”高市 総合経済対策”の効果は?懸念される危うさ

政府は21日、物価高対策や防衛力・経済力の強化などをめざす新たな総合経済対策を閣議決定した。対策の規模は減税を含めて21兆3000億円、裏付けとなる補正予算案の一般会計の歳出規模は17兆7000億円程度で、コロナ禍後では最大となる。

今度の対策は、自民・維新両党が連立合意したのを受けて発足した高市政権が初めて策定した総合経済対策だ。「強い経済」「責任ある積極財政」を掲げる高市政権は何をめざし、どのような分野でどこまでの効果を上げることができるのだろうか。

一方、高市政権がめざす政策は、物価高から国民生活を守ることができるのかどうか、副作用や危うさはないのかどうか、高市政権が決めた経済政策を点検してみる。

経済対策21兆円、補正予算規模17兆円

政府の新たな経済対策は、「物価高への対応」と「強い経済の実現」、それに「防衛力と外交力の強化」の3つの柱からなっている。

このうち、「物価高への対応」に11兆7000億円、「強い経済の実現」に7兆2000億円、「防衛力と外交力の強化」に1兆7000億円となっている。これにガソリン税などの暫定税率の廃止や「年収の壁」の見直しによる減税分などが加わることになる。

この結果、経済対策の規模は21兆3000億円、一般会計の歳出規模は17兆7000億円の規模になる。当初は、経済対策で17兆円程度、一般会計歳出で14兆円程度を想定していたが、政府・与党内から拡大を求める声が強く、大きく膨らんだ。

補正予算案はこれまで2兆円から4兆円程度で推移していたが、コロナ禍で72兆円から32兆円もの巨額予算が追加計上されるようになった。コロナ禍が落ち着いた後も2023年度の岸田政権では13.1兆円、2024年度の石破政権では13.9兆円と多額の予算計上が常態化し、高市政権ではさらに17兆円まで拡大することになった。

こうした背景には、高市首相が「何を実行するにしても『強い経済』をつくることが必要だ」として、「責任ある積極財政」を打ち出していることが影響している。

具体的には、物価高対策に加えて、強い経済の実現に向けて造船能力を強化するための基金創設、防衛費のGDP比2%目標の前倒しなどによって予算規模の拡大につながった。問題は、必要な財源をどのように確保するかが問われることになる。

物価高対策には野党取り込みのねらいも

次に、今の国会で最大の焦点になっている物価高対策の内容をみていきたい。まず、電気・ガス料金の支援については、来年1月から3月までの3か月間、一般家庭で合計7000円程度を補助する。今年7月から9月まで実施された3000円から大幅に引き上げ、当初検討されていた6000円からも引き上げることになった。

高市政権が重視しているのが、地方自治体が使い途を決められる「重点支援地方交付金」の拡充で、「お米券」やプレミアム商品券の発行などが行えるとしている。

さらに最終段階で新たに決まったのが、児童手当の上乗せ支給だ。1回限りの措置だが、18歳までの子ども1人当たり2万円を上乗せして支給する。このようにさまざまな具体策を盛り込んだ結果、物価高対策も膨らんだ。

こうした物価高対策の具体策は、連立与党の維新や野党が実施を求め、自民党が受け入れた項目が目立つ。例えば、電気・ガス料金の上積みは維新が強く要求したもので、児童手当の上乗せ支給は公明党の提案を受け入れて実施されることになった。

高市政権や自民党としては、国民生活に寄り添う姿勢をアピールできる一方、少数与党だけに補正予算案の成立に公明党や国民民主党の協力を得たいねらいがあるものとみられる。

一方、補正予算案が成立しても一連の支援策が国民の手元に届くのは、年明け以降になる見通しだ。また、国民からすれば「お米券」といわれても1人当たり3000円程度で、「食料品の大幅値上げを前に少額で、それよりもまとまった現金給付の方がありがたい」といった声も聞く。

それだけに政府の物価高対策は国民にどこまで評価されるのかどうか、物価高を抑える対策や経済政策が並行して打ち出されないと国民の納得を得るのは難しいのではないかと考える。

円安・債券安、財政拡張に懸念も

高市政権の経済対策をめぐっては、円安や国債の値下がりなどの影響が懸念されている。為替市場では、このところ1ドル=157円台後半まで円安が進んでいる。国債は代表的な指標である10年ものの利回りが一時1.775%まで上昇し、2008年6月以来の高い水準になった。

円相場については、高市氏が自民党総裁に就任する前日の10月3日は、1ドル=147円だったので、円安がかなり進んでいることがわかる。市場関係者の間では、高市政権や与党内で財政規模の拡充を求める意見が強まっているとして、財政悪化につながるのではないかという危機感が広がっている。

円安が続くと輸入物価が上昇し、インフレが加速するほか、賃金引き上げが物価上昇に追いつかない状態が続くことになる。実質賃金のマイナスは9か月連続だ。

高市首相は経済対策を閣議決定した後、記者団に「今回の対策は、国民生活を守り、強い経済をつくるため、戦略的な財政出動を行うものだ」と説明するとともに「補正予算案を編成した後の国債発行額は、昨年度の補正後の規模を下回る見込みだ」とのべ、財政状況に十分配慮しているとの考えを強調した。

これに対し、野党側は「国債の発行額が去年を下回るといっても去年の発行額は42兆円にも上る。加えて国と地方の借金は1200兆円にも達し、市場の信頼を失えば、日本経済は決定的なダメージを受ける」と批判する。

高市首相は、半導体やAIなど17分野を挙げて戦略的投資を行う方針を決定したり、財政健全化の目標であるプライマリーバランスの単年度ごとの黒字化を見直したりするなど個別の政策は次々に打ち出している。

ところが、日本経済をどのように運営していくのか、全体像の説明は乏しい。経済成長の目標をはじめ、長期金利や消費者物価の目安、実質賃金が恒常的にプラスに転じる時期などがはっきりしないまま、個別政策が先行する点に危うさを感じる。

また、高市首相が掲げている防衛力の強化や「責任ある積極財政」などについても必要な財源をどのように確保するのか、国債発行のあり方などの方針は明らかにされていない。経済運営全体の考え方や財源確保に向けた方針が問われることになる。

政権発足1か月、首相の危うさ指摘も

高市政権が発足して21日で、1か月が経過した。報道各社の世論調査では高市内閣の支持率は60%台後半を記録するなど順調な滑り出しをみせている。憲政史上初の女性首相であることや、就任直後の外交デビューの効果が大きいためとみられる。

一方、内政では今回の新たな経済対策をはじめ、評価が分かれる課題は多い。外交面では、高市首相の台湾有事をめぐる国会答弁に中国側が猛反発する事態を招き、沈静化のメドがついていない。

高市首相は保守派の立場から、従来の政府方針と異なる見解を示す一方、新たな対応について整理してまとまった説明をすることが少ないことから、政権の最高責任者としての危うさを指摘する声は、野党だけでなく与党からも聞かれる。

26日には高市政権になって初めての党首討論が行われるのに続いて、来月上旬には補正予算案が提出され、衆参両院の予算委員会で審議が行われる見通しだ。内外に多くの懸案が山積しているので、国民が知りたい点に応えられるような議論をみせてもらいたい。(了)

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高市内閣”高い支持率、独自色に懸念も”

高市内閣が発足して3週間余り、臨時国会で与野党の本格的な論戦も始まり、高市内閣がめざす政治の輪郭が次第に明らかになりつつある。

こうした状況の中で、NHKの世論調査がまとまり、高市内閣の支持率は66%と歴代内閣の中で高い水準にある一方、自民党の政党支持率は低迷していることが浮き彫りになった。

また、高市首相が掲げる独自色の濃い政策については賛否が分かれ、国民は高市カラーに危うさを感じている点も読み取れる。高市内閣の高い支持率の背景と、政権が問われる点を探ってみたい。

高い内閣支持率、現役世代に支持広がる

さっそく、NHK世論調査(11月7日~9日実施)の内容からみていきたい。高市内閣の支持率は66%で、政権発足時の内閣支持率としては小泉内閣の81%、鳩山内閣の72%に次いで、3番目に高い水準になった。なお、調査方法が異なるため、単純に比較できないが、傾向として理解してほしい。以下の項目も同様だ。

高市内閣の支持率を支持政党別にみてみると自民支持層の86%が支持している。これは、2012年12月に自民党が政権復帰して以降では最も高い。また、無党派層の支持率は59%で、同じように最も高い水準だ。

年代別では、高市内閣の支持率は◇18歳からと20代、◇それに30代と40代はいずれも77%、◇50代は76%となっている。50代以下の現役世代については、第2次安倍内閣以降、最も高い水準となっている。

支持率の男女別では男性が67%に対し、女性は63%で、女性の比率がやや低い傾向にある。

以上のように高市内閣は、自民支持層の支持を取り戻しているだけでなく、無党派層の支持も広げている。それに現役世代でも幅広い支持を得ているのが特徴だ。

それでは、高市内閣の支持率が高い理由、背景はどういった事情があるのだろうか。まず、「支持する」と答えた人に理由を聞くと「実行力があるから」が33%と最も多く、次いで「政策に期待が持てる」が26%と、積極的な支持が多数を占めた。

