IR汚職事件、疑惑の徹底解明を!

カジノを含むIR・統合型リゾート施設の事業をめぐって、元内閣府副大臣で自民党に所属していた秋元司衆議院議員が逮捕された事件に関連して、今度は日本維新の会に所属していた下地幹郎衆議院議員が、贈賄側の中国企業の元顧問から現金100万円を受け取っていたことが明らかになった。

贈賄の中国企業側は、秋元議員とは別に「5人の衆議院議員に100万円ずつ資金提供した」などと供述しているとされ、東京地検特捜部が捜査を続けている。

こうした汚職事件の捜査が進む中で、政府はIRの整備を予定通り進める方針で、7日に、事業者の審査にあたる「カジノ管理委員会」を設置した。

これに対して、野党側はIR整備法の廃止法案を通常国会に提出する方針で、今月召集される通常国会では、IRの整備の是非をめぐって、激しい論戦が交わされる見通しだ。

今回の汚職事件の背景や、IR法成立までの問題点などを考えてみる。

IR推進法、整備法とは

最初に基本的なことだが、カジノを含むIR法とは何か手短に整理しておきたい。
IR推進法は、カジノを中心にホテルなどの宿泊施設、テーマパーク、国際会議場、商業施設などを一体的に整備する統合型リゾート(IR=Integrated Resort)の設立を推進する基本法だ。

カジノは本来、刑法の賭博罪にあたり禁止されているが、政府は観光や地域経済の振興につながる公益性があるなどとして、例外的に合法化するものだ。このため、「カジノ解禁法」、「カジノ推進法」とも呼ばれる。2016年に議員立法として成立した。

この法律を受けて、IRの整備・運営の基本ルールを定めたものがIR整備法。全国に最大3か所設置することなどが定められている。IR整備法は、ギャンブル依存症対策基本法とともに2018年7月の国会で成立した。

 秋元議員、IRと深いつながり

今回の事件で逮捕された秋元議員は、内閣府のIR担当副大臣を務めていた2017年9月、衆議院が解散された際に中国企業の顧問から「選挙の陣中見舞い」として、現金300万円を受け取ったのが直接の容疑だ。

秋元議員とIRとの関わりは深い。2016年12月、カジノ解禁を含むIR推進法案を審議した際の衆議院内閣委員長が秋元氏だった。審議はわずか2日間のおよそ6時間で打ち切られ、委員長職権で採決に踏み切った。

その半年後の2017年8月に秋元議員は、内閣府と国土交通省のIR担当の副大臣に就任。その年の12月に自民党の衆議院議員らを誘って、中国の深圳にある中国企業本社を訪問するなど関係を深めていった。

 下地氏認め、自民4人は否定

中国企業の顧問は、秋元議員とは別に「衆議院議員5人に100万ずつ資金を提供した」と供述しているとされる。このうち、日本維新の会の下地幹郎衆議院議員が6日に記者会見し、3年前の衆議院選挙の期間中、事務所の職員が、現金100万円を受け取っていたことを認めた。
一方、残る4人の自民党衆議院議員は、いずれも受け取りを否定している。

下地議員が現金の受領を認めたことについて、日本維新の会の松井代表は「政治資金規正法違反にあたり、議員辞職すべきだ」との考えを示した。

こうした中で、下地議員は7日夜、離党届けを提出したことを明らかにした。議員辞職については、通常国会が召集される20日までに後援会のメンバーの意見を聞いた上で、判断する考えを示した。

これに対して、日本維新の会は8日、離党届けは受理せず最も重い除名処分とする方針を決めた。また、この問題は重大だとして、党として議員辞職の勧告を行うことも決めた。

今回の汚職事件、東京地検特捜部が捜査を続けているが、疑惑の解明を徹底して進めてもらいたい。また、国会も自浄能力が厳しく問われることになる。

 政府 IR整備進める方針

このように汚職事件の捜査が進められているが、政府はIRの整備を予定通り進める方針だ。7日付けで施設を運営する事業者の審査などにあたる「カジノ管理委員会」を設置した。カジノ委員会は、カジノの運営を申請した事業者を審査して免許を交付するとともに、事業運営の監視などにあたることになっている。

政府は、今月中にも整備区域の選定に向けた基本方針を決定する。これを受けて誘致を希望する自治体は、事業者とともに具体的な整備計画を作ることになっている。自治体から整備計画の申請を受け付ける期間は、来年・2021年1月4日から7月30日となる見通しだ。

政府は自治体から出された計画について、来年夏以降、有識者委員会を開くなどして審査し、場所を決定する。施設の建設に数年程度かかるため、政府は2020年代半ばの開業を見込んでいる。場所は最大3か所となっている。

 野党 廃止法案で対決姿勢

これに対して、野党側は、秋元議員が法律の成立にどのように関わったかなど実態の解明を進めるとともに、IR法は「バクチを解禁し、民間企業にやらせること自体に大きな問題がある」として政府の対応を厳しく追及する方針だ。

そして、立憲民主党などの野党4党は、今月召集される通常国会にIR整備法の廃止法案を共同で提出して政府と対決していく方針で、与野党の激しい論戦が交わされる見通しだ。

 重要法案多く、審議十分といえず

次に、IR整備法が整備されるまでの経緯と問題点について、触れておきたい。
IR整備法が与野党の争点になったのは、2018年の通常国会。森友問題で、財務省の決裁文書が改ざんされていたことが明るみになり、大きく揺れた時の国会だ。この時は、最終盤で、働き方改革法案、参議院の議員定数を6増やす法案、それにカジノを含むIR法案が、与党の圧倒的多数の力で相次いで成立した。

IR法案の審議では、カジノを合法化する要件をはじめ、入場回数の制限の根拠、ギャンブル依存症対策の実効性などについて、疑問点が浮上した。
また、条文が251条に及ぶ大型の新規立法だったが、衆参両院の審議時間は20時間前後で、十分な審議が尽くされたとは言えない状況だった。

 汚職事件で住民視線に厳しさも

一方、今回の汚職事件で、地域住民がカジノを軸とするIRに厳しい見方を強めることも予想される。ギャンブル依存症が増加するのではないかという懸念をはじめ、外国人の増加と治安の悪化、マネーロンダリング=不正なオカネを処理する温床になるのではないかいった問題に対する懸念が強まることも予想される。

政府は、IRを成長戦略として位置づけ、「観光先進国」の中核として巨額な投資をはじめ、雇用の拡大、観光客の増加といった経済効果をアピールしている。

これに対し、住民側からは、地域に根付いた伝統文化や、地域の自然、暮らしの体験などに軸足を置いた観光事業を求める意見が強まることも予想される。

通常国会では、こうしたIR事業そのものの評価をはじめ、成長戦略、地域社会の再生のあり方なども含めて議論を深めてもらいたい。

 

 

 

衆院解散はいつか? 秋以降の公算

新年・2020年の政治の焦点は、衆議院の解散・総選挙がいつ、行われるかだ。
政界の情報を総合して判断すると東京オリンピック・パラリンピックが幕を閉じた後、「2020年秋以降」の公算が大きいと見ている。

その理由は、端的に言えば、次のようになる。
まず、「年明け解散」があるかどうかがポイントになっていたが、台風などの災害復旧に加えて、「桜を見る会」問題など一連の不祥事で、安倍内閣の支持率が大幅に低下、解散に打って出る状況にはなくなっている。

その後は東京オリンピック・パラリンピックという大きな行事があるため、結局、オリンピック・パラリンピックが幕を閉じた後「秋以降の公算」が大きい。

但し、オリンピック後の経済情勢が悪化したり、安倍政権の体力が低下したりした場合は、翌年へ持ち越される可能性もある。

さらに、安倍首相の総裁4選論や後継選びの調整が難航したりした場合は、ズルズルとずれ込み、来年秋の「追い込まれ解散」に近いケースもありうる。

このため、解散時期は「秋有力」とまでは限定できず、「秋以降の公算」という見方をしている。
それでは、こうした衆院解散・総選挙の見方・読み方を詳しく見ていきたい。

 新年の政治日程

最初に新年・2020年の主な政治日程について、確認しておきたい。
◆2020年
◇1月20日  通常国会召集
◇4月19日  立皇嗣の礼
◇4月26日     統一補欠選挙(衆院静岡4)
◇春    習近平国家主席が国賓として来日(調整中)
◇6月17日  通常国会会期末
◇7月  5日  東京都知事選挙(6月18日告示)
◇7月 24日 東京オリンピック開会式(~8月9日)
◇8月 24日 安倍首相 連続在職日数歴代1位へ
◇8月 25日 東京パラリンピック開幕(~9月6日)
◇12月     新年度予算編成

◆2021年
◇ 1月       通常国会召集
◇ 7月22日  東京都議会議員 任期満了
◇ 9月30日  安倍首相 自民党総裁任期満了
◇ 10月21日   衆議院議員 任期満了

駆け足で見ていくと次のようになる。
◇新年の1月20日に通常国会が召集され、安倍首相の施政方針などが行われる。その後、補正予算案や新年度予算案の審議が続き、国会会期は6月17日まで。

