”前途多難” 岸田改造政権

お盆入り直前に急遽行われた岸田政権の内閣改造と自民党役員人事。岸田首相は10日夕方の記者会見で、「有事に対応する『政策断行内閣』として、経験と実力を兼ね備えた閣僚を起用することとした」と声を高めた。

確かにベテランを起用し、手堅い人事と認めるが、「世界平和統一家庭連合」旧統一教会との関係、国葬問題などで世論とのズレを抱えている。また、これから内外の政治課題の大きさを考えると岸田改造政権は”前途多難の再出発”になるだろう。

今回の内閣改造と自民党役員人事の見方と、岸田改造政権のゆくえを展望する。

 経験重視の布陣、安倍派にも配慮

今回の人事の特徴を見ておくと、自民党の体制は、麻生副総裁、茂木幹事長を続投させ、岸田、麻生、茂木の3派体制を軸に政権運営に当たる。

その上で、安倍元首相なき最大派閥・安倍派から、萩生田経産相を政調会長に抜擢するとともに、政権と距離を置いてきた森山裕・前国対委員長を選挙対策委員長に起用し、これまでの政権基盤を広げた。

内閣の方は、松野官房長官をはじめ、林外相、鈴木財務相、山際経済再生相、斉藤国交相の5閣僚が留任したほか、加藤勝信・元官房長官を3回目の厚労相に起用、浜田靖一氏を2回目の防衛相に充てた。

また、デジタル担当相に河野太郎・党広報本部長、経済安全保障担当相に高市早苗・政調会長をそれぞれ起用した。

このように内閣については、これまで担当してきた経験や、専門性を重視して主要ポストに充てるなど手堅い人事を行った点は評価できる。

次に、安倍派の処遇も焦点の1つになったが、官房長官の松野博一氏は続投、萩生田氏を政調会長に抜擢する一方、派閥の事務総長を務める西村康稔氏を経産相に起用し、バランスをとった。

安倍派幹部の世耕弘成氏も参院自民党幹事長に再任され、松野、萩生田、西村、世耕の4氏を内閣と党の要職に配置するなど安倍派への配慮を示している。

自民党長老に人事の評価を聞くと「華はないが、ベテランを起用し、それなりに評価できる。安倍派では、萩生田氏が党三役の一角を占め、後継争いでは一歩リードした」との見方を示す。その理由として、今回の党役員は派閥の長が就任して重量級に変わっており、岸田首相との関係が良好な点も有利だとしている。

去年の総裁選を争った河野氏、高市氏、それに西村氏を入閣させたことは茂木幹事長、萩生田政調会長らと合わせて、ポスト岸田を争わせる戦略との見方が一部にある。

この点について、長老は「岸田首相には、そのような発想はないのではないか。河野氏は専門性、高市氏は保守層へ一定の配慮。総裁選は2年後の話で、衆参両院の選挙を率いて勝利したのは自分だという意識が強いのではないか」と解説する。

 世論とズレ、遠い信頼回復対応

岸田改造政権は、人事でベテランや非主流派にも配慮を示したことで、党内融和、結束力が増す効果が期待できる一方、世論とのズレが大きな問題として残されたままだ。

今回の改造人事は、安倍元首相の銃撃事件をきっかけに浮上した旧統一教会と政界との関係、特に安倍派を中心に自民党との関係が次々に明るみになる中で行われた。

この問題は、安倍元首相の国葬問題にも波及、岸田内閣の支持率急落という負の連鎖に歯止めをかけ、局面の転換を図る狙いがあったものとみられる。

今回の改造で、元統一教会と接点があった閣僚7人は退任した。ところが、新たに任命された閣僚7人も接点があったことが、改造後に次々に明らかになっている。

岸田首相は記者会見で「国民の疑惑を払拭するため、閣僚に対して、当該団体との関係を点検し、厳しく見直すことを厳命した」と強調するが、前の閣僚と、新任閣僚とで対応が違うとなりかねない。

やはり、国会議員任せにせず、党で実態調査を行うとか、宗教団体との関係について、一定の対応基準を打ち出す必要があるとの意見も聞く。

国葬の問題についても報道機関の世論調査で、賛成より反対が上回る状態だ。国葬にした理由、法的根拠などについては、相変わらず、従来の説明を繰り返している。国会で野党との議論を通じて、国民の理解を深めることが必要ではないか。

旧統一教会、国葬の問題について、政府や党の説明が不足している。内閣改造で目先を変えたいという狙いがあるのかもしれないが、真正面から徹底して説明したり、議論したりしないと国民の信頼を取り戻すのは難しいとみる。

 内外に難題、岸田首相の決断力は

最後に、岸田政権の今後の運営はどうなるか。与野党関係者に話を聞くと、政府のコロナ対策について、厳しい批判を数多く聞く。

内閣改造が行われた10日、全国の新規感染者数は25万人で過去最多、感染爆発は止まらない。亡くなる人は251人で、第6波のピークに近いレベルまで急増しており、さらに増加することが懸念されている。

感染者が急増した7月中旬以降、政府が発するのは「経済社会活動との両立、行動制限はしない」とのメッセージばかりで、具体的な感染対策の呼びかけなどは乏しく、与野党関係者は「無為無策だ」と怒る。

7月下旬からの内閣支持率急落は、コロナ対策の失敗が底流にあるのではないかとの見方がある。内閣改造を行っても政権浮揚効果は限定的ではないか。

秋の政治日程は、9月27日の安倍元首相の国葬に続いて、臨時国会が召集され、感染症対策として医療提供体制の整備法案が提出される見通しだ。食品を中心に大幅な物価高騰が進むほか、大型の補正予算案の編成も検討される見通しだ。

さらに年末にかけて、防衛力整備と政府予算の大幅増額という難題が控えている。このほか、冬場の電力のひっ迫などエネルギー問題などの難問にも向き合わなければならない。

安倍元首相の存在がなくなった中で、岸田首相が党内のとりまとめを決断し、国民を説得できるのかどうか。岸田首相の決断力と統率力が試されることになりそうだ。(了)

 

岸田首相の求心力は?改造・人事

先の参議院選挙を受けて召集された臨時国会最終日の5日夕方、「岸田首相が内閣改造・自民党役員人事を10日にも実施する」との情報が駆け回り、与野党双方を驚かせた。永田町では、人事はお盆明けの8月下旬から9月前半説が強かったからだ。

今回の人事前倒しの事情・背景は何か。安倍元首相なき政局で、岸田首相の求心力は高まるのか、内閣改造・自民党役員人事で問われる点を探ってみたい。

 人事前倒しの事情・背景は何か

岸田首相は6日、広島の平和記念式典に出席したあと記者会見し「新型コロナ、物価高への対応、ウクライナや台湾情勢、防衛力整備などさまざまな課題を考えると、新しい体制を早くスタートさせたいと常々思っていた」とのべ、内閣改造・自民党役員人事に踏み切る考えを正式に表明した。

岸田首相は早期の内閣改造を考えていたことを強調したが、それならば、7月25日に参議院議員の任期が切れ、引退するため議員資格を失う金子農水相と二之湯国家公安委員長の後任と併せて、内閣改造を行うのが普通ではなかったか。

そのタイミングを見送り、8月下旬以降と見られていた内閣改造・自民党役員人事を前倒しすることに踏み切ったのは、別の事情・背景があったのではないか。

1つは、安倍元首相が銃撃され、亡くなった事件に関連して、容疑者が恨みを抱いていたとされる「世界平和統一家庭連合」旧統一教会と、現職閣僚や自民党議員との関係が次々に明るみになり、世論の批判が一段と強まってきた。

