“コロナ危機、踊り場政局” 新年予測

新型コロナウイルスの新たな変異株「オミクロン株」の感染が広がりを見せる中で、新しい年・2022年が幕を開けた。昨年は、自民党総裁選を前にコロナ対応などで失速した菅前首相が退陣、岸田首相が誕生するなど波乱が続いた。

新年の日本政治はどんな展開になるのだろうか。まずはコロナ対応、感染力が強いオミクロン株の抑え込みができるかが、政権運営を左右するのは間違いない。

問題は岸田政権をどうみるかで、政局の見方は変わる。結論を先に言えば、岸田政権を取り巻く今年の政治状況は「踊り場政局」と言えるのではないか。

どういうことか?岸田政権は先の衆院選に勝利し安定しているように見えるが、政策にぶれがみられるし、政権基盤も強くはない。政権は浮揚するのか、逆に停滞、失速することになるのか、不透明だ。

だから「踊り場政局」、政権の階段を駆け上がるのか、下りへと向かうのか、読みにくい政治状況が、短くても半年以上は続きそうだ。

一方、野党も先の衆院選で議席を減らした第1党の立憲民主党と、議席を大幅に伸ばした日本維新の会との主導権争いが激しくなる見通しだ。政権与党との対決より、野党内のせめぎあいにエネルギーを費やす可能性もある。

つまり、与野党双方とも”内部に不確定要素を抱え、様子見の政治”、”メリハリのない政治”が続く可能性が高い。そして、夏の参院選で、政治的に一件落着、国民は蚊帳の外といった状況が生まれるのではないか。

そこで、なぜ、こうした見方をするのか、現実の政治の動きを分析する。そのうえで、今の政治は何が問われているのか、国民の視点で考えてみたい。

 政治日程 参院選挙が最大の焦点

まず、今年の主な政治日程を駆け足で見ておきたい。◆今年前半の政治の舞台となる通常国会は1月17日に召集される見通しで、6月15日が会期末。◆会期延長がなければ、参議院選挙の投開票日は、7月10日になる見通しだ。

一方、国際社会では、◆2月4日から北京冬季オリンピックが開会するが、米英などは外交ボイコットで臨む方針だ。◆3月9日は、韓国の大統領選挙。◆11月8日は、アメリカの中間選挙。◆秋には5年に一度の中国共産党大会が開かれ、習近平国家主席が異例の3期目の任期に入るか注目される。

◆米中対立や東アジア情勢の変化を受けて、岸田政権は、日本の外交・安全保障の基本戦略を盛り込んだ国家基本戦略、防衛大綱、中期防衛力整備計画を年末に改定する方針だ。外交安全保障の論議が、久しぶりに高まる可能性がある。

 岸田政権 3つのハードル

以上の日程を頭に入れて、国内政治はどう展開するか、岸田政権の運営がベースになる。3つのハードルが待ち受けている。コロナ、国会、参院選挙だ。

▲第1のコロナ対策について、岸田政権は去年11月に対策の全体像を取りまとめたのに続いて、オミクロン株の水際対策として、外国人の入国を全面停止するなどの対応策を次々に打ち出した。

一方、水際対策をすり抜けたオミクロン株の感染がじわりと広がっている。これに伴って急増する濃厚接触者の扱い、病床の確保、3回目のワクチン接種の前倒しなど、やるべきことが実に多い。その際、国と都道府県、市区町村、医療機関などの連携・調整が順調に進むのかどうか、年明け早々、正念場を迎えそうだ。

▲第2は通常国会の乗り切りだが、岸田政権にとって長丁場の国会は初めてだ。初入閣の閣僚が多く、答弁を不安視する声が与党内からも聞かれる。

▲第3の参院選挙は、特に野党が候補者を1本化する1人区、32の選挙区の勝敗が焦点だ。自民党は前回22勝10敗、前々回21勝、11敗だった。但し、与党は非改選議員が多いため、自民・公明の両党で過半数を維持する公算が大きいとみられる。

自民党長老に岸田政権のゆくえを聞いてみた。「一番の波乱要因は、オミクロン株対応だ。2月頃の感染がどうなっているか。一定程度に抑え込み、3、4月に経済活動が本格化していれば、参院選を乗り切れる。だが、実績が上がらないと厳しい評価を受けるだろう」と楽観論を戒める。

岸田政権は発足からまだ、3か月。コロナ感染者数が激減した環境に恵まれ、内閣支持率も高い水準を維持している。一方、実績と言えば、年末に大型補正予算を成立させた程度で、派閥の人数は5番目、党内基盤は安定しているとはいえない。

特にオミクロン株が急拡大し、対応に失敗すると内閣支持率は急落、政権運営は窮地に陥るとの見方は、党内でも少なくない。

 岸田政権と対決、野党内の競合も

野党側は、通常国会で岸田政権と対峙し、夏の参議院選挙につなげていくのが基本戦略だ。政府のオミクロン株対応、新年度予算案の内容、臨時国会から持ち越した国土交通省のデータ二重計上問題などを追及していく構えだ。

一方、先の衆院選で、野党第1党の立憲民主党は議席を減らしたが、日本維新の会は議席を大幅に増やし第3党に躍進した。日本維新の会は、参院選挙でも候補者を積極的に擁立する構えで、通常国会でも野党内の主導権争いが激しくなりそうだ。

参院選挙に向けては、立憲民主党が、衆院選で閣外協力で合意した共産党との関係をどのように見直すのか、国民民主党との協力関係はどうするのか。日本維新の会の出方も含めて、野党内の構図が変化する可能性もある。

 参院決選、岸田政権 浮上か失速か

このように今年前半の政治は、通常国会を舞台に与野党の攻防が続いたあと、直後の参院選挙で決着がつけられる見通しだ

岸田自民党は前回、または前々回並みの議席、具体的には50台半ば以上を獲得できれば、公明党と合わせて参議院で安定多数を確保できる。

その場合は、去年秋の自民党総裁選、衆院選に続いて、参院選でも勝利したことになり、岸田首相の求心力は高まる。次の衆院議員の任期満了は2025年、向こう3年間国政選挙なしで、政治課題に専念できる。

逆に前回、前々回の水準を割り込めば、岸田首相の政権運営に陰りが生じ、党内の非主流派のけん制が強まる可能性がある。

つまり、夏の参院選は、踊り場に位置する岸田政権の分岐点だ。安定政権へ階段を上り始めるのか、停滞・失速で下がっていくのか、分かれ道になりそうだ。

但し、与党で過半数は維持する公算が大きいので、去年のような大きな波乱が起きる可能性は低いとみる。年後半は、参院選の結果で方向が決まることになる。

 党利党略から、政治の王道へ転換を

最後にコロナ感染危機が続く中で、今の政治は何が問われているのか、国民の視点で見ておきたい。

日本の現状を概観すると過去30年間、国民の給料・所得は横ばいで、先進国の中で唯一上昇がみられない。アベノミクスで異次元の金融緩和にも踏み込んだが、実質経済成長率は1%にも達しない状況に陥っている。

加えてコロナ感染拡大が重なるが、危機の時こそ、政治は右往左往するのではなく、目標と道筋を明らかにして、国民の力を集中させることが必要だ。

そのためには、政権与党と野党の双方が、「構想や政策」を真正面からぶつけ合い、議論を深めたうえで、合意をめざす「競い合いの政治」が問われている。

与野党とも「恣意的な1強政治」「批判・追及ばかり」といった批判を受けて、「落ち着いた政治」を模索する動きもみられる。延々と続く党利党略、パフォーマンスの政治から脱却、「政治の王道、政策の中身で勝負する政治」に転換、実践ができないものか。

具体的には、▲年明けの通常国会では、過去最大107兆円の新年度予算案の審議が焦点になる。コロナ禍で困っている人や事業者に支援が届く内容になっているのか、中身を厳しくチェックするのが、与野党議員の仕事だ。