これまでの内閣では「他の内閣より良さそう」といった消極的支持が目立ったのと大きく異なる点だ。

また、高市政権では連立相手がこれまでの公明党から、日本維新の会に代わったが、新たな政権に「期待する」が58%で、「期待しない」の37%を上回った。

さらに、個別の質問項目をみると外交の評価が高いことがわかる。高市首相が初の日米首脳会談や日中首脳会談を行ったことについて、いずれも「評価する」がおよそ7割に達し、「評価しない」の25%程度を大きく上回った。

このように高市内閣の支持が高い理由・背景としては、初の女性首相の誕生で、若い年代や無党派を中心に、これまでの政治を大きく変えてくれるのではないかという期待感が強く現れたと言えそうだ。

また、今回は政権発足直後に高市首相とトランプ大統領との日米首脳会談が行われるなど一連の外交日程を通じて新しい首相の誕生を強くアピールしたことも支持率を上げる上で、大きな効果があったのではないかとみられる。

自民党支持率は低迷、回復の兆し見えず

一方、政党支持率をみると自民党の支持率は、30.7%だった。2012年12月に自民党が政権に復帰して以降、内閣発足時の支持率としては、安倍、菅、岸田、石破の各内閣と比べて、最も低い水準となっている。

自民党は高市内閣の発足で、保守層を取り戻しての党勢回復を目指しているが、内閣支持率の上昇は、党勢の回復にはつながっていない。党内には、内閣支持率上昇の勢いに乗って早期の衆院解散論が一部に出ているが、今のような支持率低迷が続くようでは、早期解散は困難な情勢にある。

自民党と連立を組んだ日本維新の会の支持率は3.3%で、10月の1.7%から1.6ポイント増やした。但し、以前は4%から6%台の水準もあったのに比べると党勢回復にはほど遠い状況にある。

野党各党では、◇立憲民主党は7.2%で、10月より1.6ポイント伸ばした。参院選で躍進した◇国民民主党は3.5%で、1.3ポイント減。◇参政党は3.4%で、1.1%減で明暗が分かれた。

このほか、◇公明党は2.6%で、1.1ポイント減。◇共産党は2.6%で、先月と同じ。◇れいわは0.9%で、0.3ポイント減だった。◇無党派は38.7%で、2.3ポイント減だった。

 高市首相の人柄・独自カラーに懸念も

再び高市内閣に話を戻すと、高市内閣はこれまでみたように滑り出しは極めて好調だが、不安定な要素を幾つか抱えている。

まず、高市内閣の看板政策の一つである、外国人政策の見直しについての評価だ。世論調査では「高市内閣は一部の外国人による違法行為などで、国民が不安や不公平感を感じているとして、制度の適正化を検討し、来年1月をメドに考え方をまとめるとしているが、どう思うか」と尋ねている。

調査結果は「積極的に対応すべきだ」が42%だったのに対し、「慎重に対応すべきだ」が47%で、上回った。「対応する必要はない」が3%だった。外国人政策をめぐって国民の評価は分かれている。

もう一つ、高市内閣を支持する理由については「実行力があるから」などの積極的な支持が多かったことは既に触れたが、支持しない理由としては「(首相の)人柄が信頼できないから」が26%で最も多く、次いで「政策に期待が持てないから」が24%、「他の内閣の方が良さそうだから」が18%と続いた。

内閣を支持しない理由として「人柄が信頼できないから」がトップになるケースは、極めて珍しい。第2次安倍内閣以降(内閣発足時のデータ)を調べると、安倍内閣では3番目で14%、菅内閣では4番目で16%、岸田内閣では5番目で10%、石破内閣では3番目で16%といずれも低かった。

「人柄が信頼できない」が多数に上った背景としては、高市首相は安倍元首相を政治の師と仰ぐなど保守派の政治家として知られていることから、外交・安全保障や財政政策などをめぐって安定した政権運営ができるのか、危惧する声があることが影響しているのではないか。

政権が発足して最初の世論調査だが、こうした見方が今後、どのように推移するのか注目してみていきたい。

 国会論戦、補正予算案の攻防が焦点

高市首相が重視している政策をめぐっては世論調査とは別に、今の国会論戦でも与野党の主要な論点として浮上してきている。

一つは台湾有事への対応で、高市首相は「武力の行使を伴うものであれば、存立危機事態になりうる」と踏み込んだ答弁をした。その後、野党側の追及に対して、発言の撤回をするつもりはないとしながらも「今後、特定のケースを明言することは慎もうと思う」とのべるなど防戦を余儀なくされている。

また、高市首相が掲げる「責任ある積極財政」に関連して、財政健全化の指標であるプライマリーバランスについて「単年度ごとの目標を見直す」考えを表明した。これに対して、野党側は「財政健全化目標の見直しの前に、日本経済の成長目標や金利水準など経済政策全体の姿を明らかにすべきだ」として、議論が続いている。

このように高市首相は独自色を次々に打ち出しているが、政府のこれまでの政策との整合性や、新たな取り組み方をする場合、その内容を整理して説明できないと政権運営の不安定さを印象づけることになりかねない。

このほか、臨時国会の最大の案件である補正予算案をめぐっては、自民と維新の連立与党だけでは過半数に達しないので、どの野党の協力を得ることができるかどうかが焦点になる。

また、維新が「連立参加の絶対条件だ」として、今の国会での実現を強く求めている衆議院議員の定数削減について、他の野党が反発する中で、結論を出せるのかどうかという問題も抱えている。

高市政権はこうした一連の問題・懸案を着実に処理できるのかどうか、それによって世論の政権に対する評価や、政権の安定度を左右することになる。これから年末に向けての国会論戦と補正予算案を扱いめぐる与野党の攻防を注視していきたい。(了)

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高市政治“経済・安保は保守色鮮明、懸案は曖昧”

高市首相は就任直後から続いていた一連の外交日程を終えて、今月4日からは3日間の日程で、初めての国会論戦となる各党の代表質問に臨んだ。7日からは衆院予算委員会に舞台を移して一問一答方式の詰めた論戦に入る。

一方、報道各社の世論調査によると高市内閣の支持率は60%台後半から70%台の高い水準が続いている。高市氏は安倍元首相を政治の師と仰ぐ保守派として知られているが、どんな政治をめざすのか輪郭は見えてきたのだろうか。

代表質問を通じての論戦で高市首相がめざす政治について、明らかになった点と不明な点、それに高市政権が今後、問われる課題を点検してみたい。

経済・安保・外国人政策で保守色鮮明

各党の代表質問には野党第1党・立憲民主党の野田代表をはじめ、連立を組む日本維新の会の藤田共同代表、連立を離脱した公明党の斉藤代表など各党の代表が質問に立ち、それぞれの立場から高市首相の政治姿勢や政治課題の取り組み方などを質した。

これに対して高市首相は、経済政策と安全保障、それに総裁選で取り上げた外国人政策などについては、自らの保守的な考えを鮮明に打ち出した。

高市首相はまず、何を実行するにしても「強い経済をつくること」が必要だと訴え、そのためには「責任ある積極財政」で、所得や消費を増やし、事業収益を上げて経済の好循環を実現すると強調した。

高市内閣は4日、成長戦略の司令塔となる「日本成長戦略本部」の初会合を開き、AI・人工知能、半導体や造船など17項目の戦略分野を定めて、官民で集中投資し、経済成長をめざす方針を決めた。来年夏に新たな成長戦略をまとめることにしている。

このように高市政権の経済政策は需要と供給のうち、供給面からテコ入れすることに重点を置いているが、需要や分配にも配慮しないと結果を出すのは難しいとの指摘もある。また、積極的な投資も裏付けとなる財源などがはっきりしないので、説得力が乏しいとの批判もある。

一方、外交安全保障では「我が国として主体的に防衛力の抜本的強化を進めることが必要だ」として、防衛関連予算の対GNP2%水準について、補正予算と合わせて2年前倒しで実現する方針を明らかにした。来年中に国家安全保障戦略をはじめとする「三文書」を改定する考えも示した。

さらに自民党総裁選挙の時から外国人政策を取り上げてきた高市首相は、排外主義とは一線を画すとしたうえで、外国人による違法行為などに対して、政府として毅然と対応するとの方針を打ち出した。そして、外国人による土地取得のルールや各種制度のあり方について、来年1月をめどに方向性をまとめる方針だ。

このほか、憲法改正について国会による発議の実現や、政府のインテリジェンス機能の強化が急務だとして、国家情報局を創設するなど高市政権は、歴代政権に比べて保守色の濃い政策を打ち出しているのが大きな特徴だ。

物価高、問われる即効性ある具体策

次に当面の焦点になっている物価高対策について、高市首相は「内閣としても最優先で取り組む課題で、速やかに対策をとりまとめ、必要な補正予算を今の国会に提出する」と表明した。

具体的な対策としては、ガソリン税の暫定税率について、今の国会で廃止法案を成立させる考えを示した。この問題をめぐっては5日、自民党や立憲民主党など与野党6党が12月31日にガソリン税の暫定税率を廃止することで正式に合意した。軽油引取税の暫定税率も来年4月に廃止することで与野党が合意している。

この暫定税率廃止は、高市政権の物価高対策の第1弾になるが、元々、野党が要求してきた問題で、自民党が受け入れたものだ。ガソリンと軽油の暫定税率廃止に伴い1兆5千億円の税収減になるが、その財源確保のメドはついていない。年末の税制改正で結論を出すことにしている。

