”コロナ 新たな対策を” 重点措置延長

新型コロナ対策の「まん延防止等重点措置」が、東京など18都道府県では、7日からさらに2週間延長されることになった。

この「重点措置」は新規感染者の抑制に一定の効果はあると思うが、漫然と延長を繰り返すだけでは意味がない。延長する場合、「何を重点に取り組むのか」を明確に打ち出す必要があるのではないか。

政治の焦点は、今はロシアのウクライナ軍事侵攻に移っているが、日本の経済・社会の立て直しにためにもコロナ感染を抑制する「新たな対策」を早急に取りまとめることを強く求めたい。

 ”後手と受け身”続く岸田政権

岸田首相は4日夜の記者会見で、31都道府県に適用されていた「まん延防止等重点措置」について、東京など18都道府県で今月21日まで延長し、福岡など13の県を解除する方針を明らかにした。

そして、水際対策として、外国人の1日あたり入国者の上限を5000人から7000人に引き上げる方針を示した。一方、国内の対策については、これまでの対策の説明を繰り返した。

「重点措置」は、東京など13都県には1月24日に出され、2月に1度延長している。岸田政権としては3月6日の期限で全面的に解除したかったが、医療提供体制のひっ迫が続く地域も多く、全面解除は見送らざるを得なかった。

新規感染者数は減少しているが、高止まりの状態で、特に高齢者を中心に重症者数と亡くなる人の数は第5波に比べて非常に多い状態が続いている。専門家は「感染再拡大の可能性も十分にある」と警告している。

こうした状況の中で、政府は決め手となる3回目のワクチン接種について、1日100万回の接種目標を掲げ、希望する高齢者接種の2月中の完了を目指してきた。ところが、3月4日時点で、接種率は国民全体の23%、高齢者は対象の58%に止まっている。

目詰まりが指摘されてきた抗原検査キットの確保をはじめ、経口治療薬の配布、これからワクチン接種を加速する取り組み方もはっきりしない。このように政府のコロナ対策は、後手と受け身の対応が続いているように見える。

 参考になる米のコロナ新対策

海外の取り組みを取り上げ、日本の対応と比較して論評するのは避けてきたが、これまで個人的に主張してきたことと一致点が多いので、あえて海外の事例を紹介する。

日本政府の重点措置決定とちょうど同じころ、アメリカ政府が3月2日に新たなコロナ対策を発表した。

主なポイントは、◇子どもを含むすべての年代のワクチン接種の向上と、ワクチン製造の拡大を支援する。◇ウイルスの検査では、陽性の場合、その場で無料で治療薬が手に入る仕組みを導入する。

そのうえで、◇新たな変異ウイルスの出現を早期に検知するため、ウイルスの遺伝子を調べたり、下水からの感染状況を調査するなど検査態勢の拡充を図る。

◇感染が拡大しても経済活動や学校の運営に支障が出ないように換気設備の更新の支援、病気になったときの有給休暇制度の導入をめざす。

要は、経済や社会の活動を止めずに、これまでの日常を取り戻していく方針を明確にするとともに、対策を具体的に示している点が大いに参考になる。

 岸田政権 新たなコロナ新対策を

さて、岸田政権のコロナ対策についての注文だ。何度も同じことの繰り返しになって恐縮だが、次のような内容だ。

まず、基本的な考え方としては、政府の「まん延防止等重点措置」は全く役に立っていないとは思わないが、重点措置を適用するか、解除するかよりも「何を重点に取り組むのか」を明確にしてもらいたい。

そのためには、岸田政権は去年11月にまとめた対策の「全体像」を取り上げるが、全体像は内容が一般的すぎるので見直し、「新たな対策」として取りまとめてもらいたい。

その「新たな対策」では、デルタ株ではなく、オミクロン株の特性に即した内容になる。そのうえで、ワクチン接種の目標、検査態勢の強化、経口治療薬の配布、入院・治療体制の整備と自宅療養支援のあり方などについて、アメリカ政府の対策のように具体策を明示してもらいたい。

コロナ対策は、「まん延防止等重点措置」を期限の3月21日に全面解除できるかどうかが、大きな焦点になる。また、コロナ対策の出口戦略、経済・社会活動を本格化させる道筋を提示できるかどうかも問われる。

ロシアによるウクライナ侵略への対応という大きな政治課題も抱えているが、まずは、コロナ対策を先行させ区切りをつける必要があると考える。(了)

“2つの危機”対応と岸田政権

”2月は逃げる”と言われるようにあっという間に過ぎ去り、弥生・3月に入った。3月の動きを予想すると、日本にとって、”2つの危機”への対応が問われる節目の月になる。

1つは、新型コロナ・オミクロン株の感染拡大に伴う医療危機を乗り越えられるか。東京など31都道府県に出されている「まん延防止等重点措置」の期限が3月6日に迫っており、この扱いと出口戦略も問われる。

もう1つは、ウクライナ危機への対応。ロシアのウクライナへの軍事侵攻は、日本にとっては対岸の火事ではなく、冷戦後のアジアを含む世界平和や国際秩序が今後も維持できるかどうかの「岐路」に立っているという認識が重要だ。

こうした2つの危機に岸田政権はどのように対応しようとしているのか、日本はどのような取り組みが必要なのか探ってみたい。

 ロシアの侵攻、冷戦後国際秩序の岐路

さっそく、ウクライナ情勢からみていきたい。ロシアが先月24日に開始したウクライナへの軍事侵攻は、19世紀や20世紀の帝国や大国が行った侵略を思わせる行動だ。国際法や国連憲章に違反する侵略行為そのものであり、ロシア軍は直ちに停戦、撤退すべきだ。

但し、現実の世界は、プーチン大統領の野蛮な行為をやめさせることができるかどうか不明で、既成事実が積み重ねられることもありうるのが実状だ。

そこで、ロシアに対する厳しい制裁で、国際社会が徹底した反撃が必要だと考えるが、ここでは日本国民の1人として何が必要か、2点に絞って取り上げたい。

▲1つは、今回の事態については「日本にとっての意味」を掘り下げて考え、国民全体が共有していくことが重要だと考える。

端的に言えば、ロシアの今回の行動を容認すれば、日本を含むアジアでも同様な事態が起こりうる。核開発やミサイル発射を繰り返す北朝鮮や、台頭著しい軍事大国である中国の存在と覇権主義的行動を念頭に置いておく必要がある。

したがって、日本としては、冷戦後の国際秩序を破壊するロシアの行為は認められないことを明確にすることが重要だ。短期的には日本にとってマイナスの影響が想定される場合でも、国際社会と足並みをそろえて対応していくことが必要だと考える。

岸田政権のこれまでの対応については、プーチン大統領を含むロシア政府関係者の資産凍結、SWIFTと呼ばれる国際決済システムからロシアの特定の銀行を締め出す措置に参加する方針を打ち出した。

さらに28日夜には、ロシア中央銀行との取り引きを制限する追加の制裁措置を行う方針を表明した。こうした一連の措置は、G7との連携した対応で評価していいのではないか。

但し、政府の対応の中には、例えばSWIFTへの参加表明が欧米主要国の意思決定から遅れて態度表明をするなど”後追い”を感じる局面も少なくない。欧米の情報をいち早くつかみ、主体的・能動的な日本外交を展開してもらいたい。

▲2つ目は、ロシアに対する経済制裁の強化などに伴って「物価・経済への影響」の問題がある。

原油価格の高騰に伴うガソリン価格の上昇をはじめ、昨年後半から続いている食品や生活必需品のさらなる値上げ、それに中小企業の経営悪化などが現実味を帯びている。

一方で、今月は大手企業の賃金引上げの集中回答も行われる。岸田政権は、経済の好循環を生み出すため、企業に積極的な賃上げを求めているが、物価上昇に見合うような賃上げが実現できなければ、個人消費の落ち込みも予想される。