▲オミクロン対策は、水際対策をはじめ、PCRなどの無料検査、陽性者の隔離や待機、病床確保と治療入院、3回目のワクチン接種などの取り組みは順調なのか点検が必要だ。岸田内閣の危機管理体制の見直し、機能強化も大きな課題だ。

▲そのうえで、コロナ収束後の「日本社会、経済の立て直しの構想や目標」をどのように考えているのか。重点政策として、何を最優先に取り組むのか。

▲冒頭に触れた外交・安全保障についても、日本の国力や国益を踏まえて、どんな役割を果たすのか、国民が知りたい点だ。

先の衆院選では、コロナ対策の給付金など当面の対策に議論が集中し、経済の立て直し、人口減少と社会保障、デジタル・科学技術などの基本的な課題を掘り下げて議論することができなかった。

それだけに新年は、コロナ危機と基本的な課題に同時並行で取り組む必要がある。数多くの懸案を抱える日本、解決へ残された時間は多くはない。

通常国会で議論を深めたうえで、参院選で与野党が選択肢を示し、国民が投票で決着をつける本来の政治に一歩でも近づける必要がある。(了)

 

 

コロナ政局と政権の危機対応

今年も残りわずかとなったので、2021年の政治をどうみるか、締めくくりとして取り上げたい。

今年元旦の当ブログのタイトルは「”首相交代含みの波乱政局” 2021年予測」だった。「コロナ大激変時代、政治もコロナ対応を軸に動く。菅政権は予想以上に不安定さが目立ち、さらに今年は自民党総裁、衆院議員の任期切れが重なる」として、上記のような予測をした。

菅政権が倒れ、岸田政権へ交代、衆院解散・総選挙で敗北した野党第1党の枝野代表も辞任したので、予測としてはなんとかクリアできたのではないかと総括している。

問題は日本政治が最も問われていた点、「政権の危機対応」は岸田政権に代わっても未だに手が付けられず、先送りされているのではないか。重い宿題を背負ったまま、新たな変異ウイルス「オミクロン株」に立ち向かおうとしているようにみえる。

 2代連続退陣、核心は政権の危機管理

2020年1月に新型コロナウイルスの感染が日本国内で確認されて以降、安倍晋三元首相が体調悪化を理由に退陣したのに続いて、菅義偉前首相も今年9月に退陣を表明、日本の首相は2代続けて退陣に追い込まれた。

菅政権では、年明けの第3波から緊急事態宣言が発せられ、夏場の第5波では、自宅待機を余儀なくされる人たちが多数に上り、治療を受けられずに亡くなる人も出るなど深刻な事態に陥った。

また、国民に対する説明も不十分で、内閣支持率も急落して支持を失った。問題の核心はどこにあったかといえば、新型コロナ感染症という新たなリスクに対して、政権の司令塔である首相官邸の危機管理が機能不全状態に陥り、失敗したということになる。

 初動は順調、危機管理は先送り

菅政権に代わって登場した岸田政権は、衆院解散・総選挙を何とか勝ち抜いた後、11月にコロナ対策の全体像を取りまとめたのをはじめ、新たな変異株の水際対策として、外国人の入国を全面停止するなどの措置を次々と打ち出した。

菅政権がワクチン接種を猛スピードで進め、感染者数が激減する効果が現われたこともあって、岸田政権の初動の対応は順調で、世論の評価も高い。

但し、岸田政権のコロナ対応をみると危機管理体制の見直しは先送りされている。岸田首相は12月の所信表明の中で「これまでのコロナ対応を徹底的に検証します。そのうえで、来年6月までに感染症危機に迅速・的確に対応するため、司令塔機能の強化を含めた、抜本的な体制強化策をとりまとめます」とのべた。

つまり、様々な対策を打ち出す一方で、肝心の危機管理体制の見直しは6月に先送りしているわけだ。野党がこの点を、なぜ追及しないか理解できない。そこで、この疑問を政権幹部に直接ぶつけたところ、次のような返事が返ってきた。

「岸田政権の対策の柱は、ワクチンの2回目接種の完了と治療薬の実用化、それに3回目のワクチン接種を行うこと。加えて、経済を動かしていくことが基本戦略だ。途中で体制を変えること、司令塔を変えるのは難しい。一連の対策が終わり、感染対策が落ち着いたところで、体制を決めたい」という考えだ。

実務的で現実的な考え方とも言えるが、危機管理は、平時に考え準備を完了させておくことが重要だ。日本の政治家の悪いところは、急場をしのぐと問題点の洗い出しや検証を行わず、先送りにすること。前任者の責任に触れるのを避けたいためかは知らないが、とにかく同じ間違いを繰り返す。

驚くほど急減していた感染も、新たな変異株・オミクロン株が国内でも広がり始めた。岸田政権の感染対策は「都道府県知事が感染状況を判断し、国と連携しながら対策を進めていく」新たな仕組みに変えたのが特徴だ。

国と都道府県知事、市区町村との連絡・調整をはじめ、医療機関や保健所、大学などとの連携・調整が本当に機能するのかどうか、首相官邸の司令塔機能が再び問われることになりそうだ。

 コロナ危機とリーダーの指導力

コロナ危機で改めて浮き彫りになったのが、政治のトップリーダーの判断力や決断力だ。また、リーダーが決断するためには、決断を支える体制が重要だ。

今回の新型コロナは百年に一度の危機といわれる。百年前というのは第1次大戦の時期で、スペイン風邪が大流行、日本でも39万人もの犠牲者が出た。

その時期の政治リーダーは、著名な原敬首相だ。第1次大戦が終了する1か月ほど前に就任した。平民宰相と呼ばれ、内外の難問に取り組んだが、3年後に暗殺された。

当時、日本は第1次大戦に参戦、戦勝国になったが、戦後には熾烈な列強間の経済戦争が予想され、将来への不安感も広がり、ちょうど今の日本に似た状況にあったとされる。(伊藤之雄京都大学名誉教授「真実の原敬」講談社現代新書)

原首相は、アメリカ中心の世界秩序をいち早く予測して、外交関係を再編するとともに、国内では交通網の整備、産業振興の列島改革を実行した。今風に言えば、コロナ後もにらんだ米中覇権争いと、国内の経済・社会の立て直しの構想と具体策を打ち出し、実行に乗り出そうとしたというところだろう。

さて、話を現代に戻す。年が明けるとコロナ・パンデミックは、3年目に入る。スペイン風邪も3年で収束した。政治がやるべきことは多い。まずは、海外で感染が急拡大しているオミクロン株のコントロールを成功させること。

そのうえで、新型感染症時代に対応できる危機管理体制を早急に整えること。先人にならって外交・安全保障の基本方針や、国内の経済・社会の立て直しの構想や具体策を打ち出すことだ。

そのためには、国会で与野党が真正面から議論し、競い合う政治が今一度、求められているのではないか。(了)

”期待外れの臨時国会” 懸案は越年へ

先の衆院選挙後、初めて本格的な論戦の舞台になった臨時国会は、35兆円を上回る過去最大規模の補正予算を成立させ、21日閉会した。

国会閉会を受けて、岸田首相は21日夜記者会見し、年内に10万円の現金給付を容認する方針を打ち出したことについて「国民の思いを受け止め、思い切ってかじを切った」と方針転換の判断を説明した。

そのうえで、岸田首相は「大型経済対策を年内に国民に届けるとともに、変異株対策も先手、先手を打つ」とのべ、オミクロン株対策を強化する考えを表明した。

さて、こうした岸田政権の対応や今度の臨時国会をどのようにみたらいいのか。大型の補正予算は暮らしや経済の立て直しにどの程度、効果があるのか、掘り下げた議論は乏しかったのではないか。

