菅内閣”世論の支持離れ”鮮明に

東京都に4度目の緊急事態宣言が出され、23日に開会する東京オリンピックもほとんどの会場が、観客をいれない無観客開催となることになった。

国民はこうした事態をどのように受け止めているのか。報道機関が相次いで世論調査を行い結果を報道しているが、いずれも菅内閣の支持率が発足以降、最低を記録、不支持は最多で、”世論の菅内閣支持離れ”が一段と鮮明になっている。

こうした世論の動向の分析と、これからの政治への影響を探ってみたい。

 内閣支持率最低 読売 NHK調査

読売新聞とNHKは今月9日から11日までの3日間、それぞれ世論調査を行い、その結果を報道している。

菅内閣の支持率は、◇読売調査で支持が37%、不支持が53%。◇NHK調査では支持が33%、不支持が46%となっている。

いずれの調査とも菅内閣の支持率は、去年9月の政権発足以降、最低の水準だ。一方、不支持も発足以降、最も高くなっている点で共通している。

今回の世論調査は、政府が8日に、感染再拡大が続く東京都に4度目の緊急事態宣言を出すことを決定した直後に実施された。また、東京オリンピックについては、無観客開催とする方針が決まった直後でもある。

政府のコロナ対応については、読売の調査で◇評価するが28%に対し、◇評価しないが66%。ワクチン接種をめぐる政府の対応についても◇評価するが36%に対し、◇評価しないが59%となっている。

政府のコロナ対応に対する世論の不満、批判が支持率低下の要因になっていることがわかる。(データは、読売新聞13日朝刊、NHK WEB NEWSから)

 支持離れ 女性 無党派層など深刻

それでは、菅内閣の支持離れはどんな支持層で起きているのか、NHK世論調査でみていきたい。

◆まず、菅首相を支える自民支持層について、菅内閣を支持する人の割合は61%に止まっている。菅政権が発足した去年9月は85%だったから、下落幅は大きい。

選挙に強かった安倍政権では、自民支持層の支持割合は70%台後半から80%台前半と高かった。それに比べる菅政権の基盤は極めて脆弱であることがわかる。

◆有権者の最も大きな集団である無党派層の支持はどうか。菅内閣の支持は2割を割り込み、不支持は6割近くに達している。

◆年代別では◇20代以下の若い年代だけ、支持が不支持をわずかに上回っているが、そのほかの年代はすべて不支持が、支持を上回っている。

◆男女はいずれも不支持が、支持を上回っている。男性は支持35%、不支持49%に対し、女性は支持31%、不支持43%で、特に女性の支持は少ないのが目立つ。

このように菅政権の支持構造は、選挙の行方を左右する自民支持層と無党派層、それに女性の支持離れが顕著で、菅政権にとって深刻な事態が進行中であることが読み取れる。

 失態続き 政権浮揚見通せず

次に菅政権に反転攻勢が可能かどうかを見ていきたい。結論から先に言えば、菅政権はこのところ失態続きで、政権浮揚につながるような好材料は見当たらない。

まず、政府は先に緊急事態宣言の対象地域などで、酒の販売事業者に対して、酒の提供停止に応じない飲食店との取引を行わないよう求める方針を打ち出した。

これに対して、販売事業者から「長年の取引先で、コロナ禍で苦しんでいる飲食店をさらに追いつめることはできない」と強い反発を招いた。

また、世論の側も「行政が自ら直接向き合わず、外から強い圧力をかけるような行為は絶対に許されない」といった強い批判が出され、撤回に追い込まれた。

これより先、政府は同じように金融機関にも働きかけを要請していたが、この方針も撤回した。こうした動きを経て菅首相が14日、総理官邸で陳謝した。

一方、ワクチン接種については、これまで接種の加速が続いていたが、接種希望の需要に供給が追い付かず、職域接種の新規受付を中止する事態に追い込まれた。ワクチン確保量が縮小することを明らかにしなかったことと、接種管理システムが十分機能していない不手際が背景にある。

さらに14日には、東京の新規感染者数が1149人と急拡大した。1100人を超えるのは、第4波のピークだった5月8日以来、2か月ぶりだ。専門家が7月中旬には、東京の新規感染者数は1000人を上回る可能性があるとの予測が現実になった。

このように感染再拡大と失態続きで、政権浮揚につながる好材料が見当たらない。菅内閣の支持率は、”瞬間風速的”にはさらに低下している可能性が大きく、当面、大きな改善は見通せない。

 政局緊迫オリパラ後か ”選挙の顔”

それでは、菅政権や政局のゆくえはどうなるか。支持率は急落しているが、いわゆる”菅降ろし”、菅首相の交代を求める動きは、当面、表面化しないとみる。

というのは、今の自民党は安倍長期政権を経て、非主流の派閥集団がなく、総理・総裁や執行部の権限が一段と強くなったこと。安倍前首相や麻生副総理、二階幹事長らの実力者も「次の衆院選は菅首相で戦う考え」を表明していることから、首相交代を求める動きが出てくる公算は小さいからだ。

一方、菅首相の政権運営については、描いていたシナリオが大きく狂い始めたとみる。菅首相はワクチン接種を加速し、東京五輪・パラリンピックを成功させ、その盛り上がりを受けて衆院解散・総選挙に打って出て勝利するのが基本戦略だ。

ところが、感染の収束どころか緊急事態宣言を発出し、五輪も無観客となり、お祭りムードは吹き飛んでしまった。それどころか、五輪開催が感染拡大の引き金になりかねないと危惧されている。

唯一、政権が大きな期待を寄せているのがワクチン接種の加速だが、先にみたように安定的に進むかどうかはっきりしない。

このようにコロナ対応をめぐって不確定要素は多いが、秋の政局は主流派がめざしているのが、菅首相の下で衆院解散・総選挙へと突入するケース。

もう1つは、今後、菅首相は「選挙の顔」として通用するかどうかを問う動きが出てくるとの見方もある。特に中堅・若手議員は、自らの当落を左右するからだ。その場合、世論の厳しい声に押される形で、菅首相の政治責任と交代を求める動きが土壇場の段階で出てくる可能性があるとみられている。

先の都議選では、自民党は第1党に復帰したものの、2番目に少ない33議席にとどまった。投票率は過去2番目に低く、低投票率では選挙に強いはずが、伸び悩んだ。都議選は、その後の国政選挙を先取りする先行指標となることが多く、党内では、次の衆院選挙に危機感が強まっている。

菅内閣の支持率が好転しない場合でも、菅首相の方針通り衆院解散・総選挙を先に行うのか。それとも自民党総裁選を実施して党の存在感をアピールしたうえで、総選挙に臨む方針に転換するのか、政局が一気に緊迫してくることが予想される。

ワクチン接種の加速などで、コロナ感染を抑え込めるのか。菅政権に対する世論の風向きに変化があるのかどうか、この2つの変動要素が、秋の政局のカギを握っている。

 

 

”コロナ失政”東京に4度目緊急宣言

政府は、新型コロナウイルスの感染再拡大が続く東京都に、4度目の緊急事態宣言を出すことを決めた。沖縄県の緊急事態宣言も延長し、期限はいずれも8月22日まで。まん延防止等重点措置については、埼玉、千葉、神奈川、大阪の4府県を対象に同じく22日まで延長することになった。

この決定を受けて、東京オリンピックは、東京など1都3県のすべての会場で観客を入れずに開催されることになった。こうした決定をどうみたらいいのか、考えてみたい。

 コロナ対策の失敗、”失政”