ガソリンなどの小売り価格の上昇を抑えるため、政府は、石油元売り会社への補助金の上限を、現在の5円から25円へ大幅に引き上げる方向で調整を進めている。

さらにガソリン税のトリガー条項を解除して、税金の上乗せ分を引き下げることも検討している。この問題は、野党の国民民主党が政府予算案に賛成するのにあたって、岸田首相が実現を約束したとしており、3月中に必要な法改正が行われるのか注目している。

このほか、アメリカのFRBがインフレ抑制のため、3月にも利上げに踏み切ると観測されている。そうすると日米の金利差拡大による投資資金の流出、円安、輸入インフレ、国内景気減速の可能性も出てくる。

このように3月は、原油価格の高騰と物価高、ウクライナ情勢に加えて、アメリカの経済対策など変動要因が多く、日本経済の先行きは予断を許さない状況が続くことになりそうだ。

 コロナ対策、出口戦略打ち出せるか

2つ目の問題が、新型コロナの感染対策だ。オミクロン株による新規感染者数は減少傾向が続いているが、減少のペースが鈍化しているほか、重症者数は高止まり、亡くなる人の増加が続いている。

こうした中で、東京など31都道府県に出されている「まん延防止等重点措置」が3月6日に期限を迎える。政府は、感染状況が改善し、医療提供体制のひっ迫を回避できる見通しがたった自治体は重点措置を解除する方針だ。

これに対し、病床の使用状況が高い水準にある場合は、延長する。東京、神奈川、愛知、大阪、京都、兵庫の6都府県で2週間程度の延長を軸に検討が続いており、近く最終的に決める見通しだ。(※文末、その後の動きなど追記)

政府のコロナ対策をめぐっては、1月9日に沖縄、山口、広島3県に重点措置が打ち出されたあと、全国的に拡大して既に2か月近くの長期に及ぶ。

重点措置をいつまで続けるのか、合わせて今後の経済・社会の立て直しに向けた道筋、出口戦略をどのように設定するのかが問われる。

 参院選へ外交・安全保障論議浮上か

ここまでロシアのウクライナ侵攻や、コロナ対策を見てきたが、ウクライナ情勢に関連して、日本の外交・安全保障のあり方に焦点が当たり、夏の参院選の主要な論点の1つとして浮上してくるのではないかとみている。

外交・安全保障の問題は、今年の年末に国家安全保障戦略や防衛力整備計画などを取りまとめる予定なので、参院選後に議論が本格化するとみていたが、ウクライナ情勢で、前倒しも予想される。その場合、90年代に北朝鮮の核開発が問題になって以来、本格的な安全保障論議となる。

その際には、現行憲法と戦後の日本外交・防衛力の基本原則を踏まえたうえで、短期、中期に分けて、わかりやすい外交・安保論争にしてもらいたい。少子高齢化に伴い若い年齢層が少なくなっていることや、厳しい財政事情も考慮にいれた現実的な議論が必要だ。

岸田政権の政権運営については、通常国会前半の焦点になっている新年度予算案が先月22日、2番目に早いスピードで衆議院を通過したが、参議院でも審議は与党ペースで進んでおり、3月23日までに成立するのが確実だ。

岸田内閣の支持率は高い水準にあるが、支持率に陰りもみられる。その要因は、コロナ対策、特に3回目のワクチン接種の遅れが影響しているものとみられる。世論調査では、岸田首相の実行力に不満を持つ層が増えている点も読み取れる。

このため、コロナ対策や暮らし・経済のかじ取りを誤ると、世論の支持が大幅に低下する可能性がある。新型コロナ感染と、ウクライナ情勢の2つの危機への対応がどこまで順調に進むのか、3月が大きな節目になりそうだ。(了)

※(追記:コロナ対策について3月3日20時)=31都道府県のまん延防止等重点措置について、岸田首相は3日夜の記者会見で、東京など18都道府県で3月21日まで延長し、福島、広島、鹿児島など13の県を解除する方針を明らかにした。

予算スピード通過と野党の混迷

通常国会前半の焦点になっている新年度予算案は、22日の衆院本会議で賛成多数で可決され、参議院に送られた。この採決では、与党の自民、公明両党に加えて、野党の国民民主党が初めて賛成に回った。

新年度予算案の衆院通過の時期は、1月召集になって以降では、1999年小渕内閣当時に次いで2番目に早いケースになった。憲法の規定で、参議院に送られた後、採決されなくても30日後の3月23日に自然成立する。

今回、予算案が衆院をスピード通過した背景や、野党の国民民主党が異例の賛成に回った事情を探ってみたい。

 バラバラ野党と戦略なき第1党

さっそく、政府予算案が早期に衆院通過したのはなぜか。結論から先にいえば、野党陣営がバラバラ、政権与党ペースを突き崩せなかったということになる。

もちろん、今年は去年のように国会冒頭、補正予算案が提出されなかったため、新年度予算審議が例年より早く始まった事情がある。

また、かつてのような予算案の通過を遅らせる”日程闘争”に大きな意味はない。だから日程よりも、国民が期待していた掘り下げた質疑に至らなかった中身の方が大きな問題だったといえる。

予算審議はちょうど、オミクロン株の急拡大が続く中で進んだ。高齢者の3回目のワクチン接種の遅れ、抗原検査キットの不足など対策の目詰まりはどこに問題があるのか。

自宅療養者の健康管理、懸案だった政府と自治体などの連携・調整の問題をどのように改善して出口戦略につなげるのか。さらには、社会・経済を立て直す具体策と道筋を示して欲しいというのが、国民の多くの期待ではなかったか。

ところが、野党第1党である立憲民主党の追及は迫力を欠いた。長妻昭・元厚労相や江田憲司氏らは、岸田首相らに鋭く切り込む場面もあったが、その後に続く論客は少なく、追及は散発的に終わった。

岸田首相ら政府側の答弁は、去年11月に対策の全体像をまとめ、水際対策もいち早く断行したと同じ説明を繰り返し、反省や対策の見直しなどにも踏み込まなかったことも議論が深まらなかった要因でもある。

岸田首相は、野党の追及に柔軟な姿勢を見せながら、実質ゼロ回答、”暖簾に腕押し”答弁は、事前にある程度予想されていたはずだ。それを上回る追及、そのための戦略や戦術、論客の陣立てなどが十分でなかったところに弱点があった。

一方、野党内では、先の衆院選で躍進した日本維新の会は第3極を意識した構えで、国民民主党は独自路線。共産党は野党共闘再確認に重点を置くなどバラバラで、攻めの体制になっていなかったことも影響したと思う。

 国民民主党 ”独自性と焦り”

それでは、次に野党の国民民主党が、政府の当初予算に対して異例の賛成に回ったことをどのようにみたらいいのだろうか。

玉木代表は22日の衆院本会議で賛成討論に立ち「トリガー条項凍結解除によるガソリン価格の値下げを岸田首相が検討すると明言したからだ」とのべるとともに「従来型の古い国会対応でなく、国民生活に何が重要かを判断した」と訴えた。

これに対し、泉立憲民主党代表は「野党とは言えない選択だ。これまでの国会で主張してきたことと整合性がとれるのか」と反発した。維新の藤田幹事長も「与党入りや閣外協力であれば、根本的に違う」と突き放し、共産党の小池書記局長は「事実上の与党入り宣言だ」と批判した。

野党関係者に聞くと「国民民主党の支持率が上がらず、参院選前に独自性をアピールしようとする焦りがあるのではないか」。「党内には、与党との連携・協力を志向する動きがあり、その布石ではないか」といった見方もある。