◇4月19日には、秋篠宮さまが皇位継承順位1位を意味する「皇嗣」になられたことを内外に伝える「立皇嗣の礼」。

◇半世紀ぶりの開催となる東京オリンピックは7月24日に開会式、パラリンピックは8月25日開幕、9月6日に幕を閉じる。

 衆院 解散の時期

予想される衆議院の解散・総選挙の時期としては、
(1)今年1月、通常国会冒頭。
(2)新年度予算案など成立後、7月東京都知事選とのダブル選挙。
(3)東京五輪・パラリンピック閉幕後、秋の臨時国会での解散。
(4)来年2021年1月 通常国会冒頭。
(5)来年秋の任期満了に近い秋の解散になる。

 ”年明け解散” 遠のく

以上5つのケースのうち、今年1月の通常国会冒頭解散。野党第1党の枝野代表など野党関係者や自民党の一部にある見方。安倍首相に近い自民党幹部は「台風19号や大雨の被害が大きく、とても年明けの選挙はできない」と否定的だ。

また、首相主催の「桜を見る会」の公私混同批判をはじめ、大学共通テストの記述式問題の導入取り消し、総務省の現職事務次官の更迭など相次ぐ不祥事、看板政策の取り止めなどで、内閣支持率大幅に低下している。

さらに年末、カジノを含むIR=統合型リゾート担当の元内閣府副大臣、秋元司衆院議員が収賄容疑で逮捕され、年明け解散は遠のいたとの見方が強い。

このほか、新年度予算案が成立した後も考えられるが、4月は秋篠宮様の立皇嗣の礼、中国の習近平国家主席の国賓としての来日が調整中で、難しい。
さらに7月5日の東京都知事選とのダブル選も想定されるが、オリンピック直前で実現可能性は低いとみられる。

 ”五輪・パラ後”の秋以降

結局、東京オリンピック・パラリンピックが幕を閉じる9月6日以降、秋の臨時国会が召集され、衆院解散の可能性が大きい。与党の主要幹部もこの見方が強い。

また、来年に持ち越した場合、来年夏は与党・公明党が重視する東京都議会議員選挙が控えている。この時期を避けると今度は、衆議院議員の任期満了に近づき「追い込まれ解散」の恐れが出てくる。このため、年内に総選挙を実施すべきだという圧力が増すのではないか。

 解散から解散 平均3年

ところで、衆議院の解散から、次の解散までの期間はどの程度か?
今の衆議院の選挙制度に変わった1996年の橋本政権以降から、2017年安倍政権の解散までの期間を計算すると「平均3年」だ。
安倍政権に限ってみると、政界の常識より早めに解散に打って出るケースが多く「2年5か月」とさらに短くなる。

平均3年とすると、今年10月、東京オリンピック・パラリンピックが閉幕した後にあたる。今年秋の解散は、過去のケースから見ても確率的に高いということが言える。

 誰の手で解散?五輪花道論も

ところが、今回の解散には、「難問」が残されている。何かと言えば、衆院の解散・総選挙、誰の手で解散するのか。安倍首相か、それともポスト安倍の新しいリーダーかという問題だ。この点は意外に難しい。

安倍首相の自民党総裁としての任期は、来年9月30日まで、2年を切っている。自民党内には党則を再び変えて、安倍首相の4選を求める意見がある。
これに対して、安倍首相は「その考えはない」と完全に否定しており、調整が残されている。

次に衆議院議員の任期は来年10月21日、自民党の総裁任期とほぼ同じ時期に任期が切れる。追い込まれ解散を避けようとすると、任期満了1年前くらいには解散時期の腹を固めておく必要がある。

このため、安倍首相は東京オリンピック・パラリンピック閉幕頃には、総裁4選論と、次の解散・総選挙は自ら断行するのか、それとも次のリーダーに委ねるのか、この「2つの根本問題」に結論を打す必要がある。

4選の考えがない場合、次の総理・総理が追い込まれ解散を避けるためにオリンピック終了を花道に退陣し、後継総裁選びを早めるのではないかとの見方もある。この「オリンピック花道論」も含めて、秋は政局の大きな山場になる。

 解散のタイミングずれ込みも

今年秋の政治の焦点になると見られる2つの問題、総裁4選論を含めた自民党の総裁選び、衆院解散・総選挙の時期の問題について、調整や決断が遅れる場合、あるいはオリンピック閉幕以降、経済情勢や海外情勢が大きく変動したりする場合、解散・総選挙が先送りになるケースも予想される。

来年に持ち越された場合、既に見たように公明党が重視する都議選がある。その時期を避けると解散時期がさらにずれ込むことになり、解散のタイミングは中々、難しい。

以上、見てきたように衆院解散の時期は、今年秋の可能性が大きいが、不確定要素が多く、したがって、有力とまでは言い切れない。ズルズルと調整、決断がすれ込み、来年秋の任期満了に近い時期の解散・総選挙もありうるのではないか。
そこで、今の段階では、「秋以降の公算」というやや幅の広い見方をしている。

 選挙で政治の歯車を回す

最後に次の衆院選挙は、いずれにしても2年以内には、確実に行われる。私たち国民の側にとって、政治に対する見方や心構えを整理しておくことが大事だ。

私たちが知りたいのは、端的に言えば次のような点ではないか。人口急減時代に入り、政治の側は、日本社会の将来設計をどのように考えているのか。そのために独自の重点政策は用意しているのか。国際社会との関係では、米中の覇権争いが激化している中で、日本の外交・安全保障をどう考えるのか。

要は、政権与党、野党側の双方が、日本の将来像の構想を打ち出し「競い合いの政治」を見せてもらいたい。国民の側は、こうした希望、注文を主張し続けると同時に、選挙の際に投票の基準にすることが大事ではないか。

また、技術革新が超スピードで進む時代、国民の側も、個人の力だけでは限界があり、協力・共生の社会を整える必要がある。特に子育て、教育、雇用、親の介護などの社会保障は、社会全体での取り組みが不可欠だ。そのためには、選挙を中心にした政治参加。選挙で政策を最終決定し、整備していく「政治の歯車を回すこと」が問われているのではないかと考える。

 

2020政局 ”激動型” 衆院解散、総裁選び

新しい年、令和2年・2020年が幕を開けた。東京オリンピック・パラリンピックが半世紀ぶりに開催されるが、政治はどのように動いていくのか探ってみたい。

結論を先に言えば、2020年は「激動型の政局の年」になるのではないか。
秋以降、衆議院の解散・総選挙と、ポスト安倍の自民党総裁選びに向けて、激しい動きが展開する年になると見ている。

なぜ、こうした見方をするのか、その理由、背景を以下、明らかにしたい。
併せて2020年の日本政治は、何が問われているのか考えてみたい。

 ” 年明け解散なし”の見通し

野党側や自民党の一部には、年が明けて通常国会冒頭、大型の補正予算案を成立させた後、安倍首相は衆議院の解散・総選挙に打って出るのではないかという観測もあるが、年明けの解散はなしと見ている。

年明け解散説は「桜を見る会」問題で窮地に追い込まれている安倍首相が、局面打開に解散を決断するのではないかという見方だ。

これに対して、自民党幹部は台風19号などの被害が大きく、選挙を行えるような状況ではないとの判断だ。
また、去年秋の閣僚2人の辞任以降、首相主催の「桜を見る会」の規模や予算が増え続けている問題。大学入学共通テストの柱である記述式問題が取り消しになるなどの不祥事が相次いでおり、解散・総選挙どころではないというのが本音だ。

 ”五輪終わると政治の季節”

それでは、どのような展開になるのか。1月20日召集の通常国会で、与党側は、補正予算案と新年度予算案の早期成立をめざす方針だ。

これに対し、野党側は去年の臨時国会に続いて「桜を見る会」の問題を追及する方針だ。
また、年末にはかんぽ生命問題で、総務省の現職事務次官が情報漏洩で更迭されるといった前代未聞の事件も明るみになった。

さらに、安倍政権が成長戦略の柱と位置づけているカジノを含むIR=統合型リゾート担当の元内閣府副大臣、秋元司衆院議員が収賄容疑で逮捕された事件などを取り上げる方針で、与野党の激しい攻防が繰り広げられる見通しだ。

その通常国会の会期末は6月16日。翌17日は東京都知事選挙が告示され、7月4日に投票が行われるため、国会の会期延長は難しい見通しだ。候補者の顔ぶれは決まっていないが、与野党双方とも、首都決戦に場所を移し激しく争う見通しだ。

この後、7月24日に東京オリンピックが開幕、8月25日からはパラリンピックも始まり、9月6日閉幕する運びだ。このオリンピック、パラリンピックが閉幕すると、秋以降は再び政治の季節を迎え、激しい動きが予想される。

 政局激動型、2つの根本問題

秋到来とともに政治は、次第に張り詰めた空気に包まれていくのではないか。

1つは9月30日、安倍首相の自民党総裁任期が任期満了となる1年前。もう1つは3週間後の10月21日、今の衆議院議員の任期満了となる1年前だ。自民党総裁と衆院議員の任期切れが、いずれも1年後に迫り、待ったなしの状況になる。