また、岸田首相が事件から日を置かずに決断した安倍元首相の国葬については、政府の説明が不足しているとの指摘が多く、報道機関の調査では国葬の評価は「賛成」よりも「反対」が上回るようになった。

さらに、岸田内閣の支持率が7月下旬に行われた共同通信で12ポイントも減少し、内閣発足以来最低の水準に急落した。日経新聞の調査でも2番目に低い水準まで落ち込んだ。

岸田政権は、こうした旧統一教会問題を沈静化させるとともに、内閣支持率急落の事態を転換するために人事の前倒しを決断したのではないかとみている。

 難題解決への布陣、政権の求心力は

さて、その人事は、注目点が多い。まず、安倍元首相が亡くなったあと、97人が所属する最大派閥の安倍派からの起用はどうなるのか。旧統一教会の問題は安倍派の議員に集中しているが、その影響はどうか。

また、岸田首相と距離を置いてきた二階元幹事長や、菅元首相ら非主流派の扱いも焦点になる。菅元首相の入閣はあるのかどうか、安倍元首相なき後の党内力学がどのように変化するのかも注目点だ。

国民の側からみると一番の関心事項は「難題」に取り組む布陣はどうなるかという点だろう。政府のコロナ感染対応は相変わらず、後手が目立つが、感染危機乗り切りを誰に託すのか。

防衛力整備をはじめ、経済の立て直し、この冬の電力不足やエネルギー対策などのポストに誰が就任するのか。

岸田首相は麻生副総裁らと人事の詰めの作業を進めているが、麻生副総裁、茂木幹事長、松野官房長官ら政権の骨格は維持されるとの見方が有力だ。林外相、鈴木財務相らも続投とみられる。

主要閣僚・党の中枢もこれまで通りとなると、今度は何のための人事なのかという疑問がわく。冒頭に触れたような旧統一教会の問題や内閣支持率急落をかわす小手先の対応かということになりかねない。

そうすると、今回の人事のねらいと「難題」解決に向けた首相自身の構想を併せて、打ち出して国民に説明する必要がある。

一方、岸田首相が率いる派閥は第4勢力で、内閣の要の官房長官と、党の要の幹事長も他の派閥から起用している。政権の意思決定はこれまで通りで問題はないのかという指摘もある。岸田首相を軸にした政権の体制づくりも焦点だ。

お盆前の10日に内閣改造・自民党役員人事が行われ、新たな顔ぶれが決まる見通しだ。この人事で、岸田首相の求心力は高まるのかどうか、政権の浮揚効果が現れるのかどうかも焦点になる。

旧統一教会の問題について、岸田首相は内閣の人事に当たって、点検するよう指示したことを明らかにした。一方、党の方は調査を行うのかどうかはっきりしていないが、党としてもけじめをつける必要がある。

さらに、安倍元首相の銃撃事件については、警察当局の警護の落ち度が指摘されている。警察を所管する国家公安委員長の責任問題は、内閣改造で交代する前に必要な措置をとる必要があるのではないか。

岸田首相は、コロナ感染拡大にウクライナ危機など戦後最大級の政局と位置づけている。そうであれば、人事の最終的な決定とともに難題解決に向けた自らの考え方を明確に打ち出し、国民に説明してもらいたい。(了)

★追記(8月8日21時)NHK世論調査によると◆岸田内閣の支持率は46%で、前回調査より13ポイント下がった。支持率46%は、去年10月の岸田内閣発足後、最も低い。不支持は28%で、7ポイント上がった。◆政府が安倍元首相の「国葬」を行うことについて、「評価する」が36%だったのに対し、「評価しない」は50%だった。◆旧統一協会と政治の関係について、政党や国会議員が十分説明しているかどうかを尋ねたところ、「十分説明している」が4%、「説明が足りない」が82%だった。この調査は、8月5日から7日まで行われた。前回調査は、3週間前の7月15日から18日まで実施。

 

 

臨時国会”召集すれど審議なし”

先の参議院選挙を受けて、国会の構成などを決める臨時国会が3日、召集されるが、審議はまったく行われずに3日間で幕を閉じる見通しだ。

安倍元首相が銃で撃たれ死亡するという衝撃的な事件が起き、その余震は今も続いている。一方、コロナ感染は爆発的な拡大が続いており、物価高騰も長期化する公算が大きい。

こうした先行き不透明な情勢の中で召集される国会で、銃撃事件の中間的な報告も、経済・社会に関する審議・質疑も全く行われない国会をどう考えればいいのだろうか。

一言でいえば鈍感。危機感も緊張感も感じられず、驚きを通り越してあきれてしまうというのが正直な受け止め方だ。

今の会期内で短時間でも審議を行ったり、会期を延長したりする考えは本当にないのだろうか。国会を召集する権限を持つ政府に最も大きな責任があるが、与野党の国会議員は自らの役割と責務を果たすため、再考の声を上げてはどうか。

 慣例にとらわれず柔軟な国会運営を

衆議院選挙や参議院選挙が行われ、新しい国会議員が選ばれた後の国会は、新しい議長、副議長、常任委員会や特別委員会の委員長を選出する「院の構成」を行って短期間で終えることが多いことは知っている。

今回も召集日当日は、新人の参議院議員が国会正面から登院し、メデイアのインタビューに応じる光景が繰り広げられるのだろう。それはいいとして、この国会は、院の構成だけで済ませられるほど甘い状況にないことは、与野党の議員の多くが感じていると思う。

ところが、自民党の高木国会対策委員長と、野党第1党・立憲民主党の馬淵国会対策委員長は1日の会談で、この国会の会期は3日から5日までの3日間とすることで、早々と合意した。

また、安倍元首相の国葬は秋の臨時国会に先送りする一方、国葬などについて議論をするため、閉会中審査を行うことで日程調整を進めることになった。

短期にしたのは、自民党としては、岸田首相がニューヨークで開幕したNPT=核不拡散条約再検討会議に出席して演説する外交日程が入ったこと。

8月は広島、長崎の原爆の記念式典に出席する関係で、国会の審議日程を確保するのは難しいと判断したためとみられる。

そうした事情はあるにしても、参院選挙が行われた後の臨時国会で、審議を行った先例はある。

2004年小泉政権時代、あるいは2010年の民主党の菅直人政権の時は、いずれも会期を7月30日から8日間に設定し、衆参両院で本会議を開いたり、予算委員会を開催したりして質疑を行っている。

仮に先例がなくても与野党が合意すれば質疑はできる。先人たちは、その時々の情勢に応じて、慣例にとらわれずに柔軟に対応してきたことを学ぶべきだ。

 国葬、感染爆発対策、首相自ら説明を

それでは、国会の対応のあり方などをどう考えたらいいのか。選挙応援演説中の首相経験者が、兇弾に倒れる前代未聞の事件が起きた。警察当局の警護の不手際も指摘されているが、国会で経緯の報告もなされていない。

また、容疑者の動機や背景に「世界平和統一家庭連合」、旧統一教会の存在が指摘されているほか、この旧統一教会と政治との関わり、現職閣僚や自民党議員の数多くの関係も明るみになりつつある。

