”五輪前解散 困難” コロナ感染再拡大

新型コロナ感染が急増している大阪、兵庫、宮城の3府県に「まん延防止等重点措置」が5日から初めて適用される。

感染は全国的に拡大傾向にあり、政府は感染拡大を抑え込めるか。仮に歯止めをかけることができず、第4波となると菅政権の先行きは一段と厳しくなる。

今回の感染再拡大の兆候は、政権や政治にどんな影響を与えることになるのか、探ってみる。

 変異ウイルス拡大 第4波も警戒

東京など1都3県に出されていた緊急事態宣言が全面的に解除されたのが3月22日。それから2週間も経たないうちに、今度は、大阪、兵庫、宮城の3府県で感染者が急増し、政府は「まん延防止等重点措置」の初めての適用に踏み切った。

重点措置の期間は、4月5日から5月5日までの1か月。3府県の知事が、地域を決めて飲食店の営業時間の短縮要請などの措置を取ることになる。

また、大阪や兵庫など関西地域では、感染力の強い変異型のウイルスの拡大が目立つ。専門家は今後、全国的にウイルスは変異株に置き換わっていくだろうと神経をとがらせている。

さらに、東京をはじめ、山形、愛媛、沖縄など43都道府県で、新規感染者数の増加傾向が続いている。政府コロナ対策の尾身会長は「第4波に入りつつある」と感染再拡大に警戒を強めている。

 重点措置 東京など視野に追加も

こうした感染再拡大への対応について、西村担当相は4日のNHK日曜討論で、東京などの首都圏をはじめ、沖縄、山形、愛媛、奈良、京都、愛知などの都府県の名前を挙げたうえで、「まん延防止重点措置を中心に臨機応変に対応したい」とのべた。

政府は、東京などで感染の急拡大がみられる場合は、この「まん延防止等重点措置」の適用を追加して、感染拡大を抑え込む方針だ。

政府と、東京都など都府県の知事との調整がどのように進むか、今後の注目点の1つだ。

 五輪前の解散・総選挙は困難か

次に今年の政治の焦点である衆議院の解散・総選挙の時期に及ぼす影響はどうか。自民党の二階幹事長は、野党側が内閣不信任決議案を提出した場合は、衆院解散・総選挙に打って出るよう進言すると強気の姿勢を見せている。

また、自民党の一部には、東京オリンピック・パラリンピック前の解散・総選挙をめざすべきだとする見方が出されてきた。4月解散・5月23日投票説や、7月4日東京都議選とのダブル選挙説などだ。

自民党のベテランに見通しを聞くと「コロナ感染を抑え込めないと、解散・総選挙は無理だ。自民党の選挙運動は”蜜”そのもので、支持者は高齢者が多い。万一、感染者や亡くなる人が出たら、それでお仕舞いになる」。

3府県のまん延防止等重点措置の期間は5月5日までと設定されたことで、その前の解散は難しく、5月23日投票説は時間的に不可能だ。

次に7月4日都議選とのダブル選挙説は、5月、6月はワクチン接種が全国の自治体で本格化するとみられること。また、ワクチン接種会場と投票所とが重なっている地域もあることから、ワクチンと選挙の同時実施は困難だとする意見が強い。

さらに、選挙の勝敗への影響。公明党は東京都議選を国政選挙並みに重視している。都議選の時期と衆議院選挙が重なれば、公明党・創価学会票が自民党候補への上乗せ効果が下がり、接戦区で自民党が議席を減らすことになりかねない。このため、自民党はこの時期の解散は避けるとの見方が強い。

菅首相も「最優先はコロナ感染拡大を防ぐことだ」と早期解散には慎重な姿勢を変えていない。したがって「五輪前の解散・総選挙は困難」とみられる。最終的には「五輪後の秋の解散・総選挙」の可能性がさらに強まっているとみてよさそうだ。

 4月感染状況 政権・政局を左右

今後の政治の見方・読み方だが、「4月の感染状況がどうなるか」がポイントになるとみている。

4月は、12日から高齢者を対象にしたワクチンの優先接種が始まる。16日には、菅首相が訪米してバイデン大統領との日米首脳会談が行われる。世界のリーダーに先駆けての会談になるだけに、菅首相としては、政権浮揚のきっかけにしたい考えだ。

感染状況が収まっていれば問題はないが、逆に感染再拡大になっていれば、日米首脳会談効果も帳消しになりかねない。東京オリンピック・パラリンピックの開催環境にも影響してくる。

さらに4月25日には、衆参のトリプル選挙も行われる。衆議院の北海道2区、参議院長野選挙区の補欠選挙、それに参議院広島選挙区の再選挙の3つ。元農相の収賄事件や大規模買収事件が原因の選挙などだ。政府のコロナ対応、一連の相次ぐ不祥事なども有権者の判断材料になるだろう。

コロナ感染状況とトリプル選挙の審判。政権発足後、半年余りの菅政権に対する有権者の評価が示される。政権浮揚に向かうのか、それとも政権直撃・求心力低下となるのか、分かれ道になる。

 ワクチン接種と感染抑止の実績は

最後に国民の関心が強い、ワクチン接種と感染対策について触れておきたい。

ワクチン接種は、4月12日から高齢者の優先接種が始まるが、未だに「いつ、どれだけの分量が届くのかわからない」と自治体関係者の悩みは続いている。5月以降、本格化するのではないかとみられているが、明確な見通しはついていない。

また、仮に高齢者接種が順調に進んだとしても、次は基礎疾患のある人、高齢者施設の従事者のあと、ようやく一般の人たちになる。ワクチン接種の計画・見通しをできるだけ早く示す責任がある。

さらに、ワクチン効果が上がるまでにはかなりの時間がかかるので、当面の感染再拡大を抑え込めるかどうかが、大きな問題になっている。

菅政権の対応を見ていると対策は発表するが、対策がどこまで進んでいるのか説明がなされない。例えば、先月打ち出された変異ウイルス把握の検査拡充や、繁華街などでの無料大規模PCR検査などもどこまで実行できているのか、停滞しているのか、一向に明らかにされない。

今回の感染再拡大に対して、菅政権は「まん延防止重点措置」で飲食店の営業時間短縮で乗り越えようとしている。こうした対策は一定の効果はあるだろうが、限界がある場合は、より強い対策に切り替えていく柔軟性を示してもらいたい。

最初の緊急事態宣言が出されてから、今月7日で1年になる。この間、繰り返し指摘されてきたPCR検査体制の拡充をはじめ、国と自治体との病床確保の調整・整備体制づくり、さらに変異ウイルスの検査強化などの課題について、これまでの取り組みの結果・実績を明らかにすることを強く求めておきたい。

菅政権と”コロナ政局”のゆくえ

菅政権が初めて編成した新年度予算が26日、参議院本会議で可決、成立した。菅首相の長男が勤める放送関連会社が、許認可権を持つ総務省幹部を接待していた不祥事が表面化し、総務官僚2人が辞職する異例の展開となったが、何とか年度内の成立にこぎつけた。

予算成立後の政治はどう動くのか。菅首相の自民党総裁任期は9月末まで、衆議院議員の任期は10月21日まで、残された任期はおよそ半年。「政権発足からまだ半年とみるか、残り任期はあと半年しかないとみるか」で、政治の光景は違って見える。コロナ感染と菅政権のゆくえを分析・展望してみたい。

反転攻勢 訪米、五輪、衆院決戦

コロナ対応をめぐって、世論や野党から厳しい批判を浴びてきた菅首相は、4月を「反転攻勢のスタート」にしたい考えだ。アメリカを訪問し、9日にバイデン大統領と会談し、世界の首脳の中で最初に会談したリーダーであることをアピール、政権運営の追い風にしたいねらいもある。