今回緊急事態宣言をどうみるか、結論を先にいえば、菅政権のコロナ対策が行き詰まり、宣言発出に追い込まれたとみている。

まず、3度目の緊急事態宣言は2回にわたって延長され、6月21日に宣言を解除したばかりだったが、1か月も経たないうちに4度目の宣言に追い込まれたことになる。解除に当たっては専門家から慎重論が出されたが、政権側が押し切った。

また、今年1月18日に召集された通常国会の施政方針演説で、菅首相は「新型コロナウイルス感染症を一日も早く収束させる」と強調するとともに「人類が新型コロナウイルスに打ち勝った証として、また、東日本大震災からの復興を世界に発信する機会としたい」と表明していた。

さらに、昨年3月に大会延期を提案した際、当時の安倍首相は「完全な形」での開催を表明していた。後継の菅首相は、大会開催から逆算して、ワクチン接種などの対策を徹底し、感染抑え込みを実現する責任を負ってきた。結果は、感染が拡大し、無観客開催に追い込まれたので、コロナ対策は失敗、失政と言わざるを得ない。

 五輪「無観客」は世論配慮か

次に東京五輪が「無観客」開催になったことについてだが、菅政権は最終段階まで、制限付きながらも観客を入れての開催を模索していたとみられる。

最終的に「無観客」を決断したのは、世論の側が感染拡大を心配して、開催に慎重・反対論が根強く、こうした点を配慮したためではないか。先の東京都知事選で、自民党は過去2番目に少ない議席に終わり、五輪の中止や延期を主張した野党が議席を伸ばしたことも影響したものとみられる。

さらに、秋には衆議院議員の任期が満了、衆議院選挙が控えており、五輪をきっかけに感染急拡大といったリスクは避けたいという判断も働いたのではないかと、個人的にみている。

 五輪、感染抑制の総合対策が必要

東京五輪は「無観客」での開催が決まったが、問題の核心部分、つまり、「感染の再拡大で緊急事態宣言が出される中で、オリンピックを開催して大丈夫か」という問題は残されたままだ。

菅首相は8日夜の記者会見でもワクチン接種が決め手だとして、最優先で取り組む考えを強調した。ワクチン接種は重要だが、それだけで感染を抑え込めるわけではない。人流の抑制など根本的な問題を含めて、対策を練り直す必要がある。

また、繰り返される緊急事態宣言やまん延防止等重点措置と、政府・自治体の無策ぶりに国民は、うんざりしている。また、営業時間の短縮や酒類の提供停止が長期化する飲食店業界は、危機的な経営状態に追い込まれている。

コロナ対策は未知の分野で、対応が極めて難しいことは理解できる。失敗があることもやむを得ない。だからこそ、対策の点検、検証、総括が必要だが、菅政権にはそうした対応がなく、対策の見直しが進まないのが大きな問題点だ。

今、菅政権に必要なことは、東京都などの地方自治体と連携を強め、感染対策や医療体制の整備、決め手のワクチン接種をより促進させる必要がある。

また、国民生活の支援や、深刻な影響を受けている飲食店などに対する事業支援など総合的な対策を早急にまとめ、実行に移すことが問われている。

最後に、菅政権の今後の政権運営について触れておきたい。菅政権の政権運営の基本は、感染拡大を抑え込んだうえで、東京五輪・パラリンピックを成功させ、秋の衆議院解散・総選挙の勝利につなげることにあった。

ところが、今回、緊急事態宣言の発出、五輪は無観客開催に追い込まれた。政権運営の土台部分が崩れ始めた意味を持っており、菅政権は東京五輪・パラリンピック閉会後は、一段と厳しい状況に立たされる可能性が大きいとみている。

 

 

自民”敗北”の原因は?東京都議選

東京都議会議員選挙は4日、投開票が行われ、自民党は第1党の座を獲得したが、議席を大幅に伸ばすことはできなかった。全員当選を果たした公明党と合わせても過半数に達しなかった。

自民党が獲得した33議席は過去2番目に少ない議席数で、”伸び悩み”という評価もあるが、事実上の”敗北”と言える。選挙前の大幅議席増の期待感は吹き飛び、自民党内では、秋までに行われる次の衆院選挙は厳しい結果になりかねないと懸念する声も聞かれる。

一方、投票率は42.93%で、5割を割り込んだ。前回・4年前の選挙より、およそ9ポイント低く、過去2番目に低い投票率になった。

自民党は、これまで低い投票率でも厚い保守地盤を活かして強みを発揮してきた。今回はなぜ、大幅議席増につながらなかったのか。今度の選挙結果の核心であり、次の選挙にも大きく影響するので、自民敗北の理由・背景を分析してみたい。

 自民第1党議席回復もワースト2

最初に選挙結果を手短におさらいしておく。選挙前は45議席で第1党だった都民ファーストの会(以下、都民ファ)は、14議席減らして31議席に踏み止まった。選挙前25議席だった自民党は、33議席しか獲得できなかった。公明党は、23人の候補者全員が当選、1993年以降8回連続の全員当選となった。

共産党は選挙前の18議席から1つ増やして19議席。選挙前8議席だった立憲民主党は15議席に伸ばした。日本維新の会と、東京・生活者ネットワークはいずれも選挙前と同じ1議席を獲得した。

自民党の獲得議席については、自民党関係者の間でも「8議席増やしたので、敗北ではない」との声も聞くが、前回4年前の選挙は歴史的惨敗といわれた議席数で、これを基準に党勢を評価するのはどうか。

今回は過去2番目に少ない議席数で、公明党を合わせた与党過半数の低いハードルも超えられなかったので、事実上の”敗北”とみるのが適切だと考える。

 ”自民支持層の支持離れ”

それでは、自民党は、なぜ、過去2番目に少ない議席数に陥ったのか。自民党長老に聞くと「政府のコロナ対応に対する不満と批判を浴びる形になった。特に選挙直前、ワクチン接種予約に供給が追い付かず、接種予約の停止に追い込まれたことが響いた。先月下旬、選挙の流れがガラリと変わった」と振り返る。

具体的にどういうことか。有権者の投票行動はどうだったのか、メディアの出口調査で分析する。

読売新聞の出口調査では、投票した人にふだんの支持政党を聞くと最多は自民党の33%。立民11%、共産8%、都民ファ6%、公明5%、無党派層28%となっている。NHK、朝日、共同の出口調査も数値は異なるが、似た傾向を示している。

自民党の政党支持率は、前回選挙と比べても大きな変動はない。ということは、自民党の支持層の中で、これまでとは異なる投票行動の質的な変化があったと考えられる。

◆自民支持層のうち、自民候補者に投票した人は57%と少ない。都民ファに投票した人が19%、2割近くに達した。◆朝日と共同のデータでも自民候補者に投票した割合は、どちらも70%と低い水準だ。都民ファには、それぞれ12%程度流れている。

一方、◆無党派層の投票先としては、各社の調査とも都民ファに28%から25%程度と最も多く投票している。自民は10%台前半で、4年前とほぼ同じ割合だ。

以上のことから、自民敗北の要因は「自民支持層の支持離れ」が起きて、投票数が減少したことが考えられる。

自民幹部にこの見方をぶつけてみると「確かに当初、自民党に追い風も感じられ、40台半ばは獲得できるとみていた。ところが、選挙戦に入る直前の6月下旬、急ブレーキがかかったような印象を受けた。ちょうどワクチン職域接種の予約中止が決まった時期で、このことが支持離れにつながったのではないか。自民支持層の一部に意識変化を起こさせた」との見方を示す。