政権与党は任期満了選挙を嫌がる。期限の設定で、追い込まれ解散の恐れがあるためだ。それを避けるために普通は1年ほど前には解散時期などの腹を固める。

自民党の総裁任期については、ポスト安倍の有力候補が不在との見方から安倍首相の総裁4選論もある。これに対して、安倍首相は今の党則で認められているのは3選までであり、「4選は考えていない」と全否定している。安倍首相の側近を取材しても首相の意思は固いという。

安倍首相は、衆院解散・総選挙と、総裁4選論の”2つの根本問題””に結論を出す必要がある。その時期は、ちょうど東京オリンピック・パラリンピック終了頃に当たる。「新年の政局は激動型」と見る根拠は、この2つの問題に結論を出す時期にちょうど当たるからだ。

  激動政局 4つのケース

それでは新年の政治は、具体的にどんな展開になるだろうか。現実に起きる可能性が高いケースを考えると、次の4つのケースが想定される。

▲第1は、東京オリンピック・パラリンピックの閉幕を受けて、安倍首相が新たな時代へスタートを切る時だとして、年内に「衆院解散・総選挙」に打って出るケース。
総裁4選については、事実上4選を前提とするケースや、選挙結果によるとして直接言及しないケース、さらには選挙後、後任に道を譲るケースがありうる。

▲第2は、後継総裁の調整が難航したり、野党の激しい攻勢などで、衆院解散のタイミングを見いだせずに「解散・総裁4選のいずれも先送り」するケース。

▲第3は、安倍首相が東京オリンピック・パラリンピック閉幕を受けて、後進に道を譲りたいとして退陣を表明、いわゆる「オリンピック花道論」。そして直ちに「後継の総裁選び」が行われるケース。

▲第4は、新総裁を選んだ後、その新総裁が衆院の解散・総選挙に打って出るケース。「首相退陣から、総裁選び、衆院解散・総選挙」へと大激動型の政局展開ケースになる。

 ”オリンピック花道論”の意味

皆さんの中には”安倍1強と言われる時代、途中退陣はありえない”との見方をされる方もいると思う。これに対して、実は”政界のプロ”と目される人たちの中には”オリンピック花道論”は十分ありうるとの見方があるのも事実だ。

半世紀余り前、昭和39年・1964年10月の東京オリンピックの際、当時の池田勇人首相は大会閉幕の翌日に退陣表明、後任に佐藤栄作氏が選ばれた。池田首相の病気が理由で極めて無念だったと思われるが、今回は、安倍首相が自身の影響力を残すことをねらいにしている。

どういうことか。安倍首相としては早期の退陣表明で、総裁選で意中の後継者が優勢な流れを作った上で、衆院解散・総選挙の時期についても、選択肢を広げることができる。さらに退陣後も自身の影響力を残せると見られるからだ。

但し、このねらい通り運ぶかどうか。安倍首相の求心力が維持しているのが前提で、シナリオ通りの展開になるかどうか不確定な要素も多い。

この他、野党が新党を結成し、次の衆院選で政権交代というケースもあり得る。但し、当面、次の衆院選までは自民・公明政権が継続する可能性が高いと見ているので、今回は想定から外している。

 花道論と4選論の確率は?

さて、皆さんから予想される次の質問は、オリンピック花道論や安倍首相の総裁4選論の可能性はどの程度あるのかという点だ。

まず、オリンピック花道論は、総裁選の有力候補者の顔ぶれや構図、それに選挙情勢などと関係してくるので、今の段階で実現可能性に言及できる状況にはない。但し、次の衆院選と、総裁選びとの間を空ける大きな意味を持っている。

一方、安倍首相の総裁4選論については、首相の側近を取材すると「総理は考えていない」と否定的な見方を示す。総理・総裁は、大きな重圧を抱えながら孤独な決断を迫られるポストだ。7年余りも続けていることを考えると、4選は考えないというのは本音ではないかと個人的には見ている。

但し、アメリカ大統領選で安倍首相と相性がいいトランプ氏が再選になった場合、あるいは、後継総裁選びが思うような展開にならなかった場合は、4選論が急浮上するのではないかとの見通しもあり、流動的と言えそうだ。

 衆院解散の確率は?

衆院解散・総選挙の方は、どうだろうか。安倍首相の側近の幹部に聞いてみると「次の衆院選を誰の手で断行するか、安倍首相と次の新しいリーダーの2つのケースが考えられるし、いずれもありうる。新年にならないとわからない」との見方だ。要は、来年前半の国内情勢や海外情勢を見極める必要があるということだと思う。

衆院解散・総選挙については、今の選挙制度になった1996年橋本政権以降、解散から解散までの期間を計算すると「3年」だ。この期間を当てはめると今年10月で、丸3年になる。安倍政権下の解散の期間は、2年5か月とさらに短くなる。

もう1つ、頭に置く必要があるのは、来年7月、与党の一翼を担う公明党が重視する東京都議選が行われることだ。この都議選と、その年の秋の任期満了を外すとなると来年ではなく「今年秋以降」、今年秋か年明けの確率が高くなると見る。
この解散・総選挙については、さまざまな要素が絡むので、次回のブログで取り上げたい。

 新年 日本政治が問われる点

以上、見てきたように新年・2020年の政治は、自民党総裁選びと衆院解散・総選挙が同時並行で進む形になり、激動型の政局の年になる可能性が高い。しかも、史上最長政権、あるいはその後継政権はどんな展開になるのか未知の領域だ。

そこで、私たち国民の側から見て、今の日本政治は何が問われているのか。
▲1つは、向こう2年以内には確実に衆院選挙が行われる。国民が投票所に足を運びたくなるような「国民を引きつける政治」を見せてもらいたい。

安倍首相は国政選挙6連勝中だが、選挙の勝敗は別にして、投票率がいずれも低く「選挙離れ社会が進行中」という深刻な問題を抱えている。

政権与党、特に自民党はポスト安倍の総裁選びで、各候補は「どんな社会をめざすのか」目標・構想を掲げ党内論争を活発に展開すべきだ。最近の党内は、”黙して語らず”、党内論争がなさ過ぎる。

▲2つ目は、野党への注文。野党の合流・新党結成の動きが続いているが、野党各党は「何をめざす政党か、旗印」を明確に打ち出してもらいたい。

また、国民が不満に感じるのは、衆院選挙の小選挙区の場合、選挙の前に勝敗の予想がつく選挙区が多いことだ。これでは投票率は上がらない。候補者の擁立、調整、態勢づくりが必要だ。

▲3つ目は、日本の政治は、人口急減社会への対応という難問に直面しながら、「将来社会をどのように設計するのか」、いまだに答えを出し得ていない。

また、米中の覇権争いが長期化する中で、日本の外交・安全保障のあり方を真正面から検討・再構築していく時期を迎えている。

端的に言えば、「日本社会の将来像と外交・安全保障の構想」の競い合い、選挙で決定する取り組み方が、最も問われていると考える。

政局が激動する年になるのであれば、私たち国民の側は「日本が抱える課題・難問の前進につながるような政治の動きに対する見方や、評価、選挙での投票」を考える必要があるのではないかと思う。

年の瀬 ”逆風強まる安倍政権”

平成から令和に代わった今年もいよいよ、残りわずかになった。
政治の世界では、これまで高い支持率を維持してきた安倍政権だが、このところ世論の風向きが変化し、逆風が強まりつつある。

最大の要因は、首相主催の「桜を見る会」について、世論の側が、安倍首相や政府側が説明責任を果たしていないのではないかと受けて止めていることだ。

それに加えて、カジノを含むIR=統合型リゾートを巡る汚職事件で、秋元司衆院議員が逮捕されるなど新たな不祥事が重なり、歯止めがかからない状況だ。

報道各社の世論調査のほとんどで、安倍内閣の支持率が大幅に下落し、不支持が支持を上回る調査結果も出始めている。

こうした内閣支持率の下落は、新年の政治の動向にも影響を及ぼすので、2019年の締め括りとして、この1年間の内閣支持率などの推移を含めて詳しく分析してみる。

 内閣支持率、年終盤に失速

最初に安倍内閣の支持率の推移について、NHKの世論調査を基に整理しておく。
2019年の1月は支持率が43%、不支持率が35%でスタートした。4月から6月かけて支持率は40%台後半に上昇。7月の参院選も40%台半ばを維持、与党が勝利を収めた。

参院選後の8月は支持率が今年最高の49%まで上昇、不支持は31%まで下がった。その後は、支持率は徐々に下降線をたどり、12月上旬の調査では支持率が45%まで下がり、不支持は37%まで上昇。その差は8ポイントまで縮まった。

報道各社の調査でも11月中旬の調査から、ほとんどの調査で支持率が5ポイントから7ポイントと大幅に下落した。(共同、産経、読売、日経各11月調査)

さらに最も新しい12月の調査で見ると◇共同通信の調査(14、15日)で支持42.7%、不支持43.0%。◇朝日新聞の調査(21、22日)で支持34%、不支持42%で、不支持が支持を上回った。支持・不支持の水準は各社によって異なるが、支持率が大幅に下落する傾向では一致している。

