閣僚辞任 政権への影響、現状では限定的 

菅原前経産相と河井前法相の相次ぐ辞任などで、安倍政権への風向きに変化があるのかどうか注目されている。最新の世論調査結果では、安倍内閣の支持率は、横ばい状態となっている。政権への影響は、現状では限定的と言えそうだ。

但し、大学入学共通テストへの英語民間試験の導入延期問題に加えて、総理大臣主催の「桜を見る会」をめぐる新たな問題も浮上しており、今後の風向きがどうなるか、予断を許さない状態が続く見通しだ。

そこで、世論は今回の事態をどのように見ているのか、詳しく分析してみたい。

  内閣支持率横ばい NHK世論調査

NHKは11月8日から10日にかけて世論調査を行った。10月は台風19号災害の影響で調査を取りやめたため、2か月ぶりの調査になった。
以下のデータは、NHKWebニュースによるものだ。

それによると◆安倍内閣の支持率は「支持する」が47%、「支持しない」が35%。9月調査に比べ、支持率が1ポイント減り、不支持が2ポイント増えた。
全体としてみると夏の参議院選以降、40%台後半の「横ばい状態」だ。

◆支持する理由は「他の内閣より良さそう」が47%で、引き続き最も多い。
◆支持しない理由は「首相の人柄が信頼できない」が35%。次いで「政策に期待が持てない」32%で、今回はトップの順位が入れ替わった。

 閣僚2人辞任・政権への影響 見方分かれる

◆菅原前経産相と河井前法相が相次いで辞任したことについて、安倍政権への影響を聞いている。
◇「大いに影響がある」9% ◇「ある程度影響がある」39% ◇「あまり影響はない」35% ◇「まったく影響はない」9%。
以上を整理すると「影響がある」48%と「影響がない」44%と見方が分かれた。

 2014年閣僚2人辞任時、支持率は大幅下落

◆2014年10月に当時の小渕優子経産相と松島みどり法相の2人がそろって辞任に追い込まれた時と比較するとどうか。翌月の世論調査では、安倍内閣の支持率は44%で、前月52%から8ポイントも大幅下落した。

◆2016年1月末、当時の甘利経済再生担当相が辞任した時は、翌月の内閣支持率は50%で下落しなかったが、「安倍政権への影響」についての質問に対しては、「影響がある」が63%で、「影響はない」31%を大幅に上回った。
今回は、この2つのケースと比べて、いずれも異なる世論の反応になっている。

 見方が分かれる理由・背景は?

閣僚の辞任が、政権へ及ぼす影響について、世論の評価が分かれているのをどう見たらいいのか。幾つかの理由が考えられる。
◇今回、安倍首相は辞任を認めると直ちに後任を発表した。政権へのダメージを最小限にくい止めようとしたことがうかがえる。「ダメージ・コントロール」が功を奏したとの見方が考えられる。

◇安倍政権については長期政権効果か、問題が起きても政権の対応策を容認する「コアの支持層の拡大」が影響しているのではないかとの説もある。

◇別の見方としては、今回の辞任劇の前後は、天皇陛下の即位を祝う饗宴の儀をはじめ、台風19号被害の続報、非常災害や激甚災害指定など目まぐるしい動きに辞任問題が埋没、いわば「世論の戸惑・判断留保中の段階」との見方もできる。

◇さらには、今回は、萩生田文科相の「身の丈発言」と英語民間試験の延期など政権のミスが続く「現在進行形の不祥事」。閣僚辞任問題は「ボデイー・ブロー」のように効いており、有効打が重なると決定打につながるとの見方もある。

どれが正解か? 今は決めつけずに、事態の推移をしばらく見た方がいいのではないかというのが私の結論だ。

今後の展開のカギは?

それでは、今後の展開、カギは何か?
野党側は、新たに総理大臣主催の「桜を見る会」について、安倍総理大臣の後援会の関係者が多数招かれるなど「公私混同」だと追及を強めている。英語試験問題などと合わせ、当面、政府・与党側の説明と対応が問われる形になっている。

また、国会は最大の焦点である「日米の新しい貿易協定」の審議と、衆議院通過の時期、会期内に承認までこぎ着けられるかどうか、メドがついていない。

さらに安倍政権が強い意欲を示している憲法改正問題と、国民投票法改正案の審議が進むのかどうか。

一方、安倍首相の在職日数は今月20日、憲政史上最長となる。
国会は会期末まで残り1か月を切った。国会での与野党の攻防がどのような決着になるか、そして世論がどのようは判断を示すのか。今後の安倍政権の政権運営と政局のゆくえのカギになる。

 

制度設計から出直しを! 英語民間試験

今週6日と8日に行われた衆参両院の予算委員会の集中審議では、閣僚2人の辞任に対する安倍首相の任命責任と、大学入学共通テストへの導入が延期された英語の民間試験問題に議論が集中しました。このうち、英語民間試験について、みなさんはどこに問題があるとお考えでしょうか?