政府は、安倍元首相の葬儀を国葬で行うことを閣議決定したが、国葬で行う法的根拠や手続きなどをめぐって、世論の賛否の意見が分かれている。

また、国民の受け止め方は、事件の背景を含め全容を明らかにするよう求める意見が強まっている。

こうした状況を考えると、まずは、岸田首相が国会で安倍元首相の死去を報告するとともに、政府が国葬にすることにした考え方などを説明することから始める必要がある。

また、この事件に関連して、旧統一教会と与野党の国会議員との関係はどうだったのか、実態調査の進め方などについても議論する必要があるのではないか。

岸田首相は先に旧統一教会と自民党議員との関係について「丁寧な説明を行っていくことは大事だと思っている」とのべた。

この発言は、議員個人の問題と聞こえるが、自民党の場合、関わりのあったと指摘された議員の多さを考えると、党として事実関係の調査を行う必要があるのではないか。

このほか、コロナ感染の爆発的な拡大と医療のひっ迫への対応、今後の物価高騰対策の中身はどうなるのか、国民の関心は極めて大きい。こうした点を含め、岸田首相は、国会審議を通じて政府の方針を明らかにすべきだと考える。

7月末に行われた共同通信の世論調査で、岸田内閣の支持率は51%で、参院選挙で大勝した前回調査から12ポイントも急落し、内閣発足以来最低となった。安倍氏の国葬についても「賛成」は42%で、「反対」が53%と上回っている。

こうした世論の反応は「国葬についての説明はなく、感染危機対応のメッセージも発しない岸田首相に対する厳しい評価の表れ」と思われる。

加えて、臨時国会で報告や質疑もないとなると、首相の信頼感を失うことになるのではないか。岸田首相は戦後最大級の難局と受け止めているのであれば、逃げずに真正面から、自らの考えを国民に訴える局面ではないかと考える。(了)

感染爆発”やはりブレーキが必要”岸田政権

新型コロナの”感染爆発”に歯止めがかからない。新規感染者数は28日、東京では初めて4万人を超え、全国でも23万人と過去最多を更新した。

岸田政権は、感染抑制と社会経済活動の両立をめざしてきたが、このところ、感染拡大期に、濃厚接触者の待機期間を短縮するなどチグハグな対応が目立つ。

ここは、やはり感染抑制へブレーキを踏み込む時期ではないか。岸田政権のコロナ対応を緊急点検する。

 ”フェーズが変わった”日本世界最多

感染状況を振り返っておくと新規感染者数は7月1日時点で、東京で3500人余り、全国では2万3100人台に止まっていた。死者は21人、重症者数は52人と低い水準だった。

ところが、全国の新規感染者数は15日に10万人を突破、20日に15万人、23日には20万人と加速度的に増え、27日には20万9600人で過去最多となった。第6波のピーク時の2倍の水準だ。

東京では28日、1日当たりの感染者数がついに4万406人に達した。今月に入り1か月近くで11倍も増えた。全国では、23万3000人余り、過去最多を更新した。

日本の感染者数は、欧米諸国に比べて格段に少なかったが、WHO=世界貿易機関が27日にまとめた報告書では、24日までの1週間当たりの新規感染者数では、日本は97万人で、世界で最も多くなっている。

アメリカは86万人、ドイツは56万人だ。フェーズが大きく変わり、日本は欧米に比べて感染者数が少ないとは言い切れなくなった。

 感染拡大期に緩和”チグハグ対応”

岸田政権のコロナ対応だが、先の参院選挙で自民党が大勝したのを受けて、岸田首相は14日に記者会見し、今後の対応策を明らかにした。

この中で岸田首相は、感染状況について「感染が全国的に拡大しているものの、重症者数や死亡者数は低い水準にある」と説明し、新たな行動制限を行うことは考えていないと表明した。

一方、社会経済活動と感染拡大防止の両立を維持するため、世代ごとにメリハリの効いた感染対策をさらに徹底すると強調した。

具体的には、4回目のワクチン接種について、すべての医療従事者と高齢者施設のスタッフなどおよそ800万人にも対象範囲を拡大し、接種を始めると明らかにした。

そのうえで、岸田首相は22日、後藤厚労相などと協議し、社会経済活動を維持していくため、濃厚接触者に求める待機期間をこれまでの原則7日から5日間に短縮し、さらに2日目と3日目の抗原検査が陰性であれば、3日から待機を解除できることを決めた。

こうした対応をどう評価するか。まず、行動制限を求めないという方針はやむを得ない措置だと思う。仮に緊急事態宣言や蔓延防止等重点措置を出しても、感染抑制にどこまで効果があるか疑問だからだ。

問題は、政府や自治体の説明では、重症者や死亡者などは低水準との認識だが、状況は厳しくなっている。27日時点で全国の死者は129人、重症者は311人、7月1日と比べると6倍前後も増えて折り、状況認識に甘さを感じる。

また、医療への影響も大きくなっている。28日には「重症確保病床の使用率」が東京都で53%となったほか、「確保病床使用率」も沖縄、神奈川、静岡、大阪、福岡、熊本など20都府県で50%以上の警戒ラインを上回っている。

こうした医療のひっ迫状況を考えると今は感染抑制に向けて、ブレーキをかける局面だ。岸田政権の対応は、感染が急拡大している時に、待機期間短縮の緩和策を打ち出すなどチグハグな対応が目立つ。これでは危機感は伝わらない。

さらに東京では、発熱外来はパンク状態、PCR検査はなかなかできない、抗原検査キットも薬局で手に入らないとの声を身近なところでも数多く聞いた。

検査、診察、自宅療養へのサポートも期待できず、健康管理の仕組みが目詰まり状態だ。政府は最悪の事態を想定して備えを進めていると強調してきたが、実態はこれまでと同じく「後手の対応」を繰り返している。

新たな問題としては、感染や濃厚接触者が増えて、医療、保育だけでなく、JR九州では乗務員の確保ができず列車の運転が休止になったり、郵便局の窓口業務ができなくなったりするなど社会活動に影響が広がり始めた。

岸田首相は、参院選の期間中は、特に経済活動重視の姿勢が感じられたが、この感染爆発の局面では、感染抑制へカジを切った方がいいのではないか。

 感染抑制の具体策と首相の実行力

これからのコロナ対策を考えると、今回の感染では、比較的軽症の人が多いのも事実だ。軽症な人は自宅で療養してもらう一方、症状の重い人は入院・治療にアクセスしてもらうなどの取り組みを進める必要がある。

また、抗原検査キットの配布はじめ、自宅療養者への支援体制などはどうするのか、政府と自治体が連携して、具体的な改善策を早急に示してもらいたい。

さらに、高齢者や医療従事者などへのワクチン接種の4回目と、若い世代への3回目のワクチン接種の促進も重要だ。

緊急事態宣言など行動制限を求めないのであれば、症状に応じた具体的な感染抑制対策や、メッセージなどの発信に一段と力を入れて取り組むべきだ。今の岸田政権には、こうした力強さが感じられない。

今回の感染急拡大は、感染危機対応が、岸田政権にとって引き続き最重要課題の1つであることを示している。具体策を早急に打ち出し、感染拡大を押さえ込めるのか、岸田政権の評価を大きく左右することになる。

参院選後の政治は、安倍元首相なき後、岸田首相が独力で主導権を発揮できるのかどうかが焦点だ。コロナ感染急拡大は、岸田首相の実行力と、政権の求心力がどの程度のものかを占う試金石の意味を持っている。(了)

安倍元首相の「国葬」をどう考えるか

先の参議院選挙で応援演説中に銃で撃たれて亡くなった安倍元首相の葬儀を「国葬」で行うとした政府の方針をめぐって、与野党や国民の間で賛否両論が出され議論が続いている。