国土交通省の基幹データの書き換えなど新たな問題も明らかになったが、経緯や原因はわからないまま、通常国会に先送りになった。

衆院選挙を踏まえて向こう4年間の外交・安全保障のかじ取りをどうするのかといった議論もほとんど聞かれず、残念ながら”期待外れの臨時国会”といわざるをえない。

なぜ、こうした結論になるのか、年明けの通常国会の論戦を充実させるためにも、今度の臨時国会の問題点をしっかり点検しておきたい。

 現金給付方針転換 制度設計に甘さ

まず、今度の国会で与野党の最も大きな焦点になったのは、18歳以下の子どもを対象に10万円相当を給付する問題だった。政府案では、年内に5万円を現金で支給し、残り5万円は来年春にクーポンで支給する方針だった。

ところが、政府案では、クーポンの発行に1000億円近い事務費がかかることに加えて、コロナワクチン接種などで多忙を極める自治体からは、さらに労務の負担が増すと強い反発を受けた。

これを受けて、岸田首相は予算審議の中で「自治体の判断で、年内に現金10万円を一括給付することも容認する方針」に転換する考えを表明した。

具体的には、現金5万円とクーポン5万円の併用と、現金5万円を年内と来年の2回に分けて支給、さらに全額現金で一括支給の3案から選択する仕組みに変えた。

この方針転換をどうみるか。首都圏の市や区の大半は17日現在で、年内全額現金一括給付を予定しており、クーポンを採用するところはないという。岸田首相が土壇場で方針転換したこと自体は、歓迎されるという皮肉な結果になっている。

但し、こうした現金給付をめぐる混乱は一昨年、安倍政権当時に続いて2回目だ。再度の現金給付は必至とみられていたが、備えは進んでいなかった。

今回の原案は、11月上旬に自民、公明両党の幹事長が急ピッチでまとめ上げた案がベースになっているが、スピードを重視した結果、制度の問題点や詰めの甘さが露呈した。

また、この問題に補正予算審議の多くの時間が費やされたため、予算案に盛り込まれていた、コロナ対策や経済対策の中身の審議は十分できなかった。

さらに、35兆円もの巨額予算は、経済の立て直しにどの程度役に立つのかといった経済効果の議論も深まらなかった。方針転換は、貴重な審議時間を奪い、国会のチェック機能を弱めた点で政権与党の責任は大きい。

 統計データ書き換え 失う信頼性

国土交通省が、建設業の受注実態を表す基幹統計データを書き換え、二重に計上するなど不適切な取扱いを続けていたことが明らかにされた。朝日新聞のスクープだった。

データの二重計上は2013年4月に始まったとみられている。GDP=国内総生産を推計する際の要素になるとも言われ、統計の信頼性を失う行為だ。

3年前、厚生労働省が所管する「毎月勤労統計」をめぐる問題で不適切な扱いが明らかになり、予算審議が紛糾したことも思い出す。同じような不祥事が繰り返される。

岸田首相は「経緯や原因を究明するため、検事経験者などによる第三者委員会を設置し、1か月以内に報告する」考えを表明した。この問題も年明けの通常国会に持ち越されることになった。

 文書改ざん 問われる裁判終結の判断

森友学園をめぐる問題で、財務省の決裁文書の改ざんに関与させられ自殺した赤木俊夫さんの妻が訴えていた裁判は15日、国側がこれまでの主張を一転し、全面的に受け入れる手続きを取り、裁判を終わらせた。

裁判を通じて「夫の死の真実を知りたい」と訴えてきた妻の雅子さんは「不意打ちで卑怯だ」と批判している。

国の対応は、改ざんの具体的な経緯を明らかにしないまま、賠償責任を認めて幕引きを図ろうとするようにみえる。国民の多くの納得も得られないのではないか。

鈴木財務相や岸田首相はどのような判断で、裁判を終わらせることにしたのか、雅子さんの訴えに真摯に向き合い、事実関係を明らかにする責任があるのではないか。この問題も年明けの通常国会で改めて問われることになる見通しだ。

このほか、国会議員に毎月100万円が支払われる「文書通信交通滞在費」についても初当選した議員がわずか1日で全額受け取るのはおかしいと問題提起し、国民の関心を集めた。

与野党とも日割りに変えることでは一致したが、野党側が未使用分の返納と使いみちの公開を求めたのに対し、与党側が難色を示して合意ができなかった。使途の公開など是非は明らかだと思われるので、次の通常国会では早期に是正を図るべきではないか。

  問われるコロナ、立て直し構想

ここまでみてきたように今度の臨時国会は、過去最大の補正予算を成立させたが、肝心の中身を評価・点検する議論は乏しかった。また、先送りされた懸案・課題も多く、課題解決という面でも”期待外れの国会”に終わったというのが正直な印象だ。

それだけに年明けに召集される通常国会の役割と責任は大きい。夏には参議院選挙が行われるので、通常国会の会期延長は難しい。先送りになった懸案については、早急に是正を図ることを強く求めておきたい。

また、新しい年は、取り組むべき課題が多い。コロナ感染は3年目に入り、特に感染力の強いオミクロン株を抑え込めるのか当面、最大の問題だ。

岸田首相は21日の記者会見で、オミクロン株対策として濃厚接触者は、自宅待機ではなく、宿泊施設で待機を要請する方針や、いわゆるアベノマスクを廃棄するなどさまざまな方針やアイデアを明らかにした。

せっかくの方針であり、国会論戦の中で明らかにすれば論戦は盛り上がるし、国民の理解も進むと思うのだが、独り舞台でのアピールは残念だ。

いずれにしても感染をコントロールしながら、暮らしと経済の立て直しに向けた構想と道筋をどのように描くのか。与野党双方とも年明けの国会で、それぞれ建設的な提案を行い、提案の中身を競い合う緊張感のある政治を見せてもらいたい。(了)

 

“つまずき”目立つ岸田政権  

政権発足から2か月半が経過した岸田政権は、コロナ感染対策の全体像を打ち出したり、過去最大規模の補正予算を編成したり順調な運営を続けてきたが、ここにきて、人事の混乱や主要政策の方針変換といった”つまずき”が目立ち始めた。

旧友の石原伸晃元自民党幹事長を内閣官房参与に起用したが、雇用調整助成金を受給していた問題が明らかになり、わずか1週間で辞任に追い込まれた。

また、政権の目玉政策である18歳以下に10万円相当の給付についても自治体側の強い反発を受け、全額現金一括給付の容認へ方針転換することになった。

与党内には、今の短期の国会は何とか乗り切れるが、年明け長丁場の通常国会の運営を危ぶむ声も聞かれる。岸田首相の政権運営、どこに問題があるのか探ってみたい。

 ”旧友優遇”と首相の任命責任

岸田首相が就任して以降、初めて開かれた13日の衆議院予算委員会で、岸田首相は、内閣官房参与に起用したばかりの石原伸晃元幹事長が辞職した問題を追及され、「混乱は否めなく、申し訳ない」と陳謝に追い込まれた。

岸田首相と石原元幹事長は20年余の盟友関係にあることは政界では有名で、岸田首相は今月3日、先の衆院選挙で落選した石原元幹事長を内閣官房参与に起用したが、さっそく「旧友優遇、救済人事」といった批判が聞かれた。

その石原元幹事長は、自らが代表を務める党支部が60万円余りの雇用調整助成金を受け取っていたことが批判を浴び、就任後わずか1週間で辞職に追い込まれた。

また、大岡敏孝環境副大臣も雇用調整助成金30万円を受け取っていたことが明らかになったが、岸田首相は、進退は本人の判断に委ねる考えを示した。

雇用調整助成金は、コロナ感染で売り上げが大幅に落ちた民間事業者などを守るのが本来の目的だ。政党の支部は、企業献金や政党助成金を主な収入源にしており、政党支部が助成金を受領するのは違法ではないとされるが、国民の理解を得られるとは思えない。

また、任命権者としての首相の対応をみると元幹事長は辞職に対して、現職の副大臣はそのまま続投と処置は異なる。現職の副大臣であれば、事実関係の説明を徹底させるとか、政治的道義的な責任をとらせるべきではないかと個人的には考える。

一方、旧友の石原元幹事長の人事をめぐっては、岸田元首相も”安倍元首相や菅元首相のお友達人事、身内優遇”と変わらないではないかといった世論の側の受け止め方もあったのではないか。今後、内閣支持率などに影響があるのかどうか、注意してみていきたい。

