取り止め相次ぐ ” 政権の看板政策”

大学入学共通テストに導入される予定だった国語と数学の「記述式問題」について、萩生田文科相は17日、再来年1月からの導入を見送ることを発表した。
「英語の民間試験」についても先月、導入の延期が発表された。これによって、大学入試改革の2つの柱が実施されないことになった。

「英語の民間試験」と「記述式問題」の導入は、安倍政権の教育再生実行会議がきっかけになって打ち出された政権の看板政策だが、相次いで導入延期や取り止めが決まったことになる。

このほか、この秋以降では、内閣改造で主要閣僚の2人が更迭されたのをはじめ、首相主催の「桜を見る会」の来年春の開催が中止になっており、人事や政策面での更迭・取り止めが目立つ。

今回の入試制度改革の問題をどのように見たらいいのか、政権や政治の対応に焦点を当てながら探ってみたい。

 制度設計に大きな問題

大学教育や高校教育を改革していくために、大学入試制度を改善したいというねらいは理解できる。しかし、実際に実施していく上で、受験機会や経費負担の面で数多くの問題が指摘され、公正・公平な入学試験としては、実施面で問題がありすぎるというのが率直な印象だった。

このため、当ブログでも、今回の入試制度改革の問題点を指摘するとともに「制度設計から出直しを!」と提案してきた。したがって、今回の見送りは、やむを得ない措置だと受け止めている。

 文科省の会議で検討へ

問題は、これからどうするかだ。文科省は萩生田文科相の下に設置する会議で、英語の4技能を評価する仕組みや記述試験の充実策などを検討し、今後1年をメドに結論を出す方針だ。

また、萩生田文科相は17日の記者会見で、「誰か特定の人の責任でこうした事態が生じたわけではない。現時点で私が責任者なので、私の責任でしっかり立て直しをしたい」と発言している。

気になる点は、今回の問題は、文科省の所管であり、第一義的な責任があるが、今回の見送りになった経緯の検証にあたっては、文科省の担当部局の対応などに矮小化されることはないかという点だ。問題の背景、特に具体的な問題が指摘されながら、なぜ、早い段階で見直しや中止ができななかったのか、問題の核心部分を明らかにしてもらいたい。

そのためには、歴代の文科相の対応、総理官邸との関係、民間試験の採点などを請け負っていた受験産業と官僚の天下りといった事実関係などについて、正確な調査・検証が必要だ。

その上で、受験生の不安が払拭できる新しい入試制度を打ち出してもらいたい。
受験生や学校関係者、保護者の信頼に応える重い責任がある。

 政権全体の検証・検討が必要

以上のような文科省の検討も必要だが、私個人は、安倍政権全体として、これまでの経緯の検証と今後の取り組み方が必要だと考えている。

というのは、これまで入試制度改革推進派の教育研究者を取材すると「今回指摘されているような問題点は、文科省が設置した検討会議の中で指摘してきた。
但し、文科省側から具体的な対応は見られなかった」と証言している。

一方、慎重派の教育研修者も「文科省も、総理官邸の肝いりの教育政策には、問題点などを表明できなかったのではないか。大学側は、運営交付金を受ける文科省の顔色をうかがい、文科省は強い立場にある政権を忖度する雰囲気があったのではないか」と疑念を示していたからだ。

今回の大学入学共通テストへの英語民間試験の導入は2013年に安倍首相が設置した教育再生実行会議に遡る。その再生会議の提言を受けて導入への動きが始まった。その後、2014年12月に文科相の諮問機関である中央教育審議会の答申、2017年7月に文科省が民間試験の実施方針を決定した。

つまり、安倍政権が6年余りをかけて推進してきた問題なので、安倍政権として、今回の問題をどのように受け止め、どのような方針で対処するのか明確にする責任があるのではないか。そのためには、文科省任せにせずに、安倍首相自ら、歴代文科相や文科省幹部に指示して、事実関係を明らかにして、責任問題と今後の対応策を打ち出すことが必要ではないかと考える。

 相次ぐ更迭・取り止め、説明なし

今回の問題だけでなく、安倍政権の出来事をこの秋以降、振り返ってみると、内閣改造で初入閣した菅原前経産相と河井前法相の連続辞任・更迭にはじまって、萩生田文科相の「身の丈発言」と英語民間試験の導入延期、首相主催の「桜を見る会」の来年の開催取り止め、さらには、今回の記述式問題の導入見送り・白紙撤回など中止や取り止めが相次いでいる。

政権の迅速な対応は、世論の政権に対する批判・影響を最小限に食い止める危機管理の発想もあるのかもしれないが、今回の入試制度改革は6年間もかけて積み重ねきた問題だ。批判があると”直ぐ取り止め”といった対応も如何なものか。

一方、高校生や保護者にしてみれば人生を左右する問題だ。文科省の対応はあまりにも遅い。なぜ、ここまで時間がかかったのか。文科省の官僚は、有識者で構成する会議で問題点を指摘されながら、なぜ止められなかったのか、昨日の萩生田文科相の記者会見でも納得のいく説明は聞かれない。こうした説明のなさ、けじめのなさに対する不信感が、国民の側に膨らみつつあるのではないか。

プロと現場の声を聞く姿勢を

安倍政権は11月に戦前戦後を通じて歴代最長政権を記録した。外交・防衛などの分野では、国民の評価は高いと言える。一方で、国内の政治課題については、政治主導の名の下、看板政策が次々に打ち出されるが、中身や成果がよくわからないとして、世論の評価も分かれている。

例えば、政権の最大の挑戦と位置づける全世代型社会保障制度、「幼児教育の無償化」などを衆院選の目玉政策として打ち出したが、無償化の対象にする幼児の範囲・対象、財源など具体策が詰められないまま看板政策として打ち上げられ、選挙後に具体策の調整に追われ、与党内からも批判された。

今回の入試制度改革問題にしても、役所の側が、総理官邸に遠慮して、問題点などについての声をあげられなかった面はなかったのかどうか。

歴代の政権に比べて、安倍政権は「官僚や有識者などプロの意見、現場の高校の先生や保護者の声を聞く姿勢」が乏しいのではないか。問題に気づいた時に、軌道修正していく仕組みが必要ではないかと考える。

内閣支持率 支持と不支持逆転も

気になる点の最後は、安倍内閣の支持率がこのところ下がり続け、支持と不支持が逆転する調査結果が出ていることだ。

◇時事通信が12月6~9日に実施した調査では「支持」が7.9ポイント減40.6%、不支持が5.9ポイント増の35.3%。支持と不支持の差は6ポイント。「桜を見る会」は廃止すべきが6割に達し、この問題が影響しているものと見られる。

◇読売新聞の12月13~15日調査では「支持」が1ポイント減の48%、「不支持」が4ポイント増の40%。支持・不支持の差は8ポイント。「桜を見る会」の説明に「納得していない」が75%に上っている。

◇産経新聞の14、15日調査では「支持」が43.2%で1.9ポイント減、「不支持」が40.3%で2.6ポイント増。不支持が40%を超えたのは9か月ぶり。支持と不支持の差は、3ポイントに縮まっている。

◇共同通信の14、15日調査では「支持」が6ポイント減の42.7%、「不支持」が4.9ポイント増の43.0%。支持と不支持が1年ぶりに逆転した。
「桜を見る会」疑惑に関し「十分に説明していない」が83.5%にも上った。

各社に共通しているのは「桜を見る会」の「首相に説明」に納得しておらず、「不支持率が上昇」。支持と不支持が接近、調査によっては逆転していること。

 長期政権に、国民の厳しい視線

安倍政権は、臨時国会が閉会「桜を見る会」の批判が沈静化するのを待つ一方、新年度の政府予算案を編成、年末にはイラン大統領の来日、中国での日中韓首脳会談など得意の外交を展開すれば再び支持率は回復、政権の浮揚は可能という強気の意見も聞かれる。

これに対して、世論の側は、歴代最長になった安倍政権に対して「緩みがある」と思うが7割近くにも達している。首相の自民党総裁4選論に対しても、賛成は3割にも達しないなど国民の視線に厳しさが増している。(共同通信調査結果)

このため、今回の記述式問題をはじめとする政権の看板政策の取り止め・撤回については、説明を尽くさないと、人心は一気に離れる恐れがある。

これから年末にかけての安倍外交がどんな結果になるのか、それによって安倍政権の支持率・求心力はどうなっていくのか、さらには野党の合流問題のゆくえの3点を注目して見ていきたい。

備考:大学入試制度改革は、当ブログでは、次の日付で投稿しています。
◇11月  8日 「制度設計から出直しを! 英語民間試験」
◇11月24日 「民間任せ 現場の声 生かして再設計を! 英語民間試験」

 

野党合流 問題 ”選挙で勝てる野党は必要か?”

