“波乱・混迷政局の幕開け”2024年予測

自民党の派閥の「裏金疑惑」が政権を直撃する中で、新しい年・2024年が幕を開けた。政界関係者の情報を総合して判断すると、新しい年は「波乱、混迷、模索の年」になるのではないか。

「波乱」とは、端的にいえば、内閣支持率の低迷が続く岸田首相は退陣、交代する確率が高いということ。

「混迷」とは、後継選びとなると有力候補がいないため、交代時期や候補者の絞り込みなどをめぐって、調整などが難航することが予想される。

焦点の衆院解散・総選挙の時期は、自民党の総裁選びと事実上、表裏一体の位置づけとなり、新総裁が決まると時間を置かずに解散・総選挙になる公算が大きいのではないか。2024年中に解散・総選挙となる可能性が高いとみている。

さらに「模索」とは、どういうことか。今の政治は、裏金疑惑に代表されるようにここ数十年の中でも残念ながら、最低水準といわざるをえない。ザル法と揶揄される政治資金規正法ですら守られないほど政治の劣化が進んでいる。

しかし、それでも難題を数多く抱える日本にとって残された時間は多くはない。政権、与野党双方とも懸案・課題を前進させていくため、さまざまな取り組みを試みてもらいたい。

なぜ、こうした結論になるのか、以下、説明したい。

 裏金疑惑、立件は政治家まで拡大か

新しい年の政治はどう展開するか?まず、大きな影響を及ぼすのは、自民党の派閥の裏金疑惑、政治資金規正法違反事件がどこまで拡大するかだ。

東京地検特捜部は12月中旬に安倍派と二階派の事務所の強制捜査を行ったのに続いて、多額のキックバックを受けたとされる安倍派の衆参議員2人の事務所などの家宅捜索も行った。

そして、年末までに松野・前官房長官、世耕・前参院幹事長、高木・前国対委員長、萩生田・前政調会長に続いて、西村・経産相の任意の事情聴取を行った。これで「5人衆」と呼ばれる派閥幹部と座長の塩谷・元文科相の6人すべてが、事情聴取を受けたことになる。

自民党関係者に今後の見通しを聞くと「検察当局は、金丸事件も念頭に捜査を進めるのではないか。安倍派と二階派の会計責任者だけではなく、議員や派閥幹部にまで広げるのではないか。但し、人数や範囲は全くわからない」と語る。

特捜部の捜査が最終的にどのような形で決着がつくのか、政界関係者は固唾を飲んで見守っている。いずれにしても、岸田政権と年明けの通常国会にさらに大きな打撃を与えることになるのではないか。

 自民総裁選び、岸田首相交代の波乱も

それでは、新年の政治はどのように展開するのか。今年前半の政治の舞台となる通常国会は今月26日に召集、会期末は6月23日となる見通しだ。野党は「政治とカネ」の問題で岸田政権を厳しく追及する構えだ。

これに対し、岸田首相は、自民党に新たな組織を立ち上げて再発防止と政治改革案をとりまとめ、国民の信頼回復への道を探りたい考えだ。

また、今年の春闘で物価高を上回る賃金の引き上げを実現し、6月に所得税など定額減税の実施ができれば、政権を取り巻く厳しい空気は和らいでくるのではないかと期待をかけている。

こうした一方、「政治日程は逆に読む」と言われる。以上のように時系列で政治の動きをみていくのではなく、政治を最も大きく左右する要素は何かを考えて、逆算して予測するとどうなるか。

最も大きな意味を持つのは、今年秋の自民党総裁選挙だ。岸田首相にとって、自民党総裁の任期が9月末に満了となり、再選できるかどうかが最大のハードルになる。その1年後の来年10月は、衆議院議員の任期も満了となる。

自民党長老は「自民党の議員、特に若手議員は、総裁選挙で誰に投票するか、次の衆院選挙とセットで考える。自民党は自分党、自らの当選を果たすうえで、『選挙の顔』は誰が有利かとなる。そうすると内閣支持率が改善しないと、岸田首相の再選の道は険しいものになるだろう」との見方を示す。

報道機関の世論調査で岸田内閣の先月の支持率は、20%台前半まで落ち込んだ。自民党の支持率もこれまで30%台後半を維持してきたが、年末には30%を切って、2012年に自民党が政権復帰して以降、最低の水準まで下がっている。

自民党内では「岸田降ろし」の動きは起きていないので、早期の退陣は考えにくい。しかし、総裁選が近づくにつれて岸田離れが一段と進むと見られ、再選は困難との見方が、じわりと広がっている。「波乱」の確率は高いとみられる。

そのうえで、想定される波乱の時期だが、与野党の議員に聞くと見方は分かれる。◇新年度予算成立の3月末が限界との説から、◇4月28日統一補欠選挙後、◇通常国会が閉会する6月、◇自民党総裁選が近づく夏といった具合だ。

岸田首相は3月上旬にはバイデン大統領の招請を受けて訪米、6月には首相肝いりの定額減税が実施されるので、それまでの退陣は何としても避けようとするのではないか。個人的には、6月の通常国会閉会後か、総裁選が近づく夏以降の公算が大きいのではないかとみている。

 総裁選び「選挙の顔」重視、混迷も

さて、ポスト岸田はどうなるのかといった質問もあるかと思う。支持率低迷でも岸田首相が持ちこたえているのは、後継の有力候補がいないことが大きい。

それでも総裁選が近づくと新たな候補者擁立の動きが出てくるのは、自然な流れだ。自民党関係者に聞くと、立候補の経験がある石破元幹事長、河野デジタル担当相、高市経済安保担当相らのほか、新たな顔ぶれとしては、茂木幹事長、小泉元環境相、上川陽子外相らの名前が挙がる。

但し、圧倒的な支持を集めそうな候補者は見当たらない。このため、総裁の交代時期、候補者の絞り込みなどが難航し、迷走することも予想される。

さらに、今回は99人が所属する党内最大派閥の安倍派はどうなるのかという問題もある。特捜部の今後の捜査なども考えると他の派閥幹部からは「安倍派の存続は困難、解体的出直しは避けられないだろう」との厳しい見方も聞かれる。

自民党関係者の一人は「次の総裁選びでは、党員や議員の多くは『総選挙の顔』となる候補を選ぼうとするだろう。裏金問題で自民党への視線が厳しくなるので、よりましな候補、経験や実績のある候補へ支持が集まる」との見方を示す。

別の関係者は「裏金問題に焦点が当たるので、従来の派閥主導の候補者擁立は絶対ダメ。女性候補が浮上するのではないか」と話す。候補者選びは紆余曲折、混迷も予想される。

 年内総選挙も、新しい政治へ展望は?

もう一つの焦点である衆議院の解散・総選挙の見通しはどうか。自民党長老は「新総裁が選ばれた場合、即、国民に信を問うことになるだろう。今回は、総裁選びと総選挙を一体として位置づけて、戦うからだ」との見方を示す。

これに対して、野党側も通常国会では「政治とカネ」の問題を徹底的に追及しながら、岸田政権を解散・総選挙へと追い込んでいく構えだ。

こうした与野党双方の姿勢から判断すると次の総選挙は、今年中に行われる可能性が高いとみられる。衆院議員の任期は折り返しを過ぎたことに加えて、来年夏は参院選挙が控えているので、その前に総選挙という見方が強いからだ。

その際、野党の責任は極めて重い。この10年余りの国政選挙では、自民・公明両党の連戦連勝が続いている。その原因は、野党がバラバラで、政権交代はもとより、与野党伯仲にも持ち込めていないからだ。

「自民1強、野党多弱体制」は安倍派の裏金疑惑で崩壊の兆しが見え始めたが、立憲民主党や維新は、自民1強体制を崩せるのか、そのために戦略的な連携へと踏み出すことができるかどうか、問われることになりそうだ。

一方、国民からは「与野党が『政権構想』を示して、もっと政策を競い合う新しい政治を展開してもらいたい」との声を聞く。円安政策もあって、GDPをはじめとする日本の国際社会における地位の低下が目立つからだ。

人口急減社会が進行する中で、賃金の引き上げや経済の再活性化をどのように実現していくのか。教育、社会保障の将来の姿、防衛力増強や少子化対策の具体的な財源確保について、政府が方針を明確に示し、与野党が国会で議論を尽くして前進させていく「新しい政治」を期待する声は根強いものがある。

