参院選情勢”与党先行、波乱要因も”

夏の参院選挙は、6月22日公示・7月10日投開票日が有力視されている。この日程からすると、投票日まで3か月を切ったことになる。

国民の関心は、ロシアによるウクライナ侵攻と、収まらないコロナ感染のゆくえに集中しているが、これからの日本の進路をどうするのか。参院選では何を基準に選択をするのか、私たち有権者としても考え始める時期ではないか。

そこで、参院選の今の情勢はどうなっているのか。また、何が問われる選挙なのかを考えてみたい。

 選挙情勢、与党”前回以上の勢い”

さっそく、参院選挙に向けた与野党の取り組みからみていきたい。ここでは、参院選の勝敗を左右する、全国で32ある1人区を取り上げる。与野党の構図がわかりやすいからだ。

自民党は1人区については、宮城と山形を除く30の選挙区で候補者の擁立を終えている。宮城は近く公認候補が決まる見通しだ。山形は政府予算に賛成した国民民主党に配慮して、党本部から擁立見送り論が出され調整が行われている。

これに対して、野党側は候補者の擁立が遅れていることに加えて、野党間の候補者調整の枠組みが崩れ始めているようにみえる。

前回と前々回の参院選挙では、野党第1党の立憲民主党や民進党が中心になって、国民民主、共産、社民、れいわなどの各党と、1人区の全ての選挙区で候補者を1本化して選挙に臨んだ。

ところが、今回は立憲民主党が先の衆院選で敗北した”後遺症”もあり、野党結集に主導権を発揮できていない。加えて、国民民主党は独自路線を強め、これに共産党が反発し、候補者調整がどこまで進むかメドが立っていない。

このため、立憲民主党内からは、すべての1人区で候補者1本化は難しく、今回は、限定した形になるのではないかという見方も聞かれる。

こうした1人区の現状は、参院選全体の取り組み方とも共通しており、”与党は着実な体制で先行、野党は共闘体制に乱れ”というのが、今の段階での特徴だ。

次に選挙情勢を見ていきたい。11日にまとまったNHK4月世論調査によると岸田内閣の支持率は先月と変わらず53%、不支持は23%だった。

政党支持率では、自民党は38.9%、公明党3.0%。野党側第1党の立憲民主党は5.2%と低迷、日本維新の会も3.6%と減少が続き、国民民主党1.5%、共産党2.5%、れいわ0.2%、社民党0.4%、無党派36.7%となっている。

岸田政権の支持率をどう読むか。まず、内閣支持率については、政権発足から半年経過した時点でも50%を超えたのは、小泉、第2次安倍、岸田の3つの政権しかないので、高い水準を維持しているといえる。

次に自民党の政党支持率について、過去3回の参院選挙のデータと比較してみると2013年の41.2%より低いが、2016年35.5%、2019年34.2%より高い水準にある。

過去3回の参院選の結果は、2013年は自民単独で、改選議席の過半数を獲得して大勝。2016年と2019年は公明党を合わせた与党で、改選議席の過半数を確保した。

つまり、与党は今の時点では「前回、前々回以上の勢い」がある。但し、「今の水準が今後も続くかどうかはわからない」というのが結論になる。

 波乱要因、コロナ、ウクライナ戦争

さて、参院選挙の予測は”当たる”ことが多いが、予想外の結果となり、政権が倒れることもある。98年橋本龍太郎政権の参院選が代表的なケースで、私も個人的に予測が外れ、苦い思いとして今も残っている。

古い話は横に置いて、参院選の場合、波乱要因は何かを絶えず意識して取材する必要がある。今回の場合は、コロナ感染の再拡大と、ウクライナ危機の影響ということになるのではないか。

自民党の長老に聞くと「ウクライナ戦争をめぐる世論の反応は、ロシアに対する批判が強く、岸田政権に向かう可能性は低いのではないか。やはり、コロナ感染の再拡大。特に入院・医療提供体制にまで影響が及ぶ事態になるかどうかを最も心配している」と語る。

一方、ギクシャクした関係が続く自民、公明関係については「自民党の各候補や県連の多くは、選挙協力では公明党・創価学会に”個別撃破”され、従来の関係に落ち着くのではないか」として、影響は大きくないとの見方をしている。

 外交・防衛、新たな争点になるか?

ここまで与野党の取り組みや選挙情勢などをみてきたが、私たち有権者にとっても「何を基準に政党や候補者を選択するのか」がそろそろ、考え始める時期に入っているのではないか。

判断材料としては岸田政権の政権運営、具体的にはコロナ対応をはじめ、国民生活への支援や日本経済の立て直しの問題がある。ウクライナ関係では、ロシアに対する制裁の評価や、去年秋からの原油高騰、物価高への対策も論点になりそうだ。

一方、今の段階でははっきりしないが、個人的に注目しているのが、日本の外交・安全保障、特に防衛力整備のあり方だ。今度の参院選で、どの程度大きな争点として浮上するのか注視したい。

安倍前首相は「核共有」をめぐる議論の活発化や、防衛費6兆円規模への増強などを盛んに打ち上げている。与野党議員からは「核より通常兵力の整備が先だ」「安倍前首相は、プーチン大統領頼みの日ロ外交の総括を明らかにすべきだ」などの意見も聞かれ、議論は混戦状態だ。

岸田政権は、年末に国家安全保障戦略や、中期防衛力整備計画などを改定する方針だ。敵基地攻撃能力保有の是非や、防衛力の整備の水準や予算規模の扱いも焦点になる。

その際、専守防衛、国連中心主義、アジア重視など戦後日本の外交・防衛の基本方針との関係が、どのように整理されるのか、あるいは方向転換することになるのかどうか。

一方で、国内では、少子高齢化に伴う人口減少と社会保障の設計、停滞の長いトンネルから抜け出せない経済政策、巨額な借金財政への対処方針も先送り状態になっている。

こうした内外の課題・懸案をどうするのか。参院選では、与野党、候補者はバラマキ政策を競うのではなく、懸案に優先順位をつけて基本方針を示す責任がある。そして、私たち選ぶ側も、賢明な選択ができるかどうかが問われることになる。(了)

予算成立”外交・経済論争を”

一般会計の総額が過去最大の107兆円にのぼる新年度予算が22日、参議院本会議で、自民、公明両党と国民民主党の賛成多数で可決、成立した。戦後4番目に早いスピード成立になった。

これによって、長丁場の通常国会は前半の山を越え、焦点は経済安全保障推進法案など重要法案の審議に移る。また、夏の参議院選挙に向けて与野党が、本格的に動き出す。

それでは、これからの政治は、具体的に何が問われることになるのか。1つは、コロナ感染対策だ。まん延防止等重点措置は21日にすべての地域で解除されたが、年度末に人の動きが活発になると4月以降、感染の再拡大が懸念される。

もう1つは、ウクライナ危機対応だ。ロシアによるウクライナへの軍事侵攻は、住宅や学校なども攻撃され、子どもを含む一般住民の犠牲者も増えている。

国際社会は、ロシアに対する経済制裁を打ち出したが、停戦までには至っていない。ウクライナ危機は、長期化することが予想される。

国際社会の激動は、日本の外交・安全保障、さらには国内にも跳ね返って与野党の枠組み変更など大きな転換点となる可能性がある。

予算成立後の日本政治は、内外情勢が激動する中で、政権が外交・安全保障、経済運営などの基本方針を打ち出し、与野党が議論を深めて、日本の進路を設定していくことが不可欠だ。ウクライナ情勢を中心に政治の動きを展望してみたい。

