“逆風強まる岸田政権”支持率30%割れ

岸田内閣の支持率が下落し、節目の30%ラインを割り込んだ。11月のNHK世論調査によると岸田内閣の支持率は、10月調査から7ポイント下がって29%になった。不支持率は8ポイント増えて52%、初めて5割を超えた。

内閣支持率が30%を下回るのは、菅政権が退陣する1か月前、2021年8月に同じ29%を記録したとき以来だ。2012年に自民党が政権復帰して以降をみても、菅政権と今回の岸田政権の支持率が最も低い水準になる。

今回の岸田政権の場合、政権浮揚の切り札として、減税と給付を盛り込んだ大型の経済対策を決定した直後だけに政権に及ぼすダメージは大きい。

端的に言えば、国民が喜ぶと思って5兆円の巨費を投じる減税と給付策が極めて不評で、逆に支持率が急落するという異例の結果を招いている。

なぜ、異例の支持率下落となったのか。政権への影響と今後の動きはどのようになるのか、世論調査のデータも分析しながら探ってみたい。

 政策の妥当性と政権への不信感も

まずは、岸田内閣の支持率が下落した理由・背景からみていきたい。そのためにNHK世論調査(11月10日~12日実施)の主なポイントを整理しておく。

▲世論調査では、政府の新たな経済対策のうち、物価高に対応するため、所得税などを1人当たり4万円減税し、住民税の非課税世帯に7万円を給付する方針について、どのように評価するかを質問している。

◆「評価する」は36%に止まり、◆「評価しない」が59%で大幅に上回った。

▲次に、評価しない理由は何か。◆「選挙対策に見えるから」が38%で最も多く、◆「物価高対策にならないから」30%、◆「国の財政状況が不安だから」24%、◆「実施時期が遅いから」4%となった。

逆に、評価する理由は◆「家計が助かるから」40%、◆「経済の再生につながるから」23%、◆「税収増加分は還元すべきだから」23%などと続いた。

▲岸田首相は一連の経済対策を通じて、来年夏には所得の伸びが物価上昇を上回る状態にしたいとしているが、これに期待するかを尋ねている。

◆「期待できる」は19%、◆「期待できない」は67%で、3人に2人の割合だ。

▲こうしたデータを基に岸田政権の経済政策と支持率下落の原因をどうみるか。個人的な取材を加味して考えると、次のような点を指摘できる。

▲国民の多くは、政府の経済対策を冷めた目で見ていることがうかがえる。政府の減税政策を「評価しない」とする人が6割近くと多いことに現れている。

また、「何を目的にしているのかはっきりしない」、「物価高対策としての妥当性に疑問」を抱いている人が多いことも読み取れる。

物価高対策であれば「給付」の方が「減税」よりも即効性があり、効果も大きいと考えるからだ。自民党の税調幹部の中にも同様の考え方がある。

これに対して、岸田首相の説明は、最初は物価高対策を強調し、次いで賃上げ・デフレ脱却に重点が移り、さらに子育て支援のためと政策のねらいが次々に変わり、「政策の目的、目標がはっきりしない」という問題点がある。

▲また、政府の減税政策などを評価しない理由として「選挙対策に見えるから」が最も多かった。これは「岸田首相の減税政策は、苦戦が続いていた衆参補欠選挙のテコ入れ」や「衆議院の解散ねらいの思惑があるのではないか」といった疑念や不信感が背景にあるためではないかと思われる。

▲さらに岸田首相の減税政策の打ち出し方をみると、与党に対して突如、減税検討の指示を出す一方、国会での自らの所信表明演説では、直接言及しないといった「チグハグな対応、迷走」が目立った。これでは、国民の理解や支持が広がらない。(詳しくはブログ10月27日号「迷走、所得税減税」)

▲一方、9月に行われた内閣改造人事で新たに起用された「政務三役の不祥事」が相次いで表面化した。山田太郎・文部科学政務官、柿沢未途・法務副大臣、神田憲次・財務副大臣の3人が3週間足らずの間に辞任・更迭に追い込まれた。

去年は「政治とカネの問題」などの問題で、閣僚4人が辞任する「辞任ドミノ」に追い込まれた。今年は政務官、副大臣レベルまで不祥事が広がったことも、政権の支持率低下に追い打ちをかけたとみられる。

このように物価高・経済対策そのものの内容に加えて、岸田政権の政策決定や政権運営のあり方についても、世論の側の疑問や不信感が重なって、支持率急落を引き起こしていると言えるのではないか。

 自民支持層離れ、政権の求心力も低下

そこで、政権への影響はどうか?結論を先に言えば「政権へのダメージは、大きい」とみる。既に政権の支持基盤へ影響が現れているからだ。

具体的には「自民支持層の支持離れ」が起きている。「自民支持層のうち、岸田内閣を支持する」と答えた人の割合は、岸田内閣の場合、5月は7割台半ばと高かったが、10月は6割台半ば、今月は5割台半ばまで大幅に減っている。

一方、最も大きな集団である「無党派層のうち、岸田内閣を支持する」と答えた人の割合は、10%をわずかに上回る程度だ。「支持しない」と答えた割合は7割近くにも達する。

岸田内閣は元々、無党派層の支持は少なかったが、2012年に自民党が政権に復帰して以降、今月は最も低い水準にまで落ち込んでいる。

無党派層からの支持を一定程度、得られないと普段の政権運営だけでなく、特に衆院解散・総選挙の際には勝敗を大きく左右することになる。

一方、年代別にみても20代から60代まで、さらに70歳以上のすべての年代で、「支持する」と答えた人より、「支持しない」と答えた人が上回っている。「政権の求心力の低下」が浮き彫りになっている。

 政権の力を取り戻せるか?年末がヤマ場

それでは、今後の政権運営や政局の見通しはどうなるだろうか。前回の衆院選挙から2年が経過し、与野党とも解散・総選挙のゆくえに神経をとがらせている。

今月9日から10日にかけてメデイア各社は「岸田首相は、年内解散を見送る意向を固めた」と大きく報道したが、既にみてきたように岸田政権は年内解散に打って出られるような状況にはなかった。

それよりも岸田政権は、国民の多くの支持を失い、内閣支持率は危険水域の20%台に落ち込んだという新たな段階を迎えているとみた方が実態に近いと思う。

但し、それでも野党は依然としてバラバラ状態で、政権交代が直ちに実現するような状況にはない。自民党内も岸田首相に代わる有力なリーダーは見当たらない。

このため、岸田政権が直ちに崩れるような状況にはないが、来年秋の自民党総裁任期満了まで1年を切ったことの意味は大きい。

これまで岸田首相の再選はかなり濃厚だったが、世論の支持率の低迷がこのまま続けば、総裁選の情勢は混沌としてくることが予想される。「次の衆院選挙を戦える顔」として通用するのかという声が出てくる可能性があるからだ。

当面は、新たな経済対策の裏付けとなる補正予算案がポイントになる。今月20日に国会に提出され、成立はほぼ間違いないが、問題は、与野党の論戦を通じて、減税対策などの内容について、国民の支持が広がるかどうかだ。

また、年末の予算編成と税制改正に向けて、先送りされてきた防衛増税の実施時期や、少子化対策の具体的な財源の扱いも改めて焦点になる。

さらに、大幅な円安が進む中で、日本経済や金融政策のかじ取りをどうするのか、国民は中期の構想と展望を求めている。

いずれも難題だが、岸田首相が強いリーダーシップを発揮して懸案を前進させることができるのか。そして、内閣支持率を回復して力強い政権となるのか、それとも低迷状態が続くことになるのか、年末が大きなヤマ場となる見通しだ。(了)

 

 

 

”減税、政権運営険しい道”岸田政権

政府は2日、所得税の減税や低所得世帯への給付などを盛り込んだ新たな経済対策を決定した。経済対策の規模は、17兆円台前半になる見通しだ。

経済対策の決定を受けて、岸田首相は記者会見で「最優先はデフレからの完全脱却だ。来年夏の段階で、賃上げと減税を合わせた国民所得の伸びが物価上昇を上回る状態を確実に作りたい」と強調した。

