“一山越えても続く難関”石破政権

新年度予算の修正案は衆議院本会議で、少数与党の自民・公明両党と日本維新の会の賛成多数で可決され、参議院へ送られた。政府の当初予算案が修正されるのは、橋本内閣以来29年ぶりだ。

予算案の衆院通過で予算案の成立が確実になり、石破政権にとっては通常国会の最初の難関を越えたことになる。但し、与党側がめざした野党側との協力関係は思うようには進まなかった。

”一山越えても二山、三山”とこの通常国会では多くの関門が待ち構えている。これまでの対応を点検したうえで、これからの関門や石破政権のゆくえを探ってみたい。

 予算修正は維新が協力、薄氷の合意

去年の衆院選で30年ぶりの少数与党の立場になった石破首相は1月24日、通常国会の施政方針演説で「党派を超えた合意形成を図る」として、国民民主党や日本維新の会を念頭に野党の協力を取りつけ、新年度予算案の早期成立をめざす考えを表明した。

これを受けて自民・公明の与党側は、国民民主とは「年収103万円の壁」の見直しを進める一方、維新とは「高校授業料の無償化」に向けて政策協議を重ねてきた。しかし、国民民主とは合意に至らず、最終的には維新との間で予算案の修正で合意するとともに予算案の可決にこぎ着けた。

国民民主との間では去年の11月から3か月も政策協議を続けながら、なぜ、合意できなかったのか。一方、維新との間では今後も安定した協力関係が見込めるかどうかがポイントになる。

まず、国民民主との「年収103万円の壁」の見直しが不調に終わったのは、財源の問題と夏の参院選戦略との関係が影響したのではないかとみている。

国民民主党は、所得税の課税最低限を178万円まで引き上げるよう求めたのに対し、与党は側は123万円への引き上げを決めたが、国民民主は納得しなかった。このため、自民党は年収500万円以下まで非課税枠を拡大する案を提案したが、一蹴された。

事態打開のため、公明党が主導する形で、非課税枠を上乗せする年収の範囲を850万円まで拡大するとともに課税最低限を160万円まで引き上げる新たな案を提案した。これに対し国民民主は受け入れず、予算修正協議は最終的に物別れに終わった。

国民民主からすると年収の上限の160万円までの引き上げは一定の評価ができる一方、上乗せする対象となる年収850万円までの範囲に4段階の差をつけているのは不公平だとして、受け入れなかった。

協議が不調に終わった原因だが、当初の与党案の財源はおよそ6000億円だったが、公明案ではさらに6000億円積み増し、計1兆2000億円まで増やした。それ以上の上積みとなると国債の新規発行が必要になるとして、国民民主の要求を受け入れなかった。

一方、国民民主としては夏の参院選を控えて、年収の差を設けると不公平だとして、有権者の支持を失うおそれがあるため、与党案を受け入れない判断をしたものとみられる。

一方、維新は党の執行部の交代もあり、国民民主より後から、与党との協議を始めたが、前原共同代表が同じ防衛関係議員で旧知の石破首相に協力を求めた。また、前原氏の要請で前執行部の遠藤敬・前国対委員長が与党側との調整に当たったことから、協議が急ピッチで進んだとされる。

維新内部では、高校授業料の無償化の進め方などをめぐって異論が出され、党内の合意が危ぶまれる場面もみられたが、高校授業料の無償化のための具体策と、政府予算案の修正に賛成することで党内合意をとりつけた。

与党の執行部としては、国民民主と維新とを両天秤にかけながら両党との協力取りつけをめざしたが、最終的には維新1党だけの協力に止まった。その維新は党内の足並みがそろっているわけではないので、薄氷の合意とも言えそうだ。

このほか、今回は与野党双方から「熟議の国会」を強調する声が高まり、予算案の修正をめぐって政策協議の過程が透明化されたのは一歩前進だろう。

一方で、政策協議というものの、予算修正の額高をめぐる駆け引きが延々と続き、社会保障の将来の姿や負担のあり方、教育の向上策など掘り下げた議論はほとんど見られなかった。

また、トランプ政権の再登場で国際情勢や、関税などの経済情勢が大きく揺らいでいる中で、日本の外交・安全保障、経済政策などをめぐる突っ込んだ議論がなされなかったのは極めて残念だ。「熟議の国会」を標榜するのであれば、問題の核心にまで踏み込んだ議論を展開してもらいたい。

企業献金など続く難関、最後は参院選か

さて、今後の国会はどのような展開になるだろうか。当面の焦点は、企業団体献金の扱いについて、与野党は3月末までに結論を出すことになっており、近く衆議院の特別委員会で、法案の審議が始まる見通しだ。

企業団体献金をめぐっては、自民党は「献金の禁止よりも公開が重要だ」として企業献金の透明性を高める法案を提出している。これに対して、立憲民主党など野党側は、自民党案は透明性が極めて低いと批判するとともに、企業団体献金の禁止を求める法案を提出している。

そして野党側のうち、維新は企業献金の禁止を強く求めていく方針なのに対し、国民民主は全面禁止に慎重な立場だ。自民党は国民民主の協力に期待を寄せているが、予算修正の時と比べると維新と国民民主の立ち位置が逆になっている。

一方、野党第1党の立憲民主党は、自民党旧安倍派の会計責任者の参考人聴取を受けて、旧安倍派幹部の塩谷、下村、西村、世耕4氏の参考人招致を求めている。会計責任者は、安倍派の資金還流は「元幹部議員からの要請があり、幹部議員の会合で再開が決まった」と説明、幹部議員の政倫審での発言と食い違っている。

与党の公明党は、企業・団体献金の扱いをめぐっては自民党と距離を置いているほか、旧安倍派議員の参考人招致にも前向きな姿勢を示している。参議院選挙を控えて「政治とカネの問題」をめぐって、与野党の対応が再び焦点になる。

次に選択的夫婦別姓制度については、4月から衆議院法務委員会で議論が始まる見通しだ。自民党内では、保守系議員から「旧姓の通称使用の拡大を実現すれば問題点を解決できる」として選択的夫婦別姓に反対しており、党内の意見集約がどこまで進むか不透明な状況だ。

選択的夫婦別姓問題を扱う衆院法務委員会の委員長は、立憲民主党が握っているため、野党ペースで議論が進むことも予想される。会期末が近づくにつれ、この問題は、内閣不信任決議案とも絡んで与野党攻防の争点になりそうだ。

以上、見てきたように新年度予算案の衆院通過で、石破政権にとっては一山越えたのは事実だが、「政治とカネの問題」、選択的夫婦別姓と内閣不信任決議案をめぐる会期末の攻防という難関が待ち受けている。

少数与党の石破政権は、政治課題によって協力相手の野党を変えながら通常国会を乗り越え、夏の参院決戦に臨む方針だ。

これに対して、野党側は与党との個別戦で成果を引き出す対応を取ってきたが、野党が連携して自民党と対峙する場面を作ることができるかどうか、後半国会の見所の一つになりそうだ。(了)

 

 

 

予算成立にメドも、難問続く石破政権

新年度予算案の修正をめぐり、自民・公明両党と日本維新の会の3党は25日、党首会談を開き、教育無償化や社会保険料の負担軽減策などについて、正式に合意した。維新は、新年度予算案に賛成する方針も決めた。

一方、「年収103万円の壁」の見直しをめぐり、国民民主党は、公明党が先に示した非課税枠を上乗せする年収の範囲を拡大する案については、受け入れが難しいとして、引き続き与党側と協議を続けることにしている。

新年度予算案は、維新が予算案に賛成する方針を決めたことから、少数与党の下で、年度内の成立にメドがついたことなる。一方、与党と国民民主党との修正協議は難航しているほか、予算案の衆院通過の時期、参考人聴取などの難問を抱えており、与野党のせめぎ合いが続くことになる。