ガソリン価格の抑制策は最終的に実現するか、まだ決まっていない。仮に実現した場合も個別課題で、野党の立ち位置を大きく変えることに支持者の理解は得られるのか。党内でも前原代表代行は、玉木代表の方針に反対意見をのべたといわれ、党の結束も見ていく必要がありそうだ。

私事で恐縮だが、昔、駆け出し記者のころ、派閥の幹部から「国会議員は、予算案が採決される衆院本会議は、何がなんでも出席しないといけない」と聞かされた。田中角栄元首相は裁判中でも本会議場に姿を現していたことを思いだす。

政権の主要政策を凝縮して編成した当初予算の賛否は、首相指名選挙などと並んで政治家個人、政党にとっても重い決断、選択だ。その選択の是非は、国民の支持と共感、信頼を得られるかによるが、慎重に判断した方がいいと個人的には考える。つまり、支持者は、野党から与党へ転じるのを期待しているかだ。

ここまで国民民主党の動きをみてきたが、野党各党にとっても夏の参院選にどのような政治姿勢、主要政策で臨むのかが問われる。また、参院1人区について、候補者調整をどのような枠組みで進めるのか、国民民主党の扱いを含めて、早急に結論を出す必要があるだろう。

 岸田首相は歓迎、公明には慎重論も

最後に岸田政権と与党の受け止め方を見ておきたい。岸田首相は、玉木代表との間で水面下で調整を進めてきたようだ。21日の党の役員会で、これまでの経過を説明したうえで「与党として歓迎したい」との考えを表明した。

一方、連立を組む公明党からは、国民民主党との間で将来的な協力関係につながるか慎重に見極める必要があるとの意見が出ているという。山口代表も記者会見で「自公の連立の枠組みには影響を与えないことを岸田首相と確認している」とのべている。

岸田首相は、今後、政策面での連携を国民民主党との間で強めていくものとみられる。

岸田政権にとって当面の焦点は、来月6日に31都道府県で期限を迎える「まん延防止等重点措置」を予定通り解除できるかどうかが大きなカギになる。また、気になるのは、2月に入って岸田内閣の支持率に陰りが出ている点だ。

2月上旬の読売新聞、中旬のNHK、下旬に近い時点で行われた朝日新聞の世論調査で、いずれも下落傾向が続いている。政府のコロナ対応について「評価しない」との受け止め方がいずれの調査でも増えている。(※文末に内閣支持率のデータ)

このため、まん延防止等重点措置の解除、第6波の感染の抑え込みが進展するのかどうか、岸田政権の支持率や政権運営に影響が出てくるので、注視していく大きなポイントだとみている。(了)

※参考:岸田内閣支持率                            ◇2月4~6日  読売調査:支持58%(-8P)-不支持28%(+6P)     ◇2月11~13日 NHK調査:支持54%(-3P)-不支持27%(+7P)    ◇2月19・20日 朝日調査:支持45%(-4P)ー不支持30%(+9P)

“繰り返される後手の対応”岸田政権

年明けとともに驚異的な拡大が続いてきたオミクロン株の感染は、今月上旬になって、ようやくピークを超えた模様だ。一方、感染による重症者は増え、高齢者を中心に亡くなる人も最多の状態が続いている。

政府は18日、「まん延防止等重点措置」について、北海道や大阪など17道府県で延長する一方、沖縄など5県は解除する方針を決めた。先に延長を決めた東京などと合わせて31の都道府県で「重点措置」が続くが、3月6日の期限までに感染拡大を抑え込めるのかどうか。

新型コロナ対策は、未知のウイルスとの戦いで試行錯誤は当然ありうるが、岸田政権の対応を見ていると”後手の対応”を繰り返しているように見える。どこに根本の問題があるのか、どのような取り組みが問われているのか点検してみたい。

 感染ピーク越え、重症者や死者は増加

まず、最新の感染状況を確認しておくと18日、全国の新規感染者数は8万7700人余り。5日の最多10万5600人余りから減少しており、厚生労働省の専門家会合も「2月上旬にピークを超えた」との見方を明らかにしている。

但し、減少のペースは緩やかなので、高止まりの可能性がある。また、療養者や重症者、それに高齢者を中心に亡くなる人の増加が続いている。死者は18日は211人で、4日連続で200人を超える高い水準にある。

オミクロン株は「感染のスピードは速いが、重症化リスクは小さい」と言われてきたが、実際は感染者数の急増で、高齢者を中心に重症者や死者の増加傾向が続いているので、警戒が必要だ。

1月以降、自治体から死亡が報告された感染者のおよそ9割が、70歳以上だった。一方、高齢者施設でつくる団体が2月上旬に行ったアンケートでは、入所者、職員ともに3回目接種を終えていない施設が4割を超えており、高齢者施設でのワクチン接種の遅れがうかがえる。

 決め手のワクチン接種、検査も遅れ

岸田首相は17日夜、記者会見し「第6波の出口に向かって歩み始める」として、外国人の新規入国を原則停止している水際対策について、3月から段階的に緩和し、1日当たりの入国者を5000人に引き上げる方針を明らかにした。

また、3回目のワクチン接種について、2月15日以降、VRS=ワクチン接種記録システムの入力ベースで、目標の1日100万回程度までペースが上がってきたとしたうえで、安定的に100万回以上が達成できるよう全力を尽くす考えを強調した。

水際対策の緩和は、経済活動の再開をめざす経済界や与党の突き上げを受けて、踏み出すことになったものだが、国内対策は、まん延防止等重点措置の延長という従来の方針の繰り返しに止まっている。

こうした対策で3月6日の期限までに感染拡大を抑え込めるのだろうか。岸田政権の対応についてみていると大きな問題点として、2点指摘しておきたい。1つは3回目のワクチン接種の進め方であり、2つ目が検査態勢の問題だ。

ワクチン接種については18日公表データで、3回目の接種を終えた人は1600万人、国民全体の接種率は12.6%に止まっている。欧米に比べて低い水準のままだ。

与野党の議員に聞くと、政府は年末、感染が急減した時期に接種間隔を8か月にするか、6か月か決定に手間取ったこと。また、先行接種を希望した自治体に対して、厚労省が”護送船団方式の発想”でブレーキをかけたことも失敗だったと厳しく指摘する。

2つ目の検査態勢については、特に抗原検査キットの不足を招いた責任を問う声が多い。医療のひっ迫を避けるために「自宅で自分で検査すること」を呼び掛けながら、検査キットが手に入らないことが国会の質疑で取り上げられた。

後藤厚労相は18日、「最大限の取り組みを行った結果、1日当たり100万回分以上の生産・輸入を確保できる見込みになった」と明らかにした。目標の1日80万回分を上回る努力は多とするが、あまりにも遅すぎる。

 国と地方の態勢、首相官邸の危機対応

以上のワクチン接種と検査は、いずれも感染症との戦いで、切り札となる有力な武器だが、日本は感染第1波以降、有効な対応ができなかった。

コロナ感染との戦いは、安倍、菅両政権に続いて岸田政権で3年目に入ったが、どこに根本的な問題があるのだろうか。

コロナ対策の政府対応について、私の見方は点検・検証を行い、問題点を把握したうえで、対策を打ち出すという基本ができていない点が一番の問題と考える。

岸田政権は10月に発足、11月にコロナ対策の全体像をとりまとめた。医療提供体制の強化、ワクチン接種の促進などに重点を置いた。問題は、対策の内容とともに、対策の実行態勢、準備ができていたかがカギを握っていた。

ところが、現実は高齢者の3回目のワクチン接種は遅れ、抗原検査キットも不足し、自宅療養者が自分で健康管理を行うことができない事態に陥ってしまった。実行態勢の詰めに甘さがあったとされる。