一方、立憲民主党などは物価高対策として、給付金の支給と食料品の消費税率ゼロ%の時限的な引き下げを迫った。これに対し、高市首相は、給付金は夏の参院選で国民の理解が得られなったとして実施する考えはなく、消費税率引き下げも「レジのシステムなどに一定の時間がかかる」として、否定的な考えを示した。

それでは高市政権としては、具体的にどのような対策があるのかということになる。特に物価急騰の影響が大きい子育て世帯や低所得の高齢者などに対しては、即効性のある対策が必要ではないかとの指摘が与野党から出されている。

高市政権としても即効性のある物価高対策と、輸入物価を押し上げる要因になっている円安など金融・財政・経済政策が改めて問われることになりそうだ。

政治とカネ・定数削減など懸案は曖昧

3日間にわたる各党の代表質問で、高市首相の答弁で歯切れが悪かったのが、懸案の政治とカネの問題や企業・団体献金の扱い、それに議員定数の削減などへの対応だ。

このうち政治とカネの問題では、最初に質問に立った立憲民主党の野田代表が自民党の旧派閥の裏金事件で、不記載の議員を副大臣や政務官に起用したことを捉えて「裏金問題にけじめがついたと考えているのか」などと追及した。

また、不記載議員で官房副長官に起用された佐藤啓参議院議員に対しては、野党側が強く反発して、参議院本会議場などで陪席できない事態が続いている。

さらに企業団体献金については、公明党と国民民主党が政治資金の透明化に向けて、企業献金を受け取る団体を政党本部と都道府県連に限るなど規制を強める法案を提出する方針だ。立憲民主党もこの案に賛成する意向を示しており、自民党の対応が問われることになる。

高市首相は、不記載議員の問題などについては「今後、厳しい姿勢で臨み、ルールを順守する自民党を確立する」などと釈明する一方、企業団体献金については「各党の成り立ちや組織のあり方にも留意しつつ、公平で公正な仕組みとなるよう検討したい」と慎重な考えを繰り返している。

もう1つ、自民党と維新の連立合意で、衆議院議員の定数1割を削減する法案を今の国会に提出し、成立をめざす方針を打ち出したことが各党に波紋を広げている。維新の幹部は「連立参加の絶対条件」として、これが実現しない場合は、連立を離脱する考えを示している。

高市首相は代表質問の答弁で「連立与党で検討するとともに、各党各会派とも真摯な議論を重ねたい」として、与野党で議論する考えを示している。

今回の定数削減をめぐっては、衆院議員のおよそ50人を比例部分だけで削減することが想定されているとされ、中小の政党は「一方的な切り捨てになる」として強く反発している。自民党内からも「与野党の協議会で議論している取り組みを否定するものだ」として批判がくすぶっている。

以上みてきたように一連の懸案について、高市首相は自民党の従来の方針を踏襲した慎重な姿勢が目立つ。一方、防衛力の抜本強化や防衛費の増額、さらに経済政策などについても、必要となる財源などの核心部分については、曖昧な点が多い。このため、国民の多くは高市政治とは何か、これからの日本はどのようになっていくのかを知りたいと思っているのではないか。

各党の代表質問に続いて、7日からは衆議院の予算委員会が始まり、一問一答方式で詰めた議論が行われる。代表質問で明らかになった論点について、高市首相がさらに踏み込んだ説明を行うのかどうか、野党側も対案を示しながら分かりやすい議論を展開してもらいたい。(了)

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“出だしは好調、難題は政権の意思決定”高市政権

初の女性首相として第104代首相に選出された高市早苗首相は臨時国会で初めての所信表明演説を行ったのに続いて、来日したトランプ大統領との日米首脳会談で日米同盟強化を確認するなど順調な滑り出しをみせている。報道各社の世論調査でも内閣支持率は高く、高市政権の出だしは好調と言えそうだ。

高市首相は30日には、APEC=アジア太平洋経済協力会議が開かれる韓国を訪問して韓国や中国などと首脳外交を行う。一連の外交日程を終え、来月4日からはいよいよ臨時国会で野党側と本格的な論戦が始まる。

高市氏は自民党総裁選を勝ち抜いたものの、直後に公明党が連立政権から離脱し、新たに日本維新の会と連立を組むなど綱渡りの運営を余儀なくされてきた。政権発足からこれまでの動きを顧みて、高市新政権は安定した政権運営ができるのかどうか、政権の課題・問題点はどこにあるのか探ってみたい。

内閣支持率は好調、持続性がカギ

まず、10月21日に組閣を終えて発足した高市内閣について、国民はどのような評価をしているのか報道各社の世論調査の結果からみておきたい。

高市内閣の支持率については、読売新聞の調査(21・22日実施)では71%、共同通信の調査(21・22日実施)では64.4%、朝日新聞の調査(25・26日実施)では68%となった。いずれの調査とも石破内閣や岸田内閣を上回り、歴代内閣との比較でも朝日のデータでは3位、読売のデータで5位の高さになった。

各社の調査とも年代別では、若い層を中心に支持率が大幅に上昇している。朝日の調査によると30代で86%に達するなど50代以下で70%以上、70歳以上では54%だった。「日本で女性の首相が誕生したことは良かったと思うか」との問いには「よかった」が85%に達し、「そうは思わない」が7%だった。

新内閣発足の場合、政策実現への期待もあって支持率が上昇する”ご祝儀相場”がみられる。ただ、その水準を維持していくのはたいへんだ。歴代内閣の中には発足時がピークで、その後支持率が下がるケースは少なくない。

高市内閣の支持率はトランプ大統領との日米首脳会談前の調査で、日米首脳会談の後、あるいは国会で各党代表質問や予算委員会での論戦の後では支持率は変わってくる可能性がある。世論の風向きがどのように推移するのか、注意してみていきたい。

高市政治、安倍元首相の手法を踏襲か

次に、高市首相はどのような政治をめざして、政権運営を行っていくのだろうか。24日に高市首相が行った初めての所信表明演説の内容を基に探ってみたい。

高市首相は「この内閣が最優先で取り組むことは物価高への対応だ」としており、ガソリン税の暫定税率の廃止や電気・ガス料金の引き下げを急ぐ方針だ。そして、一連の経済対策を盛り込んだ補正予算案を国会に提出する考えだ。

また「強い経済」を掲げ、「責任ある積極財政」で政策を推進する考えを打ち出している。さらに社会保障制度のあり方を検討するため、有識者と超党派の「国民会議」を設置し、給付付き税額控除の制度設計などをめざすことにしている。

一方、保守的な政策を鮮明にしているのも特徴だ。憲法改正や安定的な皇位継承に向けて皇室典範の改正をはじめ、防衛力の抜本的な強化とそのために防衛費のGDP比率2%を2年前倒して実現すること、外国人対策として政府の司令塔機能を強化することなどを打ち出している。

このように経済重視を強調しながら、保守的な政策の推進を図ろうとしているのが高市政権の特徴だ。高市氏が政治の師と仰ぐ安倍元首相の政権運営の手法を踏襲しようとしているものとみられる。

但し、高市政権は、公明党と連立を維持し安定多数を確保していた安倍政権とは異なり、衆参両院とも与党が過半数割れしており、どこまで政策の実現が可能か不透明な情勢だ。

高市政権、難題は連立政権の意思決定

それでは高市政権の運営は順調に推移するのだろうか。高市首相は今月末に一連の外交日程を終えると、いよいよ臨時国会の対応に向き合うことになる。

今の臨時国会は高市政権の連立枠組みづくりの調整が難航したことから、24日に首相の所信表明演説を行っただけで、その後は外交日程に費やされた。各党の代表質問などは11月4日からようやく始まるという異例の日程になっている。

立憲民主党などの野党側は、各党の代表質問と衆参両院の予算委員会で、高市新政権の政治姿勢や、トランプ大統領との日米首脳会談をはじめとする外交・防衛政策、さらには内政の重要課題を取り上げてを追及する構えだ。

自民党の閣僚経験者に臨時国会の見通しを聞くと「先の参院選挙以降、3か月余りも政治空白が続いたのは自民党の混乱によるもので、高市政権もどこまで準備態勢ができているのか、わからない」と不安をのぞかせる。

臨時国会は、物価高対策が最大の課題だが、それ以外でも焦点の政治とカネの問題では、旧派閥の裏金問題での不記載議員を官房副長官や副大臣・政務官に起用したことや、企業・団体献金の受け手を規制する案の扱いが再び問題になる。

また、高市政権と連立を組んだ維新は「連立参加の絶対条件」として「衆院議員の定数1割削減」と、必要な法案を今の臨時国会に提出することで自民党と合意した。この合意事項が実現されない場合、連立離脱もありうると強い姿勢を示している。

これに対し、他の各党は議員定数は民主主義の基本ルールで、一部の政党だけで定数削減を決めるのは認められないとして強く反発している。自民党内からも慎重な対応を求める声が出ており、この扱いは難航が予想される。

