国会は、安倍首相の施政方針演説に対する各党の代表質問に続いて、27日からは衆議院予算委員会に舞台を移して、補正予算案の審議が始まった。予算委員会の質疑は1問1答方式で、安倍首相と各党との論戦が本格的にスタートした。予算委委員会の論戦、国民の側から見ると、どこを見ておくとわかりやすいのか探って見たい。
本論に入る前、中国で猛威をふるっている新型のコロナウイルスによる肺炎。中国在住の日本人の帰国問題をはじめ、訪日する中国人などの水際対策、国内病院での検査・診療体制などの危機管理に、政府は全力で取り組むことを要望しておきたい。
問われる首相の政治姿勢
さて、予算委員会での論戦の注目点の第1は、政権に関連した疑惑・不祥事について、安倍首相がどのように受け止め、対応しようとしているのか、政治姿勢の問題だ。
安倍政権を巡っては、去年10月下旬の閣僚2人の連続辞任をはじめ、首相主催の「桜を見る会」の私物化、公私混同ではないかとの疑惑・問題、かんぽ生命をめぐる総務省事務次官の更迭、さらには、カジノを含むIR汚職事件で元IR担当の内閣府副大臣が逮捕されるなどの不祥事が、相次いでいる。
安倍首相の施政方針演説では、こうした不祥事については全く言及しなかった。各党の代表質問に対する答弁でも「桜を見る会」の問題については、従来の答弁を繰り返し、野党側が要求している招待者名簿の記録の調査や、都内のホテルで開かれた前夜祭の費用の明細書などの提示にも応じない考えだ。
報道各社の世論調査では、「桜を見る会」問題の安倍首相の説明は、「納得できない」と受け止め方が7割にのぼっている。また、不祥事については、長期政権による緩みやおごりの現れではないかとの受け止め方も示されている。
それだけに安倍首相が、こうした政権に対する不信感や、首相の説明責任を求める世論の声に対して、どのような認識を示すのか。また、信頼回復へどんな対応を打ち出していくのか、答弁を注目して見ていきたい
驚きの1億5000万円資金問題
政治とカネの問題では、河井前法相と妻の案里参議院議員をめぐって、去年夏の参議院選挙で、自民党本部が1億5000万円の資金を政党支部に提供していたとされる問題・疑惑が新たに浮上している。
自民党関係者を取材すると「選挙支援の資金としては、1人当たり1500万円程度が一般的だ。これだけ巨額な資金提供は、信じられず驚いている。安倍総裁や二階幹事長といった了解がなければ、提供できないのではないか」と語っている。
去年夏の参議院広島選挙区で、自民党は現職議員に加えて、異例の2人目の候補者として案里氏を擁立し、現職が落選、案里氏が当選する結果になった。この案里氏が当選できたのは、安倍首相や菅官房長官が強烈に支援した影響が大きいと選挙関係者の間では見られてきた。
河井前法相と案里参議院議員の当事者の説明と同時に、安倍首相が総裁としての事実関係の説明と、この問題のケジメをどのようにつけるのかが問われている。
政権運営、制度の改善も
こうした一連の不祥事については、政権批判だけに終わるのではなく、問題の背景を踏まえて、政権運営や制度の改善などにもつなげてもらいたい。
具体的には「桜を見る会」については、招待者の範囲や予算の使われ方などの事実関係の問題だけでなく、公文書管理の問題がある。官僚が招待者名簿を廃棄したり、文書を加工したりと、これまでさんざん問題になってきた公文書の不適切な取り扱いが今も続いていることが浮き彫りになった。
また、公文書の問題で処分されるのは、いつも官僚だけ。閣僚など政務三役、政治家の責任はどうするのか明確にすべきだと考える。
また、総理官邸は、公文書の改ざん、廃棄などをなくすよう各省庁に強く指示するとともに、公文書は電子化して全て保存するのを原則にするなど抜本的な改革を実行すべきだと考える。
聞きたい政治課題も山積み
ここまで不祥事の問題を見てきたが、政治の信頼に関わる根本問題なので、予算委員会で一定の時間をかけて、質疑を交わすのは必要だ。
その上で、国民が知りたい政治課題が数多くあることを忘れないでもらいたい。
まず、暮らしに関わる経済。消費増税後の日本経済、低調な個人消費の要因をどのように見ているのか。東京オリンピック・パラリンピック後の経済運営をどうするのか。
また、全世代型社会保障制度改革。政府は、中小企業で働くパート労働者に厚生年金への加入を義務づける年金改革法案などを今の国会に提出することにしている。一方、急速に進む少子高齢化に対して、こうした法案の対応で十分なのか。社会保障制度改革の内容と道筋について、各党が具体案を示して議論を深めてもらいたい。
さらに外交・安全保障については、中東への自衛隊の派遣の是非。今回の派遣の目的、法的根拠、自衛隊の安全確保は大丈夫なのか掘り下げた議論を聞きたい。
外交問題では、米中の覇権争いが長期化する中で、日本がめざす外交・安全保障政策についても議論を深めるべきだ。
このほか、憲法改正問題や国民投票法案の取り扱いも残されており、国民が知りたい政治課題は山積み状態にあることを忘れないでもらいたい。
したがって、この国会、まずは不祥事にケジメをつけ、政治の信頼回復を図ること。続いて、政策論争でも政府、与野党が大いに意見を戦わせ、「国民が知りたい点に応える国会論戦」を是非、見せてもらいたい。