新型コロナ感染が急増している大阪、兵庫、宮城の3府県に「まん延防止等重点措置」が5日から初めて適用される。
感染は全国的に拡大傾向にあり、政府は感染拡大を抑え込めるか。仮に歯止めをかけることができず、第4波となると菅政権の先行きは一段と厳しくなる。
今回の感染再拡大の兆候は、政権や政治にどんな影響を与えることになるのか、探ってみる。
変異ウイルス拡大 第4波も警戒
東京など1都3県に出されていた緊急事態宣言が全面的に解除されたのが3月22日。それから2週間も経たないうちに、今度は、大阪、兵庫、宮城の3府県で感染者が急増し、政府は「まん延防止等重点措置」の初めての適用に踏み切った。
重点措置の期間は、4月5日から5月5日までの1か月。3府県の知事が、地域を決めて飲食店の営業時間の短縮要請などの措置を取ることになる。
また、大阪や兵庫など関西地域では、感染力の強い変異型のウイルスの拡大が目立つ。専門家は今後、全国的にウイルスは変異株に置き換わっていくだろうと神経をとがらせている。
さらに、東京をはじめ、山形、愛媛、沖縄など43都道府県で、新規感染者数の増加傾向が続いている。政府コロナ対策の尾身会長は「第4波に入りつつある」と感染再拡大に警戒を強めている。
重点措置 東京など視野に追加も
こうした感染再拡大への対応について、西村担当相は4日のNHK日曜討論で、東京などの首都圏をはじめ、沖縄、山形、愛媛、奈良、京都、愛知などの都府県の名前を挙げたうえで、「まん延防止重点措置を中心に臨機応変に対応したい」とのべた。
政府は、東京などで感染の急拡大がみられる場合は、この「まん延防止等重点措置」の適用を追加して、感染拡大を抑え込む方針だ。
政府と、東京都など都府県の知事との調整がどのように進むか、今後の注目点の1つだ。
五輪前の解散・総選挙は困難か
次に今年の政治の焦点である衆議院の解散・総選挙の時期に及ぼす影響はどうか。自民党の二階幹事長は、野党側が内閣不信任決議案を提出した場合は、衆院解散・総選挙に打って出るよう進言すると強気の姿勢を見せている。
また、自民党の一部には、東京オリンピック・パラリンピック前の解散・総選挙をめざすべきだとする見方が出されてきた。4月解散・5月23日投票説や、7月4日東京都議選とのダブル選挙説などだ。
自民党のベテランに見通しを聞くと「コロナ感染を抑え込めないと、解散・総選挙は無理だ。自民党の選挙運動は”蜜”そのもので、支持者は高齢者が多い。万一、感染者や亡くなる人が出たら、それでお仕舞いになる」。
3府県のまん延防止等重点措置の期間は5月5日までと設定されたことで、その前の解散は難しく、5月23日投票説は時間的に不可能だ。
次に7月4日都議選とのダブル選挙説は、5月、6月はワクチン接種が全国の自治体で本格化するとみられること。また、ワクチン接種会場と投票所とが重なっている地域もあることから、ワクチンと選挙の同時実施は困難だとする意見が強い。
さらに、選挙の勝敗への影響。公明党は東京都議選を国政選挙並みに重視している。都議選の時期と衆議院選挙が重なれば、公明党・創価学会票が自民党候補への上乗せ効果が下がり、接戦区で自民党が議席を減らすことになりかねない。このため、自民党はこの時期の解散は避けるとの見方が強い。
菅首相も「最優先はコロナ感染拡大を防ぐことだ」と早期解散には慎重な姿勢を変えていない。したがって「五輪前の解散・総選挙は困難」とみられる。最終的には「五輪後の秋の解散・総選挙」の可能性がさらに強まっているとみてよさそうだ。
4月感染状況 政権・政局を左右
今後の政治の見方・読み方だが、「4月の感染状況がどうなるか」がポイントになるとみている。
4月は、12日から高齢者を対象にしたワクチンの優先接種が始まる。16日には、菅首相が訪米してバイデン大統領との日米首脳会談が行われる。世界のリーダーに先駆けての会談になるだけに、菅首相としては、政権浮揚のきっかけにしたい考えだ。
感染状況が収まっていれば問題はないが、逆に感染再拡大になっていれば、日米首脳会談効果も帳消しになりかねない。東京オリンピック・パラリンピックの開催環境にも影響してくる。
さらに4月25日には、衆参のトリプル選挙も行われる。衆議院の北海道2区、参議院長野選挙区の補欠選挙、それに参議院広島選挙区の再選挙の3つ。元農相の収賄事件や大規模買収事件が原因の選挙などだ。政府のコロナ対応、一連の相次ぐ不祥事なども有権者の判断材料になるだろう。
コロナ感染状況とトリプル選挙の審判。政権発足後、半年余りの菅政権に対する有権者の評価が示される。政権浮揚に向かうのか、それとも政権直撃・求心力低下となるのか、分かれ道になる。
ワクチン接種と感染抑止の実績は
最後に国民の関心が強い、ワクチン接種と感染対策について触れておきたい。
ワクチン接種は、4月12日から高齢者の優先接種が始まるが、未だに「いつ、どれだけの分量が届くのかわからない」と自治体関係者の悩みは続いている。5月以降、本格化するのではないかとみられているが、明確な見通しはついていない。
また、仮に高齢者接種が順調に進んだとしても、次は基礎疾患のある人、高齢者施設の従事者のあと、ようやく一般の人たちになる。ワクチン接種の計画・見通しをできるだけ早く示す責任がある。
さらに、ワクチン効果が上がるまでにはかなりの時間がかかるので、当面の感染再拡大を抑え込めるかどうかが、大きな問題になっている。
菅政権の対応を見ていると対策は発表するが、対策がどこまで進んでいるのか説明がなされない。例えば、先月打ち出された変異ウイルス把握の検査拡充や、繁華街などでの無料大規模PCR検査などもどこまで実行できているのか、停滞しているのか、一向に明らかにされない。
今回の感染再拡大に対して、菅政権は「まん延防止重点措置」で飲食店の営業時間短縮で乗り越えようとしている。こうした対策は一定の効果はあるだろうが、限界がある場合は、より強い対策に切り替えていく柔軟性を示してもらいたい。
最初の緊急事態宣言が出されてから、今月7日で1年になる。この間、繰り返し指摘されてきたPCR検査体制の拡充をはじめ、国と自治体との病床確保の調整・整備体制づくり、さらに変異ウイルスの検査強化などの課題について、これまでの取り組みの結果・実績を明らかにすることを強く求めておきたい。