私も選挙取材を40年余り続けているが、自民党が選挙に負ける場合は、自民支持層が政権に不信感を抱き、支持離れを起こしていることが多い。

今の菅政権については、緊急事態宣言延長の繰り返しをはじめ、ワクチン接種計画の見通しの悪さ、さらには、中々、決まらない東京オリパラ開催問題などに対する支持者の嫌気、不満や批判が支持離れをもたらしたのではないかと同じ見方をしている。今後は、支持者への説明、説得ができるかどうかが、カギになる。

 都民、共産、立民各党の課題

一方、都民ファーストの会が今回、踏み止まったのはなぜか。既にみてきたように無党派層の支持を得たことが大きい。もちろん、誕生した4年前の選挙の時に比べると、その支持は半減状態だが、各党と比べると支持の比率は最も多い。無党派層からは、改革勢力のイメージを持たれている。

また、小池知事の都民の支持率は6割程度と高く、こうした支持層の支持を都民ファは受けている。さらに、小池知事の緊急入院と投票日前日の候補者支援のパフォーマンス効果もあったかもしれない。

小池知事は、開票翌日の5日、自民党本部に二階幹事長を訪ね会談した。政界では、小池知事は次の衆院選で国政に復帰するのではないかとの見方がくすぶる。五輪閉会後、東京都のトップが任期満了、最後まで仕事をやり遂げるのか有権者としても注視していく必要がある。

一方、共産党と立憲民主党は、1人区と2人区を中心に候補者調整を行った。両党とも議席増につながり、一定の効果は出ている。今後は、次の衆議院選挙に向けて、野党第1党が中心になって政権構想づくりや、小選挙区の候補者調整をどこまで進められるのかどうかが、ポイントになる。

菅首相「選挙の顔」と政治責任

最後に今回の都議選の結果を受けて、政権与党の動きはどうなるか。菅政権発足以降、自民党は4月に行われた衆参3つの選挙で、不戦敗を含めて全敗したのに続いて、千葉県、静岡県の知事選挙で推薦候補の敗北が続いている。

加えて、今回の都議選で大幅な議席回復ができなかったことで、今後、自民党内から、菅首相は「選挙の顔」として通用するのかという声が出てくることが予想される。

自民党長老は「自民党員や世論は、菅首相の二正面作戦が本当に効果をあげるのか、五輪は無事開催できるのか、見極めようとしている。また、特にワクチン接種の計画と見通しなどを的確に説明し、軌道に乗せないと強い反発を招き、自民党内からも菅首相は政治責任を問われる局面が出てくるのではないか」と指摘する。

東京五輪・パラリンピックが無事開催にこぎつけられるのかどうか。感染の抑え込みとワクチン接種は順調に進むのかどうか。秋に向けて、こうした問題は政治に直ちに跳ね返り、政局は一気に緊迫する状況が続くことになりそうだ。

 

 

“選ぶ側”から見た東京都議選の注目点

東京都議会議員選挙が25日告示され、7月4日の投票日に向けて9日間の選挙戦に入った。選挙権がない方も多いと思うが、この選挙は、コロナ禍、東京五輪・パラリンピック開会を控えた中で、東京の有権者がどのような判断を示すか、注目点の多い選挙になりそうだ。

そこで、候補者や政党など選ばれる側ではなく、有権者”選ぶ側”の立場から、この選挙をどうみるか、どんな対応が賢明な選択になるか、探ってみたい。

何を重視するか?少ない候補者情報

都議会議員選挙と言われても、私たち選ぶ側が困るのは、立候補者はどんな人でどのような考え方を持っているのか、候補者の情報が極めて少ないことだ。最も身近な市区町村の議員選挙や、国政レベルの選挙に比べて、この中間に位置する都道府県議会議員選挙は候補者情報が少なく、誰に投票するか困ることが多い。

さて、どうするか。私事になるが、選挙期間中に各候補者の陣営から、自宅に配られるビラを集めておくと意外に役立つ。ビラを比較すると、各候補の経歴なども含めてどんな人物か、輪郭がわかる。加えて、配布される選挙公報には、候補者の公約、政策などが記載されているので、候補者情報をかなり集めることができる。

そのうえで、何を重視して選ぶか。今回の選挙について、すぐに頭に浮かぶのは、やはり新型コロナ対策だ。感染抑止対策として何をするのか、病床など医療提供体制の整備や、ワクチン接種などではどんな取り組みを考えているのかがわかる。

また、東京オリンピック・パラリンピックの開催の是非も、判断材料になる。予定通りの開催か、中止か。あるいは開催する場合でも無観客にするのか、制限付きで観客を入れるのかどうか、候補者の違いがわかるはずだ。

さらに、向こう4年間の東京都政のかじ取り役を選ぶので、中長期の課題・政策で判断したいと考える人も多いと思われる。首都直下型大地震に備えての防災対策、少子高齢化時代の社会保障の姿、子育て・教育・格差是正の取り組みなども問われることになる。

以上のような内容から、何を重視して選ぶのか。ここをはっきりさせれば、どの候補者を選択するか、対象者が絞られてくるのではないか。

 東京都政、どの政党・勢力を選ぶか

巨大都市、東京の街づくりや都民の暮らしを安定させていくためには、知事と議会が車の両輪として、それぞれの役割を果たしていくことが必須の条件だ。そのためには有能な議員を選ぶとともに、どの政党・政治勢力に中心的な役割を委ねるかがカギを握る。

今回の都議選は、小池知事が特別顧問を務める都民ファーストの会が第1党の座を維持できるか。それとも自民党が公明党との選挙協力を復活させており、公明党と合わせて過半数の議席を獲得したうえで、第1党へ返り咲くかどうかが焦点だ。

一方、共産党と立憲民主党は候補者を競合させないため、一部の選挙区で候補者のすみわけを行っており、議席の積み上げができるかどうかも注目される。

このほか、小池知事が過度の疲労による静養のため入院しており、今後、いつ公務に復帰し、選挙にどのようにかかわるのかにも関心が集まっている。

 コロナ禍 有権者の選択政党は?

今回の都議選は、緊急事態宣言は解除されたものの、コロナ感染が高止まりから、再び拡大の兆候が表れ始めた中での選挙になっている。”3蜜”を避けるため、各陣営の選挙運動も大規模な集会や街頭演説などの自粛が予想される。有権者の選挙への関心、投票率はどうなるか。

前回4年前は、小池知事が都民ファーストの会を立ち上げて”小池旋風”を巻き起こし、投票率は51%台まで上がった。その前の2013年選挙は、43%台まで落ち込んだ。今回、有権者の投票意欲は前回水準から強まるのか、あるいは下回るのかも注目点の1つだ。

また、東京都議選の結果は、次の国選選挙の先行指標になる。2009年の都議選では、当時の民主党が大勝して都議会第1党に躍進、夏の衆議院選挙で過去最多の議席を獲得して政権交代を実現した。

2013年の都議選で、自民党は候補者全員が当選して都議会第1党に返り咲き、続く参議院選挙でも過去最多の議席を獲得して圧勝した。都議選の結果は、全国の都市部の有権者の先行指標になるケースが多かった。

7月4日投開票となる東京都議選の結果は、菅政権の政権運営に大きな影響を及ぼすだけでなく、秋の衆院選挙のゆくえを占う判断材料になる。コロナ激変時代、有権者は何を重視し、どの政党・政治勢力を選択するのか目が離せない。