経済対策をめぐっては、野党側は「物価高への対応にスピード感が無く、対策の効果も期待できない」と厳しく批判しているほか、自民党内にも岸田首相が強い意欲を示す所得税減税に疑問や不満がくすぶる。

国民は、新たな経済対策の内容をどのようにみたらいいのか。また、岸田政権の政権運営はどのような展開になるのか、探ってみたい。

 所得税減税の評価は?与党内にも異論

さっそく、新たな経済対策からみていきたい。ポイントは、岸田首相が強い意欲を示し、政権の目玉政策と位置づける所得税減税をどのように評価するかだ。

政府方針では、所得税と住民税を合わせて1人当たり4万円を差し引く定額減税を実施するとともに、住民税が非課税となっている低所得世帯に7万円を給付するのが主な内容だ。両方でおよそ5兆円程度の規模になる見通しだ。

政府が所得税減税を打ち出したは98年の橋本政権の定額減税と、その後継の小渕政権の定率減税以来だが、減税措置は結局、2007年まで9年間続いた。

この減税政策の評価だが、野党側は「税制改正に時間がかかり、実際に減税されるのは来年6月、遅すぎる」と批判し、「それよりも即効性のある給付で行うべきだ」と主張している。

自民党内にも「減税は一度実施すると止めるのが難しい。景気対策としての効果も給付の方が大きい」と異論も多い。また、「橋下政権時代は山一証券などが破綻した不況の時期で、コロナから回復した今は状況が違う」などの不満もくすぶる。

また、今回は減税と給付が混在することに加えて、支給額が減税の場合は1人当たり4万円で、家族数に応じて増える一方、給付は1世帯当たり7万円と異なり、公平さが担保できないといった問題点が指摘されている。

さらに、岸田首相をはじめ政府側は、減税は一回だけに止める一方、幅広い減税にするため、所得制限は避けたい考えだ。

これに対して、自民党内からは、バラマキ批判を避けるため、年収2千万円以上の高額所得者は対象から外す案や、減税は一回限りとすべきではないといった意見もあり、党の税制調査会で制度設計を急ぐことにしている。

政権の政策決定に批判、世論も厳しい視線

こうした所得税などの減税をめぐっては、与党内には、政権の政策決定のあり方を問題視する声も出ている。

具体的には、岸田首相が「税収増の国民への還元」を図るとして、新たな経済対策のとりまとめを与党に指示したのは9月26日だ。

その後、岸田首相から、唐突に所得税減税検討の指示が出されたのが10月20日で、苦戦が伝えられていた衆参補欠選挙の投票日の直前だった。

このため、「減税策は補欠選挙へのテコ入れではないか」、あるいは「低迷する政権の浮揚や、年内解散・総選挙をねらったものではないか」といった憶測も飛び交い、政権の対応のまずさを指摘する声は党のベテラン議員からも聞かれる。

一方、国民の岸田政権の経済対策に対する視線も厳しい。報道各社の10月の世論調査では、政府の新たな経済対策について「期待する」は4割程度に止まり、「期待しない」が6割程度でほぼ共通している。

直近の日経新聞の世論調査(10月27~29日実施)によると政府の経済対策について「期待する」は37%、「期待しない」は58%だった。物価対策としての所得税減税については「適切とは思わない」が65%で、「適切だと思う」の24%を大きく上回った。

岸田内閣の支持率は33%で、前回調査から9ポイント低下し政権発足以来、最低の水準だ。不支持率は8ポイント増えて59%だった。政権の対応を厳しい視線でみていることがうかがえる。

 補正予算審議と中期の将来展望がカギ

さて、岸田政権の今後の政権運営はどのようになるか。まず、新たな経済対策を受けて、政府は裏付けとなる補正予算案の編成を進めており、今月下旬に国会へ提出する見通しだ。一般会計の規模は13兆1000億円で、財源の多くは借金・国債に頼ることになる。

国会は与党が圧倒的に多数なので、原案通り可決・成立する見通しだが、予算審議を通じて、世論の反応が注目される。先の日経の調査と同じような結果になると減税が評価されず、内閣支持率を引き下げることになり、政権にとっては思わぬ展開となる可能性もある。

また、今の国会は、旧統一教会の財産保全のための法案や、11月末が期限のマイナンバーカードの総点検と健康保険証廃止の扱いをどうするかという問題も抱えている。

さらに、年末の予算編成や税制改正を控えて、先送りになっている防衛増税の実施時期や、少子化対策の具体的な財源が焦点になる。岸田首相は、減税や児童手当の拡充など国民受けする政策には積極的だが、増税や国民負担増の問題は避けようとする姿勢がうかがえる。

岸田政権の減税に対して、世論の評価が低い背景としては「減税の後には、増税と負担増が待ち受けているのではないか」といった将来への不安や、政治不信があるのではないか。

したがって、岸田政権は当面の対策だけでなく、向こう3年から5年程度の日本経済や金融政策のかじ取りをどうするのか、中期の将来展望を明らかにしないと政権への不信感はぬぐえないのではないかと思う。

自民党の長老も「岸田首相に必要なことは、政権の目標をわかりやすく、はっきり示すこと。将来の展望を国民に率直に語りかけることが必要ではないか」と指摘する。

岸田首相にとっては、今月下旬に予定される衆参の予算委員会の質疑などを通じて、政府の経済対策について世論の支持が広がるかどうか、今後の政権運営の分水嶺になる。そして、来年夏の減税の実施時点で、日本経済がデフレ脱却の軌道に乗せられるのかどうか、険しい道が続くことになりそうだ。

最後に衆院解散・総選挙について触れておきたい。これまでのブログで触れてきたように経済対策のとりまとめが迷走し、内閣支持率も低迷している今の状況では、年内解散の可能性はほぼなくなったと言えるのではないか。

岸田首相も12月の政治日程として◆今月末からドバイで開かれるCOP28=国連の気候変動枠組み条約会議への出席、◆8日から長崎で開かれる国際賢人会議、◆16日から3日間、東京で開催されるASEAN特別首脳会議などの日程調整を進めている。

岸田首相にとって、懸案の解決で「政権の実績」を上げることができるかどうか、衆院解散の前提条件になる。(了)

“迷走 所得税減税”岸田政権

今月20日に召集された臨時国会は、岸田首相の所信表明演説と、これに対する各党の代表質問が3日間にわたって行われ、物価高と経済対策を中心に激しい議論が交わされた。

このうち、岸田首相が強い意欲を示している所得税減税については、野党の批判だけでなく、身内の自民党からも「何をやろうとしているのか全く伝わらなかった」と苦言が示され、党内に不満が広がっていることが浮き彫りになった。

今回の所得税減税をめぐって、岸田首相は与党の幹部に対して検討を指示しながら、国会では減税への言及を避けるなど対応がちぐはぐで、迷走気味だ。政府の減税政策をどのようにみたらいいのか、国会論戦などを踏まえて考えてみたい。

 野党は批判、自民からも異例の苦言

各党の代表質問で質問が集中したのは「物価高と経済対策」だったが、どのような方向で取り組んでいくのか、各党の議論はかみ合わなかった。

その要因の1つに、岸田首相の対応がある。岸田首相は所信表明演説で「経済、経済、経済」と連呼し、経済を重点に取り組む姿勢を強調する一方、その実現に向けての具体策については言及を避けた。

具体的には「成長による税収の増収分の一部を公正かつ適切に還元する。還元措置の具体化に向けて、与党の税制調査会における早急な検討を指示する」とのべただけで、所得税減税に直接言及する表現はなかった。