以上、見てきたように今年の政治は、波乱と混迷、模索の1年になりそうだ。一方、与野党の陣取り合戦だけで終わらせては意味がない。まず、政府、与野党、政治の側の取り組みが問われる。同時に、私たち国民も政治への関心と、選挙でしっかり判断し、選択していくことが求められる。(了)

★追記(5日正午)◇1日に起きた能登半島地震で、石川県内で合わせて92人の死亡が確認された(5日8時・時点)。また、安否不明者は242(5日9時・時点)。 ◇岸田首相は4日夕方の記者会見で、自民党の派閥の政治資金問題で、来週、総裁直属の機関として「政治刷新本部」を立ち上げ、再発防止策や派閥のあり方などの検討を進める意向を表明した。派閥のあり方など党改革の議論でどこまで踏み込めるかが焦点。

 

 

 

 

 

 

“揺らぐ岸田政権” 裏金疑惑に強制捜査

自民党の派閥の政治資金パーテイーをめぐる問題で、東京地検特捜部は19日、最大派閥の安倍派と二階派の事務所などを捜索し、強制捜査に乗り出した。

去年までの5年間に安倍派は5億円、二階派は1億円を越えるパーテイー収入を政治資金収支報告書に記載せず、裏金として還流させていた疑いが持たれている。

今後は派閥の会計責任者だけでなく、多額の資金のキックバック・還流を受けていた国会議員や派閥の幹部の責任を問えるかどうかが大きな焦点だ。

一方、今回の裏金疑惑捜査は、岸田政権を直撃するだけでなく、政権与党の自民党に対する国民の批判が一段と強まるきっかけになりそうだ。

党内からも「リクルート事件以来の逆風になるかもしれない」と警戒する声も聞かれる。岸田政権と政界への影響などを探ってみる。

 裏金疑惑の捜査、政治家まで伸びるか

政界関係者が固唾を飲んで見守っているが、検察の捜査が国会議員まで伸びるかどうかだ。

政治資金規正法は、資金の流れを公開し、国民の監視と批判に委ねることを目的にしており、政治資金収支報告書の記載は、会計責任者が責任を負う仕組みになっている。このため、国会議員や派閥幹部の責任を問うのは、ハードルが高いとされてきた。

岸田政権や自民党の党内事情に詳しい関係者に聞いてみた。「岸田官邸は捜査がどこまで広がるか、つかめていないようだ」とのべ、捜査がどこまで展開するか明確に見通せないという。

一方、「検察当局は安倍政権時代、黒川・東京高検検事長の処遇をめぐって検察人事に手を突っ込まれた経緯もあり、その反撃といった意味もあって強い執念で取り組んでいる」として、安倍派の議員や幹部まで捜査が広がる可能性があるとの見方を示す。

検察当局は、安倍派の「5人衆」と呼ばれる幹部などからも詳しい事情を聞くものとみられ、最終的に捜査がどのように決着するのかが最大の焦点だ。

 内閣支持率急落、トリプルパンチ

次に、政界への影響はどうか。岸田政権については、既に内閣支持率が低迷している状況だけに、今回の疑惑捜査はさらなる打撃となりそうだ。

岸田首相は14日、安倍派の裏金疑惑を受けて、松野官房長官ら安倍派の閣僚4人と副大臣5人の大幅交代に踏み切った。

ところが、この直後に行われた報道各社の世論調査によると、岸田内閣の支持率は、読売新聞が25%で横ばい、共同通信が22.3%で6ポイント下落、朝日新聞が23%で2ポイント下落となった。閣僚の交代による政権の立て直し効果は、まったく見られなかった。

いずれの調査とも岸田内閣支持率は20%台前半まで下落している。これは、2012年に自民党が政権復帰して以降、歴代政権の最低の水準だ。今回、裏金疑惑の捜査の影響を考えると、さらなる支持率の下落が予想される。

岸田政権は、10月に新たな経済対策の切り札として「所得税などの定額減税」を打ち出したが、国民には不評で、政策面で厳しい批判を浴びた。

これに加えて、11月は「副大臣3人が相次ぐスキャンダル」で更迭、さらに12月は「裏金疑惑」が重なり、トリプルパンチを浴びる形になっている。国民の信頼が低下し、今後の政権運営にも大きな影響が出ることは避けられない見通しだ。

 自民党も支持率低下、逆風強まるか

裏金疑惑の問題は、内閣支持率だけでなく、これまで30%台後半で比較的高い水準を保ってきた自民党の支持率にも影響を及ぼし始めた。

NHKが12月上旬に行った世論調査で、自民党の政党支持率は、先月より8ポイント余り下がって29.5%。2012年に自民党が政権復帰して以降、初めて30%を割り込んだ。

今月中旬に行った朝日新聞の世論調査でも自民党の支持率は23%で、先月より4ポイント下落、こちらも2012年の政権復帰以後、最低を更新した。

朝日の調査によると◆裏金疑惑をめぐる岸田首相の対応については、「評価しない」が74%、「評価する」が16%だった。◆自民党は「政治とカネ」の問題を繰り返してきた体質を変えられると思うかとの質問に対しては、「変えられない」が78%、「変えられる」は17%だった。

こうしたデータを基に判断すると、自民党は信頼回復に向けた思い切った対応策を打ち出さないと自民党に対する世論の逆風は一段と強まることになるのではないか。

 疑惑対応が後手、国民の信頼回復は?

それでは、これからの政治はどう動くか。岸田首相は、22日に新年度予算案を閣議決定するとともに、萩生田政調会長ら辞任する党役員の後任を決定して、態勢の立て直しを図る方針だ。

そして、来年の春闘で物価上昇を上回る賃金引き上げを実現し、6月の定額減税の実施などで国民生活を安定させ、政局の主導権を回復したい考えだ。

自民党長老に聞くと「岸田政権が、個別政策で実績を上げて政権の浮揚をめざすのはかなり難しい。今や、政権と自民党が一体となって、政治不信を払拭し、国民の信頼を取り戻せるかが急務だ」と指摘する。

また、「岸田首相にとって今のような支持率では、とても解散は打てない。新年度予算案が成立した後は、来年秋の自民党総裁選に向けて『新しい顔』を探す動きが出てくるかもしれない」との見方を示す。

岸田首相は13日の記者会見で「自民党の体質を一新すべく先頭に立って戦っていく」と決意を強調したものの、具体的な対応策は示すことができなかった。

安倍派と二階派の事務所に検察の捜査が入った19日も岸田首相は、記者団に「強い危機感を持って信頼回復に取り組む」と一般論を繰り返すだけに止まった。

また、安倍派の閣僚4人は全員交代させたのに対し、二階派の小泉法相と自見万博担当相は続投させる判断をした理由について、詳しい説明はなされなかった。

このように岸田政権は、国民の多くが求めている疑惑の解明や、こうした事態を招いた原因などについての説明が、後手に回っている。

自民党には、リクルート事件を教訓に党のあり方などを盛り込んだ「政治改革大綱」がとりまとめられているが、岸田首相や党執行部から、こうした原点に立ち返って対応していくといった今後の取り組み方についての言及は聞かれない。

岸田政権には、派閥のあり方などを含めた党改革について、踏み込んだ対応や指導力の発揮が最も問われているようにみえる。そうした取り組みができない場合、党員や国民の支持を失う危機的状況に追い込まれるのではないか。(了)

★(追記=21日21時)東京地検特捜部は、松野官房長官、高木国会対策委員長、萩生田政調会長ら安倍派の複数の幹部に任意の事情聴取を要請した。     ★(追記=25日21時)東京地検特捜部は、安倍派幹部の松野前官房長官、高木前国対委員長、世耕参院幹事長、塩谷元文科相(派閥の座長)から24日までに任意で事情を聞いたことが明らかになった。                    ◆岸田首相は25日、麻生副総裁ら自民党執行部と会談、年明けのできるだけ早い時期に、派閥の政治資金パーテイーをめぐる問題を受けた改革などを検討するため、新たな組織を立ち上げる考えを示した。                ★(追記=27日23時)東京地検特捜部は27日、安倍派から4000万円を超えるキックバックを受けていたとみられる池田佳隆衆議院議員の事務所などを捜索した。自民党の派閥をめぐる政治資金問題で、議員側が強制捜査を受けるのは初めてだ。                                  ★(追記=28日21時)東京地検特捜部は28日、自民党安倍派の大野泰正参議院議員の事務所などを捜索した。安倍派から5000万円のキックバックを受けていたとされる。                               ◆柿沢前法務副大臣が28日、江東区長選挙をめぐる買収の疑いで東京地検特捜部に逮捕された。

