”裏金 実態の説明とけじめ”が焦点 国会論戦

今年前半の政治の主な舞台となる通常国会が26日に召集された。召集日は、首相の施政方針演説が行われるのが通例だが、自民党の派閥の裏金事件を受けて見送られた。

代わって、29日に衆参両院の予算委員会で「政治とカネ」をめぐる集中審議を行い、翌30日に岸田首相の施政方針など政府4演説を行う異例の幕開けになった。

自民党の裏金事件をめぐっては、東京地検特捜部の捜査が国会召集直前まで続いた。また、岸田首相が突如、自らの派閥解散を宣言したのをきっかけに安倍派、二階派、森山派も相次いで解散を決めるなど政権与党の動揺が続く中で、国会論戦が始まることになった。

激動が予想される中で通常国会は、どこがポイントになるのか。結論を先に言えば、裏金事件については、実態の解明と説明が十分に行われるのかどうか。そのうえで、政治家の政治責任にけじめをつけられるのかどうかが、大きなカギを握っているとみている。

 与野党攻防、実態解明をめぐる綱引き

通常国会が召集された26日、岸田首相は自民党の両院議員総会で「政治とカネの問題で国民は、自民党に厳しい目を注いでいる。政治資金の透明化など各党・会派と議論して進めるべきものは進めていく」とのべるとともに「日本の重要課題にしっかりと立ち向かっていく」と結束と協力を呼びかけた。

これに対し、野党第1党・立憲民主党の安住国会対策委員長は「岸田首相は、事件の全容解明のために、自民党の議員のどれくらいが事件に関わったのか調査チームなどを設けて国会に示して欲しい。それがなければ予算委員会は順調に運ばないのではないか」と自民党をけん制した。

この二人の発言から、今国会に臨む双方のねらいや展開が読み取れる。岸田首相としては、自民党総裁の直属機関として設置した政治刷新本部が決定した「中間とりまとめ」を基にこの国会を乗り切りたい考えだ。

中間とりまとめでは、政治資金の透明化を進める一方、「自民党は派閥ありきの党から完全に脱却していく」ことなどを強くアピールしている。

これに対し、立憲民主党などの野党側は「事件の本質は、派閥の解散などにあるのではなく、パーテイー収入を裏金として組織的、意図的にキックバックしてきた違法行為にある」として、自民党に事件の調査と結果の説明を強く迫る構えだ。

国会の序盤では、事件の概要・実態をはじめ、岸田首相の自民党総裁としての責任、実態解明の進め方などをめぐって与野党の激しい綱引きが続く見通しだ。

 実態調査と説明、政治家の責任がカギ

この問題で、国民の受け止め方はどうか。多くの国民は、ロッキード事件、リクルート事件など連綿と続くスキャンダルにあきれる一方、政治とカネの問題に早く決着をつけ、山積している懸案へ全力で取り組むことを期待していると思われる。

そうであれば、まずは、今回の事件について検察の調べとは別に、自民党は自ら党所属の議員を対象に調査を行い、その結果を国民に説明することが必要だ。不祥事を起こした企業、団体のほとんどが、こうしたことは行っている。

また、国民の政治不信を払拭していくためには、刑事責任とは別に、国会議員が政治的・道義的責任を明確にすることも必要だ。

岸田派、安倍派、二階派の会計責任者は、政治資金規正法の違反容疑で、起訴、または略式起訴となったが、派閥の幹部議員は、いずれも刑事責任を免れた。

安倍派では安倍元首相が派閥の会長に戻った時に、キックバックの廃止を決めたものの、安倍氏の死去後、復活させた。この経緯についても安倍派幹部は、検察の事情聴取に対して「会長案件だった」などとして、自らの関与は否定したとされる。

安倍派の場合、今回の事件について政治責任を取る幹部議員は一人もおらず、事件の事実関係についても詳しい説明が行われていない。これでは、自民党が中間とりまとめなどで「国民に深くおわびし、信頼回復に取り組む」と繰り返しても信用されないだろう。

「政治とカネ」の問題は、事件が起きたときに実態の解明と説明、それに政治家の政治責任を明らかにすることが大前提になることを強調しておきたい。

そのうえで、今後、与野党の間では、事件の実態解明や再発防止策の協議の進め方をめぐって意見が対立し、国会運営面で大きな問題になってくるとみられる。

具体的には、自民党側から「検察の捜査以上に実態を調べることには限界がある」として、再発防止の中身の議論を優先するよう求めることが予想される。

個人的な体験で恐縮だが、ロッキード事件以降、政治とカネの取材を続けてきた。再発防止策は曖昧決着となるケースが多く、同じような不祥事が繰り返されてきた。政権与党は「曖昧なまま先送りにすることにかけては、天才的能力を持っている」というのが、率直な印象だ。

このため、「政治とカネ」の問題では「取り組みの順序」が極めて大事だ。事件の実態を調べるとともに、問題点や抜け穴などの点検、確認が不可欠だ。そのうえで、再発防止の具体策を考えていくことが重要だ。

こうした一方で、再発防止策を整備するためには、野党各党がどこまで連携して自民党に迫ることができるかどうか、野党の連携、共闘体制が必要になる。立憲民主と維新との足並みがどこまでそろうかがポイントになる。

 再発防止と政治改革、実効性がカギ

それでは、再発防止と政治改革の実現にむけて、どのような取り組みが必要だろうか。再発防止の内容については、これまで何回も問題になってきたこともあって、与野党とも大筋で共通認識ができているようにみえる。

具体的には、◆政治資金集めのパーテイー券の購入については、購入者の公開基準を今の20万円から引き下げること。◆政治資金規正法については、会計責任者だけでなく、国会議員も責任を負う連座制を導入すること。

◆政党から議員に渡される政策活動費については、使途の公開などを図る。◆政治資金の透明化を徹底するため、オンライン申請とデジタル化を進めること。

こうした一方で、◆企業団体献金については、禁止を求める野党側と、継続を求める自民党側との間で、大きな隔たりがある。

企業団体献金の扱いを除いては、与野党の問題意識は多くの点で共通している。今後、内容面の詰めの議論を行い、与野党が実効性のある対応策をとりまとめることができるかどうかが大きな焦点だ。

最後に今の政治情勢だが、岸田首相は、派閥の解散を打ち出すことで、政権への追い風を期待したようだが、世論は反応せず、内閣支持率は低迷したままだ。一方、野党各党も政党支持率が上がらず、政権批判の受け皿になり得ていない。

この国会は「政治とカネ」の問題を中心に激しい論戦と駆け引きが繰り広げられる見通しだ。国民が、果たして政権与党と野党のどちらの主張に軍配を上げるか。その結果は、今年の政治の流れを大きく左右することになりそうだ。(了)

“カギは政治責任” 派閥幹部立件見送り

自民党の派閥の政治資金パーテイーをめぐる裏金事件で、東京地検特捜部は19日、政治資金規正法違反の虚偽記載の罪で、安倍派と二階派の会計責任者を在宅起訴し、岸田派の元会計責任者を略式起訴した。

一方、安倍派の幹部7人や二階元幹事長など派閥の幹部については、会計責任者との共謀は認められないとして、立件を見送る判断をした。これによって、検察の捜査は事実上、終結し、今後は政治の側、国会を舞台に与野党の議論や攻防に焦点が移る見通しだ。

こうした中で、岸田首相は18日夜、自らが会長を務めていた「宏池会」=岸田派でも政治資金収支報告書の不記載があったことから、派閥の解散を検討していることを記者団に明らかにした。

派閥解散の意向は、他の派閥幹部にも伝えられていなかったことから、党内に大きな衝撃をもって広がり、蜂の巣をつついたような状況になった。果たして、岸田首相は主導権を確保できるのか、逆に求心力を失うのか、混沌としている。

さて、私たち国民は、こうした政界の一大スキャンダルをどう受け止め、対応していけばいいのか。大事なことは、問題の核心は何かを見抜くこと。今回は「事件の実態と政治の責任」、特に「政治の責任」に関心を持ち、監視していくことが必要ではないかと考えている。

 納得いかない検察処分、どうするか?

