検察の独立性は大丈夫か?検事長の異例人事

国会は、衆議院予算委員会で、新年度予算案の基本的質疑が2月3日から3日間にわたって行われた。新型肺炎と桜を見る会の問題が質疑の中心になったが、私個人が最も気になったのは、東京高等検察庁の検事長の定年延長問題だった。

今回の人事は極めて異例で、次の検事総長、検察トップに起用するための布石ではないかとの見方も出ている。検察の独立性は大丈夫なのか?危惧せざるを得ない。国民の1人として、この人事をしっかり記憶し、今後の検察庁と政権との関係などを注意深く見ていきたいと考えている。

東京高検検事長 異例の定年延長

検察官の定年は、検察庁法で検事総長は65歳、それ以外は63歳となっている。東京高検の黒川弘務検事長は2月8日に63歳となり、定年退官するものと見られていた。ところが、政府は1月31日の閣議で、国家公務員法の規定に基づいて、黒川検事長の勤務を8月7日まで延長することを決めた。

検察という組織は政治権力からの独立が大原則で、そのために定年退官の規定が設けられており、検察官の定年延長は過去に例がないとされる。

政府は国家公務員法の規定を使って、定年延長に持ち込んだ。そして,稲田伸夫検事総長が、慣例通りおよそ2年の任期で8月に勇退すれば、黒川氏が後任の検察トップに就く可能性があると言われる。

 野党「不自然で信頼損なう人事」

この異例の人事は、3日と4日の衆院予算委員会でも取り上げられた。
野党側は「誕生日の1週間前に駆け込みで定年延長する必要性や緊急性はあるのか。官邸に意の通じた人物を検事総長にすえるための不自然で、検察の信頼性を損なう人事ではないか」などと追及した。

これに対して、森法相は「重大かつ複雑、困難な事件の捜査や公判に対応するために不可欠な人材」などと意味不明な答弁。
安倍首相も「この人事は法務省の中で人事を決定し、法務大臣の考えを了とした」とのべるに止まり、納得のいく答弁は聴かれなかった。

 安倍政権の人事

ところで、安倍政権の人事を巡っては、2013年の内閣法制局長官人事が思い出される。それまでの慣例、法制局内からの内部昇格ではなく、憲法解釈の変更に積極的な姿勢を示してきた外務省幹部を起用する異例の人事に踏み切った。

抜擢された新法制局長官は、憲法9条は集団的自衛権の行使を禁止するものではないと従来の法制局見解とは異なる解釈を表明、安全保障関連法成立の流れをつくった。人事は、政策決定に重大な影響を及ぼす。

今回の黒川検事長は、法務省の官房長や事務次官を務め、捜査畑よりも法務官僚としての職務が長い。政界では、官邸に極めて近い人物との見方が強い。

 検察 ”巨悪”摘発の役割も

政治と検察との関係は、古くて新しい問題だ。私個人も、ロッキード事件で田中角栄元総理の逮捕と一審有罪判決まで、リクルート事件での有力政治家の相次ぐ失脚、金丸信副総理の事件などを政治の側から取材してきた。

その当時でも、検察に対する不満や批判はしばしば聞いたが、検察人事などに介入するような動きはなかったと記憶する。

政治と検察は、相互に独立、けん制しあう緊張関係にある。政治に不正がある場合、法と証拠に基づいて、”巨悪”を摘発することが、検察に求められる役割だ。

それだけに検察は、政治的な中立性、独立性を保っていく厳格な自己規律が求められる。同時に政治の側も、そうした検察の役割を認めて尊重してきたのが、これまでの歴代政権・保守政治の流れだ。

 検事総長人事、国民が注視を!

安倍政権は憲政史上最長の記録を更新中だ。
一方で、このところ、菅原前経産相や河井前法相が政治とカネを巡る問題で辞任に追い込まれた。カジノを含むIR汚職事件で、IR担当の副大臣が収賄で起訴されるなど不祥事が相次いでいる。これから、検察の判断が求められる他、裁判で事実関係などが争われる。

このため、政権としても、検察・司法の独立や信頼性に疑念が生じるような対応を避けるのは当然のことだ。

また、政権として人事に対する疑問や疑念に対しては、逃げずに説明することが大切だ。

その上で、次の検事総長人事を最終的にどうするのか、長期政権の評価にも直結する問題だ。国民の1人として、しっかり注視していきたい。特に直接の担当大臣である森法相の責任は極めて大きいと考える。

新型肺炎、経済、社会保障 徹底論戦を!

国会は補正予算が成立、いよいよ新年度予算案の審議が2月3日から始まる。安倍首相と各党の議員が1問1答形式で質疑を行い、国会前半の山場の審議が続くことになる。

先の補正予算の審議では、安倍首相出席の委員会審議が去年の11月8日以来ということもあって、政治とカネなど疑惑・不祥事の問題に集中したが、安倍首相と野党側の主張は平行線をたどった。

新年度予算案の審議では、予算案の中身の審議に加えて、中国・武漢から各国へ感染が拡大している新型肺炎の問題をはじめ、国民生活に直結する消費増税後の日本経済、社会保障制度、さらには外交・安全保障など多くの重要課題について徹底した論戦を繰り広げてもらいたい。
どこが論戦のポイントになるのか、どんな取り組みが必要なのか見ていきたい。

「桜」疑惑 平行線、逃げの姿勢

まず、先の補正予算の審議では、一連の不祥事の中で、首相主催の「桜を見る会」疑惑に質問が集中した。野党側は「首相の地元支持者を多数招くなど公私混同、政府行事の私物化で、公選法の疑いがある」などと追及した。

これに対して、安倍首相は「歴代内閣とも招待基準が曖昧で、招待者数や予算が増えたことは反省する」としながらも、公選法などの法令違反はないと反論、従来の答弁を繰り返した。

「桜を見る会」をめぐる安倍首相の説明については、報道各社の世論調査でも「首相の説明は納得できない」との評価が7割以上を占めている。こうした国民の側の政権不信を払拭するような答弁は見られなかった。招待者名簿の再調査などにも消極的で、”後ろ向きの姿勢”が目立った。

 新型肺炎、政府対応の評価は

さて、新年度予算案の審議では、疑惑・不祥事問題だけでなく、国民の暮らしに関わる、日本経済や社会保障など主要な政治課題についても、真正面から掘り下げた議論を徹底して行ってもらいたい。

当面、国民の最大の関心事は、中国の湖北省・武漢を中心に拡大が続いている新型のコロナウイルスによる感染への対応だ。武漢などに在住していた日本人をチャーター機で帰国させる取り組みが続いている。

政府は、水際対策の実効性を高めるため、入国申請前の14日以内に中国・湖北省に滞在歴がある外国人などの入国を拒否する異例の措置に踏み切った。
また、今回の感染症を「指定感染症」とする政令の施行を、当初の予定から2月1日に前倒しして、強制的に入院させる措置などがとれるようにした。

これに対して、野党側は、「政府の対応は後手に回っている」などと批判しており、今後の対策の進め方などを巡って議論が戦わされる見通しだ。

 国民巻き込んだ議論・対応策を

今回は、新たなウイルス感染が、中国から世界へ拡大するという未知の問題だ。人から人への感染がどの程度拡大し続けるのかどうかなどわからない点も多い。また、感染防止へのさまざまな取り組みを進めるためには、国民の理解と協力が不可欠で、国民を巻き込んだ議論と対応策づくりが重要だ。

このため、当面の緊急対策が一段落ついた後、国会では、この問題にテーマを絞っての議論、あるいは集中審議などを検討してはどうかと考える。水際対策の有効性をはじめ、ウイルスの感染力や変異の可能性、国内の医療体制などの整備の進め方、さらには、観光や経済への影響など幅広い問題が出てくる見通しだ。

国会の関係する委員会が合同で、各界の専門家や関係者を参考人として招いて意見を聞く。その上で、政府の対応策の報告を求め、各党の提案などを含めて議論し、国民に向けて発信する新たな取り組みを行ってはどうか。国民の命と暮らしに関わる問題なので、与野党の党派を超えた取り組みを求めておきたい。

今年夏に半世紀ぶりに再び開催される東京オリンピック・パラリンピックも視野に入れた対応が必要だと思う。

 消費増税後の日本経済は?

次に論戦で聞きたいのは、去年10月の「消費増税後の日本経済」をどう見るかだ。安倍首相は施政方針演説で「日本経済は、この7年間で13%成長し、新年度の税収は過去最高になった」とアベノミクスの成果を強調した。

これに対して、野党側は、この7年間の実質成長率は、OECD加盟国の平均が2%に対し、安倍政権下では1.2%、先進国の中で低い水準に止まっていると批判している。

2月17日には、消費増税を実施した去年10月から12月のGDP速報値も公表される予定だ。経済の現状をどのように認識し、具体的に、どんな政策を打ち出すべきなのか議論を注目して見ていきたい。

 社会保障の制度設計は?

