”難題 山積国会”開会 一大論戦を

通常国会がいよいよ23日に開会し、岸田首相の施政方針演説と、これに対する各党の代表質問が行われて、本格的な論戦が始まる。

岸田政権は年末、防衛力の抜本強化と防衛増税、既存原発の運転期間延長や原発の新増設の方針などを次々に打ち出し、歴代政権の政策を大きく転換した。

また、今月13日に行われた日米首脳会談で、岸田首相は、バイデン大統領と日米同盟を更に深化させていくことなどで合意した。

ところが、一連の方針をめぐって国会での質疑はなく、国民への説明もほとんどなされてこなかった。それだけに岸田政権に対する国民の視線は厳しいことが、報道各社の内閣支持率の低迷に表れている。

こうした中で開会する今度の国会の特徴を一言でいえば、大きな問題を数多く抱える「難題山積国会」と言えそうだ。それだけに政府・与党と野党側との間で、多くの課題について徹底審議を行ってもらいたい。

徹底審議ではありきたりに聞こえるので、やや大げさに聞こえるかもしれないが、「一大論戦を戦わせてもらいたい」というのが私個人の率直な思いだ。特に防衛政策については、中長期に及ぶ問題だけに国民の納得がいく突っ込んだ論戦を行ってもらいたい。

通常国会は、こうした防衛問題や原発政策のほか、40年ぶりの物価高騰と経済・財政運営、脱炭素社会に向けた経済社会づくり、抜本的な少子化対策、旧統一教会の被害者救済問題など緊急課題が目白押しで、待ったなしの状態にある。

 与野党攻防、防衛増税の扱いが焦点

次に与野党の攻防という観点からみると、通常国会前半の焦点は、一般会計の総額が過去最大114兆円にのぼる新年度予算案と、防衛問題になりそうだ。

岸田首相は、欧米5か国歴訪から帰国した直後の17日に開かれた自民党役員会で、通常国会では防衛力の抜本強化や少子化対策などについて議論し、実行に移していく決意を表明した。

岸田首相は先のアメリカ訪問で、バイデン大統領との間で、日本の反撃能力の保有について、アメリカ側の支持と協力をいち早く取りつけたことに自信を深め、防衛力強化と安定財源確保の方針については一歩も譲らない構えだ。

これに対し、野党第1党・立憲民主党の泉代表と、第2党・日本維新会の馬場代表が18日会談し、政府の防衛増税に強く反対し、撤回を求めていくことで一致した。また、共同の作業チームを設けて、行財政改革などを検討し、財源をねん出する具体案をまとめることにしている。

野党側は、防衛力整備の内容などをめぐっては違いがあるものの、政府の防衛増税に対しては、他の野党も反対していくことで、足並みがそろう見通しだ。与野党の対決色の濃い国会になりそうだ。

一方、自民党の茂木幹事長はこれに先立つ17日、維新の馬場代表と会談し、維新が重視している国会改革で協力したいとの考えを伝えた。立憲民主党と維新との連携にくさびを打ち込む狙いがあるものとみられる。

維新を挟んで、立憲民主党と自民党が自らの陣営に引き込む動きが水面下で続くことになりそうだ。

このほか、自民党内では萩生田政調会長をトップとする特命委員会が19日に初会合を開き、増税に頼らない新たな財源を検討することにしている。この会のメンバーは安倍派の議員が多く、増税に代わる具体的な財源を政府や党執行部に求めていくものとみられる。

このように国会での論戦が続く一方で、防衛財源のあり方をめぐって、野党間や与野党、自民党と政府との間で様々な調整や駆け引きが行われる見通しだ。

最終的には、新年度予算案と防衛財源を確保する法案が原案通りで採決されるのか、それとも法案の修正が行われるのかが大きな焦点になるのではないか。

 防衛力整備と財源、世論の評価がカギ

ここまで通常国会の論戦のあり方と、防衛増税をめぐる与野党の動きをみてきたが、与野党の攻防がどうなるかは、最終的には世論の動向・評価がカギを握っているとみる。

というのは、岸田政権は内閣支持率が低迷していることに加えて、防衛増税で世論の支持を失うと、4月の統一地方選挙や衆議院の統一補欠選挙にも影響が出てくるからだ。岸田政権と自民党執行部は、世論の風向きも見ながら、防衛増税の扱いを判断することになる。

その政権与党に波紋が広がっているのが、読売新聞が今月13日から15日にかけて行った世論調査の結果だ。

政府の防衛増税の方針については「賛成」が28%に対して、「反対」が63%と大幅に上回った。内閣支持率も39%で前回と同じ水準に止まった。岸田首相が欧米を歴訪、日米首脳会談の直後でも、政権の浮揚効果が見られなかったからだ。

こうした傾向はNHKがこれより先1月7日から9日にかけて行った世論調査でも、防衛増税に「賛成」28%、「反対」61%でほぼ同じ水準だった。

向こう5年間の防衛費の総額を43兆円に大幅に増やすことについても、世論の賛否は分かれたままだ。

つまり、国民は物価高騰の中で、増税に敏感になっている事情もあるが、そもそも防衛力強化と大幅な予算増額のねらいや内容の説明そのものが、国民に伝わっていないと判断するのが自然ではないか。

防衛政策の大転換をめぐって、与党内や国会でもあまりにも議論が少なかったツケが今、跳ね返ってきているのではないか。

したがって遅ればせながら、まずは、政府が国会で十二分に説明すること。そのうえで、政府も「一大論戦」の覚悟で野党に臨まない限り、国民を説得するのは難しいのではないかと思う。

政府が年末に閣議決定した国家安全保障戦略の冒頭部分に次のような一文がある。「国家としての力の発揮は、国民の決意から始まる」「本戦略の内容と実施について国民の理解と協力を得て、国民が我が国の安全保障政策に自発的かつ主体的に参画できる環境を、政府が整えることが不可欠である」とある。

この指摘は、政治の要諦でもある。通常国会でも岸田首相は言葉だけでなく、行動、政権運営で率先垂範すべきだ。(了)

 

 

 

 

通常国会、防衛論争と世論の動向が焦点

新しい年・2023年が明けて、政治も本格的に動き始めた。岸田首相は年頭の記者会見を終えた後、9日から欧米5か国を歴訪中だ。13日には、ワシントンで日米首脳会談が行われる。

新年前半の政治の主な舞台となる通常国は23日に召集され、6月下旬まで続く。その通常国会最大の焦点は、向こう5年間の防衛力の整備と増税問題になる。政府・与党と野党との間で、激しい防衛論争が繰り広げられる見通しだ。

問題は、国民の支持がどうなるかだ。10日にまとまったNHK世論調査によると、岸田政権が決めた防衛費の財源を確保するための増税方針については、賛成が28%に対し、反対が61%に達し多数を占めた。

政府の方針を理解し、納得している国民は少ないことが、改めて浮き彫りになった。岸田内閣支持率も先月より3ポイント下がり33%、下落に歯止めがかかっていない。

国会での論戦が始まり、この世論がどう動くのか。政府・与党、あるいは野党のどちらの主張を支持するのか、岸田政権とその後の政局に大きな影響を及ぼす。防衛力整備と財源のあり方や問題点を考えてみたい。

 難題山積、防衛増税めぐり与野党対決

岸田首相は、新年4日の年頭の記者会見や8日のNHK日曜討論の番組などで「新年は、先送りできない課題に正面から愚直に挑戦したい」として、防衛力の抜本強化をはじめ、エネルギー政策、経済の好循環、それに異次元の少子化対策などの課題に幅広く取り組んでいく考えを表明した。