野党第1党の立憲民主党と第2党の国民民主党を軸にした合流問題が大きな山場を迎えている。この野党合流問題について、私たち国民の側から見るとどんな意味を持っているのか考えてみたい。

今回の野党の合流問題は、突き詰めていけば「選挙で勝てる野党は必要か?」ということになるのではないか。つまり、国民の側から見て、合流が「いいと思うか」、逆に「必要ない」と考えるかの評価の分かれ目になるからだ。

今の野党は「国政選挙で6連敗中」。今のままだと有権者は投票する前から選挙結果は明らかだとなりかねない。選挙に関心を持ち、投票所に足を運ぶ人を増やすためにも私は「選挙で勝てる野党」、「しっかりした野党」が必要と考える。
そこで、選挙で勝てる野党はなぜ必要なのか。果たして、そうした野党はできるのか、そのためにはどんな取り組みが必要なのか考えてみたい。

 共同会派から、政党の合流へ

最初に、これまでの野党の動きについて、手短に整理しておきたい。
10月4日に召集された臨時国会では、野党の立憲民主党、国民民主党、社民党、それに衆院の無所属議員でつくる「社会保障を立て直す国民会議」の4党派は「共同会派」を結成した。共同会派の規模は衆院で120人、参院で61人、第2次安倍政権発足以降、野党の会派としては最大になった。

当初、共同会派は足並みが乱れるのではないかといった冷ややかな見方もあったが、野党側は、2閣僚の連続辞任をはじめ、英語共通試験の延期、「桜を見る会」の公私混同といった問題を追及、一定の成果を上げたと言える。

こうした流れを受けて、立憲民主党の枝野代表は12月6日に国民民主党、社民党の党首らと会談し、野党勢力を結集し政権の奪取につなげたいとして、立憲民主党への合流に向けた協議を呼びかけた。

これに対して、国民民主党の玉木代表は、合流した場合の政策や党名などについて対等な立場で協議することなどを求めており、12月17日に枝野代表と党首会談を行う方向で調整が進められている。合流問題は山場を迎えつつある。

 基本的立ち場の違い、ハードルも

今後の見通しだが、両党の関係者を取材すると、双方とも「野党としての大きな塊をめざす」という方向では一致しているが、いざ、合流へ前に踏み出せるか、ハードルが多いのも事実だ。

第1は、「合流に向けた基本的な立ち場の違い」だ。立憲民主党側は、自らの野党第1党へ他の党派が合流してくることを基本にしている。これに対して、国民民主党側は対等な立場で協議して決定する考え方で、党名、政策、人事などを協議することを求めている。

また、両党とも衆議院側は次の衆院選を控えていることもあり、合流に前向きだ。一方、参院側は夏の参議院選挙で選挙区によっては、両党の候補者が”ガチンコ勝負”を繰り広げたこともあり、後遺症、遺恨が未だに強く残っている。このため、合同会派といっても参議院側では、先の国会では議員総会も別々に開いていた有様だ。

第2は、「理念・基本政策の違い」もある。具体的には原発問題の扱いだ。立憲民主党が原発ゼロの徹底をめざしているのに対し、国民民主党は電力関係労組を抱えていることもあり、原発ゼロは受け入れられない立ち場だ。憲法改正問題への対応や、国会運営の考え方についても違いがある。

第3は、「個別問題」もある。立憲民主党は、国民民主党に比べて支持率は高い。一方、国民民主党は民進党から引き継いだ、およそ90億円の政治資金を保有しているのが強みだ。こうした強みと弱みが双方で憶測を呼び、合流論議に影を落としている面もある。

 年末までに合流はできるか?

当面の注目点は、年末までに合流ができるかどうか。年末が1つの目標になっているのは、政党交付金の一定部分が1月1日時点での所属議員数で決まるという事情がある。大きな政党になれば、政党交付金も増えることになる。

また、年明けの通常国会で安倍政権と対峙していくためには、早期に合流を実現し、新体制で通常国会に臨みたいというねらいもある。

立憲民主党の幹部を取材すると「枝野代表は従来の独自路線から、野党共闘・合流路線へカジを切っており、次の衆院選は新体制で臨む腹を固めている」と早期合流は可能だとの見方を示す。

これに対して、国民民主党の幹部は「枝野代表が国民民主党への配慮を示すことが必要で、今の段階では、その点がはっきりしない。筋書きのないドラマのようなものだ」とけん制する。

このため、年内合流が実現するかどうか具体的な道筋はまだ描けていないと見ている。

 連戦連敗から脱却の責任

このように合流へのハードルは高いが、野党第1党の党首が合流を呼びかけた以上、結論が出ないままズルズルと先延ばしにしていては、合流の勢いが失われるのは明らかだ。

また、野党第1党としては、野党全体をとりまとめ政権交代につなげていく構想を打ち出していく役割も求められる。

こうした点の取り組みは弱かった。安倍政権は国政選挙6連勝中だが、野党の非力さがこうした結果を招いているとも言える。今の野党の状況が続けば、次の衆院選の結果も、戦う前から明らかだとなりかねない。野党第1党の責任は、少なくともこうした連戦連敗状態から脱却することが必要だ。

 選挙で勝てる野党づくり

野党の合流問題に決着をつける上でも「選挙で勝てる野党づくり」を目標に掲げないと、野党間の求心力は高まらず、合流までこぎ着けるのは難しいのではないかと考える。

これからの日本の将来は難問が多い。少子高齢化に伴う人口急減社会と社会保障制度をはじめ、子育て、教育、雇用の整備などについての取り組みが急務だ。そのためには、政治の側の対応も与野党がそれぞれ選択肢を準備し、議論を戦わせながら難問を解決していくことが必要だ。

野党側の対応を取材して感じるのは、”理念なき野合”などと批判されるのを恐れてか、選挙体制づくりが遅れ選挙の敗北を繰り返している。選挙で国民の選択肢を準備することを大義に掲げるとともに、特に次の衆院選挙での小選挙区について、野党側が候補者1本化に踏み込めるかどうかが大きなカギになるのではないかと見ている。

 立民、国民両党トップの決断は?

以上のような「選挙に勝てる野党の選挙体制づくり」を目標に設定し、当面の合流問題に決着をつけることができるかどうか。

また、「何を最重点にやる政党なのか」旗印を明確に打ち出すことができるかどうか。最終的には、両党の代表の決断が、合流問題を左右することになる。

この合流問題がどのような形で決着が着くか、次の衆議院解散・総選挙など新年の政治のゆくえにも影響を及ぼすことになる。

 

 

 

 

内閣支持率低下、首相不信急増の読み方

臨時国会が閉会した。歴代最長になった安倍政権や臨時国会での野党の追及ぶりなどについて、世論はどのように判断しているか。

報道各社の世論調査のデータを分析してみると、安倍内閣の支持率は低下傾向が表れ、安倍首相の人柄に対する不信も急増していることが浮き彫りになった。

一方で、「桜を見る会」を追及してきた野党の支持率も増えていない。
政権・与党、野党側の双方とも世論の支持を得ることができていない。これからの政権運営、政局にどんな影響を及ぼすか、分析をした。

 内閣支持率低下、鮮明に

報道各社の世論調査のうち、最新のNHK世論調査を見ると安倍内閣の支持率は45%で前回調査から2ポイント減、不支持は37%で2ポイント増加となった。
支持と不支持の差は、8ポイント差に縮まった。

夏の参議院選挙が終わった後の8月以降の支持率は49%だったので、トレンドは連続して下がり続けており、12月の45%となった。逆に不支持は、8月は31%だったのが、37%まで6ポイント増えたことになる。
(調査は12月6日から8日、詳細なデータはNHKWebニュースに掲載)

主な新聞・通信社の11月の世論調査で見ると、内閣支持率の下落幅が最も大きかったのは◇日経で7ポイント減、◇読売と産経は6ポイント減。◇共同通信は5ポイント減など。下落幅は異なるが、共通しているのは、支持率は40%台半ばから後半、不支持率は30%半ばから後半。つまり、支持、不支持は接近しつつある。

 首相に対する不信急増

問題は、内閣支持率の中身だ、NHKの世論調査データを基に分析してみる。
◆支持する理由は、「他の内閣から良さそう」が49%、「支持する政党の内閣」が17%で、消極的支持が多い。政策や実行力などを評価する意見は少ない。

◆不支持の理由については、「人柄が信頼できない」47%で圧倒的、「政策に期待が持てない」は26%。安倍首相に人柄に対する不信は、11月調査では35%だったので、12ポイントも急増したことになる。

「桜見る会」説明 納得できない7割

世論調査の質問の中で、首相主催の「桜を見る会」の問題について、安倍首相の説明に納得できるかどうか聞いている。◇「納得できる」は18%に止まり、◇「納得できない」は71%、7割にも達している。
安倍首相に対する不信感の理由は、この「桜を見る会」の問題が大きく影響していることが読み取れる。

政権運営への影響は?

