”難航必至か”トランプ関税 日米交渉開始

トランプ政権が打ち出した関税措置をめぐる日米交渉は、異例の形で始まった。訪米した赤澤経済再生相は日本時間の17日早朝、ホワイトハウスでトランプ大統領と50分間にわたって会談した。この席には、ベッセント財務長官、ラトニック商務長官、USTR=アメリカ通商代表部のグリア代表が同席した。

この席で赤澤経済再生相は「日米双方の経済が強くなるよう包括的な合意を可能な限り早期に実現したい」という石破首相のメッセージを伝えた。

これに対し、トランプ大統領は国際社会の中で、アメリカが置かれている現状を説明するとともに「日本との協議が最優先だ」という考えを示したという。

続いて赤澤経済再生相は、ベッセント財務長官ら3人の閣僚とホワイトハウスで1時間20分、初めての閣僚交渉を行った。

その結果、日米双方は◇率直かつ建設的な姿勢で交渉に臨み、可能な限り早期に合意し、首脳間で発表できるようめざすこと。◇次回の交渉を今月中に実施するよう日程調整を進めること。◇閣僚レベルに加え、事務レベルでの交渉も継続することで一致した。

今回の日米交渉をどのように評価したらいいのか。また、今後の日米交渉はどのような点が焦点になるのか探ってみたい。

石破首相、次につながる協議と評価

石破首相は、トランプ大統領との会談や閣僚交渉を終えた赤澤経済再生相から電話で報告を受けたあと、記者団の取材に応じた。

石破首相は「日米間には、依然として立場に隔たりがある」としながらも「トランプ大統領は、日本との協議を最優先したと述べている。次につながる協議が行われたと認識している」と安堵の表情をみせた。

また、今後の対応については「交渉の推移をみながら私自身、最も適切な時期に訪米し、トランプ大統領と直接、会談することを当然、考えている」とのべ、日米首脳会談で決着させることに意欲を示した。

一方、赤澤経済再生相は「アメリカは90日間でデイールを成り立たせようとしている。われわれはできる限り早くやりたいという思いは持っているが、交渉の今後の進展はまったく分からない」とのべた。

また、記者団からの質問に答えて赤澤経済再生相は「為替については出なかった」とのべ、米側から他のテーマ、在日米軍の駐留経費分担など日本の防衛費や農産物などについて、アメリカ側から提起があったことを示唆した。

このように日米の会談や協議の詳しいやり取りは明らかになっていないが、日米双方は、早期に合意できるよう努力することで一致した点が今回の大きな特徴だ。

日本側としては、最初の交渉で米側の出方を前向きに受け止めており、今月中に行われる次の閣僚協議などを経て、早期合意をめざすものとみられる。

 日米交渉、楽観視できない見方も

今回の日米交渉について、経済の専門家の見方を聞くと「トランプ政権が、主要国の中で日本との協議を最初に行ったのは事実だが、これは日本を厚遇しようということではない。米国は貿易赤字削減を主要な目標ににしており、日本にだけ甘い対応をすることは考えにくい」として、楽観視できないとの見方を示す。

そのうえで「米側が期待する赤字削減を実現するためには、日本側が大幅な譲歩が必要になる。アメリカ国内ではトランプ政権の関税政策に批判的な意見が強くなる可能性があるので、日本は焦って交渉を早めるより、アメリカ国内の情勢を見極めながら慎重に対応した方がいい」と指摘している。

こうした考え方は自民党内にもあり、閣僚経験者の一人は「自動車などに対する関税については早期妥結が好ましいが、交渉ごとは焦ると負けという側面もある。アメリカ国内の企業や世論の反応によっては、関税政策も変更を迫られる」として、政府は短期、長期両にらみで交渉に臨むべきだという考えを示す。

こうした経済専門家や自民党内の指摘を受けて、石破首相がどのような判断を示すのか問われることになる。

このほか、日本側としては詰めておくべき点は多い。例えば、交渉の対象分野について、日本側が強く求めている自動車、鉄鋼、アルミニウムへの25%の追加関税の扱いのほか、米側の関心が強い農産物の市場開放や日本の防衛費、為替などについてどのような扱いにするか、整理が必要だ。

また、日本側が関税見直しの交渉カードとして、LNG=液化天然ガスの開発や輸入拡大などの項目をパッケージとして示し日米が大筋で合意した場合、アメリカ側は関税の見直しで譲歩するのか確認しておく必要がある。

このようにみていくと日米が早期の合意をめざすことで一致したといっても、調整が必要な分野は多岐にわたり、交渉は難航することが必至だとみられる。

 石破政権、参院選も控え難しい対応

それでは、これからの展開はどのようになるだろうか。アメリカ側は「日本は交渉の列の先頭にいる」と位置づけている。これは早期に日米合意を実現し、後に続く各国のモデルケースとして、アメリカが主導権を発揮していく戦略だとみられる。

これに対して石破政権は、相互関税停止の90日間以内の早期決着をめざすのか、それとも中長期も辞さない立場で臨むのか、選択を迫られる。

今後の日程をみると、自動車部品に対して5月3日から25%の追加関税が課せられるほか、6月にはG7サミットがカナダで開催、さらに7月には参議院選挙が予定されている。

石破政権にとっては、自動車や自動車部品の追加関税を早期に是正する必要があるが、早期決着をめざして譲歩しすぎると「国益に反する」との指摘が予想されるほか、国際社会からは「自由貿易を放棄する対応だ」などと非難されるおそれがある。

一方、長期戦で臨むとトランプ政権からの強い反発が予想されるほか、夏の参議院選挙では無為無策などと批判を浴び、大きなダメージを受ける可能性もある。

石破政権としては、日米交渉でどこまで日本の主張を反映させることができるかどうか、国民に対して交渉の状況や日本の役割を説明しながら理解を得ることができるかどうか難しい対応を迫られることになる。

私たち国民も日米交渉のゆくえと自由貿易に及ぼす影響、そして日本の役割をどう考えるか、内外の動きを注視していきたい。(了)