”オミクロン危機” 岸田政権の対応は

オミクロン株の感染が驚異的な速さで拡大している。「まん延防止等重点措置」が21日から東京など16都県に拡大したが、大阪など関西3府県や北海道など各地の自治体からも適用の要請に向けた動きが相次いでおり、感染地図が大きく塗り替えられつつある。

岸田首相は国会の答弁で「過度に恐れることなく、対策を冷静に進める覚悟だ」と訴えているが、オミクロン危機の出口戦略は描けていない。感染抑え込みに何が問われているのか、探ってみる。

 東京は過去最多更新、危機的状況も

今回の感染拡大のスピードはすさまじい。東京都を例に見ておくと1日当たりの感染者数は、去年10月9日から今月2日までのおよそ3か月は100人を下回る日が続いた。

ところが、今月8日に1000人を超えて1224人となり、急速に増加する。12日に2198人、13日3124人、14日4051人。そして19日に7377人で過去最多、20日は8638人で最多を更新した。

これを1週間平均のデータで1日当たりの感染者数をみてみると、今月1日は60人だったのが、19日時点では4555人、半月ほどで76倍も増えている。

このままの増加が続けば1月27日には、1万8266人になるという推計が都のモニタリング会議に報告された。専門家は「これまでに経験したことのない危機的な感染状況となる可能性がある」と指摘している。

全国でも20日は、4万6200人の感染が確認され、3日連続で過去最多を更新した。累計では、国内の感染者数は20日に200万人を超えた。

 岸田政権 ”自治体要請 丸飲み”

こうした感染急拡大を受けて、自治体側は政府に対し「まん延防止等重点措置」の適用を要請し、沖縄、山口、広島3県には今月9日に適用された。続いて21日からは、東京など首都圏、東海地方、九州の合わせて13都県が追加され、重点措置は16都県に拡大した。

さらに、大阪、京都、兵庫の関西3府県が22日、重点措置を要請するほか、北海道が要請を決める方針だ。また、福岡、佐賀、大分の各県も要請する方向で、感染地図がオセロゲームのように塗り替わりつつある。

政府は、自治体から重点措置適用の要請があれば、速やかに検討に入る方針だ。岸田政権としては「感染者数の抑制や、医療体制がしっかり稼働するための準備が進む」として、自治体の要請を”丸飲み”する形で適用を認める考えだ。

 カギは医療、ワクチン、危機対応

オミクロン株の感染拡大は、17日から始まった通常国会の代表質問の論戦でも最大の焦点になっている。野党側は、政府のコロナ対策は不十分だと強く批判したほか、3回目のワクチン接種の取り組みも遅いなどと追及した。

これに対して、岸田首相は「これまでG7で最も厳しい水準の水際対策で、海外からのオミクロン株流入を最小限に抑えてきた」と反論するとともに「今後は、オミクロン株の特性を踏まえ、メリハリをつけた対策を講じていく」と強調した。

政府・与党と、野党側の主張は平行線だが、岸田政権はオミクロン株の感染危機を抑え込めるのか、正念場を迎えている。感染抑え込みができるか否かのカギは何か、具体的にみておきたい。

第1は、岸田政権が準備を進めてきた「医療提供体制」が機能するかどうかが、試される。岸田首相は、病床を去年夏に比べて3割増やしたのをはじめ、自宅療養中の患者の健康観察、飲み薬の速やかな供給などを行うための体制を整えてきたとしている。果たして、急拡大の第6波に通用するか。

第2は「ワクチン接種の前倒し」だ。一般高齢者の3回目のワクチン接種について、政府は当初、原則8か月としていた2回目との間隔を7か月に短縮した後、今月13日には6か月に短縮し、接種体制などに余力がある自治体に対しては、さらに前倒しをして、接種を進めることも要請した。

こうした政府の方針転換に準備にあたる自治体側は、振り回されている。また、19日時点で3回目の接種を受けた人は162万人余りで、全人口のわずか1.3%に止まっている。先手、先手と言えるのかどうか。

さらにオミクロン株では、子どもの感染も目立っており、政府は新たに5歳から11歳までのワクチン接種も進める方針だ。その子どもを対象にしたファイザー社製ワクチンは21日、厚生労働省から正式に承認される見通しだ。但し、保護者や子どもの理解がどこまで得られるかという問題がある。

第3は「政府と地方自治体の連携・調整、危機対応」が順調に進むかという問題だ。例えば、前提となるオミクロン株の特性についても、政府と自治体側などとの間に認識や、評価、対応の仕方に違いがあるのではないか。

政府分科会の尾身会長は、報道陣の取材に応じ「今までやってきた対策を踏襲するのではなく、オミクロン株の特徴にあったメリハリのついた効果的な対策が重要だ。これまでの『人流抑制』ではなく、『人数制限』というのがキーワードになる」とのべ、飲食そのものではなく、感染リスクの高い状況に集中して対策を行うことが重要だとの考えを強調している。

これに対して、東京都の小池知事は、飲食店の営業時間の短縮や酒の提供制限の方針を決めた後、「感染者の急増は、医療提供体制のひっ迫に止まらず、社会が止まる事態も招きかねない。都民の皆さまには、再度、気を引き締め、行動を変えていただきたい」とのべ、不要不急の外出の自粛や、基本的な感染防止対策の徹底を呼び掛けた。

こうした考え方の違いの背景には、オミクロン株の特徴、重症化リスクの評価の違いがあるのかもしれない。あるいは、医療従事者やエッセンシャルワーカーの確保、経済活動とのバランスのとり方との関係で、感染対策の重点の置き方に違いが出てくることも考えられる。

オミクロン危機を抑え込むためには、どのような戦略、対応策がありうるのか。感染状況と社会、経済への影響などをみながら、政治、行政、それに国民の側もそれぞれ考えていく必要があるのではないか。国会で24日の週に始まる衆院予算員会の質疑も注目したい。(了)

 

 

通常国会論戦へ”オミクロン対策”が焦点

通常国会が17日召集され、岸田首相の施政方針演説に続いて、各党代表質問が行われて論戦が始まる。

岸田首相にとっては就任後初めての通常国会だが、新型コロナのオミクロン株の感染が加速度的に拡大している。このため、国会冒頭の論戦は、岸田政権のオミクロン株対策が焦点になる見通しだ。

オミクロン株対策では何が問われているのか、対策の具体的な内容に焦点を当てて考えてみたい。

 ”オミクロン株国会”の様相か

最初に日程をみておくと通常国会は17日に召集され、その日のうちに岸田首相の施政方針など政府4演説が行われる。これを受けて、19日から衆参両院の本会議で各党代表質問のあと、24日から衆院予算委員会に舞台を移して、新年度予算案の審議が始まる見通しだ。

夏に参議院選挙を控えているため、その前哨戦と位置づけられる今年の通常国会は、与野党の対決色の濃い国会になりそうだ。

特に予算案成立のメドがつく3月末までの前半戦では、オミクロン株対策をめぐって激しい論戦が戦わされる見通しだ。端的にいえば”オミクロン国会”の様相になるのではないか。

 岸田政権の新対策と感染見通し

そのオミクロン株対策について、岸田首相は所信表明演説で、オミクロン株の特性を踏まえて、メリハリのある対策を講じるとして、医療提供体制を強化するとともに3回目のワクチン接種を前倒しする方針を打ち出したい考えだ。

ところが、ここにきてオミクロン株の感染が驚異的な速さで拡大してきた。東京では13日、1週間前の5倍近い3100人余りに急増した。都の専門家会議では、今のペースでいけば1月中に1万人を超えるという推計も示された。

全国の感染状況も「まん延防止等重点措置」が沖縄、山口、広島3県に出されているほか、全国の感染者数は13日に1万8600人余りに達し、オミクロン株への置き換わりは暫定値で84%を占めている。

岸田政権は、去年11月にコロナ対策の全体像を取りまとめたの続いて、今月11日には、オミクロン株の新たな対策を打ち出した。果たして感染拡大を抑え込むことができるのかどうか、試されることになる。