 ウクライナ危機、G7連携と後追い

まず、当面の最大の焦点であるウクライナ情勢について、岸田政権の対応から見ていきたい。

岸田首相は「ロシアのウクライナへの侵攻は、国際法や国連憲章に違反し、国際秩序を根幹を揺るがす行為で断じて許容できない」として、G7の欧米諸国と連携して、ロシアに対する経済制裁を打ち出した。

自民党の幹部に評価を聞いてみると「G7と連携して対応している点は評価するが、欧米の方針決定から対応が一歩遅れ、受け身の姿勢が目立つ」と厳しい声も聞く。

確かに1月17日の施政方針演説では、ウクライナ情勢への言及はなく、続く1月21日のバイデン大統領とのオンライン会談でも、ウクライナをめぐる危機感に温度差がみられた。

岸田首相が、ウクライナ対応に本格的に向き合い始めたのは2月に入ってからで、当初の対応は、欧米諸国の後追いが実態に近かった。

但し、2014年にロシアがクリミアを併合した際には、当時の安倍首相は北方領土交渉を有利に運びたいという思惑もあって、欧米の制裁から距離を置き、批判を招いた。

これに比べると岸田首相の対応は、プーチン大統領らロシア政府関係者などの資産凍結、金融・貿易分野の制裁で欧米と足並みをそろえ、一定の評価を得ているとみていいのではないか。

ロシアに対する経済制裁は長期化することが予想され、日本としてはこうした制裁を最後までやり抜くことができるかどうかが問われている。

 物価高・経済、外交防衛の基本方針を

次に、当面、最も大きな課題は、こうした経済制裁に伴う原油高、穀物価格の上昇などによる物価高にどのように対応していくかだ。円安も一時120円まで進むなど急速に進んでおり、輸入価格の上昇も重なり景気後退を招くのではないかと懸念されている。

このため、ガソリンなどの高騰対策として、1ℓ当たり25円を上限に補助金を支給しているが、これに加えて「トリガー条項」の凍結を解除してガソリン税の一部を減税する案が検討されている。

また、自民、公明両党からは、高齢者に一律5000円の給付金を支給する案が出されているが、参院選挙を意識したバラマキ政策としか言いようがない。

さらに、政権与党内では、ウクライナ情勢に伴う物価高や、経営が悪化している中小企業対策として、大型の追加経済対策が参議院選挙前に打ち出される公算が大きくなっている。

一方、外交・安全保障分野では、日本の防衛力整備をどのように進めていくのか。自民党内では、ドイツが防衛費を2%にまで拡大する方針を打ち出したことを踏まえて、日本も防衛費の増加へと舵を切るべきだという声が強まっている。

また、安倍元首相や日本維新の会からは、アメリカの核兵器を日本国内に配備して共同運用する「核共有」の議論を求める意見も出されている。

これに対し、自民党内には、核共有の問題よりも通常兵力や、武器弾薬などの継戦能力の整備などを進めるべきだといった意見も出されている。

このほか、ロシア外務省は21日、日本の制裁措置に反発して、日本との北方領土問題を含む平和条約交渉を中断する方針を表明した。日本側は強く抗議しているが、安倍政権が推進してきた北方領土での共同経済活動なども含めて日ロ関係の見直しを迫られることになりそうだ。

このように外交・安全保障や、防衛力の整備、さらには経済運営について、様々な意見が出されているが、岸田政権は、何を最優先に取り組むのかはっきりしない。

今の通常国会が6月に閉会すれば、直ちに参院選に突入する。それだけに予算成立後の国会論戦では、岸田政権が内外の課題について、基本方針を明確に打ち出す必要がある。そのうえで、与野党が議論を深め、参議院選挙で国民が選択できる判断材料を示してもらいたい。

 

“ウクライナ戦争”国民の見方は?

歴史的な冷戦終結から30年余り、私たちはテレビの映像などを通じて、世界の大きな出来事を目の当たりにしてきた。ベルリンの壁がハンマーで打ち壊された光景をはじめ、湾岸戦争、アメリカの同時多発テロ、イラク戦争などを鮮明に思い出す。

2月24日に始まったロシアによるウクライナへの軍事侵攻は、国連安全保障理事会の常任理事国の行為であり、にわかに信じられない事態だと世界に大きな衝撃を与えた。そして、いまも非人道的な攻撃が続いている。

一方、今回の侵攻をめぐって、”スマホで視る戦争”ともいわれる。こうした今回のウクライナ侵略を日本国民はどのように受け止めているのか、個人的にずっと気になっていた。

14日にNHKの世論調査の結果が報道されたので、そのデータを基に個人的な分析、読み方を取り上げたい。(NHK世論調査、3月11日から14日まで実施)

 ロシア経済制裁、妥当・強化は8割

▲この調査では、まず、日本政府がロシアに対して、プーチン大統領ら政府関係者や、半導体の輸出禁止などの制裁措置を決めたことについて、どう思うかを聞いている。

回答は、◇「妥当だ」42%、◇「さらに強化すべきだ」40%、◇「強すぎる措置だ」7%となっている。

「強すぎる措置だ」と反発する受け止め方は少なく、「妥当」、あるいは「さらに強化すべきだ」として支持する意見が合わせて8割に達している。

▲次に、ウクライナから避難した人の日本への受け入れを進めるとした政府の方針をどの程度、評価するか。

◇「大いに評価する」42%、◇「ある程度評価する」40%。これに対し、◇「あまり評価しない」8%、◇「まったく評価しない」2%となっている。

これを整理すると「評価しない」は10%、「評価する」が82%と圧倒的多数だ。人道的な立場からの受け入れであり、納得する方は多いだろう。

▲ロシアのウクライナ軍事侵攻に対する日本政府のこれまでの対応を、どの程度評価するかについてはどうか。

◇「大いに評価する」6%、◇「ある程度評価する」52%、◇「あまり評価しない」27%、◇「まったく評価しない」8%。

これをどう読むか。まず、全体としては「評価する」が合わせて58%、およそ6割と多い。これに対して「評価しない」は35%、およそ3割に止まる。

次に、「大いに評価する」は6%、逆に「まったく評価しない」が8%ということは、両極端の評価は合わせても15%と極めて少ないのが特徴だ。

「ある程度評価する」が過半数で最も多く、次に続くのが「あまり評価しない」で2割後半だ。つまり、ロシアに対しては厳しい制裁を求めているものの、感情的にならずに「平静に推移を見極めようとする姿勢」が読み取れる。

 日本経済への影響8割が懸念

▲さらに、ロシアのウクライナ軍事侵攻が、日本の経済にもたらす影響をどの程度懸念しているかについても聞いている。

答えは、◇「非常に懸念している」が42%で最も多く、◇「ある程度懸念している」が40%、◇「あまり懸念していない」9%、◇「まったく懸念していない」が2%と続いている。

このように「懸念している」が8割に達している。原油の急騰をはじめ、小麦など穀物価格の上昇、さらにはロシア産の希少金属などの供給減などの影響を懸念していることがうかがえる。

