上回っており、物価高騰対策が影響しているものとみられる。

但し、岸田内閣や自民党の支持率は下落しているものの、野党の支持率は上がっていない。こうした批判がどのような投票行動になって現れるか、わからない。

 物価高騰、与野党勢力、投票率がカギ

後半戦の焦点は何か。これまでの議席予想に変化・波乱が起きるとすれば、政府の「物価高騰対策」への批判が強まる場合が考えられる。

厳しい暑さが続き、東京電力管内では「電力需給ひっ迫注意報」が出されてきたことから、エネルギー確保や経済政策を含めた物価高騰対策の論戦がどのような展開をみせるのか焦点になりそうだ。

また、岸田首相がG7サミットやNATO首脳会議に出席したのを受けて、ロシアや中国に対する「日本外交の戦略・対応」や、「防衛力の整備の具体的な内容、予算の規模、財源」をめぐる論戦のゆくえも注目される。

さらに、参議院選挙が終わると衆議院が解散されない場合、向こう3年間、国政選挙がない期間が続くことになる。このため、国民が与野党の勢力はどのような形が望ましいと考えるか。

与党を増やして岸田政権の実行力に期待するのか。与党を増やしすぎると内輪の抗争が激化するとみて、野党を増やす方へ動くのか「与野党の勢力バランス」も判断の要素になりそうだ。

さらに気になるのは「投票率」だ。前回は48.8%、50%を割り込み、戦後2番目に低い投票率になった。今の日本政治が国民の関心を引き付ける力を失っていることの反映だ。

ロシアによるウクライナ侵攻は長期化が予想される中で、日本は国際社会の中でどのような役割を果たすのか。どんな経済・社会を目指すのか、政党のリーダーは構想や目標、道筋をもっと明確に打ち出して議論を深めるべきだ。

私たち国民も政治の側の訴えに耳を傾け、ベストの選択肢がない場合は、よりましな選択を心掛け、1票を投じたい。(了)

★追記(7月1日16時:東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の会長を務めてきた、参議院議員の橋本聖子氏が組織員会の解散を受けて、1日付で自民党に復党した。これに伴い、自民・公明両党の非改選の議席は、1つ増えて「70」となる。また、自公両党が勝敗ラインとしている参議院全体の過半数を維持するために必要な議席は、56から「55」になる)

参院選 憲法改正問題の見方・読み方

参議院選挙が公示された後の最初の週末、テレビ局では各党幹部が出演して討論が行われた。週明け27日から首都圏では政見放送も始まったが、新興勢力の党派やユーチューバーの候補者も目に付き、ネット時代の選挙を感じる。

与野党の論戦では、ウクライナ情勢などによる物価高騰・経済政策と、日本の防衛力整備のあり方を含む外交・安全保障の2つのテーマに議論が集中している。

一方、参議院選挙の結果によっては、選挙後、憲法改正問題の議論が加速する可能性がある。そこで、今回はこの憲法改正問題をどのように考えたらいいのか、取り上げる。

 改憲勢力「3分の2」82議席が焦点

岸田政権が初めて臨む今回の参議院選挙は、自民、公明両党が改選議席の過半数を獲得できるかどうかが焦点になるが、今の選挙情勢から予想すると達成の可能性は高いとみている。

もう1つの焦点が、憲法改正に前向きな勢力が、参議院の「3分の2」を占めることになるのかどうかだ。この「3分の2」は、憲法改正を国会で発議、提案するために必要な勢力だ。

具体的には、自民党と公明党、日本維新の会、国民民主党の4党が衆議院に続いて、参議院でも3分の2の議席を確保すれば、数の上では憲法改正を発議することが可能になる。

参議院の定数の「3分の2」は166人。憲法改正に前向きな4党の非改選議員と近く自民党に復党する無所属議員1人を加えると84人。その差「82」議席を改憲勢力が獲得すると「3分の2」を確保することになる。

 自民、憲法改正原案早期に提出の意向

6月26日に放送されたNHK日曜討論で、自民党の茂木幹事長は「時代の転換点にあって、新しい時代にふさわしい憲法のあり方を示すのは国の役割だ。この選挙後、できるだけ早いタイミングで、憲法改正原案の国会での可決、発議をめざしたい」と憲法改正を早期に実現したいとの考えを表明した。

これに対し、野党の立憲民主、共産、れいわ、社民の各党の幹事長や書記局長からは強く反対する意見が出される一方、維新や、国民民主からは議論に応じていきたいとの意見が出され、対応が分かれた。

憲法改正をめぐって、安倍政権時代も参議院で3分の2を確保したことはあったが、当時は安倍首相に対する野党の警戒感が強く、憲法改正への動きは進まなかった。

これに対して、岸田政権に代わった先の通常国会では、衆参の憲法審査会が頻繁に開かれ、憲法論議が活発化した。

去年の衆院選で野党第1党の立憲民主党が敗北、憲法改正に積極的な維新や国民民主党が積極的に議論に応じたことが背景にある。

一方、岸田首相は宏池会出身で、ハト派のイメージが強いが、憲法改正には強い意欲を示している。政権運営にあたって最大派閥の安倍派の協力が必要で、選挙後も憲法改正に積極的な姿勢で臨むことが予想される。

このため、今回の選挙結果次第では、憲法改正をめぐる議論が選挙後に加速することがありうる。これを国民の側からみると、今回の参院選がターニング・ポイントになることもありうるので、投票に当たっては、こうした点も念頭に置いておく必要がある。

 憲法のどこを変えるか、各党に温度差

ここまでみてきたように憲法改正をめぐる議論は加速することはありうるが、直ちに改正へと大きく動くかと言えば、そうとも言えない。

というのは、今の憲法をどのように評価するか。また、具体的にどこを変えるのかといった中身の問題になると各党の考え方の違い、温度差が大きいからだ。

例えば、自民党は憲法改正に向けて、自衛隊の明記、緊急事態対応など4項目を提示して、丁寧に説明すると選挙公約で打ち出している。

ところが、同じ与党でも公明党は今の憲法を高く評価しており、自衛隊の明記については「引き続き検討を進める」という表現にとどめている。

この自衛隊の明記をめぐっては、野党側のうち、立憲民主や共産、れいわの各党は反対している一方、維新は賛成、国民民主は議論するとして、対応に違いがある。

このため、国会でこうした違いを調整して改正案をまとめることができるかどうか。そのうえで、国民投票の実施にこぎつけ、多数の賛成を得られるのかどうか、なかなかの難問だ。

 国民が重視する課題、優先順位は

さらに国民は、憲法改正問題をどのように受け止めているか、この点も重要だ。NHKが今月24日から26日に行った世論調査で「選挙で、最も重視する政治課題」を聞いている。

結果は、◇経済政策が最も多く43%。次いで◇社会保障が16%、◇外交安全保障が15%と並び、その後、◇新型コロナ対策、◇憲法改正、◇エネルギー・環境がいずれも5%だった。

