新型コロナウイルスの新たな変異株「オミクロン株」の感染が広がりを見せる中で、新しい年・2022年が幕を開けた。昨年は、自民党総裁選を前にコロナ対応などで失速した菅前首相が退陣、岸田首相が誕生するなど波乱が続いた。
新年の日本政治はどんな展開になるのだろうか。まずはコロナ対応、感染力が強いオミクロン株の抑え込みができるかが、政権運営を左右するのは間違いない。
問題は岸田政権をどうみるかで、政局の見方は変わる。結論を先に言えば、岸田政権を取り巻く今年の政治状況は「踊り場政局」と言えるのではないか。
どういうことか?岸田政権は先の衆院選に勝利し安定しているように見えるが、政策にぶれがみられるし、政権基盤も強くはない。政権は浮揚するのか、逆に停滞、失速することになるのか、不透明だ。
だから「踊り場政局」、政権の階段を駆け上がるのか、下りへと向かうのか、読みにくい政治状況が、短くても半年以上は続きそうだ。
一方、野党も先の衆院選で議席を減らした第1党の立憲民主党と、議席を大幅に伸ばした日本維新の会との主導権争いが激しくなる見通しだ。政権与党との対決より、野党内のせめぎあいにエネルギーを費やす可能性もある。
つまり、与野党双方とも”内部に不確定要素を抱え、様子見の政治”、”メリハリのない政治”が続く可能性が高い。そして、夏の参院選で、政治的に一件落着、国民は蚊帳の外といった状況が生まれるのではないか。
そこで、なぜ、こうした見方をするのか、現実の政治の動きを分析する。そのうえで、今の政治は何が問われているのか、国民の視点で考えてみたい。
政治日程 参院選挙が最大の焦点
まず、今年の主な政治日程を駆け足で見ておきたい。◆今年前半の政治の舞台となる通常国会は1月17日に召集される見通しで、6月15日が会期末。◆会期延長がなければ、参議院選挙の投開票日は、7月10日になる見通しだ。
一方、国際社会では、◆2月4日から北京冬季オリンピックが開会するが、米英などは外交ボイコットで臨む方針だ。◆3月9日は、韓国の大統領選挙。◆11月8日は、アメリカの中間選挙。◆秋には5年に一度の中国共産党大会が開かれ、習近平国家主席が異例の3期目の任期に入るか注目される。
◆米中対立や東アジア情勢の変化を受けて、岸田政権は、日本の外交・安全保障の基本戦略を盛り込んだ国家基本戦略、防衛大綱、中期防衛力整備計画を年末に改定する方針だ。外交安全保障の論議が、久しぶりに高まる可能性がある。
岸田政権 3つのハードル
以上の日程を頭に入れて、国内政治はどう展開するか、岸田政権の運営がベースになる。3つのハードルが待ち受けている。コロナ、国会、参院選挙だ。
▲第1のコロナ対策について、岸田政権は去年11月に対策の全体像を取りまとめたのに続いて、オミクロン株の水際対策として、外国人の入国を全面停止するなどの対応策を次々に打ち出した。
一方、水際対策をすり抜けたオミクロン株の感染がじわりと広がっている。これに伴って急増する濃厚接触者の扱い、病床の確保、3回目のワクチン接種の前倒しなど、やるべきことが実に多い。その際、国と都道府県、市区町村、医療機関などの連携・調整が順調に進むのかどうか、年明け早々、正念場を迎えそうだ。
▲第2は通常国会の乗り切りだが、岸田政権にとって長丁場の国会は初めてだ。初入閣の閣僚が多く、答弁を不安視する声が与党内からも聞かれる。
▲第3の参院選挙は、特に野党が候補者を1本化する1人区、32の選挙区の勝敗が焦点だ。自民党は前回22勝10敗、前々回21勝、11敗だった。但し、与党は非改選議員が多いため、自民・公明の両党で過半数を維持する公算が大きいとみられる。
自民党長老に岸田政権のゆくえを聞いてみた。「一番の波乱要因は、オミクロン株対応だ。2月頃の感染がどうなっているか。一定程度に抑え込み、3、4月に経済活動が本格化していれば、参院選を乗り切れる。だが、実績が上がらないと厳しい評価を受けるだろう」と楽観論を戒める。
岸田政権は発足からまだ、3か月。コロナ感染者数が激減した環境に恵まれ、内閣支持率も高い水準を維持している。一方、実績と言えば、年末に大型補正予算を成立させた程度で、派閥の人数は5番目、党内基盤は安定しているとはいえない。