 岸田内閣の支持率は横ばい

岸田内閣の支持率については、◇「支持する」が1ポイント下がって53%だったのに対し、◇「支持しない」は2ポイント下がって、25%だった。ほぼ横ばいだ。

もう1つの焦点になっている「政府のコロナ対応の評価」については、◇「評価する」57%、「評価しない」36%で、こちらも横ばいで大きな変化はみられなかった。

そうすると、ロシア軍事侵攻に対する政府対応の評価についても、岸田内閣の支持率には直接、大きな影響を及ぼしていないとみることができる。

但し、ロシア軍のウクライナへの侵攻が、今後、軍事的にどのような形で決着がつくのか。G7や国際社会がさらに経済制裁を強めていくのか。その結果、国際経済や日本経済などに打撃や影響が、跳ね返ってくるかが焦点になる。

政界の反応としては、安倍政権時代、2014年のロシアのクリミア併合の時に比べて、今回の岸田政権の対応は、米欧との経済制裁の足並みがそろっていると評価する声が多い。

一方で、今回は、米欧の方針の後追いが目立つと批判する意見や、核共有や防衛力整備のあり方について、主体的な判断が乏しいと批判する声も聞く。

こうした政治の側の動きとともに、今後、国民世論に変化があるのかどうか、さらには、ウクライナ問題への対応が、夏の参院選挙の大きな争点として浮かび上がってくるのかどうか、注意深く見守っていきたい。(了)

”コロナ 新たな対策を” 重点措置延長

新型コロナ対策の「まん延防止等重点措置」が、東京など18都道府県では、7日からさらに2週間延長されることになった。

この「重点措置」は新規感染者の抑制に一定の効果はあると思うが、漫然と延長を繰り返すだけでは意味がない。延長する場合、「何を重点に取り組むのか」を明確に打ち出す必要があるのではないか。

政治の焦点は、今はロシアのウクライナ軍事侵攻に移っているが、日本の経済・社会の立て直しにためにもコロナ感染を抑制する「新たな対策」を早急に取りまとめることを強く求めたい。

 ”後手と受け身”続く岸田政権

岸田首相は4日夜の記者会見で、31都道府県に適用されていた「まん延防止等重点措置」について、東京など18都道府県で今月21日まで延長し、福岡など13の県を解除する方針を明らかにした。

そして、水際対策として、外国人の1日あたり入国者の上限を5000人から7000人に引き上げる方針を示した。一方、国内の対策については、これまでの対策の説明を繰り返した。

「重点措置」は、東京など13都県には1月24日に出され、2月に1度延長している。岸田政権としては3月6日の期限で全面的に解除したかったが、医療提供体制のひっ迫が続く地域も多く、全面解除は見送らざるを得なかった。

新規感染者数は減少しているが、高止まりの状態で、特に高齢者を中心に重症者数と亡くなる人の数は第5波に比べて非常に多い状態が続いている。専門家は「感染再拡大の可能性も十分にある」と警告している。

こうした状況の中で、政府は決め手となる3回目のワクチン接種について、1日100万回の接種目標を掲げ、希望する高齢者接種の2月中の完了を目指してきた。ところが、3月4日時点で、接種率は国民全体の23%、高齢者は対象の58%に止まっている。

目詰まりが指摘されてきた抗原検査キットの確保をはじめ、経口治療薬の配布、これからワクチン接種を加速する取り組み方もはっきりしない。このように政府のコロナ対策は、後手と受け身の対応が続いているように見える。

 参考になる米のコロナ新対策

海外の取り組みを取り上げ、日本の対応と比較して論評するのは避けてきたが、これまで個人的に主張してきたことと一致点が多いので、あえて海外の事例を紹介する。

日本政府の重点措置決定とちょうど同じころ、アメリカ政府が3月2日に新たなコロナ対策を発表した。

主なポイントは、◇子どもを含むすべての年代のワクチン接種の向上と、ワクチン製造の拡大を支援する。◇ウイルスの検査では、陽性の場合、その場で無料で治療薬が手に入る仕組みを導入する。

そのうえで、◇新たな変異ウイルスの出現を早期に検知するため、ウイルスの遺伝子を調べたり、下水からの感染状況を調査するなど検査態勢の拡充を図る。

◇感染が拡大しても経済活動や学校の運営に支障が出ないように換気設備の更新の支援、病気になったときの有給休暇制度の導入をめざす。

要は、経済や社会の活動を止めずに、これまでの日常を取り戻していく方針を明確にするとともに、対策を具体的に示している点が大いに参考になる。

 岸田政権 新たなコロナ新対策を

さて、岸田政権のコロナ対策についての注文だ。何度も同じことの繰り返しになって恐縮だが、次のような内容だ。

まず、基本的な考え方としては、政府の「まん延防止等重点措置」は全く役に立っていないとは思わないが、重点措置を適用するか、解除するかよりも「何を重点に取り組むのか」を明確にしてもらいたい。

そのためには、岸田政権は去年11月にまとめた対策の「全体像」を取り上げるが、全体像は内容が一般的すぎるので見直し、「新たな対策」として取りまとめてもらいたい。

その「新たな対策」では、デルタ株ではなく、オミクロン株の特性に即した内容になる。そのうえで、ワクチン接種の目標、検査態勢の強化、経口治療薬の配布、入院・治療体制の整備と自宅療養支援のあり方などについて、アメリカ政府の対策のように具体策を明示してもらいたい。

コロナ対策は、「まん延防止等重点措置」を期限の3月21日に全面解除できるかどうかが、大きな焦点になる。また、コロナ対策の出口戦略、経済・社会活動を本格化させる道筋を提示できるかどうかも問われる。

ロシアによるウクライナ侵略への対応という大きな政治課題も抱えているが、まずは、コロナ対策を先行させ区切りをつける必要があると考える。(了)

“2つの危機”対応と岸田政権

”2月は逃げる”と言われるようにあっという間に過ぎ去り、弥生・3月に入った。3月の動きを予想すると、日本にとって、”2つの危機”への対応が問われる節目の月になる。

1つは、新型コロナ・オミクロン株の感染拡大に伴う医療危機を乗り越えられるか。東京など31都道府県に出されている「まん延防止等重点措置」の期限が3月6日に迫っており、この扱いと出口戦略も問われる。

もう1つは、ウクライナ危機への対応。ロシアのウクライナへの軍事侵攻は、日本にとっては対岸の火事ではなく、冷戦後のアジアを含む世界平和や国際秩序が今後も維持できるかどうかの「岐路」に立っているという認識が重要だ。

こうした2つの危機に岸田政権はどのように対応しようとしているのか、日本はどのような取り組みが必要なのか探ってみたい。

 ロシアの侵攻、冷戦後国際秩序の岐路

さっそく、ウクライナ情勢からみていきたい。ロシアが先月24日に開始したウクライナへの軍事侵攻は、19世紀や20世紀の帝国や大国が行った侵略を思わせる行動だ。国際法や国連憲章に違反する侵略行為そのものであり、ロシア軍は直ちに停戦、撤退すべきだ。

但し、現実の世界は、プーチン大統領の野蛮な行為をやめさせることができるかどうか不明で、既成事実が積み重ねられることもありうるのが実状だ。

そこで、ロシアに対する厳しい制裁で、国際社会が徹底した反撃が必要だと考えるが、ここでは日本国民の1人として何が必要か、2点に絞って取り上げたい。

▲1つは、今回の事態については「日本にとっての意味」を掘り下げて考え、国民全体が共有していくことが重要だと考える。

端的に言えば、ロシアの今回の行動を容認すれば、日本を含むアジアでも同様な事態が起こりうる。核開発やミサイル発射を繰り返す北朝鮮や、台頭著しい軍事大国である中国の存在と覇権主義的行動を念頭に置いておく必要がある。