こうした難題を抱えているため、この臨時国会がどのような展開になるかは、冒頭の各党代表質問や予算委員会の審議をみてみないと見通せないのが実状だ。

さらに高市政権は衆参両院ともに少数与党という厳しい状況に加えて、連立を組んだ維新との間で、主要な政策をめぐる意見の調整や決定を行う仕組み作りもできていない。

このため、防衛力の抜本的強化など難題を数多く抱えている中で、政権与党全体をとりまとめていく態勢が整っていないのではないかと危惧する声が自民党内からも聞かれる。

具体的には自民党内の意見集約をはじめ、首相官邸と自民党との調整、維新との意見の調整や決定などについて、政府・与党全体に目配りをしつつ政権を運営していく役割を誰が果たすのか、はっきりしていないというわけだ。

今後の政治の行方を占う臨時国会

臨時国会の会期末は12月17日だが、自民党長老に今後の見通しを聞くと「臨時国会の会期は限られており、来年度予算案の編成も控えているので、与野党の本格的な攻防は年明けの通常国会になるだろう。年内は様子見、瀬踏みの段階ではないか」と語る。

臨時国会の注目点としては、論戦などを通じて高市政権の政権運営能力はどの程度なのか。また自民と維新の連立政権の安定度はどうか、さらに当面の物価高対策に区切りがついた後、高市政権は何を連立政権の重要テーマとして設定をするのかが焦点になる。

これに対して野党側は、公明党が26年ぶりに連立から外れて野党に転じたことから、野党間の連携・結集に向けて新たな動きが出てくるのかどうか。また世論の風向きに変化は出てくるのかといった点も含めて、この臨時国会は注目点が多い。(了)

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初の女性首相 高市内閣発足”政権運営は未知数”

衆参両院の本会議で21日行われた首相指名選挙で、自民党の高市早苗総裁が憲政史上初の女性首相に選出された。高市首相は直ちに組閣を行い、21日夜に高市新内閣を発足させた。

新内閣の顔ぶれは、総務相に林芳正前官房長官、外相に茂木敏充元幹事長、防衛相に小泉進次郎前農水相を充てるなど総裁選を争った相手を主要ポストに起用するなど挙党態勢に配慮をみせた。一方、財務相に片山さつき元地方創生相、経済安全保障相に小野田紀美参院議員の女性閣僚2人を起用し、高市カラーを打ち出した。

このように高市首相は、女性や若手、ベテランなどを幅広く人材を起用する一方、新たに日本維新の会と連立を組んで政権運営に当たるが、衆参ともに過半数に達しない少数与党という厳しい政治状況は変わらない。

内外に数多くの難題を抱える中で、高市首相は懸案を処理し安定した政権運営を行うことができるだろうか。内閣の顔ぶれ、主要政策、それに政権基盤を中心に高市政権の課題や問題点を探ってみたい。

閣僚人事、若手・女性など抜擢目立つ

さっそく、高市新内閣の閣僚人事からみていきたい。まず、内閣の要となる内閣官房長官に木原稔・元防衛相が抜擢された。木原氏は、高市氏が自民党政調会長時代に支え、保守的な政治信条が高市氏に近いことから起用されたものとみられる。

総務相には林芳正前官房長官、外相に茂木敏充元幹事長、防衛相に小泉前農水相を起用した。3人はいずれも総裁選挙を争った相手で、挙党態勢づくりに配慮をみせた。

今月7日の自民党役員人事では、副総裁に麻生元首相、幹事長に麻生氏の義理の弟の鈴木前総務会長、総務会長に有村治子参議院議員といずれも麻生派から起用するなど人事が偏重していると批判を浴びたが、閣僚人事では旧派閥のバランスなどをとったことがうかがえる。

また、財務相には片山さつき元地方創生相、経済安全保障相に小野田紀美参議院議員を起用した。2人とも総裁選挙では、高市氏の推薦人を務めた。

一方、旧派閥の裏金問題に関与した議員は閣僚には起用されていない。但し、この後行われる副大臣や政務官でどのような扱いになるかは、まだはっきりしない。

今回の閣僚と党役員の人事を合わせて考えてみると高市政権では、内閣と党全体の政権運営を誰が中心に行うのかが問われるのではないか。石破政権では森山前幹事長が政権運営の中心的な役割を担った。

歴代政権でも官房長官、あるいは幹事長のいずれかが調整や指導力を発揮することが多かった。今回は鈴木幹事長、木原官房長官には荷が重いのではないかとの声を聞く。

高市首相自らがこうした役割を果たすことになるのかどうか。いずれにしても高市政権全体として、政権運営能力は未知数で、こうした面の役割分担が問われることになるのではないか。

主要政策、問われる優先順位と実行力

次に高市政権の主要政策をみてみたい。高市政権は日本維新の会と連立を組むことになり、20日に連立政権の合意書をまとめた。維新が12項目を要求し、政策協議がまとまった後、藤田共同代表が項目ごとに「満額回答を得た」と連発したように自民党側が、維新側の要求をほとんど丸飲みする形になった。

合意内容の中では、憲法改正や皇室典範の改正、スパイ防止法の制定など保守的な政策がずらりと並んでいる。

経済政策では、ガソリン税の暫定税率の廃止や、電気・ガス料金の負担軽減など物価高対策を盛り込んだ補正予算案を秋の臨時国会で成立させることにしている。また、飲食料品について「2年間に限り消費税の対象としないことも視野に法制化の検討を行う」ことも盛り込んでいる。

維新の吉村代表が連立の絶対条件に挙げた「副首都構想は、両党による協議体を設置した上で、来年の通常国会で法案を成立させる」と明記した。社会保険料の引き下げを含む「社会保障改革については両党の協議体を定期開催する」ことになった。

さらに「議員定数の削減」については「衆議院議員の1割を目標に臨時国会に法案を提出し、成立をめざす」との方針を打ち出した。

一方、「企業・団体献金」については「政党の資金調達のあり方について議論する協議体を設置し、再来年の高市総裁の任期中に結論を得る」とした。維新はこれまで献金廃止を強く主張してきたが、大幅に後退する内容になっている。

このように連立政権の政策は幅広い内容を盛り込んでいるが、定数削減については衆議院だけで50議席も削減する内容だ。比例代表で削減する場合、中小政党や新興政党などは大きな影響を受けることから、強い反発が出ることが予想される。議員定数の削減は民主主義の根幹に関わるルールの問題であることから、2党だけで決められる問題ではない。

企業・団体献金については、既に公明党と国民民主党が献金の受け手側を規制する法案を提出するなど国会の議論が進んでいる。高市首相の総裁任期が切れる2年先に結論を先送りするような方針は、国民の理解が得られるかどうか疑問だ。

高市政権の政策をめぐっては、数多くの政策課題の中から何を最優先に取り組むのか、優先順位を明確にする必要がある。また、政策の具体的な内容と実現に向けた道筋について各党との意見調整を丁寧に行う必要がある。

高市政権、政策調整と意思決定がカギ

高市政権は、自民党と維新との連立政権で当面、維新の側は閣僚を出さない閣外協力の形で政権を運営する。日本のこれまでの連立政権は閣僚を出した上で、内閣を共同で運営する形態がほとんどだっただけに、今回の連立は特異な形と言える。

それだけに自民党と維新との政策調整と意思決定が順調に進むかどうかがカギを握っている。意見調整がうまく運ばないと衆参両院とも少数与党だけに政権基盤が揺らぐことになりかねない。

当面、年内は物価高対策が中心になり、政権与党内の意見調整は進むとみられるが、問題は来年度予算案の編成や中長期の課題をめぐっては、与党内の調整や意思決定は難航が予想される。

高市首相は21日夜、首相就任後初めての記者会見を行い「国家・国民のため、全力で変化を恐れず、果敢に働いていく。強い日本をつくるため、絶対にあきらめないと決意している」と決意を表明した。

そのうえで、「維新の会との合意に基づいて政策実現に取り組んでいく。政治の安定のために全ての野党に協力を呼びかけるとともに、政策提言を前向きに受け入れるなど最大限の柔軟性を発揮していく準備がある」とのべ、野党の提案も柔軟に受け入れていく考えを示した。

夏の参院選挙で自民・公明両党が大敗してから3か月。石破政権の後継選びをめぐる長い政治空白にようやく一区切りがついたが、高市政権が内外の懸案の打開に向けて前進することができるかどうかは、政権全体を動かす力を発揮できるかどうかにかかっているのではないか。国民世論の受け止め方と、今後の政権運営を注視したい。(了)

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“自公連立崩壊”の見方・読み方

自公連立政権から公明党が離脱し、26年に及ぶ両党の協力関係が崩れた。公明党の斉藤代表は10日、自民党の高市総裁と会談し「公明党が最も重視している政治とカネの問題をめぐる自民党の対応が不十分だ」として、連立政権を離脱する方針を伝えた。

公明党は、石破首相の後継を選ぶ首相指名選挙では高市氏には投票しない考えで、選挙協力も白紙に戻す方針だ。

これに対し、自民党は14日に両院議員総会を開き、高市総裁らが経緯を説明し、今後の対応についても意見を交わすことにしている。高市総裁ら党執行部は、首相指名選挙などで維新や国民民主党の協力を求めるものとみられる。

一方、立憲民主党は「首相指名選挙で野党側がまとまれば、政権交代の可能性も出てくる」として、維新や国民民主党に候補者の一本化に向けて党首会談を呼びかけている。14日には3党の幹事長会談が行われる見通しだ。