私は、端的に言えば「民間任せの制度設計」に一番の問題があるのではないか。また「事実関係の明確化と責任の所在」、それに「ブレーキ役、問題に気づいた時の軌道修正の役割」が極めて重要だと感じています。
以下、その理由、背景などを説明したいと思います。

ジャーナリストから見た入試制度

最初にお断りしておきますと、私は政治記者・解説委員経験者で、教育の専門家ではありません。このため、教育の中身について論評するつもりはありません。ただ、今回の問題は既に政治問題になっていますので、1人のジャーナリストとしての見方・読み方を提示して、議論の活性化に役立つことを希望しています。

また、私の判断材料は、国会での与野党の質疑、教育に詳しい国会議員、学者の取材に基づいていることを申し添えておきます。

 根本問題、”制度設計が民間任せ”

今回の問題、結論を先に言えば、問題の根本は、大学入試に使われる英語の試験を「民間業者・団体が実施する試験に委ねた制度設計にあるのではないか」と見ています。

こうした民間頼みの結果、試験会場の数は限られ、多額な受験料がかかる試験も出てきます。地方と都市の地域格差、経済格差も生じます。

一方、そうした格差に対する問題意識は乏しく、対応策は取られてこなかった。このため、萩生田文科相の「身の丈発言」が出てしまう土壌・背景があったのではないか。このため、「制度設計からの出直し」が必要だと考えます。

その際には、憲法と教育基本法がベースになります。「教育の機会均等」を基本に具体的な制度設計を進めて欲しいと考えます。

 事実関係の明確化を、問題点をなぜ放置?

今回の英語民間試験の導入について、推進派の教授の話を聞くと「地域格差や経済格差の問題があることは認識していた。文部省が設置した検討会議の中でも指摘してきた」と強調しています。

それにもかかわらず、なぜ、土壇場まで、そうした問題が放置されてきたのか。文部科学省はなぜ、対応策をとらなかったのか、はっきりした説明はありません。

 導入までの経緯

そこで、振り返ってみますと大学入学共通テストへの英語民間試験の導入は、2013年に安倍首相が設置した教育再生実行会議まで遡ります。
その再生会議が提言した「英語教育改革」と「大学入試改革」を受けて、導入への動きが始まりました。

その後、14年12月に文科相の諮問機関である中央教育審議会の答申を受け、2017年7月に文科省が民間試験の実施方針を決定しました。50万人が受験する共通テストで、読む・書く・聞く・話すの4技能を測る試験を国が開発するのは困難だとして、既に実績のある民間試験を活用することにしたわけです。

 歴代文科相から聞き取り

こうした民間試験導入の経緯を検証するため、萩生田文科相は、歴代の文部科学大臣から導入の経緯などについてヒアリングを行う考えを示しています。

また、文科省が去年12月に設置し非公開で検討してきた有識者会議の議事録を公開する方向で検討する考えを示しています。

これまでの経緯、事実関係を明確にすることは必要不可欠です。その上で、問題がある場合、結果責任、政治責任のケジメをつけることも重要です。

ブレーキ役、軌道修正機能も不可欠

さて、今回の取材で感じるのは、政策の決定や実現への過程で、問題が生じた際に「軌道修正ができる機能が働くかどうか」という問題があります。

英語民間試験導入は、第2次安倍政権で設置された教育再生実行会議の提言を受けて実現した看板政策です。それだけに担当する文科省からすると、官邸主導の政策に異論を唱えにくい状況があったのではないでしょうか。

以前の自民党政権では、官僚が政策提言や進言をしたり、党内では文教族が積極的に発信することで、問題点の是正を図るなどブレーキ役を果たしてきました。
最近は官邸主導が一段と強まり、こうしたブレーキ役を果たす党の幹部やグループ、官僚はいなかったのではないでしょうか。

また、問題が起きた際、担当閣僚や官僚はどんな責任を取るのか。特に「政治責任」が明確にならないという問題が気になります。
安倍政権での一例を挙げれば、森友問題での財務省の文書改ざん事件。官僚の一部は処分を受けましたが、結局、政治家・大臣の責任は、問われませんでした。

英語教育・入学試験制度、教育の将来像の議論も

最後に整理しておきますと、英語試験のあり方については、若い世代の人たちが納得して試験に挑戦できる試験制度に改めることが必要です。

一方で、試験を元の制度に戻すだけでは、生産的ではない気がします。
グローバル化した世界での英語教育のあり方、そのための入学試験で判定する英語技能などを明確にする必要があります。
また、試験は民間の事業・団体を活用するのか、あるいは公的な実施機関を整備して実施できないのか、専門家に抜本的に検討してもらいたい。
このほか、国語と数学に記述式問題が導入されます。その採点には、大学院生や教員の退職者、それにアルバイトの学生があたることなど想定されており、こうした点も問題になっています。

日本の教育科学予算の規模は5兆円台、この30年間ほぼ横ばい状態のままです。
OECDのデータでは、日本の公的教育予算のGDP比率は、残念ながら先進国で最低水準です。資源の乏しい日本は、人材の育成を最重点に取り組む必要があります。入学試験制度の整備も含めた教育の質の向上、そのためには、教育科学予算の拡大を着実に進めていくことが不可欠だと考えています。