 スピード決着、制度設計に甘さ

次に18歳以下の子どもを対象に1人10万円相当を給付する政策については、大きな動きがみられた。

政府は、これまで10万円相当のうち、年内に現金5万円を支給、残り5万円相当はクーポンで支給することを原則にしてきた。

ところが、クーポンの発行には1000億円近い事務経費がかかることに加え、地方自治体からは、ワクチン接種などで多忙な時期にさらに労力などの負担がかかると強い反発を招いた。

こうした自治体や野党の批判を受けて、岸田首相は13日、年内に全額現金で一括給付することも容認する考えを明らかにした。2回に分けて現金を給付する場合も含め、自治体に条件も設けないとしており、これまでの方針変換に踏み切った。

今回の方針転換をどうみるか。11月上旬に自民、公明両党の幹事長が3日間の協議で大枠が決着、10日には岸田首相と山口代表のトップ会談で、最終合意が図られた。こうしたスピード決着の結果、クーポン支給などの制度設計の詰めが甘かったのではないか。

また、自治体や国民の要望・ニーズを把握しないまま、政府が政治決着した仕組みを押し通したことも影響したのではないか。

自治体や野党の中には、岸田首相の決断で、年内の現金全額給付が可能になったことを評価する意見が出ている。

一方、土壇場になって、ようやく方針転換が図られるのは、政権の意思決定が遅すぎるし、制度設計能力の改善も進んでいないと見ることもできる。

岸田首相は「聞く力」と「スピード」を重視しているが、「迅速な決断力」と「実行力」も問われていると言えそうだ。

 内閣支持率低下、通常国会に不安

このほか、岸田政権としても判断が問われるのは、毎月100万円が支給される「文書交通滞在費」の問題がある。10月末に初当選した議員がわずか1日で、1か月分の100万円の手当を受け、見直しを提起している問題だ。

野党第1党の立憲民主党は、日割り計算に改めることと、返金できる仕組み、それに使いみちの公開の3点セットの改善を提案している。

自民党は、日割り変更には応じるものの、使いみちの公開には難色を示しており、今国会での合意・実現のメドはついていない。

岸田政権は内閣官房参与人事や、10万円相当の給付に代表されるように、このところ政権運営のブレやつまずきが目立ち始めている。

NHKが今月10日から12日にかけて行った世論調査では、岸田内閣の支持率は50%で、前の月から3ポイント減少した。一方、不支持は27%で、1ポイント増えている。

「オミクロン株」の水際対策として、政府が外国人の新規の入国を原則停止とした対応を「評価する」との意見が81%と高かった。これに対し、目玉政策の10万円給付は「評価する」が33%に対し、「評価しない」が64%と多い。

つまり、内閣支持率は50%と高い水準を維持しているが、先月から低下傾向が表れている点を注意しておく必要がある。

岸田政権にとって最初の予算員会の審議をみていると、コロナ対策の山際経済再生担当相と、後藤厚労相、堀内ワクチン担当相の答弁や連携は、前政権に比べて不慣れな面が目につく。

自民党関係者に聞くと「今の臨時国会は短期間なので、乗り切れるが、年明け長丁場の通常国会は大丈夫か不安だ」と漏らす。岸田政権の”つまずき”が収まっていくのか、不安定の始まりになるのか、今の臨時国会が試金石になる。

 

師走国会の焦点 党首対決の論戦   

先の衆院選挙後、初めて本格的な論戦の舞台となる臨時国会が6日召集され、岸田首相が衆参両院の本会議で所信表明演説を行い、論戦の幕が開いた。

コロナ対策などで過去最大35兆9800億円余りの補正予算案も6日、国会に提出された。

師走に入っての臨時国会だが、ここまで振り返ってみると夏のコロナ感染第5波と医療危機などで菅政権が倒れ、岸田政権が発足。衆院解散・総選挙が行われ、与野党執行部の顔ぶれも大幅に入れ替わった。

野党第1党・立憲民主党は、若手の泉健太代表が就任した。岸田首相も10月に就任以降、2か月余りになるが、予算員会での本格的な論戦は今回が初めてになる。

「聞く力」を掲げる岸田首相と「批判ばかりからの脱却」をめざす泉代表との初めての論戦対決はどうなるか、師走国会の焦点を探ってみた。

 岸田首相 問われる「実行力」

まず、この国会論戦のベースになる、岸田首相の所信表明演説の内容から見ておきたい。

岸田首相は、新たな変異ウイルス「オミクロン株」の感染拡大に備え、細心かつ慎重に対応する考えを強調し、3回目のワクチン接種については「8か月から、できるかぎり前倒しする」考えを表明した。

外交・安全保障では、いわゆる「敵基地攻撃能力」も含め、現実的に検討する考えを示すとともに、新たな国家安全保障戦略、防衛計画の大綱、中期防衛力整備計画を1年かけて策定する方針を明確にした。

一方、政権の看板政策である「新しい資本主義」の主役は地方だと強調したうえで、デジタルの力を活用することで、地方活性化を進め、地方から全体へボトムアップの成長を実現する考えを強調した。

この新しい資本主義については、具体的な政策をはじめ、いつまでに実現するのかが、わかりにくい。国会の論戦を通じて、構想をさらに具体化したり、肉付けしたりして、岸田カラーを鮮明に打ち出せるかが課題だ。

一方、メディアの世論調査で、岸田政権の支持率は高い水準を維持している。これは感染状況が落ち着いていることと、オミクロン株対応で水際対策を早めに打ち出したことが評価されているものとみられる。

但し、この高い支持率も岸田政権の具体的な実績が評価されたわけではない。オミクロン株対策も含めた感染第6波の抑え込みと、経済の立て直しを軌道に乗せることができるかどうか、これからの「実行力」にかかっているのではないか。

 野党 入国規制や10万円給付方法

野党側は、オミクロン株の水際対策の具体的な進め方や、国土交通省が国際線の予約を全面的に停止するよう要請した後、撤回した経緯などについて、岸田政権の対応を質す方針だ。

一方、生活支援の眼玉政策である18歳以下への10万円相当の給付については、現金とクーポンに分けることで事務的経費が900億円増える問題を追及する構えだ。

また、初当選した議員の提起で議論を呼んでいる、国会議員に毎月100万円支払われる「文書通信交通費」についても国民の理解は得られないとして、日割りでの支給に改めることに加え、使いみちの公開の義務付けを求めることにしている。

さらに、今回の補正予算案の規模は過去最大だが、生活に困っている人たちに給付金が届いているか、事業者への支援も事業の継続に役立つ制度設計にはなっていないのではないかとして、追及する方針だ。

このほか、今回の経済対策の効果について、政府は、今年度と来年度を中心にGDP=国民総生産を実質で5.6%程度押し上げる効果があると試算している。

これに対し、民間のエコノミストの間では、押し上げの効果は、来年度に限れば1%から2%程度という見方が示されており、こうした経済効果についても詰めた議論を要望しておきたい。

 党首対決の論戦 新たな議論の姿を

さて、国会の論戦は、岸田首相の所信表明演説を受けて、8日から3日間各党の代表質問に続いて、13日からは衆参の予算委員会に舞台を移して、1問1答形式の詰めた議論が戦わされる見通しだ。

一連の論戦では、野党第1党の立憲民主党は、泉代表や西村智奈美幹事長らの幹部をはじめ、第3極として躍進した日本維新の会も馬場共同代表らの新執行部、さらに各党幹部も岸田首相と論戦を挑むことにしている。

このうち、岸田首相と、立憲民主党の泉代表論戦は、初めての党首対決になる。岸田首相は「自らの特技は、人の話をよくきくことだ」と「聞く力」をアピールしてきた。対する泉代表は「批判ばかりからの脱却」を訴え、政策立案型の政党をめざしている。