特にオミクロン株が急拡大し、対応に失敗すると内閣支持率は急落、政権運営は窮地に陥るとの見方は、党内でも少なくない。
岸田政権と対決、野党内の競合も
野党側は、通常国会で岸田政権と対峙し、夏の参議院選挙につなげていくのが基本戦略だ。政府のオミクロン株対応、新年度予算案の内容、臨時国会から持ち越した国土交通省のデータ二重計上問題などを追及していく構えだ。
一方、先の衆院選で、野党第1党の立憲民主党は議席を減らしたが、日本維新の会は議席を大幅に増やし第3党に躍進した。日本維新の会は、参院選挙でも候補者を積極的に擁立する構えで、通常国会でも野党内の主導権争いが激しくなりそうだ。
参院選挙に向けては、立憲民主党が、衆院選で閣外協力で合意した共産党との関係をどのように見直すのか、国民民主党との協力関係はどうするのか。日本維新の会の出方も含めて、野党内の構図が変化する可能性もある。
参院決選、岸田政権 浮上か失速か
このように今年前半の政治は、通常国会を舞台に与野党の攻防が続いたあと、直後の参院選挙で決着がつけられる見通しだ
岸田自民党は前回、または前々回並みの議席、具体的には50台半ば以上を獲得できれば、公明党と合わせて参議院で安定多数を確保できる。
その場合は、去年秋の自民党総裁選、衆院選に続いて、参院選でも勝利したことになり、岸田首相の求心力は高まる。次の衆院議員の任期満了は2025年、向こう3年間国政選挙なしで、政治課題に専念できる。
逆に前回、前々回の水準を割り込めば、岸田首相の政権運営に陰りが生じ、党内の非主流派のけん制が強まる可能性がある。
つまり、夏の参院選は、踊り場に位置する岸田政権の分岐点だ。安定政権へ階段を上り始めるのか、停滞・失速で下がっていくのか、分かれ道になりそうだ。
但し、与党で過半数は維持する公算が大きいので、去年のような大きな波乱が起きる可能性は低いとみる。年後半は、参院選の結果で方向が決まることになる。
党利党略から、政治の王道へ転換を
最後にコロナ感染危機が続く中で、今の政治は何が問われているのか、国民の視点で見ておきたい。
日本の現状を概観すると過去30年間、国民の給料・所得は横ばいで、先進国の中で唯一上昇がみられない。アベノミクスで異次元の金融緩和にも踏み込んだが、実質経済成長率は1%にも達しない状況に陥っている。
加えてコロナ感染拡大が重なるが、危機の時こそ、政治は右往左往するのではなく、目標と道筋を明らかにして、国民の力を集中させることが必要だ。
そのためには、政権与党と野党の双方が、「構想や政策」を真正面からぶつけ合い、議論を深めたうえで、合意をめざす「競い合いの政治」が問われている。
与野党とも「恣意的な1強政治」「批判・追及ばかり」といった批判を受けて、「落ち着いた政治」を模索する動きもみられる。延々と続く党利党略、パフォーマンスの政治から脱却、「政治の王道、政策の中身で勝負する政治」に転換、実践ができないものか。
具体的には、▲年明けの通常国会では、過去最大107兆円の新年度予算案の審議が焦点になる。コロナ禍で困っている人や事業者に支援が届く内容になっているのか、中身を厳しくチェックするのが、与野党議員の仕事だ。
▲オミクロン対策は、水際対策をはじめ、PCRなどの無料検査、陽性者の隔離や待機、病床確保と治療入院、3回目のワクチン接種などの取り組みは順調なのか点検が必要だ。岸田内閣の危機管理体制の見直し、機能強化も大きな課題だ。
▲そのうえで、コロナ収束後の「日本社会、経済の立て直しの構想や目標」をどのように考えているのか。重点政策として、何を最優先に取り組むのか。
▲冒頭に触れた外交・安全保障についても、日本の国力や国益を踏まえて、どんな役割を果たすのか、国民が知りたい点だ。
先の衆院選では、コロナ対策の給付金など当面の対策に議論が集中し、経済の立て直し、人口減少と社会保障、デジタル・科学技術などの基本的な課題を掘り下げて議論することができなかった。
それだけに新年は、コロナ危機と基本的な課題に同時並行で取り組む必要がある。数多くの懸案を抱える日本、解決へ残された時間は多くはない。
通常国会で議論を深めたうえで、参院選で与野党が選択肢を示し、国民が投票で決着をつける本来の政治に一歩でも近づける必要がある。(了)