それでは、安倍首相の政権運営への影響はどうだろうか。
NHKの世論調査で12月の支持率45%だった。今年1年・2019年の支持率の平均を計算すると◇支持率は46%、◇不支持34%。(今年は、10月調査が台風の影響で調査を中止したので、11か月の平均になる)

第2次安倍内閣の支持率の年間の平均では、2013年が61%、2014年51%に低下、2015年は46%、2017年47%に持ち直し、2018年は42%に低下した。政権発足から7年が経過したが、支持率は4割をキープし、支持と不支持の逆転を7年間も防いできたのは異例で、巧みな政権運営を続けてきたと言える。

この理由としては、経済・雇用情勢が安定していること。自民党内でのライバル不在。さらには弱い野党、政権が看板政策を次々に打ち出し、国政選挙で連戦連勝を続けていることが挙げることができる。

以上のことから、今回の支持率低下で直ちに政権運営に支障が出てくるとは言えないというのが、私個人の見方だ。問題は、超長期政権のこれからどうなるか。

 野党の政党支持率、伸びず

野党各党に対する世論の評価はどうだろうか。
政党支持率を見ると◇自民36.1%、◇公明2.7%。野党側は、◇立憲民主5.5%、◇国民民主0.9%、◇共産3.0%、◇社民0.7%。◇維新1.6%、◇れいわ0.6%、◇N国党0.1%。◇”第1党”は無党派で41.4%、有権者の4割にも膨らんでいる。

野党側は、先の国会で2閣僚辞任、英語民間試験の導入問題、「桜を見る会」を軸に追及を強めた。野党は、「桜を見る会」追及ばかりと批判する声も聞くが、
野党が政権を追及するのは野党の仕事で、税金の使われ方を厳しくチェックするのは、ある意味、当然とも言える。問題は、それだけに止まっていることに限界があり、世論の支持は広がらないことではないか。

具体的には「桜を見る会」について言えば、公文書の廃棄の問題。官僚がなぜ、記録を残さないのか、残させるためにどうするのか欧米並みのルールづくりを徹底させることはできないものかどうか。政権与党もあまりにも鈍感だ。

今の公文書管理のずさんさは目に余るものがある。自民党政権でも、これまでは歴史の検証に耐えられる政権運営をめざす心意気があった。今の政権は、余りに後ろ向きの姿勢ではないか。

野党側は、不祥事・スキャンダル追及するのはいいが、それだけに止まらず、事態を改善する提案・取り組みを世論は求めている。年明けの通常国会での対応を見守りたい。

 衆院解散・総選挙への影響は?

永田町の一部には、年明け解散。事業規模26兆円の大型補正予算案を成立させた後、衆院解散・総選挙があるのではないかとの声も聞く。
また、これから政権に好材料は乏しいので、与党としては早期解散が有利だ。
さらには、安倍首相は政界の常識より、早めの解散に打って出て、勝利してきたので、年明け解散もあり得るのではないかとの声も聞く。果たしてどうか?

衆院解散・総選挙の時期について、断定的に言えるだけの材料・根拠はない。
但し、世論の側から見ると「早期解散への期待」はほとんどないのではないか。今年は大型台風、大雨の被害が相次ぎ、生活・生業の立て直しに迫られている人たちは全国各地に多い。そうした中で、国民に信を問う大義名分は見いだしにくい。

内閣支持率も、支持と不支持の差は10ポイント程度まで縮まっている。つまり、5ポイント以上変化すると、支持と不支持が逆転する。

さらに、安倍首相に対する不信感が急増していることなどを冷静考えると、正直な所、選挙戦術上も早期解散の理由は見いだしにくい。敢えて解散・総選挙に踏み切ると、世論の反発を招き、混迷の道に陥るのではないかと危惧している。

それよりも、政権、与野党とも、日本が直面している難問、人口急減社会、技術革命時代への対応をどうするのかなど「今後の進路・構想」をとりまとめ、国民に信を問う正攻法の取り組み方を見せてもらいたいと切望している。

 

国会閉会 ”桜” 幕引き、年明け持ち越しへ

臨時国会は12月9日、閉幕する運びだが、皆さんはこの国会、どのようにご覧になっているでしょうか?

焦点の日米貿易協定の承認案件など内閣提出の主要法案はすべて成立した。
一方で、この国会は閣僚2人の連続辞任をはじめ、大学入学共通テストへの英語試験の導入延期、さらには首相主催の”桜を見る会”を巡る問題に報道が集中したが、肝心な事実関係はあいまいなままだ。

政府・与党は会期延長せずに幕引きを図るが、野党は来年の通常国会で引き続き追及する方針で、年明けの国会へ持ち越される見通しだ。
政府・与党と野党側、それぞれ何が問われているのか、国会対応を中心に総括しておきたい。

 不祥事・スキャンダル、説明不足

問題の第1は、この国会での会期中、菅原前経産相と河井前法相の主要閣僚2人が相次いで辞任に追い込まれた。しかし、当事者である2人は、未だに指摘された問題に対する説明を行っていない。また、衆議院本会議での法案の採決にも出席をしておらず、自民党内でも問題になっている。

国の予算・税金が使われている「桜を見る会」についても、どんな人たちが招待されていたのか、予算が年々膨れあがった理由は何かといった基本的な事実関係についても、招待者名簿が廃棄されたとして、十分な説明がなされていない。

野党側は、桜を見る会の前日、安倍首相夫妻が出席して開かれていた「前夜祭」について公私混同、会費も安すぎ買収などの公職選挙法違反の疑いがあると追及したのに対し、安倍首相は会費の補填などはないと否定している。

野党側は一問一答方式の予算委員会での集中審議を要求したが、与党側は応じなかった。結局、参議院本会議での質疑はあったが、予算委員会での安倍首相の説明は行われないまま幕を閉じることになった。

このように不祥事に対する政権側の説明は乏しい、説明不足と言わざるをえない。国会は国権の最高機関と位置づけられており、疑惑・不祥事については、国会の場で真正面から説明責任を果たすのが、首相をはじめとする政権の責務だと考える。

 ”大問題ではない。されど…….”

