岸田政権と9月政局のゆくえ

岸田政権は来月4日に政権発足から1年を迎えるが、ここにきて内閣支持率が急落し、政権発足以来最低の水準が続いている。

凶弾に倒れた安倍元首相の葬儀を国葬とする政府方針の是非をはじめ、旧統一教会と新たに任命した閣僚など政務三役や自民党議員の関係が次々に明るみなり、世論の厳しい批判を浴びているためだ。

岸田首相は近く自ら国会の閉会中審査に出席し、国葬を決断した理由などについて説明する方針だが、野党側は国葬にかかる費用の全体を明らかにするよう求めるなど対決姿勢を強めている。

こうした岸田首相の説明で、事態を沈静化できないと秋の臨時国会だけでなく、今後の政権運営にも大きな影響が予想される。岸田政権のゆくえを左右する9月の政治の動きを探ってみる。

 9月の政治・外交日程 閉会中審査も

まず、9月の主要な政治・外交日程を見ておきたい。国会の動きでは、◆焦点の安倍元首相の国葬をめぐる閉会中審査を8日以降に行う方向で、与野党の調整が進められている。

◆旧統一教会の問題では、自民党が党所属国会議員に求めていた旧統一教会との関係について、10日までの週内に公表される見通しだ。

◆安倍元首相の国葬は9月27日に行われる予定で、この前後に海外から来日した各国首脳と岸田首相との弔問外交が行われる。

◆一方、秋の国連総会が開幕し9月下旬に岸田首相が演説する。◆29日は、日中国交正常化から50年の節目を迎える。

◆このほか、11日は沖縄県知事選の投開票日で、現職と新人3つ巴の選挙戦に決着がつく。◆25日には、公明党大会で新代表が決まる。◆今月末には、秋の臨時国会が召集される見通しだ。

このように秋の政治が本格的に動き始めるが、今年は、安倍元首相の銃撃事件がさまざまな分野に影響を及ぼしている。

特に安倍元首相の国葬と、銃撃事件をきっかけに急浮上した旧統一教会の問題が岸田政権を直撃しており、この問題が秋の政局を大きく左右する見通しだ。

 旧統一教会問題、自民の点検結果は

国葬と旧統一教会の問題で、岸田首相は厳しい状況が続いている。先月末の記者会見で岸田首相は、閣僚などを含む自民党議員と旧統一教会との関係が明らかになっていることを陳謝し、「旧統一教会との関係を断つよう徹底する」と表明した。

また、国葬については、国会の閉会中審査に自ら出席し、説明する考えを明らかにした。こうした方針は当然と思えるが、決定まで1か月半もかかった。

この問題、野党側は「自民党の対応は、議員個人の点検に委ねており、党の調査としては不十分だ」として、厳しく追及する構えだ。

国葬についても法的な根拠が明確でないことに加え、全体の費用がどの程度になるのかも明らかになっていないとして、批判を強めている。

今後の展開はどのようになるか。自民党の点検結果は、当初6日に公表する予定だったが、遅れている。10日までの週内には公表される見通しだ。

野党側は、最も深く関係していたとされる安倍元首相をはじめ、自民党の萩生田政調会長、山際経済再生担当相をターゲットに追及を強めることにしている。

このように一連の問題をめぐっては、自民党の点検結果で、どこまで事実関係が明らかにされるかが焦点だ。与野党の主張や論点などには隔たりが大きいことから、事態が沈静化する公算は極めて小さいとみられる。

 政権浮揚か、低空飛行政権かの岐路

それでは、岸田政権や政局にどんな影響が出てくるか。岸田内閣の支持率は、NHK世論調査で、参院選の大勝を受けて7月は59%と政権発足以来最高となった。ところが、8月上旬の調査では46%と13ポイントも下落、発足以来最低の水準になった。

続いて、8月10日の内閣改造直後に行われた読売新聞の調査では、前回調査から6ポイント下がって51%で過去最低。8月末の朝日新聞の調査でも前回から10ポイント下落の47%、不支持率は14ポイント増の39%で、発足以来最高となった。

報道各社の世論調査で共通しているのは、8月に入って内閣支持率の急落が続いていること。その理由としては、旧統一教会の問題について、政府や自民党の説明が不十分だと受け止められていることが挙げられる。

安倍元首相の国葬方針についても「賛成」より「反対」が多い点で共通している。岸田首相が政権の浮揚をねらって断行した内閣改造・自民党役員人事は、不発に終わったといえる。

自民党長老に岸田政権の評価を聞いてみると「去年秋の衆院選に続いて、夏の参院選でも大勝し、政権は安定するはずなのに足元が揺らいでいる。旧統一教会の問題もあるが、コロナ感染爆発が起きているのにメッセージすら出せていない。やるべきことができていない」と指摘する。岸田首相の発信力や指導力に問題があるとの厳しい評価だ。

旧統一教会の問題が沈静化できない場合は、秋の臨時国会の本番では、野党側がこの問題を集中的に取り上げ「旧統一教会国会」になるのではないかという見方も聞かれる。

臨時国会では、物価高騰やエネルギー対策、経済・暮らしの立て直しと補正予算案の編成、衆議院の1票の格差是正の「10増10減案」などの懸案が控えている。こうした懸案処理に影響が出てくることも予想される。

このようにみてくると当面の焦点は、岸田首相が旧統一教会や国葬の問題で、国民の疑念を晴らし、信頼回復へこぎつけられるかどうかが、カギになる。

そのためには、国会論戦には逃げの姿勢ではなく、積極的な姿勢で臨み、焦点の旧統一教会の問題には、安倍元首相の関係を含め事実関係を明らかにしていくこと。国葬の問題も全額を国費でまかなう以上、費用全体のメドは明らかにすることは必要ではないか。

そのうえで、コロナ対策や防衛力の整備、経済再生などに向けて、岸田首相自らがやり遂げたい政治課題を明確に打ち出すことが必要ではないかと考える。

旧統一教会など問題は、政治や政権のあり方などに大きな影響を及ぼす。難題を数多く抱える中で、岸田政権は安定した政権運営を取り戻せるのか、それとも国民の失望を買い、内閣支持率が落ち込み、低空飛行を続けることになるのか、岐路に差し掛かっている。岸田首相の判断を注視したい。(了)

 

 

 

 

 

立民、維新 ”戦略的連携”はできるか

先の参議院選挙で敗北した立憲民主党は26日、岡田幹事長らベテランを重視した新たな執行部を発足させた。一方、選挙で躍進した日本維新の会は27日、初の代表選挙を行い、新たな代表に馬場・共同代表を選出した。

これで参院選挙後の野党陣営の体制がそろったことになるが、国民の強い関心や期待を得られるかどうか、個人的にはかなり難しいとみる。

というのは、国民の側からみると岸田政権も頼りないが、野党側はそもそも何をめざしているのかわからないといった厳しい受け止め方が強いからだ。

結論を先に言えば、立憲民主党と維新は”水と油”のような関係にあるが、国会対策を中心に”戦略的連携”で足並みをそろえ、巨大与党に対決できる状況をつくることができるかが、大きなカギを握っているのではないか。

この連携ができないと、仮に政権与党が失速したとしても、野党側に展望は開けないのではないか。連携は可能なのかどうか、世論の動向なども踏まえて考えてみたい。

 立民と維新、執行部刷新効果の現実

立憲民主党の新しい体制は、泉代表はそのままで、幹事長に岡田克也・元副総理、国会対策委員長に安住淳・元財務相、政調会長に長妻昭・元厚労相を起用した。民主党政権当時、要職を占めたベテランが多数起用されたのが特徴だ。