したがって、日本としては、冷戦後の国際秩序を破壊するロシアの行為は認められないことを明確にすることが重要だ。短期的には日本にとってマイナスの影響が想定される場合でも、国際社会と足並みをそろえて対応していくことが必要だと考える。

岸田政権のこれまでの対応については、プーチン大統領を含むロシア政府関係者の資産凍結、SWIFTと呼ばれる国際決済システムからロシアの特定の銀行を締め出す措置に参加する方針を打ち出した。

さらに28日夜には、ロシア中央銀行との取り引きを制限する追加の制裁措置を行う方針を表明した。こうした一連の措置は、G7との連携した対応で評価していいのではないか。

但し、政府の対応の中には、例えばSWIFTへの参加表明が欧米主要国の意思決定から遅れて態度表明をするなど”後追い”を感じる局面も少なくない。欧米の情報をいち早くつかみ、主体的・能動的な日本外交を展開してもらいたい。

▲2つ目は、ロシアに対する経済制裁の強化などに伴って「物価・経済への影響」の問題がある。

原油価格の高騰に伴うガソリン価格の上昇をはじめ、昨年後半から続いている食品や生活必需品のさらなる値上げ、それに中小企業の経営悪化などが現実味を帯びている。

一方で、今月は大手企業の賃金引上げの集中回答も行われる。岸田政権は、経済の好循環を生み出すため、企業に積極的な賃上げを求めているが、物価上昇に見合うような賃上げが実現できなければ、個人消費の落ち込みも予想される。

ガソリンなどの小売り価格の上昇を抑えるため、政府は、石油元売り会社への補助金の上限を、現在の5円から25円へ大幅に引き上げる方向で調整を進めている。

さらにガソリン税のトリガー条項を解除して、税金の上乗せ分を引き下げることも検討している。この問題は、野党の国民民主党が政府予算案に賛成するのにあたって、岸田首相が実現を約束したとしており、3月中に必要な法改正が行われるのか注目している。

このほか、アメリカのFRBがインフレ抑制のため、3月にも利上げに踏み切ると観測されている。そうすると日米の金利差拡大による投資資金の流出、円安、輸入インフレ、国内景気減速の可能性も出てくる。

このように3月は、原油価格の高騰と物価高、ウクライナ情勢に加えて、アメリカの経済対策など変動要因が多く、日本経済の先行きは予断を許さない状況が続くことになりそうだ。

 コロナ対策、出口戦略打ち出せるか

2つ目の問題が、新型コロナの感染対策だ。オミクロン株による新規感染者数は減少傾向が続いているが、減少のペースが鈍化しているほか、重症者数は高止まり、亡くなる人の増加が続いている。

こうした中で、東京など31都道府県に出されている「まん延防止等重点措置」が3月6日に期限を迎える。政府は、感染状況が改善し、医療提供体制のひっ迫を回避できる見通しがたった自治体は重点措置を解除する方針だ。

これに対し、病床の使用状況が高い水準にある場合は、延長する。東京、神奈川、愛知、大阪、京都、兵庫の6都府県で2週間程度の延長を軸に検討が続いており、近く最終的に決める見通しだ。(※文末、その後の動きなど追記)

政府のコロナ対策をめぐっては、1月9日に沖縄、山口、広島3県に重点措置が打ち出されたあと、全国的に拡大して既に2か月近くの長期に及ぶ。

重点措置をいつまで続けるのか、合わせて今後の経済・社会の立て直しに向けた道筋、出口戦略をどのように設定するのかが問われる。

 参院選へ外交・安全保障論議浮上か

ここまでロシアのウクライナ侵攻や、コロナ対策を見てきたが、ウクライナ情勢に関連して、日本の外交・安全保障のあり方に焦点が当たり、夏の参院選の主要な論点の1つとして浮上してくるのではないかとみている。

外交・安全保障の問題は、今年の年末に国家安全保障戦略や防衛力整備計画などを取りまとめる予定なので、参院選後に議論が本格化するとみていたが、ウクライナ情勢で、前倒しも予想される。その場合、90年代に北朝鮮の核開発が問題になって以来、本格的な安全保障論議となる。

その際には、現行憲法と戦後の日本外交・防衛力の基本原則を踏まえたうえで、短期、中期に分けて、わかりやすい外交・安保論争にしてもらいたい。少子高齢化に伴い若い年齢層が少なくなっていることや、厳しい財政事情も考慮にいれた現実的な議論が必要だ。

岸田政権の政権運営については、通常国会前半の焦点になっている新年度予算案が先月22日、2番目に早いスピードで衆議院を通過したが、参議院でも審議は与党ペースで進んでおり、3月23日までに成立するのが確実だ。

岸田内閣の支持率は高い水準にあるが、支持率に陰りもみられる。その要因は、コロナ対策、特に3回目のワクチン接種の遅れが影響しているものとみられる。世論調査では、岸田首相の実行力に不満を持つ層が増えている点も読み取れる。

このため、コロナ対策や暮らし・経済のかじ取りを誤ると、世論の支持が大幅に低下する可能性がある。新型コロナ感染と、ウクライナ情勢の2つの危機への対応がどこまで順調に進むのか、3月が大きな節目になりそうだ。(了)

※(追記:コロナ対策について3月3日20時)=31都道府県のまん延防止等重点措置について、岸田首相は3日夜の記者会見で、東京など18都道府県で3月21日まで延長し、福島、広島、鹿児島など13の県を解除する方針を明らかにした。

予算スピード通過と野党の混迷

通常国会前半の焦点になっている新年度予算案は、22日の衆院本会議で賛成多数で可決され、参議院に送られた。この採決では、与党の自民、公明両党に加えて、野党の国民民主党が初めて賛成に回った。

新年度予算案の衆院通過の時期は、1月召集になって以降では、1999年小渕内閣当時に次いで2番目に早いケースになった。憲法の規定で、参議院に送られた後、採決されなくても30日後の3月23日に自然成立する。

今回、予算案が衆院をスピード通過した背景や、野党の国民民主党が異例の賛成に回った事情を探ってみたい。

 バラバラ野党と戦略なき第1党

さっそく、政府予算案が早期に衆院通過したのはなぜか。結論から先にいえば、野党陣営がバラバラ、政権与党ペースを突き崩せなかったということになる。

もちろん、今年は去年のように国会冒頭、補正予算案が提出されなかったため、新年度予算審議が例年より早く始まった事情がある。

また、かつてのような予算案の通過を遅らせる”日程闘争”に大きな意味はない。だから日程よりも、国民が期待していた掘り下げた質疑に至らなかった中身の方が大きな問題だったといえる。

予算審議はちょうど、オミクロン株の急拡大が続く中で進んだ。高齢者の3回目のワクチン接種の遅れ、抗原検査キットの不足など対策の目詰まりはどこに問題があるのか。

自宅療養者の健康管理、懸案だった政府と自治体などの連携・調整の問題をどのように改善して出口戦略につなげるのか。さらには、社会・経済を立て直す具体策と道筋を示して欲しいというのが、国民の多くの期待ではなかったか。

ところが、野党第1党である立憲民主党の追及は迫力を欠いた。長妻昭・元厚労相や江田憲司氏らは、岸田首相らに鋭く切り込む場面もあったが、その後に続く論客は少なく、追及は散発的に終わった。