つまり、国民が重視する政治課題の中で、憲法改正問題は低い順位に止まっている。政党の側は熱心だが、国民の側には、届いていない。この点を政党、政治家は重く受け止める必要がある。

私事になるが、現役時代の2000年に憲法調査会が国会に設置された当時から憲法問題を取材してきたが、憲法は国民のものであり、絶えず、見直していく必要がある。

そして、憲法改正を行う場合、最終的には国民投票で、国民の多数の賛成を得なければならない。政治の側は、国民が必要としている暮らしや社会が抱える大きな課題を解決できているか、課題の処理能力や優先順位が大きな問題になる。

今回の参院選は、ウクライナ情勢や外交・安全保障のあり方をはじめ、物価高騰や経済政策、人口急減社会への対応、さらには憲法改正問題など大きなテーマを数多く抱えている。

特に政権与党の自民党は、選挙後、早いタイミングで憲法改正原案を提出する考えであるならば、選挙期間中に改正案の内容を掘り下げて説明し、国民に判断材料を提供するよう注文しておきたい。(了)

 

 

 

参院選 波乱要因は物価高騰問題

第26回参議院選挙が22日公示され、7月10日の投開票日に向けて18日間の選挙戦が始まった。

政権与党の自民党は堅調な滑り出しをみせているが、「物価高騰とエネルギー対策を含む経済政策」が選挙の波乱要因として浮上してきたように見える。

今回は選挙の構図をはじめ、選挙情勢、今後の焦点を報告する。

 選挙の構図一変、野党共闘から競合へ

まず、「立候補状況」を確認しておくと◇選挙区選挙には75の定員に対して367人、◇定員50の比例代表選挙には178人の合わせて545人が、それぞれ立候補した。

前回・3年前の立候補者は、合わせて370人だったので、前回に比べて175人も増えた。これは、選挙区で1人を選ぶ「1人区」で、野党候補の1本化が進まなかったことと、”ミニ政党”が多数の候補者を擁立したためだ。

また、女性候補者が181人で、候補者全体の33%、人数と割合はいずれも過去最高となった。衆院選挙を含めた戦後の国政選挙で初めて3割を超えたが、「候補者男女均等法」の目標には届いていない。

次に「選挙の構図」は、過去2回の選挙と比べると様変わりしたのが特徴だ。特に全国に32ある「1人区」で、与野党の勝敗を左右する選挙区の様相は大きく変化した。

1人区は、自民党が長年議席を維持してきた選挙区が多く、野党側は共闘体制を組んで対抗しようとしてきたが、今回、1本化できたのは、11の選挙区に止まった。

前回、前々回はすべての1人区で候補者を1本化してきた。今回は全体の3分の1に止まったので、野党同士が競合する選挙区が増えたことになる。

 自民堅調、波乱要因は物価高騰対策

それでは、与野党の選挙情勢や、勝敗を分けるポイントは何かをみていきたい。

自民党の幹部に聞くと「新型コロナ感染は落ち着いているし、ウクライナ情勢も岸田内閣はG7と連携して対応しており、選挙準備も順調に進んでいる。自民党にとって、不安材料があるとすれば、物価の高騰や円安など経済問題への対応だ」と公示前の時点で語っていた。

その後、党首討論や、公示日の党首第一声などを聞いてみると、この幹部の不安が的中した形になっている。別の幹部も「この30年、国民は物価の高騰を経験したことがなく、対応を誤ると思わぬリスクになる」と神経をとがらせている。

報道機関の世論調査でも◆共同通信が6月11日~13日に行った調査では、岸田内閣の支持率は56.9%と高い水準を保っているが、前回調査から5ポイント近く下落した。岸田首相の物価高対応についても「評価する」は28.1%に対し、「評価しない」が64.1%と大幅に上回った。

◆NHKが6月10日以降1週間ごとに実施しているトレンド調査では、岸田内閣の支持率は59%から、55%へ4ポイント下落した。政府の物価高騰対策についても「評価する」が35%に対し、「評価しない」が56%と上回った。

今回の参院選の論点としては、ウクライナ情勢と外交・安全保障、コロナ対策、憲法改正問題など数多くのテーマを抱えているが、世論や選挙情勢に最も大きな影響を及ぼしているのは「物価高騰対策」であることが浮かび上がってきた。

次に、こうした物価高騰問題は、参院選挙では具体的にどのような形で影響が出てくるのかを探ってみよう。まず、全国が対象の比例代表選挙に比べて、選挙区選挙への影響が大きい。特に1人区のうち、接戦の選挙区だ。

例えば、青森、岩手、宮城、福島の東北各県をはじめ、新潟、山梨、大分、沖縄などの各県は大激戦になりそうだ。こうした激戦区は10余りあり、風向きが変わると勝敗が入れ替わることになる。

与野党の選挙関係者の話を基に判断すると、自民党は「前回・2019年に獲得した57以上の議席の獲得は可能で、60台に届くのではないか」との見方をしている。

これに対して、野党関係者は「1人区では、野党候補の1本化で前回は10議席、前々回は11議席を確保してきた。今回、野党共闘は縮小したが、激戦区では1議席でも競り勝ちたい」と最後の追い込みにかける構えだ。

自民、公明の与党側は、非改選を含めて与党で過半数の確保には、自信を持っている。但し、どこまで議席を上積みできるかは、読み切れていない。1人区の激戦区がカギを握っており、特に10か所近い激戦区の情勢はまだ、流動的だ。

 物価・防衛、岸田首相の政治決断は

最後に7月10日の投開票日に向けて、どんな動き、展開が予想されるか。

1つは、週末は各テレビ局で党首レベルの討論が行われるが、これまでと同じ主張をダラダラと繰り返す展開が1つ。選挙の争点が明確にならないのが問題だ。

岸田首相は、26日からドイツで始まるG7の首脳会合、続いて29日からスペインで開かれるNATO首脳会議に初めて出席する。選挙期間中に異例の1週間近くも国内を留守にすることになる。

2つ目は、例えば円安がさらに加速したり、報道各社の世論調査で、岸田内閣の支持率が続落したりして、岸田政権が新たな対策に追い込まれたりするケースも予想される。

3つ目は、岸田首相が打って出る形で、物価高騰や防衛費問題などをめぐって、新たな対策や構想を打ち出すこともありうるのではないか。野党党首もこれに応じて、活発な論戦が戦わされるケースも考えられる。