この問題は、選挙で選ばれ、国の最高責任者の立場にいた政治家の葬儀をどのような形で執り行うのが適切なのかという古くて新しい問題だ。

政府は、22日の閣議で安倍元首相の「国葬」を9月27日に行うことを正式に決めた。果たして国民の多くの支持は得られるだろうか。世論調査のデータを参考にしながら、国葬のあり方などを考えてみたい。

 国葬の評価 国民多数は”思案中か”

安倍元首相の葬儀を「国葬」で行うことについては、岸田首相が14日夕方の記者会見で「憲政史上最長の8年8か月にわたり、内閣総理大臣の重責を担い、内政・外交で大きな実績を残された」として、秋に国葬を行う方針を表明した。

この方針をめぐって、与野党幹部が激しい議論を交わしているが、国民はどのように受け止めているのか、今後のあり方を考えるうえでベースになる。NHKが16日から3日間行った世論調査の結果が興味深いので、みておきたい。

政府が安倍元首相の葬儀を国の儀式の「国葬」として今年秋に行う方針については「評価する」が49%に対し、「評価しない」が38%だった。

これを支持政党別にみると◇与党支持層では「評価する」が68%で、「評価しない」の25%を上回っている。◇野党支持層では「評価する」が36%に対し、「評価しない」が56%と多数を占めた。

◇大きな集団である無党派層では「評価する」が37%、「評価しない」が47%となっており、「評価しない」方が多い。

次に年代別では、30代以下の若い年代では「評価する」が61%と特に多く、「評価しない」は31%だった。逆に、60代は「評価する」が41%に対し、「評価しない」が51%で、他の年代の割合より多かった。

以上のデータをどのように読むか。国民世論は、国葬の評価をめぐって「どちらか一方が、圧倒的に多いという状況にはない」。「評価する」が多いが、過半数には達していない。かなり接近しているとみることができる。

また、与野党の支持層で評価に違いがある。与党支持層では「評価する」が多く、野党支持層では「評価しない」が多いが、この点は予想されたことだ。無党派層では「評価しない」方が、「評価する」を上回っているのが特徴だ。

さらに、年代別では、若い年代と60代とでは違いがある。各年代でも受け止め方に違いがみられる。

このようにみてくると国民の多くは「思案中」というのが実態ではないか。岸田首相は、安倍元首相の銃撃事件から6日後の早い段階で「国葬」とする方針を表明した。

ところが、国民の側からすると容疑者の動機や事件の背景、旧統一教会と政界との関係などの情報も十分そろっておらず、思案中との受け止め方が実態に近いのではないかとみている。

 基本は法整備、国会で説明・質疑を

それでは、「国葬」については、どのように考えればいいのだろうか。歴代首相の葬儀については、さまざまな先例がある。

まず、戦後の「国葬」は、昭和42年に亡くなった吉田茂元首相の1件だけだ。長期政権だった佐藤栄作元首相の場合は「国民葬」。内閣と自民党、それに国民有志が主催して実施された。

さらに「内閣と自民党の合同葬」、総選挙の最中に体調悪化で亡くなった大平元首相をはじめ、中曽根元総理、小渕元総理などは、いずれもこの方式で、これまでの主流の形式と言える。

今回、安倍元首相の葬儀が国葬として行われれば、2例目となる。「国葬令」は戦後、廃止された。法的根拠について、岸田首相は「内閣府設置法に国の儀式に関する事務が明記されており、閣議決定を根拠として国葬を行うことができる」との考え方を示した。

確かに役所の所掌事務として書かれているが、法治国家であり、経費全額を国の予算でまかなうのであれば、法案を国会で成立させて実施するのが基本ではないか。

また、新たな法案の提出で与野党が合意できないのであれば、少なくとも国会で政府が説明し、与野党が議論することは必要ではないかと考える。

一方、「国葬」とすることの理由については、政府・与党は、安倍元首相は憲政史上最も長い期間、首相の重責を担ったこと。東日本大震災からの復興や日本経済の再生などで大きな実績を残したこと。外国の首脳を含む国際社会から極めて高い評価を受けていることを挙げている。

これに対し、野党側は、日本維新の会と国民民主党は、国葬を容認する立場だが、共産党や社民党、れいわは「弔意の強制につながることが懸念される」などとして反対している。立憲民主党は「予算など不明な点が多い」として、国会で政府に説明を求める考えを示している。

自民党の茂木幹事長は「野党は、国民の声や認識とかなりズレているのではないか」と批判したのに対し、野党側が強く反発している。

このように与野党の意見が対立しているが、国の予算・税金の投入を伴う以上、国民の代表である国会で、首相が説明し、与野党が質疑を行うことは最低限、必要だと考える。

そのうえで、国民の多くが国の最高責任者に哀悼の意をささげられるよう首相や、与野党はできるだけ党派色を抑えて、静かな環境で葬儀が営まれるよう努めてもらいたいと思う。

 難題対応へ問われる首相の政治姿勢

ところで、政界では、岸田首相がいち早く、国葬の方針を打ち出した理由などに関心が集まっている。

というのは、党内最大派閥の会長を務めていた安倍元首相亡き後の政界で、岸田首相がどのような党内運営、政権運営を行うのかという点と関係するからだ。

自民党内では、岸田首相が早い段階で国葬の方針を示したのは、安倍氏を強力に支えてきた保守勢力の反発を招かないようにするためではないかとの見方が出ている。

これに対し、葬儀の扱いが曖昧なままで党内がギクシャクするより、早期に対処方針を示したことで、党内が安定して良かったなどの声も聞かれる。

こうした点について、自民党の長老に聞くと「岸田首相が党内の派閥や力関係にに目が向きすぎると、世論の側から、国民への説明が不十分だといった批判や支持離れを招く恐れもある」と指摘する。

参院選挙後の政治は、コロナ感染の急拡大をはじめ、物価高騰の加速、防衛費の大幅増額、さらには憲法改正など大きな政治課題が目白押しだ。

加えて、こうした大きな問題は、党内の意見と世論の受け止め方に大きな違いを抱えているケースが多い。

安倍元首相の国葬問題は、こうした難題処理にあたっての岸田首相の政治姿勢、特に党内への配慮と、世論への目配りとのバランスをどのようにとるのか、最初の試金石ともいえる。

このバランスを間違うと、年末に向けて難題が山積している中で、岸田政権の足元が揺らぐことになりかねないとみる。(了)

 

ポスト参院選政局 岸田首相の求心力は?