今回の東京地検特捜部の処分では、裏金事件を起こした安倍派と二階派、岸田派の主要幹部議員はいずれも立件を逃れる形になった。「刑事処分を受けるのは会計責任者、まさにトカゲの尻尾切り、納得がいかない」と受け止めた国民は多かったのではないか。

東京地検特捜部も派閥幹部の立件に向けて、捜査を尽くしたと思うが、肝心の法律、政治資金規正法がかねてから”ザル法”と呼ばれてきたように、会計責任者が責任を取り、議員の責任は問いづらい立て付けになっている。

このため、会計責任者と派閥幹部の共謀を証明する証拠を集めることが難しかったので、立件を見送らざるをえなかったものとみられる。今後、検察審査会への申し立てが行われれば、捜査が再度、行われる可能性がないわけではないが、立件となる保証はない。

そこで、捜査が十分だったかどうかは検察審査会に委ね、今後は、政治の場、国会での与野党の議論や法改正の内容などを考えた方が生産的だ。政治の信頼を失墜させた責任は大きく、刑事責任を免れても「政治的道義的責任」を問われることは十分ありうる。

その場合、議論の仕分けや進め方の順番をきちんとしておかないと「それぞれの立場の意見の表明や、駆け引きが延々と続き、結局、曖昧なまま先送り」となりかねない。

 実態解明と政治責任、順序が重要

それでは、政治の場でどのように取り組みを進めるべきか。結論を先に言えば「実態の解明と政治責任」を明確にしたうえで、「再発防止や改革」を考えていく順番が重要だ。

今回も、各党の再発防止や改革案の中身の議論を急ごうとする動きもあるが、これをやってしまうと、不祥事の実態を踏まえていないので、制度・形だけ整ったが、使い物にならない恐れがある。

「実態の解明」、例えば、安倍派の裏金作りと還流の実態はどうなっていたのか、肝心な点は明らかになっていない。

安倍元首相が首相を辞めて派閥の会長に就任した後、裏金のキックバックの廃止を決めたものの、銃弾に倒れて死去した後、派閥幹部が協議して還流を再開したとされるが、誰が関与したのか。

また、安倍派の参議院議員は、選挙がある年はノルマを上回った分だけでなく、全額キックバックの優遇を受けていたとされるが、どのような経緯で決めたのか。

検察の事情聴取に対し、安倍派の事務総長や経験者らの幹部は「知ってはいたが、『会長案件』で、自分は関与していない」と説明したと伝えられている。自民党関係者から「まさに”死人に口なし”、亡き会長に責任を押しつける情けない対応」と批判の声も聞く。

リクルート事件の際には、中曽根元総理、竹下元総理の証人喚問も行われた。安倍派の幹部7人や、二階派、岸田派の幹部は、国会でどう説明するのか。説明が不十分であれば、参考人招致や証人喚問なども行うべきではないか、野党の力量も問われる。

「事件の実態」を明らかにするため、事実関係の解明を進めること、その上で、原因と問題点を明らかにするとともに「政治責任」をどう果たすのか、けじめをつけることが重要だ。

一方、再発防止や政治改革の中身は、かねてからの懸案で、与野党ともにやるべきことはわかっている。政治資金の透明性を高めること、連座制を導入して議員に対する罰則を問えるようにすることなどが主な柱になるとみられる。

 首相の派閥解散方針、問われる指導力

ところで、岸田首相が打ち出した自らの派閥の解散方針が、波紋を広げている。岸田派に続いて、安倍派や二階派も解散する方針を決めた。これに対して、麻生派と茂木派からは反発する声が出ているほか、森山派は様子見の構えだ。

自民党内では「今、国民は自民党の主張に耳を貸さない状態なので、派閥解散という大胆な対応は必要だ」と首相の決断を支持する意見がある。これに対して「事前の説明もなく、政権維持のため国民受けをねらった自己保身の方針だ」と反発する声も聞かれる。

野党からは「真相解明から目をそらすための目くらまし」あるいは、「自民党得意の論点ずらし」などの批判も聞かれる。

国民としては、どうみるか。岸田首相の発言は、メデイアの関心を引きつけ、その結果、低迷する支持率を一時的に引き上げる効果があるかもしれない。但し、最近の国民の目は肥えており、長続きはしないのではないか。

岸田首相は元々、派閥効用論者とみられており、首相就任後も派閥を離脱せず、先月急に会長を辞任した。通常国会を間近に控えて、今回の不祥事をどのような基本方針で乗り切るのか、その覚悟と党内の意見をとりまとめていく指導力が問われている。

自民党は近く政治刷新本部で、派閥の存廃を含めた党改革の議論に入り、26日の通常国会召集日までに中間報告をとりまとめる予定だ。派閥の存廃をめぐって党内に対立を抱えている中で、派閥のあり方について、どこまで踏み込んだ方針を打ち出せるかが焦点だ。

一方、通常国会は、自民党の裏金事件を受けて、今年は召集日当日の26日は開会式だけに止め、29日に先に「政治とカネ」の集中審議を衆参両院で行った後、翌30日に岸田首相の施政方針演説など政府4演説を行う異例の幕開けとなる。

まずは、焦点の「裏金事件の実態」はどうなっていたのか、政党、議員はどのように「政治責任」を果たしていくのかを明確にしたうえで、国民の信頼回復につながる具体策を打ち出せるか、しっかり監視していきたいと考えている。(了)

 

”危険水域”続く岸田政権  

新しい年・2024年は、元日に能登半島を震源地とする大地震に襲われ、発災から2週間余りたった今も多くの人が避難所での生活を続けている。

一方、年末から続いている自民党の裏金事件をめぐる東京地検特捜部の捜査は、大詰めの段階を迎えており、近く立件の方針が明らかになる見通しだ。

こうした大きな災害や事件が相次ぐ中で、国民は政治の対応をどのように受け止めているのだろうか?NHKの1月の世論調査がまとまったので、このデータを基に分析してみたい。

 支持率下げ止まりも、危険ライン続く

まず、内閣支持率からみていきたい。岸田内閣の支持率は、先月より3ポイント上がって26%だったのに対し、不支持率は2ポイント下がって56%となった。

岸田内閣の支持率は、去年11月に29%、12月に23%と政権発足以降、最低の水準を更新してきたが、今回は26%、ようやく下落に歯止めがかかった。但し、3%程度の上昇なので、誤差の範囲、事実上、横ばい状態だ。

岸田内閣は、支持率より不支持率が上回る「逆転状態」が、去年7月から7か月続いている。また、政権運営に当たって危険ラインとされる30%を3か月連続で下回っており、危険水域が続いているというのが実態だ。

さらに、支持率の中身をみても、政権の基盤である自民支持層のうち、岸田内閣を支持している割合は、5割に止まっている。安倍政権や、岸田政権の発足当初は7割から8割に達していたので、政権の求心力が大きく落ち込んでいる。

このため、岸田首相が秋の自民党総裁選で再選をめざすためには、自民支持層の支持を回復させないと、再選の道は相当難しいのが実状だ。

 災害対応、初期段階は一定の評価

次に、能登半島地震への対応だ。政府のこれまでの対応について、◇「大いに評価する」が6%、「ある程度評価する」が49%で、合わせて「評価する」は55%だ。

これに対して、「余り評価しない」は31%、「全く評価しない」は9%で、合わせて「評価しない」は40%となった。

このように地震対応について、「評価する」が過半数を上回ったことが、今回、内閣支持率の下落に歯止めをかけることができた主な要因だ。

但し、能登半島地震は16日時点で死者が222人に上ったほか、未だに被害の全容がつかめておらず、道路、水道などインフラ施設の復旧のめどもついていない。

厳しい寒さが続く中で、避難している人は1万6千人余りに上っており、避難所などで体調を崩して亡くなる災害関連死が増えることが懸念されている。こうした救援・復旧の進み具合で、政府の対応の評価は大きく変わる可能性がある。

 自民党の政治刷新、8割が信用せず

自民党の派閥の政治資金パーテイーをめぐる裏金事件を受けて、岸田首相は自民党に「政治刷新本部」を立ち上げ、再発防止や派閥のあり方などについて検討を始めた。

世論調査では、こうした取り組みが「国民の信頼回復につながると思うか」尋ねた。結果は◇「つながる」が13%に止まったのに対して、「つながらない」は78%に上った。国民の8割は、政治刷新の取り組みを信用していないことになる。

この「つながらない」と答えた人を支持層別にみてみると◇野党支持層では88%に上ったほか、◇無党派層で85%、◇自民支持層でも66%にも達している。

「刷新本部」は、本部長を岸田首相自ら務めるほか、最高顧問には、麻生派を率いる麻生副総裁と、無派閥の菅元首相が就任。党の役員もメンバーに入るので、各派閥のトップや幹部が顔をそろえた。