日本維新の会は、創設時から10年、中心的な存在だった松井一郎代表が退任することになり、初めて行われた代表選挙で、共同代表を務めてきた馬場伸幸氏が有効投票の8割近くを獲得して新代表に選出された。ただ、松井氏に比べると存在感や発信力が弱いのも事実だ。

それぞれの党の支持者は、新執行部が野党第1党としての役割を強めたり、新たな第3極として勢力を結集したりすることに期待を寄せていると思う。

国民はどのように見ているか、28日に朝日新聞の世論調査の結果が報道されているので、そのデータを材料に考えてみたい。

この世論調査は27,28の両日行われ、野党の新執行部の評価の質問はないが、政党支持率が参考になる。自民は34%、公明は4%に対し、立民は6%で、先月調査と同じ水準。維新は5%で、2ポイント減少。そのほかの野党各党も先月と同じか、1ポイント減で、大きな変動は見られない。

野党の新執行部は発足した直後で、十分浸透していないとの反論も予想されるが、このデータを見る限り、新執行部の刷新効果は現れていない。

一方、自民党の支持率34%は、先月との比較で2ポイント減少。無党派層は39%で、先月の28%から11ポイントも急増しているのが大きな特徴だ。旧統一教会と政治の関係が次々に明るみになっていることが影響しているものとみられる。

つまり、自民党からの支持離れを含めて無党派層が大幅に増えているが、野党支持の拡大にはつながっていない。今の野党のままでは、期待や魅力が乏しいという受け止め方の反映ではないか。この現実を踏まえて、どう対応するかが問われている。

 戦略的連携、政治の流れ変えられるか

それでは野党側は、具体的にどんな対応が必要なのか。各党ともそれぞれの党の理念、重視する政策に磨きをかけるのは当然だが、国民の関心や期待を得るための取り組み方もカギになる。

先の政党支持率に端的に現れているように自民党と野党第1党の支持率を比較すると34%対6%、5分の1以下の大差がついている。「自民1強、多弱野党」の構造を多少でも変えないと、国民の関心を高めるのも難しい。

今の野党の構造は、立憲民主党は共産党などとの協力はできても、国民民主との距離は離れたままで、野党全体をまとめきれていない。

日本維新の会は、松井前代表と安倍元首相や菅前首相との関係が強かったが、立憲民主党とは対立が目立ち、野党の分断状態が続いてきた。但し、維新にとっても岸田政権発足後は政権側と太いパイプはなく、状況が変わってきた。

そこで、立民、維新ともに、従来の関係をそのまま続けていくのか、それとも新たな関係構築の道を模索するのか、2つの選択肢がある。

もちろん、立民、維新両党は、それぞれの党の理念や、憲法、外交・安全保障、原発などの主要政策では大きな開きがある。そうした違いを認めた上で、野党の存在感と力を強めることを目標に「戦略的な連携」に踏み出す道がある。

具体的には、国会対策を中心に臨時国会の早期召集をはじめ、会期幅の設定、予算委員会などの審議日程の確保、さらには個別の政治課題や法案の扱いなどについて、野党全体の要求をまとめ、実現していくことが考えられる。

こうした取り組みで、国会審議に緊張感をもたらしたり、重要法案の修正を実現したりして、政治の変化につなげていくことも考えられる。

無党派層が28%から39%へ11ポイント増えたということは、日本の有権者数は1億人なので、ざっと1100万人が政治の立ち位置を変えたことを意味する。

野党陣営は、戦略的連携で政治の流れに変化を求める有権者を生み出し、そのうえで、自らの支持につなげていく2段階の新たな取り組みが問われているのではないかと考える。

 難題乗り切り 臨時国会の対応注視

報道各社の世論調査で、岸田内閣の支持率急落が続いている。最新の朝日新聞の世論調査では、岸田内閣の支持率は47%で、先月の前回調査から10ポイントも下落。不支持は39%で、14ポイント増加している。

旧統一教会と現職の閣僚など政務3役、それに自民党議員の関係が明らかになっていることが影響しているものとみられている。

来月27日には、安倍元首相の国葬が予定されており、近くこの問題の閉会中審査が予定されている。秋の臨時国会では、旧統一教会の問題やコロナ対策、経済の立て直しと補正予算案の扱い、防衛力整備の進め方など難題が目白押しだ。

国民の側が最も困るのは、与野党が対立して難題の解決が一歩も進まないことだ。秋の臨時国会では、与野党が真正面から議論を尽くし、場合によっては法案の修正などで歩み寄り、難題処理の具体的な成果を見せてもらいたい。(了)

岸田首相コロナ感染と強まる逆風

岸田首相が夏休みを終えて公務に復帰する前日の20日夕方、新型コロナに感染したことが確認された。一夜明けた22日から、首相公邸に止まりオンラインで公務を始めたが、現職首相のコロナ感染は初めてで、波紋が広がっている。

一方、岸田内閣の支持率が、報道機関の世論調査で急落していることが明らかになった。内閣改造を行った直後に内閣支持率が下がるケースは少なく、岸田政権に逆風が強まっている。

岸田首相のコロナ感染と内閣支持率の急落で、岸田政権は何が問われているのか、探ってみる。

 首相のコロナ感染 政権対応力に懸念

岸田首相のコロナ感染の経緯については、既に詳しく報道されているので繰り返さないが、感染判明から一夜明けた22日、松野官房長官は記者会見で次のように説明した。

岸田首相の症状は「22日朝の時点で平熱に下がり、テレワークなども活用し、ほぼ予定通りに執務にあたっている」と説明した。そのうえで「岸田首相は夏休み期間中も他人と接触する場合は、常にマスクを着用するなど適切な感染対策に務めてきた」と釈明した。

岸田首相の感染経路はわからないが、感染爆発が収束せず、医療のひっ迫が続く中で、コロナ対策の最高責任者が罹患し、公邸で事実上、隔離状態に追い込まれた責任は重い。

首相官邸では、この夏、松野官房長官に続いて、島田隆政務秘書官ら3人の首相秘書官が相次いでにコロナに感染した。個別の問題といってしまえばそれまでだが、安倍、菅両政権では見られなかった事態が起きている。

首相の健康管理は、危機管理の基本中の基本だ。首相官邸では、基本的な感染対策はどうなっているのか、疑問に感じる人は少なくないのではないか。

岸田政権は、安倍元首相の銃撃事件をめぐる警備の不手際をはじめ、追悼演説の先送りや国葬の扱い、さらにコロナ感染者の全数把握の問題などを抱えたまま、結論を出せない状態が続いている。

首相のコロナ感染は、感染対策に限らず、政権を取り巻くさまざまな懸案を連想させる。この政権に懸案を乗り越える対応力はあるのか、懸念を生じさせる点が意外に大きいのではないかと感じる。

 支持率低下”為すべきことを為さず”

岸田内閣の支持率については、読売新聞と日経新聞が先の内閣改造後の今月10、11の両日に行った世論調査で、いずれも支持率が下落し、政権発足以降最低の水準になった。

続いて、今月20、21の両日に行われた毎日新聞の世論調査で、岸田内閣の支持率は36%、前回調査から16ポイントも下落した。不支持は54%で、17ポイント増加し、支持と不支持が逆転した。

こうした各社の調査で、支持率下落の要因としては「世界平和統一家庭連合」(以下、旧統一教会)と、閣僚など政務三役、それに自民党議員の関係が次々に表面化していることが影響している点で、共通している。