この原因だが、岸田首相は「これまでのコロナ対応を徹底的に検証する」と表明しながら「司令塔機能の強化を含めた抜本的な体制強化策は、来年の6月までに取りまとめる」と先送りにした。これが、それまでの政府対応の失敗を繰り返すことにつながったとみている。

検証をいち早く行い、地方自治体との間でワクチン供給量の確保と配分、接種時期の調整を行うことも可能だった。企業との間で検査キット供給や輸入の枠組みを検討しておけば、対応の遅れや、目詰まりを防ぐことも可能だったかもしれない。

つまり、総理官邸の危機管理、司令塔機能の強化を整備すること。具体的には、総理官邸と厚労省など各省庁との指揮命令系統の整理、厚労省と地方自治体などとの役割分担などを早い段階で着手しておくべきだったと考える。

コロナ対策の次の節目は、31都道府県の「まん延防止等重点措置」を期限の3月6日までに解除できるかどうか。感染第6波の出口に向けた道筋をつけられるかどうか、岸田政権の政権運営、夏の参院選挙にも大きな影響を及ぼすことになりそうだ。(了)

 

 

“先手の誤算”岸田政権コロナ対応

新型コロナ感染に歯止めがかからない中で、政府は10日、東京など13都県に出している「まん延防止等重点措置」を3月6日まで延長する方針を決めた。また、新たに高知県を対象に加え、合わせて36都道府県で重点措置が続くことになる。

岸田政権は、これまで安倍、菅両政権を反面教師に”先手、先手の対応”をアピールしてきたが、年が明けて3回目のワクチン接種の遅れや抗原検査キット不足などの”誤算”が続いている。

まん延防止等重点措置の長期化も予想される中で、岸田政権は感染危機を抑え込めるのか、オミクロン対策では具体的に何が問われているのか、岸田政権の対応を点検してみたい。

 ”後追い”目立つ コロナ対策3本柱

岸田首相は9日夜、コロナ対策で関係閣僚と協議した後、記者団に対し「これまでと異なったオミクロン株との戦いは、今、正に正念場を迎えている。私の責任で、迅速で機動的な判断と実行を進めていきたい」と決意をのべた。

そのうえで、政府の基本的対処方針に感染速度が速いオミクロン株に対応するため、臨時の医療施設の整備や、学校、保育所、高齢者施設などの感染対策を強化することなどを盛り込んだ。

こうした内容はいずれも必要な対策と思うが、問題の核心は、岸田政権が発足以降、3本柱として打ち出してきたワクチンの追加接種、検査体制の強化、それに経口治療薬の迅速な提供がどこまで実行できたかという点にある。

年明け以降の政府対応をみていると、ワクチン対策では3回目接種の間隔について、一般の人では原則8か月以上から、7か月、6か月へと短縮するなどの方針変更に追われた。

また、感染した人との濃厚接触者が、自宅や宿泊所で求められる待機期間についても当初の14日間から10日間、1月末には7日間に短縮するなど”後追いの対応”が続いている。

一方、3回目のワクチン接種を終えた人は、8日時点のデータで914万人、接種率7.2%に止まり、思うように進んでいない。

抗原検査キットについても、爆発的な感染急拡大で、自ら検査したい人たちの急増に供給が追い付かず、薬局や医療機関でも入手が困難な状況が続いている。

さらに飲める治療薬の供給量が十分ではないと国会で野党側が追及したのに対し、政府側はいつ頃、必要な人に届けられる状態になるのか見通しを示すことができなかった。

 オミクロン新対策と実行態勢の強化

それでは、岸田政権のコロナ対策では何が必要なのか。国会での論戦を基に考えるとオミクロン株の特性の分析に基づいた「新たな総合的な感染対策」を早急に打ち出す必要があるのではないか。

今回のオミクロン株は、感染力は極めて強く、今も感染者数が全国で1日9万人前後も確認される一方で、重症化率は低いなどの特性が指摘されている。

また、感染しても症状が現れない軽症者や濃厚接触者になったために仕事を休まざるを得ない人も増えている。その結果、医療機関、保育所、高齢者施設、ごみ収集などの社会機能をどのように維持していくか新たな問題も起きている。

これに対して、政府は、濃厚接触者の待機期間を短くするなど対応策を次々に出しているが、細切れでわかりにくい。そこで、検査から、陽性者などの隔離や待機、治療などの対策全体を盛り込んだ「新たな総合的な対策」が必要だと考える。

全国知事会も政府に対し、「オミクロン株の特性等を踏まえた感染対策」を早急に確立、実行するように求める提言を出している。また、政府が11月にまとめた対策の全体像を見直すことを求めており、こうした提言に賛成だ。

▲岸田政権が問われる2点目は「検査体制の拡充」だ。感染第1波の時から、専門家や、メディア、野党が繰り返し主張している論点だが、政府・厚生労働省の危機感は乏しく、対応も鈍かった。

岸田首相も11月段階で「検査も抜本的に拡充する。感染拡大時には、無症状者でも無料で検査を受けられるようにする」と強調していた。ところが、抗原検査キットは品薄、政府は「検査は自分で」と勧めながら、薬局では手に入らない。

日本はキットの多くを輸入に頼っており、政府は、国内メーカーに1日80万回分まで増産するよう要請した。但し、要請したのは1月14日という遅さだ。

自民党の閣僚経験者に聞くと「経済・社会を回すためにも検査が重要だ。検査キットは数千万キットくらい保有すべきで、国が買い取りを保証、増産させるべきだ。PCR検査も38万件まで検査能力を増やしてきたが、100万件くらいまで拡大した方がいい。大胆に舵を切るべきだ」と指摘している。

▲第3は「ワクチン接種の加速」だ。3回目のワクチン接種が進んでいない現状は、先に触れた。

その背景だが、与野党の関係者とも「去年秋、感染が急減していた時の対応がなっていない。自治体の中には、年末早めの接種ができたのに、厚生労働省がすべての自治体がそろうまでブレーキをかけたことが大きい」と指摘。岸田政権の指導力を問題視する声を聞く。

岸田首相は、ワクチン接種の目標設定に消極的な姿勢を続けてきたが、7日、「1日100万回」を目標に2月後半の達成をめざす考えを明らかにした。国会で野党からの批判、報道機関の世論調査で内閣支持率に陰りが出始めたことを懸念したのかもしれない。

ワクチン接種の目標設定は遅きに失した感じもするが、切り札であるのは間違いないので、猛スピードで追加接種を進めてもらいたい。

 対策の実行力、政権の行方を左右

ここまで岸田政権の対応を見てきたが、安倍政権や菅政権のコロナ対策の失敗を教訓に対策をまとめており、方向性は間違っていないと思う。

問題は、首相官邸が中心になって、対策を実行に移していく実務能力、具体的には、厚生労働省を指示したり、全国の自治体と連携・調整を進めたりする力が弱い点ではないか。

また、岸田首相の姿勢も水際対策として、11月末に外国人の新規入国の停止を打ち出すといった時期までは意欲的な姿勢が感じられた。

ところが、年明け以降は安全運転、守りの姿勢が目立つ。まとまった記者会見は去年12月21日に行って以降、行われていない。

国会の答弁でも、オミクロン株対策をまとめて説明したりする場面もほとんど見られない。トップリーダーとして、国民に向けた対策の説明・説得、それに強い決意と攻めの姿勢は不可欠だ。発信力も不足している。

オミクロン株感染のピークは近いとの説もあるが、高止まり状態が続くとの見方も根強い。今月20日には、一度延長した沖縄など3県と、北海道や大阪府など18道府県の重点措置の期限が近い。

岸田政権がオミクロン危機の出口を見いだせるか、それとも混迷のトンネルで試行錯誤を続けることになるのか、分かれ道に差しかかりつつあるように見える。夏の参院選や岸田政権のゆくえも、オミクロン感染対策が大きく左右する図式は、変わっていない。(了)

