「民間任せ」 現場の声 生かして再設計を! 英語民間試験 

萩生田文部科学大臣の「身の丈発言」をきっかけに大学入学共通テストへの英語民間試験の導入が延期された問題。国会もまもなく会期末を迎えるので、政府として、今後どのように対応していくのか、一定の区切りをつけてもらいたい。

また、この問題の本質は、大学入学試験を民間事業者に全面的に委ねた点にあると考える。このため、現場の声を基に、制度設計を再度やり直す必要があるのではないか。国民の多くの皆さんに引き続き関心をもっていただきたい。英語教育専門家の意見の紹介も含めて、この問題を取り上げる。

 「制度設計から出直しを!」の続報

この問題が表面化した直後、私は当コラムで「制度設計から出直しを!」と題する考えを投稿した。政治記者出身で教育の専門家ではないが、「この問題の根本は、大学入試に使われる英語の試験を民間業者・団体が実施する試験に委ねた制度設計にあるのはないか」と問題提起した。その後、どのような展開になるのか気になっていたので、改めて続報を執筆したいと考えていた。

 英語教育専門家「2つの構造的欠陥」

その続報を考えたきっかけは、実は先週22日、日本記者クラブで行われたシリーズ企画「英語教育改革の行方」で、京都工芸繊維大学の羽藤由美教授の講演と質疑を聴いたからだ。

羽藤教授は、自らの大学入試などに使用しようと独自に英語のスピーキングテストを開発した英語教育の第一任者だ。講演で私が最も印象に残ったのは、「今回の英語民間試験には、構造的欠陥が2つある」と指摘した点だ。

 「公平・公正さと利潤追求」の二律背反

構造的欠陥としてあげた1つが、「公平・公正性と利潤追求との二律背反」だ。つまり、大学入学者の選抜にあたっては、公平性・公正性が大前提になる。

一方、英語民間試験を実施する民間事業者にとって、会場や人手の確保などに経費がかかり、採算を取り利益を高めようとするのは当然の経営判断ともいえる。

利益を優先しすぎると大学入試の運営に問題が生じたり、受験生に不当な負担がかかったりする。この2つの関係は、二律背反が避けられないと指摘する。

その結果、幼い頃から民間試験や受験対策講座などを手軽に受けられる都市部の富裕層に有利で、地方の低所得者層からの大学進学がより難しくなるなどの格差がより進むなどの弊害が予想される。

 「異なる試験で、成績比較の致命的欠陥」

2つ目は「異なる試験の成績を比べるという致命的な欠陥がある点だ」という。共通テストに使われる英語民間試験は、6つの事業者が運営する7種類の民間試験だ。それぞれの試験は、測る対象、能力などが違うので、そもそも異なる試験の成績を比べることはできないと指摘する。

例えて言えば、50メートル走と、マラソンとのタイムを比べて、走力の優劣を決められないと同じで、それぞれの試験の成績を比べて、英語力の優劣は決められない。

こうした構造的にムリがある制度を押しつけようとしているのが、今回の問題だと指摘。構造的な欠陥がある制度を受験生に押しつけようとしていると結論づける。

その上で、羽藤教授は、文部科学省の官僚もわかっていながら、声をあげない。大学の教職員も関心を持つのは一部に限られ、多くは無関心。国大協、メデイアも肝心な点まで踏み込まないと憤っていたが、個人的にはわかる気がした。

詳しくは、「日本記者クラブのホームページ」にアクセスすると講演・記者会見の質疑の模様が動画で見ることができる。

 公的機関が関与・指導できる制度設計に

では、この問題、どんな対応が考えられるのか?
羽藤教授は、今後の英語試験については、文部科学省や入試センターなどの公的機関が制度設計に関わり、その上で、民間事業者の経験を生かすことが望ましいとの考え方を示している。

筆者も同じ問題意識であり、公的機関が中心になって制度設計するのが基本ではないかと考えている。その際、重要な点は、教育現場の専門家、それに高校で生徒を教えている教諭の声を十分に耳を傾け、運用面に生かしていくことが重要だと考える。