 「桜を見る会」が最大要因

こうした支持率低下の原因は何か。安倍政権を巡る動きとしては、9月11日に内閣改造が行われたが、早くも10月25日に菅原経産相、31日に河井法相が相次いで辞任に追い込まれた。また、萩生田文科相が大学入学共通テストの英語民間試験を巡る「身の丈発言」で謝罪、その後、民間試験の導入延期に追い込まれた。

11月上旬段階の調査では内閣支持率に大きな変化は見られなかったが、11月中旬の調査を境に内閣支持率の大幅な低下が目立つようになった。

この原因は11月8日の参議院予算委員会で、首相主催の「桜を見る会」が取り上げられたことが影響している。野党側は、安倍首相が自らの後援会員を公式行事に招待するなど公私混同、私物化だと厳しく追及し、安倍首相や政府側の答弁内容が変わり、その後の国会論戦の焦点に浮上していった。

報道各社の調査では「桜を見る会」の安倍首相の説明については、「納得できない」「十分でない」などの受け止め方が、いまだに7割前後にも達している。
また、不支持の理由として「首相が信頼できない」との割合が増加している。
つまり安倍首相は説明責任を果たそうとしていないという不信感・不満が読み取れる。

 不祥事の連鎖、政権運営に変調

安倍政権は、これまでは失言や不祥事が起きた場合、早期に閣僚の交代に踏み切ったり、衆院解散・総選挙で局面を打開したりするなど巧みな政権運営で危機を乗り切ってきた。

ところが、今回は最初の2閣僚の更迭は早かったが、その後の相次ぐ閣僚の失言、不祥事、さらには看板政策の変更・取り消しなどにも追い込まれ、「失態の長期化」に陥っている。
また、世論の批判が集中すると看板政策を中止・取り消しており、内閣支持率を気にしすぎではないかと感じるほどだ。その一方で、肝心の政策変更の理由や今後の対応策の説明が乏しく、以前のようなリスク管理能力が見られない。

具体的には、既に触れた2閣僚の更迭、大学入学共通テストの柱である英語民間試験の導入延期、記述式問題の見送り、「桜を見る会」の来年開催の中止、内閣府がこの行事への招待者名簿を廃棄した措置も批判を招いている。

これに加えて、かんぽ生命の不適切販売に関連して、監督官庁の総務省の現職事務次官が、郵政グループに天下りしている先輩の元事務次官に情報を漏洩、更迭されるという前代未聞の失態も明るみなった。
さらには、元内閣府副大臣でカジノを含むIR担当を務めた秋元司衆院議員が、収賄事件で逮捕されるといった事件も大きな衝撃を与えている。

ここまで不祥事の連鎖が続くと、”この歴代最長政権、どこか変だ”と受け止められ、内閣支持率の大幅低下は避けられない。

 安倍政権の反転攻勢は

こうした世論の逆風に対して、安倍政権の反転攻勢は可能だろうか。
年の瀬の12月26日は第2次安倍内閣が発足してから丸7年、8年目に入った節目の日だ。政権関係者は、IR汚職事件に対しても「秋元議員個人の問題で、政権とは関係ない」と強気な姿勢を崩していない。

野党側や与党の一部には、「桜を見る会」などの追い込まれの事態を打開するため、安倍首相は年明けの通常国会冒頭、大型補正予算案を成立させた後、衆院解散・総選挙に踏み切るのではないかという見方もある。

しかし、内閣支持率がここまで下落している状態では、解散を打てる状況にはないとみるのが普通の感覚だ。ましてや、台風19号や大雨などで大きな被害を受けている人たちが全国各地にいる中で、選挙に打って出られる状況ではない。年明け解散・総選挙は、極めて可能性が低いと見る。

そうすると、政権与党としては、外交面での取り組みを進めるとともに、大型の補正・新年度予算案の早期成立で局面の転換を図る以外、有効な手は限られていると見る。

 野党の支持率上がらず

これに対して、野党側は、先の臨時国会では一連の不祥事の追及で、久しぶりに主導権を発揮し一定の存在感を示したと言えそうだ。さらにその後もIR汚職事件などで、通常国会での追及材料には事欠かない見通しだ。

こうした一方で、野党の政党支持率は、横ばい状態で一向に上昇する気配がない。国民の多くは、野党の追及に一定の理解を認めながらも、追及だけでは野党を支持する気にはならないのではないか。

やはり、野党としての対案を打ち出したり、格差の是正、個人消費の拡大といった国民の共感を得られるような取り組みを進めないと、国民の支持は広がらない。次の通常国会では、政権批判だけでなく、野党としての対案、対立軸を打ち出し国民を引きつけられるかどうか。

また、野党第1党の立憲民主党と第2党の国民民主党とが合流して、新党結成までこぎ着けられるかどうかも問われることになる。

 内閣支持率、低下傾向続くか

それでは、今後、安倍内閣の支持率はどうなるのかという質問があると思う。
内閣支持率にはさまざま要素が絡んでくるので、予測は難しいが、海外情勢の要素を除くと次のような点がポイントになる。

◇仕事納めの12月27日、政府は中東地域への自衛艦などの派遣を閣議決定したが、派遣目的や法的根拠は妥当なのかどうか、数多くの論点を抱えている。
◇金融庁と総務省は、かんぽ保険の不適切な販売問題で郵政グループ各社に対する行政処分を決定、郵政グループ3社の社長が責任を取って辞任した。
但し、総務省の前事務次官の情報漏洩の動機なども明らかにする必要がある。
◇さらに秋元司衆院議員の汚職事件については、中国企業からの資金提供が300万円以外にもあったのかどうかなど全容解明はこれからだ。

このようにこれまでの不祥事に加えて、新たな問題・事態の展開が続いており、通常国会では、野党側の厳しい追及が予想される。このため、内閣支持率はさらに低下する可能性が大きいのではないか。

国民の側からすると、国会では、こうした不祥事に対する真相の究明とともに、新年度予算案の中身の点検、社会保障制度の将来像といった難問への対応、それに国際情勢・外交問題などを巡る論争を徹底して行ってもらいたい。
要は、国民が知りたい点に応える論戦、バランスの取れた政策論争をきちんと行うことを政権与党、野党側の双方に注文しておきたい。

 

◆お知らせ

年内のブログはこれで一区切りとし、新年1月1日に新たなブログを投稿できるよう、これから準備に入ります。
ご多忙な中、当ブログをご覧いただき感謝しています。新年もどうぞ、よろしくお願いします。

”この頃都に流行るもの”「政と官の乱れ」

”この頃、都に流行るもの。閣僚辞任に、役人更迭。試験取り止め、桜も見送り”。令和元年もまもなく暮れようとしているが、”このところの政治や霞が関は、ちょっと変だ”と感じる方は多いのではないか。

特に総務省の事務レベルのトップが検討中の情報を漏洩していたとして、更迭された不祥事には驚かされた。

官僚、政治の規律の乱れが深刻化しているのではないか。前回に続いて、政治と官僚の問題について取り上げる。

 事務方トップの更迭

今月20日の夕方、総務省事務次官を更迭との速報が流れた。かんぽ生命の保険の不適切な販売をめぐる問題で、高市総務大臣が緊急に記者会見し、総務省の鈴木茂樹・事務次官が行政処分の検討状況を会社側に漏らしたとして、更迭したことを明らかにした。

その情報の漏洩先が、日本郵政の鈴木康雄・上級副社長で、旧郵政省の先輩・後輩の関係という。鈴木副社長は、2009年に総務省の事務次官を務めており、政界との繋がりが強い人物と見られていた。かんぽ生命の問題を報じたNHKの番組、「クローズアップ現代プラス」の放送に抗議を行った人物としても知られる。

 前代未聞の不祥事

今回の問題は、郵政グループのかんぽ生命の保険をめぐって、顧客が保険料を二重に支払わされるといった不適切な販売が多数明らかになり、会社側が18日に、法令や社内ルールに違反する疑いのある販売が1万2800件あまり確認されたことを公表したばかりだった。

これについて、金融庁は、内部の管理体制に重大な問題があったと見て、かんぽ生命と日本郵便に対して一部の業務停止命令を出す方向で検討を進めている。

総務省も、日本郵政と日本郵便に対して、23日までに原因分析や改善案などの報告を出すよう求めているほか、企業統治に問題があったと見て業務改善命令を出す方向で検討している。

こうした中で、鈴木事務次官は、鈴木副社長に情報漏らしていたことになるが、漏洩の動機などは明らかにしていないという。日本郵政は国が現在も57%の株式を保有し、取締役の選任や解任は総務省が権限を持っている。

つまり、監督官庁である総務省の事務方トップが、同じ役所から天下りした先輩OBに現在進行中の処分情報を伝えていたという前代未聞の不祥事と言える。事実関係を明らかにして、責任を明確にすることを強く求めておきたい。

 官僚の矜恃と規律の緩み

最近気になるのは、官僚の矜恃と規律が緩んでいるのではないかと感じさせられる点だ。私は1970年代後半から40年近く霞が関でも取材をしているが、取材対象となった事務次官は能力、見識とも優れていたし、特に退職後も誤解を生むような再就職、天下り先は慎重に避けていた。

ところが、最近の事務次官経験者の中には、現役時代の利害関係があるのではないかと見られる企業、団体に再就職しているケースも散見される。官僚の矜恃と規律が緩んでいるのではないかと感じさせられる。

一方、霞が関の中には、所管法人の主要ポストを公募方式として、外部有識者の選考委員会で選考を進めるなど透明度の高い仕組みを実践している役所もある。利害関係や行政処分の権限を持つ団体や企業への再就職については、改めて点検、見直しが必要ではないか。

 政権の支持率を気にしすぎ?