 

“オミクロン緊急宣言”の考え方

新型コロナウイルスの感染は、感染力の強いオミクロン株によって急拡大が続いており、全国の新規感染者数は2日、9万人を超えて過去最多となった。

東京都内では新規感染者数が初めて2万人を超え、コロナ感染患者用の病床使用率は51.4%に達した。都は、緊急事態宣言の発出を要請する目安を50%に置いてきたが、その目安を上回ったことになる。

政府や東京都は、いずれも緊急事態宣言の取り扱いには慎重な姿勢を示している。この宣言の扱いをどのように考えたらいいのか。岸田政権のコロナ対策では何が問われているのか、衆院予算委員会のコロナ対策の集中審議も含めて考えてみたい。

 政府、東京都も緊急宣言に慎重姿勢

まず、オミクロン株の感染急拡大に伴う緊急事態宣言について、東京都と政府の対応から見ていきたい。

東京都の小池知事は「命と暮らしを守るという観点からも、病床の使用率の中でも重症や中等症を見ていく必要がある。専門家の声なども聞きながら考えていきたい」とのべ、症状の重い人たちの状況も見ながら慎重に判断したいとの考えを示している。

岸田首相は、2日の衆院予算委員会の集中審議で「去年8月の感染者数がピークだった時、病床も満杯だった。今の感染者数は当時の3倍と多いが、病床使用率は国の基準で37%程度に収まっている。今の時点では、緊急事態宣言を出すことは検討していない」として、慎重な姿勢を示した。

 緊急宣言、今後の方向性・選択肢は

それでは、今後、重症者数などがさらに増加した場合、緊急事態宣言の扱いをどう考えるかという点が問題になる。

この点に関連して、前のコロナ担当相で、自民党の西村康稔議員が2日の衆院予算委員会集中審議で、次のような方向性と選択肢を示しながら質問に立った。今後の対応を考えるうえで参考になるので、個人的な解釈を交えて紹介したい。

1つは「より強い強制力」を伴った感染抑制対策。日本は海外のようなロックダウンは難しいので、今の緊急事態宣言に比べて、より強い措置、例えば夜10時以降の外出制限などが考えられる。

2つ目は「緩やかな対応策」。具体的なイメージとしては、今の緊急事態宣言や、まん延防止等重点措置がベースとして考えられる。感染対策と経済社会活動との両立をめざしながら、穏健な対策を基本に考える。

西村氏は、国民の理解が得られるかなどを考えると1つ目は、当面は困難と判断している模様だ。2つ目が、現実的な案だが、さまざまな工夫や改善を行うことが可能だとして、次のような取り組みを挙げていた。

オミクロン株感染で重要なのは、高齢者と子ども。高齢者対策では、ワクチン接種の加速。子ども対策では、学校・教育のオンライン化。それに親たちの企業のテレワークの推進を強力に推進することを提案した。

これに対して、岸田首相は「感染防止と、社会経済活動維持のバランスの中で、今後の対策を考えたい。強制力を伴う対策に踏み出すかどうかは、6月にまとめる中長期の対策の中で考えたい」と今後の方向や対応には踏み込まなかった。

以上の質疑も踏まえて、緊急事態宣言の扱いだが、岸田首相や小池知事が今の時点で慎重に判断したいとの姿勢は妥当なように思える。

但し、問題は、特に医療に大きな影響を及ぼす重症者の状況がどうなるか。それに感染拡大の抑え込みと、社会経済活動の維持の3つの要素をどう考えるか。専門家の意見も聞くにしても最後は、政権トップが政治判断で決めることになる。

その決断に当たって、仮に緊急事態宣言を出す場合も、重要なことは従来の対策の踏襲ではなく、ワクチン接種の一層の加速や人流抑制のオンライン化促進など新たな対策を打ち出せるかだ。

また、国や自治体の権限強化といった問題も先送りせずに、今の国会で議論し、法案を提出して成立させることこそ、緊急時の国会の役割ではないか。

 日本の弱点、ワクチン、検査の強化

岸田政権の今後のコロナ対策の進め方について、民主党政権の厚労相経験者で、立憲民主党の長妻昭議員の指摘も参考になったので、紹介しておきたい。

長妻氏もコロナ感染防止と経済・社会活動の両立をめざす立場だ。そのうえで、オミクロン株対策としては、端的に言えば、ワクチン接種とPCR検査の2つの柱を強化することを提案した。

具体的には、日本の3回目のワクチン接種率は3.5%に止まり、世界の先進36か国の中でも最低の水準だ。政府の接種間隔8か月の見直しが遅れたためではないか。1日当たりの接種も直近で40万回だが、菅政権の100万回など目標を設定してはどうか。

一方、PCR検査についても日本の能力は国際的にも低い。日本のコロナ対策の弱点は、検査体制が未だに改善・強化されていないことで、岸田政権が掲げる抗原検査キット1日80万確保はいつ実現するのかと質した。

これに対して、岸田首相は「ワクチン接種の対象者は、今後、増えていくので、一律の目標は適切かどうか」と消極的な姿勢を示したほか、検査キット確保の具体的な時期に言及することは避けた。

このようにみてくると既に4回も出してきた緊急事態宣言をいつ出すか自体には、あまり大きな意味がない。緊急事態宣言を出して、どんな対策が強化されるのか、中身がより重要だ。

岸田政権は去年、水際対策をいち早く打ち出した点は評価する。ところが、年明け以降、急拡大したオミクロン株対応では、対応に遅れが目立つ。3回目のワクチン接種が目標を大幅に下回ったり、自衛隊による大規模接種も対象の人員が少しずつ増えるなど小出しの対応に見える。

オミクロン株感染は、感染状況や医療・病床のひっ迫がどうなるか。東京など13都県のまん延防止等重点措置の期限が13日に近づいている。

岸田政権は、オミクロン危機をどのように乗り切っていくのか。まん延防止等重点措置や緊急事態宣言などの手続きではなく、具体的な対応策を打ち出して、強力に推進・実行できるかどうかが問われている。(了)

〇追記(2月3日20時)東京都 緊急事態宣言要請の新たな指標設定         ①重症者用の病床使用率、酸素投与が必要な人の割合             →いずれか30%~40%                          ②新規感染者数 2万4000人(7日平均)                  ※現状→①重症者用の病床使用率15.1%、酸素投与割合8%、            ②1万7058人

 

 

 

“感染危機本番”と首相の指導力

新型コロナウイルス、オミクロン株による感染急拡大が続いている。海外の感染状況から予想はしていたが、国民生活への影響も目立ち、感染危機が現実のものになってきた。

政府は27日から「まん延防止等重点措置」の対象地域に北海道、大阪、福岡など18道府県を追加し、適用地域は合わせて34都道府県、全国の7割以上に拡大した。新規感染者数は7万人を超えて過去最多、さらに拡大は続く見通しだ。

感染危機を抑え込むためには、政権の対応、特に首相の指導力が大きく影響する。岸田首相は、感染対応を比較的順調に進めてきたが、ここにきて対策の決定などに遅れがみられるようになった。

岸田政権のオミクロン株対応は何が問われているのか、岸田首相の指導力をどうみるか、通常国会の論戦も含めて考えてみたい。

 オミクロン、新たな対策とりまとめを

岸田政権は、去年11月にコロナ対策の全体像を取りまとめたのに続いて、今月11日には、オミクロン株の急拡大を受けて新たな対策を打ち出した。そして、水際対策で時間を稼ぎながら、予防、検査、医療提供体制の整備を進めながら、感染の抑え込みをめざしてきた。

ところが、年明けとともにオミクロン株の感染力はすさまじく、あっという間に第5波を乗り越えた。全国の新規感染者数は26日、7万1000人余りに達し、過去最多を更新した。

