“自民 過半数が焦点”41道府県議選

統一地方選挙の前半戦は、41道府県議選と17の政令指定都市の市議選が31日に告示され、4月9日の投開票日に向けて、選挙戦が一段と熱を帯びてきた。

このうち、41道府県議選は、過去2番目に少ない3139人が立候補し、激しい選挙戦を繰り広げている。

地方議員は、国政選挙では選挙運動の中核になるだけに、各党とも党勢の拡大に力を入れている。自民党が総定数の過半数を獲得できるのか、それとも野党側が阻止できるかどうか、統一地方選前半の大きな焦点になっている。

自民党内では岸田政権の支持率が回復し始めたとして、早期解散論が出始めており、選挙結果は、5月のG7広島サミット後の解散の行方にも影響を与える。道府県議選を中心に各党の取り組みや選挙の焦点をみておきたい。

 自民3回連続過半数なるか、道府県議選

41道府県議選は総定数2260に対し、立候補者は過去最低だった前回から77人増えて3062人、過去2番目に少ない人数になった。

▲自民党は、今回、全体の4割にあたる1306人と最も多い候補者を擁立した。これまでの選挙を振り返ると自民党は、安倍政権時代の2015年の道府県議選で総定数の50.5%の議席を確保し、24年ぶりに過半数を獲得した。

続いて、前回2019年も50.9%の議席を確保した。今回、過半数を獲得すれば、3回連続で過半数を獲得することになる。

自民党をめぐっては、安倍元首相の銃撃事件をきっかけに旧統一教会と国会議員や地方議員の関係が明らかになり、党本部は地方組織に対して、教団や関連団体との「関係を絶つ」ことを求めている。こうした対応が、今回の選挙戦にどのような影響を及ぼすか、注目点の1つだ。

また、今回は岸田政権に代わって最初の統一地方選挙で、岸田政権が打ち出した防衛力の抜本強化と財源確保のための増税の方針、異次元の少子化対策などがどのような評価を受けるかも注目される。

▲次に、与党の公明党は、道府県議選に前回並みの170人を擁立したのをはじめ、統一地方選で合わせて1555人の候補者を立て、全員当選をめざしている。

前回は、道府県議では全員当選を果たしたが、政令市議選で2議席を失った。今回は、多数の候補者を擁立した維新と激しく競り合う関西での戦いがカギになりそうだ。

 立民は上積み、維新は大幅増をめざす

野党の陣営をみてみると▲立憲民主党は、道府県議選では前回より69人多い246人を擁立し、上積みをめざしている。前回2019年は初めての統一地方選への挑戦で、118人が当選し勢力を伸ばした。

しかし、21年衆院選、22年参院選でいずれも敗北が続いており、今回は党勢の低迷から脱却できるかどうか試されている。

▲日本維新の会は、これまでの関西地域を拠点にした政党から脱却し「全国政党」をめざしている。このため、今回の道府県議選では、前回の立候補者83人から、2.5倍にあたる211人を立候補させている。

また、統一地方選全体を通じて、現在400人の地方議員を1.5倍の600人以上に増やすことを目標に掲げている。馬場代表は達成できない場合、代表を退くと明言しており、こうした積極的な戦略が功を奏するかどうか、関心を集めている。

▲共産党は、道府県議選では立候補者数を前回の243人から、188人へ絞り込んだ。共産党をめぐっては、すべての党員による「党首選挙」を求める本を出版した党員が除名される問題が起きており、こうした動きが選挙結果にどのように影響するかも注目される。

▲国民民主党は、道府県議選では46人の候補者を擁立しており、国民民主党系の無所属を含めて改選議席数の倍増、およそ300人の当選をめざしている。

▲このほか、れいわ新選組、社民、政治家女子48、参政の各党も支持拡大をめざしている。

 統一地方選と5補選、解散への影響も

9日に投票が迫った統一地方選挙の前半戦では、9つの道府県知事選挙の戦いが行われる。このうち、与野党の全面対決型は北海道だけで、与党と野党系無所属の戦いとなっているのが大分で、いずれも激しい戦いが続いている。

奈良と徳島は保守分裂選挙となっている。このうち、奈良では、保守系の現職と新人、それに維新の候補との間で、三つ巴の激戦が続いている。

大阪は府知事と市長とのダブル選挙で、維新と非維新の勢力がぶつかる構図だ。

今後の政局へ及ぼす影響という面では、41道府県議選の結果を最も注目してみている。次の衆院解散・総選挙を考えると、道府県議は地域の選挙運動の中心的役割を果たし、各党の党勢のバロメーターになるからだ。

その道府県議選は、冒頭みたように自民党が総定数の過半数を3回連続して維持できるのか。それとも野党側がこれを阻止できるのかどうかが、最大の焦点だ。

もう1つの焦点は、23日の後半戦の投票日に合わせて行われる衆参5つの補選がどうなるかだ。自民党が議席を獲得していたのが、千葉5区と、山口2区と4区の3つに対し、和歌山1区は国民民主党、参院大分選挙区は、野党各党が統一候補として擁立した無所属議員が議席を獲得していた選挙区だ。

自民党内では勝敗ラインとして、自民党が獲得してきた議席を念頭に「3勝2敗」とする考え方のほか、岸田首相が衆院解散・総選挙に向けて主導権を発揮するためには「5戦全勝」が必要だとする見方が出ている。

岸田政権は、日韓首脳会談や岸田首相のウクライナへの電撃訪問をきっかけに、報道各社の世論調査で内閣支持率の回復傾向が出ている。

統一地方選挙と5つの補欠選挙で、岸田政権が支持率回復の流れを加速することになるのか、それとも世論の厳しい評価を受けて再び低迷することになるのか、分かれ道にさしかかっている。

 選挙離れ社会が進行中、歯止めかかるか

さらに統一地方選挙で気になるのは、投票率がどうなるかだ。41道府県議の平均投票率は、前回2019年は44.02%で、過去最低を記録した。

1995年以降は50%台で推移していたが、2011年に48.15%を記録し、初めて5割を下回った。それ以降、最低水準を更新し続けている。

統一地方選挙の投票率は、これまでも長期低落傾向を続けてきたが、前回は道府県の知事選挙、道府県議の選挙、市区町村長の選挙、市区町村議の選挙の投票率は平均するといずれも、初めて5割を割り込んだ。

最も身近な統一地方選挙で、2人に1人しか投票所に足を運んでいない「選挙離れ社会」が進行中だ。これに歯止めをかけられるのかどうか、この点も今度の統一地方選挙で問われる。(了)

反転攻勢なるか? 岸田政権

今年の春は、新型コロナ感染がようやく4年ぶりに収まり、マスク着用は個人の判断となったほか、WBCで日本代表が世界一を奪還、岸田首相はウクライナを電撃訪問するなど激しい動きが続いている。

4年に一度の統一地方選挙も知事や政令指定都市の市長選挙が始まり、前半戦の投票が来月9日、後半戦の投票が来月23日に行われる。

報道各社の世論調査によると岸田内閣の支持率は、ようやく下げ止まり傾向が出てきたが、果たして反転攻勢へとなるのかどうか?岸田首相の政権運営や、これからの政局では何がカギになるのか、探ってみたい。

 ウクライナ電撃訪問の意味と効果は

3月の政治・外交の動きの中で、政界に最も大きな驚きを与えたのは、岸田首相のウクライナへの電撃訪問だ。

昨年からの懸案で、今月19日からのインド訪問直後にそのままウクライナを訪問するのではないかとの見方も一部にあったが、月末の予算案成立後になるのではないかとの見方が政界では強かった。

インドで首脳会談を終えた岸田首相は20日夜、チャーターした民間ジェット機で極秘裏に出発、同行記者団は何も知らされないまま置き去りになった。政界関係者の一人は「同行記者の恨みを買い、しこりを残すだろう」と語る。

さて、今回の訪問をどのようにみるか。与野党の中からは、岸田首相はG7のメンバー国で唯一、ウクライナを訪問していない首脳という点を気にして、無理に訪問する必要はないといった意見も聞かれた。