また、毎日新聞の調査では、旧統一教会との関係について「極めて問題がある」64%、「ある程度問題がある」が23%で、合わせて9割近い人が、問題ありと受け止めている。

政府・自民党は、反社会的な行動を続けている旧統一教会との関係が指摘されながら、実態の調査や説明もしようとしない姿勢に、世論の側は極めて強い不信感を抱いていることが読み取れる。

一方、コロナ対策についても、感染爆発が続き、医療現場がひっ迫、死者も第6波のピークに迫る高い水準が続いているのに、政府から新たな対策やメッセージが出されない点を厳しく批判する声が聞かれる。

さらに来月27日には、安倍元首相の国葬が予定されているが、政府・与党は、国会の閉会中審査にも応じていない。世論調査では、政府の国葬方針について、反対が賛成を上回る調査結果がほとんどだ。

このように政府・自民党の一連の対応は「為すべきことを為さず、説明すら行わない姿勢」に見える。この点に世論は憤りを感じており、支持率急落の原因は、はっきりしている。

そこで、岸田首相がどこまで世論を納得させる具体策を打ち出すのかが、焦点だ。野党側は、臨時国会を早期に召集するよう申し入れている。

政府・与党の執行部はこれまで臨時国会を早期に開けば、野党に追及の場を与えるだけだとして、引き延ばし戦術をとることが多かった、しかし、今の世論の動向から判断すると、そうした対応で切り抜けるのは難しい情勢だ。

焦点の統一教会の問題は、実態調査とそれに基づいて、どのような方針で臨むのか具体策をはっきりさせることが必要だ。

そのうえで、当面するさまざまな問題について、逃げずに正々堂々、国会論戦を通じて国民に説明し、事態を打開する道を探る必要があるのではないか。

岸田首相は、30日まで公邸からオンラインで公務を続け、31日から通常の職務に戻る予定だ。岸田首相が事態打開に向けて、主導権の発揮に踏み出すのかどうか、注視したい。(了)

”夏の宿題3点”岸田首相の解答力は?

参議院選挙で大勝し、内閣改造と自民党役員人事を終えた岸田首相は16日から夏休みに入っており、22日から公務に復帰する予定だ。

岸田首相はこの夏、3つの課題への対応が求められている。1つは、安倍元首相の銃撃事件をきっかけに浮上した旧統一教会の問題だ。新任閣僚や副大臣、自民党議員との関係が次々に明るみになり、国民を驚かせている。

2つめは、来月27日に予定されている安倍元首相の国葬の扱いだ。3つめが、感染爆発の収束の見通しが未だに立っていないコロナ対策だ。

こうした3点は、”夏の宿題”ともいえる緊急の課題で、岸田首相が”説得力のある”解答”を早急に示すことができるかどうか。できなければ、秋の臨時国会や岸田政権の今後の政権運営にも影響を及ぼすことになるだろう。

国民の関心が高い夏の宿題3点をどのように考えたらいいのか、探ってみたい。

 旧統一教会問題、疑念払拭は必須

さっそく、第1の課題である「世界平和統一家庭連合」(以下、旧統一教会)の問題からみていきたい。

旧統一教会と政治の関係は、政治団体である国際勝共連合とともに古くて新しい問題だが、今回の内閣改造人事をみて、その浸透ぶりには、改めて驚かされた。

岸田首相は内閣改造に当たって、旧統一教会との接点が明らかになった閣僚7人を外した。ところが、新たに任命された閣僚からも関連団体の会合に出席したり、会費を払ったりしていたことが次々に明らかになり、8人にも上った。

続いて行われた副大臣、政務官54人の人事でも24人に接点があったことが明らかになった。閣僚、副大臣、政務官の政務三役73人中、32人、実に4割にも達している。

一方、共同通信が全ての国会議員712人を対象に行ったアンケート調査で、旧統一教会の関連団体のイベントに出席したり、選挙協力を受けたりした議員は106人に上った。このうち、自民党議員は82人で、全体の8割を占めている。

今回の閣僚などの起用について、岸田首相は「旧統一教会との関係を自ら点検し、その結果を踏まえて、厳正に見直すことを了解した人だけを任命した」とのべ、個人の責任で対応してもらう考えを示した。

こうした首相の判断をどうみるか。旧統一教会をめぐっては、入信させて多額の壺や印鑑などを購入させる霊感商法や、献金の強要など深刻な被害が相次いでいたことが知られている。

閣僚など政務三役は、公正な立場で行政の執行に責任を持つ立場にある。こうした社会的に問題のある団体との関係が認められた場合、政府としても調査し、程度に応じて必要な対応策をとることは必要ではないか。

一方、先の参議院選挙についても初当選した自民党の生稲晃子議員が、萩生田政務調査会長が経産相だった今年6月、旧統一教会の関連施設を訪れていたことも明らかになった。

自民党についても、公正さが求められる選挙への支援も含めて、旧統一教会との関係について、政党として実態の調査を行い、その結果を公表することは最低限、必要ではないか。

要は、政府・自民党ともに国民の疑念を晴らす取り組みが必要だ。ケジメをつけられるかどうか、しっかり見ていく必要がある。

 国葬 国民の理解と共感を得られるか

第2の安倍元首相の葬儀を国葬とする政府の方針については、国民の間でも賛否が分かれている。

その理由については既に報道されているので、ここでは触れないが、報道機関の世論調査では、国葬について、賛成よりも反対の意見が上回っている。また、国葬を決めた岸田首相の説明について「納得できない」との評価が過半数を占める。

こうした背景としては、国葬は吉田茂元首相の1例しかなく、首相の葬儀は、政府と自民党の合同葬や、国民有志を加えた国民葬で行われてきた。今回、国葬の扱いにした理由や法的根拠が、国民に理解されていないことを示している。

また、全額国がまかなう国葬の費用はどの程度になるのか。国民にどのような弔意の示し方を求めるのかといった具体的な内容の説明も行われていない。

国葬は、国民の理解と共感が必要だと思うが、現状はその条件を満たしていないようにみえる。岸田首相は、国会で与野党との質疑を通じて、国民に説明することが必要ではないか。そうした心構えと取り組み方を表明する必要がある。

 コロナ 検査・医療体制の具体策を

第3のコロナ感染については最近、1週間平均で減少傾向もみられたが、お盆休みが明けた8月中旬以降、再び感染者数が過去最多となる地域が増えている。

全国の感染者数は18日、過去最多の25万人を超えたのをはじめ、病床使用率も41の都府県で50%を上回り、感染収束の見通しはついていない。

この間、政府は「経済社会活動の制限はしない」と繰り返し強調してきた。一方、各地の発熱外来は、感染者が押し寄せてパンク状態で、PCR検査にたどりつけず、抗原検査キットも手に入らないといった声を数多く耳にした。

端的に言えば、政府や自治体の対応は後手に回り、発生から3年目に入ったというのに、対策面で改善が進んだという実感は乏しい。

厚生労働省は最近、感染者の「全数検査」の見直しや、抗原検査キットのインターネットでの販売を解禁する方針を決めたが、対症療法的対応にみえる。

全数検査の見直しで、保健所や医療機関の負担軽減を図りたいとの狙いは、理解できる。一方で、感染の実態はどのように把握するのか。自宅療養者の病状悪化や入院などの調整はどのような仕組みで対応するのか、肝心の点がわからない。