岸田首相ら政府側の答弁は、去年11月に対策の全体像をまとめ、水際対策もいち早く断行したと同じ説明を繰り返し、反省や対策の見直しなどにも踏み込まなかったことも議論が深まらなかった要因でもある。

岸田首相は、野党の追及に柔軟な姿勢を見せながら、実質ゼロ回答、”暖簾に腕押し”答弁は、事前にある程度予想されていたはずだ。それを上回る追及、そのための戦略や戦術、論客の陣立てなどが十分でなかったところに弱点があった。

一方、野党内では、先の衆院選で躍進した日本維新の会は第3極を意識した構えで、国民民主党は独自路線。共産党は野党共闘再確認に重点を置くなどバラバラで、攻めの体制になっていなかったことも影響したと思う。

 国民民主党 ”独自性と焦り”

それでは、次に野党の国民民主党が、政府の当初予算に対して異例の賛成に回ったことをどのようにみたらいいのだろうか。

玉木代表は22日の衆院本会議で賛成討論に立ち「トリガー条項凍結解除によるガソリン価格の値下げを岸田首相が検討すると明言したからだ」とのべるとともに「従来型の古い国会対応でなく、国民生活に何が重要かを判断した」と訴えた。

これに対し、泉立憲民主党代表は「野党とは言えない選択だ。これまでの国会で主張してきたことと整合性がとれるのか」と反発した。維新の藤田幹事長も「与党入りや閣外協力であれば、根本的に違う」と突き放し、共産党の小池書記局長は「事実上の与党入り宣言だ」と批判した。

野党関係者に聞くと「国民民主党の支持率が上がらず、参院選前に独自性をアピールしようとする焦りがあるのではないか」。「党内には、与党との連携・協力を志向する動きがあり、その布石ではないか」といった見方もある。

ガソリン価格の抑制策は最終的に実現するか、まだ決まっていない。仮に実現した場合も個別課題で、野党の立ち位置を大きく変えることに支持者の理解は得られるのか。党内でも前原代表代行は、玉木代表の方針に反対意見をのべたといわれ、党の結束も見ていく必要がありそうだ。

私事で恐縮だが、昔、駆け出し記者のころ、派閥の幹部から「国会議員は、予算案が採決される衆院本会議は、何がなんでも出席しないといけない」と聞かされた。田中角栄元首相は裁判中でも本会議場に姿を現していたことを思いだす。

政権の主要政策を凝縮して編成した当初予算の賛否は、首相指名選挙などと並んで政治家個人、政党にとっても重い決断、選択だ。その選択の是非は、国民の支持と共感、信頼を得られるかによるが、慎重に判断した方がいいと個人的には考える。つまり、支持者は、野党から与党へ転じるのを期待しているかだ。

ここまで国民民主党の動きをみてきたが、野党各党にとっても夏の参院選にどのような政治姿勢、主要政策で臨むのかが問われる。また、参院1人区について、候補者調整をどのような枠組みで進めるのか、国民民主党の扱いを含めて、早急に結論を出す必要があるだろう。

 岸田首相は歓迎、公明には慎重論も

最後に岸田政権と与党の受け止め方を見ておきたい。岸田首相は、玉木代表との間で水面下で調整を進めてきたようだ。21日の党の役員会で、これまでの経過を説明したうえで「与党として歓迎したい」との考えを表明した。

一方、連立を組む公明党からは、国民民主党との間で将来的な協力関係につながるか慎重に見極める必要があるとの意見が出ているという。山口代表も記者会見で「自公の連立の枠組みには影響を与えないことを岸田首相と確認している」とのべている。

岸田首相は、今後、政策面での連携を国民民主党との間で強めていくものとみられる。

岸田政権にとって当面の焦点は、来月6日に31都道府県で期限を迎える「まん延防止等重点措置」を予定通り解除できるかどうかが大きなカギになる。また、気になるのは、2月に入って岸田内閣の支持率に陰りが出ている点だ。

2月上旬の読売新聞、中旬のNHK、下旬に近い時点で行われた朝日新聞の世論調査で、いずれも下落傾向が続いている。政府のコロナ対応について「評価しない」との受け止め方がいずれの調査でも増えている。(※文末に内閣支持率のデータ)

このため、まん延防止等重点措置の解除、第6波の感染の抑え込みが進展するのかどうか、岸田政権の支持率や政権運営に影響が出てくるので、注視していく大きなポイントだとみている。(了)

※参考:岸田内閣支持率                            ◇2月4~6日  読売調査:支持58%(-8P)-不支持28%(+6P)     ◇2月11~13日 NHK調査:支持54%(-3P)-不支持27%(+7P)    ◇2月19・20日 朝日調査:支持45%(-4P)ー不支持30%(+9P)

“繰り返される後手の対応”岸田政権

年明けとともに驚異的な拡大が続いてきたオミクロン株の感染は、今月上旬になって、ようやくピークを超えた模様だ。一方、感染による重症者は増え、高齢者を中心に亡くなる人も最多の状態が続いている。

政府は18日、「まん延防止等重点措置」について、北海道や大阪など17道府県で延長する一方、沖縄など5県は解除する方針を決めた。先に延長を決めた東京などと合わせて31の都道府県で「重点措置」が続くが、3月6日の期限までに感染拡大を抑え込めるのかどうか。

新型コロナ対策は、未知のウイルスとの戦いで試行錯誤は当然ありうるが、岸田政権の対応を見ていると”後手の対応”を繰り返しているように見える。どこに根本の問題があるのか、どのような取り組みが問われているのか点検してみたい。

 感染ピーク越え、重症者や死者は増加

まず、最新の感染状況を確認しておくと18日、全国の新規感染者数は8万7700人余り。5日の最多10万5600人余りから減少しており、厚生労働省の専門家会合も「2月上旬にピークを超えた」との見方を明らかにしている。

但し、減少のペースは緩やかなので、高止まりの可能性がある。また、療養者や重症者、それに高齢者を中心に亡くなる人の増加が続いている。死者は18日は211人で、4日連続で200人を超える高い水準にある。

オミクロン株は「感染のスピードは速いが、重症化リスクは小さい」と言われてきたが、実際は感染者数の急増で、高齢者を中心に重症者や死者の増加傾向が続いているので、警戒が必要だ。

1月以降、自治体から死亡が報告された感染者のおよそ9割が、70歳以上だった。一方、高齢者施設でつくる団体が2月上旬に行ったアンケートでは、入所者、職員ともに3回目接種を終えていない施設が4割を超えており、高齢者施設でのワクチン接種の遅れがうかがえる。

 決め手のワクチン接種、検査も遅れ

岸田首相は17日夜、記者会見し「第6波の出口に向かって歩み始める」として、外国人の新規入国を原則停止している水際対策について、3月から段階的に緩和し、1日当たりの入国者を5000人に引き上げる方針を明らかにした。

また、3回目のワクチン接種について、2月15日以降、VRS=ワクチン接種記録システムの入力ベースで、目標の1日100万回程度までペースが上がってきたとしたうえで、安定的に100万回以上が達成できるよう全力を尽くす考えを強調した。

水際対策の緩和は、経済活動の再開をめざす経済界や与党の突き上げを受けて、踏み出すことになったものだが、国内対策は、まん延防止等重点措置の延長という従来の方針の繰り返しに止まっている。