 

 教育現場の声を生かす政策決定・運用を

今回の英語の民間試験制度の土入は、第2次安倍内閣の私的諮問機関である「教育再生実行会議」の提言がきっかけになっている。経済界の有力なメンバーの提案が採用され「政治主導・官邸主導」で推進されてきた。

いわば”上からの改革”で、自民党をはじめ、文部科学省の官僚も、疑問点を質したり、運用上の問題を提起したりできなかったのではないか。
このため、今後は教育分野の専門家、当事者である高校生など現場関係者の声を生かして、制度設計や運用ができるよう改善する必要があると考える。

また、大学共通テストをめぐっては、今回の英語民間試験の問題だけでなく、国語と数学に記述式問題が導入される。採点には、大学院生や教員の退職者、アルバイトの大学生が当たることが想定されているが、採点が公平に行われるのか具体的な取り組み方が問われている。

政府が、受験生が納得のいく制度設計や、運用面でも信頼できる体制を整備できるかどうか。また、そのための予算は、国が全面的にバックアップすることも、不可欠だ。

政府は、21世紀の日本にふさわしい教育体制の構築を掲げている。それならばOECDの先進諸国の中で、教育の公的支援の割合が最低水準にある点は、早急に改善する必要があると考える。

 

 

 

有終の美を飾れるか? 歴代最長の安倍政権

安倍晋三首相の通算在職日数が20日、2887日となり、戦前の桂太郎元首相を抜いて憲政史上最長となった。長期政権の要因については、前回のブログでとりあげた。2回目の今回は、今後の政権運営に焦点を当てて、分析したい。

これまでの長期政権を見ると政権末期に、人心が離れ政権の力が急速に衰えたり、政権運営が迷走したりするケースが目につく。”超長期政権”となった安倍政権は、果たして「有終の美」を飾ることができるのか、探って見たい。

 長期政権 難しい”幕引き”

戦後の歴代首相は34人を数えるが、任期を4年以上務めた首相は6人しかいない。吉田茂、池田勇人、佐藤栄作、中曽根康弘、小泉純一郎、それに安倍晋三の各首相だ。各政権を駆け足で振り返ってみると、次のような特徴がある。

◇敗戦間もない吉田政権は、サンフランシスコ講和条約を締結、占領を終わらせたが、講和後、国民の人気は急降下、造船疑獄などが重なり退陣。

◇所得倍増政策を推し進めてきた池田元首相は、喉頭ガンの病に倒れ、東京オリンピック閉会の翌日、退陣を表明する。

◇佐藤政権は7年8か月の戦後最長政権。沖縄返還を実現、総裁4選も果たしたが、派内の抗争、外交ではニクソンショックの直撃、世論とのズレも目立った。

◇中曽根政権は国鉄などの民営化を実現し、衆参ダブル選挙で大勝。総裁任期1年延長となったが、売上税でつまずいた。

◇小泉政権は郵政民営化に執念を燃やし、衆院解散・総選挙を断行。刺客候補などの小泉劇場を繰り広げて選挙は圧勝。総裁任期の延長は求めずに引退した。

このように見ると比較的順調な形で退場したのは小泉元首相くらいで数少ない。長期政権の幕引きは、意外に難しいことがわかる。

 「政権の総仕上げ」と「次の新政権づくり」

さて、安倍政権のこれからの政権運営はどのようになるか。
まず、安倍政権は「超長期政権」という強みがある。他方、自民党の総裁としての任期は「1期3年、連続3期」という党則があり、再来年2021年9月30日まで。「任期限定政権」という制約がある。再度の総裁任期の延長、4選論もありうるが、やはり党則、世論の反応も考えると難しいと見る。