今年最大の政治決戦となった参議院選挙は、自民党が単独で、改選議席の過半数を獲得して大勝した。

自民、公明の与党側は去年の衆院選でも勝利しており、これで衆参両院のいずれも60%を上回る議席を獲得し、安定した政権基盤を築いたことになる。

本来であれば、喜びに沸く自民党のはずだが、開票が終わった今も党内は重苦しい空気に包まれたままだ。選挙最終盤の8日午前、奈良市で街頭演説中の安倍元首相が銃で撃たれて亡くなるという衝撃的な事件が起きたからだ。

首相在任中は”安倍1強”と言われ、退陣後も最大派閥を率いてきた期間を合わせると10年にも及ぶだけに党内の喪失感と動揺は、未だに収まっていないように感じられる。

ウクライナ危機などで内外の情勢が揺らぐ中で、岸田政権の政権運営は大丈夫なのか。先行き不透明感が強い参院選後の政局は、どこをみておくとわかりやすいのか、探ってみた。

 不透明政局”政治日程は逆に読む”

参院選挙の投開票から一夜明けた11日午後、岸田首相は自民党本部で記者会見し「暴力が突然、偉大なリーダーの命を奪ったことは悔しくてならない」と安倍元首相の死を悼んだ。

そして「今の日本は大きな課題が幾つも重なり、戦後最大級の難局にある」として、有事の政権運営を心掛け、自ら先頭に立つと決意を表明した。

焦点の内閣改造・自民党役員陣については「今の時点では具体的なものは何も決めていない。今後の政治日程を確認しながら、人事やタイミングを考えなければならない」とのべるにとどめた。

岸田首相が触れた今後の政治日程については、安倍派の後継問題をはじめ、8月末の来年度予算編成の概算要求締め切り、内閣改造・自民党役員人事、秋の臨時国会などと並ぶが、こうした日程に思いを巡らしても迷路をさまようだけだ。

政治はどう動くかは「政治日程は逆に読む」とわかりやすい。数年先までの日程を見通して、何が政治の流れを決定づけるかということになる。

◇来年・2023年4月には統一地方選挙がある。◇2025年7月に参議院議員の任期満了、◇10月に衆議院議員の任期満了となる。2025年が大きな節目になるのは、間違いない。

その前の2024年9月に岸田首相の自民党総裁としての任期が満了となる。議院内閣制の日本では、自民党総裁でなくなれば、首相の座を退任することになる。当面の政局を方向づけるのは、自民党総裁選挙ということになる。

岸田首相は再選をめざすとみられるので、この総裁選を重視し、そこから逆算して政治日程を組み立てるものとみられる。場合によっては、総裁選前に衆院解散・総選挙をめざすかもしれない。

これから2年間、岸田政権は再選を念頭に何を政策の重点として実行していくか、そのための人事についても検討を続けているものとみられる。

一方、安倍氏なき後の安倍派はどうなるか。派内には、衆目一致する有力な後継者が絞られていない。このため、後継の派閥会長は決めずに、主要幹部による集団指導体制を採用する方向で調整が進められているようだ。

但し、安倍派内には、次の総裁選立候補に強い意欲を示している幹部が複数いる。2年後の総裁選までには、立候補に必要な推薦人を確保するために派内のグループ化が進み、事実上、分裂する可能性が大きいとみる。

自民党議員の4分の1に当たる93人が所属する最大派閥なので、派閥の分裂、党内流動化の動きをはらみながら、政治は動いていくことになる。

 注目点多い内閣・党役員人事

以上を頭に入れたうえで、岸田政権が対応を迫られるのが内閣改造・自民党役員人事だ。参議院議員の金子・農水相と二之湯・国家公安委員長の2閣僚は7月25日の任期満了で引退するので、その後任の補充が必要になる。

今のところ、人事は8月下旬以降まで持ち越される見通しだ。安倍元首相が死去したことで、安倍派の運営などをどうするか調整に一定の時間がかかるからだ。議員の任期が切れた閣僚は、民間人として職務を継続させる方法はある。

その内閣と党の人事、最大の焦点は、党の要である幹事長人事だ。首相の政権運営に協力してもらう一方で、総裁選では強力なライバルになる可能性がある。参院選が勝利したことで茂木幹事長の再任説が強いが、最終的にどうなるか。

また、安倍派の処遇も難問だ。生前、安倍元首相は自らの派閥の規模に反して、閣僚などへの起用が少なかったことに不満を漏らしていたとされる。

人事の調整で、安倍派の交渉窓口を誰が務めるかという問題もあり、岸田首相は安倍派の処遇に頭を悩ますことになりそうだ。

さらに自民党内は世代交代の時期を迎えており、実力者の政界引退が近づきつつある。

具体的には、二階元幹事長は83歳、麻生副総裁も81歳、森山裕元国対委員長は77歳だ。本人たちは進退に言及していないが、党内では、次の衆院選挙を機会に引退するとみられている。

実力者の安倍氏の死去で、岸田首相は政権運営のフリーハンドの範囲が広がった面がある。そうした優位な立場を生かして、人事面で主導権を握ることができるのかどうか、今回の人事は注目点が多い。

 防衛力、憲法改正の扱いが焦点

次に国民の側からみると最大の関心は、岸田首相は政権の最重点課題として何を取り上げるかという点とみられる。

岸田首相は14日夕方の記者会見でも「一つ一つの課題が何十年に一度あるかないかの大きなものだ。そうした大きな課題が幾重にも重なり、戦後最大級の難局にある」という認識を示した。

確かに、ウクライナに侵攻したロシアに対する経済制裁をはじめ、物価高騰、抜本的な防衛力の整備、30年も給料が上がらず停滞が続く日本経済の立て直し、人口急減社会と社会保障の整備など難題が数多く横たわっている。

さて、何を最重点に取り上げるのか。先の会見でも時代認識は明らかにしたが、肝心の難題への対処方針、政治課題の優先順位なども明らかにしてもらいたい。

その際、憲法改正の問題をどれくらいのスケジュール感で考えているのか。また、防衛力の整備の具体的な内容などについて、明確にすることが必要だと考える。

 自民党内と世論のバランスとれるか

岸田政権は「戦後最大級の難局・難題」に臨むことになる。まずは、岸田首相が人事、主要政策で主導権を発揮し、政権の求心力を高めることができるかどうかが問われる。

岸田首相はこれまで安倍元首相の協力を得るため、節目節目に報告・相談をしながら政権運営に当たってきたが、安倍氏を失った政界で1人立ちできるかどうか。

難題処理をめぐって自民党内では、総論賛成・各論反対となる場面が多く、意見の取りまとめには、相当な力技も必要になる。

一方、党内に目が向きすぎると世論の支持離れを招くことになる。岸田首相は14日の会見で「安倍元首相の国葬」を今年秋に行う方針を表明した。国葬は、吉田茂元首相が唯一の例で、全額国費でまかなわれる。

憲法改正、防衛力整備の進め方をめぐっても、党内と世論の認識に違いがある。党内と世論の意見が対立した場合、岸田首相自らが説得する場面にも迫られるだろう。

岸田首相にとって参院選後の政治は「黄金の3年間」というよりも「苦難の3年間」になるのではないか。

そして、岸田政権が安倍政権に続いて長期政権へとなるのか、それとも短期政権が続くことになるのか、国民の側はしっかりみていく必要がある。(了)

 

自民大勝も”想定の範囲内”

ウクライナ危機など激動が続く中で行われた参議院選挙は、自民党が単独で改選議席の過半数を獲得し大勝した。与党の公明党と合わせて、改選議席を大きく上回り、安定多数を確保した。

選挙の最終盤には、選挙応援演説中の安倍元首相が銃で撃たれて亡くなるという衝撃的な事件も起きた。

今回の選挙結果をめぐっては「ウクライナ情勢などを受けて、世論は保守の側にシフトしているのではないか」「岸田政権は防衛力の強化や、憲法改正への動きを加速するのではないか」といった声も一部で聞かれる。

今回の選挙をどのように評価するか、あるいは、有権者はどのような受け止め方をしているのか。こうした点を明らかにするために、自民大勝の結果をさまざまな角度から分析してみたい。

自民大勝、”想定の範囲内”の声も

自民党の長老に今回の選挙結果の受け止め方を聞いてみた。「マスコミは、自民大勝と強調するが、”想定の範囲内”ではないか」と話す。

この長老によると、自民党は63議席を獲得し、単独で改選議席125の過半数を獲得したが、こうした結果は事前に想定できたことだというわけだ。

具体的には、全体の勝敗を左右する1人区で、野党側の共闘体制が崩れたことで、勝利できるチャンスが広がった。過去2回の選挙では、32ある1人区の全てで、野党側は候補者を1本化したが、今回は11選挙区に限定された。