総選挙は秋の公算 ”コロナ波乱政局”の始まり

通常国会は、野党4党が提出した菅内閣に対する不信任決議案が、与党などの反対多数で否決され、16日に閉会した。

焦点の衆議院解散・総選挙について、菅首相は夏の東京オリンピック・パラリンピック閉会後に断行する方針を固めており、総選挙は秋に行われる公算が大きくなっている。

与野党双方とも国会閉会後、直ちに衆院選に向けた体制づくりを加速させているが、これからの政治はどんな展開になるのか。

コロナ感染を抑え込めるかどうかということだけでなく、衆院選挙の結果がどうなるかまでを展望すると”波乱要因の多い政局”になる可能性が大きい。

9月5日のパラリンピック閉会後、菅首相が早期に解散に踏み切るケースをはじめ、ワクチン効果をねらった任期満了選挙、さらには菅首相退陣のケースなども予想される。”コロナ波乱政局”のゆくえを探ってみる。

 オリパラ後の総選挙へまい進 菅首相

次の衆議院解散・総選挙はいつになるか。解散権を握る菅首相の考えがベースになる。菅首相はコロナ対策を優先し、早期の解散には慎重な姿勢を示してきた。

菅首相の考えは、ワクチン接種を加速させて感染拡大を抑え込むとともに、東京五輪・パラリンピックを成功させた後、秋に衆院を解散・総選挙を断行して勝利し、再選を果たすのが基本的な戦略だ。

このため、通常国会閉会後は、20日に期限を迎える東京などの緊急事態宣言を解除し、まん延防止等重点措置に切り替える方針だ。同時にワクチン接種をさらに加速させるとともに東京五輪・パラリンピックについては、感染対策を徹底して予定通り、開催する方針だ。

衆院解散・総選挙については、9月5日にパラリンピックが閉幕した後、臨時国会を召集して衆院解散に踏み切り、10月に総選挙を断行する方向で調整が進められている。投票日としては、10月3日、10日、17日を軸に検討している。これが、第1のケースだ。

自民党長老に聞くと「9月解散・10月総選挙の可能性が最も高い。今の自民党には、菅首相や二階幹事長らに対抗して、政局を変えることができる実力者はいない。これからの政局は自民党内より、コロナ感染の状況や世論の動向がカギを握っている。例えば、五輪開催後に感染爆発が起きたら、自民党は選挙でぼろ負けするだろう。油断できない」と語る。

 ワクチン効果期待 選挙後ろ倒しも

菅首相がめざす9月解散・10月総選挙は、感染が収束に向かい、ワクチン接種も順調に進み、五輪・パラリンピックも開催され盛り上がった場合が前提だ。

政府・自民党内には、こうした考え方とは別にワクチン接種効果を重視して、衆院解散を急がず、任期満了などによる選挙の後ろ倒しを選択した方がいいという考え方もある。

ワクチン接種は高齢者接種が本格化するとともに、一部の地域では一般国民の接種が始まった地域もある。10月から11月ころまでに、国民の半数以上に2回接種が完了すれば、感染の減少効果が期待できる。このため、選挙を遅らせれば、与党にとって有利に働くとの思惑がある。

具体的には、今の衆議院議員の任期は10月21日までだが、臨時国会の会期を任期満了ギリギリまで引き延ばして、大型補正予算案を成立させた後、国会を閉会すると11月14日投票が可能になる。

あるいは、任期満了ギリギリで解散すれば、11月28日投票も可能になる。任期満了に伴う選挙を後ろ倒しする案も取りざたされている。これが第2のケースだ。

 波乱要因 五輪開催と感染急拡大

以上は、いずれも感染抑制や、ワクチン接種が順調に運むことが前提だ。逆に波乱要因として、変異株の広がりなどで感染拡大が抑え込めない事態もありうる。

例えば、7月23日の五輪開会式までに感染を抑え込めないような場合。あるいは、大会期間中、さらには9月5日のパラリンピックが閉会式後に感染爆発が起きた場合どうなるか、危惧する与党関係者は少なくない。

こうした場合、菅首相の政治責任を問う声は、自民党内からも高まるだろう。衆院選挙を控え、自らの当落に直結するからだ。菅首相の退陣・総裁選立候補辞退もありうるとの見方もある。その場合、後継の新しい総裁を選んだあと、衆院解散・総選挙というケースも想定される。これが、第3のケースだ。

 衆院選の獲得議席幅 政局を左右

ここまでみてきた3つのケースは、いずれも衆院選挙にこぎつけるまでの道筋の予測だ。最大の難関は、衆院選の政治決戦で、菅政権は勝てるかどうかだ。

選挙の専門家に聞くと、国政選挙で連勝を続けた安倍政権に比べると、菅政権は議席を減らすのは避けられないとの見方が強い。一けた台の減少で済むのか、50議席程度の大幅減もあるのか、減少幅がどの程度になるかが一番のポイントだ。

減少幅によっては、菅首相の政治責任が問われ、政局のゆくえを左右することもありうる。来年夏には、参議院選挙も行われる。衆院選挙後は、コロナ激変時代の政治のリーダーのあり方なども改めて問われることになりそうだ。

以上みてきたように、コロナ禍の政治は、不確定要素が多い。変異株の広がりなど感染状況がどうなるのか、ワクチン接種の進展で感染抑え込みの効果が出てくるのか。そうした動きによって、3つの政局のどのケースに収れんしていくのか注視していく必要がある。

同時に、私たち国民の側は、これまでの政権の実績評価や、これからの社会や暮らしのあり方をどのように考えていくのか。そして、どんな政治家や、政党に政権をゆだねていくのか答えを出す時期が近づいている。

 

 

 

”議論なし開催突入の愚”東京五輪

新型コロナウイルスの感染流行が続く中で、東京オリンピック・パラリンピックを開催して大丈夫か。国民の多くが考え、判断に迷っているのではないか。本来は、政治、具体的には国民の代表で構成される国会で、政府が対応策を示し議論する大きなテーマのはずだ。

ところが、菅政権で初めて行われた9日の党首討論では、こうした国民の関心に応える議論にはならなかった。このままでは国会は16日に閉会、20日には緊急事態宣言を解除、そのまま議論が深まらないまま五輪開催へと突入する公算が大きい。

これでは、国会は熟議の場どころか浅慮、議論なしの”愚の骨頂”と言わざるをえない。東京五輪・パラリンピックの開催問題を政治の側から、考えてみたい。

 党首討論 知りたい点に答えず

9日に国会で行われた党首討論は2年ぶりの開催。菅政権になって初めてで、菅首相と野党党首が突っ込んだ議論を交わすのではないかと期待した国民も多かったのではないか。

ところが、結果は、残念ながら期待外れに終わったというのが正直な印象だ。立憲民主党の枝野代表らは「3月の緊急事態宣言の解除が早すぎたのではないか。同じ間違いを繰り返さないために厳しい基準を明確にすべきだ」などと追及した。

これに対して、菅首相は論点をそらしつつ、ワクチン接種について「希望する人すべてが、10月から11月にかけて終えられるよう取り組む考え」を表明した。

また、共産党の志位委員長が、政府分科会の尾身会長の指摘を引用しながら「感染リスクが高くなる中で、なぜ開催するのか」と質したのに対し、菅首相は「国民の命と安全を守るのは私の責務だ」と答え、議論が深まらなかった。

 問題の核心 開催の条件と意義

国民が知りたいのは、世界でコロナパンデミックが続いている中で、東京五輪・パラリンピックを開いて本当に大丈夫なのか。開催する場合、日本の感染状況はどこまで収まっているのか、医療的提供体制はどこまで余裕があるのか、具体的なデータを示しながら説明をして欲しいという点だ。