これに対して、野党第1党の立憲民主党の泉代表は「政府の経済対策は遅すぎる。7月、8月でなく、なぜ、この時期まで遅れたのか。国民が望むのは、今年中の『給付、給付、給付』だ」として、6割の世帯に3万円のインフレ手当の給付を求めた。

日本維新の会など他の野党は、社会保険料の軽減や消費税率の引き下げなどそれぞれの党の主張を展開して、議論は平行線をたどった。

代表質問でもう1つ目立ったことは、自民党から岸田首相の減税政策に対して、厳しい指摘が飛び出したことだ。

自民党の世耕参議院幹事長は「『還元』という言葉がわかりにくかった。世の中に対して、何をやろうとしているのか全く伝わらなかった」と厳しく指摘した。

また、「岸田内閣の支持率は低空飛行、補欠選挙の結果は1勝1敗。支持率が向上しない最大の原因は、国民が期待するリーダーとしての姿が示せていないということに尽きるのではないか」と岸田首相の政権運営についても苦言を呈した。

 国会対応、政策の組み立て方も課題

今回の経済対策について、政権の対応を点検してみると、岸田首相が「税収増を国民に適切に還元すべきだ」と最初に言及したのは9月26日の閣議で、10月末をめどに新たな経済対策を策定する考えを表明した。

その後、自民党内から所得税減税を求める声が上がったが、岸田首相は明確な考え方を示さず、衆参補欠選挙を直前に控えた10月20日になって、ようやく与党の幹部に所得税減税の検討を指示した。

一方、23日は臨時国会で首相の所信表明演説が行われた。通常は、政権がその国会で成立をめざす主要政策について表明するが、今回は冒頭に触れたように所得税減税などについて、直接言及する表現はなかった。

世耕参議院幹事長が苦言を呈したのは、こうした政権の対応の遅さや、首相の指導力が発揮できていないことへの不満やいらだちがあるものとみられる。

岸田首相の立場に理解を示す自民党幹部も「政権の目標の設定や、そのための政策の組み立て方を改めないと政権運営は安定しないのではないか」と指摘する。

以上、みてきたように経済対策のとりまとめを打ち出した9月26日の時点で、最初から所得税などの定額減税の検討を含めて指示していれば、迷走することはなかったのではないか。首相自らの主導権の発揮にこだわったのではないかとの説や、年内解散の思惑も関係していたのではないかとの見方も聞く。

 4万円定額減税、7万円給付で調整へ

こうした中で、岸田首相は26日、政府・与党政策懇談会を開き、税収増の還元策として所得税と住民税の定額減税とともに給付を行う考えを明らかにし、与党の税制調査会を中心に具体的な制度設計を行うよう指示した。

政府側から示された案では、◆1人当たり所得税3万円と、住民税1万円の合わせて4万円の減税を行う。◆所得の低い人への支援策として、住民税の非課税世帯に7万円を給付し、既に決定した3万円と合わせて10万円になるとしている。

◆政府としては、来月2日に経済対策を決定したうえで、非課税世帯への給付は補正予算案の成立後、速やかに行うとともに、減税は必要な法改正を経て、来年6月に実施したい考えだ。

政府案によると過去2年間に増えた税収の総額は、所得税が3.2兆円、個人住民税が2200億円で、これにおよそ1兆円の給付金を加えると、還元総額は5兆円規模になる見通しだ。

こうした政府の方針に対して、自民党内では、減税は実施まで時間がかかることに加えて、給付金に比べると物価高への即効性が低いとして、効果を疑問視する見方もある。

また、政府は所得制限を設けない方針に対し、自民党内には、高額所得者は対象から外すべきだという意見もあり、調整が必要になる。

 減税、先送り財源含め全体像の議論を

国会は27日から衆議院予算委員会に舞台を移して、岸田首相と与野党の委員の間で、一問一答方式の詰めた議論が繰り広げられる見通しだ。

まず、物価高騰対策として、支援を減税で行うのがいいのか、給付金として支援する方が効果的なのか、支援の方法、対象、規模などが焦点になる。

また、政府の減税方針をめぐっては、税収増を減税の財源として使うのが適切なのか、大量の国債を発行している財政の健全化に当てるべきなのかといった点も議論になりそうだ。

さらに、防衛力の抜本強化に伴う増税の実施時期や、少子化対策の具体的な財源については、年末の予算編成まで先送りのままだ。

こうした先送りの政策を含めて、主要政策の予算の規模や財源の見通しなどの全体像を明らかにして、議論を深めることが必要だ。

岸田首相が大型の減税政策を打ち出したのは、支持率が低迷する政権を浮揚させる思惑が働いているとの見方が与野党の関係者から聞かれる。また、与野党双方とも、次の衆院選を意識して、国民受けする歳出増の政策が目立つ。

物価高で家計のやりくりに追われる国民は、政府の支援策への関心は高い。一方で、将来、増税や負担増の形で跳ね返ってこないか、影響を見極めて政策を判断しようとする姿勢に変わりつつあるように感じる。

政府の新たな経済対策と裏付けとなる補正予算案の内容が、どのような形になるのか。衆参両院の予算委員会の審議などを通じて、国民は岸田政権の減税政策をどのように評価するのか、今後の政治のゆくえを左右することになりそうだ。(了)

臨時国会開会 ”解散より、懸案解決を”

臨時国会が20日召集され、先月内閣改造を終えた岸田政権と野党側との間で、物価高・経済対策を中心に激しい論戦が交わされる見通しだ。

今度の国会は衆参統一補選の最終盤に召集されるため、岸田首相の所信表明演説は初日の20日ではなく、統一補選の投開票が終わった後の23日に行われる。これに対する各党の代表質問は24日から始まり、会期は12月13日までの55日間だ。

また、細田衆院議長が体調不良で辞任し、後任に額賀元財務相が20日に選ばれる運びだ。このように国会冒頭の日程は、通常とは異なる形になる。

さて、この臨時国会をめぐって与野党の間では年内解散説が消えないが、内外に山積する課題・難題を考えると衆議院を解散して2か月近くも政治空白を作るような状況にはないと思う。

このため、”衆院解散をめぐる駆け引きより、懸案解決に向けた政策論争”を徹底して行ってもらいたい。実際にどのような展開になるか、この国会の焦点を考えてみたい。

 新閣僚の資質、政権の政治姿勢は

今度の国会は、岸田首相が9月に行った内閣改造・自民党役員人事の後、初めて開かれる国会だけに、野党側は衆参予算委員会などの場で、初入閣の11人を中心に閣僚としての考え方や資質などを追及していく方針だ。

このうち、加藤鮎子・こども政策担当相は、自らの資金管理団体が法律の上限を超えるパーテイー券250万円を受け取っていたことが明らかになった。同じように「政治とカネの問題」を抱える閣僚がいることから、政治資金や閣僚の資質などをめぐって激しいやり取りが交わされる見通しだ。

また、自民党が去年行った点検(調査)で、旧統一教会と接点があった新閣僚4人がいることから、野党側はこうした点についても取り上げる構えだ。

さらに、木原防衛相が今月15日、衆院長崎4区の補欠選挙の応援で、自衛隊の政治利用とも受け取られる演説を行い、その後、発言の一部を撤回した問題についても取り上げ、責任を追及することにしている。

岸田政権は今月4日に発足から2年が経過したことから、野党側は、岸田首相のこれまでの政権運営や政治姿勢についても質すことにしている。

 物価対策と経済全体の基本方針を

次に政策面では、物価高騰が続く中で、物価対策と経済政策をめぐる議論が大きな焦点になる見通しだ。岸田首相は新たな経済対策を10月中にとりまとめるよう指示するとともに、裏付けとなる補正予算案を提出する方針だ。

その経済対策の中では、ガソリンなどの燃料油と電気、ガスの料金を下げる負担軽減措置の継続をはじめ、持続的な賃上げに向けて、賃上げした企業に対する減税制度の拡充、低所得世帯への支援策などが盛り込まれる見通しだ。