さらに論戦では、最大の懸案「人口急減社会への対応策」も待ったなしだ。
政府は、この国会に中小企業で働くパート労働者に厚生年金への加入を義務づける年金改革法案を提出する。
また、企業に70歳まで就業機会を確保するよう努力義務を課す「70歳定年法」も提出する予定だ。

こうした法案はいずれも大きな意味のある法案だが、政府の対応策は、果たして、急速に進む人口急減社会を乗り切るために十分なのかどうか。
75歳以上の後期高齢者の医療費の負担をどこまで求めるか。あるいは、今後、急増する1人暮らしのお年寄りのうち、低所得層の最低生活をどのように支えていくのか。

一方で、幼児教育の無償化などが始まったが、子育て世代に対する支援策の充実など大きな課題を抱えている。

 次の衆院選の判断材料に

このほか、外交面では、中東への自衛隊の派遣問題をはじめ、アメリカのトランプ政権が要求を強めている、在日米軍の駐留経費の日本側負担の問題、さらには、北朝鮮の非核化と日本の安全保障体制のあり方なども大きな課題だ。

このように内外に数多くの難問を抱えており、与野党とも難問から逃げずに真正面から議論してもらいたい。

私たち国民の側も”政治離れ、選挙離れ”をどのように克服するのか問われている。与野党の主張、論戦に耳を傾け、どの党の主張・提案が妥当なのか、判断していただきたい。そして来年10月までに確実に行われる次の衆院選に向けて、今から判断材料集めをしていただきたいと考える。

疑惑・不祥事 首相の政治姿勢は?

国会は、安倍首相の施政方針演説に対する各党の代表質問に続いて、27日からは衆議院予算委員会に舞台を移して、補正予算案の審議が始まった。予算委員会の質疑は1問1答方式で、安倍首相と各党との論戦が本格的にスタートした。予算委委員会の論戦、国民の側から見ると、どこを見ておくとわかりやすいのか探って見たい。

本論に入る前、中国で猛威をふるっている新型のコロナウイルスによる肺炎。中国在住の日本人の帰国問題をはじめ、訪日する中国人などの水際対策、国内病院での検査・診療体制などの危機管理に、政府は全力で取り組むことを要望しておきたい。

 問われる首相の政治姿勢

さて、予算委員会での論戦の注目点の第1は、政権に関連した疑惑・不祥事について、安倍首相がどのように受け止め、対応しようとしているのか、政治姿勢の問題だ。

安倍政権を巡っては、去年10月下旬の閣僚2人の連続辞任をはじめ、首相主催の「桜を見る会」の私物化、公私混同ではないかとの疑惑・問題、かんぽ生命をめぐる総務省事務次官の更迭、さらには、カジノを含むIR汚職事件で元IR担当の内閣府副大臣が逮捕されるなどの不祥事が、相次いでいる。

安倍首相の施政方針演説では、こうした不祥事については全く言及しなかった。各党の代表質問に対する答弁でも「桜を見る会」の問題については、従来の答弁を繰り返し、野党側が要求している招待者名簿の記録の調査や、都内のホテルで開かれた前夜祭の費用の明細書などの提示にも応じない考えだ。

報道各社の世論調査では、「桜を見る会」問題の安倍首相の説明は、「納得できない」と受け止め方が7割にのぼっている。また、不祥事については、長期政権による緩みやおごりの現れではないかとの受け止め方も示されている。

それだけに安倍首相が、こうした政権に対する不信感や、首相の説明責任を求める世論の声に対して、どのような認識を示すのか。また、信頼回復へどんな対応を打ち出していくのか、答弁を注目して見ていきたい

 驚きの1億5000万円資金問題

政治とカネの問題では、河井前法相と妻の案里参議院議員をめぐって、去年夏の参議院選挙で、自民党本部が1億5000万円の資金を政党支部に提供していたとされる問題・疑惑が新たに浮上している。

自民党関係者を取材すると「選挙支援の資金としては、1人当たり1500万円程度が一般的だ。これだけ巨額な資金提供は、信じられず驚いている。安倍総裁や二階幹事長といった了解がなければ、提供できないのではないか」と語っている。

去年夏の参議院広島選挙区で、自民党は現職議員に加えて、異例の2人目の候補者として案里氏を擁立し、現職が落選、案里氏が当選する結果になった。この案里氏が当選できたのは、安倍首相や菅官房長官が強烈に支援した影響が大きいと選挙関係者の間では見られてきた。

河井前法相と案里参議院議員の当事者の説明と同時に、安倍首相が総裁としての事実関係の説明と、この問題のケジメをどのようにつけるのかが問われている。

 政権運営、制度の改善も

こうした一連の不祥事については、政権批判だけに終わるのではなく、問題の背景を踏まえて、政権運営や制度の改善などにもつなげてもらいたい。

具体的には「桜を見る会」については、招待者の範囲や予算の使われ方などの事実関係の問題だけでなく、公文書管理の問題がある。官僚が招待者名簿を廃棄したり、文書を加工したりと、これまでさんざん問題になってきた公文書の不適切な取り扱いが今も続いていることが浮き彫りになった。

また、公文書の問題で処分されるのは、いつも官僚だけ。閣僚など政務三役、政治家の責任はどうするのか明確にすべきだと考える。

また、総理官邸は、公文書の改ざん、廃棄などをなくすよう各省庁に強く指示するとともに、公文書は電子化して全て保存するのを原則にするなど抜本的な改革を実行すべきだと考える。

 聞きたい政治課題も山積み

ここまで不祥事の問題を見てきたが、政治の信頼に関わる根本問題なので、予算委員会で一定の時間をかけて、質疑を交わすのは必要だ。

その上で、国民が知りたい政治課題が数多くあることを忘れないでもらいたい。
まず、暮らしに関わる経済。消費増税後の日本経済、低調な個人消費の要因をどのように見ているのか。東京オリンピック・パラリンピック後の経済運営をどうするのか。

また、全世代型社会保障制度改革。政府は、中小企業で働くパート労働者に厚生年金への加入を義務づける年金改革法案などを今の国会に提出することにしている。一方、急速に進む少子高齢化に対して、こうした法案の対応で十分なのか。社会保障制度改革の内容と道筋について、各党が具体案を示して議論を深めてもらいたい。

さらに外交・安全保障については、中東への自衛隊の派遣の是非。今回の派遣の目的、法的根拠、自衛隊の安全確保は大丈夫なのか掘り下げた議論を聞きたい。
外交問題では、米中の覇権争いが長期化する中で、日本がめざす外交・安全保障政策についても議論を深めるべきだ。
このほか、憲法改正問題や国民投票法案の取り扱いも残されており、国民が知りたい政治課題は山積み状態にあることを忘れないでもらいたい。

したがって、この国会、まずは不祥事にケジメをつけ、政治の信頼回復を図ること。続いて、政策論争でも政府、与野党が大いに意見を戦わせ、「国民が知りたい点に応える国会論戦」を是非、見せてもらいたい。

 

”不祥事山積 国会” 開幕 政局を左右! 

通常国会が1月20日に幕を開け、本格的な論戦が始まる。

今年は、半世紀ぶりに再び開かれる 東京オリンピック  パラリンピック・イヤー。本来は、日本の将来社会をどのように築いていくのか、国会での建設的な議論が期待されていた。

ところが、昨年秋以降、政治とカネをめぐる不祥事や疑惑が相次ぎ、止まるところを知らない。通常国会を前に不祥事がこれだけ続くのは、極めて異例、異常な事態だ。端的に言えば、”不祥事山積 国会”と言わざるを得ない。

このため、一連の不祥事・疑惑をできるだけ早く総ざらいし、激動する内外情勢に対応できるよう政策論議を深めていく必要がある。

この”不祥事山積国会”、安倍政権、与野党双方がどのように対応していくのか、2020年の政局のゆくえを左右する大きな意味を持っている。

 今国会の特徴と与野党の戦略

最初に今年の通常国会の特徴から見ておきたい。
召集日が1月20日で、会期は150日間、6月17日が会期末となる。首都東京の知事選挙の告示が翌18日で選挙戦がスタート、投票日が7月5日。続いて、7月24日から、いよいよ東京オリンピック開会へと重要日程が立て込んでいる。

このため、国会の会期延長は難しい。政府・与党は、事業規模26兆円の大型補正予算案を早期に成立させるとともに、過去最大規模の新年度予算案を年度内に成立させることを一番の目標にしている。

