”夏の宿題3点”岸田首相の解答力は?

参議院選挙で大勝し、内閣改造と自民党役員人事を終えた岸田首相は16日から夏休みに入っており、22日から公務に復帰する予定だ。

岸田首相はこの夏、3つの課題への対応が求められている。1つは、安倍元首相の銃撃事件をきっかけに浮上した旧統一教会の問題だ。新任閣僚や副大臣、自民党議員との関係が次々に明るみになり、国民を驚かせている。

2つめは、来月27日に予定されている安倍元首相の国葬の扱いだ。3つめが、感染爆発の収束の見通しが未だに立っていないコロナ対策だ。

こうした3点は、”夏の宿題”ともいえる緊急の課題で、岸田首相が”説得力のある”解答”を早急に示すことができるかどうか。できなければ、秋の臨時国会や岸田政権の今後の政権運営にも影響を及ぼすことになるだろう。

国民の関心が高い夏の宿題3点をどのように考えたらいいのか、探ってみたい。

 旧統一教会問題、疑念払拭は必須

さっそく、第1の課題である「世界平和統一家庭連合」(以下、旧統一教会)の問題からみていきたい。

旧統一教会と政治の関係は、政治団体である国際勝共連合とともに古くて新しい問題だが、今回の内閣改造人事をみて、その浸透ぶりには、改めて驚かされた。

岸田首相は内閣改造に当たって、旧統一教会との接点が明らかになった閣僚7人を外した。ところが、新たに任命された閣僚からも関連団体の会合に出席したり、会費を払ったりしていたことが次々に明らかになり、8人にも上った。

続いて行われた副大臣、政務官54人の人事でも24人に接点があったことが明らかになった。閣僚、副大臣、政務官の政務三役73人中、32人、実に4割にも達している。

一方、共同通信が全ての国会議員712人を対象に行ったアンケート調査で、旧統一教会の関連団体のイベントに出席したり、選挙協力を受けたりした議員は106人に上った。このうち、自民党議員は82人で、全体の8割を占めている。

今回の閣僚などの起用について、岸田首相は「旧統一教会との関係を自ら点検し、その結果を踏まえて、厳正に見直すことを了解した人だけを任命した」とのべ、個人の責任で対応してもらう考えを示した。

こうした首相の判断をどうみるか。旧統一教会をめぐっては、入信させて多額の壺や印鑑などを購入させる霊感商法や、献金の強要など深刻な被害が相次いでいたことが知られている。

閣僚など政務三役は、公正な立場で行政の執行に責任を持つ立場にある。こうした社会的に問題のある団体との関係が認められた場合、政府としても調査し、程度に応じて必要な対応策をとることは必要ではないか。

一方、先の参議院選挙についても初当選した自民党の生稲晃子議員が、萩生田政務調査会長が経産相だった今年6月、旧統一教会の関連施設を訪れていたことも明らかになった。

自民党についても、公正さが求められる選挙への支援も含めて、旧統一教会との関係について、政党として実態の調査を行い、その結果を公表することは最低限、必要ではないか。

要は、政府・自民党ともに国民の疑念を晴らす取り組みが必要だ。ケジメをつけられるかどうか、しっかり見ていく必要がある。

 国葬 国民の理解と共感を得られるか

第2の安倍元首相の葬儀を国葬とする政府の方針については、国民の間でも賛否が分かれている。

その理由については既に報道されているので、ここでは触れないが、報道機関の世論調査では、国葬について、賛成よりも反対の意見が上回っている。また、国葬を決めた岸田首相の説明について「納得できない」との評価が過半数を占める。

こうした背景としては、国葬は吉田茂元首相の1例しかなく、首相の葬儀は、政府と自民党の合同葬や、国民有志を加えた国民葬で行われてきた。今回、国葬の扱いにした理由や法的根拠が、国民に理解されていないことを示している。

また、全額国がまかなう国葬の費用はどの程度になるのか。国民にどのような弔意の示し方を求めるのかといった具体的な内容の説明も行われていない。

国葬は、国民の理解と共感が必要だと思うが、現状はその条件を満たしていないようにみえる。岸田首相は、国会で与野党との質疑を通じて、国民に説明することが必要ではないか。そうした心構えと取り組み方を表明する必要がある。

