自民大勝も”想定の範囲内”

ウクライナ危機など激動が続く中で行われた参議院選挙は、自民党が単独で改選議席の過半数を獲得し大勝した。与党の公明党と合わせて、改選議席を大きく上回り、安定多数を確保した。

選挙の最終盤には、選挙応援演説中の安倍元首相が銃で撃たれて亡くなるという衝撃的な事件も起きた。

今回の選挙結果をめぐっては「ウクライナ情勢などを受けて、世論は保守の側にシフトしているのではないか」「岸田政権は防衛力の強化や、憲法改正への動きを加速するのではないか」といった声も一部で聞かれる。

今回の選挙をどのように評価するか、あるいは、有権者はどのような受け止め方をしているのか。こうした点を明らかにするために、自民大勝の結果をさまざまな角度から分析してみたい。

自民大勝、”想定の範囲内”の声も

自民党の長老に今回の選挙結果の受け止め方を聞いてみた。「マスコミは、自民大勝と強調するが、”想定の範囲内”ではないか」と話す。

この長老によると、自民党は63議席を獲得し、単独で改選議席125の過半数を獲得したが、こうした結果は事前に想定できたことだというわけだ。

具体的には、全体の勝敗を左右する1人区で、野党側の共闘体制が崩れたことで、勝利できるチャンスが広がった。過去2回の選挙では、32ある1人区の全てで、野党側は候補者を1本化したが、今回は11選挙区に限定された。

結果は、自民党が28勝4敗と大きく勝ち越した。前回は10敗、前々回は11敗だったが、前回との比較でいえば、負けを6つ減らしたことが、60台に乗せ勝利につながったとの見方だ。

私も同じような見方で、選挙は前回、前々回との比較をよくするが、実は、その前の3回前の選挙の戦い方が重要だ。「2013年の参院選」に似た戦いになるのではないかとみていた。

この時は、安倍元首相が政権復帰した直後の勢いのある時期で、自民党史上最多の65議席を獲得した。今回、岸田内閣の支持率と自民党支持率は、いずれも3年前を上回った一方で、2013年の水準までには達していなかった。

このため、自民党の獲得議席は3年前の選挙を上回り、2013年選挙時との間に落ち着くのではないかとみていた。

自民党の長老の言うように「想定の範囲内」で、自民党の勝因は、野党を分断し「野党共闘の崩壊」が大きかったとみている。

但し、岸田自民党が獲得した63議席は、安倍政権の65議席に迫る水準だ。また、小泉政権が躍進するきっかけになった2001年の参院選が64議席だったので、それに次ぐ歴代3位の議席数で、評価されていい。

また、選挙の内訳をみると、◇比例代表選挙は小泉政権の20議席、安倍政権の18議席とほぼ同じだった。◇もう一つの選挙区選挙の方で、1人区を中心に議席を着実に増やしていったことが勝利につながったと言える。

自民支持層拡大より、無党派層の獲得

次に有権者の投票行動から分析するとどうなるか。新聞、通信社などが行っている出口調査=実際に投票した有権者を対象にした調査結果を基に考えてみたい。

各社の出口調査とも「ふだん支持する政党」について、過去の調査と大きく違っているとの説明はない。そうすると、特に支持する政党がない「無党派層」の投票行動が、勝敗のゆくえを左右することが多い。

読売新聞の出口調査(11日朝刊)によると「ふだん支持している政党」は自民が37%、立民9%、維新9%などと続き、「無党派層」は18%で、3年前の参院選、去年の衆院選とほぼ同じ水準で大きな変化はなかったという。

この無党派層の投票先としては、◇自民が22%でトップ、◇維新が17%、◇立民が16%だった。自民や維新が上位を占めたのに対し、従来は上位にあった立民や共産は伸び悩んだことがことがわかる。

以上のことから、今回の選挙では、自民党は、自民支持層が拡大し支持基盤を強化して勝利したというよりも、「無党派層の支持を獲得し受け皿」になったことが大きな要因になったことが読み取れる。

もちろん、従来の自民支持層の支持や、連立を組む公明支持層の支援も支えになったとみられるが、「無党派層の獲得」が競り勝つうえで、大きな効果を発揮したとみている。

安倍元首相事件、選挙への影響は?

ところで、安倍元首相が亡くなった事件が世論の同情を誘い、自民党の勝利に影響したのではないかといった声も聞くが、本当だろうか。

いわゆる”同情票”を確認する方法がないので、論評は難しいが、メディア関係者の中には、期日前投票者を対象にした出口調査で、自民党への投票割合が事件の翌日に増えたとの指摘を聞く。

また、投票率が上昇したことも、今回有権者の関心を高めたとの説も聞く。

しかし、期日前投票で自民党への投票が増えたのであれば、政党を選ぶ比例代表の得票数がもっと増えるはずだが、議席数が増えるほど得票数は増えていない。

投票率についても、3年前は”亥年選挙”。統一地方選挙に続いて参院選も行われる年で、投票率が下がる傾向があった。その年と比べて、今回数ポイント投票率が上がったので、影響したのではと関連付けるのは無理がある。

自民党の選挙関係者にも聞いてみたが、「日本人は、亡くなった方には丁寧に弔意を示す人が多いが、選挙と関連づけて考える人は少ない」との見方だ。

私も「日本の有権者はリアルで、冷静かつ慎重、賢明な選択をしている」という見方をしており、直接的な影響は少なかったのではないか。

成果を出せるか、失望すれば離反も

選挙結果を受けて、岸田首相は11日午後、記者会見し、今後の政権運営の方針などを明らかにした。

この中で、岸田首相は「多数の議席は、国民からの叱咤激励だ。今の日本は戦後最大級の難局にある」との認識を示したうえで、再拡大しているコロナ対策をはじめ、物価高騰対策、防衛力の整備や、憲法改正、拉致問題などの難題に取り組んでいく考えを強調した。

問題は、岸田政権が難題の解決に向けて、果断に実行できるのか。具体的な対策や目に見える成果を早期に出せないと、民意が失望し離反する恐れもある。

それだけに内外の難問にどのような優先順位をつけて取り組んでいくのか、明確に打ち出す必要がある。

また、最大派閥を率いてきた安倍元首相が死去した後、岸田首相は、政権与党内の意見調整に強い指導力を発揮できるか、険しい道が続く見通しだ。(了)

 

 

 

”冷静・公正な参院選挙を” 元首相銃撃事件

参議院選挙の投票が2日後に迫った7月8日正午前、奈良市で選挙応援演説中の安倍元首相が男に銃で撃たれ、亡くなるという衝撃的な事件が起きた。

現場で取り押さえられ逮捕された41歳の容疑者は、元自衛官で「安倍元首相に不満があり、殺そうと思って狙った」という趣旨の供述をしているという。

一方で、「元首相の政治信条への恨みではない」とも供述しているということだが、動機など詳しい事件の背景は明らかになっていない。

今回の事件は、自由な政治活動や言論を封殺するものだ。しかも、民主主義の根幹である国政選挙の最中という重い意味を持っており、決して許されない。

私事になるが、安倍氏が2012年、自民党総裁選に再び挑戦して総裁に返り咲いた時や、その年の衆院選挙、さらに政権復帰した後、NHKの番組のインタビューや日本記者クラブの討論会などでお世話になった。心からお悔やみ申し上げたい。

元首相が選挙の演説中に凶弾に倒れるという事態に、これまで経験したことのない衝撃を受けた。犯人の動機や、事件の背景を徹底して捜査し、全容を国民の前に明らかにするよう強く要望しておきたい。

