”この頃都に流行るもの”「政と官の乱れ」

”この頃、都に流行るもの。閣僚辞任に、役人更迭。試験取り止め、桜も見送り”。令和元年もまもなく暮れようとしているが、”このところの政治や霞が関は、ちょっと変だ”と感じる方は多いのではないか。

特に総務省の事務レベルのトップが検討中の情報を漏洩していたとして、更迭された不祥事には驚かされた。

官僚、政治の規律の乱れが深刻化しているのではないか。前回に続いて、政治と官僚の問題について取り上げる。

 事務方トップの更迭

今月20日の夕方、総務省事務次官を更迭との速報が流れた。かんぽ生命の保険の不適切な販売をめぐる問題で、高市総務大臣が緊急に記者会見し、総務省の鈴木茂樹・事務次官が行政処分の検討状況を会社側に漏らしたとして、更迭したことを明らかにした。

その情報の漏洩先が、日本郵政の鈴木康雄・上級副社長で、旧郵政省の先輩・後輩の関係という。鈴木副社長は、2009年に総務省の事務次官を務めており、政界との繋がりが強い人物と見られていた。かんぽ生命の問題を報じたNHKの番組、「クローズアップ現代プラス」の放送に抗議を行った人物としても知られる。

 前代未聞の不祥事

今回の問題は、郵政グループのかんぽ生命の保険をめぐって、顧客が保険料を二重に支払わされるといった不適切な販売が多数明らかになり、会社側が18日に、法令や社内ルールに違反する疑いのある販売が1万2800件あまり確認されたことを公表したばかりだった。

これについて、金融庁は、内部の管理体制に重大な問題があったと見て、かんぽ生命と日本郵便に対して一部の業務停止命令を出す方向で検討を進めている。

総務省も、日本郵政と日本郵便に対して、23日までに原因分析や改善案などの報告を出すよう求めているほか、企業統治に問題があったと見て業務改善命令を出す方向で検討している。

こうした中で、鈴木事務次官は、鈴木副社長に情報漏らしていたことになるが、漏洩の動機などは明らかにしていないという。日本郵政は国が現在も57%の株式を保有し、取締役の選任や解任は総務省が権限を持っている。

つまり、監督官庁である総務省の事務方トップが、同じ役所から天下りした先輩OBに現在進行中の処分情報を伝えていたという前代未聞の不祥事と言える。事実関係を明らかにして、責任を明確にすることを強く求めておきたい。

 官僚の矜恃と規律の緩み

最近気になるのは、官僚の矜恃と規律が緩んでいるのではないかと感じさせられる点だ。私は1970年代後半から40年近く霞が関でも取材をしているが、取材対象となった事務次官は能力、見識とも優れていたし、特に退職後も誤解を生むような再就職、天下り先は慎重に避けていた。

ところが、最近の事務次官経験者の中には、現役時代の利害関係があるのではないかと見られる企業、団体に再就職しているケースも散見される。官僚の矜恃と規律が緩んでいるのではないかと感じさせられる。

一方、霞が関の中には、所管法人の主要ポストを公募方式として、外部有識者の選考委員会で選考を進めるなど透明度の高い仕組みを実践している役所もある。利害関係や行政処分の権限を持つ団体や企業への再就職については、改めて点検、見直しが必要ではないか。

 政権の支持率を気にしすぎ?

政権との関係について言えば、この数か月を振り返ってみても不祥事や重要政策の取り止めが相次いでいる。◇主要閣僚2人の辞任にはじまり、◇大学入学共通テストへの英語民間試験の導入延期、◇記述式問題の導入見送り・白紙撤回、◇首相主催「桜を見る会」の来年開催の見送り、◇「桜を見る会」の招待者などの公文書の廃棄、◇今回の事務次官の情報漏洩と更迭。

安倍政権は11月に憲政史上最長を記録し、外交・安全保障の面では、イラン大統領の来日、12月の日中韓の首脳会談などで存在感を発揮している。

一方で、内政面では不祥事や問題が起きると事実関係など十分な説明がないまま、直ちに人事の更迭、取り止め打ち出される。

このため、政界関係者からは「最近は、世論の批判が集中すると直ぐに方針転換となる。人事や主要政策の取りやめが多すぎる。しかも、取り止めの説明が十分ではない。内閣支持率の低下を気にしているというか、気にしすぎているのではないか」との苦言が聞かれる。

 公文書の廃棄と説明責任

さらに問題が大きくなると本来、存在するはずの公文書が廃棄されて事実関係の確認が進まないという問題が目立つ。政府に対しては、公文書の保存と説明責任をきちんと尽くすことを強く求めておきたい。

公文書の問題は、去年・2018年春、森友問題で財務省の決裁文書が改ざんされていたことがわかり、大きな問題になった。また、ないとされていたイラク派遣の自衛隊の日報が見つかったり、加計学園問題で新たな文書の存在が問題になったりした。公文書管理の重要性が徹底されたはずなのだが、「文書は廃棄され、わからない」といった状態が今年も続いている。

公文書管理法が成立したのが10年前・2009年6月、2011年4月から施行された。その第1条で、公文書は健全な民主主義の根幹を支える「国民共有の知的資源」と位置づけられている。

同時に「国民が主体的に利用できるもの」で、政治家でも官僚の所有物でもない。

さらに「説明責任」は、現在の国民だけでなく「将来の国民」にも説明する責務が明記されている。

 「政と官」の関係見直し

官僚の問題については、大学を卒業して国家公務員の志望者が一時に比べて減少しているとの話を聞く。また、若手・中堅の官僚諸氏は、大臣や政治家に対する進言などがめっきり減っているとの声も聞く。

こうした背景には、官僚主導から政治主導への転換の影響もあるが、政権や政治家側の対応にも問題があると思われる。

日本がこれから内外の難問に挑戦していくためには、官僚の政策能力の活用は不可欠だ。そのためにも「政と官の関係」、政権・政治の側は、官僚が政治と適切な距離を保ちながら、力を発揮できるような体制づくりを考えていく必要があるのではないか。

私たち国民の側も、政治と官僚の関係、バランスをどのように取るのがいいのか、意識しながら政治のこれからの動きを見ていきたい。