裏金疑惑”踏み込んだ対応策示せず”岸田首相

自民党の派閥の政治資金パーテイーをめぐる問題で、岸田首相は13日夜、記者会見し、臨時国会の後、直ちに政権の態勢立て直しを図るため、14日に松野官房長官など安倍派の閣僚4人を交代させる人事を行う考えを明らかにした。

また、安倍派の副大臣5人も交代させる一方、政務官6人については、本人の意向なども踏まえて、交代させるかどうか判断する方針だ。

さらに、萩生田政務調査会長や高木国会対策委員長はそれぞれ自ら辞任する意向を表明したが、岸田首相としては、安倍派の党幹部の交代時期については、来年度予算案の編成作業の日程なども考慮しながら、調整したい考えだ。

こうした一方で、岸田首相は「自民党の体質を一新するために先頭に立って戦っていく」と決意を表明したが、踏み込んだ具体的な対応策は示すことができなかった。

14日の閣僚人事を前に岸田首相は、裏金疑惑問題にどのように対応しようとしているのか、何が問われているのか整理しておきたい。

 実態の解明、首相の積極姿勢みられず

岸田首相は昨夜の記者会見で、自民党の派閥の政治資金パーテイーをめぐる問題について「国民から疑念を持たれるような事態を招いていることは極めて遺憾だ」とのべたうえで、「自民党の体質を一新すべく先頭に立って戦っていく」と強い決意で取り組む考えを表明した。

こうした一方で、実態解明の取り組みについては「当事者が調査・精査し、丁寧に説明を行い、事実確認が求められている。事実が確認されたならば、国民に説明し、さまざまな課題、原因が明らかになっていく。自民党としてどう立ち向かうのか明らかになる」と慎重な発言に終始した。

この考え方では、裏金作りの疑いが持たれている国会議員が、まずは事実関係の確認をしながら、原因や課題を明らかにし、そのうえで、自民党としての対応策をとりまとめていくことになる。これでは、裏金疑惑の実態解明は、検察当局の捜査以外、ほとんど進まないのではないか。

国民の多くが岸田首相に期待しているのは、なぜ、派閥が総ぐるみで裏金作りを組織的に行ってきたのか、検察当局の捜査を待つのではなく、政治の側が自ら進んで事実関係を明らかにしていくリーダーシップの発揮だ。

昨夜の岸田首相の発言からは、こうした実態の解明に積極的に取り組む姿勢がみられなかったのは、極めて残念だ。

 ”安倍派外し”で済むのか、党の対応は

14日に行われる閣僚人事の特徴は、自民党最大派閥・安倍派に所属する閣僚4人全員と、副大臣5人をそろって交代させる”安倍派外し”にある。

政務官6人も当初の方針では交代させる方針だったが、安倍派から「政務官は資金の還流を受けていない」と強い反発を受けて、一部軌道修正した形だ。しかし、”安倍派外し”の本質は変わっていない。

安倍派は、去年までの直近5年間に5億円が政治資金収支報告書に記載されず、裏金として還流していた疑いがもたれている。その金額が突出して多いことや、裏金作りが組織的、常態化していた可能性が高く、責任を問われるのは当然だとの意見は自民党内でも強い。

但し、パーティー収入の不記載による裏金作りについては、二階派も行っていたほか、麻生派でも不記載があったとされる。さらに、岸田首相が7日まで自ら会長を務めていた岸田派・宏池会でも数千万円の不記載が行われていたことが明らかになった。

こうした事態を考えると、閣僚の交代などの責任は安倍派だけで済むのか。今後、その他の派閥の扱いをどうするのか、記者会見では明らかにされなかった。

自民党関係者に聞くと「岸田官邸は、各派閥の資金処理の実態など詳しい情報を得られていないのではないか」と話す。この指摘が事実であれば、今後、検察の捜査によっては新たな事実が明らかになり、対応を追われる事態も予想される。

岸田政権は、裏金疑惑に対して、どのような基本方針で臨み、閣僚や党役員に対して責任を取らせる基準をどのように考えるのか、昨夜の記者会見では明らかにならなかった。全体として、国民の知りたい点に応えるような会見ではなかった。

 問われる首相のリーダーシップ

今回の巨額裏金疑惑に対する世論の反応は、厳しい。NHKが今月8日から10日にかけて行った世論調査で、岸田内閣の支持率は先月より6ポイント下がって23%まで下落し、政権発足以降最低を更新した。不支持率は6ポイント上がって58%に達した。

これまで比較的高い水準を維持してきた自民党の政党支持率も先月より8ポイントも下がって29.5%、2012年に政権復帰して以降、初めて30%を割り込んだ。いずれも裏金疑惑が直撃した影響とみられる。

こうした世論の厳しい反応に対して、岸田政権の対応は鈍い。岸首相は、政治資金パーティー開催の自粛と、自ら派閥の会長を退くことを表明した。そして、ようやく、今回、安倍派の閣僚などの交代に踏み切った。後手の対応が目立つ。

政治資金規正法を抜本的に見直し、政治資金を記載しない政治家や、政治団体の代表に対する罰則を強化すべきだとの声も聞く。また、30年前のリクルート事件の際にも問題になった派閥の解消などを求める声も強まっている。

14日の人事では、官房長官に林芳正・前外相が起用されるなど新たな閣僚の顔ぶれも固まった。但し、閣僚を入れ替えた程度で、政権の窮地が改善されるほど甘い情勢ではない。

岸田政権と自民党が、裏金疑惑の実態の解明と政治不信の払拭に真正面から取り組み、目に見える実績を上げることができない限り、岸田政権が命脈を保つのは難しいのではないか。正に待ったなしの危機的状況で、岸田首相の指導力が問われている。(了)

★<追記14日13時>自民党安倍派幹部の世耕参院幹事長は、辞表を提出したことを明らかにした。これで、安倍派の「5人衆」と呼ばれる幹部は、いずれも閣僚や党幹部の役職を退くことになった)

 

“自民派閥の裏金疑惑”政権中枢を直撃

自民党の派閥の政治資金パーテイーをめぐる問題で、最大派閥の安倍派(清和政策研究会)に所属する松野博一官房長官側が、去年までの5年間に1000万円を超えるキックバックを受け、政治資金収支報告書に記載していない疑いがあることが明らかになった。

これは8日朝、朝日新聞が報道したのに続いて、そのほかの新聞・放送各社の報道で明らかにされたものだ。東京地検特捜部もこうした資金の流れなどについて、実態解明を進めているものとみられる。

一方、NHKは8日夜のニュースで、松野官房長官側のほかにも、安倍派幹部で事務総長を務める高木毅国会対策委員長や、世耕弘成参議院幹事長側も1000万円を超えるキックバックを受けていることが新たにわかったと報道した。

これによって、政治資金パーテイーをめぐる裏金疑惑は、岸田政権の中枢を直撃する可能性が大きくなった。自民党関係者によると、臨時国会閉会後に検察当局が本格的な捜査に着手するとみており、岸田政権は大きく揺らぐことも予想される。

 裏金疑惑、事実関係の確認なされず

自民党の5つの派閥による政治資金パーテイー収入の不記載問題は、急展開した。今月1日には、最大派閥の安倍派では、パーテイー券の販売ノルマを設定し、ノルマを超えて集めた分の収入を議員側に裏金としてキックバックしていたことが明らかになり、その収入は去年までの5年間で数億円に上るものとみられている。

その後、安倍派の複数の議員が、1000万円を超えるキックバックを受けていた疑いが明らかになったほか、派閥側、議員側ともに政治資金収支報告書に記載していなかったものとみられ、裏金として環流していた実態が浮き彫りになった。

さらに冒頭に触れたように8日には、安倍派の事務総長の経験者で、官房長官の松野氏も1000万円を超える裏金を受け取っていたことが報じられた。裏金問題は、岸田政権の中枢を直撃した形になり、与野党に衝撃が広がった。

この問題は、8日に開かれた衆参両院の予算委員会でも取り上げられ、立憲民主党は、事実関係を厳しく追及するとともに松野官房長官に辞任するよう迫った。

これに対し、松野官房長官は「派閥で事実関係の確認が行われている最中であり、刑事告発を受けて捜査が行われている。私の政治団体についても精査して適切に対応していきたい」と同じ答弁を何度も繰り返し、事実関係の確認を避けた。

また、松野官房長官は「引き続き所管する分野の責任を果たして参りたい」とのべ、辞任する考えのないことを強調した。岸田首相も「政府のスポークスマンとして、しっかりと発信してもらう」と更迭する考えのないことを強調した。