 ワクチン、医療、水際対策の論戦を

岸田政権のオミクロン対策は、具体的にどんな点が問われることになるのか、論戦のポイントをみていきたい。

▲第1は「医療提供体制の備え」がどこまで進んでいるかだ。政府は、オミクロン株の感染力は強いが、今のところ重症リスクは小さいなどの特性を踏まえて、感染者や濃厚接触者を一律に入院させるのではなく、地域の医療機関などと連携して、自宅療養も認める方針を打ち出した。

そして、各都道府県で体制を整備した結果、自宅療養中の患者の健康観察や、飲み薬の速やかな供給などを行うための体制が整ったとしている。具体的には、自宅療養を始めた場合には、翌日までにパルスオキシメーターを配布する体制も整い、患者の健康観察などを行う医療機関の数は、全国で計画を3割上回る1万6000確保できたとしている。

問題は、今後、感染が急拡大した場合、入院・治療、宿泊所での待機療養、自宅療養などの仕分けや転院などが実際に機能するかどうかだ。

また、感染や濃厚接触で、医療従事者やエッセンシャルワーカーの仕事が制限され、要員が不足する社会機能の低下といった新たな問題も懸念される。

▲第2は「ワクチン接種の前倒し」の問題だ。政府は13日、ワクチンの2回目と3回目の接種間隔について、◆高齢者施設などに入っていない一般の高齢者も現在の7か月から6か月に短縮する方針を決めた。

◆64歳以下は、8か月から7か月に前倒して、今年3月から実施する方針だ。こうした対応は、オミクロン株の急拡大を踏まえ、3回目の接種を急ぐ必要があると判断したためだ。

問題は、ワクチンの確保と自治体への配分が順調に進むかどうかだ。12日に開かれた全国知事会では、前倒しの方針を歓迎しながらも「ワクチンは3月までのスケジュールしか示されておらず、4月以降の配分が見通せないと予約を受け付けられない」「現場の自治体が大混乱しかねないので、接種の対象や時期、ワクチン供給量などについて行程を示してほしい」といった要望が相次いだ。

こうした自治体の声を受け止めて、具体的な実施計画をまとめ、迅速に追加接種を行えるのかどうかが問われている。

▲第3に「水際対策や検疫の問題」がある。在日アメリカ軍基地がある沖縄、山口県・岩国市、隣接する広島県西部などの地域で、感染が拡大した。基地内の感染流行が、基地の外に広がったものとみられる。米軍関係者がアメリカなどから基地に直接、入国する場合、検疫が免除されていたことも明らかになった。

日米両政府は今月9日、対策を強化することでようやく合意した。この問題が沖縄県で表面化したのが、去年12月だったことを考えると政府の対応はいかにも遅い。日米地位協定を見直すべきだとの意見もある。

▲このほか、首相官邸の司令塔機能のあり方、具体的には、政府と自治体、医療機関などとの連携・調整のあり方の課題もある。政府は6月まで先送りしているが、危機管理体制の見直しは早急に行うべきだという意見もある。

このようにコロナ対策は、数多くの課題・問題がある。野党側は、全国各地の実態を踏まえて、政府の対策に問題がある場合は厳しく指摘したり、別の対策があれば積極的に提案したりするのが本来の役割だ。

これに対し、政府、与党側は対策に問題があれば真摯に受け止めて是正するなど与野党双方が建設的な取り組みを見せてもらいたい。国民の側も、政府、与野党の議論、対応をしっかり評価していくことが重要だ。

経済立て直し、外交・安保論争も

今年は、通常国会が6月に閉会すると直後に参議院選挙が控えている。国民にとって、参議院選挙の主な判断材料は、国会の与野党の議論ということになる。このため、コロナ対策以外の議論も必要不可欠だ。

具体的には、まずは、経済の立て直しだ。コロナ感染が収束したあと、国民生活や経済の立て直しに向けて、何を最重点に取り組むのか、各党とも構想と政策を明らかにしてもらいたい。

また、米中の対立や北朝鮮の弾道ミサイルの相次ぐ発射などを受けて、日本の外交・安全保障、防衛力整備のあり方などの議論を深めていく必要がある。

通常国会冒頭は、オミクロン株対策に議論が集中するのはやむを得ないが、感染が落ち着けば、経済、外交・安全保障論争にも力を入れてもらいたい。(了)

※(追記14日21時半。◆濃厚接触者の自宅などでの待機期間、政府は現在の14日間→10日に短縮する方針。◆新規感染者数、東京14日4051人、全国2万⑳45人)

感染第6波、正念場の岸田政権

新しい年が明けて1週間も経たないうちに、コロナ感染の波が、猛烈な勢いで押し寄せてきた。政府は7日、沖縄、山口、広島の3県に緊急事態宣言に準じる「まん延防止等重点措置」を適用する方針を決めた。

重点措置の期間は、9日から今月31日まで。夏の感染第5波に対する重点措置が解除された去年9月30日以来で、岸田政権になって初めてになる。

全国的にも1日当たりの感染者数が6000人を超え、オミクロン株の入れ替わりも早いペースで進んでいる。医療専門家は「全国的に第6波に入った」と警戒を強めている。

第6波を抑え込むことができるどうか、政権のかじ取りが大きく影響する。安倍政権、菅政権と2年連続、感染対応に失敗し退陣に追い込まれてきた。

岸田政権は、これまで感染対策を比較的順調に実施してきたように見えるが、第6波を乗り越えられるのか、どんな取り組みが必要なのか考えてみたい。

 驚異的な感染力、米軍基地が”穴”

まず、重点措置が適用されることになった3県の感染者数を見ておく。7日の時点で、沖縄は1414人で過去最多を更新、広島も429人で過去最多、山口は180人で高い水準にある。

特に感染の速さが、驚異的だ。7日の感染者数を1週間前と比較してみると沖縄は実に32倍、広島は19倍、山口は12倍にもなる。これだけの急拡大は、感染力の強いオミクロン株への置き換わりが急速に進んでいるものとみられる。

この3県に共通しているのは米軍基地だ。沖縄と山口県岩国市には米軍基地があり、広島県の西部は隣接地域だ。地元の知事や医療専門家は、米軍基地内の感染の流行が基地の外に広がったことが一因との見方をしている。

米軍関係者が、アメリカなどから在日米軍基地に入国する際にPCRなどの検査が免除されていたとされる。沖縄県の玉木知事らは、去年からたびたび米軍の感染対策の強化を訴えてきたが、日本政府の対応は安全保障面への配慮のためか慎重な姿勢が続いた。

岸田政権は、外国人の入国を全面停止するなど厳しい水際対策を取ってきたが、在日米軍基地に感染を広げる”穴”が開いていたことになる。岸田政権の失策と言わざるを得ない。

日米地位協定で、米軍関係者は検疫の対象外だが、地域住民の健康と安全を考えると、検疫や感染管理の不備を放置することは許されない。この問題は、今月召集される通常国会でも取り上げられることになるだろう。

 岸田政権の新対策は機能するか

次に岸田政権のコロナ対策をどうみるか。今回の3県の「重点措置」適用は、岸田政権が去年11月に決定した緊急事態宣言や重点措置を出す目安となる「新指標」に基づいている。

新指標は、従来の新規感染者数よりも、医療提供体制への負荷を重視しているのが特徴だ。具体的には、医療のひっ迫状況などに応じて、レベル0から4まで、5段階に分けて判断する。緊急事態宣言はレベル3、重点措置はレベル3か2に相当する。今回の3県は、レベル2に当たると判断された。

また、岸田政権は同じく去年11月に「コロナ対策の全体像」を取りまとめた。対策のねらいは、コロナウイルスの感染力が2倍になった場合にも対応できる医療体制を確保することにあると強調している。

具体的には、昨年夏に比べて3割増の3万7000人の入院を可能にすること。ワクチン、検査、飲める治療薬の普及で「予防、発見、早期治療までの流れを強化し、重症化リスクを減らすこと」を掲げている。