 コロナ 検査・医療体制の具体策を

第3のコロナ感染については最近、1週間平均で減少傾向もみられたが、お盆休みが明けた8月中旬以降、再び感染者数が過去最多となる地域が増えている。

全国の感染者数は18日、過去最多の25万人を超えたのをはじめ、病床使用率も41の都府県で50%を上回り、感染収束の見通しはついていない。

この間、政府は「経済社会活動の制限はしない」と繰り返し強調してきた。一方、各地の発熱外来は、感染者が押し寄せてパンク状態で、PCR検査にたどりつけず、抗原検査キットも手に入らないといった声を数多く耳にした。

端的に言えば、政府や自治体の対応は後手に回り、発生から3年目に入ったというのに、対策面で改善が進んだという実感は乏しい。

厚生労働省は最近、感染者の「全数検査」の見直しや、抗原検査キットのインターネットでの販売を解禁する方針を決めたが、対症療法的対応にみえる。

全数検査の見直しで、保健所や医療機関の負担軽減を図りたいとの狙いは、理解できる。一方で、感染の実態はどのように把握するのか。自宅療養者の病状悪化や入院などの調整はどのような仕組みで対応するのか、肝心の点がわからない。

国民が首を長くして待っているのは「検査体制の整備」と「医療提供体制の確保」の具体策を、早急に明らかにして欲しいという点に尽きる。

 国会論戦徹底、新たな政治へ模索を

このように3つの宿題について、岸田首相は公務に復帰した後、国民が納得できるような”解答”を早急に明らかにしてもらいたい。

加えて、これから年末に向けての政治は、岸田首相が言うように何十年に1度という難題が幾つも待ち構えている。

ウクライナ情勢をきっかけにした物価高騰、エネルギー確保、感染症対策の法整備、日本経済の立て直し、防衛力整備の進め方など目白押しだ。

このため、秋の臨時国会はできるだけ早く召集して、難題の解決に向けた議論の時間を大幅に確保した方がいい。与党はこれまでは、国会を開けば野党に追及の場を与えるだけだとして消極的だったが、改めた方がいい。

国会で野党側との議論を通じて、国民の理解は格段に進む。野党も、臨時国会の早期召集を求めており、重箱の隅をつつくような議論はしないと思われる。

与野党が徹底した議論を通じて、与野党の合意や修正の道を探り、難題を1つずつ前進させる新しい政治をめざす段階にきている。

戦後最大級の難問・難題を抱えている今こそ、与野党が徹底した論戦でぶつかり、懸案の処理が一歩ずつでも進む政治を与野党双方に強く注文しておきたい。(了)

 

“感染危機本番”と首相の指導力

新型コロナウイルス、オミクロン株による感染急拡大が続いている。海外の感染状況から予想はしていたが、国民生活への影響も目立ち、感染危機が現実のものになってきた。

政府は27日から「まん延防止等重点措置」の対象地域に北海道、大阪、福岡など18道府県を追加し、適用地域は合わせて34都道府県、全国の7割以上に拡大した。新規感染者数は7万人を超えて過去最多、さらに拡大は続く見通しだ。

感染危機を抑え込むためには、政権の対応、特に首相の指導力が大きく影響する。岸田首相は、感染対応を比較的順調に進めてきたが、ここにきて対策の決定などに遅れがみられるようになった。

岸田政権のオミクロン株対応は何が問われているのか、岸田首相の指導力をどうみるか、通常国会の論戦も含めて考えてみたい。

 オミクロン、新たな対策とりまとめを

岸田政権は、去年11月にコロナ対策の全体像を取りまとめたのに続いて、今月11日には、オミクロン株の急拡大を受けて新たな対策を打ち出した。そして、水際対策で時間を稼ぎながら、予防、検査、医療提供体制の整備を進めながら、感染の抑え込みをめざしてきた。

ところが、年明けとともにオミクロン株の感染力はすさまじく、あっという間に第5波を乗り越えた。全国の新規感染者数は26日、7万1000人余りに達し、過去最多を更新した。

今回は濃厚接触者も多く、保健所は、感染経路を調べる積極的疫学調査を断念したところが多い。病院の外来診療もひっ迫が目立ち、保育園の休園、小学校の臨時休校もみられ、国民生活への影響は大きくなっている。