岸田首相の演説を聞いた泉代表は記者団に「論戦しがいのある演説だったと思う」と感想をのべている。果たしてどんな論戦になるのか、個人的に大きな関心を持っている。

今年を締めくくる師走国会、会期は16日間と短いが、半年ぶりの本格的な論戦の舞台になる。コロナ感染第6波の備えをどうするか、コロナ後の経済・社会の構想と道筋をどのように描くか、国民が納得のいく新たな論戦の姿を、是非見せてもらいたい。                         (了)

 

 

 

”泉 立憲民主党”が問われる点

野党第1党・立憲民主党の「新しい顔」に泉健太氏が選ばれた。立憲民主党の代表選挙は30日投開票が行われ、1回目の投票で4人の候補者がいずれも過半数を獲得できず、上位2人による決選投票の結果、泉健太政務調査会長が、逢坂元首相補佐官を抑えて新しい代表に選出された。

泉代表は就任後、最初の記者会見で「根本は、国民に何を届けるかが大事で、国民への発信を強めていきたい」とのべ、自民党と対抗するだけでなく、政策立案型の新たな党運営をめざす考えを表明した。

泉氏の知名度は高いとは言えないが、衆院京都3区選出の当選8回で、47歳。2001年の衆院選挙で、当時の民主党から立候補して29歳で初当選した。その後、国民民主党の国会対策委員長などを歴任、去年9月に立憲民主党との合流に参加し、代表選挙にも立候補した経験もある。

泉氏が選出された背景としては、4人の候補者の中では40代で最も若いことに加えて、政治的には中道に位置することから、来年夏の参院選を控えて、党のイメージの刷新と新たな支持層を拡大して欲しいという党内の期待を集めたことが挙げられる。

こうした一方で、泉代表の前途には、多くの難問が待ち受けている。岸田政権は、コロナ対策などを盛り込んだ大型補正予算案を編成し、早期成立をめざしている。泉代表は、こうした巨大与党にどのように対峙していくのか、野党第1党の立て直しに何が問われているのか探ってみたい。

 国会論戦で存在感、支持率回復は

泉新代表は、さっそく幹事長をはじめとする党役員人事に着手することになるが、代表選に立候補した逢坂、小川、西村の3氏を主要ポストに起用するとともに党役員の半数に女性を充てたい考えだ。その新体制が発足早々、直面するのが4日に召集される臨時国会への対応だ。

岸田政権は、コロナ対策などを盛り込んだ35兆円という過去最大の補正予算案を提出し、岸田首相の所信表明演説と各党の代表質問が行われた後、衆参両院で予算委員会が開かれる。

岸田政権が10月4日に発足して2か月になるが、衆院解散・総選挙が行われたこともあって、衆参両院の予算委員会で本格的な論戦が行われるのは、今回が初めてだ。岸田首相と、泉新代表との直接対決の論戦も交わされる見通しだ。

立憲民主党は2017年の衆院選挙の直前に、当時の新党・希望の党から排除された枝野氏が中心になって結党され、選挙で躍進。その後、去年9月には国民民主党などと合流、ようやく衆院で100人を上回る野党第1党にまで党勢を拡大した。

しかし、この間、政党支持率が10%に乗ったのは数えるほどで、ほとんどが8%から6%の1ケタ台で、30%台の自民党に大差をつけられてきた。

国会の論戦や新代表の発信力などを通じて、政党支持率をかつての野党第1党並みの2ケタ台まで回復し、存在感を発揮できるかどうか、泉新代表が最初に問われる点だ。

 重点政策、コロナ収束後の構想提示を

新代表が問われる2つ目としては、党の重点政策をはっきりさせるとともに、何をめざす政党かの旗印を明確に打ち出すことが不可欠だ。

今回の代表選挙で4人の候補者ともに「どのような社会を目指すのか」、「コロナ対策や、経済の立て直し策」、「共産党などとの野党共闘」のあり方など幅広い課題について議論を交わした。

但し、多くの国民にとって、興味を持つような議論にはならなかったのではないか。立憲民主党が衆院選の期間中に配布していた「政策パンフレット」と同じレベルに止まっているという印象を受けた。

国民は「コロナ収束後にどのような社会をめざしているのか」大きなビジョン、構想を明らかにして欲しいと感じている。また、感染の抑え込みを始め、生活困窮者や打撃を受けている事業者の立て直し策として何をやるのか、知りたい点だ。

ところが、自民、公明両党の政権とはここが違うという具体的な政策や、わかりやすい説明ができていなかった。このため、政権の受け皿としても認められていなかった点に根本的な問題があったのではないか。

また、共産党と閣外協力で合意した問題についても比例代表選挙への影響はあったと思うが、根本の問題は、それ以前の問題、政権交代を目指すための客観的な条件が整っていなかったとみる。

具体的に言えば、国民の多くは政権交代を望んでいなかった点を読み間違っていたのではないか。野党共闘の問題は、政治状況や政権交代の道筋まで踏み込んで議論しないと、問題の核心に迫ることはできないと考える。

 参院選へ野党結集の構想と道筋を

3つ目に問われている点は、来年夏の参院選挙への対応だ。岸田政権は、衆院選に続いて、参院選でも勝利すれば長期政権も視野に入る。これに対し、野党側は、自公政権を過半数割れに追い込む構えで、来年の最大の政治決戦になる。

参院選の焦点は、当選者1人を選ぶ1人区の攻防で、全国で32選挙区にのぼる。野党側がバラバラに候補者を擁立すれば、自民党の1人勝ち、いわゆる消化試合になってしまうので、これまでも候補者調整が行われてきた。

この1人区の戦い方がどうなるか。今回の代表選でも候補者4人とも「1対1の構図は維持したい」とする一方、共産党との閣外からの協力といった合意については、見直す考えを示していた。

今回の衆院選挙で枝野前代表らの対応を見ていると「共産党とは連立を組みたくないが、票は欲しい」というのが本音ではなかったか。このため、政権構想として位置付けているのか、選挙戦術の延長なのか、敢えて曖昧にしていた点に大きな問題があったとみる。

国民の側からみていると、参院選に向けて野党結集の構想と道筋を明らかにすることが野党第1党の役割だ。そして、野党各党や各種団体、国民に説明して、理解を求めるのが本来のあり方ではないか。共産党と連合の間で、右往左往、ヤジロベエのように揺れ動く対応は止めた方がいいと考える。

先の衆院選挙を経て、政界の構図は、自民・公明の政権与党と、野党第1党の立憲民主党や共産党、社民党、れいわ新選組などの勢力、それに日本維新の会が第3極をめざして国民民主党と連携を深めようとしているようにみえる。

こうした構図の中で、野党第1党はどのような役割を果たすのか、参院選にむけて、野党各党の構想、野党結集の枠組みや道筋はどうなるのか。野党第1党の新代表は、早急に基本的な考え方を明らかにすることが必要ではないか。

新たな変異株「オミクロン株」の感染が世界各国へ広がり始めた。日本としては、第6波への備えや、経済・暮らしの立て直しも早急に進める必要がある。そのためにも国会を早期に開いて、政権与党と野党側が新体制できちんとした論戦を行い、緊張感のある政治を取り戻すことが急務だ。       (了)

※参考情報(追記:12月1日21時半)泉代表は、立憲民主党の役員人事について、代表選挙で争った◇西村智奈美氏を幹事長に、◇逢坂氏を代表代行に、◇小川氏を政務調査会長に、それぞれ起用する意向を明らかにした。

また、◇国会対策委員長には馬淵澄夫氏、◇選挙対策委員長に大西健介氏を起用する方針。

この人事案は、2日の両院議員総会に示され、了承される見通し。

※立憲民主党は2日、両院議員総会を開き、泉代表が示した人事案を了承し、新たな執行部が発足した。泉代表は記者会見で「国民のために働く政策立案型」を執行部のカラーとして打ち出したい」とのべた。(追記:12月4日午前11時55分)

 

 

 

