コロナ感染、”疑惑”拡大 窮地の菅政権

菅政権は発足からまもなく3か月の節目を迎えるが、新型コロナウイルスの感染拡大に歯止めがかからない。

一方、安倍前首相側の「桜を見る会」懇親会の経費補填疑惑は、年内にも秘書が政治資金規正法違反で立件される見通しだ。さらに吉川貴盛・元農水相らへの現金提供疑惑も広がりをみせている。

コロナ感染拡大と”政治とカネ”をめぐる疑惑はどう展開するのか、政権や政局に及ぼす影響を含めて、今後のポイントを探ってみる。

 コロナ感染防止、見えない具体策

新型コロナウイルスの感染状況は、10日全国の新規感染者がついに2900人を超えて過去最多、大都市圏だけでなく、地方でも感染拡大が続いている。

1番の問題は、政府の具体的な対応策やメッセージが打ち出されないことだ。感染拡大の恐れは、11月初めから政府の分科会や医師会などの専門家からも提言や警告が出されてきた。

これに対して、菅政権の反応は鈍く、GoToトラベルは政権の看板政策であることもあってか見直しは、部分的で小出し、自治体側との調整にも手間取った。

また、危惧されてきた病床確保など医療提供体制がひっ迫し始めているが、どう乗り切っていくのか具体的な対応策は示されていない。

さらに、臨時国会閉会を受けて菅首相の記者会見が4日、2か月半ぶりに行われたが、危機乗り切りの具体策やメッセージは出されなかった。政府は「勝負の3週間」と位置づけ、飲食店の時間短縮などを要請しているが、状況はむしろ悪化しているのが実状だ。とにかく、菅首相・政権の反応は極めて鈍い。

 ”桜”疑惑、年内にも秘書立件か

一方、「桜を見る会」の前日夜に開催された懇親会をめぐる問題で、東京地検特捜部が安倍前首相側に、安倍氏本人の事情聴取を要請したことが明らかになった。年内にも行われるのではないかとみられている。

この事件はどう展開するのか。自民党の閣僚経験者に聞くと「小渕優子・元経産相の政治資金問題と同じケースになるのではないか」との見方を示す。2014年、当時の小渕優子・経済産業相の政治団体が、支援者向けの観劇会の収支を政治資金収支報告書に虚偽の記載をしていたことが明るみになった。元秘書2人は在宅起訴されたが、小渕氏本人は不起訴処分となった。

今回は、安倍氏の会計責任者の秘書が、懇親会の会費不足分800万円以上を補填しながら、収支を政治資金収支報告書に記載していなかったとされる。政治資金規正法違反(不記載)で秘書は起訴されるものの、安倍氏本人は実態を知らされていなかったとして、不起訴処分になるだろうとの見立てだ。

但し、この問題は刑事責任とは別に、安倍前首相の政治責任が厳しく問われる。野党の幹部に聞くと「安倍前首相は、安倍事務所や後援会からの収入、支出は一切ないとウソの答弁を1年間も続けてきた。時の首相が虚偽答弁を重ねてきた前代未聞の事件で、今回は逃げ切りは許さない。菅首相も官房長官として同じ虚偽の答弁を行ってきた政治責任がある」と徹底追及の構えだ。

 元農相経験者に現金提供疑惑

「政治とカネ」の問題では、大手の鶏卵生産会社の元代表が、吉川貴盛・元農水相に、大臣在任中現金500万円を渡していたことが明らかになった。このほか、西川公也・元農水相や複数の国会議員にも現金を渡したと周囲に説明しているという。

吉川元農相は、自民党二階派の事務総長を務めていた他、菅首相とは初当選同期で、自民党総裁選では菅選対の事務局長に就任。党の選挙対策委員会の委員長代理も務めていたが、辞任した。一方、西川元農水相は、3年前から内閣官房参与を務め、菅内閣でも再任されたが、8日「一身上の都合」を理由に退職した。

野党側は、吉川元農水相らの国会招致を要求しているほか、この問題が刑事事件に発展していくかどうか政界の関心が集まっている。

 コロナは政権直撃、疑惑は越年か

菅政権や今後の政局への影響という点では、まずは「コロナ感染拡大が収束」できるかどうかが最大のポイントになるとみる。政府は「勝負の3週間」と位置づけ、飲食店の時間短縮などの取り組みを進めてきたが、17日に期限が来る。

現在の感染状況から推測すると早期収束は難しいのではないか。その場合、政権の感染防止対策が問われることになり、菅内閣の支持率が下落するような事態になるのかどうかもポイントだ。

次に「政治とカネの問題」は、桜を見る会関連で、検察当局が年内に秘書の起訴処分を決定するのかどうか。その場合も安倍前首相の国会招致などは、年を越えるとの見方が強い。

年明けの通常国会では、野党側は安倍前首相の国会招致、証人喚問などを要求するものとみられる。農相経験者への現金提供疑惑も含めて攻勢をかける構えだ。

これに対して、政府・与党側は、コロナ対策を盛り込んだ大型の第3次補正予算案と新年度予算案を編成し、通常国会で早期成立を訴え、政治とカネの問題をかわすものとみられる。

通常国会では、一部に冒頭解散説も取り沙汰されていたが、コロナ感染拡大でその可能性はほぼなくなったとみられている。

このため、菅政権は”解散カード”は封印する形で、予算審議やデジタル庁新設などの重要法案の成立を図ることになる。その場合、野党の要求に応じて、安倍前首相の国会招致を受け入れることになるのかどうか。自民党内の反応も含めて、年明け早々から、厳しい国会運営を迫られることになりそうだ。