そのうえで、私たち国民は、こうした卑劣な政治テロに決して屈してはならない。日本は、成熟した民主主義国であることを証明するためにも、参院選挙をきちんと実施することが極めて重要だ。

9日は選挙運動の最終日、翌10日は投開票日が迫っている。私たち国民は、何をすべきか。今のような緊急事態には、次の2点をやり抜くことが重要だ。

1つは、政党、候補者などの対応だ。安倍首相が倒れた8日は、政党によっては急遽、選挙運動を中止した。しかし、選挙運動最終日の9日は、各党が正々堂々、政策や所信を訴えて、選挙運動をやり抜いてもらいたい。

2つ目は、私たち国民の側の対応だ。事件の全容はまだ明らかになっていない今の時点では、まずは、冷静な判断を取り戻すことを心掛けたい。危機の際には、フェイクニュースや虚偽情報が飛び交うことも想定しておく必要がある。

そのうえで、国民一人一人が改めて「自らの判断基準」に照らして、政党や候補者を選んで1票を投じていただきたい。

岸田政権の実績評価をはじめ、ウクライナ情勢などによる物価高騰対策、防衛力をはじめとする外交・安全保障政策など数多くの論点がある。

以上の2点を実行することで、まずは「国民が冷静で、自らの判断基準で選択」、そして政党とともに「自由で公正な参議院選挙」をやり抜きたい。

可能な限り多くの国民が投票に参加するよう呼びかけたい。そのうえで、選挙後は新たな国会で、与野党はさらに議論を尽くし、合意点を広げていく取り組みを強めてもらいたい。

一方、今回の参院選では、肝心な争点・論点が深まらなかったという不満を多くの国民が抱いているように思う。岸田首相と与野党は、こうした国民の不満、批判に応え、内外の懸案を速やかに実行し、具体的な成果を見せてもらいたい。

政治家の暗殺事件といえば、戦前の1921年、日本で初めての政党内閣を組織し平民宰相と言われた原敬が、東京駅で青年に刺殺された事件が有名だ。この事件を契機に政党内閣が崩れ、満州事変、太平洋戦争の道へと転落していった。

今の日本は当時と異なり、成熟した民主主義の力を持っていると考えています。日本の民主主義の力を証明するためにも「冷静で賢明、公正な選挙」をやりぬこうではありませんか。(了)

 

 

 

参院選、メディアの予測は当たるか?

参議院選挙の終盤の情勢について、メディア各社の分析が6日までに出そろい、各党の獲得議席を予測している。

去年秋の衆議院選挙では、メディアの予測が大きく外れた。政権与党・自民党の獲得議席をめぐって、過半数をめぐる接戦と予測したが、結果は安定多数の議席を確保した。予測の範囲内に収まらなかったメディアもあった。

今回の参院選では、メディアの予測は当たるだろうか。正確な予測のためには、何が必要なのか。一方、国民の側も予測の意味や活用の仕方などを考えておく必要があるのではないかと感じる。メディアの予測報道のあり方を取り上げる。

 予測 ”与党改選議席の過半数超え”

メディア各社の予測報道の内容を確認しておきたい。ここでは、長年選挙報道を続けている読売、毎日、朝日3社の「終盤情勢」を基に分析してみたい。(毎日は「中盤情勢」としており、「終盤情勢」は今後、出される見通し)

▲参院選挙は改選と非改選とに分かれるのをはじめ、少数の党派も多くて複雑なので、政権与党の自民党を中心にみていきたい。3社の各党の獲得議席の予測は次のようになっている。

◆読売、自民55~65「与党改選過半数の勢い」。◆毎日、自民53~66「与党堅調、改選過半数に届く見通し」、◆朝日、自民56~65「自公、改選過半数の勢い維持」となっている。

▲野党側については、◆読売と朝日は、立憲民主党は改選議席23を割る可能性があること。維新は改選議席6から大幅に伸ばし、比例代表では立民を上回る可能性があるとしている。

▲一方、選挙結果によっては、選挙後、憲法改正の動きが加速する可能性がある。憲法改正に前向きな勢力、自民、公明、維新、国民の4党が改正発議に必要な「3分の2」を確保するかどうかも大きな焦点だ。

◆朝日と毎日は、4党が「3分の2」を超える可能性があるとしている。

このように自民、公明の与党は、改選議席125の過半数を上回る勢いにあること。野党側は、立民が伸び悩む一方、維新が議席を増やす見通しで、比例代表選挙で接戦を繰り広げているという見方では、ほぼ一致している。

   予測当たる公算大、情勢調査に課題

さて、こうした予測は当たるかどうか。結論を先に言えば、私も前号のブログで明らかにしたように「与党で改選議席の過半数を上回る」との見方をしており、予測は当たる可能性が大きいとみている。(前号7月1日「与党優勢、波乱は物価高騰、参院選」)

その理由は、今回の選挙は野党共闘が崩れたことで、与野党の力の差が広がり、選挙情勢が読みやすくなったことがある。

また、「情勢調査」、選挙の勝敗に重点を置いた世論調査のことだが、衆議院の小選挙区に比べて、参院選の選挙区は、都道府県単位で対象が広いので、有権者の状況を把握しやすい。比例代表は、全国が選挙区なので、さらに全体の傾向をつかみやすい。

端的に言えば、世論調査のサンプル数が衆院選に比べて、集めやすいし、精度も高くなる。したがって、予測も当たる可能性が大きいという事情がある。

それでも「情勢調査」ですべてがわかるわけではない。具体的には、選挙区選挙で、焦点の全国で32ある「1人区」の結果は、全体の勝敗を左右するが、メディア各社で勝敗の予想でかなりの違いがある。

例えば、読売は、野党系がリードしている選挙区は1つで、接戦選挙区が12、残りは自民リードとみている。毎日は、接戦区は5から、8に増えたとの判定。朝日は、野党系候補が有利な情勢にあるのは2つ、接戦区は6から、2に減少したとの判断だ。

私は、1人区は、接戦区のうち5つ程度は開票してみないとわからないほどの激戦になるのではないかという見方をしている。物価高騰、コロナ感染再拡大などの不確定要素もある。加えて、もう一つ「情勢調査方法の違い」が影響しているのではないかとみている。

というのは、この「情勢調査」は去年の衆院選挙から大きく変わり、社によって調査方法が異なる移行期・試行錯誤の段階にあると思う。

具体的には以前は、各家庭にある固定電話をかける方式だったが、固定電話を持っている家庭自体が少なくなり、先の衆院選挙から、固定電話だけの情勢調査方式は姿を消した。

今はメディアによって、◆固定電話と携帯電話の両方を組み合わせた方式(読売など)。◆民間大手の携帯会社のインターネット会員を対象にした調査方式(毎日など)。◆固定電話と携帯電話、それにインターネット調査会社4社に委託して実施する調査の組み合わせ(朝日)など様々だ。

したがって、どの社の方式が選挙結果に近いデータを得られたかなどを見極める必要がある。

一方、メディア各社は、企業秘密もあるだろうが、データをできるだけ公開して説明してもらいたい。「情勢調査のあり方」が選挙後、新たな課題になりそうだ。

 予測の意味と活用の仕方がカギ

選挙予測については、国民の側も予測報道の意味や、活用方法などを考える必要があると思う。

どういうことかと言えば、報道機関は正確な報道を行うことが第1の役割だ。そのうえで、有権者の側に「投票に当たって判断材料の1つとして、選挙結果の見通しを知っておきたい」という要望に応えたいという考えがある。