国会を総括する際には、さまざまな考え方、立ち場があり、評価の基準も1つではない。「桜を見る会」の問題についても、いろいろな見方があると思う。

よく聞く意見の1つに「桜を見る会、大きな問題ではないではないか。予算も国の行事にしては多額すぎるとも言えない。政治家が地元の支持者を呼ぶこともありうる。それよりも野党は、日米貿易協定など重要な問題を審議すべきだ」といった意見だ。

後半の日米貿易協定など重要な問題を審議すべきだというのは、その通りだ。
問題は、国の予算・税金が公正に使われているか、選挙も公平・公正、法律の規定通りに行われているかチェックするのは、国会の本来の役割だ。

私も率直に言えば、大問題であり、何が何でも徹底追及すべきだとまで論じるつもりはないが、”されど、問題なしとは言えない”というのが基本的な立ち場だ。

安倍政権は、会期中に戦前戦後を通じて歴代最長政権となった。長期政権の緩みやおごり批判に対する身の処し方も重要だ。そして、大きな問題でないというのであれば、首相が半日か1日、委員会で説明する。
その代わり、野党に対して、憲法などの審議に応じてもらう”ことも可能ではないか。少なくとも、以前の与野党の国会対応は双方とも柔軟な対応をして、世論の納得を得る工夫があったように思う。国会の運営のあり方については、与野党双方、反省すべき点は多いのではないか。

 ”更迭、取り止め、説明なし”

この国会、安倍政権の対応で、もう1つ、気になる点があるので、触れておきたい。それは、閣僚の不祥事があると即交代、閣僚を辞任させると短時間のうちに後任閣僚を発表。危機管理対策としては、政権に及ぼすダメージを最小限に食い止めるという対応はありうる。但し、更迭の事実関係の説明はない。

萩生田文科相の「身の丈発言」の問題。こちらも厳しい批判がわき上がると早々に英語試験の導入延期を発表。この問題、さかのぼれば、第2次安倍政権が発足、教育再生実行会議の提言を受けて打ち出した看板政策の1つだ。強い批判が出されたのでは事実だが、簡単に方針転換を打ち出したことには、正直、驚かされた。

「桜を見る会」の問題について、安倍首相や菅官房長官の説明もクルクル変わるとともに、来年度の開催取りやめを発表した。昭和27年からという伝統の政府行事の見送りである。但し、その理由、実態は先ほど触れたようにあいまい、よくわからないのが実状だ。

 内閣支持率優先の現れ?

こうした政権の対応、十分な説明がないまま、更迭、取り止め、方針転換が相次いでいるが、どうして行うのか。その理由・背景として、安倍1強と言われ、自民党、官僚も押さえている中で、唯一対応が難しい世論を気にしすぎているのではないか。具体的には、内閣支持率優先の現れではないかといった見方を政界関係者から聞く。

私なり見方は、長期政権で最も難しいのは、国民にどう向きあうか。世論の側からの長期政権に対する批判、”飽き”を防ぐことができるのか。これまで安倍政権は、世論への働きかけを比較的、うまく対応していたと見ている。

但し、この国会での対応ぶりは、説明が不十分で、政権への評価を気にしすぎて逆に不信感を持たれることになるのではないか。長期政権で心がけることは、まずは、事実関係をきちんと説明すること。その上で、間違いがあれば、是正することが王道ではないか。今後の安倍首相、政権のかじ取りを引き続き注視していきたい。

 

 

「桜を見る会」”証拠”の保全と規律が核心!

令和元年も後わずかになったが、国会は首相主催の「桜を見る会」問題一色だ。厳しい財政難にもかかわらず、招待客や予算は膨張し、参加者も政治家の後援会員が多数招かれたりしていたことなどが次々に報じられている。

世論の批判を気にしてか、首相官邸は早々と来年の開催取り止めを発表したが、どこに問題があり、どのように改めていくのか明確ではない。

政権与党側は会期末とともに幕引きをはかり、野党は引き続き追及と叫ぶだけで終わってしまうのではないか。

長年、国会取材を続けてきた1人として言わせてもらうと今回の問題の核心は、証拠=公文書の管理と、ケジメ=官僚、政治家の規律が根本の問題ではないか。同じことを繰り返さないためには、地味だが、こうした取り組みが欠かせないと考える。

 次々に問題、疑惑、事実は不明・説明不足

今回の「桜を見る会」は、先月8日に参議院予算委員会で取り上げられたのが、直接のきっかけで1か月以上経った今も、新聞、テレビで報道が続いている。

昭和27年からの政府行事だが、様々な問題、疑惑が吹き出し、話が具体的でわかりやすいことが、世論の関心を集めているのだと思う。

具体的な問題として、安倍政権の下で招待客が年々増え、開催経費も2014年の3000万円から、19年には5500万円にも膨らんでいる。招待者1万5000人のうち、安倍首相の招待枠は昭恵夫人分をふくめ1000人、自民党関係者枠は6000人にも上っている。本来の「功労者」、各省庁の推薦枠は6000人程度で、全体の半数にも達っしていなかったことなどが明らかになった。

また、野党側は、首相の後援会が前夜祭を都心の有名ホテルで開催し「桜を見る会」とセットで勧誘していたのではないか。前夜祭の会費が1人当たり5000円は安すぎ、公私混同、公職選挙違反の疑いもあると追及してきた。

これに対して、安倍首相は、安倍事務所が後援会員に会費の補填をしたことなどはないとした上で、当初はこの問題に関与していないと述べながら、後に自らの意見を述べたことはある旨の答弁に修正したりしている。
一方、菅官房長官は、桜を見る会については来年の開催を取り止めることを早々に発表したが、どこに問題があり、どのように見直していくのか説明は十分でない。

但し、この問題、政府・与党側はこれまで以上の説明をする考えはなく、今月9日の会期末で、事実上の幕引きを図る方針だ。これに対して、野党側は、引き続き閉会中審査や、来年の通常国会で追及する構えだ。

こうした与野党の攻防だけでいいのか、与野党と別の視点、取り組みも必要ではないかと個人的には考える。

 ずさんな文書管理、”証拠保全”が大事

今回の問題、与野党の議論がかみ合わない原因は「事実関係」がきちんと把握されていない点にある。そもそも今回の問題については、首相や自民党の推薦枠を管理する内閣府は、招待された人たちの名簿は、保存期間が1年未満で廃棄処分にしたので、詳細はわからないと釈明している。

一方で、各省庁側は、招待者名簿を保存してあり、プライバシーの観点から黒塗りにされながらも国会の資料要求に応じて提出されている。
また、国会図書館などには、昭和30年代の「桜を見る会」の詳細な開催資料なども保存されている。

平たく言えば、招待者名簿という「証拠資料」が内閣府分だけが、廃棄処分にされており、なぜ、このような判断をしたのかをはっきりさせることがポイントだ。

 繰り返される”愚行”、公文書のずさん管理

こうした公文書のずさん管理、つい最近2018年にも大きな問題になったばかりだ。自衛隊の日報問題、森友学園、加計学園の問題。森友問題では、国有地が安値で売却されていた経緯を記した文書は当初はないとされ、その後、存在が明らかになり、さらに決済文書が改ざんされていたことも判明した。

国会は、与野党ともにウソの資料に基づいて延々、議論をしてきたわけで、こうしたことがきっかけで、公文書管理のガイドラインも見直され、是正されたと個人的には理解していた。それだけに、繰り返される”愚行”に唖然とさせられた。

こうした廃棄処分の対応、首相、官房長官は「公文書の管理・保全」に万全を尽くすよう改めて指示すべきだ。一方、国会は与野党双方ともに党派を超えて、政府に対して是正を強く要求すべきだ。

 公文書管理の実態は?

こうした公文書の管理の問題・あり方は、今回の問題だけに止まらない。公文書に詳しい関係者に話を聞くと、特に最近の首相官邸で開催される会議については、議事録が公開されず、出席者もはっきりしないなどの問題が多いという。

政府の会議については、重要な政策決定のプロセスであり、どのような議論がなされたのか議事録などを通じて公開するのは当然だ。特に政府・与党の責任者は国民に対する説明責任と具体的な対応を果たしてもらいたい。

 事実解明型の国会審議に改善を!

最後に国会審議のあり方についても触れておきたい。これまで、政治とカネの問題をはじめ、様々な不祥事・スキャンダルが国会で取り上げられてきたが、実態はどうだったのか、最後まで曖昧なまま幕引きとなるケースが多かった。

この理由として、日本の国会は「事実解明型の審議」になっていないことが大きな要因ではないか。つまり、欧米のように事実関係について、各省庁、国会事務局なども動員して調べ上げ、そのデータを基に追及する事実解明型になっていない。
日本の国会審議では、多くは各委員会で各党の委員が個別に質問に立ち、疑問点を質し、追及ぶりを世論に訴える「アピール型の審議」が主流だと言わざるをえない。これを「事実解明型の審議・追及」に変えていく時期ではないかと考える。

そのためにも、まずは、国会審議の材料にもなる「公文書の管理と保全」を徹底すべきだ。その上で、国政調査権に基づく強制力のある調査も検討すべきだ。

一方、首相、閣僚は高い見識に基づく指導力の発揮。官僚は公正な行政の執行・運用をめざし、後世の評価・検証に絶えられる国政の運営を期待したい。国会、行政のトップ、官僚が相互にチェック機能を発揮しながら、公正な政治・行政に少しでも近づけてもらいたい。また、国民の側も関心を持って、きちんと評価・判断していく地道な取り組みが重要だ。