現実の政治はどうか。1つ目の先送りケースに落ち着く可能性が大きいと思うが、私個人は、3つ目のケースもありうるのではないかと期待している。

というのは、このまま推移すると世論は「岸田政権は、物価高騰などに思い切った手を打てないのか」と落胆や批判が強まり、内閣支持率などが下がる可能性もあるからだ。

また、平時であれば先送りもありうるかもしれないが、今はウクライナ情勢に伴う激動、有事が続いている。大胆でスピーディーな対策が必要だ。

さらに世論は、小手先の給付金や補助金のバラマキを期待しているのではなく、資源高対策としてエネルギー確保にどう取り組むのか。日本の金融政策は、欧米諸国とは正反対の方向で、大胆な金融緩和策を続けて大丈夫なのかといった点を知りたいと考えているのではないか。

端的に言えば、岸田政権としてどんな経済・金融政策を取るのか、明確でわかりやすい説明を世論は催促していると思う。

今回は物価高を中心に取り上げたが、防衛力整備のあり方についても同じ問題を含んでいる。

岸田首相は、防衛力を抜本的に強化する考えを表明する一方、重点的に整備する分野や、予算規模、財源は選挙の後に先送りする方針だ。

しかし、国政選挙のさ中に、防衛力整備の基本的な考え方を明らかにしないのはどう考えても無責任だと言わざるを得ない。

選挙の時に「負担」の話はしないというのは、昔流の政治手法だ。国民の安全にかかわる問題は選挙の時に説明し、国民を説得することは、政治的なリスクを伴うが、民主主義国のリーダーの責務であり、強さでもある。

岸田首相が政治決断をして、踏み込んだ構想を示し、野党党首も受けて立って、中身のある充実した論戦を行えないものか。国民の多くは、政治が変わり、前進することに大きな関心と期待を抱いているのではないか。(了)

 

 

参院選 何が問われる選挙か

ウクライナ情勢で世界が大きく揺れ動く中で、第26回参議院選挙が今週22日に公示され、7月10日の投開票日に向けて選挙戦が始まる。

今度の参議院選挙で、岸田政権は去年秋の衆院選に続いて勝利し、安定した政権基盤の下で、内外の懸案に取り組みたい考えだ。

これに対して、野党側は改選議席の過半数を獲得して反転攻勢の足掛かりを得たいとしており、激しい戦いが予想される。

一方、私たち有権者は今度の参議院選挙をどのように観たらいいのか。判断すべきことが多く、選択が意外に難しいとの声も聞く。そこで、「何が問われる選挙か」。有権者の側から、政治の対応や政策のポイントを考えてみたい。

 ”大きな問題、低い投票率”の懸念

今度の参議院選挙について、個人的に最も気になっている点から取り上げてみたい。何かと言えば、投票率が低くなるのではないかという懸念だ。

というのは、選挙関係者の何人かを取材したところ、かなりの人が、選挙は盛り上がっていないし、有権者の関心も低く、投票率が下がるのではないかと心配しているからだ。

前回・2019年の参院選の投票率は48.80%で、戦後2番目に低い結果に終わった。今回は前回並みか、さらに下がるのではないか、つまり、50%割れの可能性が強いということになる。

他方で、ロシアによるウクライナ侵攻は、日本国民にも大きな衝撃を与え、日本の平和や安全の問題を考えるきっかけになっている。加えて石油高騰、物価高も進み、政治・外交、選挙への関心が高まるという見方もできる。

ところが、有権者の関心が低いとみられるのはなぜか。選挙関係者は、立候補予定者のポスター類が例年に比べて少ないこと。野党共闘が崩れ、野党支持層の関心が薄れていること。さらにメディアの取り上げ方が、ウクライナ問題に集中し、日本の政治に関心が向かっていないからではないかと指摘する。

こうした点に加えて私は、国会の論戦が低調で、これからの選択肢も示されない状況も重なって、政治への関心が低下しているのではないか。「政治の責任」が極めて大きいとの見方をしている。

したがって「参院選で何が問われているか」と言えば、まずは「政治の力量と質」が問われている。具体的には、政党・候補者が選挙の争点を明確にし、有権者を引き付けることができるかどうかが問われていると考える。

 暮らし・経済 重点政策の明示を

そこで、選挙の争点となる政治課題・政策をみていきたい。各党の選挙公約を読むと、ウクライナ情勢を受けて、重視している政策は2つに絞られつつある。1つは、外交・安全保障政策、もう1つは物価の高騰、暮らし・経済政策だ。

暮らし・経済政策から取り上げたい。物価の高騰は去年秋から始まり、ロシアによるウクライナ侵攻で石油高、資源高に拍車がかかった。日本では、さらに円安が加速し、物価高騰対策が参院選の争点に浮上してきている。

野党側は「岸田インフレ」と批判し、家計の負担を軽減するため、消費税の減税や廃止をそろって打ち出しているのが特徴だ。

これに対して、政府・与党は、ロシアによる「有事の物価高騰」が主たる要因だが、物価高は欧米の4分の1程度に収まっているとかわす一方、1兆円の地方創生臨時交付金を活用して、生活者や事業者への支援を強化していくと強調している。

この問題は、岸田政権の旗色が悪いように見える。今後、ボディーブローのように効いて、選挙の波乱要因になるのかどうか、注意深くみていく必要がある。

もう1つは、日本経済の根本問題は、この30年近く、賃金が上がらず、経済成長も目立った成果を上げることができなかった問題をどうするのかということに尽きる。

岸田首相や自民党は、看板政策として「新しい資本主義」を掲げ、「25年ぶりの本格的な賃金増時代を創る」と強調しているが、どのように実現していくのか、骨太の方針や選挙公約を読んでも、よくわからない。

要は、与野党ともに「暮らし・経済分野の重点目標と、実現のための具体策、期限を含めた道筋」を明確に打ち出すことが問われている。

特にメディアは、各党党首を招いての討論では、論点を明示して、かみ合った議論を展開するよう求めることが必要だ。

 防衛力整備のあり方と外交構想を

外交・安全保障に話を移したい。この分野は多くの論点あるが、日本に引きつけて考えると、日本の防衛力整備をどう考えるかが、最大のポイントだ。各党の選挙公約を読むと、対応の方針は3つ程度に分類できる。

1つは、「防衛力の抜本的強化路線」。例えば自民党の方針で、NATOのGDP比2%を念頭に5年間で整備をする考え方。日本維新の会も基本的に同じ路線だ。

2つ目は、先の路線とは対極にある考え方で、「軍拡反対・外交重視路線」。共産党、れいわ、社民党などの考え方。

3つ目が、2つの路線の中間に位置する考え方で、「漸進的な防衛力整備路線」。防衛費を増やす立場だが、整備する分野を検討し、着実に整備を進めるなどとしている。与党の公明党、立憲民主党、国民民主党などがこの路線だ。

以上は私の個人的な分類だが、有権者としてどの路線が望ましいと考えるか、追加の判断材料が必要だ。

例えば、第1の路線「防衛費を5年間でGDP2%まで増やすケース」では、今のおよそ5兆円の予算から、さらに5兆円の予算の上積みが必要で、年平均で1兆円程度ずつ増やしていく必要がある。