今回は濃厚接触者も多く、保健所は、感染経路を調べる積極的疫学調査を断念したところが多い。病院の外来診療もひっ迫が目立ち、保育園の休園、小学校の臨時休校もみられ、国民生活への影響は大きくなっている。

国会では新年度予算案の実質審議が始まり、オミクロン対策が最大の焦点になっている。野党側は「政府の対応は後手に回っている」と追及したのに対し、岸田首相は「感染防止と社会活動の両立をめざしている」と防戦に追われている。

それでは、岸田政権としては、何が最も問われているか。結論を先にいえば、これまでの対策を見直し、オミクロン感染に対応できる新たな対策を早急に取りまとめ、実行に移せるかだ。

オミクロン株の特性は、感染力は強いが、重症化リスクは今のところ低いといわれている。濃厚接触者が多いので、陰性が証明されれば、待機期間を短縮してエッセンシャルワーカーは仕事ができるようにして、社会機能を維持していく必要がある。

また、政府は、医療がひっ迫する可能性がある場合、自治体の判断で、軽症者は自分で検査を行い、自宅療養も認める新たな方針を打ち出した。

ところが、こうした対策も肝心の抗原検査キットが不足する事態が起きている。また、自ら検査をして自宅療養するにしても、薬や食料などのバックアップ体制などもはっきりしていない。

このように政府のオミクロン対策は、場当たりで断片的な対応が目立ち、国民の不安をなくしていく対応ができていないようにみえる。

したがって、政権がなすべきことは何か。1つは、感染防止対策と医療提供体制が本当に機能しているのか、早急に点検・確認したうえで、問題点があれば、是正して新たな対策として明らかにすること。

2つ目は、新たな問題、社会的機能を維持していくための取り組みも必要だ。具体的には、待機期間の扱いと考え方。そのうえで、保育や学校、交通機関、ごみ収集などの事業を維持していくため、政府、地方自治体、民間企業の役割分担や支援策などもとりまとめる必要がある。

 ワクチン追加接種、強力な推進を

次にワクチンの3回目接種が遅れている問題がある。政府は、3回目接種について、1月末までにおよそ1470万人に打つ目標を立てていたが、25日までに接種を終えた人は289万人、目標のわずか20%に止まっている。

この問題は、衆院予算員会でも取り上げられ、野党側は「最近の1日当たりの接種状況は、昨年夏のピーク時の1割以下と少ない。人口に占める接種率もわずか2.1%、先進国で最下位だ」と対応の遅れを厳しく批判した。

これに対し、岸田首相は「1,2回目の接種が遅れたため、3回目は間隔を空けて行わなければならなかった。2月末までには8割の自治体が高齢者の接種を終えられる見通しだ」と理解を求めた。

政府は当初、3回目の接種の間隔について「原則8か月以上」としていたが、オミクロン株の感染が拡大したのを受けて、65歳以上の高齢者などは6か月に、一般の人は7か月に短縮するという方針変更を迫られた。

また、ワクチンの安定的な確保の難しさや、自治体の接種体制の準備の問題。さらに、3回目はワクチンの「交互接種」が可能だが、予約希望がモデルナ社製より、ファイザー社製に集中する問題も抱えている。

但し、切り札の3回目のワクチン接種が遅れているのは事実だ。接種をさらに強力に推進しないと感染の急拡大に間に合わない恐れもあり、時間との闘いとも言える厳しい状況にある。

 首相の指導力、現状把握と実行力

感染危機を抑え込むことができるかどうかは、岸田政権の求心力を大きく左右する。岸田首相は当初の対策が有効に機能しているかどうか、現状の把握と問題点があれば、直ちに是正していく実行力が、問われている。

一方、政権与党、野党の双方とも感染対策に問題があれば、鋭く指摘したり、批判したりすることは当然だが、些細なことで足を引っ張るような行動を取ると国民の支持を失う。野党側も建設的な対応を続けているようにみえる。

岸田首相については、代表質問に対する答弁や、衆院予算委員会の論戦をみているといわゆる”安全運転”、既存の方針の説明を繰り返す”守りの姿勢”が目立つ。

オミクロン危機を回避するためには、科学的な知見、データを集めたうえで、国民生活を守るために、どこまで踏み込んだ対応策を実行できるかが試される。

岸田首相並びに総理官邸が、司令塔機能を発揮して新たな対応策を打ち出し、危機乗り切りに成功するかどうか。トップリーダーの政治決断が問われる局面が近づきつつあるように思う。(了)

”オミクロン危機” 岸田政権の対応は

オミクロン株の感染が驚異的な速さで拡大している。「まん延防止等重点措置」が21日から東京など16都県に拡大したが、大阪など関西3府県や北海道など各地の自治体からも適用の要請に向けた動きが相次いでおり、感染地図が大きく塗り替えられつつある。

岸田首相は国会の答弁で「過度に恐れることなく、対策を冷静に進める覚悟だ」と訴えているが、オミクロン危機の出口戦略は描けていない。感染抑え込みに何が問われているのか、探ってみる。

 東京は過去最多更新、危機的状況も

今回の感染拡大のスピードはすさまじい。東京都を例に見ておくと1日当たりの感染者数は、去年10月9日から今月2日までのおよそ3か月は100人を下回る日が続いた。

ところが、今月8日に1000人を超えて1224人となり、急速に増加する。12日に2198人、13日3124人、14日4051人。そして19日に7377人で過去最多、20日は8638人で最多を更新した。

これを1週間平均のデータで1日当たりの感染者数をみてみると、今月1日は60人だったのが、19日時点では4555人、半月ほどで76倍も増えている。

このままの増加が続けば1月27日には、1万8266人になるという推計が都のモニタリング会議に報告された。専門家は「これまでに経験したことのない危機的な感染状況となる可能性がある」と指摘している。

全国でも20日は、4万6200人の感染が確認され、3日連続で過去最多を更新した。累計では、国内の感染者数は20日に200万人を超えた。

 岸田政権 ”自治体要請 丸飲み”

こうした感染急拡大を受けて、自治体側は政府に対し「まん延防止等重点措置」の適用を要請し、沖縄、山口、広島3県には今月9日に適用された。続いて21日からは、東京など首都圏、東海地方、九州の合わせて13都県が追加され、重点措置は16都県に拡大した。

さらに、大阪、京都、兵庫の関西3府県が22日、重点措置を要請するほか、北海道が要請を決める方針だ。また、福岡、佐賀、大分の各県も要請する方向で、感染地図がオセロゲームのように塗り替わりつつある。

政府は、自治体から重点措置適用の要請があれば、速やかに検討に入る方針だ。岸田政権としては「感染者数の抑制や、医療体制がしっかり稼働するための準備が進む」として、自治体の要請を”丸飲み”する形で適用を認める考えだ。

 カギは医療、ワクチン、危機対応

オミクロン株の感染拡大は、17日から始まった通常国会の代表質問の論戦でも最大の焦点になっている。野党側は、政府のコロナ対策は不十分だと強く批判したほか、3回目のワクチン接種の取り組みも遅いなどと追及した。

これに対して、岸田首相は「これまでG7で最も厳しい水準の水際対策で、海外からのオミクロン株流入を最小限に抑えてきた」と反論するとともに「今後は、オミクロン株の特性を踏まえ、メリハリをつけた対策を講じていく」と強調した。

政府・与党と、野党側の主張は平行線だが、岸田政権はオミクロン株の感染危機を抑え込めるのか、正念場を迎えている。感染抑え込みができるか否かのカギは何か、具体的にみておきたい。

第1は、岸田政権が準備を進めてきた「医療提供体制」が機能するかどうかが、試される。岸田首相は、病床を去年夏に比べて3割増やしたのをはじめ、自宅療養中の患者の健康観察、飲み薬の速やかな供給などを行うための体制を整えてきたとしている。果たして、急拡大の第6波に通用するか。