続いて4月12日からは、これまでの医療従事者の先行接種から、いよいよ高齢者を対象にした優先接種が始まる予定だ。また、菅政権の看板政策であるデジタル改革関連法案は、今国会で成立するのは確実な情勢だ。

さらに延期されてきた東京五輪・パラリンピック大会の開催、感染対策を万全にしたうえで、成功させたい考えだ。

こうした内外課題の実績を積み重ねたうえで、菅首相は9月末の自民党総裁選での再選と、衆議院の解散・総選挙をめざす戦略は変わっていないように見える。菅首相にとって、今後の政権運営のメイン・シナリオだ。

但し、このメイン・シナリオ通りに運ぶかどうか、幾つもの難関・ハードルを越えなければならない。

ハードル① 感染抑え込みできるか

第1のハードルが「新型コロナの感染拡大」を抑え込むことができるかどうかだ。首都圏の1都3県に出されていた緊急事態宣言は、3月21日に全面的に解除されたが、感染状況は予断を許さない。

全国の新規感染者数は、27日は2073人、2日連続で2000人台。2月6日以来の高い水準だ。東京、大阪など関西2府1県の大都市圏だけでなく、宮城県、山形県、愛媛県、沖縄県などの地方でも増え始めた。

変異型ウイルスの広がりを含めて、専門家は第4波の始まりではないかと神経をとがらせている。仮に第4波となると”政府の早すぎた宣言解除”に対する世論の批判が強まり、菅内閣の支持率が再び下落することが予想される。

 ワクチン接種の成否と感染対策

こうした中で、菅首相がコロナ対策の決め手と位置づけているのが、ワクチン接種だ。2月17日に医療従事者の先行接種が始まった。

続いて、4月12日からは65歳以上の高齢者の優先接種が始まるが、ワクチン確保量が少ないため、テスト的な実施に止まる見通しだ。但し、河野担当相は「6月末までに高齢者3600万人が2回接種を受けられる分量は確保できる」との見通しを示している。

与党関係者に聞くと「高齢者接種が本格化するのは5月以降」との見方だ。全国1700余りの市区町村単位で接種を行う大作戦だが、地方自治体関係者の間では「いつ、どれだけのワクチンが届くのか肝心の情報があまりにも少なすぎる」と批判が強い。この大作戦が順調に進むのかどうか大きなポイントだ。

政府コロナ対策の尾身茂会長は、国会での質疑で「高齢者の接種が5月か6月に本格化し、7月に終わったと仮定。さらに一般国民の接種に移るが、今年暮れの時点でゼロにはならない」とのべ、収束は来年以降に持ち越す可能性が高いという見通しを示している。

つまり、ワクチン接種へ国民の期待は大きいが、抑制効果が表れるまでには、かなりの時間がかかる。ということは、短期的には今の対策がカギを握っている。5つの柱からなる総合対策を打ち出したが、実効性に大きな疑問が持たれているのが実状だ。

 ②五輪開催 世論の支持は

第2のハードルは、東京五輪・パラリンピック大会開催で、世論の支持が広がるか否かだ。自民党幹部に聞くと「菅首相の関心は、大会を開催するか否かではなく、開催を前提にしてどのように安全・安心の大会にできるかにある」と語る。

一方、報道各社の世論調査をみると、大会を開催するよりも、再延期や中止を求める意見の方が多い。このため、世界や日本の感染状況がどうなるかということに加えて、開催する場合も大会の意味や位置づけを明確にして、国民の合意を広げられるかどうかが大きな課題と言える。

現状のままでは、大会の成功を国民の多くが喜び、政権の評判が上がり、衆院選の盛り上げにつなげたいという与党関係者の思惑通りには運ばないのではないか。

 ③総裁選、衆院選2つの選挙

第3のハードルは、”今年は選挙の年”なので、大きな選挙を勝ち抜けるかどうか。まず、4月25日投票の”トリプル選挙”と、7月4日の東京の都議会議員選挙。それに秋に任期満了となる自民党総裁選と、衆議院選挙が控えている。

”トリプル選挙”は、衆院北海道2区と参院長野選挙区の補選、それに参院広島選挙区の再選挙の3つ。吉川元農水相の収賄事件、河合案里参院議員の選挙違反事件に伴う選挙などのため、自民党にとっては厳しい選挙になる。1勝2敗説、3連敗説なども取りざたされている。

東京都議選は、各党とも国政選挙並みの取り組みになる。前回は、小池百合子・知事率いる”都民ファースト旋風”で、自民党は歴史的な大敗を喫した。今回は、自民、公明の選挙協力が復活し、議席の回復が見込まれるが、国政の問題が選挙の争点になる。次の「衆院選挙の先行指標」、”菅自民党”の先行きが占える。一連の不祥事などの影響がどう出るか。

菅首相にとって政権維持のためには、自民党総裁選と、衆院選の2つの大きな選挙を勝ち抜く必要がある。感染抑止やワクチン接種が順調に進むケースは、現職の総理・総裁として、優位に選挙に臨むことができる。

逆に、コロナ対策やワクチン接種が滞ると強い逆風となる。特に衆院決戦を控えているので、自民党内から「自らの当選が危うくなる」として、リーダーの交代を求める動きが出てくることが予想される。

これから半年の政局の読み方は、◆菅政権はトリプル補選などが不振に終わっても、直ちに政権が揺らぐ可能性は低い。党内では”コロナ禍の難局、火中の栗を拾う動きは出ない。9月まで菅さんにやってもらおう”との見方が根強い。

◆秋が近づいた段階でも内閣支持率が低迷する場合は、”選挙の顔”を代える動きが一気に噴き出す可能性がある。◆政局が大きく動くのは、自民党総裁選が近づいた段階ではないかというのが、今の時点の結論だ。

なお、政界の一部には、5月解散・6月選挙説、あるいは7月都議選との同時選挙説がメディアで盛んに報道されている。この五輪前の解散・総選挙説があるのかどうかを最後に見ておきたい。

 五輪前の解散・総選挙説は?

結論を先に言えば、確率としては極めて低いとみる。理由は、6月選挙、7月初め選挙となると、先に見たようにワクチンの高齢者接種が本格化している時期だ。その時期の解散・総選挙は「政権の自己都合優先」と世論の猛烈な批判を巻き起こし、政権与党惨敗の可能性もあるのではないか。

また、選挙の実務面でも全国の市区町村の負担はたいへんだ。ワクチン接種会場と投票所が重なったり、選挙管理の要員のやりくりなどに忙殺されるだろう。

さらに選挙への影響としては、与党の公明党は都議選を重視しており、選挙の時期が接近すると自民党との選挙協力がうまく機能しないことになる。接戦選挙区の自民党候補は、落選が相次ぐといった事態も予想される。

”選挙大好き人間”と言われる菅首相は、こうした事情は百も承知で、五輪前の解散・総選挙は選択しないとみる。任期満了か、それに近い時期の解散・総選挙を選択するのではないか。

以上、みてきたように、これからの政治は、ワクチン接種を含めたコロナ状況で大きく変わる。従来の伝統的な政局の見方・読み方と大きく異なる点だ。

同時に、この半年余りの間に衆院選挙が確実に行われる。「コロナ激変時代の選挙」の備えが重要だ。自らと家族の生活、将来の経済・社会づくりをどのような勢力、リーダーにゆだねるのか。今から政治の動きをじっくり注視、選挙に備えていただきたい。

”後手と迷走”脱却できるか?菅政権

東京など1都3県に出されていた緊急事態宣言が、21日解除された。これによって、年明け1月7日に決定された緊急事態宣言は、2か月半ぶりに全面的に解除された。

政府は引き続き、国民に感染対策の徹底を求めるとともに、無症状の感染者を洗い出すため、繁華街などで無料のPCR検査を行うなどして、感染のリバウンド・再拡大防止に全力を挙げることにしている。