岸田首相は一連の裏金疑惑について「自民党全体の問題として危機感を持っており、一致結束して対応していく。その第一歩として、信頼回復への道筋が明らかになるまで、政治資金パーテイーを自粛すること決めた」とのべ、今後の状況をみながら、さらなる対応をとる考えを示した。

このように岸田政権の対応は、危機感を表明するものの、各派閥のパーテイーによる資金集めや収支の実態がどのようになっていたのか、問題の核心に触れる説明はみられなかった。これでは、国民の疑問や疑念に答えることはできない。

 官房長官などの進退、検察の捜査が焦点

問題は、これからの展開はどのようになるかだ。8日の集中審議を受けて、野党側は「松野官房長官は説明責任を果たせていない」として、辞任要求や、証人喚問要求を強めていく方針だ。

与党内からも「今のような答弁では、内閣の要としての役割が果たせていない」などの厳しい意見も聞かれ、辞任は避けられないとの見方も出ている。

また、松野官房長官のほか、高木国対委員長や、世耕参院幹事長などの疑惑が事実であれば政治責任が厳しく問われ、進退問題につながることも予想される。

国民世論の厳しい評価が示されると、閣僚や党役員の一部交代に止まらず、内閣改造が必要になるとの見方もある。

さらに、最も大きな焦点は、検察当局の捜査のゆくえだ。今の臨時国会が13日に閉会すれば、安倍派の会計責任者や、事務総長経験者の幹部、さらには多額の裏金を受領していた議員などの事情聴取が行われ、立件に向けての捜査が本格化するものとみられる。

このため、岸田政権は、政治資金問題への対応に加えて、年末に向けて新年度予算の編成作業も待ったなしの状態だ。この2つの問題をどのように乗り切っていくのか、岸田首相は早急な態勢立て直しを迫られている。(了)

★追記(9日22時)自民党安倍派の政治資金パーテイーをめぐる問題で、新たに安倍派座長の塩谷立・元文科相、萩生田光一・政務調査会長、西村康稔・経産相がパーテイー収入の一部について、キックバックを受けていたとみられることが明らかになった。これで、安倍派の「5人衆」と「座長」の幹部6人は、いずれも派閥から裏金のキックバックを受けながら、政治資金収支報告書に記載していない疑いがあることが明らかになった。

 

 

 

”巨額裏金疑惑”急浮上、早急に事実の解明を

自民党最大派閥の安倍派「清和政策研究会」が、巨額の裏金づくりを続けていた疑いが明らかになり、衝撃が広がっている。

安倍派幹部は詳しい説明を避けており、報道が先行する形になっているが、政治とカネの問題は「国民の政治不信を招く最大の元凶」だ。

岸田首相は自民党総裁として、安倍派幹部に事実関係の解明を急ぐよう指示すべきだ。また、自民党も今後の具体的な対応策を早急に明らかにする責任がある。

岸田政権と自民党の対応が不十分だと国民が受け止めた場合、”岸田政権離れ”がさらに進み、政権運営に深刻な影響が出てくることが予想される。

 キックバック総額、5年間で数億円か

今回の自民党の派閥による裏金づくりの問題は、短期間に急展開したので、わかりにくいという方も多いと思われる。最初にここまでの動きについて、NHKの報道を基にポイントを整理しておく。

▲今回の問題は、自民党の5つの派閥が行った政治資金パーティーの収入が、政治資金収支報告書に合わせて4000万円も過少に記載されているという告発を受けて、検察当局の新たな動きから始まった。東京地検特捜部が、派閥関係者から任意の事情聴取を行っていたことが、先月18日に明らかになったのだ。

▲自民党の派閥の政治資金をめぐっては、複数の派閥が、所属する議員の役職や当選回数などに応じて、パーティー券の販売ノルマを設定し、ノルマを超えて集めた分の収入を議員側にキックバックしていたことを示すリストを作成していたことも明らかになった。

▲このうち、最大派閥の安倍派は、議員側にキックバックした分の収入を、派閥の政治資金収支報告書に記載していなかったとされる。その総額は、去年までの5年間で数億円に上るという。

▲また、安倍派の複数の議員は、1000万円を超えるキックバックを受けていた疑いがあることも明らかになった。

以上のような事実関係から、安倍派は、政治資金パーティーで集めた資金の中から一定額を、裏金として所属議員にキックバックする運用を組織的に続けてきたものとみられている。

こうしたキックバックは、二階派「志師会」でも行われていたという。自民党関係者に聞くと「派閥の政治資金パーティーは、実際には個別の議員が売りさばいており、派閥は全体状況を正確に把握できていないのが実状だ」と語る。

また、「不明朗な資金処理は、安倍派だけでなく、他の派閥でも同じようなことが行われている」として、自民党にとって根の深い問題であることを認める。

 公開が基本、政治改革否定の悪質行為

さて、こうした自民党派閥の「政治とカネ」の問題をどのようにみるか?政治資金規正法は「政治資金の流れ、収支を広く国民に公開し、国民の不断の監視と批判に委ねること」を基本にしている。

この法律は「ザル法」などと揶揄されてきたが、今回の問題はその”ザル法”すらも守らず、抜け道をつくって裏金を運用しているのだから、極めて悪質だ。

また、政治改革の問題とも関係する。ロッキード事件をはじめ、リクルート事件、東京佐川急便事件などの政治スキャンダルが相次いだのを受けて、90年代前半に新たな選挙制度とともに、政党助成制度の導入など政治改革関連法を成立させた。

政治腐敗を防ぐことをねらいに、国民1人当り250円、総額およそ300億円の税金を初めて政党に投入・助成することになり、政治の浄化が進むはずだった。

ところが、今回の裏金づくり疑惑によって、一連の政治改革とこれまで30年余りに及ぶ取り組みを台無しにするような行為が明らかになったことになる。

こうした背景としては、2000年の森政権以降、小泉政権、安倍政権など清話会を中心にした政権が続いたこと。特に「自民1強・野党多弱」体制のもとで政治のよどみと驕りが、不明朗な政治資金の運用へとつながったのではないか。特に自民党の歴代総裁をはじめ、派閥の幹部や党役員などの責任は重い。

 岸田首相、事実解明へ指導力発揮は?

こうした事態に対して、岸田首相や安倍派幹部の対応はどうか。岸田首相は、訪問先のUAE=アラブ首長国連邦で記者団に対し、「国民に疑念を持たれていることは、たいへん遺憾だ。党としても対応を考えていく」とのべた。但し、具体的な対応への言及はなかった。

安倍派の座長を務める塩谷・元文科相は30日、所属議員にパーティー券の販売ノルマを設けていたことを明らかにしたが、その日のうちに発言を撤回した。

安倍派で過去5年の間に派閥の事務総長を務めた幹部のうち、松野官房長官は1日の記者会見で「政府の立場で答えることは差し控える」とかわした。西村経産相、高木自民党国対委員長も、事実関係について口をつぐんだままだ。

政治とカネの問題は、国民の政治不信を招く最大の元凶だ。岸田首相は自民党総裁として、安倍派をはじめとする各派閥に対して、事実関係を早急に調査するよう指示するとともに、自民党としての具体的な対応策を明らかにすべきだ。

一方、岸田首相自身も派閥や政治資金をめぐって、問題を抱えている。去年の政治資金の収支報告が先日明らかになったが、岸田首相は収入が1000万円以上の「特定パーティー」を年に7回も開催し、1億4800万円もの資金を集めていた。

2001年に閣議決定された「国務大臣、副大臣及び政務官規範」によると「国民の疑惑を招きかねない大規模なパーティーの開催は自粛する」と定めている。歴代首相の中で、首相自ら「特定パーティー」を頻繁に開催するのは異例で、本来は自粛すべきではないかと考える。

また、自民党出身の歴代首相は、就任時には派閥の会長を退いてきた。ところが、岸田首相は今も出身派閥・宏池会の会長を続けており、党内からも「派閥とは一定の距離を置くべきだ」と指摘する声は多い。

いずれにしても自民党総裁である岸田首相が、派閥の不透明な資金集めの解明に指導力を発揮できるかどうかが、問われている。

 検察の捜査のゆくえと政権の対応が焦点

これからの焦点は、検察当局が立件に向けて捜査に着手するかどうかが1つ。東京地検特捜部は、全国から応援検事を集めて態勢を拡充しているとの情報もあり、臨時国会が閉会する13日以降、本格的な捜査に踏み切る可能性が高いのではないかとみている。

もう1つは、岸田政権の対応だ。安倍派の幹部は、政権の主要ポストを務めており、今後、政権運営にさまざまな影響が出てくるものとみられる。

その際、岸田政権は「政治とカネの問題」に真正面から向き合い、事実の解明などに積極的な姿勢で取り組まないと政権運営が困難になるのではないか。年内が最初のヤマ場で、岸田首相の決断と対応力が試される。(了)

★追記・参考情報(4日21時)安倍派では、キックバックを受けていた所属議員が、数十人に上るとみられることが新たに明らかになった。このうち、複数の議員は、去年までの5年間に1000万円を超えるキックバックを受けていた疑いがある。

混迷深まる岸田政権、復元力は?