岸田首相は「防衛力のどこを強化し、そのための予算の規模、財源の3つを一体で考える」として、具体的な内容に踏み込むことを避けている。

しかし、これでは論戦は深まらないし、国民も理解し選択するのも困難だ。詳細は別にして、基本的な考え方を説明して議論を深めるべきだ。

例えば、防衛力を優先的に整備する分野として、国民の避難・保護をはじめ、武器弾薬の備蓄、正面装備、自衛隊員の生活環境など多くの課題の中で、どこを重視するのか、財源は国債で賄うのか、一定の考えを示すのは可能だと考える。

もう1つ、重要なことは「日本外交のあり方・構想・ビジョン」論争だ。これが余りにも弱い。防衛力の整備は必要だが、国家レベルの意見の対立を武力紛争に拡大させないことが重要だ。そのための外交努力、国のトップリーダーの役割や取り組みが極めて重要だ。

日本を含む東アジア地域の平和と安定については、日米同盟が基軸であることはほとんどの政党で一致している。そのうえで、関係悪化が続いている韓国との関係や、軍事力増強が続いている中国とどのように向き合うのか議論が必要だ。

日米同盟を基軸にしたうえで、中国とも対話を模索するなど「したたかな外交」を探るべきだ。日本外交の役割、平和と安定を追求していく構想・ビジョン論争も必要だと考える。

ここまで「参議院選挙で問われる点」をみてきた。暮らしと経済、外交・安全保障分野では、重点目標と実現への道筋をめぐる議論が不可欠だ。

また、国際社会の激動が続く中で、国民の多数が参加して進路を定めていく参院選挙にできるのかどうか。特に選ばれる側の政党、候補者の対応が問われている。(了)

衆院議長、内閣 不信任決議案の読み方

通常国会の会期末が15日に迫る中で、野党第1党の立憲民主党は今週、細田衆議院議長に対する不信任決議案と、岸田内閣に対する不信任決議案を相次いで提出する構えだ。

これに対して、自民、公明の与党側は直ちに否決する方針で、与野党の攻防が激しさを増す見通しだ。今回の不信任決議案の意味をどのようにみたらいいのか、夏の参院選挙を控えた与野党の事情、背景を探ってみた。

 衆院議長の説明責任と政治の質

細田衆議院議長をめぐっては、週刊文春が複数のメディアの女性記者に対して、深夜に自分のマンションに来ないかなどの電話をたびたびかけていたと報道し、衆参の予算委員会などでも取り上げられた。

立憲民主党は、細田議長が衆議院の小選挙区の「10増10減案」に繰り返し懸念を示したことや、女性記者などへのセクハラ疑惑の週刊誌報道について、国会で説明していないことは、議長としての資質に欠けるとして、7日にも細田議長に対する不信任決議案を提出する方針だ。

国会の議事運営などをめぐって、野党が衆院議長に不信任決議案を出すことはあるが、セクハラ疑惑の報道をめぐって不信任案が出されるのは極めて異例だ。

与党側は「事実関係が確認されていない段階で不信任案を提出するのは、極めて無責任だ」として、提出されれば直ちに否決する方針だ。

但し、与党関係者の中にも「細田氏の言動には、かねてから問題があった」との発言が聞かれるほか、「録音がとられていたらアウトではないか」との声もささやかれている。

衆院議長は、参院議長とともに立法府をつかさどる三権の長で、手厚い処遇と強い権限が与えられている。例えば、国会法で、議院の秩序保持権、衛視や派出された警察官を指示・執行できる。

政界では、権力をめざさない「上がりポスト」との見方もあるが、重厚さや権威、信頼感などが求められるポストだ。昭和の前尾繁三郎、保利茂、灘尾広吉などが知られるほか、最近では、伊吹文明氏、大島理森氏らが就任していた。

こうした衆院議長の重みを考えると今回のような疑惑が生じた場合は、国会のしかるべき場所で、議長が説明責任を果たすことが最低限必要ではないか。そのうえで、責任などをどう考えるか、議長が与野党の意見も聞いて最終的に判断するのが基本ではないかと考える。

今回のケースは、「政治の質」に関わる問題でもある。細田氏は現在は党籍を離れているが、自民党に所属し、最大派閥の会長を務めてきた。重要なポストにふさわしい人物が就任しているかどうか。問題が生じたときに国会は、政治の信頼を維持できる取り組みができているかどうかも問われている。

一方、国民の側も「政治の質」をどのように判断するか、問題があるとすれば、次の選挙で一定の判断をして改善を求めるというのが、議会制民主主義のルールだ。回りくどい対応だが、粘り強く進めるしか他に方法はない。

 政権与党、野党の対立軸を鮮明に

もう1つは、岸田内閣に対する不信任決議案の問題だ。今のところ、9日に提出される見通しだ。

内閣不信任決議案の意味をめぐっては、個人的には、2つに分類できるとの見方をしている。1つは、政治の行方を大きく左右する「政局緊迫型」。2つ目は、野党が自らの存在感を訴える効果を狙った「アピール型」だ。

前者は、不信任決議案が可決される可能性があるようなケースで、政治は一気に緊迫する。可決されれば、内閣総辞職か、衆院解散・総選挙のいずれかになる。

今回、自民、公明両党は、提出されれば、直ちに否決する方針で、与党内で反乱が起きるような要素はない。

そうすると今回の不信任決議案は、後者の「アピール型」となる。参院選を控えて、野党第1党が存在感の発揮を狙ったとみられる。

衆院では与党が圧倒的多数なので、不信任案が提出される場合、否決される見通しだ。この不信任案提出の意味を見出すとすれば、提案理由の説明や賛否の討論を通じて、岸田政権の評価や各党の立ち位置などを確認できるということではないか。

というのは、ウクライナ情勢やコロナ感染問題など極めて大きな問題を抱えながら、与野党の今後の対応策の違いはどこにあるのか、国民の側には、十分に伝わっていないのではないか。参院選でもどの政党に投票するか迷ってしまうとの声を聞く。

先週の補正予算案の審議と集中審議でも岸田首相は、焦点の物価高対策や、今後の経済・金融政策をめぐって、曖昧な答弁が相次いだ。これまでの政策を変える点、変えない点はどこか、肝心な点がさっぱりわからなかった。

防衛力の整備についても、抜本的な防衛力の整備を強調するが、整備する重点分野や、予算規模の目安、その財源のいずれも、年末の予算編成まで差し控えるという答弁で、これでは議論が深まるはずがない。

一方、野党の側も、政府の対応を批判するのは当然なのだが、自らの党はどんな考え方で臨むのか、政府とどこが違うのか、はっきりしない党が多い。

通常国会も会期末まで残りわずかだ。政権与党と、野党側はそれぞれ何を最重点に取り組んでいくのか「与野党の違い・対立軸」を明確にして、この国会を締めくくってもらいたい。