菅政権の前半は、飲食店の営業時間短縮に重点を置いた1本足打法だった。後半はワクチン接種最優先だったのに比べて、岸田政権の対策は、医療提供体制の確保に重点を置いたうえで、複数の対策を組み合わせているのが特徴だ。

問題は、全体像の目標で掲げる「予防、発見、早期治療までの流れを強化し、重症化リスクを減らす対策」が本当に機能するのかどうかにある。

 国と地方自治体の連携・実行がカギ

一番の問題は「国と地方自治体などとの連携・調整」が順調に進むのかどうかという点にあるのではないか。

具体的には、岸田政権の対策では、オミクロン株の感染が急拡大している地域では、自宅での療養体制が整っていることを条件に、感染者や濃厚接触者でも症状に応じて「自宅での療養」なども可能にするとしている。

確かに去年夏のピークを上回るような感染者が出た場合、入院だけでは対応できないので、自宅療養を認めるのは現実的な方法であることは理解できる。

問題は、入院か自宅療養かを判断をするのは、地域の保健所が担当すると思われるが、保健所の体制整備は進んでいるのだろうか。自宅療養が広がった場合、地域の医療機関の往診や健康管理はスムーズに運ぶのだろうか、多くの疑問がわいてくる。

このほか、無料のPCR検査など拡充や、ワクチン追加接種の前倒しなど多くの難問がある。最終的には、総理官邸が司令塔機能を果たして、厚労省など各省庁を指示し、都道府県、市区町村を通じて、保健所や医療機関などとの連携・調整、実行の歯車がうまく回るのかが、これから試される。

 医療提供、経済の二正面作戦

感染力の強いオミクロン株の感染は、7日夜までに全国45都道府県にまで拡大した。また、オミクロン株の置き換わりが急速に進んでいることなどを考えると今後は、東京や大阪など大都市圏へ波及していくことが予想される。

新規感染者数は7日のデータで、東京都は922人、1週間前の12倍に急増した。大阪府も676人で、1日の感染者数が500人を超えるのは2日連続だ。

ここまで見てきたように感染の拡大は避けられないが、重症者を減らしながら医療提供体制を維持できれば、感染抑制への展望が開けてくる。

また、感染が長期化する中で、国民生活への影響を最小限に食い止めるとともに経済活動を維持していく道を探っていくことも必要だ。

岸田政権が、こうした二正面作戦に取り組み、第6波の感染危機を乗り越えられるかどうか、正念場を迎えている。

※追記(1月10日)在日アメリカ軍の施設区域などで、コロナ感染拡大が続いていることを踏まえ、日米両政府は、10日から14日間、アメリカ軍関係者の不要不急の外出を制限することなどを取り決めた共同声明を発表した。

これに対し、野党側は、政府の対応が遅すぎるなどと批判しており、17日召集の通常国会の焦点の1つになる見通しだ。

 

“コロナ危機、踊り場政局” 新年予測

新型コロナウイルスの新たな変異株「オミクロン株」の感染が広がりを見せる中で、新しい年・2022年が幕を開けた。昨年は、自民党総裁選を前にコロナ対応などで失速した菅前首相が退陣、岸田首相が誕生するなど波乱が続いた。

新年の日本政治はどんな展開になるのだろうか。まずはコロナ対応、感染力が強いオミクロン株の抑え込みができるかが、政権運営を左右するのは間違いない。

問題は岸田政権をどうみるかで、政局の見方は変わる。結論を先に言えば、岸田政権を取り巻く今年の政治状況は「踊り場政局」と言えるのではないか。

どういうことか?岸田政権は先の衆院選に勝利し安定しているように見えるが、政策にぶれがみられるし、政権基盤も強くはない。政権は浮揚するのか、逆に停滞、失速することになるのか、不透明だ。

だから「踊り場政局」、政権の階段を駆け上がるのか、下りへと向かうのか、読みにくい政治状況が、短くても半年以上は続きそうだ。

一方、野党も先の衆院選で議席を減らした第1党の立憲民主党と、議席を大幅に伸ばした日本維新の会との主導権争いが激しくなる見通しだ。政権与党との対決より、野党内のせめぎあいにエネルギーを費やす可能性もある。

つまり、与野党双方とも”内部に不確定要素を抱え、様子見の政治”、”メリハリのない政治”が続く可能性が高い。そして、夏の参院選で、政治的に一件落着、国民は蚊帳の外といった状況が生まれるのではないか。

そこで、なぜ、こうした見方をするのか、現実の政治の動きを分析する。そのうえで、今の政治は何が問われているのか、国民の視点で考えてみたい。

 政治日程 参院選挙が最大の焦点

まず、今年の主な政治日程を駆け足で見ておきたい。◆今年前半の政治の舞台となる通常国会は1月17日に召集される見通しで、6月15日が会期末。◆会期延長がなければ、参議院選挙の投開票日は、7月10日になる見通しだ。

一方、国際社会では、◆2月4日から北京冬季オリンピックが開会するが、米英などは外交ボイコットで臨む方針だ。◆3月9日は、韓国の大統領選挙。◆11月8日は、アメリカの中間選挙。◆秋には5年に一度の中国共産党大会が開かれ、習近平国家主席が異例の3期目の任期に入るか注目される。

◆米中対立や東アジア情勢の変化を受けて、岸田政権は、日本の外交・安全保障の基本戦略を盛り込んだ国家基本戦略、防衛大綱、中期防衛力整備計画を年末に改定する方針だ。外交安全保障の論議が、久しぶりに高まる可能性がある。

 岸田政権 3つのハードル

以上の日程を頭に入れて、国内政治はどう展開するか、岸田政権の運営がベースになる。3つのハードルが待ち受けている。コロナ、国会、参院選挙だ。

▲第1のコロナ対策について、岸田政権は去年11月に対策の全体像を取りまとめたのに続いて、オミクロン株の水際対策として、外国人の入国を全面停止するなどの対応策を次々に打ち出した。

一方、水際対策をすり抜けたオミクロン株の感染がじわりと広がっている。これに伴って急増する濃厚接触者の扱い、病床の確保、3回目のワクチン接種の前倒しなど、やるべきことが実に多い。その際、国と都道府県、市区町村、医療機関などの連携・調整が順調に進むのかどうか、年明け早々、正念場を迎えそうだ。

▲第2は通常国会の乗り切りだが、岸田政権にとって長丁場の国会は初めてだ。初入閣の閣僚が多く、答弁を不安視する声が与党内からも聞かれる。

▲第3の参院選挙は、特に野党が候補者を1本化する1人区、32の選挙区の勝敗が焦点だ。自民党は前回22勝10敗、前々回21勝、11敗だった。但し、与党は非改選議員が多いため、自民・公明の両党で過半数を維持する公算が大きいとみられる。

自民党長老に岸田政権のゆくえを聞いてみた。「一番の波乱要因は、オミクロン株対応だ。2月頃の感染がどうなっているか。一定程度に抑え込み、3、4月に経済活動が本格化していれば、参院選を乗り切れる。だが、実績が上がらないと厳しい評価を受けるだろう」と楽観論を戒める。

岸田政権は発足からまだ、3か月。コロナ感染者数が激減した環境に恵まれ、内閣支持率も高い水準を維持している。一方、実績と言えば、年末に大型補正予算を成立させた程度で、派閥の人数は5番目、党内基盤は安定しているとはいえない。

特にオミクロン株が急拡大し、対応に失敗すると内閣支持率は急落、政権運営は窮地に陥るとの見方は、党内でも少なくない。

 岸田政権と対決、野党内の競合も

野党側は、通常国会で岸田政権と対峙し、夏の参議院選挙につなげていくのが基本戦略だ。政府のオミクロン株対応、新年度予算案の内容、臨時国会から持ち越した国土交通省のデータ二重計上問題などを追及していく構えだ。

一方、先の衆院選で、野党第1党の立憲民主党は議席を減らしたが、日本維新の会は議席を大幅に増やし第3党に躍進した。日本維新の会は、参院選挙でも候補者を積極的に擁立する構えで、通常国会でも野党内の主導権争いが激しくなりそうだ。