一方、岸田首相は「税収増を国民に適切に還元する」との考えを示している。これは「期限付きの所得減税」に踏み切る意向とみられている。経済対策がまとまるのは10月末か11月はじめ、補正予算案を国会に提出するのは11月下旬になる見通しだ。

国民が知りたいのは、当面の物価高対策だけでなく、「経済全体のかじ取り」をどのように行っていくのか、「岸田政権の基本方針」だ。

消費者物価は3%以上の上昇が12か月連続、実質賃金のマイナスは17か月も続いている。1ドル=150円寸前の大幅な円安は物価上昇の要因だが、金融緩和はこのまま続けるのか。大型補正予算を組んだ場合、インフレの加速にならないのか、知りたい点は多い。

国の財政については、コロナ対策もあって補正予算はこの3年間、73兆円、36兆円、31兆円と異例の規模が続いた。コロナ感染が収まった今、補正予算案は通常の数兆円規模に戻すのか、それとも大型補正を続けるのかの問題もある。

さらに、所得減税の実施に踏み切る場合は、年末に結論を出す予定の防衛増税や、少子化対策の負担増との関係はどうなるのか「減税と負担増との関係」がさっぱり、わからない。

つまり、岸田政権の中期の経済運営は、何を重点目標に設定して、どのような政策を組み合わせて実施するのか「経済政策の全体像」を提示してもらいたい。

そのうえで、与野党がそれぞれの党の方針も交えて議論を徹底して行うことが、この国会の役割であり、政治の責任だ。

 旧統一教会の財産保全などの懸案も

このほか、去年秋の国会から持ち越してきた懸案も多い。まずは、旧統一教会の問題だ。政府が教団に対する解散命令を請求したのを受けて、立憲民主党や日本維新の会は被害者の救済にあてるため、教団の財産を保全する法案を国会に提出する方針だ。

これに対して、自民、公明の与党側も対応を検討していく考えだ。今後、与野党が協調して法案を国会に提出することも予想され、臨時国会の焦点の1つになる見通しだ。

また、先の通常国会で問題になったマイナンバーカードをめぐるトラブルについて、政府は11月末までに総点検を行い、その結果を12月上旬に報告する予定だ。健康保険証を来年秋に予定通り廃止するのか、それとも廃止の延期を行うのか、議論が再燃することになりそうだ。

 解散より、内外の難題に向き合う国会を

この臨時国会をめぐって、与野党の間では「岸田首相は、年内解散を考えているのではないか」との憶測が飛び交った。今でも11月下旬に補正予算を提出、短期間で成立させた後、年末解散があるのではないかとの見方は消えていない。

個人的な見通しを言えば、岸田内閣の支持率と自民党の政党支持率も低迷している今の状況では、勝敗面からも解散の確率は極めて低く、年末解散はないとの見方をしている。

また、ロシアによるウクライナ侵攻の長期化に加えて、中東のイスラエルとハマスの軍事衝突の激化で、世界の平和と民主主義が危機的状況を迎えているときに、解散・総選挙で政治空白を生むような選択は取るべきではないと考える。

端的に言えば、この臨時国会は「解散よりも、内外の難題に向き合い、一定の結論を出す国会」にすべきだ。こうした視点で国民の多くが、岸田政権と与野党の対応を評価し、近い将来行われる選挙に活かしてもらいたい。(了)

 

“岸田政権浮上せず”10月世論調査

岸田政権が発足してから10月4日で、丸2年が経過した。岸田首相は先月13日に内閣改造・自民党役員人事を行って体制整備を図るとともに、新たな経済対策のとりまとめを指示し、3年目の政権運営を進めている。

来年秋の自民党総裁選まで1年を切り、前回衆院選挙から10月末には折り返し点を迎える。与野党双方からは「新たな経済対策で国民の支持が広がれば、岸田首相は年内の衆院解散・総選挙に踏み切るのではないか」との見方が聞かれる。

内閣改造後の岸田内閣の支持率に与野党の注目が集まっているが、NHKの10月の世論調査の結果がまとまった。岸田内閣の支持率は先月と同じ36%のままでピクリとも動かず、政権の浮揚効果は見られなかった。

岸田政権の新たな経済対策についても「期待していない」が半数を超え、政権を取り巻く情勢は好転の兆しがみられない。20日からは臨時国会が幕を開けるが、年内の衆院解散・総選挙への道は狭まりつつあるようにみえる。

不支持逆転続く、政策に不満過去最高

さっそく、NHKの世論調査(10月7~9日実施)のデータから見ていきたい。岸田内閣の10月の支持率は、先月と同じ36%。不支持率は、先月より1ポイント多い44%だった。支持率を不支持率が上回るのは7月以降4か月連続で、低迷状態が続いている。

支持する理由は◆「他の内閣より良さそうだから」が45%、◆「支持する政党の内閣だから」が27%で消極的な理由が多い。

不支持の理由としては◆「政策に期待が持てないから」が56%で、岸田内閣発足以降、最も高くなった。歴代政権と比べても高い水準だ。◆「実行力がないから」が20%で、合わせて8割近くを占める。

支持率の内容をみると、自民党支持層のうち「岸田内閣を支持する」と答えた割合は、60%半ばに止まっている。最も多い無党派層の支持率は18%と低く、逆に不支持率は56%と高いので、選挙の際にはマイナスに働く。

岸田首相は先月13日の内閣改造で、主要ポストの骨格は維持する一方、過去最多と並ぶ女性閣僚5人を起用して政権の刷新をアピールした。しかし、内閣支持率を上昇させる効果はみられなかった。改造人事のねらいは不発に終わったと言えそうだ。

 経済対策、期待せずは6割近くも

それでは、岸田首相が表明した新たな経済対策の評価については、どうだろうか。岸田首相は、物価高騰対策や賃金の引き上げから、少子化対策、安心・安全確保対策など5つの柱を挙げて、10月末までに具体策をとりまとめるよう閣僚に指示した。

世論調査では、こうした新たな経済対策の効果について、評価を尋ねた。答えは「期待している」が38%に対して、「期待していない」が57%となった。

また、世論調査では、新たな経済対策とともに、防衛費の増額や少子化対策のための財源確保も課題になっている中で「国の財政状況に不安を感じているかどうか」についても尋ねている。

答えは「感じている」が75%に対し、「感じていない」が19%となった。

さらに岸田内閣が最優先に取り組むべき課題を1つ選んでもらうと◆「物価対策を含む経済対策」が50%で最も多く、◆次いで「少子化対策」13%、◆「社会保障」11%などと続いた。

以上のことから、国民の多くは、大型の経済対策や補正予算案の規模よりも内容に関心があり、特に「物価高騰対策を中心にした経済対策」を望んでることが読み取れる。

また、対策の評価に当たっては、財源確保の取り組みに不安を感じており、「財源確保の具体策」を明らかにするよう求めていることがうかがえる。

政権与党の動きを取材すると、衆院解散・総選挙をにらんで予算の規模の拡大、端的に言えばバラマキ姿勢が感じられるのに対し、国民世論の方が、コロナ感染が収まり、平時の経済・財政運営に立ち返るべきだという真っ当な考え方が読み取れる。

 年内解散よりも政策論争の徹底を

これから年内の政治は、どう動くのか。今月20日から秋の臨時国会が始まり、会期は12月上旬までとなる見通しだ。

その国会では、新たな経済対策の裏付けとなる補正予算案の扱いと、内閣改造を受けての岸田政権の政権運営などをめぐって激しい論戦が戦わされる見通しだ。

また、補正予算案を成立させた後、岸田首相が衆院解散に踏み切るかどうかが大きな焦点になる。その解散・総選挙の前提条件として、政権与党側が期待していた内閣改造による政権の浮揚効果はみられなかった。