このように首相選びをめぐって与野党の駆け引きが活発になっているが、その前に今回の自公連立崩壊の意味や、今後の政権のあり方などを掘り下げて議論し、確認していく必要があるのではないか。そうした基本姿勢がないと政治の混迷から脱却できないのではないかと危惧している。

首相選び比較第1党か、野党連携か

まず、当面の焦点である石破首相の後継を選ぶ臨時国会の召集と首相指名選挙からみておきたい。10月4日に高市氏が自民党の新総裁に選出されたが、首相指名選挙を行う臨時国会の召集日程は未だに決まっていない。

外交日程は、26日からASEAN=東南アジア諸国連合の首脳会議や、27日にはトランプ米大統領の訪日が予定されている。政府・自民党は、20日の週の早い時期に臨時国会を召集したいとして調整を続けている。

ところが、公明党の連立離脱で、首相選びの情勢が見通せない状況になっている。自公連立政権では衆参両院とも自公で過半数を割り込んでいるものの、衆議院では220人を上回る勢力を維持していた。

ところが、公明党の離脱で衆議院では、自民党の勢力は196(衆院議長除く)まで縮小した。これに対し、立憲民主党は147、日本維新の会は35、国民民主党は27の勢力だ。野党3党がまとまれば209で、上位2人による決選投票に持ち込まれた場合、自民党を上回ることもあり得ることになる。

立憲民主党は「政権交代のチャンスだ」として、野党候補を1本化するよう働きかけている。そして野党統一候補として、国民民主党の玉木代表を推すこともありうるとして攻勢を強める構えだ。

これに対し、維新と国民民主党は、憲法や原発・エネルギーなどの基本政策が一致していないとして、今のところ慎重な姿勢を崩していない。

首相指名選挙では与野党のさまざまな組み合わせが想定され、誰が選出されるのかはっきりしない。今の時点で与野党の対応を基に判断すると、衆参ともに勢力が最も多い比較第1党は自民党なので、高市総裁が選出される可能性が高いとみられる。

但し、野党が結束すれば自民党を上回るので、野党候補が首相に選出されることもありうる。93年に8党派による細川連立政権が誕生したように、野党各党が歩み寄ることがあるのかどうか、みていく必要がある。

 連立崩壊で単独政権、極めて異例

それでは、これからの政治はどのように展開するだろうか。首相指名選挙の行方は先ほどみたように流動的だが、比較第1党の会派から選出される確率は高いので、高市総裁が選出された場合を想定して考えてみたい。

高市総裁の場合には、女性で初めての首相就任になるので、国民からの期待や支持がかなり高まることが予想される。但し、首相の評価は、実績や政権の安定、国民の信頼が得られるかどうかがカギを握る。

高市氏自身の評価はこれからであり、今の時点では過去の連立政権をめぐる動きが判断材料として参考になる。仮に高市氏が首相指名を受けた場合、国民民主や維新が直ちに政権に参加する確率は低いとみられ、自民党の単独政権としてスタートする公算が大きい。

自民単独政権の先例はどうだっただろうか。直ぐに頭に浮かぶのは93年に政治改革をめぐって自民党が分裂し、衆院選を経て宮沢政権が退陣、非自民・非共産の8党派からなる細川連立政権の誕生だ。この時まで自民1党優位体制が続き、自民党の単独政権が長期にわたって続いた。

この細川政権以降、日本政治は「連立の時代」に入り、自民党は社会党やさきがけと連立を組むことで政権を奪還し、その後も連立相手を変えながら政権を維持してきた歴史がある。

こうした中で、自民党が単独政権となったのは橋本龍太郎政権の時だ。当初、自社さ3党連立政権の枠組みでスタートしたが、96年の衆院選挙後、社民党とさきがけが閣外協力に転じ、自民単独政権に変わった。当時、自民党は最大野党の新進党に勝利したものの、過半数を割り込み少数単独政権としての再出発だった。

その後、自民党は新進党からの離党者を”一本釣り”して復党させ、衆院の過半数を回復した。この復帰組の中に今の石破首相、高市総裁も含まれていた。社民、さきがけの閣外協力は96年6月に解消されたので、橋本政権ではそれ以降、98年の退陣までの1年2か月、自民単独政権が続いたことになる。

その橋本首相は98年7月の参院選で大敗して退陣し、小渕恵三首相が後継首相を務めた。衆院は過半数を確保していたが、参議院は過半数割れし、衆参ねじれ国会に苦しんだ。

当時は金融危機が続いており、日本長期信用銀行も破綻に追い込まれた。金融再生関連法案を早期に成立させる必要があり、野党案を丸飲みして、成立にこぎ着けた。

また当時、防衛庁の背任事件をめぐり、参院で額賀防衛庁長官(今の衆院議長)に対する問責決議案が野党側から提出されて可決され、額賀長官が辞任に追い込まれた。問責決議案で閣僚が辞任に追い込まれた最初のケースだった。

こうした政権の不安定さから脱却するために小渕首相は、当時の自由党の小沢代表と会談し、連立政権を発足させることで合意した。その影の立役者が野中官房長官で、安定政権のためには「ひれ伏してでも連立をお願いする」ととして小沢氏の連立参加を取りつけたのは有名だ。

この自自連立を契機に自自公連立、自由党が外れて自公連立へとつながった。つまり、自民単独政権は橋本政権後半の1年2か月と、小渕政権発足から自自連立まで5か月の合わせて1年7か月に過ぎない。細川連立政権以降30年のうち、自民単独政権は極めて限られたケースであることがわかる。

ここまで長々と説明したのは、連立政権の背景には先人達の心血を注ぐような努力の積み重ねがあることを知ってもらうためだ。

逆に言えば、今回自公連立が崩壊に追い込まれた背景には、自民党の対応にさまざまな問題があったのではないか。端的に言えば、連立に必要な「信頼感」を持続させていくことができなかったと言えるだろう。

具体的には、公明党は衆院選、都議選、参院選と連敗を喫し、最も強く求めたのが「政治とカネの問題」だったが、自民党からは踏み込んだ対応ができなかった。余りにも鈍感すぎる対応とみることもできる。

また、自民党内には「公明党は、連立からは外れない」との思い込みが常態化していたと感じる。さらに、高市氏が新総裁に選出された直後に国民民主党の玉木代表と極秘会談を行ったとの情報が流れ、公明党側の不信をさらに強めることになった。

連立崩壊、中心軸なき混迷政局続くか

最後に自公連立崩壊後の政治はどう動くのだろうか。まず首相指名選挙では、与野党の誰が指名されることになるのか混沌とした状態が続いている。

ただ、四半世紀続いてきた自公連立政権が崩壊したことで「政治の中心軸がなくなった状態」と言っていいのではないか。衆院(総定数465)で考えてみるとこれまでは自公で220人、過半数を下回るものの、一定の規模・中心軸があった。

ところが、公明党が外れ、今や自民党の勢力は196人にまで縮小した。主導権を発揮できる集団がなくなり、政治の混迷は避けられない情勢だ。

当面は、衆参ともに比較第1党の自民党がどのように対応するかがカギを握る。仮に高市総裁が首相に選ばれた場合、高市氏自身が大局的な立場で、安定した政権運営を行えるかどうか。そのためには、内閣の要である官房長官にかつてのような実力と経験を持った人材を起用できるかどうかが大きなポイントになる。

一方、野党側も野党第1党の立憲民主党が150人近い議員を有しており、どこまで他の野党を説得できるかが問われる。維新、国民民主も野党の立場で政権交代をめざすのか、それとも自民党との連携し政策実現の道を歩むのか態度を明確にすることが迫られるだろう。

こうした自民、野党、そして公明党の各党の動きが続く中で、政権をめざす政党や議員の離合集散、政界の再編成が始まることになるのではないか。これから新たな政治の動きがいつ、どのような形で起きるのかが焦点になる。

▲追記(14日22時)◆政府は臨時国会を21日に召集する方針を固め、15日に衆参両院の議院運営委員会で与野党に伝える。召集日に首相指名選挙が行われる見通し。◆自民党両院議員懇談会が14日開かれ、高市総裁は公明党の連立離脱の経緯を説明し「私の責任であり、おわびしたい」と陳謝した。そのうえで、「首相指名のギリギリまで努力していく」と表明した。◆立憲民主党と日本維新の会、それに国民民主党の3党は15日に党首会談を開き、首相指名選挙をめぐり意見を交わすことになった。14日に開いた3党の幹事長会談で決まった。

▲追記(15日23時)◆自民党の高市総裁は15日、日本維新の会の吉村代表と会談した。高市総裁は、首相指名選挙と連立政権入りを含めて協力を要請し、両党は16日から政策協議を始めることで一致した。会談後、吉村代表は政策協議がまとまれば、首相指名選挙で高市氏に投票する考えを明らかにした。◆首相指名選挙をめぐり立憲民主党、日本維新の会、国民民主党3党の党首会談が15日に行われた。安全保障政策などについて、さらに議論が必要だとして、幹事長レベルなどで協議を続けることになった。20日に再度、党首会談を開く。

▲追記(16日21時30分)◆自民党と日本維新の会は16日、連立政権発足も視野に入れた政策協議の初会合を開いた。維新が提示した12項目の政策要求について協議した。17日も協議を続ける。維新の藤田共同代表は、16日の協議で高市氏から「閣僚も入る連立入りをお願いする」と要請があったことを明らかにした。