政治にできるだけ民意を反映させるためにメディアの予測報道は意味があり、必要だと個人的には考えている。

このため、どのメディアの予測が当たったか、外れたかをことさら強調するのは、あまり意味がないと考える。

それよりも、メディアが選挙の争点をはじめ、政策の評価、選挙後の与野党の勢力の見通しなど国民に可能な限り多くの判断材料を提供するよう叱咤激励する方が生産的で望ましいことではないかと考える。

 出口調査と選挙報道の充実を

最後に「出口調査」についても触れておきたい。選挙の正確な報道という観点からすると、出口調査が最も正確なデータを得ることができると考える。

現役時代、NHKで政治記者と解説委員として選挙報道に携わった。出口調査は、実際に投票を済ませた有権者を対象にしているので、世論調査・情勢調査に比べて、予測の精度が各段に高くなるというのが実感だ。

但し、問題点もある。1つは、おカネがかかり、億単位の予算が必要になる。もう1つは、最近は期日前投票が増えてきたので、期日前投票も含めた出口調査を十分に行えるのか、調査員の確保などの面で難しい問題がある。

こうした問題はあるが、出口調査は、当落を判定するだけでなく、国民は何を重視し、何を選択したか有権者の投票行動の意味も正確に把握できる。それを選挙後、政治の側にぶつけたりすれば、さらに大きな意味を持つ。

選挙報道は、選挙の勝敗だけでなく、有権者の投票行動などを多角的に分析した中身の充実が問われている。

率直に言わせてもらうと以前に比べると、こうした点は各社とも弱体化しているのではないか。選挙のプロと言われる記者、世論調査や出口調査の分析などに当たる専門家も少なくなった。

こうした背景には、メディア各社の経営陣の資質や責任が大きいと個人的にはみている。

一方、現役の記者、編集委員、解説・論説委員などの諸氏も今回の選挙の意味、政治の側の役割、能力などの課題、問題を深く分析、論評してもらいたい。10日の投開票日の報道や論評に期待したい。(了)

 

 

 

”与党優勢、波乱は物価高騰” 参院選

参議院選挙は折り返し点を過ぎて、いよいよ後半戦に入った。G7サミットなどへの出席のため、選挙期間中に異例の海外訪問をしていた岸田首相は帰国し、各党とも最後の追い込みに入っている。

さて、選挙情勢をどうみるか。与野党の関係者の話を総合して予測すると、自民、公明の与党は、改選議席の過半数を固めて優勢といえる。対する野党側は共闘体制が崩れ、焦点の定員1人の「1人区」でも苦戦が続いているのが特徴だ。

一方、岸田内閣の支持率や自民党の支持率に下降傾向が、現れている。政府の物価高騰対策に対する不満が背景にあるものとみられ、選挙に波乱があるとすれば、この物価高騰が要因になることも予想される。

また、猛烈な暑さが続く中で、投票率がどうなるか。前回は、戦後2番目に低い投票率だったが、改善なるか。参院選の情勢や背景を探ってみる。

 与党、改選議席の過半数確保の勢い

さっそく、選挙情勢からみていきたい。自民党関係者に聞くと「想定通りの戦いで、前回・2019年の選挙を下回るような要素はない。前回獲得の57議席以上、60台に乗せるのではないか」と自信をのぞかせる。

選挙全体を左右するといわれる「1人区」をみても32選挙区のうち、27程度で自民党が優勢だ。定員が2人以上の「複数区」でもすべての選挙区で1議席を確保したうえで、北海道、千葉、東京、神奈川では2議席目にメドが立ちつつある。

比例代表選挙は、前回は19議席だったが、今回は1~2議席の上積みが可能だとみている。自民党は58議席以上、60台を確保する勢いをみせている。

公明党は、接戦が続いている選挙区を残しているものの、比例代表と合わせて、前回と同じ14議席が視野に入りつつある。

このため、岸田首相が勝敗ラインとして設定する「非改選を含めて与党で過半数」という56議席はもちろん、「与党で改選議席の過半数」63議席も上回る勢いがある。(橋本聖子参議院議員が近く自民党に復党した場合、56議席→55議席)

 比例・野党第1党、立民と維新の争い

野党側は、カギを握る1人区で候補者を1本化できた選挙区は11で、前回・前々回の3分の1に止まり、苦戦を強いられている。

野党側が今の時点でやや優位にある選挙区は、立憲民主党、国民民主党、無所属候補を含めて、青森、岩手、山形、長野、沖縄の5か所程度に止まっている。

自民党と激しく競り合っている選挙区が5つ程度あり、この激戦区でいくつ上積みできるかが焦点だ。野党系候補が勝利した1人区は、2019年は10,2016年は11あったが、今回はこれを下回り、1ケタ台に落ち込む公算が大きい。

野党側は、野党内で激しく競い合っているのが特徴だ。野党第1党の立憲民主党は改選議席23を上回る目標を掲げているが、改選議席を割り込むことも予想される。

維新は、改選6議席の倍増と比例代表選挙で立憲民主党を上回る得票をめざしている。共同通信の世論調査で、比例代表の投票先として、維新が立民を上回っていたが、最新の調査では逆転しており、比例の野党第1党争いが続く見通しだ。

このほかの党の改選議席は、国民民主党が7、共産党が6、社民党1となっており、各党の勝敗を評価するうえで目安となる。

一方、今回の選挙では、憲法改正に前向きな勢力が改正を発議できる総定数の「3分の2」、166議席に達するかどうかも焦点だ。具体的には、自民、公明、維新、国民の4党で、非改選の84に加えて、今回82議席が必要になる。4党が今の勢いを維持した場合は、届く見通しだ。

 岸田内閣、自民支持率ともに下降傾向

このように選挙戦は与党優勢で推移しているが、ここにきて、岸田内閣の支持率と、自民党の支持率がともに下降傾向を見せ始めた。

読売新聞が6月22・23日に行った調査では、岸田内閣の支持率は57%で、6月上旬の前回調査から7ポイント下落した。自民党の支持率も6ポイント下がって37%、比例代表の投票先も9ポイント下がって36%となった。

NHKが6月中旬から1週間ごとに行っているトレンド調査でも、岸田内閣の最新の支持率は50%で、この2週間に9ポイント下落した。自民党支持率も35.6%で、2週間で4.5ポイント下落した。(最新・投票日2週前調査と、その2週前調査との比較)

NHKの調査では、政府の物価高騰対策について「評価する」が35%に対し「評価しない」が56%と上回っており、物価高騰対策が影響しているものとみられる。

但し、岸田内閣や自民党の支持率は下落しているものの、野党の支持率は上がっていない。こうした批判がどのような投票行動になって現れるか、わからない。

 物価高騰、与野党勢力、投票率がカギ

後半戦の焦点は何か。これまでの議席予想に変化・波乱が起きるとすれば、政府の「物価高騰対策」への批判が強まる場合が考えられる。

厳しい暑さが続き、東京電力管内では「電力需給ひっ迫注意報」が出されてきたことから、エネルギー確保や経済政策を含めた物価高騰対策の論戦がどのような展開をみせるのか焦点になりそうだ。

また、岸田首相がG7サミットやNATO首脳会議に出席したのを受けて、ロシアや中国に対する「日本外交の戦略・対応」や、「防衛力の整備の具体的な内容、予算の規模、財源」をめぐる論戦のゆくえも注目される。

さらに、参議院選挙が終わると衆議院が解散されない場合、向こう3年間、国政選挙がない期間が続くことになる。このため、国民が与野党の勢力はどのような形が望ましいと考えるか。

与党を増やして岸田政権の実行力に期待するのか。与党を増やしすぎると内輪の抗争が激化するとみて、野党を増やす方へ動くのか「与野党の勢力バランス」も判断の要素になりそうだ。

