新しい年、令和2年・2020年が幕を開けた。東京オリンピック・パラリンピックが半世紀ぶりに開催されるが、政治はどのように動いていくのか探ってみたい。
結論を先に言えば、2020年は「激動型の政局の年」になるのではないか。
秋以降、衆議院の解散・総選挙と、ポスト安倍の自民党総裁選びに向けて、激しい動きが展開する年になると見ている。
なぜ、こうした見方をするのか、その理由、背景を以下、明らかにしたい。
併せて2020年の日本政治は、何が問われているのか考えてみたい。
” 年明け解散なし”の見通し
野党側や自民党の一部には、年が明けて通常国会冒頭、大型の補正予算案を成立させた後、安倍首相は衆議院の解散・総選挙に打って出るのではないかという観測もあるが、年明けの解散はなしと見ている。
年明け解散説は「桜を見る会」問題で窮地に追い込まれている安倍首相が、局面打開に解散を決断するのではないかという見方だ。
これに対して、自民党幹部は台風19号などの被害が大きく、選挙を行えるような状況ではないとの判断だ。
また、去年秋の閣僚2人の辞任以降、首相主催の「桜を見る会」の規模や予算が増え続けている問題。大学入学共通テストの柱である記述式問題が取り消しになるなどの不祥事が相次いでおり、解散・総選挙どころではないというのが本音だ。
”五輪終わると政治の季節”
それでは、どのような展開になるのか。1月20日召集の通常国会で、与党側は、補正予算案と新年度予算案の早期成立をめざす方針だ。
これに対し、野党側は去年の臨時国会に続いて「桜を見る会」の問題を追及する方針だ。
また、年末にはかんぽ生命問題で、総務省の現職事務次官が情報漏洩で更迭されるといった前代未聞の事件も明るみになった。
さらに、安倍政権が成長戦略の柱と位置づけているカジノを含むIR=統合型リゾート担当の元内閣府副大臣、秋元司衆院議員が収賄容疑で逮捕された事件などを取り上げる方針で、与野党の激しい攻防が繰り広げられる見通しだ。
その通常国会の会期末は6月16日。翌17日は東京都知事選挙が告示され、7月4日に投票が行われるため、国会の会期延長は難しい見通しだ。候補者の顔ぶれは決まっていないが、与野党双方とも、首都決戦に場所を移し激しく争う見通しだ。
この後、7月24日に東京オリンピックが開幕、8月25日からはパラリンピックも始まり、9月6日閉幕する運びだ。このオリンピック、パラリンピックが閉幕すると、秋以降は再び政治の季節を迎え、激しい動きが予想される。
政局激動型、2つの根本問題
秋到来とともに政治は、次第に張り詰めた空気に包まれていくのではないか。
1つは9月30日、安倍首相の自民党総裁任期が任期満了となる1年前。もう1つは3週間後の10月21日、今の衆議院議員の任期満了となる1年前だ。自民党総裁と衆院議員の任期切れが、いずれも1年後に迫り、待ったなしの状況になる。
政権与党は任期満了選挙を嫌がる。期限の設定で、追い込まれ解散の恐れがあるためだ。それを避けるために普通は1年ほど前には解散時期などの腹を固める。
自民党の総裁任期については、ポスト安倍の有力候補が不在との見方から安倍首相の総裁4選論もある。これに対して、安倍首相は今の党則で認められているのは3選までであり、「4選は考えていない」と全否定している。安倍首相の側近を取材しても首相の意思は固いという。
安倍首相は、衆院解散・総選挙と、総裁4選論の”2つの根本問題””に結論を出す必要がある。その時期は、ちょうど東京オリンピック・パラリンピック終了頃に当たる。「新年の政局は激動型」と見る根拠は、この2つの問題に結論を出す時期にちょうど当たるからだ。
激動政局 4つのケース
それでは新年の政治は、具体的にどんな展開になるだろうか。現実に起きる可能性が高いケースを考えると、次の4つのケースが想定される。
▲第1は、東京オリンピック・パラリンピックの閉幕を受けて、安倍首相が新たな時代へスタートを切る時だとして、年内に「衆院解散・総選挙」に打って出るケース。
総裁4選については、事実上4選を前提とするケースや、選挙結果によるとして直接言及しないケース、さらには選挙後、後任に道を譲るケースがありうる。
▲第2は、後継総裁の調整が難航したり、野党の激しい攻勢などで、衆院解散のタイミングを見いだせずに「解散・総裁4選のいずれも先送り」するケース。
▲第3は、安倍首相が東京オリンピック・パラリンピック閉幕を受けて、後進に道を譲りたいとして退陣を表明、いわゆる「オリンピック花道論」。そして直ちに「後継の総裁選び」が行われるケース。
▲第4は、新総裁を選んだ後、その新総裁が衆院の解散・総選挙に打って出るケース。「首相退陣から、総裁選び、衆院解散・総選挙」へと大激動型の政局展開ケースになる。
”オリンピック花道論”の意味
皆さんの中には”安倍1強と言われる時代、途中退陣はありえない”との見方をされる方もいると思う。これに対して、実は”政界のプロ”と目される人たちの中には”オリンピック花道論”は十分ありうるとの見方があるのも事実だ。
半世紀余り前、昭和39年・1964年10月の東京オリンピックの際、当時の池田勇人首相は大会閉幕の翌日に退陣表明、後任に佐藤栄作氏が選ばれた。池田首相の病気が理由で極めて無念だったと思われるが、今回は、安倍首相が自身の影響力を残すことをねらいにしている。
どういうことか。安倍首相としては早期の退陣表明で、総裁選で意中の後継者が優勢な流れを作った上で、衆院解散・総選挙の時期についても、選択肢を広げることができる。さらに退陣後も自身の影響力を残せると見られるからだ。
但し、このねらい通り運ぶかどうか。安倍首相の求心力が維持しているのが前提で、シナリオ通りの展開になるかどうか不確定な要素も多い。
この他、野党が新党を結成し、次の衆院選で政権交代というケースもあり得る。但し、当面、次の衆院選までは自民・公明政権が継続する可能性が高いと見ているので、今回は想定から外している。
花道論と4選論の確率は?