こうした対策で3月6日の期限までに感染拡大を抑え込めるのだろうか。岸田政権の対応についてみていると大きな問題点として、2点指摘しておきたい。1つは3回目のワクチン接種の進め方であり、2つ目が検査態勢の問題だ。

ワクチン接種については18日公表データで、3回目の接種を終えた人は1600万人、国民全体の接種率は12.6%に止まっている。欧米に比べて低い水準のままだ。

与野党の議員に聞くと、政府は年末、感染が急減した時期に接種間隔を8か月にするか、6か月か決定に手間取ったこと。また、先行接種を希望した自治体に対して、厚労省が”護送船団方式の発想”でブレーキをかけたことも失敗だったと厳しく指摘する。

2つ目の検査態勢については、特に抗原検査キットの不足を招いた責任を問う声が多い。医療のひっ迫を避けるために「自宅で自分で検査すること」を呼び掛けながら、検査キットが手に入らないことが国会の質疑で取り上げられた。

後藤厚労相は18日、「最大限の取り組みを行った結果、1日当たり100万回分以上の生産・輸入を確保できる見込みになった」と明らかにした。目標の1日80万回分を上回る努力は多とするが、あまりにも遅すぎる。

 国と地方の態勢、首相官邸の危機対応

以上のワクチン接種と検査は、いずれも感染症との戦いで、切り札となる有力な武器だが、日本は感染第1波以降、有効な対応ができなかった。

コロナ感染との戦いは、安倍、菅両政権に続いて岸田政権で3年目に入ったが、どこに根本的な問題があるのだろうか。

コロナ対策の政府対応について、私の見方は点検・検証を行い、問題点を把握したうえで、対策を打ち出すという基本ができていない点が一番の問題と考える。

岸田政権は10月に発足、11月にコロナ対策の全体像をとりまとめた。医療提供体制の強化、ワクチン接種の促進などに重点を置いた。問題は、対策の内容とともに、対策の実行態勢、準備ができていたかがカギを握っていた。

ところが、現実は高齢者の3回目のワクチン接種は遅れ、抗原検査キットも不足し、自宅療養者が自分で健康管理を行うことができない事態に陥ってしまった。実行態勢の詰めに甘さがあったとされる。

この原因だが、岸田首相は「これまでのコロナ対応を徹底的に検証する」と表明しながら「司令塔機能の強化を含めた抜本的な体制強化策は、来年の6月までに取りまとめる」と先送りにした。これが、それまでの政府対応の失敗を繰り返すことにつながったとみている。

検証をいち早く行い、地方自治体との間でワクチン供給量の確保と配分、接種時期の調整を行うことも可能だった。企業との間で検査キット供給や輸入の枠組みを検討しておけば、対応の遅れや、目詰まりを防ぐことも可能だったかもしれない。

つまり、総理官邸の危機管理、司令塔機能の強化を整備すること。具体的には、総理官邸と厚労省など各省庁との指揮命令系統の整理、厚労省と地方自治体などとの役割分担などを早い段階で着手しておくべきだったと考える。

コロナ対策の次の節目は、31都道府県の「まん延防止等重点措置」を期限の3月6日までに解除できるかどうか。感染第6波の出口に向けた道筋をつけられるかどうか、岸田政権の政権運営、夏の参院選挙にも大きな影響を及ぼすことになりそうだ。(了)

 

 

“先手の誤算”岸田政権コロナ対応

新型コロナ感染に歯止めがかからない中で、政府は10日、東京など13都県に出している「まん延防止等重点措置」を3月6日まで延長する方針を決めた。また、新たに高知県を対象に加え、合わせて36都道府県で重点措置が続くことになる。

岸田政権は、これまで安倍、菅両政権を反面教師に”先手、先手の対応”をアピールしてきたが、年が明けて3回目のワクチン接種の遅れや抗原検査キット不足などの”誤算”が続いている。

まん延防止等重点措置の長期化も予想される中で、岸田政権は感染危機を抑え込めるのか、オミクロン対策では具体的に何が問われているのか、岸田政権の対応を点検してみたい。

 ”後追い”目立つ コロナ対策3本柱

岸田首相は9日夜、コロナ対策で関係閣僚と協議した後、記者団に対し「これまでと異なったオミクロン株との戦いは、今、正に正念場を迎えている。私の責任で、迅速で機動的な判断と実行を進めていきたい」と決意をのべた。

そのうえで、政府の基本的対処方針に感染速度が速いオミクロン株に対応するため、臨時の医療施設の整備や、学校、保育所、高齢者施設などの感染対策を強化することなどを盛り込んだ。

こうした内容はいずれも必要な対策と思うが、問題の核心は、岸田政権が発足以降、3本柱として打ち出してきたワクチンの追加接種、検査体制の強化、それに経口治療薬の迅速な提供がどこまで実行できたかという点にある。

年明け以降の政府対応をみていると、ワクチン対策では3回目接種の間隔について、一般の人では原則8か月以上から、7か月、6か月へと短縮するなどの方針変更に追われた。

また、感染した人との濃厚接触者が、自宅や宿泊所で求められる待機期間についても当初の14日間から10日間、1月末には7日間に短縮するなど”後追いの対応”が続いている。

一方、3回目のワクチン接種を終えた人は、8日時点のデータで914万人、接種率7.2%に止まり、思うように進んでいない。

抗原検査キットについても、爆発的な感染急拡大で、自ら検査したい人たちの急増に供給が追い付かず、薬局や医療機関でも入手が困難な状況が続いている。

さらに飲める治療薬の供給量が十分ではないと国会で野党側が追及したのに対し、政府側はいつ頃、必要な人に届けられる状態になるのか見通しを示すことができなかった。

 オミクロン新対策と実行態勢の強化

それでは、岸田政権のコロナ対策では何が必要なのか。国会での論戦を基に考えるとオミクロン株の特性の分析に基づいた「新たな総合的な感染対策」を早急に打ち出す必要があるのではないか。

今回のオミクロン株は、感染力は極めて強く、今も感染者数が全国で1日9万人前後も確認される一方で、重症化率は低いなどの特性が指摘されている。

また、感染しても症状が現れない軽症者や濃厚接触者になったために仕事を休まざるを得ない人も増えている。その結果、医療機関、保育所、高齢者施設、ごみ収集などの社会機能をどのように維持していくか新たな問題も起きている。

これに対して、政府は、濃厚接触者の待機期間を短くするなど対応策を次々に出しているが、細切れでわかりにくい。そこで、検査から、陽性者などの隔離や待機、治療などの対策全体を盛り込んだ「新たな総合的な対策」が必要だと考える。

全国知事会も政府に対し、「オミクロン株の特性等を踏まえた感染対策」を早急に確立、実行するように求める提言を出している。また、政府が11月にまとめた対策の全体像を見直すことを求めており、こうした提言に賛成だ。

▲岸田政権が問われる2点目は「検査体制の拡充」だ。感染第1波の時から、専門家や、メディア、野党が繰り返し主張している論点だが、政府・厚生労働省の危機感は乏しく、対応も鈍かった。

岸田首相も11月段階で「検査も抜本的に拡充する。感染拡大時には、無症状者でも無料で検査を受けられるようにする」と強調していた。ところが、抗原検査キットは品薄、政府は「検査は自分で」と勧めながら、薬局では手に入らない。