こうした対策で本当に感染を抑え込めるのかどうか、菅政権の対応に焦点を当てて、何が問われているのか考えてみたい。

  後手と迷走  政権のコロナ対応

去年4月に出された最初の緊急事態宣言に続いて2回目となった今回の緊急事態宣言を振り返って見ると、菅政権の対応は”後手と迷走”の連続だった。

菅首相は年末、緊急事態宣言を出す必要はないと明言していたが、年末から年始にかけて新規感染者が急増、1月7日に1都3県の宣言発出に追い込まれた。続いて、1週間後の13日に大阪、愛知など7府県に拡大、さらに2月入って1か月延長を決定。その後、大阪など6府県が解除されたが、1都3県は2週間の再延長、ようやく今回、解除となった。

この間、コロナ対策の特別措置法の改正が実現した。行政罰の導入などを盛り込んだ法改正だが、本来、去年の第1波、第2波が収まった後、直ちに改正すべきだったとの指摘は与野党双方から聞かれた。このように菅政権の対応は、後手と迷走が続いた。

 政権の司令塔機能の立て直し

菅首相は、緊急事態宣言の解除に合わせて、5つの柱からなる総合対策を打ち出した。飲食店の感染防止、変異ウイルス対策、ワクチン接種の推進、医療提供体制の充実などだ。

こうした対策はいずれも必要だが、菅政権の問題点は対策を打ち出しても、どこまで改善が進んでいるのか、停滞しているのか、実態がよくわからないことが多い。総理官邸が中心になって、対策を打ち出すだけでなく、進捗状況を点検し、目詰まりがあれば調整・是正していく「政権の司令塔機能」が弱い。

例えば、今回の対策でも打ち出された高齢者施設のPCR検査の拡充、無症状の感染者を洗い出すため繁華街などでの大規模なPCR検査、病症確保のための病院間の調整などはいずれも去年の段階から、必要性が指摘されてきた内容ばかりだ。

菅首相は官房長官時代、危機対応に手腕を発揮してきたと評価されてきたが、自らの政権では、対策の目詰まりが目立つ。各省庁を動かし、自治体や医療機関などとの連携・調整していく機能を強化、そのための政権の体制の立て直しが必要だ。

 感染収束へ道筋の提示を

今回の総合対策に関連して、もう1つの注文は、こうした対策が進んだ場合、コロナ感染の収束の見通しはどうなるのか、道筋を示してもらいたい。国民にとって、”コロナ対応生活”は既に1年2か月、これからの生活はどうなるのか。事業者にとっては、今後の事業継続のためにも判断材料が欲しい。

一方、今月25日には、東京オリンピック・パラリンピック大会の聖火リレーが始まる予定だ。政府は、コロナ感染に対する安全対策を徹底させて開催する方針だが、世論調査によると国民の間では、開催に慎重・反対論も多い。それだけに大会の意義や安全対策を議論していく上でも感染収束の見通しなどが必要だ。

コロナ感染の収束には、ワクチン接種が決め手になる。政府のコロナ対策分科会の尾身会長は、先の参議院予算委員会で、正確な見通しは誰もできないと断った上で、次のような見通しを示している。

今の医療従事者に続いて、高齢者の接種が5月以降本格化し7月に終わると仮定するとその後、一般国民の接種が進む。その結果、今年暮れまでには、今よりも感染レベルが下がることが期待される。但し、12月頃もゼロにはならないので、収束は来年以降になるという見通しを示している。

こうした専門家の見通しなどを踏まえて、政府はどのような道筋を描くのか。正確な予測は困難だが、オリパラ大会前後の感染状況はどの程度を想定して準備を進めるか。社会・経済活動再開の条件や時期をどのように設定するのかといった見通しが欲しい。

アメリカのバイデン大統領は、7月4日の独立記念日までに生活の正常化に道筋をつける考えを表明した。菅首相も政権発足から半年が過ぎた。ワクチン接種を含めて感染収束への道筋や目標を示してもらいたい。

その上で、政権与党と野党が今後の感染対策の重点をどこに置くのか。また、社会・経済の立て直しをどのように進めていくのか、突っ込んだ議論をみせてもらいたい。

 

菅首相のラストチャンス ”宣言”解除

首都圏の1都3県に出されていた緊急事態宣言が21日に解除されることが、18日に決まった。これによって、1月8日に発出された緊急事態宣言は、およそ2か月半ぶりに全面的に解除されることになった。

しかし、国民の側には宣言解除による安堵感は少なく、これから本当に大丈夫なのか、不安感の方が強いのではないか。

一方、政権を担当する菅首相にとっても一息つくような状況にはなく、万一、感染拡大になれば政権維持は難しい。自民党総裁任期は半年後に迫っている。

それだけに今回の宣言解除は、今後の政権浮揚につなげられるかどうかの”ラストチャンス”と言えるのではないか。宣言解除の意味や政治への影響を考えてみる。

 ”1本足打法”の限界 宣言解除

今回の緊急事態宣言の解除について、菅首相は18日夜の記者会見で「1都3県の感染者数は、1月7日の4277人から、18日には725人まで8割以上減少した。飲食店の時間短縮を中心にピンポイントで行った対策は大きな成果を上げている」と胸を張った。

これに対して、医療の専門家などは「東京について、ステージ3、感染者数500人程度を目安にするのではなく、さらに減少させ100人程度をめざすべきだ」との声が強かった。東京の18日の感染者数は323人、この1週間の平均は前の週を上回る状態だ。

こうした感染者数の下げ止まりは、これまでの政府の対策、飲食店の時間短縮に絞った”1本足打法”の限界ではないか。政府関係者からも「今の対策を続けても効果は小さい」といった声も聞く。

一方、国民の側にも”自粛疲れ”、”緊急宣言疲れ”が見られる。こうした点を考えると、緊急事態宣言は多くの国民の協力で感染拡大に歯止めをかける効果を上げたのは事実だが、今の対策では限界もある。したがって、やむを得ない解除といった側面があるかもしれない。今回の評価は中々、難しい。

 総合対策、時期と責任を明確に

問題は、解除後の対策をどうするかだ。政府は、5つの柱からなる総合対策を決めた。主な柱は、飲食の感染防止、変異ウイルス対応、戦略的な検査の実施、安全・迅速なワクチン接種、それに医療提供体制の強化だ。

こうした対策は、いずれも必要な対策で、中身の評価はそれぞれの専門分野の担当者に任せたいが、個人的な受け止め方をいくつか触れておきたい。

1つは、対策の打ち出しが遅い。変異ウイルスとワクチン接種を除くと去年の第2波の後、指摘されてきた延長線上の政策だ。

第2に規模が小さい。例えば、変異ウイルス対策。陽性者の抽出、再検査する割合について、今の10%程度から40%程度に引き上げるとしているが、大幅に増やすべきではないか。専門家の中からも同様な指摘が聞かれる。

第3にカギとなる医療提供体制についても、コロナ病床、軽症者用のホテル、自宅療養などの役割分担を進めるとしているが、中々、進まない。どこに目詰まりの原因があるのか調べ、早急に手を打つ必要がある。実効体制がカギだ。

その上で、昨夜の菅首相の記者会見で気になったのは、こうした対策を実行することで、いつ頃を目標に感染の収束をめざすのか。できない場合は、どう責任を取るのか、記者団から質問が出されたのに答えなかったことだ。総合対策と銘打ちながら、時期と責任をはっきりさせないと迫力にかける。

 ワクチン成否 菅政権の命運左右

菅政権と今後の政治の動きを見ておきたい。菅首相にとっても緊急宣言解除後の総合対策が実行に移せるのかどうか正念場が続く。

仮に感染対策の効果が思うように上がらず、変異株による感染が拡大。あるいは、東京オリンピック・パラリンピックの開催ができないような事態になった場合は、首相・政権は”即アウト”となる公算が大きい。