政権との関係について言えば、この数か月を振り返ってみても不祥事や重要政策の取り止めが相次いでいる。◇主要閣僚2人の辞任にはじまり、◇大学入学共通テストへの英語民間試験の導入延期、◇記述式問題の導入見送り・白紙撤回、◇首相主催「桜を見る会」の来年開催の見送り、◇「桜を見る会」の招待者などの公文書の廃棄、◇今回の事務次官の情報漏洩と更迭。

安倍政権は11月に憲政史上最長を記録し、外交・安全保障の面では、イラン大統領の来日、12月の日中韓の首脳会談などで存在感を発揮している。

一方で、内政面では不祥事や問題が起きると事実関係など十分な説明がないまま、直ちに人事の更迭、取り止め打ち出される。

このため、政界関係者からは「最近は、世論の批判が集中すると直ぐに方針転換となる。人事や主要政策の取りやめが多すぎる。しかも、取り止めの説明が十分ではない。内閣支持率の低下を気にしているというか、気にしすぎているのではないか」との苦言が聞かれる。

 公文書の廃棄と説明責任

さらに問題が大きくなると本来、存在するはずの公文書が廃棄されて事実関係の確認が進まないという問題が目立つ。政府に対しては、公文書の保存と説明責任をきちんと尽くすことを強く求めておきたい。

公文書の問題は、去年・2018年春、森友問題で財務省の決裁文書が改ざんされていたことがわかり、大きな問題になった。また、ないとされていたイラク派遣の自衛隊の日報が見つかったり、加計学園問題で新たな文書の存在が問題になったりした。公文書管理の重要性が徹底されたはずなのだが、「文書は廃棄され、わからない」といった状態が今年も続いている。

公文書管理法が成立したのが10年前・2009年6月、2011年4月から施行された。その第1条で、公文書は健全な民主主義の根幹を支える「国民共有の知的資源」と位置づけられている。

同時に「国民が主体的に利用できるもの」で、政治家でも官僚の所有物でもない。

さらに「説明責任」は、現在の国民だけでなく「将来の国民」にも説明する責務が明記されている。

 「政と官」の関係見直し

官僚の問題については、大学を卒業して国家公務員の志望者が一時に比べて減少しているとの話を聞く。また、若手・中堅の官僚諸氏は、大臣や政治家に対する進言などがめっきり減っているとの声も聞く。

こうした背景には、官僚主導から政治主導への転換の影響もあるが、政権や政治家側の対応にも問題があると思われる。

日本がこれから内外の難問に挑戦していくためには、官僚の政策能力の活用は不可欠だ。そのためにも「政と官の関係」、政権・政治の側は、官僚が政治と適切な距離を保ちながら、力を発揮できるような体制づくりを考えていく必要があるのではないか。

私たち国民の側も、政治と官僚の関係、バランスをどのように取るのがいいのか、意識しながら政治のこれからの動きを見ていきたい。

取り止め相次ぐ ” 政権の看板政策”

大学入学共通テストに導入される予定だった国語と数学の「記述式問題」について、萩生田文科相は17日、再来年1月からの導入を見送ることを発表した。
「英語の民間試験」についても先月、導入の延期が発表された。これによって、大学入試改革の2つの柱が実施されないことになった。

「英語の民間試験」と「記述式問題」の導入は、安倍政権の教育再生実行会議がきっかけになって打ち出された政権の看板政策だが、相次いで導入延期や取り止めが決まったことになる。

このほか、この秋以降では、内閣改造で主要閣僚の2人が更迭されたのをはじめ、首相主催の「桜を見る会」の来年春の開催が中止になっており、人事や政策面での更迭・取り止めが目立つ。

今回の入試制度改革の問題をどのように見たらいいのか、政権や政治の対応に焦点を当てながら探ってみたい。

 制度設計に大きな問題

大学教育や高校教育を改革していくために、大学入試制度を改善したいというねらいは理解できる。しかし、実際に実施していく上で、受験機会や経費負担の面で数多くの問題が指摘され、公正・公平な入学試験としては、実施面で問題がありすぎるというのが率直な印象だった。

このため、当ブログでも、今回の入試制度改革の問題点を指摘するとともに「制度設計から出直しを!」と提案してきた。したがって、今回の見送りは、やむを得ない措置だと受け止めている。

 文科省の会議で検討へ

問題は、これからどうするかだ。文科省は萩生田文科相の下に設置する会議で、英語の4技能を評価する仕組みや記述試験の充実策などを検討し、今後1年をメドに結論を出す方針だ。

また、萩生田文科相は17日の記者会見で、「誰か特定の人の責任でこうした事態が生じたわけではない。現時点で私が責任者なので、私の責任でしっかり立て直しをしたい」と発言している。

気になる点は、今回の問題は、文科省の所管であり、第一義的な責任があるが、今回の見送りになった経緯の検証にあたっては、文科省の担当部局の対応などに矮小化されることはないかという点だ。問題の背景、特に具体的な問題が指摘されながら、なぜ、早い段階で見直しや中止ができななかったのか、問題の核心部分を明らかにしてもらいたい。

そのためには、歴代の文科相の対応、総理官邸との関係、民間試験の採点などを請け負っていた受験産業と官僚の天下りといった事実関係などについて、正確な調査・検証が必要だ。

その上で、受験生の不安が払拭できる新しい入試制度を打ち出してもらいたい。
受験生や学校関係者、保護者の信頼に応える重い責任がある。

 政権全体の検証・検討が必要

以上のような文科省の検討も必要だが、私個人は、安倍政権全体として、これまでの経緯の検証と今後の取り組み方が必要だと考えている。

というのは、これまで入試制度改革推進派の教育研究者を取材すると「今回指摘されているような問題点は、文科省が設置した検討会議の中で指摘してきた。
但し、文科省側から具体的な対応は見られなかった」と証言している。

一方、慎重派の教育研修者も「文科省も、総理官邸の肝いりの教育政策には、問題点などを表明できなかったのではないか。大学側は、運営交付金を受ける文科省の顔色をうかがい、文科省は強い立場にある政権を忖度する雰囲気があったのではないか」と疑念を示していたからだ。

今回の大学入学共通テストへの英語民間試験の導入は2013年に安倍首相が設置した教育再生実行会議に遡る。その再生会議の提言を受けて導入への動きが始まった。その後、2014年12月に文科相の諮問機関である中央教育審議会の答申、2017年7月に文科省が民間試験の実施方針を決定した。

つまり、安倍政権が6年余りをかけて推進してきた問題なので、安倍政権として、今回の問題をどのように受け止め、どのような方針で対処するのか明確にする責任があるのではないか。そのためには、文科省任せにせずに、安倍首相自ら、歴代文科相や文科省幹部に指示して、事実関係を明らかにして、責任問題と今後の対応策を打ち出すことが必要ではないかと考える。

 相次ぐ更迭・取り止め、説明なし

今回の問題だけでなく、安倍政権の出来事をこの秋以降、振り返ってみると、内閣改造で初入閣した菅原前経産相と河井前法相の連続辞任・更迭にはじまって、萩生田文科相の「身の丈発言」と英語民間試験の導入延期、首相主催の「桜を見る会」の来年の開催取り止め、さらには、今回の記述式問題の導入見送り・白紙撤回など中止や取り止めが相次いでいる。

政権の迅速な対応は、世論の政権に対する批判・影響を最小限に食い止める危機管理の発想もあるのかもしれないが、今回の入試制度改革は6年間もかけて積み重ねきた問題だ。批判があると”直ぐ取り止め”といった対応も如何なものか。

一方、高校生や保護者にしてみれば人生を左右する問題だ。文科省の対応はあまりにも遅い。なぜ、ここまで時間がかかったのか。文科省の官僚は、有識者で構成する会議で問題点を指摘されながら、なぜ止められなかったのか、昨日の萩生田文科相の記者会見でも納得のいく説明は聞かれない。こうした説明のなさ、けじめのなさに対する不信感が、国民の側に膨らみつつあるのではないか。

プロと現場の声を聞く姿勢を

安倍政権は11月に戦前戦後を通じて歴代最長政権を記録した。外交・防衛などの分野では、国民の評価は高いと言える。一方で、国内の政治課題については、政治主導の名の下、看板政策が次々に打ち出されるが、中身や成果がよくわからないとして、世論の評価も分かれている。

例えば、政権の最大の挑戦と位置づける全世代型社会保障制度、「幼児教育の無償化」などを衆院選の目玉政策として打ち出したが、無償化の対象にする幼児の範囲・対象、財源など具体策が詰められないまま看板政策として打ち上げられ、選挙後に具体策の調整に追われ、与党内からも批判された。

