ウクライナ危機と 岸田政権の経済政策

ウクライナ情勢は、ロシア黒海艦隊の旗艦「モスクワ」が撃沈される一方、ロシア軍が報復に首都キエフ攻撃を再開するなど戦争の激化と長期化が懸念される。

こうした中で、岸田政権はロシア制裁は、G7各国と足並みをそろえ資産の凍結や貿易の優遇措置を外すなどの措置を打ち出し、国際社会からも一定の評価を受けている。

一方で、ウクライナ危機で拍車がかかる物価高騰については、22日に緊急対策を取りまとめる方針だが、与党の自民、公明両党の間で財源の扱いをめぐって隔たりが浮き彫りになっている。

また、4月に入って20年ぶりとなる水準まで円安が進んだが、政府・日銀は有効な対応策を打ち出せていない。ウクライナ戦争の長期化の見通しが強くなる中で、岸田政権の経済政策は何が問われているのか、点検してみたい。

 自民・公明、経済対策で隔たり

まず、政府・与党が、22日に取りまとめを目指している緊急経済対策の動きから見ていきたい。自民、公明両党は、14日にそれぞれの党の経済対策の提言を政府に申し入れた。

両党とも、原油価格の高騰対策として4月末までとなっている石油元売り会社への補助金の期限延長や拡充を求めることと、生活に困っている人への支援を強化すべきだという方針では一致している。

一方、対策の財源をめぐって、自民党はスピード感を重視して今年度予算の予備費で対応するよう求めている。これに対し、公明党はウクライナ情勢や新型コロナ感染で不測の事態も予想されるとして、補正予算案の編成が必要だと主張している。

また、公明党は原油高騰対策でもガソリン税の上乗せ部分の課税を停止する「トリガー条項」の凍結解除も求めており、両党の隔たりが浮き彫りになっている。

そこで、岸田首相が両党の隔たりを軟着陸させることができるかどうか。自民党の幹部に聞くと「ウクライナ情勢で安全の確保や、コロナ対策など総合的な対策を打ち出す必要がある。その際、予備費で直ちに実施する対策と、補正予算を編成して新たな財源を確保して、本格的に取り組む事業の仕分けが必要だ」と語る。

ということは、岸田首相は、まず、ガソリン代などへの補助金の増額と生活困窮者への支援などを予備費で実施する。そのうえで、夏の参院選もあり、子育て支援や外交・安全保障対応を含めた総合的な対策を打ち出し、補正予算案は参院選挙後に提出して成立をめざすことが想定される。

つまり、自民、公明両党の主張を足して割る、得意の2段階方式で決着を図るのではないかと個人的にはみている。

 円安・日本売り、見えない経済政策

さて、岸田政権の経済政策の評価だが、結論から先に言えば「経済政策の基本、目標と道筋が見えない」というのが最大の問題点だと考える。

先に触れた緊急経済対策は必要だと思うが、物価高は去年秋から問題になっていたことで、新年度予算が成立した直後に新たな緊急対策が必要になるというのは、余りに安易な対応と言わざるを得ない。

また、緊急経済対策と銘打つのであれば、4月に入って急激に進行している円安に対して、対策を打ち出す必要がある。4月13日の円相場は1ドル=126円台まで下落し、20年ぶりの円安水準が続いている。

今回の円安は、日米の金利差の拡大が直接的なきっかけになっているが、日本経済の低迷、経済成長が期待できないことが、根本的な要因だとの見方が強い。

円安が進めば、輸入物価がさらに上昇、賃金は上がらず、経済活動も停滞して、原材料の購入費が流出、日本売りとも言える悪循環が懸念される。

岸田政権としては、こうした悪い円安をどう乗り越えていくのか。政府と日銀は、金融・財政の基本方針を明らかにすべきだと考えるが、未だに示されていない。

また、ガソリン価格を抑えるための補助金の拡大は必要だと思うが、ウクライナ戦争が長期化する可能性を考えるとエネルギーの確保をどうするのか、ロシア産原油やLNGガスの代替策を含めて、対応策の検討を急ぐ必要がある。

さらに岸田政権の経済政策をめぐっては、看板政策である「新しい資本主義」で何をやるのかわからないという批判が、野党だけでなく与党の幹部からも聞く。これまでの方針から、もっと踏み込んだ骨太な政策を打ち出してもらいたいという厳しい注文が多い。

 激動期こそ、経済など幅広い論戦を

それでは、岸田政権の今後の経済政策や政権運営はどのようになるのだろうか。与野党の幹部の話を基に判断すると、次のような展開を予想する向きが多い。

ポイントは岸田内閣の支持率で、政権発足から半年たった4月段階でも50%を上回る異例の高い水準を維持している。このため、岸田首相は、国会の論戦は避けて安全運転に徹し、夏の参院選乗り切りを最優先に臨む。選挙に勝った後、政策の本格的な取り組みを展開するとの見方が有力だ。

こうした対応は、平時にはありうるシナリオの1つかもしれないが、国民の側からみるとウクライナ戦争や新型コロナ感染といった危機を抱える激動期に、有益な選択肢にはなりえない。危機の時こそ、迅速果敢な対応と議論が必要だ。

岸田首相は、資源高や円安に伴う日本経済の停滞をどのように乗り切っていく方針か。エネルギーの確保をめぐっては、原発の再稼働の是非や省エネをどう考えるのか。国を率いるリーダーは、基本的な構想や政策を明らかにして、実行していく責任がある。

一方、野党側はこの国会は完全な与党ペースで、存在感が全く感じられない。物価高対策として消費税率の引き下げなどを掲げているが、どのように実現を迫るのか。党首討論などあらゆる機会を活用して、国民生活支援をはじめ、経済、エネルギー、安全保障などについて積極的に論争を挑むべきだ。

今月22日には、緊急経済対策としてどんな政策が打ち出されるのか。国会も会期末まで2か月を切り、閉会後は直ちに参院選に突入する。日本経済と国民生活の立て直しと外交・安全保障のかじ取りをどうするのか、国会で与野党の真剣勝負の論戦を見せてもらいたい。(了)