また、政府の経済対策についても世論の期待感は乏しいことを考えると、年内解散の道はかなり難しくなりつつあるようにみえる。

さらに、今月22日に投開票が行われる衆議院長崎4区の補欠選挙と、参議院徳島・高知の補欠選挙の結果がどうなるか。2つの補欠選挙ともに与野党一騎打ちの構図になっており、この結果も年内解散のゆくえに影響を及ぼしそうだ。

国民の多くは「年内の衆院解散・総選挙は時期尚早。それよりも政策の中身、物価高などへの経済対策を充実させること。それに先送りになっている財源の具体策を明らかにすべきだ」と注文を付けているように思える。

こうした国民の注文に対して、岸田首相と与野党はどのように応えるか、臨時国会の論戦をしっかり見ていきたい。(了)

 

 

 

 

“未完の政権”主要政策の核心先送り

岸田政権は発足から10月4日で、丸2年が経過した。秋の臨時国会を控え、政界では年内解散説もささやかれているが、国民はこの政権をどのように見たらいいのだろうか。

長年、政治取材を続けているが、岸田政治とは何か?”主要政策が完結しないまま、次々に政策課題が提起される政治”という点に大きな特徴があると感じる。端的に言えば”未完の政策が積み残されたままの政権”ということになる。

岸田首相は自民党内に強いライバルが不在で、政権は安定した状況を維持している。反面、報道各社の世論調査でみると国民の評価は低迷した状態にある。

岸田政権のこれまでの政策や政権運営をどのように評価するか、3年目に入った岸田政治は何が問われているのか、探ってみたい。

(★タイトル部分は、原案ではわかりにくいとのご意見をいただきましたので、表現を手直ししました。本文の内容は変わっていません。10月5日追記)

 岸田内閣 政策と実行力に低い評価

まずは、政権発足から2年が経過した岸田政権をどのように見るか。人によって評価はさまざまだが、ここではメデイア、具体的にはNHKの世論調査のデータを基に考えてみたい。

岸田政権が発足した2021年10月の調査では、◇岸田内閣の支持率は49%、不支持率24%でスタートした。それから2年、最新の9月調査によると◇支持率は36%に下がり、不支持率は43%に増えた。支持率と不支持率が逆転し、国民の支持は低迷している。

この間の推移を整理すると、政権発足直後に衆院解散・総選挙に踏み切り、勝利した。続く翌22年7月の参院選挙にも勝利を収め、8月の内閣支持率は59%まで上昇した。

ところが、参院選の最中に安倍元首相が銃撃されて亡くなり、その後、安倍元首相や自民党と旧統一協会との関係が明らかになった。安倍元首相の葬儀を国葬にした問題や、内閣改造後に新閣僚の政治とカネの問題が表面化し、4閣僚が辞任に追い込まれた。今年1月の支持率は政権発足以降、最低の33%まで落ち込んだ。

その後、内閣支持率は徐々に上昇を続け、G7広島サミットが開催された5月には、支持率が46%まで回復したが、長男の首相秘書官が公邸内で忘年会を開いた問題やマイナンバーカードの混乱で再び支持率は急落した。

このように政権前半の1年近くは、コロナ禍の対応に追われながらも国民の評価は高かったが、去年夏の参院選を境に、後半は支持率の低迷状態が続いている。

その後半は、ロシアによるウクライナ侵攻を受けて、岸田首相が日本の防衛力の抜本的強化とその財源確保のために増税策をとりまとめた。続いて、年明けには異次元の少子化対策を打ち出し、政権の立て直しをめざした時期に重なる。

こうした主要政策をめぐる国民の評価は、いずれも賛成より、反対の方が上回って厳しい評価を受けている。

その原因だが、世論調査では「政府の説明が不十分だ」という評価が圧倒的に多い。岸田内閣を支持しない理由としては、◇「政策に期待が持てない」が半数近くを占め、「実行力がないから」が4分の1、両方合わせて7割に達している。

このように岸田政権は、主要政策・看板政策について、国民の多数の評価を得るまでに至っていない。これが支持率低迷の大きな要因であり、政権の弱点だ。

 岸田政治とは?政策の核心部分先送り

それでは、岸田政権の主要政策の決定や政治手法には、どんな特徴や問題点があるのだろうか。

岸田首相に近い政権幹部に聞くと「岸田首相は自らの成果を語らないタイプなので、わかりにくいかもしれない。だが、難題は水面下で首相自らが調整を進めたうえで、幹事長や政調会長などに割り振っている」と首相の指導力を強調する。

例えば、防衛力の抜本強化ではNATO並みのGDP比2%目標や、5年間で防衛費の総額を43兆円とするなどの大枠を示したことで、党内の騒ぎは収まったことなどを挙げる。

別の側近は「安倍元首相や小泉元首相は対立軸をつくり、上手に政権運営を進めた。一方、岸田首相の政治は、政策を複数、同時並行に進め、仕事や権限を移譲する別の政治手法なので、わかりにくいのかもしれない」と釈明する。

これに対し、別の自民党の閣僚経験者は「岸田政権の政策決定は、切羽詰まった段階になって首相が独りで登場、党の主要幹部に掛け合い、何とかまとめ上げているのが実態だ。もっと目標やビジョンを早い段階で打ち出し、党内議論を活発にして政策を決めるべきだ」と注文をつける。

私自身の見方は、後者に近い。例えば、防衛力強化の計画と財源確保に増税する方針は決まったが、増税の実施時期は年末の税制改正まで先送りになった。党内には増税に異論があり、さらに1年先送りになる可能性もある。

今年の年明けには唐突に、異次元の少子化対策が打ち上げられ、その後、児童手当を所得制限なしに拡充するなどの方針が決まった。但し、財源の具体策については、これも年末の予算編成まで先送りになった。

このように政策転換が次々に打ち出されるのだが、肝心の財源の扱いは先送りとなり、政策が完結しないまま、次の政策が積み重なっていく形になっている。

別の表現をすれば「政策の核心部分」があいまいで、全体像がはっきりしない。政権が変われば、政策が白紙に戻ったり、場合によっては国民に負担増となって跳ね返ってきたりすることも起こりうる。

したがって、特に政権の看板政策については、全体像を明確にし、政策を完結させたうえで、国民に説明し理解を求めるべきだ。この点が、岸田政権には欠けている。

 解散より”中期の展望・構想を語れ”

さて、秋の臨時国会が10月20日に召集されることが、ようやく固まった。岸田首相は、10月末までに新たな経済対策をまとめたうえで、裏付けとなる補正予算案を国会に提出する考えを明らかにした。

問題は、その後の展開で、与野党の間では「岸田首相は年内の解散を考えているのではないか」との憶測が消えない。来年秋の自民党総裁選での再選を確実にするため、野党の選挙態勢が整わないうちに選挙を仕掛けるのではないかとの見方だ。

安倍政権時代にも2014年や2017年の「不意打ち解散」「けたぐり解散」といわれた想定外の解散・総選挙はあった。今回もないとは言えないが、可能性としてはかなり低いのではないか。

その理由は、冒頭に触れたように岸田内閣の支持率が低すぎ、国民の信頼を得ていないので、選挙のリスクが大きい。また、仮に解散に踏み切った場合、2014年のように年末選挙となり、新年度の予算編成は越年、予算の成立は4月以降にずれ込む可能性が高い。

国民の関心は、1年以上も続く物価高騰や、実質賃金の目減りが16か月も続く中で、家計をいかに守っていくかにある。そうした時期に解散に踏みきり、国民の多数の支持を得るのは難しい。手痛いしっぺ返しや鉄槌を下されるのではないか。

岸田首相は、解散より他にやるべきことは多い。まずは、補正予算案の編成のねらい・目的をはっきりさせて欲しい。コロナも落ち着き、選挙目当ての大盤振る舞いをするようなときではない。

それよりも1ドル150円寸前の円安が続く中で、いつまで金融緩和政策を続けるのか。実質賃金をプラスに転換するために今後の経済・財政運営の大方針を明確に示すことが求められている。