これに対して、野党側は、去年秋の臨時国会で取り上げた「桜を見る会」問題を引き続き追及するのをはじめ、カジノを含むIR汚職事件で、元内閣府の副大臣を務めた現職国会議員が逮捕された問題、さらには自衛隊を中東に派遣する問題を3点セットにして、徹底追及する構えだ。

 予算案と 不祥事をめぐる攻防

そこで、私たち国民の側は、この国会、どこを見ていくとわかりやすいのか。
まず、補正予算案は台風19号や大雨被害の復旧対策が盛り込まれており、野党側も強く反対しづらい。
新年度予算案も与党が圧倒的多数を占めていることを考えると、年度内の成立がずれ込む事態は想定しにくい。年度内成立は、予定通りと見てよさそうだ。

そうすると次の焦点は、一連の不祥事にどうケジメをつけるかが問題になる。このところ、安倍政権をめぐる不祥事の多さには、驚かされる。
発端になった去年10月、新閣僚2人の連続辞任以降を整理してみると次のようになる。

 不祥事 短期間に多発、説明なし

◇去年10月下旬 初入閣の菅原前経産相と河井前法相が連続辞任
◇10月 萩生田文科相「身の丈発言」大学共通テスト制度改革見送り
◇11月「桜を見る会」疑惑、国会で問題、公的行事を私物化批判など
◇12月 かんぽ生命問題、現職の総務省事務次官が情報漏らし更迭
◇12月 IR汚職事件、元内閣府副大臣の秋葉司衆院議員逮捕
◇今年1月 河井案里参院議員と夫の河井前法相の事務所 捜索

安倍政権では、これまでも森友問題と財務省の決裁文書の改ざん、自衛隊の日報問題、加計問題などが表面化したが、それぞれ個別、単発型だったと言える。
ところが、今回は去年10月下旬から2か月余りの短期間に、現職閣僚、首相、官僚トップ、元副大臣など政権関係者が関わる問題が、噴き出す形で起きている。

また、政権の看板政策のIR事業をめぐる汚職事件、大学入試制度改革の柱が先送りされるといった政策面にも影響が及んでいる。

さらに不祥事に対する説明が十分なされていない。例えば、発端の2閣僚の辞任でも当事者が姿を消したままで、説明責任を果たしていないと与党内からも批判が出ている。そして、ケジメがつかないうちに別の新たな問題が起きるといった悪循環が続いている。

 不祥事の総ざらい、本質論も

国会論戦では、当面、こうした不祥事に対する安倍政権の対応が、焦点になる。但し、一部からは例えば「桜を見る会」について、“予算額”は1億円にも達していない。たかが桜の問題。国会は大きな問題を議論をすべきだ”といった政権擁護論も聞かれる。今後も同じような意見が出されることが予想される。

しかし、仮に小さな問題としても、放置していれば大きな問題に発展する恐れがある。特にこれからは社会保障制度改革で、国民に負担増・痛みを求める時代を迎える。スキャンダルには厳しいケジメ、公正な行政が必要不可欠だ。

まずは、安倍首相が相次ぐ不祥事に真正面から向きあい、事実関係をきちんと説明し、今後の対応策を打ち出すなど不祥事の総ざらいと信頼回復が急務だ。
施政方針演説などの国会冒頭から、率直に自らの考えを表明した方がいい。

一方、与野党双方とも不祥事の本質に踏み込んだ議論を行ってもらいたい。
例えば「桜を見る会」で、あきれるのは、なぜ、いつまでも公文書の廃棄が続くのか。森友問題で改善のガイドラインを打ち出したのに効果が全くない。官僚にどのように文書を残させるのかを具体的に示す必要がある。

「カジノを含むIR汚職事件」では、カジノ・IRは観光先進国にふさわしいのか。地域振興・地方創生に役立つのか国民の疑問に答える議論を注文しておきたい。

 将来社会の姿、徹底論争を

通常国会の論戦では、当面、不祥事の問題に議論が集中するのはわかるが、それだけに終始しては困る。国民としても他に聞きたい課題、問題が多いからだ。幾つか、具体的な課題を挙げておきたい。

まず、自衛隊の中東派遣問題。わが国の原油輸入の重要な海域であることは理解するが、今回の派遣目的、法的な根拠、自衛隊員の安全確保は大丈夫なのか。
アメリカのトランプ政権の外交や北朝鮮の非核化問題も抱えており、国会で安全保障論争をもっと活発に行う必要がある。

次に、大学入学の共通テストのあり方。今回、民間英語試験や、数学と国語に記述式問題の導入が見送りになったが、なぜ、直前まで見直しができなかったのか。検証結果と今後の入学試験制度改革について、受験生や関係者の納得が得られる取り組みを強く求めておきたい。

さらに、この通常国会には、中小企業で働くパート労働者に厚生年金への加入を義務づける年金改革法案などが提出される。国民の側には、将来の社会保障制度は維持できるのか、将来不安は根強い。安倍政権が掲げる全世代型の社会保障制度改革の是非を含めて、議論を深めてもらいたい。

 オリパラ後の政局を左右

ここまで通常国会が抱える課題を見てきたが、焦点は、安倍政権が「不祥事山積 国会」を乗り切ることができるかどうかだ。安倍政権の求心力・政権の体力、あるいは、東京オリパラ後の政局のゆくえを左右することになる。

具体的には、安倍政権が不祥事山積国会を乗り切り、求心力を高めることができれば、今年、衆議院解散・総選挙へ打って出る道が開けることになる。

逆に、求心力が低下してくると、いわゆる”オリンピック花道論”のような早期退陣論、そこまでいかなくても”政権末期のレーム・ダック”=死に体状態へつながっていく可能性が出てくることになる。

通常国会の与野党の論戦は、次の衆議院解散・総選挙をにらんだ攻防という意味合いを持っており、激しい駆け引きが展開される見通しだ。

また、通常国会が終わる頃、安倍内閣の支持率がどんな状態になっているのか。現状は、下降局面が続いており、今後、どんな推移をたどるのか。

まずは、”不祥事山積国会”、安倍政権の対応、それに与野党の攻防が、どのような展開になっていくのか、じっくり見ていきたい。

 

 

 

 

 

”最長政権に陰り” 支持率低下 進行中

新しい年・2020年が明けて2週間余り、1月20日からは長丁場の通常国会が、いよいよ始まる。安倍政権は自民党総裁の残り任期が2年を切り、今年、衆議院の解散・総選挙に打って出るのかどうかが、大きな焦点になっている。

そこで、新年、世論の風向きはどうなっているのか。NHKの1月世論調査の結果が公表されたので、そのデータを基に分析してみる。

結論から先に言えば、安倍内閣の支持率は、昨年夏以降、ジリジリと下がり続けており、”最長政権に陰り”が読み取れる。

支持率は政権担当8年目に入っても40%台半ばを維持しているが、中身を詳しく分析してみると”政権に勢い”が見られない。

このため、今年前半の解散・総選挙の確率は低いのではないかとうのが、私・個人の見方だ。以下、その理由、見通しなどを見ていきたい。

 安倍内閣支持率  5か月連続低下

NHKの世論調査は、1月11日から13日までの3日間行われ、14日にまとまった。「NHK NEWS WEB」に掲載されているので、そのデータを基に見ていく。

安倍内閣の支持率は「支持する」が44%で前月より1ポイント減、「支持しない」が38%で1ポイント増、ほぼ横ばいで変化がないように見える。
但し、内閣支持率は数字そのものも重要だが、「トレンド=傾向」をどう読み取るかが大きな意味を持つ。

そのトレンド、去年夏の参議院選挙が終わった翌月・2019年8月、安倍内閣の支持率は49%、5割近くにも達した。しかし、その後、ジリジリと下がり続けており、新年1月まで5か月連続、減少中というのが大きな特徴だ。(去年10月は台風19号の影響で調査自体が中止になっている)

 不祥事直撃、外交努力も吹き飛ぶ

支持率低下は、相次ぐ不祥事が大きな原因だ。9月11日に内閣改造を行ったところまでは比較的順調だったが、10月下旬に菅原経産相、河井法相の連続辞任に始まって、萩生田文科相の「身の丈発言」と大学入学共通テストへの英語民間試験の導入延期など看板政策の取り止めにも追い込まれた。

さらに首相主催の「桜を見る会」についても、安倍首相の地元支持者を招くなど公私混同が明るみになり、防戦に追われた。こうしたことが影響していると見られる。

11月には、安倍首相の通算在任期間が戦前・戦後を通じて憲政史上最長を記録。年末には日米韓の首脳会談など得意の外交も展開したが、相次ぐ不祥事で、外交努力も吹き飛ぶ形になっている。