参院選挙に向けては、立憲民主党が、衆院選で閣外協力で合意した共産党との関係をどのように見直すのか、国民民主党との協力関係はどうするのか。日本維新の会の出方も含めて、野党内の構図が変化する可能性もある。

 参院決選、岸田政権 浮上か失速か

このように今年前半の政治は、通常国会を舞台に与野党の攻防が続いたあと、直後の参院選挙で決着がつけられる見通しだ

岸田自民党は前回、または前々回並みの議席、具体的には50台半ば以上を獲得できれば、公明党と合わせて参議院で安定多数を確保できる。

その場合は、去年秋の自民党総裁選、衆院選に続いて、参院選でも勝利したことになり、岸田首相の求心力は高まる。次の衆院議員の任期満了は2025年、向こう3年間国政選挙なしで、政治課題に専念できる。

逆に前回、前々回の水準を割り込めば、岸田首相の政権運営に陰りが生じ、党内の非主流派のけん制が強まる可能性がある。

つまり、夏の参院選は、踊り場に位置する岸田政権の分岐点だ。安定政権へ階段を上り始めるのか、停滞・失速で下がっていくのか、分かれ道になりそうだ。

但し、与党で過半数は維持する公算が大きいので、去年のような大きな波乱が起きる可能性は低いとみる。年後半は、参院選の結果で方向が決まることになる。

 党利党略から、政治の王道へ転換を

最後にコロナ感染危機が続く中で、今の政治は何が問われているのか、国民の視点で見ておきたい。

日本の現状を概観すると過去30年間、国民の給料・所得は横ばいで、先進国の中で唯一上昇がみられない。アベノミクスで異次元の金融緩和にも踏み込んだが、実質経済成長率は1%にも達しない状況に陥っている。

加えてコロナ感染拡大が重なるが、危機の時こそ、政治は右往左往するのではなく、目標と道筋を明らかにして、国民の力を集中させることが必要だ。

そのためには、政権与党と野党の双方が、「構想や政策」を真正面からぶつけ合い、議論を深めたうえで、合意をめざす「競い合いの政治」が問われている。

与野党とも「恣意的な1強政治」「批判・追及ばかり」といった批判を受けて、「落ち着いた政治」を模索する動きもみられる。延々と続く党利党略、パフォーマンスの政治から脱却、「政治の王道、政策の中身で勝負する政治」に転換、実践ができないものか。

具体的には、▲年明けの通常国会では、過去最大107兆円の新年度予算案の審議が焦点になる。コロナ禍で困っている人や事業者に支援が届く内容になっているのか、中身を厳しくチェックするのが、与野党議員の仕事だ。

▲オミクロン対策は、水際対策をはじめ、PCRなどの無料検査、陽性者の隔離や待機、病床確保と治療入院、3回目のワクチン接種などの取り組みは順調なのか点検が必要だ。岸田内閣の危機管理体制の見直し、機能強化も大きな課題だ。

▲そのうえで、コロナ収束後の「日本社会、経済の立て直しの構想や目標」をどのように考えているのか。重点政策として、何を最優先に取り組むのか。

▲冒頭に触れた外交・安全保障についても、日本の国力や国益を踏まえて、どんな役割を果たすのか、国民が知りたい点だ。

先の衆院選では、コロナ対策の給付金など当面の対策に議論が集中し、経済の立て直し、人口減少と社会保障、デジタル・科学技術などの基本的な課題を掘り下げて議論することができなかった。

それだけに新年は、コロナ危機と基本的な課題に同時並行で取り組む必要がある。数多くの懸案を抱える日本、解決へ残された時間は多くはない。

通常国会で議論を深めたうえで、参院選で与野党が選択肢を示し、国民が投票で決着をつける本来の政治に一歩でも近づける必要がある。(了)

 

 

コロナ政局と政権の危機対応

今年も残りわずかとなったので、2021年の政治をどうみるか、締めくくりとして取り上げたい。

今年元旦の当ブログのタイトルは「”首相交代含みの波乱政局” 2021年予測」だった。「コロナ大激変時代、政治もコロナ対応を軸に動く。菅政権は予想以上に不安定さが目立ち、さらに今年は自民党総裁、衆院議員の任期切れが重なる」として、上記のような予測をした。

菅政権が倒れ、岸田政権へ交代、衆院解散・総選挙で敗北した野党第1党の枝野代表も辞任したので、予測としてはなんとかクリアできたのではないかと総括している。

問題は日本政治が最も問われていた点、「政権の危機対応」は岸田政権に代わっても未だに手が付けられず、先送りされているのではないか。重い宿題を背負ったまま、新たな変異ウイルス「オミクロン株」に立ち向かおうとしているようにみえる。

 2代連続退陣、核心は政権の危機管理

2020年1月に新型コロナウイルスの感染が日本国内で確認されて以降、安倍晋三元首相が体調悪化を理由に退陣したのに続いて、菅義偉前首相も今年9月に退陣を表明、日本の首相は2代続けて退陣に追い込まれた。

菅政権では、年明けの第3波から緊急事態宣言が発せられ、夏場の第5波では、自宅待機を余儀なくされる人たちが多数に上り、治療を受けられずに亡くなる人も出るなど深刻な事態に陥った。

また、国民に対する説明も不十分で、内閣支持率も急落して支持を失った。問題の核心はどこにあったかといえば、新型コロナ感染症という新たなリスクに対して、政権の司令塔である首相官邸の危機管理が機能不全状態に陥り、失敗したということになる。

 初動は順調、危機管理は先送り

菅政権に代わって登場した岸田政権は、衆院解散・総選挙を何とか勝ち抜いた後、11月にコロナ対策の全体像を取りまとめたのをはじめ、新たな変異株の水際対策として、外国人の入国を全面停止するなどの措置を次々と打ち出した。

菅政権がワクチン接種を猛スピードで進め、感染者数が激減する効果が現われたこともあって、岸田政権の初動の対応は順調で、世論の評価も高い。

但し、岸田政権のコロナ対応をみると危機管理体制の見直しは先送りされている。岸田首相は12月の所信表明の中で「これまでのコロナ対応を徹底的に検証します。そのうえで、来年6月までに感染症危機に迅速・的確に対応するため、司令塔機能の強化を含めた、抜本的な体制強化策をとりまとめます」とのべた。

つまり、様々な対策を打ち出す一方で、肝心の危機管理体制の見直しは6月に先送りしているわけだ。野党がこの点を、なぜ追及しないか理解できない。そこで、この疑問を政権幹部に直接ぶつけたところ、次のような返事が返ってきた。

「岸田政権の対策の柱は、ワクチンの2回目接種の完了と治療薬の実用化、それに3回目のワクチン接種を行うこと。加えて、経済を動かしていくことが基本戦略だ。途中で体制を変えること、司令塔を変えるのは難しい。一連の対策が終わり、感染対策が落ち着いたところで、体制を決めたい」という考えだ。

実務的で現実的な考え方とも言えるが、危機管理は、平時に考え準備を完了させておくことが重要だ。日本の政治家の悪いところは、急場をしのぐと問題点の洗い出しや検証を行わず、先送りにすること。前任者の責任に触れるのを避けたいためかは知らないが、とにかく同じ間違いを繰り返す。

驚くほど急減していた感染も、新たな変異株・オミクロン株が国内でも広がり始めた。岸田政権の感染対策は「都道府県知事が感染状況を判断し、国と連携しながら対策を進めていく」新たな仕組みに変えたのが特徴だ。

国と都道府県知事、市区町村との連絡・調整をはじめ、医療機関や保健所、大学などとの連携・調整が本当に機能するのかどうか、首相官邸の司令塔機能が再び問われることになりそうだ。

