新しい年・2021年は、東京のコロナ感染者が大晦日に1300人を超えるなど感染第3波と強い寒波の襲来で幕を開けた。去年の日本政治は、憲政史上最長の7年8か月に及んだ安倍政権が幕を閉じ、菅新政権が誕生する激動の年だった。今年はどんな年になるのだろうか?
結論を先に言えば、”コロナ大激変時代”、政治もコロナ対応を軸に動く。菅政権は予想以上に不安定さが目立ち、さらに今年は自民党総裁、衆議院議員の任期切れが重なる。”首相交代含みの波乱政局”になる公算が大きいとみている。なぜ、こうした結論になるのか、以下、その理由・背景を説明していきたい。
新年の政治 ”コロナ、五輪、選挙”
2021年の主な政治日程を見ておきたい。◆通常国会は1月18日に召集、今年前半の政治の主な舞台になる。◆6月末から7月にかけて東京都議会議員選挙、各党とも国政選挙並みの取り組みになる。◆7月23日から、延期されていた東京オリンピック・パラリンピックの開催、9月5日閉会の見通し。その後、9月に自民党総裁の任期切れ、10月に衆院議員の任期が満了、それまでに選挙が行われる。
新年の政治に影響を及ぼす要素としては、何があるか。3つ挙げるとすると◆1つは「コロナ対応」。◆2つ目は「東京五輪」。国家的行事で、仮に再び延長になれば、政治はもちろん、経済、社会への影響は甚大だ。◆3つ目が「選挙」。春の統一補選、夏の都議選、自民総裁選、解散・総選挙、大きな選挙が相次ぐのが特徴だ。
政局 衆院解散より ”菅リスク”
そこで、政治の焦点はどこになるのか。これまでは衆院解散・総選挙がいつになるかが、最大の焦点だった。
ところが、菅政権のコロナ対応が後手に回り、年末、菅内閣の支持率が急落した。菅政権の力量に赤信号、年明けの解散・総選挙はなくなったとの受け止め方が広がり、秋の解散・総選挙が有力になっている。
代わって、菅政権は「いつまで持つか」。フェーズが変わり、解散・総選挙より、”菅政権の不安定化”に焦点が移りつつある。”菅リスク”をどうみるか、この点が、実は”2021政局の核心”だ。
なお、解散の時期は◆通常国会冒頭解散が見送られた場合、◆新年度予算成立後の4月説、◆東京都議選とのダブル選挙説も一部にあるが、公明党が都議選を重視していることなどから、実現可能性は極めて低い。◆10月任期満了か、その前の9月選挙が、選挙のプロの見方だ。
菅政権 ワクチン接種効果に期待
それでは、菅首相はどんな政権運営を行うのだろうか。菅首相に近い関係者に聞くと菅首相は「実績を積み重ねた上で、信を問えば、国民は必ず理解してくれる」という考え方で一貫していると言う。
具体的には◆コロナ対応は、ワクチン接種が2月下旬に始まれば、感染防止にメドがつく。◆その上で、東京オリ・パラを成功させる。◆その間に携帯電話料金の値下げ、不妊治療支援、自然エネルギー開発のグリーン成長戦略を進めた上で、衆院選勝利、総裁再選へとつなげる戦略と言われる。
野党攻勢 ”桜、卵 ”疑惑 の逆風
これに対して、野党の出方はどうだろうか。野党側は、菅内閣の支持率急落は、政府のコロナ対策に国民の支持が得られていないことが原因とみて、政権批判と野党のコロナ対策の提案も織り交ぜながら、攻勢を強めることにしている。
もう1つは、”政治とカネ”の問題。「桜を見る会」前夜の懇親会をめぐり、安倍前首相の公設第1秘書が政治資金規正法違反で略式命令を受けた。野党側は、安倍氏は責任を秘書に押しつけ、国会での虚偽答弁の政治責任もとっていないとして、安倍氏の証人喚問を要求していく方針だ。立憲民主党の幹部は「今度こそ、安倍氏を追い詰める」と強気で攻める構えだ。