これに対し、野党第1党・立憲民主党の泉代表は「防衛費や経済対策、エネルギー政策などについて、チェックしていく。特に防衛費については、5年間で43兆円という額は適切なのか、検証しなければならない」として、他の野党とも連携して通常国会で厳しく追及する考えだ。

野党第2党の日本維新の会の馬場代表も「防衛費の不足財源を増税で賄う政府の方針は、国民の理解は得られないだろう」と批判的だ。

立憲民主党と日本維新は、去年の臨時国会で連携したのに続いて、通常国会でも連携を図っていく方針だ。具体的には、防衛費の財源については、行財政改革によって財源を捻出する対案などを検討することにしている。

通常国会では、新年度予算案の審議とともに、防衛増税をめぐって政府・与党と野党側が対決する公算が大きくなりつつある。

 防衛力整備と財源 多岐にわたる論点

それでは国会の論戦では、具体的にどのような点が論点になるか。自民党の防衛族・防衛問題の専門家や、野党幹部の話を聞いてみると論点は多岐にわたる。

▲1つは、国家安全保障戦略など安全保障関係3文書が10年ぶりに改訂された問題がある。外交・安全保障の基本方針を策定するもので、今回は「反撃能力」の保有を盛り込んだのが大きな特徴だ。

「反撃能力」は、これまで「敵基地攻撃能力」と表現されてきたのを改称したものだが、相手国のミサイル基地などを叩く能力だ。歴代政府は、憲法上許されるが、政策判断として保有しないとしてきたが、今回、保有する方針に転換した。

専守防衛、戦後の安全保障政策の大きな転換だが、政府は周辺国のミサイル能力の向上に対応するため「必要最小限度の措置」だと説明している。

これまで自衛隊は「盾」、米軍が「矛」の役割を明確にして分担してきたが、これから日本は「矛」の一部の役割も果たすことになる。

これに対して、野党側は「我が国に対する『攻撃の着手』の判断が、現実的には困難で、先制攻撃となるリスクが大きい」として、保有に反対する意見もあり、活発な議論が交わされる見通しだ。

▲第2は、防衛力整備の中身で、知りたい点は実に多い。◇向こう5年間の防衛費を1.5倍の43兆円に増やしたが、どのように積算したのか。◇自衛隊の弱点といわれてきた弾薬などの備蓄、予備自衛官の確保など継戦能力はどの程度、改善されるのか。

◇反撃能力の確保に米軍の巡航ミサイル「トマホーク」を購入する計画だが、反撃能力の効果は期待できるのか。◇国民を避難させるシェルターなど国民保護・避難体制の取り組みが弱いのではないかといった点が指摘されている。

▲第3は、防衛費の財源問題だ。政府は、新年度の防衛費について、今年度より1兆4000億円上積みし、過去最大の6兆8000億円を計上している。

また、防衛費の増額で必要となる財源は、5年後の2027年度に1兆円余りで、これを法人税など3税の増税で賄う。但し、増税の実施時期は「2024年以降の適切な時期」として、今後検討することにしている。

これに対し、野党側は「政府の防衛予算は最初からGDP比2%とするなど”数字ありき”で、無駄のない調達や歳出努力が不足している」として、歳出改革による対案の提出を検討することにしている。

このほか、防衛財源として、剰余金やさまざまな基金の積み残しをかき集めて確保しているが、5年後も安定財源が担保されているのかなどをめぐって、詰めた議論が行われる見通しだ。

 国民への説明不足、問われる政権

ここまで政府の方針と通常国会で予想される論点を見てきたが、国民がこうした防衛力整備と財源確保策をどのように評価するかという問題がある。

岸田首相は、1年かけて丁寧に議論を重ねてきたと強調するが、国民の多くは、防衛力整備の具体的な内容、財源、予算を耳にしたのは、おそらく去年11月下旬以降だと思われる。

岸田首相が11月28日に財務・防衛の両閣僚に対して、5年間でGDP2%に達する予算を指示したことが報道された後、あれよあれよという間にわずか3週間で、増税と予算方針が決まったというのが実態ではなかったか。

これまでは政府・与党間で検討が進められ、ようやく通常国会になって、政府と各党の議論を通じて、国民は政府の説明を聞くことになる。国の防衛、国民の暮らしや安全の確保にどこまでつながるのか、国民が判断することになる。

新たに改定された「国家安全保障戦略」の冒頭に「(安全保障上の)国家としての力の発揮は、国民の決意から始まる。国民が我が国の安全保障政策に自発的かつ主体的に参画できる環境を、政府が整えることが不可欠である」と強調している。

岸田政権の国民に対する説明は明らかに不足していたのではないか。通常国会でも、具体的な説明と説得ができるのかどうか、問われることになる。

 政権浮揚か、野党攻勢か、世論がカギ

最後に、政局との関係についても触れておきたい。岸田首相がいつ衆議院解散・総選挙に踏み切るかの議論が盛んだが、岸田首相としては好機があれば、解散刀を抜いてみたいという思いは抱いているのではないかと推察する。

問題は、解散の環境が整うかどうかだ。その環境整備のためには、岸田政権が防衛問題で世論の理解と支持を得て、内閣支持率が回復、政権浮揚が必要になる。それとも野党が論戦の主導権を確保して、攻勢に転じることになるのかどうか、分かれ道になる。

10日にまとまったNHK世論調査によると、岸田内閣の支持率は先月より3ポイント下がって33%、不支持率は1ポイント上がって45%だ。

内閣支持率は下落に歯止めがかかっておらず、政権発足後、最も低かった去年11月と同じ水準だ。通常国会で野党の攻勢が続けば、”危険水域”とされる支持率3割割れの可能性もある。

衆院解散・総選挙といった政局よりも、岸田政権は防衛力整備と財源問題で世論の支持を回復できるか、待ったなしの状態だ。通常国会の防衛論争と世論の動向が、岸田政権と今後の政局のゆくえを大きく左右することになる。(了)

“政局より政策、カギは世論” 2023年展望

新しい年、2023年の政治はどのように動くか。今年は、例年のような衆議院解散・総選挙をめぐる駆け引きや政変といった「政局」よりも、「政策」に焦点を当ててみていく必要があるのではないか。

その理由は、端的にいえば、岸田政権が防衛力の抜本強化や原発の新規建設など政策の大きな転換を打ち出し、年明けの通常国会で最大の焦点になるからだ。

そして、国会での与野党の論戦のゆくえと、国民がどのように受け止め、評価するか、”新年の政治の核心”は「世論の動向」がカギを握っているとみる。

こうした世論の動向は、政治の側に跳ね返り、岸田政権や与野党の新たな動きを生み出していく。2023年の政治のゆくえを分析、展望する。

春に統一地方選、大きな選挙がない年

初めに今年の主な動きをみておきたい。◆日本は1月から、国連の非常任理事国の任期が始まり、G7=主要7か国の議長国を務める。

このため、岸田首相は1月上旬にフランス、イタリア、イギリスを歴訪し、G7各国に協力を要請する。続いて、カナダを経由してアメリカに入り、13日にバイデン大統領と日米首脳会談を行う日程で調整が進められている。

◆1月下旬には通常国会が召集され、与野党の論戦が始まる。新年度予算案などの審議が行われ、会期は150日間で、6月下旬まで続く。

◆3月下旬からは、4年に1度の統一地方選挙が始まる。◇前半戦は、4月9日に9つの道府県と6つの政令指定都市の長、41道府県と17政令市の議員を選ぶ投票が行われる。