さらに気になるのは「投票率」だ。前回は48.8%、50%を割り込み、戦後2番目に低い投票率になった。今の日本政治が国民の関心を引き付ける力を失っていることの反映だ。

ロシアによるウクライナ侵攻は長期化が予想される中で、日本は国際社会の中でどのような役割を果たすのか。どんな経済・社会を目指すのか、政党のリーダーは構想や目標、道筋をもっと明確に打ち出して議論を深めるべきだ。

私たち国民も政治の側の訴えに耳を傾け、ベストの選択肢がない場合は、よりましな選択を心掛け、1票を投じたい。(了)

★追記(7月1日16時:東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の会長を務めてきた、参議院議員の橋本聖子氏が組織員会の解散を受けて、1日付で自民党に復党した。これに伴い、自民・公明両党の非改選の議席は、1つ増えて「70」となる。また、自公両党が勝敗ラインとしている参議院全体の過半数を維持するために必要な議席は、56から「55」になる)

参院選 憲法改正問題の見方・読み方

参議院選挙が公示された後の最初の週末、テレビ局では各党幹部が出演して討論が行われた。週明け27日から首都圏では政見放送も始まったが、新興勢力の党派やユーチューバーの候補者も目に付き、ネット時代の選挙を感じる。

与野党の論戦では、ウクライナ情勢などによる物価高騰・経済政策と、日本の防衛力整備のあり方を含む外交・安全保障の2つのテーマに議論が集中している。

一方、参議院選挙の結果によっては、選挙後、憲法改正問題の議論が加速する可能性がある。そこで、今回はこの憲法改正問題をどのように考えたらいいのか、取り上げる。

 改憲勢力「3分の2」82議席が焦点

岸田政権が初めて臨む今回の参議院選挙は、自民、公明両党が改選議席の過半数を獲得できるかどうかが焦点になるが、今の選挙情勢から予想すると達成の可能性は高いとみている。

もう1つの焦点が、憲法改正に前向きな勢力が、参議院の「3分の2」を占めることになるのかどうかだ。この「3分の2」は、憲法改正を国会で発議、提案するために必要な勢力だ。

具体的には、自民党と公明党、日本維新の会、国民民主党の4党が衆議院に続いて、参議院でも3分の2の議席を確保すれば、数の上では憲法改正を発議することが可能になる。

参議院の定数の「3分の2」は166人。憲法改正に前向きな4党の非改選議員と近く自民党に復党する無所属議員1人を加えると84人。その差「82」議席を改憲勢力が獲得すると「3分の2」を確保することになる。

 自民、憲法改正原案早期に提出の意向

6月26日に放送されたNHK日曜討論で、自民党の茂木幹事長は「時代の転換点にあって、新しい時代にふさわしい憲法のあり方を示すのは国の役割だ。この選挙後、できるだけ早いタイミングで、憲法改正原案の国会での可決、発議をめざしたい」と憲法改正を早期に実現したいとの考えを表明した。

これに対し、野党の立憲民主、共産、れいわ、社民の各党の幹事長や書記局長からは強く反対する意見が出される一方、維新や、国民民主からは議論に応じていきたいとの意見が出され、対応が分かれた。

憲法改正をめぐって、安倍政権時代も参議院で3分の2を確保したことはあったが、当時は安倍首相に対する野党の警戒感が強く、憲法改正への動きは進まなかった。

これに対して、岸田政権に代わった先の通常国会では、衆参の憲法審査会が頻繁に開かれ、憲法論議が活発化した。

去年の衆院選で野党第1党の立憲民主党が敗北、憲法改正に積極的な維新や国民民主党が積極的に議論に応じたことが背景にある。

一方、岸田首相は宏池会出身で、ハト派のイメージが強いが、憲法改正には強い意欲を示している。政権運営にあたって最大派閥の安倍派の協力が必要で、選挙後も憲法改正に積極的な姿勢で臨むことが予想される。

このため、今回の選挙結果次第では、憲法改正をめぐる議論が選挙後に加速することがありうる。これを国民の側からみると、今回の参院選がターニング・ポイントになることもありうるので、投票に当たっては、こうした点も念頭に置いておく必要がある。

 憲法のどこを変えるか、各党に温度差

ここまでみてきたように憲法改正をめぐる議論は加速することはありうるが、直ちに改正へと大きく動くかと言えば、そうとも言えない。

というのは、今の憲法をどのように評価するか。また、具体的にどこを変えるのかといった中身の問題になると各党の考え方の違い、温度差が大きいからだ。

例えば、自民党は憲法改正に向けて、自衛隊の明記、緊急事態対応など4項目を提示して、丁寧に説明すると選挙公約で打ち出している。

ところが、同じ与党でも公明党は今の憲法を高く評価しており、自衛隊の明記については「引き続き検討を進める」という表現にとどめている。

この自衛隊の明記をめぐっては、野党側のうち、立憲民主や共産、れいわの各党は反対している一方、維新は賛成、国民民主は議論するとして、対応に違いがある。

このため、国会でこうした違いを調整して改正案をまとめることができるかどうか。そのうえで、国民投票の実施にこぎつけ、多数の賛成を得られるのかどうか、なかなかの難問だ。

 国民が重視する課題、優先順位は

さらに国民は、憲法改正問題をどのように受け止めているか、この点も重要だ。NHKが今月24日から26日に行った世論調査で「選挙で、最も重視する政治課題」を聞いている。

結果は、◇経済政策が最も多く43%。次いで◇社会保障が16%、◇外交安全保障が15%と並び、その後、◇新型コロナ対策、◇憲法改正、◇エネルギー・環境がいずれも5%だった。

つまり、国民が重視する政治課題の中で、憲法改正問題は低い順位に止まっている。政党の側は熱心だが、国民の側には、届いていない。この点を政党、政治家は重く受け止める必要がある。

私事になるが、現役時代の2000年に憲法調査会が国会に設置された当時から憲法問題を取材してきたが、憲法は国民のものであり、絶えず、見直していく必要がある。

そして、憲法改正を行う場合、最終的には国民投票で、国民の多数の賛成を得なければならない。政治の側は、国民が必要としている暮らしや社会が抱える大きな課題を解決できているか、課題の処理能力や優先順位が大きな問題になる。

今回の参院選は、ウクライナ情勢や外交・安全保障のあり方をはじめ、物価高騰や経済政策、人口急減社会への対応、さらには憲法改正問題など大きなテーマを数多く抱えている。

特に政権与党の自民党は、選挙後、早いタイミングで憲法改正原案を提出する考えであるならば、選挙期間中に改正案の内容を掘り下げて説明し、国民に判断材料を提供するよう注文しておきたい。(了)

 

 

 

参院選 波乱要因は物価高騰問題

第26回参議院選挙が22日公示され、7月10日の投開票日に向けて18日間の選挙戦が始まった。

政権与党の自民党は堅調な滑り出しをみせているが、「物価高騰とエネルギー対策を含む経済政策」が選挙の波乱要因として浮上してきたように見える。

今回は選挙の構図をはじめ、選挙情勢、今後の焦点を報告する。

 選挙の構図一変、野党共闘から競合へ

まず、「立候補状況」を確認しておくと◇選挙区選挙には75の定員に対して367人、◇定員50の比例代表選挙には178人の合わせて545人が、それぞれ立候補した。

前回・3年前の立候補者は、合わせて370人だったので、前回に比べて175人も増えた。これは、選挙区で1人を選ぶ「1人区」で、野党候補の1本化が進まなかったことと、”ミニ政党”が多数の候補者を擁立したためだ。

また、女性候補者が181人で、候補者全体の33%、人数と割合はいずれも過去最高となった。衆院選挙を含めた戦後の国政選挙で初めて3割を超えたが、「候補者男女均等法」の目標には届いていない。