また、感染危機の中で、国民の多くは大会を開く意義は何か、世界に向けて語る必要があると考えているのではないか。

こうした点について、菅首相の発言は真正面から答える内容には遠かった。前回の東京五輪の思い出を長々、話をするのではなく、日本国民や世界の人たちにどんな大会にしたいかを、自らの言葉で語りかける必要があったのではないか。

このように、今回の党首討論では、問題の核心である東京五輪・パラリンピックの開催意義や、開催のための条件をどう設定するか、依然として大きな宿題として残されたままだ。

 専門家の意見をどう扱うのか

東京五輪・パラリンピックについては、国内の観客を入れるのかどうか。また、メディアを含めた大会関係者の行動管理などの細部も不明な点が多い。

こうした中で、政府分科会の尾身会長は、開催に慎重な考えを示しているほか、開催する場合は規模を最小限にすることなどを求めている。

一方、9日に開かれた厚生労働省の専門家会合で、京都大学の西浦教授は独自に行ったシミュレーションで、7月末までに高齢者へのワクチン接種が完了したとしても、接種が進んでいない50代以下の年代を中心に感染が大きく広がり、8月中に再び重症者病床が不足するような流行になると警告している。

政府は、こうした専門家の意見をどのような形で、方針決定に反映させるかも問われる。緊急事態宣言の判断では専門家に意見を求め、五輪対策では意見を求めないといったご都合主義は止めた方がいい。五輪の開催問題も「科学」で判断すること、具体的なデータに基づいて公正に判断する姿勢で対応してもらいたい。

 政治の劣化 責任の明確化必要

それでは、今後の動きはどうなるか。菅首相は11日から13日までイギリスで開かれるG7の対面式の首脳会議に出席するが、この中で東京五輪・パラリンピック開催支持を取り付けたい考えだ。

16日は国会の会期末だが、政府・与党は会期を延長しない方針だ。これに対して、野党側は内閣不信任決議案を提出、与党側が否決して、国会は去年に続いて早々と”店じまい”となる見通しだ。20日には、東京都などに出されている緊急事態宣言が期限を迎え、この頃、組織委員会がオリ・パラの観客の扱いなどの判断を示す見通しだ。

このようにみてくると、今後、国会で五輪開催の是非などを論じる機会は極めて少ない。これでは、熟議の国会どころか浅慮、国会の議論が乏しい状態が常態化しており、政治の劣化と指摘されても反論は難しいのではないか。

仮に五輪を開催した場合、選手とは別に、通訳、警備、ボランティアなどを含めると要員は30万人規模になるといわれる。このほか、観客の扱いはまだ決まっていないが、現在のイベント規制の基準で計算すると観客数は300万人規模に達するとの見方もある。

こう見てくると仮に開催して感染拡大が起きた場合、その責任は誰が負うのか。曖昧なままにせずに、はっきりさせておく必要がある。

コロナ感染対策とオリンピック開催問題は、7月の東京都議選、10月までに行われる見通しの次の衆院選でも争点の1つになる見通しだ。選挙で判断・審判を下すことになるが、その前に国会の場で議論をしっかり行うことが、最低限必要だと考える。

菅首相”二正面作戦”の賭け

東京、大阪など9つの都道府県に出されている緊急事態宣言は、5月31日の期限が6月20日まで延長されることになった。

菅首相は、この延長期間で「感染防止とワクチン接種とという『二正面作戦』の成果を出す」と決意を示すが、東京五輪を控え、期限内に感染を抑え込み、宣言を解除できるのか大きな賭けとみることもできる。菅政権の対応を点検する。

 ”宣言などなし”わずか21日間

緊急事態宣言を振り返ると、東京などに2度目の宣言が出されたのは、年明けの1月8日。以来、宣言の延長、再延長、緊急事態に準じる「まん延防止等重点措置」も出され、”宣言などが解除され何もなかった日”は調べてみると、わずか21日間だ。

今回、6月20日まで延長が続くと、東京はざっと半年間で”宣言などなし”は、3週間という短さだ。これでは、政府や自治体の対応は、失敗、失政と言わざるをえない。

 二正面作戦 実態はワクチン頼み

さて、菅首相は宣言延長を決めた28日夜の記者会見で、今回の宣言延長ついて「感染抑止とワクチン接種という『二正面作戦』の成果を出すための、極めて大事な期間と考えている。内閣の総力を挙げて取り組んでいく。私自身その先頭に立ってやり遂げていく」と決意を表明した。

問題は、二正面作戦の中身だ。感染防止の中身は、飲食店の時間短縮や酒提供の停止が中心で、これまでとほとんど変わっていない。成果が上がるか疑問が残る。

もう1つのワクチン接種は、新たな挑戦という位置づけだ。ワクチンという新たな武器をようやく手にできたので、これを最大限活用して、何としても感染を抑え込みたいというのが本音のようだ。

ということは、二正面作戦と言っても、柱はワクチン接種、ワクチン頼みというのが実態だ。

その二正面作戦の柱であるワクチン接種は、接種率が5割を超えると感染者数が大幅に減少するといわれるが、いつ5割達成を目指すのか”戦略目標”は、はっきりしない。

また、ワクチン効果が出るまでには時間がかかる。その間、変異株にどう対処するのか。感染防止の新たな具体策、ワクチン接種の進み具合などとを組み合わせた”工程表”も示されていない。

 ワクチン接種の加速 調整機能に弱点

ワクチン接種について、もう少し詳しく見ておきたい。菅首相は「できることは全てやる。1日100万回を目指し、高齢者接種は7月末まで完了させる」と号令をかけている。

また、高齢者接種の見通しがついた市区町村から、次の基礎疾患がある人たちを含め、一般の人たちの接種を6月中から開始するとワクチン接種をさらに加速させる指示を出している。

接種の現状は、高齢者3600万人のうち5月27日現在で、1回目の接種が終わった人が10.4%、2回目が終わった人は0.7%に止まる。目標は、まだまだ遠い。

気になるのは、高齢者接種の市区町村が主体とされてきた。ところが、ここにきて国・自衛隊が乗り出し、東京と大阪で大規模接種会場を設営した。続いて、都道府県も独自の大規模接種を始める見通しだ。国、都道府県、市区町村の連携などは大丈夫か。

一方、市区町村の現場の悩みは、ワクチン接種の打ち手が足りないことだ。歯科医にも参加してもらうことになったが、さらに医療の検査関係者にまで広げられないか調整が続いている。

こうした対応を見るとついつい、海外と比較してしまう。専門家によるとイギリスでは、大規模接種を進める公的な組織があり、接種会場も病院、診療所だけでなく、教会や競馬場などにも設営するなど早くから準備を進めてきた。

また、接種要員が不足することが予想されたため、去年の夏には、医学生や理学療法士なども接種を行えるよう検討を始め、10月には法律改正も済ませたという。先を読み、用意周到だ。

これに対し、日本は、夏に五輪・パラリンピックが決まっていながら、対応は遅く”場当たり的対応”が目立つ。先の大戦の「失敗の本質」は今も変わっていないのではないかと感じてしまう。

高齢者に続いて、今後は一般の人たちへと対象者がさらに広がる。ワクチン接種についても司令塔、全体を統括・調整する機能が弱い。計画的に準備を進め、混乱が生じないよう強く注文しておきたい。