4選論については安倍首相も否定している。安倍政権としては「政権の総仕上げ」と「次の新政権づくり、バトンタッチ」の2つの使命・責任を果たさなければならない。

 「政治日程は逆に読む」、これからの動き

それでは、これからの政権運営は、どこがポイントになるのか。
「政治日程は逆に読む」。時間の経過を追って見ていくのではなく、最も重視する日程から、逆に読んでいくのが基本だ。

安倍首相が最も重視するのは何か。1つは自民党総裁任期、2021年9月30日。
もう1つは、その3週間後に任期満了となる衆議院議員の任期、10月21日。
ほぼ同時期だ。

つまり、「次の自民党総裁選び」をどうするか。「衆議院の解散・総選挙をいつ設定するか」、2つの根本問題が残されており、最大のポイントだ。

 総裁4選論はあるか?

まず、「次の自民党総裁選び」では、安倍首相の4選論はあるかどうか。
両説あるが、取材の感触を率直に言えば、確率としては低いのではないか。

安倍首相も強い口調で否定している。側近と言われる政治家を取材しても「安倍首相は3期まで務めた後、後継のリーダーに託す考えだ」との見方をしている。

ただ、政治の世界は、現実の動きによって変わることがあり得る。例えば、安倍政権が、重要な内政問題の処理で山場にさしかかった場合、あるいは、来年秋のアメリカ大統領選挙の結果などによっては、安倍首相の続投もないとは言い切れない。但し、現状ではその可能性は低いのではないかと、個人的には見ている。

 年末・年始解散は見送りか?

次に「衆院解散・総選挙」については、断定的なことを言える材料はない。
但し、与党幹部の取材を基に判断すると一時期、盛んに流されていた「年末・年始の解散」の可能性は低く、見送りの公算が大きいのではないか。

その根拠は、秋の台風15号、19号とその後の大雨の被害が大きかったからだ。補正予算案の編成作業が進められており、自民党幹部も「台風災害への対応で、選挙は、とてもムリだ」と認めている。

その後の時期は、さまざまな説がある。予算成立後では◇来年4月19日は、秋篠宮さまの立皇嗣の礼。◇春には、中国の習近平国家主席が国賓として来日予定。
◇東京都知事選が6月18日告示、7月5日投票の日程。◇東京オリンピック・パラリンピックが7月24日、幕を明ける。自治体などの事前準備などを考えると解散・総選挙は、オリンピック後の来年秋以降との見方が強い。

政局のヤマ場は、来年秋か

このように見てくると政局の最大のヤマは、来年秋以降に収れんしてくる。
次の衆院選挙は、誰が断行するのか。安倍首相か、次の新しいリーダーか。そのためには、自民党総裁選をいつ設定するのか。再来年の秋か、それとも前倒しがあるのかといった点も含めて判断する必要がある。

政権与党にとって、任期満了選挙は追い込まれ解散の恐れがあり、避けるとすると、任期満了1年前には、総選挙の時期・段取りを固めておく必要がある。そうすると、ちょうどオリンピック・パラリンピック閉幕時重なってくる。

安倍首相が、自らの総裁4選論、次の総裁選び、衆院選への対応を決断することになるのではないか。その時点の政権の体力、ポスト安倍候補の思惑、それに世論の風向きも含めて、政局は大きく揺れることも予想される。

長期政権、最重点課題は何か?

国民にとって関心があるのは、安倍長期政権は残り2年を切った任期中に、何を最重点課題に設定して取り組むのかという点だ。

去年秋、安倍首相が総裁3選を決めて以降、行った記者会見や国会での所信表明演説などを基に判断すると、最重点課題としては次の3つが考えられる。
1つは「全世代型の社会保障制度改革」の実現。2つ目が「戦後外交の総決算」、日露、日朝関係など。3つ目が「憲法改正問題」だ。