◇後半戦は、23日に市区町村の長と議員の投票が行われる。当日は、衆参両院の統一補欠選挙、衆院千葉5区、和歌山1区、山口4区などの投票が行われる。

◆5月19日から21日の日程でG7サミットが、岸田首相の出身地である広島市で開かれ、各国首脳が集まる。

◆9月末になると岸田首相の自民党総裁としての任期切れまで1年になる。自民党役員人事や内閣改造が行われ、総裁選をにらんだ動きが始まる見通しだ。

このように今年は春に統一地方選挙や衆参の補欠選挙が行われるものの、衆議院が解散されない限り、全国規模の国政選挙、大きな国政選挙がないのが特徴だ。

衆院解散、首相退陣の確率は低いか

さて、その解散・総選挙だが、衆議院議員の任期満了は再来年・2025年の10月、参議院議員の任期満了は同じ年の7月だ。

政界の一部には、5月のG7サミットを終えた後、内閣支持率が上がった場合、岸田首相は衆議院の解散・総選挙に踏み切るのではないかとの観測がある。

岸田首相は年末、民放のBS番組で、防衛増税の実施前に衆院選が行われるとの認識を示したが、こうした早期解散を念頭に置いているのかもしれない。

但し、岸田内閣の支持率は政権発足以来、最も低い水準に低迷したままだ。好転する材料は乏しいとして、与党内では解散には踏み切れないだろうとの見方が多い。

一方、4月の統一地方選挙で自民党が不振の場合、「岸田降ろし」の動きが出てくるとの見方もある。しかし、与党幹部は、地方の選挙結果が首相の進退につながることはほとんど考えられないとして、否定的だ。

自民党内は、安倍元首相が亡くなった後、最大派閥の安倍派の会長は未だに決まっていない。また、岸田首相に対する批判が強まっても0、批判勢力をまとめあげていくリーダーが見当たらないとして、年内の政変を予想する見方は少ない。

このようにみてくると新年は、衆院解散・総選挙や、首相退陣といった政変が起きる確率はかなり低いとみている。

国会論戦、防衛政策の大転換が焦点

それでは、新年の”政治の変数”は何か。大きな要素は、岸田政権が長丁場の通常国会をどのような形で終えるかではないか。

岸田政権は年末、向こう5年間の防衛費を1.5倍の43兆円に増やすとともに不足財源1兆円を増税で賄う方針を決めた。また、原発政策では、既存原発の60年を超える運転を認めることや次世代型の原子炉の開発・建設に取り組む方針をまとめた。いずれも歴代政権の政策を大きく転換する内容だ。

自民党の閣僚経験者に聞くと「防衛のどの分野を強化するのかという中身と、そのための安定財源、予算規模はこうすると論理的に説明できていないので、国民の理解を得るのはたいへんではないか」と国会乗り切りを危惧している。

野党の幹部は「政府・与党の方針は初めに規模ありきで、43兆円もの巨額予算が必要なのか精査する必要がある。また、軍備優先で、外交視点が欠落している。特に財源は、安定財源と言えるのか疑問だ」として、徹底追及する構えだ。

原発政策をめぐっても東日本大震災の福島原発事故の後、政府が示してきた原子力政策を大きく変更する内容だけに激しい議論が交わされる見通しだ。

このほか、年末に秋葉復興相が辞任するなど4閣僚の辞任ドミノを引き起こした岸田首相の任命責任をはじめ、旧統一教会の解散請求や被害者救済への取り組み、40年ぶりの物価高騰や世界的な景気減速への対応など難問が目立つ。

野党側は、第1党の立憲民主党と第2党の日本維新の会が去年の臨時国会に続いて、通常国会でも連携を継続する見通しだ。焦点の防衛費をめぐっては、政府・与党の増税方針に対して、両党は行財政改革で財源を捻出する対案を検討していくことにしており、与野党が真正面からぶつかり合うことになりそうだ。

去年の臨時国会は、旧統一教会問題で久しぶりに野党の攻勢が目立った。通常国会では、政府・与党と野党のどちらが主導権を確保するのか、岸田政権の政権運営とともに大きな注目点だ。

世論がカギ、政権・政局のゆくえ左右

こうした与野党の論戦を通じて、国民は大きな政策転換を打ち出した岸田政権をどのように評価するのか。この点が、”新年の政治の核心”とみる。

報道各社の世論調査をみると、国民は防衛力整備については賛否が分かれる一方、財源確保のための増税については、6割以上が反対している。政府の方針に対する国民の評価は、まだ定まっていないようにみえる。

加えて自民党内は、最大派閥・安倍派を中心に国債発行論が根強い。また、岸田政権は増税方針を打ち出す前の党内調整が弱く、政策の打ち出し方が稚拙などと不満や批判が数多く聞かれる。

それだけに年明けの通常国会で、岸田首相が説得力のある説明をできるかどうか。そして、国民の支持を得ることができるかどうか、今後の政権運営に当たって極めて大きな意味を持つ。

岸田内閣の支持率は、12月中下旬に行われた世論調査ではいずれも3割台前半から半ば(朝日31%、共同33%、日経35%)に止まり、低迷が続いている。国会論戦を通じて支持が広がらないと、危険水域とされる支持率30%割れの事態も予想される。

自民党の長老に向こう1年の見通しを聞いてみた。「自民党は、衆参の選挙や総裁選といった大きな選挙がないと動かない。岸田首相は低空飛行が続くだろうが、政権を投げ出すタイプではない。また、取って代わる人物がいないので、ズルズル続くのではないか」との見方だ。

そのうえで「政局は大きな選挙を控えて動く。本格的な動きが出てくるのは、再来年の連休明けくらいか。今年は、再来年に向けた備えの年ではないか」と語る。

自民党内は安倍元首相が亡くなった後、最大派閥・安倍派のゆくえが、未だに定まらない。麻生、茂木、岸田の各派はいずれも出身閣僚が更迭となり、そのほかの派閥も問題を抱え、各派総崩れ状態、態勢の立て直しを迫られている。

このため、冷静にみると”自民党内政治”が大きく動く可能性は、小さい。2023年の政治は”政局よりも政策”、防衛問題を軸に国会の論戦がどのように展開するか。

また、国民の評価と支持が、岸田首相や、新たなリーダー候補、野党側のどこに向かうのか。そうした結果が政治の側に跳ね返り、与野党に新たな動きを引き起こす。今年の政治は「世論の動向、世論の風の吹き具合」がカギを握るとみている。(了)

”防衛増税 反対6割”政権運営に影響も

我が国の外交・安全保障の基本方針を盛り込んだ国家安全保障戦略など3つの文書が改定され、16日閣議決定された。

防衛力を抜本的に強化するための予算の財源として、1兆円の増税方針も与党の税制改正大綱に盛り込まれた。

岸田首相は当日の記者会見で「国家、国民を守り抜く総理大臣としての使命を断固として果たしていく」と胸を張った。

今回決定された内容は、戦後の安全保障政策を大きく転換するもので、国民はどのように受け止めるのだろうか、個人的に大きな関心を持ってきた。その国民の受け止め方について、報道各社の世論調査がまとまった。

それによると各社の調査とも、今回の防衛増税については「6割以上が反対」という厳しい受け止め方をしていることが浮き彫りになった。

こうした世論の動向は、防衛財源をめぐる議論に当たって大きな意味を持つ。同時に年明け以降の岸田政権の政権運営にも大きな影響を及ぼすことになるだろう。

 防衛費増は賛否拮抗、増税に強い反対

報道各社の世論調査は17、18の両日行われ、朝日、毎日、産経、共同の各社の調査結果がそれぞれ報道されている。

▲政府は、防衛力を抜本的に強化するため、2023年度から5年間の防衛費を1.6倍の43兆円とする方針を決めた。こうした防衛費の賛否について、各社の調査結果は、次のようになっている。