 コロナ危機とリーダーの指導力

コロナ危機で改めて浮き彫りになったのが、政治のトップリーダーの判断力や決断力だ。また、リーダーが決断するためには、決断を支える体制が重要だ。

今回の新型コロナは百年に一度の危機といわれる。百年前というのは第1次大戦の時期で、スペイン風邪が大流行、日本でも39万人もの犠牲者が出た。

その時期の政治リーダーは、著名な原敬首相だ。第1次大戦が終了する1か月ほど前に就任した。平民宰相と呼ばれ、内外の難問に取り組んだが、3年後に暗殺された。

当時、日本は第1次大戦に参戦、戦勝国になったが、戦後には熾烈な列強間の経済戦争が予想され、将来への不安感も広がり、ちょうど今の日本に似た状況にあったとされる。(伊藤之雄京都大学名誉教授「真実の原敬」講談社現代新書)

原首相は、アメリカ中心の世界秩序をいち早く予測して、外交関係を再編するとともに、国内では交通網の整備、産業振興の列島改革を実行した。今風に言えば、コロナ後もにらんだ米中覇権争いと、国内の経済・社会の立て直しの構想と具体策を打ち出し、実行に乗り出そうとしたというところだろう。

さて、話を現代に戻す。年が明けるとコロナ・パンデミックは、3年目に入る。スペイン風邪も3年で収束した。政治がやるべきことは多い。まずは、海外で感染が急拡大しているオミクロン株のコントロールを成功させること。

そのうえで、新型感染症時代に対応できる危機管理体制を早急に整えること。先人にならって外交・安全保障の基本方針や、国内の経済・社会の立て直しの構想や具体策を打ち出すことだ。

そのためには、国会で与野党が真正面から議論し、競い合う政治が今一度、求められているのではないか。(了)

”期待外れの臨時国会” 懸案は越年へ

先の衆院選挙後、初めて本格的な論戦の舞台になった臨時国会は、35兆円を上回る過去最大規模の補正予算を成立させ、21日閉会した。

国会閉会を受けて、岸田首相は21日夜記者会見し、年内に10万円の現金給付を容認する方針を打ち出したことについて「国民の思いを受け止め、思い切ってかじを切った」と方針転換の判断を説明した。

そのうえで、岸田首相は「大型経済対策を年内に国民に届けるとともに、変異株対策も先手、先手を打つ」とのべ、オミクロン株対策を強化する考えを表明した。

さて、こうした岸田政権の対応や今度の臨時国会をどのようにみたらいいのか。大型の補正予算は暮らしや経済の立て直しにどの程度、効果があるのか、掘り下げた議論は乏しかったのではないか。

国土交通省の基幹データの書き換えなど新たな問題も明らかになったが、経緯や原因はわからないまま、通常国会に先送りになった。

衆院選挙を踏まえて向こう4年間の外交・安全保障のかじ取りをどうするのかといった議論もほとんど聞かれず、残念ながら”期待外れの臨時国会”といわざるをえない。

なぜ、こうした結論になるのか、年明けの通常国会の論戦を充実させるためにも、今度の臨時国会の問題点をしっかり点検しておきたい。

 現金給付方針転換 制度設計に甘さ

まず、今度の国会で与野党の最も大きな焦点になったのは、18歳以下の子どもを対象に10万円相当を給付する問題だった。政府案では、年内に5万円を現金で支給し、残り5万円は来年春にクーポンで支給する方針だった。

ところが、政府案では、クーポンの発行に1000億円近い事務費がかかることに加えて、コロナワクチン接種などで多忙を極める自治体からは、さらに労務の負担が増すと強い反発を受けた。

これを受けて、岸田首相は予算審議の中で「自治体の判断で、年内に現金10万円を一括給付することも容認する方針」に転換する考えを表明した。

具体的には、現金5万円とクーポン5万円の併用と、現金5万円を年内と来年の2回に分けて支給、さらに全額現金で一括支給の3案から選択する仕組みに変えた。

この方針転換をどうみるか。首都圏の市や区の大半は17日現在で、年内全額現金一括給付を予定しており、クーポンを採用するところはないという。岸田首相が土壇場で方針転換したこと自体は、歓迎されるという皮肉な結果になっている。

但し、こうした現金給付をめぐる混乱は一昨年、安倍政権当時に続いて2回目だ。再度の現金給付は必至とみられていたが、備えは進んでいなかった。

今回の原案は、11月上旬に自民、公明両党の幹事長が急ピッチでまとめ上げた案がベースになっているが、スピードを重視した結果、制度の問題点や詰めの甘さが露呈した。

また、この問題に補正予算審議の多くの時間が費やされたため、予算案に盛り込まれていた、コロナ対策や経済対策の中身の審議は十分できなかった。

さらに、35兆円もの巨額予算は、経済の立て直しにどの程度役に立つのかといった経済効果の議論も深まらなかった。方針転換は、貴重な審議時間を奪い、国会のチェック機能を弱めた点で政権与党の責任は大きい。

 統計データ書き換え 失う信頼性

国土交通省が、建設業の受注実態を表す基幹統計データを書き換え、二重に計上するなど不適切な取扱いを続けていたことが明らかにされた。朝日新聞のスクープだった。

データの二重計上は2013年4月に始まったとみられている。GDP=国内総生産を推計する際の要素になるとも言われ、統計の信頼性を失う行為だ。

3年前、厚生労働省が所管する「毎月勤労統計」をめぐる問題で不適切な扱いが明らかになり、予算審議が紛糾したことも思い出す。同じような不祥事が繰り返される。

岸田首相は「経緯や原因を究明するため、検事経験者などによる第三者委員会を設置し、1か月以内に報告する」考えを表明した。この問題も年明けの通常国会に持ち越されることになった。

 文書改ざん 問われる裁判終結の判断

森友学園をめぐる問題で、財務省の決裁文書の改ざんに関与させられ自殺した赤木俊夫さんの妻が訴えていた裁判は15日、国側がこれまでの主張を一転し、全面的に受け入れる手続きを取り、裁判を終わらせた。

裁判を通じて「夫の死の真実を知りたい」と訴えてきた妻の雅子さんは「不意打ちで卑怯だ」と批判している。

国の対応は、改ざんの具体的な経緯を明らかにしないまま、賠償責任を認めて幕引きを図ろうとするようにみえる。国民の多くの納得も得られないのではないか。

鈴木財務相や岸田首相はどのような判断で、裁判を終わらせることにしたのか、雅子さんの訴えに真摯に向き合い、事実関係を明らかにする責任があるのではないか。この問題も年明けの通常国会で改めて問われることになる見通しだ。

このほか、国会議員に毎月100万円が支払われる「文書通信交通滞在費」についても初当選した議員がわずか1日で全額受け取るのはおかしいと問題提起し、国民の関心を集めた。

与野党とも日割りに変えることでは一致したが、野党側が未使用分の返納と使いみちの公開を求めたのに対し、与党側が難色を示して合意ができなかった。使途の公開など是非は明らかだと思われるので、次の通常国会では早期に是正を図るべきではないか。

  問われるコロナ、立て直し構想

ここまでみてきたように今度の臨時国会は、過去最大の補正予算を成立させたが、肝心の中身を評価・点検する議論は乏しかった。また、先送りされた懸案・課題も多く、課題解決という面でも”期待外れの国会”に終わったというのが正直な印象だ。

それだけに年明けに召集される通常国会の役割と責任は大きい。夏には参議院選挙が行われるので、通常国会の会期延長は難しい。先送りになった懸案については、早急に是正を図ることを強く求めておきたい。

また、新しい年は、取り組むべき課題が多い。コロナ感染は3年目に入り、特に感染力の強いオミクロン株を抑え込めるのか当面、最大の問題だ。

岸田首相は21日の記者会見で、オミクロン株対策として濃厚接触者は、自宅待機ではなく、宿泊施設で待機を要請する方針や、いわゆるアベノマスクを廃棄するなどさまざまな方針やアイデアを明らかにした。

せっかくの方針であり、国会論戦の中で明らかにすれば論戦は盛り上がるし、国民の理解も進むと思うのだが、独り舞台でのアピールは残念だ。

いずれにしても感染をコントロールしながら、暮らしと経済の立て直しに向けた構想と道筋をどのように描くのか。与野党双方とも年明けの国会で、それぞれ建設的な提案を行い、提案の中身を競い合う緊張感のある政治を見せてもらいたい。(了)

 

