コロナ国会論戦 防戦続く菅首相

新型コロナウイルスの感染拡大が続く中で、通常国会がようやく開会され、各党の代表や幹部が質問に立って論戦が始まった。

菅政権は11都府県に緊急事態宣言を出し、飲食店の営業時間短縮などを打ち出したが、思うような効果は上がっていない。また、国会論戦でも野党側の追及に押され、防戦が続いている。

国民の1番の関心は、コロナ危機を抑え込めるのかにある。また、何を重点に取り組むべきか、与野党に選択肢はあるのか。一方、菅首相に国会答弁能力や危機管理能力はあるのか、首相の資質・能力に疑問符を投げかける見方もある。

今回はやや地味な話になるが、コロナ第3波と政府の対応をどう評価したらいいのか。代表質問の論点を整理しながら「コロナ対策のあり方と菅政権が問われている点」を考えてみたい。

 感染拡大の原因と責任は

代表質問のトップバッターとして登壇した野党第1党・立憲民主党の枝野代表は「今回の感染拡大は、昨年の11月には明らかな兆候が表れていたが、総理はGoToトラベルを続け、必要な対策を先送りしてきた。緊急事態宣言も1月に遅れ、対象地域も追加になった。なぜ、こんなに後手に回っているのか。判断の遅れを認め、反省することから始めるべきだ」と切り込んだ。

これに対し、菅首相は「判断が遅れたとは考えていない。緊急事態宣言に基づき、飲食店の営業時間短縮などの強力な対策を講じることで、何としてもこの感染拡大を食い止めていく決意だ。感染拡大を抑えつつ、雇用や事業を維持するという考えに基づいて必要な対策を講じていく」と反論した。

このように菅首相は、野党の批判に対して「強気の姿勢」が目立ったが、感染拡大を押さえ込む具体的な方策や抑え込みの根拠、見通しなどには言及せず、防戦を迫られる場面が目立った。

 感染抑止戦略・具体策 野党が対案

次に国民にとっては、コロナ感染を押さえ込む基本的な考え方・戦略と、どんな具体策があるのかが、最も知りたい点だ。代表質問では、野党側は従来のような責任追及一辺倒から、具体的な取り組み方の提案に力を入れたのが特徴だ。

立憲民主党の枝野代表は「感染が収まらない中で、経済を活性化させようと人の移動や会食など接触の機会を増やせば、感染が再拡大し、結果的に経済により大きな悪影響を与える」として、「withコロナ」から「zeroコロナ」を目指す方向へと転換するよう迫った。

その上で、具体的な施策の3本柱を提案した。◇「医療の充実」に最優先に取り組み、医療従事者に再度「20万円の慰労金」を支給。◇「感染封じ込め」の徹底、無症状者を含めた感染者の早期把握と確実な隔離。◇「倒産を防ぐ補償と生活支援」だ。

共産党の志位委員長は、3つの緊急対策を提案した。◇PCR検査を無料で大規模に実施すること。◇医療崩壊を防ぐために病院経営の減収補填に踏み込むこと。◇時間短縮に応じた飲食店は、一律の協力金ではなく、事業規模に応じた店舗ごと補償を求めた。

日本維新の会の馬場幹事長は、◇ワクチン接種では、マイナンバー活用のデジタル化と合わせて推進するよう政治決断をすること。

国民民主党の玉木代表は、◇アメリカのバイデン新政権と同じく、家計の下支え政策が重要で、現役世代に一律10万円、低所得者にはさらに10万円上乗せの現金給付を提案した。

コロナ対策では、政府・与党も有効な決定打を持ち合わせているわけではない。野党の対案も検査・医療重視への転換、医療従事者への慰労金など支持したい案もある。今回のコロナ危機ではメデイアや国民は、従来の与党、野党にこだわらず、効果的な対策は積極的に支持・実現していく新たな発想と対応が必要だ。