 五輪開催に突き進む 難題は山積

東京オリンピック・パラリンピックについて、菅首相は開催へと突き進む方針だ。「安全、安心な大会に向けて取り組みを進める」と繰り返す。

これに対して、世論の受け止め方は報道各社の世論調査で、中止を求める割合が4割から6割で多数を占める。開催する場合も、観客を入れない無観客を求める意見が最も多い。

世論の側は、世界の感染状況が深刻な中で、開催が妥当なのか。日本国内の医療に及ぼす影響などを深刻に受け止めている。

こうした点について、菅首相は、来日する大会関係者を当初の18万人から半分以下の7万8千人に減らすほか、選手や関係者には徹底した検査とワクチン接種、宿泊先の制限などで、一般国民と交わることがないよう徹底した行動管理を行うと強調する。

健康管理にあたる医師や看護師など医療関係者の確保、それに感染者が出た場合の指定病院など体制整備について、首相の記者会見では触れなかった。

さらに、国内の観客の扱いについても未だ決まっておらず、大会開催への課題は山積している。

安全、安心な大会は可能なのか、科学的なデータとともに感染対策の全体像を早急に明らかにする必要がある。開催の賛否が鋭く対立する中では、データに基づいて科学的に判断、決定するのが基本だ。

また、開催に踏み切る場合には、万一、感染急拡大など事態悪化の場合、自ら政治責任を取る考えを明らかにしないと国民の納得は得られないのではないか。

東京や大阪では、新規感染者数は減少してきているが、高止まり状態が続き、予断を許さない状況だ。宣言の期限である6月20日までに「二正面作戦の成果」が現れ、緊急事態宣言が解除されるのかどうか、菅首相にとって正念場を迎えている。

 

 

菅政権 相次ぐ難題 カギは東京都議選  

新型コロナ対策の緊急事態宣言は23日から沖縄が追加され、10都道府県に拡大した。このうち、沖縄を除く地域では今月31日が期限になっている。延長されるのか、解除はあるのか。

一方、東京オリンピック・パラリンピックは開幕まで2か月を切ったが、中止はあるのか。高齢者向けのワクチン接種は7月に完了するのか。さらに菅政権はどうなるのかといった質問を多く受ける。

そこで、こうした相次ぐ難問に対して、菅政権はどのように対応しようとしているのか、探ってみたい。

結論を先に言えば、個別の問題は激しい動きがあるが、政治のゆくえに大きな影響を及ぼすのは、来月25日に告示される東京都議会議員選挙。この結果が、秋の政局を大きく左右するとみる。

以下、その理由を解説したい。

 緊急事態宣言 延長の公算大

まず、先月25日に東京、大阪などに出された緊急事態宣言の扱いだが、大型連休明けに宣言延長を決めた際に、政府関係者の間ではオリンピックも近づいており、期限の31日までには余裕をもって解除できるのではないかとの見方をする人が多かった。

ところが、その後は完全に逆の展開で、感染は地方に拡大。愛知、福岡に続いて、北海道、岡山、広島、さらには沖縄まで3週連続で追加され、10都道府県に拡大した。「まん延防止等重点措置」も8県になった。

政府の専門家の間では「大阪、東京は新規感染者の減少傾向がみられるが、なお見極める必要がある。北海道や沖縄、福岡などでは感染急拡大が続いており、変異株の急激な置き換わりも考慮に入れると、解除できる状況にはない」と緊急宣言の延長論が大勢だ。

これに対して、菅首相は「今月末に判断する」と態度を明らかにしていないが、専門家の意見を最終的には受け入れるのではないかとみる。というのは菅内閣の支持率は政権発足以来最低で、専門家の意見を覆すだけの力はない。

また、菅首相自身も今、最も力を入れているのは、ワクチン接種と、東京五輪・パラリンピック開催の2つだ。五輪開催のためには、大会直前の感染拡大を抑え込む必要があり、宣言延長を容認する可能性が強いとみる。

 菅首相 五輪中止の選択はあるか

次に東京オリンピック・パラリンピックの開催中止はあるか。この問題は、国内だけでなく、海外の感染状況など多くの変動要因があり、断定的に言えるだけの判断材料や能力はない。

但し、国内政治を取材している立場からすると、菅首相が自ら中止の選択をする確率は極めて低いとみる。

その理由は、東京五輪・パラリンピックの招致に大きな力を発揮したのは安倍前首相だった。同じように、東京オリパラの開催問題で、影響力を持っているのは時の政権、菅首相だ。

その菅首相の政権運営、特に解散・総選挙戦略に、東京オリパラ開催は事実上、組み込まれている。夏に大会を開催し、その成果を秋の解散・総選挙につなげていく戦略なので、中止の公算は極めて乏しいとみる。

政界の一部などには、小池都知事や菅首相が土壇場で大会中止を打ち出し、政局をリードするのではないかといった見方もある。しかし、首相が大会中止を打ち出せば、その政治責任を問われ、退陣表明に追い込まれる公算の方が大きいのではないか。

一方、大会開催に踏み切った場合、世論の側は、コロナ禍での大会は中止すべきとの意見も強いので、政権に対する批判が強まる可能性も大きい。

結局、未だに具体的な説明がない、大会の国内観客数や感染対策、国内の医療提供体制への影響、さらにはコロナ禍で五輪を開催する意義などを国民に訴え、理解を得られるのかどうかが問われることになるのではないか。

 ワクチン接種 7月完了は可能か

菅首相は先月下旬、高齢者のワクチン接種について「1日100万回、7月末完了」を打ち上げた後、自衛隊による大規模接種が決まった。また、総務省と厚生労働省がタッグを組んで、接種に当たる地方自治体に接種を急ぐよう猛烈な働きかけを続けている。

両省が全国1741市区町村を対象に聞き取り調査を行った結果、21日時点で「7月末完了」の見通しを伝えたのは、1616市区町村、93%に達している。

但し、この回答の中には、医療従事者の確保ができた場合という留保条件をつけている自治体もある。自治体側は、打ち手の医師や看護師の確保に四苦八苦しているところが多い。7月完了は流動的な要素が残っていると見た方がよさそうだ。

ワクチン開発や海外での獲得競争の話は横に置くとして、日本のワクチン接種の対応はどうか。イギリスでは、去年夏の時点で、いち早く打ち手の要員について、医師だけでなく医学生、理学療法士など資格を持たない人にも広げる検討を始め、法改正を実現するなど準備を着実に進めてきたという。

これに対して、日本の取り組みは、高齢者接種は事実上、地方に丸投げ。突如、自衛隊による大規模接種構想が浮上したりと”場当たり、突貫工事”の連続だ。高齢者に続いて、一般国民の接種まで順調に進むのかどうか不確定要素は多い。

 菅政権と政局 都議選がカギ

それでは、菅政権はどうなるのか。これまで見てきた緊急事態宣言の扱いを含めた感染の抑え込み、東京オリパラ開催問題、ワクチン接種の問題を乗り切ることができるかどうか。

但し、こうした難題への対応について、与党内から強い批判や責任追及が直ちに出てくる可能性は小さい。菅政権の評価や批判などが出てくる可能性があるのは、東京都議会議員選挙ではないか。

都議選は来月25日告示、7月4日の日程で行われる。各党とも国政選挙並みに力を入れる。国政のテーマが選挙の争点になるケースが多い。次の国政選挙、秋までに行われる衆議院選挙の先行指標になる。

この都議選で、政権与党である自民党の議席がどうなるか。その結果によって、菅政権や秋の政局に影響が出てくる。自民党は前回の都議選では、歴史的大敗を喫したが、今度の選挙では公明党との選挙協力が復活し、議席の回復が見込まれる。