国民が首を長くして待っているのは「検査体制の整備」と「医療提供体制の確保」の具体策を、早急に明らかにして欲しいという点に尽きる。

 国会論戦徹底、新たな政治へ模索を

このように3つの宿題について、岸田首相は公務に復帰した後、国民が納得できるような”解答”を早急に明らかにしてもらいたい。

加えて、これから年末に向けての政治は、岸田首相が言うように何十年に1度という難題が幾つも待ち構えている。

ウクライナ情勢をきっかけにした物価高騰、エネルギー確保、感染症対策の法整備、日本経済の立て直し、防衛力整備の進め方など目白押しだ。

このため、秋の臨時国会はできるだけ早く召集して、難題の解決に向けた議論の時間を大幅に確保した方がいい。与党はこれまでは、国会を開けば野党に追及の場を与えるだけだとして消極的だったが、改めた方がいい。

国会で野党側との議論を通じて、国民の理解は格段に進む。野党も、臨時国会の早期召集を求めており、重箱の隅をつつくような議論はしないと思われる。

与野党が徹底した議論を通じて、与野党の合意や修正の道を探り、難題を1つずつ前進させる新しい政治をめざす段階にきている。

戦後最大級の難問・難題を抱えている今こそ、与野党が徹底した論戦でぶつかり、懸案の処理が一歩ずつでも進む政治を与野党双方に強く注文しておきたい。(了)

 

”前途多難” 岸田改造政権

お盆入り直前に急遽行われた岸田政権の内閣改造と自民党役員人事。岸田首相は10日夕方の記者会見で、「有事に対応する『政策断行内閣』として、経験と実力を兼ね備えた閣僚を起用することとした」と声を高めた。

確かにベテランを起用し、手堅い人事と認めるが、「世界平和統一家庭連合」旧統一教会との関係、国葬問題などで世論とのズレを抱えている。また、これから内外の政治課題の大きさを考えると岸田改造政権は”前途多難の再出発”になるだろう。

今回の内閣改造と自民党役員人事の見方と、岸田改造政権のゆくえを展望する。

 経験重視の布陣、安倍派にも配慮

今回の人事の特徴を見ておくと、自民党の体制は、麻生副総裁、茂木幹事長を続投させ、岸田、麻生、茂木の3派体制を軸に政権運営に当たる。

その上で、安倍元首相なき最大派閥・安倍派から、萩生田経産相を政調会長に抜擢するとともに、政権と距離を置いてきた森山裕・前国対委員長を選挙対策委員長に起用し、これまでの政権基盤を広げた。

内閣の方は、松野官房長官をはじめ、林外相、鈴木財務相、山際経済再生相、斉藤国交相の5閣僚が留任したほか、加藤勝信・元官房長官を3回目の厚労相に起用、浜田靖一氏を2回目の防衛相に充てた。

また、デジタル担当相に河野太郎・党広報本部長、経済安全保障担当相に高市早苗・政調会長をそれぞれ起用した。

このように内閣については、これまで担当してきた経験や、専門性を重視して主要ポストに充てるなど手堅い人事を行った点は評価できる。

次に、安倍派の処遇も焦点の1つになったが、官房長官の松野博一氏は続投、萩生田氏を政調会長に抜擢する一方、派閥の事務総長を務める西村康稔氏を経産相に起用し、バランスをとった。

安倍派幹部の世耕弘成氏も参院自民党幹事長に再任され、松野、萩生田、西村、世耕の4氏を内閣と党の要職に配置するなど安倍派への配慮を示している。

自民党長老に人事の評価を聞くと「華はないが、ベテランを起用し、それなりに評価できる。安倍派では、萩生田氏が党三役の一角を占め、後継争いでは一歩リードした」との見方を示す。その理由として、今回の党役員は派閥の長が就任して重量級に変わっており、岸田首相との関係が良好な点も有利だとしている。

去年の総裁選を争った河野氏、高市氏、それに西村氏を入閣させたことは茂木幹事長、萩生田政調会長らと合わせて、ポスト岸田を争わせる戦略との見方が一部にある。

この点について、長老は「岸田首相には、そのような発想はないのではないか。河野氏は専門性、高市氏は保守層へ一定の配慮。総裁選は2年後の話で、衆参両院の選挙を率いて勝利したのは自分だという意識が強いのではないか」と解説する。

 世論とズレ、遠い信頼回復対応

岸田改造政権は、人事でベテランや非主流派にも配慮を示したことで、党内融和、結束力が増す効果が期待できる一方、世論とのズレが大きな問題として残されたままだ。

今回の改造人事は、安倍元首相の銃撃事件をきっかけに浮上した旧統一教会と政界との関係、特に安倍派を中心に自民党との関係が次々に明るみになる中で行われた。

この問題は、安倍元首相の国葬問題にも波及、岸田内閣の支持率急落という負の連鎖に歯止めをかけ、局面の転換を図る狙いがあったものとみられる。

今回の改造で、元統一教会と接点があった閣僚7人は退任した。ところが、新たに任命された閣僚7人も接点があったことが、改造後に次々に明らかになっている。

岸田首相は記者会見で「国民の疑惑を払拭するため、閣僚に対して、当該団体との関係を点検し、厳しく見直すことを厳命した」と強調するが、前の閣僚と、新任閣僚とで対応が違うとなりかねない。

やはり、国会議員任せにせず、党で実態調査を行うとか、宗教団体との関係について、一定の対応基準を打ち出す必要があるとの意見も聞く。

国葬の問題についても報道機関の世論調査で、賛成より反対が上回る状態だ。国葬にした理由、法的根拠などについては、相変わらず、従来の説明を繰り返している。国会で野党との議論を通じて、国民の理解を深めることが必要ではないか。

旧統一教会、国葬の問題について、政府や党の説明が不足している。内閣改造で目先を変えたいという狙いがあるのかもしれないが、真正面から徹底して説明したり、議論したりしないと国民の信頼を取り戻すのは難しいとみる。

 内外に難題、岸田首相の決断力は

最後に、岸田政権の今後の運営はどうなるか。与野党関係者に話を聞くと、政府のコロナ対策について、厳しい批判を数多く聞く。

内閣改造が行われた10日、全国の新規感染者数は25万人で過去最多、感染爆発は止まらない。亡くなる人は251人で、第6波のピークに近いレベルまで急増しており、さらに増加することが懸念されている。

感染者が急増した7月中旬以降、政府が発するのは「経済社会活動との両立、行動制限はしない」とのメッセージばかりで、具体的な感染対策の呼びかけなどは乏しく、与野党関係者は「無為無策だ」と怒る。

7月下旬からの内閣支持率急落は、コロナ対策の失敗が底流にあるのではないかとの見方がある。内閣改造を行っても政権浮揚効果は限定的ではないか。

秋の政治日程は、9月27日の安倍元首相の国葬に続いて、臨時国会が召集され、感染症対策として医療提供体制の整備法案が提出される見通しだ。食品を中心に大幅な物価高騰が進むほか、大型の補正予算案の編成も検討される見通しだ。

さらに年末にかけて、防衛力整備と政府予算の大幅増額という難題が控えている。このほか、冬場の電力のひっ迫などエネルギー問題などの難問にも向き合わなければならない。

安倍元首相の存在がなくなった中で、岸田首相が党内のとりまとめを決断し、国民を説得できるのかどうか。岸田首相の決断力と統率力が試されることになりそうだ。(了)

 

岸田首相の求心力は?改造・人事

先の参議院選挙を受けて召集された臨時国会最終日の5日夕方、「岸田首相が内閣改造・自民党役員人事を10日にも実施する」との情報が駆け回り、与野党双方を驚かせた。永田町では、人事はお盆明けの8月下旬から9月前半説が強かったからだ。