日本はキットの多くを輸入に頼っており、政府は、国内メーカーに1日80万回分まで増産するよう要請した。但し、要請したのは1月14日という遅さだ。

自民党の閣僚経験者に聞くと「経済・社会を回すためにも検査が重要だ。検査キットは数千万キットくらい保有すべきで、国が買い取りを保証、増産させるべきだ。PCR検査も38万件まで検査能力を増やしてきたが、100万件くらいまで拡大した方がいい。大胆に舵を切るべきだ」と指摘している。

▲第3は「ワクチン接種の加速」だ。3回目のワクチン接種が進んでいない現状は、先に触れた。

その背景だが、与野党の関係者とも「去年秋、感染が急減していた時の対応がなっていない。自治体の中には、年末早めの接種ができたのに、厚生労働省がすべての自治体がそろうまでブレーキをかけたことが大きい」と指摘。岸田政権の指導力を問題視する声を聞く。

岸田首相は、ワクチン接種の目標設定に消極的な姿勢を続けてきたが、7日、「1日100万回」を目標に2月後半の達成をめざす考えを明らかにした。国会で野党からの批判、報道機関の世論調査で内閣支持率に陰りが出始めたことを懸念したのかもしれない。

ワクチン接種の目標設定は遅きに失した感じもするが、切り札であるのは間違いないので、猛スピードで追加接種を進めてもらいたい。

 対策の実行力、政権の行方を左右

ここまで岸田政権の対応を見てきたが、安倍政権や菅政権のコロナ対策の失敗を教訓に対策をまとめており、方向性は間違っていないと思う。

問題は、首相官邸が中心になって、対策を実行に移していく実務能力、具体的には、厚生労働省を指示したり、全国の自治体と連携・調整を進めたりする力が弱い点ではないか。

また、岸田首相の姿勢も水際対策として、11月末に外国人の新規入国の停止を打ち出すといった時期までは意欲的な姿勢が感じられた。

ところが、年明け以降は安全運転、守りの姿勢が目立つ。まとまった記者会見は去年12月21日に行って以降、行われていない。

国会の答弁でも、オミクロン株対策をまとめて説明したりする場面もほとんど見られない。トップリーダーとして、国民に向けた対策の説明・説得、それに強い決意と攻めの姿勢は不可欠だ。発信力も不足している。

オミクロン株感染のピークは近いとの説もあるが、高止まり状態が続くとの見方も根強い。今月20日には、一度延長した沖縄など3県と、北海道や大阪府など18道府県の重点措置の期限が近い。

岸田政権がオミクロン危機の出口を見いだせるか、それとも混迷のトンネルで試行錯誤を続けることになるのか、分かれ道に差しかかりつつあるように見える。夏の参院選や岸田政権のゆくえも、オミクロン感染対策が大きく左右する図式は、変わっていない。(了)

 

“オミクロン緊急宣言”の考え方

新型コロナウイルスの感染は、感染力の強いオミクロン株によって急拡大が続いており、全国の新規感染者数は2日、9万人を超えて過去最多となった。

東京都内では新規感染者数が初めて2万人を超え、コロナ感染患者用の病床使用率は51.4%に達した。都は、緊急事態宣言の発出を要請する目安を50%に置いてきたが、その目安を上回ったことになる。

政府や東京都は、いずれも緊急事態宣言の取り扱いには慎重な姿勢を示している。この宣言の扱いをどのように考えたらいいのか。岸田政権のコロナ対策では何が問われているのか、衆院予算委員会のコロナ対策の集中審議も含めて考えてみたい。

 政府、東京都も緊急宣言に慎重姿勢

まず、オミクロン株の感染急拡大に伴う緊急事態宣言について、東京都と政府の対応から見ていきたい。

東京都の小池知事は「命と暮らしを守るという観点からも、病床の使用率の中でも重症や中等症を見ていく必要がある。専門家の声なども聞きながら考えていきたい」とのべ、症状の重い人たちの状況も見ながら慎重に判断したいとの考えを示している。

岸田首相は、2日の衆院予算委員会の集中審議で「去年8月の感染者数がピークだった時、病床も満杯だった。今の感染者数は当時の3倍と多いが、病床使用率は国の基準で37%程度に収まっている。今の時点では、緊急事態宣言を出すことは検討していない」として、慎重な姿勢を示した。

 緊急宣言、今後の方向性・選択肢は

それでは、今後、重症者数などがさらに増加した場合、緊急事態宣言の扱いをどう考えるかという点が問題になる。

この点に関連して、前のコロナ担当相で、自民党の西村康稔議員が2日の衆院予算委員会集中審議で、次のような方向性と選択肢を示しながら質問に立った。今後の対応を考えるうえで参考になるので、個人的な解釈を交えて紹介したい。

1つは「より強い強制力」を伴った感染抑制対策。日本は海外のようなロックダウンは難しいので、今の緊急事態宣言に比べて、より強い措置、例えば夜10時以降の外出制限などが考えられる。

2つ目は「緩やかな対応策」。具体的なイメージとしては、今の緊急事態宣言や、まん延防止等重点措置がベースとして考えられる。感染対策と経済社会活動との両立をめざしながら、穏健な対策を基本に考える。

西村氏は、国民の理解が得られるかなどを考えると1つ目は、当面は困難と判断している模様だ。2つ目が、現実的な案だが、さまざまな工夫や改善を行うことが可能だとして、次のような取り組みを挙げていた。

オミクロン株感染で重要なのは、高齢者と子ども。高齢者対策では、ワクチン接種の加速。子ども対策では、学校・教育のオンライン化。それに親たちの企業のテレワークの推進を強力に推進することを提案した。

これに対して、岸田首相は「感染防止と、社会経済活動維持のバランスの中で、今後の対策を考えたい。強制力を伴う対策に踏み出すかどうかは、6月にまとめる中長期の対策の中で考えたい」と今後の方向や対応には踏み込まなかった。

以上の質疑も踏まえて、緊急事態宣言の扱いだが、岸田首相や小池知事が今の時点で慎重に判断したいとの姿勢は妥当なように思える。

但し、問題は、特に医療に大きな影響を及ぼす重症者の状況がどうなるか。それに感染拡大の抑え込みと、社会経済活動の維持の3つの要素をどう考えるか。専門家の意見も聞くにしても最後は、政権トップが政治判断で決めることになる。

その決断に当たって、仮に緊急事態宣言を出す場合も、重要なことは従来の対策の踏襲ではなく、ワクチン接種の一層の加速や人流抑制のオンライン化促進など新たな対策を打ち出せるかだ。

また、国や自治体の権限強化といった問題も先送りせずに、今の国会で議論し、法案を提出して成立させることこそ、緊急時の国会の役割ではないか。

 日本の弱点、ワクチン、検査の強化

岸田政権の今後のコロナ対策の進め方について、民主党政権の厚労相経験者で、立憲民主党の長妻昭議員の指摘も参考になったので、紹介しておきたい。

長妻氏もコロナ感染防止と経済・社会活動の両立をめざす立場だ。そのうえで、オミクロン株対策としては、端的に言えば、ワクチン接種とPCR検査の2つの柱を強化することを提案した。

具体的には、日本の3回目のワクチン接種率は3.5%に止まり、世界の先進36か国の中でも最低の水準だ。政府の接種間隔8か月の見直しが遅れたためではないか。1日当たりの接種も直近で40万回だが、菅政権の100万回など目標を設定してはどうか。

一方、PCR検査についても日本の能力は国際的にも低い。日本のコロナ対策の弱点は、検査体制が未だに改善・強化されていないことで、岸田政権が掲げる抗原検査キット1日80万確保はいつ実現するのかと質した。