さらに岸田首相には「中期の政策の展望や目標」を語って欲しい。政権発足時に掲げた「新しい資本主義」はどうなったのか。首相として、何をやりたいのか、目標を明確にしてもらいたい。

まずは、今月20日に召集される臨時国会の冒頭で、岸田首相が3年目に入った政権の目標と道筋を明確に打ち出せるのかどうかを注視していきたい。(了)

 

補正予算案と年内解散説のゆくえは

岸田首相は26日の閣議で、新たな経済対策を10月末をめどにとりまとめるよう各閣僚に指示した。

とりまとめにあたっては、緊急課題の物価高対策や賃上げ促進だけでなく、半導体などの国内投資や人口減少対策、それに防災対策など国民の安心・安全確保の5つの柱を挙げており、内容は多岐にわたる。

これを受けて、政府、与党はそれぞれ具体策の検討に入っているが、どこまで効果のある対応策を打ち出せるかが問われる。

また、対策実現の裏付けとなる補正予算案の規模が大きな焦点になる。コロナ禍では補正予算案の規模が膨張したが、感染も収まっているだけに「平時の予算編成」に戻るのか、それとも大盤振る舞いが続くかも注目点だ。

さらに、今回は岸田首相が、補正予算案の国会提出時期に言及しないことから、与野党の間では「岸田首相は、年内解散を考えているのではないか」との憶測が消えず、疑心暗鬼を生んでいる。解散・総選挙をめぐる思惑が経済対策づくりにも影響を及ぼしそうだ。

そこで、補正予算案の扱いと年内解散説との関係をはじめ、今後、どのような展開になり、何がポイントになるのか探ってみたい。

 秋の臨時国会、想定される2つの道

さっそく、政治日程から見ていきたい。秋の臨時国会は10月中旬に召集される見通しで、冒頭に岸田首相の所信表明演説と各党の代表質問、それに内閣改造を受けて、岸田政権の政権運営をめぐって与野党の論戦が続く見通しだ。

10月末に経済対策がまとまれば、補正予算案の編成作業が進められ、11月中旬以降には終わる見通しだ。通常であれば、補正予算案の国会提出を受けて、衆参両院で予算審議を行い、11月下旬から12月上旬までに成立するのが通常のパターンだ。

ところが、もう一つ別のパターンも想定される。政府・与党は、新たな経済対策をとりまとめて国民にアピールした後、補正予算案の提出を見送り、衆議院の解散・総選挙に打って出るケースだ。

わかりにくい方もいると思うので、似たような過去の例をあげると、2014年11月の安倍政権当時の「不意打ち解散」がある。当時、安倍元首相は11月18日に急遽記者会見し、翌年10月から予定されていた消費税率10%への引き上げを先送りして、21日に衆議院を解散して信を問う意向を表明した。

予定通り衆議院は解散され、総選挙は12月2日公示、14日投開票の日程で行われた。「不意打ち解散」とも言われたように、野党側は選挙態勢が整わず、自公両党の与党側が大勝した。

但し、年末選挙になった関係で、予算編成は年を越え、年明けの通常国会に補正予算案と新年度予算案が提出された。新年度予算案は年度内には成立せず、暫定予算を成立させたあと、本予算の成立は4月にずれ込む影響が出た。

このように補正予算案を編成し、そのまま国会に提出して成立させる道と、もう1つ、補正予算案の提出を見送り、解散に打って出る道もある。後者は、王道と言えないと思うが、政治の世界は何が起きるか、わからない。

 経済対策の評価と内閣支持率がカギ

それでは、今回、岸田首相はどのような選択をするだろうか。安倍元首相が「不意打ち解散」に踏み切った時、安倍内閣の支持率と、自民党の政党支持率はともに高い水準を保っていた。安倍政権の経済政策「アベノミクス」が追い風となっていた。

これに対して、岸田政権の場合、9月の報道各社の世論調査をみると、内閣改造を行った後も岸田内閣の支持率は横ばい状態で、上昇効果は見られなかった。支持率より、不支持率の方が上回る逆転状態が続いている。

自民党の政党支持率も岸田政権発足以降、最も低い水準だ。衆議院の比例代表選挙の投票先としても、30%を下回る水準に止まっている。

以上のような状況でも自民党内の一部には「年を越えても岸田政権に好材料が見当たらないこと」。また「野党の選挙態勢が遅れている年内に解散に踏み切った方が有利だとして、年末解散をめざすべきだ」という意見がある。

一方で、自民党内には「世論の支持が得られていない状況では、年内解散は行うべきではない」という慎重論も聞かれる。

岸田首相としては、前回衆院選から10月末で折り返し点に達することから、年内も含めて、解散・総選挙に踏み切る時期を探っているものとみられる。

但し、年内解散のためには、10月22日に行われる衆議院長崎4区と、参議院の徳島・高知選挙区の補欠選挙はいずれも自民党の議席だっただけに、両方とも勝ち抜くことが早期解散の必須条件との見方が党内では根強い。

また、岸田内閣の支持率が大幅に改善しないと「年内解散は無理」との見方が広がりそうだ。このため、年内解散のハードルはかなり高いとみられる。

最終的には、10月末にまとまる政府・与党の新たな経済対策がどのような評価を受けるか。そして、岸田内閣の支持率も大きく改善するかどうか。この2つの評価で、補正予算案の扱いと年内解散のゆくえを占うことができそうだ。(了)

 

 

“政権浮揚効果見えず”岸田改造内閣

先の内閣改造と自民党役員人事を受けて、報道各社が行った世論調査の結果がまとまった。岸田内閣の支持率については、先月を上回った調査もあったが、前回と同じか、横ばいの水準に止まる結果の方が多かった。

また、人事全体の評価については、いずれの調査とも「評価しない」が「評価する」を大幅に上回った。

世論調査のデータからは、与党が期待していたような「政権浮揚効果」は見られず、岸田改造政権は厳しい出発になる。

また、秋の衆院解散・総選挙についてもハードルがさらに高くなったと言えそうだ。なぜ、こうした見方になるのか、以下、説明していきたい。

 人事の評価は低調、支持率も低迷続く

さっそく、報道各社の世論調査から見ていきたい。まず、岸田内閣の支持率については、◇共同通信は39.8%で、先月の調査より6.2ポイント増、◇朝日新聞は37%で、4ポイント伸びて微増となった。

一方、◇読売新聞は35%、日経新聞は42%で、それぞれ先月と同じ水準だった。◇毎日新聞は25%で1ポイント減、ほぼ横ばいとなった。

一方、今回の内閣改造と自民党役員人事全体の評価については、◇読売の調査では「評価する」が27%に対し、「評価しない」が50%だった。◇朝日の調査は、改造内閣の評価を聞いており、「評価する」が25%に対し、「評価しない」が57%だった。

このほかの調査結果も「評価する」より「評価しない」方が大幅に上回り、同じ傾向を示している。

この2つのデータを基に判断すると、今回の内閣改造と自民党役員人事については、国民の評価は低く、政権与党が期待したような内閣支持率を大幅に引き上げる「政権浮揚効果」は見られなかったと言える。

 内輪の人事、何をしたい人事か不明

それでは、なぜ、このように国民の評価が低いのか。岸田首相は、改造直後の記者会見で「変化を力に変える内閣」と位置づけ、「変化を力として、閉塞感を打破していく。強固な実行力を持った閣僚を起用した」と胸を張った。

国民からすると、内閣の要の官房長官や財務相、経産相などの主要閣僚と、党の副総裁、幹事長、政調会長は軒並み留任。変化と言えば、初入閣が11人、女性閣僚が過去最多と並ぶ5人となった点だが、刷新感はなく、強固な実行力も感じられないというのが率直な印象だろう。

また、2日後の副大臣と政務官合わせて54人の人事を見て驚いた国民も多かったのではないか。女性の起用はゼロ、全員男性だった。女性の閣僚を多数起用し、「女性活躍」を訴えた方針は、早くも看板倒れの形になった。