今回の人事前倒しの事情・背景は何か。安倍元首相なき政局で、岸田首相の求心力は高まるのか、内閣改造・自民党役員人事で問われる点を探ってみたい。

 人事前倒しの事情・背景は何か

岸田首相は6日、広島の平和記念式典に出席したあと記者会見し「新型コロナ、物価高への対応、ウクライナや台湾情勢、防衛力整備などさまざまな課題を考えると、新しい体制を早くスタートさせたいと常々思っていた」とのべ、内閣改造・自民党役員人事に踏み切る考えを正式に表明した。

岸田首相は早期の内閣改造を考えていたことを強調したが、それならば、7月25日に参議院議員の任期が切れ、引退するため議員資格を失う金子農水相と二之湯国家公安委員長の後任と併せて、内閣改造を行うのが普通ではなかったか。

そのタイミングを見送り、8月下旬以降と見られていた内閣改造・自民党役員人事を前倒しすることに踏み切ったのは、別の事情・背景があったのではないか。

1つは、安倍元首相が銃撃され、亡くなった事件に関連して、容疑者が恨みを抱いていたとされる「世界平和統一家庭連合」旧統一教会と、現職閣僚や自民党議員との関係が次々に明るみになり、世論の批判が一段と強まってきた。

また、岸田首相が事件から日を置かずに決断した安倍元首相の国葬については、政府の説明が不足しているとの指摘が多く、報道機関の調査では国葬の評価は「賛成」よりも「反対」が上回るようになった。

さらに、岸田内閣の支持率が7月下旬に行われた共同通信で12ポイントも減少し、内閣発足以来最低の水準に急落した。日経新聞の調査でも2番目に低い水準まで落ち込んだ。

岸田政権は、こうした旧統一教会問題を沈静化させるとともに、内閣支持率急落の事態を転換するために人事の前倒しを決断したのではないかとみている。

 難題解決への布陣、政権の求心力は

さて、その人事は、注目点が多い。まず、安倍元首相が亡くなったあと、97人が所属する最大派閥の安倍派からの起用はどうなるのか。旧統一教会の問題は安倍派の議員に集中しているが、その影響はどうか。

また、岸田首相と距離を置いてきた二階元幹事長や、菅元首相ら非主流派の扱いも焦点になる。菅元首相の入閣はあるのかどうか、安倍元首相なき後の党内力学がどのように変化するのかも注目点だ。

国民の側からみると一番の関心事項は「難題」に取り組む布陣はどうなるかという点だろう。政府のコロナ感染対応は相変わらず、後手が目立つが、感染危機乗り切りを誰に託すのか。

防衛力整備をはじめ、経済の立て直し、この冬の電力不足やエネルギー対策などのポストに誰が就任するのか。

岸田首相は麻生副総裁らと人事の詰めの作業を進めているが、麻生副総裁、茂木幹事長、松野官房長官ら政権の骨格は維持されるとの見方が有力だ。林外相、鈴木財務相らも続投とみられる。

主要閣僚・党の中枢もこれまで通りとなると、今度は何のための人事なのかという疑問がわく。冒頭に触れたような旧統一教会の問題や内閣支持率急落をかわす小手先の対応かということになりかねない。

そうすると、今回の人事のねらいと「難題」解決に向けた首相自身の構想を併せて、打ち出して国民に説明する必要がある。

一方、岸田首相が率いる派閥は第4勢力で、内閣の要の官房長官と、党の要の幹事長も他の派閥から起用している。政権の意思決定はこれまで通りで問題はないのかという指摘もある。岸田首相を軸にした政権の体制づくりも焦点だ。

お盆前の10日に内閣改造・自民党役員人事が行われ、新たな顔ぶれが決まる見通しだ。この人事で、岸田首相の求心力は高まるのかどうか、政権の浮揚効果が現れるのかどうかも焦点になる。

旧統一教会の問題について、岸田首相は内閣の人事に当たって、点検するよう指示したことを明らかにした。一方、党の方は調査を行うのかどうかはっきりしていないが、党としてもけじめをつける必要がある。

さらに、安倍元首相の銃撃事件については、警察当局の警護の落ち度が指摘されている。警察を所管する国家公安委員長の責任問題は、内閣改造で交代する前に必要な措置をとる必要があるのではないか。

岸田首相は、コロナ感染拡大にウクライナ危機など戦後最大級の政局と位置づけている。そうであれば、人事の最終的な決定とともに難題解決に向けた自らの考え方を明確に打ち出し、国民に説明してもらいたい。(了)

★追記(8月8日21時)NHK世論調査によると◆岸田内閣の支持率は46%で、前回調査より13ポイント下がった。支持率46%は、去年10月の岸田内閣発足後、最も低い。不支持は28%で、7ポイント上がった。◆政府が安倍元首相の「国葬」を行うことについて、「評価する」が36%だったのに対し、「評価しない」は50%だった。◆旧統一協会と政治の関係について、政党や国会議員が十分説明しているかどうかを尋ねたところ、「十分説明している」が4%、「説明が足りない」が82%だった。この調査は、8月5日から7日まで行われた。前回調査は、3週間前の7月15日から18日まで実施。

 

 

臨時国会”召集すれど審議なし”

先の参議院選挙を受けて、国会の構成などを決める臨時国会が3日、召集されるが、審議はまったく行われずに3日間で幕を閉じる見通しだ。

安倍元首相が銃で撃たれ死亡するという衝撃的な事件が起き、その余震は今も続いている。一方、コロナ感染は爆発的な拡大が続いており、物価高騰も長期化する公算が大きい。

こうした先行き不透明な情勢の中で召集される国会で、銃撃事件の中間的な報告も、経済・社会に関する審議・質疑も全く行われない国会をどう考えればいいのだろうか。

一言でいえば鈍感。危機感も緊張感も感じられず、驚きを通り越してあきれてしまうというのが正直な受け止め方だ。

今の会期内で短時間でも審議を行ったり、会期を延長したりする考えは本当にないのだろうか。国会を召集する権限を持つ政府に最も大きな責任があるが、与野党の国会議員は自らの役割と責務を果たすため、再考の声を上げてはどうか。

 慣例にとらわれず柔軟な国会運営を

衆議院選挙や参議院選挙が行われ、新しい国会議員が選ばれた後の国会は、新しい議長、副議長、常任委員会や特別委員会の委員長を選出する「院の構成」を行って短期間で終えることが多いことは知っている。

今回も召集日当日は、新人の参議院議員が国会正面から登院し、メデイアのインタビューに応じる光景が繰り広げられるのだろう。それはいいとして、この国会は、院の構成だけで済ませられるほど甘い状況にないことは、与野党の議員の多くが感じていると思う。

ところが、自民党の高木国会対策委員長と、野党第1党・立憲民主党の馬淵国会対策委員長は1日の会談で、この国会の会期は3日から5日までの3日間とすることで、早々と合意した。

また、安倍元首相の国葬は秋の臨時国会に先送りする一方、国葬などについて議論をするため、閉会中審査を行うことで日程調整を進めることになった。

短期にしたのは、自民党としては、岸田首相がニューヨークで開幕したNPT=核不拡散条約再検討会議に出席して演説する外交日程が入ったこと。

8月は広島、長崎の原爆の記念式典に出席する関係で、国会の審議日程を確保するのは難しいと判断したためとみられる。

そうした事情はあるにしても、参院選挙が行われた後の臨時国会で、審議を行った先例はある。

2004年小泉政権時代、あるいは2010年の民主党の菅直人政権の時は、いずれも会期を7月30日から8日間に設定し、衆参両院で本会議を開いたり、予算委員会を開催したりして質疑を行っている。