“つまずき”目立つ岸田政権  

政権発足から2か月半が経過した岸田政権は、コロナ感染対策の全体像を打ち出したり、過去最大規模の補正予算を編成したり順調な運営を続けてきたが、ここにきて、人事の混乱や主要政策の方針変換といった”つまずき”が目立ち始めた。

旧友の石原伸晃元自民党幹事長を内閣官房参与に起用したが、雇用調整助成金を受給していた問題が明らかになり、わずか1週間で辞任に追い込まれた。

また、政権の目玉政策である18歳以下に10万円相当の給付についても自治体側の強い反発を受け、全額現金一括給付の容認へ方針転換することになった。

与党内には、今の短期の国会は何とか乗り切れるが、年明け長丁場の通常国会の運営を危ぶむ声も聞かれる。岸田首相の政権運営、どこに問題があるのか探ってみたい。

 ”旧友優遇”と首相の任命責任

岸田首相が就任して以降、初めて開かれた13日の衆議院予算委員会で、岸田首相は、内閣官房参与に起用したばかりの石原伸晃元幹事長が辞職した問題を追及され、「混乱は否めなく、申し訳ない」と陳謝に追い込まれた。

岸田首相と石原元幹事長は20年余の盟友関係にあることは政界では有名で、岸田首相は今月3日、先の衆院選挙で落選した石原元幹事長を内閣官房参与に起用したが、さっそく「旧友優遇、救済人事」といった批判が聞かれた。

その石原元幹事長は、自らが代表を務める党支部が60万円余りの雇用調整助成金を受け取っていたことが批判を浴び、就任後わずか1週間で辞職に追い込まれた。

また、大岡敏孝環境副大臣も雇用調整助成金30万円を受け取っていたことが明らかになったが、岸田首相は、進退は本人の判断に委ねる考えを示した。

雇用調整助成金は、コロナ感染で売り上げが大幅に落ちた民間事業者などを守るのが本来の目的だ。政党の支部は、企業献金や政党助成金を主な収入源にしており、政党支部が助成金を受領するのは違法ではないとされるが、国民の理解を得られるとは思えない。

また、任命権者としての首相の対応をみると元幹事長は辞職に対して、現職の副大臣はそのまま続投と処置は異なる。現職の副大臣であれば、事実関係の説明を徹底させるとか、政治的道義的な責任をとらせるべきではないかと個人的には考える。

一方、旧友の石原元幹事長の人事をめぐっては、岸田元首相も”安倍元首相や菅元首相のお友達人事、身内優遇”と変わらないではないかといった世論の側の受け止め方もあったのではないか。今後、内閣支持率などに影響があるのかどうか、注意してみていきたい。

 スピード決着、制度設計に甘さ

次に18歳以下の子どもを対象に1人10万円相当を給付する政策については、大きな動きがみられた。

政府は、これまで10万円相当のうち、年内に現金5万円を支給、残り5万円相当はクーポンで支給することを原則にしてきた。

ところが、クーポンの発行には1000億円近い事務経費がかかることに加え、地方自治体からは、ワクチン接種などで多忙な時期にさらに労力などの負担がかかると強い反発を招いた。

こうした自治体や野党の批判を受けて、岸田首相は13日、年内に全額現金で一括給付することも容認する考えを明らかにした。2回に分けて現金を給付する場合も含め、自治体に条件も設けないとしており、これまでの方針変換に踏み切った。

今回の方針転換をどうみるか。11月上旬に自民、公明両党の幹事長が3日間の協議で大枠が決着、10日には岸田首相と山口代表のトップ会談で、最終合意が図られた。こうしたスピード決着の結果、クーポン支給などの制度設計の詰めが甘かったのではないか。

また、自治体や国民の要望・ニーズを把握しないまま、政府が政治決着した仕組みを押し通したことも影響したのではないか。

自治体や野党の中には、岸田首相の決断で、年内の現金全額給付が可能になったことを評価する意見が出ている。

一方、土壇場になって、ようやく方針転換が図られるのは、政権の意思決定が遅すぎるし、制度設計能力の改善も進んでいないと見ることもできる。

岸田首相は「聞く力」と「スピード」を重視しているが、「迅速な決断力」と「実行力」も問われていると言えそうだ。

 内閣支持率低下、通常国会に不安

このほか、岸田政権としても判断が問われるのは、毎月100万円が支給される「文書交通滞在費」の問題がある。10月末に初当選した議員がわずか1日で、1か月分の100万円の手当を受け、見直しを提起している問題だ。

野党第1党の立憲民主党は、日割り計算に改めることと、返金できる仕組み、それに使いみちの公開の3点セットの改善を提案している。

自民党は、日割り変更には応じるものの、使いみちの公開には難色を示しており、今国会での合意・実現のメドはついていない。

岸田政権は内閣官房参与人事や、10万円相当の給付に代表されるように、このところ政権運営のブレやつまずきが目立ち始めている。

NHKが今月10日から12日にかけて行った世論調査では、岸田内閣の支持率は50%で、前の月から3ポイント減少した。一方、不支持は27%で、1ポイント増えている。

「オミクロン株」の水際対策として、政府が外国人の新規の入国を原則停止とした対応を「評価する」との意見が81%と高かった。これに対し、目玉政策の10万円給付は「評価する」が33%に対し、「評価しない」が64%と多い。

つまり、内閣支持率は50%と高い水準を維持しているが、先月から低下傾向が表れている点を注意しておく必要がある。

岸田政権にとって最初の予算員会の審議をみていると、コロナ対策の山際経済再生担当相と、後藤厚労相、堀内ワクチン担当相の答弁や連携は、前政権に比べて不慣れな面が目につく。

自民党関係者に聞くと「今の臨時国会は短期間なので、乗り切れるが、年明け長丁場の通常国会は大丈夫か不安だ」と漏らす。岸田政権の”つまずき”が収まっていくのか、不安定の始まりになるのか、今の臨時国会が試金石になる。

 

”泉 立憲民主党”が問われる点

野党第1党・立憲民主党の「新しい顔」に泉健太氏が選ばれた。立憲民主党の代表選挙は30日投開票が行われ、1回目の投票で4人の候補者がいずれも過半数を獲得できず、上位2人による決選投票の結果、泉健太政務調査会長が、逢坂元首相補佐官を抑えて新しい代表に選出された。

泉代表は就任後、最初の記者会見で「根本は、国民に何を届けるかが大事で、国民への発信を強めていきたい」とのべ、自民党と対抗するだけでなく、政策立案型の新たな党運営をめざす考えを表明した。

泉氏の知名度は高いとは言えないが、衆院京都3区選出の当選8回で、47歳。2001年の衆院選挙で、当時の民主党から立候補して29歳で初当選した。その後、国民民主党の国会対策委員長などを歴任、去年9月に立憲民主党との合流に参加し、代表選挙にも立候補した経験もある。

泉氏が選出された背景としては、4人の候補者の中では40代で最も若いことに加えて、政治的には中道に位置することから、来年夏の参院選を控えて、党のイメージの刷新と新たな支持層を拡大して欲しいという党内の期待を集めたことが挙げられる。

こうした一方で、泉代表の前途には、多くの難問が待ち受けている。岸田政権は、コロナ対策などを盛り込んだ大型補正予算案を編成し、早期成立をめざしている。泉代表は、こうした巨大与党にどのように対峙していくのか、野党第1党の立て直しに何が問われているのか探ってみたい。

 国会論戦で存在感、支持率回復は

泉新代表は、さっそく幹事長をはじめとする党役員人事に着手することになるが、代表選に立候補した逢坂、小川、西村の3氏を主要ポストに起用するとともに党役員の半数に女性を充てたい考えだ。その新体制が発足早々、直面するのが4日に召集される臨時国会への対応だ。

岸田政権は、コロナ対策などを盛り込んだ35兆円という過去最大の補正予算案を提出し、岸田首相の所信表明演説と各党の代表質問が行われた後、衆参両院で予算委員会が開かれる。

岸田政権が10月4日に発足して2か月になるが、衆院解散・総選挙が行われたこともあって、衆参両院の予算委員会で本格的な論戦が行われるのは、今回が初めてだ。岸田首相と、泉新代表との直接対決の論戦も交わされる見通しだ。