38人のメンバーのうち、安倍派が最も多い10人を占め、このうち9人は裏金のキックバックを受けていることが明らかになった。党内から「なんで、こんなバカなことをやるのか。規則破り、法律違反者に新たな規則づくりを委ねるようなもの。国民の理解が得られるはずがない」と厳しい声を聞く。

今から34年前のリクルート事件の際には、当時の竹下首相は党に「政治改革委員会」を設け、会長にベテランの後藤田正晴氏に就任を要請した。有識者の声を聞くため、首相官邸に私的諮問機関である賢人会議を立ち上げたほか、選挙制度審議会に選挙制度を検討してもらうなど3本柱で対応した。

このうち、後藤田氏は自民党の若手議員に自由に議論させ、その内容は後の政治改革大綱につながった。今回の岸田首相の「政治刷新本部」は、焦点の派閥のあり方を含め、国民の多くを納得させるような改革案をまとめることができるのか、危惧する見方は多い。

 2つの危機対応、舞台は通常国会へ

以上、みてきたように新年の政治は、当面、2つの危機対応が求められている。1つは、能登半島地震への対応だ。災害関連死などを防ぎ、早期の復旧・復興のめどをつけられるのか。自衛隊、警察、消防などの部隊の投入や展開などの危機対応は適切だったのか、検証や議論が必要だ。

もう1つは、裏金事件の真相究明と国民の政治不信の高まりへの対応だ。会計責任者とともに、国会議員、派閥の幹部の立件はどうなるのか、近く東京地検特捜部の結論が出される見通しだ。

検察当局の捜査とは別に、政治の場でも事実関係の解明と、議員や派閥幹部の責任が議論されることになる。そのうえで、再発防止策や、政治改革の実現へとつなげることができるかどうかも焦点になる。

通常国会が26日から幕を開け、これから半年間、与野党攻防の主な舞台となる。地震対応と、政治とカネ、さらに賃上げや経済政策、外交・防衛など多くの懸案・課題が待ったなしの状態だ。

岸田政権と与野党は、当面の問題については早期に結論を出し、政治が本来、取り組むべき懸案・課題を競い合う、メリハリの効いた政治をみせてもらいたい。(了)

 

“2つの危機対応”問われる岸田首相

新しい年・2024年は、厳しい年明けになった。1日夕方4時過ぎ、能登半島を震源とする最大震度7の強い地震が観測され、石川県では1週間たった8日時点で、亡くなった人は168人に増え、安否がわからない人が320人余りに上っている。

一方、昨年末に東京地検特捜部が着手した自民党の派閥の裏金事件は7日、高額なキックバックを受けていたとされる安倍派の池田佳隆・衆議院議員が、会計責任者の秘書とともに逮捕された。裏金事件で、国会議員が逮捕されたのは初めてだ。

支持率の低迷が続く岸田政権にとっては、裏金事件に加えて、新たに地震災害対応が重なることになった。この2つの危機を乗り切ることができるかどうか、今年の政治を大きく左右することになりそうだ。

令和で最大級の災害、問われる危機対応

能登半島地震の被災状況は、冒頭触れたように死者は8日午後2時時点で、168人に上る。100人を超す犠牲者が出た地震は、2016年4月の熊本地震以来で、令和に入って最大級の災害だ。

熊本地震では、大分県を含め死者は276人に上ったが、災害関連死が8割以上を占め、災害による直接的な死者数は55人だった。直接的な死者数では、今回が既に上回っている。

岸田首相は8日のNHK日曜討論で「中小の道路も寸断され、物資の搬入1つとってもたいへん困難な状況が続いているが、自衛隊、警察、消防関係者が最大限の努力をしている」と災害対応の現状を説明した。

これに対して、野党第1党・立憲民主党の泉代表は「自衛隊の派遣が最初は1千人、次いで2千人、5千人と逐次投入となっており、対応が遅い」と批判した。

今回の地震では家屋の倒壊が多く、余震も頻繁に続いていることから、各地に孤立した集落が残されるなど災害全体の状況が把握できない状態が続いている。

政府は、当面、家屋の倒壊などで閉じ込められている人の救出や、孤立地域の救援に最優先で当たっているほか、避難の長期化に伴う生活環境の整備や、被災者の健康管理、さらには被災地域の復旧・復興などの取り組みが求められている。

災害などの危機管理は、政権にとって最優先の課題で、対応を間違うと政権は一気に求心力を失う。阪神・淡路大震災の際の村山政権、東日本大震災時の菅直人政権などは、災害対応に政権のエネルギーを奪われ、退陣へとつながった。

岸田政権は、政権発足直後の新型コロナ感染に続いて、今度は地震災害という異なる分野だが、2度目の危機対応になる。コロナ対応の時は、地域の感染状況の把握や医療提供態勢づくりに対応の遅れが目立った。

今回の能登半島地震では、石川県の避難者は2万8000人を超えている。厳しい寒さが続く中で、犠牲者や行方不明者を最小限に抑えて、被災者の救援と地域の復旧のめどをつけられるかどうか、岸田政権の危機対応力が問われている。

 捜査の本丸は?派閥幹部に伸びるか

もう1つの焦点である「政治とカネ」、自民党の派閥の裏金事件については、年明けに東京地検特捜部が、二階派会長を務める二階俊博・元幹事長から任意で事情を聴いたことが明らかになった。

8日には、安倍派に所属する池田佳隆・衆議院議員が4800万円余りのキックバックを受けたにもかかわらず、政治資金収支報告書に記載せず、政治資金規正法違反の容疑で逮捕された。この事件で、国会議員が逮捕されたのは初めてだ。

池田議員が逮捕されたのは、検察の捜索の前に関係先にあったデータを保存する媒体が壊されていたことがわかり、罪証隠滅のおそれが大きいと判断したためとみられている。

政界では、池田議員と同じく高額なキックバックを受けていたとされる大野泰正・参議院議員、谷川弥一・衆議院議員についても立件されるのではないかとの見方が広がっている。

今回の事件の核心は、派閥が組織的、意図的に裏金作りを続けてきた点にある。東京地検特捜部は、最大派閥の安倍派、二階派の事務総長や経験者など派閥幹部の立件も視野に捜査を進めているものとみられる。

今月下旬に通常国会が召集されるのをにらんで、検察の捜査はヤマ場を迎えている。捜査の本丸が、派閥の幹部にまで伸びるのかどうかが、最大の焦点だ。

 政治改革案、問われる首相の指導力

一方、政治の側の動きとして注目されるのは、岸田首相が近く立ち上げる「政治刷新本部」と、首相の指導力だ。

この組織は、4日に行われた年頭の記者会見で岸田首相が打ち出した構想だ。自民党総裁の直属の機関として党に設置し、再発防止策や派閥のあり方などを検討し、今月中に中間的なとりまとめを行う方針だ。

岸田首相は、再発防止の具体策として「パーティーの収支について党の監査を行うとか、現金でなく振り込みに変えるとかが考えられる」とのべたが、いずれも政治資金パーティーの存続を前提にした内容だ。

また、刷新本部の本部長は岸田首相自らが就任するほか、最高顧問には、麻生副総裁と、菅前首相の首相経験者が就任する見通しだ。

リクルート事件当時、竹下首相は自民党に「政治改革委員会」を設け、トップに後藤田正晴・元副総理の就任を要請した。続く宇野首相時代に「政治改革本部」と変わり、本部長に伊東正義・元官房長官、代理に後藤田氏の重鎮2人が就任し、党内論議と党改革の推進役を果たした。

今回は、党内第2派閥を率いる麻生副総裁と、派閥解消論者の菅前首相という正反対の立場にいる2人が最高顧問に座る。果たして、派閥のあり方なども含めて思い切った政治改革案をまとめることができるのか、危惧する見方が強い。

さらに、野党側からは「自民党は、まずは事件の実態を説明し、不正を行った議員にケジメをつけさせるのが先だ」といった指摘が出されている。

また、与党の公明党や、野党各党からは、政治資金規正法の抜本的な改正を行い、パーティー券購入者の公開基準の引き下げや、違法行為に対しては、国会議員の責任を問える罰則の強化を求めていく方向で一致している。