一方、このところ報道各社の世論調査では、菅内閣の支持率だけでなく、自民党の支持率の低下傾向が現れ始めた。政府のコロナ対応に対する有権者の批判が、自民党の支持率にも影響が出始めたのではないか。このため、自民党は議席は回復するが、その程度、勝ち方が焦点の1つになる。

以上、見てきたように菅政権にとっては、まずは相次ぐ難題を乗り切れるかどうか。その対応を有権者がどのように評価しているかが、都議選に現れる。

その都議選の結果は、菅政権の今後と秋の政局の行方を左右する。”政局の本番は、都議選から始まる”ということになるのではないか。

“緊急宣言”延長 内閣支持率 急落の背景

東京、大阪など4都府県に出されている緊急事態宣言が今月31日まで延長、愛知県、福岡県が追加されたが、感染急拡大に歯止めがかからない。

感染拡大は地方でも広がっており、政府は14日、北海道、岡山、広島の3道県を対象に緊急事態宣言を発出する方針を決めた。また、「まん延防止等重点措置」について、群馬、石川、熊本の3県を追加することになった。(この部分は、政府の方針が変更されたため、14日正午に内容の表現を修正した)

こうした中で、菅内閣の支持率が報道各社の世論調査で急落している。支持率急落の理由・背景、菅政権や政局への影響を分析、展望してみたい。

 菅内閣支持率 発足以来最低水準

さっそく報道各社の世論調査からみていきたい。菅内閣の支持率は、読売新聞の調査では、支持が43%で前回から4ポイント低下、不支持が46%で6ポイント増加し、2月以来3か月ぶりに不支持が支持を上回った。

NHKの調査では、支持が先月より9ポイント下がって35%、不支持が5ポイント増えて43%、こちらも3か月ぶりに不支持が支持を上回った。今月の支持率35%は、菅内閣が去年9月に発足して以来最低の水準だ。

両社の調査とも調査日時は7日から3日間。7日は政府が緊急事態宣言の延長・追加の方針を決めた日で、それ以降の調査になる。支持、不支持の数値は異なるが、支持率が急落、支持と不支持が逆転した点は共通している。(データは読売新聞10日朝刊、NHK WEB NEWSから)

 コロナ「政府対応の評価」に比例

そこで、内閣支持率下落の理由だが、結論を先に言えば、コロナ感染に対する「政府対応の評価」に連動している。これまでも何回か取り上げたようにコロナ感染が問題になった安倍政権当時から、感染が拡大し政府対応の評価が下がると内閣支持率も下がる。感染が改善されると支持率も回復するといったように両者は連動、比例するのが特徴だ。以下、データはNHK調査でみていく。

その政府対応の評価については「評価する」が33%で、先月より11ポイント減った。逆に「評価しない」は63%、10ポイントも増えた。「評価する」33%は、菅内閣発足以来の最低の水準だ。

この結果、菅内閣の支持率は低下した。支持しない人たちに理由を1つに絞って挙げてもらうと「政策に期待が持てない」が40%、「実行力がない」が39%を占めた。

こうした背景を考えてみると、菅政権は先月25日、3度目の緊急事態宣言に踏み切り、短期集中の対策として「人流の減少」を打ち上げたが、新規感染者の抑え込み効果が現われていない。

また、菅政権では対策の検証、総括がなされず、十分な説明がない。今回の宣言延長・追加では、再び「飲食重点」の対策に戻るといった「対症療法」「場当たり対応」が目立ち、これに対する世論の不満や批判が読み取れる。

 女性、中年、無党派 ”支持離れ”

それでは、菅政権への影響はどうだろうか。内閣支持率の中身を分析してみると足元の「自民支持層の支持」が6割台前半まで落ち込んでいる。安倍政権では、7割後半から8割程度を維持していたのに比べると基盤が安定していない。

次いで、「女性の支持」が3割程度にまで急落している。コロナ感染拡大で、女性が多く従事しているパートや非正規労働の仕事が失われている影響だろうか。

年代別では、18歳以上20代と30代は、支持が上回るか、横ばい。40代・50代・60代の「働き盛りの中年層」では、いずれも不支持が増えて、支持を上回っている。最も多い「無党派層」では支持が2割を割り込み、不支持が過半数を占める。

このように「女性」「中年」「無党派層」の支持離れが目立つ。仮に今、衆院選となれば、かなりの打撃を受けるだろう。

もう1つの注目点は、自民党の政党支持率が下がっている点だ。自民党33.7%、先月より3.7ポイントも低下。菅政権下で最も低い水準だ。野党第1党の立憲民主党の支持率は5.8%で、0.5ポイントの低下。つまり、自民党の下がった分は、野党に回らず、無党派層43.8%に上積みされている形だ。

菅内閣の支持率が低下しても、自民党支持率は40%から30%台後半を維持してきた。今回のような大幅な下落はこれまでにないだけに、内閣支持率の低下が自民党の支持率低下に影響し始めたのかどうか、注視している。

 ワクチン接種 進み具合の評価

さて、コロナ感染の抑え込みに向けて、菅首相が切り札と位置付けているのが、ワクチン接種だ。菅首相は、7月末までに高齢者へのワクチン接種を完了できるように取り組む考えを打ち出した。

世論調査では、そのワクチン接種の進み具合の評価を聞いている。「順調だ」はわずか9%、「遅い」が82%と圧倒的だ。

ワクチン接種状況は5月11日時点で、先行接種の医療従事者で、1回目のワクチンを打った人が319万人で66%。2回目を完了した人が129万人で27%に止まる。65歳以上の高齢者接種になると1回目は48万人、1.3%。2回目を完了した人はわずか2万4千人余り、0.06%にすぎない。

菅首相は12日「全国の85%を占める1490の市区町村で、7月末までに接種を終えるという報告を受けた」と自信を示す。ところが、市区町村では、高齢者の電話予約が殺到して通じなくなったり、予約システムが障害で中断したりとトラブルが相次いでいる。

東京五輪・パラリンピックの開催日程がわかっているのに、日本のワクチン接種率は先進国で最下位、世界でも下位に位置する。政府のワクチン競争への遅れ、戦略、危機管理能力の乏しさが改めて浮き彫りになっている。

政府は5月下旬以降、ワクチンの供給量は大幅に増えると強調するが、市区町村の接種で、医師や看護師の確保が順調に進むか不安は残る。

さらに、全国各地で変異株が急拡大しているが、ワクチン接種を終えるまでに抑え込めるのか緊急の課題だ。免疫学の専門家に聞くと「ワクチン接種効果が出てくるのは、早くて今年後半。五輪・パラリンピックには間に合わない」と語る。感染抑え込みに総力を挙げる必要がある。

 政治の焦点 五輪 東京都議選

最後にこれからの政治・行政の動きをみておきたい。まず、厚生労働省は今月20日にアメリカ製薬大手のモデルナとイギリスのアストロゼネカの2つのワクチンを承認する見通しだ。承認されれば、アメリカのファイザーと合わせてワクチンは3種類に増え、供給量の増加が加速される。

一方、来月初めまでには、東京五輪・パラリンピック大会の観客数の上限などが決まる運びだ。菅首相は予定通り開催する方針だが、世論調査では「中止する」が49%で最も多い。次いで「無観客で行う」が23%、「観客数を制限して行う」が19%、「これまでと同様に行う」は2%となっている。

「中止」以外の合計、つまり「何らかの形で行う」は合計44%に達する。どう考えるか、「科学的データ」に基づいて判断するのが基本だ。開催しても安全と主張するのであれば、無観客でも大会参加者は何人になるのか。9万人説、6万人説などが取りざたされているが、明確にしないと判断のしようがない。