★追記(6月9日23時)立憲民主党が提出した岸田内閣に対する不信任決議案は9日午後、衆議院本会議で採決が行われ、自民、公明両党に加え、日本維新の会、国民民主党などの反対多数で否決された。また、細田衆議院議長に対する不信任決議案も自民、公明両党などの反対多数で否決された。野党側は、立憲民主党や共産党などは賛成し、日本維新の会、国民民主党、れいわ新選組などは採決を棄権した。(了)

参院選 与党優勢、波乱要因は

夏の参議院選挙は、6月22日公示、7月10日投開票の日程で行われる見通しだ。あと1か月余りで選挙戦が始まるが、与野党の選挙関係者に話を聞くと事前の予測は「与党優勢」の見方が多い。

一方、与党幹部に選挙の手ごたえを尋ねると「ベタなぎ状態、逆風は吹いていないが、追い風もない」と国民の関心や反応に戸惑いもみせる。

そこで、今回は、参院選での与党優勢の情勢を変える波乱要因はあるのか、あるとすれば、どのようなリスクなのかを探ってみたい。

 与党の取り組み先行、野党共闘に乱れ

まず、今の時点の選挙情勢をどのようにみているのか、自民党の選挙関係者に聞いてみた。「自民党に追い風が吹いているわけではないが、野党側に比べると候補者の擁立などの取り組みは先行している」として、自民、公明両党で改選議席の過半数を獲得できる勢いがあるとの見方を示している。

具体的には、選挙区選挙のうち、定員が2人以上の選挙区で自民党は最低でも1議席は獲得できること。焦点の1人区についても野党の共闘体制に乱れが生じているので、自民党が過去2回に比べて議席を減らす可能性は低いとみていること。

さらに比例代表選挙で最低でも18議席は確保できると仮定すると自民党は、前回や前々回並みの55議席以上は獲得できるとの見方だ。

公明党は、選挙区と比例を合わせて10数議席の獲得は確実なので、与党で改選議席の過半数63以上は十分、達成可能だと判断している。

これに対して、野党側の取り組みは、前回のブログで取り上げたように与野党の勝敗を左右する1人区で共闘の足並みが乱れている。候補者を1本化できるのは15日現在で、32選挙区のうち11程度と少ない。

さらに、9日にまとまったNHK世論調査で、岸田内閣の支持率は55%と高い水準を維持している。政党支持率でも自民党は39.8%で、野党第1党の立憲民主党の5.0%、第2党の日本維新の会の3.5%を大幅にリードしている。

このようにみてくると参院選挙をめぐる情勢は、候補者擁立などで与党の取り組みが先行しており、与党優勢と言えそうだ。

 波乱要因、ウクライナ、コロナ対応

参議院選挙は、投票日直前の状況の変化などで、選挙結果がガラリと変わった選挙もあった。そこで、今回はどのような変動要因があるのかみていきたい。

直ぐに頭に浮かぶのは「ウクライナ情勢への対応」だ。ロシア軍がウクライナに軍事侵攻を始めて3か月近くなるが、戦争終結の見通しは全くついていない。

岸田政権は、ロシアに対する経済制裁については、G7=主要国と連携して対応することを基本方針にしている。自民党内には、連携ばかりで日本の外交方針がはっきりしないなどの批判も聞くが、党内の大勢にはなっていない。

また、エネルギー分野では、ロシア産の石油や天然ガスの輸入禁止の問題があるが、ヨーロッパ諸国の方が、ロシアへの依存が高いので、日本が直ちに厳しい対応を迫られる公算は小さいとみられる。

このため、政府・与党側は「ウクライナ問題は、G7との連携重視で対応していけば、短期的には大きなリスクは避けられるのではないか」との見方が多い。

2つ目の変動要因は「コロナ対応」だ。ウクライナ危機が起きる前までは、最大の変動要因との見方が強かった。

感染拡大は3月以降、新規感染者数が大幅に減少したことや、3回目のワクチン接種が進んでこともあり、このところ医療のひっ迫状況は改善されている。

帰省や行楽などで人の移動が活発になった5月の大型連休が終わり、感染の再拡大が再び起きるのかどうか、まだはっきりしない。

新規感染者が増えても重症者が少ないことと、医療提供体制が維持されているので、与党関係者は、コロナ対応は、選挙のゆくえを左右する大きな争点にはならないのではないかとの見方をしている。

但し、コロナ感染は、新たな変異株がいつ現れるかわからず、油断大敵だ。個人的には、政治・行政のコロナ感染危機対応は問題が多いとみているので、この3年の検証と評価の議論を大いに深めてもらいたいと考えている。

 物価高騰、円安、経済政策リスク

変動要因の3つ目は、「物価高騰などの経済政策リスク」だ。ウクライナ情勢による原油高で関心を集めているが、去年秋から原油高や物価高が続いている。ウクライナ情勢の影響は、これから秋にかけて大きくなる。

東京23区の4月の消費者物価指数は、生鮮食品を除いた指数で去年の同じ月を1.9%上回り、上昇幅は7年ぶりの大きさになった。東京23区のデータは、全国の先行指標となっており、4月の全国指標はどこまで上昇するのか、5月20日に公表になる。

原油価格の高騰を背景に電気代、ガス代、ガソリン代が上がっているのをはじめ、各種食料品の値上がりも続いている。これに加えて、急激な円安も進んでおり、輸入物価の押し上げにつながる。

与党側にも、こうした物価高が参院選に大きな影響を及ぼすのではないかと懸念している声を聞く。この30年間、国民は大幅な物価上昇の経験をしていないためで、選挙への影響を計りかねているからだ。

政府・与党は、国費で6.2兆円に上る補正予算案を編成する方針を決めたが、物価対策としては、石油価格の高騰を抑えるための補助金の拡充や、低所得世帯の子ども1人あたり5万円の給付などに限られている。

日米の金利差の拡大で円安が急速に進んでいるが、景気が十分に回復していない中で、今の金融緩和策を転換するのは難しく、手詰まりの状態だ。

与党幹部の1人は、岸田首相が掲げる「新しい資本主義」の具体策が未だに示されていないことから、効果的な物価対策や成長戦略を打ち出せないと選挙に大きな影響が出てくるのではないかと警戒している。

 国会最終盤、予算委で骨太な論戦を

ここまで政策面の波乱要因を見てきたが、国会運営面で、もう1つの波乱要因を抱えることになった。それは、物価高対策のため、新年度の補正予算案を編成することになり、衆参両院で予算委員会が開かれることになったことだ。

政府・与党側は、国会の最終盤に予算委員会が開かれ、野党側が政府を厳しく追及する場面が続くと、直後の参院選挙に影響が出てくる恐れがあると神経をとがらせている。6月15日の会期末を控え、与野党の攻防が激しさを増しそうだ。