 与党と維新、予算修正で合意・成立へ

新年度予算案と政策の協議をめぐって、石破政権は国民民主党と、日本維新の会を天秤にかける形で協議を続けてきたが、まずは維新との間で合意にこぎ着けたことになる。

与党と維新の主な合意内容は、◇今年4月から公立高校の授業料を実質的に無償化するため、公立・私立を問わずに支給される年間11万8800円の修学支援金の所得制限を撤廃する。

◇私立高校については、来年2026年4月から所得制限を外し、現行の年最大39万6000円から、全国平均の授業料の45万7000円まで引き上げる。

◇維新が主張する社会保障改革を議論するため、3党による協議体を設置することなどが合意文書に盛り込まれている。

維新は25日、臨時の役員会と両院議員総会を開いて協議した結果、教育無償化などの合意文書を了承するとともに、新年度予算案について賛成する方針を多数決で決めた。

これを受けて自民・公明両党と維新の3党は25日夕方、石破首相、斎藤代表、吉村代表が会談し、合意内容と新年度予算案を成立させることで最終的に合意した。

維新が新年度予算案に賛成する方針を決めたのは、去年の衆議院選挙で議席を減らすなど党勢が低迷し、12月から吉村氏が新代表に就任したことから、今年夏の参院選に向けて実績を示したいねらいがあるものとみられる。

一方、石破首相は少数与党の下で予算案成立は至上命題で、国民民主党との政策協議が停滞したことから、維新との協議の決着を急いだものとみられる。

 国民民主との予算修正協議は難航

「年収103万円の壁」の見直しをめぐる自民・公明両党と国民民主党との協議では、先に公明党が所得税の非課税枠を上乗せする年収の範囲について、自民党案の500万円以下から、850万円まで拡大する新たな案を示した。

これを受けて国民民主党は15日、党の税制調査会の会合を開いて協議した結果、「年収によって非課税枠に差をつけるのは不公平で、受け入れるのは難しい」として、年収区分を撤廃するよう求めていくことを確認した。

また、ガソリン税の暫定税率の廃止時期を明らかにするよう求めていくことになり、党の代表代行を務める古川税制調査会長に一任することを決めた。

会合のあと、古川代表代行は「中間層を含めて幅広く手取りを増やしていくことが大事だ。こちらから協議を打ち切るつもりはない」との考えを示した。

自民党の森山幹事長と公明党の西田幹事長は25日会談し、去年12月に国民民主党を含む3党の幹事長が「178万円をめざす」などと合意した意味は重いとして、ガソリン税の暫定税率廃止を含めて、引き続き丁寧に協議していくことを確認した。

 参考人聴取、修正規模などの難問も

このように石破政権にとっては予算成立のメドは立ったが、野党側と詰める案件は幾つも残っている。

まず、自民党旧安倍派の裏金問題をめぐって、会計責任者の参考人聴取の日程が先送りになっているが、自民党は27日に実施する考えを伝えた。この参考人聴取で、どのような説明が行われるか。これを受けて、今後の裏金問題の実態解明をどのように進めるかが問題になりそうだ。

また、予算修正をめぐって、維新と国民民主との協議が先行する一方で、野党第1党の立憲民主党は、与党側に提示した3兆8000億円規模の修正案の協議が進んでいないことにいらだちを強めている。

自民・公明両党と立憲民主党の3党は、政調会長レベルで協議を続けているが、立憲民主党の修正要求をどこまで予算案に反映させるかも焦点だ。

こうした中で、新年度予算案を年度内に自然成立させるための期限としては、3月2日までに予算案の衆議院通過が必要だ。しかし、今後の審議日程などを考えると期限までの衆院通過は困難な情勢になっている。

与党側としては早期の衆院通過をめざしているが、具体的な日程のメドはたっていない。仮に大幅にずれ込むことになれば、予算案の年度内成立に影響が出るほか、石破政権の政権運営能力も問われることになる。

また、夏の参院選挙を控えて世論は、石破政権や与野党の対応をどのように評価するのか大きな注目点だ。予算案に対する賛否と主要政策・課題への対応をしっかり見ていく必要がある。(了)

 

 

 

新年度予算案、与野党修正協議ヤマ場へ 

新年度予算案をめぐる与野党の協議が、今週ヤマ場を迎える。国民民主党、日本維新の会に続いて、立憲民主党も予算修正の要求案をまとめたのを受けて、自民党は17日以降、野党3党と個別の協議を進める。

石破首相や自民党の森山幹事長は予算修正に応じる考えを固めており、政府・与党が最終的に野党の要求をどこまで受け入れるかが、焦点になっている。(新たな動きは、原稿最後尾に★「追記」があります)

 野党3党要求出そろう、協議は個別

新年度予算案をめぐって立憲民主党は14日、予備費や基金から財源を捻出し、小中学校の給食費の無償化やガソリン価格引き下げなどを内容とする3兆8000億円規模の修正案をまとめ、自民党側に説明した。

立憲民主党案は、◇ガソリン税などの暫定税率を廃止して価格を引き下げるためにおよそ1兆5000億円、◇小中学校の給食費の無償化に4900億円、◇高校授業料の無償化に3700億円、◇介護や障害福祉に従事する職員の処遇改善に4200億円、◇患者の自己負担を抑える「高額療養費」の上限額の引き上げを凍結するための費用200億円などとなっている。

この立憲民主党案は、政府予算案全体を見直し、財源の捻出策と合わせて修正を求めているのが特徴で、17日以降、自民党との間で修正協議が行われる。

一方、日本維新の会は、高校授業料の無償化を強く主張しており、これまでに与党側は◇年間11万8800円の修学支援金を今年4月から公立・私立を問わず一律に支給することで、公立高校を実質的に無償化する案を示している。

さらに与党側は14日の会談で、私立高校の無償化に向けて現在、年収590万円未満の世帯の子を対象に年間39万6000円を上限に支給している修学支援金の所得制限を来年4月から撤廃するとともに支援金の上限額を引き上げると伝えた。

これに対し、維新の前原共同代表は、私立高校の支援金の上限額について、維新が主張する年間63万円にひき上げるよう求めている。また、ゼロ歳から2歳児までの保育や大学授業料など教育全体の無償化に向けて、年次ごとの計画を盛り込んだプログラム法を示すよう求めており、詰めの協議が行われる。

国民民主党は「年収103万円の壁」の見直しを去年秋以降、求めている。政府・与党は、所得税の控除額を123万円に引き上げる方針を示したのに対し、国民民主党は178万円まで引き上げるよう求めており、控除額が焦点になっている。

国民民主党からは、生活保護費の支給額を念頭に控除額を少なくとも156万円程度に引き上げるべきだとする意見が出ている。与党の公明党からは、食料品の値上がりなどを踏まえて140万円台後半とする案などが検討されており、3党の税調会長の協議が再開される見通しだ。

このように野党3党の要求には共通の内容も含まれているが、与党側との協議はそれぞれ個別に行われている。この背景には、野党各党とも夏の参議院選挙を意識して、与党側から譲歩を引き出し、その内容を成果としてアピールしたい思惑がある。野党の成果獲得合戦の側面もうかがえる。

 与党の修正受け入れ内容が焦点に

新年度予算案をめぐる野党側との政策協議について石破首相は13日、自民党の小野寺政務調査会長を首相官邸に呼び「野党からいろいろな提案があり、しっかり耳を傾けて、いいものをまとめるよう努力してもらいたい」と指示した。

自民党の森山幹事長も15日、福島市で講演し、予算修正をめぐる与野党協議が来週、ヤマ場を迎えるという認識を示したうえで、「各会派の意見をしっかり聞いて、筋の通るものであれば修正をして、一つでも多くの会派の理解をいただきたい。年度内に成立させなければいけない」とのべ、予算修正に踏み切る考えを示した。

自民党は、維新と国民民主の両党を天秤にかけ、最後にどちらか一方の要求を受け入れて予算成立をめざすのではないかとの見方が一部にあった。これに対し、石破首相と森山幹事長は、できるだけ多くの野党の賛成を得て、予算案の成立をめざすものとみられる。