安倍首相の本音は「憲法改正」と思われるが、憲法9条に自衛隊明記を盛り込む改正は、限られた任期内に実現するのは極めて難しいという見方が強い。

安倍首相は引き続き憲法改正を追求していくのか、あるいは、リアルな課題を選択するのか政権の最重点課題の絞り込みを注目して見ていきたい。

 有終の美、最後は政治姿勢がカギ

最後に長期政権の対応が難しいのは、”有権者の政権に対する飽き”を如何に防ぐか。有終の美を飾るためには、最後は、首相の政治姿勢が問われることになる。

安倍政権と有権者の関係は、世論調査の中身を分析すると、内閣支持率は堅調だが、「世論の信頼度」は必ずしも高くない。内閣を支持する理由は「他の内閣より良さそう」という消極的な支持が圧倒的に多い。
支持しない理由としては「首相の人柄が信用できない」という不信感が多いのも特徴だ。

先の内閣改造以降、初入閣の主要閣僚2人が相次いで辞任に追い込まれたのをはじめ、大学入学共通テストへの英語民間試験の導入が来年度延期されることになった。さらには、首相主催の「桜を見る会」を巡る問題も批判を浴びている。

国民の側は、首相の釈明や陳謝が本気かどうかを敏感に見極めようとしている。不祥事に対して”ダメージ・コントロール”といった小手先の発想で対応していると、人心は一気に離れてしまうのが恐ろしいところだ。
長期政権だからこそ、事実関係の説明の徹底。政治家が責任・ケジメをつけ、信頼感を保つことにより一層努める必要がある。

日本の政治は、これまで長期政権の後は、短期政権が続くケースが多かった。
世界は激変時代、日本は難問山積、問題処理の時間は余り残されていない。
それだけに政権与党内で次をめざすリーダー同士の論争、与野党間の建設的な競い合いなど新たな時代の政治につなげる取り組みを是非、みせてもらいたい。

 

安倍政権 歴代最長の要因は? 「官邸主導、選挙で連勝」

安倍首相の通算在職日数が、11月20日に戦前の桂太郎元首相を抜いて、憲政史上最長になる。長期政権の要因は何か?

また、今後も自民総裁4選などでさらに任期を伸ばしていくのか、それとも政権の失速、退陣といった事態もあるのか、2回に分けて分析・展望してみたい。

安倍首相が政権復帰を果たした2012年頃からの取材メモなどを読み返してみると歴代の自民党政権と異なる点に気づかされる。

1つは「官邸主導」の徹底。良くも悪くも、安倍首相を中心にした政治家・官僚チームが再結集し、組織的な政権運営を徹底して貫いてきたことがわかる。

もう1つは、「国政選挙の連勝」。政権復帰後、最初の参院選に勝利、衆参ねじれ状態を解消した。また、政権に不利な局面では、衆院解散・総選挙を前倒し。

相撲で言えば、”けたぐり”、”猫だまし”なような手法で勝利。こうした選挙での連勝が、長期政権の大きな要因というのが私の見方だ。
以下、こうした見方・読み方の理由、根拠を具体的に説明したい。

短命政権が多い日本

最初に、日本の総理大臣や政権の特徴を見ておくと「短命政権」が多い。
内閣制度が始まった明治18年・1885年、初代の伊藤博文から、98代の安倍首相まで歴代首相は62人を数える。

このうち、在職日数が4年以上務めた首相は、戦前で2人、戦後は6人しかいない。戦前は、伊藤博文と明治・大正時代の桂太郎、日露戦争当時の首相。戦後は、吉田茂、池田勇人、佐藤栄作、中曽根康弘、小泉純一郎、安倍晋三の6氏しかいない。

安倍首相は、今年8月24日に戦後最長だった佐藤栄作元首相の2798日を抜いたのに続いて、11月20日には桂太郎の2886日を上回り、憲政史上最長となる。

長期政権 多様な要因

さて、本論に入って、安倍政権が長期政権となった理由としては、多くの要因が考えられる。直ぐに頭に浮かぶのは、第2次安倍政権ではデフレ脱却、強い経済を目標に大胆な金融緩和などの経済政策、「3本の矢」を打ち出したこと。