今回の人事をめぐっては与野党双方から、岸田首相が来年秋の総裁選での再選をねらった内向きの人事との声が聞かれる。自民党の長老に聞いても「初入閣が多いのはいいが、国民には何をやる内閣かさっぱり、伝わらないのではないか」と指摘する。

初入閣の中には、旧統一教会との接点があるとされる閣僚が4人含まれており、秋の臨時国会では、野党側から厳しい追及を受けることが予想される。

世論の評価や期待度が低いことは、政権の政策を後押しする力が弱いことにつながる。内外に数多くの懸案・課題を抱えている中で、政権が一丸となって、難局を乗り切っていく体制を整えられるのかどうか、早々に試される。

 秋の衆院解散、困難との見方強まる

秋の政局の焦点になっている衆院解散・総選挙の時期について、影響はどうだろうか。まず、自民党の一部にあった秋の早期解散シナリオは、困難とみられる。

早期解散シナリオとは、内閣改造で支持率を回復させたうえで、大型の経済対策と補正予算案を編成し、臨時国会に提出して早期の解散に打って出るというものだ。しかし、前提となる政権の浮揚効果がみられず、構想の実現は困難だ。

それでも自民党内には、年を越えると「追い込まれ解散」の恐れがあるとして、年末の解散・総選挙に踏み切るべきだという意見もある。岸田首相は、こうした年内解散を含めて、解散の時期を探るものとみられる。

このため、10月中旬に召集される見通しの臨時国会の攻防が、焦点になる。岸田政権は、物価高騰対策を含めた経済対策をまとめ、その裏付けとなる補正予算案を提出し、支持率を回復させ、政局の主導権を確保したい考えだ。

これに対し、野党側は、旧統一教会との接点がある閣僚の適格性をはじめ、マイナンバーカードの総点検の状況と保険証の今後の扱い、物価高騰対策の遅れや、経済運営の基本方針が定まっていないとして、政府の姿勢を追及する構えだ。

一方、朝日の世論調査では、政党の支持率が自民党は28%で、3か月連続で30%を切ったほか、衆院選挙の比例代表の投票先も31%に止まっている。野党側の投票先では、維新が14%、立憲民主党が11%などとなっており、こうした選挙情勢も岸田首相の解散戦略に影響を及ぼすので、注意が必要だ。

以上みてきたように改造人事では、政権の浮揚効果が見られなかったことで、秋の政局は、臨時国会での与野党の攻防が焦点になる。

世論調査のほとんどで、岸田内閣の支持率は、支持より不支持率が上回る逆転状態が続いている。臨時国会で、岸田政権が主導権を確保し、内閣支持率も回復するのか、それとも野党攻勢の国会になるのか、大きなポイントになる。(了)

“総裁再選ねらいの布陣”岸田政権 改造人事

岸田首相は13日、内閣改造と自民党役員人事を行い、新たな体制をスタートさせた。岸田政権の組閣と改造は、今度で3回目になるが、今回の人事をどのように見たらいいのだろうか。

結論を先に言えば、今回の人事は、2つの大きな特徴がある。1つは、岸田首相は来年秋の自民党総裁選をにらんで、その布石を打った人事であるという点。

2つ目は、初入閣が11人と多く、女性閣僚も過去最多の5人に上る。これは、低迷する内閣支持率を改善し、政権の浮揚へとつなげるねらいがある。

但し、こうしたねらいが功を奏するかどうか。自民党の長老は、短期間で支持率上昇などは期待しない方がいいし、秋の解散・総選挙もハードルが高いと指摘する。人事の背景や、岸田政権の政権運営に及ぼす影響などを探ってみた。

 総裁選へ体制固め、けん制と封じ込め

今回の内閣改造と自民党役員人事について、自民党関係者に聞くと「岸田首相は、茂木幹事長の処遇に迷っていた。最終的には、茂木氏に代わる適任者が見当たらずに留任を選択したのではないか」との見方を示す。

今回の人事では、自民党のNo2である幹事長の扱いをどうするかが、最大の焦点だった。「岸田首相は、幹事長を代えたいと考えている」として、茂木氏を幹事長から外し、内閣の重要閣僚として処遇する案が一時浮上した。

また、幹事長候補として、鈴木財務相や、小渕優子組織運動本部長、森山選対委員長や萩生田政調会長などの名前が浮かんでは消えた。

これに対し、茂木幹事長は入閣には難色を示したといわれる。また、茂木氏交代の場合、今の岸田・麻生・茂木の3派体制が崩れ、政権運営が不安定になるといった指摘も出され、岸田首相は最終的に茂木氏続投を決めたとされる。

但し、茂木氏留任とともに、総務会長に森山選対委員長を配置し、その後任に小渕優子氏を抜擢した。小渕氏は将来の首相候補の一人とも目されており、岸田首相は、茂木氏をけん制するねらいもあって起用したものとみられている。

一方、前回の総裁選に立候補した河野デジタル担当相と、高市経済安保担当相も退任説があったが、留任となった。閣内に止めた方が得策との判断があったものとみられる。

さらに、岸田首相は、安倍派の萩生田政調会長と人事の直前、2回も会談するなど安倍派重視の姿勢を示した。「5人衆」とも呼ばれる幹部は、いずれも同じポストにそのまま止まり、派閥としては最も多い4人が入閣した。

今回の人事は「総主流派体制」とも言われるが、実態は、岸田首相が来年の総裁選での再選をにらんで、ポスト岸田の候補をけん制したり、閣内に封じ込めたりする布陣とした点に大きな特徴がある。

 主要閣僚は留任、女性閣僚は過去最多

閣僚人事については、首相を除く19人の閣僚のうち、13のポストが入れ替わった。このうち、11人が初入閣で、女性の閣僚は5人にのぼり、2001年の小泉内閣や、2014年の安倍改造内閣と並んで過去最多となった。

女性閣僚では、上川陽子元法相が外相に就任したほか、子ども担当相に加藤紘一元幹事長の長女の鮎子氏が抜擢され、話題になっている。

一方、松野官房長官をはじめ、鈴木財務相、西村経産相、河野デジタル担当相、高市経済安保担当相、斉藤国交相の主要閣僚6人は留任し、内閣の骨格はそのまま維持される形になった。

派閥の内訳は、最大派閥の安倍派と第2派閥の麻生派が最も多い4人で、続いて岸田派と二階派が2人、谷垣グループが1人、無派閥が2人で、公明党はこれまでと同じ1人だった。各派閥に目配りをした「総主流派」で、党内の安定した運営を重視する姿勢が読み取れる。

改造内閣発足を受けて、岸田首相は13日夜、記者会見し、今回の人事について「『変化を力にする内閣』だ。経済、社会、外交安全保障の3つを柱に取り組んでいく」とのべるとともに、物価高などの経済対策を来月中をメドにとりまとめる考えを表明した。

また、衆議院の解散時期について問われたのに対し「今は、経済対策を作り、早急に実行していくことを最優先に日程を検討していく」とのべ、言及を避けた。

 改造人事、解散時期も世論の評価がカギ

これからの岸田政権の運営の取り組み方について、自民党の長老に聞いてみた。「女性の閣僚を多数起用したが、これで直ちに内閣の支持率が上がるとは思えない。初入閣の閣僚も多いので、まずは、内外の多くの課題にじっくり腰を落ち着けて、取り組みを進めるべきだ」と指摘する。

そのうえで、「内閣支持率がジワジワと上がっていくことをめざした方がいい。一定の成果が出ないうちに、解散・総選挙とはならないのではないか」とのべ、年内の衆院解散・総選挙は難しいとの見方を示している。

これに対して、自民党内には、野党の選挙態勢が整わないうちに早期解散に踏み切るべきだという意見もあり、岸田首相がどのような判断を示すかが焦点になる。

問題は、国民が今回の岸田政権の人事や政策をどのように評価するかだ。改造直前に行われたNHK世論調査(8~10日実施)によると、岸田内閣の支持率は36%に対し、不支持率は43%で、支持率を上回った。不支持の理由は「政策に期待が持てない」と「実行力がない」が7割を占める。