しかし、ロシアによるウクライナ侵攻は、国連の常任理事国の大国が隣国に軍事侵略する、いわば百年に一度あるかどうかの蛮行だ。

「G7議長国として、何としても5月のG7広島サミットまでに訪問したい」という岸田首相の強い思いは理解できる。

また、ロシアの軍事侵略が成功すれば、今度はアジアでも同じような侵攻が起きる恐れがある。日本自体の国益の観点からも、ウクライナ情勢に真正面から向き合う必要がある。

さらに、今回は中国の習近平国家主席がロシアを訪問し、プーチン大統領との首脳会談の日と重なった。軍事大国同士の両首脳が力を誇示したのに対して、岸田首相はゼレンスキー大統領と会談して支援と連帯を伝え、世界平和の回復をめざす別の選択肢を国際社会に示すことができた。

問題はこれからだ。欧米諸国の中には一部に「支援疲れ」も伝えられる中で、日本はG7議長国として、ウクライナ支援や対ロ制裁措置の継続などで全体をまとめていけるかどうか。

また、日本自身もウクライナ支援をどのような形で行っていくか。欧米は軍事支援に重点を置いているが、日本はG7との横並びを意識するよりも、人道的な支援やインフラ復興など日本にふさわしい支援を考えた方がいいのではないか。

このほか、3月は16日に韓国のユン大統領が来日し、日韓首脳会談が行われた。懸案の「徴用」をめぐる韓国政府の解決案を日本側が評価し、両国首脳が「シャトル外交」を再開することなどで一致した。

そこで、気になるのは、こうした外交活動が岸田政権の評価につながるのかどうかだ。岸田首相のウクライナ訪問は、WBCの日本代表が準決勝でメキシコに逆転勝利、決勝でアメリカを破って世界一を奪還した戦いと重なった。

大谷、ダルビッシュ、村上各選手の活躍に沸き、テレビは高い視聴率を記録、新聞も一面で大きく扱い、電撃訪問の方は霞んでしまった印象だ。政権の評価にマイナスの影響はないとみるが、直ちに内閣支持率上昇といった効果が表れるようには思えない。

 予算審議は順調、支持率は下げ止まり

内政面では、新年度予算案の審議が参議院予算委員会で続いている。審議の中で野党側は、安倍政権時代、放送法の政治的中立の解釈をめぐって、当時の礒崎首相補佐官が新たな解釈を行うよう総務省に働きかけていたことを示す行政文書を明らかにした。

この行政文書について、当時の総務相だった高市経済安保担当相は「捏造」と否定し、辞職を求める野党側と応酬が続いている。一方、予算審議は与党ペースで進んでおり、新年度予算案は28日にも成立する見通しだ。

報道各社の3月の世論調査によると岸田内閣の支持率は、横ばいか、わずかながら上昇する結果になっている。内閣支持率と不支持率は、NHKが41%-40%、読売が42%-43%、朝日が40%-50%となっている。

支持率は前月に比べて、NHKで5ポイント、読売で1ポイント、朝日で5ポイントそれぞれ上昇し、下げ止まりの傾向が表れている。但し、不支持率は40%から50%と高い水準にあり、支持率低迷状態から脱するまでには至っていない。

支持率の下げ止まりの原因は、去年秋のような閣僚の相次ぐ辞任などが避けられ、予算審議が順調に進んでいることが挙げられる。一方、支持する理由としては「他の内閣より良さそうだから」が最も多く、消極的な支持に止まっている。

 反転攻勢、少子化対策と選挙がカギ

それでは、岸田政権は今後、攻勢へ転じることができるのかどうか?

これまで外交面で成果を上げ、内閣支持率が上昇するケースは希で、やはり内政の取り組みが影響することが多かった。今回の場合は、政府が今月末にまとめる「少子化対策」の評価がカギを握るとみている。

岸田首相は「異次元の少子化対策」を政権の最重要課題に位置づけ、今月末にまとめるたたき台には、児童手当の所得制限の撤廃や、対象年齢の18歳までの引き上げなど大胆な対策を盛り込む方向で調整を続けている。

岸田政権の少子化対策について、NHK世論調査でみると「期待しない」が56%と多く、「期待している」39%を上回る。特に18歳から30代までの若い世代で「期待しない」が66%と多いほか、無党派層でも7割近くが「期待しない」と答えている。

こうした背景には、岸田政権は1月に子育て政策重視の方針を打ち出したが、具体策が中々、決まらない。加えて、財源をどうするかも先送りしていることから、対策の実現はかなり先になると、政府に対する不信感を読み取ることができる。

岸田首相は少子化対策のたたき台がまとまると、今度は首相官邸が財源の調整を行ったうえで、全体をとりまとめ、6月の骨太方針で正式に決定する見通しだ。

このような政府の手順を考えると対応が遅すぎて、今月末に少子化対策のたたき台がまとまったとしても、国民の支持が広がり、政権が力強さを増すといった事態は想定しにくい。

もう1つのカギは、統一地方選挙と衆参5つの補欠選挙のゆくえだ。政党の勝敗のメルクマールとしては、前半戦の41道府県議の選挙がある。自民党は、全体の議席占有率50%以上を確保できるかどうかが判断基準になる。

安倍政権時代の前回は50.9%、前々回は50.5%で2回連続で維持してきた。岸田政権に代わった今回はどうなるか、地方組織の足腰の強さの評価にもなる。

統一地方選挙後半の投票日と一緒に行われる衆参5つの補欠選挙のゆくえも大きな焦点だ。自民党が議席を確保していた選挙区は、千葉5区と山口2区と4区。

和歌山1区は、国民民主党に所属していた議員、参院大分選挙区は、無所属で野党共闘で当選した議員がそれぞれ知事選挙に転出することに伴って行われる選挙だ。

自民党の勝敗ラインとしては、保有していた議席を基準に考えると「3勝2敗」とする見方もあるが、今後、衆議院の解散・総選挙に向けて主導権を確保するためには「5戦全勝」が必要だとする見方もある。

以上、みてきたように内外ともに激しい動きが続く中で、岸田政権は政権浮揚へ反転攻勢となるのか。それとも低空飛行状態が続くことになるのか。その岐路は、月末の少子化対策に対する世論の評価と、来月の統一地方選挙と補欠選挙の結果がカギを握っている。(了)

 

 

 

”支持率改善も 看板政策は低評価” 岸田政権

通常国会は、焦点の新年度予算案の審議が大詰めの段階を迎えており、今月末に参議院で採決が行われ、与党の賛成多数で成立する見通しだ。

一方、統一地方選挙も今月23日、全国9道府県知事選挙が告示され、来月9日の投開票に向けて選挙戦がスタートする。こうした中で、NHKと共同通信がそれぞれ実施した3月の世論調査の結果がまとまった。(NHK10~12日、共同通信11~13日実施)

統一地方選挙突入前の政治情勢と、岸田政権や与野党の国会審議などを世論はどのように評価しているのか、分析する。

 内閣支持率、7か月ぶり不支持を上回る

まず、岸田内閣の支持率からみていくとNHKの世論調査では◆支持率が先月より5ポイント上がって41%に対し、◆不支持率は1ポイント下がって40%となった。

岸田内閣の支持率がわずかながらも不支持率を上回ったのは、去年8月以来7か月ぶりだ。(去年8月は支持率46%、不支持率28%」)但し、今月の支持と不支持の差はわずか1ポイントなので、五分と五分、拮抗とみた方がよさそうだ。

共同通信の世論調査では◆支持率は、4.5ポイント上がって38.1%、◆不支持率は、4.2ポイント下がって43.5%だった。支持率は改善しているが、不支持率が支持率を上回る状態が続いている。

NHKと共同通信の調査ともに岸田内閣の支持率が改善しているのは、なぜか。NHKの調査でみてみると、一つは、政府の賃金引き上げの取り組みをどのようにみるか。「評価する」が50%で、「評価しない」の43%を上回った。

もう一つは外交問題で、太平洋戦争中の「徴用」をめぐる問題をめぐり、韓国政府が解決策を発表した。日本政府も評価し、16日にユン大統領が来日して、日韓首脳会談が行われる。

この問題について「評価する」は53%に上り、「評価しない」の34%を大きく上回った。北朝鮮に対して、日韓両国の安全保障面の連携強化を評価する人が多いことが読み取れる。

また、自民支持層では、岸田内閣を支持していた割合は6割程度に止まっていたが、今月は69%まで上昇し支持率回復につながった。

このほか、国会論戦では、同性婚をめぐる発言で首相秘書官が更迭される問題が起きたものの、野党側が攻め手を欠き、与党ペースの国会運営が続いていることも影響しているとみられる。