今回の入試制度改革問題にしても、役所の側が、総理官邸に遠慮して、問題点などについての声をあげられなかった面はなかったのかどうか。

歴代の政権に比べて、安倍政権は「官僚や有識者などプロの意見、現場の高校の先生や保護者の声を聞く姿勢」が乏しいのではないか。問題に気づいた時に、軌道修正していく仕組みが必要ではないかと考える。

内閣支持率 支持と不支持逆転も

気になる点の最後は、安倍内閣の支持率がこのところ下がり続け、支持と不支持が逆転する調査結果が出ていることだ。

◇時事通信が12月6~9日に実施した調査では「支持」が7.9ポイント減40.6%、不支持が5.9ポイント増の35.3%。支持と不支持の差は6ポイント。「桜を見る会」は廃止すべきが6割に達し、この問題が影響しているものと見られる。

◇読売新聞の12月13~15日調査では「支持」が1ポイント減の48%、「不支持」が4ポイント増の40%。支持・不支持の差は8ポイント。「桜を見る会」の説明に「納得していない」が75%に上っている。

◇産経新聞の14、15日調査では「支持」が43.2%で1.9ポイント減、「不支持」が40.3%で2.6ポイント増。不支持が40%を超えたのは9か月ぶり。支持と不支持の差は、3ポイントに縮まっている。

◇共同通信の14、15日調査では「支持」が6ポイント減の42.7%、「不支持」が4.9ポイント増の43.0%。支持と不支持が1年ぶりに逆転した。
「桜を見る会」疑惑に関し「十分に説明していない」が83.5%にも上った。

各社に共通しているのは「桜を見る会」の「首相に説明」に納得しておらず、「不支持率が上昇」。支持と不支持が接近、調査によっては逆転していること。

 長期政権に、国民の厳しい視線

安倍政権は、臨時国会が閉会「桜を見る会」の批判が沈静化するのを待つ一方、新年度の政府予算案を編成、年末にはイラン大統領の来日、中国での日中韓首脳会談など得意の外交を展開すれば再び支持率は回復、政権の浮揚は可能という強気の意見も聞かれる。

これに対して、世論の側は、歴代最長になった安倍政権に対して「緩みがある」と思うが7割近くにも達している。首相の自民党総裁4選論に対しても、賛成は3割にも達しないなど国民の視線に厳しさが増している。(共同通信調査結果)

このため、今回の記述式問題をはじめとする政権の看板政策の取り止め・撤回については、説明を尽くさないと、人心は一気に離れる恐れがある。

これから年末にかけての安倍外交がどんな結果になるのか、それによって安倍政権の支持率・求心力はどうなっていくのか、さらには野党の合流問題のゆくえの3点を注目して見ていきたい。

備考:大学入試制度改革は、当ブログでは、次の日付で投稿しています。
◇11月  8日 「制度設計から出直しを! 英語民間試験」
◇11月24日 「民間任せ 現場の声 生かして再設計を! 英語民間試験」

 

野党合流 問題 ”選挙で勝てる野党は必要か?”

野党第1党の立憲民主党と第2党の国民民主党を軸にした合流問題が大きな山場を迎えている。この野党合流問題について、私たち国民の側から見るとどんな意味を持っているのか考えてみたい。

今回の野党の合流問題は、突き詰めていけば「選挙で勝てる野党は必要か?」ということになるのではないか。つまり、国民の側から見て、合流が「いいと思うか」、逆に「必要ない」と考えるかの評価の分かれ目になるからだ。

今の野党は「国政選挙で6連敗中」。今のままだと有権者は投票する前から選挙結果は明らかだとなりかねない。選挙に関心を持ち、投票所に足を運ぶ人を増やすためにも私は「選挙で勝てる野党」、「しっかりした野党」が必要と考える。
そこで、選挙で勝てる野党はなぜ必要なのか。果たして、そうした野党はできるのか、そのためにはどんな取り組みが必要なのか考えてみたい。

 共同会派から、政党の合流へ

最初に、これまでの野党の動きについて、手短に整理しておきたい。
10月4日に召集された臨時国会では、野党の立憲民主党、国民民主党、社民党、それに衆院の無所属議員でつくる「社会保障を立て直す国民会議」の4党派は「共同会派」を結成した。共同会派の規模は衆院で120人、参院で61人、第2次安倍政権発足以降、野党の会派としては最大になった。

当初、共同会派は足並みが乱れるのではないかといった冷ややかな見方もあったが、野党側は、2閣僚の連続辞任をはじめ、英語共通試験の延期、「桜を見る会」の公私混同といった問題を追及、一定の成果を上げたと言える。

こうした流れを受けて、立憲民主党の枝野代表は12月6日に国民民主党、社民党の党首らと会談し、野党勢力を結集し政権の奪取につなげたいとして、立憲民主党への合流に向けた協議を呼びかけた。

これに対して、国民民主党の玉木代表は、合流した場合の政策や党名などについて対等な立場で協議することなどを求めており、12月17日に枝野代表と党首会談を行う方向で調整が進められている。合流問題は山場を迎えつつある。

 基本的立ち場の違い、ハードルも

今後の見通しだが、両党の関係者を取材すると、双方とも「野党としての大きな塊をめざす」という方向では一致しているが、いざ、合流へ前に踏み出せるか、ハードルが多いのも事実だ。

第1は、「合流に向けた基本的な立ち場の違い」だ。立憲民主党側は、自らの野党第1党へ他の党派が合流してくることを基本にしている。これに対して、国民民主党側は対等な立場で協議して決定する考え方で、党名、政策、人事などを協議することを求めている。

また、両党とも衆議院側は次の衆院選を控えていることもあり、合流に前向きだ。一方、参院側は夏の参議院選挙で選挙区によっては、両党の候補者が”ガチンコ勝負”を繰り広げたこともあり、後遺症、遺恨が未だに強く残っている。このため、合同会派といっても参議院側では、先の国会では議員総会も別々に開いていた有様だ。

第2は、「理念・基本政策の違い」もある。具体的には原発問題の扱いだ。立憲民主党が原発ゼロの徹底をめざしているのに対し、国民民主党は電力関係労組を抱えていることもあり、原発ゼロは受け入れられない立ち場だ。憲法改正問題への対応や、国会運営の考え方についても違いがある。

第3は、「個別問題」もある。立憲民主党は、国民民主党に比べて支持率は高い。一方、国民民主党は民進党から引き継いだ、およそ90億円の政治資金を保有しているのが強みだ。こうした強みと弱みが双方で憶測を呼び、合流論議に影を落としている面もある。

 年末までに合流はできるか?

当面の注目点は、年末までに合流ができるかどうか。年末が1つの目標になっているのは、政党交付金の一定部分が1月1日時点での所属議員数で決まるという事情がある。大きな政党になれば、政党交付金も増えることになる。

また、年明けの通常国会で安倍政権と対峙していくためには、早期に合流を実現し、新体制で通常国会に臨みたいというねらいもある。

立憲民主党の幹部を取材すると「枝野代表は従来の独自路線から、野党共闘・合流路線へカジを切っており、次の衆院選は新体制で臨む腹を固めている」と早期合流は可能だとの見方を示す。

これに対して、国民民主党の幹部は「枝野代表が国民民主党への配慮を示すことが必要で、今の段階では、その点がはっきりしない。筋書きのないドラマのようなものだ」とけん制する。

このため、年内合流が実現するかどうか具体的な道筋はまだ描けていないと見ている。

 連戦連敗から脱却の責任

このように合流へのハードルは高いが、野党第1党の党首が合流を呼びかけた以上、結論が出ないままズルズルと先延ばしにしていては、合流の勢いが失われるのは明らかだ。

また、野党第1党としては、野党全体をとりまとめ政権交代につなげていく構想を打ち出していく役割も求められる。

こうした点の取り組みは弱かった。安倍政権は国政選挙6連勝中だが、野党の非力さがこうした結果を招いているとも言える。今の野党の状況が続けば、次の衆院選の結果も、戦う前から明らかだとなりかねない。野党第1党の責任は、少なくともこうした連戦連敗状態から脱却することが必要だ。

 選挙で勝てる野党づくり

野党の合流問題に決着をつける上でも「選挙で勝てる野党づくり」を目標に掲げないと、野党間の求心力は高まらず、合流までこぎ着けるのは難しいのではないかと考える。

これからの日本の将来は難問が多い。少子高齢化に伴う人口急減社会と社会保障制度をはじめ、子育て、教育、雇用の整備などについての取り組みが急務だ。そのためには、政治の側の対応も与野党がそれぞれ選択肢を準備し、議論を戦わせながら難問を解決していくことが必要だ。

野党側の対応を取材して感じるのは、”理念なき野合”などと批判されるのを恐れてか、選挙体制づくりが遅れ選挙の敗北を繰り返している。選挙で国民の選択肢を準備することを大義に掲げるとともに、特に次の衆院選挙での小選挙区について、野党側が候補者1本化に踏み込めるかどうかが大きなカギになるのではないかと見ている。

 立民、国民両党トップの決断は?