今回の改造で、内閣支持率がどうなるか。また、来月には、秋の臨時国会が召集される見通しだ。政権与党と、野党側が多くの懸案について、真正面から突っ込んだ議論を戦わせてもらいたい。

その結果で、衆議院の解散・総選挙の時期や是非などについても、一定の方向が見えてくるのではないかと予想している。(了)

秋の政局 見方・読み方”3つの焦点”

この夏は異常な猛暑が続いているが、暦は9月に入り、今年も残すところ4か月になった。5月のG7広島サミットでは存在感を発揮した岸田首相も今は、内閣支持率が政権発足以降、最低の水準まで落ち込み、厳しい局面が続いている。

さて、秋の政治はどう展開するのか?結論から先に言えば、3つの点がカギを握るとみる。1つは内閣改造・自民党役員人事。2つめは政権が抱える難題処理、3つめが衆院解散・総選挙のゆくえだ。この3つの焦点を軸に秋の政局を読み解きたい。

 内閣改造人事、政権浮揚か空振りか

最初に秋の主な政治日程を駆け足で見ておく。9月は外交日程がたて込んでおり、岸田首相は5日から11日までの日程で、インドネシアで開かれるASEAN関連首脳会議と、引き続いてインドで開催されるG20サミットに出席する。

この後、9月中旬に開幕する国連総会にも出席して演説を予定している。9月末には、自民党役員の任期を迎えるので、外交日程の合間をぬう形で9月中旬か、あるいは月末に内閣改造・自民党役員人事を行う見通しだ。

10月には秋の臨時国会が召集され、物価高と経済対策を盛り込んだ補正予算案が提出される見通しだ。10月22日には、衆議院長崎4区と参議院徳島・高知の統一補欠選挙が行われる。

11月末には、マイナンバーカードのトラブルをめぐって、総点検の完了の期限を迎える。12月は、来年度の税制改正や予算編成作業が本格化する。このように年末に向けて、内外の主要な日程がたて込んでいる。

岸田首相にとって、政治日程でもう1つ大きな意味を持つのは、10月初めで政権発足から丸2年が経過、自民党総裁任期満了まで1年を残すだけとなる。また、衆議院議員の任期の折り返しを迎え、衆議院の解散・総選挙の時期が視野に入ってくる。

以上の政治日程などから、岸田政権としては、9月に内閣改造・自民党役員人事に踏みきり、低迷している内閣支持率を反転させたい考えだ。そのうえで、年内に衆議院の解散・総選挙を断行するタイミングを探り、来年秋の自民党総裁選での再選につなげていくのが基本戦略だ。

そこで、内閣改造・自民党役員人事が政権浮揚につながるかどうか注目される。自民党の閣僚経験者は「岸田政権の運営は手詰まりの状況にあり、思い切った政策とそのための新たな布陣を打ち出せるかがカギだ」と語る。

与党内の関心は、岸田首相が党運営の要である茂木幹事長の交代に踏み切るかどうかだ。岸田首相と茂木幹事長とは、潜在的なライバル関係にあることや、自公関係を安定させるうえで「岸田首相は茂木氏を代えたがっている」との声も聞く。

これに対し、岸田首相は対応に迷っており、「今の岸田派、麻生派、茂木派の主流3派体制を維持してバランスを保つことが、政権の安定につながる」として、最終的には茂木氏の続投を選択するのではないかとの見方も根強い。

内閣の顔ぶれでは「松野官房長官や、林外相、西村経産相など主要閣僚は続投するのではないか」といった見方が強く、「人事の刷新は期待薄」といった声が早くも聞かれる。

自民党の長老に聞くと「岸田首相は、新たな人材も起用して力のある政権をめざしているが、具体的な人材となると適任者が見当たらない。改造で支持率が上がることもあるが、現実には上がらないのではないか」と厳しい見方を示す。

改造人事で、政権浮揚効果は現れるのか、それとも空振りに終わるのか、その結果が秋の政治のゆくえを左右する。

 難題処理の具体策と道筋、実行力は

2つめの焦点は、政治課題の問題だ。今年の5月以降、相次いだマイナンバーカードをめぐるトラブルについて、岸田政権は8月4日に新たな対応策を打ち出した。

焦点の健康保険証の廃止は、来年秋に廃止する方針を当面維持する一方、マイナ保険証を持たない人には、資格証明書の発行で、不安解消に努めるという内容だ。

そして、11月末まで総点検の作業を続け、その結果をみたうえで、健康保険証廃止の方針を改めて判断することにしている。

次に、東京電力福島第1原発の処理水を海に放出する問題については、岸田首相が放出に反対の全漁連の代表と面会するなどの調整を経て、8月24日に処理水の放出を開始した。

これに対して、中国政府は「汚染水」との表現で、こうした放出に強く反発し、日本産海産物の輸入を全面的に停止する措置を打ち出した。

これに対し、政府は、即時撤廃を申し入れたが、中国側は応じる気配がない。政府は、9月上旬に開かれる国際会議の機会を通じて、岸田首相が中国の李強首相や習近平国家主席に働きかけるシナリオを描いているが、めどはついていない。

さらに、ガソリン価格の高騰が続いているのをはじめ、電気やガス料金の負担軽減措置が9月末に切れることから、物価高や経済対策を求める意見が、与野党や国民の間から強まっている。

このほか、岸田政権が打ち出した防衛増税の実施時期や、少子化対策の具体的な財源も先送りになっており、年末の予算編成で結論を出すことが迫られる。

このように岸田政権にとっては、内外の懸案が次々に積み重なる形になっている。いずれも難題で、どのような具体策と道筋で解決していくのか、政権の実行力が問われている。こうした懸案処理に一定の実績を上げないと政権の浮揚は困難だ。

 秋の衆院解散に高いハードル

3つめの焦点は、衆議院の解散・総選挙がどうなるか。ある閣僚経験者は「今のような内閣支持率の低さでは、とても解散を打てる状況にはない」との見方だ。

一方、与党内には「来年になっても政権に有利な材料は見当たらない。それなら、野党の準備が整っていない年内に行った方がいい」との意見も聞かれる。

自民党の長老の見方はどうか。「政権ができて2年になるが、残念ながら目に見える実績がない。政策も完結せず、道半ばだ。さらに政権として何をやりたいのか、国民に伝わっていない」と語り、解散のハードルは高いという見方だ。

岸田首相にとって与党内では、強力なライバルは見当たらず、最大派閥の安倍派も後継会長が決まらないことで、党内の主導権は発揮しやすい状況にある。但し、総選挙となると、国民の判断・反応が大きく影響する。

その世論の反応だが、NHKの8月の世論調査で岸田内閣の支持率は33%で、政権発足以降最低の水準だ。不支持率は44%で、支持を不支持が上回った。自民党の支持率も34%台まで下がり、岸田政権で最も低い水準になっている。

加えて、洋上風力発電をめぐる汚職事件で、外務政務官を務めていた秋本真利衆議院議員が検察当局から事務所の捜索を受けるなどの不祥事が相次いでいる。

岸田首相はこのところ、報道各社のぶら下がり取材に頻繁に応じ、懸案の取り組み方をスライドを用いて説明するなど情報発信を強めている。内閣支持率が低迷し、指導力を発揮していないなどの批判をかわす狙いがあるものとみられる。

これに対して、野党側は、岸田政権は内外の課題に有効に対応できていないとして、臨時国会では、岸田政権との対決姿勢を強める方針だ。

このように秋の政局は、臨時国会を舞台に岸田政権と野党側の攻防が一段と強まる見通しだ。与野党のどちらが主導権を握るのか、それによって年内解散があるのか、それとも来年以降へ先送りになるのか、決まることになる。(了)