◇朝日は賛成46%ー反対48% ◇毎日は賛成48%ー反対41% ◇産経は評価する46%ー評価しない48% ◇共同は賛成39%ー反対53%

社によって多少のばらつきがあるものの、賛成と反対に二分されており、その比率はかなり拮抗している。

▲政府・与党は、防衛力を整備する財源として、およそ1兆円増税する方針を決定したが、どのように評価するか。

◇朝日は賛成29%ー反対66% ◇毎日は賛成23%ー反対69% ◇産経は評価する26%ー評価しない70% ◇共同は支持する30%ー支持しない65%

各社の調査とも賛成は3割以下に止まり、反対は6割以上で共通している。反対の割合は、65%以上から70%と多い。3人のうち2人の割合で、反対または支持・評価しないという厳しい受け止め方をしているのが特徴だ。

 順序が逆、防衛力の中身知らされず

それでは、岸田首相にとって誤算はどこにあったのか。1つは、増税に関する情報、説明が圧倒的に不足していたことが、わかっていなかったのではないか。

岸田首相が防衛力整備に具体的に踏み込んだ発言をしたのは11月28日が最初で、防衛費をGDPの2%水準にするよう指示した。その翌週12月8日には増税の検討を指示し、その後わずか1週間で増税内容を決めたことになる。国民の多くには、拙速と映ったのではないか。

次に議論の進め方の問題もある。防衛力を抜本的に強化するのであれば、その内容、目的などを明確に十分説明したうえで、財源を検討、その上で、年末の予算編成時に予算内容を提示するのが、本来あるべき望ましい進め方だ。

ところが、今回は「順序が逆」で、増税の議論が先行、後から防衛3文書の中身が公表となり、国民に対して不親切という指摘は与党幹部からも聞かれた。

さらに、増税の内容やタイミングの問題もある。例えば、東日本大震災の「復興特別所得税」の転用、目的外使用とも言える筋の悪い提案が出てきた。

あるいは、国民が物価高に苦しんでいる時期であることや、企業が賃上げに乗り出そうとする矢先で、経済政策の面からも失敗といった酷評も聞かれた。

このように防衛力整備の内容や意義を国民に十分説明しないまま、増税論が先行し、混乱したツケが、政権側に跳ね返る構図になっている。

    ”竹下流、覚悟や段取りなし”

増税実施に当たって、国民の理解を得るのはどの政権にとっても難しいのは事実だ。但し、岸田政権の対応は余りにも「覚悟と段取り」が乏しいと感じる。

新たな方針を決めた日の記者会見で「増税のプロセスが拙速ではないか」と聞かれたのに対し、岸田首相は「プロセスに問題があったと思っていない。昨年の暮れから議論を進めていた」と反論した。そして、関係閣僚をはじめ、政府の有識者会議などにも諮り議論を重ねてきたことを強調した。

だが、増税の問題は、国会などでの議論を通じ、繰り返し説明することで国民に説明・説得できるかが重要な点だ。昭和や平成前半の首相や政権幹部は、国会での与野党の質問者の背後にいる国民を意識し、答弁する人が多かったと思う。

その典型が、消費税導入に取り組んだ竹下元首相だ。「たとえ、いかなる困難があろうとも、もし聞く人がなくとも『辻立ち』してでもわが志をのべる」と訴え、野党の追及にも耐え、段取りを整えながら法案の成立にこぎ着けた。

これに対して、安倍政権以降この10年、国会での議論を嫌がり、もっとはっきり言えばムダと考える閣僚や幹部が増えたように思う。

岸田政権もこの延長線上にあり、政権内での議論は続けるが、世論に向き合い、意見を分析しくみ上げる力が弱いのではないか。旧統一教会の問題に続いて、今回の防衛問題でも同じような失敗を繰り返しているように見える。

具体的には今年5月、来日したバイデン大統領との会談で岸田首相は「相当な防衛費の増額」を約束しながら、国会や国民に対する掘り下げた説明はみられなかった。竹下元首相流の覚悟や段取りはみられなかったと言わざるを得ない。

世論への向き合い方が弱ければ、内閣支持率の下落は避けられない。報道各社の今月の内閣支持率をみるといずれも30%台前半で政権発足以来最低の水準に落ち込んでいる。不支持率は、5割から6割台にも達している。

内閣支持率は、旧統一教会関連の新法成立が評価されて、いったん下げ止まりとみられていたが、防衛増税の問題で再び、歯止めがかからなくなった。

年末の予算編成を終えても支持率が大幅に上昇するような材料は、見当たらない。世論の動向は、岸田政権の今後の政権運営にも引き続き、大きな影響を及ぼすことになりそうだ。

このため、年明けの通常国会までに防衛問題などで国民の理解と支持を得られるかどうかは、岸田政権の政権運営にあたっての大きな難問、難所になるとみられる。

その際、岸田首相が国民に真正面から向き合い、段取りを設定しながら着実に懸案を処理できるかどうか、難しいかじ取りを求められる年になるのではないか。(了)

迷走 “防衛増税”どうなるか?

防衛費増額の財源をめぐって、岸田首相の対応と自民党内の議論が迷走している。岸田首相は13日朝、自民党本部で開かれた党の役員会で「責任ある財源を考え、今を生きる国民が自らの責任として対応すべきものだ」と増税の意義を力説した。

増税の具体案づくりが大詰めの段階で、しかも党役員の面々を前に「あるべき論」を持ち出さざるを得ないところに岸田首相の苦境がうかがえる。

自民党は13日から税制調査会で議論を始めたが、増税に反対意見が噴出し、今週中に与党の税制改正大綱の決定にまで持ち込めるかどうかメドがたっていない。防衛増税をめぐる迷走の事情と、どんな対応が必要なのか探ってみたい。

 強まる反発「復興特別所得税」転用

まず、頭の中を整理するために岸田首相の防衛財源をめぐる対応を手短にみておきたい。先の臨時国会最終盤の11月28日と12月5日、岸田首相は浜田防衛、鈴木財務の両閣僚を呼んで、27年度に防衛費をGDPの2%、5年間で総額43兆円の規模とするよう指示した。

続いて12月8日、今度は政府与党政策懇談会で、防衛財源確保のため、歳出削減などを行っても不足する財源、1兆円余りを増税で賄うよう与党に検討を指示した。

これに対して、閣内から西村経産相や、高市早苗・経済安保担当相が、多くの企業が賃上げや投資に意欲を示している時期に増税は避けるべきだとして、慎重な対応を求めた。

また、萩生田・政調会長も直ちに増税で対応するのではなく、国債の追加発行もありうるとの考えを打ち出した。首相と党の政策責任者の考え方の違いが表面化するのは、この10年なかったことだ。

こうした中で、11日に開かれた自民党税制調査会の幹部の会合で、不足する財源対策として、復興特別所得税を転用する案が示された。

この復興特別所得税は、東日本大震災の復興に協力するため、2013年から25年間、所得税の2.1%上乗せして7.5兆円の復興財源を確保する税制だ。

ところが、この「復興特別所得税」の転用が浮上したことで、自民党内の増税反対論が一気に広がった。国民負担は増やさないという岸田首相の表明に反することに加えて、復興財源に手をつける悪手の印象を与えたからだ。

 背景に選挙、先送り体質、後継問題も

それでは、自民党内でこうした反対論が強まるのはなぜか。1つは、来年4月の統一地方選挙を控えて、増税を打ち出されては選挙が逆風となると受け止める議員が多いことがある。

また、自らを支持する業界関係者などへの配慮に加えて、国民負担の増加は自らの政治活動にも悪影響を与えるので、先送りにしたいという根強い体質があると思う。

さらに、自民党最大派閥、安倍派の後継問題も絡んでいるから複雑だ。安倍元首相は防衛力を大幅に増強するとともに、経済再生優先の立場から増税ではなく、国債発行で対処すべきというのが持論だったとされる。