 ”最長政権に陰り”

そこで、安倍内閣の支持率の中身を分析するとどうなるか。
▲◇去年8月が支持49%、不支持31%。◇今年1月は支持44%、不支持38%。この5か月で、支持が5ポイント下がり、不支持が7ポイント増えたことになる。

政権発足から8年目で支持率40%台半ばを維持しているのは、異例、驚異的だ。
但し、支持と不支持の差は6ポイントまで縮まり、4ポイント変動すると不支持が支持と逆転する可能性もある。”最長政権に陰り”が生じ、”黄色信号”が点滅し始めたと見ている。

 首相不信、浮き彫りに

▲支持する理由としては、「他の内閣より良さそうだから」が51%、次いで「実行力がある」が19%、消極的な支持が多数を占めているのが実態だ。

一方、不支持の理由としては、「首相の人柄が信頼できない」が46%、「政策に期待が持てない」28%などと続く。このうち、「首相の人柄が信頼できない」は8月段階では35%だったので、11ポイントも急増したことになる。

「桜を見る会」の安倍首相の説明に対して、「納得できない」との受け止め方が実に7割に達しており(12月調査)、首相に対する不信感が強いことが浮き彫りになっている。

無党派層 不支持が過半数

▲支持する政党がない、無党派層は全体の4割近くを占める大きな集団だ。この無党派層を見てみると、内閣の支持は21%に止まり、不支持が53%と過半数に達しているのも大きな特徴だ。選挙の際には、大きな不安材料になっている。

以上見てきたように、安倍政権に対する有権者の視線は、厳しさを増していることが読み取れる。

野党も低迷続く

こうした一方で、安倍政権と対峙する野党はどうか。
1月の政党支持率は、野党第1党の立憲民主党の支持率は5.4%。国民民主党は0.9%と低迷状態が続いている。

自民党の支持率は40.0%なので、大差をつけられている。
また、立憲民主党と国民民主党の連携・合流に向けた話し合いも行われているが、有権者の期待感は高まっているとは言えない。

こうした野党の存在感の乏しさ、安倍政権に代わる別の選択肢がないことが、最近の政治に緊張感や魅力を感じられない要因になっている。

衆院解散への影響は?

最後に今後の見通しだが、安倍政権にとっては、年末には、カジノを含むIR汚職事件で、現職の衆議院議員が逮捕された。

今週は、自民党の河井案里参議院議員の陣営が、去年夏の参議院選挙での公職選挙法違反の疑いで事務所の捜索を受けた。昨年秋以来、これほど不祥事、問題が相次ぐのは、これまでにない異常事態だ。

通常国会が始まると野党側は、桜を見る会問題をはじめ、IR汚職事件、総務省の事務次官の更迭問題などを巡って、集中砲火を浴びせる構えを取りつつある。

一方、内閣支持率の低下や、無党派層の支持離れに見られるように、政権に対する世論の風向きは厳しさを増しつつある。

このため、衆議院の解散時期については、今年前半、東京オリンピック・パラリンピックが終わるまでは、可能性は低いと言っていのではないか。これが現時点での個人的な見通しだ。

但し、政治は”生き物”、”小休止なし”、どのような展開をたどるのか?
まずは、今月20日、幕を開ける通常国会の与野党の論戦、攻防をじっくり見ていく必要がある。随時、リポートとして取り上げていきたい。

IR汚職事件、疑惑の徹底解明を!

カジノを含むIR・統合型リゾート施設の事業をめぐって、元内閣府副大臣で自民党に所属していた秋元司衆議院議員が逮捕された事件に関連して、今度は日本維新の会に所属していた下地幹郎衆議院議員が、贈賄側の中国企業の元顧問から現金100万円を受け取っていたことが明らかになった。

贈賄の中国企業側は、秋元議員とは別に「5人の衆議院議員に100万円ずつ資金提供した」などと供述しているとされ、東京地検特捜部が捜査を続けている。

こうした汚職事件の捜査が進む中で、政府はIRの整備を予定通り進める方針で、7日に、事業者の審査にあたる「カジノ管理委員会」を設置した。

これに対して、野党側はIR整備法の廃止法案を通常国会に提出する方針で、今月召集される通常国会では、IRの整備の是非をめぐって、激しい論戦が交わされる見通しだ。

今回の汚職事件の背景や、IR法成立までの問題点などを考えてみる。

IR推進法、整備法とは

最初に基本的なことだが、カジノを含むIR法とは何か手短に整理しておきたい。
IR推進法は、カジノを中心にホテルなどの宿泊施設、テーマパーク、国際会議場、商業施設などを一体的に整備する統合型リゾート(IR=Integrated Resort)の設立を推進する基本法だ。

カジノは本来、刑法の賭博罪にあたり禁止されているが、政府は観光や地域経済の振興につながる公益性があるなどとして、例外的に合法化するものだ。このため、「カジノ解禁法」、「カジノ推進法」とも呼ばれる。2016年に議員立法として成立した。

この法律を受けて、IRの整備・運営の基本ルールを定めたものがIR整備法。全国に最大3か所設置することなどが定められている。IR整備法は、ギャンブル依存症対策基本法とともに2018年7月の国会で成立した。

 秋元議員、IRと深いつながり

今回の事件で逮捕された秋元議員は、内閣府のIR担当副大臣を務めていた2017年9月、衆議院が解散された際に中国企業の顧問から「選挙の陣中見舞い」として、現金300万円を受け取ったのが直接の容疑だ。

秋元議員とIRとの関わりは深い。2016年12月、カジノ解禁を含むIR推進法案を審議した際の衆議院内閣委員長が秋元氏だった。審議はわずか2日間のおよそ6時間で打ち切られ、委員長職権で採決に踏み切った。

その半年後の2017年8月に秋元議員は、内閣府と国土交通省のIR担当の副大臣に就任。その年の12月に自民党の衆議院議員らを誘って、中国の深圳にある中国企業本社を訪問するなど関係を深めていった。

 下地氏認め、自民4人は否定

中国企業の顧問は、秋元議員とは別に「衆議院議員5人に100万ずつ資金を提供した」と供述しているとされる。このうち、日本維新の会の下地幹郎衆議院議員が6日に記者会見し、3年前の衆議院選挙の期間中、事務所の職員が、現金100万円を受け取っていたことを認めた。
一方、残る4人の自民党衆議院議員は、いずれも受け取りを否定している。

下地議員が現金の受領を認めたことについて、日本維新の会の松井代表は「政治資金規正法違反にあたり、議員辞職すべきだ」との考えを示した。

こうした中で、下地議員は7日夜、離党届けを提出したことを明らかにした。議員辞職については、通常国会が召集される20日までに後援会のメンバーの意見を聞いた上で、判断する考えを示した。

これに対して、日本維新の会は8日、離党届けは受理せず最も重い除名処分とする方針を決めた。また、この問題は重大だとして、党として議員辞職の勧告を行うことも決めた。

今回の汚職事件、東京地検特捜部が捜査を続けているが、疑惑の解明を徹底して進めてもらいたい。また、国会も自浄能力が厳しく問われることになる。

 政府 IR整備進める方針

このように汚職事件の捜査が進められているが、政府はIRの整備を予定通り進める方針だ。7日付けで施設を運営する事業者の審査などにあたる「カジノ管理委員会」を設置した。カジノ委員会は、カジノの運営を申請した事業者を審査して免許を交付するとともに、事業運営の監視などにあたることになっている。

政府は、今月中にも整備区域の選定に向けた基本方針を決定する。これを受けて誘致を希望する自治体は、事業者とともに具体的な整備計画を作ることになっている。自治体から整備計画の申請を受け付ける期間は、来年・2021年1月4日から7月30日となる見通しだ。

政府は自治体から出された計画について、来年夏以降、有識者委員会を開くなどして審査し、場所を決定する。施設の建設に数年程度かかるため、政府は2020年代半ばの開業を見込んでいる。場所は最大3か所となっている。

 野党 廃止法案で対決姿勢

これに対して、野党側は、秋元議員が法律の成立にどのように関わったかなど実態の解明を進めるとともに、IR法は「バクチを解禁し、民間企業にやらせること自体に大きな問題がある」として政府の対応を厳しく追及する方針だ。

そして、立憲民主党などの野党4党は、今月召集される通常国会にIR整備法の廃止法案を共同で提出して政府と対決していく方針で、与野党の激しい論戦が交わされる見通しだ。