このため、自民党は維新と国民民主両党の主張について、さらに一定程度、受け入れるものとみられる。また、立憲民主党の要求についても、衆院予算委員長ポストを立民が握っていることから、最も重視している予算案の年度内成立を確実にするために一定の範囲で認めるものとみられる。

こうしたことから与野党協議では、与党が野党3党の要求をどの程度、受け入れるかが焦点になる。その結果、野党側のうち、どの党が予算案の採決で、賛成に回ることになるかも大きなポイントになる。

政府の当初予算案は、与党の基本政策を財政面で肉付けしたものだけに、野党が賛成に回るのは異例だが、少数与党政権の下では、野党の一部の協力がないと予算案が成立しないので、与党としては野党の賛成取りつけに懸命だ。

今のところ、立憲民主党が賛成に回る可能性は低いとみられる。維新と、国民民主党の両方か、あるいはどちらか一方の賛成になるのか。この予算案の賛否は、後半国会の展開にも影響してくる。

ここまで見てきたように少数与党に転じた石破政権は、予算成立と政権維持のためには予算案の修正に応じる以外に道はない。問題は、修正の出来具合が国民の納得のいく内容になっているのかどうか。野党の修正要求と実現に向けた取り組み方、それに与党側の判断を含めて、修正協議の結果をじっくり見極めたい。

★追記(18日午前9時現在)高校の授業料無償化について、石破首相は「与党と維新の会との協議が整えば、新年度予算案を修正する方向で与党とも相談したい」とのべ、予算案の修正に応じる考えを示した。17日の衆院予算委員会で、維新の前原共同代表の質問に答えた。石破首相が予算修正に踏み込んだのは初めて。現在、公立・私立を問わずに支給されている年間11万8800円の修学支援金の所得制限を4月から撤廃。また、私立高校を対象に年間39万6000円まで加算される支援金の上限額について、今後45万7000円まで引き上げることを検討する考え。

 

 

 

 

”初回は成功、難問はこれから”日米首脳会談

石破首相とトランプ大統領との初めての日米首脳会談が日本時間の8日未明、ワシントンで行われた。

会談では、日米同盟の強化を再確認したのをはじめ、経済分野では石破首相が、アメリカへの投資額を1兆ドル(151兆円)規模まで引き上げたいとの考えを伝えた。

また、日本製鉄によるUSスチールの買収計画については、単なる買収ではなく、投資としての意味合いがあるとの認識を共有したことを明らかにした。

こうした今回の首脳会談をどのようにみたらいいのだろうか。結論を先に言えば、最初の会談としては、日米関係の方向性などで一致することができたので、成功と言えるのではないか。但し、具体的な対応はすべてこれからだ。難問はこれからと覚悟しておいた方がよさそうだ。

なぜ、こうした結論になるのか、具体的に会談の中身をみていきたい。

 経済政策、アメリカへの貢献を強調

トランプ大統領の再登板以降、カナダやメキシコ、中国に対する関税の引き上げが大きな問題になっているので、経済分野から見ていきたい。

日米首脳会談で石破首相は、日本は5年連続でアメリカへの投資額が世界一であることを説明したうえで、今後も二国間の投資と雇用を大幅に増やすことや、アメリカのLNG=液化天然ガスの日本への輸入を増やすことなどを表明した。

そして、アメリカへの投資額を1兆ドル(151兆円)の規模まで引き上げたいという考えを示したほか、日本製鉄によるUSスチールの買収計画は「単なる買収ではなく、投資としての意味合いがある」との認識で一致したことを明らかにした。

USスチールの買収計画について、石破首相は帰国後に出演したNHKの番組で「単なる買収ではなく、投資を行い、アメリカの企業であり続ける」とのべ、投資を重視する仕組みに修正して計画が進められるという見通しを示した。

このように石破首相は、日本はアメリカへの投資や雇用の拡大に貢献していることをアピールするとともに、対米投資額をバイデン政権時代の8000億ドルから、1兆ドルまでひき上げる考えを伝え、トランプ大統領から歓迎された。

こうした対米貢献策が評価されたためか、日本側が警戒していた関税の引き上げなどの要求は議論されなかったとされる。

 安全保障分野、従来の方針継続を確認

外交・安全保障分野については、日米同盟を強化するとともに、アメリカが防衛義務を果たす日米安保条約第5条を尖閣諸島に適用することを確認した。

また、厳しく複雑な安全保障環境の中で、自由で開かれたインド太平洋の実現に向け、協力していくことを確認し、日米豪印のクアッドや日米韓、日米豪、日米比など多層的な協力を推進するとしている。

トランプ大統領は最初に当選した際、当時の安倍首相と最初の首脳会談を2017年2月10日に行い、その結果を日米共同声明として発表した。当時の共同声明が手元にあるが、日本語でA4用紙2枚の分量だった。今回は3枚に増え、安全保障分野では、主な方針はそのまま盛り込まれている。

石破首相は「今回の首脳会談で日本の防衛費について、トランプ大統領から言及はなかった」と説明している。

一方、今回の日米共同声明によると、2023年度から2027年度までの防衛力の抜本強化に続いて「米国は、2027年度よりあとも抜本的に防衛力を強化いくことに対する日本のコミットメントを歓迎した」とある。日本の防衛力のさらなる強化を期待していることが盛り込まれている。

 石破首相「相性は合うと思う」

今回の首脳会談が行われるまで、国内では「石破首相は、トランプ大統領と相性がよくないのではないか」「アメリカ側から、さまざまな要求を突きつけられて対応できるのか」など首脳会談の先行きを不安視する声が聞かれた。

首脳会談で石破首相は「日米の緊密な関係は、大統領と安倍首相によって礎が築かれた」などトランプ大統領を盛んに持ち上げ、トランプ大統領も「シンゾーもあなたのことを尊敬していた」「あなたは偉大な首相になるだろう」などと上機嫌で応じた。

石破首相は帰国後、出演したテレビ番組で「『こいつとだったら、また話したい』という関係を作らないといけない。大勢の人に努力をしてもらい、いい結果になった」「テレビで見ると怖そうなおじさんだが、実際に話をしてみると人の話をよく聴く人だ。相性は合うと思う」と自信をのぞかせた。

石破首相は、トランプ氏側から誘いのあった大統領就任式前の会談を延ばしたうえで、就任後に会談することになった。日程が決まった後は、会談の準備を練りに練ったという。外務省をはじめとする関係各省、通訳など総力で準備に当たったとされる。そうした支えがあって、最初の会談を何とか乗り切れたのだろう。

 防衛・安保の議論のあり方も再考を

今回の首脳会談をめぐっては直前まで「吉と出るか、凶と出るか」心配されたが、「吉」と出たと言っていいのではないか。但し、最初の会談は順調に行われたが、今後はどうなるかわからない。

トランプ大統領は今回、石破首相に厳しい要求をぶつけなかった。この背景には、日本との貿易赤字がトランプ政権第1期時代は世界で3番目だったが、今は7番目までに減っているためとの見方もある。

また、トランプ政権にとって、最も手強い中国との対決に備えて、同盟国である日本を自らに引きつけておくねらいもあると思う。

トランプ大統領は今後、関税の引き上げや、LNG液化天然ガスなどの開発、日本の防衛力などをめぐって、日本に要求を突きつけてくることも予想される。日本としてもその備えというよりも、主体的にどのように考え対応していくのか、政府が方針を固め、国民を巻き込んで議論していくことが必要になる。

前回、岸田政権当時の防衛力の抜本強化をめぐっては、国民レベルの議論があまりにも少なすぎた。その結果、政権は防衛増税を打ち出したが、所得税増税は未だに実施時期が決まっていない。

国会は、与党の過半数割れへと大きく変わった。防衛力・安全保障をめぐる議論のあり方、進め方についても考え直す必要があると考える。(了)

”吉と出るか、凶と出るか”日米首脳会談

石破首相とトランプ大統領との初めての日米首脳会談が2月7日(現地時間)にワシントンで行われる見通しになった。石破首相としては、会談を通じて個人的な信頼関係を構築し、日米同盟のさらなる強化につなげたい考えだ。

一方のトランプ大統領は1日、カナダとメキシコからの輸入品に25%の関税、中国には10%の追加関税をそれぞれ課す大統領令に署名した。課税はいずれも2月4日からとしている。これに対しカナダなど各国は強く反発し、対抗措置を取る方針だ。

トランプ大統領は、就任式当日の先月20日に気候変動対策の国際的枠組み「パリ協定」からの離脱や、感染症対策などに当たっている世界保健機関WHOから脱退など40を超える大統領令に署名したのに続いて、今度は関税引き上げといった”トランプ砲”を発射し始めたといえそうだ。

こうした中で、石破首相は6日から8日の日程で訪米し、トランプ大統領との会談に臨む予定だが、果たして成果を上げることができるかどうか日本側関係者の見方を聞いてみた。

 楽観論と警戒論が交錯、予測不能?