 

 

戦後政治の先駆者的宰相 中曽根元首相死去

「戦後政治の総決算」を掲げ、国鉄の分割・民営化などを成し遂げた中曽根康弘元首相が29日亡くなった。個人的には現役記者時代の首相で、「戦後政治の先駆者的宰相」として位置づけることができる。さまざまな面で今の政治の原型、先取りをしてきた首相・宰相と言える。

中曽根元首相の歩みを振り返ると、内外に多くの足跡・功績を残していることがわかる。同時に今の政治、政治家との違いが浮き彫りになり、「今の政治、政治家のあり方」を考えさせられる。

 「政治家として生涯全う」

中曽根元首相死去のニュースの中で印象に残ったのは、長男、弘文元外相が「息を引き取る直前まで国家の行く末を考え続け、政治家として生涯を全うしました」との感想だ。

101歳で逝去されるまで、毎年5月になると中曽根氏の誕生を祝う会と健在ぶりが、記者仲間を通じて伝わってきた。政界引退後も生涯一政治家として、安全保障や憲法改正問題で発信し続けてきた。

最初にお断りしておくと、私は現役記者時代、中曽根派の取材を担当したことはなく、中曽根元首相を知悉しているわけではない。

田中派担当で、中曽根氏を自民党総裁選で応援するかどうかを巡り、後に幹事長に就任する金丸信氏が「ぼろ神輿を担げるか」と難色を示したり、後藤田正晴氏が「ぼろ神輿は修繕して担げばいい」と収めたりしていた。

また、取材していた後藤田氏が、中曽根内閣発足時の官房長官として就任するまでの経緯。あるいは二階堂進副総裁が、中曽根氏と対峙し最後は副総裁を解任されるまでの時期。
ある時は中曽根氏側から、ある時は対局側から、取材していた当時の記憶をたどりながら、中曽根政権時代を振り返ってみる。

 戦後政治の先駆者

中曽根元首相の経歴や功績については、既にテレビニュースや新聞で報じられているので、省略させていただく。中曽根元首相は、一言でいえば「戦後政治の先駆者的宰相」、「昭和の時代、田中角栄氏と並ぶ保守政治家」と言えるのではないか。ここでは、中曽根政権時代の特徴で、その後の日本政治に影響を及ぼした点について、幾つか触れたい。

▲「首相のリーダーシップ・大統領的首相」

中曽根政権の特徴としては、第1に「首相のリーダーシップ、大統領的首相」を意識して実践していたことが挙げられる。

政権の目標として、行政改革を打ち出し、電電、専売、国鉄の3公社の民営化を実現した。その際、土光敏夫氏が会長を務める臨調・臨時行政調査会を活用して改革案を取りまとめ、自民党や官僚の頭越しに実行するトップダウン方式を多用した。

総理大臣のリーダーシップを発揮、大統領的首相をめざしたと言えるのではないか。その後、官邸機能の強化、政治主導などの取り組みにもつながる。

▲「首脳外交、ロン・ヤス関係」

中曽根政権の第2の特徴は、外交面では、首脳外交を展開した。
就任直後、最初の訪問先に選らんだのがアメリカではなく、韓国。歴代首相として初めて韓国を公式訪問、全斗煥大統領と会談した。当時、総理官邸で取材していて驚かされたことを鮮明に覚えている。

日米関係では、東西冷戦の1980年時代「日米同盟の重要性」を明確に打ち出した。レーガン大統領との間で、親密なロン・ヤス関係を築いた。

中国との間でも、胡耀邦総書記との間で日中友好関係を強めた。

▲「戦後政治の総決算」

中曽根元首相は「戦後政治の総決算」を打ち出し、吉田茂元首相以来の「軽武装、経済優先」の保守本流路線とは一線を画した。
靖国神社への公式参拝や戦後の米軍占領下で制定された憲法改正に意欲を燃やした。
但し、現職首相として初めて靖国神社に参拝したが、中国側が強く反発、胡耀邦総書記が苦境に立たされたことに配慮してその後、参拝を見送った。

一方、憲法改正問題は「現内閣では政治日程に載せることはしない」と封印するなど現実重視の姿勢を取った。

▲”政界風見鶏” ”ベンチャーの創業者”

中曽根元首相に対しては、”政界風見鶏”と揶揄する見方があるのも事実だ。
確かに佐藤政権時代、鋭い批判者の立ち場から一転入閣したり、角福戦争の際には地元出身の福田赳夫氏ではなく、田中角栄氏の陣営に加わったりしたケースをとらえられ批判を受けた。

他方、中曽根派は中小派閥で、そこから総理・総裁の座を射止めるためには、様々な苦難を乗り越える必要も理解できる。今風に言えば、ベンチャー企業の創業者的存在といったところではないか。
首相就任後は、”死んだふり解散”で、総選挙で圧勝、独特の政治的な勘の持ち主でもあった。

一方で、政治とカネ、リクルート事件などでも関係が取り沙汰された。
経済政策では、首相時代のプラザ合意と円高、その後の経済政策がバブルにつながったのではないかいった指摘があるのも事実だ。

▲「テレビ政治時代の先駆け」

1970年代、自民党が”三角大福中”の派閥全盛時代、中曽根氏は派閥領袖の中で、いち早く、テレビ時代の到来を意識していた有力政治家だった。

ネクタイの色や柄まで、テレビ映りを意識していた。対米貿易黒字対策の市場開放策についての記者会見では、自らカラーのグラフなどを使って説明するなどの演出面にも気を配っていた。

”テレビ政治時代”を意識しており、細川元首相や、小泉純一郎元首相など先駆けとも言える。

さらに感心するのは、中曽根氏は著書が多い点だ。”50年の戦後政治を語る”として出版された「大地有情」、「リーダーの条件」などの著書で、最高権力者がどのような発想・考え方で国家の舵取りをしてきたのか、政治記者としてたいへん勉強になった。首相経験者が著書で政治を語る先駆けとしての存在でもある。

 問われる今の政治家・政治の質

中曽根政治を見てくると「首相のリーダーシップ」は、「今の政治主導、官邸主導」につながる。
「中曽根氏の首脳外交、日米同盟」路線は、今の安倍首相の「地球儀を俯瞰する外交、日米基軸外交」に引き継がれている。
さらには「憲法改正」重視なども安倍政治と類似する。

一方、政治家・政治の質という面では、中曽根政治には、政権の目標設定や実現のための工程が明確だったと言える。
また、理念・哲学と同時に、問題が起きれば軌道修正を図る柔軟性も兼ね備えていたのではないか。

端的に言えば、今の政治家・政治との落差を痛感する。中曽根元首相の時代以上に、日本を取り巻く情勢は厳しさを増している。それだけに政治家と政治の質の改善、そのための具体的な方策を考えていく必要がある。

 

安倍最長政権 ”支持率下落” 「桜を見る会」影響

安倍首相の在任期間が11月20日、戦前の桂太郎元首相を抜いて通算で、歴代最長になった。一方で、報道各社の世論調査で見ると、安倍政権の支持率は、2閣僚辞任までは影響は限定的だったが、首相主催の「桜を見る会」問題などで、内閣支持率が下落している。世論は安倍最長政権をどのよう見ているのか、報道各社の世論調査データを基に分析する。

 ”閣僚辞任・失言・疑惑3点セット”

9月の内閣改造で初入閣した菅原前経産相と河井前法相が相次いで辞任したのを受けて、当コラムでは、11月上旬に行われたNHK世論調査を基に政権への影響を分析した。その結論は「安倍内閣の支持率は横ばい状態で、政権への影響は限定的だと言えそうだ」と報告した。
その後、萩生田文科相の「身の丈発言」をきっかけに大学共通テストへの英語民間試験の導入が延期された問題。さらに、首相主催の「桜を見る会」問題も焦点に浮上してきた。安倍政権は、”閣僚連続辞任、失言、公私混同疑惑の3点セット”の問題”の火消しに追われる形になっている。

 報道各社:世論調査データ

そこで、まず、報道各社の世論調査データから、時系列的に見てみよう。
▲11月上旬に行われたNHK世論調査(8~10日)では、安倍内閣の支持率は、
◇支持が47%、◇不支持が35%。支持率は、前回調査に比べて1%の減少。
閣僚2人の相次ぐ辞任が、安倍政権へ及ぼす影響については、「影響がある」48%、「影響がない」44%と見方が分かれた。