立民代表選 立て直しへ道筋描けるか

”野党第1党の顔”に誰が選ばれるのか。立憲民主党の代表選挙が19日告示され、4人が立候補して選挙戦が始まった。

立候補したのは、届け出順に逢坂誠二・元首相補佐官、小川淳也・国会対策副委員長、泉健太・政務調査会長、西村智奈美・元厚生労働副大臣の4人だ。届け出の後、さっそく午後から共同記者会見に臨んだ。

4氏はいずれも民主党政権時代には、閣僚や党幹部の経験がなく、知名度も高くないため、国民の関心を高めることができるかどうか、不安視する声も聞かれる。

来年夏の参議院選挙を控えて、自民・公明両党の岸田政権にどのように対峙していくのか、党の態勢立て直しへ道筋を描くことができるのかどうか、代表選の焦点を探ってみた。

 記者会見で論戦、党勢立て直し策

立憲民主党の代表選挙は19日、立候補の届け出が終わった後、4氏がそろって共同記者会見に臨み、論戦が始まった。各候補は、先の衆院選で議席を減らした党勢の立て直しについて、それぞれ次のような考え方を明らかにした。

◆逢坂氏は「単に理念や理屈、政策を述べるだけでなく、具体的な地域課題を解決し、その結果を積み上げていくことで党勢を拡大していきたい」とのべ、地域課題の取り組みを強化したいという考えを示した。

◆小川氏は「野党には2つの仕事があり、政権を厳しく批判的な立場から検証すること、政権の受け皿として国民に認知されることがあるが、後者が十分ではなかった」とのべ、党の期待感や魅力を増す必要性を強調した。

◆泉氏は「先の衆院選では、比例代表選挙での投票を呼びかける運動が欠けていた。また、消費税率の引き下げや分配政策を打ち出す時期が遅れた」として、党の政策などを早期に提示する必要があることを訴えた。

◆西村氏は「地方組織をしっかり作っていくことが課題だ。また、立憲民主党がどういう社会をめざしているのか、有権者に届いていなかったのではないか」とのべ、党がめざす社会像を明確に打ち出していくべきだという考えを強調した。

記者団からは、来年の参議院選挙に向けて、共産党などとの野党連携を維持するかどうかや、他の野党との連携の軸足の置き方について、質問が集中した。

これに対して、4氏は「先の衆院選挙では、選挙区で1対1の構図を作ることができたところは、成果があった」。

「参議院の1人区で、野党候補が数多く立候補すれば、野党が不利になるので、できるだけ1対1の構図を作りたい」などの意見が出され、参議院の1人区では野党候補の1本化をめざすべきだという考えをそろって示した。

各候補とも巨大与党に対抗するために、参議院選挙でも共産党などとの野党共闘は維持すべきだという基本的な考え方では一致していたが、具体的な連携の形や重点の置き方などについては、踏み込んだ議論までには至らなかった。

 選挙情勢は混戦、決選投票も

次に代表選挙の情勢だが、投票は党所属の衆参議員と公認候補予定者、地方自治体議員、一般党員・サポーターの得票をポイントに換算して争われる。

具体的には、衆参議員は140人で、1人2ポイント。公認候補予定者6人で、1人1ポイントで、合わせて286ポイント。

この半分の143ポイントずつが、自治体議員1270人と、およそ10万人の一般党員・サポーターに割り当てられる。得票数に応じて、各候補にポイントが配分される。

過半数に達しない場合は、上位2人の決選投票になる。今回は、候補者が4人も立候補し、抜きんでた本命がいないため、混戦は避けられず、決選投票の可能性が高いという見方が強い。

国会議員は140人のうち、既に90人が4候補の推薦人になっているため、残り50人と少ないことから、自治体議員と党員・サポーターの地方票が、選挙情勢を大きく左右することになりそうだ。

このため、各候補とも党の態勢の立て直しに向けて、どのような具体的な取り組み方や構想を打ち出していくのか、知恵を絞ることになる。

一方、野党陣営では、先の衆院選で議席を大幅に増やした日本維新の会と、同じく議席を増やした国民民主党が連携を深めようとしている。野党第1党の代表として野党全体をまとめていくだけの力量・能力があるのか、選挙戦を通じて厳しく評価されることになる。

代表選挙の今後の日程は、22日に日本記者クラブ主催の候補者討論会が開かれる。札幌、福岡、横浜で街頭演説も行われ、30日の臨時党大会で投開票が行われる。

果たして、誰が野党第1党の新しい顔になるのか。来月6日に召集される臨時国会の論戦に立つことになる。

 

立民代表選の争点、何が問われる選挙か

野党第1党・立憲民主党の代表選挙が19日告示され、30日の投開票に向けて選挙戦が始まる。

今回の代表選は、先の衆院選で議席を減らした責任をとって辞任した枝野前代表の後任を選ぶもので、国会議員だけでなく、地方議員や党員なども参加して行われる。

野党の代表選挙は、与党の総裁選と違って政権に直結しないため、国民の関心は必ずしも高くはないが、政治に緊張感をもたらすためにはどんな野党になるのか、特に第1党のあり方は、国民にとっても大きな意味を持つ。

今回の代表選は、枝野前代表が打ち出した共産党などとの共闘路線の是非が大きな焦点になるとの見方が強いが、どうだろうか。

私個人は、野党共闘の問題もあるが、それ以前に野党第1党としての役割の認識や、その役割を果たすための党の態勢の立て直し、戦略の構築こそが問われているのではないかと考える。

野党共闘の問題は、新代表の下に検討委員会を設けて結論を出す方法もあるのではないか。

来年夏には参議院選挙が行われる。どんな野党第1党をめざすのか、政権構想や重点政策を明確にしたうえで、野党共闘のあり方などを決めていくのが本筋ではないかと考える。こうした理由や背景などについて以下、説明していきたい。

 小選挙区と比例で異なる効果

まず、先の衆院選挙の結果を確認しておきたい。自民党は選挙前より議席を減らしたものの、絶対安定多数の261議席を確保、公明党の32議席と合わせて293議席を獲得したので、勝利したといえる。

一方、立憲民主党は96議席で、選挙前の110議席から14議席減らし敗北した。共産党は10議席で2議席減らした。これに対し、日本維新の会は前回より4倍近い41議席を獲得して躍進、国民民主党も3議席多い11議席を獲得した。

このうち、立憲民主党の議席の内訳だが、小選挙区では、選挙前の48議席から9議席増やして57議席を獲得したのに対し、比例代表では62議席から39議席へ23議席も減らした。

小選挙区では、1万票差以内の接戦となった選挙区がおよそ30にも上ったことを考えると善戦健闘、野党候補1本化の共闘は一定の成果を上げたとも言える。

比例代表では、立憲民主党は前回からわずかに多い1100万票に止まった。これに対し、日本維新の会は800万票で、前回より460万票余りも増やし、国民民主党も新たに260万票近い得票、「れいわ」も220万票を獲得した。

こうした票の流れは前回、野党第1党も合流して結成された旧「希望の党」が集めた960万票が立憲民主党には向かわず、維新、国民、れいわ3党に回ったとみることもできる。

このため、立憲民主党が比例代表で議席を大幅に減らしたのは、共産党との共闘路線を有権者が警戒して、立憲民主党以外の政党に投票したためではないかという見方も出されている。

このように比例代表選挙と小選挙区とで、野党共闘の効果は分かれている。

 野党のあり方、旗印や存在感に弱さ

それでは、国民は、野党第1党の立憲民主党をどのように評価しているのか、報道各社の世論調査のデータでみてみたい。

報道各社の調査で、自民党の支持率は30%台後半の水準にあるのに対して、立憲民主党の支持率は、5~6%台、1ケタの水準で共通している。

また、年代別に見ると10代から30代では、自民党が4割から30%台後半で高いのに対して、立憲民主党はその10分の1,1ケタ台と低い。働く世代40代、50代でも大きく水をあけられている。60代、70歳以上の高齢世代でようやく10%台に達するが、それでも自民党との差は大きい。