それだけにコロナ対策、中でも決め手となるワクチン接種が、大きなカギを握っている。医療関係者への優先接種は順調に進んでおり、現在1日8万人ペースで進んでいる。来月12日からは高齢者への優先接種、そして6月までに少なくとも1億回分が確保できる見通しだという。

問題は、全国1700余りの市区町村での接種が順調に進むかどうか。また、国民の大半の接種を終えるまでには、かなりの時間がかかる。その間、感染拡大を抑えられるか、難しい対応が続く。

ワクチン接種がうまく行けば、菅政権の政権浮揚の大きな推進力になる。逆に接種計画に支障が出たりすれば、逆風になって跳ね返ってくる。つまり、ワクチン接種の成否は、菅政権の命運や、これからの政局を大きく左右することになる。

 菅首相続投か否か、ラストチャンス

今年の政治は、9月末が自民党総裁の任期切れ、10月21日が衆議院議員の任期満了日。政界関係者の間では、再び感染拡大となれば、菅首相の総裁再選・続投は難しくなる。ワクチン接種が順調に進んだ場合も、総裁選立候補のハードルを越える意味を持つが、勝てるかどうかはわからないという見方もささやかれている。

一方、自民党内の一部には、菅首相はワクチン接種が本格的に始まれば、7月の東京都議選に合わせて衆院解散・総選挙に打って出るのでないかとの見方もある。しかし、感染危機が収まらない中で、解散・総選挙に踏み切った場合、有権者から猛烈な反発が出てくることは、容易に想像できる。ワクチン接種が本格化し、軌道に乗るまでは、地方自治体にとって選挙どころではない。

菅首相も記者会見では「優先すべきはコロナの収束が、私の責務」と明言した。この発言は、国民の側からみると評価できる。与野党ともに衆院選は秋が基本、それまでは、コロナ対策に総力を挙げようというのが基本ではないか。

私たち国民の側もコロナ対策の取り組みを中心に、政権与党、野党側の対策・対応を見極めて、選挙で選択をする。そのための判断材料集めを始める時期ではないかと考える。

 

 

 

不祥事でも内閣支持率が上がる訳は?

東京など1都3県に出されているコロナ対策の緊急事態宣言は2週間の延長戦に入ったが、報道機関の3月の世論調査で菅内閣の支持率が上昇に転じた。

複数の知人から「コロナ対策で目立った成果がないのに、どうして内閣支持率は上がるのか」。「菅首相の長男が接待事件を起こし、役人が処分される不祥事が続いているのに内閣支持率が上がる理由は何か」。「長期政権で世の中は、倫理に不感症になってしまったのか」といった質問やご意見をいただいた。

そこで、今回は”不祥事でも内閣支持率が上がる訳はどうしてか”を取り上げる。なお、私は世論調査や統計学の専門家ではない。40年余り政治取材を続けているジャーナリストの分析・見方であることを最初にお断りしておきたい。

 ”支持が不支持を上回る” 3か月ぶり

読売新聞とNHKが8日にそれぞれ3月の世論調査結果を報道した。菅内閣の支持率は、◆読売新聞が「支持」が前月より9ポイント上昇して48%、「不支持」が2ポイント下がって42%。◆NHKは「支持」が2ポイント上がって40%、「不支持」が7ポイント下がり37%。いずれも支持が不支持を上回っており、去年12月以来3か月ぶりのことになる。

NHKの支持率は40%に対し、読売新聞の支持率は48%と高い。これは、読売新聞の調査は「重ね聞き」。つまり、支持か不支持かわかりにくい場合、重ねて聞く方式を採用しているため、支持率が高くなるとみられている。なお、データは、3月8日読売新聞朝刊、NHKNEWSWEBから引用している。

 支持率は「政府対応の評価」に比例

最初に菅内閣の支持率が上昇したのはなぜかという問題。結論を先に言えば、菅内閣の支持率は、コロナ対策の「政府対応の評価」に比例しており、この評価が改善しているからだということになる。

具体的にどういうことか。以下、NHKのデータで説明していきたい。「内閣支持率」と「政府対応の評価」は次のようになっている。

◆支持率 =9月62%→11月56%→12月42%→1月40%→2月38%→3月40%

◆対応評価=9月52%→11月60%→12月41%→1月38%→2月44%→3月48%

このように政府対応の評価が12月以降、大幅に下がると支持率も急落。2月以降、政府対応の指標が改善すると支持率も次第に上昇していることがわかる。

政府の対応策で具体的な成果が上がったというよりも、感染者数が減少し感染状況が落ち着いてきたことが、国民の安心感につながったという面が大きい。

また、ワクチンの医療従事者への先行接種が始まり、国民の間でも「接種したい」という希望者が67%へと増えていることも政府対応の評価につながったものとみられる。要は、政府対応の評価が改善してきたことが、内閣支持率の上昇につながった主要な要因とみることができる。

首相長男らの不祥事に厳しい視線

一方、菅首相の長男が勤める放送関連会社が、総務省の幹部を接待していた問題が明るみになるなど菅政権では、不祥事が相次いでいる。

このうち、総務審議官時代に1回7万円の高額接待を受けていた山田真貴子・内閣広報官が辞職した問題について「菅首相の説明は十分か」を質問で取り上げている。「十分だ」という答えはわずか15%、「不十分」が65%と圧倒的多数だ。

また、総務省や農林水産省の幹部職員が接待を受けていた問題で「行政はゆがめられたと思うか」については「ゆがめられたと思う」が56%、「思わない」の24%を大幅に上回っている。

世論は、菅首相の長男らによる高額接待と官僚の倫理違反、菅首相の説明責任を厳しい視線でみていることが読み取れる。

 世論の関心事項と調査のタイミング

それでは、なぜ、不祥事が相次ぐ中で、内閣支持率が上昇するのか。この理由を説明できる決定的な判断材料があるわけではないが、幾つかの要因が考えられる。

1つは世論の関心事項だ。菅内閣発足の際に「政権に最も期待すること」については、最も多かったのがコロナ対応がだった。また、毎月の世論調査でも「感染の不安」を感じる人の割合は80%と高い水準が続いている。世論の最優先の関心事項は、不祥事よりもコロナ対応だとみられる。

次に調査のタイミングの問題がある。今回の調査を実施した3月第1週は、期限が来る1都3県の緊急事態宣言の扱いと、総務省の接待問題が同時平行的に進んでいた。

ところが、宣言解除に強い意欲を示してきた菅首相が週の半ばに、宣言延長へと方針転換を記者団に表明し、大騒ぎになった。小池都知事の機先を制するねらいもあったと思われるが、政治決断を印象づけた。

そして週末に緊急事態宣言の延長を正式決定、メデイアは大きく取り上げた。世論の多数も延長支持が多かったように思われるが、世論の関心事項と調査のタイミングが相まって支持率上昇につながったとみている。

このほかの要因、例えば、コロナ感染拡大という危機の中での国民の意識。例えば、危機を乗り切るまで、国民の側は首相の交代や政治の大きな変動は避けようとするのではないかといった見方。

あるいは、自民党内に次の有力なリーダー候補が見当たらないこと。野党の政権交代も難しく、国民にとって別の選択肢がないことが、政権の維持を助けているといったことも考えられるが、今回どこまで影響を与えたかは不明である。

要は、これまでみてきたように感染の落ち着きに伴う政府対応の評価の改善が、主な要因で、それに加えて、世論の関心と調査のタイミングが重なった結果という見方をしている。