 岸田政権の看板政策、評価しないが多数

このように岸田内閣の支持率は、改善している。但し、内容面をみていくと、岸田政権が重視している政策、看板政策については「評価しない」「不十分」などと厳しい見方が多い。

▲岸田首相が戦後の安全保障政策の大転換と位置づける防衛費の増額について、政府の説明をどのように評価しているか。「十分だ」は16%に止まり、「不十分だ」が66%、3人に2人の割合にも達している。

▲岸田首相が子ども予算の倍増を掲げる政府の少子化対策については、「期待している」は39%に対し、「期待していない」が56%と多数を占める。年代別では、18歳から30代までの若い年代では「期待しない」が66%にも達している。

▲さらに原子力発電を最大限活用するため、政府が最長60年とされている原発の運転期間を延長する法案を閣議決定した問題。「賛成」は37%に対し、「反対」は42%で上回っている。

このように岸田政権が打ち出した看板政策は、いずれも世論の支持を得られていない。

こうした背景には、岸田政権の国会対応に大きな問題があるのではないか。防衛費増額にみられるように従来の政府方針の繰り返しがほとんどで、防衛力整備の必要性や中身に踏み込んで国民に説明、説得しようとする姿勢や熱意が欠けている点に問題がある。

 放送法の問題、事実の解明と政府見解を

このほか、参議院の審議では、安倍政権当時、特定の民放番組の内容を問題視した首相補佐官が、放送法が定める政治的公平性をめぐり解釈の再検討を総務省に求めたとする文書が明らかになった。

共同通信の世論調査で、この行為は政権による「報道の自由」への介入と思うかどうかを尋ねている。◆「介入だと思う」が65%、◆「思わない」が25%だった。

また、当時の総務相だった高市早苗氏(現在、経済安全保障担当相)が、総務省が自らに説明を行ったとする文書を「捏造」(ねつぞう)と主張していることについて「納得できる」は17%で、「納得できない」が73%だった。

放送法3条では「放送番組は、法律に定める権限に基づく場合でなければ、何人からも干渉され、規律されることがない」と規定されている。首相補佐官や、首相といえども介入はありえないわけで、国民の多くは法律の本質を理解していることがうかがえる。

この問題は、安倍政権時代の首相補佐官と総務省、安倍元首相の意見調整ルート。また、もう一つのルート、総務省と当時の高市総務相への説明があったのかどうか。さらにこの2つのルートに関係があったのかどうか、事実関係を明らかにする必要がある。

その上で、岸田政権が、事実関係を整理したうえで、放送法の解釈について政府の見解を示すことが必要だと考える。

 統一地方選と5補選、無党派がカギ

以上みてきたように岸田内閣の支持率の改善はみられるものの、主要政策について、世論の支持を得ているとは言えない。今月末の子ども政策のとりまとめ方によっては、支持率が再び落ち込むことも予想され、不安定な状態にある。

一方、野党側も国会で思うような攻めの論戦を展開できていない。政党支持率では、自民党に大きな差をつけられたままで、党勢拡大の展望は開けていない。

このように政権与党と、野党側ともに弱点を抱えたまま、来月の統一地方選挙と衆参5つの補欠選挙に臨むことなる。

統一地方選挙はそれぞれの地域の選挙が中心だが、全国規模の選挙になるので、有権者の立場からすると政党の主張や主要政策は、選挙に当たって有力な判断材料になる。

それだけに各党とも地域の課題と、当面の政治課題についての考え方や構想を明確に打ち出してもらいたい。

NHK世論調査の政党支持率で、”第1党”は「支持する政党がない」無党派で、38.5%を占める。この無党派層のどの程度が投票所に足を運ぶか、どの政党が最も多く獲得できるかが、選挙のゆくえを左右することになる。(了)

 

 

 

統一地方選、衆参5補選の注目点

4年に一度の統一地方選挙前半戦の投開票まで今月10日で、1か月を切った。選挙日程は、今月23日に9つの道府県知事の選挙が告示されてスタートする。

続いて、41都道府県議会議員の選挙、6つの政令指定都市の市長と17の政令市の議員選挙が相次いで告示され、来月9日に前半戦の投開票が行われる。

後半戦の投開票日は来月23日で、東京の特別区と、全国の市町村の長と議員、合わせて907の選挙の投開票が実施される。また、後半戦の投開票日と合わせて、衆参5つの補欠選挙の投開票も行われる予定だ。

統一地方選挙は最も身近な自治体の長と議員を選ぶ選挙で、それぞれの地域が抱える課題が争点になる。

一方、統一地方選挙は全国規模の選挙なので、選挙結果は国政にも影響を及ぼす。また、今の衆議院議員の任期は再来年の10月なので、衆議院の解散が行われなければ、再来年夏の参議院選挙まで、まとまった国政選挙がないことになる。

そこで、今回の統一地方選挙は国政との関係で、どんな影響や意味合いを持つのか考えてみたい。

 知事選、与野党全面対決、保守分裂型

まず、統一地方選挙で最も注目されるのは、知事選挙だ。今回は、北海道、神奈川、福井、奈良、大阪、鳥取、島根、徳島、大分の9道府県の知事選挙が予定されている。前回4年前から、三重と福岡が知事交代にともなって減っている。

◆与野党の全面対決型となるのは北海道で、自民・公明両党が推薦する現職と、立憲民主党が推薦する元衆議院議員の対決となる。

◆大阪は、府知事選挙と市長選挙とのダブル選挙になる。維新は、府知事は現職、市長選は新人を擁立し、非維新の候補との戦いになる。

◆保守分裂となるのが奈良県と徳島県だ。このうち、奈良県は、保守が分裂し、自民党県連が推薦する新人と現職、それに関西に影響力を持つ維新が擁立する元市長の3つ巴の戦いになる見通しだ。

◆徳島県については、自民党の前参議院議員と、前衆議院議員、それに現職がそれぞれ立候補する意向を表明して、異例の保守3分裂の様相だ。

◆大分県は、現職の知事が引退し、自民・公明両党が推薦する前の大分市長と、野党系無所属の参議院議員が議員を辞職して立候補する見通しだ。(この参院議員は9日辞職願を提出、10日の参院本会議で認められた)

このように知事選挙については、与野党の全面対決型の選挙は少なくなってきている。

 自民議席占有率 5割確保できるか?

私が最も注目しているのは、41道府県議会議員選挙の各党の獲得議席数だ。各党の党勢を現すメルクマールになる。

◆自民党は、前回1158議席を獲得、全体の議席に占める議席占有率は50.9%に達した。前々回は50.5%で、2回連続して過半数を獲得した。いずれも安倍政権時代だが、岸田政権に代わり、この流れを維持できるかどうかが大きな焦点だ。

◆公明党は、市区町村議員選挙を含め、統一地方選で擁立する1500人の候補者全員の当選をめざしている。前回、道府県議選の166人は全員当選したが、政令市議選で2議席を失った。

◆野党側のうち、立憲民主党は、具体的な数値目標を示していない。前回19年は初の統一地方選への挑戦で、118人が当選し勢力を伸ばした。21年衆院選、22年参院選では敗北したが、今回はどうなるか。

◆日本維新の会は、現在400人の地方議員の数を1.5倍の600人以上に増やす目標を掲げている。800人程度の候補者を擁立し、目標の達成は可能だとしている。

◆国民民主党は、倍増となるおよそ400人の当選をめざしている。

◆共産党は、前回獲得した1200人を確保した上で、上積みをめざしている。

岸田政権は、この統一地方選挙を勝ち抜き、5月のG7広島サミットにつなげて政権の浮揚につなげていきたい考えだ。

一方、旧統一教会との関係や防衛増税の影響が選挙に影響を及ぼすのではないかと危惧する声もある。さらには、地域によっては世代交代の影響が現れるのではないかとの見方もある。

自民党の閣僚経験者に聞くと「道府県議会議員が減ったりすると、国会議員にとっては次の選挙に影響が出てくる。岸田首相では戦えないといった声が出てくる可能性もあり、要警戒だ」と指摘する。

安倍政権当時「自民1強」を地方で支えた地方組織が、今後も安定して継続するのかどうか、自民党の議席占有率をみていく必要がある。

 衆参補選、千葉5、和歌山1、大分が焦点

後半戦の4月23日投開票に合わせて、衆参5つの補欠選挙が行われる見通しだ。衆議院の千葉5区、和歌山1区、山口2区と4区、それに参議院の大分選挙区でも補欠選挙が行われる見通しだ。