 菅首相 ワクチン接種に活路

こうした野党案に対して、菅首相は先の施政方針演説で打ち出した飲食店の営業時間短縮や外出自粛要請などに国民の協力を求める答弁が目立った。

また、自民党の二階幹事長や公明党の山口代表が、ワクチン接種の取り組み方を質したのに対しては「できる限り2月下旬までに接種を開始できるよう準備をしており、さらに1日も早く開始できるよう、あらゆる努力を尽くしている」と強調。「河野規制改革担当相に、全体の調整と国民へのわかりやすい情報発信を指示、政府を挙げて全力で取り組んでいく」と強い意欲を示した。

菅首相は、感染抑止対策としてワクチン接種を決め手と位置づけるとともに、東京オリンピック・パラリンピック開催へつなげる戦略だとみられる。平たく言えば、ワクチン接種に活路を開こうとしているように見える。

問題は、海外で開発されたワクチンの安全性や副反応などの審査と2月実施が予定通りスタートできるか。市町村単位で全国民に予防接種を行う前例のない大事業を順調に実現できるか。ワクチン接種が終わるまでに、感染をコントロールできるか際どい作業が続く。

 法改正 罰則導入の是非と範囲

菅首相は、コロナ対策の実効性を高める必要があるとして、特別措置法や感染症法、それに検疫法を改正する方針で、野党に協力を求めている。これは、緊急事態宣言が出されている自治体の知事が、事業者に対して営業時間の変更などを要請したが、応じない場合、行政罰としての科料を科すことができるようにするのが大きなねらいだ。

これに対して、野党側は、菅首相は「特措法改正は感染収束まで行わない」としてきた方針を急きょ転換をしたことに反発があるほか、営業時間の短縮などの命令に応じない事業者に50万円以下の科料を科すなどの罰則を設けることにについては、十分な補償が大前提であると強く要求する方針だ。

また、緊急事態宣言の前の段階でも「まん延防止等重点措置」を規定し、営業時間の変更などを要請、命令できる規定を設けていることは、ノー・チェックとなり認められない。

さらに入院勧告に応じない場合に懲役刑を科すことについては、行政の側は病床も満足に確保できない責任を棚に上げており、全く容認できないなどの意見が出ている。

このように罰則導入の是非や範囲などをめぐって、与野党の間で法案の修正協議が行われる見通しだ。

 問われる首相の答弁能力・発信力

国会は各党の代表質問が終わり、今後は衆参の予算委員会に舞台を移して、一問一答形式の本格的な論戦に入っていく。

与党の長老に感想を聞いてみると「菅首相は防戦に終始しており、感染を封じ込める政権の強いメッセージを発信できていない」と国会乗り切りを不安視している。

21日の参議院本会議での代表質問で、立憲民主党の水岡俊一議員会長が30分にわたって質問したのに対し、菅首相の答弁はわずか10分で終わってしまった。野党理事が「答弁が短すぎる」と”抗議”、議場内で与野党の理事が協議するという珍しい光景が見られた。

首相答弁は「質問者の時間程度になる」というのが長年の相場だ。ところが、菅首相の答弁は1項目あたり文章で2から3センテンス、30秒から40秒程度の素っ気ない答弁が続く。事務方が用意した答弁メモをひたすら読むだけで、質問者向けに配慮するアドリブは全くない。長老が危惧する点だ。

首相には、個性があっていい。能弁タイプだけでなく、剛毅木訥型もありうる。しかし、今回のような先行き不透明で、国民の多くが不安を感じるような局面では、リーダーは政府方針の説明を尽くすこと。軌道修正する場合は、その理由、新たな方針などについても説明を尽し、世論を説得することが必須の条件だ。

菅内閣の支持率も急落している。菅総理の心構えだけでなく、総理を支える政権幹部、官僚との関係まで踏み込んで体制を整備しないと、感染危機の深刻化ともに政権も危機的状況に陥ることも起こりうるのではないか。

1月の最終週は、第3次補正予算案の審議が衆参の予算委員会で行われる。補正予算の成立後は、特別措置法の審議と修正協議に入る。菅首相にとっては、感染拡大の押さえ込みと、国会乗り切りに向けて綱渡りの状況が続くことになる。