このため、萩生田政調会長をはじめ、西村経産相、世耕参院自民党幹事長ら安倍派の幹部は、安倍元首相の遺訓に従い、国債発行路線を簡単に変更できない事情があるとの見方が多い。

端的に言えば、派閥の跡目争い、政争の思惑も絡むので、政策論で議論を尽くせば、対応策が1つに集約されるほど簡単のものではないことは予想がつく。

しかし、国の重要な防衛政策がこうした派閥次元の事情で、方針決定が先送りされるようなことが許されるはずがない。

 財源先送りでなく、政治決定できるか

それでは、これから、どんな展開になるのだろうか。14日に開かれた自民党税制調査会で、宮沢洋一税調会長ら幹部は、法人税、たばこ税、復興特別所得税の3つの税目を組み合わせた増税案のたたき台を示した。

但し、具体的な税率や実施時期は示されておらず、今後、意見を集約し、今週中に与党の税制改正大綱をとりまとめることができるかどうかが焦点になる。

一方、防衛力整備と財源確保の進め方をどのように考えたらいいのだろうか。国民の評価が決め手になるので、今月12日にまとまったNHKの世論調査のデータでみておきたい。

◆まず、政府が来年度から5年間の防衛予算を総額43兆円に増額する方針については、賛成が51%に対し、反対は36%となっている。

◆次ぎに防衛費の財源として、法人税を軸に増税を進めるとしている方針については、賛成は61%で、反対の34%を上回っている。

つまり、防衛予算を増やして整備を進めるとともに、そのための財源として、法人税を軸に増税は必要だと考える人が多いことが読み取れる。

調査の時点では、復興特別所得税は検討対象になっていなかったので、この税目が入ると数値が変わる可能性があるが、傾向は大きくは変わらないのではないか。

こうした世論の動向を基に、岸田政権の対応を評価してみると、国民の関心が強い防衛力整備の中身や構想について、政府の説明がほとんどなく、増税が先行しているのは、本末転倒でおかしいと受け止めているのではないか。

岸田政権の対応は、重要課題の方針決定までの手順、段取りが不十分で、国民への説明ができていない点が大きな問題ではないかとみている。

一方、自民党内の議論や対応については、岸田首相の増税案に対する批判は強いが、代替財源をどうするのかの議論は深まってはいない。

仮に国債を発行する場合、返済の財源は何か、いつから返済を開始するのかを示さないのは無責任だ。そうした先送りを続けてきた結果が、今の国債発行残高1400兆円の借金の山で、国民は不信感を抱いている。

岸田首相は、これまで防衛力の内容、財源、予算の3つを一体として議論し決定すると再三再四、強調しながら実行できなかったツケが、顕在化している。

中曽根政権のような目標を明確に打ち出し決断・実行する力や、竹下政権のような段取りの用意周到さが、岸田政権には欠けているのではないか。

政権与党はもう一度、原点に戻って、防衛力整備の構想と内容を明確にしたうえで、必要な財源の再検討、その結果を予算案として提示する手順を踏む必要があるのではないか。

時間がないとの反論があるかもしれないが、90年代初めの細川政権下では、当時大きな焦点だった政治改革法案を優先し、予算編成が越年したこともあった。

今回の防衛力の抜本強化は、戦後の安全保障政策を大きく転換する重い内容だ。それにふさわしい十分な議論と国民への説明を尽くす覚悟と決意があるのか、国民は政権の対応を見極めようとしているのではないか。(了)

★追記(15日21時45分)◆ブログ原稿冒頭部分関連。岸田首相が13日自民党役員会で行った挨拶「今を生きる国民」→「今を生きるわれわれ」に修正。自民党が、発表に誤りがあったとして、修正した。                 ◆自民党税制調査会は15日、防衛増税策について、法人税、所得税、たばこ税の3つの税目を組み合わせる案を了承した。増税の施行時期については、いずれも「令和6年=2024年以降の適切な時期」としている。実施時期などは、事実上の先送りで、来年改めて議論を行うものとみられる。

順序が逆では! 岸田政権の防衛力整備

新年度予算の編成を控えて、最大の焦点である防衛力の強化と財源確保に向けた動きが、本格化してきた。岸田首相は8日、防衛予算の財源を確保するため、増税の検討に入るよう自民、公明両党に要請した。

岸田首相は、このところ防衛予算の規模や財源をめぐる指示が目立つが、防衛力整備の構想や中身の言及がほとんどみられない。

今回の防衛力整備は、戦後の安全保障政策の大転換となる。そうであれば、防衛力整備の考え方などを明確にしたうえで、予算の規模や財源の検討に入るのが基本ではないか。岸田政権の対応は、順序が逆に見える。防衛力整備の進め方や問題点を考えてみたい。

 歳出改革などと1兆円規模の増税案

まず、岸田首相の最近の対応からみておきたい。岸田首相は先月28日に鈴木財務相と浜田防衛相と会い、2027年度に防衛費と安全保障関連経費を合わせてGDPの2%に達する予算措置を講じるよう指示した。岸田首相が、防衛費の水準について言及したのは、これが初めてだった。

続いて今月5日には、来年度から向こう5年間の防衛費について、総額43兆円を確保する方向で調整を進めるよう踏み込んだ。

さらに8日の政府与党政策懇談会で、岸田首相は「防衛力を安定的に維持するためには、毎年度4兆円の追加財源が必要になる。歳出改革や税外収入などで賄うが、残り1兆円強は、国民の税制でお願いしたい」として、与党に増税を検討するよう要請した。

政府・与党は、増税の開始時期については、来年度の増税を見送り、その後、段階的に税率を引き上げ、2027年度の時点で、年間1兆円の増税をめざす方針だ。その際、個人の所得税は対象から外し、法人税を中心に検討する方針とみられる。

 岸田政権は予算先行、防衛構想提示を

このように岸田政権の方針・対応は、防衛予算の規模や財源確保を先行させているのが特徴だが、これをどのようにみたらいいのだろうか。

岸田首相は今の国会で、与野党双方から防衛力の規模や財源について幾度となく質問されたのに対し、「防衛力の内容、予算の規模、財源を一体的かつ強力に進めていく」と繰り返し、具体的な内容に踏み込むのを避けてきた。

いわゆる3点セット、三位一体で議論し決定するという考え方だが、今の首相の対応は、これまでの国会答弁から外れている。

一方、国民の側からすると、今の中期防衛力整備計画の5年間で27.5兆円の規模を、新たな計画で43兆円へ1.6倍も大幅増額し、どのような分野を強化するのか最も知りたい点だ。

ところが、こうした防衛力の中身や考え方が、首相の口からは一向に語られない。順序が逆で、国民が知りたい、肝心な点がさっぱりわからない。

防衛力整備の基本構想、内容を早急に明確にしたうえで、財源を幅広く検討、最終的な予算の内容を固めていくことが必要だ。

 財源の先送りは止め、責任ある対応を

もう1つの論点は、防衛力整備の財源をどうするかという問題がある。岸田政権の方針に対し、自民党内には、来年の統一地方選挙への影響などを考慮して、増税の議論を急ぐべきではないといった慎重論も出されている。

結論から先に言えば、防衛費を増やす場合、安易に国債・借金に頼って負担の問題を先送りするような対応は取るべきではないと考える。既に借金財政は、1400兆円を上回る。

もちろん直ちに来年から増税とはいかない場合はあると思うが、その場合でも財源については、税目を含めた増税や実施時期を法案に明記すべきだと考える。

また、今回、政府・与党は、5年後の時点で増税規模1兆円という試算を示している。これが事実だとすれば、個人的な予想に比べると負担の規模が小さい印象を受けるが、こうした試算の根拠を詳しく説明してもらいたい。