次に「選挙の構図」は、過去2回の選挙と比べると様変わりしたのが特徴だ。特に全国に32ある「1人区」で、与野党の勝敗を左右する選挙区の様相は大きく変化した。

1人区は、自民党が長年議席を維持してきた選挙区が多く、野党側は共闘体制を組んで対抗しようとしてきたが、今回、1本化できたのは、11の選挙区に止まった。

前回、前々回はすべての1人区で候補者を1本化してきた。今回は全体の3分の1に止まったので、野党同士が競合する選挙区が増えたことになる。

 自民堅調、波乱要因は物価高騰対策

それでは、与野党の選挙情勢や、勝敗を分けるポイントは何かをみていきたい。

自民党の幹部に聞くと「新型コロナ感染は落ち着いているし、ウクライナ情勢も岸田内閣はG7と連携して対応しており、選挙準備も順調に進んでいる。自民党にとって、不安材料があるとすれば、物価の高騰や円安など経済問題への対応だ」と公示前の時点で語っていた。

その後、党首討論や、公示日の党首第一声などを聞いてみると、この幹部の不安が的中した形になっている。別の幹部も「この30年、国民は物価の高騰を経験したことがなく、対応を誤ると思わぬリスクになる」と神経をとがらせている。

報道機関の世論調査でも◆共同通信が6月11日~13日に行った調査では、岸田内閣の支持率は56.9%と高い水準を保っているが、前回調査から5ポイント近く下落した。岸田首相の物価高対応についても「評価する」は28.1%に対し、「評価しない」が64.1%と大幅に上回った。

◆NHKが6月10日以降1週間ごとに実施しているトレンド調査では、岸田内閣の支持率は59%から、55%へ4ポイント下落した。政府の物価高騰対策についても「評価する」が35%に対し、「評価しない」が56%と上回った。

今回の参院選の論点としては、ウクライナ情勢と外交・安全保障、コロナ対策、憲法改正問題など数多くのテーマを抱えているが、世論や選挙情勢に最も大きな影響を及ぼしているのは「物価高騰対策」であることが浮かび上がってきた。

次に、こうした物価高騰問題は、参院選挙では具体的にどのような形で影響が出てくるのかを探ってみよう。まず、全国が対象の比例代表選挙に比べて、選挙区選挙への影響が大きい。特に1人区のうち、接戦の選挙区だ。

例えば、青森、岩手、宮城、福島の東北各県をはじめ、新潟、山梨、大分、沖縄などの各県は大激戦になりそうだ。こうした激戦区は10余りあり、風向きが変わると勝敗が入れ替わることになる。

与野党の選挙関係者の話を基に判断すると、自民党は「前回・2019年に獲得した57以上の議席の獲得は可能で、60台に届くのではないか」との見方をしている。

これに対して、野党関係者は「1人区では、野党候補の1本化で前回は10議席、前々回は11議席を確保してきた。今回、野党共闘は縮小したが、激戦区では1議席でも競り勝ちたい」と最後の追い込みにかける構えだ。

自民、公明の与党側は、非改選を含めて与党で過半数の確保には、自信を持っている。但し、どこまで議席を上積みできるかは、読み切れていない。1人区の激戦区がカギを握っており、特に10か所近い激戦区の情勢はまだ、流動的だ。

 物価・防衛、岸田首相の政治決断は

最後に7月10日の投開票日に向けて、どんな動き、展開が予想されるか。

1つは、週末は各テレビ局で党首レベルの討論が行われるが、これまでと同じ主張をダラダラと繰り返す展開が1つ。選挙の争点が明確にならないのが問題だ。

岸田首相は、26日からドイツで始まるG7の首脳会合、続いて29日からスペインで開かれるNATO首脳会議に初めて出席する。選挙期間中に異例の1週間近くも国内を留守にすることになる。

2つ目は、例えば円安がさらに加速したり、報道各社の世論調査で、岸田内閣の支持率が続落したりして、岸田政権が新たな対策に追い込まれたりするケースも予想される。

3つ目は、岸田首相が打って出る形で、物価高騰や防衛費問題などをめぐって、新たな対策や構想を打ち出すこともありうるのではないか。野党党首もこれに応じて、活発な論戦が戦わされるケースも考えられる。

現実の政治はどうか。1つ目の先送りケースに落ち着く可能性が大きいと思うが、私個人は、3つ目のケースもありうるのではないかと期待している。

というのは、このまま推移すると世論は「岸田政権は、物価高騰などに思い切った手を打てないのか」と落胆や批判が強まり、内閣支持率などが下がる可能性もあるからだ。

また、平時であれば先送りもありうるかもしれないが、今はウクライナ情勢に伴う激動、有事が続いている。大胆でスピーディーな対策が必要だ。

さらに世論は、小手先の給付金や補助金のバラマキを期待しているのではなく、資源高対策としてエネルギー確保にどう取り組むのか。日本の金融政策は、欧米諸国とは正反対の方向で、大胆な金融緩和策を続けて大丈夫なのかといった点を知りたいと考えているのではないか。

端的に言えば、岸田政権としてどんな経済・金融政策を取るのか、明確でわかりやすい説明を世論は催促していると思う。

今回は物価高を中心に取り上げたが、防衛力整備のあり方についても同じ問題を含んでいる。

岸田首相は、防衛力を抜本的に強化する考えを表明する一方、重点的に整備する分野や、予算規模、財源は選挙の後に先送りする方針だ。

しかし、国政選挙のさ中に、防衛力整備の基本的な考え方を明らかにしないのはどう考えても無責任だと言わざるを得ない。

選挙の時に「負担」の話はしないというのは、昔流の政治手法だ。国民の安全にかかわる問題は選挙の時に説明し、国民を説得することは、政治的なリスクを伴うが、民主主義国のリーダーの責務であり、強さでもある。

岸田首相が政治決断をして、踏み込んだ構想を示し、野党党首も受けて立って、中身のある充実した論戦を行えないものか。国民の多くは、政治が変わり、前進することに大きな関心と期待を抱いているのではないか。(了)

 

 

参院選 何が問われる選挙か

ウクライナ情勢で世界が大きく揺れ動く中で、第26回参議院選挙が今週22日に公示され、7月10日の投開票日に向けて選挙戦が始まる。

今度の参議院選挙で、岸田政権は去年秋の衆院選に続いて勝利し、安定した政権基盤の下で、内外の懸案に取り組みたい考えだ。

これに対して、野党側は改選議席の過半数を獲得して反転攻勢の足掛かりを得たいとしており、激しい戦いが予想される。

一方、私たち有権者は今度の参議院選挙をどのように観たらいいのか。判断すべきことが多く、選択が意外に難しいとの声も聞く。そこで、「何が問われる選挙か」。有権者の側から、政治の対応や政策のポイントを考えてみたい。

 ”大きな問題、低い投票率”の懸念

今度の参議院選挙について、個人的に最も気になっている点から取り上げてみたい。何かと言えば、投票率が低くなるのではないかという懸念だ。

というのは、選挙関係者の何人かを取材したところ、かなりの人が、選挙は盛り上がっていないし、有権者の関心も低く、投票率が下がるのではないかと心配しているからだ。

前回・2019年の参院選の投票率は48.80%で、戦後2番目に低い結果に終わった。今回は前回並みか、さらに下がるのではないか、つまり、50%割れの可能性が強いということになる。

他方で、ロシアによるウクライナ侵攻は、日本国民にも大きな衝撃を与え、日本の平和や安全の問題を考えるきっかけになっている。加えて石油高騰、物価高も進み、政治・外交、選挙への関心が高まるという見方もできる。