さらに比例代表選挙の投票予定先でも、自民党がおよそ30%に対して、立憲民主党は11%台と3分の1に止まっていた。望ましい選挙結果についても「与党と野党の逆転」は11%程度に対し、「与党と野党の勢力伯仲」が49%で最も多かった。(10月23,24日共同通信調査)

枝野前代表は「政権選択選挙」と位置づけ、共産党とは「閣外からの協力」に止めているとのべたが、与野党の勢力が逆転した場合、政権の枠組みなどはどうなるのか、詳しく説明する場面もなかった。

このため、有権者の側は、野党共闘や政権交代を訴えられても「現実的な選択肢」として受け止める人は少なかったのではないか。

また、「立憲民主党は何をする政党か、自民党とどこが違うのかの旗印がわからない」。「自民党政権はコロナ対策で、失敗と後手の対応が続いたが、野党の存在感も感じられない」といった声も数多く聞いた。

こうした国民の評価を基に考えると、立憲民主党が衆院選で議席を減らしたのは、野党共闘というレベルの問題ではなく、何をめざす政党か、構想や重点政策も理解されておらず、政権の受け皿として認められるまで至っていない点を認識する必要があるのではないかと考える。

 魅力ある野党、新風を巻き起こせるか

今回、自民党は絶対安定多数を維持したが、何とか接戦をしのいで議席を守り抜いた「薄氷の勝利」というのが実態だ。

一方、有権者の側は「魅力のある野党や新党ができれば、支持する」「野党第1党は、政界に新風も巻き起こし、政治に緊張感を取り戻す役割」を果たしてほしいという期待は根強いものがある。

このため、立憲民主党が求められているのは「代表の顔」を顔を変えるだけでなく、◆立憲民主党は何をする政党なのかの旗印、政権構想を明確にすること。◆コロナ激変時代に取り組む重点政策。子育て、教育、雇用、知識集約型産業といった、自民党とは異なる重点政策をはっきりさせる必要があるのではないか。

そのうえで、◆来年夏の参議院選挙を野党第1党として、野党結集を進めていく具体的な道筋を明らかにすることが重要ではないか。参院選の1人区は、野党ができるだけまとまって戦わないと、政権与党側の1人勝ちになる公算が大きい。

◆共産党など野党共闘のあり方は、新しい代表の下に政権構想委員会といった組織を設けて、検討していくことも1つの方法ではないかと考える。

代表選挙の告示が近づいているが、立候補を検討しているのは、◆泉健太・政務調査会長、◆大串博志・役員室長、◆小川淳也・国会対策副委員長、◆西村智奈美・元厚生労働副大臣の4人だ。

いずれも中堅の顔ぶれだが、単に代表の顔が若返るだけでなく、コロナ激変時代の新たな構想や重点政策、それに自民党に対抗できる、もう1つの大きな政治の軸を打ち出せるような代表選挙をみせてもらいたい。

第2次岸田政権の前途をどう読むか

先の衆院選挙を受けて、特別国会が10日召集され、首相指名選挙などを経て、第2次岸田政権が再スタートした。

岸田首相は10日夜の記者会見で「総選挙で、岸田政権に我が国のかじ取りを担うようにとの民意が示された。政治空白は一刻も許されず、最大限のスピードで政策を実行に移す」と強い意欲を示した。

岸田自民党は、苦戦が予想された衆院選の接戦をしのぎ、自民党単独で安定多数の261議席を獲得した。公明党の32議席を合わせると与党で300近い議席を確保して、再出発することになった。

岸田政権は、果たして安定した政権運営が可能なのか、それとも短命政権で終わる可能性はあるのか、そのカギは何かを探ってみたい。

 内閣支持率上昇、小渕元首相型も

まず、衆院選後、最初の世論調査のデータから見ていきたい。朝日新聞の調査(11月6,7日)では、岸田内閣の支持率は、投票日5日前の調査に比べて、4ポイント高い45%、不支持率は1ポイント高い27%だった。

NHKの調査(11月5~7日)でも内閣支持率は、投票日前1週間前の調査に比べて、5ポイント上がって53%、不支持は2ポイント下がって25%だった。10月4日の第1次内閣発足直後49%からも、支持率は4ポイント上昇したことになる。

支持率上昇は、衆院選挙で安定多数を確保して、勝利したことの影響が大きい。自民党の歴代政権で安倍政権は、高い支持率を長期間、維持したが、それ以外の多くの政権は発足時は高いものの、下落するケースがほとんどだった。

そうした中で、90年代後半に政権を担った小渕元首相は最初は低空飛行だったが、経済対策などに地道に取り組み、次第に支持を高めていった。岸田首相もここまでの支持率をみていると、小渕元首相型の展開になる可能性もある。

但し、岸田政権の支持率上昇は、政権の実績が評価されたわけではない。衆院選挙最優先で選挙を急いだ結果、重要政策として掲げる政策のほとんどは具体化しておらず、岸田政権の真価が問われるのは、これからだ。

当面、乗り越えなければいけないハードルとして、3つ大きな課題がある。そのハードル・課題を具体的にみていきたい。

 コロナ対策、医療の備えと実行力

第1のハードルは「新型コロナ対策」を早期に実行し、成果を上げることができるかだ。この優先課題を処理できないと、菅政権と同じように出だしから国民の支持を失うことになるだろう。

岸田政権は「コロナ対策の全体像」を12日に明らかにする予定だ。その中身に触れる前に岸田政権は、政府のこれまでのコロナ対応の総括をきちんと行う必要があると考える。

安倍政権と菅政権は、コロナ対策について、まとまった検証・総括を一度も行ってこなかった。国会では、感染が落ち着いた段階で考えたいとの答弁はしたが、実行されず、同じ失敗の繰り返し、後手の対応と国民の眼には映った。

それだけに岸田政権としては、政府対応の問題点を率直に認め、そのうえで、今後の具体策を打ち出せば、政権の信頼性も高まるのではないか。

幸い、コロナ感染は潮が引くように急激に減少している。この感染が落ち着いている時期の対応が極めて重要だ。冬場に第6波の感染が到来しても対応できる医療提供体制の備えを早急に進める必要がある。

また、ワクチン接種や経口薬の実用化などを強力に推進すること。さらに、安倍政権、菅政権では、総理官邸の司令塔機能が働かなかった。この点をどのように改めていくのか。具体策を示して、早急に実行に移すスピード感も問われる。

 経済・暮らし対策 具体策は

第2のハードルは「経済・暮らし対策」で具体策を打ち出せるかどうかだ。

岸田首相は、新型コロナの影響を受けた人たちへの現金給付をはじめとする、数十兆円規模の新たな経済対策を19日に取りまとめるとともに、大型の補正予算案を今月中に編成する方針だ。

また、看板政策である「新しい資本主主義」について、有識者などで構成する実現会議の緊急提言をとりまとめ、新たな経済対策や補正予算案、さらには新年度の当初予算案に盛り込みたい考えだ。

自民党長老に岸田政権の看板政策について聞くと「国会の演説を聞いても、”お経”が長すぎて、肝心の”功徳、ご利益”が国民にわかりにくい。何をやるのかはっきりさせないと、民心は政権から離れしまう」と指摘する。

この長老の指摘するように「成長と分配の好循環」「格差是正」「給与の引き上げ」などを強調するが、どんな方法でいつまでに実現するのかはっきりしない。

また、安倍政権や菅政権の経済政策とどこが違うのか。さらに、短期間のうちに一定の成果を上げないと、国民は看板政策への関心も示さなくなる可能性もある。

このため、岸田首相が、看板政策の実現までの具体的な道筋を描き、国民を説得しながら成果を上げることができるかどうか、年末までが勝負だとみる。

 党内政局、主導権を確保できるか

3つ目は、岸田首相が政権運営で主導権を発揮できるかどうか、党内政局への対応の問題もある。

自民党内を俯瞰すると菅前首相の退陣に伴って、幹事長を続けてきた二階氏も表舞台から去り、代わって安倍前首相と麻生副総裁の存在感が増している。

このため、岸田首相としては、安倍、麻生両氏との良好な関係を維持しながら、岸田色を発揮する余地を広げることに腐心しているようにみえる。

党の要の幹事長には、安倍、麻生両氏と関係の深い甘利氏を起用したが、衆院選の小選挙区で敗北し、わずか1か月で辞任に追い込まれた。後任に茂木外相を充て、党の態勢立て直しに懸命だ。

