東京都に4度目の緊急事態宣言が出され、23日に開会する東京オリンピックもほとんどの会場が、観客をいれない無観客開催となることになった。
国民はこうした事態をどのように受け止めているのか。報道機関が相次いで世論調査を行い結果を報道しているが、いずれも菅内閣の支持率が発足以降、最低を記録、不支持は最多で、”世論の菅内閣支持離れ”が一段と鮮明になっている。
こうした世論の動向の分析と、これからの政治への影響を探ってみたい。
内閣支持率最低 読売 NHK調査
読売新聞とNHKは今月9日から11日までの3日間、それぞれ世論調査を行い、その結果を報道している。
菅内閣の支持率は、◇読売調査で支持が37%、不支持が53%。◇NHK調査では支持が33%、不支持が46%となっている。
いずれの調査とも菅内閣の支持率は、去年9月の政権発足以降、最低の水準だ。一方、不支持も発足以降、最も高くなっている点で共通している。
今回の世論調査は、政府が8日に、感染再拡大が続く東京都に4度目の緊急事態宣言を出すことを決定した直後に実施された。また、東京オリンピックについては、無観客開催とする方針が決まった直後でもある。
政府のコロナ対応については、読売の調査で◇評価するが28%に対し、◇評価しないが66%。ワクチン接種をめぐる政府の対応についても◇評価するが36%に対し、◇評価しないが59%となっている。
政府のコロナ対応に対する世論の不満、批判が支持率低下の要因になっていることがわかる。(データは、読売新聞13日朝刊、NHK WEB NEWSから)
支持離れ 女性 無党派層など深刻
それでは、菅内閣の支持離れはどんな支持層で起きているのか、NHK世論調査でみていきたい。
◆まず、菅首相を支える自民支持層について、菅内閣を支持する人の割合は61%に止まっている。菅政権が発足した去年9月は85%だったから、下落幅は大きい。
選挙に強かった安倍政権では、自民支持層の支持割合は70%台後半から80%台前半と高かった。それに比べる菅政権の基盤は極めて脆弱であることがわかる。
◆有権者の最も大きな集団である無党派層の支持はどうか。菅内閣の支持は2割を割り込み、不支持は6割近くに達している。
◆年代別では◇20代以下の若い年代だけ、支持が不支持をわずかに上回っているが、そのほかの年代はすべて不支持が、支持を上回っている。
◆男女はいずれも不支持が、支持を上回っている。男性は支持35%、不支持49%に対し、女性は支持31%、不支持43%で、特に女性の支持は少ないのが目立つ。
このように菅政権の支持構造は、選挙の行方を左右する自民支持層と無党派層、それに女性の支持離れが顕著で、菅政権にとって深刻な事態が進行中であることが読み取れる。
失態続き 政権浮揚見通せず
次に菅政権に反転攻勢が可能かどうかを見ていきたい。結論から先に言えば、菅政権はこのところ失態続きで、政権浮揚につながるような好材料は見当たらない。
まず、政府は先に緊急事態宣言の対象地域などで、酒の販売事業者に対して、酒の提供停止に応じない飲食店との取引を行わないよう求める方針を打ち出した。
これに対して、販売事業者から「長年の取引先で、コロナ禍で苦しんでいる飲食店をさらに追いつめることはできない」と強い反発を招いた。
また、世論の側も「行政が自ら直接向き合わず、外から強い圧力をかけるような行為は絶対に許されない」といった強い批判が出され、撤回に追い込まれた。
これより先、政府は同じように金融機関にも働きかけを要請していたが、この方針も撤回した。こうした動きを経て菅首相が14日、総理官邸で陳謝した。
一方、ワクチン接種については、これまで接種の加速が続いていたが、接種希望の需要に供給が追い付かず、職域接種の新規受付を中止する事態に追い込まれた。ワクチン確保量が縮小することを明らかにしなかったことと、接種管理システムが十分機能していない不手際が背景にある。
さらに14日には、東京の新規感染者数が1149人と急拡大した。1100人を超えるのは、第4波のピークだった5月8日以来、2か月ぶりだ。専門家が7月中旬には、東京の新規感染者数は1000人を上回る可能性があるとの予測が現実になった。
このように感染再拡大と失態続きで、政権浮揚につながる好材料が見当たらない。菅内閣の支持率は、”瞬間風速的”にはさらに低下している可能性が大きく、当面、大きな改善は見通せない。
政局緊迫オリパラ後か ”選挙の顔”
それでは、菅政権や政局のゆくえはどうなるか。支持率は急落しているが、いわゆる”菅降ろし”、菅首相の交代を求める動きは、当面、表面化しないとみる。
というのは、今の自民党は安倍長期政権を経て、非主流の派閥集団がなく、総理・総裁や執行部の権限が一段と強くなったこと。安倍前首相や麻生副総理、二階幹事長らの実力者も「次の衆院選は菅首相で戦う考え」を表明していることから、首相交代を求める動きが出てくる公算は小さいからだ。
一方、菅首相の政権運営については、描いていたシナリオが大きく狂い始めたとみる。菅首相はワクチン接種を加速し、東京五輪・パラリンピックを成功させ、その盛り上がりを受けて衆院解散・総選挙に打って出て勝利するのが基本戦略だ。
ところが、感染の収束どころか緊急事態宣言を発出し、五輪も無観客となり、お祭りムードは吹き飛んでしまった。それどころか、五輪開催が感染拡大の引き金になりかねないと危惧されている。
唯一、政権が大きな期待を寄せているのがワクチン接種の加速だが、先にみたように安定的に進むかどうかはっきりしない。
このようにコロナ対応をめぐって不確定要素は多いが、秋の政局は主流派がめざしているのが、菅首相の下で衆院解散・総選挙へと突入するケース。
もう1つは、今後、菅首相は「選挙の顔」として通用するかどうかを問う動きが出てくるとの見方もある。特に中堅・若手議員は、自らの当落を左右するからだ。その場合、世論の厳しい声に押される形で、菅首相の政治責任と交代を求める動きが土壇場の段階で出てくる可能性があるとみられている。
先の都議選では、自民党は第1党に復帰したものの、2番目に少ない33議席にとどまった。投票率は過去2番目に低く、低投票率では選挙に強いはずが、伸び悩んだ。都議選は、その後の国政選挙を先取りする先行指標となることが多く、党内では、次の衆院選挙に危機感が強まっている。
菅内閣の支持率が好転しない場合でも、菅首相の方針通り衆院解散・総選挙を先に行うのか。それとも自民党総裁選を実施して党の存在感をアピールしたうえで、総選挙に臨む方針に転換するのか、政局が一気に緊迫してくることが予想される。
ワクチン接種の加速などで、コロナ感染を抑え込めるのか。菅政権に対する世論の風向きに変化があるのかどうか、この2つの変動要素が、秋の政局のカギを握っている。