自民党幹部の一人は「首脳会談の主な議題がどのようになるか聞いていないが、それほど心配していない。日米は『摩擦と協力』の連続だったが、いい智恵を出して乗り切ってきた」として、今回も難関を乗り切れるとの見通しを示した。

但し、こうした楽観論は少数派で、今回の首脳会談を危ぶむ見方が多い。石破首相は年末、麻生元首相と会談し助言を求めたのに対し、麻生氏は「トランプ氏には結論から言わなければダメだ」と語ると首相は「それが一番苦手だ」と漏らしたという。

また自民党内からは「安倍元首相とトランプ大統領との良好な関係は有名だが、”政敵の石破氏”のことがトランプ氏側にどのように伝わっているか。初対面の石破首相とトランプ大統領との相性が心配だ」との声も聞く。

さらに政府関係者は「トランプ大統領がどのような出方をするのか、正直わからない。予測困難だ」と話す。第1次トランプ政権発足前には、在日米軍の撤退にまで言及したことがある。「トランプ氏が関税の引き上げをちらつかせながら、防衛面の負担増を要求したりするのではないか」との警戒感も聞かれる。

ワシントン特派員経験者によると「石破首相や日本側が、トランプ氏に直接接触できたのは、これまで石破、トランプ両首脳のわずか5分間の電話会談だけだ。大統領の腹が読めないままトップ会談に臨むことになる」と懸念を隠さない。

このように日米首脳会談をめぐって、楽観論と警戒論などが交錯している。本当のところは「吉と出るか、凶と出るかわからない。予測不能な異例の首脳会談」というのが実態のようだ。

 首脳会談の結果、政局にも影響

国会は衆院予算委員会の基本的質疑が始まったばかりの重要な時期だが、石破首相は1日の土曜日も首相公邸に林官房長官や外務省幹部らを呼んで、日米首脳会談に向けての打ち合わせなどに懸命だ。

石破首相は、日米首脳会談では中国による海洋進出や、北朝鮮の弾道ミサイル発射など東アジア情勢が厳しさを増していることから、安全保障分野に重点を置く考えだ。

具体的には、日本としては防衛費の大幅増額など防衛力の抜本強化に取り組んでいることを説明する一方、沖縄県の尖閣諸島にアメリカの防衛義務を定めた日米安全保障条約第5条が適用されることなどアメリカの関与を確認したい考えだ。

また、トランプ大統領が1期目に北朝鮮による拉致被害者の家族と面会したことも踏まえて、拉致問題の解決への協力も求める考えだ。

さらに、「自由で開かれたインド太平洋という共通のビジョン」の推進に向けて日米の協力を確認したい考えだ。

一方、経済分野については、日本は過去5年連続でアメリカへの投資が世界一であることなどを説明するとともに、トランプ大統領が重視しているエネルギー分野について、天然ガスなどの資源の輸入拡大を図る考えを伝える方針だ。

問題は、こうした石破首相の提案に対して、トランプ大統領がどのような考えを示すのか。また、トランプ大統領はすべての国に一律に関税を課す方針は変えていないことから、関税の引き上げや、持論の防衛費増額などについて言及するのかどうかが注目される。

日米首脳会談がどのような結果になるのか、外交・安全保障や経済の分野だけでなく、今後の国内の政局にも大きな影響を及ぼす。石破首相にとって、政権運営の追い風になるのか、それとも新たな重荷となって逆風になるのか、重い意味を持つトップ会談になる。(了)

”乱気流国会”開会へ、予算審議の攻防

今年前半の政治の主な舞台となる通常国会が、今週24日に召集される。石破政権にとっては初めての通常国会で、政府予算案の年度内成立を最優先と位置づけているが、少数与党のため成立のメドはついていない。

野党側は、夏の参議院選挙をにらんで「年収103万円の壁」の見直しや高校授業料の無償化、予算案の修正などそれぞれの党の要求の実現をめざしているが、自民党が最終的に受け入れるかどうか、見通しはついていない。

一方、東京都議会の会派「都議会自民党」の裏金問題が明らかになり、自民党の派閥の裏金問題と合わせて「政治とカネの問題」が再燃することになりそうだ。

このように今度の通常国会は、懸案・課題が多いことに加えて、政権と与党、それに野党各党がそれぞれの思惑を抱えながら対決する複雑な構図になっており、どのような展開になるのか見通せないのが実状だ。別の表現をすれば、波乱要素が多い”乱気流国会”と言えそうだ。当面、どこが与野党攻防のポイントになるのか探ってみたい。

「都議会自民党」の裏金問題

通常国会の召集が近づく中で、政界では2つの問題が注目を集めている。1つは「都議会自民党」の裏金問題であり、2つ目はトランプ次期大統領の就任を受けて、石破首相とトランプ大統領との日米首脳会談がいつ行われるかだ。

このうち、「都議会自民党」の問題は政治資金パーテイーで集めた資金の一部、3500万円を政治資金収支報告書に記載しなかったとして、東京地検特捜部が17日、会派の会計担当職員を政治資金規正法違反の罪で略式起訴した。

この裏金づくりに関与した都議は25人に及ぶとみられているが、立件を免れた。都議会自民党は「責任を重く受け止める」として、政治団体「都議会自民党」を解散するとともに近く政治資金収支報告書を訂正するとしている。

今回の問題は、裏金づくりが自民党の派閥だけでなく、党の地方組織でも行われてきたことを示すものだ。そして東京都議会だけでなく、他の地方組織でも行われているとみられている。自民党としても全国の地方組織について、実態の調査が必要だ。

裏金問題をめぐっては今度の通常国会で、野党側が旧安倍派の会計責任者の参考人招致を要求している。この会計責任者は去年有罪判決を受けたが、裁判の中で、安倍元首相が派閥の会長時代、資金還流の取り止めを指示した後、安倍氏の死去後「派閥の幹部議員が集まった会合で、還流やむなしという方針が決まった」と証言した。

この会計責任者の証言と、旧安倍派幹部が衆参の政治倫理審査会での弁明と食い違うことから、野党側には旧安倍派幹部の参考人招致や証人喚問を求める意見もあり、裏金問題の実態解明が改めて問題になる見通しだ。

また、「都議会自民党」の裏金問題は、夏の東京都議選だけでなく、その直後に行われる参議院選挙にも影響を及ぼすことになりそうだ。

石破・トランプ日米首脳会談のゆくえ

2つ目の石破首相とトランプ次期大統領との首脳会談をめぐっては、石破首相が19日のNHK日曜討論で「だいたいこの当たりでと言うことで、調整が進んでいる」とのべ、2月前半にも訪米し日米首脳会談を行う方向で調整が進んでいることを明らかにした。

この日米首脳会談が実現した場合、トランプ氏が強い意欲を示す関税の引き上げや、日本の防衛費の増額を求めてくるのかどうか、さらにはバイデン政権時代に強化された日米韓の連携や台湾問題への対応などについて、トランプ大統領がどのような考えを示すのか関心を集めている。