▲11月中旬には、読売、朝日、産経3紙が調査。(読売15~17日、朝日、産経16・17日)
安倍内閣の支持率は、◇読売は49%で、6ポイント減、◇朝日は44%で、1ポイント減、◇産経は45%で、6ポイント減。

▲11月下旬には、日経、共同通信2社が調査。(日経22~24日、共同22・23日)安倍内閣支持率は、◇日経が50%、7ポイント減、◇共同は49%、5ポイント減(小数点以下、四捨五入)となっている。

 支持率下降、下落幅も大きい共通項

いずれのデータも調査を行ったメデイアや設問などが違うので、数字を詳細に比較しても意味はない。「傾向」を読み取ることの方が重要だ。
いずれの社のデータも支持率は前回調査に比べて「下降傾向」にあることが共通している。「下落幅」も多くのデータが「5ポイントから7ポイント」と大きく、「下落の有意差」が見られる点も特徴だ。

 支持率下落の要因

内閣支持率下落の要因については、閣僚連続辞任、英語試験問題の影響も考えられるが、設問内容から判断すると「桜を見る会」の影響が大きい。
安倍首相のこれまでの説明について「納得できない」「信頼できない」といった首相不信が、7割近くを占めている。(朝日「納得できない」68%、日経「納得できない」69%、共同「信頼できない」69%)。

「桜を見る会」は、今国会で取り上げられ注目を集めたのが11月8日、参議院予算委員会で共産党・田村氏が追及。それ以降、15日には安倍首相が異例の記者説明を2回も行っている。20日には参議院内閣委員会で、安倍首相と夫人の招待の推薦枠が約1000人だったことが明らかにされるなど野党の追及が続いている。

安倍政権は、閣僚辞任や英語民間試験問題については短期間で結論を出したが、「桜を見る会」については事実関係などの説明が後手に回り、しかも手間取っていることも支持率下落に影響している。

  ”政権に陰り” 一連の不祥事

このように9月の内閣改造・自民党役員人事で新たにスタートした安倍政権は、これまでの国会とは異なり、一連の不祥事で守勢に立たされている。
また、内閣支持率が下落、世論に支持離れの傾向が見られる。
さらに、第2次政権発足当時のアベノミクスのような新たな政策を推進しようという勢いが見られず、”政権に陰り”が感じられる。

  政権への影響、一時的か復元か、見極め必要

こうした一方で、政権そのものへの影響が出てくるのかどうか、見極めが必要だ。というのは、安倍政権は、これまでも内閣支持率の大幅な支持率低下で「支持・不支持の逆転」も見られたが、短期間で支持を取り戻す「強い復元力」を発揮してきたからだ。現在も、支持率は40%台半ば、あるいはそれ以上で、堅調な水準を維持している。

NHKの世論調査で見ると◇2014年秋に当時の小渕優子経産相、松島みどり法相の女性閣僚がそろって辞任した際には、支持率が8ポイント大幅下落した。◇2015年の安全保障関連法、2017年の森友学園問題、2018年の加計問題が焦点になった時は「支持と不支持の逆転状態」に3回、追い込まれた。但し、この際には、長くて3か月、2か月で元の水準を取り戻している。

今回は、支持が不支持を上回っている状態だ。今後の推移を今しばらく、見極める必要がある。

 国会の攻防、長期政権の評価がカギ

安倍政権の今後の求心力、政権への影響については、焦点の「桜を見る会」を巡って、地元支援者を数多く招くなど公私混同ではないかといった様々な疑念に、どこまで説得力のある説明ができるのかどうか。

また、国民が長期政権の是非をどう考えるのか。自民党内にある安倍首相の総裁4選論を容認する方向へ動くのか。それとも、あたらしいリーダーに将来に委ねるのか、世論の評価が大きなカギを握っている。

安倍政権と世論の関係については、今後も節目節目で取り上げていきたい。

 

 

「民間任せ」 現場の声 生かして再設計を! 英語民間試験 

萩生田文部科学大臣の「身の丈発言」をきっかけに大学入学共通テストへの英語民間試験の導入が延期された問題。国会もまもなく会期末を迎えるので、政府として、今後どのように対応していくのか、一定の区切りをつけてもらいたい。

また、この問題の本質は、大学入学試験を民間事業者に全面的に委ねた点にあると考える。このため、現場の声を基に、制度設計を再度やり直す必要があるのではないか。国民の多くの皆さんに引き続き関心をもっていただきたい。英語教育専門家の意見の紹介も含めて、この問題を取り上げる。

 「制度設計から出直しを!」の続報

この問題が表面化した直後、私は当コラムで「制度設計から出直しを!」と題する考えを投稿した。政治記者出身で教育の専門家ではないが、「この問題の根本は、大学入試に使われる英語の試験を民間業者・団体が実施する試験に委ねた制度設計にあるのはないか」と問題提起した。その後、どのような展開になるのか気になっていたので、改めて続報を執筆したいと考えていた。

 英語教育専門家「2つの構造的欠陥」

その続報を考えたきっかけは、実は先週22日、日本記者クラブで行われたシリーズ企画「英語教育改革の行方」で、京都工芸繊維大学の羽藤由美教授の講演と質疑を聴いたからだ。

羽藤教授は、自らの大学入試などに使用しようと独自に英語のスピーキングテストを開発した英語教育の第一任者だ。講演で私が最も印象に残ったのは、「今回の英語民間試験には、構造的欠陥が2つある」と指摘した点だ。

 「公平・公正さと利潤追求」の二律背反

構造的欠陥としてあげた1つが、「公平・公正性と利潤追求との二律背反」だ。つまり、大学入学者の選抜にあたっては、公平性・公正性が大前提になる。

一方、英語民間試験を実施する民間事業者にとって、会場や人手の確保などに経費がかかり、採算を取り利益を高めようとするのは当然の経営判断ともいえる。

利益を優先しすぎると大学入試の運営に問題が生じたり、受験生に不当な負担がかかったりする。この2つの関係は、二律背反が避けられないと指摘する。

その結果、幼い頃から民間試験や受験対策講座などを手軽に受けられる都市部の富裕層に有利で、地方の低所得者層からの大学進学がより難しくなるなどの格差がより進むなどの弊害が予想される。

 「異なる試験で、成績比較の致命的欠陥」

2つ目は「異なる試験の成績を比べるという致命的な欠陥がある点だ」という。共通テストに使われる英語民間試験は、6つの事業者が運営する7種類の民間試験だ。それぞれの試験は、測る対象、能力などが違うので、そもそも異なる試験の成績を比べることはできないと指摘する。

例えて言えば、50メートル走と、マラソンとのタイムを比べて、走力の優劣を決められないと同じで、それぞれの試験の成績を比べて、英語力の優劣は決められない。

こうした構造的にムリがある制度を押しつけようとしているのが、今回の問題だと指摘。構造的な欠陥がある制度を受験生に押しつけようとしていると結論づける。

その上で、羽藤教授は、文部科学省の官僚もわかっていながら、声をあげない。大学の教職員も関心を持つのは一部に限られ、多くは無関心。国大協、メデイアも肝心な点まで踏み込まないと憤っていたが、個人的にはわかる気がした。

詳しくは、「日本記者クラブのホームページ」にアクセスすると講演・記者会見の質疑の模様が動画で見ることができる。

 公的機関が関与・指導できる制度設計に

では、この問題、どんな対応が考えられるのか?
羽藤教授は、今後の英語試験については、文部科学省や入試センターなどの公的機関が制度設計に関わり、その上で、民間事業者の経験を生かすことが望ましいとの考え方を示している。

筆者も同じ問題意識であり、公的機関が中心になって制度設計するのが基本ではないかと考えている。その際、重要な点は、教育現場の専門家、それに高校で生徒を教えている教諭の声を十分に耳を傾け、運用面に生かしていくことが重要だと考える。

 

 教育現場の声を生かす政策決定・運用を

今回の英語の民間試験制度の土入は、第2次安倍内閣の私的諮問機関である「教育再生実行会議」の提言がきっかけになっている。経済界の有力なメンバーの提案が採用され「政治主導・官邸主導」で推進されてきた。