仮に先例がなくても与野党が合意すれば質疑はできる。先人たちは、その時々の情勢に応じて、慣例にとらわれずに柔軟に対応してきたことを学ぶべきだ。

 国葬、感染爆発対策、首相自ら説明を

それでは、国会の対応のあり方などをどう考えたらいいのか。選挙応援演説中の首相経験者が、兇弾に倒れる前代未聞の事件が起きた。警察当局の警護の不手際も指摘されているが、国会で経緯の報告もなされていない。

また、容疑者の動機や背景に「世界平和統一家庭連合」、旧統一教会の存在が指摘されているほか、この旧統一教会と政治との関わり、現職閣僚や自民党議員の数多くの関係も明るみになりつつある。

政府は、安倍元首相の葬儀を国葬で行うことを閣議決定したが、国葬で行う法的根拠や手続きなどをめぐって、世論の賛否の意見が分かれている。

また、国民の受け止め方は、事件の背景を含め全容を明らかにするよう求める意見が強まっている。

こうした状況を考えると、まずは、岸田首相が国会で安倍元首相の死去を報告するとともに、政府が国葬にすることにした考え方などを説明することから始める必要がある。

また、この事件に関連して、旧統一教会と与野党の国会議員との関係はどうだったのか、実態調査の進め方などについても議論する必要があるのではないか。

岸田首相は先に旧統一教会と自民党議員との関係について「丁寧な説明を行っていくことは大事だと思っている」とのべた。

この発言は、議員個人の問題と聞こえるが、自民党の場合、関わりのあったと指摘された議員の多さを考えると、党として事実関係の調査を行う必要があるのではないか。

このほか、コロナ感染の爆発的な拡大と医療のひっ迫への対応、今後の物価高騰対策の中身はどうなるのか、国民の関心は極めて大きい。こうした点を含め、岸田首相は、国会審議を通じて政府の方針を明らかにすべきだと考える。

7月末に行われた共同通信の世論調査で、岸田内閣の支持率は51%で、参院選挙で大勝した前回調査から12ポイントも急落し、内閣発足以来最低となった。安倍氏の国葬についても「賛成」は42%で、「反対」が53%と上回っている。

こうした世論の反応は「国葬についての説明はなく、感染危機対応のメッセージも発しない岸田首相に対する厳しい評価の表れ」と思われる。

加えて、臨時国会で報告や質疑もないとなると、首相の信頼感を失うことになるのではないか。岸田首相は戦後最大級の難局と受け止めているのであれば、逃げずに真正面から、自らの考えを国民に訴える局面ではないかと考える。(了)

感染爆発”やはりブレーキが必要”岸田政権

新型コロナの”感染爆発”に歯止めがかからない。新規感染者数は28日、東京では初めて4万人を超え、全国でも23万人と過去最多を更新した。

岸田政権は、感染抑制と社会経済活動の両立をめざしてきたが、このところ、感染拡大期に、濃厚接触者の待機期間を短縮するなどチグハグな対応が目立つ。

ここは、やはり感染抑制へブレーキを踏み込む時期ではないか。岸田政権のコロナ対応を緊急点検する。

 ”フェーズが変わった”日本世界最多

感染状況を振り返っておくと新規感染者数は7月1日時点で、東京で3500人余り、全国では2万3100人台に止まっていた。死者は21人、重症者数は52人と低い水準だった。

ところが、全国の新規感染者数は15日に10万人を突破、20日に15万人、23日には20万人と加速度的に増え、27日には20万9600人で過去最多となった。第6波のピーク時の2倍の水準だ。

東京では28日、1日当たりの感染者数がついに4万406人に達した。今月に入り1か月近くで11倍も増えた。全国では、23万3000人余り、過去最多を更新した。

日本の感染者数は、欧米諸国に比べて格段に少なかったが、WHO=世界貿易機関が27日にまとめた報告書では、24日までの1週間当たりの新規感染者数では、日本は97万人で、世界で最も多くなっている。

アメリカは86万人、ドイツは56万人だ。フェーズが大きく変わり、日本は欧米に比べて感染者数が少ないとは言い切れなくなった。

 感染拡大期に緩和”チグハグ対応”

岸田政権のコロナ対応だが、先の参院選挙で自民党が大勝したのを受けて、岸田首相は14日に記者会見し、今後の対応策を明らかにした。

この中で岸田首相は、感染状況について「感染が全国的に拡大しているものの、重症者数や死亡者数は低い水準にある」と説明し、新たな行動制限を行うことは考えていないと表明した。

一方、社会経済活動と感染拡大防止の両立を維持するため、世代ごとにメリハリの効いた感染対策をさらに徹底すると強調した。

具体的には、4回目のワクチン接種について、すべての医療従事者と高齢者施設のスタッフなどおよそ800万人にも対象範囲を拡大し、接種を始めると明らかにした。

そのうえで、岸田首相は22日、後藤厚労相などと協議し、社会経済活動を維持していくため、濃厚接触者に求める待機期間をこれまでの原則7日から5日間に短縮し、さらに2日目と3日目の抗原検査が陰性であれば、3日から待機を解除できることを決めた。

こうした対応をどう評価するか。まず、行動制限を求めないという方針はやむを得ない措置だと思う。仮に緊急事態宣言や蔓延防止等重点措置を出しても、感染抑制にどこまで効果があるか疑問だからだ。

問題は、政府や自治体の説明では、重症者や死亡者などは低水準との認識だが、状況は厳しくなっている。27日時点で全国の死者は129人、重症者は311人、7月1日と比べると6倍前後も増えて折り、状況認識に甘さを感じる。

また、医療への影響も大きくなっている。28日には「重症確保病床の使用率」が東京都で53%となったほか、「確保病床使用率」も沖縄、神奈川、静岡、大阪、福岡、熊本など20都府県で50%以上の警戒ラインを上回っている。

こうした医療のひっ迫状況を考えると今は感染抑制に向けて、ブレーキをかける局面だ。岸田政権の対応は、感染が急拡大している時に、待機期間短縮の緩和策を打ち出すなどチグハグな対応が目立つ。これでは危機感は伝わらない。

さらに東京では、発熱外来はパンク状態、PCR検査はなかなかできない、抗原検査キットも薬局で手に入らないとの声を身近なところでも数多く聞いた。

検査、診察、自宅療養へのサポートも期待できず、健康管理の仕組みが目詰まり状態だ。政府は最悪の事態を想定して備えを進めていると強調してきたが、実態はこれまでと同じく「後手の対応」を繰り返している。

新たな問題としては、感染や濃厚接触者が増えて、医療、保育だけでなく、JR九州では乗務員の確保ができず列車の運転が休止になったり、郵便局の窓口業務ができなくなったりするなど社会活動に影響が広がり始めた。

岸田首相は、参院選の期間中は、特に経済活動重視の姿勢が感じられたが、この感染爆発の局面では、感染抑制へカジを切った方がいいのではないか。

 感染抑制の具体策と首相の実行力

これからのコロナ対策を考えると、今回の感染では、比較的軽症の人が多いのも事実だ。軽症な人は自宅で療養してもらう一方、症状の重い人は入院・治療にアクセスしてもらうなどの取り組みを進める必要がある。