立憲民主党は2017年の衆院選挙の直前に、当時の新党・希望の党から排除された枝野氏が中心になって結党され、選挙で躍進。その後、去年9月には国民民主党などと合流、ようやく衆院で100人を上回る野党第1党にまで党勢を拡大した。

しかし、この間、政党支持率が10%に乗ったのは数えるほどで、ほとんどが8%から6%の1ケタ台で、30%台の自民党に大差をつけられてきた。

国会の論戦や新代表の発信力などを通じて、政党支持率をかつての野党第1党並みの2ケタ台まで回復し、存在感を発揮できるかどうか、泉新代表が最初に問われる点だ。

 重点政策、コロナ収束後の構想提示を

新代表が問われる2つ目としては、党の重点政策をはっきりさせるとともに、何をめざす政党かの旗印を明確に打ち出すことが不可欠だ。

今回の代表選挙で4人の候補者ともに「どのような社会を目指すのか」、「コロナ対策や、経済の立て直し策」、「共産党などとの野党共闘」のあり方など幅広い課題について議論を交わした。

但し、多くの国民にとって、興味を持つような議論にはならなかったのではないか。立憲民主党が衆院選の期間中に配布していた「政策パンフレット」と同じレベルに止まっているという印象を受けた。

国民は「コロナ収束後にどのような社会をめざしているのか」大きなビジョン、構想を明らかにして欲しいと感じている。また、感染の抑え込みを始め、生活困窮者や打撃を受けている事業者の立て直し策として何をやるのか、知りたい点だ。

ところが、自民、公明両党の政権とはここが違うという具体的な政策や、わかりやすい説明ができていなかった。このため、政権の受け皿としても認められていなかった点に根本的な問題があったのではないか。

また、共産党と閣外協力で合意した問題についても比例代表選挙への影響はあったと思うが、根本の問題は、それ以前の問題、政権交代を目指すための客観的な条件が整っていなかったとみる。

具体的に言えば、国民の多くは政権交代を望んでいなかった点を読み間違っていたのではないか。野党共闘の問題は、政治状況や政権交代の道筋まで踏み込んで議論しないと、問題の核心に迫ることはできないと考える。

 参院選へ野党結集の構想と道筋を

3つ目に問われている点は、来年夏の参院選挙への対応だ。岸田政権は、衆院選に続いて、参院選でも勝利すれば長期政権も視野に入る。これに対し、野党側は、自公政権を過半数割れに追い込む構えで、来年の最大の政治決戦になる。

参院選の焦点は、当選者1人を選ぶ1人区の攻防で、全国で32選挙区にのぼる。野党側がバラバラに候補者を擁立すれば、自民党の1人勝ち、いわゆる消化試合になってしまうので、これまでも候補者調整が行われてきた。

この1人区の戦い方がどうなるか。今回の代表選でも候補者4人とも「1対1の構図は維持したい」とする一方、共産党との閣外からの協力といった合意については、見直す考えを示していた。

今回の衆院選挙で枝野前代表らの対応を見ていると「共産党とは連立を組みたくないが、票は欲しい」というのが本音ではなかったか。このため、政権構想として位置付けているのか、選挙戦術の延長なのか、敢えて曖昧にしていた点に大きな問題があったとみる。

国民の側からみていると、参院選に向けて野党結集の構想と道筋を明らかにすることが野党第1党の役割だ。そして、野党各党や各種団体、国民に説明して、理解を求めるのが本来のあり方ではないか。共産党と連合の間で、右往左往、ヤジロベエのように揺れ動く対応は止めた方がいいと考える。

先の衆院選挙を経て、政界の構図は、自民・公明の政権与党と、野党第1党の立憲民主党や共産党、社民党、れいわ新選組などの勢力、それに日本維新の会が第3極をめざして国民民主党と連携を深めようとしているようにみえる。

こうした構図の中で、野党第1党はどのような役割を果たすのか、参院選にむけて、野党各党の構想、野党結集の枠組みや道筋はどうなるのか。野党第1党の新代表は、早急に基本的な考え方を明らかにすることが必要ではないか。

新たな変異株「オミクロン株」の感染が世界各国へ広がり始めた。日本としては、第6波への備えや、経済・暮らしの立て直しも早急に進める必要がある。そのためにも国会を早期に開いて、政権与党と野党側が新体制できちんとした論戦を行い、緊張感のある政治を取り戻すことが急務だ。       (了)

※参考情報(追記:12月1日21時半)泉代表は、立憲民主党の役員人事について、代表選挙で争った◇西村智奈美氏を幹事長に、◇逢坂氏を代表代行に、◇小川氏を政務調査会長に、それぞれ起用する意向を明らかにした。

また、◇国会対策委員長には馬淵澄夫氏、◇選挙対策委員長に大西健介氏を起用する方針。

この人事案は、2日の両院議員総会に示され、了承される見通し。

※立憲民主党は2日、両院議員総会を開き、泉代表が示した人事案を了承し、新たな執行部が発足した。泉代表は記者会見で「国民のために働く政策立案型」を執行部のカラーとして打ち出したい」とのべた。(追記:12月4日午前11時55分)

 

 

 

立民代表選 立て直しへ道筋描けるか

”野党第1党の顔”に誰が選ばれるのか。立憲民主党の代表選挙が19日告示され、4人が立候補して選挙戦が始まった。

立候補したのは、届け出順に逢坂誠二・元首相補佐官、小川淳也・国会対策副委員長、泉健太・政務調査会長、西村智奈美・元厚生労働副大臣の4人だ。届け出の後、さっそく午後から共同記者会見に臨んだ。

4氏はいずれも民主党政権時代には、閣僚や党幹部の経験がなく、知名度も高くないため、国民の関心を高めることができるかどうか、不安視する声も聞かれる。

来年夏の参議院選挙を控えて、自民・公明両党の岸田政権にどのように対峙していくのか、党の態勢立て直しへ道筋を描くことができるのかどうか、代表選の焦点を探ってみた。

 記者会見で論戦、党勢立て直し策

立憲民主党の代表選挙は19日、立候補の届け出が終わった後、4氏がそろって共同記者会見に臨み、論戦が始まった。各候補は、先の衆院選で議席を減らした党勢の立て直しについて、それぞれ次のような考え方を明らかにした。

◆逢坂氏は「単に理念や理屈、政策を述べるだけでなく、具体的な地域課題を解決し、その結果を積み上げていくことで党勢を拡大していきたい」とのべ、地域課題の取り組みを強化したいという考えを示した。

◆小川氏は「野党には2つの仕事があり、政権を厳しく批判的な立場から検証すること、政権の受け皿として国民に認知されることがあるが、後者が十分ではなかった」とのべ、党の期待感や魅力を増す必要性を強調した。

◆泉氏は「先の衆院選では、比例代表選挙での投票を呼びかける運動が欠けていた。また、消費税率の引き下げや分配政策を打ち出す時期が遅れた」として、党の政策などを早期に提示する必要があることを訴えた。

◆西村氏は「地方組織をしっかり作っていくことが課題だ。また、立憲民主党がどういう社会をめざしているのか、有権者に届いていなかったのではないか」とのべ、党がめざす社会像を明確に打ち出していくべきだという考えを強調した。

記者団からは、来年の参議院選挙に向けて、共産党などとの野党連携を維持するかどうかや、他の野党との連携の軸足の置き方について、質問が集中した。

これに対して、4氏は「先の衆院選挙では、選挙区で1対1の構図を作ることができたところは、成果があった」。

「参議院の1人区で、野党候補が数多く立候補すれば、野党が不利になるので、できるだけ1対1の構図を作りたい」などの意見が出され、参議院の1人区では野党候補の1本化をめざすべきだという考えをそろって示した。

各候補とも巨大与党に対抗するために、参議院選挙でも共産党などとの野党共闘は維持すべきだという基本的な考え方では一致していたが、具体的な連携の形や重点の置き方などについては、踏み込んだ議論までには至らなかった。