自民党は、果たして党内の意見を取りまとめができるのかどうか、最終的には、岸田首相の決断と指導力にかかってくるのではないか。その結果によっては、今年の政局は、さらに大きく揺れ動くことになる。(了)

★追記①(9日16時30分)能登半島地震による石川県内の死者は、9日午後2時・時点で、202人に上った。昨日に比べて34人も増えた。一方、安否不明者は102人となり、昨日より121人減った。                     ★追記②(10日17時40分)能登半島地震による石川県内の死者は、10日午後2時・時点で206人。安否不明者は52人。                  ★追記③(11日21時)能登半島地震による死者は、11日午後2時・時点で213人、安否不明者は37人。2500人余りが孤立状態にある。

 

“波乱・混迷政局の幕開け”2024年予測

自民党の派閥の「裏金疑惑」が政権を直撃する中で、新しい年・2024年が幕を開けた。政界関係者の情報を総合して判断すると、新しい年は「波乱、混迷、模索の年」になるのではないか。

「波乱」とは、端的にいえば、内閣支持率の低迷が続く岸田首相は退陣、交代する確率が高いということ。

「混迷」とは、後継選びとなると有力候補がいないため、交代時期や候補者の絞り込みなどをめぐって、調整などが難航することが予想される。

焦点の衆院解散・総選挙の時期は、自民党の総裁選びと事実上、表裏一体の位置づけとなり、新総裁が決まると時間を置かずに解散・総選挙になる公算が大きいのではないか。2024年中に解散・総選挙となる可能性が高いとみている。

さらに「模索」とは、どういうことか。今の政治は、裏金疑惑に代表されるようにここ数十年の中でも残念ながら、最低水準といわざるをえない。ザル法と揶揄される政治資金規正法ですら守られないほど政治の劣化が進んでいる。

しかし、それでも難題を数多く抱える日本にとって残された時間は多くはない。政権、与野党双方とも懸案・課題を前進させていくため、さまざまな取り組みを試みてもらいたい。

なぜ、こうした結論になるのか、以下、説明したい。

 裏金疑惑、立件は政治家まで拡大か

新しい年の政治はどう展開するか?まず、大きな影響を及ぼすのは、自民党の派閥の裏金疑惑、政治資金規正法違反事件がどこまで拡大するかだ。

東京地検特捜部は12月中旬に安倍派と二階派の事務所の強制捜査を行ったのに続いて、多額のキックバックを受けたとされる安倍派の衆参議員2人の事務所などの家宅捜索も行った。

そして、年末までに松野・前官房長官、世耕・前参院幹事長、高木・前国対委員長、萩生田・前政調会長に続いて、西村・経産相の任意の事情聴取を行った。これで「5人衆」と呼ばれる派閥幹部と座長の塩谷・元文科相の6人すべてが、事情聴取を受けたことになる。

自民党関係者に今後の見通しを聞くと「検察当局は、金丸事件も念頭に捜査を進めるのではないか。安倍派と二階派の会計責任者だけではなく、議員や派閥幹部にまで広げるのではないか。但し、人数や範囲は全くわからない」と語る。

特捜部の捜査が最終的にどのような形で決着がつくのか、政界関係者は固唾を飲んで見守っている。いずれにしても、岸田政権と年明けの通常国会にさらに大きな打撃を与えることになるのではないか。

 自民総裁選び、岸田首相交代の波乱も

それでは、新年の政治はどのように展開するのか。今年前半の政治の舞台となる通常国会は今月26日に召集、会期末は6月23日となる見通しだ。野党は「政治とカネ」の問題で岸田政権を厳しく追及する構えだ。

これに対し、岸田首相は、自民党に新たな組織を立ち上げて再発防止と政治改革案をとりまとめ、国民の信頼回復への道を探りたい考えだ。

また、今年の春闘で物価高を上回る賃金の引き上げを実現し、6月に所得税など定額減税の実施ができれば、政権を取り巻く厳しい空気は和らいでくるのではないかと期待をかけている。

こうした一方、「政治日程は逆に読む」と言われる。以上のように時系列で政治の動きをみていくのではなく、政治を最も大きく左右する要素は何かを考えて、逆算して予測するとどうなるか。

最も大きな意味を持つのは、今年秋の自民党総裁選挙だ。岸田首相にとって、自民党総裁の任期が9月末に満了となり、再選できるかどうかが最大のハードルになる。その1年後の来年10月は、衆議院議員の任期も満了となる。

自民党長老は「自民党の議員、特に若手議員は、総裁選挙で誰に投票するか、次の衆院選挙とセットで考える。自民党は自分党、自らの当選を果たすうえで、『選挙の顔』は誰が有利かとなる。そうすると内閣支持率が改善しないと、岸田首相の再選の道は険しいものになるだろう」との見方を示す。

報道機関の世論調査で岸田内閣の先月の支持率は、20%台前半まで落ち込んだ。自民党の支持率もこれまで30%台後半を維持してきたが、年末には30%を切って、2012年に自民党が政権復帰して以降、最低の水準まで下がっている。

自民党内では「岸田降ろし」の動きは起きていないので、早期の退陣は考えにくい。しかし、総裁選が近づくにつれて岸田離れが一段と進むと見られ、再選は困難との見方が、じわりと広がっている。「波乱」の確率は高いとみられる。

そのうえで、想定される波乱の時期だが、与野党の議員に聞くと見方は分かれる。◇新年度予算成立の3月末が限界との説から、◇4月28日統一補欠選挙後、◇通常国会が閉会する6月、◇自民党総裁選が近づく夏といった具合だ。

岸田首相は3月上旬にはバイデン大統領の招請を受けて訪米、6月には首相肝いりの定額減税が実施されるので、それまでの退陣は何としても避けようとするのではないか。個人的には、6月の通常国会閉会後か、総裁選が近づく夏以降の公算が大きいのではないかとみている。

 総裁選び「選挙の顔」重視、混迷も

さて、ポスト岸田はどうなるのかといった質問もあるかと思う。支持率低迷でも岸田首相が持ちこたえているのは、後継の有力候補がいないことが大きい。

それでも総裁選が近づくと新たな候補者擁立の動きが出てくるのは、自然な流れだ。自民党関係者に聞くと、立候補の経験がある石破元幹事長、河野デジタル担当相、高市経済安保担当相らのほか、新たな顔ぶれとしては、茂木幹事長、小泉元環境相、上川陽子外相らの名前が挙がる。

但し、圧倒的な支持を集めそうな候補者は見当たらない。このため、総裁の交代時期、候補者の絞り込みなどが難航し、迷走することも予想される。

さらに、今回は99人が所属する党内最大派閥の安倍派はどうなるのかという問題もある。特捜部の今後の捜査なども考えると他の派閥幹部からは「安倍派の存続は困難、解体的出直しは避けられないだろう」との厳しい見方も聞かれる。

自民党関係者の一人は「次の総裁選びでは、党員や議員の多くは『総選挙の顔』となる候補を選ぼうとするだろう。裏金問題で自民党への視線が厳しくなるので、よりましな候補、経験や実績のある候補へ支持が集まる」との見方を示す。

別の関係者は「裏金問題に焦点が当たるので、従来の派閥主導の候補者擁立は絶対ダメ。女性候補が浮上するのではないか」と話す。候補者選びは紆余曲折、混迷も予想される。

 年内総選挙も、新しい政治へ展望は?