また、抗原検査キットの配布はじめ、自宅療養者への支援体制などはどうするのか、政府と自治体が連携して、具体的な改善策を早急に示してもらいたい。

さらに、高齢者や医療従事者などへのワクチン接種の4回目と、若い世代への3回目のワクチン接種の促進も重要だ。

緊急事態宣言など行動制限を求めないのであれば、症状に応じた具体的な感染抑制対策や、メッセージなどの発信に一段と力を入れて取り組むべきだ。今の岸田政権には、こうした力強さが感じられない。

今回の感染急拡大は、感染危機対応が、岸田政権にとって引き続き最重要課題の1つであることを示している。具体策を早急に打ち出し、感染拡大を押さえ込めるのか、岸田政権の評価を大きく左右することになる。

参院選後の政治は、安倍元首相なき後、岸田首相が独力で主導権を発揮できるのかどうかが焦点だ。コロナ感染急拡大は、岸田首相の実行力と、政権の求心力がどの程度のものかを占う試金石の意味を持っている。(了)

安倍元首相の「国葬」をどう考えるか

先の参議院選挙で応援演説中に銃で撃たれて亡くなった安倍元首相の葬儀を「国葬」で行うとした政府の方針をめぐって、与野党や国民の間で賛否両論が出され議論が続いている。

この問題は、選挙で選ばれ、国の最高責任者の立場にいた政治家の葬儀をどのような形で執り行うのが適切なのかという古くて新しい問題だ。

政府は、22日の閣議で安倍元首相の「国葬」を9月27日に行うことを正式に決めた。果たして国民の多くの支持は得られるだろうか。世論調査のデータを参考にしながら、国葬のあり方などを考えてみたい。

 国葬の評価 国民多数は”思案中か”

安倍元首相の葬儀を「国葬」で行うことについては、岸田首相が14日夕方の記者会見で「憲政史上最長の8年8か月にわたり、内閣総理大臣の重責を担い、内政・外交で大きな実績を残された」として、秋に国葬を行う方針を表明した。

この方針をめぐって、与野党幹部が激しい議論を交わしているが、国民はどのように受け止めているのか、今後のあり方を考えるうえでベースになる。NHKが16日から3日間行った世論調査の結果が興味深いので、みておきたい。

政府が安倍元首相の葬儀を国の儀式の「国葬」として今年秋に行う方針については「評価する」が49%に対し、「評価しない」が38%だった。

これを支持政党別にみると◇与党支持層では「評価する」が68%で、「評価しない」の25%を上回っている。◇野党支持層では「評価する」が36%に対し、「評価しない」が56%と多数を占めた。

◇大きな集団である無党派層では「評価する」が37%、「評価しない」が47%となっており、「評価しない」方が多い。

次に年代別では、30代以下の若い年代では「評価する」が61%と特に多く、「評価しない」は31%だった。逆に、60代は「評価する」が41%に対し、「評価しない」が51%で、他の年代の割合より多かった。

以上のデータをどのように読むか。国民世論は、国葬の評価をめぐって「どちらか一方が、圧倒的に多いという状況にはない」。「評価する」が多いが、過半数には達していない。かなり接近しているとみることができる。

また、与野党の支持層で評価に違いがある。与党支持層では「評価する」が多く、野党支持層では「評価しない」が多いが、この点は予想されたことだ。無党派層では「評価しない」方が、「評価する」を上回っているのが特徴だ。

さらに、年代別では、若い年代と60代とでは違いがある。各年代でも受け止め方に違いがみられる。

このようにみてくると国民の多くは「思案中」というのが実態ではないか。岸田首相は、安倍元首相の銃撃事件から6日後の早い段階で「国葬」とする方針を表明した。

ところが、国民の側からすると容疑者の動機や事件の背景、旧統一教会と政界との関係などの情報も十分そろっておらず、思案中との受け止め方が実態に近いのではないかとみている。

 基本は法整備、国会で説明・質疑を

それでは、「国葬」については、どのように考えればいいのだろうか。歴代首相の葬儀については、さまざまな先例がある。

まず、戦後の「国葬」は、昭和42年に亡くなった吉田茂元首相の1件だけだ。長期政権だった佐藤栄作元首相の場合は「国民葬」。内閣と自民党、それに国民有志が主催して実施された。

さらに「内閣と自民党の合同葬」、総選挙の最中に体調悪化で亡くなった大平元首相をはじめ、中曽根元総理、小渕元総理などは、いずれもこの方式で、これまでの主流の形式と言える。

今回、安倍元首相の葬儀が国葬として行われれば、2例目となる。「国葬令」は戦後、廃止された。法的根拠について、岸田首相は「内閣府設置法に国の儀式に関する事務が明記されており、閣議決定を根拠として国葬を行うことができる」との考え方を示した。

確かに役所の所掌事務として書かれているが、法治国家であり、経費全額を国の予算でまかなうのであれば、法案を国会で成立させて実施するのが基本ではないか。

また、新たな法案の提出で与野党が合意できないのであれば、少なくとも国会で政府が説明し、与野党が議論することは必要ではないかと考える。

一方、「国葬」とすることの理由については、政府・与党は、安倍元首相は憲政史上最も長い期間、首相の重責を担ったこと。東日本大震災からの復興や日本経済の再生などで大きな実績を残したこと。外国の首脳を含む国際社会から極めて高い評価を受けていることを挙げている。

これに対し、野党側は、日本維新の会と国民民主党は、国葬を容認する立場だが、共産党や社民党、れいわは「弔意の強制につながることが懸念される」などとして反対している。立憲民主党は「予算など不明な点が多い」として、国会で政府に説明を求める考えを示している。

自民党の茂木幹事長は「野党は、国民の声や認識とかなりズレているのではないか」と批判したのに対し、野党側が強く反発している。

このように与野党の意見が対立しているが、国の予算・税金の投入を伴う以上、国民の代表である国会で、首相が説明し、与野党が質疑を行うことは最低限、必要だと考える。

そのうえで、国民の多くが国の最高責任者に哀悼の意をささげられるよう首相や、与野党はできるだけ党派色を抑えて、静かな環境で葬儀が営まれるよう努めてもらいたいと思う。

 難題対応へ問われる首相の政治姿勢

ところで、政界では、岸田首相がいち早く、国葬の方針を打ち出した理由などに関心が集まっている。

というのは、党内最大派閥の会長を務めていた安倍元首相亡き後の政界で、岸田首相がどのような党内運営、政権運営を行うのかという点と関係するからだ。

自民党内では、岸田首相が早い段階で国葬の方針を示したのは、安倍氏を強力に支えてきた保守勢力の反発を招かないようにするためではないかとの見方が出ている。

これに対し、葬儀の扱いが曖昧なままで党内がギクシャクするより、早期に対処方針を示したことで、党内が安定して良かったなどの声も聞かれる。

こうした点について、自民党の長老に聞くと「岸田首相が党内の派閥や力関係にに目が向きすぎると、世論の側から、国民への説明が不十分だといった批判や支持離れを招く恐れもある」と指摘する。

参院選挙後の政治は、コロナ感染の急拡大をはじめ、物価高騰の加速、防衛費の大幅増額、さらには憲法改正など大きな政治課題が目白押しだ。

加えて、こうした大きな問題は、党内の意見と世論の受け止め方に大きな違いを抱えているケースが多い。

安倍元首相の国葬問題は、こうした難題処理にあたっての岸田首相の政治姿勢、特に党内への配慮と、世論への目配りとのバランスをどのようにとるのか、最初の試金石ともいえる。

このバランスを間違うと、年末に向けて難題が山積している中で、岸田政権の足元が揺らぐことになりかねないとみる。(了)

 

ポスト参院選政局 岸田首相の求心力は?