以上のような「選挙に勝てる野党の選挙体制づくり」を目標に設定し、当面の合流問題に決着をつけることができるかどうか。

また、「何を最重点にやる政党なのか」旗印を明確に打ち出すことができるかどうか。最終的には、両党の代表の決断が、合流問題を左右することになる。

この合流問題がどのような形で決着が着くか、次の衆議院解散・総選挙など新年の政治のゆくえにも影響を及ぼすことになる。

 

 

 

 

内閣支持率低下、首相不信急増の読み方

臨時国会が閉会した。歴代最長になった安倍政権や臨時国会での野党の追及ぶりなどについて、世論はどのように判断しているか。

報道各社の世論調査のデータを分析してみると、安倍内閣の支持率は低下傾向が表れ、安倍首相の人柄に対する不信も急増していることが浮き彫りになった。

一方で、「桜を見る会」を追及してきた野党の支持率も増えていない。
政権・与党、野党側の双方とも世論の支持を得ることができていない。これからの政権運営、政局にどんな影響を及ぼすか、分析をした。

 内閣支持率低下、鮮明に

報道各社の世論調査のうち、最新のNHK世論調査を見ると安倍内閣の支持率は45%で前回調査から2ポイント減、不支持は37%で2ポイント増加となった。
支持と不支持の差は、8ポイント差に縮まった。

夏の参議院選挙が終わった後の8月以降の支持率は49%だったので、トレンドは連続して下がり続けており、12月の45%となった。逆に不支持は、8月は31%だったのが、37%まで6ポイント増えたことになる。
(調査は12月6日から8日、詳細なデータはNHKWebニュースに掲載)

主な新聞・通信社の11月の世論調査で見ると、内閣支持率の下落幅が最も大きかったのは◇日経で7ポイント減、◇読売と産経は6ポイント減。◇共同通信は5ポイント減など。下落幅は異なるが、共通しているのは、支持率は40%台半ばから後半、不支持率は30%半ばから後半。つまり、支持、不支持は接近しつつある。

 首相に対する不信急増

問題は、内閣支持率の中身だ、NHKの世論調査データを基に分析してみる。
◆支持する理由は、「他の内閣から良さそう」が49%、「支持する政党の内閣」が17%で、消極的支持が多い。政策や実行力などを評価する意見は少ない。

◆不支持の理由については、「人柄が信頼できない」47%で圧倒的、「政策に期待が持てない」は26%。安倍首相に人柄に対する不信は、11月調査では35%だったので、12ポイントも急増したことになる。

「桜見る会」説明 納得できない7割

世論調査の質問の中で、首相主催の「桜を見る会」の問題について、安倍首相の説明に納得できるかどうか聞いている。◇「納得できる」は18%に止まり、◇「納得できない」は71%、7割にも達している。
安倍首相に対する不信感の理由は、この「桜を見る会」の問題が大きく影響していることが読み取れる。

政権運営への影響は?

それでは、安倍首相の政権運営への影響はどうだろうか。
NHKの世論調査で12月の支持率45%だった。今年1年・2019年の支持率の平均を計算すると◇支持率は46%、◇不支持34%。(今年は、10月調査が台風の影響で調査を中止したので、11か月の平均になる)

第2次安倍内閣の支持率の年間の平均では、2013年が61%、2014年51%に低下、2015年は46%、2017年47%に持ち直し、2018年は42%に低下した。政権発足から7年が経過したが、支持率は4割をキープし、支持と不支持の逆転を7年間も防いできたのは異例で、巧みな政権運営を続けてきたと言える。

この理由としては、経済・雇用情勢が安定していること。自民党内でのライバル不在。さらには弱い野党、政権が看板政策を次々に打ち出し、国政選挙で連戦連勝を続けていることが挙げることができる。

以上のことから、今回の支持率低下で直ちに政権運営に支障が出てくるとは言えないというのが、私個人の見方だ。問題は、超長期政権のこれからどうなるか。

 野党の政党支持率、伸びず

野党各党に対する世論の評価はどうだろうか。
政党支持率を見ると◇自民36.1%、◇公明2.7%。野党側は、◇立憲民主5.5%、◇国民民主0.9%、◇共産3.0%、◇社民0.7%。◇維新1.6%、◇れいわ0.6%、◇N国党0.1%。◇”第1党”は無党派で41.4%、有権者の4割にも膨らんでいる。

野党側は、先の国会で2閣僚辞任、英語民間試験の導入問題、「桜を見る会」を軸に追及を強めた。野党は、「桜を見る会」追及ばかりと批判する声も聞くが、
野党が政権を追及するのは野党の仕事で、税金の使われ方を厳しくチェックするのは、ある意味、当然とも言える。問題は、それだけに止まっていることに限界があり、世論の支持は広がらないことではないか。

具体的には「桜を見る会」について言えば、公文書の廃棄の問題。官僚がなぜ、記録を残さないのか、残させるためにどうするのか欧米並みのルールづくりを徹底させることはできないものかどうか。政権与党もあまりにも鈍感だ。

今の公文書管理のずさんさは目に余るものがある。自民党政権でも、これまでは歴史の検証に耐えられる政権運営をめざす心意気があった。今の政権は、余りに後ろ向きの姿勢ではないか。

野党側は、不祥事・スキャンダル追及するのはいいが、それだけに止まらず、事態を改善する提案・取り組みを世論は求めている。年明けの通常国会での対応を見守りたい。

 衆院解散・総選挙への影響は?

永田町の一部には、年明け解散。事業規模26兆円の大型補正予算案を成立させた後、衆院解散・総選挙があるのではないかとの声も聞く。
また、これから政権に好材料は乏しいので、与党としては早期解散が有利だ。
さらには、安倍首相は政界の常識より、早めの解散に打って出て、勝利してきたので、年明け解散もあり得るのではないかとの声も聞く。果たしてどうか?

衆院解散・総選挙の時期について、断定的に言えるだけの材料・根拠はない。
但し、世論の側から見ると「早期解散への期待」はほとんどないのではないか。今年は大型台風、大雨の被害が相次ぎ、生活・生業の立て直しに迫られている人たちは全国各地に多い。そうした中で、国民に信を問う大義名分は見いだしにくい。

内閣支持率も、支持と不支持の差は10ポイント程度まで縮まっている。つまり、5ポイント以上変化すると、支持と不支持が逆転する。

さらに、安倍首相に対する不信感が急増していることなどを冷静考えると、正直な所、選挙戦術上も早期解散の理由は見いだしにくい。敢えて解散・総選挙に踏み切ると、世論の反発を招き、混迷の道に陥るのではないかと危惧している。

それよりも、政権、与野党とも、日本が直面している難問、人口急減社会、技術革命時代への対応をどうするのかなど「今後の進路・構想」をとりまとめ、国民に信を問う正攻法の取り組み方を見せてもらいたいと切望している。

 

国会閉会 ”桜” 幕引き、年明け持ち越しへ

臨時国会は12月9日、閉幕する運びだが、皆さんはこの国会、どのようにご覧になっているでしょうか?

焦点の日米貿易協定の承認案件など内閣提出の主要法案はすべて成立した。
一方で、この国会は閣僚2人の連続辞任をはじめ、大学入学共通テストへの英語試験の導入延期、さらには首相主催の”桜を見る会”を巡る問題に報道が集中したが、肝心な事実関係はあいまいなままだ。

政府・与党は会期延長せずに幕引きを図るが、野党は来年の通常国会で引き続き追及する方針で、年明けの国会へ持ち越される見通しだ。
政府・与党と野党側、それぞれ何が問われているのか、国会対応を中心に総括しておきたい。

 不祥事・スキャンダル、説明不足

問題の第1は、この国会での会期中、菅原前経産相と河井前法相の主要閣僚2人が相次いで辞任に追い込まれた。しかし、当事者である2人は、未だに指摘された問題に対する説明を行っていない。また、衆議院本会議での法案の採決にも出席をしておらず、自民党内でも問題になっている。

国の予算・税金が使われている「桜を見る会」についても、どんな人たちが招待されていたのか、予算が年々膨れあがった理由は何かといった基本的な事実関係についても、招待者名簿が廃棄されたとして、十分な説明がなされていない。

野党側は、桜を見る会の前日、安倍首相夫妻が出席して開かれていた「前夜祭」について公私混同、会費も安すぎ買収などの公職選挙法違反の疑いがあると追及したのに対し、安倍首相は会費の補填などはないと否定している。

野党側は一問一答方式の予算委員会での集中審議を要求したが、与党側は応じなかった。結局、参議院本会議での質疑はあったが、予算委員会での安倍首相の説明は行われないまま幕を閉じることになった。

このように不祥事に対する政権側の説明は乏しい、説明不足と言わざるをえない。国会は国権の最高機関と位置づけられており、疑惑・不祥事については、国会の場で真正面から説明責任を果たすのが、首相をはじめとする政権の責務だと考える。

 ”大問題ではない。されど…….”