こうした背景には、コロナ禍からの経済の回復や円安などで法人税が好調で、国の税収が3年連続で過去最高水準が見込まれていること、コロナ対策の剰余金の活用などが想定されているのではないかと思われるが、見通しは正確か。

一方、防衛装備品などは、契約時から実際の納入時期の間に価格が大幅上昇したりするケースが多い。防衛装備の歳入、歳出両面での改善も含めて、国民に十分な説明を願いたい。

これから年末に向けて、国家安全保障戦略など安保関連3文書も改訂される。日本の安全保障の構想・戦略と合わせて、防衛力整備の中身の議論を深めてもらいたい。

防衛費の増額そのものについても国民の賛否が分かれるが、防衛力整備は可能な限り幅広い国民の理解と合意が重要だ。私たち国民も激しい国際情勢の変化の中で、防衛力整備をどう進めるか、政府案の決定をじっくりみていきたい。(了)

”師走政局” 新法、防衛で攻防続く

今年も残り1か月、内閣支持率の下落が続く岸田政権は、最終盤に入った臨時国会を乗り切ることができるかどうか、ヤマ場にさしかかっている。

物価高騰対策を盛り込んだ第2次補正予算案は、ようやく今月2日に成立する運びだ。一方、旧統一教会の被害者救済法案をめぐっては、与野党が歩み寄ることができるかどうか、ギリギリの調整が続いている。

さらに最大の焦点になっているのが防衛費の問題だ。岸田首相は28日、防衛費と関連経費の合計をGDP比で2%にするための財源確保措置を決める方針を打ち上げたが、財源の扱いをめぐって自民党との意見の違いが表面化している。

”師走政局”は、救済新法をめぐる与野党の最終決着の仕方と、防衛費の政府・与党内の調整が大きな焦点になりそうだ。その結果によっては、岸田政権の求心力はさらに低下する事態も起こりうるのではないか。

 辞任ドミノ、秋葉復興相は続投か

今月10日に会期末が迫った臨時国会からみていくと、岸田政権が最優先に位置づけている総額28兆9000億円の補正予算案は、寺田前総務相の更迭の影響を受けて当初の予定より遅れ、2日の参議院本会議でようやく成立にこぎつける見通しだ。

補正予算案の審議の中で野党側は、秋葉復興相に照準を合わせて追及した。事務所家賃の不明朗な支払いをはじめ、旧統一教会との新たな関係、さらには昨年の衆院選挙で自らの秘書2人が車上運動員として報酬を受け取っていた問題などを取り上げ、集中砲火を浴びせた。

これに対し、岸田首相は「秋葉大臣は、国会でさまざまな指摘を受け、それにしっかり説明責任を果たせるよう努力している」として、野党側の更迭要求には応じない考えを示した。

岸田首相としては会期末を控えて、4人目となる閣僚の辞任は何としても避けながら、この国会を乗り切りたい考えだ。

 旧統一教会救済新法 ギリギリの攻防

臨時国会で最後に残っている案件が、旧統一教会の被害者救済の新法の扱いだ。岸田首相が途中、積極姿勢に転じたことで与野党の協議が続けられ、政府が新たな条文案を提示する段階まで進んだ。

政府・与党と野党側双方とも、この国会で新たな法案を成立させたいという方向では一致しているものの、被害者の救済に実効性があるかどうかという点で、与野党の間には、なお、意見の隔たりがある。

具体的には、野党側が、マインドコントロールによる悪質な献金を禁止する、より強い条文を求めている。これに対し、政府・与党側は、マインドコントロール状態を法律で明確に定義するのは困難だとして、対立している。

政府は、既に国会に提出している消費者契約法案改正案と新法を近く閣議決定して、10日までの会期内に成立させたい方針だ。

この新法については、自民、公明両党と国民民主党は賛成なのに対し、立憲民主党と日本維新の会は「修正が必要だ」という立場だ。

このため、与野党が法案の修正で歩み寄り、成立にこぎ着けるのか。それとも、話し合いが決裂して見送りになるのか。さらには、野党内の対応が分かれて、与党と野党の一部の合意で成立するのか見通しは立っていない。

この法案の最終的な決まり方によって、岸田首相の対応の評価や、立民と維新の野党共闘が最後まで続くのか、崩れるのか、今後の政局に大きな影響を及ぼすことになる。

 防衛費GDP2%と財源 調整は難航か

年末の政治の動きの中で最大の焦点は、防衛費とその財源をめぐる政府・与党の調整になるのでないか。

岸田首相は28日、来年度から向こう5年間の防衛費と関連経費について、GDP・国内総生産の2%に達する予算措置を講じるよう浜田防衛相と鈴木財務相に指示した。

また、岸田首相は、防衛力強化に向けて、財源を確保する措置を年内に決める考えを示し、両閣僚に対し、与党との協議に入るよう求めた。

こうした政府の動きに対し、29日開かれた自民党の安全保障関連の合同会議で「増税を念頭に置いた議論は唐突だ」「税収の上振れ分を活用すべきだ」などといった批判的な意見が相次いだ。

また、萩生田政務調査会長は30日の講演で「将来的には、税で負担して安定財源を確保した方がいいが、当面は、国債や税収の上振れ分で対応すべきだ」として、現時点で増税の議論を行うことに慎重な姿勢を示した。

このように岸田首相は、先に政府の有識者会議の提言に沿って、増税を含めた国民負担が必要だという立場を取っているのに対し、萩生田政調会長は増税慎重論を唱え、双方の立場は大きな開きがある。

自民党の閣僚経験者に聞くと「自民党内の空気は、増税などとんでもない。つなぎ国債発行論が圧倒的に多いのが現状だ。歳入、歳出両面から安定財源をどのように確保していくかの正論がどこまで通用するかわからない」と調整の難航を予想する。

これから年末に向けて、国家安全保障戦略など防衛3文書の改訂をはじめ、防衛力整備の内容、そのための財源、必要な予算の確保などの調整をわずか1か月間で仕上げなければならない。

戦後防衛政策の大転換といわれる今回の防衛力整備をやり遂げることができるかどうか、岸田首相はまもなく胸突き八丁にさしかかる。(了)

※(追記12月1日21時45分:政府は1日、旧統一教会の被害者救済に向け、悪質な寄付を禁止する新たな法案を閣議決定し、国会に提出した。政府・与党は10日までの会期内の成立をめざしている。これに対し、野党側は、まだ不十分な点があるとして、与野党の調整が続く見通しだ。)

 

「辞任ドミノ」岸田政権の師走危機

岸田首相は20日、政治資金をめぐる問題が次々に明らかになった寺田総務相を更迭し、後任に松本剛明・元外相を起用する方針を決めた。

岸田政権は、山際前経済再生相、葉梨前法相に続き、わずか1か月の間に3人の閣僚が辞任に追い込まれる「辞任ドミノ」が現実になった。岸田内閣の支持率は既に33%まで下落しており(NHK11月世論調査)、岸田政権の求心力の低下は避けられない。

閣僚の相次ぐ辞任のケースとしては、竹下政権当時、3人の閣僚が1か月半余りの間に次々と辞任に追い込まれたことが思い出される。いずれもリクルート事件絡みだった。

また、第1次安倍政権では、事務所費問題などで5人の閣僚が、五月雨式に辞任や死亡の動きが続いたほか、麻生政権では、3人の閣僚が不祥事などで辞任に追い込まれた。こうしたいずれのケースとも政権はその後、短期間で幕を閉じた。