◆千葉5区は、政治とカネの問題で自民党議員が辞職したことに伴い行われる。東京通勤圏の都市部の選挙区で、一定の野党支持層のある選挙区だが、立民、維新、国民の各党が候補者を擁立する見通しだ。

これに対し、自民党は新人の候補者を決定しており、自民党関係者は「野党候補が乱立すれば、議席獲得はありうる」との見方を示す。

◆和歌山1区は、これまで国民民主党所属の議員が議席を維持してきたが、県知事に転出したのに伴う選挙だ。自民党の二階元幹事長と世耕参議院幹事長の両陣営の間で人選が難航した末、元衆議院議員の擁立で決着した。

これに対し、関西圏に影響力を持つ維新は、前和歌山市議の女性候補を擁立した。維新幹部によると自民党内の足並みに乱れが出てくれば、勝機はあるとして、後半戦の重点区として戦う構えだ。

◆山口4区は安倍元首相の死去、山口2区は実弟の岸信夫前防衛相の辞職に伴う「ダブル補選」だ。野党側は、山口4区に元参議院議員を擁立するほか、山口2区も候補者の擁立を検討している。

◆参議院大分選挙区は、野党系無所属の参議院議員が県知事選に立候補するのを受けて行われる。辞職は10日に決まる見通しで、与野党ともに候補者の選考作業を急いでいる。

このように5つの補選の候補者や野党間の選挙協力などの構図が最終的に決まっていないが、自民党としては、5戦全勝をめざす方針だ。

これに対して、野党側は、これまで野党や無所属議員が確保していた議席は維持したいとして、野党間の協力を進めたい考えだ。

ここまでみてきたように9つの知事選挙と、41道府県の県議選、それに5つの補欠決戦がどのような結果になるのか。通常国会後半の国会運営をはじめ、岸田首相の衆院解散・総選挙戦略などにも影響を及ぼすことになりそうだ。(了)

★追記11日。大分県知事選挙への立候補を表明した安達澄参議院議員の辞職が、10日の参議院本会議で認められた。これによって、参議院大分選挙区では補欠選挙が行われる。衆参の補欠選挙は、この大分選挙区を含めて5つの選挙となる。

予算衆院通過、国会論戦は”超低調”

新年度予算案は28日、衆議院本会議で採決が行われ、与党の賛成多数で可決されて参議院に送られた。これによって憲法の規定で、年度内の成立が確実になった。

新年度予算案は、防衛費の大幅な増額などで規模が膨らみ、総額が過去最大の114兆円に上った。岸田政権の防衛政策の転換と防衛増税、物価高騰や経済政策などをめぐって審議の難航も予想されたが、与党ペースで予算審議は進んだ。

国会審議が与党、野党どちらのペースで進もうと国民に直接大きな影響はないのだが、今年の予算審議くらい焦点が定まらず、低調な論戦は珍しいのではないかと思う。

これからの政治や国会のあり方にも関係してくるので、今年の予算審議の特徴と課題、問題点などを整理しておきたい。

 野党の追及不足、首相は防戦に終始

今年の予算審議の特徴は、27日に行われた最後の集中審議に凝縮されていたのではないかと思う。立憲民主党の長妻政調会長は、岸田首相が打ち出している子ども予算の倍増について「国内総生産比で倍にするのか、絶対額を倍にするのか」と迫った。

これに対し、岸田首相は「数字ありきではない。子ども・子育て予算は何かということが整理されてベースが決まる。中身を決めずして、最初からGDP比いくらかだかとかではない」とかわすのに懸命だった。

防衛問題でも「反撃能力」(旧「敵基地攻撃能力」)に使うことを想定して、アメリカから購入する巡航ミサイル「トマホーク」の購入数が問題になっていた。岸田首相は、400発を購入することを明らかにした。予算審議の冒頭から質問が出ていたが、論戦最終日にようやくデータを公表したことになる。

政府、野党の論点がかみ合わないほか、防衛問題では、防衛力整備の中身に迫る議論にはほど遠い状態であることが浮き彫りになった。

今年の予算審議は、多くの難問が山積み状態だった。岸田政権が年末に決定した防衛力抜本強化と防衛増税をはじめ、物価高と賃金引き上げ、アベノミクス10年を経て今後の経済・金融政策をどうするのか、野党には攻めどころ満載だった。

但し、防衛力整備をめぐって、野党第1党の立民は、維新や国民民主との間で足並みがそろわず、防衛問題追及には慎重な姿勢が目立った。

代わって、首相秘書官の差別発言が表面化したこともあってLGBTの問題、続いて児童手当の拡充に力点を置いた。この点は他の党も同じで、与野党ともに4月の統一地方選挙をにらんでアピール合戦の様相となった。

論戦が低調に終わった背景としては、まずは野党の追及不足が影響したとみている。立憲民主党は、維新との連携・共闘を維持したいとの思惑が働いて追及の焦点を絞れなかったのではないか。

これに対して、岸田首相は防衛問題をめぐっては、野党側の追及に対して「相手国もあり、手の内はさらせない」として徹底した防戦に終始した。野党側は、攻めあぐねて思うような論戦が展開できず、岸田首相の作戦が功を奏したといえるかもしれない。

 国民の関心事項と首相の方針決定は

問題は、国民への影響だ。国民の側はウクライナ情勢をはじめとする内外の激しい動きを受けて、次のような点に関心を持っていたのではないか。

◆40年ぶりの物価高騰や今後の経済政策はどうなるのか。政府の電気や都市ガス料金の軽減措置は2月から実施されたが、追加対策やメッセージはない。

◆ロシアによるウクライナ侵攻の長期化が避けられない中で、エネルギー確保の戦略を示してもらいたい。原発や再エネなどをどのようにかじ取りするのか。

◆防衛力整備は必要だが、「反撃能力」を保有する場合、専守防衛と両立するのか。一定の基準を設定するのか。自衛隊は遠距離の攻撃目標を把握する能力を持っておらず、米軍に頼らざるを得ないのではないか。

◆日本の防衛の弱点としては、武器、弾薬などの継戦能力、自衛隊基地の防護。それに国民の避難体制の整備を急ぐべきだとの意見もあるが、どうか。

◆政府は「異次元の少子化対策」を強調するが、出生率の低下「1.57ショック」は1990年、この30年間、政府は何をしていたのか。

国民の主な関心事項としては、例えば以上のような点にあり、野党側が掘り下げて政府に質してもらいたいと考えていたのではないか。いずれも政府・自民党が手をつけずに長期にわたって先送りにしてきた問題ではないか。

一方、岸田首相は施政方針演説で「課題を先送りにせず、国会で政府の考えを正々堂々、議論する」と胸を張ったが、予算委員会の答弁では踏み込んだ考えは示されなかった。議論が深まらない原因として、首相の責任も大きい。

加えて、岸田首相の政権運営、政策決定をめぐって懸念される点がある。具体的には、年末の防衛政策決定に見られたような首相の方針決定のあり方だ。岸田首相からの指示が急に示され、与党との調整期間も短く、その後、国会での野党への説明も乏しい方針決定プロセスだ。

去年11月末に防衛費のGDP比2%を打ち出した後、わずか3週間足らずで防衛増税を含めた新しい防衛政策を決定した。年が明けて今の国会で、岸田首相は「誠心誠意、丁寧に説明責任を果たす」などと強調するが、残念ながら「従来方針の繰り返しで、中身は皆無」の答弁が多い。

当面の焦点になっている少子化対策も3月末に担当大臣の下で案をとりまとめた後、6月の骨太方針で決定される見通しだ。その時点で、国会は閉会しており、防衛問題と同じような政府の対応が、再び繰り返される可能性もある。

難問の対応にはさまざまな法案の制定も必要で、国会で政府が与野党との論戦を通じて行政の運営に民意を取り入れたり、法案を修正したりする政策決定過程も必要だ。

岸田政権は低姿勢に見えながら、実は政権の都合優先で重要事項を決めてしまうとの懸念も聞こえる。衆議院議員の任期は、解散がなければ再来年2025年10月まで続く。岸田政権の政策決定のあり方も問われる。

 統一地方選と5補選、世論の評価は?