もう一つの焦点である衆議院の解散・総選挙の見通しはどうか。自民党長老は「新総裁が選ばれた場合、即、国民に信を問うことになるだろう。今回は、総裁選びと総選挙を一体として位置づけて、戦うからだ」との見方を示す。

これに対して、野党側も通常国会では「政治とカネ」の問題を徹底的に追及しながら、岸田政権を解散・総選挙へと追い込んでいく構えだ。

こうした与野党双方の姿勢から判断すると次の総選挙は、今年中に行われる可能性が高いとみられる。衆院議員の任期は折り返しを過ぎたことに加えて、来年夏は参院選挙が控えているので、その前に総選挙という見方が強いからだ。

その際、野党の責任は極めて重い。この10年余りの国政選挙では、自民・公明両党の連戦連勝が続いている。その原因は、野党がバラバラで、政権交代はもとより、与野党伯仲にも持ち込めていないからだ。

「自民1強、野党多弱体制」は安倍派の裏金疑惑で崩壊の兆しが見え始めたが、立憲民主党や維新は、自民1強体制を崩せるのか、そのために戦略的な連携へと踏み出すことができるかどうか、問われることになりそうだ。

一方、国民からは「与野党が『政権構想』を示して、もっと政策を競い合う新しい政治を展開してもらいたい」との声を聞く。円安政策もあって、GDPをはじめとする日本の国際社会における地位の低下が目立つからだ。

人口急減社会が進行する中で、賃金の引き上げや経済の再活性化をどのように実現していくのか。教育、社会保障の将来の姿、防衛力増強や少子化対策の具体的な財源確保について、政府が方針を明確に示し、与野党が国会で議論を尽くして前進させていく「新しい政治」を期待する声は根強いものがある。

以上、見てきたように今年の政治は、波乱と混迷、模索の1年になりそうだ。一方、与野党の陣取り合戦だけで終わらせては意味がない。まず、政府、与野党、政治の側の取り組みが問われる。同時に、私たち国民も政治への関心と、選挙でしっかり判断し、選択していくことが求められる。(了)

★追記(5日正午)◇1日に起きた能登半島地震で、石川県内で合わせて92人の死亡が確認された(5日8時・時点)。また、安否不明者は242(5日9時・時点)。 ◇岸田首相は4日夕方の記者会見で、自民党の派閥の政治資金問題で、来週、総裁直属の機関として「政治刷新本部」を立ち上げ、再発防止策や派閥のあり方などの検討を進める意向を表明した。派閥のあり方など党改革の議論でどこまで踏み込めるかが焦点。

 

 

 

 

 

 

“揺らぐ岸田政権” 裏金疑惑に強制捜査

自民党の派閥の政治資金パーテイーをめぐる問題で、東京地検特捜部は19日、最大派閥の安倍派と二階派の事務所などを捜索し、強制捜査に乗り出した。

去年までの5年間に安倍派は5億円、二階派は1億円を越えるパーテイー収入を政治資金収支報告書に記載せず、裏金として還流させていた疑いが持たれている。

今後は派閥の会計責任者だけでなく、多額の資金のキックバック・還流を受けていた国会議員や派閥の幹部の責任を問えるかどうかが大きな焦点だ。

一方、今回の裏金疑惑捜査は、岸田政権を直撃するだけでなく、政権与党の自民党に対する国民の批判が一段と強まるきっかけになりそうだ。

党内からも「リクルート事件以来の逆風になるかもしれない」と警戒する声も聞かれる。岸田政権と政界への影響などを探ってみる。

 裏金疑惑の捜査、政治家まで伸びるか

政界関係者が固唾を飲んで見守っているが、検察の捜査が国会議員まで伸びるかどうかだ。

政治資金規正法は、資金の流れを公開し、国民の監視と批判に委ねることを目的にしており、政治資金収支報告書の記載は、会計責任者が責任を負う仕組みになっている。このため、国会議員や派閥幹部の責任を問うのは、ハードルが高いとされてきた。

岸田政権や自民党の党内事情に詳しい関係者に聞いてみた。「岸田官邸は捜査がどこまで広がるか、つかめていないようだ」とのべ、捜査がどこまで展開するか明確に見通せないという。

一方、「検察当局は安倍政権時代、黒川・東京高検検事長の処遇をめぐって検察人事に手を突っ込まれた経緯もあり、その反撃といった意味もあって強い執念で取り組んでいる」として、安倍派の議員や幹部まで捜査が広がる可能性があるとの見方を示す。

検察当局は、安倍派の「5人衆」と呼ばれる幹部などからも詳しい事情を聞くものとみられ、最終的に捜査がどのように決着するのかが最大の焦点だ。

 内閣支持率急落、トリプルパンチ

次に、政界への影響はどうか。岸田政権については、既に内閣支持率が低迷している状況だけに、今回の疑惑捜査はさらなる打撃となりそうだ。

岸田首相は14日、安倍派の裏金疑惑を受けて、松野官房長官ら安倍派の閣僚4人と副大臣5人の大幅交代に踏み切った。

ところが、この直後に行われた報道各社の世論調査によると、岸田内閣の支持率は、読売新聞が25%で横ばい、共同通信が22.3%で6ポイント下落、朝日新聞が23%で2ポイント下落となった。閣僚の交代による政権の立て直し効果は、まったく見られなかった。

いずれの調査とも岸田内閣支持率は20%台前半まで下落している。これは、2012年に自民党が政権復帰して以降、歴代政権の最低の水準だ。今回、裏金疑惑の捜査の影響を考えると、さらなる支持率の下落が予想される。

岸田政権は、10月に新たな経済対策の切り札として「所得税などの定額減税」を打ち出したが、国民には不評で、政策面で厳しい批判を浴びた。

これに加えて、11月は「副大臣3人が相次ぐスキャンダル」で更迭、さらに12月は「裏金疑惑」が重なり、トリプルパンチを浴びる形になっている。国民の信頼が低下し、今後の政権運営にも大きな影響が出ることは避けられない見通しだ。

 自民党も支持率低下、逆風強まるか

裏金疑惑の問題は、内閣支持率だけでなく、これまで30%台後半で比較的高い水準を保ってきた自民党の支持率にも影響を及ぼし始めた。

NHKが12月上旬に行った世論調査で、自民党の政党支持率は、先月より8ポイント余り下がって29.5%。2012年に自民党が政権復帰して以降、初めて30%を割り込んだ。

今月中旬に行った朝日新聞の世論調査でも自民党の支持率は23%で、先月より4ポイント下落、こちらも2012年の政権復帰以後、最低を更新した。

朝日の調査によると◆裏金疑惑をめぐる岸田首相の対応については、「評価しない」が74%、「評価する」が16%だった。◆自民党は「政治とカネ」の問題を繰り返してきた体質を変えられると思うかとの質問に対しては、「変えられない」が78%、「変えられる」は17%だった。

こうしたデータを基に判断すると、自民党は信頼回復に向けた思い切った対応策を打ち出さないと自民党に対する世論の逆風は一段と強まることになるのではないか。

 疑惑対応が後手、国民の信頼回復は?

それでは、これからの政治はどう動くか。岸田首相は、22日に新年度予算案を閣議決定するとともに、萩生田政調会長ら辞任する党役員の後任を決定して、態勢の立て直しを図る方針だ。

そして、来年の春闘で物価上昇を上回る賃金引き上げを実現し、6月の定額減税の実施などで国民生活を安定させ、政局の主導権を回復したい考えだ。

自民党長老に聞くと「岸田政権が、個別政策で実績を上げて政権の浮揚をめざすのはかなり難しい。今や、政権と自民党が一体となって、政治不信を払拭し、国民の信頼を取り戻せるかが急務だ」と指摘する。

また、「岸田首相にとって今のような支持率では、とても解散は打てない。新年度予算案が成立した後は、来年秋の自民党総裁選に向けて『新しい顔』を探す動きが出てくるかもしれない」との見方を示す。

岸田首相は13日の記者会見で「自民党の体質を一新すべく先頭に立って戦っていく」と決意を強調したものの、具体的な対応策は示すことができなかった。

安倍派と二階派の事務所に検察の捜査が入った19日も岸田首相は、記者団に「強い危機感を持って信頼回復に取り組む」と一般論を繰り返すだけに止まった。

また、安倍派の閣僚4人は全員交代させたのに対し、二階派の小泉法相と自見万博担当相は続投させる判断をした理由について、詳しい説明はなされなかった。

このように岸田政権は、国民の多くが求めている疑惑の解明や、こうした事態を招いた原因などについての説明が、後手に回っている。

自民党には、リクルート事件を教訓に党のあり方などを盛り込んだ「政治改革大綱」がとりまとめられているが、岸田首相や党執行部から、こうした原点に立ち返って対応していくといった今後の取り組み方についての言及は聞かれない。

岸田政権には、派閥のあり方などを含めた党改革について、踏み込んだ対応や指導力の発揮が最も問われているようにみえる。そうした取り組みができない場合、党員や国民の支持を失う危機的状況に追い込まれるのではないか。(了)