岸田内閣の支持率下落に歯止めが、かからない。報道各社の世論調査によると、危険水域とも言われる30%ラインを下回り、与党内では、このままの状態が続けば、政権運営が行き詰まるのではないかと懸念する声も聞かれる。

一方、政府の新たな経済対策の裏付けとなる補正予算案は、24日に衆議院の予算委員会と本会議で可決され、参議院へ送られた。参議院予算委員会で審議が続けられ、月内には成立する見通しだ。

問題は、急落している支持率が回復し、政権が再び力を取り戻すことができるかどうかだ。岸田首相の国会論戦での対応などから判断すると、復元への道はかなり険しいのではないかというのが、率直な印象だ。なぜ、こうした結論になるのか、以下、説明したい。

 記録的な低支持率、岸田政権の危機

最初に報道各社が行った11月の世論調査で、岸田内閣の支持率を確認しておきたい。今月中旬にまとまったNHKの調査(11月10日~12日)では、岸田内閣の支持率は29%で、節目の30%ラインを下回った。

続いて、下旬にまとまった読売新聞の調査(11月17日~19日)では、支持率は24%、朝日新聞の調査(11月18,19日)では25%まで下落した。

こうした支持率は、いずれも岸田政権発足以降、最も低い水準となった。また、2012年12月に自民党が政権復帰して以降と比べても、この11年間で最も低い、記録的な低支持率になっている。

この原因だが、岸田政権が打ち出した「減税と現金給付」を柱とした経済対策に対して、「評価しない」との受け止め方が6割以上にも上ったことが大きい。

また、副大臣など「政務三役」の相次ぐ不祥事で、3人が辞任に追い込まれたことも影響しているとみられている。

さらに、政府の減税を評価しない理由を聞くと「選挙対策に見えるから」が最も多く、首相や政権への強い不信感が読み取れる点も大きな特徴だ。

 予算委論戦、立て直しへの姿勢見えず

問題は、支持率急落が一時的なものか、根深い要因によるものかだ。そして、岸田首相がこうした世論の動向を察知して、何らかの対応策を打ち出すのかどうか、予算委員会での岸田首相の答弁を注目して見ていた。

総額13兆円の補正予算案が20日に国会に提出されたのを受けて、衆院予算委員会の論戦は翌日から始まった。

立憲民主党など野党側は「政府の所得税減税などが実施されるのは来年夏のボーナス時で、遅すぎる。それよりも幅広い世帯に対象を広げて現金給付を急ぐべきだ」と追及するとともに「減税は1回限りなのか」などと攻め立てた。

これに対して、岸田首相は「住民税の非課税世帯には、7万円の追加給付を行う。一方、賃上げとデフレ脱却の流れを止めてはならないので、一時的な下支え措置として定額減税を用意した」などと従来の答弁を繰り返した。

こうした回りくどい答弁では、長引く物価高に苦しむ国民に、政府の対策は響かない。また、所得税減税の場合、富裕層を除く所得制限を行うのかどうか具体的な制度設計についても踏み込まなかった。

政務三役の辞任についても、岸田首相は「任命責任を感じる」などいつもながらの答弁に終始した。国民の政権離れへの危機感や、政権の態勢立て直しへの強い思いなどは、岸田首相の答弁からは感じられなかった。

 難題対応の結論先送り、政権へ逆風

以上は岸田政権の当面の課題をみてきたが、今回の記録的な支持率低下の背景には、これまでの「岸田首相の政治姿勢や政権運営に対する疑問や不満」が大きく影響しているのではないかと感じる。

具体的には、岸田首相はこの1年「政策の大転換」と位置づけて、防衛力の抜本強化や、異次元の少子化対策を次々に打ち出す一方、防衛増税の実施時期や、少子化対策の財源の具体化については先送りを続けてきた。

岸田首相は、先送りはしていないと反論するが、「防衛増税」を「防衛財源確保の税制措置」と別の表現を使うなど、増税や国民負担の増加など国民に不人気な政策について、説明することを避けてきたのが実態だ。

このため、岸田首相が定額減税を打ち上げてもその財源はどのように確保するのか。選挙を乗り切れば、増税や社会保険料の上乗せなどの措置を取るのではないかと国民は見透かしているのではないかと思われる。

支持率低下の要因として、政界関係者の間では、岸田首相の発信力の弱さや説明不足などを指摘しているが、問題の根本は、政権が「財源などの核心部分について、結論を出さずに先送りしていること」にあるのではないかと考える。

別の表現をすれば「国民に不人気な政策であっても、結論を明確に打ち出すこと」。そのうえで「国会論戦を通じて説明し、国民を説得すること」。その取り組みがあまりにも弱かったのではないか。そうした首相の姿勢に対する疑問や不満が、逆風となって岸田政権に吹き出しているとみている。

 実績を上げられるか、復元力には弱さも

「岸田内閣の支持率が改善する展望はあるか」、「そのためには何が必要と考えるか」、自民党の長老に尋ねてみた。

「これほど政権への風当たりが厳しいと、小さくてもいいから、1つでも実績を上げること。それにより、国民の信用回復につなげることが必要だ。政権への支持が回復しなければ、党の総裁選で再選は難しいだろう。ましてや、解散などできるはずがない」と指摘する。

今の国会では、政府の総合経済対策をはじめ、旧統一教会の財産保全法案をめぐる野党との調整、マイナンバーカードの総点検を受けて、健康保険証の廃止の扱いなどの懸案を抱えている。

また、政権の新た火種として、自民党の5派閥が政治資金パーティー収入を政治資金報告書に記載していなかったことが明らかになった。こうした多くの懸案、問題の中から、1つでも実績を挙げることができるかどうかが試されている。

一方、岸田内閣の支持率をNHK世論調査でみると、支持率を不支持率が上回る「逆転状態」に陥ると、回復するまでに5か月もかかっている。安倍政権は逆転状態が少なかったことに加えて、いったん逆転状態になっても2か月、または3か月で回復し、復元力が強い政権だった。

これに対して、岸田政権は今年7月以降、既に5か月、逆転状態が進行中で、復元力の弱い政権と言える。それでも復元力を発揮するためには、国の将来にとって必要な政策は、不人気でも結論を示して、国民を説得する取り組みが必要だ。

岸田政権は、年末までに難題に結論を出していくのか、それともあいまい路線で乗り切りをめざそうとするのかどうか。岸田首相の選択と決断が、新年の日本政治の行方を大きく左右することになる見通しだ。(了)

 

 

“逆風強まる岸田政権”支持率30%割れ

岸田内閣の支持率が下落し、節目の30%ラインを割り込んだ。11月のNHK世論調査によると岸田内閣の支持率は、10月調査から7ポイント下がって29%になった。不支持率は8ポイント増えて52%、初めて5割を超えた。

内閣支持率が30%を下回るのは、菅政権が退陣する1か月前、2021年8月に同じ29%を記録したとき以来だ。2012年に自民党が政権復帰して以降をみても、菅政権と今回の岸田政権の支持率が最も低い水準になる。

今回の岸田政権の場合、政権浮揚の切り札として、減税と給付を盛り込んだ大型の経済対策を決定した直後だけに政権に及ぼすダメージは大きい。

端的に言えば、国民が喜ぶと思って5兆円の巨費を投じる減税と給付策が極めて不評で、逆に支持率が急落するという異例の結果を招いている。

なぜ、異例の支持率下落となったのか。政権への影響と今後の動きはどのようになるのか、世論調査のデータも分析しながら探ってみたい。

 政策の妥当性と政権への不信感も

まずは、岸田内閣の支持率が下落した理由・背景からみていきたい。そのためにNHK世論調査(11月10日~12日実施)の主なポイントを整理しておく。

▲世論調査では、政府の新たな経済対策のうち、物価高に対応するため、所得税などを1人当たり4万円減税し、住民税の非課税世帯に7万円を給付する方針について、どのように評価するかを質問している。