 選挙情勢は混戦、決選投票も

次に代表選挙の情勢だが、投票は党所属の衆参議員と公認候補予定者、地方自治体議員、一般党員・サポーターの得票をポイントに換算して争われる。

具体的には、衆参議員は140人で、1人2ポイント。公認候補予定者6人で、1人1ポイントで、合わせて286ポイント。

この半分の143ポイントずつが、自治体議員1270人と、およそ10万人の一般党員・サポーターに割り当てられる。得票数に応じて、各候補にポイントが配分される。

過半数に達しない場合は、上位2人の決選投票になる。今回は、候補者が4人も立候補し、抜きんでた本命がいないため、混戦は避けられず、決選投票の可能性が高いという見方が強い。

国会議員は140人のうち、既に90人が4候補の推薦人になっているため、残り50人と少ないことから、自治体議員と党員・サポーターの地方票が、選挙情勢を大きく左右することになりそうだ。

このため、各候補とも党の態勢の立て直しに向けて、どのような具体的な取り組み方や構想を打ち出していくのか、知恵を絞ることになる。

一方、野党陣営では、先の衆院選で議席を大幅に増やした日本維新の会と、同じく議席を増やした国民民主党が連携を深めようとしている。野党第1党の代表として野党全体をまとめていくだけの力量・能力があるのか、選挙戦を通じて厳しく評価されることになる。

代表選挙の今後の日程は、22日に日本記者クラブ主催の候補者討論会が開かれる。札幌、福岡、横浜で街頭演説も行われ、30日の臨時党大会で投開票が行われる。

果たして、誰が野党第1党の新しい顔になるのか。来月6日に召集される臨時国会の論戦に立つことになる。

 

立民代表選の争点、何が問われる選挙か

野党第1党・立憲民主党の代表選挙が19日告示され、30日の投開票に向けて選挙戦が始まる。

今回の代表選は、先の衆院選で議席を減らした責任をとって辞任した枝野前代表の後任を選ぶもので、国会議員だけでなく、地方議員や党員なども参加して行われる。

野党の代表選挙は、与党の総裁選と違って政権に直結しないため、国民の関心は必ずしも高くはないが、政治に緊張感をもたらすためにはどんな野党になるのか、特に第1党のあり方は、国民にとっても大きな意味を持つ。

今回の代表選は、枝野前代表が打ち出した共産党などとの共闘路線の是非が大きな焦点になるとの見方が強いが、どうだろうか。

私個人は、野党共闘の問題もあるが、それ以前に野党第1党としての役割の認識や、その役割を果たすための党の態勢の立て直し、戦略の構築こそが問われているのではないかと考える。

野党共闘の問題は、新代表の下に検討委員会を設けて結論を出す方法もあるのではないか。

来年夏には参議院選挙が行われる。どんな野党第1党をめざすのか、政権構想や重点政策を明確にしたうえで、野党共闘のあり方などを決めていくのが本筋ではないかと考える。こうした理由や背景などについて以下、説明していきたい。

 小選挙区と比例で異なる効果

まず、先の衆院選挙の結果を確認しておきたい。自民党は選挙前より議席を減らしたものの、絶対安定多数の261議席を確保、公明党の32議席と合わせて293議席を獲得したので、勝利したといえる。

一方、立憲民主党は96議席で、選挙前の110議席から14議席減らし敗北した。共産党は10議席で2議席減らした。これに対し、日本維新の会は前回より4倍近い41議席を獲得して躍進、国民民主党も3議席多い11議席を獲得した。

このうち、立憲民主党の議席の内訳だが、小選挙区では、選挙前の48議席から9議席増やして57議席を獲得したのに対し、比例代表では62議席から39議席へ23議席も減らした。

小選挙区では、1万票差以内の接戦となった選挙区がおよそ30にも上ったことを考えると善戦健闘、野党候補1本化の共闘は一定の成果を上げたとも言える。

比例代表では、立憲民主党は前回からわずかに多い1100万票に止まった。これに対し、日本維新の会は800万票で、前回より460万票余りも増やし、国民民主党も新たに260万票近い得票、「れいわ」も220万票を獲得した。

こうした票の流れは前回、野党第1党も合流して結成された旧「希望の党」が集めた960万票が立憲民主党には向かわず、維新、国民、れいわ3党に回ったとみることもできる。

このため、立憲民主党が比例代表で議席を大幅に減らしたのは、共産党との共闘路線を有権者が警戒して、立憲民主党以外の政党に投票したためではないかという見方も出されている。

このように比例代表選挙と小選挙区とで、野党共闘の効果は分かれている。

 野党のあり方、旗印や存在感に弱さ

それでは、国民は、野党第1党の立憲民主党をどのように評価しているのか、報道各社の世論調査のデータでみてみたい。

報道各社の調査で、自民党の支持率は30%台後半の水準にあるのに対して、立憲民主党の支持率は、5~6%台、1ケタの水準で共通している。

また、年代別に見ると10代から30代では、自民党が4割から30%台後半で高いのに対して、立憲民主党はその10分の1,1ケタ台と低い。働く世代40代、50代でも大きく水をあけられている。60代、70歳以上の高齢世代でようやく10%台に達するが、それでも自民党との差は大きい。

さらに比例代表選挙の投票予定先でも、自民党がおよそ30%に対して、立憲民主党は11%台と3分の1に止まっていた。望ましい選挙結果についても「与党と野党の逆転」は11%程度に対し、「与党と野党の勢力伯仲」が49%で最も多かった。(10月23,24日共同通信調査)

枝野前代表は「政権選択選挙」と位置づけ、共産党とは「閣外からの協力」に止めているとのべたが、与野党の勢力が逆転した場合、政権の枠組みなどはどうなるのか、詳しく説明する場面もなかった。

このため、有権者の側は、野党共闘や政権交代を訴えられても「現実的な選択肢」として受け止める人は少なかったのではないか。

また、「立憲民主党は何をする政党か、自民党とどこが違うのかの旗印がわからない」。「自民党政権はコロナ対策で、失敗と後手の対応が続いたが、野党の存在感も感じられない」といった声も数多く聞いた。

こうした国民の評価を基に考えると、立憲民主党が衆院選で議席を減らしたのは、野党共闘というレベルの問題ではなく、何をめざす政党か、構想や重点政策も理解されておらず、政権の受け皿として認められるまで至っていない点を認識する必要があるのではないかと考える。

 魅力ある野党、新風を巻き起こせるか

今回、自民党は絶対安定多数を維持したが、何とか接戦をしのいで議席を守り抜いた「薄氷の勝利」というのが実態だ。

一方、有権者の側は「魅力のある野党や新党ができれば、支持する」「野党第1党は、政界に新風も巻き起こし、政治に緊張感を取り戻す役割」を果たしてほしいという期待は根強いものがある。

このため、立憲民主党が求められているのは「代表の顔」を顔を変えるだけでなく、◆立憲民主党は何をする政党なのかの旗印、政権構想を明確にすること。◆コロナ激変時代に取り組む重点政策。子育て、教育、雇用、知識集約型産業といった、自民党とは異なる重点政策をはっきりさせる必要があるのではないか。

そのうえで、◆来年夏の参議院選挙を野党第1党として、野党結集を進めていく具体的な道筋を明らかにすることが重要ではないか。参院選の1人区は、野党ができるだけまとまって戦わないと、政権与党側の1人勝ちになる公算が大きい。

◆共産党など野党共闘のあり方は、新しい代表の下に政権構想委員会といった組織を設けて、検討していくことも1つの方法ではないかと考える。

代表選挙の告示が近づいているが、立候補を検討しているのは、◆泉健太・政務調査会長、◆大串博志・役員室長、◆小川淳也・国会対策副委員長、◆西村智奈美・元厚生労働副大臣の4人だ。

いずれも中堅の顔ぶれだが、単に代表の顔が若返るだけでなく、コロナ激変時代の新たな構想や重点政策、それに自民党に対抗できる、もう1つの大きな政治の軸を打ち出せるような代表選挙をみせてもらいたい。