 支持率低下も、政権先行き不透明

そこで、菅内閣の支持率は今後どうなるのかという問題が残る。NHKの調査では支持と不支持の差は、わずか3%だ。「支持と不支持が拮抗」というのが実態ではないか。

その支持の内容も「自民支持層の内閣支持の比率」は60%台半ば、前の月とほぼ同じ水準。政権発足当初は85%あったのに比べると大幅に落ち込んだままだ。

今回、改善したのは、最も多い無党派層で支持の割合が20%台から6ポイント増えたためだが、無党派層なので支持離れに転じる可能性は大きい。支持基盤は、引き続き不安定な状態にあることに変わりはない。

菅政権にとって安定した政権運営を行うためには、最大の課題であるコロナ感染を抑え込めるかどうか、そのためには、決め手となるワクチン接種が順調に進むかどうかにかかっている。但し、高齢者の本格的な接種は当初の4月から、本格的な接種は、5月以降にずれ込む見通しだ。

一方、総務省の接待問題では、総務官僚No2の谷脇総務審議官がNTTからも高額な接待を受けていたことが確認され、更迭された。菅政権の看板政策である携帯電話料金政策などの推進役を失うことになった。

また、週刊文春が、新たに総務大臣を務めた野田聖子幹事長代行や、高市早苗元政調会長らが在任当時、NTTの社長らと会食していたなどと報じた。さらに、菅首相の長男が勤める「東北新社」が放送法の外資規制に違反していたにもかかわらず、衛星放送の事業認定が取り消されなかった問題も明らかになった。

自民党の閣僚経験者に政権への影響を聞くと「政府のコロナ対応や、不祥事に対する国民の不信感は強い。他に選択肢がないから”仕方なく支持”といった雰囲気を感じる」と警戒を強めている。

当面の政治は、2つのファクターがカギを握る。1つはワクチン接種を軸にしたコロナ対応が軌道に乗るか。もう1つが一連の不祥事乗り切りができるかどうか。菅内閣の支持率、政権のさき行きも不透明だ。

 

”土俵際の菅首相” 緊急宣言再延長

東京など1都3県に出されている緊急事態宣言について、政府は今月7日の期限を2週間延長し、今月21日までとする方針を決めた。これを受けて、菅首相が5日夜、記者会見をして、感染対策の徹底を呼びかけた。

政府は「この2週間が瀬戸際だ」と強調するが、菅首相の記者会見を聞いても、2週間に設定した理由をはじめ、達成目標、具体的な対応策もよくわからない。

一方で、目立った成果が上がらないと首相の実行力が改めて問われる。菅首相は、”土俵際”に追い詰められつつあるように見える。そこで、菅首相の記者会見の中身を点検してみたい。

 再延長の目標、具体策も見えず

菅首相の記者会見で聞きたかった点は、なぜ2週間の延長にしたのか。この期間で達成する目標と、そのためにどんな対応策を打ち出すのか。コロナ対策の今後の出口をどう考えているのかの3点だ。

まず、今回の延長について、菅首相は「1都3県については、ほとんどの指標が当初、目指していた基準を満たしているが、病床の使用率が高い地域があるなど依然、厳しさがみられる」とのべた。

その上で、「2週間は感染拡大を押さえ込むと同時に、状況をさらに慎重に見極めるために必要な期間だ。こうした点を総合的に考慮し判断した」と説明したが、2週間に設定した根拠・理由には言及しなかった。

次にこの期間で達成する目標や宣言解除については「目標としては、ステージ3の段階で、病床使用率が50%未満。病床使用率引き下げの努力をしっかりと行い、体制をつくることが、この2週間でやるべきことだ」とのべ、従来の目標を重ねて強調した。

今後の対策については、「飲食店の時間短縮、不要不急の外出の自粛やテレワークを徹底していく。さらに高齢者施設などでの感染を早期に発見するため、3万の施設で検査を行う。また、市中感染を探知するため、無症状者のモニタリング検査を行う」という考えを示した。

このように政府の対策は、高齢者施設の検査体制強化も従来の対策の延長で、新たに踏み込んだ内容は打ち出していない。専門家や自治体関係者からは「新たな対応策がないまま、病床の使用率の低下を目標に掲げ、短期間に実現できるかどうかは疑問だ」という見方も聞かれる。

 菅首相と小池知事の駆け引き

今回の宣言再延長では、菅首相と小池・東京都知事の駆け引きが大きく影響したとの見方が政界関係者の間では強い。

菅首相は、今月3日、記者団の”ぶら下がり取材”に応じ「緊急事態宣言の2週間程度の延長が必要ではないか」とぶち上げた。それまで菅首相は、7日で宣言を解除し、経済活動の再開に道筋をつけたい考えを示していた。その方針を大きく転換した。

こうした背景には、小池都知事が、千葉、神奈川、埼玉の3県知事と「再延長を政府に要請しよう」という動きが伝えられていた。政府は1月に宣言を発令する直前に、小池知事をはじめとする4県知事から発令要請を突きつけられた形になり、後手に回ったと批判を浴びた。今回は、そうした小池知事の機先を制するねらいがあったとみられている。

今回、菅首相は”小池劇場”を回避することはできたが、小池知事に振り回されている状況には変わりがないようにもみえる。感染状況や病床確保などの改善ができなかった場合、菅首相と小池知事との間で確執が再燃する可能性もある。

今回の緊急事態宣言は、年明けの1月7日に方針決定。菅首相は「1か月で必ず改善させる」と宣言。2月に1か月の延長を決定し「1か月で全ての都道府県で解除できるよう対策の徹底を図っていく」と表明。今回の再延長は、去年4月の最初の宣言以来初めてだ。次第に「土俵際」に追い詰められているように見える。

 コロナ出口戦略 不祥事対応も

菅政権にとっては、コロナ対策の出口戦略を示すことができるかどうかも大きな課題だ。今後、コロナ感染をどのように抑制し、社会・経済活動を本格的に再開していくのか。東京オリンピック・パラリンピックの開催問題も含まれる。

この出口戦略について、菅首相は5日の記者会見では踏み込んだ発言は避けた。しかし、今月25日には、東京オリ・パラの聖火リレーがスタートする予定だ。菅首相は五輪開催の方針だが、そのためには今後の感染防止対策や、ワクチン接種の進め方を含めた出口戦略を打ち出す必要がある。

一方、記者会見では、菅首相の長男が勤める放送関連会社が総務省幹部を接待していた問題や、新たに情報通信大手のNTTも総務省幹部を接待していた問題について、複数の記者から質問が出され、この問題に対する関心の強さを印象づけた。

菅首相は「接待でいろんな問題が出ているが、国家公務員に倫理法をしっかりまもってもらうことは当然だ。その中で、もう一度、私自身が、関係大臣や倫理監督官を通じて、徹底するようにしていきたい」と防戦に追われた。

コロナ対策では、国民の協力がなければ感染収束は一歩も進まない。一方で、政権の側が、中央省庁の官僚が高額な接待を受けていた問題を曖昧なままにしていれば、国民の反発を買いコロナ対策に跳ね返る。一連の不祥事に早期にケジメをつけられるか。不祥事対応の面でも、菅首相は土俵際に立たされている。

揺らぐ菅政権 “国民感覚とズレ”

新年度予算案が2日衆議院本会議で、自民、公明両党などの賛成多数で可決され参議院へ送られた。これによって、新年度予算案は年度内に成立する。

通常国会前半の焦点である本予算の成立にメドがつき、例年であれば政府・与党内に安堵感が広がるが、今の菅政権にはそうした余裕は全く感じられない。

菅首相の長男が勤める放送関連会社の接待問題などが尾を引いており、予算審議の大詰めの段階に内閣広報官が辞職するという失態も招いてしまったからだ。

菅政権は特にこの1か月、相次ぐ失言・不祥事に振り回されている。加えて、事態収拾に当たる菅首相の判断に「国民感覚とのズレ」が目立つ。

政府・与党内からも「菅政権は、フラフラの状態で揺らいでいる。果たして、コロナ危機を乗り切れるかどうか」と政権の先行きを危ぶむ声も聞かれる。予算案の衆院通過という節目に菅政権が抱える問題点を探ってみる。