この経済政策はアベノミクスとして人口に膾炙し、当初の段階では、円安、輸出増加、経済成長率の上昇など一定の成果を上げた。雇用情勢も好転した。好調な経済・雇用は政権を持続させる追い風となった。

また、政治情勢としては、当時の民主党政権が党内の対立で行き詰まりを見せており、後継の安倍政権には有利に働いた。
野党が弱体、与党内に強力なライバルが不在だったことも大きな要因だ。

さらに世論との関係でも安倍内閣の支持率は、堅調な状態が続いてきた。
こうした経済情勢、政治環境、世論の支持など多様な要因が長期政権を形作ったのは事実である。

「官邸機能の強化」が原動力

長期政権の理由として、先に見たように多様な要因があるが、政治取材を続けてきた記者・ジャーナリストの立ち場で言わせてもらうと、政権の中枢である「官邸機能の強化」が長期政権の原動力になったと見ている。この点は政治取材に足を踏み入れた1970年代、自民党の派閥全盛”三角大福中”の時代から感じてきた。

わかりやすく表現すれば、日本の政治は新たに総理大臣の指名を受けると”単身で総理官邸に乗り込み、官僚の海に囲まれて執務を行う状態”に置かれる。
総理の周辺にいる身内は、せいぜい官房長官と副長官、政務の秘書官程度だ。こうした政権中枢の不十分な体制が短命政権の要因になっているのではないか。

 “安倍One Team”効果

これに対して、第2次安倍政権発足時の体制を振り返ってみると、安倍首相を、麻生副総理兼財務相、甘利経済再生担当相、菅官房長官の3人が中心になって支えていた。それに官房副長官が加藤勝信衆院議員(現在の厚労相)、世耕弘成参議院議員(現在の参院自民党幹事長)。政務の総理秘書官が経産省出身の今井尚哉氏(現在の総理補佐官)という体制だ。

一方、事務方は、官房副長官の杉田和博氏を筆頭に、総理秘書官の多くが、過去に1年以上、官邸で仕事をした経験者で、安倍首相とも個人的なつながりのある人材を起用していた。

安倍総理を中心に中枢の閣僚4人が話し合い、決まったことを菅官房長官が閣僚などに徹底させていく形で政権運営を行っていた。

また、安倍首相自身、第1次内閣が短命に終わった反省を基に政権運営に当たったと語っているほか、当時の事務方の関係者も「前回を教訓に毎日、顔を合わせ雑談、意思疎通を心がけていた」と話している。今風に言えば、”安倍 One Team”を実践したことが、政権運営に効果を発揮したと言えそうだ。

官邸機能、歴代で最高評価も

別の政権の秘書官経験者を取材しても「今の安倍政権は、首相官邸の調整機能を組織的に回すことができている。官僚機構もうまく回している。これまでの自民党政権でもなかったことではないか」と評価している。
個人的には”行き過ぎ”の感じがしないわけでもないが、政権運営面では歴代政権の中でも高い評価を受けているのも事実だ。

 ”国政選挙6連勝” 効果

長期政権のもう一つの主な要因が、衆参の国政選挙で連勝を続けていることだ。
政権復帰後、最初の2013年の参議院選で勝利し、衆参のねじれ状態を解消した。

2014年の衆院解散・総選挙は、直前の内閣改造で初入閣した女性閣僚2人が「政治とカネの問題」などでダブル辞任に追い込まれたが、翌年の消費増税の先送りを掲げ、解散・総選挙に打って出て勝利した。衆議院議員の任期が2年に達しない段階の解散で、野党側にとっては不意打ちを食らった総選挙になった。

結局、安倍政権は、政権復帰を果たした旧民主党政権下の選挙を含め、衆院選3回、参院選3回の合わせて6戦全勝が続いている。
2015年の統一地方選を含めると、2013年から2019年まで、安倍政権は、大型選挙を毎年1回ペースで行ったことになる。政権を取り巻く情勢が不利になっても、国政選挙で勝利し、局面を打開してきた。

この背景には、野党の多党化・分裂、それに野党の選挙準備不足が大きく影響しているが、野党の弱点を最大限突いて政権基盤を安定させる巧妙な政権運営を行ってきたと言えるのではないか。

長期政権の功罪は?