今年最大の政治決戦となった参議院選挙は、自民党が単独で、改選議席の過半数を獲得して大勝した。

自民、公明の与党側は去年の衆院選でも勝利しており、これで衆参両院のいずれも60%を上回る議席を獲得し、安定した政権基盤を築いたことになる。

本来であれば、喜びに沸く自民党のはずだが、開票が終わった今も党内は重苦しい空気に包まれたままだ。選挙最終盤の8日午前、奈良市で街頭演説中の安倍元首相が銃で撃たれて亡くなるという衝撃的な事件が起きたからだ。

首相在任中は”安倍1強”と言われ、退陣後も最大派閥を率いてきた期間を合わせると10年にも及ぶだけに党内の喪失感と動揺は、未だに収まっていないように感じられる。

ウクライナ危機などで内外の情勢が揺らぐ中で、岸田政権の政権運営は大丈夫なのか。先行き不透明感が強い参院選後の政局は、どこをみておくとわかりやすいのか、探ってみた。

 不透明政局”政治日程は逆に読む”

参院選挙の投開票から一夜明けた11日午後、岸田首相は自民党本部で記者会見し「暴力が突然、偉大なリーダーの命を奪ったことは悔しくてならない」と安倍元首相の死を悼んだ。

そして「今の日本は大きな課題が幾つも重なり、戦後最大級の難局にある」として、有事の政権運営を心掛け、自ら先頭に立つと決意を表明した。

焦点の内閣改造・自民党役員陣については「今の時点では具体的なものは何も決めていない。今後の政治日程を確認しながら、人事やタイミングを考えなければならない」とのべるにとどめた。

岸田首相が触れた今後の政治日程については、安倍派の後継問題をはじめ、8月末の来年度予算編成の概算要求締め切り、内閣改造・自民党役員人事、秋の臨時国会などと並ぶが、こうした日程に思いを巡らしても迷路をさまようだけだ。

政治はどう動くかは「政治日程は逆に読む」とわかりやすい。数年先までの日程を見通して、何が政治の流れを決定づけるかということになる。

◇来年・2023年4月には統一地方選挙がある。◇2025年7月に参議院議員の任期満了、◇10月に衆議院議員の任期満了となる。2025年が大きな節目になるのは、間違いない。

その前の2024年9月に岸田首相の自民党総裁としての任期が満了となる。議院内閣制の日本では、自民党総裁でなくなれば、首相の座を退任することになる。当面の政局を方向づけるのは、自民党総裁選挙ということになる。

岸田首相は再選をめざすとみられるので、この総裁選を重視し、そこから逆算して政治日程を組み立てるものとみられる。場合によっては、総裁選前に衆院解散・総選挙をめざすかもしれない。

これから2年間、岸田政権は再選を念頭に何を政策の重点として実行していくか、そのための人事についても検討を続けているものとみられる。

一方、安倍氏なき後の安倍派はどうなるか。派内には、衆目一致する有力な後継者が絞られていない。このため、後継の派閥会長は決めずに、主要幹部による集団指導体制を採用する方向で調整が進められているようだ。

但し、安倍派内には、次の総裁選立候補に強い意欲を示している幹部が複数いる。2年後の総裁選までには、立候補に必要な推薦人を確保するために派内のグループ化が進み、事実上、分裂する可能性が大きいとみる。

自民党議員の4分の1に当たる93人が所属する最大派閥なので、派閥の分裂、党内流動化の動きをはらみながら、政治は動いていくことになる。

 注目点多い内閣・党役員人事

以上を頭に入れたうえで、岸田政権が対応を迫られるのが内閣改造・自民党役員人事だ。参議院議員の金子・農水相と二之湯・国家公安委員長の2閣僚は7月25日の任期満了で引退するので、その後任の補充が必要になる。

今のところ、人事は8月下旬以降まで持ち越される見通しだ。安倍元首相が死去したことで、安倍派の運営などをどうするか調整に一定の時間がかかるからだ。議員の任期が切れた閣僚は、民間人として職務を継続させる方法はある。

その内閣と党の人事、最大の焦点は、党の要である幹事長人事だ。首相の政権運営に協力してもらう一方で、総裁選では強力なライバルになる可能性がある。参院選が勝利したことで茂木幹事長の再任説が強いが、最終的にどうなるか。

また、安倍派の処遇も難問だ。生前、安倍元首相は自らの派閥の規模に反して、閣僚などへの起用が少なかったことに不満を漏らしていたとされる。

人事の調整で、安倍派の交渉窓口を誰が務めるかという問題もあり、岸田首相は安倍派の処遇に頭を悩ますことになりそうだ。

さらに自民党内は世代交代の時期を迎えており、実力者の政界引退が近づきつつある。

具体的には、二階元幹事長は83歳、麻生副総裁も81歳、森山裕元国対委員長は77歳だ。本人たちは進退に言及していないが、党内では、次の衆院選挙を機会に引退するとみられている。

実力者の安倍氏の死去で、岸田首相は政権運営のフリーハンドの範囲が広がった面がある。そうした優位な立場を生かして、人事面で主導権を握ることができるのかどうか、今回の人事は注目点が多い。

 防衛力、憲法改正の扱いが焦点

次に国民の側からみると最大の関心は、岸田首相は政権の最重点課題として何を取り上げるかという点とみられる。

岸田首相は14日夕方の記者会見でも「一つ一つの課題が何十年に一度あるかないかの大きなものだ。そうした大きな課題が幾重にも重なり、戦後最大級の難局にある」という認識を示した。

確かに、ウクライナに侵攻したロシアに対する経済制裁をはじめ、物価高騰、抜本的な防衛力の整備、30年も給料が上がらず停滞が続く日本経済の立て直し、人口急減社会と社会保障の整備など難題が数多く横たわっている。

さて、何を最重点に取り上げるのか。先の会見でも時代認識は明らかにしたが、肝心の難題への対処方針、政治課題の優先順位なども明らかにしてもらいたい。

その際、憲法改正の問題をどれくらいのスケジュール感で考えているのか。また、防衛力の整備の具体的な内容などについて、明確にすることが必要だと考える。

 自民党内と世論のバランスとれるか

岸田政権は「戦後最大級の難局・難題」に臨むことになる。まずは、岸田首相が人事、主要政策で主導権を発揮し、政権の求心力を高めることができるかどうかが問われる。

岸田首相はこれまで安倍元首相の協力を得るため、節目節目に報告・相談をしながら政権運営に当たってきたが、安倍氏を失った政界で1人立ちできるかどうか。

難題処理をめぐって自民党内では、総論賛成・各論反対となる場面が多く、意見の取りまとめには、相当な力技も必要になる。

一方、党内に目が向きすぎると世論の支持離れを招くことになる。岸田首相は14日の会見で「安倍元首相の国葬」を今年秋に行う方針を表明した。国葬は、吉田茂元首相が唯一の例で、全額国費でまかなわれる。

憲法改正、防衛力整備の進め方をめぐっても、党内と世論の認識に違いがある。党内と世論の意見が対立した場合、岸田首相自らが説得する場面にも迫られるだろう。

岸田首相にとって参院選後の政治は「黄金の3年間」というよりも「苦難の3年間」になるのではないか。

そして、岸田政権が安倍政権に続いて長期政権へとなるのか、それとも短期政権が続くことになるのか、国民の側はしっかりみていく必要がある。(了)