▲追記(17日23時)◆自民党と日本維新の会の2回目の政策協議が17日に行われ、21日の臨時国会召集までの合意をめざして協議を続けることになった。両党は「協議は大きく前進した」としており、維新は首相指名選挙で高市氏に投票、選出される公算が大きくなった。連立の枠組みは、まだ定まっていない。

▲追記(19日21時)◆日本維新の会は19日、大阪市の党本部で常任役員会を開き、自民党との連立政権に向けた政策協議をめぐる対応について、吉村代表と藤田共同代表に一任することを決めた。維新は20日に役員会と両院議員総会を開き、最終的な方針を決定する。協議がまとまれば、吉村代表が自民党の高市総裁と会談し、合意文書に署名する見通し。

▲追記(20日20時)◆自民党の高市総裁と日本維新の会の吉村代表は20日午後6時過ぎから国会内で党首会談を行い、連立政権を樹立することで正式に合意し、両党首が文書に署名した。維新は21日の首相指名選挙で、高市氏に投票することから、高市氏の首相就任が確実になった。(了)

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自民新総裁に高市氏 ”前途多難の出立”

石破首相の後継を選ぶ自民党総裁選挙は4日投開票が行われ、1回目の投票では決着がつかず、決選投票に持ち込まれた。決選投票では、高市早苗・前経済安全保障相が小泉農水相を抑えて新しい総裁に選出された。自民党総裁に女性が就任するのは初めてだ。

新しい首相を選ぶ臨時国会は、15日召集を軸に調整が進められている。首相指名選挙で野党側は候補者の一本化が難しいことから、高市氏が新しい首相に指名される見通しだ。女性の首相就任は憲政史上、初めてになる。

ただ、自民党は衆参両院で過半数を割り込んでいることに加えて、内政・外交ともに数多くの難問を抱えており、高市氏は政権発足当初から厳しい政権運営を迫られる見通しだ。

今回の総裁選で、高市氏が新総裁の座をつかんだのはどのような事情・背景があったのか。また、高市新総裁はどのような政権運営が問われることになるのか、この2点について探ってみたい。

党員票最多で大差、高市氏勝利の原動力

今回の総裁選挙については「小泉、高市両氏が先行し、最後は決選投票で小泉氏が勝つのではないか」と個人としては予想していたが、結果は逆になった。今回の予測では、どの部分の見通しが間違ったのか、この点から点検してみたい。。

まず、第1回投票の結果をみておくと党員票では、高市氏がトップで119票(党員票全体の40%)、2位が小泉氏84票(28%)、3位が林氏62票(21%)などと続いた。党員票では高市氏が上回ると予想していたので、順位に驚きはなかったが、その差が35票も広がるとはみていなかった。

次に国会議員票では小泉氏が80票でトップに立ち、2位が林氏72票、高市氏は3位で64票だった。高市氏は3位となったものの、トップとは16票差に止め、善戦健闘したということになる。逆に、小泉氏は議員票は予想したほど伸びず、党員票で開いた差を埋めることはできなかった。

1回目の投票で過半数を獲得した候補がいなかったため、上位2人による決選投票となり、高市氏が185票、小泉氏は156票で、高市氏の当選が決まった。

決選投票で高市氏には、麻生派と旧茂木派、それに小林氏を支持した議員の票が回り、議員票と都道府県連票を合わせて高市氏が、小泉氏を大きく上回った。

麻生派を率いる麻生最高顧問は「決選投票では、党員票が最も多かった候補を支援する」として、高市氏への投票を指示したとされる。自民党関係者に聞くと「麻生氏の指示がどこまで徹底したのかわからないが、迷っていた議員を中心に一定の効果をもたらしのは事実だろう」との見方をしている。

このようにみてくると今回の総裁選では、高市氏の勝利は党員票の大量得票が原動力になり、国会議員票にも影響を及ぼした。一方、小泉氏については党員票、議員票ともに伸びがなかったこと。この2点が今回の総裁選を決定づけるとともに、個人的な予測が外れた原因にもなったと考えている。

メデイアは党員調査のあり方の再検討を

自民党総裁選挙をめぐっては、新聞・テレビなどのメデイア各社も選挙情勢を予測したが、全国91万人の党員・党友の投票行動については、組織力のあるメデイアの調査に頼らざるをえない。

そのメデイアの調査だが、党員票については、高市氏と小泉氏のどちらが優勢なのか調査結果も分かれた。この原因は「自民党員」を対象にした調査か、「自民支持層」を対象にした調査かによる違いが大きいのではないかと考える。

「自民党員」を対象にした調査の方が、より正確であることは間違いないが、自民党員のデータをどこから入手するかなど難しい問題があるのも事実だ。筆者が現役時代は、党員名簿を基に調査した時期もあった。正確なデータを得るためには、どのような調査方法が望ましいのか再検討してもらいたい。

総裁選が終わった後、知人の自民党員に誰に投票し、選挙結果をどのように受け止めているのかを聞いてみた。今回は高市氏に投票したという知人は「高市さんは去年総裁選で敗れた後、地方回りを続けてきたことを党員の多くが知っている。そうした努力を評価した党員も多かったのではないか。小泉さんはまだ若いし、経験や見識などをさらに積む必要があると考えた」と語る。

選挙取材の基本は、調査などとは別に選挙権を持つ有権者の声を直接聞き、情勢を分析・判断することにある。限られた党員による選挙という難しさもあるが、選挙の実態にどのように迫るか、メデイアとしての取り組み方を検討し、実践していく必要がある。

 高市新総裁、問われる実績と信頼感

高市新総裁は今週前半に党の役員人事を行いたい考えで、5日の日曜日は新内閣の閣僚人事もみすえ、人事の検討を進めた。

高市氏は「全員活躍、全世代総力結集でみんなで力を合わせて取り組んでいく自民党にしたい」として、総裁選に立候補した他の4人全員を内閣や党役員に起用したいとの考えを示している。また、不記載問題に関与した議員も起用したいとの考えも明らかにしている。

こうした中で麻生最高顧問が率いる麻生派から、所属する鈴木総務会長を要職に起用するのではないかとの観測も出ている。党の主要幹部の顔ぶれがどのようになるのか、当面の焦点だ。

一方、与党・公明党の斎藤代表は4日、高市総裁と会談した中で「連立政権の継続には、公明党が抱く懸念を解消する必要がある」と伝えた。具体的には、高市氏の歴史認識や、靖国神社への参拝の考え方、外国人との共生の問題などが念頭にあるものとみられ、両党の執行部で改めて協議することになった。

高市新総裁は、政権の枠組みの拡大にも意欲を示しており、日本維新の会や、国民民主党との間で、連携のあり方について協議を行うものとみられる。

高市新総裁は64歳、当選10回のベテランで、総務相や経済安全保障相などを務めたほか、党では政務調査会長などを歴任している。安倍元首相に近く、保守的な政治信条の持ち主としても知られている。

高市総裁は新しい首相に指名されると直ちに組閣にとりかかり、新政権が発足する。新政権を国民がどのように評価するか、世論の支持率が注目される。また、10月末にはトランプ大統領の来日も予定されており、外交・安全保障への対応も待ったなしだ。内外ともに難問は山積状態にある。

自民党の長老は「高市新総裁は政治経験は豊富だが、国民の中には保守的な政治信条などを危ぶんでいる人もいる。まずは、向こう1年、実績を上げられるか。そして国民から信頼を得られるかどうかが試される。踏み外すと、短命に終わるおそれもありうる」と指摘する。

少数与党という厳しい政治環境の中で、高市総裁はどのようなかじ取りをしていくのか、まずは、最初の関門である自民党役員人事の顔ぶれを注目してみていきたい。(了)

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”小泉・高市両氏先行、林氏追う展開”自民総裁選

石破首相の後任を選ぶ自民党総裁選は10月4日の投開票に向けて、5人の候補者が最終盤の戦いを繰り広げている。選挙情勢は、小泉農水相と高市元経済安全保障相が先行し、林官房長官が追う展開になっている。

総裁選挙は全国91万人の党員・党友による投票の295票と、自民党所属の国会議員の295票の合わせて590票で争われるが、第1回投票では過半数を得る候補者がおらず、上位2人による決選投票になる見通しだ。

最終盤の選挙情勢はどのようになっているのか、党員・党友による投票と国会議員票のゆくえを分析してみたい。

党員票 小泉・高市両氏が上位で競う展開

まず、党員・党友による選挙は各都道府県連ごとに郵便投票で行われ、10月3日に締め切られた後、翌4日の国会議員の投開票に合わせて党本部に報告され、国会議員票と合わせて公表される。

その党員・党友による選挙情勢だが、これまではメデイアが党員名簿を基にした世論調査を行い、選挙情勢を把握していたが、最近はほとんど行われていない。代わって、世論調査で得られた自民支持層を基に分析する社が多くなっている。

共同通信が9月27、28両日に自民支持層を対象に実施した世論調査によると新総裁にふさわしい候補としては、◇高市氏が最多の34.4%で、◇小泉氏29.3%、◇林氏19.5%と続いた。◇4位は茂木氏5.2%、◇5位は小林氏3.8%だった。

読売新聞が9月27、28両日、自民支持層を対象にした調査では、◇小泉氏が40%で最も多く、◇高市氏が25%、◇林氏が16%と続いた。◇小林氏は5%、◇茂木氏は4%だった。