◆「評価する」は36%に止まり、◆「評価しない」が59%で大幅に上回った。

▲次に、評価しない理由は何か。◆「選挙対策に見えるから」が38%で最も多く、◆「物価高対策にならないから」30%、◆「国の財政状況が不安だから」24%、◆「実施時期が遅いから」4%となった。

逆に、評価する理由は◆「家計が助かるから」40%、◆「経済の再生につながるから」23%、◆「税収増加分は還元すべきだから」23%などと続いた。

▲岸田首相は一連の経済対策を通じて、来年夏には所得の伸びが物価上昇を上回る状態にしたいとしているが、これに期待するかを尋ねている。

◆「期待できる」は19%、◆「期待できない」は67%で、3人に2人の割合だ。

▲こうしたデータを基に岸田政権の経済政策と支持率下落の原因をどうみるか。個人的な取材を加味して考えると、次のような点を指摘できる。

▲国民の多くは、政府の経済対策を冷めた目で見ていることがうかがえる。政府の減税政策を「評価しない」とする人が6割近くと多いことに現れている。

また、「何を目的にしているのかはっきりしない」、「物価高対策としての妥当性に疑問」を抱いている人が多いことも読み取れる。

物価高対策であれば「給付」の方が「減税」よりも即効性があり、効果も大きいと考えるからだ。自民党の税調幹部の中にも同様の考え方がある。

これに対して、岸田首相の説明は、最初は物価高対策を強調し、次いで賃上げ・デフレ脱却に重点が移り、さらに子育て支援のためと政策のねらいが次々に変わり、「政策の目的、目標がはっきりしない」という問題点がある。

▲また、政府の減税政策などを評価しない理由として「選挙対策に見えるから」が最も多かった。これは「岸田首相の減税政策は、苦戦が続いていた衆参補欠選挙のテコ入れ」や「衆議院の解散ねらいの思惑があるのではないか」といった疑念や不信感が背景にあるためではないかと思われる。

▲さらに岸田首相の減税政策の打ち出し方をみると、与党に対して突如、減税検討の指示を出す一方、国会での自らの所信表明演説では、直接言及しないといった「チグハグな対応、迷走」が目立った。これでは、国民の理解や支持が広がらない。(詳しくはブログ10月27日号「迷走、所得税減税」)

▲一方、9月に行われた内閣改造人事で新たに起用された「政務三役の不祥事」が相次いで表面化した。山田太郎・文部科学政務官、柿沢未途・法務副大臣、神田憲次・財務副大臣の3人が3週間足らずの間に辞任・更迭に追い込まれた。

去年は「政治とカネの問題」などの問題で、閣僚4人が辞任する「辞任ドミノ」に追い込まれた。今年は政務官、副大臣レベルまで不祥事が広がったことも、政権の支持率低下に追い打ちをかけたとみられる。

このように物価高・経済対策そのものの内容に加えて、岸田政権の政策決定や政権運営のあり方についても、世論の側の疑問や不信感が重なって、支持率急落を引き起こしていると言えるのではないか。

 自民支持層離れ、政権の求心力も低下

そこで、政権への影響はどうか?結論を先に言えば「政権へのダメージは、大きい」とみる。既に政権の支持基盤へ影響が現れているからだ。

具体的には「自民支持層の支持離れ」が起きている。「自民支持層のうち、岸田内閣を支持する」と答えた人の割合は、岸田内閣の場合、5月は7割台半ばと高かったが、10月は6割台半ば、今月は5割台半ばまで大幅に減っている。

一方、最も大きな集団である「無党派層のうち、岸田内閣を支持する」と答えた人の割合は、10%をわずかに上回る程度だ。「支持しない」と答えた割合は7割近くにも達する。

岸田内閣は元々、無党派層の支持は少なかったが、2012年に自民党が政権に復帰して以降、今月は最も低い水準にまで落ち込んでいる。

無党派層からの支持を一定程度、得られないと普段の政権運営だけでなく、特に衆院解散・総選挙の際には勝敗を大きく左右することになる。

一方、年代別にみても20代から60代まで、さらに70歳以上のすべての年代で、「支持する」と答えた人より、「支持しない」と答えた人が上回っている。「政権の求心力の低下」が浮き彫りになっている。

 政権の力を取り戻せるか?年末がヤマ場

それでは、今後の政権運営や政局の見通しはどうなるだろうか。前回の衆院選挙から2年が経過し、与野党とも解散・総選挙のゆくえに神経をとがらせている。

今月9日から10日にかけてメデイア各社は「岸田首相は、年内解散を見送る意向を固めた」と大きく報道したが、既にみてきたように岸田政権は年内解散に打って出られるような状況にはなかった。

それよりも岸田政権は、国民の多くの支持を失い、内閣支持率は危険水域の20%台に落ち込んだという新たな段階を迎えているとみた方が実態に近いと思う。

但し、それでも野党は依然としてバラバラ状態で、政権交代が直ちに実現するような状況にはない。自民党内も岸田首相に代わる有力なリーダーは見当たらない。

このため、岸田政権が直ちに崩れるような状況にはないが、来年秋の自民党総裁任期満了まで1年を切ったことの意味は大きい。

これまで岸田首相の再選はかなり濃厚だったが、世論の支持率の低迷がこのまま続けば、総裁選の情勢は混沌としてくることが予想される。「次の衆院選挙を戦える顔」として通用するのかという声が出てくる可能性があるからだ。

当面は、新たな経済対策の裏付けとなる補正予算案がポイントになる。今月20日に国会に提出され、成立はほぼ間違いないが、問題は、与野党の論戦を通じて、減税対策などの内容について、国民の支持が広がるかどうかだ。

また、年末の予算編成と税制改正に向けて、先送りされてきた防衛増税の実施時期や、少子化対策の具体的な財源の扱いも改めて焦点になる。

さらに、大幅な円安が進む中で、日本経済や金融政策のかじ取りをどうするのか、国民は中期の構想と展望を求めている。

いずれも難題だが、岸田首相が強いリーダーシップを発揮して懸案を前進させることができるのか。そして、内閣支持率を回復して力強い政権となるのか、それとも低迷状態が続くことになるのか、年末が大きなヤマ場となる見通しだ。(了)

 

 

 

”減税、政権運営険しい道”岸田政権

政府は2日、所得税の減税や低所得世帯への給付などを盛り込んだ新たな経済対策を決定した。経済対策の規模は、17兆円台前半になる見通しだ。

経済対策の決定を受けて、岸田首相は記者会見で「最優先はデフレからの完全脱却だ。来年夏の段階で、賃上げと減税を合わせた国民所得の伸びが物価上昇を上回る状態を確実に作りたい」と強調した。

経済対策をめぐっては、野党側は「物価高への対応にスピード感が無く、対策の効果も期待できない」と厳しく批判しているほか、自民党内にも岸田首相が強い意欲を示す所得税減税に疑問や不満がくすぶる。

国民は、新たな経済対策の内容をどのようにみたらいいのか。また、岸田政権の政権運営はどのような展開になるのか、探ってみたい。

 所得税減税の評価は?与党内にも異論

さっそく、新たな経済対策からみていきたい。ポイントは、岸田首相が強い意欲を示し、政権の目玉政策と位置づける所得税減税をどのように評価するかだ。

政府方針では、所得税と住民税を合わせて1人当たり4万円を差し引く定額減税を実施するとともに、住民税が非課税となっている低所得世帯に7万円を給付するのが主な内容だ。両方でおよそ5兆円程度の規模になる見通しだ。

政府が所得税減税を打ち出したは98年の橋本政権の定額減税と、その後継の小渕政権の定率減税以来だが、減税措置は結局、2007年まで9年間続いた。

この減税政策の評価だが、野党側は「税制改正に時間がかかり、実際に減税されるのは来年6月、遅すぎる」と批判し、「それよりも即効性のある給付で行うべきだ」と主張している。

自民党内にも「減税は一度実施すると止めるのが難しい。景気対策としての効果も給付の方が大きい」と異論も多い。また、「橋下政権時代は山一証券などが破綻した不況の時期で、コロナから回復した今は状況が違う」などの不満もくすぶる。

また、今回は減税と給付が混在することに加えて、支給額が減税の場合は1人当たり4万円で、家族数に応じて増える一方、給付は1世帯当たり7万円と異なり、公平さが担保できないといった問題点が指摘されている。