★(追記=21日21時)東京地検特捜部は、松野官房長官、高木国会対策委員長、萩生田政調会長ら安倍派の複数の幹部に任意の事情聴取を要請した。     ★(追記=25日21時)東京地検特捜部は、安倍派幹部の松野前官房長官、高木前国対委員長、世耕参院幹事長、塩谷元文科相(派閥の座長)から24日までに任意で事情を聞いたことが明らかになった。                    ◆岸田首相は25日、麻生副総裁ら自民党執行部と会談、年明けのできるだけ早い時期に、派閥の政治資金パーテイーをめぐる問題を受けた改革などを検討するため、新たな組織を立ち上げる考えを示した。                ★(追記=27日23時)東京地検特捜部は27日、安倍派から4000万円を超えるキックバックを受けていたとみられる池田佳隆衆議院議員の事務所などを捜索した。自民党の派閥をめぐる政治資金問題で、議員側が強制捜査を受けるのは初めてだ。                                  ★(追記=28日21時)東京地検特捜部は28日、自民党安倍派の大野泰正参議院議員の事務所などを捜索した。安倍派から5000万円のキックバックを受けていたとされる。                               ◆柿沢前法務副大臣が28日、江東区長選挙をめぐる買収の疑いで東京地検特捜部に逮捕された。

裏金疑惑”踏み込んだ対応策示せず”岸田首相

自民党の派閥の政治資金パーテイーをめぐる問題で、岸田首相は13日夜、記者会見し、臨時国会の後、直ちに政権の態勢立て直しを図るため、14日に松野官房長官など安倍派の閣僚4人を交代させる人事を行う考えを明らかにした。

また、安倍派の副大臣5人も交代させる一方、政務官6人については、本人の意向なども踏まえて、交代させるかどうか判断する方針だ。

さらに、萩生田政務調査会長や高木国会対策委員長はそれぞれ自ら辞任する意向を表明したが、岸田首相としては、安倍派の党幹部の交代時期については、来年度予算案の編成作業の日程なども考慮しながら、調整したい考えだ。

こうした一方で、岸田首相は「自民党の体質を一新するために先頭に立って戦っていく」と決意を表明したが、踏み込んだ具体的な対応策は示すことができなかった。

14日の閣僚人事を前に岸田首相は、裏金疑惑問題にどのように対応しようとしているのか、何が問われているのか整理しておきたい。

 実態の解明、首相の積極姿勢みられず

岸田首相は昨夜の記者会見で、自民党の派閥の政治資金パーテイーをめぐる問題について「国民から疑念を持たれるような事態を招いていることは極めて遺憾だ」とのべたうえで、「自民党の体質を一新すべく先頭に立って戦っていく」と強い決意で取り組む考えを表明した。

こうした一方で、実態解明の取り組みについては「当事者が調査・精査し、丁寧に説明を行い、事実確認が求められている。事実が確認されたならば、国民に説明し、さまざまな課題、原因が明らかになっていく。自民党としてどう立ち向かうのか明らかになる」と慎重な発言に終始した。

この考え方では、裏金作りの疑いが持たれている国会議員が、まずは事実関係の確認をしながら、原因や課題を明らかにし、そのうえで、自民党としての対応策をとりまとめていくことになる。これでは、裏金疑惑の実態解明は、検察当局の捜査以外、ほとんど進まないのではないか。

国民の多くが岸田首相に期待しているのは、なぜ、派閥が総ぐるみで裏金作りを組織的に行ってきたのか、検察当局の捜査を待つのではなく、政治の側が自ら進んで事実関係を明らかにしていくリーダーシップの発揮だ。

昨夜の岸田首相の発言からは、こうした実態の解明に積極的に取り組む姿勢がみられなかったのは、極めて残念だ。

 ”安倍派外し”で済むのか、党の対応は

14日に行われる閣僚人事の特徴は、自民党最大派閥・安倍派に所属する閣僚4人全員と、副大臣5人をそろって交代させる”安倍派外し”にある。

政務官6人も当初の方針では交代させる方針だったが、安倍派から「政務官は資金の還流を受けていない」と強い反発を受けて、一部軌道修正した形だ。しかし、”安倍派外し”の本質は変わっていない。

安倍派は、去年までの直近5年間に5億円が政治資金収支報告書に記載されず、裏金として還流していた疑いがもたれている。その金額が突出して多いことや、裏金作りが組織的、常態化していた可能性が高く、責任を問われるのは当然だとの意見は自民党内でも強い。

但し、パーティー収入の不記載による裏金作りについては、二階派も行っていたほか、麻生派でも不記載があったとされる。さらに、岸田首相が7日まで自ら会長を務めていた岸田派・宏池会でも数千万円の不記載が行われていたことが明らかになった。

こうした事態を考えると、閣僚の交代などの責任は安倍派だけで済むのか。今後、その他の派閥の扱いをどうするのか、記者会見では明らかにされなかった。

自民党関係者に聞くと「岸田官邸は、各派閥の資金処理の実態など詳しい情報を得られていないのではないか」と話す。この指摘が事実であれば、今後、検察の捜査によっては新たな事実が明らかになり、対応を追われる事態も予想される。

岸田政権は、裏金疑惑に対して、どのような基本方針で臨み、閣僚や党役員に対して責任を取らせる基準をどのように考えるのか、昨夜の記者会見では明らかにならなかった。全体として、国民の知りたい点に応えるような会見ではなかった。

 問われる首相のリーダーシップ

今回の巨額裏金疑惑に対する世論の反応は、厳しい。NHKが今月8日から10日にかけて行った世論調査で、岸田内閣の支持率は先月より6ポイント下がって23%まで下落し、政権発足以降最低を更新した。不支持率は6ポイント上がって58%に達した。

これまで比較的高い水準を維持してきた自民党の政党支持率も先月より8ポイントも下がって29.5%、2012年に政権復帰して以降、初めて30%を割り込んだ。いずれも裏金疑惑が直撃した影響とみられる。

こうした世論の厳しい反応に対して、岸田政権の対応は鈍い。岸首相は、政治資金パーティー開催の自粛と、自ら派閥の会長を退くことを表明した。そして、ようやく、今回、安倍派の閣僚などの交代に踏み切った。後手の対応が目立つ。

政治資金規正法を抜本的に見直し、政治資金を記載しない政治家や、政治団体の代表に対する罰則を強化すべきだとの声も聞く。また、30年前のリクルート事件の際にも問題になった派閥の解消などを求める声も強まっている。

14日の人事では、官房長官に林芳正・前外相が起用されるなど新たな閣僚の顔ぶれも固まった。但し、閣僚を入れ替えた程度で、政権の窮地が改善されるほど甘い情勢ではない。

岸田政権と自民党が、裏金疑惑の実態の解明と政治不信の払拭に真正面から取り組み、目に見える実績を上げることができない限り、岸田政権が命脈を保つのは難しいのではないか。正に待ったなしの危機的状況で、岸田首相の指導力が問われている。(了)

★<追記14日13時>自民党安倍派幹部の世耕参院幹事長は、辞表を提出したことを明らかにした。これで、安倍派の「5人衆」と呼ばれる幹部は、いずれも閣僚や党幹部の役職を退くことになった)

 

“自民派閥の裏金疑惑”政権中枢を直撃

自民党の派閥の政治資金パーテイーをめぐる問題で、最大派閥の安倍派(清和政策研究会)に所属する松野博一官房長官側が、去年までの5年間に1000万円を超えるキックバックを受け、政治資金収支報告書に記載していない疑いがあることが明らかになった。

これは8日朝、朝日新聞が報道したのに続いて、そのほかの新聞・放送各社の報道で明らかにされたものだ。東京地検特捜部もこうした資金の流れなどについて、実態解明を進めているものとみられる。

一方、NHKは8日夜のニュースで、松野官房長官側のほかにも、安倍派幹部で事務総長を務める高木毅国会対策委員長や、世耕弘成参議院幹事長側も1000万円を超えるキックバックを受けていることが新たにわかったと報道した。

これによって、政治資金パーテイーをめぐる裏金疑惑は、岸田政権の中枢を直撃する可能性が大きくなった。自民党関係者によると、臨時国会閉会後に検察当局が本格的な捜査に着手するとみており、岸田政権は大きく揺らぐことも予想される。

 裏金疑惑、事実関係の確認なされず

自民党の5つの派閥による政治資金パーテイー収入の不記載問題は、急展開した。今月1日には、最大派閥の安倍派では、パーテイー券の販売ノルマを設定し、ノルマを超えて集めた分の収入を議員側に裏金としてキックバックしていたことが明らかになり、その収入は去年までの5年間で数億円に上るものとみられている。