ところが、有権者の関心が低いとみられるのはなぜか。選挙関係者は、立候補予定者のポスター類が例年に比べて少ないこと。野党共闘が崩れ、野党支持層の関心が薄れていること。さらにメディアの取り上げ方が、ウクライナ問題に集中し、日本の政治に関心が向かっていないからではないかと指摘する。

こうした点に加えて私は、国会の論戦が低調で、これからの選択肢も示されない状況も重なって、政治への関心が低下しているのではないか。「政治の責任」が極めて大きいとの見方をしている。

したがって「参院選で何が問われているか」と言えば、まずは「政治の力量と質」が問われている。具体的には、政党・候補者が選挙の争点を明確にし、有権者を引き付けることができるかどうかが問われていると考える。

 暮らし・経済 重点政策の明示を

そこで、選挙の争点となる政治課題・政策をみていきたい。各党の選挙公約を読むと、ウクライナ情勢を受けて、重視している政策は2つに絞られつつある。1つは、外交・安全保障政策、もう1つは物価の高騰、暮らし・経済政策だ。

暮らし・経済政策から取り上げたい。物価の高騰は去年秋から始まり、ロシアによるウクライナ侵攻で石油高、資源高に拍車がかかった。日本では、さらに円安が加速し、物価高騰対策が参院選の争点に浮上してきている。

野党側は「岸田インフレ」と批判し、家計の負担を軽減するため、消費税の減税や廃止をそろって打ち出しているのが特徴だ。

これに対して、政府・与党は、ロシアによる「有事の物価高騰」が主たる要因だが、物価高は欧米の4分の1程度に収まっているとかわす一方、1兆円の地方創生臨時交付金を活用して、生活者や事業者への支援を強化していくと強調している。

この問題は、岸田政権の旗色が悪いように見える。今後、ボディーブローのように効いて、選挙の波乱要因になるのかどうか、注意深くみていく必要がある。

もう1つは、日本経済の根本問題は、この30年近く、賃金が上がらず、経済成長も目立った成果を上げることができなかった問題をどうするのかということに尽きる。

岸田首相や自民党は、看板政策として「新しい資本主義」を掲げ、「25年ぶりの本格的な賃金増時代を創る」と強調しているが、どのように実現していくのか、骨太の方針や選挙公約を読んでも、よくわからない。

要は、与野党ともに「暮らし・経済分野の重点目標と、実現のための具体策、期限を含めた道筋」を明確に打ち出すことが問われている。

特にメディアは、各党党首を招いての討論では、論点を明示して、かみ合った議論を展開するよう求めることが必要だ。

 防衛力整備のあり方と外交構想を

外交・安全保障に話を移したい。この分野は多くの論点あるが、日本に引きつけて考えると、日本の防衛力整備をどう考えるかが、最大のポイントだ。各党の選挙公約を読むと、対応の方針は3つ程度に分類できる。

1つは、「防衛力の抜本的強化路線」。例えば自民党の方針で、NATOのGDP比2%を念頭に5年間で整備をする考え方。日本維新の会も基本的に同じ路線だ。

2つ目は、先の路線とは対極にある考え方で、「軍拡反対・外交重視路線」。共産党、れいわ、社民党などの考え方。

3つ目が、2つの路線の中間に位置する考え方で、「漸進的な防衛力整備路線」。防衛費を増やす立場だが、整備する分野を検討し、着実に整備を進めるなどとしている。与党の公明党、立憲民主党、国民民主党などがこの路線だ。

以上は私の個人的な分類だが、有権者としてどの路線が望ましいと考えるか、追加の判断材料が必要だ。

例えば、第1の路線「防衛費を5年間でGDP2%まで増やすケース」では、今のおよそ5兆円の予算から、さらに5兆円の予算の上積みが必要で、年平均で1兆円程度ずつ増やしていく必要がある。

岸田首相は「防衛力のどこを強化し、そのための予算の規模、財源の3つを一体で考える」として、具体的な内容に踏み込むことを避けている。

しかし、これでは論戦は深まらないし、国民も理解し選択するのも困難だ。詳細は別にして、基本的な考え方を説明して議論を深めるべきだ。

例えば、防衛力を優先的に整備する分野として、国民の避難・保護をはじめ、武器弾薬の備蓄、正面装備、自衛隊員の生活環境など多くの課題の中で、どこを重視するのか、財源は国債で賄うのか、一定の考えを示すのは可能だと考える。

もう1つ、重要なことは「日本外交のあり方・構想・ビジョン」論争だ。これが余りにも弱い。防衛力の整備は必要だが、国家レベルの意見の対立を武力紛争に拡大させないことが重要だ。そのための外交努力、国のトップリーダーの役割や取り組みが極めて重要だ。

日本を含む東アジア地域の平和と安定については、日米同盟が基軸であることはほとんどの政党で一致している。そのうえで、関係悪化が続いている韓国との関係や、軍事力増強が続いている中国とどのように向き合うのか議論が必要だ。

日米同盟を基軸にしたうえで、中国とも対話を模索するなど「したたかな外交」を探るべきだ。日本外交の役割、平和と安定を追求していく構想・ビジョン論争も必要だと考える。

ここまで「参議院選挙で問われる点」をみてきた。暮らしと経済、外交・安全保障分野では、重点目標と実現への道筋をめぐる議論が不可欠だ。

また、国際社会の激動が続く中で、国民の多数が参加して進路を定めていく参院選挙にできるのかどうか。特に選ばれる側の政党、候補者の対応が問われている。(了)

参院選 岸田首相 異例の首脳外交

長丁場の通常国会が15日で閉会し、いよいよ夏の参議院選挙が始まる。今回の選挙期間中、岸田首相はドイツで開かれるG7=主要7か国首脳会議などに出席し、海外で首脳外交を展開する。

日程は1週間程度になる可能性があり、政権与党のトップが国政選挙の期間中、長期にわたり国内を留守にするのは異例だ。参院選挙への影響はどうか、与党優位と言われる中で、参院選の風向きを変える要素は何か、探ってみた。

 岸田首相 G7とNATO出席も検討

まず、これからの政治日程をみておきたい。最終盤の国会は13日、参議院決算委員会に岸田首相が出席して質疑が行われた後、会期末の15日に重要法案の「子ども家庭庁」設置法案が参院本会議で可決・成立し、閉会する運びだ。

翌週の22日には、第26回参議院選挙が公示され、7月10日の投開票日に向けて選挙戦が始まる見通しだ。

選挙期間中の26日から28日には、G7=主要7か国首脳会議がドイツで開かれ、岸田首相が出席する。長期化するロシアによるウクライナ侵攻への対応策や、核・ミサイル開発を進める北朝鮮問題が主要な議題になる見通しだ。

また、29、30両日、スペインでNATO=北大西洋条約機構の首脳会議が開かれる。岸田首相は最終的な態度を決めていないが、出席の方向で調整を進めている。

欧米の30か国で構成される軍事同盟NATOの首脳会議に日本の首相が出席すれば、初めてのことになる。

自民党内からも「NATO首脳会議に出席すれば、日本としてもウクライナ危機を欧米諸国と共有することになる。将来、台湾問題などで日本が危機に陥った場合、ヨーロッパ諸国の支援が期待できる」として、出席を支持する意見も出されている。

また、首相周辺には、外相経験者として岸田首相が得意の外交力を内外にアピールでき、参院選挙にも有利に働くとの判断がある。このため、岸田首相は、最終的にはNATO首脳会議にも出席する決断をするのではないかとみられている。