さらに、岸田首相をはじめ政府側は、減税は一回だけに止める一方、幅広い減税にするため、所得制限は避けたい考えだ。

これに対して、自民党内からは、バラマキ批判を避けるため、年収2千万円以上の高額所得者は対象から外す案や、減税は一回限りとすべきではないといった意見もあり、党の税制調査会で制度設計を急ぐことにしている。

政権の政策決定に批判、世論も厳しい視線

こうした所得税などの減税をめぐっては、与党内には、政権の政策決定のあり方を問題視する声も出ている。

具体的には、岸田首相が「税収増の国民への還元」を図るとして、新たな経済対策のとりまとめを与党に指示したのは9月26日だ。

その後、岸田首相から、唐突に所得税減税検討の指示が出されたのが10月20日で、苦戦が伝えられていた衆参補欠選挙の投票日の直前だった。

このため、「減税策は補欠選挙へのテコ入れではないか」、あるいは「低迷する政権の浮揚や、年内解散・総選挙をねらったものではないか」といった憶測も飛び交い、政権の対応のまずさを指摘する声は党のベテラン議員からも聞かれる。

一方、国民の岸田政権の経済対策に対する視線も厳しい。報道各社の10月の世論調査では、政府の新たな経済対策について「期待する」は4割程度に止まり、「期待しない」が6割程度でほぼ共通している。

直近の日経新聞の世論調査(10月27~29日実施)によると政府の経済対策について「期待する」は37%、「期待しない」は58%だった。物価対策としての所得税減税については「適切とは思わない」が65%で、「適切だと思う」の24%を大きく上回った。

岸田内閣の支持率は33%で、前回調査から9ポイント低下し政権発足以来、最低の水準だ。不支持率は8ポイント増えて59%だった。政権の対応を厳しい視線でみていることがうかがえる。

 補正予算審議と中期の将来展望がカギ

さて、岸田政権の今後の政権運営はどのようになるか。まず、新たな経済対策を受けて、政府は裏付けとなる補正予算案の編成を進めており、今月下旬に国会へ提出する見通しだ。一般会計の規模は13兆1000億円で、財源の多くは借金・国債に頼ることになる。

国会は与党が圧倒的に多数なので、原案通り可決・成立する見通しだが、予算審議を通じて、世論の反応が注目される。先の日経の調査と同じような結果になると減税が評価されず、内閣支持率を引き下げることになり、政権にとっては思わぬ展開となる可能性もある。

また、今の国会は、旧統一教会の財産保全のための法案や、11月末が期限のマイナンバーカードの総点検と健康保険証廃止の扱いをどうするかという問題も抱えている。

さらに、年末の予算編成や税制改正を控えて、先送りになっている防衛増税の実施時期や、少子化対策の具体的な財源が焦点になる。岸田首相は、減税や児童手当の拡充など国民受けする政策には積極的だが、増税や国民負担増の問題は避けようとする姿勢がうかがえる。

岸田政権の減税に対して、世論の評価が低い背景としては「減税の後には、増税と負担増が待ち受けているのではないか」といった将来への不安や、政治不信があるのではないか。

したがって、岸田政権は当面の対策だけでなく、向こう3年から5年程度の日本経済や金融政策のかじ取りをどうするのか、中期の将来展望を明らかにしないと政権への不信感はぬぐえないのではないかと思う。

自民党の長老も「岸田首相に必要なことは、政権の目標をわかりやすく、はっきり示すこと。将来の展望を国民に率直に語りかけることが必要ではないか」と指摘する。

岸田首相にとっては、今月下旬に予定される衆参の予算委員会の質疑などを通じて、政府の経済対策について世論の支持が広がるかどうか、今後の政権運営の分水嶺になる。そして、来年夏の減税の実施時点で、日本経済がデフレ脱却の軌道に乗せられるのかどうか、険しい道が続くことになりそうだ。

最後に衆院解散・総選挙について触れておきたい。これまでのブログで触れてきたように経済対策のとりまとめが迷走し、内閣支持率も低迷している今の状況では、年内解散の可能性はほぼなくなったと言えるのではないか。

岸田首相も12月の政治日程として◆今月末からドバイで開かれるCOP28=国連の気候変動枠組み条約会議への出席、◆8日から長崎で開かれる国際賢人会議、◆16日から3日間、東京で開催されるASEAN特別首脳会議などの日程調整を進めている。

岸田首相にとって、懸案の解決で「政権の実績」を上げることができるかどうか、衆院解散の前提条件になる。(了)

“迷走 所得税減税”岸田政権

今月20日に召集された臨時国会は、岸田首相の所信表明演説と、これに対する各党の代表質問が3日間にわたって行われ、物価高と経済対策を中心に激しい議論が交わされた。

このうち、岸田首相が強い意欲を示している所得税減税については、野党の批判だけでなく、身内の自民党からも「何をやろうとしているのか全く伝わらなかった」と苦言が示され、党内に不満が広がっていることが浮き彫りになった。

今回の所得税減税をめぐって、岸田首相は与党の幹部に対して検討を指示しながら、国会では減税への言及を避けるなど対応がちぐはぐで、迷走気味だ。政府の減税政策をどのようにみたらいいのか、国会論戦などを踏まえて考えてみたい。

 野党は批判、自民からも異例の苦言

各党の代表質問で質問が集中したのは「物価高と経済対策」だったが、どのような方向で取り組んでいくのか、各党の議論はかみ合わなかった。

その要因の1つに、岸田首相の対応がある。岸田首相は所信表明演説で「経済、経済、経済」と連呼し、経済を重点に取り組む姿勢を強調する一方、その実現に向けての具体策については言及を避けた。

具体的には「成長による税収の増収分の一部を公正かつ適切に還元する。還元措置の具体化に向けて、与党の税制調査会における早急な検討を指示する」とのべただけで、所得税減税に直接言及する表現はなかった。

これに対して、野党第1党の立憲民主党の泉代表は「政府の経済対策は遅すぎる。7月、8月でなく、なぜ、この時期まで遅れたのか。国民が望むのは、今年中の『給付、給付、給付』だ」として、6割の世帯に3万円のインフレ手当の給付を求めた。

日本維新の会など他の野党は、社会保険料の軽減や消費税率の引き下げなどそれぞれの党の主張を展開して、議論は平行線をたどった。

代表質問でもう1つ目立ったことは、自民党から岸田首相の減税政策に対して、厳しい指摘が飛び出したことだ。

自民党の世耕参議院幹事長は「『還元』という言葉がわかりにくかった。世の中に対して、何をやろうとしているのか全く伝わらなかった」と厳しく指摘した。

また、「岸田内閣の支持率は低空飛行、補欠選挙の結果は1勝1敗。支持率が向上しない最大の原因は、国民が期待するリーダーとしての姿が示せていないということに尽きるのではないか」と岸田首相の政権運営についても苦言を呈した。

 国会対応、政策の組み立て方も課題

今回の経済対策について、政権の対応を点検してみると、岸田首相が「税収増を国民に適切に還元すべきだ」と最初に言及したのは9月26日の閣議で、10月末をめどに新たな経済対策を策定する考えを表明した。

その後、自民党内から所得税減税を求める声が上がったが、岸田首相は明確な考え方を示さず、衆参補欠選挙を直前に控えた10月20日になって、ようやく与党の幹部に所得税減税の検討を指示した。

一方、23日は臨時国会で首相の所信表明演説が行われた。通常は、政権がその国会で成立をめざす主要政策について表明するが、今回は冒頭に触れたように所得税減税などについて、直接言及する表現はなかった。

世耕参議院幹事長が苦言を呈したのは、こうした政権の対応の遅さや、首相の指導力が発揮できていないことへの不満やいらだちがあるものとみられる。

岸田首相の立場に理解を示す自民党幹部も「政権の目標の設定や、そのための政策の組み立て方を改めないと政権運営は安定しないのではないか」と指摘する。

以上、みてきたように経済対策のとりまとめを打ち出した9月26日の時点で、最初から所得税などの定額減税の検討を含めて指示していれば、迷走することはなかったのではないか。首相自らの主導権の発揮にこだわったのではないかとの説や、年内解散の思惑も関係していたのではないかとの見方も聞く。

 4万円定額減税、7万円給付で調整へ

こうした中で、岸田首相は26日、政府・与党政策懇談会を開き、税収増の還元策として所得税と住民税の定額減税とともに給付を行う考えを明らかにし、与党の税制調査会を中心に具体的な制度設計を行うよう指示した。