第2は「ワクチン接種の前倒し」だ。一般高齢者の3回目のワクチン接種について、政府は当初、原則8か月としていた2回目との間隔を7か月に短縮した後、今月13日には6か月に短縮し、接種体制などに余力がある自治体に対しては、さらに前倒しをして、接種を進めることも要請した。

こうした政府の方針転換に準備にあたる自治体側は、振り回されている。また、19日時点で3回目の接種を受けた人は162万人余りで、全人口のわずか1.3%に止まっている。先手、先手と言えるのかどうか。

さらにオミクロン株では、子どもの感染も目立っており、政府は新たに5歳から11歳までのワクチン接種も進める方針だ。その子どもを対象にしたファイザー社製ワクチンは21日、厚生労働省から正式に承認される見通しだ。但し、保護者や子どもの理解がどこまで得られるかという問題がある。

第3は「政府と地方自治体の連携・調整、危機対応」が順調に進むかという問題だ。例えば、前提となるオミクロン株の特性についても、政府と自治体側などとの間に認識や、評価、対応の仕方に違いがあるのではないか。

政府分科会の尾身会長は、報道陣の取材に応じ「今までやってきた対策を踏襲するのではなく、オミクロン株の特徴にあったメリハリのついた効果的な対策が重要だ。これまでの『人流抑制』ではなく、『人数制限』というのがキーワードになる」とのべ、飲食そのものではなく、感染リスクの高い状況に集中して対策を行うことが重要だとの考えを強調している。

これに対して、東京都の小池知事は、飲食店の営業時間の短縮や酒の提供制限の方針を決めた後、「感染者の急増は、医療提供体制のひっ迫に止まらず、社会が止まる事態も招きかねない。都民の皆さまには、再度、気を引き締め、行動を変えていただきたい」とのべ、不要不急の外出の自粛や、基本的な感染防止対策の徹底を呼び掛けた。

こうした考え方の違いの背景には、オミクロン株の特徴、重症化リスクの評価の違いがあるのかもしれない。あるいは、医療従事者やエッセンシャルワーカーの確保、経済活動とのバランスのとり方との関係で、感染対策の重点の置き方に違いが出てくることも考えられる。

オミクロン危機を抑え込むためには、どのような戦略、対応策がありうるのか。感染状況と社会、経済への影響などをみながら、政治、行政、それに国民の側もそれぞれ考えていく必要があるのではないか。国会で24日の週に始まる衆院予算員会の質疑も注目したい。(了)

 

 

通常国会論戦へ”オミクロン対策”が焦点

通常国会が17日召集され、岸田首相の施政方針演説に続いて、各党代表質問が行われて論戦が始まる。

岸田首相にとっては就任後初めての通常国会だが、新型コロナのオミクロン株の感染が加速度的に拡大している。このため、国会冒頭の論戦は、岸田政権のオミクロン株対策が焦点になる見通しだ。

オミクロン株対策では何が問われているのか、対策の具体的な内容に焦点を当てて考えてみたい。

 ”オミクロン株国会”の様相か

最初に日程をみておくと通常国会は17日に召集され、その日のうちに岸田首相の施政方針など政府4演説が行われる。これを受けて、19日から衆参両院の本会議で各党代表質問のあと、24日から衆院予算委員会に舞台を移して、新年度予算案の審議が始まる見通しだ。

夏に参議院選挙を控えているため、その前哨戦と位置づけられる今年の通常国会は、与野党の対決色の濃い国会になりそうだ。

特に予算案成立のメドがつく3月末までの前半戦では、オミクロン株対策をめぐって激しい論戦が戦わされる見通しだ。端的にいえば”オミクロン国会”の様相になるのではないか。

 岸田政権の新対策と感染見通し

そのオミクロン株対策について、岸田首相は所信表明演説で、オミクロン株の特性を踏まえて、メリハリのある対策を講じるとして、医療提供体制を強化するとともに3回目のワクチン接種を前倒しする方針を打ち出したい考えだ。

ところが、ここにきてオミクロン株の感染が驚異的な速さで拡大してきた。東京では13日、1週間前の5倍近い3100人余りに急増した。都の専門家会議では、今のペースでいけば1月中に1万人を超えるという推計も示された。

全国の感染状況も「まん延防止等重点措置」が沖縄、山口、広島3県に出されているほか、全国の感染者数は13日に1万8600人余りに達し、オミクロン株への置き換わりは暫定値で84%を占めている。

岸田政権は、去年11月にコロナ対策の全体像を取りまとめたの続いて、今月11日には、オミクロン株の新たな対策を打ち出した。果たして感染拡大を抑え込むことができるのかどうか、試されることになる。

 ワクチン、医療、水際対策の論戦を

岸田政権のオミクロン対策は、具体的にどんな点が問われることになるのか、論戦のポイントをみていきたい。

▲第1は「医療提供体制の備え」がどこまで進んでいるかだ。政府は、オミクロン株の感染力は強いが、今のところ重症リスクは小さいなどの特性を踏まえて、感染者や濃厚接触者を一律に入院させるのではなく、地域の医療機関などと連携して、自宅療養も認める方針を打ち出した。

そして、各都道府県で体制を整備した結果、自宅療養中の患者の健康観察や、飲み薬の速やかな供給などを行うための体制が整ったとしている。具体的には、自宅療養を始めた場合には、翌日までにパルスオキシメーターを配布する体制も整い、患者の健康観察などを行う医療機関の数は、全国で計画を3割上回る1万6000確保できたとしている。

問題は、今後、感染が急拡大した場合、入院・治療、宿泊所での待機療養、自宅療養などの仕分けや転院などが実際に機能するかどうかだ。

また、感染や濃厚接触で、医療従事者やエッセンシャルワーカーの仕事が制限され、要員が不足する社会機能の低下といった新たな問題も懸念される。

▲第2は「ワクチン接種の前倒し」の問題だ。政府は13日、ワクチンの2回目と3回目の接種間隔について、◆高齢者施設などに入っていない一般の高齢者も現在の7か月から6か月に短縮する方針を決めた。

◆64歳以下は、8か月から7か月に前倒して、今年3月から実施する方針だ。こうした対応は、オミクロン株の急拡大を踏まえ、3回目の接種を急ぐ必要があると判断したためだ。

問題は、ワクチンの確保と自治体への配分が順調に進むかどうかだ。12日に開かれた全国知事会では、前倒しの方針を歓迎しながらも「ワクチンは3月までのスケジュールしか示されておらず、4月以降の配分が見通せないと予約を受け付けられない」「現場の自治体が大混乱しかねないので、接種の対象や時期、ワクチン供給量などについて行程を示してほしい」といった要望が相次いだ。

こうした自治体の声を受け止めて、具体的な実施計画をまとめ、迅速に追加接種を行えるのかどうかが問われている。

▲第3に「水際対策や検疫の問題」がある。在日アメリカ軍基地がある沖縄、山口県・岩国市、隣接する広島県西部などの地域で、感染が拡大した。基地内の感染流行が、基地の外に広がったものとみられる。米軍関係者がアメリカなどから基地に直接、入国する場合、検疫が免除されていたことも明らかになった。

日米両政府は今月9日、対策を強化することでようやく合意した。この問題が沖縄県で表面化したのが、去年12月だったことを考えると政府の対応はいかにも遅い。日米地位協定を見直すべきだとの意見もある。

▲このほか、首相官邸の司令塔機能のあり方、具体的には、政府と自治体、医療機関などとの連携・調整のあり方の課題もある。政府は6月まで先送りしているが、危機管理体制の見直しは早急に行うべきだという意見もある。

