先の衆院選挙を受けて、特別国会が10日召集され、首相指名選挙などを経て、第2次岸田政権が再スタートした。
岸田首相は10日夜の記者会見で「総選挙で、岸田政権に我が国のかじ取りを担うようにとの民意が示された。政治空白は一刻も許されず、最大限のスピードで政策を実行に移す」と強い意欲を示した。
岸田自民党は、苦戦が予想された衆院選の接戦をしのぎ、自民党単独で安定多数の261議席を獲得した。公明党の32議席を合わせると与党で300近い議席を確保して、再出発することになった。
岸田政権は、果たして安定した政権運営が可能なのか、それとも短命政権で終わる可能性はあるのか、そのカギは何かを探ってみたい。
内閣支持率上昇、小渕元首相型も
まず、衆院選後、最初の世論調査のデータから見ていきたい。朝日新聞の調査(11月6,7日)では、岸田内閣の支持率は、投票日5日前の調査に比べて、4ポイント高い45%、不支持率は1ポイント高い27%だった。
NHKの調査(11月5~7日)でも内閣支持率は、投票日前1週間前の調査に比べて、5ポイント上がって53%、不支持は2ポイント下がって25%だった。10月4日の第1次内閣発足直後49%からも、支持率は4ポイント上昇したことになる。
支持率上昇は、衆院選挙で安定多数を確保して、勝利したことの影響が大きい。自民党の歴代政権で安倍政権は、高い支持率を長期間、維持したが、それ以外の多くの政権は発足時は高いものの、下落するケースがほとんどだった。
そうした中で、90年代後半に政権を担った小渕元首相は最初は低空飛行だったが、経済対策などに地道に取り組み、次第に支持を高めていった。岸田首相もここまでの支持率をみていると、小渕元首相型の展開になる可能性もある。
但し、岸田政権の支持率上昇は、政権の実績が評価されたわけではない。衆院選挙最優先で選挙を急いだ結果、重要政策として掲げる政策のほとんどは具体化しておらず、岸田政権の真価が問われるのは、これからだ。
当面、乗り越えなければいけないハードルとして、3つ大きな課題がある。そのハードル・課題を具体的にみていきたい。
コロナ対策、医療の備えと実行力
第1のハードルは「新型コロナ対策」を早期に実行し、成果を上げることができるかだ。この優先課題を処理できないと、菅政権と同じように出だしから国民の支持を失うことになるだろう。
岸田政権は「コロナ対策の全体像」を12日に明らかにする予定だ。その中身に触れる前に岸田政権は、政府のこれまでのコロナ対応の総括をきちんと行う必要があると考える。
安倍政権と菅政権は、コロナ対策について、まとまった検証・総括を一度も行ってこなかった。国会では、感染が落ち着いた段階で考えたいとの答弁はしたが、実行されず、同じ失敗の繰り返し、後手の対応と国民の眼には映った。
それだけに岸田政権としては、政府対応の問題点を率直に認め、そのうえで、今後の具体策を打ち出せば、政権の信頼性も高まるのではないか。
幸い、コロナ感染は潮が引くように急激に減少している。この感染が落ち着いている時期の対応が極めて重要だ。冬場に第6波の感染が到来しても対応できる医療提供体制の備えを早急に進める必要がある。
また、ワクチン接種や経口薬の実用化などを強力に推進すること。さらに、安倍政権、菅政権では、総理官邸の司令塔機能が働かなかった。この点をどのように改めていくのか。具体策を示して、早急に実行に移すスピード感も問われる。
経済・暮らし対策 具体策は
第2のハードルは「経済・暮らし対策」で具体策を打ち出せるかどうかだ。
岸田首相は、新型コロナの影響を受けた人たちへの現金給付をはじめとする、数十兆円規模の新たな経済対策を19日に取りまとめるとともに、大型の補正予算案を今月中に編成する方針だ。
また、看板政策である「新しい資本主主義」について、有識者などで構成する実現会議の緊急提言をとりまとめ、新たな経済対策や補正予算案、さらには新年度の当初予算案に盛り込みたい考えだ。
自民党長老に岸田政権の看板政策について聞くと「国会の演説を聞いても、”お経”が長すぎて、肝心の”功徳、ご利益”が国民にわかりにくい。何をやるのかはっきりさせないと、民心は政権から離れしまう」と指摘する。
この長老の指摘するように「成長と分配の好循環」「格差是正」「給与の引き上げ」などを強調するが、どんな方法でいつまでに実現するのかはっきりしない。
また、安倍政権や菅政権の経済政策とどこが違うのか。さらに、短期間のうちに一定の成果を上げないと、国民は看板政策への関心も示さなくなる可能性もある。
このため、岸田首相が、看板政策の実現までの具体的な道筋を描き、国民を説得しながら成果を上げることができるかどうか、年末までが勝負だとみる。
党内政局、主導権を確保できるか
3つ目は、岸田首相が政権運営で主導権を発揮できるかどうか、党内政局への対応の問題もある。
自民党内を俯瞰すると菅前首相の退陣に伴って、幹事長を続けてきた二階氏も表舞台から去り、代わって安倍前首相と麻生副総裁の存在感が増している。
このため、岸田首相としては、安倍、麻生両氏との良好な関係を維持しながら、岸田色を発揮する余地を広げることに腐心しているようにみえる。
党の要の幹事長には、安倍、麻生両氏と関係の深い甘利氏を起用したが、衆院選の小選挙区で敗北し、わずか1か月で辞任に追い込まれた。後任に茂木外相を充て、党の態勢立て直しに懸命だ。
茂木氏も安倍、麻生氏との関係は良好と言われるが、安倍氏と関係が深い細田派からではなく、竹下派から起用した。
また、茂木氏の後任の外相には、林芳正・元文科相を起用した。安倍、林の両氏は先代の時から地元・山口でライバル関係にあり、こうした一連の人事から、岸田首相と、安倍前首相の微妙な関係を指摘する声も聞く。
その最大派閥の細田派は、細田会長が衆院議長就任したことに伴い、安倍前首相が派閥に復帰して、後任の会長に就任する見通しだ。安倍氏は最大派閥のトップとして、主要な政策や政局の節目で影響力を行使しようとするのではないかとの見方も出ている。
さらに、菅前首相や二階前幹事長、それに総裁選で敗れた河野太郎氏らが、今後、岸田首相とどのように向き合うのかにも党内の関心を集めている。
このように自民党内では、派閥の勢力や有力者の力関係の変動が続いており、岸田首相が主導権を発揮できるのかどうか、これからの焦点になっている。
その岸田首相は第4派閥の領袖だが、今後の政権運営はどうなるか。総裁選や衆院選を戦い、勝利を収めたことで、当面の政権運営に当たって大きな支障はなく、来年夏の参院選挙までは比較的安定した政権運営が続く可能性が大きいとみている。
但し、岸田政権の政権運営に陰りが生じると党内からの批判や風当たりが一気に強まることも予想される。一方、野党第1党の立憲民主党の代表選の結果によって、与野党の関係も変わる可能性があり、野党の動きもみていく必要がある。
いずれにしても岸田政権にとって、来年夏の参議院選挙が最大のハードルになる。参院選に勝てば、衆院選に続いての勝利で、長期安定政権への展望が開けるが、議席を減らすと短命で幕を閉じる可能性もある。
来年夏の参院選までに「政権の実績」を上げることができるか。そのためには、特に国民の関心が高いコロナ対策や経済政策で、年末までに具体的な成果上げることができるかどうか、大きなカギを握っていると言えそうだ。