問題は、G7に続いて、NATOの首脳会議にも出席するとほぼ1週間かかる。参院選挙の運動期間18日間の3分の1以上にわたって、総理・総裁が国内を留守にする、異例の日程になる。

 首脳外交、選挙の得票・議席増効果は

さて、国政選挙の期間中、首相がほぼ1週間国内を留守にすることをどうみるか。地方の選挙関係者からは「最後の追い込みに、やはり総理・総裁の応援は欲しい」と海外訪問期間の短縮を求める声が出されることが予想される。

これに対して「地方の応援に回るよりも、国際舞台で活躍する首相の姿を報道してもらう方が効果がある」と反論する意見も出されそうだ。

自民党の長老に聞いてみた。「これまでの経験から言えば、外交は票にならない。ウクライナ情勢の影響はわからないが、有権者の身の回りや国内問題の方が選挙結果に結びつく。但し、今度の参院選挙は野党に勢いがなく、激戦区は少ない。首相が外遊しても大した問題にはならないのではないか」と語る。

この発言からすると選挙へのマイナスの影響はそれほどない。一方、首脳外交が華々しく取り上げられたとしても選挙に大きな効果もないだろうということになる。

 波乱要因は、不祥事、物価高騰

今回の参院選挙は与党優位との予想が多いが、波乱要因があるとすれば何か、この長老に聞いてみた。

「気になるのは2点。1つはスキャンダルや不祥事などに鈍感すぎると、思わぬしっぺ返しを受ける。もう1つは、有権者の関心は低いので、投票率が5割を切るかもしれない。この影響がどう表れるかだ」と語る。

通常国会では、政府提出法案の61本はすべて成立する見通しだが、国会議員に毎月100万円支給される「文通費」(「調査研究広報滞在費」に改称)の使途を公開するなどの宿題は、先送りになる見通しだ。

一方、細田衆議院議長のセクハラ疑惑報道に続いて、今度は自民党岸田派に所属する吉川赳衆院議員が18歳の女性と飲酒したなどと週刊誌に報じられ、離党した。吉川氏に対しては、自民党内からも議員辞職を求める意見が出されている。

有権者が、こうした不祥事への対応が甘すぎると判断すると参院選の風向きがガラリと変わる可能性がある。

このほか、与党にとっての不安材料は、物価高や経済運営のかじ取りの問題もある。円安や物価高がさらに急激に進んだり、政府の経済運営に問題ありと判断されたりすると苦戦を強いられる。投票日まで1か月ある。

一方、参院選の投票率については、前回2019年は48.80%で、戦後2番目に低い水準だった。選挙関係者の中には、今回、投票率が5割を割り込むのではないかとの見方もある。

その根拠としては、街頭のポスター類が少ないこと。ウクライナ情勢や、コロナ感染対策など大きな問題を抱えているのに、日本の問題に引き寄せて争点化ができていないこと。さらに野党がバラバラで、選挙に緊張感がないためだ。

選挙は、投票箱が閉まるまで何が起きるかわからないといわれる。ウクライナ情勢と日本の防衛力整備のあり方、新型コロナ感染の総括と備え、物価高騰と経済対策などについて、有権者がどんな判断を示すか、投票日までの動きをじっくり見極める必要がある。(了)

 

 

衆院議長、内閣 不信任決議案の読み方

通常国会の会期末が15日に迫る中で、野党第1党の立憲民主党は今週、細田衆議院議長に対する不信任決議案と、岸田内閣に対する不信任決議案を相次いで提出する構えだ。

これに対して、自民、公明の与党側は直ちに否決する方針で、与野党の攻防が激しさを増す見通しだ。今回の不信任決議案の意味をどのようにみたらいいのか、夏の参院選挙を控えた与野党の事情、背景を探ってみた。

 衆院議長の説明責任と政治の質

細田衆議院議長をめぐっては、週刊文春が複数のメディアの女性記者に対して、深夜に自分のマンションに来ないかなどの電話をたびたびかけていたと報道し、衆参の予算委員会などでも取り上げられた。

立憲民主党は、細田議長が衆議院の小選挙区の「10増10減案」に繰り返し懸念を示したことや、女性記者などへのセクハラ疑惑の週刊誌報道について、国会で説明していないことは、議長としての資質に欠けるとして、7日にも細田議長に対する不信任決議案を提出する方針だ。

国会の議事運営などをめぐって、野党が衆院議長に不信任決議案を出すことはあるが、セクハラ疑惑の報道をめぐって不信任案が出されるのは極めて異例だ。

与党側は「事実関係が確認されていない段階で不信任案を提出するのは、極めて無責任だ」として、提出されれば直ちに否決する方針だ。

但し、与党関係者の中にも「細田氏の言動には、かねてから問題があった」との発言が聞かれるほか、「録音がとられていたらアウトではないか」との声もささやかれている。

衆院議長は、参院議長とともに立法府をつかさどる三権の長で、手厚い処遇と強い権限が与えられている。例えば、国会法で、議院の秩序保持権、衛視や派出された警察官を指示・執行できる。

政界では、権力をめざさない「上がりポスト」との見方もあるが、重厚さや権威、信頼感などが求められるポストだ。昭和の前尾繁三郎、保利茂、灘尾広吉などが知られるほか、最近では、伊吹文明氏、大島理森氏らが就任していた。

こうした衆院議長の重みを考えると今回のような疑惑が生じた場合は、国会のしかるべき場所で、議長が説明責任を果たすことが最低限必要ではないか。そのうえで、責任などをどう考えるか、議長が与野党の意見も聞いて最終的に判断するのが基本ではないかと考える。

今回のケースは、「政治の質」に関わる問題でもある。細田氏は現在は党籍を離れているが、自民党に所属し、最大派閥の会長を務めてきた。重要なポストにふさわしい人物が就任しているかどうか。問題が生じたときに国会は、政治の信頼を維持できる取り組みができているかどうかも問われている。

一方、国民の側も「政治の質」をどのように判断するか、問題があるとすれば、次の選挙で一定の判断をして改善を求めるというのが、議会制民主主義のルールだ。回りくどい対応だが、粘り強く進めるしか他に方法はない。

 政権与党、野党の対立軸を鮮明に

もう1つは、岸田内閣に対する不信任決議案の問題だ。今のところ、9日に提出される見通しだ。

内閣不信任決議案の意味をめぐっては、個人的には、2つに分類できるとの見方をしている。1つは、政治の行方を大きく左右する「政局緊迫型」。2つ目は、野党が自らの存在感を訴える効果を狙った「アピール型」だ。

前者は、不信任決議案が可決される可能性があるようなケースで、政治は一気に緊迫する。可決されれば、内閣総辞職か、衆院解散・総選挙のいずれかになる。

今回、自民、公明両党は、提出されれば、直ちに否決する方針で、与党内で反乱が起きるような要素はない。

そうすると今回の不信任決議案は、後者の「アピール型」となる。参院選を控えて、野党第1党が存在感の発揮を狙ったとみられる。

衆院では与党が圧倒的多数なので、不信任案が提出される場合、否決される見通しだ。この不信任案提出の意味を見出すとすれば、提案理由の説明や賛否の討論を通じて、岸田政権の評価や各党の立ち位置などを確認できるということではないか。

というのは、ウクライナ情勢やコロナ感染問題など極めて大きな問題を抱えながら、与野党の今後の対応策の違いはどこにあるのか、国民の側には、十分に伝わっていないのではないか。参院選でもどの政党に投票するか迷ってしまうとの声を聞く。

先週の補正予算案の審議と集中審議でも岸田首相は、焦点の物価高対策や、今後の経済・金融政策をめぐって、曖昧な答弁が相次いだ。これまでの政策を変える点、変えない点はどこか、肝心な点がさっぱりわからなかった。