その後、安倍派の複数の議員が、1000万円を超えるキックバックを受けていた疑いが明らかになったほか、派閥側、議員側ともに政治資金収支報告書に記載していなかったものとみられ、裏金として環流していた実態が浮き彫りになった。

さらに冒頭に触れたように8日には、安倍派の事務総長の経験者で、官房長官の松野氏も1000万円を超える裏金を受け取っていたことが報じられた。裏金問題は、岸田政権の中枢を直撃した形になり、与野党に衝撃が広がった。

この問題は、8日に開かれた衆参両院の予算委員会でも取り上げられ、立憲民主党は、事実関係を厳しく追及するとともに松野官房長官に辞任するよう迫った。

これに対し、松野官房長官は「派閥で事実関係の確認が行われている最中であり、刑事告発を受けて捜査が行われている。私の政治団体についても精査して適切に対応していきたい」と同じ答弁を何度も繰り返し、事実関係の確認を避けた。

また、松野官房長官は「引き続き所管する分野の責任を果たして参りたい」とのべ、辞任する考えのないことを強調した。岸田首相も「政府のスポークスマンとして、しっかりと発信してもらう」と更迭する考えのないことを強調した。

岸田首相は一連の裏金疑惑について「自民党全体の問題として危機感を持っており、一致結束して対応していく。その第一歩として、信頼回復への道筋が明らかになるまで、政治資金パーテイーを自粛すること決めた」とのべ、今後の状況をみながら、さらなる対応をとる考えを示した。

このように岸田政権の対応は、危機感を表明するものの、各派閥のパーテイーによる資金集めや収支の実態がどのようになっていたのか、問題の核心に触れる説明はみられなかった。これでは、国民の疑問や疑念に答えることはできない。

 官房長官などの進退、検察の捜査が焦点

問題は、これからの展開はどのようになるかだ。8日の集中審議を受けて、野党側は「松野官房長官は説明責任を果たせていない」として、辞任要求や、証人喚問要求を強めていく方針だ。

与党内からも「今のような答弁では、内閣の要としての役割が果たせていない」などの厳しい意見も聞かれ、辞任は避けられないとの見方も出ている。

また、松野官房長官のほか、高木国対委員長や、世耕参院幹事長などの疑惑が事実であれば政治責任が厳しく問われ、進退問題につながることも予想される。

国民世論の厳しい評価が示されると、閣僚や党役員の一部交代に止まらず、内閣改造が必要になるとの見方もある。

さらに、最も大きな焦点は、検察当局の捜査のゆくえだ。今の臨時国会が13日に閉会すれば、安倍派の会計責任者や、事務総長経験者の幹部、さらには多額の裏金を受領していた議員などの事情聴取が行われ、立件に向けての捜査が本格化するものとみられる。

このため、岸田政権は、政治資金問題への対応に加えて、年末に向けて新年度予算の編成作業も待ったなしの状態だ。この2つの問題をどのように乗り切っていくのか、岸田首相は早急な態勢立て直しを迫られている。(了)

★追記(9日22時)自民党安倍派の政治資金パーテイーをめぐる問題で、新たに安倍派座長の塩谷立・元文科相、萩生田光一・政務調査会長、西村康稔・経産相がパーテイー収入の一部について、キックバックを受けていたとみられることが明らかになった。これで、安倍派の「5人衆」と「座長」の幹部6人は、いずれも派閥から裏金のキックバックを受けながら、政治資金収支報告書に記載していない疑いがあることが明らかになった。

 

 

 

”巨額裏金疑惑”急浮上、早急に事実の解明を

自民党最大派閥の安倍派「清和政策研究会」が、巨額の裏金づくりを続けていた疑いが明らかになり、衝撃が広がっている。

安倍派幹部は詳しい説明を避けており、報道が先行する形になっているが、政治とカネの問題は「国民の政治不信を招く最大の元凶」だ。

岸田首相は自民党総裁として、安倍派幹部に事実関係の解明を急ぐよう指示すべきだ。また、自民党も今後の具体的な対応策を早急に明らかにする責任がある。

岸田政権と自民党の対応が不十分だと国民が受け止めた場合、”岸田政権離れ”がさらに進み、政権運営に深刻な影響が出てくることが予想される。

 キックバック総額、5年間で数億円か

今回の自民党の派閥による裏金づくりの問題は、短期間に急展開したので、わかりにくいという方も多いと思われる。最初にここまでの動きについて、NHKの報道を基にポイントを整理しておく。

▲今回の問題は、自民党の5つの派閥が行った政治資金パーティーの収入が、政治資金収支報告書に合わせて4000万円も過少に記載されているという告発を受けて、検察当局の新たな動きから始まった。東京地検特捜部が、派閥関係者から任意の事情聴取を行っていたことが、先月18日に明らかになったのだ。

▲自民党の派閥の政治資金をめぐっては、複数の派閥が、所属する議員の役職や当選回数などに応じて、パーティー券の販売ノルマを設定し、ノルマを超えて集めた分の収入を議員側にキックバックしていたことを示すリストを作成していたことも明らかになった。

▲このうち、最大派閥の安倍派は、議員側にキックバックした分の収入を、派閥の政治資金収支報告書に記載していなかったとされる。その総額は、去年までの5年間で数億円に上るという。

▲また、安倍派の複数の議員は、1000万円を超えるキックバックを受けていた疑いがあることも明らかになった。

以上のような事実関係から、安倍派は、政治資金パーティーで集めた資金の中から一定額を、裏金として所属議員にキックバックする運用を組織的に続けてきたものとみられている。

こうしたキックバックは、二階派「志師会」でも行われていたという。自民党関係者に聞くと「派閥の政治資金パーティーは、実際には個別の議員が売りさばいており、派閥は全体状況を正確に把握できていないのが実状だ」と語る。

また、「不明朗な資金処理は、安倍派だけでなく、他の派閥でも同じようなことが行われている」として、自民党にとって根の深い問題であることを認める。

 公開が基本、政治改革否定の悪質行為

さて、こうした自民党派閥の「政治とカネ」の問題をどのようにみるか?政治資金規正法は「政治資金の流れ、収支を広く国民に公開し、国民の不断の監視と批判に委ねること」を基本にしている。

この法律は「ザル法」などと揶揄されてきたが、今回の問題はその”ザル法”すらも守らず、抜け道をつくって裏金を運用しているのだから、極めて悪質だ。

また、政治改革の問題とも関係する。ロッキード事件をはじめ、リクルート事件、東京佐川急便事件などの政治スキャンダルが相次いだのを受けて、90年代前半に新たな選挙制度とともに、政党助成制度の導入など政治改革関連法を成立させた。

政治腐敗を防ぐことをねらいに、国民1人当り250円、総額およそ300億円の税金を初めて政党に投入・助成することになり、政治の浄化が進むはずだった。

ところが、今回の裏金づくり疑惑によって、一連の政治改革とこれまで30年余りに及ぶ取り組みを台無しにするような行為が明らかになったことになる。

こうした背景としては、2000年の森政権以降、小泉政権、安倍政権など清話会を中心にした政権が続いたこと。特に「自民1強・野党多弱」体制のもとで政治のよどみと驕りが、不明朗な政治資金の運用へとつながったのではないか。特に自民党の歴代総裁をはじめ、派閥の幹部や党役員などの責任は重い。

 岸田首相、事実解明へ指導力発揮は?