このようにコロナ対策は、数多くの課題・問題がある。野党側は、全国各地の実態を踏まえて、政府の対策に問題がある場合は厳しく指摘したり、別の対策があれば積極的に提案したりするのが本来の役割だ。

これに対し、政府、与党側は対策に問題があれば真摯に受け止めて是正するなど与野党双方が建設的な取り組みを見せてもらいたい。国民の側も、政府、与野党の議論、対応をしっかり評価していくことが重要だ。

経済立て直し、外交・安保論争も

今年は、通常国会が6月に閉会すると直後に参議院選挙が控えている。国民にとって、参議院選挙の主な判断材料は、国会の与野党の議論ということになる。このため、コロナ対策以外の議論も必要不可欠だ。

具体的には、まずは、経済の立て直しだ。コロナ感染が収束したあと、国民生活や経済の立て直しに向けて、何を最重点に取り組むのか、各党とも構想と政策を明らかにしてもらいたい。

また、米中の対立や北朝鮮の弾道ミサイルの相次ぐ発射などを受けて、日本の外交・安全保障、防衛力整備のあり方などの議論を深めていく必要がある。

通常国会冒頭は、オミクロン株対策に議論が集中するのはやむを得ないが、感染が落ち着けば、経済、外交・安全保障論争にも力を入れてもらいたい。(了)

※(追記14日21時半。◆濃厚接触者の自宅などでの待機期間、政府は現在の14日間→10日に短縮する方針。◆新規感染者数、東京14日4051人、全国2万⑳45人)

感染第6波、正念場の岸田政権

新しい年が明けて1週間も経たないうちに、コロナ感染の波が、猛烈な勢いで押し寄せてきた。政府は7日、沖縄、山口、広島の3県に緊急事態宣言に準じる「まん延防止等重点措置」を適用する方針を決めた。

重点措置の期間は、9日から今月31日まで。夏の感染第5波に対する重点措置が解除された去年9月30日以来で、岸田政権になって初めてになる。

全国的にも1日当たりの感染者数が6000人を超え、オミクロン株の入れ替わりも早いペースで進んでいる。医療専門家は「全国的に第6波に入った」と警戒を強めている。

第6波を抑え込むことができるどうか、政権のかじ取りが大きく影響する。安倍政権、菅政権と2年連続、感染対応に失敗し退陣に追い込まれてきた。

岸田政権は、これまで感染対策を比較的順調に実施してきたように見えるが、第6波を乗り越えられるのか、どんな取り組みが必要なのか考えてみたい。

 驚異的な感染力、米軍基地が”穴”

まず、重点措置が適用されることになった3県の感染者数を見ておく。7日の時点で、沖縄は1414人で過去最多を更新、広島も429人で過去最多、山口は180人で高い水準にある。

特に感染の速さが、驚異的だ。7日の感染者数を1週間前と比較してみると沖縄は実に32倍、広島は19倍、山口は12倍にもなる。これだけの急拡大は、感染力の強いオミクロン株への置き換わりが急速に進んでいるものとみられる。

この3県に共通しているのは米軍基地だ。沖縄と山口県岩国市には米軍基地があり、広島県の西部は隣接地域だ。地元の知事や医療専門家は、米軍基地内の感染の流行が基地の外に広がったことが一因との見方をしている。

米軍関係者が、アメリカなどから在日米軍基地に入国する際にPCRなどの検査が免除されていたとされる。沖縄県の玉木知事らは、去年からたびたび米軍の感染対策の強化を訴えてきたが、日本政府の対応は安全保障面への配慮のためか慎重な姿勢が続いた。

岸田政権は、外国人の入国を全面停止するなど厳しい水際対策を取ってきたが、在日米軍基地に感染を広げる”穴”が開いていたことになる。岸田政権の失策と言わざるを得ない。

日米地位協定で、米軍関係者は検疫の対象外だが、地域住民の健康と安全を考えると、検疫や感染管理の不備を放置することは許されない。この問題は、今月召集される通常国会でも取り上げられることになるだろう。

 岸田政権の新対策は機能するか

次に岸田政権のコロナ対策をどうみるか。今回の3県の「重点措置」適用は、岸田政権が去年11月に決定した緊急事態宣言や重点措置を出す目安となる「新指標」に基づいている。

新指標は、従来の新規感染者数よりも、医療提供体制への負荷を重視しているのが特徴だ。具体的には、医療のひっ迫状況などに応じて、レベル0から4まで、5段階に分けて判断する。緊急事態宣言はレベル3、重点措置はレベル3か2に相当する。今回の3県は、レベル2に当たると判断された。

また、岸田政権は同じく去年11月に「コロナ対策の全体像」を取りまとめた。対策のねらいは、コロナウイルスの感染力が2倍になった場合にも対応できる医療体制を確保することにあると強調している。

具体的には、昨年夏に比べて3割増の3万7000人の入院を可能にすること。ワクチン、検査、飲める治療薬の普及で「予防、発見、早期治療までの流れを強化し、重症化リスクを減らすこと」を掲げている。

菅政権の前半は、飲食店の営業時間短縮に重点を置いた1本足打法だった。後半はワクチン接種最優先だったのに比べて、岸田政権の対策は、医療提供体制の確保に重点を置いたうえで、複数の対策を組み合わせているのが特徴だ。

問題は、全体像の目標で掲げる「予防、発見、早期治療までの流れを強化し、重症化リスクを減らす対策」が本当に機能するのかどうかにある。

 国と地方自治体の連携・実行がカギ

一番の問題は「国と地方自治体などとの連携・調整」が順調に進むのかどうかという点にあるのではないか。

具体的には、岸田政権の対策では、オミクロン株の感染が急拡大している地域では、自宅での療養体制が整っていることを条件に、感染者や濃厚接触者でも症状に応じて「自宅での療養」なども可能にするとしている。

確かに去年夏のピークを上回るような感染者が出た場合、入院だけでは対応できないので、自宅療養を認めるのは現実的な方法であることは理解できる。

問題は、入院か自宅療養かを判断をするのは、地域の保健所が担当すると思われるが、保健所の体制整備は進んでいるのだろうか。自宅療養が広がった場合、地域の医療機関の往診や健康管理はスムーズに運ぶのだろうか、多くの疑問がわいてくる。

このほか、無料のPCR検査など拡充や、ワクチン追加接種の前倒しなど多くの難問がある。最終的には、総理官邸が司令塔機能を果たして、厚労省など各省庁を指示し、都道府県、市区町村を通じて、保健所や医療機関などとの連携・調整、実行の歯車がうまく回るのかが、これから試される。

 医療提供、経済の二正面作戦

感染力の強いオミクロン株の感染は、7日夜までに全国45都道府県にまで拡大した。また、オミクロン株の置き換わりが急速に進んでいることなどを考えると今後は、東京や大阪など大都市圏へ波及していくことが予想される。

新規感染者数は7日のデータで、東京都は922人、1週間前の12倍に急増した。大阪府も676人で、1日の感染者数が500人を超えるのは2日連続だ。

ここまで見てきたように感染の拡大は避けられないが、重症者を減らしながら医療提供体制を維持できれば、感染抑制への展望が開けてくる。

また、感染が長期化する中で、国民生活への影響を最小限に食い止めるとともに経済活動を維持していく道を探っていくことも必要だ。

岸田政権が、こうした二正面作戦に取り組み、第6波の感染危機を乗り越えられるかどうか、正念場を迎えている。

※追記(1月10日)在日アメリカ軍の施設区域などで、コロナ感染拡大が続いていることを踏まえ、日米両政府は、10日から14日間、アメリカ軍関係者の不要不急の外出を制限することなどを取り決めた共同声明を発表した。

これに対し、野党側は、政府の対応が遅すぎるなどと批判しており、17日召集の通常国会の焦点の1つになる見通しだ。