結果は、自民党が28勝4敗と大きく勝ち越した。前回は10敗、前々回は11敗だったが、前回との比較でいえば、負けを6つ減らしたことが、60台に乗せ勝利につながったとの見方だ。

私も同じような見方で、選挙は前回、前々回との比較をよくするが、実は、その前の3回前の選挙の戦い方が重要だ。「2013年の参院選」に似た戦いになるのではないかとみていた。

この時は、安倍元首相が政権復帰した直後の勢いのある時期で、自民党史上最多の65議席を獲得した。今回、岸田内閣の支持率と自民党支持率は、いずれも3年前を上回った一方で、2013年の水準までには達していなかった。

このため、自民党の獲得議席は3年前の選挙を上回り、2013年選挙時との間に落ち着くのではないかとみていた。

自民党の長老の言うように「想定の範囲内」で、自民党の勝因は、野党を分断し「野党共闘の崩壊」が大きかったとみている。

但し、岸田自民党が獲得した63議席は、安倍政権の65議席に迫る水準だ。また、小泉政権が躍進するきっかけになった2001年の参院選が64議席だったので、それに次ぐ歴代3位の議席数で、評価されていい。

また、選挙の内訳をみると、◇比例代表選挙は小泉政権の20議席、安倍政権の18議席とほぼ同じだった。◇もう一つの選挙区選挙の方で、1人区を中心に議席を着実に増やしていったことが勝利につながったと言える。

自民支持層拡大より、無党派層の獲得

次に有権者の投票行動から分析するとどうなるか。新聞、通信社などが行っている出口調査=実際に投票した有権者を対象にした調査結果を基に考えてみたい。

各社の出口調査とも「ふだん支持する政党」について、過去の調査と大きく違っているとの説明はない。そうすると、特に支持する政党がない「無党派層」の投票行動が、勝敗のゆくえを左右することが多い。

読売新聞の出口調査(11日朝刊)によると「ふだん支持している政党」は自民が37%、立民9%、維新9%などと続き、「無党派層」は18%で、3年前の参院選、去年の衆院選とほぼ同じ水準で大きな変化はなかったという。

この無党派層の投票先としては、◇自民が22%でトップ、◇維新が17%、◇立民が16%だった。自民や維新が上位を占めたのに対し、従来は上位にあった立民や共産は伸び悩んだことがことがわかる。

以上のことから、今回の選挙では、自民党は、自民支持層が拡大し支持基盤を強化して勝利したというよりも、「無党派層の支持を獲得し受け皿」になったことが大きな要因になったことが読み取れる。

もちろん、従来の自民支持層の支持や、連立を組む公明支持層の支援も支えになったとみられるが、「無党派層の獲得」が競り勝つうえで、大きな効果を発揮したとみている。

安倍元首相事件、選挙への影響は?

ところで、安倍元首相が亡くなった事件が世論の同情を誘い、自民党の勝利に影響したのではないかといった声も聞くが、本当だろうか。

いわゆる”同情票”を確認する方法がないので、論評は難しいが、メディア関係者の中には、期日前投票者を対象にした出口調査で、自民党への投票割合が事件の翌日に増えたとの指摘を聞く。

また、投票率が上昇したことも、今回有権者の関心を高めたとの説も聞く。

しかし、期日前投票で自民党への投票が増えたのであれば、政党を選ぶ比例代表の得票数がもっと増えるはずだが、議席数が増えるほど得票数は増えていない。

投票率についても、3年前は”亥年選挙”。統一地方選挙に続いて参院選も行われる年で、投票率が下がる傾向があった。その年と比べて、今回数ポイント投票率が上がったので、影響したのではと関連付けるのは無理がある。

自民党の選挙関係者にも聞いてみたが、「日本人は、亡くなった方には丁寧に弔意を示す人が多いが、選挙と関連づけて考える人は少ない」との見方だ。

私も「日本の有権者はリアルで、冷静かつ慎重、賢明な選択をしている」という見方をしており、直接的な影響は少なかったのではないか。

成果を出せるか、失望すれば離反も

選挙結果を受けて、岸田首相は11日午後、記者会見し、今後の政権運営の方針などを明らかにした。

この中で、岸田首相は「多数の議席は、国民からの叱咤激励だ。今の日本は戦後最大級の難局にある」との認識を示したうえで、再拡大しているコロナ対策をはじめ、物価高騰対策、防衛力の整備や、憲法改正、拉致問題などの難題に取り組んでいく考えを強調した。

問題は、岸田政権が難題の解決に向けて、果断に実行できるのか。具体的な対策や目に見える成果を早期に出せないと、民意が失望し離反する恐れもある。

それだけに内外の難問にどのような優先順位をつけて取り組んでいくのか、明確に打ち出す必要がある。

また、最大派閥を率いてきた安倍元首相が死去した後、岸田首相は、政権与党内の意見調整に強い指導力を発揮できるか、険しい道が続く見通しだ。(了)

 

 

 

”冷静・公正な参院選挙を” 元首相銃撃事件

参議院選挙の投票が2日後に迫った7月8日正午前、奈良市で選挙応援演説中の安倍元首相が男に銃で撃たれ、亡くなるという衝撃的な事件が起きた。

現場で取り押さえられ逮捕された41歳の容疑者は、元自衛官で「安倍元首相に不満があり、殺そうと思って狙った」という趣旨の供述をしているという。

一方で、「元首相の政治信条への恨みではない」とも供述しているということだが、動機など詳しい事件の背景は明らかになっていない。

今回の事件は、自由な政治活動や言論を封殺するものだ。しかも、民主主義の根幹である国政選挙の最中という重い意味を持っており、決して許されない。

私事になるが、安倍氏が2012年、自民党総裁選に再び挑戦して総裁に返り咲いた時や、その年の衆院選挙、さらに政権復帰した後、NHKの番組のインタビューや日本記者クラブの討論会などでお世話になった。心からお悔やみ申し上げたい。

元首相が選挙の演説中に凶弾に倒れるという事態に、これまで経験したことのない衝撃を受けた。犯人の動機や、事件の背景を徹底して捜査し、全容を国民の前に明らかにするよう強く要望しておきたい。

そのうえで、私たち国民は、こうした卑劣な政治テロに決して屈してはならない。日本は、成熟した民主主義国であることを証明するためにも、参院選挙をきちんと実施することが極めて重要だ。

9日は選挙運動の最終日、翌10日は投開票日が迫っている。私たち国民は、何をすべきか。今のような緊急事態には、次の2点をやり抜くことが重要だ。

1つは、政党、候補者などの対応だ。安倍首相が倒れた8日は、政党によっては急遽、選挙運動を中止した。しかし、選挙運動最終日の9日は、各党が正々堂々、政策や所信を訴えて、選挙運動をやり抜いてもらいたい。

2つ目は、私たち国民の側の対応だ。事件の全容はまだ明らかになっていない今の時点では、まずは、冷静な判断を取り戻すことを心掛けたい。危機の際には、フェイクニュースや虚偽情報が飛び交うことも想定しておく必要がある。