これに対して、岸田首相は「ワクチン接種の対象者は、今後、増えていくので、一律の目標は適切かどうか」と消極的な姿勢を示したほか、検査キット確保の具体的な時期に言及することは避けた。

このようにみてくると既に4回も出してきた緊急事態宣言をいつ出すか自体には、あまり大きな意味がない。緊急事態宣言を出して、どんな対策が強化されるのか、中身がより重要だ。

岸田政権は去年、水際対策をいち早く打ち出した点は評価する。ところが、年明け以降、急拡大したオミクロン株対応では、対応に遅れが目立つ。3回目のワクチン接種が目標を大幅に下回ったり、自衛隊による大規模接種も対象の人員が少しずつ増えるなど小出しの対応に見える。

オミクロン株感染は、感染状況や医療・病床のひっ迫がどうなるか。東京など13都県のまん延防止等重点措置の期限が13日に近づいている。

岸田政権は、オミクロン危機をどのように乗り切っていくのか。まん延防止等重点措置や緊急事態宣言などの手続きではなく、具体的な対応策を打ち出して、強力に推進・実行できるかどうかが問われている。(了)

〇追記(2月3日20時)東京都 緊急事態宣言要請の新たな指標設定         ①重症者用の病床使用率、酸素投与が必要な人の割合             →いずれか30%~40%                          ②新規感染者数 2万4000人(7日平均)                  ※現状→①重症者用の病床使用率15.1%、酸素投与割合8%、            ②1万7058人

 

 

 

“感染危機本番”と首相の指導力

新型コロナウイルス、オミクロン株による感染急拡大が続いている。海外の感染状況から予想はしていたが、国民生活への影響も目立ち、感染危機が現実のものになってきた。

政府は27日から「まん延防止等重点措置」の対象地域に北海道、大阪、福岡など18道府県を追加し、適用地域は合わせて34都道府県、全国の7割以上に拡大した。新規感染者数は7万人を超えて過去最多、さらに拡大は続く見通しだ。

感染危機を抑え込むためには、政権の対応、特に首相の指導力が大きく影響する。岸田首相は、感染対応を比較的順調に進めてきたが、ここにきて対策の決定などに遅れがみられるようになった。

岸田政権のオミクロン株対応は何が問われているのか、岸田首相の指導力をどうみるか、通常国会の論戦も含めて考えてみたい。

 オミクロン、新たな対策とりまとめを

岸田政権は、去年11月にコロナ対策の全体像を取りまとめたのに続いて、今月11日には、オミクロン株の急拡大を受けて新たな対策を打ち出した。そして、水際対策で時間を稼ぎながら、予防、検査、医療提供体制の整備を進めながら、感染の抑え込みをめざしてきた。

ところが、年明けとともにオミクロン株の感染力はすさまじく、あっという間に第5波を乗り越えた。全国の新規感染者数は26日、7万1000人余りに達し、過去最多を更新した。

今回は濃厚接触者も多く、保健所は、感染経路を調べる積極的疫学調査を断念したところが多い。病院の外来診療もひっ迫が目立ち、保育園の休園、小学校の臨時休校もみられ、国民生活への影響は大きくなっている。

国会では新年度予算案の実質審議が始まり、オミクロン対策が最大の焦点になっている。野党側は「政府の対応は後手に回っている」と追及したのに対し、岸田首相は「感染防止と社会活動の両立をめざしている」と防戦に追われている。

それでは、岸田政権としては、何が最も問われているか。結論を先にいえば、これまでの対策を見直し、オミクロン感染に対応できる新たな対策を早急に取りまとめ、実行に移せるかだ。

オミクロン株の特性は、感染力は強いが、重症化リスクは今のところ低いといわれている。濃厚接触者が多いので、陰性が証明されれば、待機期間を短縮してエッセンシャルワーカーは仕事ができるようにして、社会機能を維持していく必要がある。

また、政府は、医療がひっ迫する可能性がある場合、自治体の判断で、軽症者は自分で検査を行い、自宅療養も認める新たな方針を打ち出した。

ところが、こうした対策も肝心の抗原検査キットが不足する事態が起きている。また、自ら検査をして自宅療養するにしても、薬や食料などのバックアップ体制などもはっきりしていない。

このように政府のオミクロン対策は、場当たりで断片的な対応が目立ち、国民の不安をなくしていく対応ができていないようにみえる。

したがって、政権がなすべきことは何か。1つは、感染防止対策と医療提供体制が本当に機能しているのか、早急に点検・確認したうえで、問題点があれば、是正して新たな対策として明らかにすること。

2つ目は、新たな問題、社会的機能を維持していくための取り組みも必要だ。具体的には、待機期間の扱いと考え方。そのうえで、保育や学校、交通機関、ごみ収集などの事業を維持していくため、政府、地方自治体、民間企業の役割分担や支援策などもとりまとめる必要がある。

 ワクチン追加接種、強力な推進を

次にワクチンの3回目接種が遅れている問題がある。政府は、3回目接種について、1月末までにおよそ1470万人に打つ目標を立てていたが、25日までに接種を終えた人は289万人、目標のわずか20%に止まっている。

この問題は、衆院予算員会でも取り上げられ、野党側は「最近の1日当たりの接種状況は、昨年夏のピーク時の1割以下と少ない。人口に占める接種率もわずか2.1%、先進国で最下位だ」と対応の遅れを厳しく批判した。

これに対し、岸田首相は「1,2回目の接種が遅れたため、3回目は間隔を空けて行わなければならなかった。2月末までには8割の自治体が高齢者の接種を終えられる見通しだ」と理解を求めた。

政府は当初、3回目の接種の間隔について「原則8か月以上」としていたが、オミクロン株の感染が拡大したのを受けて、65歳以上の高齢者などは6か月に、一般の人は7か月に短縮するという方針変更を迫られた。

また、ワクチンの安定的な確保の難しさや、自治体の接種体制の準備の問題。さらに、3回目はワクチンの「交互接種」が可能だが、予約希望がモデルナ社製より、ファイザー社製に集中する問題も抱えている。

但し、切り札の3回目のワクチン接種が遅れているのは事実だ。接種をさらに強力に推進しないと感染の急拡大に間に合わない恐れもあり、時間との闘いとも言える厳しい状況にある。

 首相の指導力、現状把握と実行力

感染危機を抑え込むことができるかどうかは、岸田政権の求心力を大きく左右する。岸田首相は当初の対策が有効に機能しているかどうか、現状の把握と問題点があれば、直ちに是正していく実行力が、問われている。

一方、政権与党、野党の双方とも感染対策に問題があれば、鋭く指摘したり、批判したりすることは当然だが、些細なことで足を引っ張るような行動を取ると国民の支持を失う。野党側も建設的な対応を続けているようにみえる。

岸田首相については、代表質問に対する答弁や、衆院予算委員会の論戦をみているといわゆる”安全運転”、既存の方針の説明を繰り返す”守りの姿勢”が目立つ。

オミクロン危機を回避するためには、科学的な知見、データを集めたうえで、国民生活を守るために、どこまで踏み込んだ対応策を実行できるかが試される。

岸田首相並びに総理官邸が、司令塔機能を発揮して新たな対応策を打ち出し、危機乗り切りに成功するかどうか。トップリーダーの政治決断が問われる局面が近づきつつあるように思う。(了)