読売新聞の調査は、コンピューターで無作為に作成した固定電話と携帯電話の番号に対し、自動音声による調査で実施している。9195人が回答し、自民党支持層3143人の回答を集計、分析したとされる。共同通信の調査方法は説明されていない。

読売と共同の調査では、それぞれ1位と2位が小泉氏と高市氏とで異なるが、これは自民党の党員・党友の規模が91万人と少ないことから、調査対象の選び方によって、得られるデータに違いが生じたものとみられる。どちらが実態に近いかは、今の時点でははっきりしない。

こうした違いはあるが、小泉氏と高市氏はいずれも上位に位置しているほか、3位の林氏との差が10ポイント程度とかなり開きがある点も共通している。したがって、順位は別にして小泉、高市両氏が上位で先行していると見て良さそうだ。

自民党の関係者に聞いても「今回、立候補した5人は前回も挑戦しており、党員・党友の得票傾向が推測できる。今回も党内では、小泉氏と高市氏は優勢で、林氏は上位2人に迫るのは難しいとの見方」とも一致する。

但し、小泉氏については、陣営内で動画配信サイトに小泉氏に好意的なコメントを投稿するようメールで要請が行われていたことが明らかになり、小泉氏が26日陳謝した。いわゆる”ステマ行為”が選挙の世界でも現実に起こりうることを示した形で、この問題がどの程度、影響があるか注意深く見ていく必要がある。

議員投票 小泉氏、林氏、追う高市氏

次に、国会議員票の状況はどのようになっているだろうか。自民党議員の情報を基に判断すると、国会議員の295票のうち、小泉氏は、党内から幅広く支持を得ており、既に70票程度は固めたとみられる。そして、さらに上積みする勢いがある。

◇高市氏は、旧安倍派や無派閥の一部の支持を中心に40票程度は固めているとみられる。前回は小泉氏に次ぐ2番目に多い議員票を集めたが、今回は前回のような伸びがみられない。

◇林氏については、旧岸田派や無派閥、かつて所属していた参議院議員を中心に50票程度を固めており、高市氏を上回る勢いがある。◇小林氏と茂木氏については、それぞれ30票程度、固めているとみられる。

このように議員票は小泉氏が先行し、続いて林氏、さらに高市氏が追う展開になっている。

小泉・高市両氏先行、決選投票の展開か

以上のような党員票と国会議員票を合わせると最終盤の選挙情勢はどのようになっていくのだろうか。

小泉氏については、党員票で高市氏と上位を競り合っている一方で、議員票で強みを発揮している。党内からは経験不足などの声が聞かれるが、今回は改革色を抑え、安定感を印象づける戦略をとっている。党員票が最後まで確保できるかがカギを握っている。

高市氏は、高い知名度と発信力で党員票で小泉氏と並んでトップ争いをしているが、今回は議員票で勢いが見られない。高市氏の強い保守的な主張が、公明党との関係や、外交・安全保障面に影響することを警戒しているためではないかとのの見方がある。いずれにしても議員票の獲得が大きな課題になっている。

林氏は、主要閣僚を数多くこなしていることもあってか、議員票を着実に伸ばしている。反面、党員票では小泉、高市両氏に大きな差をつけられている。上位2人のいずれかが失速した場合、2位に浮上する可能性がある。今後、党員票の差を埋めるだけの議員票を上積みできるかどうかがポイントになる。

このようにみると今の時点では「小泉、高市両氏が先行、第1回投票ではどちらも過半数に達しないので、決選投票に持ち込まれる公算が大きい」とみられる。

先行する2人のどちらかが失速したりした場合、追う林氏が2位以内に浮上する可能性もあるという構図になっている。

なお、国会議員については、2割程度が態度を明らかにしていないほか、党員投票についても不確定な要素も残っているので、選挙情勢が変わる可能性があることを申し添えておきたい。

今回の自民党総裁選挙については、2つの視点で見ていく必要がある。1つは、誰が最終的に勝ち抜くのかという点で、これは当然だ。2つ目は、国民政党を標榜してきた自民党が、国民の信頼の回復させることができるかどうかという点だ。

自民党は結党以来、初めて衆参両院で過半数割れしており、仮に新総裁が野党の一部の協力を得て首相に就任できたとしても、これまでのように政権運営の主導権を確保する保証はない。

こうした状況の中で今回の総裁選挙に立候補した5人の候補者の主張は、当面の物価高対策や、野党の連携をいかに取りつけるかが中心で、国民を引きつけるような議論に至っていないのが実状だ。

国民は物価高対策を求めている一方で、中長期の課題の取り組みも求めている。長期停滞が続く日本経済を再生する具体策をはじめ、超少子高齢化が進行する中で社会保障制度は維持できるのか、防衛力の整備と必要な財源をどのように確保するのかといった基本問題に「解」を示す必要があるのではないか。

10月4日に新しい総裁が決まると同時に、政権政党としての自民党が国民の信頼感や期待感を取り戻す手掛かりを得られたのかどうか、この点が最も問われている核心部分にみえる。(了)

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“小泉・高市両氏先行、波乱はあるか”自民総裁選

石破首相の後任を選ぶ自民党総裁選挙は22日告示され、10月4日の投開票に向けて選挙戦が繰り広げられる。22日午前自民党本部で立候補の受け付けが行われ、茂木前幹事長(69)、小林元経済安全保障相(50)、林官房長官(64)、高市元経済安全保障相(64)、小泉農水相(44)の5人の戦いになる見通しだ。

総裁選の主な日程は◇22日午後に各候補の所見発表演説会が行われた後、◇23日に共同記者会見、◇24日に日本記者クラブ主催の候補者討論などのほか、◇東京、名古屋、大阪の3か所で地方演説会が行われる。◇党員・党友の投票は10月3日に締め切られた後、◇4日に国会議員の投票結果と合わせて開票される。

石破首相の退陣表明から既に2週間が経過し、ようやく選挙戦が始まるが、選挙情勢はどのようになっているのか。また、今回の選挙では何が問われているのか、探ってみたい。

選挙情勢、高市・小泉両氏先行の展開か

さっそく、選挙情勢から見ていきたい。メデイアの報道では世論調査を基にさまざまな見方が示されている。共同通信の世論調査(9月11、12両日)によると「次の総裁にふさわしい人」として、高市氏28.0%、小泉氏22.5%、林氏11.4%、茂木氏6.1%、小林氏3.6%などと報じられている。

読売新聞の世論調査(9月13、14両日)では、高市氏が29%がトップで、小泉氏25%、茂木氏7%、林氏6%、小林氏3%。自民党支持層に限ると小泉氏が33%とトップで、続いて高市氏28%、林氏8%、茂木氏6%、小林氏5%と続く。

こうした世論調査は全国の国民が対象で、自民党員(今回は91万人)とは異なるので、当然のことながら自民党員の投票予測とはならない。正確な調査となると党員対象の調査が必要で、今後メデイアの中で党員調査が実施されれば有力な判断材料になる。

党員調査のデータがないので、自民党の議員や関係者の取材にならざるをえないが、国会議員の動向についても麻生派を除いて派閥が解散されているので、従来のような派閥を通じた情勢把握は困難だ。さまざまな選挙結果の見方が飛び交っているが、選挙の予測は何が根拠になっているかの見極めが重要だ。

選挙情勢は自民党議員や党員の話を集めて判断するのが基本になる。ここまでの情報を総合すると「小泉氏と高市氏の2人が先行、これをベテランの林氏と茂木氏、中堅の小林氏が追う展開」との見方が有力だ。

小泉氏と高市氏を上位に予測するのは、第1回投票では党員票の比重が大きいため、人気の高い両氏が優位に立つとみるからだ。また、議員票については各候補とも去年の総裁選に立候補しており、ある程度の予測が可能だからだ。

但し、去年の総裁選では当初、「党員投票では上位間違いなし」とみられた小泉氏がふたを開けると3位に沈んだ。高市氏も党員投票ではトップに立ったが、議員票では小泉氏を下回り、決選投票では石破氏の逆転を許す結果になった。

今回も第1回投票で過半数を得た候補がおらず、決選投票になった場合、2位までに入るのが重要なポイントになる。「小泉氏と高市氏」との見方と、「ベテランの林氏が2位に食い込み、勝者が変わる波乱も起きうる」との見方をする党関係者もいる。

選挙情勢については、態度を決めていないという議員や党員もおり、流動的な要素が残っている。波乱が起きるケースとしては、候補者同士の討論やテレビ出演などでの失言をはじめ、個別の政策をめぐって失速することもある。このため、まずは各候補の主張や論戦の模様を注意深く見ていく必要がある。

 中長期の目標・進路を示せるか

今回の総裁選挙の特徴は「自民党が結党以来初めて衆参両院ともに過半数割れ」という危機的状況の中で行われる点にある。ここで国民の信頼を失えば、政権政党の座から転落する可能性があり、再生の道を見いだせるかが問われている。

立候補を表明した5人は既に記者会見で、自ら訴える主要政策を明らかにしている。主な内容を見てみると◇茂木前幹事長「地方自治体が自由に使える数兆円規模の交付金」、◇小林元経済安保相「期限や所得制限を設けた定率減税」。

