コロナと ”政治とカネ” 重荷背負う菅政権

菅政権発足後最初の臨時国会が4日、事実上閉会した。これを受けて、菅首相が夕方記者会見し、コロナ対策や今後の経済対策などの考え方を明らかにした。

この臨時国会では、新型コロナウイルスのワクチンを接種するための改正予防接種法など政府提出の法案は全て成立した。

一方、国会の論戦面では、菅首相の防戦が目立った。前半は、日本学術会議の新しい会員候補の一部を承認しなかった問題。後半は、コロナ感染が急速に拡大し、看板政策のGoToトラベルの一部見直しなどに追い込まれた。

また、安倍前首相側が「桜を見る会」前夜の懇親会に経費の一部を補填していた問題をめぐって、東京地検特捜部が安倍前首相本人の事情聴取を要請していることも明らかになった。

さらに吉川貴盛・元農相が大手鶏卵生産会社の元代表から現金500万円を受領していた疑惑が浮上するなど「政治とカネ」の問題が菅政権を直撃する形になっている。

菅政権は、こうした問題にどのように対応していくのか。菅首相の記者会見の内容を点検しながら、今後の政権運営や政局の見通しを探ってみたい。

 記者会見 ”新味乏しい”コロナ対策

菅首相の記者会見は、外国訪問の際を除くと就任時の9月16日以来、およそ2か月半ぶりになる。記者会見の主な内容を整理すると次のようになる。

◆新型コロナウイルスの感染状況は「新規感染者数や重症者数が過去最多となり、強い危機感を持って対応している」とした上で、「飲食店の営業短縮は極めて重要だ。協力いただいたすべての店舗に対して、国として支援していく」。

◆「来週早々には、経済対策を決定する」とした上で、「緊急的な手当として、ひとり親世帯については、所得が低い世帯は1世帯5万円、さらに2人目以降のこどもには3万円ずつの支給を年内をメドに行う」。

◆2050年温室効果ガス排出ゼロの実現に向けて、2兆円の基金を創設し、野心的なイノベーションに挑戦する企業を今後10年間継続して支援する。

◆「桜をみる会」の問題は「国会で答弁したことについて責任を持つ」とした上で、「安倍前総理が国会で答弁されたこと、あるいは必要があれば私自身が安倍前総理に確認しながら答弁を行ってきた」。

菅政権の政権運営は、今後のコロナ対策がうまく行くのかどうかで大きく左右されるので、感染防止にどんな具体策を打ち出すかを注目していた。

そのコロナ対策については、これまで国会などで答弁してきた内容がほとんどで、新たな対応策は打ち出されていない。基本は「マスクの着用」、「3密の回避」といった基本的な感染対策の徹底を呼びかける内容で、新味は乏しい。

 感染防止、政策の具体化に弱点

それでは、菅政権発足後のコロナ対策をどのようにみたらいいのか。菅首相は、所信表明演説でも「爆発的な感染は絶対に防ぎ、国民の命と健康を守り抜きます。その上で、社会経済活動を再開して、経済を回復してまいります」と感染対策と経済対策の両立をめざしてきた。

ところが、実際の対応はどうか。これまでの取り組みを振り返って見ると、10月はGoToトラベルへの東京の追加や、GoToイートの開始、さらには入国制限措置の緩和など経済活動の再開を積極的に進めてきた。

一方、感染防止対策は、国民の感染対策の徹底に期待する内容が多く、具体的な取り組みは乏しかった。

こうした中で11月9日、政府のコロナ対策の分科会は、北海道をはじめ全国各地で感染者が増加していることを受け「急速な感染拡大に至る可能性が高い」という緊急提言を提出した。その後、日本医師会の中川会長も「第3波の可能性があり、先手、先手の対策を」と警告を続けたが、政治・行政の反応は鈍かった。

全国的に感染者や重症者が急増する中で、危機感を抱いた分科会の尾身会長が、11月20日「より強い対策」を政府に求め、翌21日に菅首相が「GoToトラベル・イート」の運用の一部見直しにようやく踏み出した。

但し、最初は札幌市と大阪市を目的地とする旅行の除外で、決まったのは4日後の25日。札幌、大阪市の出発も対象にすることが決まったのは、27日だ。

さらに東京発着の旅行は、65歳以上の高齢者と基礎疾患をもっている人に自粛を求めるという内容に止まり、決定は12月1日にずれ込んだ。政府と自治体の調整に時間がかかり、とにかく”小出し”で、対応が遅いと言わざるを得ない。

コロナ対策に詳しい政界関係者に聞くと「9月、10月の感染が落ち着いていた時期に対策を進めなかったツケが、11月以降一気に回ってきた」と菅政権の対応に厳しい見方を示している。

 「政治とカネ」急浮上、政権に重荷

一方、安倍前首相側が主催する「桜を見る会」前日夜の懇親会について、経費の一部を安倍氏側が補填していた問題で、公設第1秘書が東京地検特捜部から任意の事情聴取を受けていたことが明らかになった。

また、特捜部は安倍前首相本人の事情聴取を要請しており、国会閉会後に行われる見通しだ。安倍氏は「何も聞いていない」とのべた上で、捜査に協力するとともに、その結果が出た段階で、自ら説明するとの考えを示している。

これに対して、野党側は「1年間にわたって虚偽答弁を続けてきたことになる。直ちに国会に出てきて説明すべきだ」と厳しく批判している。

さらに吉川貴盛・全農相が大手鶏卵生産会社の元会長から現金500万円を受領していたとの疑惑が浮上しており、野党側は贈収賄の疑いがあると追及する構えだ。

政府・与党側は当面、第3次補正予算案や新年度予算案の編成作業を本格化させる方針だ。そして、生活支援や経済再生に分厚い予算をつけるとともに補正予算案の早期成立を図ることなどで、事態の沈静化を図りたい考えだ。

しかし、コロナ感染の拡大で、このところ亡くなる人や重症者が一段と増えてきている。一方、「政治とカネ」の問題は、菅政権の支持率などに影響が出てくることになりそうだ。年明けの通常国会は、冒頭から荒れ模様の展開になることも予想される。

こうしたことから、菅政権にとってはコロナ感染が収まらない限り、年明けの「衆院解散カード」を切ることは難しいみられ、「コロナ」と「政治とカネ」の2つの重荷を背負いながら、息の抜けない年末・年始が続くことになりそうだ。