新年度予算案の衆議院通過を受けて、3月1日から参議院予算委員会に舞台を移して、予算審議が始まる。衆議院から持ち越した論点が数多いので、「再考の府」参議院で詰めた議論を行ってもらいたい。

もう1つは、当面の焦点は当面、4月に迫った4年に一度の統一地方選挙に移る。3月23日にはトップを切って、北海道、大阪、奈良、徳島、大分など9道府県の知事選挙が公示され、4月9日が前半の投開票日になる。

後半の投開票日は4月23日で、この日は衆参5つの補欠選挙も行われる。衆議院の千葉5区、和歌山1区、山口2区と4区、それに参議院の大分選挙区だ。

自民党長老に注目点を聞いてみると「知事選は、与野党対決の北海道、保守分裂の奈良、徳島のゆくえ。補欠選挙は千葉5区で、野党の陣営が1本化するか、複数擁立となるかカギ。和歌山1区は、関西に強い維新が候補者を擁立した場合、どんな戦いになるかが焦点」と語る。

岸田政権への影響については「政権に直接、大きな影響があるとは想定していないが、選挙は投票箱が閉まるまでわからない。補欠選挙と道府県議選がどうなるか、気を抜かずに取り組む必要がある」と話す。

41道府県議選は、各政党の地域の力量を測るバロメーターでもある。特に、自民党は旧統一教会の問題をはじめ、防衛増税や少子化対策論議がどのように影響するかが、変動要因だ。

岸田政権の支持率は、報道各社の世論調査によると2月は横ばい状態だが、支持を不支持が上回る逆転状態が5か月続いている。統一地方選挙と統一補選で、世論の評価、風向きがどう現れるか、夏以降の政局に影響を及ぼすことになる。(了)

 

 

ウクライナ侵攻1年と日本の防衛問題

ロシアによるウクライナ侵攻が開始されてから、24日で1年になる。これを前にアメリカのバイデン大統領は20日、ウクライナを電撃訪問し、揺るぎない支援を続ける考えを世界にアピールした。

これに対し、ロシアのプーチン大統領は年次教書演説で、ウクライナへの侵攻を継続する考えを表明し、ロシアと欧米諸国の非難の応酬が続いている。

ウクライナの前線は一進一退の状況だとみられるが、春先から夏にかけての攻防がどのような展開になるのかが大きな焦点だ。

ロシア軍が大規模な攻撃に踏み切るのか、ウクライナ軍が欧米諸国から供与された戦車などを活用し、反転攻勢へ打って出るのかどうか戦況は予断を許さない。

この1年、日本からウクライナの対応をみて感じるのは、国民の強い防衛意識だ。報道によると最近のウクライナの世論調査では「勝利を確信する」と答えた人は95%、「領土に関して妥協すべきでない」という人は85%に上っているという。

去年の侵攻当初は、軍事大国ロシアの軍事攻勢で数日のうちに制圧されてしまうのではないかとの見方も聞かれたが、ウクライナ国民はシェルターなどでの生活に耐え、徹底抗戦で跳ね返した。

こうした要因としては、ゼレンスキー大統領の優れた統率力もあるだろう。また、欧米の軍事支援も後押しになったが、やはり、自らの国の独立と自由な暮らしを守り抜きたいという強い防衛意識が戦いを支えたのではないかと思う。

 防衛力整備、政府の国民への説明に弱さ

それでは、日本の場合、国民の防衛意識や、政治の対応はどうだろうか。岸田政権は防衛力の抜本強化の方針を打ち出したが、政府案のとりまとめの調整に追われ、国民への説明、説得などの働きかけが極めて弱かったのではないかと思う。

政権の関係者を取材すると「防衛力整備の中身の調整に想定以上に時間がかかってしまった」と語り、与党や国民に対する説明が必ずしも十分ではなかったとの考えを漏らしていた。

防衛費の大幅増額と、その財源確保のとりまとめに政権の相当なエネルギーを費やしたことは事実だろう。しかし、それでも国民に対して、防衛の現状とめざす内容を理解してもらうよう働きかけを強める必要があったと考える。

というのは、NHKの2月の世論調査(10~12日実施)では、◆防衛費の大幅増の評価は、賛成、反対ともに40%ずつ二分されたままだ。政府が方針を決定した12月調査では一部質問の表現は異なるが、賛成は51%あったのが、2月までに11ポイントも減少したことになる。

◆防衛増税は賛成23%に対し、反対64%で、反対が圧倒的に多い状況だ。

朝日新聞の2月の世論調査(18、19日実施)でも◆防衛費を増やすための1兆円増税については、賛成は40%に対し、反対は51%で上回っている。

通常国会の論戦が始まって既に1か月が経過したが、政府が戦後防衛政策の大転換と位置づけている防衛政策と予算案について、国民多数の賛成を得られていない状況は重く受け止める必要がある。

 防衛の主要論点、参院で徹底審議を

それでは、なぜ、国民の多数の賛成を得られていないのか。22日に行われた衆議院予算委員会の集中審議でのやりとりが、ヒントになる。

質問に立ったのは立憲民主党の泉代表で「政府・防衛省は、新年度予算案でアメリカから購入する巡航ミサイル『トマホーク』の数量などを防衛機密だとして、公表できないとしている。しかし、アメリカ国防省は自らのホームページで、同じトマホークを今年度、1発の購入単価5.4億円、40発を買い取ることを明らかにしている」などと追及した。

岸田首相はこれまで手の内を明かすことになると公表を拒んできたが、「関心が高いので、数量などを改めて検討したい」と情報開示に前向きの答弁をせざるを得なかった。

岸田首相は施政方針では「国会で堂々と議論したい」と強調したが、予算委員会の質疑では、具体的な情報や自らの考え方をほとんど明らかにしない。防衛論争が一向に深まらない大きな要因になっている。

国民の多くは、武器の詳細な性能などを知りたがっているのではない。防衛力を向こう5年間で、新たに17兆円も増額してどこまで日本の防衛力が強化されるのか、基本的な判断材料を示してもらいたいと考えている。

衆議院予算委員会の論戦も最終盤で、予算案の採決が近く行われる。防衛問題の主な論点は詰めの議論を残したまま、参議院での予算審議に持ち越される公算が大きい。

主な論点としては、◆相手国のミサイル基地などを叩く「反撃能力」の保有が、「先制攻撃」とならないようにするための対応策、基準づくりをどうするのか。

◆反撃の武力行使を行う場合、自衛隊は相手の標的などの情報把握をどのように行うのか。米軍との攻撃面での運用・調整は可能なのか。

◆戦闘機などの正面装備に比べて、弾薬、燃料などの継戦能力に弱点があるとされてきたが、どの程度改善されるのか。

◆台湾有事などに備え、沖縄や南西諸島の避難計画のほか、全国的に国民の避難施設、シェルターなどの整備はどの省が中心になって整備していくのか。

国民が知りたいと思われる一例を挙げたが、こうした論点について、これまでのところ政府側から具体的な説明はほとんどなされていない。参議院では、こうした論点について、国民にわかりやすい説明、議論を行ってもらいたい。

 首相ウクライナ訪問、日本の視点で判断

冒頭にも触れたが、アメリカのバイデン大統領がウクライナを電撃訪問したのに続いて、イタリアのメロー二首相も現地入りし、G7首脳で訪問していないのは岸田首相だけになった。

このため、政府内では、日本もゼレンスキー大統領から招待を受けていることに加えて、G7議長国であることから、5月の広島サミットまでには訪問を実現したいと焦りを強めている。

岸田首相のウクライナ訪問は、実現が望ましいのは当然だ。但し、首相の訪問は、安全性や国会のルール、情報管理などの面でハードルが多い。最も重要なことは、戦地などでは現地の政府や国民に迷惑や負担をかけてはいけないことだ。

首相の人気・評価の獲得といった政治的パフォーマンスで、周辺が対応してもらっては困る。日本は欧米とは地理的にも大きな違いあり、NATOの加盟国でもない。

日本の立場、独自の視点で安全性などが確保できるまで、訪問は見送りたいと堂々と表明して、G7議長国としての役割を果たせばいいのではないか。

合わせて、日本は先の大戦を教訓に平和外交を戦後一貫して追求しており、民生支援を軸に国際社会とともに歩んでいく基本方針を表明するのが基本だと考えるが、どうだろうか。

一方、国内の防衛力整備については、国会で政府と与野党が質疑を通じて国民の理解を深めたり、必要に応じて法案・予算案の修正を図ったりして、国民全体の合意を広げる必要がある。