このほか、日本製鉄によるアメリカ鉄鋼大手USスチールの買収計画に対してバイデン大統領が禁止命令を出した問題についても、トランプ大統領との会談が注目される。

この石破・トランプ会談の評価はその内容次第だが、会談が実現して一定の信頼関係を築くことができれば、石破首相の国内での政治基盤の強化につながる可能性がある。衆院予算委員会の最中に日米首脳会談が行われることになるのかどうか、国内政治への影響という面でも注目される。

最初の難関、予算案の衆院通過

長丁場の通常国会の中で石破政権にとって最初の難関は、2月下旬から3月上旬にかけて予算案を衆議院で可決し、参議院へ送ることができるかどうかだ。自民、公明の与党だけでは過半数に達しないので、野党の一部の賛成が必要になる。

自民、公明両党は、国民民主党との間で「年収103万円の壁」の見直しをめぐって123万円まで引き上げることを決めたが、国民民主党は178万円まで引き上げるよう求め、話し合いは年明けに持ち越されている。

日本維新の会との間では、教育費の無償化、特に高校授業料の無償化をめぐって協議を続けているが、与党と維新との考え方には開きがある。

野党第1党の立憲民主党は、小中学校の給食費の無償化を維新、国民民主とともに求めているほか、新年度予算案にはムダな経費が含まれているとして、予算総額の修正を求める方針だ。

自民、公明両党は予算審議と平行して、野党側との個別の協議も続ける方針だ。そのうえで、最終的には予算案や税制改正法案の一部を修正してでも野党の協力をとりつけ、予算案の衆議院通過をめざすものとみられる。

こうした与党と野党側の調整の司令塔の役割を果たしているのが、自民党の森山幹事長だ。森山氏は国対委員長時代の人脈などを活かして、国民民主党と維新の両方か、いずれか一方の協力を取りつけるのではないかとの見方が与党だけでなく、野党側の関係者からも聞かれる。

問題は、思わぬところで与野党折衝のボタンの掛け違いなどで、合意のとりまとめが狂ってしまうことがある。今回は与党過半数割れを受けて、衆院予算委員長ポストが立憲民主党の安住氏に代わっていることもあり、予算委員会の採決の日程や段取りなども問題になる。

野党の一部の協力を得て、予算案の衆院通過ができれば、参院での予算成立まで近づくことになる。また、会期末に野党第1党の立憲民主党が内閣不信任決議案を提出する場合でも、野党の一部が同調しない可能性も大きくなる。

逆に予算案の衆院通過ができなくなると、政権が行き詰まることになる。したがって、与党と国民民主、維新、立憲民主の各党の政策協議のゆくえが進展するかどうかがカギを握る。同時に予算案の賛否と衆院通過の時期が通常国会前半戦の焦点になる。

波乱要素が多く、先行きが見通せない”乱気流国会”が、最終的にどのような形で決着がつくか、最初の関門である予算案の衆院通過を見ることによって判断できることになりそうだ。(了)

”衆参ダブル選挙説”の見方・読み方

新しい年が明けて石破首相をはじめ各党党首は、それぞれの党の仕事始めや記者会見、海外訪問に出発するなど本格的な活動を始めた。

各党首の年頭記者会見などを聞くと、衆議院の与党過半数割れという新しい政治状況を受けて、年明けの通常国会は新年度予算案などの修正を含め与野党の激しい攻防が予想される。

一方で、内外情勢が厳しさを増す中で、党派を超えて合意を図る政治をめざすべきだという方向では多くの党が一致しているので、対立だけでなく歩み寄り、一定の成果も期待できるのではないか。

こうした中で、今年は夏の参議院選挙に合わせて衆院の解散・総選挙を行う「衆参同日選挙」がありうるのではないかとの見方も聞かれる。この衆参ダブル選挙説は、参議院選挙が近づくにつれて今後も浮上することが予想されるので、どの程度の確率があるのか探ってみたい。

 ダブル選挙、少数与党から脱出へ

最初に今年前半の政治日程を確認しておくと年明けの通常国会は今月24日に召集される見通しで、会期末は6月22日になる。会期延長がない場合は、公職選挙法の規定などで、夏の参議院選挙は7月3日公示、20日投開票という日程になる。

一方、東京都議選は、6月下旬から7月初めにかけて投開票が行われる見通しだ。4年に一度の都議選と、3年ごとの参院選が12年ぶりに同じ年に重なる「巳年選挙」になる。

さて、その都議選に続いて行われる参議院選挙に合わせて、衆議院選挙を行う「衆参同日選挙説」が取り沙汰されている。

石破首相自らも年末の民放テレビ番組で、衆参同日選挙の可能性を問われたのに対し、「これはある。参議院と衆議院の時期が同時ではいけないという決まりはない」とのべた。その後、発言を軌道修正したが、政界に波紋を広げた。

自民党内では先の衆院選で大敗し、国会では野党の攻勢に譲歩を重ねていることに不満が鬱積している。このため、何とか早期解散に持ち込み、過半数割れからの脱出を図りたいという思いは強い。

また、先の衆院選では公認から外れた候補にも2000万円を支給した問題が敗北の決め手になったとの受け止め方が強く、これがなければ次の衆院選では一定の議席の回復は見込めるとの見方も出ている。

そして、野党側が例年と同じように会期末に内閣不信任決議案を提出することが予想されるため、それをきっかけに衆院解散に踏みきり、衆参ダブル選挙を断行してもいいのではないかとの意見が政権内にもあるのは事実だ。

こうした早期解散論の背景としては、石破首相と森山幹事長ら党執行部としては、少数与党で思うような政権運営が描けないため、解散説を流すことによって野党側をけん制するねらいがあるものとみられる。今後も国会での与野党の攻防が緊迫する際に、衆参ダブル選を模索する動きが出てくることが予想される。

 政権の求心力弱く、ダブル選は困難か

さて、自民党内の一部から衆参ダブル選期待論が聞かれるのは事実だが、実現へのハードルは極めて高い。過去2回の衆参同日選挙のうち、2回目は1986年の中曽根政権の時で、自民党が圧勝した。

当時、中曽根内閣の世論の支持は高かった。現場を取り仕切ったのは最大派閥・田中派幹部の金丸幹事長で、2人が組んで用意周到、定数是正法案も絡めて秘策を尽くし、ダブル選挙に持ち込んだ。強力な政権だったからこそ、実現が可能だった。

これに対して、今の石破政権は衆院で少数与党であり、自民党内の掌握、野党との折衝体制、衆院選に向けた選挙体制づくりなど整っていないようにみえる。

また、連立政権なので、公明党の理解と協力が不可欠だ。その公明党は、政界進出の原点である都議選と参院選に専念したいのが本音だとみられる。山口那津男元代表は8日、石破首相との会談後、記者団に「衆参同日選は望ましくない」との考えを示した。

さらに報道各社の世論調査をみると石破内閣の支持率は、朝日新聞の調査(12月14,15両日)で36%、不支持率は43%。読売新聞の調査(12月13~15日)では支持率39%、不支持率は48%と低迷している。自民党の支持率も20%台前半まで低下している。「政治とカネ」をめぐる取り組みを「評価しない」との受け止めが多く、世論の信頼回復には遠く及ばないのが実状だ。

選挙に詳しい自民党関係者に聞くと「衆参ダブル選は昭和の時代、党の支持率は高いのに保守層が投票所に足を運ばなかった。この状態を打開するために投票率を上げると同時に、議席の大幅拡大もねらった選挙戦略だった。今のような低支持率の政権にはまったく適合しないので、止めた方がいい」と指摘する。

先の衆院選挙の出口調査(朝日新聞、比例代表)をみると無党派層の投票先は、最も多かったのは立憲民主党の22%、2位が国民民主党の18%で、自民党は14%の3位に止まっている。仮に衆参ダブル選挙が実現したとしても今のような選挙情勢では野党側に競り負け、衆参ともに一気に政権から転落する可能性もある。

一方、立憲民主党の野田代表は、内閣不信任決議案は「会期末だから出すといった『竹光』を振るってチャンバラをやる時代ではない。『伝家の宝刀』だと思って刃をよく磨いておきたい」として、自民党内の動きを見ながら慎重に対応するする構えだ。