 重要法案多く、審議十分といえず

次に、IR整備法が整備されるまでの経緯と問題点について、触れておきたい。
IR整備法が与野党の争点になったのは、2018年の通常国会。森友問題で、財務省の決裁文書が改ざんされていたことが明るみになり、大きく揺れた時の国会だ。この時は、最終盤で、働き方改革法案、参議院の議員定数を6増やす法案、それにカジノを含むIR法案が、与党の圧倒的多数の力で相次いで成立した。

IR法案の審議では、カジノを合法化する要件をはじめ、入場回数の制限の根拠、ギャンブル依存症対策の実効性などについて、疑問点が浮上した。
また、条文が251条に及ぶ大型の新規立法だったが、衆参両院の審議時間は20時間前後で、十分な審議が尽くされたとは言えない状況だった。

 汚職事件で住民視線に厳しさも

一方、今回の汚職事件で、地域住民がカジノを軸とするIRに厳しい見方を強めることも予想される。ギャンブル依存症が増加するのではないかという懸念をはじめ、外国人の増加と治安の悪化、マネーロンダリング=不正なオカネを処理する温床になるのではないかいった問題に対する懸念が強まることも予想される。

政府は、IRを成長戦略として位置づけ、「観光先進国」の中核として巨額な投資をはじめ、雇用の拡大、観光客の増加といった経済効果をアピールしている。

これに対し、住民側からは、地域に根付いた伝統文化や、地域の自然、暮らしの体験などに軸足を置いた観光事業を求める意見が強まることも予想される。

通常国会では、こうしたIR事業そのものの評価をはじめ、成長戦略、地域社会の再生のあり方なども含めて議論を深めてもらいたい。

 

 

 

衆院解散はいつか? 秋以降の公算

新年・2020年の政治の焦点は、衆議院の解散・総選挙がいつ、行われるかだ。
政界の情報を総合して判断すると東京オリンピック・パラリンピックが幕を閉じた後、「2020年秋以降」の公算が大きいと見ている。

その理由は、端的に言えば、次のようになる。
まず、「年明け解散」があるかどうかがポイントになっていたが、台風などの災害復旧に加えて、「桜を見る会」問題など一連の不祥事で、安倍内閣の支持率が大幅に低下、解散に打って出る状況にはなくなっている。

その後は東京オリンピック・パラリンピックという大きな行事があるため、結局、オリンピック・パラリンピックが幕を閉じた後「秋以降の公算」が大きい。

但し、オリンピック後の経済情勢が悪化したり、安倍政権の体力が低下したりした場合は、翌年へ持ち越される可能性もある。

さらに、安倍首相の総裁4選論や後継選びの調整が難航したりした場合は、ズルズルとずれ込み、来年秋の「追い込まれ解散」に近いケースもありうる。

このため、解散時期は「秋有力」とまでは限定できず、「秋以降の公算」という見方をしている。
それでは、こうした衆院解散・総選挙の見方・読み方を詳しく見ていきたい。

 新年の政治日程

最初に新年・2020年の主な政治日程について、確認しておきたい。
◆2020年
◇1月20日  通常国会召集
◇4月19日  立皇嗣の礼
◇4月26日     統一補欠選挙(衆院静岡4)
◇春    習近平国家主席が国賓として来日(調整中)
◇6月17日  通常国会会期末
◇7月  5日  東京都知事選挙(6月18日告示)
◇7月 24日 東京オリンピック開会式(~8月9日)
◇8月 24日 安倍首相 連続在職日数歴代1位へ
◇8月 25日 東京パラリンピック開幕(~9月6日)
◇12月     新年度予算編成

◆2021年
◇ 1月       通常国会召集
◇ 7月22日  東京都議会議員 任期満了
◇ 9月30日  安倍首相 自民党総裁任期満了
◇ 10月21日   衆議院議員 任期満了

駆け足で見ていくと次のようになる。
◇新年の1月20日に通常国会が召集され、安倍首相の施政方針などが行われる。その後、補正予算案や新年度予算案の審議が続き、国会会期は6月17日まで。

◇4月19日には、秋篠宮さまが皇位継承順位1位を意味する「皇嗣」になられたことを内外に伝える「立皇嗣の礼」。

◇半世紀ぶりの開催となる東京オリンピックは7月24日に開会式、パラリンピックは8月25日開幕、9月6日に幕を閉じる。

 衆院 解散の時期

予想される衆議院の解散・総選挙の時期としては、
(1)今年1月、通常国会冒頭。
(2)新年度予算案など成立後、7月東京都知事選とのダブル選挙。
(3)東京五輪・パラリンピック閉幕後、秋の臨時国会での解散。
(4)来年2021年1月 通常国会冒頭。
(5)来年秋の任期満了に近い秋の解散になる。

 ”年明け解散” 遠のく

以上5つのケースのうち、今年1月の通常国会冒頭解散。野党第1党の枝野代表など野党関係者や自民党の一部にある見方。安倍首相に近い自民党幹部は「台風19号や大雨の被害が大きく、とても年明けの選挙はできない」と否定的だ。

また、首相主催の「桜を見る会」の公私混同批判をはじめ、大学共通テストの記述式問題の導入取り消し、総務省の現職事務次官の更迭など相次ぐ不祥事、看板政策の取り止めなどで、内閣支持率大幅に低下している。

さらに年末、カジノを含むIR=統合型リゾート担当の元内閣府副大臣、秋元司衆院議員が収賄容疑で逮捕され、年明け解散は遠のいたとの見方が強い。

このほか、新年度予算案が成立した後も考えられるが、4月は秋篠宮様の立皇嗣の礼、中国の習近平国家主席の国賓としての来日が調整中で、難しい。
さらに7月5日の東京都知事選とのダブル選も想定されるが、オリンピック直前で実現可能性は低いとみられる。

 ”五輪・パラ後”の秋以降

結局、東京オリンピック・パラリンピックが幕を閉じる9月6日以降、秋の臨時国会が召集され、衆院解散の可能性が大きい。与党の主要幹部もこの見方が強い。

また、来年に持ち越した場合、来年夏は与党・公明党が重視する東京都議会議員選挙が控えている。この時期を避けると今度は、衆議院議員の任期満了に近づき「追い込まれ解散」の恐れが出てくる。このため、年内に総選挙を実施すべきだという圧力が増すのではないか。

 解散から解散 平均3年

ところで、衆議院の解散から、次の解散までの期間はどの程度か?
今の衆議院の選挙制度に変わった1996年の橋本政権以降から、2017年安倍政権の解散までの期間を計算すると「平均3年」だ。
安倍政権に限ってみると、政界の常識より早めに解散に打って出るケースが多く「2年5か月」とさらに短くなる。

平均3年とすると、今年10月、東京オリンピック・パラリンピックが閉幕した後にあたる。今年秋の解散は、過去のケースから見ても確率的に高いということが言える。

 誰の手で解散?五輪花道論も

ところが、今回の解散には、「難問」が残されている。何かと言えば、衆院の解散・総選挙、誰の手で解散するのか。安倍首相か、それともポスト安倍の新しいリーダーかという問題だ。この点は意外に難しい。

安倍首相の自民党総裁としての任期は、来年9月30日まで、2年を切っている。自民党内には党則を再び変えて、安倍首相の4選を求める意見がある。
これに対して、安倍首相は「その考えはない」と完全に否定しており、調整が残されている。

次に衆議院議員の任期は来年10月21日、自民党の総裁任期とほぼ同じ時期に任期が切れる。追い込まれ解散を避けようとすると、任期満了1年前くらいには解散時期の腹を固めておく必要がある。

このため、安倍首相は東京オリンピック・パラリンピック閉幕頃には、総裁4選論と、次の解散・総選挙は自ら断行するのか、それとも次のリーダーに委ねるのか、この「2つの根本問題」に結論を打す必要がある。

4選の考えがない場合、次の総理・総理が追い込まれ解散を避けるためにオリンピック終了を花道に退陣し、後継総裁選びを早めるのではないかとの見方もある。この「オリンピック花道論」も含めて、秋は政局の大きな山場になる。

 解散のタイミングずれ込みも

今年秋の政治の焦点になると見られる2つの問題、総裁4選論を含めた自民党の総裁選び、衆院解散・総選挙の時期の問題について、調整や決断が遅れる場合、あるいはオリンピック閉幕以降、経済情勢や海外情勢が大きく変動したりする場合、解散・総選挙が先送りになるケースも予想される。

来年に持ち越された場合、既に見たように公明党が重視する都議選がある。その時期を避けると解散時期がさらにずれ込むことになり、解散のタイミングは中々、難しい。

以上、見てきたように衆院解散の時期は、今年秋の可能性が大きいが、不確定要素が多く、したがって、有力とまでは言い切れない。ズルズルと調整、決断がすれ込み、来年秋の任期満了に近い時期の解散・総選挙もありうるのではないか。
そこで、今の段階では、「秋以降の公算」というやや幅の広い見方をしている。