国会の質疑も内外の重要課題を取り上げる予算委員会の議論に限らず、外交・防衛に関係する委員会で、恒常的に議論を続けてもらいたい。

その際、防衛・軍事面については、専門の自衛官幹部を招いて意見を聴取する時期を迎えているのではないか。自衛隊は文民統制が基本であり、具体的には国民の代表である国会が、自衛隊の意見も聞きながら決定するのが本来の姿だ。

ウクライナ侵攻を可能な限り早期に終わらせると同時に、政府と国会は、日本の外交・安全保障のあり方を国民全体で考えるように具体的な取り組みを進めてもらいたい。(了)

 

 

政策転換も支持率低迷続く岸田政権

岸田政権が打ち出した防衛力の抜本強化や異次元の少子化対策などの政策転換は、国会論戦を通じて世論にどのように受け止められているのか?NHKと共同通信の2月の世論調査結果がまとまったので、その結果を基に分析してみたい。

結論を先に言えば、焦点の防衛費の大幅増額は賛否が分かれ、防衛増税は反対多数の状況は変わっていない。少子化対策も児童手当の所得制限撤廃には慎重論が強く、そもそも政府の具体策がはっきりしない問題を抱えている。

さらに、岸田内閣の支持率は、支持と不支持の逆転状態が5か月連続の低水準で、政治の先行きは不透明だ。

こうした背景には国会論戦が低調で、政権や国会が政策転換にふさわしい判断材料や多角的な議論を提供できていない点に大きな問題があるのではないか。

 防衛政策転換、国民の支持広がらず

まず、国会の焦点の1つになっている防衛政策からみていきたい。NHKの世論調査(10日から12日実施)によると、政府が2023年度から5年間に防衛費の総額を43兆円に大幅に増額する方針については、賛成、反対がそれぞれ40%ずつで、二分されている。

設問の表現が一部異なるが、政府がこの方針を打ち出した12月調査では、賛成が51%で、反対の36%を上回っていた。その後、岸田首相の施政方針演説や衆院予算委員会で与野党の論戦を経て、2月の調査では賛成が11ポイント減り、反対が4ポイント増えたことになる。

また、防衛費の財源の一部を確保するため、増税を実施する方針については、賛成が23%に対し、反対は64%と多数を占めている。この設問も一部表現が異なるが、1月の調査では賛成が28%、反対が61%だった。引き続き、反対多数という傾向は変わっていない。

政府は、防衛増税の実施時期を来年以降に決めるとしているので、新年度予算案に直ちに影響することはない。しかし、岸田政権が戦後の安全保障政策の大きな転換と位置づけている防衛力強化の予算と財源について、国民の支持が広がっていない事実は重く受け止め、対応を考える必要がある。

 児童手当の所得制限撤廃は反対多数

次に岸田政権が「次元の異なる少子化対策」と位置づけている「子ども・子育て政策」はどうか。世論調査では、政府が打ち出した「子ども予算の倍増方針」について、賛成は69%で、反対は17%だった。

自民党の茂木幹事長が代表質問で打ち出し、政府・与党が検討している児童手当の所得制限の撤廃については、賛成が34%に対し、反対が48%で上回った。

共同通信の世論調査(11日から13日実施)でも賛成が44%に対し、反対が52%と多かった。今の制度で導入されている所得制限を撤廃すると限られた財源が、所得の高い世帯に支給されるとして、反対や慎重論があるためとみられる。

NHK世論調査では、子ども予算を増やすために国民の負担が増えることについても聞いている。「負担が増えるのはやむを得ない」が55%に対し、「負担を増やすべきではない」は35%だった。

但し、「負担が増える」具体的な内容を示さずに聞いているので、今後、例えば社会保険料からの拠出といった内容が決まると、評価が変わる可能性がある。いずれにしても政府は最重要課題と位置づけるものの、政策の重点や具体策を明らかにしていないので、国民の評価も定まらない。

このほか、岸田首相の元首相秘書官が、同性婚をめぐる差別発言をして更迭されたことから、同性婚の賛否についても聞いている。同性婚を法律を認めることについて、賛成は54%に対し、反対は29%に止まっている。自民党の支持層でも賛成が半数に達している。

 岸田政権 支持率低迷の長期化

さて、岸田政権の支持率だが、NHKの調査によると◇支持率は36%に対し、◇不支持率は41%だった。

先月との比較では、◇支持が3ポイント上がり、◇不支持が4ポイント下がった。このところ、数ポイント差で上下を繰り返しているので、事実上、横ばいとみていいだろう。

共同通信の世論調査も◇支持率は33.6%で、前回調査から0.2ポイント増の横ばい。不支持率は2.2ポイント減の47.7%だった。

内閣支持率は傾向・流れをみるのが大事だ。NHKの調査で岸田内閣の支持率は、去年10月に3割台に落ち込んで以降、不支持が支持を上回る逆転状態が5か月続いている。「支持率低迷の長期化」がウイークポイントになりつつある。

こうした原因だが、岸田政権の場合、防衛力の抜本強化などを打ち出したが、国会論戦の段階になっても具体的な内容を掘り下げて説明したり、野党側と丁々発止議論したりする場面がみられない。

子ども対策も施政方針演説で「次元の異なる少子化対策」として大々的に打ち出したが、中身は担当閣僚の下で検討し、その後、財源問題は総理官邸が引き取って調整し、6月の骨太方針で決める段取りだ。防衛増税の時とは変わって、今度は長い検討時間が予想され、国民の心に響かない。

新年度予算の審議であれば、国民は40年ぶりの物価高騰や経済・金融対策の議論を期待するが、政権から新たなメッセージは未だに発信されない。これでは、内閣支持率が好転し、反転攻勢へとはつながらないのではないか。

政界やメデイアの一部では、岸田首相による早期解散説も取り沙汰されるが、政権の支持率が低迷していては難しい。安倍首相は奇襲解散を仕掛けたが、支持・不支持が逆転しても2か月程度で回復、復元力を備えていたからできたことだ。

 優先課題の設定、論戦の活性化を

一方、野党側についても政党支持率をみると、支持率を大きく伸ばしている政党はなく、自民党に大差をつけられ低迷している。

衆院の予算委員会は、かつては野党の最大の出番だったが、この国会で国民の多くが納得するような政権を問いただす場面があっただろうか。

また、衆議院の予算委員会としても多くの政治課題の中から、国政として最優先に議論すべきテーマを絞り込んで議論すべきではなかったか。そして、政府が具体的な方針を踏み込んで説明し、野党が問題点や対案を提示して議論を戦わせる取り組みが余りにも弱かったのではないか。

その結果、今回の世論調査にみられるように国民の疑問や不満が、内閣の支持率や、野党の支持率の低迷に凝縮して現れているのではないかと思う。

国会は14日に、日銀の新しい総裁・副総裁の人事案が示され、同意の手続きが進められる。論戦の主要な舞台となった衆院予算委員会は16日に公聴会が決まっており、これが終われば新年度予算案の採決に向けた動きが本格化する。

こうした審議日程を考えると新年度予算案の採決の前に、各党の党首クラスが質問に立って、岸田首相と締めくくりの論戦を戦わせるなど論戦を充実させる取り組みを考えるべきではないか。政策転換にふさわしい国会審議の質と、政治の立て直しが問われている。(了)

“難題滞留、審議は順調”国会予算委

国会は、衆議院予算委員会を舞台に新年度予算案の審議が続いているが、予算案の採決の前提になる「公聴会」が16日に開かれることが9日、決まった。これによって、新年度予算案の委員会採決の条件が整ったことになる。

予算案が委員会に続いて、本会議でも採決が行われて可決され、衆議院を通過する時期は、これまで平成11年・1999年の小渕政権時代の2月19日が最も早かった。今回は、これに次ぐスピード通過となる可能性もある。

去年は2月15日に公聴会、その後、集中審議を2日間入れたりして22日に衆院通過、戦後2番目に早い衆院通過となった。今回はどうなるかは今後の与野党の交渉次第だが、去年並の早い通過は間違いなさそうだ。

問題は、国会審議の中身だ。この国会の焦点になっていた防衛費の大幅増加と財源や、物価高騰と暮らし・経済のかじ取りなどの難問・難題については、さっぱり議論が深まっておらず、滞留したままだ。

このまま予算案の採決へと進むことで、与野党、政府はそれぞれの役割と責任を果たせたといえるのかどうか、国民の側がしっかり見ていく必要がある。

 野党の足並みに乱れ、論客不足も

この通常国会は、岸田政権が防衛力の強化や原発の活用など歴代政権の政策を大きく転換させたことから、審議は難航するのではないかとみられていたが、与党ペースで順調に審議が進んでいるのはどうしてだろうか。