一方、国民の側から見ると予算委員会の開催は、本格的な論戦の舞台が設定され、活発な論戦が行われることに大きな意味がある。この国会では、論戦らしい論戦がほとんど見られなかった。

3つの変動要因は別の表現をすれば、ウクライナ危機と、コロナ感染危機、それに低迷が続く日本経済と社会をどのように立て直していくのかという問題だ。

こうした内外の懸案に対して、岸田首相をはじめ与野党の党首はどのような方針や対応策で乗り切ろうとしているのか、骨太な論戦を見せてもらいたい。国民にとって、参院選での重要な判断材料になるからだ。(了)

 

参院選”野党戦線異変あり”

夏の参議院選挙が近づいているが、国民の選挙への関心は高まっていないように見える。ロシア軍によるウクライナへの侵攻の衝撃があまりにも強く、それ以外の出来事には、なかなか関心が向きにくい事情が影響しているからだ。

その参議院選挙は6月22日公示、7月10日投開票の日程が想定されており、この日程通りに運ぶと40日余りで選挙戦が始まることになる。

この参議院選挙が終われば、全国規模の国政選挙は、衆院解散・総選挙がない限り向こう3年間は行われない。国民にとって今度の参議院選挙は、政治に意思表示できる数少ない機会になる。

このため、当ブログでも参院選挙については、さまざまな角度から取り上げたいと考えているが、今回は、野党に焦点を当てたい。

野党の戦い方をめぐっては、過去2回の選挙と大きく様変わりした事態が進行中だ。一言で言えば”野党戦線異変あり”、野党の動きを報告する。

 焦点の1人区”共闘から競争、分裂”

まず、野党の選挙への対応はどのようになっているのか。定員1人を選ぶ「1人区」が最もわかりやすいので、この1人区を中心にみていきたい。

1人区は全国に32選挙区あるが、この勝敗が与野党の勝敗を大きく左右する。地方にある選挙区で、保守地盤が厚く自民党が強い地域なので、野党側は候補者を1本化したり、選挙協力を行ったりして挑戦を続けてきた。

ところが、野党各党の候補者の擁立状況をみてみると今回は7日時点で、複数の野党がそれぞれの候補者を擁立し、競合する選挙区が目立つ。

最も競合が激しい香川選挙区では、自民党の現職に対して、野党は立憲、国民、維新、共産の各党が候補者を擁立する予定だ。

同じ旧民主党の流れをくむ立憲と国民との間では、香川だけでなく、宮崎でも候補者がぶつかる。

立憲と共産とは、栃木、群馬、富山、福井、三重、滋賀、奈良、鳥取・島根、岡山、香川、宮崎の12選挙区で競合する。(推薦の無所属候補も含む)

国民と共産とは、国民の現職がいる山形と大分を含めて9選挙区で争う見通しだ。(推薦の無所属候補も含む)

さらに今回は、維新が栃木、香川、長崎で候補者を擁立し、他の野党と競り合う見通しだ。

野党側は、第2次安倍政権当時の2013年参院選挙で惨敗したのを受けて、2016年、2019年は1人区の全ての選挙区で候補者1本化を実現してきたが、今回は一転、野党競合へ変わった。競合選挙区は、1人区の半数にのぼり、四分五裂状態に陥っているのが実状だ。

 第1党の力量低下、連合は与党接近

それでは、なぜ、野党が競合・分裂へと変わったのか。1つは、野党第1党の立憲民主党が去年の衆院選で敗北したのを受けて、共産党との共闘の見直しに踏み切ったことがある。

泉代表は、3月中旬に国民、共産、社民、れいわの各党に候補者調整を呼び掛けたが、各党をまとめていくだけの力を発揮できていない。

兄弟政党と位置づけていた国民民主党は、新年度の当初予算に異例の賛成にかじを切った。ガソリン価格抑制のトリガー条項の凍結解除に向けても与党側と政策協議を続けており、両党の距離はむしろ広がっている。

共産党は、野党共闘の継続を求める一方、参院選挙区への候補者擁立を増やし、立憲民主党の対応をけん制している。このように野党第1党の力量が低下していることに加えて、野党各党がめざす方向もバラバラ状態にある。

さらに、立憲民主党にとって誤算だったのは連合の対応だ。政権交代をめざしてきたはずの連合は、芳野友子・新会長が自民党の会合に出席したり、麻生副総裁らと会食を重ねたりするなど自民党へ異例の接近を続けている。

背景には、連合は旧総評系の官公労と旧同盟系の民間労組を統合して発足したが、結成から30年余り、産業構造の激変などを受けて民間組合の中から、自民党との政策協議などを強めるべきだとする意見が強まっていることもある。

一方、自民党は、かねてから国民民主党や民間労組と連携を強めながら、野党陣営の分断をめざしてきたが、ねらいが現実のものになりつつある。

 分断打開は困難、最後の論戦で奮起を

夏の参院選で、野党共闘は最終的にどのようになるのか。立憲民主党の関係者に聞いてみると「泉代表は最後まで調整を続ける方針だが、野党各党の方向がバラバラなので、取りまとめは無理ではないか」と厳しい見方をしている。

また、泉代表が、国民民主党の玉木代表や共産党の志位委員長らと党首会談を行い、事態の打開を図ることも考えられるが、党の関係者によるとそうした対応は検討していないという。

このため、今の事態を打開するのは困難という見方が立憲民主党内でも強まっている。そして、1人区では、野党の現職がいる選挙区などで候補者の1本化は行われるものの、野党の候補者が競合する選挙区がかなりの数に上る見通しだ。

過去の1人区の選挙で自民党は、2013年が29勝2敗、2016年は21勝11敗、2019年は22勝10敗だった。過去2回と違って1本化の選挙区が限定されるので、野党側の獲得議席は1ケタ台に落ち込むことも予想される。

参院選挙の選挙区、比例代表を合わせた参院選全体でも、堅調な取り組みを進める与党側と比べて、野党側の選挙情勢は極めて厳しい状況にある。

一方、国民の側からは「選挙結果が、投票前から予想できる消化試合のような選挙は止めてもらいたい」といった声や、「政策の対立軸、論点の設定がはっきりわかる選挙にしてもらいたい」といった意見が出されるのではないか。

それだけに野党各党とも、与党と互角に戦える選挙態勢づくりに努める責任がある。参議院選挙は首相の失言や問題発言などがきっかけになって、選挙の予測が覆るようなことも起きる。98年の橋本政権時代の参院選挙が典型的な例だ。

今回は公明党の強い働きかけで、補正予算案が編成されることになり、6月上旬には衆参両院で予算委員会が開かれ、参院選を前に最後の国会論戦が繰り広げられる。

ウクライナ情勢と物価の高騰対策などへの対応は、十分か。新型コロナ感染の再拡大にどのように備えるのか。さらには、外交・安全保障、特に日本の防衛力の整備をどう考えるのか、国民が知りたい点は多い。