 選挙で政治の歯車を回す

最後に次の衆院選挙は、いずれにしても2年以内には、確実に行われる。私たち国民の側にとって、政治に対する見方や心構えを整理しておくことが大事だ。

私たちが知りたいのは、端的に言えば次のような点ではないか。人口急減時代に入り、政治の側は、日本社会の将来設計をどのように考えているのか。そのために独自の重点政策は用意しているのか。国際社会との関係では、米中の覇権争いが激化している中で、日本の外交・安全保障をどう考えるのか。

要は、政権与党、野党側の双方が、日本の将来像の構想を打ち出し「競い合いの政治」を見せてもらいたい。国民の側は、こうした希望、注文を主張し続けると同時に、選挙の際に投票の基準にすることが大事ではないか。

また、技術革新が超スピードで進む時代、国民の側も、個人の力だけでは限界があり、協力・共生の社会を整える必要がある。特に子育て、教育、雇用、親の介護などの社会保障は、社会全体での取り組みが不可欠だ。そのためには、選挙を中心にした政治参加。選挙で政策を最終決定し、整備していく「政治の歯車を回すこと」が問われているのではないかと考える。

 

2020政局 ”激動型” 衆院解散、総裁選び

新しい年、令和2年・2020年が幕を開けた。東京オリンピック・パラリンピックが半世紀ぶりに開催されるが、政治はどのように動いていくのか探ってみたい。

結論を先に言えば、2020年は「激動型の政局の年」になるのではないか。
秋以降、衆議院の解散・総選挙と、ポスト安倍の自民党総裁選びに向けて、激しい動きが展開する年になると見ている。

なぜ、こうした見方をするのか、その理由、背景を以下、明らかにしたい。
併せて2020年の日本政治は、何が問われているのか考えてみたい。

 ” 年明け解散なし”の見通し

野党側や自民党の一部には、年が明けて通常国会冒頭、大型の補正予算案を成立させた後、安倍首相は衆議院の解散・総選挙に打って出るのではないかという観測もあるが、年明けの解散はなしと見ている。

年明け解散説は「桜を見る会」問題で窮地に追い込まれている安倍首相が、局面打開に解散を決断するのではないかという見方だ。

これに対して、自民党幹部は台風19号などの被害が大きく、選挙を行えるような状況ではないとの判断だ。
また、去年秋の閣僚2人の辞任以降、首相主催の「桜を見る会」の規模や予算が増え続けている問題。大学入学共通テストの柱である記述式問題が取り消しになるなどの不祥事が相次いでおり、解散・総選挙どころではないというのが本音だ。

 ”五輪終わると政治の季節”

それでは、どのような展開になるのか。1月20日召集の通常国会で、与党側は、補正予算案と新年度予算案の早期成立をめざす方針だ。

これに対し、野党側は去年の臨時国会に続いて「桜を見る会」の問題を追及する方針だ。
また、年末にはかんぽ生命問題で、総務省の現職事務次官が情報漏洩で更迭されるといった前代未聞の事件も明るみになった。

さらに、安倍政権が成長戦略の柱と位置づけているカジノを含むIR=統合型リゾート担当の元内閣府副大臣、秋元司衆院議員が収賄容疑で逮捕された事件などを取り上げる方針で、与野党の激しい攻防が繰り広げられる見通しだ。

その通常国会の会期末は6月16日。翌17日は東京都知事選挙が告示され、7月4日に投票が行われるため、国会の会期延長は難しい見通しだ。候補者の顔ぶれは決まっていないが、与野党双方とも、首都決戦に場所を移し激しく争う見通しだ。

この後、7月24日に東京オリンピックが開幕、8月25日からはパラリンピックも始まり、9月6日閉幕する運びだ。このオリンピック、パラリンピックが閉幕すると、秋以降は再び政治の季節を迎え、激しい動きが予想される。

 政局激動型、2つの根本問題

秋到来とともに政治は、次第に張り詰めた空気に包まれていくのではないか。

1つは9月30日、安倍首相の自民党総裁任期が任期満了となる1年前。もう1つは3週間後の10月21日、今の衆議院議員の任期満了となる1年前だ。自民党総裁と衆院議員の任期切れが、いずれも1年後に迫り、待ったなしの状況になる。

政権与党は任期満了選挙を嫌がる。期限の設定で、追い込まれ解散の恐れがあるためだ。それを避けるために普通は1年ほど前には解散時期などの腹を固める。

自民党の総裁任期については、ポスト安倍の有力候補が不在との見方から安倍首相の総裁4選論もある。これに対して、安倍首相は今の党則で認められているのは3選までであり、「4選は考えていない」と全否定している。安倍首相の側近を取材しても首相の意思は固いという。

安倍首相は、衆院解散・総選挙と、総裁4選論の”2つの根本問題””に結論を出す必要がある。その時期は、ちょうど東京オリンピック・パラリンピック終了頃に当たる。「新年の政局は激動型」と見る根拠は、この2つの問題に結論を出す時期にちょうど当たるからだ。

  激動政局 4つのケース

それでは新年の政治は、具体的にどんな展開になるだろうか。現実に起きる可能性が高いケースを考えると、次の4つのケースが想定される。

▲第1は、東京オリンピック・パラリンピックの閉幕を受けて、安倍首相が新たな時代へスタートを切る時だとして、年内に「衆院解散・総選挙」に打って出るケース。
総裁4選については、事実上4選を前提とするケースや、選挙結果によるとして直接言及しないケース、さらには選挙後、後任に道を譲るケースがありうる。

▲第2は、後継総裁の調整が難航したり、野党の激しい攻勢などで、衆院解散のタイミングを見いだせずに「解散・総裁4選のいずれも先送り」するケース。

▲第3は、安倍首相が東京オリンピック・パラリンピック閉幕を受けて、後進に道を譲りたいとして退陣を表明、いわゆる「オリンピック花道論」。そして直ちに「後継の総裁選び」が行われるケース。

▲第4は、新総裁を選んだ後、その新総裁が衆院の解散・総選挙に打って出るケース。「首相退陣から、総裁選び、衆院解散・総選挙」へと大激動型の政局展開ケースになる。

 ”オリンピック花道論”の意味

皆さんの中には”安倍1強と言われる時代、途中退陣はありえない”との見方をされる方もいると思う。これに対して、実は”政界のプロ”と目される人たちの中には”オリンピック花道論”は十分ありうるとの見方があるのも事実だ。

半世紀余り前、昭和39年・1964年10月の東京オリンピックの際、当時の池田勇人首相は大会閉幕の翌日に退陣表明、後任に佐藤栄作氏が選ばれた。池田首相の病気が理由で極めて無念だったと思われるが、今回は、安倍首相が自身の影響力を残すことをねらいにしている。

どういうことか。安倍首相としては早期の退陣表明で、総裁選で意中の後継者が優勢な流れを作った上で、衆院解散・総選挙の時期についても、選択肢を広げることができる。さらに退陣後も自身の影響力を残せると見られるからだ。

但し、このねらい通り運ぶかどうか。安倍首相の求心力が維持しているのが前提で、シナリオ通りの展開になるかどうか不確定な要素も多い。

この他、野党が新党を結成し、次の衆院選で政権交代というケースもあり得る。但し、当面、次の衆院選までは自民・公明政権が継続する可能性が高いと見ているので、今回は想定から外している。

 花道論と4選論の確率は?

さて、皆さんから予想される次の質問は、オリンピック花道論や安倍首相の総裁4選論の可能性はどの程度あるのかという点だ。

まず、オリンピック花道論は、総裁選の有力候補者の顔ぶれや構図、それに選挙情勢などと関係してくるので、今の段階で実現可能性に言及できる状況にはない。但し、次の衆院選と、総裁選びとの間を空ける大きな意味を持っている。

一方、安倍首相の総裁4選論については、首相の側近を取材すると「総理は考えていない」と否定的な見方を示す。総理・総裁は、大きな重圧を抱えながら孤独な決断を迫られるポストだ。7年余りも続けていることを考えると、4選は考えないというのは本音ではないかと個人的には見ている。

但し、アメリカ大統領選で安倍首相と相性がいいトランプ氏が再選になった場合、あるいは、後継総裁選びが思うような展開にならなかった場合は、4選論が急浮上するのではないかとの見通しもあり、流動的と言えそうだ。

 衆院解散の確率は?