 抜擢 内閣広報官 辞任の衝撃

菅政権に衝撃を与えたのが、山田真貴子・内閣広報官の辞職だ。山田氏は、菅首相の長男が勤務する放送会社「東北新社」から、総務審議官時代に1回1人7万円の接待を受けていたことが明らかになり、世論の厳しい批判を浴びた。

その山田氏は、第2次安倍政権で女性として初めての首相秘書官に起用され、退職後も去年9月菅内閣発足とともに初の女性内閣広報官に抜擢された。総務相時代から菅首相の強い後押しがあったとされる。

野党側は、山田氏を接待問題の参考人として衆院予算委員会に出席するよう求めていた。予算審議が大詰めの段階で、山田氏が辞職するといった事態は、政権幹部も想定していなかったのではないか。

菅首相は2月26日の時点でも山田氏を続投させる意向を示していたが、わずか3日で方針変更に追い込まれた。与野党からも「山田氏は早く辞めさせた方がいい」との声が出されていた。

菅政権の対応をめぐって「後手」という批判が強いが、判断の遅れというよりもむしろ「国民感覚とのズレ」と「判断の誤り」が多い。山田氏の問題についても衛星放送の許認可権を持つ総務省の総務審議官時代、利害関係者から高額な接待を受けていた以上、直ちに交代させるのが国民の普通の感覚・判断だ。

 ”不祥事・危機管理対応”に失敗

この問題は、元をたどると菅首相の長男に行き当たる。2月3日夜「文春オンライン」が緊急事態宣言が出されていた時期に総務省幹部4人を接待していたと報じた。当初、総務省幹部は、放送事業は話題にならなかったと否定していたが、音声データを突きつけられて、ようやく事実関係と相手が利害関係者にあたることを認めた。

その後、総務省の調査で、幹部13人が延べ39回にわたり接待を受けていたことが明らかになり、24日に11人が処分された。調査と処分が決まるまで3週間もかかったことになる。

一方、贈収賄事件で起訴された吉川元農相と鶏卵生産業者との会食に同席、接待を受けていた農水省の枝元事務次官ら幹部6人は、25日に処分を受けた。吉川元農相が起訴されたのは1月15日だから、こちらは1か月以上も経過している。

このように菅政権の対応をみていると事実関係の確認、処分、再発防止策などの危機管理対応に時間がかかる。これでは政治・行政への信頼回復は期待できない。危機管理対応は十分機能しておらず、失敗と言わざるえない。

 菅首相の姿勢、政権の対応は

総務省の接待問題で、菅政権の危機管理対応がなぜ、機能しないのか。1つは、菅首相の姿勢、対応の仕方に問題がある。

菅首相は「私の家族が関係して、結果として、公務員が倫理法に違反する行為をすることになって心からおわびする」と陳謝するが、長男とは「別人格」だとして、自らの考え方や具体的な対応策には一切示さない。

しかし、菅首相は長男を総務大臣当時、政治任用の大臣秘書官に起用し、その後、総務省と関係の深い「東北新社」に就職している。会食に応じた官僚の中には、長男とは秘書官当時に知り合いになった幹部もいる。さらに菅首相は、官房長官時代も内閣人事局などを通じて、総務省に強い影響力を維持しているとみられている。

そうすると菅首相は、今一度、長男が関与した今回の問題をどのように考えているのか。また、公正な電波行政、電波の許認可などの進め方などについても明らかにすべきだと考える。

 首相に直言する側近、幹部の不在

もう1つの問題としては、首相に直言できる側近や、幹部がいない点がある。政界関係者の1人は「菅氏は、安倍政権では官房長官として危機管理に優れた能力を発揮した。しかし、菅政権にはそうした人材が見当たらない」と指摘する。

加藤官房長官はどうか。堅実さはあるが、政府全体を引っ張って行くタイプではない。一方、菅首相もどこまで加藤氏を信頼しているのかわからない。無派閥の首相と官房長官との関係、「政権の軸の弱さ」を指摘する声も聞く。

菅首相は、この間のさまざまな不祥事について、引き続き参議院の予算審議の中で野党側の追及を受けることになる。

一方、コロナ対策については、緊急事態宣言が続く1都3県の扱いと、大規模なワクチン接種の準備体制。さらには延期された東京五輪・パラリンピック開催問題が大きな課題として待ち受けている。

このため、今後の政治をみていく上では、当面、コロナ感染の抑制とワクチン接種の準備体制が順調に進むのかどうかが、菅政権の先行きを左右する大きなポイントになるとみている。

 

 

 

 

 

首相は政治責任を明確に!総務省接待問題

総務省の幹部と放送関連会社に勤める菅首相の長男らとの会食をめぐり、総務省は、幹部職員ら13人が延べ39回にわたり接待を受けていたとする調査結果を発表した。

総務省は、このうちの11人が国家公務員倫理法に基づく倫理規程に違反するとして、24日にも処分する方針だ。

一方、こうした接待で放送行政が歪められることはなかったのか。総務省幹部はなぜ、繰り返し接待に応じたかなどの背景も明らかになっていない。

菅首相は長男が関係している問題であり、政治・行政に疑念を生じさせないためにも自らの政治責任を認め、事実関係などの再調査を行う必要がある。

 驚く、課長から審議官まで接待づけ

菅首相の長男が勤める放送関連会社「東北新社」が行っていた接待は、当初、総務省幹部4人が対象とみられていたが、その後の調査で13人までに広がった。

新たに判明したのは課長級が中心で、衛星放送の担当や放送政策担当の課長など8人。他に山田真紀子内閣広報官も総務審議官当時、会食していた。課長クラスから局長、次官級審議官まで放送通信行政に関係する幅広い幹部が接待を受けていたことに驚かされる。接待づけと言っていいような実態が浮き彫りになった。

こうした幹部は、総務省の調査に対して「放送業界全体の実情の話はあったかもしれないが、行政を歪めるような話はなかった」と説明したという。

国会での質疑でも、こうした幹部は「一般的な会合で、衛星放送など個別具体的な問題は話題にならなかった」と否定していた。しかし、「文春オンライン」の音声データをつきつけられて、ようやく話題になったことは認めた。

但し、本当に放送行政を歪めたり、首相の長男が勤める会社を優遇したりすることはなかったのか、総務省の調査や国会の質疑でも肝心な点は明らかになっていない。

 首相の政治責任 再調査の指示を

菅首相は22日の衆議院予算委員会で「私の長男が関係して、結果として、公務員が倫理法に違反する行為をすることになって心からおわびする」と陳謝した。

だが、今後どのように対処していくのか明らかにしていない。野党の追及に対しては「長男とは別人格。就職の面倒はみていないし、仕事の話もしていない」と突っぱね、総務省の調査に任せる姿勢に終始した。

首相の対応をどうみるか。”長男とは別人格”は形式的にはその通りだが、実態的に首相の関わりは大きい。長男は、25歳の時に菅氏の総務大臣秘書官に抜擢された。その後、菅氏と同郷の創業者の「東北新社」に入社、子会社の衛星放送会社の役員も務めている。今回、接待を受けた総務省幹部の中には、総務大臣秘書官当時、知り合った人もいる。

菅氏は、総務省に隠然たる力を持っていると政界や霞が関でみられている。加えて、長年官房長官を務め霞が関人事を掌握、首相にまで上り詰めた。総務省の官僚からすれば「その首相の長男から誘いの宴席は断りづらい」と受け止めるのは容易に想像がつく。

首相の子息や身内が、行政に影響を与え問題を複雑化するのは、安倍政権での昭恵夫人の例はあったが、それまでの歴代政権でほとんどなかった。それだけに菅首相の政治責任は重いのである。

菅首相は身内の長男が絡む問題であり、官僚に倫理違反行為を取らせた責任を率直に認めた上で、官僚が繰り返し接待に応じた背景や行政に影響がなかったのかどうか、再調査を指示することなどが必要ではないか。その再調査も役所の調査では限界があるので、第3者の調査が望ましいと考える。

 政治の責任を明確に 具体策は?