その理由としては、攻める野党側の足並みの乱れと、論客の少なさが追及に迫力を欠く大きな要因になっている。

例えば8日の集中審議をみると、野党第1党の立憲民主党はベテラン議員が外交・安全保障問題を取り上げ、岸田首相の白熱した質疑を展開した。後続の質問者は、首相秘書官の更迭の原因となった同性婚問題を取り上げるなどテーマが多く、追及の焦点が定まらないようにみえた。

野党第2党の維新は、身を切る改革、衆議院議員の定数削減問題を取り上げた。国民民主党は、配偶者の就業抑制につながる年収の壁、共産党は防衛問題といったように各党バラバラで、一時のような野党間の連携はみられなかった。

党によって、質問の重点が異なるのは当然だが、与党から譲歩を引き出すためには、勢力の劣る野党側は連携、共闘しながら攻めなければ、成果は得られない。野党第1党の全体をとりまとめていく力量、野党各党の論客不足もある。

一方、与党の自民党も、焦点の外交・安全保障関係の質問は一部に止まった。かつてのようにベテラン議員が質問に立って、国民をなるほどと納得させるような奥の深い質疑は見られなかった。

また、岸田首相の答弁も従来の説明の繰り返しが多かった。施政方針演説では「決断した政府の方針や予算案について、国民の前で正々堂々議論し、実行に移す」と強い口調で決意を表明していたが、決意が伝わってくるような場面はまったく見られなかった。

 LGBT法案 児童手当問題も浮上

このように予算審議は最速に近いペースで進む一方、岸田政権の中枢の首相秘書官が「同性婚は見るのも嫌だ」などの差別発言をしたことが明るみになり、更迭された。

岸田首相は予算委員会で「政府の方針について誤解を生じさせたことは誠に遺憾で、不快な思いをさせてしまった方々におわびする」と陳謝するとともに「LGBT理解増進法案」の提出について前向きな姿勢を示した。

この法案は、既に超党派の議員立法としてとりまとめられたもので、一昨年、国会に提出直前に自民党内の一部の反対で見送られた。

欧米では同性婚を認める動きが広がっており、今年5月にG7広島サミットで議長国を務める日本としては、早期に成立させるべきだとの意見が強まっている。

但し、自民党内には、伝統的な家族観を重んじる一部議員の反発は根強いといわれ、岸田首相や党執行部が党内をまとめきれるかどうかにかかっているようにみえる。

このほか、児童手当の拡充をめぐって、岸田首相や茂木幹事長らは所得制限の撤廃や18歳までの支給対象拡大に前向きな姿勢を示している。これに対し、西村経産相らは、財源が限られているので、所得の少ない人たちに重点に置くべきだとして、所得制限の撤廃に否定的な考えを示し、意見が対立している。

以上、見たように岸田政権にとっては、当初、懸念していた防衛増税に議論が集中する事態は避けられた一方、LGBT法案や児童手当など新たな問題への対応を迫られている。

国会と政権はそれぞれの役割、任務を果たしているのかどうか。新年度予算案の衆議院通過などを1つの節目に、今度は世論の側がどのような評価・反応を示すのか、報道各社の世論調査の結果を注目している。(了)

 

 

 

 

 

 

“本丸の議論はどこに?”国会論戦

国会は、衆議院予算委員会で基本的質疑が30日から3日間にわたって行われ、各党の主張や論点が出そろった。各党の質問が集中したのは「防衛増税」や、岸田政権が打ち出した「異次元の少子化対策」、それに物価高と賃上げ対応などだ。

いずれも重要な問題で、議論してもらいたいテーマだが、戦後の安全保障政策の大転換と位置づけられている「防衛力整備の内容・あり方」については、踏み込んだ議論にはならなかった。

これは、岸田首相が「防衛力整備の具体的な内容を明らかにするのは適切でない」と説明を避けたことがある。

また、与野党双方が近づく統一地方選挙を意識して少子化対策や物価高騰対策を前面に押し出し、自らの党の存在感をアピールしたいとの事情も影響しているようにみえる。

しかし、これでは日本の安全保障はどのように変わるのか、肝心な点がさっぱりわからない。「本丸の議論はどこにいったのか?」との思いを強くする。これからの防衛論議や国会論戦はどうなっていくのか考えてみたい。

予算委質疑に違和感、議論の重点が不明

冒頭に少し触れたが、30日から始まった衆議院予算委員会の論戦に違和感を覚えた。具体的には、内外に”大きな問題”、難題を抱えているのに、どうも緊迫感が伝わってこないからだ。

取り上げられたテーマを並べると、防衛増税、物価高騰と賃上げ、少子化対策と児童手当の拡充、黒田日銀総裁の後任人事と金融政策、さらには岸田首相の欧米歴訪に同行した長男、翔太郎秘書官のお土産購入などが主なものだ。

多様で幅広く問題を取り上げているが、何を優先し重点にすえて議論をしようとしているのかはっきりしない。いわば”ごった煮”のままの議論が続いている。

もっと端的に言えば、戦後の安全保障政策の大転換といわれる「防衛力の整備」をめぐる国会の議論が深まらないが、このままで大丈夫かという思いがする。

防衛費の増額に伴う「増税」の議論は活発だが、その根幹である「防衛力整備」の議論は深まらない事態をどう考えたらいいのかということでもある。

反撃能力、防衛力の水準をどう考えるか

それでは、予算委員会での実際の議論はどうだったのか。野党側は、焦点の「反撃能力」保有について、専守防衛の基本から外れる恐れがあるのではないか。また、防衛費を向こう5年間の総額で43兆円にまで増やした理由、根拠は何か。

さらに、新年度予算案に盛り込まれているアメリカ製の巡航ミサイル、トマホークはどのくらいの数を購入するのかといった点を質した。

これに対して、岸田首相は「反撃能力は、専守防衛の範囲内で対応する。武力行使は必要最小限の措置となる」。防衛費の総額は「1年以上にわたって議論を積み重ね、現実的なシュミレーションを行って、防衛力の内容を積み上げ、規模を導き出した」などと説明した。

さらに、トマホークについては「詳細を明らかにすることは適切ではない」と具体的に言及することを避けた。

政府が、新しい防衛力整備の方針について、国会で説明するのはこの国会が初めてだ。その最初の国会で、岸田首相のこうした一般的な説明で国民が理解、納得するのは難しいのではないか。

防衛問題は軍事機密の関係もあり、詳細な説明は難しい面はあるが、基本的な考え方や原則、わかりやすいケースを挙げて説明することは可能だ。政府側の説明は、量、質、熱意ともに不十分といわざるを得ない。

一方、野党側は防衛増税については、そろって反対しているものの、反撃能力や防衛力の整備をめぐっては考え方に違いあり、バラバラだ。本丸の防衛力整備をどのように考えるのか、政府の方針をどのようにチェックしていくのか、それぞれの党の対応方針を明確に示していく必要がある。

国民は、「反撃能力」を保有して本当に安全が増すのか、自衛隊と米軍との役割はどうなるのか。防衛力整備の必要性はわかるが、どの程度の水準が妥当なのかといった点に関心を持っているものとみられる。

政府と与野党は、こうした防衛力整備という根幹部分の議論をどのように進めていくのか。予算委員会だけでなく、防衛・外交を所管する合同の委員会、あるいは特別委員会の設置でもいいのだが、国会で政府の外交・安全保障政策を点検、議論し、国民に判断材料を提供する取り組みを早急に整備してもらいたい。

防衛増税と与野党攻防、最後のカギは

予算委員会の論戦では、防衛費の増額に伴う財源の確保をどうするのか、もう1つの問題を抱えている。

政府は、5年後以降に不足する1兆円を増税で確保する方針だが、野党側はそろって反対している。この問題で、野党第1党の立憲民主党と第2党の日本維新の会は連携して対応する方針で、対案を検討することにしている。

これに対し、自民党は国会改革などに応じる考えを維新に伝えて、維新、立民の両党間にクサビを打ち込もうとしている。

維新を挟んで、立民と自民が綱引きをしており、防衛増税に対する野党の対案がまとまるかどうかをみていく必要がある。

このほか、岸田首相が打ち出した「異次元の少子化対策」が与野党に波紋を広げている。

元々、この対策・構想は、防衛増税に野党や世論の関心が集中するのを避けるための戦術だとみられていたが、メデイアが盛んに取り上げていることもあり、予想以上に関心を集めている。