衆院解散・総選挙の方は、どうだろうか。安倍首相の側近の幹部に聞いてみると「次の衆院選を誰の手で断行するか、安倍首相と次の新しいリーダーの2つのケースが考えられるし、いずれもありうる。新年にならないとわからない」との見方だ。要は、来年前半の国内情勢や海外情勢を見極める必要があるということだと思う。

衆院解散・総選挙については、今の選挙制度になった1996年橋本政権以降、解散から解散までの期間を計算すると「3年」だ。この期間を当てはめると今年10月で、丸3年になる。安倍政権下の解散の期間は、2年5か月とさらに短くなる。

もう1つ、頭に置く必要があるのは、来年7月、与党の一翼を担う公明党が重視する東京都議選が行われることだ。この都議選と、その年の秋の任期満了を外すとなると来年ではなく「今年秋以降」、今年秋か年明けの確率が高くなると見る。
この解散・総選挙については、さまざまな要素が絡むので、次回のブログで取り上げたい。

 新年 日本政治が問われる点

以上、見てきたように新年・2020年の政治は、自民党総裁選びと衆院解散・総選挙が同時並行で進む形になり、激動型の政局の年になる可能性が高い。しかも、史上最長政権、あるいはその後継政権はどんな展開になるのか未知の領域だ。

そこで、私たち国民の側から見て、今の日本政治は何が問われているのか。
▲1つは、向こう2年以内には確実に衆院選挙が行われる。国民が投票所に足を運びたくなるような「国民を引きつける政治」を見せてもらいたい。

安倍首相は国政選挙6連勝中だが、選挙の勝敗は別にして、投票率がいずれも低く「選挙離れ社会が進行中」という深刻な問題を抱えている。

政権与党、特に自民党はポスト安倍の総裁選びで、各候補は「どんな社会をめざすのか」目標・構想を掲げ党内論争を活発に展開すべきだ。最近の党内は、”黙して語らず”、党内論争がなさ過ぎる。

▲2つ目は、野党への注文。野党の合流・新党結成の動きが続いているが、野党各党は「何をめざす政党か、旗印」を明確に打ち出してもらいたい。

また、国民が不満に感じるのは、衆院選挙の小選挙区の場合、選挙の前に勝敗の予想がつく選挙区が多いことだ。これでは投票率は上がらない。候補者の擁立、調整、態勢づくりが必要だ。

▲3つ目は、日本の政治は、人口急減社会への対応という難問に直面しながら、「将来社会をどのように設計するのか」、いまだに答えを出し得ていない。

また、米中の覇権争いが長期化する中で、日本の外交・安全保障のあり方を真正面から検討・再構築していく時期を迎えている。

端的に言えば、「日本社会の将来像と外交・安全保障の構想」の競い合い、選挙で決定する取り組み方が、最も問われていると考える。

政局が激動する年になるのであれば、私たち国民の側は「日本が抱える課題・難問の前進につながるような政治の動きに対する見方や、評価、選挙での投票」を考える必要があるのではないかと思う。

年の瀬 ”逆風強まる安倍政権”

平成から令和に代わった今年もいよいよ、残りわずかになった。
政治の世界では、これまで高い支持率を維持してきた安倍政権だが、このところ世論の風向きが変化し、逆風が強まりつつある。

最大の要因は、首相主催の「桜を見る会」について、世論の側が、安倍首相や政府側が説明責任を果たしていないのではないかと受けて止めていることだ。

それに加えて、カジノを含むIR=統合型リゾートを巡る汚職事件で、秋元司衆院議員が逮捕されるなど新たな不祥事が重なり、歯止めがかからない状況だ。

報道各社の世論調査のほとんどで、安倍内閣の支持率が大幅に下落し、不支持が支持を上回る調査結果も出始めている。

こうした内閣支持率の下落は、新年の政治の動向にも影響を及ぼすので、2019年の締め括りとして、この1年間の内閣支持率などの推移を含めて詳しく分析してみる。

 内閣支持率、年終盤に失速

最初に安倍内閣の支持率の推移について、NHKの世論調査を基に整理しておく。
2019年の1月は支持率が43%、不支持率が35%でスタートした。4月から6月かけて支持率は40%台後半に上昇。7月の参院選も40%台半ばを維持、与党が勝利を収めた。

参院選後の8月は支持率が今年最高の49%まで上昇、不支持は31%まで下がった。その後は、支持率は徐々に下降線をたどり、12月上旬の調査では支持率が45%まで下がり、不支持は37%まで上昇。その差は8ポイントまで縮まった。

報道各社の調査でも11月中旬の調査から、ほとんどの調査で支持率が5ポイントから7ポイントと大幅に下落した。(共同、産経、読売、日経各11月調査)

さらに最も新しい12月の調査で見ると◇共同通信の調査(14、15日)で支持42.7%、不支持43.0%。◇朝日新聞の調査(21、22日)で支持34%、不支持42%で、不支持が支持を上回った。支持・不支持の水準は各社によって異なるが、支持率が大幅に下落する傾向では一致している。

 「桜を見る会」が最大要因

こうした支持率低下の原因は何か。安倍政権を巡る動きとしては、9月11日に内閣改造が行われたが、早くも10月25日に菅原経産相、31日に河井法相が相次いで辞任に追い込まれた。また、萩生田文科相が大学入学共通テストの英語民間試験を巡る「身の丈発言」で謝罪、その後、民間試験の導入延期に追い込まれた。

11月上旬段階の調査では内閣支持率に大きな変化は見られなかったが、11月中旬の調査を境に内閣支持率の大幅な低下が目立つようになった。

この原因は11月8日の参議院予算委員会で、首相主催の「桜を見る会」が取り上げられたことが影響している。野党側は、安倍首相が自らの後援会員を公式行事に招待するなど公私混同、私物化だと厳しく追及し、安倍首相や政府側の答弁内容が変わり、その後の国会論戦の焦点に浮上していった。

報道各社の調査では「桜を見る会」の安倍首相の説明については、「納得できない」「十分でない」などの受け止め方が、いまだに7割前後にも達している。
また、不支持の理由として「首相が信頼できない」との割合が増加している。
つまり安倍首相は説明責任を果たそうとしていないという不信感・不満が読み取れる。

 不祥事の連鎖、政権運営に変調

安倍政権は、これまでは失言や不祥事が起きた場合、早期に閣僚の交代に踏み切ったり、衆院解散・総選挙で局面を打開したりするなど巧みな政権運営で危機を乗り切ってきた。

ところが、今回は最初の2閣僚の更迭は早かったが、その後の相次ぐ閣僚の失言、不祥事、さらには看板政策の変更・取り消しなどにも追い込まれ、「失態の長期化」に陥っている。
また、世論の批判が集中すると看板政策を中止・取り消しており、内閣支持率を気にしすぎではないかと感じるほどだ。その一方で、肝心の政策変更の理由や今後の対応策の説明が乏しく、以前のようなリスク管理能力が見られない。

具体的には、既に触れた2閣僚の更迭、大学入学共通テストの柱である英語民間試験の導入延期、記述式問題の見送り、「桜を見る会」の来年開催の中止、内閣府がこの行事への招待者名簿を廃棄した措置も批判を招いている。

これに加えて、かんぽ生命の不適切販売に関連して、監督官庁の総務省の現職事務次官が、郵政グループに天下りしている先輩の元事務次官に情報を漏洩、更迭されるという前代未聞の失態も明るみなった。
さらには、元内閣府副大臣でカジノを含むIR担当を務めた秋元司衆院議員が、収賄事件で逮捕されるといった事件も大きな衝撃を与えている。

ここまで不祥事の連鎖が続くと、”この歴代最長政権、どこか変だ”と受け止められ、内閣支持率の大幅低下は避けられない。

 安倍政権の反転攻勢は

こうした世論の逆風に対して、安倍政権の反転攻勢は可能だろうか。
年の瀬の12月26日は第2次安倍内閣が発足してから丸7年、8年目に入った節目の日だ。政権関係者は、IR汚職事件に対しても「秋元議員個人の問題で、政権とは関係ない」と強気な姿勢を崩していない。

野党側や与党の一部には、「桜を見る会」などの追い込まれの事態を打開するため、安倍首相は年明けの通常国会冒頭、大型補正予算案を成立させた後、衆院解散・総選挙に踏み切るのではないかという見方もある。

しかし、内閣支持率がここまで下落している状態では、解散を打てる状況にはないとみるのが普通の感覚だ。ましてや、台風19号や大雨などで大きな被害を受けている人たちが全国各地にいる中で、選挙に打って出られる状況ではない。年明け解散・総選挙は、極めて可能性が低いと見る。

そうすると、政権与党としては、外交面での取り組みを進めるとともに、大型の補正・新年度予算案の早期成立で局面の転換を図る以外、有効な手は限られていると見る。

 野党の支持率上がらず

これに対して、野党側は、先の臨時国会では一連の不祥事の追及で、久しぶりに主導権を発揮し一定の存在感を示したと言えそうだ。さらにその後もIR汚職事件などで、通常国会での追及材料には事欠かない見通しだ。