国家公務員倫理法と倫理規程は、98年の旧大蔵省接待汚職事件がきっかけになって制定された。その後、倫理規程違反の事案は散発的に起きたが、今回のように課長から局長、次官級審議官まで幹部総ぐるみで違反対象になる事態は初めてだ。

総務省は24日に倫理規定違反の幹部職員を処分するが、官僚に責任を取らせるだけでは、トカゲの尻尾切りと批判を浴びるだろう。大蔵省接待汚職事件の際も官僚だけでなく、三塚蔵相は引責辞任した。

今回の問題の核心は菅首相の長男にあり、その背後にいる菅首相も影響を及ぼしている。総務省は、会食の相手先が利害関係者にあたるかどうかを確認する仕組みを導入するなどの再発防止策を検討しているようだが、技術的で小手先の対応と言わざるをえない。

菅首相としては、問題の核心である政治の責任をどう取るのか。総務相の監督責任、接待事件の調査のあり方などを含めて、信頼回復のための具体的な対応策を打ち出す必要がある。

また、菅政権の最優先課題はコロナ対策であり、感染の押さえ込みをはじめ、東京オリンピック・パラリンピックの開催問題、ワクチンの大規模接種など国民の理解と協力を求める場面が数多く予想される。国民から疑念を持たれるような対応を取れば、菅政権の政権運営にも影響が出てくるのではないか。

“ワクチン、不祥事、首相の力量” 政治のカギ

「2月は逃げる」と言われるように、今月の政治をめぐる動きは驚くほど早い。五輪組織委員会の森会長辞任と後任選びは混乱の末、橋本聖子氏に決まった。総務省幹部が菅首相の長男から接待を受けていた疑惑は、国会で与野党の攻防が続いている。

菅政権は発足からちょうど5か月が経った。これからの政治はどう動くのか。結論から先に言えば、カギは”ワクチン、不祥事、首相の力量”の3つになるのではないか。なぜ、こうした結論になるのか、さっそく見ていきたい。

 ワクチン成否 菅政権の命運を左右

新型コロナウイルスのワクチン接種が17日から国内で初めて、医療従事者およそ4万人を対象に先行して始まった。ワクチン接種に国民の期待は大きい。菅首相も「感染拡大防止の決め手で、何としても収束に向かわせたい」と決意を表明した。

ワクチン接種が成功するか、失敗するかは、政権のゆくえにも大きな影響を及ぼす。菅内閣の支持率が急落したのも「政府のコロナ対応」を評価しない意見が大幅に増えたからだ。

逆に言えば、感染防止に成功すれば、菅政権は意気を吹き返す可能性はある。はっきり言えば「コロナ次第。押さえ込めば菅再選もあるし、失敗すればお終いだ」(自民党長老)。ワクチン接種の成否は、菅政権の命運を左右するカギだ。

そのワクチン接種、2つの難問を抱えている。1つは、ワクチン確保の量と時期のメドが未だについていないこと。ファイザー社からの輸入にはEUの規制がかかっており、順調に契約量が入ってくるか不透明だ。

もう1つは、4月から本格化するワクチン接種の体制づくりだ。全国の市区町村ごとに実施されるが、大都市圏から過疎、離島まで全国1700市区町村。人口、交通の便、医療など条件は実に様々だ。集団接種か、個別接種かにはじまり1700通りのやり方で、国民のほぼ全員を対象にした例のない接種大作戦が始まる。

その大作戦も実施スケジュールもメドがついていない。順調に進むのかどうか、自治体、菅政権にとっても手探りの準備が続く。

但し、1つだけ明確になったこともある。衆院解散・総選挙の時期だ。一部に4月解散、あるいは通常国会会期末の6月解散説も取り沙汰されてきた。しかし、ワクチン接種大作戦が軌道に乗るまで、解散・総選挙はとてもムリだ。国民から総反発を食らう。10月任期満了か、その前の秋の解散・総選挙が確実になったとみていいだろう。

 不祥事続発、調査進まず ”滞留”も

2つ目のカギは、不祥事が続発していることだ。特に2月に入り、日替わりのように失言、不祥事が相次いでいる。

◆緊急事態宣言が出されている深夜に自民党の議員と、公明党議員がそれぞれ東京銀座の高級クラブに出入りしていたことが明らかになり、2月1日に自民党議員3人は離党、公明党議員は辞職に追い込まれた。

ところが、自民党の当選3回、白須賀貴樹衆議院議員が同じく緊急事態宣言下の2月10日夜遅く東京麻布十番の高級ラウンジを訪れていたことが明るみになり、17日に離党した。国民に宣言に基づく自粛を求めながら、自らは宣言破り、この規範意識のなさには唖然とさせられる。

◆東京五輪組織委員会・森会長の女性蔑視発言も内外から厳しい批判を浴びた。森会長は辞任に追い込まれ、後任選びも迷走、日本の五輪組織や日本社会のジェンダー意識の後進性などが浮き彫りになった。

この問題は、組織委員会の候補者検討委員会が18日、後継会長候補に橋本聖子・五輪担当相に1本化して要請、橋本氏が受諾して新しい会長に就任した。

政治の側の対応をめぐっては、森会長の発言が表面化した時に、菅首相が見解などを表明していれば、ここまで混迷しなかったとの見方もある。ただ、森氏は、安倍前首相の要請で会長に就任、菅氏との関係は深くはない。菅氏も森氏の進退に関与することには躊躇・逡巡があり、腰の引けた対応になったとみられる。

東京五輪は、2013年安倍前首相が長期政権戦略に位置づけ、水面下で猛烈な誘致活動を繰り広げ、実現にこぎ着けた。その組織委員会のトップに自らの派閥の重鎮をすえた政治色の濃い人事だ。既に安倍退陣で”たが”が外れており、後継人事が混迷するのは避けられなかったと言えるのではないか。

橋本聖子・新会長は、アスリート経験に加えて、国会議員歴も長い。政界には表現は悪いが、”爺殺し”という言葉もある。菅、森両元首相を操りながら、組織委員会トップとしてのリーダーシップの発揮を期待したい。

◆菅政権下の不祥事のうち、衛星放送会社に勤める首相の長男が、総務省幹部4人を接待し、国家公務員の倫理規定違反疑惑。あるいは、吉川前農相の汚職事件で農林行政が影響を受けていたかどうかを検証する調査会の調査結果も未だに報告がなされていない。野党側は引き延ばしと批判し、早く報告を行うよう求めている。

菅政権では不祥事が続発するだけでなく、その実態調査や是正策が進まず、滞留状態が続いている。

 首相の力量 激変時代のリーダー像

3つ目のカギは「首相の力量」の評価。これから政治の主要な論点の1つになる。というのは、世論の関心が政府のコロナ対応にあり、その方針決定権を首相が握っているからだ。また、相次ぐ不祥事に対して、首相が指導力を発揮しようとしているのかどうか、世論の側の注目が集まるからだ。