いわば”上からの改革”で、自民党をはじめ、文部科学省の官僚も、疑問点を質したり、運用上の問題を提起したりできなかったのではないか。
このため、今後は教育分野の専門家、当事者である高校生など現場関係者の声を生かして、制度設計や運用ができるよう改善する必要があると考える。

また、大学共通テストをめぐっては、今回の英語民間試験の問題だけでなく、国語と数学に記述式問題が導入される。採点には、大学院生や教員の退職者、アルバイトの大学生が当たることが想定されているが、採点が公平に行われるのか具体的な取り組み方が問われている。

政府が、受験生が納得のいく制度設計や、運用面でも信頼できる体制を整備できるかどうか。また、そのための予算は、国が全面的にバックアップすることも、不可欠だ。

政府は、21世紀の日本にふさわしい教育体制の構築を掲げている。それならばOECDの先進諸国の中で、教育の公的支援の割合が最低水準にある点は、早急に改善する必要があると考える。

 

 

 

有終の美を飾れるか? 歴代最長の安倍政権

安倍晋三首相の通算在職日数が20日、2887日となり、戦前の桂太郎元首相を抜いて憲政史上最長となった。長期政権の要因については、前回のブログでとりあげた。2回目の今回は、今後の政権運営に焦点を当てて、分析したい。

これまでの長期政権を見ると政権末期に、人心が離れ政権の力が急速に衰えたり、政権運営が迷走したりするケースが目につく。”超長期政権”となった安倍政権は、果たして「有終の美」を飾ることができるのか、探って見たい。

 長期政権 難しい”幕引き”

戦後の歴代首相は34人を数えるが、任期を4年以上務めた首相は6人しかいない。吉田茂、池田勇人、佐藤栄作、中曽根康弘、小泉純一郎、それに安倍晋三の各首相だ。各政権を駆け足で振り返ってみると、次のような特徴がある。

◇敗戦間もない吉田政権は、サンフランシスコ講和条約を締結、占領を終わらせたが、講和後、国民の人気は急降下、造船疑獄などが重なり退陣。

◇所得倍増政策を推し進めてきた池田元首相は、喉頭ガンの病に倒れ、東京オリンピック閉会の翌日、退陣を表明する。

◇佐藤政権は7年8か月の戦後最長政権。沖縄返還を実現、総裁4選も果たしたが、派内の抗争、外交ではニクソンショックの直撃、世論とのズレも目立った。

◇中曽根政権は国鉄などの民営化を実現し、衆参ダブル選挙で大勝。総裁任期1年延長となったが、売上税でつまずいた。

◇小泉政権は郵政民営化に執念を燃やし、衆院解散・総選挙を断行。刺客候補などの小泉劇場を繰り広げて選挙は圧勝。総裁任期の延長は求めずに引退した。

このように見ると比較的順調な形で退場したのは小泉元首相くらいで数少ない。長期政権の幕引きは、意外に難しいことがわかる。

 「政権の総仕上げ」と「次の新政権づくり」

さて、安倍政権のこれからの政権運営はどのようになるか。
まず、安倍政権は「超長期政権」という強みがある。他方、自民党の総裁としての任期は「1期3年、連続3期」という党則があり、再来年2021年9月30日まで。「任期限定政権」という制約がある。再度の総裁任期の延長、4選論もありうるが、やはり党則、世論の反応も考えると難しいと見る。

4選論については安倍首相も否定している。安倍政権としては「政権の総仕上げ」と「次の新政権づくり、バトンタッチ」の2つの使命・責任を果たさなければならない。

 「政治日程は逆に読む」、これからの動き

それでは、これからの政権運営は、どこがポイントになるのか。
「政治日程は逆に読む」。時間の経過を追って見ていくのではなく、最も重視する日程から、逆に読んでいくのが基本だ。

安倍首相が最も重視するのは何か。1つは自民党総裁任期、2021年9月30日。
もう1つは、その3週間後に任期満了となる衆議院議員の任期、10月21日。
ほぼ同時期だ。

つまり、「次の自民党総裁選び」をどうするか。「衆議院の解散・総選挙をいつ設定するか」、2つの根本問題が残されており、最大のポイントだ。

 総裁4選論はあるか?

まず、「次の自民党総裁選び」では、安倍首相の4選論はあるかどうか。
両説あるが、取材の感触を率直に言えば、確率としては低いのではないか。

安倍首相も強い口調で否定している。側近と言われる政治家を取材しても「安倍首相は3期まで務めた後、後継のリーダーに託す考えだ」との見方をしている。

ただ、政治の世界は、現実の動きによって変わることがあり得る。例えば、安倍政権が、重要な内政問題の処理で山場にさしかかった場合、あるいは、来年秋のアメリカ大統領選挙の結果などによっては、安倍首相の続投もないとは言い切れない。但し、現状ではその可能性は低いのではないかと、個人的には見ている。

 年末・年始解散は見送りか?

次に「衆院解散・総選挙」については、断定的なことを言える材料はない。
但し、与党幹部の取材を基に判断すると一時期、盛んに流されていた「年末・年始の解散」の可能性は低く、見送りの公算が大きいのではないか。

その根拠は、秋の台風15号、19号とその後の大雨の被害が大きかったからだ。補正予算案の編成作業が進められており、自民党幹部も「台風災害への対応で、選挙は、とてもムリだ」と認めている。

その後の時期は、さまざまな説がある。予算成立後では◇来年4月19日は、秋篠宮さまの立皇嗣の礼。◇春には、中国の習近平国家主席が国賓として来日予定。
◇東京都知事選が6月18日告示、7月5日投票の日程。◇東京オリンピック・パラリンピックが7月24日、幕を明ける。自治体などの事前準備などを考えると解散・総選挙は、オリンピック後の来年秋以降との見方が強い。

政局のヤマ場は、来年秋か

このように見てくると政局の最大のヤマは、来年秋以降に収れんしてくる。
次の衆院選挙は、誰が断行するのか。安倍首相か、次の新しいリーダーか。そのためには、自民党総裁選をいつ設定するのか。再来年の秋か、それとも前倒しがあるのかといった点も含めて判断する必要がある。

政権与党にとって、任期満了選挙は追い込まれ解散の恐れがあり、避けるとすると、任期満了1年前には、総選挙の時期・段取りを固めておく必要がある。そうすると、ちょうどオリンピック・パラリンピック閉幕時重なってくる。

安倍首相が、自らの総裁4選論、次の総裁選び、衆院選への対応を決断することになるのではないか。その時点の政権の体力、ポスト安倍候補の思惑、それに世論の風向きも含めて、政局は大きく揺れることも予想される。

長期政権、最重点課題は何か?

国民にとって関心があるのは、安倍長期政権は残り2年を切った任期中に、何を最重点課題に設定して取り組むのかという点だ。

去年秋、安倍首相が総裁3選を決めて以降、行った記者会見や国会での所信表明演説などを基に判断すると、最重点課題としては次の3つが考えられる。
1つは「全世代型の社会保障制度改革」の実現。2つ目が「戦後外交の総決算」、日露、日朝関係など。3つ目が「憲法改正問題」だ。

安倍首相の本音は「憲法改正」と思われるが、憲法9条に自衛隊明記を盛り込む改正は、限られた任期内に実現するのは極めて難しいという見方が強い。

安倍首相は引き続き憲法改正を追求していくのか、あるいは、リアルな課題を選択するのか政権の最重点課題の絞り込みを注目して見ていきたい。

 有終の美、最後は政治姿勢がカギ

最後に長期政権の対応が難しいのは、”有権者の政権に対する飽き”を如何に防ぐか。有終の美を飾るためには、最後は、首相の政治姿勢が問われることになる。

安倍政権と有権者の関係は、世論調査の中身を分析すると、内閣支持率は堅調だが、「世論の信頼度」は必ずしも高くない。内閣を支持する理由は「他の内閣より良さそう」という消極的な支持が圧倒的に多い。
支持しない理由としては「首相の人柄が信用できない」という不信感が多いのも特徴だ。

先の内閣改造以降、初入閣の主要閣僚2人が相次いで辞任に追い込まれたのをはじめ、大学入学共通テストへの英語民間試験の導入が来年度延期されることになった。さらには、首相主催の「桜を見る会」を巡る問題も批判を浴びている。

国民の側は、首相の釈明や陳謝が本気かどうかを敏感に見極めようとしている。不祥事に対して”ダメージ・コントロール”といった小手先の発想で対応していると、人心は一気に離れてしまうのが恐ろしいところだ。
長期政権だからこそ、事実関係の説明の徹底。政治家が責任・ケジメをつけ、信頼感を保つことにより一層努める必要がある。

日本の政治は、これまで長期政権の後は、短期政権が続くケースが多かった。
世界は激変時代、日本は難問山積、問題処理の時間は余り残されていない。
それだけに政権与党内で次をめざすリーダー同士の論争、与野党間の建設的な競い合いなど新たな時代の政治につなげる取り組みを是非、みせてもらいたい。

 

安倍政権 歴代最長の要因は? 「官邸主導、選挙で連勝」

安倍首相の通算在職日数が、11月20日に戦前の桂太郎元首相を抜いて、憲政史上最長になる。長期政権の要因は何か?