国会では新年度予算案の実質審議が始まり、オミクロン対策が最大の焦点になっている。野党側は「政府の対応は後手に回っている」と追及したのに対し、岸田首相は「感染防止と社会活動の両立をめざしている」と防戦に追われている。

それでは、岸田政権としては、何が最も問われているか。結論を先にいえば、これまでの対策を見直し、オミクロン感染に対応できる新たな対策を早急に取りまとめ、実行に移せるかだ。

オミクロン株の特性は、感染力は強いが、重症化リスクは今のところ低いといわれている。濃厚接触者が多いので、陰性が証明されれば、待機期間を短縮してエッセンシャルワーカーは仕事ができるようにして、社会機能を維持していく必要がある。

また、政府は、医療がひっ迫する可能性がある場合、自治体の判断で、軽症者は自分で検査を行い、自宅療養も認める新たな方針を打ち出した。

ところが、こうした対策も肝心の抗原検査キットが不足する事態が起きている。また、自ら検査をして自宅療養するにしても、薬や食料などのバックアップ体制などもはっきりしていない。

このように政府のオミクロン対策は、場当たりで断片的な対応が目立ち、国民の不安をなくしていく対応ができていないようにみえる。

したがって、政権がなすべきことは何か。1つは、感染防止対策と医療提供体制が本当に機能しているのか、早急に点検・確認したうえで、問題点があれば、是正して新たな対策として明らかにすること。

2つ目は、新たな問題、社会的機能を維持していくための取り組みも必要だ。具体的には、待機期間の扱いと考え方。そのうえで、保育や学校、交通機関、ごみ収集などの事業を維持していくため、政府、地方自治体、民間企業の役割分担や支援策などもとりまとめる必要がある。

 ワクチン追加接種、強力な推進を

次にワクチンの3回目接種が遅れている問題がある。政府は、3回目接種について、1月末までにおよそ1470万人に打つ目標を立てていたが、25日までに接種を終えた人は289万人、目標のわずか20%に止まっている。

この問題は、衆院予算員会でも取り上げられ、野党側は「最近の1日当たりの接種状況は、昨年夏のピーク時の1割以下と少ない。人口に占める接種率もわずか2.1%、先進国で最下位だ」と対応の遅れを厳しく批判した。

これに対し、岸田首相は「1,2回目の接種が遅れたため、3回目は間隔を空けて行わなければならなかった。2月末までには8割の自治体が高齢者の接種を終えられる見通しだ」と理解を求めた。

政府は当初、3回目の接種の間隔について「原則8か月以上」としていたが、オミクロン株の感染が拡大したのを受けて、65歳以上の高齢者などは6か月に、一般の人は7か月に短縮するという方針変更を迫られた。

また、ワクチンの安定的な確保の難しさや、自治体の接種体制の準備の問題。さらに、3回目はワクチンの「交互接種」が可能だが、予約希望がモデルナ社製より、ファイザー社製に集中する問題も抱えている。

但し、切り札の3回目のワクチン接種が遅れているのは事実だ。接種をさらに強力に推進しないと感染の急拡大に間に合わない恐れもあり、時間との闘いとも言える厳しい状況にある。

 首相の指導力、現状把握と実行力

感染危機を抑え込むことができるかどうかは、岸田政権の求心力を大きく左右する。岸田首相は当初の対策が有効に機能しているかどうか、現状の把握と問題点があれば、直ちに是正していく実行力が、問われている。

一方、政権与党、野党の双方とも感染対策に問題があれば、鋭く指摘したり、批判したりすることは当然だが、些細なことで足を引っ張るような行動を取ると国民の支持を失う。野党側も建設的な対応を続けているようにみえる。

岸田首相については、代表質問に対する答弁や、衆院予算委員会の論戦をみているといわゆる”安全運転”、既存の方針の説明を繰り返す”守りの姿勢”が目立つ。

オミクロン危機を回避するためには、科学的な知見、データを集めたうえで、国民生活を守るために、どこまで踏み込んだ対応策を実行できるかが試される。

岸田首相並びに総理官邸が、司令塔機能を発揮して新たな対応策を打ち出し、危機乗り切りに成功するかどうか。トップリーダーの政治決断が問われる局面が近づきつつあるように思う。(了)