相次ぐ閣僚の辞任は、首相への信任や政権の体力を失わせることが多い。岸田政権の場合は、どうだろうか。

結論を先に言えば、懸案や重要政策の決定が年末にかけて集中する形になっており、こうした年末の対応が大きく影響するのではないか。

自民党内で”岸田降ろし”の動きが直ちに出てくる可能性は低いが、岸田政権にとっては、”師走の危機乗り切り”が今後のカギを握っているという見方をしている。以下、その理由・根拠を説明していきたい。

 臨時国会 補正予算、新法の攻防続く

まず、岸田政権の政権運営では、当面、3つの大きなハードルが待ち構えている。1つは、今の臨時国会の乗り切り。2つ目が、安全保障関係の3文書の改訂と防衛費の増額問題。それに3つ目が、新年度予算案の編成と税制改正だ。

このうち、国会からみていくと政府・与党は、21日に国会に提出した第2次補正予算案の早期成立を最優先に臨む方針だ。

これに対し、立憲民主党など野党側は、岸田首相の任命責任を質すとともに、秋葉復興相の「政治とカネ」の問題に照準を合わせて追及する構えだ。

このため、閣僚辞任は寺田氏で幕引きというわけではなく、25日から始まる予定の衆院予算委員会でも激しい攻防が続く見通しだ。補正予算案の成立は12月にずれ込む見通しだ。

もう1つの焦点が、旧統一教会の被害者救済に向けた新法の扱いだ。内閣支持率の急落を受けて、岸田首相は、新法の今の国会への提出と成立に積極的な姿勢を示している。

但し、政府・与党と野党側の間では、信者の寄付の取り扱いなど法案の中身について、かなりの開きがあり、双方が歩み寄って成立にこぎ着けられるかどうか、メドは立っていない。

このため、12月10日までとなっている国会の会期を1週間程度延長することが検討されており、ギリギリの調整が続くものとみられる。国会の最終的な決着の仕方で、岸田政権の評価や影響も違ってくる。

 防衛力整備と財源、国民的議論が必要

2つ目のハードルは、防衛力整備の問題だ。ロシアによるウクライナ侵攻や北朝鮮の相次ぐ弾道ミサイルの発射などで日本を取り巻く安全保障環境は厳しさを増している。

岸田政権は、防衛力を抜本的に強化する方針を打ち出し、年末の予算編成の中で、防衛力整備の中身と予算の規模、それに財源を三位一体で決定するとしている。

これを受けて、自民・公明の両党は防衛力整備の中身の検討を進めているほか、政府の有識者会議は、防衛費の増額には安定した財源が欠かせないとして「増税を含めた国民負担が必要だ」とする報告書を、22日に岸田首相に提出する見通しだ。

問題は、与党の幹部や政府の有識者レベルでの議論は進んでいるものの、国会の与野党や国民レベルで、防衛力整備のあり方をめぐる議論が深まっていないことだ。

このため、岸田政権が焦点の「反撃能力」保有の方針を決めたり、増税を含めた国民負担の必要性などを打ち出したりした場合、国民の理解や支持を十分に得られるのかどうか、防衛関係者の中には危惧する声も聞かれる。

岸田政権は、年末に向けて国民的議論をどのように進めていくのか、国民を説得できるのか。その成否は、岸田政権の評価と支持に直ちに跳ね返ってくる。

 新年度予算と政権のビジョンは

3つ目の問題が、新年度予算編成と税制改正だ。岸田首相は就任以来、「新しい資本主義」の旗印の下で「物価高・円安への対応」「構造的な賃上げ」「成長のための投資と改革」の3つを重点分野としてきたが、具体的に何をやり遂げたいのか、未だによくわからない。

岸田首相は、新年度の予算編成と税制改正の決定に合わせて、どのような経済・社会をめざしているのか、政権のビジョン、最重点政策をわかりやすく打ち出す必要があるのではないか。

特に内閣支持率が続落している中では、具体的な目標を明確にし、実行力を証明しないと政権の浮揚は難しい。

今回の閣僚の辞任ドミノに対しては、野党だけでなく、与党からも「岸田首相の決断が遅く、危機感も乏しい」と厳しい批判や不満の声を聞く。但し、今のところ、”岸田降ろし”の動きはみられない。菅政権の末期と違って、次の衆院選挙まで時間があるからだろう。

しかし、岸田政権がこれまでみてきた3つハードルを乗り越えることができない場合、世論の支持率はさらに下落し、”政権のレーム・ダック化”、低迷へと変わる可能性がある。”師走の政権危機”を回避できるか、岸田首相にとって正念場が続く。(了)

 

 

岸田内閣支持率 ”危険水域接近中”

臨時国会は間もなく終盤戦に入り、ヤマ場を迎えるが、岸田内閣の支持率が続落している。報道各社の世論調査の中には、内閣支持率が自民党の支持率を下回って”危険水域”といわれる30%に近づきつつある調査結果もみられる。

岸田首相は、東南アジアで開かれている一連の外交日程をこなしている。これに先立って、財政支出の総額で39兆円にのぼる総合経済対策をとりまとめたが、支持率回復の効果は見られない。

支持率続落の原因については、相次ぐ閣僚の辞任と岸田首相の決断の遅れを指摘する声が多いが、根本は岸田政権の中枢や自民党の体制、構造に問題があるとの指摘も聞く。年末に向けて岸田政権の運営はどうなるか、探ってみる。

自民支持層に”岸田離れ現象”も

報道各社の世論調査で岸田内閣の支持率を見てみると◇読売新聞は支持率36%、不支持率50%(4~6日調査)。◇朝日新聞は支持率37%、不支持率51%(12,13日調査)。◇NHKは支持率33%、不支持率46%(11~13日調査)。

いずれの調査とも岸田内閣の支持率は、去年10月の政権発足以降、最低の水準。支持率を不支持率が上回る”逆転状態”が続いている点でも共通している。

こうした支持率下落の背景としては「死刑のはんこを押す時だけニュースになる地味な役職」などと発言した葉梨法相をめぐって、岸田首相が続投させるとしてきた方針を一転、更迭したことが影響したとみられる。

NHK世論調査では、内閣支持率と政党支持率との関係に新たな特徴が読み取れる。自民党の支持率は37.1%で、7月の参議院選挙以降ほぼ横ばいだ。

これに対し、内閣支持率は33%で、11月の調査で初めて内閣支持率が、自民党の支持率を下回った。これは自民支持層のうち、一定の割合で岸田内閣を支持しない”支持離れ現象”が起きていることを示している。

今の支持率33%は、今後4ポイント以上さらに下落すれば、政権の”危険水域”とされる30%の危険水域ラインを下回ることになる。

岸田政権は物価高騰や円安に対応するため、財政支出の総額で39兆円にのぼる総合経済対策をまとめた。この対策を「評価する」は61%で、「評価しない」の32%を上回ったが、内閣支持率の下落に歯止めをかけるほどの効果はなかったことになる。

政権中枢、自民の体制・構造問題も

それでは、なぜ、岸田政権の支持率がここまで、大幅に下落しているのか。第1に考えられるのが、山際経済再生担当相と葉梨法相の相次ぐ更迭の影響だ。

それに加えて、いずれの閣僚の更迭も、任命権者である岸田首相の判断、決断が遅すぎるという批判が野党だけでなく、与党内からも聞かれた。岸田首相の資質、能力、対応のまずさを指摘する声が相次いだ。

自民党の長老に聞いてみると「第2次安倍政権との比較で言えば、政権中枢の機能、動きに力強さが感じられない。安倍政権当時の今井秘書官、菅官房長官らに相当する存在が見当たらず、真逆の政権だ」と指摘する。