こうした事態に対して、岸田首相や安倍派幹部の対応はどうか。岸田首相は、訪問先のUAE=アラブ首長国連邦で記者団に対し、「国民に疑念を持たれていることは、たいへん遺憾だ。党としても対応を考えていく」とのべた。但し、具体的な対応への言及はなかった。

安倍派の座長を務める塩谷・元文科相は30日、所属議員にパーティー券の販売ノルマを設けていたことを明らかにしたが、その日のうちに発言を撤回した。

安倍派で過去5年の間に派閥の事務総長を務めた幹部のうち、松野官房長官は1日の記者会見で「政府の立場で答えることは差し控える」とかわした。西村経産相、高木自民党国対委員長も、事実関係について口をつぐんだままだ。

政治とカネの問題は、国民の政治不信を招く最大の元凶だ。岸田首相は自民党総裁として、安倍派をはじめとする各派閥に対して、事実関係を早急に調査するよう指示するとともに、自民党としての具体的な対応策を明らかにすべきだ。

一方、岸田首相自身も派閥や政治資金をめぐって、問題を抱えている。去年の政治資金の収支報告が先日明らかになったが、岸田首相は収入が1000万円以上の「特定パーティー」を年に7回も開催し、1億4800万円もの資金を集めていた。

2001年に閣議決定された「国務大臣、副大臣及び政務官規範」によると「国民の疑惑を招きかねない大規模なパーティーの開催は自粛する」と定めている。歴代首相の中で、首相自ら「特定パーティー」を頻繁に開催するのは異例で、本来は自粛すべきではないかと考える。

また、自民党出身の歴代首相は、就任時には派閥の会長を退いてきた。ところが、岸田首相は今も出身派閥・宏池会の会長を続けており、党内からも「派閥とは一定の距離を置くべきだ」と指摘する声は多い。

いずれにしても自民党総裁である岸田首相が、派閥の不透明な資金集めの解明に指導力を発揮できるかどうかが、問われている。

 検察の捜査のゆくえと政権の対応が焦点

これからの焦点は、検察当局が立件に向けて捜査に着手するかどうかが1つ。東京地検特捜部は、全国から応援検事を集めて態勢を拡充しているとの情報もあり、臨時国会が閉会する13日以降、本格的な捜査に踏み切る可能性が高いのではないかとみている。

もう1つは、岸田政権の対応だ。安倍派の幹部は、政権の主要ポストを務めており、今後、政権運営にさまざまな影響が出てくるものとみられる。

その際、岸田政権は「政治とカネの問題」に真正面から向き合い、事実の解明などに積極的な姿勢で取り組まないと政権運営が困難になるのではないか。年内が最初のヤマ場で、岸田首相の決断と対応力が試される。(了)

★追記・参考情報(4日21時)安倍派では、キックバックを受けていた所属議員が、数十人に上るとみられることが新たに明らかになった。このうち、複数の議員は、去年までの5年間に1000万円を超えるキックバックを受けていた疑いがある。

混迷深まる岸田政権、復元力は?

岸田内閣の支持率下落に歯止めが、かからない。報道各社の世論調査によると、危険水域とも言われる30%ラインを下回り、与党内では、このままの状態が続けば、政権運営が行き詰まるのではないかと懸念する声も聞かれる。

一方、政府の新たな経済対策の裏付けとなる補正予算案は、24日に衆議院の予算委員会と本会議で可決され、参議院へ送られた。参議院予算委員会で審議が続けられ、月内には成立する見通しだ。

問題は、急落している支持率が回復し、政権が再び力を取り戻すことができるかどうかだ。岸田首相の国会論戦での対応などから判断すると、復元への道はかなり険しいのではないかというのが、率直な印象だ。なぜ、こうした結論になるのか、以下、説明したい。

 記録的な低支持率、岸田政権の危機

最初に報道各社が行った11月の世論調査で、岸田内閣の支持率を確認しておきたい。今月中旬にまとまったNHKの調査(11月10日~12日)では、岸田内閣の支持率は29%で、節目の30%ラインを下回った。

続いて、下旬にまとまった読売新聞の調査(11月17日~19日)では、支持率は24%、朝日新聞の調査(11月18,19日)では25%まで下落した。

こうした支持率は、いずれも岸田政権発足以降、最も低い水準となった。また、2012年12月に自民党が政権復帰して以降と比べても、この11年間で最も低い、記録的な低支持率になっている。

この原因だが、岸田政権が打ち出した「減税と現金給付」を柱とした経済対策に対して、「評価しない」との受け止め方が6割以上にも上ったことが大きい。

また、副大臣など「政務三役」の相次ぐ不祥事で、3人が辞任に追い込まれたことも影響しているとみられている。

さらに、政府の減税を評価しない理由を聞くと「選挙対策に見えるから」が最も多く、首相や政権への強い不信感が読み取れる点も大きな特徴だ。

 予算委論戦、立て直しへの姿勢見えず

問題は、支持率急落が一時的なものか、根深い要因によるものかだ。そして、岸田首相がこうした世論の動向を察知して、何らかの対応策を打ち出すのかどうか、予算委員会での岸田首相の答弁を注目して見ていた。

総額13兆円の補正予算案が20日に国会に提出されたのを受けて、衆院予算委員会の論戦は翌日から始まった。

立憲民主党など野党側は「政府の所得税減税などが実施されるのは来年夏のボーナス時で、遅すぎる。それよりも幅広い世帯に対象を広げて現金給付を急ぐべきだ」と追及するとともに「減税は1回限りなのか」などと攻め立てた。

これに対して、岸田首相は「住民税の非課税世帯には、7万円の追加給付を行う。一方、賃上げとデフレ脱却の流れを止めてはならないので、一時的な下支え措置として定額減税を用意した」などと従来の答弁を繰り返した。

こうした回りくどい答弁では、長引く物価高に苦しむ国民に、政府の対策は響かない。また、所得税減税の場合、富裕層を除く所得制限を行うのかどうか具体的な制度設計についても踏み込まなかった。

政務三役の辞任についても、岸田首相は「任命責任を感じる」などいつもながらの答弁に終始した。国民の政権離れへの危機感や、政権の態勢立て直しへの強い思いなどは、岸田首相の答弁からは感じられなかった。

 難題対応の結論先送り、政権へ逆風

以上は岸田政権の当面の課題をみてきたが、今回の記録的な支持率低下の背景には、これまでの「岸田首相の政治姿勢や政権運営に対する疑問や不満」が大きく影響しているのではないかと感じる。

具体的には、岸田首相はこの1年「政策の大転換」と位置づけて、防衛力の抜本強化や、異次元の少子化対策を次々に打ち出す一方、防衛増税の実施時期や、少子化対策の財源の具体化については先送りを続けてきた。

岸田首相は、先送りはしていないと反論するが、「防衛増税」を「防衛財源確保の税制措置」と別の表現を使うなど、増税や国民負担の増加など国民に不人気な政策について、説明することを避けてきたのが実態だ。

このため、岸田首相が定額減税を打ち上げてもその財源はどのように確保するのか。選挙を乗り切れば、増税や社会保険料の上乗せなどの措置を取るのではないかと国民は見透かしているのではないかと思われる。

支持率低下の要因として、政界関係者の間では、岸田首相の発信力の弱さや説明不足などを指摘しているが、問題の根本は、政権が「財源などの核心部分について、結論を出さずに先送りしていること」にあるのではないかと考える。

別の表現をすれば「国民に不人気な政策であっても、結論を明確に打ち出すこと」。そのうえで「国会論戦を通じて説明し、国民を説得すること」。その取り組みがあまりにも弱かったのではないか。そうした首相の姿勢に対する疑問や不満が、逆風となって岸田政権に吹き出しているとみている。

 実績を上げられるか、復元力には弱さも

「岸田内閣の支持率が改善する展望はあるか」、「そのためには何が必要と考えるか」、自民党の長老に尋ねてみた。

「これほど政権への風当たりが厳しいと、小さくてもいいから、1つでも実績を上げること。それにより、国民の信用回復につなげることが必要だ。政権への支持が回復しなければ、党の総裁選で再選は難しいだろう。ましてや、解散などできるはずがない」と指摘する。

今の国会では、政府の総合経済対策をはじめ、旧統一教会の財産保全法案をめぐる野党との調整、マイナンバーカードの総点検を受けて、健康保険証の廃止の扱いなどの懸案を抱えている。

また、政権の新た火種として、自民党の5派閥が政治資金パーティー収入を政治資金報告書に記載していなかったことが明らかになった。こうした多くの懸案、問題の中から、1つでも実績を挙げることができるかどうかが試されている。

一方、岸田内閣の支持率をNHK世論調査でみると、支持率を不支持率が上回る「逆転状態」に陥ると、回復するまでに5か月もかかっている。安倍政権は逆転状態が少なかったことに加えて、いったん逆転状態になっても2か月、または3か月で回復し、復元力が強い政権だった。

これに対して、岸田政権は今年7月以降、既に5か月、逆転状態が進行中で、復元力の弱い政権と言える。それでも復元力を発揮するためには、国の将来にとって必要な政策は、不人気でも結論を示して、国民を説得する取り組みが必要だ。

岸田政権は、年末までに難題に結論を出していくのか、それともあいまい路線で乗り切りをめざそうとするのかどうか。岸田首相の選択と決断が、新年の日本政治の行方を大きく左右することになる見通しだ。(了)