また、自民党に所属していた吉川貴盛・前農相が、大臣在任中に大手鶏卵生産会社の元代表から現金500万円を受け取っていた問題。東京地検特捜部は、贈賄容疑で強制捜査に乗り出した。吉川氏は、先の総裁選では菅選対の事務局長を務めるなど菅首相とも近く、事件に発展すれば菅政権への打撃は避けられない。
さらに、河井案里参院議員が、一昨年夏の参院選で公職選挙法違反、買収の罪に問われている裁判で、国会召集直後の1月21日に判決が言い渡される。
菅政権にとっては、コロナ対応に加えて、政治とカネのスキャンダルが逆風となって吹きつける公算が大きい。年明けの通常国会は、厳しい国会運営を迫られることになりそうだ。
首相続投か、交代か?政局流動化
それでは、今年の政局はどのような展開になり、何が大きなカギになるか。
自民党のベテランに聞くと「コロナ次第だ。ワクチン接種がうまくいけば、菅首相は政権維持ができるし、再選だって可能になる。自民党は保守政党、総裁に問題ありといっても直ぐには代えられない。菅首相で総裁選まで突っ込む可能性が大きいのではないか。”菅降ろし”ができる実力者もいない」との見方を示す。
一方で、「都議選と、国政選挙が重なる年は、要注意だ。党員の意見や世論の力が強く働く。また、菅内閣の支持率下落だけでなく、自民党の支持率も徐々に低下し始めた点が気になる」と警戒感をのぞかせる。
この指摘は、平たく言えば、”麻生型”か、”森型”か。「どちらのコースをたどるのかが、今年の政局のポイントだ」と示唆しているように聞こえる。
◆”麻生型”。麻生元総理は、リーマンショックの対応を優先し、早期解散を見送ったが、”漢字が読めない総理”などの不評も重なって支持率が急落、退陣論もくすぶった。任期満了近くの解散・総選挙まで粘ったが、惨敗・退陣に終わった。
◆”森”型。森元総理は、日本の水産高校の練習船「えひめ丸」がハワイ沖で、アメリカ海軍の原子力潜水艦と衝突・沈没した事故の対応をめぐって批判を浴びた。その年は、都議選と参院選とが予定されており、「森元総理では選挙を戦えない」などの声が強まり、退陣に追い込まれた。
こうしたケースにみられるように菅政権は、コロナ対応の批判や内閣支持率の低下が続いた場合、党内から首相批判が強まる事態が予想される。菅首相は、総裁選に挑戦して続投をめざすのか、それとも首相交代へと追い込まれるのか。今年の政局は衆院選の戦い方とも絡んで、政局が流動化する公算が大きいとみている。
コロナ激変時代 再生の競い合いを
最後に”コロナ激変時代”、私たち国民の立ち場から、今の政治のどこを注視していけばいいのか、みておきたい。
第1は「政権の危機対応」だ。菅政権はこれまで携帯電話料金値下げなど”菅カラー”の政策には熱心だったが、肝心のコロナ対応は「後手の連続」と言わざるをえない。政権がコロナ危機に有効な対応策を打ち出し、司令塔の役割を果たしているかどうか、しっかりみていく必要がある。
第2は、繰り返される「政治とカネの問題にケジメ」をつけられるか。安倍長期政権のよどみが噴き出した結果にもみえる。コロナ対応に集中するためにも、与野党は、安倍氏の証人喚問などは早期に結論を出して決着を図ってもらいたい。
第3は「日本社会・経済の立て直し」の議論と競い合い。自民党の次をめざすリーダーや、野党各党の代表はそれぞれ自らの構想を打ち出し、議論を深め、競い合いをみせて欲しい。
国民の側は、こうした主張・構想を手がかりに、年内に必ず行われる衆院選に1票を投じたい。コロナ禍で、政府や政治の重要さは肌身に感じている国民は多いのではないか。投票参加によって、「コロナ激変時代、日本社会立て直し元年」にしてはどうだろうか。