自民党の茂木幹事長が、児童手当の所得制限廃止を打ち上げたかと思うと、立憲民主党は、民主党政権時代の政策の正しさが証明されたとアピールに力をいれている。

維新や国民民主からは、教育の無償化や税の負担軽減を図る制度の導入につながると期待する声も聞かれる。このため、野党の関心を引きつけて、足並みを乱すという政権サイドのねらいが一定の効果を上げつつあるようにも見える。

但し、この問題は最終的に財源がどうなるかで、評価がガラリと変わる。岸田首相が表明している子ども予算の倍増には、新たに5兆円もの巨額な財源が必要になる。

社会保険料や企業からの拠出金、教育目的の新たな国債発行などの案も取り沙汰されているが、世論が諸手を挙げて賛成となるかは不透明だ。この少子化対策でも本丸は、巨額な財源をどう確保するのか、難題を抱えているからだ。

防衛力整備と財源の問題に話を戻すと国会では、政府・与党が仮に十分な説明をしないまま新年度予算案の採決、衆議院通過で論戦のヤマを越えたとしても問題は、世論の支持がどうなっているかだ。

報道各社の1月の世論調査では、いずれも防衛力整備の賛否は二分され、反対が賛成を上回っている。防衛増税は、賛成が2割から3割、反対が6割から7割を占め、岸田内閣の支持率は低迷している。

こうした世論の動向を考えると、岸田首相にとっての本丸は「世論の風向き」を変えられるかだ。これまでの姿勢を改めて、真正面から国会の論戦に向き合い、国民を説得できるかどうかにかかっている。(了)

防衛論戦”期待外れの首相答弁”

23日に召集された通常国会は、岸田首相の施政方針演説を受けて、25日から各党の代表質問が始まった。

今回の国会は、岸田政権が年末に安全保障や原発政策を大きく転換したあとだけに政策転換の是非などをめぐって、政府と与野党が一大論戦を行ってもらいたいと前号のコラムで取り上げた。

ところが、国会冒頭の論戦を聞く限り、岸田首相の答弁は従来の考え方や結論の繰り返しがほとんどで「期待外れの首相答弁」と言わざるを得ない。焦点の防衛問題を中心にこれまでの論戦の問題点や、今後のあり方を考えてみたい。

 防衛が焦点、原発、少子化など多い論点

通常国会冒頭の各党代表質問で、最初に質問に立った立憲民主党の泉代表は、防衛費の問題を取り上げ「まさに額ありき、増税ありき、そして国会での議論なしの乱暴な決定だ」として、増税を強行するなら衆議院の解散・総選挙で信を問うべきだと質した。

これに対し、岸田首相は「防衛力の抜本的強化や維持を図るためには、これを安定的に支えるための財源が不可欠だ。国民の信を問うかどうか、時の総理大臣の専権事項として適切に判断していく」と強調した。

また、政府が保有の方針を打ち出した「反撃能力」について、泉代表が「専守防衛の原則を逸脱する恐れがある」と追及したのに対し、岸田首相は「必要最小限の措置で、抑止力として不可欠な能力だ」と反論した。

日本維新の会の馬場代表、国民民主党の玉木代表、共産党の志位委員長らは、防衛力整備の考え方に違いはあるものの、防衛増税にはそろって反対を表明し政府の対応を質した。

このうち、維新の馬場代表は「防衛力の財源としては、景気回復に伴う税収増、コロナ感染の収束に伴うコロナ対策予算の活用、国債の償還期間の延長による新たな財源の確保ができるのに、なぜ、最初から増税を選択するのか」と増税案の撤回を求めた。

これに対し、岸田首相は「政府としても国民の負担を抑えるため、新たに必要となる財源の4分の3を行財政改革でまかない、残り4分の1を税制でお願いすることにした」と理解を求めた。

このほか、各党の代表質問では、政府が新増設の方針を打ち出した原発政策、少子化対策、物価高騰と賃金引き上げ、新型コロナの感染症法上の扱いの変更などを取り上げた。

このように論戦のテーマとしては、防衛問題をはじめ、議論すべき重要政策が極めて多いことが改めて浮き彫りになった。

但し、岸田首相の答弁は、従来の答弁や施政方針演説の繰り返しがほとんどで、残念ながら、議論が深まったとは言えないのが実態だ。

 防衛増税、全野党が反対、論戦激化へ

それでは、今後、どのような論戦が必要か。国民からすると、防衛予算の総額を向こう5年間で1.6倍の43兆円に拡大する計画や、不足財源を賄うために増税する方針は、この国会で初めて政府の説明を受けることになる。

それだけに◆なぜ、防衛予算を43兆円にまで拡大する必要があるのか。日本を取り巻く安全保障の変化を含めて、説明が欲しいところだ。

◆また、防衛のどのような分野を強化するのか。正面装備をはじめ、武器・弾薬の備蓄などの継戦能力、シェルターなど国民の避難・保護に充てる予算はどの程度なのか、詳しい知識を持っている人は多くはないのではないか。

◆さらに、防衛財源は、歳出削減でどの程度確保できたのか。施政方針演説で岸田首相は「増税」という言葉を一度も使わず、「今を生きる我々の責任」などと表現するのはどうしてか。たばこ税を引き上げるが、酒税を対象にしないのはなぜかといった点に疑問を感じる人は多いのではないか。

報道各社の世論調査のうち、最も新しい朝日新聞のデータ(21、22日実施)によると◆防衛費を増やす計画については、賛成44%、反対49%に分かれる。◆防衛増税については、賛成24%に対し、反対が71%と多数を占めている。

このデータから読み取れることは、政府の方針は依然として、国民の理解と支持が得られていないということだ。

国会論戦はこれから衆議院予算委員会に舞台を移して、本格的な質疑が行われる。まずは、岸田首相をはじめとする政府側が、従来の説明に止まらず、踏み込んだ説明ができるかどうかが問われる。

また、大きな政策転換を行った防衛政策と原発政策、それに少子化対策などについても政策転換に踏み切った理由、背景について、国民の納得がいくような説明が不可欠だ。できなければ、岸田内閣の支持率は低迷が続く可能性が大きい。

一方、野党側は政府方針の問題点を指摘したり、批判したりすることは野党の役割だが、政府方針を明確にするためにも自らの防衛力整備の考え方や財源の具体策を対案として示して、議論を深めてもらいたい。

  岸田政治とは何か?首相の政治姿勢

最後に代表質問でメデイアでは余り取り上げられないかもしれないが、参議院の立憲民主党の水岡俊一議員会長が興味深い質問をしていたので、触れておきたい。

水岡議員は「岸田首相は、安全保障政策や原発政策などの大きな政策転換を選挙で訴えず、国会でも十分な議論をしないで、次々に決定している。これは、内閣は連帯して、国民の代表である国会に責任を負う内閣法や憲法の基本原則から逸脱しているのではないか」と質した。

これは、政界の関係者の間で話題になっている「岸田政治とは何か?」とも共通する。安倍元首相でもできなかった「敵基地攻撃能力」の保有や、GDP2%へ倍増する方針を次々に決定できたのはなぜかという疑問だ。

岸田首相は「国家安全保障戦略など安保関連3文書は、国会においても丁寧な説明を心がけてきた。進め方に問題があったとは考えていない」「議院内閣制では政権与党が国政を預かっており、まずは、政府与党で1年以上の丁寧なプロセスを経て方針を決定した」と反論した。

岸田首相は国会で「防衛の内容、財源、予算を三位一体で決める」と繰り返し答弁したが、その中身について具体的に説明することはなかった。

また、与党の役割を強調・優先する考え方をしているが、昭和、平成の自民党のリーダーは、国会での議論、野党との論戦を重視する考え方が主流だったと思う。

この点でも、岸田首相は保守のリーダー像を大きく転換させている。国会論戦では、政策論争とともに重要政策の決定の仕方、国会との関係、リーダーの政治姿勢のあり方などについても議論をしてもらいたい。

30日から始まる予定の予算委員会の論戦では、岸田政権が打ち出した一連の政策転換をめぐる質疑がどのように展開するか。世論の受け止め方はどうか、さらに岸田政権の行方にどのような影響を及ぼすか、注目点が多い。(了)