さらに今年は、衆院決戦を控え、特に自民党の中堅・若手議員にとっては、自らの選挙の当落が、首相の評価で影響を受けるからだ。

菅内閣の支持率は報道各社の世論調査で、いずれも支持を不支持が上回る逆転状態が続いている。また、支持しない理由の中で「指導力がない」という評価が、大幅に増えている。例えば、NHK世論調査では、政権発足時の9月は8%だったのが、2月は34%で最も多くなっている。

このため、今後、コロナ対策が思うような成果を上げられず、内閣支持率も好転しない場合は、総裁選や衆院選挙に向けて、菅首相の交代を求める意見が出てくるとの見方が、自民党内からも聞こえる。

一方、政党支持率で自民党は減少傾向が現れ始めたものの、減少分は野党に向かわず、無党派層に回っている。このため、特に政権交代をめざす野党第1党の立憲民主党は、枝野代表のリーダーシップも問われる形になっている。

今年は、秋に自民党総裁と衆議院議員の任期が満了になる。その前に4月は、衆参3つの再選挙と補欠選挙、7月は首都東京の都議会議院選挙も行われる選挙の年だ。

有権者の側からみると、特に政権を担う首相をどのように評価するかがポイントになる。◇菅首相の再選を支持するか。◇あるいは、自民党内の別のリーダーに交代を求めるか。◇さらには、与党から野党への政権交代が必要だと考えるか。これから、秋までに行われる選挙に向けて、どのケースを選択するか。

以上、みてきたように今年は選挙の年。政治の動きを注視しながら「コロナ激変時代のリーダー像」を考えていく必要があるのではないか。

不祥事続出と”政権与党嫌われ現象”

新型コロナ対策の緊急事態宣言は10都府県で延長されることになったが、感染者数は全国的に減少傾向がはっきり現れてきた。

一方、報道機関の世論調査によると菅内閣の支持率は、2月も不支持が支持を上回る逆転状態が続いている。加えて、2月はこれまで安定していた自民党の政党支持率も減少し、内閣支持率、政党支持率ともに減少、菅政権発足以降最低を記録したのが特徴だ。

こうした背景をどう見るか?政府のコロナ対応は、与党支持層を中心に評価する意見が増え始めているが、今度はコロナ対応以外の要因、具体的には相次ぐ不祥事・失言問題が影響し始めた。女性蔑視の発言だと内外で大きな批判を浴びた東京五輪パラリンピック組織委員会の森会長は12日、辞任に追い込まれた。

自民支持層の支持離れ、別の表現をすれば”政権与党・自民党の嫌われ現象”が起き始めているのではないか。世論調査のデータを分析しながら、最新の政治事情を探ってみたい。

 支持30%台、不支持逆転2か月連続

菅内閣の支持率について、NHKの2月世論調査でみてみると◆支持が38%に対して、◆不支持が44%となっている。1月に比べると支持は2ポイント下がり、菅内閣としては初めて30%台にまで下がった。不支持は3ポイント増えた。不支持が支持を上回る逆転状態は2か月連続になる。(調査実施2/5~7 データはNHK NEWS WEBより)

支持層別にみると◆自民支持層の支持の割合は65%、安倍政権では70%から84%程度だったので、相当低い。◆最も多い無党派層では支持が22%に止まる。

こうした支持率の下落だが、これまでは「政府のコロナ対応の評価」と連動してきた。つまり、政権発足から去年11月までは「評価する」が過半数を占めていたが、12月に41%、1月が38%と急落したのに比例して、内閣支持率も急降下した。

これに対して、2月は「感染の不安」を感じる人の割合が下がり、政府のコロナ対応の評価も「評価しない」が52%と多いものの、「評価する」が44%、前月に比べて6ポイント増えてきた。与党支持層を中心に感染防止の法改正やワクチン接種の取り組みを評価する意見が増えている。

このように政府のコロナ対応の評価は改善しているが、内閣支持率は下落が続いている。その理由だが、政府のコロナ対応の評価とは別の要素、「不祥事続出」が影響しているものとみられる。

 日替わり不祥事、菅政権を直撃

政権にまつわる不祥事や失言だが、2月に入って主なものだけ挙げてもその多さに改めて驚かされる。◆緊急事態宣言下の深夜まで銀座クラブ通い。自民党議員3人が離党、公明党議員が議員辞職。◆参院選買収事件で河井案里・参議院議員が議員辞職。◆新型コロナ接触アプリの不具合、4か月も放置判明。◆菅首相長男が総務省幹部を接待との報道。◆東京五輪パラ組織委の森会長が女性蔑視発言、その後撤回・謝罪。二階幹事長、ボランティア辞退に関する発言に批判。◆森会長は12日辞任に追い込まれた。

与党議員の深夜クラブ通いに始まって、古典的大型選挙買収事件の”現代版”、デジタル標榜政権がデジタルに弱い行政実態、首相子息への官僚の忖度疑惑。日替わりのようにスキャンダルが相次ぎ、菅政権を直撃している。こうした不祥事が、折角のコロナ好転分を帳消しにしているとみられる。それにしても、これだけの不祥事で、支持率が38%で止まっているのが不思議な気もする。

 自民支持率 低下  ”嫌われ現象”

こうした不祥事は、自民党の政党支持率にも影響を及ぼし始めた。自民党の支持率はこれまでは安定した高さを保ってきたが、2月は35.1%、前月から2.7ポイント下がった。逆に無党派層は、1.8ポイント増えて42.3%となった。

菅政権が発足した去年9月の自民支持率は40.8%だったので、5か月で5.ポイント余りも下がったことになる。つまり、内閣支持率の低下に続いて、自民党の支持率も追いかける形で下がりはじめた。そして、内閣支持率、自民党支持率ともに菅政権発足以来、最低の水準に落ち込んだ。

自民党の長老に聞いてみると「自民党内には、党の支持率が下がっても野党の支持率が上がっていない。無党派に回っただけなので、大丈夫だとの見方もあるが、そうではない。無党派に回った層は、選挙では野党に投票する可能性が大きいからだ」とみている。

その上で、「これまで自民党が選挙に負けたときは、その前に”自民党は嫌いだ”というムードが広がっていた。選挙では、その時の政権与党・自民党が好きか、嫌いかが大きく左右する。”嫌いな政党”と言われないように細心の注意が必要だ」と警戒する。

この発言の意味するところは、例えば第1次安倍政権。当時、党幹部の失言や閣僚の不祥事が相次ぎ、選挙で敗北、退陣につながった。有権者に傲慢、おごり、お灸をすえたいと思われたことが敗因。最近の内閣支持率や政党支持率の低下は、”有権者の嫌いな政党現象”の前兆ではないかというわけだ。

 不祥事にケジメ 政権運営のカギ

以上の世論調査の分析から、これからの政治の動きをどう見るか。まずは、菅政権はコロナ対策の決め手として、ワクチン接種の大作戦にとりかかかる。この成否が菅政権のゆくえを左右する。これが今後の政治の見方の基本だ。

次にコロナ感染の押さえ込みには、一定の期間がかかる。その間に不祥事や、失言問題に明確なケジメをつけられないと、政権与党にとって”嫌いな政党現象”がさらに拡大・定着してしまう可能性もある。

当面は、森会長の発言と辞任の影響がどう出るか。菅政権や自民党への影響は相当、深刻ではないか。森氏は安倍長期政権を支えた自民党最大派閥の親分的存在。二階幹事長も大会ボランティアの辞退をめぐる発言で批判を浴びた。自民党長老2人の古い考えや体質。その長老2人に頭の上がらない現職首相のというイメージを多くの国民に残したのではないか。

菅首相がコロナ対策や今後の国会・政権運営で、どこまでリーダーシップを発揮できるのか。また、次の衆院選に向けて、改革姿勢や党の清新さを有権者にアピールすることは可能か。当面は、予算審議の論戦と4月末に行われる衆参の補欠選挙・再選挙、それに7月の東京都議会議員選挙が試金石になる。