このようにみるとこの夏の参議院選挙に合わせた衆参ダブル選挙の可能性は、極めて低いというのが結論になる。この夏は、都議選に続いて、参議院選挙が最大の政治決戦になるとみている。

その参議院選挙について森山幹事長は、7日の自民党仕事始めの後の記者会見で勝敗ラインについて「与党で過半数を死守することだ。参議院全体でも改選議席でも過半数を果たすことが大事だ」とのべ、与党で改選議席の過半数である63議席以上をめざす考えを明らかにした。

これに対して、立憲民主党の野田代表は「少なくとも改選議席の与党の過半数割れを実現したい」として、特に32ある1人区で野党が候補者を1人に絞って対決していく戦いをめざしている。

夏の参議院選挙では与野党が真正面からぶつかり、与党が改選議席の過半数を獲得すれば石破政権が続投することになるが、過半数を割り込むと石破首相の政治責任論が浮上し、政局は一気に流動化することになりそうだ。(了)

 

 

 

 

 

”波乱含み政局、ヤマ場は参院決戦”新年見通し

新しい年・2025年の日本政治は、どのように展開するだろうか。昨年秋の衆院選の結果「与党過半数割れ、各党競合時代」に入ったように見える。

自民党は比較第1党だが、石破政権は野党の攻勢で「103万円の壁」の見直しや企業団体献金などの問題は新年に持ち越した。これまでのように主導権を発揮できる状況にはない。

与党過半数割れで新年の政治は見通しにくいが、端的に言えば「政局は波乱含みで推移するものの、石破政権は予算成立にはこぎ着け、夏の参院選挙が政局のヤマ場になる」との見方をしている。

今年の政治を特徴づける点は何か、政治はどのように展開するか、そして私たち国民はどのような視点で政治を見ていく必要があるのか、年の初めに考えてみたい。

 少数与党政権、波乱含みの展開必至

今年の政治の特徴は、冒頭に触れたように「衆議院が与党過半数割れという新しい政治状況に変わったこと」にある。与党で過半数に達しないので、野党の協力がなければ、予算案や法案は1本も成立させることはできない。

野党が一致して内閣不信任決議案を提出すれば可決できることになり、衆院を解散しない限り、政権は内閣総辞職に追い込まれる。

自民党は1983年のロッキード判決選挙のように過半数を割り込んだことはあったが、新自由クラブと連立を組んだりして危機を脱した。今回のように少数与党政権に追い込まれたのは、結党以来初めてだ。

石破政権は発足当初から、考え方の近い国民民主党に働きかけ、政策協議に持ち込んで政権を維持してきた。だが、少数与党政権で政権の基盤は弱く、今年の政治は波乱含みで推移する可能性が大きい。いつ政権に波乱、混乱が起きても不思議ではないことを確認して、新年の政治の動きを見ていく必要がある。

政権に3つのハードル、野党は個別攻勢

そこで、石破政権と今年の政治はどのように展開するだろうか。平たくいえば「石破政権はいつまで持つのか?」ということになり、そのゆくえを左右するのは「政府予算案の扱い」になる。

政府予算案の審議が難航し、成立困難となると政権は成り立たず、政変となる。石破政権は少数与党であり、1月24日に召集される通常国会は緊迫した展開が続く見通しだ。当面、「3つのハードル」が想定される。

第1のハードルは、新年度予算案と税制改正関連法案が衆議院で可決され、「衆議院通過」ができるかどうかだ。2月下旬から3月上旬頃になる。

第2のハードルが、参議院へ送られた「予算案と税制関連法案の成立」にこぎ着けられるか。3月末まで年度内成立ができるかが、焦点になる。

第3のハードルが「通常国会会期末の与野党攻防と夏の参院決戦のゆくえ」だ。通常国会が1月24日召集の場合、会期末は6月22日。会期延長がなければ、公職選挙法の規定などで「7月3日公示、20日投開票」の日程になる。

具体的にどのような展開になるかは、野党側の攻勢がカギを握る。特に今回は、少数与党の国会だけに、野党の対応が焦点になる。

まず、国民民主党は昨年の臨時国会から「103万円の壁」の見直しを強く迫っている。自民、公明両党は123万円まで引き上げることを決定したが、国民民主党は178万円への引き上げを譲らず、年明けに3党の協議が再開される見通しだ。

国民民主党の玉木代表(現在、代表の職務停止中)は「引き上げ幅が不十分な場合は、新年度予算案に賛成しないこともある」と強くけん制しており、激しい駆け引きが続く見通しだ。

日本維新の会は高校の授業料無償化を強く求め、自民、公明両党との間で来年2月中旬をめどに政策の方向性をまとめることで合意した。

野党第1党の立憲民主党は、年収130万円を超えると国民年金などの保険料の負担が生じる「130万円の壁」を重視し、年収200万円までの人などを対象に給付で補助する制度の導入を求めている。

また、立憲民主党は野党がまとまって対応していくことが重要だとして、「公立の小中学校などの給食費を無償化するための法案」を維新、国民民主と共同で年末に提出した。立憲民主党は衆院予算委員会の委員長ポストを獲得しており、予算審議は野党の意向が反映されることが予想される。

このように野党の攻勢は強まる見通しだが、野党各党は要求内容を調整したうえで、与党に実現を迫る構図にはなっていない。それぞれ個別に協議を行い成果を競い合う形で、党の存在感をアピールしようとしているのが実態だ。

このため、自民党は野党各党からの要求に厳しい対応が迫られる反面、野党を分断することも可能になる。先の補正予算と同じように国民民主党と維新の両方か、どちらか1党の賛成を得られれば、予算成立のメドがつくことになる。

今の時点では、与野党合意のメドは全くついていない。但し、野党側も一定の成果が欲しいし、自民党側も政権維持が最優先事項で、そのためには税制法案などの修正に向けてカジを切る可能性は十分ある。

自民党の長老に聞くと「石破政権と党執行部は、最終的には予算案や税制関連法案の修正に応じて成立までこぎ着けるのではないか」との見方を示す。その場合、石破政権は第1と第2のハードルは越えることになる。

ところで、年明けの動きとして石破首相は、トランプ次期大統領側からの打診を受けて1月中旬の訪米を検討してきたが、この時期は見送る方向で調整に入った。通常国会召集などを控えており、十分な準備をして臨む方が得策だと判断したようだ。この判断が、吉と出るか凶と出るか注目している。

もう1つ、東京都議会自民党が、政治資金パーテイー収入を政治資金収支報告書に記載せず、裏金として処理していた疑惑が浮上している。裏金の総額は5年間で3000万円にも達するとされる。

通常国会では、自民党派閥の裏金問題の実態解明が持ち越されているほか、企業・団体献金の禁止について3月末までに結論を出すことになっている。都議会自民党の裏金問題は、通常国会の与野党攻防や、都議選、参院選にも大きな影響を及ぼしそうだ。こうした波乱要因についても注意が必要だ。

夏の参院決戦、石破政権・政局を左右

ここまで予算案を中心に見てきたが、石破首相が何とか予算審議を乗り切った場合、政局のヤマ場は3つ目のハードルである「会期末の与野党攻防と参議院選挙」に移る可能性が大きい。

予算が成立した場合でも自民党内には「次の参院選は石破首相では戦えない」などとして”石破降ろし”が起きるのではないかとの見方があるが、どうか。

自民党の長老は「旧安倍派の勢力が先の衆院選挙で半減し、反主流派の態勢が整っていない」と指摘したうえで、「石破降ろしとなると党内が紛糾し政権から転落する恐れもある」として、石破降ろしの動きは広がらないとの見方をする。

そうすると波乱要因としては、野党が会期末に内閣不信任決議案を提出し、それをきっかけに衆院解散につながることも予想されるが、どうだろうか。

石破首相は年末のテレビ番組で「内閣不信任決議案が可決したりした場合、夏の参院選挙に合わせた『衆参同日選挙』を行うこともありうる」との考えを示し、波紋が広がった。

立憲民主党の野田代表は「与党少数の下での内閣不信任案は、これまでとは重みが決定的に違う。不信任案提出は、政権にトドメを刺すときに限られる」と極めて慎重な考え方を示している。