茂木氏も安倍、麻生氏との関係は良好と言われるが、安倍氏と関係が深い細田派からではなく、竹下派から起用した。

また、茂木氏の後任の外相には、林芳正・元文科相を起用した。安倍、林の両氏は先代の時から地元・山口でライバル関係にあり、こうした一連の人事から、岸田首相と、安倍前首相の微妙な関係を指摘する声も聞く。

その最大派閥の細田派は、細田会長が衆院議長就任したことに伴い、安倍前首相が派閥に復帰して、後任の会長に就任する見通しだ。安倍氏は最大派閥のトップとして、主要な政策や政局の節目で影響力を行使しようとするのではないかとの見方も出ている。

さらに、菅前首相や二階前幹事長、それに総裁選で敗れた河野太郎氏らが、今後、岸田首相とどのように向き合うのかにも党内の関心を集めている。

このように自民党内では、派閥の勢力や有力者の力関係の変動が続いており、岸田首相が主導権を発揮できるのかどうか、これからの焦点になっている。

その岸田首相は第4派閥の領袖だが、今後の政権運営はどうなるか。総裁選や衆院選を戦い、勝利を収めたことで、当面の政権運営に当たって大きな支障はなく、来年夏の参院選挙までは比較的安定した政権運営が続く可能性が大きいとみている。

但し、岸田政権の政権運営に陰りが生じると党内からの批判や風当たりが一気に強まることも予想される。一方、野党第1党の立憲民主党の代表選の結果によって、与野党の関係も変わる可能性があり、野党の動きもみていく必要がある。

いずれにしても岸田政権にとって、来年夏の参議院選挙が最大のハードルになる。参院選に勝てば、衆院選に続いての勝利で、長期安定政権への展望が開けるが、議席を減らすと短命で幕を閉じる可能性もある。

来年夏の参院選までに「政権の実績」を上げることができるか。そのためには、特に国民の関心が高いコロナ対策や経済政策で、年末までに具体的な成果上げることができるかどうか、大きなカギを握っていると言えそうだ。

 

衆院選”自民勝利、立民敗北”の背景

コロナ禍の短期決戦となった第49回衆議院選挙は、自民党が選挙前からの議席を減らしたものの、単独過半数を大きく上回る261の絶対安定多数の議席を獲得して、事実上の”勝利”を収めた。

これに対して、野党第1党の立憲民主党は、選挙前を下回る96議席にとどまり、”敗北”した。一方、日本維新の会は、選挙前の4倍近い議席を獲得し、第3党に躍進するなど国会の新しい勢力分野が確定した。

メディア各社の情勢調査や投開票当日の予測報道でも、自民党の獲得議席は単独で過半数ギリギリか、下回るのではないかとの見方が多かった。これに対し、朝日新聞は、単独で過半数を大きく上回る見通しを示し、選挙結果に最も近い予測をした。

当ブログも自民党は単独過半数をやや上回る「236議席をベースに上下20程度の幅」になるのではないかと予測した。結果は「絶対安定多数」の261議席となり、上限を上回り、予測が外れたことになる。

個別選挙区の積み上げの検証はまだ行えていないが、予測が外れた理由や背景にどういった事情があるのか、与野党の関係者の取材を基に報告しておきたい。

(メディアの予測については、前号・10月27日「衆院決戦 勝敗予測のカギは?」。関心のある方は、この号の後に掲載しています。ご覧ください)

 野党共闘 無党派層へ広がりの限界

自民党が過半数を大きく上回る議席を獲得できた理由は何か、選挙に詳しい自民党幹部に聞いてみた。

この幹部は「自民党の若手議員は危機感を強め、後援会を中心に必死で支持固めに動いたこともあるが、野党共闘が、野党候補の支持拡大につながらなかったことに助けられた側面が大きかった」と指摘する。

具体的にどういうことか。「野党共闘と言っても例えば、立憲民主党の候補者に1本化された場合、立憲民主党と共産党の支持層に限られていたのが実態だった。無党派層への支持拡大につながらなかったので、自民党候補が競り勝つ選挙区が多かった」と分析している。

立憲民主党関係者に聞いても「野党共闘は、野党陣営の分裂を防ぎ、自民党と競り合う構図にまで持ち込めた効果は大きい」と強調したうえで、「有権者の反応を見ると、共産党との共闘に抵抗感を持ち、無党派層の中から支持離れが出たことも事実だ」と認める。

読売新聞の出口調査で、比例代表の投票先のデータをみると、立民24%、自民21%、維新19%などに分かれている。前回の選挙では、立民30%、維新が9%だったという。前回と比較すると立民は最多だが支持の比率が下がり、維新は大幅に伸ばしている。

今回、立憲民主党は、共産党などの野党と213の選挙区で候補者を1本化し、激戦や接戦に持ち込んだが、勝利したのは59選挙区で、勝率は3割に達しなかった。

これに対し、与党側はおよそ65%にあたる138の選挙区で議席を獲得した。今回の野党共闘には限界がみられ、自民・公明の与党側の地力が勝ったと言えそうだ。

 コロナ感染収束 首相交代効果も

以上は、選挙の戦い方の面から分析したものだが、自民党が議席を増やした背景としては、選挙を取り巻く状況なども影響した。

1つは、「コロナ収束効果」。選挙戦が進むにつれて、新型コロナの新規感染者が急速に減少した。その結果、これまでの政府のコロナ対策の失敗よりも、これからの感染抑制や暮らし・経済の立て直しに有権者の関心が移ったことも、政権与党側に有利に働いた。

もう1つは、「首相交代、政権のイメージチェンジ効果」も大きかったのではないか。安倍・菅政権では、野党をいわば敵方に設定して対決していく手法が目立った。

これに対して、岸田首相は「聞く力」を強調し、安倍政権や菅政権とは異なる政権運営を強調し、与党内の疑似政権交代を印象付けようとするねらいがあったものとみられる。こうした政治姿勢が、一定の期待感を持たせる効果を生んでいる。

さらに、冒頭に触れた「野党共闘の限界」を加えた3つの要因が、今回の自民議席増をもたらしたとみている。メディアの側の情勢調査や世論調査、議席予測の改善点などについては、今後材料を集め、改めて報告したいと考えている。

 問われる与野党 新しい政治・国会を

今回の選挙を受けて、政界にさまざまな動きが続いている。自民党では、甘利幹事長が小選挙区で敗れた責任をとって辞任し、後任に茂木外相が就任することが1日固まった。岸田政権にとって、政権発足からわずか1か月で、党の要の交代は痛手だ。

一方、立憲民主党は、政権交代を訴えたが、結果は選挙前の109議席を下回る96議席に止まり、党内から執行部の責任を問う声が出ている。枝野代表は、2日の党役員会までには何らかの考え方を示したいとしており、党の態勢の立て直しを迫られることになりそうだ。

このほか、立憲民主党などの野党側と距離を置く日本維新の会は、選挙前議席の11から41議席を獲得し第3党へ躍進した。第3極をめざして、国会で独自色を強めていくものとみられる。

国民の側は、与野党双方に対して、コロナ対策をはじめ、暮らしと経済の立て直し、さらに外交・安全保障をどのように進めていくのか、明らかにして欲しいという期待が強い。与野党が議論を深め、新しい政治・国会論戦の姿を示すことが問われている。

来年夏には、参議院選挙が控えている。次の国政選挙にどう備えるのか、今回の衆院選挙の結果を分析して、それぞれの政策や政権構想の打ち出し方や、政党間の選挙協力のあり方などについても検討を行い、政治の信頼回復に取り組んでもらいたい。