さて、皆さんから予想される次の質問は、オリンピック花道論や安倍首相の総裁4選論の可能性はどの程度あるのかという点だ。
まず、オリンピック花道論は、総裁選の有力候補者の顔ぶれや構図、それに選挙情勢などと関係してくるので、今の段階で実現可能性に言及できる状況にはない。但し、次の衆院選と、総裁選びとの間を空ける大きな意味を持っている。
一方、安倍首相の総裁4選論については、首相の側近を取材すると「総理は考えていない」と否定的な見方を示す。総理・総裁は、大きな重圧を抱えながら孤独な決断を迫られるポストだ。7年余りも続けていることを考えると、4選は考えないというのは本音ではないかと個人的には見ている。
但し、アメリカ大統領選で安倍首相と相性がいいトランプ氏が再選になった場合、あるいは、後継総裁選びが思うような展開にならなかった場合は、4選論が急浮上するのではないかとの見通しもあり、流動的と言えそうだ。
衆院解散の確率は?
衆院解散・総選挙の方は、どうだろうか。安倍首相の側近の幹部に聞いてみると「次の衆院選を誰の手で断行するか、安倍首相と次の新しいリーダーの2つのケースが考えられるし、いずれもありうる。新年にならないとわからない」との見方だ。要は、来年前半の国内情勢や海外情勢を見極める必要があるということだと思う。
衆院解散・総選挙については、今の選挙制度になった1996年橋本政権以降、解散から解散までの期間を計算すると「3年」だ。この期間を当てはめると今年10月で、丸3年になる。安倍政権下の解散の期間は、2年5か月とさらに短くなる。
もう1つ、頭に置く必要があるのは、来年7月、与党の一翼を担う公明党が重視する東京都議選が行われることだ。この都議選と、その年の秋の任期満了を外すとなると来年ではなく「今年秋以降」、今年秋か年明けの確率が高くなると見る。
この解散・総選挙については、さまざまな要素が絡むので、次回のブログで取り上げたい。
新年 日本政治が問われる点
以上、見てきたように新年・2020年の政治は、自民党総裁選びと衆院解散・総選挙が同時並行で進む形になり、激動型の政局の年になる可能性が高い。しかも、史上最長政権、あるいはその後継政権はどんな展開になるのか未知の領域だ。
そこで、私たち国民の側から見て、今の日本政治は何が問われているのか。
▲1つは、向こう2年以内には確実に衆院選挙が行われる。国民が投票所に足を運びたくなるような「国民を引きつける政治」を見せてもらいたい。
安倍首相は国政選挙6連勝中だが、選挙の勝敗は別にして、投票率がいずれも低く「選挙離れ社会が進行中」という深刻な問題を抱えている。
政権与党、特に自民党はポスト安倍の総裁選びで、各候補は「どんな社会をめざすのか」目標・構想を掲げ党内論争を活発に展開すべきだ。最近の党内は、”黙して語らず”、党内論争がなさ過ぎる。
▲2つ目は、野党への注文。野党の合流・新党結成の動きが続いているが、野党各党は「何をめざす政党か、旗印」を明確に打ち出してもらいたい。
また、国民が不満に感じるのは、衆院選挙の小選挙区の場合、選挙の前に勝敗の予想がつく選挙区が多いことだ。これでは投票率は上がらない。候補者の擁立、調整、態勢づくりが必要だ。
▲3つ目は、日本の政治は、人口急減社会への対応という難問に直面しながら、「将来社会をどのように設計するのか」、いまだに答えを出し得ていない。
また、米中の覇権争いが長期化する中で、日本の外交・安全保障のあり方を真正面から検討・再構築していく時期を迎えている。
端的に言えば、「日本社会の将来像と外交・安全保障の構想」の競い合い、選挙で決定する取り組み方が、最も問われていると考える。
政局が激動する年になるのであれば、私たち国民の側は「日本が抱える課題・難問の前進につながるような政治の動きに対する見方や、評価、選挙での投票」を考える必要があるのではないかと思う。