最後にこうした異例の長期政権の功罪をどう見るか。
一般的には、長期政権自体は、毎年1年で首相が交代するよりは政治が安定し、外交や中長期の課題に取り組めるので評価していい。

但し、安倍政権の場合の問題は、世論調査のデータで見ると「他の政権よりまし」といった消極的な評価が多い。
また、「首相の人柄が信頼できない」といった受け止め方が多い。
つまり、永田町では強い政権だが、世論の支持の度合いは必ずしも強くはないことを認識しておく必要がある。政権が長期化する場合、有権者の”飽き”が大きなハードルとして浮上するのではないか。

このほか、安倍政権の場合、内閣人事局で中央省庁の幹部人事を一括管理するようになり、官邸の意向を忖度する雰囲気が一段と強くなり、官僚機構が変質してきたのではないかと危惧する声も聞く。

政治の基本は、国会と行政が相互にチェックする機能、あるいは、与野党間の政権交代が行われるようにすることで、健全な民主主義を持続させることを考えておく必要がある。
長期政権に対しては、国民がその功罪を認識して、選挙に参加して判断していくことが不可欠だ。そのための判断材料と選択肢を政治の側、メデイアの側が地道に根気よく提供していくことが問われていると考える。

次回は、安倍長期政権の今後を展望します。

 

 

 

閣僚辞任 政権への影響、現状では限定的 

菅原前経産相と河井前法相の相次ぐ辞任などで、安倍政権への風向きに変化があるのかどうか注目されている。最新の世論調査結果では、安倍内閣の支持率は、横ばい状態となっている。政権への影響は、現状では限定的と言えそうだ。

但し、大学入学共通テストへの英語民間試験の導入延期問題に加えて、総理大臣主催の「桜を見る会」をめぐる新たな問題も浮上しており、今後の風向きがどうなるか、予断を許さない状態が続く見通しだ。

そこで、世論は今回の事態をどのように見ているのか、詳しく分析してみたい。

  内閣支持率横ばい NHK世論調査

NHKは11月8日から10日にかけて世論調査を行った。10月は台風19号災害の影響で調査を取りやめたため、2か月ぶりの調査になった。
以下のデータは、NHKWebニュースによるものだ。

それによると◆安倍内閣の支持率は「支持する」が47%、「支持しない」が35%。9月調査に比べ、支持率が1ポイント減り、不支持が2ポイント増えた。
全体としてみると夏の参議院選以降、40%台後半の「横ばい状態」だ。

◆支持する理由は「他の内閣より良さそう」が47%で、引き続き最も多い。
◆支持しない理由は「首相の人柄が信頼できない」が35%。次いで「政策に期待が持てない」32%で、今回はトップの順位が入れ替わった。

 閣僚2人辞任・政権への影響 見方分かれる

◆菅原前経産相と河井前法相が相次いで辞任したことについて、安倍政権への影響を聞いている。
◇「大いに影響がある」9% ◇「ある程度影響がある」39% ◇「あまり影響はない」35% ◇「まったく影響はない」9%。
以上を整理すると「影響がある」48%と「影響がない」44%と見方が分かれた。

 2014年閣僚2人辞任時、支持率は大幅下落

◆2014年10月に当時の小渕優子経産相と松島みどり法相の2人がそろって辞任に追い込まれた時と比較するとどうか。翌月の世論調査では、安倍内閣の支持率は44%で、前月52%から8ポイントも大幅下落した。

◆2016年1月末、当時の甘利経済再生担当相が辞任した時は、翌月の内閣支持率は50%で下落しなかったが、「安倍政権への影響」についての質問に対しては、「影響がある」が63%で、「影響はない」31%を大幅に上回った。
今回は、この2つのケースと比べて、いずれも異なる世論の反応になっている。

 見方が分かれる理由・背景は?