そのうえで、国民一人一人が改めて「自らの判断基準」に照らして、政党や候補者を選んで1票を投じていただきたい。

岸田政権の実績評価をはじめ、ウクライナ情勢などによる物価高騰対策、防衛力をはじめとする外交・安全保障政策など数多くの論点がある。

以上の2点を実行することで、まずは「国民が冷静で、自らの判断基準で選択」、そして政党とともに「自由で公正な参議院選挙」をやり抜きたい。

可能な限り多くの国民が投票に参加するよう呼びかけたい。そのうえで、選挙後は新たな国会で、与野党はさらに議論を尽くし、合意点を広げていく取り組みを強めてもらいたい。

一方、今回の参院選では、肝心な争点・論点が深まらなかったという不満を多くの国民が抱いているように思う。岸田首相と与野党は、こうした国民の不満、批判に応え、内外の懸案を速やかに実行し、具体的な成果を見せてもらいたい。

政治家の暗殺事件といえば、戦前の1921年、日本で初めての政党内閣を組織し平民宰相と言われた原敬が、東京駅で青年に刺殺された事件が有名だ。この事件を契機に政党内閣が崩れ、満州事変、太平洋戦争の道へと転落していった。

今の日本は当時と異なり、成熟した民主主義の力を持っていると考えています。日本の民主主義の力を証明するためにも「冷静で賢明、公正な選挙」をやりぬこうではありませんか。(了)

 

 

 

参院選、メディアの予測は当たるか?

参議院選挙の終盤の情勢について、メディア各社の分析が6日までに出そろい、各党の獲得議席を予測している。

去年秋の衆議院選挙では、メディアの予測が大きく外れた。政権与党・自民党の獲得議席をめぐって、過半数をめぐる接戦と予測したが、結果は安定多数の議席を確保した。予測の範囲内に収まらなかったメディアもあった。

今回の参院選では、メディアの予測は当たるだろうか。正確な予測のためには、何が必要なのか。一方、国民の側も予測の意味や活用の仕方などを考えておく必要があるのではないかと感じる。メディアの予測報道のあり方を取り上げる。

 予測 ”与党改選議席の過半数超え”

メディア各社の予測報道の内容を確認しておきたい。ここでは、長年選挙報道を続けている読売、毎日、朝日3社の「終盤情勢」を基に分析してみたい。(毎日は「中盤情勢」としており、「終盤情勢」は今後、出される見通し)

▲参院選挙は改選と非改選とに分かれるのをはじめ、少数の党派も多くて複雑なので、政権与党の自民党を中心にみていきたい。3社の各党の獲得議席の予測は次のようになっている。

◆読売、自民55~65「与党改選過半数の勢い」。◆毎日、自民53~66「与党堅調、改選過半数に届く見通し」、◆朝日、自民56~65「自公、改選過半数の勢い維持」となっている。

▲野党側については、◆読売と朝日は、立憲民主党は改選議席23を割る可能性があること。維新は改選議席6から大幅に伸ばし、比例代表では立民を上回る可能性があるとしている。

▲一方、選挙結果によっては、選挙後、憲法改正の動きが加速する可能性がある。憲法改正に前向きな勢力、自民、公明、維新、国民の4党が改正発議に必要な「3分の2」を確保するかどうかも大きな焦点だ。

◆朝日と毎日は、4党が「3分の2」を超える可能性があるとしている。

このように自民、公明の与党は、改選議席125の過半数を上回る勢いにあること。野党側は、立民が伸び悩む一方、維新が議席を増やす見通しで、比例代表選挙で接戦を繰り広げているという見方では、ほぼ一致している。

   予測当たる公算大、情勢調査に課題

さて、こうした予測は当たるかどうか。結論を先に言えば、私も前号のブログで明らかにしたように「与党で改選議席の過半数を上回る」との見方をしており、予測は当たる可能性が大きいとみている。(前号7月1日「与党優勢、波乱は物価高騰、参院選」)

その理由は、今回の選挙は野党共闘が崩れたことで、与野党の力の差が広がり、選挙情勢が読みやすくなったことがある。

また、「情勢調査」、選挙の勝敗に重点を置いた世論調査のことだが、衆議院の小選挙区に比べて、参院選の選挙区は、都道府県単位で対象が広いので、有権者の状況を把握しやすい。比例代表は、全国が選挙区なので、さらに全体の傾向をつかみやすい。

端的に言えば、世論調査のサンプル数が衆院選に比べて、集めやすいし、精度も高くなる。したがって、予測も当たる可能性が大きいという事情がある。

それでも「情勢調査」ですべてがわかるわけではない。具体的には、選挙区選挙で、焦点の全国で32ある「1人区」の結果は、全体の勝敗を左右するが、メディア各社で勝敗の予想でかなりの違いがある。

例えば、読売は、野党系がリードしている選挙区は1つで、接戦選挙区が12、残りは自民リードとみている。毎日は、接戦区は5から、8に増えたとの判定。朝日は、野党系候補が有利な情勢にあるのは2つ、接戦区は6から、2に減少したとの判断だ。

私は、1人区は、接戦区のうち5つ程度は開票してみないとわからないほどの激戦になるのではないかという見方をしている。物価高騰、コロナ感染再拡大などの不確定要素もある。加えて、もう一つ「情勢調査方法の違い」が影響しているのではないかとみている。

というのは、この「情勢調査」は去年の衆院選挙から大きく変わり、社によって調査方法が異なる移行期・試行錯誤の段階にあると思う。

具体的には以前は、各家庭にある固定電話をかける方式だったが、固定電話を持っている家庭自体が少なくなり、先の衆院選挙から、固定電話だけの情勢調査方式は姿を消した。

今はメディアによって、◆固定電話と携帯電話の両方を組み合わせた方式(読売など)。◆民間大手の携帯会社のインターネット会員を対象にした調査方式(毎日など)。◆固定電話と携帯電話、それにインターネット調査会社4社に委託して実施する調査の組み合わせ(朝日)など様々だ。

したがって、どの社の方式が選挙結果に近いデータを得られたかなどを見極める必要がある。

一方、メディア各社は、企業秘密もあるだろうが、データをできるだけ公開して説明してもらいたい。「情勢調査のあり方」が選挙後、新たな課題になりそうだ。

 予測の意味と活用の仕方がカギ

選挙予測については、国民の側も予測報道の意味や、活用方法などを考える必要があると思う。

どういうことかと言えば、報道機関は正確な報道を行うことが第1の役割だ。そのうえで、有権者の側に「投票に当たって判断材料の1つとして、選挙結果の見通しを知っておきたい」という要望に応えたいという考えがある。

政治にできるだけ民意を反映させるためにメディアの予測報道は意味があり、必要だと個人的には考えている。

このため、どのメディアの予測が当たったか、外れたかをことさら強調するのは、あまり意味がないと考える。

それよりも、メディアが選挙の争点をはじめ、政策の評価、選挙後の与野党の勢力の見通しなど国民に可能な限り多くの判断材料を提供するよう叱咤激励する方が生産的で望ましいことではないかと考える。

 出口調査と選挙報道の充実を

最後に「出口調査」についても触れておきたい。選挙の正確な報道という観点からすると、出口調査が最も正確なデータを得ることができると考える。

現役時代、NHKで政治記者と解説委員として選挙報道に携わった。出口調査は、実際に投票を済ませた有権者を対象にしているので、世論調査・情勢調査に比べて、予測の精度が各段に高くなるというのが実感だ。

但し、問題点もある。1つは、おカネがかかり、億単位の予算が必要になる。もう1つは、最近は期日前投票が増えてきたので、期日前投票も含めた出口調査を十分に行えるのか、調査員の確保などの面で難しい問題がある。

こうした問題はあるが、出口調査は、当落を判定するだけでなく、国民は何を重視し、何を選択したか有権者の投票行動の意味も正確に把握できる。それを選挙後、政治の側にぶつけたりすれば、さらに大きな意味を持つ。