自民党の長老は「衆参ダブル選挙で自民党が勝てるというのは、昔の話だ。投票率が上がって、今の政権や自民党の支持が増える保証はない」と衆参同日選挙は困難との見方をする。

このようにみてくると衆参同日選挙の可能性は極めて低く、夏の参院選挙が最大の政治決戦となる見通しだ。会期延長がなければ、7月3日公示・20日投票となる。3連休の中日という異例の日程で、投票率の低下を懸念する声も聞かれる。

その参院選挙は、自民、公明の与党側は非改選議員(28年任期満了)が75人と”貯金”が多いため、50議席を確保すれば参議院で自公の過半数は維持できる。但し、石破政権の評価は「改選議席の過半数」を獲得できるかどうか、こちらが「勝敗ライン」になるとの見方が強い。(2025年参院改選議席は125=議員総定数の半分124+非改選の東京選挙区1→この過半数を獲得できるかが勝敗ライン)

その勝敗のカギは定数が1人の1人区の攻防で、32選挙区に上る。野党が候補者を1本化すれば、野党有利の選挙区が増えるとみられる。立民、維新、国民民主、共産の野党各党の足並みがそろうかどうかで選挙の様相は変わってくる。

石破首相にとって、仮に自公で改選議席の過半数を維持できない場合は、衆院選に続く敗北となり、自民党内から責任論が強まることが予想される。参院決戦の結果が、今年の政局を左右することになる見通しだ。

混迷・混乱か、新たな合意型政治か

2025年の新しい年は、アメリカではトランプ大統領が1月20日政権に返り咲き、世界の貿易、経済、国際秩序は激しく揺さぶられることになるだろう。米中関係をはじめ、ロシアによるウクライナ戦争、中東情勢も変化が予想される。

日本は今年、戦後80年の節目を迎える。長期にわたって平和を維持し、驚異的な経済成長を成し遂げたが、この数十年は経済の停滞、急速な人口減少とさまざまな分野の制度疲労、防衛力整備の進め方など多くの課題・難問を抱えている。

激動が予想される内外情勢に対して、日本の政治は有効に対応できるのだろうか。また、与党過半数割れという新たな政治状況の中で与野党は「混迷・混乱の政治」に陥ることはないのか、「新たな合意形成型の政治」へ踏み出すことができるのかが問われている。

私たち国民も国際社会や日本政治の動きを注視しながら、どのような日本社会をめざしていくのか自ら考え、選挙などを通じて意思表示していく取り組みが求められているのではないか。(了)

 

懸案は越年へ”五里霧中の石破政権”

先の衆院選挙で少数与党となった石破政権にとって、初めて本格的な論戦の舞台となった臨時国会は24日閉会した。焦点の「政治とカネの問題」のうち、政策活動費の廃止などを盛り込んだ政治改革関連3法はようやく成立にこぎつけた。

最大の焦点だった企業団体献金の廃止をめぐっては、自民党と野党側の主張が対立し結論を来年3月末に持ち越したほか、裏金問題の実態解明は進まなかった。

もう一つの焦点である「103万円の壁」の問題は、与党が123万円に引き上げる方針を示したのに対し、国民民主党は納得せず、来年に持ち越される見通しだ。

臨時国会閉会を受けて石破首相は24日夕方、記者会見し「少数与党の中、他党にも丁寧に意見を聞き、可能な限り幅広い合意形成を図り『熟議の国会』にふさわしいものになった」とのべ、政治改革関連法や補正予算成立の意義を強調した。

だが、少数与党に転じた石破政権は、懸案の多くが来年に先送りになったのをはじめ、主要政策の決定でも主導権を発揮できず、政権運営は五里霧中の状態にあるようにみえる。残りわずかとなった2024年、ここまでの石破政権をどのように見たらいいのか考えてみたい。

政治改革一部実現も、多くの課題が越年

臨時国会は会期末の24日、参議院政治改革特別委員会で、政策活動費の廃止などを盛り込んだ3つの関連法案について採決を行って可決したのに続いて、参議院本会議でも与野党の賛成多数で可決、成立した。

これによって、石破首相がめざした政治資金規正法の再改正については、ようやく実現にこぎ着けた。

一方、最大の焦点になっていた企業団体献金の廃止をめぐっては、与野党の意見が大きく隔たり歩み寄りができなかったため、来年3月末までに結論を出すことになった。

また、裏金問題の実態解明に向けて、不記載議員が衆参両院の政治倫理審査会で弁明を行った。だが、安倍派で安倍元首相が資金還流を取り止める方針を決めた後、安倍氏死去後に還流が復活した経緯などについては、新しい事実は明らかにならなかった。

これに関連して、安倍派の元会計責任者が裁判で「資金還流の復活は幹部議員の会合で再開が決まった」と証言し、安倍派幹部の弁明と食い違うことから、野党側が元会計責任者を参考人招致するよう求め、年明け以降、協議が行われることになった。

このように政治資金関連法の再改正は実現にこぎ着けたものの、新たに設置が決まった第三者機関の制度設計をはじめ、企業団体献金の扱いなど多くの課題は年明け以降に持ち越された。

「103万円の壁」異例の年明け協議へ

もう1つの焦点である「103万円の壁」をめぐって、自民、公明の与党側は、所得税の控除額を123万円に引き上げる方針を決めたのに対し、178万円への引き上げを求める国民民主党と意見が対立したままとなっている。

自民、公明両党と国民民主党の政務調査会長と税制調査会長は24日に会談する予定だったが、出席者の都合がつかず日程を再調整することになった。控除額の取り扱いをめぐる本格的な協議は、異例の年明け以降に持ち越される見通しだ。

3党の関係者によると「税制改正法案が国会に提出されるのは、来年2月上旬以降になることから、それまでに3党協議で結論を出せばよい」との見方がある。

自民党にとっては、来年度予算案と税制改正法案の衆議院通過や成立のためには、野党の一部の賛成を得ることは必要不可欠の条件だ。このため「土壇場で控除額をさらに引き上げることはありうるのではないか」との見方を聞く。

一方、自民党は、日本維新の会との間で教育無償化をめぐる協議を行うことになった。このため、自民党内には「予算案などを成立させるうえで、国民民主の賛成が得られなければ、維新の賛成を得ることを検討してはどうか」といった両天秤にかける見方も聞かれ、年明けの与野党協議は複雑な駆け引きが予想される。

 石破首相と自民、問われる覚悟と戦略

そこで、ここまでの石破政権の政権運営をどのようにみるか。少数与党政権に変わった石破政権は発足当初から、政策面で共通点の多い国民民主党を対象に政策協議を進め、補正予算案や主要政策を前進させる方針を固め、交渉を重ねた。

その結果、首相指名選挙で国民民主党は立憲民主党と距離を置き、石破首相は首相指名を受けることができた。難関の補正予算案についても国民民主党に加えて、日本維新の賛成を得て成立にこぎ着けた。

一方で、臨時国会の大きな焦点となった「政治とカネの問題」、政治資金規正法の改正をめぐっては、野党の攻勢にさらされた。自民党は、政策活動費に非公開枠を設けようとしたが、野党各党の強い反発と公明党の賛同も得られずに孤立し、最後は野党7党共同案の丸飲みに追い込まれた。

こうした対応は、国会の攻防だけに止まらず、国民世論にも大きなマイマスイメージを与えた。12月の報道各社の世論調査を見るといずれも石破内閣の支持率は下落し、支持率を不支持率が上回った調査もあった。

自民党の支持率も同時に下落したのが特徴で、内閣、自民党そろって支持率が下がる深刻な状態だ。その主な要因は「政治とカネの問題」に踏み込んだ対応をしようとしない姿勢に世論の多くが不満や失望を感じたためだとみられる。もちろん、物価高や経済政策に対する不満などもあるとみられる。