閣僚の辞任が、政権へ及ぼす影響について、世論の評価が分かれているのをどう見たらいいのか。幾つかの理由が考えられる。
◇今回、安倍首相は辞任を認めると直ちに後任を発表した。政権へのダメージを最小限にくい止めようとしたことがうかがえる。「ダメージ・コントロール」が功を奏したとの見方が考えられる。

◇安倍政権については長期政権効果か、問題が起きても政権の対応策を容認する「コアの支持層の拡大」が影響しているのではないかとの説もある。

◇別の見方としては、今回の辞任劇の前後は、天皇陛下の即位を祝う饗宴の儀をはじめ、台風19号被害の続報、非常災害や激甚災害指定など目まぐるしい動きに辞任問題が埋没、いわば「世論の戸惑・判断留保中の段階」との見方もできる。

◇さらには、今回は、萩生田文科相の「身の丈発言」と英語民間試験の延期など政権のミスが続く「現在進行形の不祥事」。閣僚辞任問題は「ボデイー・ブロー」のように効いており、有効打が重なると決定打につながるとの見方もある。

どれが正解か? 今は決めつけずに、事態の推移をしばらく見た方がいいのではないかというのが私の結論だ。

今後の展開のカギは?

それでは、今後の展開、カギは何か?
野党側は、新たに総理大臣主催の「桜を見る会」について、安倍総理大臣の後援会の関係者が多数招かれるなど「公私混同」だと追及を強めている。英語試験問題などと合わせ、当面、政府・与党側の説明と対応が問われる形になっている。

また、国会は最大の焦点である「日米の新しい貿易協定」の審議と、衆議院通過の時期、会期内に承認までこぎ着けられるかどうか、メドがついていない。

さらに安倍政権が強い意欲を示している憲法改正問題と、国民投票法改正案の審議が進むのかどうか。

一方、安倍首相の在職日数は今月20日、憲政史上最長となる。
国会は会期末まで残り1か月を切った。国会での与野党の攻防がどのような決着になるか、そして世論がどのようは判断を示すのか。今後の安倍政権の政権運営と政局のゆくえのカギになる。

 

制度設計から出直しを! 英語民間試験

今週6日と8日に行われた衆参両院の予算委員会の集中審議では、閣僚2人の辞任に対する安倍首相の任命責任と、大学入学共通テストへの導入が延期された英語の民間試験問題に議論が集中しました。このうち、英語民間試験について、みなさんはどこに問題があるとお考えでしょうか?

私は、端的に言えば「民間任せの制度設計」に一番の問題があるのではないか。また「事実関係の明確化と責任の所在」、それに「ブレーキ役、問題に気づいた時の軌道修正の役割」が極めて重要だと感じています。
以下、その理由、背景などを説明したいと思います。

ジャーナリストから見た入試制度

最初にお断りしておきますと、私は政治記者・解説委員経験者で、教育の専門家ではありません。このため、教育の中身について論評するつもりはありません。ただ、今回の問題は既に政治問題になっていますので、1人のジャーナリストとしての見方・読み方を提示して、議論の活性化に役立つことを希望しています。

また、私の判断材料は、国会での与野党の質疑、教育に詳しい国会議員、学者の取材に基づいていることを申し添えておきます。

 根本問題、”制度設計が民間任せ”

今回の問題、結論を先に言えば、問題の根本は、大学入試に使われる英語の試験を「民間業者・団体が実施する試験に委ねた制度設計にあるのではないか」と見ています。

こうした民間頼みの結果、試験会場の数は限られ、多額な受験料がかかる試験も出てきます。地方と都市の地域格差、経済格差も生じます。

一方、そうした格差に対する問題意識は乏しく、対応策は取られてこなかった。このため、萩生田文科相の「身の丈発言」が出てしまう土壌・背景があったのではないか。このため、「制度設計からの出直し」が必要だと考えます。

その際には、憲法と教育基本法がベースになります。「教育の機会均等」を基本に具体的な制度設計を進めて欲しいと考えます。

 事実関係の明確化を、問題点をなぜ放置?