また、国内外の感染状況、医療提供体制はどうするのか。政府、東京都、組織委員会は、安心安全な大会を唱えるだけでなく、具体的なデータと条件を早急に示すべきだ。そのうえで、開催、中止、延期のどれを選択するのか、議論を徹底して合意形成を図る必要がある。

さらに通常国会は、来月16日に会期末を迎える。25日には東京都議会議員選挙が告示され、7月4日に投票が行われる。各党とも国選選挙並みの体制で臨む見通しだ。国政のテーマが選挙の争点になることが多く、秋までに行われる衆議院選挙の先行指標になる。

菅政権のコロナ対応の評価も大きな争点になる見通しだ。感染抑止対策や、ワクチン接種の進み具合、五輪開催問題などの動きに有権者がどんな判断を示すことになるのか。都議選の結果は、菅政権や政局のゆくえを大きく左右するとみて注視している。

 

”綱渡りのコロナ対策” 菅政権 宣言延長

新型コロナウイルス対策として7日、東京、大阪など4都府県に出されている緊急事態宣言が今月31日まで延長されることが決まった。また、愛知県と福岡県を対象地域に加えることになった。

一方、首都圏3県などに適用されている「まん延防止等重点措置」についても期限を今月31日まで延長するとともに、北海道、岐阜県、三重県を追加し、宮城県は対象から外すことになった。

今回の方針で、宣言の対象は東京、大阪、兵庫、京都、愛知、福岡の6都府県に拡大する。重点措置の適用は、北海道、埼玉、千葉、神奈川、岐阜、三重、愛媛、沖縄の8道県に広がる。

今回の緊急事態宣言、菅首相は「人流減少の目的は達成できた」と成果を強調するが、宣言延長が決まった7日、全国の新規感染者数は6000人を超え、死者は145人で過去最多を記録、感染状況は急速に悪化している。

これに対して、菅政権は”ワクチン接種頼み”が実状で、接種完了までに変異株の猛威を抑え込めるか、”綱渡りのコロナ対策”が続くことになる。菅政権のコロナ対応を探ってみる。

  3度目宣言 “大きな効果見えず”

今回の緊急事態宣言の効果について、菅首相は7日夜の記者会見で「ゴールデンウイークに合わせ、人流を抑える措置が必要と考え、幅広い要請を行った。東京や大阪の人流は4月はじめと比較して、夜間は6割から7割、昼間は5割程度、減少している。人流の減少という初期の目的は達成できた」と宣言効果を強調した。

ところが、大阪、東京などの感染は収まらず、宣言の延長・追加を決めた7日、全国の新規感染者数は6000人を超え、1月16日以来の高い水準になった。重症者数は1131人で過去最多、死者も145人と過去最多、事態は急速に悪化している。

専門家は、宣言の効果は来週にならないとわからないとしながらも、変異株の急拡大に警戒を強めている。新規感染者、重症者、死者はいずれも極めて高い水準で、3度目の緊急事態宣言の対策はこれまでのところ、大きな効果は見えない。

 具体策なく、ワクチン接種頼み

それでは、菅政権は緊急事態宣言を延長・追加して、どんな対策を打ち出そうとしているのか。

7日夜記者会見した菅首相は「大型連休という大きな山を越えた今後は、通常の時期に合わせた高い効果の見込まれる措置を徹底して対策を講じていく」とのべた。但し、「高い効果の見込まれる対策」としては、飲食店における酒の提供や持ち込みを制限する程度で、新たな具体策を打ち出すことはできていない。

菅首相が強い意欲を示しているのが、高齢者のワクチン接種だ。「来週から、全国の自治体でワクチン接種が始まる。今月24日からは、東京、大阪の大規模接種センターでも始まる。1日100万回の接種を目標とし、7月末を念頭に、希望する高齢者に2回の接種を終わらせるよう、政府としてあらゆる手段を尽くして自治体をサポートしていく」と力を込めた。

このワクチン接種、先行接種の医療従事者の接種は、2回接種が終わった人は2割程度で進んでいない。一方、全国の1700余りの市町村では、高齢者向けのワクチン配分量がわからないのと、接種に当たる医師や看護婦の確保に四苦八苦しており、8月以降までかかる自治体もあるとみられている。また、1日に100万回もの接種体制が可能なのかどうか、詰めが必要だ。

さらに高齢者に続いて、一般国民の接種はどうなるか。菅首相は「来月をめどに高齢者接種の見通しがついた市町村から、基礎疾患がある方々を含めて、広く一般の方々にも接種を開始したい」と意欲を示した。但し、一般国民への接種を終える時期の目標については、具体的に言及することは避けた。

このように菅首相のコロナ対応は、ワクチン接種を感染抑制の戦略に位置付けている。一方で、それ以外の対策、例えば変異株対策をはじめ、新規感染者の抑え込み、PCR検査の拡充、入院できない感染者の宿泊・治療提供体制などはどうするのか。

また、休業や時間短縮などの事業者、生活支援をどうするのかも具体策は示されていない。ワクチン頼みで、それ以外の感染抑制対策、医療提供体制改善の内容も乏しく、危うさを感じる。

 東京五輪・パラ開催方針は変えず

コロナ感染拡大との関係で注目されている東京オリンピック・パラリンピックの開催について、菅首相は「心配の声が上がっていることは承知している。選手や大会関係者の感染対策をしっかり行い、国民の命と健康を守っていくことが大事だ」とのべた。

そのうえで、「IOCと協議の結果、各国選手へのワクチン供与が実現することになった。日本の選手についても世界の選手の中の一部として接種をしたい。さらに選手や大会関係者と一般国民が交わらないように滞在先や移動手段を限定したい。選手は毎日検査を行うなど厳格な感染対策を検討している」とのべた。

菅首相は、各国選手のワクチン接種や大会関係者の滞在先の対策を徹底して、開催する方針は変える考えはないようだ。

一方で、海外の感染状況をはじめ、数万人ともいわれる大会関係者を国民と接触できないような管理が疑問だとして、開催の中止や延期を求める意見も内外に根強い。この点についても今後どのような展開になるのか、不確定要素を抱えている。

 衆院選とも関係 コロナ対策論争を

最後に政治との関係を見ておきたい。菅首相は7日、月刊誌のインタビューに答えて注目すべき発言をしている。衆議院の解散・総選挙の時期について、自民党総裁としての任期が満了となる9月末までの間で検討していることを明らかにした。

菅首相のワクチン接種や東京五輪の考え方も、このインタビューと重ね合わせると、わかりやすい。端的に言えば、菅首相の政権戦略・選挙戦略は、感染拡大はワクチン接種で抑え込むとともに、東京五輪・パラリンピックは何としても開催して成功させ、秋の解散・総選挙で勝利したい腹づもりとみられる。

このため、ワクチン接種、東京五輪・パラリンピックは政権の総力をあげ強力に進めるとみられる。一方、私たち国民の側からみると、ワクチン接種が完了するまでにはかなりの時間がかかる。接種完了までにどんな感染対策を進めるのか、変異株対策を含め具体的な対応策を示してもらいたい。

ワクチン接種についても、肝心のワクチン確保量や地方自治体への配分情報は、余りにも少ないし遅い。ワクチン接種計画の詳細版を早急に出すべきである。

そのうえで、感染抑止の総合対策やワクチン接種、経済・社会立て直しをどうするのか。国会で政権与党と野党の双方が真正面から議論して、国民に判断材料を示してもらいたい。