「党の方も高木国会対策委員長と茂木幹事長との連携、全体を取りまとめていく力が感じられない。連立与党の公明党との関係もしっくりいっていないのではないか」と危ぶむ。

総理官邸内の結束力と自民党の統率力、それに双方が支え合う体制に問題ありというのが長老の真意だろう。これが2つ目の問題。

さらに、安倍元首相が銃撃され亡くなって以降、”政権与党の全体を取り仕切る主柱”がなくなったような印象を受ける。それまでは、安倍元首相と岸田首相の2人が一定の距離を置きながら、存在感を発揮し合いながら全体を統率してきた。

ところが、その一方の柱である安倍元首相がなくなり、党内の様相が一変した。その安倍氏が率いてきた最大派閥は、後継の新会長も決められず迷走状態に陥っている。

このように安倍1強体制が崩れ、新たな党内秩序が再構築できず、不安定な構造に陥っているのが根本要因ではないかと思われる。

このため、岸田首相の個人的な資質、求心力の弱さという問題もあるが、根本的には、政権与党の体制と構造に大きな問題を抱えており、政権の立て直しは相当なエネルギーと時間がかかるとみている。

 旧統一教会、防衛費まで政権綱渡り

さて、岸田政権の当面の政権運営と国会・政局の先行きをどうみるか。まず、臨時国会は会期の延長が避けられない情勢だ。

政府・与党は、補正予算案の早期成立を最優先で臨む方針だが、この国会は野党ペースで進んでおり、補正予算案の成立は当初の見通しからずれ込み、12月上旬までかかる公算だ。

また、野党側は、政治とカネの問題を抱える寺田総務相に照準を絞って追及を強める方針で、与党側は3人目の閣僚の辞任、辞任ドミノを警戒している。

さらに、大きな焦点は、旧統一教会の被害者救済の新法が成立までこぎ着けられるかどうかだ。世論調査では、今国会での成立を求める意見が7割と圧倒的多数を占めており、この成否は岸田内閣の支持率にも影響を及ぼす。

さらに臨時国会が閉会した後、年末最大の焦点は、防衛力の整備と防衛予算の扱い問題だ。ウクライナ情勢や北朝鮮の相次ぐミサイル発射、中国の習近平・長期1強体制の継続などで、防衛力整備に向けた世論の理解は進んでいるようにみえる。

但し、岸田政権の防衛論議の進め方には批判も多い。有識者会議を設置して議論を委ねる一方、国会答弁では「整備の中身、予算の規模、財源は三位一体で年末の予算編成時に決定する」と繰り返すばかりで、国民的な議論を深める取り組みはほとんど見られない。

これでは、国家防衛戦略3文書の改訂や、防衛力強化に向けて国民の理解が深まらないと危惧する声は根強い。

このほか、来年はアメリカの景気後退が予想される中で、日本経済の再生や円安などの経済運営にどのような方針で臨むのか、中長期の政策も問われる。

このように岸田政権は、臨時国会での旧統一教会の被害者救済新法から、新年度の税制と予算の編成、防衛力整備などの難題を処理できるのかどうか、綱渡りのような対応を迫られることになりそうだ。

そのうえで、世論の支持に思うような回復がみられない場合、岸田首相は政権や自民党の体制を現状のままで年明けの通常国会に臨むのか、それとも体制の見直しに踏み込むのか、決断を迫られることになるのではないか。(了)

 

法相更迭 ”揺らぐ岸田政権”

岸田首相は11日、「死刑のはんこを押した時だけニュースになる地味な役職」などと発言し批判を浴びた葉梨法相を事実上の更迭に踏み切った。後任には、斎藤健・元農相の起用を決めた。

岸田内閣は、先月24日に旧統一教会の問題をめぐって山際経済再生相を更迭したばかりで、わずか2週間余りで2人目の閣僚の交代に追い込まれた。

岸田首相は東南アジアで開かれる国際会議に出発するため、11日午後に出発予定だったが、出発を大幅に遅らせて12日未明に出発した。岸田政権への打撃は大きく、政権基盤は大きく揺らいでいる。今後の政権運営はどうなるだろうか。

  葉梨法相更迭 ”首相の決断遅すぎ”

まず、葉梨法相の発言をどうみるかだが、法相は死刑の執行命令を発する権限を持っているのをはじめ、国の法制度や、人権問題などを担当する国の最高責任者だ。

その責任者が、死刑を執行した時だけ注目される地味な役職などと言及するのは、余りにも軽率すぎる。

また、葉梨法相の発言は自らが所属する派閥の議員のパーティで、口が滑った発言かと思っていたが、過去に少なくとも4回以上、同じ様な発言をしていたことも明らかになった。これでは、法相としての見識、責任を問われるのはやむを得ないのではないか。

一方、任命権者である岸田首相の対応についても与野党双方から「決断が遅すぎる」と批判の声が強い。松野官房長官は、問題発言のあった翌日・10日の朝、葉梨法相を首相官邸に呼び出し、厳重注意をした。

その当日、参議院法務委員会で野党側の厳しい追及を受け、葉梨法相は発言を撤回し、陳謝したが、与野党からの批判は収まらなかった。それでも岸田首相は10日夜「説明責任を果たしてもらいたい」として続投させる判断をした。

ところが、11日の衆議院法務委員会や参議院本会議などで野党側の追及が続き、岸田首相は一転して、更迭に踏み切る判断に変わり、葉梨法相の辞表を受け取った。

岸田首相が判断を一転させたのは、当初、葉梨法相の発言の撤回と説明で乗り切れると判断していたようだが、足元の与党内からも強い反発を受け、見通しが間違ったことから、方針転換を図ったものとみられる。

岸田首相は10月下旬、旧統一教会の問題で山際経済再生相を更迭する際にも対応が後手に回ったと批判されたが、その教訓は今回も生かせなかった。

 岸田政権に打撃、求心力低下も

さて、岸田政権への影響はどうだろうか。国会の最中に総合経済対策のとりまとめに当たっていた経済再生担当相が辞任したのに続いて、旧統一教会の被害者救済の新法とりまとめにも関係する法相が辞任に追い込まれただけに、政権への打撃は大きい。

野党側は、今月下旬から始まる総額29兆円の大型補正予算案や重要法案の審議をめぐって、攻勢を強める構えだ。また、政治資金の記載漏れが問題になっている寺田総務相や秋葉復興相をターゲットに”閣僚の辞任ドミノ”に追い込むことをねらっており、これを跳ね返せるかが焦点になる。

さらに、岸田政権の支持率下落が続いているが、相次ぐ閣僚の辞任で、岸田首相の求心力が一段と低下するのではないかと懸念の声が与党からも出されている。報道各社の世論調査で、内閣支持率がどのように変化するか注目される。

それでは、岸田政権の政権運営はどのようになるだろうか。今回の問題で、岸田首相の決断力の遅さを指摘する声が多いが、問題はもっと根深いところにあるのではないかとみている。

安倍元首相が銃撃され亡くなって以降、首相官邸と自民党との連携不足が目立つ。臨時国会の会期幅の決定が遅れたり、予算委員会の日程が決まらずに審議が空転するなど異例の事態が相次いでいる。

最近では、山際経済再生相が辞任した直後に、自民党のコロナ対策本部長に就任する人事が行われ、国民への配慮に欠けると反発を招いた。

自民党の長老は「今の岸田政権は、首相官邸内では総理、官房長官、副長官の縦の結合力が弱い。一方、自民党は幹事長、国対委員長、政調会長、それに公明党との足並みがバラバラで統率がとれていない。政権の土台から立て直さないと、岸田政権が求心力を取り戻すのは難しいだろう」と指摘する。

岸田首相は、12日からカンボジア、インドネシア、タイの各国を歴訪し、G20サミットなどの国際会議に出席し、首脳外交を展開する。帰国後の21日からは、補正予算案の審議が始まる見通しで、臨時国会を乗り切ることができるかどうか、正念場を迎える。(了)