こうした一方で、野党の政党支持率は、横ばい状態で一向に上昇する気配がない。国民の多くは、野党の追及に一定の理解を認めながらも、追及だけでは野党を支持する気にはならないのではないか。

やはり、野党としての対案を打ち出したり、格差の是正、個人消費の拡大といった国民の共感を得られるような取り組みを進めないと、国民の支持は広がらない。次の通常国会では、政権批判だけでなく、野党としての対案、対立軸を打ち出し国民を引きつけられるかどうか。

また、野党第1党の立憲民主党と第2党の国民民主党とが合流して、新党結成までこぎ着けられるかどうかも問われることになる。

 内閣支持率、低下傾向続くか

それでは、今後、安倍内閣の支持率はどうなるのかという質問があると思う。
内閣支持率にはさまざま要素が絡んでくるので、予測は難しいが、海外情勢の要素を除くと次のような点がポイントになる。

◇仕事納めの12月27日、政府は中東地域への自衛艦などの派遣を閣議決定したが、派遣目的や法的根拠は妥当なのかどうか、数多くの論点を抱えている。
◇金融庁と総務省は、かんぽ保険の不適切な販売問題で郵政グループ各社に対する行政処分を決定、郵政グループ3社の社長が責任を取って辞任した。
但し、総務省の前事務次官の情報漏洩の動機なども明らかにする必要がある。
◇さらに秋元司衆院議員の汚職事件については、中国企業からの資金提供が300万円以外にもあったのかどうかなど全容解明はこれからだ。

このようにこれまでの不祥事に加えて、新たな問題・事態の展開が続いており、通常国会では、野党側の厳しい追及が予想される。このため、内閣支持率はさらに低下する可能性が大きいのではないか。

国民の側からすると、国会では、こうした不祥事に対する真相の究明とともに、新年度予算案の中身の点検、社会保障制度の将来像といった難問への対応、それに国際情勢・外交問題などを巡る論争を徹底して行ってもらいたい。
要は、国民が知りたい点に応える論戦、バランスの取れた政策論争をきちんと行うことを政権与党、野党側の双方に注文しておきたい。

 

◆お知らせ

年内のブログはこれで一区切りとし、新年1月1日に新たなブログを投稿できるよう、これから準備に入ります。
ご多忙な中、当ブログをご覧いただき感謝しています。新年もどうぞ、よろしくお願いします。

”この頃都に流行るもの”「政と官の乱れ」

”この頃、都に流行るもの。閣僚辞任に、役人更迭。試験取り止め、桜も見送り”。令和元年もまもなく暮れようとしているが、”このところの政治や霞が関は、ちょっと変だ”と感じる方は多いのではないか。

特に総務省の事務レベルのトップが検討中の情報を漏洩していたとして、更迭された不祥事には驚かされた。

官僚、政治の規律の乱れが深刻化しているのではないか。前回に続いて、政治と官僚の問題について取り上げる。

 事務方トップの更迭

今月20日の夕方、総務省事務次官を更迭との速報が流れた。かんぽ生命の保険の不適切な販売をめぐる問題で、高市総務大臣が緊急に記者会見し、総務省の鈴木茂樹・事務次官が行政処分の検討状況を会社側に漏らしたとして、更迭したことを明らかにした。

その情報の漏洩先が、日本郵政の鈴木康雄・上級副社長で、旧郵政省の先輩・後輩の関係という。鈴木副社長は、2009年に総務省の事務次官を務めており、政界との繋がりが強い人物と見られていた。かんぽ生命の問題を報じたNHKの番組、「クローズアップ現代プラス」の放送に抗議を行った人物としても知られる。

 前代未聞の不祥事

今回の問題は、郵政グループのかんぽ生命の保険をめぐって、顧客が保険料を二重に支払わされるといった不適切な販売が多数明らかになり、会社側が18日に、法令や社内ルールに違反する疑いのある販売が1万2800件あまり確認されたことを公表したばかりだった。

これについて、金融庁は、内部の管理体制に重大な問題があったと見て、かんぽ生命と日本郵便に対して一部の業務停止命令を出す方向で検討を進めている。

総務省も、日本郵政と日本郵便に対して、23日までに原因分析や改善案などの報告を出すよう求めているほか、企業統治に問題があったと見て業務改善命令を出す方向で検討している。

こうした中で、鈴木事務次官は、鈴木副社長に情報漏らしていたことになるが、漏洩の動機などは明らかにしていないという。日本郵政は国が現在も57%の株式を保有し、取締役の選任や解任は総務省が権限を持っている。

つまり、監督官庁である総務省の事務方トップが、同じ役所から天下りした先輩OBに現在進行中の処分情報を伝えていたという前代未聞の不祥事と言える。事実関係を明らかにして、責任を明確にすることを強く求めておきたい。

 官僚の矜恃と規律の緩み

最近気になるのは、官僚の矜恃と規律が緩んでいるのではないかと感じさせられる点だ。私は1970年代後半から40年近く霞が関でも取材をしているが、取材対象となった事務次官は能力、見識とも優れていたし、特に退職後も誤解を生むような再就職、天下り先は慎重に避けていた。

ところが、最近の事務次官経験者の中には、現役時代の利害関係があるのではないかと見られる企業、団体に再就職しているケースも散見される。官僚の矜恃と規律が緩んでいるのではないかと感じさせられる。

一方、霞が関の中には、所管法人の主要ポストを公募方式として、外部有識者の選考委員会で選考を進めるなど透明度の高い仕組みを実践している役所もある。利害関係や行政処分の権限を持つ団体や企業への再就職については、改めて点検、見直しが必要ではないか。

 政権の支持率を気にしすぎ?

政権との関係について言えば、この数か月を振り返ってみても不祥事や重要政策の取り止めが相次いでいる。◇主要閣僚2人の辞任にはじまり、◇大学入学共通テストへの英語民間試験の導入延期、◇記述式問題の導入見送り・白紙撤回、◇首相主催「桜を見る会」の来年開催の見送り、◇「桜を見る会」の招待者などの公文書の廃棄、◇今回の事務次官の情報漏洩と更迭。

安倍政権は11月に憲政史上最長を記録し、外交・安全保障の面では、イラン大統領の来日、12月の日中韓の首脳会談などで存在感を発揮している。

一方で、内政面では不祥事や問題が起きると事実関係など十分な説明がないまま、直ちに人事の更迭、取り止め打ち出される。

このため、政界関係者からは「最近は、世論の批判が集中すると直ぐに方針転換となる。人事や主要政策の取りやめが多すぎる。しかも、取り止めの説明が十分ではない。内閣支持率の低下を気にしているというか、気にしすぎているのではないか」との苦言が聞かれる。

 公文書の廃棄と説明責任

さらに問題が大きくなると本来、存在するはずの公文書が廃棄されて事実関係の確認が進まないという問題が目立つ。政府に対しては、公文書の保存と説明責任をきちんと尽くすことを強く求めておきたい。

公文書の問題は、去年・2018年春、森友問題で財務省の決裁文書が改ざんされていたことがわかり、大きな問題になった。また、ないとされていたイラク派遣の自衛隊の日報が見つかったり、加計学園問題で新たな文書の存在が問題になったりした。公文書管理の重要性が徹底されたはずなのだが、「文書は廃棄され、わからない」といった状態が今年も続いている。

公文書管理法が成立したのが10年前・2009年6月、2011年4月から施行された。その第1条で、公文書は健全な民主主義の根幹を支える「国民共有の知的資源」と位置づけられている。

同時に「国民が主体的に利用できるもの」で、政治家でも官僚の所有物でもない。

さらに「説明責任」は、現在の国民だけでなく「将来の国民」にも説明する責務が明記されている。

 「政と官」の関係見直し

官僚の問題については、大学を卒業して国家公務員の志望者が一時に比べて減少しているとの話を聞く。また、若手・中堅の官僚諸氏は、大臣や政治家に対する進言などがめっきり減っているとの声も聞く。

こうした背景には、官僚主導から政治主導への転換の影響もあるが、政権や政治家側の対応にも問題があると思われる。

日本がこれから内外の難問に挑戦していくためには、官僚の政策能力の活用は不可欠だ。そのためにも「政と官の関係」、政権・政治の側は、官僚が政治と適切な距離を保ちながら、力を発揮できるような体制づくりを考えていく必要があるのではないか。

私たち国民の側も、政治と官僚の関係、バランスをどのように取るのがいいのか、意識しながら政治のこれからの動きを見ていきたい。