岸田首相は「検討する」といった曖昧な答弁でなく、政府・与党としての基本方針を明確に示す責任を負っている。

一方、野党各党も自らの考えや対案を示しながら、岸田政権との対立軸を打ち出せるかどうか、国会最後の論戦では、野党各党の奮起を促したい。(了)

★追加データ(10日)夏の参議院選挙をめぐり、立憲民主党と共産党は9日、去年の衆院選の際に結んだ、政権交代を実現した場合の枠組み合意について、夏の参院選では棚上げすることを確認した。そのうえで、1人区での候補者1本化については、勝利の可能性が高い選挙区を優先して、限定的に行う方針で一致した。この結果、実際に候補者調整が行われるのは、ごく限られた選挙区に止まる見通しだ。

 

”異例・異形な補正予算案”

ウクライナ危機などによる物価高対策のため、政府・与党は今年度補正予算案を編成する方針を決めた。ガソリンなどの価格を抑えるための補助金の拡充や、低所得者の子育て世帯に子ども1人当たり5万円の給付金を支給することなどが主な内容だ。

一方、財源については、今年度予算の予備費を使ったうえで、減った分の予備費を補正予算案で積み増す措置を取る。予備費は、国会審議のチェックを受けずに政府の判断で使える予算だ。

過去最大規模の今年度予算が成立した直後に、参議院選挙を控えて補正予算案を編成する異例な対応に加えて、多額な予備費を積み増す異形な補正予算編成だ。なぜ、こうした異例・異形な対応をとるのか舞台裏の事情を探ってみた。

 補正予算案 予備費を積み増し

まず、自民・公明両党の幹事長が21日に決定した緊急経済対策の内容から見ておきたい。第1にガソリンなどの価格を抑えるために、石油元売り会社に対する補助金を拡充することになった。

また、低所得者の子育て世帯に対して、子ども1人当り5万円の給付金を支給すること。さらに、地方自治体による生活困窮者への支援を後押しするため、地方臨時交付金を拡充することなどを盛り込む考えで一致した。

一方、財源については、今年度予算で、コロナ対策の予備費5兆円と、一般予備費5000億円の一定額を活用するとともに、不測の事態に備える予算が足りなくなるおそれがあるとして、予備費の積み増しなどの措置を補正予算案で取ることで合意した。

これを受けて、岸田首相は、補正予算案を編成する方針を示し、26日に緊急対策の中身を公表する方針だ。補正予算案の規模は、2兆7000億円前後とみられている。

さて、この補正予算案をどうみるか。まず、原油高やガソリン価格の上昇は、去年の秋から続いていたことで、価格上昇を抑える措置を取る場合、本来は今年度予算案で対応できたはずで、対応が極めて遅いと言わざるを得ない。

また、低所得の世帯の支援は必要だが、物価高や経済対策というよりも福祉対策ではないか。現行の福祉制度の中で、機動的に手当てすることが筋ではないかと考える。

一方、予備費の扱いは極めてわかりにくい。予備費を物価高対策に使うが、減少分は補正予算案で積み増し、5兆5000億円の予備費の総額は維持する方針だ。

予備費は災害など緊急事態に対応するため、認められるもので、国会の審議を経ないで、政府の判断で使われる。国民の税金で編成される国の予算は「財政民主主義」、国民の代表である国会の審議を経て使われるのが基本だ。

今回の措置は、こうした「財政民主主義」の基本に抵触するとの見方も成り立つのではないか。国会で、きちんとした議論が必要だ。

 与党の舞台裏事情、調整機能の低下

このように今回の補正予算編成は、何を目的にしているのか明確ではない。また、予備費の扱いに見られるように、持って回った手法で、わかりにくい予算編成だ。なぜ、こうしたことになるのか、与党の舞台裏事情を取材してみた。

1つは、自民、公明両党の間では「参院選への方針・戦略」に違いを抱えていた。自民党は、補正予算案を編成すれば予算委員会を開く必要があり、参院選を前に野党に追及の場を与える補正予算には消極的だった。

それよりも予備費を活用して、高齢者向けに給付金などを支給する一方、参院選前に総合的な経済対策を打ち上げ、選挙後に補正予算案を組んで処理する方針だった。岸田首相も予備費で緊急対策を行う考えを示してきた。

これに対し、公明党は参院選では比例800万票という高い目標を掲げており、補正予算案の編成を実現して、存在感を発揮したいという思惑があるものとみられていた。

結局、公明党の強い主張に自民党は押し切られる形で、補正予算案の編成を受け入れた。但し、補正予算案では新たな踏み込んだ対策は盛り込まず、予備費の範囲内に止めることが前提になっている。

つまり、自民、公明両党の主張を足して二で割った妥協案、”木に竹を接いだような異例・異形な予算編成”になった。

2つ目は、自民・公明両党間では、参院選挙での相互推薦などをめぐってギクシャクした関係が続いてきたが、こうした背景には「両党間の調整機能の低下」がある。

与党関係者に聞いてみると「自公連立も20年を超えるが、かつてのような太いパイプが無くなり、一体感も失われつつある。幹事長同士、あるいは、政調会長同士の調整もうまく働いていないのではないか」と話す。

別の与党関係者も「高市政調会長と竹内政調会長は”水と油の関係”。茂木幹事長と石井幹事長とは、”長い会話が続かない関係”。さらに茂木幹事長と高市政調会長とは”近くて遠い関係”。幹部レベルの調整機能が低下している」と指摘する。

 補正予算審議、国のかじ取り論戦を

さて、補正予算案の編成を受けて、5月下旬には衆参両院で予算委員会が開かれる見通しだ。岸田政権は無難にこなしたい考えだが、野党側は、参院選を前に政府を追及できる絶好の機会と位置づけ、攻勢をかける構えだ。

一方、国民の側からみると、これまでの国会は論戦らしい論戦がなく、夏の参院選挙では何を判断材料にするか、戸惑う人も多いのではないか。

そこで、岸田政権に対する注文がある。内閣支持率は50%を超えて高い水準にあるが、当面の物価高対策の説明に終わらせるだけなく、ウクライナ危機を受けて、外交と内政の基本方針、国のかじ取りの構想を明確に語ってほしいという点だ。

例えば、急激に進んでいる円安にどのような方針で臨むのか。アメリカは5月にさらなる利上げに踏み切る見通しで、日米の金利差はさらに拡大、円安の加速と輸入物価の上昇が懸念されている。

また、原油やLNGなどの価格面だけでなく、エネルギーの確保をどうするのか。この夏は何とかなりそうだが、今年の冬は電力需給のひっ迫が予測されている。短期と中長期の見通しや、省エネなど国民への協力も語るべきではないか。

さらに、外交・安全保障政策で、守っていくべき基本方針と見直す点は何か。防衛力整備のあり方についても国の最高責任者として、自らの考え方を表明する責任があると考える。