選挙報道は、選挙の勝敗だけでなく、有権者の投票行動などを多角的に分析した中身の充実が問われている。

率直に言わせてもらうと以前に比べると、こうした点は各社とも弱体化しているのではないか。選挙のプロと言われる記者、世論調査や出口調査の分析などに当たる専門家も少なくなった。

こうした背景には、メディア各社の経営陣の資質や責任が大きいと個人的にはみている。

一方、現役の記者、編集委員、解説・論説委員などの諸氏も今回の選挙の意味、政治の側の役割、能力などの課題、問題を深く分析、論評してもらいたい。10日の投開票日の報道や論評に期待したい。(了)

 

 

 

”与党優勢、波乱は物価高騰” 参院選

参議院選挙は折り返し点を過ぎて、いよいよ後半戦に入った。G7サミットなどへの出席のため、選挙期間中に異例の海外訪問をしていた岸田首相は帰国し、各党とも最後の追い込みに入っている。

さて、選挙情勢をどうみるか。与野党の関係者の話を総合して予測すると、自民、公明の与党は、改選議席の過半数を固めて優勢といえる。対する野党側は共闘体制が崩れ、焦点の定員1人の「1人区」でも苦戦が続いているのが特徴だ。

一方、岸田内閣の支持率や自民党の支持率に下降傾向が、現れている。政府の物価高騰対策に対する不満が背景にあるものとみられ、選挙に波乱があるとすれば、この物価高騰が要因になることも予想される。

また、猛烈な暑さが続く中で、投票率がどうなるか。前回は、戦後2番目に低い投票率だったが、改善なるか。参院選の情勢や背景を探ってみる。

 与党、改選議席の過半数確保の勢い

さっそく、選挙情勢からみていきたい。自民党関係者に聞くと「想定通りの戦いで、前回・2019年の選挙を下回るような要素はない。前回獲得の57議席以上、60台に乗せるのではないか」と自信をのぞかせる。

選挙全体を左右するといわれる「1人区」をみても32選挙区のうち、27程度で自民党が優勢だ。定員が2人以上の「複数区」でもすべての選挙区で1議席を確保したうえで、北海道、千葉、東京、神奈川では2議席目にメドが立ちつつある。

比例代表選挙は、前回は19議席だったが、今回は1~2議席の上積みが可能だとみている。自民党は58議席以上、60台を確保する勢いをみせている。

公明党は、接戦が続いている選挙区を残しているものの、比例代表と合わせて、前回と同じ14議席が視野に入りつつある。

このため、岸田首相が勝敗ラインとして設定する「非改選を含めて与党で過半数」という56議席はもちろん、「与党で改選議席の過半数」63議席も上回る勢いがある。(橋本聖子参議院議員が近く自民党に復党した場合、56議席→55議席)

 比例・野党第1党、立民と維新の争い

野党側は、カギを握る1人区で候補者を1本化できた選挙区は11で、前回・前々回の3分の1に止まり、苦戦を強いられている。

野党側が今の時点でやや優位にある選挙区は、立憲民主党、国民民主党、無所属候補を含めて、青森、岩手、山形、長野、沖縄の5か所程度に止まっている。

自民党と激しく競り合っている選挙区が5つ程度あり、この激戦区でいくつ上積みできるかが焦点だ。野党系候補が勝利した1人区は、2019年は10,2016年は11あったが、今回はこれを下回り、1ケタ台に落ち込む公算が大きい。

野党側は、野党内で激しく競い合っているのが特徴だ。野党第1党の立憲民主党は改選議席23を上回る目標を掲げているが、改選議席を割り込むことも予想される。

維新は、改選6議席の倍増と比例代表選挙で立憲民主党を上回る得票をめざしている。共同通信の世論調査で、比例代表の投票先として、維新が立民を上回っていたが、最新の調査では逆転しており、比例の野党第1党争いが続く見通しだ。

このほかの党の改選議席は、国民民主党が7、共産党が6、社民党1となっており、各党の勝敗を評価するうえで目安となる。

一方、今回の選挙では、憲法改正に前向きな勢力が改正を発議できる総定数の「3分の2」、166議席に達するかどうかも焦点だ。具体的には、自民、公明、維新、国民の4党で、非改選の84に加えて、今回82議席が必要になる。4党が今の勢いを維持した場合は、届く見通しだ。

 岸田内閣、自民支持率ともに下降傾向

このように選挙戦は与党優勢で推移しているが、ここにきて、岸田内閣の支持率と、自民党の支持率がともに下降傾向を見せ始めた。

読売新聞が6月22・23日に行った調査では、岸田内閣の支持率は57%で、6月上旬の前回調査から7ポイント下落した。自民党の支持率も6ポイント下がって37%、比例代表の投票先も9ポイント下がって36%となった。

NHKが6月中旬から1週間ごとに行っているトレンド調査でも、岸田内閣の最新の支持率は50%で、この2週間に9ポイント下落した。自民党支持率も35.6%で、2週間で4.5ポイント下落した。(最新・投票日2週前調査と、その2週前調査との比較)

NHKの調査では、政府の物価高騰対策について「評価する」が35%に対し「評価しない」が56%と上回っており、物価高騰対策が影響しているものとみられる。

但し、岸田内閣や自民党の支持率は下落しているものの、野党の支持率は上がっていない。こうした批判がどのような投票行動になって現れるか、わからない。

 物価高騰、与野党勢力、投票率がカギ

後半戦の焦点は何か。これまでの議席予想に変化・波乱が起きるとすれば、政府の「物価高騰対策」への批判が強まる場合が考えられる。

厳しい暑さが続き、東京電力管内では「電力需給ひっ迫注意報」が出されてきたことから、エネルギー確保や経済政策を含めた物価高騰対策の論戦がどのような展開をみせるのか焦点になりそうだ。

また、岸田首相がG7サミットやNATO首脳会議に出席したのを受けて、ロシアや中国に対する「日本外交の戦略・対応」や、「防衛力の整備の具体的な内容、予算の規模、財源」をめぐる論戦のゆくえも注目される。

さらに、参議院選挙が終わると衆議院が解散されない場合、向こう3年間、国政選挙がない期間が続くことになる。このため、国民が与野党の勢力はどのような形が望ましいと考えるか。

与党を増やして岸田政権の実行力に期待するのか。与党を増やしすぎると内輪の抗争が激化するとみて、野党を増やす方へ動くのか「与野党の勢力バランス」も判断の要素になりそうだ。

さらに気になるのは「投票率」だ。前回は48.8%、50%を割り込み、戦後2番目に低い投票率になった。今の日本政治が国民の関心を引き付ける力を失っていることの反映だ。

ロシアによるウクライナ侵攻は長期化が予想される中で、日本は国際社会の中でどのような役割を果たすのか。どんな経済・社会を目指すのか、政党のリーダーは構想や目標、道筋をもっと明確に打ち出して議論を深めるべきだ。

私たち国民も政治の側の訴えに耳を傾け、ベストの選択肢がない場合は、よりましな選択を心掛け、1票を投じたい。(了)

★追記(7月1日16時:東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の会長を務めてきた、参議院議員の橋本聖子氏が組織員会の解散を受けて、1日付で自民党に復党した。これに伴い、自民・公明両党の非改選の議席は、1つ増えて「70」となる。また、自公両党が勝敗ラインとしている参議院全体の過半数を維持するために必要な議席は、56から「55」になる)