この夏、日本の政治は7月7日投票の東京都知事選挙で小池知事が大勝した後は、通常国会が既に閉会していることもあって、平穏な日々が続いている。アメリカは、11月の大統領選に向けて劇的な動きが相次いでいるのと対照的だ。
こうした中で自民党は26日に開いた総務会で、秋の自民党総裁選挙の選挙管理委員会の委員を報告し、決定した。逢沢元国会対策委員長や中谷元防衛相ら11人で、8月上旬に初会合を開き、月内に告示や投開票などの選挙日程を決める見通しだ。
今回の総裁選は、岸田首相の自民党総裁としての任期3年が、9月30日に満了になるのに伴って行われる。但し、これまで総裁選に名乗りを上げた候補者は、岸田首相を含めて誰もおらず「様子見状態」が続いている。
今回の総裁選はどのような構図になり、どんな展開になるのか、総裁選の焦点を探ってみる。
総裁選・岸田首相の進退、分かれる見方
さっそく、総裁選はどのような顔ぶれで戦うことになるのか、この点からみていきたい。
冒頭に触れたようにこれまでに名乗りを上げた候補者はいないが、岸田首相は6月の記者会見で、秋に新たな経済対策を打ち出す考えを示すなど続投に強い意欲をにじませた。
一方、自民党内では「裏金問題で内閣支持率の低迷が続く岸田首相は、自ら責任を取って辞任すべきだ」といった声がくすぶっている。
これに対して、岸田首相の最側近として知られる木原誠二・幹事長代理は24日都内の講演の中で、岸田首相は総裁選への立候補を断念する考えはないのかと質問され「私の立場では、ないと思っている」とのべ、断念する考えはないとの認識を示した。
また、木原氏は「岸田政権は国内経済を活性化する点で成果を上げつつあり、憲法改正や政治改革といった残された課題もある。岸田総理が引き続き政権運営にあたるべきだ」との考えを示した。
この点について、自民党の長老に聞いてみると「現職の総理・総裁としては当然だろう。しかし、党内の『岸田首相ではダメ』という空気は変わっていない。首相続投の公算はあるが、辞退する可能性の方が大きいのではないか」として、岸田首相の立候補断念もありうるとの見方を示す。
このように自民党内では、総理・総裁の進退をめぐって見方が分かれており、選挙戦の構図が固まらない状況が続いている。
裏金問題の政治責任、選挙の顔の要素も
それでは、党内から首相の立候補辞退の見方が消えないのは、どういった背景があるのだろうか。
自民党の閣僚経験者は「政治とカネの問題で、岸田内閣の支持率が大幅に下落しているのは、政治家が責任を取っていないためだ。最後は党のトップが政治責任を取って局面を打開するしかない」と首相の決断に期待をかける。
別の自民党関係者は「今度の総裁選は党の中堅・若手議員にとっては、次の衆院選挙を戦う『党の顔』を選ぶ選挙でもある。総裁選と衆院選挙は事実上、一体と位置づけている。このため、国民に不人気な首相は交代してもらいたいというのが若手議員らの本音だ」として、岸田首相の再選は困難との見方を示す。
こうした考えをすべて肯定するわけではないが、岸田内閣の支持率などが大幅に改善しない場合、自民党内では「首相交代圧力」が一段と強まることが予想される。
岸田首相としては、早期に政権の浮揚を図り、求心力を高めることが迫られていると言える。
有力候補不在、波乱の短期決戦か
さて、今回の総裁選をめぐって自民党内からは「岸田首相に戦いを挑む有力候補がいないのではないか」との見方を聞く。
候補者として名前が上がるのは、石破元幹事長、小泉元環境相、河野デジタル担当相、高市早苗経済安保担当相、茂木幹事長、それに若手の小林鷹之・元経済安保相らが取り沙汰されている。
各氏ともそれなりの意欲をにじませるのだが、「夏の間に考える」「熟慮を続け、お盆明け頃には結論を出す」などの曖昧な答えが返ってくる。総理・総裁をめざして何をやりたいのかなどには踏み込まないのが、最近の候補者の特徴だ。
自民党内からは「岸田首相が続投に意欲を燃やすのは、こうした顔ぶれなら勝てると思っているのではないか」といった声も聞く。岸田首相が最終的に総裁選に立候補するのか、あるいは、断念することになるのか。そして、対立候補として誰が立候補することになるのか、まだ時間がかかりそうだ。
総裁選の日程が決まるのは、お盆明けの8月下旬になるとみられる、それ以降、9月に入っての告示日までの短期間に一気に事態が動く可能性が大きい。一言で言えば、短期で波乱含みの展開になるのことが予想される。
今回、自民党は裏金問題で派閥の解散を決めた後、初めての総裁選になる。党の関係者からは「派閥としての動きは批判を浴びるので、小さなグループごとの動きになるのでないか」との声を聞くが、党員投票や議員票獲得がどのような形で行われるのか、はっきりしない。
一方、国民の多くは総裁選の投票権を持っていないが、政権与党としての対応を見極めようとしている。裏金問題に本当にケジメをつけたのか、総裁選の候補者の世代交代は進んだか、政策面では何を優先課題として打ち出すのかといった点に関心が集まるものとみられる。
総裁選の勝敗のゆくえだけでなく、自民党自体のあり方、政権与党としての役割、信頼性などが問われることになるのではないか。
9月は、野党第1党・立憲民主党の代表選挙もほぼ同じ時期に行われる見通しだ。そして、速ければ年内にも衆院解散・総選挙が行われる可能性が高いとみられている。私たち有権者も自民、立民のリーダー選びを注視しながら、次の衆院選本番の選択に備える必要がある。(了)