政府側から示された案では、◆1人当たり所得税3万円と、住民税1万円の合わせて4万円の減税を行う。◆所得の低い人への支援策として、住民税の非課税世帯に7万円を給付し、既に決定した3万円と合わせて10万円になるとしている。

◆政府としては、来月2日に経済対策を決定したうえで、非課税世帯への給付は補正予算案の成立後、速やかに行うとともに、減税は必要な法改正を経て、来年6月に実施したい考えだ。

政府案によると過去2年間に増えた税収の総額は、所得税が3.2兆円、個人住民税が2200億円で、これにおよそ1兆円の給付金を加えると、還元総額は5兆円規模になる見通しだ。

こうした政府の方針に対して、自民党内では、減税は実施まで時間がかかることに加えて、給付金に比べると物価高への即効性が低いとして、効果を疑問視する見方もある。

また、政府は所得制限を設けない方針に対し、自民党内には、高額所得者は対象から外すべきだという意見もあり、調整が必要になる。

 減税、先送り財源含め全体像の議論を

国会は27日から衆議院予算委員会に舞台を移して、岸田首相と与野党の委員の間で、一問一答方式の詰めた議論が繰り広げられる見通しだ。

まず、物価高騰対策として、支援を減税で行うのがいいのか、給付金として支援する方が効果的なのか、支援の方法、対象、規模などが焦点になる。

また、政府の減税方針をめぐっては、税収増を減税の財源として使うのが適切なのか、大量の国債を発行している財政の健全化に当てるべきなのかといった点も議論になりそうだ。

さらに、防衛力の抜本強化に伴う増税の実施時期や、少子化対策の具体的な財源については、年末の予算編成まで先送りのままだ。

こうした先送りの政策を含めて、主要政策の予算の規模や財源の見通しなどの全体像を明らかにして、議論を深めることが必要だ。

岸田首相が大型の減税政策を打ち出したのは、支持率が低迷する政権を浮揚させる思惑が働いているとの見方が与野党の関係者から聞かれる。また、与野党双方とも、次の衆院選を意識して、国民受けする歳出増の政策が目立つ。

物価高で家計のやりくりに追われる国民は、政府の支援策への関心は高い。一方で、将来、増税や負担増の形で跳ね返ってこないか、影響を見極めて政策を判断しようとする姿勢に変わりつつあるように感じる。

政府の新たな経済対策と裏付けとなる補正予算案の内容が、どのような形になるのか。衆参両院の予算委員会の審議などを通じて、国民は岸田政権の減税政策をどのように評価するのか、今後の政治のゆくえを左右することになりそうだ。(了)

臨時国会開会 ”解散より、懸案解決を”

臨時国会が20日召集され、先月内閣改造を終えた岸田政権と野党側との間で、物価高・経済対策を中心に激しい論戦が交わされる見通しだ。

今度の国会は衆参統一補選の最終盤に召集されるため、岸田首相の所信表明演説は初日の20日ではなく、統一補選の投開票が終わった後の23日に行われる。これに対する各党の代表質問は24日から始まり、会期は12月13日までの55日間だ。

また、細田衆院議長が体調不良で辞任し、後任に額賀元財務相が20日に選ばれる運びだ。このように国会冒頭の日程は、通常とは異なる形になる。

さて、この臨時国会をめぐって与野党の間では年内解散説が消えないが、内外に山積する課題・難題を考えると衆議院を解散して2か月近くも政治空白を作るような状況にはないと思う。

このため、”衆院解散をめぐる駆け引きより、懸案解決に向けた政策論争”を徹底して行ってもらいたい。実際にどのような展開になるか、この国会の焦点を考えてみたい。

 新閣僚の資質、政権の政治姿勢は

今度の国会は、岸田首相が9月に行った内閣改造・自民党役員人事の後、初めて開かれる国会だけに、野党側は衆参予算委員会などの場で、初入閣の11人を中心に閣僚としての考え方や資質などを追及していく方針だ。

このうち、加藤鮎子・こども政策担当相は、自らの資金管理団体が法律の上限を超えるパーテイー券250万円を受け取っていたことが明らかになった。同じように「政治とカネの問題」を抱える閣僚がいることから、政治資金や閣僚の資質などをめぐって激しいやり取りが交わされる見通しだ。

また、自民党が去年行った点検(調査)で、旧統一教会と接点があった新閣僚4人がいることから、野党側はこうした点についても取り上げる構えだ。

さらに、木原防衛相が今月15日、衆院長崎4区の補欠選挙の応援で、自衛隊の政治利用とも受け取られる演説を行い、その後、発言の一部を撤回した問題についても取り上げ、責任を追及することにしている。

岸田政権は今月4日に発足から2年が経過したことから、野党側は、岸田首相のこれまでの政権運営や政治姿勢についても質すことにしている。

 物価対策と経済全体の基本方針を

次に政策面では、物価高騰が続く中で、物価対策と経済政策をめぐる議論が大きな焦点になる見通しだ。岸田首相は新たな経済対策を10月中にとりまとめるよう指示するとともに、裏付けとなる補正予算案を提出する方針だ。

その経済対策の中では、ガソリンなどの燃料油と電気、ガスの料金を下げる負担軽減措置の継続をはじめ、持続的な賃上げに向けて、賃上げした企業に対する減税制度の拡充、低所得世帯への支援策などが盛り込まれる見通しだ。

一方、岸田首相は「税収増を国民に適切に還元する」との考えを示している。これは「期限付きの所得減税」に踏み切る意向とみられている。経済対策がまとまるのは10月末か11月はじめ、補正予算案を国会に提出するのは11月下旬になる見通しだ。

国民が知りたいのは、当面の物価高対策だけでなく、「経済全体のかじ取り」をどのように行っていくのか、「岸田政権の基本方針」だ。

消費者物価は3%以上の上昇が12か月連続、実質賃金のマイナスは17か月も続いている。1ドル=150円寸前の大幅な円安は物価上昇の要因だが、金融緩和はこのまま続けるのか。大型補正予算を組んだ場合、インフレの加速にならないのか、知りたい点は多い。

国の財政については、コロナ対策もあって補正予算はこの3年間、73兆円、36兆円、31兆円と異例の規模が続いた。コロナ感染が収まった今、補正予算案は通常の数兆円規模に戻すのか、それとも大型補正を続けるのかの問題もある。

さらに、所得減税の実施に踏み切る場合は、年末に結論を出す予定の防衛増税や、少子化対策の負担増との関係はどうなるのか「減税と負担増との関係」がさっぱり、わからない。

つまり、岸田政権の中期の経済運営は、何を重点目標に設定して、どのような政策を組み合わせて実施するのか「経済政策の全体像」を提示してもらいたい。

そのうえで、与野党がそれぞれの党の方針も交えて議論を徹底して行うことが、この国会の役割であり、政治の責任だ。

 旧統一教会の財産保全などの懸案も

このほか、去年秋の国会から持ち越してきた懸案も多い。まずは、旧統一教会の問題だ。政府が教団に対する解散命令を請求したのを受けて、立憲民主党や日本維新の会は被害者の救済にあてるため、教団の財産を保全する法案を国会に提出する方針だ。

これに対して、自民、公明の与党側も対応を検討していく考えだ。今後、与野党が協調して法案を国会に提出することも予想され、臨時国会の焦点の1つになる見通しだ。

また、先の通常国会で問題になったマイナンバーカードをめぐるトラブルについて、政府は11月末までに総点検を行い、その結果を12月上旬に報告する予定だ。健康保険証を来年秋に予定通り廃止するのか、それとも廃止の延期を行うのか、議論が再燃することになりそうだ。

 解散より、内外の難題に向き合う国会を

この臨時国会をめぐって、与野党の間では「岸田首相は、年内解散を考えているのではないか」との憶測が飛び交った。今でも11月下旬に補正予算を提出、短期間で成立させた後、年末解散があるのではないかとの見方は消えていない。

個人的な見通しを言えば、岸田内閣の支持率と自民党の政党支持率も低迷している今の状況では、勝敗面からも解散の確率は極めて低く、年末解散はないとの見方をしている。

また、ロシアによるウクライナ侵攻の長期化に加えて、中東のイスラエルとハマスの軍事衝突の激化で、世界の平和と民主主義が危機的状況を迎えているときに、解散・総選挙で政治空白を生むような選択は取るべきではないと考える。

端的に言えば、この臨時国会は「解散よりも、内外の難題に向き合い、一定の結論を出す国会」にすべきだ。こうした視点で国民の多くが、岸田政権と与野党の対応を評価し、近い将来行われる選挙に活かしてもらいたい。(了)