また、今後も自民総裁4選などでさらに任期を伸ばしていくのか、それとも政権の失速、退陣といった事態もあるのか、2回に分けて分析・展望してみたい。

安倍首相が政権復帰を果たした2012年頃からの取材メモなどを読み返してみると歴代の自民党政権と異なる点に気づかされる。

1つは「官邸主導」の徹底。良くも悪くも、安倍首相を中心にした政治家・官僚チームが再結集し、組織的な政権運営を徹底して貫いてきたことがわかる。

もう1つは、「国政選挙の連勝」。政権復帰後、最初の参院選に勝利、衆参ねじれ状態を解消した。また、政権に不利な局面では、衆院解散・総選挙を前倒し。

相撲で言えば、”けたぐり”、”猫だまし”なような手法で勝利。こうした選挙での連勝が、長期政権の大きな要因というのが私の見方だ。
以下、こうした見方・読み方の理由、根拠を具体的に説明したい。

短命政権が多い日本

最初に、日本の総理大臣や政権の特徴を見ておくと「短命政権」が多い。
内閣制度が始まった明治18年・1885年、初代の伊藤博文から、98代の安倍首相まで歴代首相は62人を数える。

このうち、在職日数が4年以上務めた首相は、戦前で2人、戦後は6人しかいない。戦前は、伊藤博文と明治・大正時代の桂太郎、日露戦争当時の首相。戦後は、吉田茂、池田勇人、佐藤栄作、中曽根康弘、小泉純一郎、安倍晋三の6氏しかいない。

安倍首相は、今年8月24日に戦後最長だった佐藤栄作元首相の2798日を抜いたのに続いて、11月20日には桂太郎の2886日を上回り、憲政史上最長となる。

長期政権 多様な要因

さて、本論に入って、安倍政権が長期政権となった理由としては、多くの要因が考えられる。直ぐに頭に浮かぶのは、第2次安倍政権ではデフレ脱却、強い経済を目標に大胆な金融緩和などの経済政策、「3本の矢」を打ち出したこと。

この経済政策はアベノミクスとして人口に膾炙し、当初の段階では、円安、輸出増加、経済成長率の上昇など一定の成果を上げた。雇用情勢も好転した。好調な経済・雇用は政権を持続させる追い風となった。

また、政治情勢としては、当時の民主党政権が党内の対立で行き詰まりを見せており、後継の安倍政権には有利に働いた。
野党が弱体、与党内に強力なライバルが不在だったことも大きな要因だ。

さらに世論との関係でも安倍内閣の支持率は、堅調な状態が続いてきた。
こうした経済情勢、政治環境、世論の支持など多様な要因が長期政権を形作ったのは事実である。

「官邸機能の強化」が原動力

長期政権の理由として、先に見たように多様な要因があるが、政治取材を続けてきた記者・ジャーナリストの立ち場で言わせてもらうと、政権の中枢である「官邸機能の強化」が長期政権の原動力になったと見ている。この点は政治取材に足を踏み入れた1970年代、自民党の派閥全盛”三角大福中”の時代から感じてきた。

わかりやすく表現すれば、日本の政治は新たに総理大臣の指名を受けると”単身で総理官邸に乗り込み、官僚の海に囲まれて執務を行う状態”に置かれる。
総理の周辺にいる身内は、せいぜい官房長官と副長官、政務の秘書官程度だ。こうした政権中枢の不十分な体制が短命政権の要因になっているのではないか。

 “安倍One Team”効果

これに対して、第2次安倍政権発足時の体制を振り返ってみると、安倍首相を、麻生副総理兼財務相、甘利経済再生担当相、菅官房長官の3人が中心になって支えていた。それに官房副長官が加藤勝信衆院議員(現在の厚労相)、世耕弘成参議院議員(現在の参院自民党幹事長)。政務の総理秘書官が経産省出身の今井尚哉氏(現在の総理補佐官)という体制だ。

一方、事務方は、官房副長官の杉田和博氏を筆頭に、総理秘書官の多くが、過去に1年以上、官邸で仕事をした経験者で、安倍首相とも個人的なつながりのある人材を起用していた。

安倍総理を中心に中枢の閣僚4人が話し合い、決まったことを菅官房長官が閣僚などに徹底させていく形で政権運営を行っていた。

また、安倍首相自身、第1次内閣が短命に終わった反省を基に政権運営に当たったと語っているほか、当時の事務方の関係者も「前回を教訓に毎日、顔を合わせ雑談、意思疎通を心がけていた」と話している。今風に言えば、”安倍 One Team”を実践したことが、政権運営に効果を発揮したと言えそうだ。

官邸機能、歴代で最高評価も

別の政権の秘書官経験者を取材しても「今の安倍政権は、首相官邸の調整機能を組織的に回すことができている。官僚機構もうまく回している。これまでの自民党政権でもなかったことではないか」と評価している。
個人的には”行き過ぎ”の感じがしないわけでもないが、政権運営面では歴代政権の中でも高い評価を受けているのも事実だ。

 ”国政選挙6連勝” 効果

長期政権のもう一つの主な要因が、衆参の国政選挙で連勝を続けていることだ。
政権復帰後、最初の2013年の参議院選で勝利し、衆参のねじれ状態を解消した。

2014年の衆院解散・総選挙は、直前の内閣改造で初入閣した女性閣僚2人が「政治とカネの問題」などでダブル辞任に追い込まれたが、翌年の消費増税の先送りを掲げ、解散・総選挙に打って出て勝利した。衆議院議員の任期が2年に達しない段階の解散で、野党側にとっては不意打ちを食らった総選挙になった。

結局、安倍政権は、政権復帰を果たした旧民主党政権下の選挙を含め、衆院選3回、参院選3回の合わせて6戦全勝が続いている。
2015年の統一地方選を含めると、2013年から2019年まで、安倍政権は、大型選挙を毎年1回ペースで行ったことになる。政権を取り巻く情勢が不利になっても、国政選挙で勝利し、局面を打開してきた。

この背景には、野党の多党化・分裂、それに野党の選挙準備不足が大きく影響しているが、野党の弱点を最大限突いて政権基盤を安定させる巧妙な政権運営を行ってきたと言えるのではないか。

長期政権の功罪は?

最後にこうした異例の長期政権の功罪をどう見るか。
一般的には、長期政権自体は、毎年1年で首相が交代するよりは政治が安定し、外交や中長期の課題に取り組めるので評価していい。

但し、安倍政権の場合の問題は、世論調査のデータで見ると「他の政権よりまし」といった消極的な評価が多い。
また、「首相の人柄が信頼できない」といった受け止め方が多い。
つまり、永田町では強い政権だが、世論の支持の度合いは必ずしも強くはないことを認識しておく必要がある。政権が長期化する場合、有権者の”飽き”が大きなハードルとして浮上するのではないか。

このほか、安倍政権の場合、内閣人事局で中央省庁の幹部人事を一括管理するようになり、官邸の意向を忖度する雰囲気が一段と強くなり、官僚機構が変質してきたのではないかと危惧する声も聞く。

政治の基本は、国会と行政が相互にチェックする機能、あるいは、与野党間の政権交代が行われるようにすることで、健全な民主主義を持続させることを考えておく必要がある。
長期政権に対しては、国民がその功罪を認識して、選挙に参加して判断していくことが不可欠だ。そのための判断材料と選択肢を政治の側、メデイアの側が地道に根気よく提供していくことが問われていると考える。

次回は、安倍長期政権の今後を展望します。