一方、野党側も政府の批判・追及だけでなく、自らの基本的な考え方や政策を示しながら、議論を深めてもらいたい。

私たち有権者の側も、コロナ感染再拡大とウクライナ情勢という2つの危機を乗り切るためには、どのような構想や政策が必要だと考えるのか。国会の論戦に耳を傾け、夏の参院選挙で「熟慮の1票」を投じることが必要ではないかと考えている。(了)

★追加説明(28日)政府は26日、緊急経済対策を決定した。国費の規模は6.2兆円で、ガソリン価格を抑えるための補助金の拡充や、低所得世帯を対象に子ども1人当り5万円支給などが主な内容。一方、財源は今年度予算の予備費から1.5兆円を使う一方、補正予算案で同額の予備費を積み増す。

ウクライナ危機と 岸田政権の経済政策

ウクライナ情勢は、ロシア黒海艦隊の旗艦「モスクワ」が撃沈される一方、ロシア軍が報復に首都キエフ攻撃を再開するなど戦争の激化と長期化が懸念される。

こうした中で、岸田政権はロシア制裁は、G7各国と足並みをそろえ資産の凍結や貿易の優遇措置を外すなどの措置を打ち出し、国際社会からも一定の評価を受けている。

一方で、ウクライナ危機で拍車がかかる物価高騰については、22日に緊急対策を取りまとめる方針だが、与党の自民、公明両党の間で財源の扱いをめぐって隔たりが浮き彫りになっている。

また、4月に入って20年ぶりとなる水準まで円安が進んだが、政府・日銀は有効な対応策を打ち出せていない。ウクライナ戦争の長期化の見通しが強くなる中で、岸田政権の経済政策は何が問われているのか、点検してみたい。

 自民・公明、経済対策で隔たり

まず、政府・与党が、22日に取りまとめを目指している緊急経済対策の動きから見ていきたい。自民、公明両党は、14日にそれぞれの党の経済対策の提言を政府に申し入れた。

両党とも、原油価格の高騰対策として4月末までとなっている石油元売り会社への補助金の期限延長や拡充を求めることと、生活に困っている人への支援を強化すべきだという方針では一致している。

一方、対策の財源をめぐって、自民党はスピード感を重視して今年度予算の予備費で対応するよう求めている。これに対し、公明党はウクライナ情勢や新型コロナ感染で不測の事態も予想されるとして、補正予算案の編成が必要だと主張している。

また、公明党は原油高騰対策でもガソリン税の上乗せ部分の課税を停止する「トリガー条項」の凍結解除も求めており、両党の隔たりが浮き彫りになっている。

そこで、岸田首相が両党の隔たりを軟着陸させることができるかどうか。自民党の幹部に聞くと「ウクライナ情勢で安全の確保や、コロナ対策など総合的な対策を打ち出す必要がある。その際、予備費で直ちに実施する対策と、補正予算を編成して新たな財源を確保して、本格的に取り組む事業の仕分けが必要だ」と語る。

ということは、岸田首相は、まず、ガソリン代などへの補助金の増額と生活困窮者への支援などを予備費で実施する。そのうえで、夏の参院選もあり、子育て支援や外交・安全保障対応を含めた総合的な対策を打ち出し、補正予算案は参院選挙後に提出して成立をめざすことが想定される。

つまり、自民、公明両党の主張を足して割る、得意の2段階方式で決着を図るのではないかと個人的にはみている。

 円安・日本売り、見えない経済政策

さて、岸田政権の経済政策の評価だが、結論から先に言えば「経済政策の基本、目標と道筋が見えない」というのが最大の問題点だと考える。

先に触れた緊急経済対策は必要だと思うが、物価高は去年秋から問題になっていたことで、新年度予算が成立した直後に新たな緊急対策が必要になるというのは、余りに安易な対応と言わざるを得ない。

また、緊急経済対策と銘打つのであれば、4月に入って急激に進行している円安に対して、対策を打ち出す必要がある。4月13日の円相場は1ドル=126円台まで下落し、20年ぶりの円安水準が続いている。

今回の円安は、日米の金利差の拡大が直接的なきっかけになっているが、日本経済の低迷、経済成長が期待できないことが、根本的な要因だとの見方が強い。

円安が進めば、輸入物価がさらに上昇、賃金は上がらず、経済活動も停滞して、原材料の購入費が流出、日本売りとも言える悪循環が懸念される。

岸田政権としては、こうした悪い円安をどう乗り越えていくのか。政府と日銀は、金融・財政の基本方針を明らかにすべきだと考えるが、未だに示されていない。

また、ガソリン価格を抑えるための補助金の拡大は必要だと思うが、ウクライナ戦争が長期化する可能性を考えるとエネルギーの確保をどうするのか、ロシア産原油やLNGガスの代替策を含めて、対応策の検討を急ぐ必要がある。

さらに岸田政権の経済政策をめぐっては、看板政策である「新しい資本主義」で何をやるのかわからないという批判が、野党だけでなく与党の幹部からも聞く。これまでの方針から、もっと踏み込んだ骨太な政策を打ち出してもらいたいという厳しい注文が多い。

 激動期こそ、経済など幅広い論戦を

それでは、岸田政権の今後の経済政策や政権運営はどのようになるのだろうか。与野党の幹部の話を基に判断すると、次のような展開を予想する向きが多い。

ポイントは岸田内閣の支持率で、政権発足から半年たった4月段階でも50%を上回る異例の高い水準を維持している。このため、岸田首相は、国会の論戦は避けて安全運転に徹し、夏の参院選乗り切りを最優先に臨む。選挙に勝った後、政策の本格的な取り組みを展開するとの見方が有力だ。

こうした対応は、平時にはありうるシナリオの1つかもしれないが、国民の側からみるとウクライナ戦争や新型コロナ感染といった危機を抱える激動期に、有益な選択肢にはなりえない。危機の時こそ、迅速果敢な対応と議論が必要だ。

岸田首相は、資源高や円安に伴う日本経済の停滞をどのように乗り切っていく方針か。エネルギーの確保をめぐっては、原発の再稼働の是非や省エネをどう考えるのか。国を率いるリーダーは、基本的な構想や政策を明らかにして、実行していく責任がある。

一方、野党側はこの国会は完全な与党ペースで、存在感が全く感じられない。物価高対策として消費税率の引き下げなどを掲げているが、どのように実現を迫るのか。党首討論などあらゆる機会を活用して、国民生活支援をはじめ、経済、エネルギー、安全保障などについて積極的に論争を挑むべきだ。

今月22日には、緊急経済対策としてどんな政策が打ち出されるのか。国会も会期末まで2か月を切り、閉会後は直ちに参院選に突入する。日本経済と国民生活の立て直しと外交・安全保障のかじ取りをどうするのか、国会で与野党の真剣勝負の論戦を見せてもらいたい。(了)