端的に言えば、石破首相は「政治とカネの問題」については守るべき点は守る一方で、改める点を大胆に打ち出していく対応が必要だった。そうした「覚悟と戦略」がなかった点が政権運営面での最大の弱点ではなかったか。

少数与党政権の石破首相は「謙虚に、真摯に野党の声に耳を傾ける」と強調する。そうした姿勢は重要だが、政権の最高責任者として自らの考えを明確に示し、そのうえで各党との議論を通じて国民を説得し、場合によっては修正する柔軟な姿勢が必要だ。五里霧中の政権運営から脱する方法の1つだと思う。

年明けの通常国会では、持ち越された「103万円の壁」の引き上げや、企業団体献金をはじめとする「政治とカネの問題」への対応が待ったなしの状態だ。

また、来年度予算案の審議が最大の焦点になるほか、国際社会ではアメリカのトランプ次期大統領が再登場し、外交・安全保障面の対応も大きな課題になる。

通常国会の直後には参議院選挙も予定されており、私たち国民にとっても日本の進路と政治のあり方をどのように考えていくのか判断が問われる年になる。(了)

政治改革3法案成立へ”意味と影響は”

今の臨時国会の焦点になっている政治資金規正法の再改正をめぐって、政党が幹部議員に支給している政策活動費を全面廃止にするなど3つの政治改革関連法案が衆議院で可決され、参議院へ送られた。今の国会で成立する見通しだ。

一方、最大の焦点になっていた企業団体献金については、与野党の主張が隔たったままで合意点を見いだすことはできず、来年3月末をメドに結論を出すことになった。

いずれも先の衆院選で大きな争点になった問題だが、こうした結果をどう見るか。「不十分な点は多いが、ようやく具体的な改善策が動き出し、一歩前進」との評価を個人的にはしている。なぜ、こうした評価になるのか、今後は何が問われているのか、さまざまな角度で考えてみたい。

政治改革3法案可決、企業献金は越年へ

まず、衆議院の特別委員会と本会議で17日に可決され、衆議院へ送られた法案を確認しておきたい。

1つは、政党から幹部議員などに渡される「政策活動費を全面廃止にする法案」だ。立憲民主党、維新、国民民主、共産など7党が共同で提出した。

2つ目は、「政治資金の支出を監視する第三者機関を国会に設置する法案」だ。公明党と国民民主党が共同で提出した。

3つ目は、「外国人によるパーテイー券の購入禁止や、収支報告書をデータベース化して検索しやすくする制度などを規定した法案」で、自民党が提出した。

このうち政策活動費の廃止をめぐっては、自民党は一部の支出先を非公開にできる「公開方法工夫支出」を設けることを主張したが、野党側の強い反発と与党・公明党からも賛同を得られず、撤回に追い込まれた。

結局、自民党は、野党7党が共同で提出した案を丸飲みする形で賛成に回った。こうした政治改革関連3法案は参議院へ送られ、今の国会で成立する見通しだ。

一方、立憲民主党などが提出した「企業団体献金の禁止を盛り込んだ法案」については、与野党の主張に大きな隔たりがあることから先送りし、来年3月末に結論を得ることを与野党で申し合わせた。リクルート事件以来「30年来の宿題」となっている企業団体献金は今回も年を越すことになった。

 政治改革前進、選挙の民意が後押し

政治とカネの問題をめぐっては、旧文通費=現在の「調査研究広報滞在費」の使い途の公開などを盛り込んだ法案も17日衆議院で可決され、参議院で成立する見通しになっている。3年以上も前からの懸案で、議員1人あたり月100万円・年間1200万円の使い途が来年8月から公開されることになる。

このように見ると企業団体献金は先送りになったものの、政治資金に関連する部分については、一定の範囲ながらも改善策を盛り込んだ法案が成立するメドがついた。

こうした背景には、先の衆院選挙で「裏金問題の実態解明と政治改革」が争点になり、政権与党が過半数を割り込むなど政治状況が大きく変わったことが影響している。選挙後の国会では、与野党双方ともに政治改革の実現を求めた民意を意識して法案成立へと動いた。

一方、国民にとっても選挙で大きな争点になった「103万円の壁」が引き上げられたり、「政治とカネの問題」も改善に向けて動き出したりするなど政治の変化を実感した方も多いのではないか。いずれにしても選挙結果が、政治を動かした数少ないケースだ。

 戦略なき対応、石破政権・自民党

それでは、政治とカネの問題をめぐって石破政権と自民党の対応は、どうだったのだろうか。衆院選挙の結果、30年ぶりの少数与党政権に転じ、石破首相にとっては全く別の世界に立たされた。

石破政権としては、政策面で主導権を発揮する立場にはなく、野党の主張を取り入れながら、譲るべきところは譲り、逆に守り抜く点は国民に訴えながら死守していくしかない難しい対応を迫られた。

その石破首相の対応だが、臨時国会冒頭の所信表明演説では、外交・安全保障政策や、経済対策と補正予算案などの説明に多くの時間を充てた。焦点の政治改革の問題は最後の方で「年内に必要な法整備も含めて、結論をお示しする必要があると考えています」と表明するのに止まった。これでは、政治改革は及び腰と受け取った国民が多かったのではないか。

一方、自民党は政治改革本部で、政治改革案をとりまとめたが、企業団体献金の扱いには踏み込まなかった。各党との協議でこだわったのは、政策活動費の廃止を認める代わりに、支出先を非公開にできる「公開方法工夫支出」の創設だった。

これに対して、野党各党はそろって強く反発し、与党の公明党からも賛同を得られずに孤立して、提案の撤回に追い込まれた。

この時期に行われた報道各社の世論調査ではいずれも、石破内閣の支持率と、自民党の政党支持率がそろって下落した。石破政権と自民党は、政治改革の取り組みが後ろ向きだと受け止められたことが影響したものとみられる。

石破政権は、丸飲みするところは最初から丸飲みする一方、主張すべき点は最後まで譲らないメリハリのとれた対応ができていれば、世論調査の評価も変わっていたかもしれない。

要は、この国会での石破政権と自民党の対応は、新たな政治状況の中でどのような姿勢で臨むのか、戦略が定まっていなかったことが国会で孤立することになった最大の要因ではなかったか。

今回、石破政権は企業団体献金を維持することはできたが、来年3月末に再び結論を出すことを迫られることになる。来年度予算案の成立と合わせて、企業団体献金などの政治改革が与野党の争点として浮上することが予想される。

 野党も責任、政治資金のあり方など

一方、野党側も今後の対応が問われる。特に野党第1党の立憲民主党は、企業団体献金禁止を強く主張し、そのための法案を4党派共同で提出したが、野党全体にまで賛同が広がらなかった。

国民民主党や維新からは「立憲民主党の案では『政治団体からの寄付』が除外されており、業界団体や労働組合からの献金が抜け穴として残されている」との批判が最後まで消えなかった。

この点について、立憲民主党から、明確な説明はなされていない。企業団体献金をめぐっては禁止論が根強くある一方で、政党によっては活動を支える政治資金の基盤に関わる問題でもある。また、政治資金集めのパーテイーの扱いも一定の範囲で認めるのかどうかを明確にしておく必要がある。

そこで、来年の春までに各党は「政治活動と、政治資金の関係の全体像」がわかる議論を行うべきだ。そして与野党が一定の考え方をとりまとめてはどうか。そのうえで、企業団体献金をはじめ、第三者機関の性格や権限など残された課題についても決着をつけてもらいたい。

与党過半数割れという新たな政治状況の中で、政治改革の取り組みでは、不十分な点も多いが、新しい与野党の対応として評価できる点もある。この国会では、「年収103万円の壁」の扱いが残されている。

いずれも先の衆院選挙で争点になったテーマであり、その後の国会で、具体的な対応策が動き出している。こうした前向きの動きが来年の通常国会でも続くのかどうか、そして来年夏の参議院選挙でさらに加速されるのかどうかみていきたいと考えている。(了)