今回の英語民間試験の導入について、推進派の教授の話を聞くと「地域格差や経済格差の問題があることは認識していた。文部省が設置した検討会議の中でも指摘してきた」と強調しています。

それにもかかわらず、なぜ、土壇場まで、そうした問題が放置されてきたのか。文部科学省はなぜ、対応策をとらなかったのか、はっきりした説明はありません。

 導入までの経緯

そこで、振り返ってみますと大学入学共通テストへの英語民間試験の導入は、2013年に安倍首相が設置した教育再生実行会議まで遡ります。
その再生会議が提言した「英語教育改革」と「大学入試改革」を受けて、導入への動きが始まりました。

その後、14年12月に文科相の諮問機関である中央教育審議会の答申を受け、2017年7月に文科省が民間試験の実施方針を決定しました。50万人が受験する共通テストで、読む・書く・聞く・話すの4技能を測る試験を国が開発するのは困難だとして、既に実績のある民間試験を活用することにしたわけです。

 歴代文科相から聞き取り

こうした民間試験導入の経緯を検証するため、萩生田文科相は、歴代の文部科学大臣から導入の経緯などについてヒアリングを行う考えを示しています。

また、文科省が去年12月に設置し非公開で検討してきた有識者会議の議事録を公開する方向で検討する考えを示しています。

これまでの経緯、事実関係を明確にすることは必要不可欠です。その上で、問題がある場合、結果責任、政治責任のケジメをつけることも重要です。

ブレーキ役、軌道修正機能も不可欠

さて、今回の取材で感じるのは、政策の決定や実現への過程で、問題が生じた際に「軌道修正ができる機能が働くかどうか」という問題があります。

英語民間試験導入は、第2次安倍政権で設置された教育再生実行会議の提言を受けて実現した看板政策です。それだけに担当する文科省からすると、官邸主導の政策に異論を唱えにくい状況があったのではないでしょうか。

以前の自民党政権では、官僚が政策提言や進言をしたり、党内では文教族が積極的に発信することで、問題点の是正を図るなどブレーキ役を果たしてきました。
最近は官邸主導が一段と強まり、こうしたブレーキ役を果たす党の幹部やグループ、官僚はいなかったのではないでしょうか。

また、問題が起きた際、担当閣僚や官僚はどんな責任を取るのか。特に「政治責任」が明確にならないという問題が気になります。
安倍政権での一例を挙げれば、森友問題での財務省の文書改ざん事件。官僚の一部は処分を受けましたが、結局、政治家・大臣の責任は、問われませんでした。

英語教育・入学試験制度、教育の将来像の議論も

最後に整理しておきますと、英語試験のあり方については、若い世代の人たちが納得して試験に挑戦できる試験制度に改めることが必要です。

一方で、試験を元の制度に戻すだけでは、生産的ではない気がします。
グローバル化した世界での英語教育のあり方、そのための入学試験で判定する英語技能などを明確にする必要があります。
また、試験は民間の事業・団体を活用するのか、あるいは公的な実施機関を整備して実施できないのか、専門家に抜本的に検討してもらいたい。
このほか、国語と数学に記述式問題が導入されます。その採点には、大学院生や教員の退職者、それにアルバイトの学生があたることなど想定されており、こうした点も問題になっています。

日本の教育科学予算の規模は5兆円台、この30年間ほぼ横ばい状態のままです。
OECDのデータでは、日本の公的教育予算のGDP比率は、残念ながら先進国で最低水準です。資源の乏しい日本は、人材の育成を最重点に取り組む必要があります。入学試験制度の整備も含めた教育の質の向上、そのためには、教育科学予算の拡大を着実に進めていくことが不可欠だと考えています。