◇林官房長官「1%程度の実質賃金上昇の定着」、◇高市元経済安保相「大胆な危機管理投資と成長投資」、◇小泉農水相「2030年までに平均賃金100万円増」などを打ち出した。

各候補とも当面の物価高対策や、国民受けのする分配政策が中心だ。当面の物価高対策は必要だが、同時に国民の多くは、内外情勢が激動する中で、将来社会の姿や目標を明確に打ち出すことを期待しているのではないか。

そうした観点からすると各候補の政策は目先の対応が目立ち、中長期の展望に基づいた政策は極めて乏しい。これから始まる候補者間の議論では、次のような点を明らかにしてもらいたい。

第1は「将来社会の目標と構想」で、何を最優先に取り組むのか。超少子高齢化時代への対応をはじめ、厳しい財政状況の中で、社会保障制度をどのように維持していくのか。

第2は経済政策について、分配に必要な「経済成長はどのような方法で、いつまでを目標に実現をめざすのか」を明らかにしてもらいたい。2000年以降、これまで日本の実質経済成長率は0.7%で、1%にも達していない。

第3は、「外交・安全保障の進路」をどのように考えているのか。「防衛力整備」について、重点を置く分野と必要な財源をどのよう考えているのか。また、トランプ大統領との間で「日米関係」をどのように運営していくのか、外交・安全保障戦略を語ってもらいたい。

第4は「政治とカネの問題」だ。衆院に続いて参院でも大敗した背景には、旧派閥の裏金問題が底流にあるとの指摘は多い。「解党的出直し」を掲げるが、「政治とカネの問題」に決着をつける覚悟はあるのかどうか。

このほか、「野党との連携」も問題になるが、衆参両院で自民党は過半数を割り込んでおり、主導権は野党の方にある。自民党は、まずは自らの基本方針と政策を明確にし、国民の信頼と共感を得られるかが問われていると考える。

今回の自民党総裁選挙は、新総裁に誰が選出されるのかいう点と、長期政権を担ってきた自民党が再生の手掛かりをつかむのか、それとも政権から遠ざかることになるのかが焦点だ。自民党はどこに向かうのか、総裁選での議論のゆくえを注視したい。(了)

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自民総裁選の見方・読み方  ”政権与党 危機のゆくえ”

石破首相の後任を選ぶ自民党の総裁選挙は、党員投票も含めた「フルスペック方式」で、「9月22日告示、10月4日投開票」の日程で行われることが決まった。

茂木敏充・前幹事長が10日に立候補することを正式に表明したのに続いて、11日には小林鷹之・元経済安全保障担当相が立候補意向を明らかにした。林芳正官房長官や、高市早苗・前経済安全保障担当相も立候補の意向を固めており、小泉進次郎・農水相も立候補するとみられる。いずれも去年の総裁選に立候補した顔ぶれだ。

自民党の総裁選挙はその時々の政治状況などを反映して、選挙の仕組みもたびたび変わった。私自身の経験を振り返っても総裁選を最初に取材したのは、駆け出しの政治記者時代の昭和53年・1978年だった。当時の福田赳夫首相に対し、大平正芳幹事長らが挑戦した。

当時はロッキード事件で田中角栄元首相が逮捕され、党改革の一環として今の党員投票につながる「党員参加の予備選挙」が初めて実施された。田中派の支援を受けた大平氏が勝利を治めたが、その田中派の選挙を指揮した後藤田正晴氏(後に中曽根内閣で官房長官などを歴任)を取材し、激烈な戦いの一端を知ることができた。

話を戻して、このように連綿と続いてきた総裁選だが、これまでと決定的に異なるのは、有権者の支持離れが進み、衆参ともに過半数割れに転落した中で行われるという点だ。一言でいえば「党の存亡がかかった総裁選」ということになる。

国民としては、誰が勝つのかに当然関心はあるが、同時に長期に政権を担ってきた自民党はどこに向かうのか、日本の政治は安定するのかどうかという点だろう。そこで、今回の総裁選はどこを注目してみていくとわかりやすいのか、総裁選の見方・読み方を探ってみたい。

揺らぐ「国民政党」、基本政策は明確か

石破政権と自民党は去年の衆院選挙に続いて、今年夏の参院選挙でも大敗を喫し、衆院に続いて参院でも与党過半数割れに追い込まれた。こうした選挙結果を受けて行われる今回の総裁選挙では、党勢の回復につながる取り組みができるかどうかが焦点になる。

自民党がまとめた参院選の総括の報告書では敗因として「物価高対策が国民に刺さらず、自民党らしい争点設定が出来なかったこと」や、「政治とカネを巡る不祥事で信頼を喪失した」ことを挙げた。

加えて「長年わが党を支えてきた保守層の一部にも流失が生じたこと」や「自民党は左傾化しているなどの疑念も一部世論に生まれ、他党へ流失することになった」と分析している。そのうえで「解党的出直し」に取り組み、「真の国民政党」に生まれ変わると強調している。

この「解党的出直し」をめぐって総裁選では、具体的な取り組み方が論点になる。候補者の中からは「石破政権の政策はリベラル色が強すぎた」などとして、選択的夫婦別姓や外国人の不動産取得問題などで保守的な路線を強める意見が出されることが予想される。

一方、候補者の中には「自民党は保守層を中心に、無党派層など幅広い層の支持獲得をめざしてきており、これまでの路線を変えるべきではない」といった主張が出されることが予想され、党の路線をめぐる議論が注目される。

こうした党の路線に関連して、参政党が「日本人ファースト」、国民民主党が「手取りを増やす夏」などの分かりやすいキャッチフレーズで有権者を引きつけたのに対し、自民党は何をめざすのか明確でなく、発信力が極めて弱かったとする指摘が党内からも出されている。

また、国民からは「バブル崩壊後、賃金は横ばいのままで自民党の経済政策は失敗したのではないか」、「これからの経済・財政政策の内容や、将来社会のビジョンや構想も明らかでない」といった声が聞かれ、こうした声にどのように応えるのか。

さらに、トランプ政権への対応をはじめ、中国、韓国などとの近隣外交、今後の防衛力整備の進めなどについても、各候補がどこまで踏み込んだ見解を示すことができるかも問われている。

 連立政権の枠組み、野党との連携は

衆参両院ともに過半数割れに追い込まれた自民党は、予算案や法案を国会に提出しても野党側の協力が得られなければ、一本も成立させることはできない。このため、こうした過半数割れの状況をどのように打開するのかが焦点になる。

これまで石破政権がとってきたように政策ごとに野党と連携する「部分連合」の方法を続けるのか。それとも、今の自公連立政権の枠組みに野党の協力を求め、枠組みの拡大を図るという方法もある。

こうした方法のどちらを選択するのか。また枠組みを拡大する場合、維新や国民民主、立憲民主のどの党と連携するのか、実現可能性はどの程度あるのかも議論になる見通しだ。

政治とカネ、党の体質改善はできるか

総裁選の注目点として国民の多くは、自民党の宿痾として「政治とカネの問題」にどこまで本気で取り組むのかを見極めようとしているようにみえる。

党の参院選総括の報告書でも「不記載の慣行がなぜ再開されたのかなど、この問題は国民の信頼を損なう大きな要因になり続けている」「この問題が引き続き自民党に対する不信の底流となっていることを厳しく自覚し、猛省をしなければならない」と指摘している。

このように「不信の底流」と認識しているのだが、「政治とカネの問題」に踏み込んだ対応策は示されていない。総裁選に立候補するリーダーは、党の体質改善を含めて、どのような具体策を打ち出すのかが注目している。この1点は明確にしないと「解党的出直し」も国民から信用されないだろう。

リーダーの条件 ”側近・同志はいるか”

最後に総裁選の候補者をどのように評価するか。投票権を持つのはおよそ100万人の党員などに限られ、私たち大多数の国民には投票権はないのだが、首相に就任すれば、直接関係することになる。

政党や国のリーダーの評価をめぐっては本人の見識、主要政策、実行力の有無などが判断基準になるが、”側近や同志”と言える人がいるかどうかは、特に首相の条件としては大きな比重を占めると感じる。

例えば、冒頭に触れた田中角栄元首相には二階堂官房長官、竹下登首相には金丸幹事長や”7奉行”と呼ばれた議員、小泉純一郎首相には飯島秘書官、安倍首相には今井尚秘書官といったように側近や同志がいた。

こうした一心同体とも言える側近や、政権を支える同志がいるかどうかは政権の安定性に関わってくる。安倍元首相が持病の悪化で退陣したのが2020年夏だったが、それから5年が経過し今度で早くも5人目の総理・総裁選びになる。

今回、総裁選候補として名前が挙がっている5人に、こうした側近、同士がいるかどうかも大きなポイントだ。側近・同志といったレベルでなくても、にわか仕立てではない有能な人材を結集できているかどうかも見ていく必要がある。

ここまでみてきたように自民党は今、政権政党として存続できるのかどうか危機的状況にある。今回の総裁選で「党の路線や主要政策」、「連立の枠組みの拡大」、「政治とカネをめぐる党の体質改善」、さらには「側近・同志の存在を含めた首相を支える体制整備」がどこまでできるかが問われることになる。

新総裁の選出で日本の政治は、真っ当な政治へ一歩近づくことになるのか、それとも混迷の度を深めることになるのか、これからの総裁選の展開をしっかり見届けたい。(了)

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