国会を総括する際には、さまざまな考え方、立ち場があり、評価の基準も1つではない。「桜を見る会」の問題についても、いろいろな見方があると思う。

よく聞く意見の1つに「桜を見る会、大きな問題ではないではないか。予算も国の行事にしては多額すぎるとも言えない。政治家が地元の支持者を呼ぶこともありうる。それよりも野党は、日米貿易協定など重要な問題を審議すべきだ」といった意見だ。

後半の日米貿易協定など重要な問題を審議すべきだというのは、その通りだ。
問題は、国の予算・税金が公正に使われているか、選挙も公平・公正、法律の規定通りに行われているかチェックするのは、国会の本来の役割だ。

私も率直に言えば、大問題であり、何が何でも徹底追及すべきだとまで論じるつもりはないが、”されど、問題なしとは言えない”というのが基本的な立ち場だ。

安倍政権は、会期中に戦前戦後を通じて歴代最長政権となった。長期政権の緩みやおごり批判に対する身の処し方も重要だ。そして、大きな問題でないというのであれば、首相が半日か1日、委員会で説明する。
その代わり、野党に対して、憲法などの審議に応じてもらう”ことも可能ではないか。少なくとも、以前の与野党の国会対応は双方とも柔軟な対応をして、世論の納得を得る工夫があったように思う。国会の運営のあり方については、与野党双方、反省すべき点は多いのではないか。

 ”更迭、取り止め、説明なし”

この国会、安倍政権の対応で、もう1つ、気になる点があるので、触れておきたい。それは、閣僚の不祥事があると即交代、閣僚を辞任させると短時間のうちに後任閣僚を発表。危機管理対策としては、政権に及ぼすダメージを最小限に食い止めるという対応はありうる。但し、更迭の事実関係の説明はない。

萩生田文科相の「身の丈発言」の問題。こちらも厳しい批判がわき上がると早々に英語試験の導入延期を発表。この問題、さかのぼれば、第2次安倍政権が発足、教育再生実行会議の提言を受けて打ち出した看板政策の1つだ。強い批判が出されたのでは事実だが、簡単に方針転換を打ち出したことには、正直、驚かされた。

「桜を見る会」の問題について、安倍首相や菅官房長官の説明もクルクル変わるとともに、来年度の開催取りやめを発表した。昭和27年からという伝統の政府行事の見送りである。但し、その理由、実態は先ほど触れたようにあいまい、よくわからないのが実状だ。

 内閣支持率優先の現れ?

こうした政権の対応、十分な説明がないまま、更迭、取り止め、方針転換が相次いでいるが、どうして行うのか。その理由・背景として、安倍1強と言われ、自民党、官僚も押さえている中で、唯一対応が難しい世論を気にしすぎているのではないか。具体的には、内閣支持率優先の現れではないかといった見方を政界関係者から聞く。

私なり見方は、長期政権で最も難しいのは、国民にどう向きあうか。世論の側からの長期政権に対する批判、”飽き”を防ぐことができるのか。これまで安倍政権は、世論への働きかけを比較的、うまく対応していたと見ている。

但し、この国会での対応ぶりは、説明が不十分で、政権への評価を気にしすぎて逆に不信感を持たれることになるのではないか。長期政権で心がけることは、まずは、事実関係をきちんと説明すること。その上で、間違いがあれば、是正することが王道ではないか。今後の安倍首相、政権のかじ取りを引き続き注視していきたい。

 

 

「桜を見る会」”証拠”の保全と規律が核心!

令和元年も後わずかになったが、国会は首相主催の「桜を見る会」問題一色だ。厳しい財政難にもかかわらず、招待客や予算は膨張し、参加者も政治家の後援会員が多数招かれたりしていたことなどが次々に報じられている。

世論の批判を気にしてか、首相官邸は早々と来年の開催取り止めを発表したが、どこに問題があり、どのように改めていくのか明確ではない。

政権与党側は会期末とともに幕引きをはかり、野党は引き続き追及と叫ぶだけで終わってしまうのではないか。

長年、国会取材を続けてきた1人として言わせてもらうと今回の問題の核心は、証拠=公文書の管理と、ケジメ=官僚、政治家の規律が根本の問題ではないか。同じことを繰り返さないためには、地味だが、こうした取り組みが欠かせないと考える。

 次々に問題、疑惑、事実は不明・説明不足

今回の「桜を見る会」は、先月8日に参議院予算委員会で取り上げられたのが、直接のきっかけで1か月以上経った今も、新聞、テレビで報道が続いている。

昭和27年からの政府行事だが、様々な問題、疑惑が吹き出し、話が具体的でわかりやすいことが、世論の関心を集めているのだと思う。

具体的な問題として、安倍政権の下で招待客が年々増え、開催経費も2014年の3000万円から、19年には5500万円にも膨らんでいる。招待者1万5000人のうち、安倍首相の招待枠は昭恵夫人分をふくめ1000人、自民党関係者枠は6000人にも上っている。本来の「功労者」、各省庁の推薦枠は6000人程度で、全体の半数にも達っしていなかったことなどが明らかになった。

また、野党側は、首相の後援会が前夜祭を都心の有名ホテルで開催し「桜を見る会」とセットで勧誘していたのではないか。前夜祭の会費が1人当たり5000円は安すぎ、公私混同、公職選挙違反の疑いもあると追及してきた。

これに対して、安倍首相は、安倍事務所が後援会員に会費の補填をしたことなどはないとした上で、当初はこの問題に関与していないと述べながら、後に自らの意見を述べたことはある旨の答弁に修正したりしている。
一方、菅官房長官は、桜を見る会については来年の開催を取り止めることを早々に発表したが、どこに問題があり、どのように見直していくのか説明は十分でない。

但し、この問題、政府・与党側はこれまで以上の説明をする考えはなく、今月9日の会期末で、事実上の幕引きを図る方針だ。これに対して、野党側は、引き続き閉会中審査や、来年の通常国会で追及する構えだ。

こうした与野党の攻防だけでいいのか、与野党と別の視点、取り組みも必要ではないかと個人的には考える。

 ずさんな文書管理、”証拠保全”が大事

今回の問題、与野党の議論がかみ合わない原因は「事実関係」がきちんと把握されていない点にある。そもそも今回の問題については、首相や自民党の推薦枠を管理する内閣府は、招待された人たちの名簿は、保存期間が1年未満で廃棄処分にしたので、詳細はわからないと釈明している。

一方で、各省庁側は、招待者名簿を保存してあり、プライバシーの観点から黒塗りにされながらも国会の資料要求に応じて提出されている。
また、国会図書館などには、昭和30年代の「桜を見る会」の詳細な開催資料なども保存されている。

平たく言えば、招待者名簿という「証拠資料」が内閣府分だけが、廃棄処分にされており、なぜ、このような判断をしたのかをはっきりさせることがポイントだ。

 繰り返される”愚行”、公文書のずさん管理

こうした公文書のずさん管理、つい最近2018年にも大きな問題になったばかりだ。自衛隊の日報問題、森友学園、加計学園の問題。森友問題では、国有地が安値で売却されていた経緯を記した文書は当初はないとされ、その後、存在が明らかになり、さらに決済文書が改ざんされていたことも判明した。

国会は、与野党ともにウソの資料に基づいて延々、議論をしてきたわけで、こうしたことがきっかけで、公文書管理のガイドラインも見直され、是正されたと個人的には理解していた。それだけに、繰り返される”愚行”に唖然とさせられた。

こうした廃棄処分の対応、首相、官房長官は「公文書の管理・保全」に万全を尽くすよう改めて指示すべきだ。一方、国会は与野党双方ともに党派を超えて、政府に対して是正を強く要求すべきだ。

 公文書管理の実態は?

こうした公文書の管理の問題・あり方は、今回の問題だけに止まらない。公文書に詳しい関係者に話を聞くと、特に最近の首相官邸で開催される会議については、議事録が公開されず、出席者もはっきりしないなどの問題が多いという。

政府の会議については、重要な政策決定のプロセスであり、どのような議論がなされたのか議事録などを通じて公開するのは当然だ。特に政府・与党の責任者は国民に対する説明責任と具体的な対応を果たしてもらいたい。

 事実解明型の国会審議に改善を!

最後に国会審議のあり方についても触れておきたい。これまで、政治とカネの問題をはじめ、様々な不祥事・スキャンダルが国会で取り上げられてきたが、実態はどうだったのか、最後まで曖昧なまま幕引きとなるケースが多かった。

この理由として、日本の国会は「事実解明型の審議」になっていないことが大きな要因ではないか。つまり、欧米のように事実関係について、各省庁、国会事務局なども動員して調べ上げ、そのデータを基に追及する事実解明型になっていない。
日本の国会審議では、多くは各委員会で各党の委員が個別に質問に立ち、疑問点を質し、追及ぶりを世論に訴える「アピール型の審議」が主流だと言わざるをえない。これを「事実解明型の審議・追及」に変えていく時期ではないかと考える。

そのためにも、まずは、国会審議の材料にもなる「公文書の管理と保全」を徹底すべきだ。その上で、国政調査権に基づく強制力のある調査も検討すべきだ。

一方、首相、閣僚は高い見識に基づく指導力の発揮。官僚は公正な行政の執行・運用をめざし、後世の評価・検証に絶えられる国政の運営を期待したい。国会、行政のトップ、官僚が相互にチェック機能を発揮しながら、公正な政治・行政に少しでも近づけてもらいたい。また、国民の側も関心を持って、きちんと評価・判断していく地道な取り組みが重要だ。