防衛力の整備についても、抜本的な防衛力の整備を強調するが、整備する重点分野や、予算規模の目安、その財源のいずれも、年末の予算編成まで差し控えるという答弁で、これでは議論が深まるはずがない。

一方、野党の側も、政府の対応を批判するのは当然なのだが、自らの党はどんな考え方で臨むのか、政府とどこが違うのか、はっきりしない党が多い。

通常国会も会期末まで残りわずかだ。政権与党と、野党側はそれぞれ何を最重点に取り組んでいくのか「与野党の違い・対立軸」を明確にして、この国会を締めくくってもらいたい。

★追記(6月9日23時)立憲民主党が提出した岸田内閣に対する不信任決議案は9日午後、衆議院本会議で採決が行われ、自民、公明両党に加え、日本維新の会、国民民主党などの反対多数で否決された。また、細田衆議院議長に対する不信任決議案も自民、公明両党などの反対多数で否決された。野党側は、立憲民主党や共産党などは賛成し、日本維新の会、国民民主党、れいわ新選組などは採決を棄権した。(了)

低調な国会論戦、参院選は低投票率も

長丁場の通常国会は会期末まで2週間余り、物価高対策を盛り込んだ補正予算案が衆議院を通過し、週明け30日からは参議院に舞台を移して審議が行われる。

ここまでの論戦を聞くと国民が知りたい点に突っ込んだ議論は見られず、極めて低調だ。

一方、国会閉会後には参議院選挙が始まるが、閣僚経験者は「これほど手ごたえがない選挙は初めてだ」と早くも投票率の低下を心配している。

内外に数多くの難問を抱えている中で、国会の論戦は余りにも緊張感が乏しいのではないか。最終盤の国会の現状とあり方を考えてみたい。

 野党は迫力不足、首相は慎重答弁

国会の最終盤に設定された補正予算案の審議は、衆議院予算委員会で26,27両日行われた。審議は与党ペースで淡々と進み、補正予算案は衆院本会議で、自民、公明両党と国民民主党などの賛成多数で可決され、衆院を通過した。

論戦は、NHKの昼、夜のニュースをみてもウクライナ情勢や北海道知床沖で沈没した観光船の引上げなどに押されて、扱いは小さかった。論戦の中身は、メディアにとってもニュース価値が乏しかったということだろう。

アメリカのバイデン大統領の日韓両国への訪問や、日米首脳会談、クアッド=日米豪印4か国首脳会合が行われた直後の国会の論戦。本来なら、日本の外交、安全保障の今後の対応などをめぐって、与野党が丁々発止、激論を交わし、ニュースでも大きく扱われる場面ではなかったか。

ところが、論戦の中身は、外交・安全保障、石油高騰などに伴う経済政策も既に明らかにされていることの繰り返しで、極めて低調なまま終わった。

この原因は、まず、野党側の追及が迫力を欠いていたことがある。同時に岸田首相の答弁も、例えば外交安全保障面では、日米首脳の共同記者会見の繰り返しに終始、慎重、安全運転の答弁が目立った。

こうした姿勢では、活発な論戦につながらない。日米首脳会談を受けて、日本の今後の役割をどう果たしていくかといった点について、国会答弁を通じて、国民に説明、理解を求める姿勢が必要だったと考える。

 参院選はベタ凪 投票率大幅低下も

こうした国会の状況は、閉会後直ぐに公示となる夏の参院選にも影響する。全国各地を飛び回っている自民党幹部に手ごたえを聞いた。

「恐ろしいくらいのベタ凪だ。逆風は吹いていないが、追い風も吹いていない。選挙はどうなるのかという感じだ」と国民の参院選への関心の薄さを語る。

別の閣僚経験者は「これほど手ごたえがない反応・選挙は、初めてだ。野党がだらしないから、与党は負けることはないという選挙はまずい」と話す。

知り合いの選挙関係者も「今のような状態で国会が終わると、投票率はかなり下がるのではないか」と懸念を示す。

参院選挙の投票率(選挙区)の推移を確認しておくと2007年は58.64%だったが、2010年57.92%、2013年52.61%と下がり続けた。18歳投票が実施された2016年は、54.70%にやや戻したが、2019年は48.80%、50%を下回り戦後2番目に低い投票率を記録した。

戦後最も低かったのは、95年村山政権当時の44.52%。このままでは、前回の48.80%か、さらに最低水準まで落ち込むか、いずれにしても50%割れの低投票率が懸念されている。

これでは、仮に自民党が勝利したとしても、国民の多数の信認を得たとは言い難く、岸田政権が政策を強力に推し進める力を得ることも難しくなる。

 論戦の徹底、宿題処理の責任も

これからの国会日程は、30,31の両日、参議院予算委員会に舞台を移して補正予算案の審議が続く。続いて、6月1日には衆議院で、3日には参議院でそれぞれ集中審議が行われるところまで決まっている。

6月15日が会期末で、会期延長なしで閉会となるのが確実な情勢だ。これを受けて、22日に参議院選挙が公示され、7月10日投開票となる。

そこで、今の国会が問われることは、まず、内外の課題について、与野党が徹底した議論を尽くすことだ。参議院選挙が直後に控えていることを考えると、特に国民が知りたい点に応える論戦、判断材料を提供していく責任を負っている。

国民が知りたい点の第1は、ロシアによるウクライナ侵攻を受けて、日本の外交、安全保障の取り組み方、特に防衛力の整備などをどのように進めるかにあるのではないか。

重点的に整備する分野や規模、そのための財源は、借金に因るのか、既存の予算縮減か、増税か、一定の方向性は明らかにするのが筋だと考える。

一方、国の安全保障は、軍事力だけでなく、根本は、日本経済を強くすることだという考え方もある。

さらに、米中の対立が強まる中で、外交のかじ取りが決定的な意味を持つという意見もあり、幅広く議論しながら、方針を決定していくことが極めて重要だ。

もう1つは、新型コロナ対策の総括と第7波への備えの問題がある。新規感染者数の減少が続いているが、新たな変異株などによる第7波の備えは不可欠だ。

さらに、やり残した課題・宿題も多い。まず、国会議員に毎月100万円を支給する「文書通信交通費」の問題がある。(正式名称は「調査研究広報滞在費」)。在職日数1日でも一律に月100万円が支給される仕組みの見直しだ。

4月の段階で、日割り計算に改めることで与野党が合意したが、使いみちの公開と、未使用分を国庫に返納する点は、先送りのままだ。税金の使いみちを公開すること、領収書が必要なことは当たり前のことで、今の国会で実現すべきだ。

また、細田衆院議長のセクハラ疑惑もある。女性記者に深夜に呼び出しの電話などをかけていたと週刊文春が報じている問題だ。細田議長をめぐっては、1票の格差是正のための10増10減論に難色を示し、3増3減の持論を展開したことも問題になった。

衆院議長をめぐる疑惑や不祥事は、この40年余り聞いたことがない。野党側が主張するように議院運営委員会の理事会などで説明して、潔白を晴らすことが国民の信頼を維持するためにも必要だと考える。

さらに内外ともに激動が続く時期であり、日本の進路をどのように制度設計していくのか、党首討論=国家基本政策委員会でも議論すべきだ。討論時間の枠を拡大するなどの工夫をして開催してはどうか。

ロシアによるウクライナ侵攻という戦後の国際秩序が揺らぐ中で、内外の課題にどう取り組むのか、最後まで議論の徹底に努力を尽くすべきだ。国会閉会まで、与野党の対応ぶりをしっかり見て投票に活かす必要がある。(了)